ゲスト
(ka0000)
船着場の宴
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/11 12:00
- 完成日
- 2018/08/16 22:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
梅雨るが開ける頃、船着場である津積という場所では祭りが開催される。
豊作、豊漁だけではなく、海辺で遊ぶ者達が海に攫われないように祈りを捧げるのだ。
街が出来た頃は海に祈りを捧げるだけの形式だったが、街が船着き場として栄えてくると、祭りへと変化していった。
今では港町全体がお祭り騒ぎとなり、道に屋台が立ち並び、食欲をそそる。
歪虚の攻撃を受けた街であり、一時は復興で小規模であったが祭りは行われていた。
再びあの賑やかな祭りを出来るように、これ以上の災害が出ないように……と、祈りを捧げていたのだ。
そして今年、歪虚の攻撃を受ける前の祭りの規模が戻った。
皆が楽しみにしていた祭りだ。
飲食店や小間物屋が道端に出店をし、日常通る道が華やかに彩られたり、香ばしい匂いで道行く人々の足を止める。
「漸く戻ったねぇ」
清々しく笑みを浮かべたのは港近くに診療所を構える初老の女医師だ。
「ああ、ようやくだ」
医師と似たような年齢の男が茶を啜って、一つ頷いた。
歪虚の攻撃で被害を受けたのも他と比べては軽度であったが、住んでいる者たちの衝撃は計り知れないものだ。
それでも復興はしなくてはならない。
この街に止めてくれる旅路の船を迎え入れる為にと。
それが実ったのが今回の祭りなのだ。
「香栄先生はどうするんだい?」
「祭りでも日常でも医者のやる事なんか一つだよ」
ずばりと言った香栄という女医師は当たり前だというように塩味の琥珀糖をかじると、湯飲みの茶を煽る。
「ああ、そうだ。久しぶりの大きな祭りだ。何かと問題が起きるだろう? ハンターを雇ってもいいんじゃないかい?」
香栄の提案に老人も同じく頷く。
「そりゃぁいいな」
茶と琥珀糖を楽しんだ老人はいそいそとハンターを誘いに診療所を出た。
豊作、豊漁だけではなく、海辺で遊ぶ者達が海に攫われないように祈りを捧げるのだ。
街が出来た頃は海に祈りを捧げるだけの形式だったが、街が船着き場として栄えてくると、祭りへと変化していった。
今では港町全体がお祭り騒ぎとなり、道に屋台が立ち並び、食欲をそそる。
歪虚の攻撃を受けた街であり、一時は復興で小規模であったが祭りは行われていた。
再びあの賑やかな祭りを出来るように、これ以上の災害が出ないように……と、祈りを捧げていたのだ。
そして今年、歪虚の攻撃を受ける前の祭りの規模が戻った。
皆が楽しみにしていた祭りだ。
飲食店や小間物屋が道端に出店をし、日常通る道が華やかに彩られたり、香ばしい匂いで道行く人々の足を止める。
「漸く戻ったねぇ」
清々しく笑みを浮かべたのは港近くに診療所を構える初老の女医師だ。
「ああ、ようやくだ」
医師と似たような年齢の男が茶を啜って、一つ頷いた。
歪虚の攻撃で被害を受けたのも他と比べては軽度であったが、住んでいる者たちの衝撃は計り知れないものだ。
それでも復興はしなくてはならない。
この街に止めてくれる旅路の船を迎え入れる為にと。
それが実ったのが今回の祭りなのだ。
「香栄先生はどうするんだい?」
「祭りでも日常でも医者のやる事なんか一つだよ」
ずばりと言った香栄という女医師は当たり前だというように塩味の琥珀糖をかじると、湯飲みの茶を煽る。
「ああ、そうだ。久しぶりの大きな祭りだ。何かと問題が起きるだろう? ハンターを雇ってもいいんじゃないかい?」
香栄の提案に老人も同じく頷く。
「そりゃぁいいな」
茶と琥珀糖を楽しんだ老人はいそいそとハンターを誘いに診療所を出た。
リプレイ本文
潮風に乗って海鳥の鳴く声が響く。
「いい天気ね」
掌を返して瞳に直射日光が入らないように庇をつくったエルティア・ホープナー(ka0727)は目を細める。
「ああ、そうだな。しかし、エルフの集落とは違うな」
「そうね。ここは港町で元から賑やかだから、今日は殊更に賑やかになりそうね」
エルティアの髪が風に攫われるようにふわりと揺れると、彼女は頬にかかる横髪を指先でそっと払う。
「元は精霊の祈りが祭事となったと聞くし、こんなに賑やかな空気だと、精霊も楽しんでいるかもね?」
ふふ、と悪戯っぽく微笑むエルティアにシルヴェイラ(ka0726)は周囲を見やる。
「確かに、昼間からこの騒ぎでは堂々と楽しんでもおかしくはなさそうだな」
今は昼間担当の警備に任せ、今はエルティアとのひと時を楽しむことをシルヴェイラは優先する。
出店が並ぶ道に出ると、西方にはない変わった装飾品が目に入った。
「これは……?」
形は球体で、花や流水の柄が入っている。色も鮮やかだ。
「トンボ玉だよ。こっちはちょっと豪華な金箔入りだ。この大きさだと、兄さんの袖止めにも出来るよ」
店主が勧めてくれたのは装飾品としては加工前のトンボ玉。
「こっちは加工してある方だ」
店主が言えば、シルヴェイラが品物を見ていく。
シルヴェイラが視線を止めたのは大ぶりのトンボ玉があしらわれている櫛。
色は紺碧で真夏の青空の色に相応しい鮮やかな色合いだ。
「手に取っても?」
店主は快諾してくれたので、シルヴェイラがエルティアの髪に櫛を合わせる。
金の髪に紺碧の青が良く映えていた。
「これを頂こう」
「毎度!」
櫛を贈ってもらったエルティアは微笑む。
「ありがとう」
「どういたしまして」
再び縁日を歩いていると、貸本屋とすれ違う。
きらりと目を輝かせたエルティアは見逃すことはなく、即座に貸本屋を呼び止め、本を見させて貰っていた。
シルヴェイラはここは諦めるところと、自身へ言葉を向ける。
昼間の警護役は二組に分かれており、警護を始めていた。
「随分気温が上がってきたね」
ふーっと、息をついたのはロベリア・李(ka4206)だ。
「まぁな、人出も増えてきたな」
立ち止まってロベリアを待つのは今回の相棒である浅生 陸(ka7041)だ。
太陽が空の天辺にまで登る頃、昼飯目当てに縁日に人が集まってくる。
潮風に乗って二人の嗅覚を擽るのは醤油と砂糖で焦げた香り。近くで焼き鳥を売っている出店があるのだ。
先ほど食事をとったので、然したる誘惑ではなかった。
この祭りは飲食店にとってはかき入れ時であると同時に、それ以外の職に就いている者達は休みが多く、昼間から酔っ払いが多数いる。
酒精で気分が盛り上がり、楽しんでいるのであればいい。
楽しく飲んでいる内はいいが、酒が原因で暑さに中ることがあるので、酔っ払いにも気を付けなければならない……が、それ以上に気を付けなければならない事があるのだ。
出店の後ろ……奥の道に入る所で年の頃は十七か八の娘と三十代に差し掛かるだろう男がやり取りをしていた。
「や、やめてください……!」
精一杯大きな声を出そうとしているが、恐怖でうまく大声が出てこない娘さん。
完全に揉めている。
娘さん困らせるナンパは迷惑。それはどこの国、どこの世界でも共通。
「いいじゃねぇか、こっちは親切に……」
「あら、アタシの友達に手ぇ出さないでくれる?」
色っぽい声音がナンパ男の耳元から聞こえ、「あ?」と男が振り向くと、自分より背の高い女顔の美形……陸が頬にかかる横髪を耳にかけて微笑んでいる。
妙に艶めかしいのは気のせいか。
「アンタの知り合いか……」
どうやら、オネェに興味はないのか、ジリジリと距離を置き始める。
「じゃぁ、またな!」
踵を返した男はあたふたと走り出した。
「大丈夫?」
ロベリアが声をかけると、娘は頷く。
「はい……熱でふらついていたところに誘われてしまいまして……」
「しょうがねぇ奴だなぁ……」
弱っていたところを誘おうとする根性に陸は毒づいてため息を吐いた。
娘さんは近隣の飲食店で働いており、水分補給と塩飴を渡して店まで送る。
レイア・アローネ(ka4082)はひとり街を歩いていたが、海辺に出てしまった。
夜の警護用に土地勘を掴むため、当てもなく散歩がてら歩いている。
今回の依頼は友人と来る予定だったが、結局はレイア一人で受けることになった。
海辺にはあまり人はおらず、海へ祈りを捧げる参拝者がいるくらい。騒ぎたい者は街中にいるようだ。
戻ろうとした時、レイアは海を見つめる子供を見つける。
「一人か?」
迷子かと思って声をかけたが、子供はこくりと頷いた。
「きょうは、おまつりだから」
にっこりと笑う子供の身なりは至って普通……とはいえないが、男なのか女なのかもわからない着物を着ており、汚れてもいない。
「おねえちゃんは、はじめてみるひとだね」
「ああ、そうだな」
「そっかー、たのしんでいってねー」
手を振りつつ子供は街中へと走っていった。
ロベリアと陸がいた場所とは反対側の方で小気味よいハリセンの音が鳴り響いた。
「はいはい。おいたはアカンで、なぁ?」
左手を腰に当てて、仁王立ちする白藤(ka3768)は右手に持ったハリセンを自身の肩に当ててダメ押しの一言を添える。
「あいたたた……ねぇちゃん、きっついなぁ」
そうぼやく男は赤ら顔だ。酒を飲んで酔っぱらって騒いでいた。
通りかかった白藤とミア(ka7035)に口頭注意されたが、美人二人の登場に酌をさせようとナンパしたのち、白藤のハリセンにどつかれて今に至る。
「ねじ切るのとすり潰すの、どっちがいいニャス?」
尻もちをついた男に無垢な瞳で問うのはミア。
「か、勘弁してくれよぉ~」
「水飲んで、落ち着かせるニャスよ」
「そうする」
ひらひら手を振りながら、酔っ払いは近隣の店に水を貰いに行く。
「ははは! 姉ちゃん達、強いなあ」
出店の中で飲んでいた客達が白藤とミアに声をかける。
「あんた達も気ィつけやぁ」
そう言って二人は巡回を続けた。
「あれ……」
気づいたミアは周囲を見回す。
「どしたん?」
白藤が尋ねる。
「やっぱり、迷子ニャス」
そう言ったミアは「しーちゃん、こっちニャス」と駆け出した。
ミアが気づいたのは出店の後ろを泣きながら歩く女の子。
「どうしたニャスか?」
「おにいちゃーん!」
わんわん泣く女の子は兄とはぐれてしまったようだ。
「迷子やねぇ」
依頼時に、迷子がいたら、自治会の者達がいる幕屋に連れてこいと言われている。
幕屋へ向かっていると、三人の前に男の子だか女の子かわからない子供が立ちふさがる。
「どないしたん……?」
白藤が子供に声をかけると、子供は左側を指さす。
「あっちにいるよ」
そう言って子供は駆け出した。
「あ、ちょっと……!」
呼び止める為に駆け出して出店の後ろに出ると、子供の姿はなく、誰かを探してる少年がいるだけ。
「おにいちゃん!」
ミアにおんぶされている女の子が再会を喜ぶ。
「離れちゃダメ、ニャスよ」
「はーい」
迷子が無事解決すると、日はそろそろ傾きかけていた。
交代時、昼板から夜番へ街の様子などを伝える。
「そいやね、不思議な子供がおったんよ」
白藤が言えば、ミアも頷く。
「どのような?」
シルヴェイラが尋ねると、二人は子供の服装や特徴を伝える。
「私も見たぞ」
心当たりがあるのか、レイアも声を上げた。
「不思議な子ね。もう夜だし、きちんと帰っているといいわね」
エルティアがそっとため息を吐く。
夜番へと交代したハンター達は手分けして警護へ当たる。
日が沈むと、人の入りが少しずつ変わり、酒を飲んだ酔客が増えてくる。
大人同士の喧嘩もあれば、子供同士の諍いも。
祭りの夜は何かと触れ合うものだ。
喧嘩していた男の子が連鎖反応で泣き出した。
「そこまでよ」
エルティアは大口開けて泣く子供達の口の中に飴玉を放り込む。十歳になるかどうかの子供なので、誤飲はないと判断した。
飛び込んできた甘味に子供達の目が丸くなって泣き止む。
「喧嘩はおしまいよ」
エルティアが終了を告げると、子供達は「はぁい」と告げて一緒に帰っていった。
その隣でシルヴェイラは呆れた視線を送っていたのは酔っ払い二人の取っ組み合い。
「おおお! やるかぁ!」
片方の男が拳を振り上げる。
「酒精が入ると気が大きく変わることが多いのは人の性質。それ故に失敗することもあります」
シルヴェイラが男が振り上げた拳を止めた。
「なんだ、てめぇ」
振り下ろす拳を止められた男がシルヴェイラへ抗議の声を上げる。
「ここは人前、失敗には後悔が付き物でしょう?」
「は?」
シルヴェイラの優しい助言の意味を理解することが出来なかったが、彼の後ろから颯爽と近づく美女に男は固まってしまう。
説教なのか、命がヤバいのかわからない威圧と闘争心を感じて萎縮する。
非番となったロベリア達は近隣の貸服屋にいた。
浴衣もあると引き込まれ、陸が三人分の浴衣を選ぶことになった。
「陸センスえぇやん!」
ぱぁっと、顔を明るくした白藤が「なぁなぁ、美人やろ?」と身を捩って見返る。
生成り地に朽葉の葉と青の椿の浴衣に明るい黄色の帯は桔梗柄。白藤の艶やかさを引き立てる組み合わせだ。
「しーちゃん、美人ニャス」
うんうんと頷くミアは白地に青、黄緑、薄紅色の万寿菊が散らされた浴衣に水色縞柄の帯が鮮やかでとても可愛らしい。
「あんた達は似合うよね……」
どこか遠い目をするロベリアは着慣れない浴衣に戸惑っている。
「ロベリアちゃん、似合ってるニャス」
どこがだと言いたいロベリアだが、友人が選んでくれたもの、誉め言葉にケチをつけるのも何故か憚られ、口元をもごもごさせる。
そんな彼女へ選んだ組み合わせは、絹麻独特の肌触りが心地よい紺地の浴衣は華紋と唐草。銀色の帯で彼女の凛とした雰囲気を立たせていた。
陸は三人の美女を引き立てるシンプルな黒の浴衣だ。
「兄さん、見事な目利きだねぇ! さぁ、楽しんでいって」
女将さんに着付けしてもらった四人は縁日に繰り出す。
方向性の違う美人と美形の四人組が夜道に出ると、男女関係なく目を引き、道が開けられる。
「たこ焼き、あるかなぁ」
出店は昭和というよりは江戸時代の縁日と言った様子。
「これはあるんやなぁ」
しげしげと見つめる白藤が見ているのはリアルブルーでいうところの玉子焼きや明石焼きに似た食べ物。
とりあえず、一舟貰うことにした。
出汁につけて「熱い熱い」「美味しい美味しい」言いながらハフハフ食べる。
ごちそうさまと言って、更に縁日を歩くと輪投げがあった。
全部の杭に入ると豪華な景品が当たるという。
「射的ならいけるんだけど、やってみましょ」
ロベリアが袖を捲り上げて輪を投げる。
数分後、見事的中させ、店主が真っ青な顔をしていた。
ぐるりと回ってひとしきり楽しんでいると結構な時間になった。
「これ、お土産」
陸が三人に渡したのは林檎飴。もう一本は同居人へ渡すものだろう。
「白藤はあんまり無防備になるなよ」
「はいはい」
くすりと笑む陸に白藤は表情を困らせている。
「あ、こっちもお土産」
姪っ子への土産に飴細工を陸に渡すのは白藤、輪投げの景品はロベリアから、ミアは焼き物だ。
「ありがとう。お先に!」
颯爽と帰っていった陸を三人が見送る。
夜ともなれば、喧嘩はエスカレートすることもある。
祭りから雪崩れ込んだ殴り合い。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)が止めてもそれは収まらなかったので、強硬手段へ判断した。
「困りますね。このような諍いは」
活人剣を使用したとはいえ、縦横無尽の攻撃は男達を傷つけており、動けなくなっている。
「近隣に診療所があります。お布施でもしてください」
呻く男達を置いてハンスは見回りへと再び歩いて行った。
夜番のレイアは喧嘩の仲裁、酔っ払いの介護と忙しかった。
「姉ちゃん、すまない。船着場で喧嘩をしていたようだ」
現場へ駆けつけながらレイアは呼んでくれた青年より話を聞く。どうやら、荒っぽい仲裁があった模様。
「仕方ない……診療所へ運ぼう。担架を」
暗がりの道端で倒れている男二人をレイア達は診療所へと運んだ。
診療所は賑やかであり、主である香栄は「夜中だよ! 静かにおし!」と叫んでいた。
「大変だな……」
他の診療所の先生も来ており、大わらわだ。
「ありがとうよ。少し休んで行きなよ」
香栄がレイアに言えば、「まだトラブルがあるので」と言って彼女は行ってしまった。
月が高くなった頃、祭りは終焉を告げる。
宿についた白藤達はミアを真ん中に川の字で眠ることにする。
白藤もロベリアも転移する前を思い出す。
それぞれの思い出が脳裏によぎる。過去との不安に立ち止まっても時間は過ぎ、変化が起こる。
白藤は変化の一つ……【家族】のミアを見つめていた。
無垢なミアに白藤は口元を緩める。大丈夫……と。
白藤の表情を見逃さなかったのはロベリア。
彼女はまだまだ手のかかる妹なのだ。
シルヴェイラはどうしたものかと顔を顰める。
同じ部屋にいるのはエルティア。
他意がない事を彼は承知しているが。
窓から覗く星空が輝いているがそれ以上に輝いているのはエルティアだ。昼間に本屋で買い込んだ複数のジャンルの和綴じ本に心を躍らせている。
「ああ、それは良かったね。エア」
心から嬉しそうなエルティアへシルヴェイラは即釘を刺す。
「だが、くれぐれも夜中に読むのはやめてくれ。目を悪くするから。いいね?」
読む気満々のエルティアは不承不承といった様子で了解してくれた。
「そういえば、引継ぎの時に聞いた子供、もしかしたら、お祭りを楽しむ精霊だったのかもしれないわね」
思い出したように口にするエルティアにシルヴェイラは微笑む。
「そうかもしれないな」
賛同するように波の音が響いた。
帰宅しても良い患者を帰宅させた香栄は来訪者を迎え入れる。
「おや、いつぞやの」
にこやかな笑みを浮かべたハンスは「夕方は忙しそうだったので」とつげる。
香栄は麦茶を供し、世間話をしていた。
幕末の剣客に憧れるハンスはここで同じ事が出来る尊さを説いていた。
流暢なハンスの言葉を切った香栄は怒りの火を点す。
「人を斬ることで強くなったと錯覚するのは若さだが、それを人に説くのは紛れもない間違いだ」
「殺してはいませんよ。診療所の利益に貢献したまでです」
そう告げるハンスは失礼しますと言って診療所を辞した。
翌朝、ロベリアは呆れつつも、まだ眠るミアを見つめていた。
「想像以上に凄い寝相だったよ」
「しゃぁないわぁ」
白藤も起きており、くつくつと笑った。
「いい天気ね」
掌を返して瞳に直射日光が入らないように庇をつくったエルティア・ホープナー(ka0727)は目を細める。
「ああ、そうだな。しかし、エルフの集落とは違うな」
「そうね。ここは港町で元から賑やかだから、今日は殊更に賑やかになりそうね」
エルティアの髪が風に攫われるようにふわりと揺れると、彼女は頬にかかる横髪を指先でそっと払う。
「元は精霊の祈りが祭事となったと聞くし、こんなに賑やかな空気だと、精霊も楽しんでいるかもね?」
ふふ、と悪戯っぽく微笑むエルティアにシルヴェイラ(ka0726)は周囲を見やる。
「確かに、昼間からこの騒ぎでは堂々と楽しんでもおかしくはなさそうだな」
今は昼間担当の警備に任せ、今はエルティアとのひと時を楽しむことをシルヴェイラは優先する。
出店が並ぶ道に出ると、西方にはない変わった装飾品が目に入った。
「これは……?」
形は球体で、花や流水の柄が入っている。色も鮮やかだ。
「トンボ玉だよ。こっちはちょっと豪華な金箔入りだ。この大きさだと、兄さんの袖止めにも出来るよ」
店主が勧めてくれたのは装飾品としては加工前のトンボ玉。
「こっちは加工してある方だ」
店主が言えば、シルヴェイラが品物を見ていく。
シルヴェイラが視線を止めたのは大ぶりのトンボ玉があしらわれている櫛。
色は紺碧で真夏の青空の色に相応しい鮮やかな色合いだ。
「手に取っても?」
店主は快諾してくれたので、シルヴェイラがエルティアの髪に櫛を合わせる。
金の髪に紺碧の青が良く映えていた。
「これを頂こう」
「毎度!」
櫛を贈ってもらったエルティアは微笑む。
「ありがとう」
「どういたしまして」
再び縁日を歩いていると、貸本屋とすれ違う。
きらりと目を輝かせたエルティアは見逃すことはなく、即座に貸本屋を呼び止め、本を見させて貰っていた。
シルヴェイラはここは諦めるところと、自身へ言葉を向ける。
昼間の警護役は二組に分かれており、警護を始めていた。
「随分気温が上がってきたね」
ふーっと、息をついたのはロベリア・李(ka4206)だ。
「まぁな、人出も増えてきたな」
立ち止まってロベリアを待つのは今回の相棒である浅生 陸(ka7041)だ。
太陽が空の天辺にまで登る頃、昼飯目当てに縁日に人が集まってくる。
潮風に乗って二人の嗅覚を擽るのは醤油と砂糖で焦げた香り。近くで焼き鳥を売っている出店があるのだ。
先ほど食事をとったので、然したる誘惑ではなかった。
この祭りは飲食店にとってはかき入れ時であると同時に、それ以外の職に就いている者達は休みが多く、昼間から酔っ払いが多数いる。
酒精で気分が盛り上がり、楽しんでいるのであればいい。
楽しく飲んでいる内はいいが、酒が原因で暑さに中ることがあるので、酔っ払いにも気を付けなければならない……が、それ以上に気を付けなければならない事があるのだ。
出店の後ろ……奥の道に入る所で年の頃は十七か八の娘と三十代に差し掛かるだろう男がやり取りをしていた。
「や、やめてください……!」
精一杯大きな声を出そうとしているが、恐怖でうまく大声が出てこない娘さん。
完全に揉めている。
娘さん困らせるナンパは迷惑。それはどこの国、どこの世界でも共通。
「いいじゃねぇか、こっちは親切に……」
「あら、アタシの友達に手ぇ出さないでくれる?」
色っぽい声音がナンパ男の耳元から聞こえ、「あ?」と男が振り向くと、自分より背の高い女顔の美形……陸が頬にかかる横髪を耳にかけて微笑んでいる。
妙に艶めかしいのは気のせいか。
「アンタの知り合いか……」
どうやら、オネェに興味はないのか、ジリジリと距離を置き始める。
「じゃぁ、またな!」
踵を返した男はあたふたと走り出した。
「大丈夫?」
ロベリアが声をかけると、娘は頷く。
「はい……熱でふらついていたところに誘われてしまいまして……」
「しょうがねぇ奴だなぁ……」
弱っていたところを誘おうとする根性に陸は毒づいてため息を吐いた。
娘さんは近隣の飲食店で働いており、水分補給と塩飴を渡して店まで送る。
レイア・アローネ(ka4082)はひとり街を歩いていたが、海辺に出てしまった。
夜の警護用に土地勘を掴むため、当てもなく散歩がてら歩いている。
今回の依頼は友人と来る予定だったが、結局はレイア一人で受けることになった。
海辺にはあまり人はおらず、海へ祈りを捧げる参拝者がいるくらい。騒ぎたい者は街中にいるようだ。
戻ろうとした時、レイアは海を見つめる子供を見つける。
「一人か?」
迷子かと思って声をかけたが、子供はこくりと頷いた。
「きょうは、おまつりだから」
にっこりと笑う子供の身なりは至って普通……とはいえないが、男なのか女なのかもわからない着物を着ており、汚れてもいない。
「おねえちゃんは、はじめてみるひとだね」
「ああ、そうだな」
「そっかー、たのしんでいってねー」
手を振りつつ子供は街中へと走っていった。
ロベリアと陸がいた場所とは反対側の方で小気味よいハリセンの音が鳴り響いた。
「はいはい。おいたはアカンで、なぁ?」
左手を腰に当てて、仁王立ちする白藤(ka3768)は右手に持ったハリセンを自身の肩に当ててダメ押しの一言を添える。
「あいたたた……ねぇちゃん、きっついなぁ」
そうぼやく男は赤ら顔だ。酒を飲んで酔っぱらって騒いでいた。
通りかかった白藤とミア(ka7035)に口頭注意されたが、美人二人の登場に酌をさせようとナンパしたのち、白藤のハリセンにどつかれて今に至る。
「ねじ切るのとすり潰すの、どっちがいいニャス?」
尻もちをついた男に無垢な瞳で問うのはミア。
「か、勘弁してくれよぉ~」
「水飲んで、落ち着かせるニャスよ」
「そうする」
ひらひら手を振りながら、酔っ払いは近隣の店に水を貰いに行く。
「ははは! 姉ちゃん達、強いなあ」
出店の中で飲んでいた客達が白藤とミアに声をかける。
「あんた達も気ィつけやぁ」
そう言って二人は巡回を続けた。
「あれ……」
気づいたミアは周囲を見回す。
「どしたん?」
白藤が尋ねる。
「やっぱり、迷子ニャス」
そう言ったミアは「しーちゃん、こっちニャス」と駆け出した。
ミアが気づいたのは出店の後ろを泣きながら歩く女の子。
「どうしたニャスか?」
「おにいちゃーん!」
わんわん泣く女の子は兄とはぐれてしまったようだ。
「迷子やねぇ」
依頼時に、迷子がいたら、自治会の者達がいる幕屋に連れてこいと言われている。
幕屋へ向かっていると、三人の前に男の子だか女の子かわからない子供が立ちふさがる。
「どないしたん……?」
白藤が子供に声をかけると、子供は左側を指さす。
「あっちにいるよ」
そう言って子供は駆け出した。
「あ、ちょっと……!」
呼び止める為に駆け出して出店の後ろに出ると、子供の姿はなく、誰かを探してる少年がいるだけ。
「おにいちゃん!」
ミアにおんぶされている女の子が再会を喜ぶ。
「離れちゃダメ、ニャスよ」
「はーい」
迷子が無事解決すると、日はそろそろ傾きかけていた。
交代時、昼板から夜番へ街の様子などを伝える。
「そいやね、不思議な子供がおったんよ」
白藤が言えば、ミアも頷く。
「どのような?」
シルヴェイラが尋ねると、二人は子供の服装や特徴を伝える。
「私も見たぞ」
心当たりがあるのか、レイアも声を上げた。
「不思議な子ね。もう夜だし、きちんと帰っているといいわね」
エルティアがそっとため息を吐く。
夜番へと交代したハンター達は手分けして警護へ当たる。
日が沈むと、人の入りが少しずつ変わり、酒を飲んだ酔客が増えてくる。
大人同士の喧嘩もあれば、子供同士の諍いも。
祭りの夜は何かと触れ合うものだ。
喧嘩していた男の子が連鎖反応で泣き出した。
「そこまでよ」
エルティアは大口開けて泣く子供達の口の中に飴玉を放り込む。十歳になるかどうかの子供なので、誤飲はないと判断した。
飛び込んできた甘味に子供達の目が丸くなって泣き止む。
「喧嘩はおしまいよ」
エルティアが終了を告げると、子供達は「はぁい」と告げて一緒に帰っていった。
その隣でシルヴェイラは呆れた視線を送っていたのは酔っ払い二人の取っ組み合い。
「おおお! やるかぁ!」
片方の男が拳を振り上げる。
「酒精が入ると気が大きく変わることが多いのは人の性質。それ故に失敗することもあります」
シルヴェイラが男が振り上げた拳を止めた。
「なんだ、てめぇ」
振り下ろす拳を止められた男がシルヴェイラへ抗議の声を上げる。
「ここは人前、失敗には後悔が付き物でしょう?」
「は?」
シルヴェイラの優しい助言の意味を理解することが出来なかったが、彼の後ろから颯爽と近づく美女に男は固まってしまう。
説教なのか、命がヤバいのかわからない威圧と闘争心を感じて萎縮する。
非番となったロベリア達は近隣の貸服屋にいた。
浴衣もあると引き込まれ、陸が三人分の浴衣を選ぶことになった。
「陸センスえぇやん!」
ぱぁっと、顔を明るくした白藤が「なぁなぁ、美人やろ?」と身を捩って見返る。
生成り地に朽葉の葉と青の椿の浴衣に明るい黄色の帯は桔梗柄。白藤の艶やかさを引き立てる組み合わせだ。
「しーちゃん、美人ニャス」
うんうんと頷くミアは白地に青、黄緑、薄紅色の万寿菊が散らされた浴衣に水色縞柄の帯が鮮やかでとても可愛らしい。
「あんた達は似合うよね……」
どこか遠い目をするロベリアは着慣れない浴衣に戸惑っている。
「ロベリアちゃん、似合ってるニャス」
どこがだと言いたいロベリアだが、友人が選んでくれたもの、誉め言葉にケチをつけるのも何故か憚られ、口元をもごもごさせる。
そんな彼女へ選んだ組み合わせは、絹麻独特の肌触りが心地よい紺地の浴衣は華紋と唐草。銀色の帯で彼女の凛とした雰囲気を立たせていた。
陸は三人の美女を引き立てるシンプルな黒の浴衣だ。
「兄さん、見事な目利きだねぇ! さぁ、楽しんでいって」
女将さんに着付けしてもらった四人は縁日に繰り出す。
方向性の違う美人と美形の四人組が夜道に出ると、男女関係なく目を引き、道が開けられる。
「たこ焼き、あるかなぁ」
出店は昭和というよりは江戸時代の縁日と言った様子。
「これはあるんやなぁ」
しげしげと見つめる白藤が見ているのはリアルブルーでいうところの玉子焼きや明石焼きに似た食べ物。
とりあえず、一舟貰うことにした。
出汁につけて「熱い熱い」「美味しい美味しい」言いながらハフハフ食べる。
ごちそうさまと言って、更に縁日を歩くと輪投げがあった。
全部の杭に入ると豪華な景品が当たるという。
「射的ならいけるんだけど、やってみましょ」
ロベリアが袖を捲り上げて輪を投げる。
数分後、見事的中させ、店主が真っ青な顔をしていた。
ぐるりと回ってひとしきり楽しんでいると結構な時間になった。
「これ、お土産」
陸が三人に渡したのは林檎飴。もう一本は同居人へ渡すものだろう。
「白藤はあんまり無防備になるなよ」
「はいはい」
くすりと笑む陸に白藤は表情を困らせている。
「あ、こっちもお土産」
姪っ子への土産に飴細工を陸に渡すのは白藤、輪投げの景品はロベリアから、ミアは焼き物だ。
「ありがとう。お先に!」
颯爽と帰っていった陸を三人が見送る。
夜ともなれば、喧嘩はエスカレートすることもある。
祭りから雪崩れ込んだ殴り合い。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)が止めてもそれは収まらなかったので、強硬手段へ判断した。
「困りますね。このような諍いは」
活人剣を使用したとはいえ、縦横無尽の攻撃は男達を傷つけており、動けなくなっている。
「近隣に診療所があります。お布施でもしてください」
呻く男達を置いてハンスは見回りへと再び歩いて行った。
夜番のレイアは喧嘩の仲裁、酔っ払いの介護と忙しかった。
「姉ちゃん、すまない。船着場で喧嘩をしていたようだ」
現場へ駆けつけながらレイアは呼んでくれた青年より話を聞く。どうやら、荒っぽい仲裁があった模様。
「仕方ない……診療所へ運ぼう。担架を」
暗がりの道端で倒れている男二人をレイア達は診療所へと運んだ。
診療所は賑やかであり、主である香栄は「夜中だよ! 静かにおし!」と叫んでいた。
「大変だな……」
他の診療所の先生も来ており、大わらわだ。
「ありがとうよ。少し休んで行きなよ」
香栄がレイアに言えば、「まだトラブルがあるので」と言って彼女は行ってしまった。
月が高くなった頃、祭りは終焉を告げる。
宿についた白藤達はミアを真ん中に川の字で眠ることにする。
白藤もロベリアも転移する前を思い出す。
それぞれの思い出が脳裏によぎる。過去との不安に立ち止まっても時間は過ぎ、変化が起こる。
白藤は変化の一つ……【家族】のミアを見つめていた。
無垢なミアに白藤は口元を緩める。大丈夫……と。
白藤の表情を見逃さなかったのはロベリア。
彼女はまだまだ手のかかる妹なのだ。
シルヴェイラはどうしたものかと顔を顰める。
同じ部屋にいるのはエルティア。
他意がない事を彼は承知しているが。
窓から覗く星空が輝いているがそれ以上に輝いているのはエルティアだ。昼間に本屋で買い込んだ複数のジャンルの和綴じ本に心を躍らせている。
「ああ、それは良かったね。エア」
心から嬉しそうなエルティアへシルヴェイラは即釘を刺す。
「だが、くれぐれも夜中に読むのはやめてくれ。目を悪くするから。いいね?」
読む気満々のエルティアは不承不承といった様子で了解してくれた。
「そういえば、引継ぎの時に聞いた子供、もしかしたら、お祭りを楽しむ精霊だったのかもしれないわね」
思い出したように口にするエルティアにシルヴェイラは微笑む。
「そうかもしれないな」
賛同するように波の音が響いた。
帰宅しても良い患者を帰宅させた香栄は来訪者を迎え入れる。
「おや、いつぞやの」
にこやかな笑みを浮かべたハンスは「夕方は忙しそうだったので」とつげる。
香栄は麦茶を供し、世間話をしていた。
幕末の剣客に憧れるハンスはここで同じ事が出来る尊さを説いていた。
流暢なハンスの言葉を切った香栄は怒りの火を点す。
「人を斬ることで強くなったと錯覚するのは若さだが、それを人に説くのは紛れもない間違いだ」
「殺してはいませんよ。診療所の利益に貢献したまでです」
そう告げるハンスは失礼しますと言って診療所を辞した。
翌朝、ロベリアは呆れつつも、まだ眠るミアを見つめていた。
「想像以上に凄い寝相だったよ」
「しゃぁないわぁ」
白藤も起きており、くつくつと笑った。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
警備当番表 エルティア・ホープナー(ka0727) エルフ|21才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/08/11 10:44:58 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/11 10:35:36 |