包丁ひとつくださいなっ!

マスター:草之佑人

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/23 09:00
完成日
2014/07/14 15:57

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●包丁が壊れた日
 今日も今日とて忙しい帝国ユニオンAPV。
 職員達は普段の業務に勤しむ傍らで臨時のユニオン依頼に人数を割いているため、人手が足りずてんてこまいとなっていた。
「ここを乗り切れば、今日の夜は定時で上がれます! みなさんがんばってください!」
 書類を腕いっぱいに抱えるフクカン(kz0035)から激励が飛ぶ。
 えっちらおっちら部屋の外へと出て行こうとするフクカンの後ろ姿を見送りながら、
「ふぇぇーん。フクカンがきびしいよーぉ」
「しょうがあるまい。休みで出かけたままタングラム(kz0016)が帰ってきておらんからな。癒しが足りぬのだろう」
「あー、いつものタングラムちゃん欠乏症ってやつよねー。フクカンくんも大変よねぇ」
「んふふ、けど、ああやってテンパってるフクカンちゃんも可愛くない? あ、また書類落としそう」
「もう、あなた達、面白がって見てないでフクカンさんを手伝ってあげなさい」
「へいへい。俺が手伝ってくるんで、おねーさま方は事務の方お願いしますよーっと」
「うへへ、レオ×フクカンごちそうさまです。あ、ヨダレが」
「……腐ってます……」
 などと、忙しい中でも割と余裕を持ちながら職員達は仕事をこなしていく。
 フクカンが結局書類を落として、男性職員のレオが拾うのを手伝っている姿を見て、腐ってる人がキャーと黄色い歓声を挙げる。
 職員達はそれを生暖かい目で見守っていた。

 その夜のことである。
 いつタングラムが戻ってきてもいいようにと、いつものように夜食を用意しようとしたときのことであった。
「タングラム様遅いな……」
 フクカンが更衣室から自前のひよこエプロンを身につけて厨房に戻ってくる。
 食材を保管している木箱の中からジャガイモや野菜を取り出しながら、俯き加減に小さなため息を吐く。
 タングラムは休日を利用してどこかに出かけてしまい、まだ戻ってきていない。
「ん……! タングラム様が戻ってくるまでがんばらなくちゃ!」
 ふんすっと鼻息一つに気分を持ち上げて、背伸びをしながら包丁のしまわれている上の戸棚を開ける。
「あれ、包丁が古いの一本しかないや。あ、そっか。依頼で遠出するってハンターさんたちに予備の包丁あげちゃったんだっけ」
 ユニオンを訪れていたリアルブルー出身のハンターが困っていたので、気前よく渡してあげたのだった。
 困ったときはお互い様と、リアルブルーの人に恩を売っておこうというちょっとばかりの下心でもって行動したものの、やりぎたかもしれない。
「また、暇を見て買いに行ってくる来ようかなあ?」
 慣れた手つきで手際よくジャガイモを包丁で剥いていく。
 包丁が古く、研いでいなかったせいか切れ味が悪い。
 これは早めに買い換えた方がいいなあ、と思いながら、このジャガイモだけ切ったら砥石を取りに行こうとジャガイモをまな板に置く。
「よっと」
 ジャガイモを半分に切ろうとして切れにくく思わず力を入れたその時だった。

 ぽきり

 包丁の刃が冗談みたいに真ん中からぽっきりと折れた。
「ふぇ」
 半ばからぽっきりと折れてしまった包丁の刃を見る。
「ふぇぇぇえええ!?」


「はあ……」
 包丁が壊れた翌日。
 フクカンは、代わりとなる包丁を探してリゼリオ内を歩き回っていた。
「うう、どこの店も全滅だなんて」
 朝から職員達に無理を言って手当たり次第に店を当たったが、なぜか、このときに限ってどこの店も包丁を置いていない。
 単に売り切れだったり、入荷予定の荷が雑魔の発生の影響で遅れていたり、亜人に荷を襲われて荷そのものを奪われたと店主が嘆いてたり。
 ならばと作って貰おうと思っても、知り合いの鍛冶屋はことごとく手一杯、他の鍛冶屋も覗いてみたけど、なにやらとんでもない盛況ぶり。
 知らず、ため息が出た。
 ……どうしてこうもついていないのか。
 下を向いて歩いていると、目尻にじんわりと涙が浮かぶ。
「……包丁が無くなってるのをタングラム様に見つかると怒られるかな……」
 いつものように愛の鞭と称して蹴られるだろうか。
 まあ、蹴られること自体はそれはそれでよし、と思わないでもないフクカンではあったが、口も聞いてもらえなくなるほどに怒られたらと考えると、嫌だった。
「タングラム様が戻ってこられるまでになんとかするしかないけど……」
 どうしようもないのならば、いっそのこと……。
 顔を上げたフクカンは通りの先に一つの建物を見据える。
 そこには、立派なソサエティの建物が建っている。
「うん、ハンターさんにお願いしてみよう」

リプレイ本文


●そこから?
「包丁を作っていただきたいってよぉ……」
「「それはどのレベルから作るんだ?」」
 APVに呼びつけられたハンター達。ゼカライン=ニッケル(ka0266)に続き、数名の職人ハンターが声を揃えて首を傾げた。
「あぁん? どのレベルからだぁ? 何馬鹿な事言ってやがるニッケル。決まってんだろう……」
 グオルムール・クロム(ka0285)は一歩前に出ると腕を組んだ姿勢のままくわっと目を見開き。
「まずは鉱石の掘り出しからよ!」
「あ、あの~、市販品でも構わないんですよ?」
「おいおい耳長の。てめえ俺達に手抜きをやれって言うのか?」
「最高の包丁を作るためには最高の素材が必要だ! 最高のものは自分の目で見極めるものだろう!」
 ヴァルトル=カッパー(ka0840)はしきりに頷きながら顎鬚をいじりつつ。
「俺達に頼む程の包丁。規格外の特大包丁か、何でも切れる包丁か……」
「あのぉ、お料理に使うだけなんですけどぉ……」
「見せてやろうではないか。最高の包丁という物をな!」
 全然話を聞いてもらえないフクカンの肩をシヴェルク(ka1571)がそっと叩く。
「では、素材の用意はお願いするという事で大丈夫ですよね?」
「おうとも。お前らも一緒にどうだ?」
「行きたいのは山々だが、ワシは別に行くところがあってな。アっと驚く新素材を取ってくるつもりだ」
 嫌な予感しかしないフクカン。しかしウルカ(ka0272)は純粋に楽しみな様子。
「だったら私達はここでどんな包丁を作るか考えながら待ってるよ!」
「よし、それじゃあ掘り出しからだね。直ぐ行ってくるから」
 親指を立ててウィンクするサーティカ・ソウディアム(ka0032)。その隣でずっと黙っていたヴァーティム・ヤノセレン(ka0645)が口を開いた。
「包丁とは料理にかかせぬものである。これが無ければ調理が始まらない。良い調理には良い包丁が不可欠である。一見簡単な様なその難題に挑んだのは、鋼の謎を解き明かさんとするギルド。五人のドワーフ達が立ち向かった。この物語は、鍛鉄の音を聞き、最良の包丁を鍛造せんとしたドワーフ達のドラマである」
「もう、何やってるのヴァーティム! ほら行くよ!」
 ズルズルとサーティカに引きずられる間も彼はまだ何かナレーションしていたが、すまない。これが限界だ。
「ていうか、僕達もいるんですけど」
「連中は同じ工房ギルドの仲間みたいだからな。私も工房持ってるけど、大人数の工房もいいもんだね」
 頭の後ろで手を組みながら白い歯を見せ笑うウルカ。シヴェルクは頬をぽりぽり掻いている。
「おう、気のいい連中だぞ。さて、俺は包丁の設計を始めるか」
「そういえばシヴェルクはどんな包丁を作るつもりなんだ?」
「僕は皆さん程本格的な職人ではないので、凝った物よりは身近で使いやすい物を作ろうと思います。一応、鍛冶は少し齧ってるので」
「そっか。何か困った事があったら言ってくれな、手を貸すから! そうだフクカン、折れた包丁はどこにあるんだ?」
 ウルカに言われ折れた包丁を持ってくるフクカン。それを手に取りウルカは思案する。
「これ、素材に使ってもいいか? 思い入れのある道具だもんな。捨てるんじゃ勿体ないし、ついでに打ち直してやるからな! 楽しみにしてろ! 私も楽しみだ!」
 ゴーグルを持ち上げビシっとフクカンを指差すウルカ。こうして各々作業を開始し、
「一通り終わったでしょうか?」
 すっと横から割り込んできたのは最上 風(ka0891)。騒ぎが終わるのを待っていたようだ。
「ところで……風は、タングラムさんの事は名前しか知らないので、どんな方なのか教えて貰えますか?」
 フクカンは目を見開き。
「タングラム様をご存じ、ないのですか!?」
「ガーディナですから」
 無表情にブイサインを作る風。
「タングラムさんの為に作るなら、その人の事を理解した方がより良い物が作れると思うのです」
「確かにそうかもしれませんね」
「いえ、適当に言ってるのであんまり真面目に受け取らないでください」
 ずっこけそうになるシヴェルク。フクカンは既にスイッチが入ったのか。目をキラキラさせている。
「タングラム様について語らせたら私は長いですよ。あのお方との出会い、それはもう随分前の事になります」
「ふむふむ」
 身振り手振りで熱くタングラムを語るフクカン。暫く風は無表情に相槌を打っていたが、面倒になったのかもう十分だと判断したのか、一人で語り続けるフクカンを放置してAPVを去って行った。
「あの、もういませんけど……」
 声をかけたシヴェルクだったが全く話を聞いてくれないので、自分も準備を進める為自前の研究室へ資料を取りに出て行った。


●レッツ包丁作り
 帝国北部鉱山地帯。
「こんにちはー!」
 爽やかな笑顔でやってきたヴァルドルに続きサーティカ、ヴァーティムがそのあとに続く。
「実はAPVの依頼でかくかくじかじかで、俺達にも鉱石を分けて欲しいのだ。無論タダとは言わん。領収書はAPVのフクカンで頼む」
 鉱山で採掘の権利を一時購入し、上質な石を求め三人は坑道に入った。
「それにしても力入れた程度で折れちゃったかー。丈夫で耐久性の高い包丁を作ってあげないとね!」
 慣れた手つきでピッケルを操る三名。サーティカは額の汗を拭いつつ考える。
「ここはヴォイドの処理すら可能な逸品を作り出すしかない!」
 皆盛り上がっているのは良い事だが、職人気質が暴走している気がしないでもない。これでフクカンが使えない包丁ばかりになってしまったらそれこそ【歌う鋳鎚】の沽券に係わる。
「俺がやらねば、ならない……!」
 そっと決心するヴァーティム。自分はちゃんと使える包丁を作ろう。とりあえずそれで依頼失敗はなくなる。
「ふむ……これはっ……うまっ」
 砕いた石をそのまま口に放り込んで味わうヴァルトル。まあ確かに鉱石によって構成物質が違うので味の違いで何かわかるのかもしれないが、他の二人はやってないぞ。
「こっちの方が雑味がない……うふふぇふぇ、近いぞ!」

 そうして時が過ぎ、リゼリオでは日も暮れ始めていた。
 心配そうに待つシヴェルク。そこへ風が戻ってきたが、全然作業が始まっていないのできょとんとしている。
「まさかのまだ開始前ですか?」
「ハイ。最上さんはどこへ?」
「情報収集と制作作業へ。大体もう済んでしまいました」
「もう夜になりますからね。ちなみに情報収集って?」
「どうやら、フクカンさんは、タングラムさんに罵られると快感を覚えるらしいですよ!」
「何の情報収集ですか!」
「その辺をほっつき歩いているハンターを捕まえたらすぐ教えてくれました」
 と、そこへようやく採掘班が帰ってきた。ヴァルトルの手には大量の鉱石が詰まった袋が握られている。
「いやぁー、た、大量だったわ、は、はは……」
「待ちくたびれたよー。でもこれは凄い量だね。それに上質な石だ!」
 ウルカの前で胸を張るヴァルトル。その背中をサーティカとヴァーティムはジト目で見ていた。
「結局こだわり過ぎて量取れなかったんだよね」
「言えんな。結局現場で買い付けたとは……」
 それでも産地直送なので質は良いのだが。
「ったく、遅ぇぞおまえら。こっちはすっかり設計が済んじまった。さっさと【歌う鋳鎚】に戻って制作に取りかか……」
 とグオルムールが言った所でまた扉があいた。そこには左右を衛兵に挟まれたゼカラインの姿が。
「いやー、すまん! 捕まってしまった!」
「「えええええっ!?」」
 驚く一行。話を聞けばゼカラインはサルヴァトーレ・ロッソに忍び込み、勝手に物資を持ちだそうとしたらしい。
「あの鉄の船には未知の技術が眠ってる筈なんだよ。これも包丁を作る為だ」
「なんで包丁を作る為に未知の技術が必要なんですか!?」
「ワシは悪くない。悪くない悪くない……お、中々良い石じゃねぇか!」
 叫ぶフクカンも風のジト目も無視してゼカラインは鉱石に飛びついた。衛兵の皆さんにはフクカンが丁重にお詫びをして御引取願った。
「私の依頼で逮捕者が出たらタングラム様に怒られてしまいます……」
「そういう問題なんですか?」
 溜息を零すシヴェルク。こうしていよいよ各自包丁作りが始まった。

 【歌う鋳鎚】の面子はギルドに戻り、シヴェルクはウルカの好意で彼女の工房で共に作業を開始。風はもう終わっているのでAPVでフクカンにお茶を貰って寛ぐ。
「しかし困った。肝心の装置が手に入らなかった以上、より大きさで勝負したいが素材が足りん」
「だろうと思って用意しといた」
 工房に戻ったゼカラインにレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が鉱石を差し出す。
「【歌う鋳鎚】から逮捕者が出なくて良かったな。しかし包丁を作る依頼と聞いているのだが、その量で足りないって……グレートソードでも作るのか?」
 呆れるレーヴェと話しながらゼカラインは作業に取り掛かる。
「歌えよ鋼! 舞えよ火花! 轟く鎚の音こそが極上の調べよ!!」
 待たされた鬱憤を晴らすように豪快に赤熱した鉄をぶっ叩くグオルムール。ヴァルトルもリズム良くハンマーを振るっている。
「熱く赤く、燃え上がれ、ほい! 俺の汗は魂の滴、たんと吸って強くなれ、ほい!」
「折角だから試作段階のあれこれも突っ込みてえよな……APVにテロリストが来るかもしれないじゃん?」
 不穏な独り言が聞こえヴァーティムはやはり自分がしっかりせねばと思い直す。ふとサーティカを見やると、黙々と作業に勤しんでいた。
 紅い炎の光に照らされた真剣な眼差しは美しく、声をかける事を躊躇わせた。引き返そうとしたヴァーティムだが、丁度作業が一息ついた所だったらしい。
「……フゥ。あっ、ヴァーティム来てたんだ」
「随分と大物だな。相槌は居るか?」
「それじゃあ手伝って貰おうかな!」
 二人は協力して包丁を……いやもうこの時点でヴァーティムは気づいていた。これは絶対包丁じゃない。
「……知ってたけどな」
「よし! 後はAPDの銘を刻んで……完成!」
 完成してしまった包丁を見つめ、無言で自分の作業に戻るヴァーティムであった。

「どう? 良い物が作れそう?」
「えっと、刃渡りを長くして、刃の幅を狭くなるようにしたいんですけど……」
「それなら……ちょっと見せてくれる?」
 ウルカの工房で共に作業するシヴェルク。ウルカはてきぱき自分の作業を進め、平行してシヴェルクの手伝いもしていた。
「ここをこうして……」
「すみなせん、自分の作業もあるのに」
「いいのいいの! 元々お節介焼きだし、こういうのも楽しいからね!」
 汚れた鼻の頭を指で擦りながら笑うウルカ。シヴェルクは頷き、真剣に作業に取り組む。
「そういえばそれ、さっきフクカンさんから受け取っていた?」
「うん。タダで包丁作らせてくれたお礼みたいなもんだな!」
 ニっと笑い、折れた刃を見つめるウルカ。炎によってそれは再び蘇ろうとしていた。



●できました
 というわけで完成品がAPVにずらりと並んだのだが……。
「見よ、これがワシの作り上げたヴォイドも両断する包丁だ!」
 腰だめに構えた長大な剣はゼカラインの作だ。ぶっちゃけ両手剣だ。
「本当は振動する筈だったんだが……」
「しなくていいです!」
「ボクの作った包丁もヴォイドを倒せるよ!」
「倒せなくていいんですけど! そもそもまず持ちあがらないんですけど!?」
「そりゃ、ドワーフがやっと持ち上げる重量だからね!」
 満足げにサムズアップするサーティカ。巨大な肉切り包丁は、まあやっぱり両手剣だ。
「グオルムールさんのは意外とちゃんとしてますね……」
「意外とってなんだ意外とって。それよりそのボタンを押してみな」
 グオルムールの包丁は普通の外見だが何故かボタンがついている。言われた通りに押した瞬間、高速で射出された刃がぼんやり立っていたシヴェルクの顔の横を通過し、壁に突き刺さった。
「刃が飛ぶって仕組みよ。どうよ、かっけえだろ!」
「これでどうやって料理をしろと……」
「ていうか先に言ってくださいよ!?」
 頬を手で押さえながら叫ぶシヴェルク。そんな彼が作ったのはブレッドナイフだ。
「APVは帝国ユニオンですから、帝国の食文化にあった物が良いかと思いまして」
「使い勝手は保障するよ!」
 シヴェルクの肩を抱きながら笑うウルカ。そんな彼女が作ったのは丁寧な工程で作り上げた美しい和包丁だ。
「鋼付け黒打槌目万能包丁! それとこれ、預かってた折れた包丁だよ」
 ついでに打ち直してくれたのは小さい皮むき包丁だ。綺麗に仕上がっており、一度折れたとは思えない。
「ありがとうございます! この包丁も喜んでいると思います」
「どういたしまして。これを使って良いお嫁さんになりな!」
「え? いえ、私は男……」
「俺以外にも包丁を作った奴がいたか」
 咳払いをしつつヴァーティムが差し出したのはペティナイフ、骨スキ、洋出刃の三種類の包丁だ。
「リアルブルーの包丁の種類は数多い、と聞く。食材の多様さ、文化によって様々な発展を遂げたのだ、ともな。一つの包丁に無理をさせるより、使い分けた方が長持ちもするだろう」
「要は折れない包丁を作りゃいいんだよ」
 ニヤリと笑ってヴァルトルは自前の包丁の刃を持ち、力を入れて左右に捻る。
「こいつは多少曲げても熱を加えれば元通りになる。剛性ばかり高けりゃいいってもんじゃあねぇ。ほれほれ、良く曲がる……あ、曲げすぎたら折れ……あっ」
 真顔で固まるフクカン。ひょっとしてギャグで言ってるのかと思ったが、そんな事はなかった。
 ピシっといういい音が聞こえたが、そっとヴァルトルは包丁を隠した。
「風からはこれです」
 ラッピングされた箱を開けてみる。が、中には何も入っていない。
「これはタングラムさんへの愛がない者には見えない包丁です」
 また真顔で固まるフクカン。
「勿論、100%完全完璧に絶対確実に、フクカンさんには見えますよね?」
「えーと……」
「まさか、見えないなんて事は無いですよね?」
 フクカンは冷や汗を流しながら、何も入っていない箱に手を伸ばし、何かを取り出したように見つめる。
「す、すばらしい包丁ですね。どうやって作ったんですか」
「馬鹿にしか効かない魔法で」
 ぼそっと呟いたがフクカンには聞こえていなかった。やはりリサーチ通り、フクカンは上質ないじられキャラのようだ。
「何はともあれ、実際に使ってもらうのが一番だ。肉や酒を買ってきたから、こいつで何か作ってくれ」
 グオルムールの提案で早速出来立ての包丁を使った料理を作り、宴会を開く事になった。
 色々あったが、これなら無事APVの台所を守る事が出来るだろう。ハンター達は仕事終わりの酒と料理を楽しみに、キッチンへ消えるフクカンを見送るのであった。

(代筆:神宮寺飛鳥)

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重体一覧

参加者一覧


  • サーティカ・ソウディアム(ka0032
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 鋼のロマン
    ゼカライン=ニッケル(ka0266
    ドワーフ|42才|男性|機導師

  • ウルカ(ka0272
    ドワーフ|12才|女性|機導師
  • 希望の火を歌う者
    グオルムール・クロム(ka0285
    ドワーフ|35才|男性|闘狩人

  • ヴァーティム・ヤノセレン(ka0645
    ドワーフ|32才|男性|霊闘士
  • 金属ハンター
    ヴァルトル=カッパー(ka0840
    ドワーフ|28才|男性|機導師

  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • 狭間の住人
    シヴェルク(ka1571
    人間(紅)|16才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/20 07:35:21
アイコン 相談卓
最上 風(ka0891
人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/06/23 06:33:21
アイコン 質問受付用カウンター
フクカン(kz0035
エルフ|12才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/06/19 09:13:33