ゲスト
(ka0000)
【東幕】【空蒼】暗雲たる暗幕
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/23 07:30
- 完成日
- 2018/08/30 20:26
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●???
太陽の光が全く届かない地下深くであるが、朧気に空間が照らされていた。
激しい灼熱を感じる。
「……ふーん。そろそろ、あの男を始末しないといけないわね」
3つ尾の狐から報告を聞いた、狐卯猾が呟いた。
拷陀が討ち取られ憤怒勢力がもはや脅威ではないとでも思ったのだろうか。
公家と幕府の関係を悪くした原因の一つである秘宝の真実を公開しようと考えているらしいのだ。
「この用事が終われば、真っ先にでも」
ニヤリと口元を緩めた。
端整な顔にぼんやりとした光が当たり、不気味に映る。
その頃には、この一帯を含め、きっと人間共は大混乱に陥っているだろうから。
●リゼリオ――ハンターオフィス
宇宙船への転移待ちである鳴月 牡丹(kz0180)が、順番を待っていた。
ぐーっと大きく伸びをする。豊満な胸が周囲を威圧したその時、視線を感じた。
「……あれ? スメラギ様じゃん」
通路を通り掛かったのは、エトファリカ連邦国の帝であるスメラギ(kz0158)だった。
両手いっぱいに書籍を抱えている。
「誰かと思ったら牡丹か。久しぶりだな」
応えたスメラギに跳ねるように駆け寄って近付く牡丹。
その勢いがぶつかってくるようにも思え、スメラギは僅かに後ずさった。
「大荷物だね。誰かに持たせればいいのに」
「べ、べつに、いいんだよ」
意地を張る辺り、なにか怪しいと思った牡丹が本の背表紙を覗き込む。
何やら難しい本のようだった。読むつもりなのか、筋トレのつもりなのか。
「……まさか、スメラギ様が勉強!?」
「お、俺様だって、勉強の一つや二つぐらいな」
「なんだか、東方も大変みたいだしね。いいんじゃない」
感心した様子の牡丹が意外だったらしく、スメラギは照れを隠すように視線を別の方向に変えた。
視線の先には転移門が置かれている。
「牡丹は、また、リアルブルーか?」
「そうだね。故郷には申し訳ないけど……やる事あってさ……ところで、契約者を契約元を倒さないで元に戻す符術とか、ないよね?」
「あるかどうかで言われると、少なくとも、俺様が知る限りでは、無いな」
「だよね~。ありがとう」
その時、転移の準備が整ったアナウンスが流れた。
どうやら、牡丹の順番が来たようだ。
「それじゃ、行ってくるよ」
「気を付けてな」
ブンブンと豪快に手を振りながら牡丹は駆け出した。
●東方―龍尾城
エトファリカ征夷大将軍である立花院 紫草(kz0126)は側近からの報告を頷いて聞いていた。
一つ目は憤怒残党の動きだ。なにやら、本陣を中心に怪しい動きがあるようだとの事だ。
恐らく、高位の憤怒歪虚であった拷陀が討たれた事で、憤怒本陣にまで幕府軍が攻めてくるかと思っているのだろう。
二つ目は幕府軍の被害状況だ。度重なる憤怒との戦いで疲弊はしているが、最後の追撃戦は損害が予想より少なかった。
これは嬉しい誤算だ。特に十鳥城の仁々木 正秋(kz0241)が率いた騎馬隊の奮戦は素晴らしく、無事に凱旋したという。
紫草としては恵土城~十鳥城の南方ラインを防衛線として構築したいと思っている。
三つ目の報告は不可思議な内容だった。拷陀が築いた拠点での負のマテリアル浄化が進んでいないのだ。
理由は不明だが、浄化してもすぐに汚染されるという。原因不明の地震も発生している。拠点には罠の類がない事は、あるハンターの調査で分かっているが――。
「……念には念を入れ、最低限の見張りを残して、拠点から撤退しましょう」
「よろしいのですか?」
折角、手に入れた拠点である。
負のマテリアルを浄化させ、仮砦を構築しても良いぐらいだ。
「浄化してもすぐに汚染される原因が分からなければ、浄化の意味はありませんからね」
「承知いたしました」
「それでは、次の報告です」
側近が告げたのは、公家の動きであった。
秘宝『エトファリカ・ボード』の調査結果から、凶術“五芒星術式”は憤怒歪虚が追記したものであると結論に至った。
だが、上位6武家による武力での諸藩統一と共同統治を描いてある絵そのものについては不明のままだった。
中にはリアルブルーの技術で作成年代を調べられないかという話もあったが、負のマテリアルに汚染されていた事や様々な立場の問題もあり、実現しなかった。
「幾つかの武家が有力な公家と密会を繰り返している様子です」
「憤怒王復活の事件は、憤怒歪虚によるものだという事で決着がつきましたが……幕府の力が衰えているのは事実。公家側へと傾く武家が出る事でしょう」
「幕府が機能を全て朝廷に戻すべきだと主張する輩もいるとか」
東方は二重政権だ。
名目上のトップは帝である。しかし、国防や具体的な治政などは幕府が行っている。
これまで幕府が持っていた機能を全て朝廷に戻すという事は、朝廷を支えている公家に権力が移行する事を意味していた。
武家の中には、そういう流れになっても良いように、今のうちから公家とのパイプを繋いでおきたいのだろう。
「拷陀を倒した事で憤怒歪虚の脅威は弱まったと判断し、政争が活発になるかもしれませんね……引き続き、調査をお願いします」
紫草は側近にそう命じる。
まだまだ、憤怒歪虚との戦いは終わっていないというのに――紫草は心の中で呟いた。
太陽の光が全く届かない地下深くであるが、朧気に空間が照らされていた。
激しい灼熱を感じる。
「……ふーん。そろそろ、あの男を始末しないといけないわね」
3つ尾の狐から報告を聞いた、狐卯猾が呟いた。
拷陀が討ち取られ憤怒勢力がもはや脅威ではないとでも思ったのだろうか。
公家と幕府の関係を悪くした原因の一つである秘宝の真実を公開しようと考えているらしいのだ。
「この用事が終われば、真っ先にでも」
ニヤリと口元を緩めた。
端整な顔にぼんやりとした光が当たり、不気味に映る。
その頃には、この一帯を含め、きっと人間共は大混乱に陥っているだろうから。
●リゼリオ――ハンターオフィス
宇宙船への転移待ちである鳴月 牡丹(kz0180)が、順番を待っていた。
ぐーっと大きく伸びをする。豊満な胸が周囲を威圧したその時、視線を感じた。
「……あれ? スメラギ様じゃん」
通路を通り掛かったのは、エトファリカ連邦国の帝であるスメラギ(kz0158)だった。
両手いっぱいに書籍を抱えている。
「誰かと思ったら牡丹か。久しぶりだな」
応えたスメラギに跳ねるように駆け寄って近付く牡丹。
その勢いがぶつかってくるようにも思え、スメラギは僅かに後ずさった。
「大荷物だね。誰かに持たせればいいのに」
「べ、べつに、いいんだよ」
意地を張る辺り、なにか怪しいと思った牡丹が本の背表紙を覗き込む。
何やら難しい本のようだった。読むつもりなのか、筋トレのつもりなのか。
「……まさか、スメラギ様が勉強!?」
「お、俺様だって、勉強の一つや二つぐらいな」
「なんだか、東方も大変みたいだしね。いいんじゃない」
感心した様子の牡丹が意外だったらしく、スメラギは照れを隠すように視線を別の方向に変えた。
視線の先には転移門が置かれている。
「牡丹は、また、リアルブルーか?」
「そうだね。故郷には申し訳ないけど……やる事あってさ……ところで、契約者を契約元を倒さないで元に戻す符術とか、ないよね?」
「あるかどうかで言われると、少なくとも、俺様が知る限りでは、無いな」
「だよね~。ありがとう」
その時、転移の準備が整ったアナウンスが流れた。
どうやら、牡丹の順番が来たようだ。
「それじゃ、行ってくるよ」
「気を付けてな」
ブンブンと豪快に手を振りながら牡丹は駆け出した。
●東方―龍尾城
エトファリカ征夷大将軍である立花院 紫草(kz0126)は側近からの報告を頷いて聞いていた。
一つ目は憤怒残党の動きだ。なにやら、本陣を中心に怪しい動きがあるようだとの事だ。
恐らく、高位の憤怒歪虚であった拷陀が討たれた事で、憤怒本陣にまで幕府軍が攻めてくるかと思っているのだろう。
二つ目は幕府軍の被害状況だ。度重なる憤怒との戦いで疲弊はしているが、最後の追撃戦は損害が予想より少なかった。
これは嬉しい誤算だ。特に十鳥城の仁々木 正秋(kz0241)が率いた騎馬隊の奮戦は素晴らしく、無事に凱旋したという。
紫草としては恵土城~十鳥城の南方ラインを防衛線として構築したいと思っている。
三つ目の報告は不可思議な内容だった。拷陀が築いた拠点での負のマテリアル浄化が進んでいないのだ。
理由は不明だが、浄化してもすぐに汚染されるという。原因不明の地震も発生している。拠点には罠の類がない事は、あるハンターの調査で分かっているが――。
「……念には念を入れ、最低限の見張りを残して、拠点から撤退しましょう」
「よろしいのですか?」
折角、手に入れた拠点である。
負のマテリアルを浄化させ、仮砦を構築しても良いぐらいだ。
「浄化してもすぐに汚染される原因が分からなければ、浄化の意味はありませんからね」
「承知いたしました」
「それでは、次の報告です」
側近が告げたのは、公家の動きであった。
秘宝『エトファリカ・ボード』の調査結果から、凶術“五芒星術式”は憤怒歪虚が追記したものであると結論に至った。
だが、上位6武家による武力での諸藩統一と共同統治を描いてある絵そのものについては不明のままだった。
中にはリアルブルーの技術で作成年代を調べられないかという話もあったが、負のマテリアルに汚染されていた事や様々な立場の問題もあり、実現しなかった。
「幾つかの武家が有力な公家と密会を繰り返している様子です」
「憤怒王復活の事件は、憤怒歪虚によるものだという事で決着がつきましたが……幕府の力が衰えているのは事実。公家側へと傾く武家が出る事でしょう」
「幕府が機能を全て朝廷に戻すべきだと主張する輩もいるとか」
東方は二重政権だ。
名目上のトップは帝である。しかし、国防や具体的な治政などは幕府が行っている。
これまで幕府が持っていた機能を全て朝廷に戻すという事は、朝廷を支えている公家に権力が移行する事を意味していた。
武家の中には、そういう流れになっても良いように、今のうちから公家とのパイプを繋いでおきたいのだろう。
「拷陀を倒した事で憤怒歪虚の脅威は弱まったと判断し、政争が活発になるかもしれませんね……引き続き、調査をお願いします」
紫草は側近にそう命じる。
まだまだ、憤怒歪虚との戦いは終わっていないというのに――紫草は心の中で呟いた。
リプレイ本文
●
リゼリオの広場でキヅカ・リク(ka0038)はベンチに座り込んでいた。
頭の中に過ぎったのは、故郷でもあるリアルブルーの事だ。
「議長は偽物で、おまけに世界各地でVOIDは暴れっぱなしか」
誰に向かって言っている訳ではなく独り言だった。
故郷は大混乱なのに、更に『使徒』やら『イクシード・アプリ』と驚くべき事象が次々に発生している。
「守ってみせる! 俺達の世界を!」
思わず力が入り過ぎたようで、彼は大声で叫んでいた。
直後、通り掛かったハンターオフィスの受付嬢が拍手を送る。どうやら、先の独り言も聞かれていたようだ。
「素晴らしい想い! ぜひ、広場での一言に!」
「え!?」
キヅカの反応を無視し、端末の情報を確認する受付嬢。
「キヅカ・リク様ですね。称号は……キヅカキャn」
「『戦慄の機導師』でお願いします!」
受付嬢に飛び掛かる勢いで主張するリク。
広場インタビューは大勢の人の目に触れる事になるのだ。
(あれだったら、もはや生き恥だ)
神称号に拘る受付嬢を必死に説得し、リクが希望する称号となる。
危うく、周囲から神と崇められ、ブツの奉納がある所だったと安堵するリクであった。
●
太陽の日差しが照りつけるリゼリオの街。
その大通りのある花屋の店先で、ラヴィナ(ka0512)が真剣そのものといった様相で花を見つめていた。
「…………」
魔導エンジンの調整でもやっているのかという程、色々な角度から花を眺める。
正面からだけではなく、上とか横とか斜め――当然のように、色だけではなく花勢も大事だ。
「……よし!」
時間を掛けて幾つかの花を選んだ。
雲一つない今日の青空のような爽やかなブルースター。
優しい色彩を放つ淡い桃色のバラ。
それらを端正に作られたバスケット籠に挿し収めた。店員が慣れた手付きでレースリボンを巻いていく。
「こちらでよろしいでしょうか?」
店員の言葉に笑顔で応え、ラヴィナは花で溢れるバスケット籠を受け取る。
大好きな心友に込めた暖かな想いで一杯の籠花束を、彼女は嬉しそうにキュっと抱き締めた。
この花を見て喜んでくれるだろうか。元気になってくれるだろうか。可憐で優しい笑顔を見せてくれるだろうか。
そんな想いを抱きながらラヴィナは静かに瞳を閉じた。
「……大好きだよ。大丈夫。心はいつも傍にいるよ」
花に込めた想いが、大切な貴女に届くようにと祈りながら――。
●
リアルブルーの情勢は落ち着かない。
そんな事で、鞍馬 真(ka5819)の神経は擦り切れてしまいそうな状態だった。
(……今は立ち止まっている場合じゃない)
疲れて立ち止まったらそこまでの事。だから、真は詩天に出向いていた。
闘狩人として戦い続けてきたが、最近は符術を用いる事が多くなってきたので、この地に学びに来たのだ。
確かに、詩天は優秀な符術師を輩出しているが、符術の総本山である陰陽院は実は天ノ都にある。
という事で符術を学ぶのであれば、陰陽院に行くべきであった。
「……まさか、ここまで勉強不足だったとは」
その事実を詩天で知らされて愕然とする真であった。
もっとも、全くの無駄という訳でもない。符術が盛んであるのは変わらないので、寺子屋をやっている人もいれば、書物の類も多い。
符術のあれこれを独学しながら真は、ふと、賑わう通りに顔を挙げた。
子供達が無邪気に走り回り、商人の威勢のいい声、立ち話する町民……。
この平和は多くの戦士達が守ってきたものだ。
「……せめて、手の届く範囲の人だけでも守りたい」
そんな決意を、彼は口に出して誓うのであった。
●
茜色に染まりだした空に幾羽かの鴉の鳴き声が聞こえる。
彼らには帰るべき家というものがあるのだろう。美鶴(ka6098)は家ではなく、ある共同墓地に足を運んでいた。
「久し振り、お母さん……なかなか来れなくて、ごめんね」
花を墓前に供えた。
ゆっくりとした動作で膝を曲げて姿勢を落とすと、両手を合わせて告げる。
自分もあの子も元気でいる事と、幸せに暮らしている事を。
幼い頃の記憶に残る優しく微笑む母の姿を思い浮かべた。
「……」
冥福を祈った後、美鶴は墓石の傍らに佇む水子地蔵に、風車を数本供える。
母の墓参りの際に必ず行っている事だ。
頭に過るのは、自身が生きる為に、罪の無い命を犠牲にした事であった。
もし、生まれてきたら、今頃何歳位になっていただろうか。男の子だっただろうか。女の子だっただろうか……。
町中で子供を見掛ける度に、亡き命を思う自分が居た……この罪悪感は一生消えないだろう。
(……次は生命を望む両親の許へゆき、幸せになるのよ)
風が吹いて回る風車に、美鶴は節に願うのであった。
●
天ノ都のとある麺屋に天竜寺 詩(ka0396)とタチバナは居た。
二階の個室を貸し切り、食事をしながら、先の戦いの事を話す。
「……それが鈴峯さんの最後の言葉だよ」
詩は拷陀の最期の様子を伝えていた。
紫草が自分を見捨てたくて見捨てたんじゃないと最期に気付いてくれたのだと。
「……ありがとうございます。きっと、心穏やかに旅立つ事ができたと思います。それはとても大切な事ですから」
優しい目付きでタチバナは答えた。
頷きながら詩は猫舌であるタチバナに冷めたお茶を渡す。
「こんな事聞いたら怒るかもしれないけど、タチバナさんは鈴峯さんや他にも、救いたくても救えなかった人達の事を仕方なかった、と思ってるのかな?」
詩にはある想いがあった。
自分の手を汚す事があったとしても、“仕方ない”と思いたくないという事だ。
「帝も武家も民も……私を含め皆、自他の犠牲をそうして諦める事があったかもしれません……」
タチバナは冷めたお茶をゆっくりと回しながら告げる。
「ですが、詩さんや皆さんのおかげでそうでないと……気づきつつあると、私は思っていますよ」
「以前ある人にそう言ったら清いが甘いって言われちゃったけどね」
詩は笑顔で応える。
“仕方ない”は割り切りでもあると同時に、希望も失っている。そうではないという詩の優しい想いにタチバナも微笑を浮かべたのだった。
●
団子の差し入れと共に、励ましの手紙をスメラギに送ったエステル・ソル(ka3983)はリゼリオから東方にやってきていた。
スメラギの事だ。読んでも返事を出してくるとは思えないが……今頃、団子でも口に詰め込んでいるだろうか。
そんな事を考えながら、エステルは目的の地に到着する。
ちょうど、空から観察していた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が降りてくる所だった。
「空から見た限りでは特に怪しい様子は見られないのぉ?」
蜜鈴が首を傾げる。
憤怒歪虚である拷陀が築いた拠点は浄化してもすぐに汚染されるという。
大地に直接、手を触れながらエステルが疑問を口にする。
「浄化してもすぐに汚染されるということは、発生源は別にあるのでしょうか?」
「何ぞ核となる様な物でも埋められているのじゃろうか?」
二人とも頭に浮かんだのは、“凶術”五芒星術式や汚染された龍脈だった。
「汚染の発生源は地下にあります? 地下を探ってみるのです」
エステルの健気な瞳に蜜鈴は開いていた扇を音を立てて閉じ、苦笑を浮かべる。
地下通路や隠し部屋が無いか探したのだが、そういった類は見つけられなかったからだ。
「陥没した所はあるがの……」
「地下室では無かったのですか?」
「見てみれば分かるのじゃが……地震のせいなのかどうかといった所じゃな」
蜜鈴が拠点の中心部で見たのは、大きく陥没した穴だった。
崩れ途中なのか、魔法を使って降り立つのは危険と感じられるほどだ。
何かエステルが言い掛けたその時だった。
激しい揺れ。
咄嗟に飛び上がる蜜鈴とエステルの目の前で、陥没した穴から続々とマグマが噴出してきたのだ。
「何じゃ!」
「このマグマ……強い負のマテリアルです!」
汚染されたマグマというべきか。
溢れ出すそれらは瞬く間に拠点に広がっていく。
「これは拙いのう。すぐに退避しないと全滅するのじゃ」
拠点には幕府軍の見張りが僅かに残っている。
「彼らに声を掛けながら、私達も避難しましょう」
「そうじゃな」
蜜鈴とエステルはお互いに顔を見合わせて頷いた。あのマグマの勢いに飲み込まれたら最後、即死だろう。
二人は拠点に残っていた幕府軍の兵士達に避難を呼び掛けながら、マグマから逃れるように拠点から脱出するのであった。
●
十鳥城に訪れたミィリア(ka2689)と銀 真白(ka4128)の二人の侍。
城下町の様子は大きく変わったようには見えなかった。
強いて言えば、復興は順調のようだ。通りを行き交う行商人や町民の表情は明るい。
「……街道の治安は良いとは言えませんが、十鳥城周辺を含め、随分と安定してきました」
ぴしゃっと髷を整えた仁々木 正秋(kz0241)が丁寧に告げた。
なんでも、編制した騎馬隊は、必要があれば街道治安にもあたっているらしい。
「先の戦いで、正秋さんのとこの騎馬隊もすごかったって聞いた、でござるよ!」
ミィリアが満面の笑みを浮かべて言う。愛馬と共に騎馬隊の面々と十鳥城周囲を回った印象をいえば、練度は高いだろう。
さすがに、ゴースロン並みの機動力は無いが、よく訓練されていた。
こうした騎馬隊を維持するのは大変だが、その大きな意味があたっという事だ。
おかげで十鳥城周辺の治政は順調である。不安要素となるのは、憤怒残党の今後の動きだ。
特に、狐卯猾の尻尾はまだ掴むどころか、見えもしなかった。
「被害が大きくなくてよかった」
安堵した様子で真白が言った。
流石に無傷という訳にはいかなかったが、十鳥城の兵力に限って言うと戦死者は皆無だった。
怪我人もだいぶと回復しており、十鳥城騎馬隊は勢力を保っている。
二人の侍に挟まれるように歩く正秋は軽く笑って応えた。
一歩進んで歩く瞬が、そこで振り返る。
「全くだぜ。此奴、敵の増援が来たら、死んでも止めるって大変だったんだぜ」
「な! そ、そんな事、今、言わなくてもいいだろう、瞬!」
突然の裏話に正秋が慌てる。
最も、事実ではある。万が一、敵の増援が来た場合、彼は死んでも止める覚悟でいた。
「正秋さん! それは良くないでござる」
「その通りだ。そう簡単に逝こうなど!」
ミィリアと真白の二人から腕を引っ張られる正秋。
両手に花というのはこういう事なのだろうか、女性慣れしていない正秋は顔を真っ赤にする。
その様子が可笑しく、瞬がいらない一言を口走った。
「城壁みたいな胸に挟まれて、何が嬉しいのだが」
ビシっと侍二人の動きが一瞬止まった。
「瞬さぁん……」
「瞬どのぉ……」
直後、瞬が十鳥城の城壁まで追いかけられたのは言うまでもない。
●
「こう言うのを見学する機会は早々無いだけにありがたいですね」
興味津々といった様子で鹿東 悠(ka0725)が言う。
ここは特務双艦ジェミニの艦内――その中でも、大切な場所の一つであるCAMデッキの一つだった。
「敵が出ないなら護衛役もただの見学者よね~」
コンテナの上に座って足を揺らす夢路 まよい(ka1328)。
ハンター達がこの艦に乗船しているのは護衛役だからだ。
「CAMの調整も出来るし、俺には良いタイミングだった」
何かの端末を手にしながらCAMの足元から姿を現したのはアニス・テスタロッサ(ka0141)だ。
作戦後であるので、機体のチェックはより細かくなる。もっとも、アニスにとっては苦ではなかろうが。
「艦内は入り組んでいて狭い印象でしたね」
「迷子になりそうよね」
鹿東の感想にまよいが笑いながら同意した。
元々は宇宙軍のテレーザ級巡洋艦だ。中破した二隻を繋ぎ合わせる形で双胴艦となっている。
二つの船を繋ぐ胴部分が、護衛であるハンター達の居住区域であった。ここには状況に応じて非戦闘員の住居区画も兼ねているという。
「船内図でもくれりゃ、迷子にならなそうだが……そうじゃないんだろ?」
自機を見上げながらアニスは言った。
「その通りですよ。軍事機密という事で入れない区画もありましたし」
苦笑を浮かべる鹿東。
折角の艦内散歩だったが、思うように歩けなかった印象だ。鹿東は話を続ける。
「それに……幾つかCAMデッキを見させて貰いましたが、旧式機が多かったですね」
「……新型のコンフェンサーは改修していなければ、覚醒者か強化人間専用だからな。この船に強化人間は乗っていないのだろう」
アニスの言葉通り、特務双艦ジェミニには強化人間が乗っていなかった。
その理由を、ハンター達には教えて貰えなかった。“軍事機密”らしい。
「リアルブルーは今、強化人間の事とかで大変だよねえ」
まよいが首を傾げながら告げた台詞にアニスと鹿東は頷く。
二人ともリアルブルー出身の軍人であるからか、思う所があるかもしれない。
それは元軍人だけではなく、リアルブルーそのものが、混迷の時であるのは確かだ。
もっとも、まよい自身はリアルブルーが故郷という実感はなかった。生い立ちのためだろうか。それでも、大変なことがあれば何か手伝いたいという思いはある。
そんな気分で彼女がCAMを見上げた時だった。
「ちょっと、す、すみせん!」
付近のハッチが急に開き、一人の少年が姿を現した。
黒髪黒瞳の頭の良さそうな好少年といった感じだろうか。
突然の少年の登場に、キョトンとするハンター達を順に見て……少年は鹿東の背後に回る。
すぐさま、少年が出てきたハッチから警備員が姿を現した。
「これは、ハンターの皆さん。一般人が紛れ込んできませんでしたか?」
「ガキだったら、アッチに走って行ったぜ」
アニスが何事もないように告げると、警備員は一礼してから走り去った。
その姿が見えなくなった所で少年はため込んだ息を吐き出した。
「ありがとうございます。艦内を散策していたら、警備員に追い掛けられて」
「軍艦の中を歩き回るのは良くないですからね」
少年は鹿東の忠告に丁寧に頭を下げた。
見た目通り利発な子のようだ。それに……どこかで見たような面影を感じる。
「わぁ! これ少数生産のオファニムですよね!」
アニスの機体を指さして瞳を輝かせる少年。
まよいがコンテナから飛び降りると少年に並ぶ。
「詳しいのね、君」
「父も母もCAM乗りなので。この機体があるって事は、皆さんはハンターなのですね」
憧憬の眼差しをハンター達に向ける。少年にとって、ハンター達が持つ力は大きく映るようだ。
少年はマジマジとCAMに視線を向けながらも、急に何かを思い出した。
「あっと。このままじゃ、鳴月さんが迷子になったままだ。お邪魔しました」
通路を走り出した少年に鹿東は声を掛けた。
「君の名前を聞いていいかな?」
「ボクは星加孝純です。ハンターの皆さん、またどこかで!」
立ち去っていく少年の背中を見つめながらアニスが静かに言う。
「……そうか、あの子が籃奈の一人息子だったのか」
「通りで、面影が似ていると思いましたよ――良い子ですね」
見えなくなる前に少年が振り返り、控え目に手を振った。
アニスと鹿東が手を挙げて応え、まよいがブンブンと豪快に腕を振るう。
「またね~」
――と。
●
「そんな訳で、孝純君が迷子になっちゃたんだよ!」
唾を飛ばしながら力説する鳴月 牡丹(kz0180)に龍崎・カズマ(ka0178)は宥めるように適当に頷く。
状況を聞くに、迷子になったのは明らかに牡丹の方だろう。
「そもそも、どういうことだ……? なんで孝純君がこの船に居る?」
「えとね、なんでも強化人間の暴走の説得要員みたいで?」
「……そりゃ、どう考えても人質扱いだろ」
きな臭いと思ったら、やっぱりこれだ。しかも、牡丹が保護者じゃ保護者になってない。
今頃、保護者から離れた孝純君が警備員に追われてなければいいが……。
「そっか。だから、部屋から出る時は保護者付きでって」
「大丈夫なのか? 船を壊したりしないよな?」
カズマの心配にニヤっと牡丹は笑って顔を近づけさせる。
「何? 僕の事、心配なの?」
「変に絡まれたりしないか……な」
正直言うと、嫉妬雑じりの事なのだが、口にはしなかった。
「ふーん。まぁ、いいや。ほら、じゃ、孝純君探そう!」
嬉しそうな表情を浮かべ、牡丹はカズマの腕を取ったのであった。
ちなみに、孝純と合流できたのはそれから1時間は経過した後の事だった。
●
王都のハンターオフィス支部の一室でUisca Amhran(ka0754)と紡伎 希(kz0174)の二人が大量に積み上がった書物と格闘していた。
強化人間を元に戻す手段や契約者、堕落者の事を調べていたのだ。
「……リアルブルーで捕縛された強化人間達は月に送られているみたいですね」
「契約元を倒さずに基に戻す方法はないみたいけど、何か、月で行われてる?」
Uiscaの疑問に希は頷いた。
色々と調べたが分からない事だらけだった。ハンターですら自らの意思で覚醒者を辞めらないのだ。
「ノゾミちゃんは、イケメンさんの所にいた時も契約者って訳じゃなかったんだよね?」
「はい……ただ、万が一の時は、契約するという話はありました」
「そうなのね……そういえば、今、子イケ君は?」
希の告白に実は結構、際どかったのだろうと感じつつ、ある歪虚の動向を尋ねるUisca。
それに対し緑髪の少女はある図面を広げた。
「ある鍛冶師の方の協力を得て鞘を作っている最中です」
完成すれば“魔装の鞘”と言うべきか。
「これが完成したら……転移門はダメですが、もっと身近にいられます」
「楽しみね」
ニコリと笑ったUiscaに、希も満面の笑みを浮かべたのであった。
●
生命の強い息吹を感じさせる鮮やかな草や葉が、静かに抜けていく風に揺れて囁く。
そこに楽しそうな小鳥達の囀りが、合わさり――穏やかな、安らぎの時を奏でていた。
見上げれば大樹の枝や葉の間から、太陽の輝きが宝石のように煌めいている。
静かで、そして、懐かしい、平穏な時間。見上げれば、あの日々と変わらぬまま。
今も、心に在る夏の眩しい木洩れ陽が、優しく迎えてくれる。
「懐かしい……」
志鷹 都(ka1140)が志鷹 恭一(ka2487)に寄り掛かりながら呟いた。
ここで二人、本を読んだり、お昼寝したり、花を摘んだりして遊んだものだ。
「大切な場所だ」
恭一が懐かしそうにしている都の様子に安堵しながら言葉を返した。
数年振りに二人で訪れた故郷に在る野原であり、一本の樹木の木陰に、今は二人で腰を下ろしていた。
ここは二人の思い出が詰まった大切な場所でもある。
眼前には夏色一色の大地が続き、耳を澄ませば賑やかな自然の音が響く。
「毎日ここで恭をずっと待っていたけれど……恭は来なかった……」
それは昔の哀しく辛い記憶。
「……もう一人にしないでね」
草木の緑光が、太陽の温かい光が、都の胸に在る哀しみや苦しみを、優しく融かしてくれるようにと、彼は願った。
同時に寂しい想いをさせてしまっている事に申し訳ないと思うが――言葉にならない。
だから、風が駆け抜けた後に、恭一は寄り掛かる都の身体を、ゆっくりと抱き寄せた。
自分の職業柄、いつ命を落とすか判らないという現実過ぎる考えを飲み込む。そんな言葉を都は望んでいないだろう。
「……」
だから、都の手を取り、そこに自分の手を重ねながら、僅かに頷きながら呟き返す。
「……約束する」
それは空約束かもしれないし、言わしているだけかもしれない。
それでも、その一言で、どれだけ救われ、満たされるのか。この刻がどれだけ尊い事か。言葉には言い表せない。
今一度、都は緑の光を仰いだ。
もし、哀しく苦しい未来が訪れたとしても……綺麗な愛しいこの光だけは忘れたくない――と。
●
港街ガンナ・エントラータの路地を、縦長の盾を腕に装着した雪柳・深紅(ka1816)が駆ける。
目標は先程から素早く逃げ回る黒光りする昆虫のような雑魔だ。
「……まだ残っていたんだ」
鋭い踏み込みからの一撃で雑魔を退治したが、別の雑魔が排水管へと潜り込んだのが見えた。
深紅にとって、ハンターオフィスからの依頼を受ける日々は日常そのものだ。
だから、今日も戦う。討伐目標が雑魔でも強化人間でも変わらない。
生活していくのに困らない分、稼げればいい。その為には、依頼を達成させなければならない。
「通りに出そうだね」
チラチラと見える雑魔の影を追い掛け、深紅は路地から飛び出した。
「確かに……磯の香がしますね。これが潮風ですか」
ニーロートパラ(ka6990)が港から吹き込んでくる潮風を全身で受け止めていた。
彼の故郷には無いものらしく、暫し、潮風を堪能する……後で確りと潮風を浴びた髪を洗わないといけない事をきっと彼は知らないかもしれない。
「あれ? 騒ぎでしょうか?」
通りの方で悲鳴らしき声が聞こえた。
覚醒状態に入ると、ニーロートパラは魔導銃を構えて走り出す。
困っている人が居れば助ける。それが、彼にとっては普通で日常だからだ。
「雑魔ですか……速いですね」
通りに出現したのは黒光りする昆虫のような雑魔。
慌てる人々の間を我が物顔で動き回っている。それを追い掛けていると思われるハンターも見えた。
「それならば!」
体内のマテリアルを燃やし、敵をおびき寄せてからの銃撃。
銃弾が直撃すると同時に、雑魔の背後に迫った深紅が強烈な一撃を叩き込んで、雑魔は消滅していった。
「助太刀感謝だ」
深紅の言葉にニーロートパラが笑顔で返す。
「良かった。無事に倒せて。皆も無事のようだし」
世界に影響があるほど力は無いかもしれないが、それでも誰かを守れるだけで嬉しい事だ。
満足そうなニーロートパラの表情に、深紅は自分とは違う種類の者だなと思った。
違う種類だが、どこか同じ空気を感じる――互いに知る由はないが、遠い故郷から違う環境に来たという共通の境遇かもしれない。
「依頼頑張って下さい」
「あぁ。死なない程度に、かな」
丁寧な物腰のニーロートパラに深紅は手を挙げて答えたのであった。
●
ギラギラと陽射しが降り注ぐ中、真っ白な砂浜に時音 ざくろ(ka1250)ら一行が到着した。
一行以外に人の姿が見られないのは、ここが雑魔退治の場でもなければ、宝探しの秘境でもなく、ハンター達に提示されたプライベートビーチだからだ。
「着いた! 夏の海を堪能する大冒険だよ!」
爽やかな笑顔で振り返るざくろ。
黒いビキニスタイルの舞桜守 巴(ka0036)と、白いワンピース水着のアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)。そして、ビキニブラとデニムショートの白山 菊理(ka4305)の三人が、ざくろの宣言に力強く頷いた。
「巴もアデリシアも菊理も、みんな、水着良く似合ってるし、とっても! 綺麗だよ!」
嬉しいよと照れながら続けて言うざくろが一番可愛いかもしれないと、3人は思った。
白い短パンの水着姿なのだが、持ち前の華奢な身体と長い髪――申し合わせた訳でもないのに、巴とアデリシアの二人がざくろを両側から挟み込む。
「遠慮なく、くっついてしまいますかー」
「わりといつものように……といったところですか」
両腕から伝わる豊かな胸の感触に、ざくろは顔が真っ赤になる。
「はわわわわ…」
鼻血が出そうだから手で抑えたい所だが、両腕とも胸によって挟まれ身動きが取れない。
「ほら、遊んでないでオイルを塗ろう」
ざくろのいつもの反応に微笑みながら、菊理が日焼け止めのオイルをざくろに手渡す。
こうも陽射しが強いと日焼けしてしまうだろう。
「もしかして、ざくろが全員塗るの?」
「当然ですわ。まぁ、私が塗ってもいいけど」
そう言いながらも巴が先に身体を横にした。女の子に塗るのも好きだが、やっぱり、先にざくろに塗って欲しい所だ。
胸元のビキニを自分で引っ張る――胸の全容が見えそうで見えないのが逆にエロい。
「それでは私もお願いします」
サッと横に寝転ぶアデリシア。
柔らかそうなお尻がプリっと見える。
「塗るなら日焼けする前に、なるべく早い方がいいだろう」
二人に並ぶように菊理も横になった。
くびれが美しいラインを描く。
美女3人が寝転びながら挑発的な視線を向けてくる光景だけで十分過ぎる程の攻撃力だ。
思わず前屈みになりながら、ざくろは両手にオイルを付けると、寝転ぶ菊理の背中に触れた。
「は、んっ! く、くすぐったいぞ」
「あ。ごめん。て、手が凄い勢いで滑って……」
わざとやっている訳ではないのにざくろの手はダイレクトに菊理の胸を掴んでいた。
ラキスケの神が早速、降臨したようだ。
オイルを塗り終わり、バレーをして遊んだ後、ざくろ達はスイカ割を始めた。
「目隠しが窮屈な気がするけど……」
当然のようにざくろがバットを持つ。
「気のせいですわ」
「ちゃんと狙ってですの」
アデリシアと巴の言葉を聞きながら、ざくろは神経を集中する。
大丈夫。視界が見えなくなった程度だと自分に言い聞かせた。戦場では時に視界に頼れない時もある。ざくろは自身の勘を信じて一歩踏み出した。
「えと……真っ直ぐかな」
砂の感触を確かめながら慎重に進む彼に3人の声援が飛ぶ。
「右ですの」
「もうちょっと右ですよ」
「いや、行きすぎだ。左」
誰か一人、明らか違う事を告げたおかげで、ざくろは完全にスイカを見失ったようだ。
進むうちに、砂に足を取られ、盛大に転ぶざくろ。
まぁ、彼が目隠しした時点で確実にらきすけ案件なのは言うまでもなかった事だろうが。
「まだ日が出ているのですわ」
「もう、しょうがないですね」
巴とアデリシアの二人に覆いかぶさるようにざくろが飛んだ。
そして、当然のように、彼の両腕はそれぞれの柔らかい頂きを確りと握っていたのであった。
その後、海水浴を堪能し、日もそろそろ陰ってきた。
夕立が降りそうな曇り空にもなってきて風も吹いてきたので、少し肌寒い。
ざくろは3人をまとめてギュっと引き寄せる。
「ほら、こうしたら暖かいし」
そして、しばし3人を引き寄せたままジッと体温を感じてから、照れながら小さく「愛してる」と告げるざくろ。
その仕草にアデリシアが腕をざくろの身体に回す。
「身体が冷えてきたら、どこかで温まるのもいいでしょうか」
「流石に、夕方ともなれば少し肌寒いか」
菊理もピトっと、身体をくっ付けた。
そんな状態で、ざくろが赤く染まった顔で言った。
「ねぇ、この後、どうして欲しい? どこかって?」
「どこかがどこですかって? それはもう……決まっているじゃないですか」
意地悪そうに耳元で告げるアデリシア。
あたふたとざくろの心の様相を表現している彼の腕を掴む巴。
「わかりきった事を聞くのは野暮ですわよ? イチャイチャはまだまだ続くのです」
そして、ざくろは温泉が出るという岩陰へと、3人の美女に連れていかれるのであった。
●
相変わらずお堅い門番にアポイントをちゃんと取った事を告げ、場内に通されたアルマ・A・エインズワース(ka4901)と和住晶波(ka7184)の二人は、ある一室に案内された。
「紫草さーんっ!」
部屋の中で待っていた紫草にいつものように突撃するアルマ。
紫草は微笑を浮かべながら受け止める。これも見慣れた光景だ。
「この人があの大将軍……」
晶波が驚きのあまり言葉を失っていた。
目の前に居るのは、東方最強の侍であり、東方を実質的に収める幕府の頂点に立つ者だ。
そんな凄い人物に親し気に飛び込んでいくアルマの行動にも驚きだが。
紫草は冷静に飛び込んできた犬系ハンターの頭を撫でる。
「お元気そうですね、アルマ……そちらの方はお友達ですか?」
わふわふを堪能しながら、アルマはちょっとだけ頭を振り返った。
「わぅ? 僕のうさちゃんです。紫草さんに会ってみたいって言うので!」
「和住晶波と申しやす。もし、よければ俺……ぼ、僕とも、仲ようしてもらえたら嬉しいです」
「えぇ、こちらこそ、よろしくお願いします」
ニッコリと笑った紫草に晶波はホッとした。
無礼な対応をして気分を害するのではないかと思ったのもある。
「アルマ……のお友達ですから、やはり、そのまま名前で呼んだ方がいいのでしょうか?」
「え? いや、僕は――」
普通に呼んで貰って大丈夫ですという言葉はアルマに遮られた。
「僕のうさちゃんなので、うさちゃんが良いです!」
「分かりました。うさちゃんですね」
そんな流れになってしまった以上、これは仕方ない。
晶波は話題を変える事にした。
「お怪我の方は大丈夫……のようですね」
「えぇ、アルマのおかげですよ」
「……でも、紫草さん、不調があったらすぐに言うです。ちょっとでもです! 紫草さん大事で、すきーですから!」
鋭い嗅覚を持っているかのようなアルマの反応に紫草は思わず苦笑を浮かべた。
体調が万全では無いのは――やっぱり黙っておこうと思う。
「ところで、拠点について話とは?」
憤怒が築いた拠点の汚染についてだ。アルマには思う事があったようだ。
「わぅ。きっと、地面のずっと下に何かあるです。たくさん浄化……」
話を続けようとしたその時、突如、場内が慌ただしくなった。
窓の外を確認した晶波は“異変”に指を差した。
「あれは……噴煙?」
程なく、火急の知らせと入ってきた紫草の側近から、憤怒拠点が噴火したと告げられたのであった。
ハンター達はそれぞれの場所で一日を過ごした……そんな中、龍尾城に驚くべき報告が入る。
それは、憤怒歪虚が構築した拠点から負のマテリアルで汚染されたマグマが噴出したという事であった。
おしまい。
リゼリオの広場でキヅカ・リク(ka0038)はベンチに座り込んでいた。
頭の中に過ぎったのは、故郷でもあるリアルブルーの事だ。
「議長は偽物で、おまけに世界各地でVOIDは暴れっぱなしか」
誰に向かって言っている訳ではなく独り言だった。
故郷は大混乱なのに、更に『使徒』やら『イクシード・アプリ』と驚くべき事象が次々に発生している。
「守ってみせる! 俺達の世界を!」
思わず力が入り過ぎたようで、彼は大声で叫んでいた。
直後、通り掛かったハンターオフィスの受付嬢が拍手を送る。どうやら、先の独り言も聞かれていたようだ。
「素晴らしい想い! ぜひ、広場での一言に!」
「え!?」
キヅカの反応を無視し、端末の情報を確認する受付嬢。
「キヅカ・リク様ですね。称号は……キヅカキャn」
「『戦慄の機導師』でお願いします!」
受付嬢に飛び掛かる勢いで主張するリク。
広場インタビューは大勢の人の目に触れる事になるのだ。
(あれだったら、もはや生き恥だ)
神称号に拘る受付嬢を必死に説得し、リクが希望する称号となる。
危うく、周囲から神と崇められ、ブツの奉納がある所だったと安堵するリクであった。
●
太陽の日差しが照りつけるリゼリオの街。
その大通りのある花屋の店先で、ラヴィナ(ka0512)が真剣そのものといった様相で花を見つめていた。
「…………」
魔導エンジンの調整でもやっているのかという程、色々な角度から花を眺める。
正面からだけではなく、上とか横とか斜め――当然のように、色だけではなく花勢も大事だ。
「……よし!」
時間を掛けて幾つかの花を選んだ。
雲一つない今日の青空のような爽やかなブルースター。
優しい色彩を放つ淡い桃色のバラ。
それらを端正に作られたバスケット籠に挿し収めた。店員が慣れた手付きでレースリボンを巻いていく。
「こちらでよろしいでしょうか?」
店員の言葉に笑顔で応え、ラヴィナは花で溢れるバスケット籠を受け取る。
大好きな心友に込めた暖かな想いで一杯の籠花束を、彼女は嬉しそうにキュっと抱き締めた。
この花を見て喜んでくれるだろうか。元気になってくれるだろうか。可憐で優しい笑顔を見せてくれるだろうか。
そんな想いを抱きながらラヴィナは静かに瞳を閉じた。
「……大好きだよ。大丈夫。心はいつも傍にいるよ」
花に込めた想いが、大切な貴女に届くようにと祈りながら――。
●
リアルブルーの情勢は落ち着かない。
そんな事で、鞍馬 真(ka5819)の神経は擦り切れてしまいそうな状態だった。
(……今は立ち止まっている場合じゃない)
疲れて立ち止まったらそこまでの事。だから、真は詩天に出向いていた。
闘狩人として戦い続けてきたが、最近は符術を用いる事が多くなってきたので、この地に学びに来たのだ。
確かに、詩天は優秀な符術師を輩出しているが、符術の総本山である陰陽院は実は天ノ都にある。
という事で符術を学ぶのであれば、陰陽院に行くべきであった。
「……まさか、ここまで勉強不足だったとは」
その事実を詩天で知らされて愕然とする真であった。
もっとも、全くの無駄という訳でもない。符術が盛んであるのは変わらないので、寺子屋をやっている人もいれば、書物の類も多い。
符術のあれこれを独学しながら真は、ふと、賑わう通りに顔を挙げた。
子供達が無邪気に走り回り、商人の威勢のいい声、立ち話する町民……。
この平和は多くの戦士達が守ってきたものだ。
「……せめて、手の届く範囲の人だけでも守りたい」
そんな決意を、彼は口に出して誓うのであった。
●
茜色に染まりだした空に幾羽かの鴉の鳴き声が聞こえる。
彼らには帰るべき家というものがあるのだろう。美鶴(ka6098)は家ではなく、ある共同墓地に足を運んでいた。
「久し振り、お母さん……なかなか来れなくて、ごめんね」
花を墓前に供えた。
ゆっくりとした動作で膝を曲げて姿勢を落とすと、両手を合わせて告げる。
自分もあの子も元気でいる事と、幸せに暮らしている事を。
幼い頃の記憶に残る優しく微笑む母の姿を思い浮かべた。
「……」
冥福を祈った後、美鶴は墓石の傍らに佇む水子地蔵に、風車を数本供える。
母の墓参りの際に必ず行っている事だ。
頭に過るのは、自身が生きる為に、罪の無い命を犠牲にした事であった。
もし、生まれてきたら、今頃何歳位になっていただろうか。男の子だっただろうか。女の子だっただろうか……。
町中で子供を見掛ける度に、亡き命を思う自分が居た……この罪悪感は一生消えないだろう。
(……次は生命を望む両親の許へゆき、幸せになるのよ)
風が吹いて回る風車に、美鶴は節に願うのであった。
●
天ノ都のとある麺屋に天竜寺 詩(ka0396)とタチバナは居た。
二階の個室を貸し切り、食事をしながら、先の戦いの事を話す。
「……それが鈴峯さんの最後の言葉だよ」
詩は拷陀の最期の様子を伝えていた。
紫草が自分を見捨てたくて見捨てたんじゃないと最期に気付いてくれたのだと。
「……ありがとうございます。きっと、心穏やかに旅立つ事ができたと思います。それはとても大切な事ですから」
優しい目付きでタチバナは答えた。
頷きながら詩は猫舌であるタチバナに冷めたお茶を渡す。
「こんな事聞いたら怒るかもしれないけど、タチバナさんは鈴峯さんや他にも、救いたくても救えなかった人達の事を仕方なかった、と思ってるのかな?」
詩にはある想いがあった。
自分の手を汚す事があったとしても、“仕方ない”と思いたくないという事だ。
「帝も武家も民も……私を含め皆、自他の犠牲をそうして諦める事があったかもしれません……」
タチバナは冷めたお茶をゆっくりと回しながら告げる。
「ですが、詩さんや皆さんのおかげでそうでないと……気づきつつあると、私は思っていますよ」
「以前ある人にそう言ったら清いが甘いって言われちゃったけどね」
詩は笑顔で応える。
“仕方ない”は割り切りでもあると同時に、希望も失っている。そうではないという詩の優しい想いにタチバナも微笑を浮かべたのだった。
●
団子の差し入れと共に、励ましの手紙をスメラギに送ったエステル・ソル(ka3983)はリゼリオから東方にやってきていた。
スメラギの事だ。読んでも返事を出してくるとは思えないが……今頃、団子でも口に詰め込んでいるだろうか。
そんな事を考えながら、エステルは目的の地に到着する。
ちょうど、空から観察していた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が降りてくる所だった。
「空から見た限りでは特に怪しい様子は見られないのぉ?」
蜜鈴が首を傾げる。
憤怒歪虚である拷陀が築いた拠点は浄化してもすぐに汚染されるという。
大地に直接、手を触れながらエステルが疑問を口にする。
「浄化してもすぐに汚染されるということは、発生源は別にあるのでしょうか?」
「何ぞ核となる様な物でも埋められているのじゃろうか?」
二人とも頭に浮かんだのは、“凶術”五芒星術式や汚染された龍脈だった。
「汚染の発生源は地下にあります? 地下を探ってみるのです」
エステルの健気な瞳に蜜鈴は開いていた扇を音を立てて閉じ、苦笑を浮かべる。
地下通路や隠し部屋が無いか探したのだが、そういった類は見つけられなかったからだ。
「陥没した所はあるがの……」
「地下室では無かったのですか?」
「見てみれば分かるのじゃが……地震のせいなのかどうかといった所じゃな」
蜜鈴が拠点の中心部で見たのは、大きく陥没した穴だった。
崩れ途中なのか、魔法を使って降り立つのは危険と感じられるほどだ。
何かエステルが言い掛けたその時だった。
激しい揺れ。
咄嗟に飛び上がる蜜鈴とエステルの目の前で、陥没した穴から続々とマグマが噴出してきたのだ。
「何じゃ!」
「このマグマ……強い負のマテリアルです!」
汚染されたマグマというべきか。
溢れ出すそれらは瞬く間に拠点に広がっていく。
「これは拙いのう。すぐに退避しないと全滅するのじゃ」
拠点には幕府軍の見張りが僅かに残っている。
「彼らに声を掛けながら、私達も避難しましょう」
「そうじゃな」
蜜鈴とエステルはお互いに顔を見合わせて頷いた。あのマグマの勢いに飲み込まれたら最後、即死だろう。
二人は拠点に残っていた幕府軍の兵士達に避難を呼び掛けながら、マグマから逃れるように拠点から脱出するのであった。
●
十鳥城に訪れたミィリア(ka2689)と銀 真白(ka4128)の二人の侍。
城下町の様子は大きく変わったようには見えなかった。
強いて言えば、復興は順調のようだ。通りを行き交う行商人や町民の表情は明るい。
「……街道の治安は良いとは言えませんが、十鳥城周辺を含め、随分と安定してきました」
ぴしゃっと髷を整えた仁々木 正秋(kz0241)が丁寧に告げた。
なんでも、編制した騎馬隊は、必要があれば街道治安にもあたっているらしい。
「先の戦いで、正秋さんのとこの騎馬隊もすごかったって聞いた、でござるよ!」
ミィリアが満面の笑みを浮かべて言う。愛馬と共に騎馬隊の面々と十鳥城周囲を回った印象をいえば、練度は高いだろう。
さすがに、ゴースロン並みの機動力は無いが、よく訓練されていた。
こうした騎馬隊を維持するのは大変だが、その大きな意味があたっという事だ。
おかげで十鳥城周辺の治政は順調である。不安要素となるのは、憤怒残党の今後の動きだ。
特に、狐卯猾の尻尾はまだ掴むどころか、見えもしなかった。
「被害が大きくなくてよかった」
安堵した様子で真白が言った。
流石に無傷という訳にはいかなかったが、十鳥城の兵力に限って言うと戦死者は皆無だった。
怪我人もだいぶと回復しており、十鳥城騎馬隊は勢力を保っている。
二人の侍に挟まれるように歩く正秋は軽く笑って応えた。
一歩進んで歩く瞬が、そこで振り返る。
「全くだぜ。此奴、敵の増援が来たら、死んでも止めるって大変だったんだぜ」
「な! そ、そんな事、今、言わなくてもいいだろう、瞬!」
突然の裏話に正秋が慌てる。
最も、事実ではある。万が一、敵の増援が来た場合、彼は死んでも止める覚悟でいた。
「正秋さん! それは良くないでござる」
「その通りだ。そう簡単に逝こうなど!」
ミィリアと真白の二人から腕を引っ張られる正秋。
両手に花というのはこういう事なのだろうか、女性慣れしていない正秋は顔を真っ赤にする。
その様子が可笑しく、瞬がいらない一言を口走った。
「城壁みたいな胸に挟まれて、何が嬉しいのだが」
ビシっと侍二人の動きが一瞬止まった。
「瞬さぁん……」
「瞬どのぉ……」
直後、瞬が十鳥城の城壁まで追いかけられたのは言うまでもない。
●
「こう言うのを見学する機会は早々無いだけにありがたいですね」
興味津々といった様子で鹿東 悠(ka0725)が言う。
ここは特務双艦ジェミニの艦内――その中でも、大切な場所の一つであるCAMデッキの一つだった。
「敵が出ないなら護衛役もただの見学者よね~」
コンテナの上に座って足を揺らす夢路 まよい(ka1328)。
ハンター達がこの艦に乗船しているのは護衛役だからだ。
「CAMの調整も出来るし、俺には良いタイミングだった」
何かの端末を手にしながらCAMの足元から姿を現したのはアニス・テスタロッサ(ka0141)だ。
作戦後であるので、機体のチェックはより細かくなる。もっとも、アニスにとっては苦ではなかろうが。
「艦内は入り組んでいて狭い印象でしたね」
「迷子になりそうよね」
鹿東の感想にまよいが笑いながら同意した。
元々は宇宙軍のテレーザ級巡洋艦だ。中破した二隻を繋ぎ合わせる形で双胴艦となっている。
二つの船を繋ぐ胴部分が、護衛であるハンター達の居住区域であった。ここには状況に応じて非戦闘員の住居区画も兼ねているという。
「船内図でもくれりゃ、迷子にならなそうだが……そうじゃないんだろ?」
自機を見上げながらアニスは言った。
「その通りですよ。軍事機密という事で入れない区画もありましたし」
苦笑を浮かべる鹿東。
折角の艦内散歩だったが、思うように歩けなかった印象だ。鹿東は話を続ける。
「それに……幾つかCAMデッキを見させて貰いましたが、旧式機が多かったですね」
「……新型のコンフェンサーは改修していなければ、覚醒者か強化人間専用だからな。この船に強化人間は乗っていないのだろう」
アニスの言葉通り、特務双艦ジェミニには強化人間が乗っていなかった。
その理由を、ハンター達には教えて貰えなかった。“軍事機密”らしい。
「リアルブルーは今、強化人間の事とかで大変だよねえ」
まよいが首を傾げながら告げた台詞にアニスと鹿東は頷く。
二人ともリアルブルー出身の軍人であるからか、思う所があるかもしれない。
それは元軍人だけではなく、リアルブルーそのものが、混迷の時であるのは確かだ。
もっとも、まよい自身はリアルブルーが故郷という実感はなかった。生い立ちのためだろうか。それでも、大変なことがあれば何か手伝いたいという思いはある。
そんな気分で彼女がCAMを見上げた時だった。
「ちょっと、す、すみせん!」
付近のハッチが急に開き、一人の少年が姿を現した。
黒髪黒瞳の頭の良さそうな好少年といった感じだろうか。
突然の少年の登場に、キョトンとするハンター達を順に見て……少年は鹿東の背後に回る。
すぐさま、少年が出てきたハッチから警備員が姿を現した。
「これは、ハンターの皆さん。一般人が紛れ込んできませんでしたか?」
「ガキだったら、アッチに走って行ったぜ」
アニスが何事もないように告げると、警備員は一礼してから走り去った。
その姿が見えなくなった所で少年はため込んだ息を吐き出した。
「ありがとうございます。艦内を散策していたら、警備員に追い掛けられて」
「軍艦の中を歩き回るのは良くないですからね」
少年は鹿東の忠告に丁寧に頭を下げた。
見た目通り利発な子のようだ。それに……どこかで見たような面影を感じる。
「わぁ! これ少数生産のオファニムですよね!」
アニスの機体を指さして瞳を輝かせる少年。
まよいがコンテナから飛び降りると少年に並ぶ。
「詳しいのね、君」
「父も母もCAM乗りなので。この機体があるって事は、皆さんはハンターなのですね」
憧憬の眼差しをハンター達に向ける。少年にとって、ハンター達が持つ力は大きく映るようだ。
少年はマジマジとCAMに視線を向けながらも、急に何かを思い出した。
「あっと。このままじゃ、鳴月さんが迷子になったままだ。お邪魔しました」
通路を走り出した少年に鹿東は声を掛けた。
「君の名前を聞いていいかな?」
「ボクは星加孝純です。ハンターの皆さん、またどこかで!」
立ち去っていく少年の背中を見つめながらアニスが静かに言う。
「……そうか、あの子が籃奈の一人息子だったのか」
「通りで、面影が似ていると思いましたよ――良い子ですね」
見えなくなる前に少年が振り返り、控え目に手を振った。
アニスと鹿東が手を挙げて応え、まよいがブンブンと豪快に腕を振るう。
「またね~」
――と。
●
「そんな訳で、孝純君が迷子になっちゃたんだよ!」
唾を飛ばしながら力説する鳴月 牡丹(kz0180)に龍崎・カズマ(ka0178)は宥めるように適当に頷く。
状況を聞くに、迷子になったのは明らかに牡丹の方だろう。
「そもそも、どういうことだ……? なんで孝純君がこの船に居る?」
「えとね、なんでも強化人間の暴走の説得要員みたいで?」
「……そりゃ、どう考えても人質扱いだろ」
きな臭いと思ったら、やっぱりこれだ。しかも、牡丹が保護者じゃ保護者になってない。
今頃、保護者から離れた孝純君が警備員に追われてなければいいが……。
「そっか。だから、部屋から出る時は保護者付きでって」
「大丈夫なのか? 船を壊したりしないよな?」
カズマの心配にニヤっと牡丹は笑って顔を近づけさせる。
「何? 僕の事、心配なの?」
「変に絡まれたりしないか……な」
正直言うと、嫉妬雑じりの事なのだが、口にはしなかった。
「ふーん。まぁ、いいや。ほら、じゃ、孝純君探そう!」
嬉しそうな表情を浮かべ、牡丹はカズマの腕を取ったのであった。
ちなみに、孝純と合流できたのはそれから1時間は経過した後の事だった。
●
王都のハンターオフィス支部の一室でUisca Amhran(ka0754)と紡伎 希(kz0174)の二人が大量に積み上がった書物と格闘していた。
強化人間を元に戻す手段や契約者、堕落者の事を調べていたのだ。
「……リアルブルーで捕縛された強化人間達は月に送られているみたいですね」
「契約元を倒さずに基に戻す方法はないみたいけど、何か、月で行われてる?」
Uiscaの疑問に希は頷いた。
色々と調べたが分からない事だらけだった。ハンターですら自らの意思で覚醒者を辞めらないのだ。
「ノゾミちゃんは、イケメンさんの所にいた時も契約者って訳じゃなかったんだよね?」
「はい……ただ、万が一の時は、契約するという話はありました」
「そうなのね……そういえば、今、子イケ君は?」
希の告白に実は結構、際どかったのだろうと感じつつ、ある歪虚の動向を尋ねるUisca。
それに対し緑髪の少女はある図面を広げた。
「ある鍛冶師の方の協力を得て鞘を作っている最中です」
完成すれば“魔装の鞘”と言うべきか。
「これが完成したら……転移門はダメですが、もっと身近にいられます」
「楽しみね」
ニコリと笑ったUiscaに、希も満面の笑みを浮かべたのであった。
●
生命の強い息吹を感じさせる鮮やかな草や葉が、静かに抜けていく風に揺れて囁く。
そこに楽しそうな小鳥達の囀りが、合わさり――穏やかな、安らぎの時を奏でていた。
見上げれば大樹の枝や葉の間から、太陽の輝きが宝石のように煌めいている。
静かで、そして、懐かしい、平穏な時間。見上げれば、あの日々と変わらぬまま。
今も、心に在る夏の眩しい木洩れ陽が、優しく迎えてくれる。
「懐かしい……」
志鷹 都(ka1140)が志鷹 恭一(ka2487)に寄り掛かりながら呟いた。
ここで二人、本を読んだり、お昼寝したり、花を摘んだりして遊んだものだ。
「大切な場所だ」
恭一が懐かしそうにしている都の様子に安堵しながら言葉を返した。
数年振りに二人で訪れた故郷に在る野原であり、一本の樹木の木陰に、今は二人で腰を下ろしていた。
ここは二人の思い出が詰まった大切な場所でもある。
眼前には夏色一色の大地が続き、耳を澄ませば賑やかな自然の音が響く。
「毎日ここで恭をずっと待っていたけれど……恭は来なかった……」
それは昔の哀しく辛い記憶。
「……もう一人にしないでね」
草木の緑光が、太陽の温かい光が、都の胸に在る哀しみや苦しみを、優しく融かしてくれるようにと、彼は願った。
同時に寂しい想いをさせてしまっている事に申し訳ないと思うが――言葉にならない。
だから、風が駆け抜けた後に、恭一は寄り掛かる都の身体を、ゆっくりと抱き寄せた。
自分の職業柄、いつ命を落とすか判らないという現実過ぎる考えを飲み込む。そんな言葉を都は望んでいないだろう。
「……」
だから、都の手を取り、そこに自分の手を重ねながら、僅かに頷きながら呟き返す。
「……約束する」
それは空約束かもしれないし、言わしているだけかもしれない。
それでも、その一言で、どれだけ救われ、満たされるのか。この刻がどれだけ尊い事か。言葉には言い表せない。
今一度、都は緑の光を仰いだ。
もし、哀しく苦しい未来が訪れたとしても……綺麗な愛しいこの光だけは忘れたくない――と。
●
港街ガンナ・エントラータの路地を、縦長の盾を腕に装着した雪柳・深紅(ka1816)が駆ける。
目標は先程から素早く逃げ回る黒光りする昆虫のような雑魔だ。
「……まだ残っていたんだ」
鋭い踏み込みからの一撃で雑魔を退治したが、別の雑魔が排水管へと潜り込んだのが見えた。
深紅にとって、ハンターオフィスからの依頼を受ける日々は日常そのものだ。
だから、今日も戦う。討伐目標が雑魔でも強化人間でも変わらない。
生活していくのに困らない分、稼げればいい。その為には、依頼を達成させなければならない。
「通りに出そうだね」
チラチラと見える雑魔の影を追い掛け、深紅は路地から飛び出した。
「確かに……磯の香がしますね。これが潮風ですか」
ニーロートパラ(ka6990)が港から吹き込んでくる潮風を全身で受け止めていた。
彼の故郷には無いものらしく、暫し、潮風を堪能する……後で確りと潮風を浴びた髪を洗わないといけない事をきっと彼は知らないかもしれない。
「あれ? 騒ぎでしょうか?」
通りの方で悲鳴らしき声が聞こえた。
覚醒状態に入ると、ニーロートパラは魔導銃を構えて走り出す。
困っている人が居れば助ける。それが、彼にとっては普通で日常だからだ。
「雑魔ですか……速いですね」
通りに出現したのは黒光りする昆虫のような雑魔。
慌てる人々の間を我が物顔で動き回っている。それを追い掛けていると思われるハンターも見えた。
「それならば!」
体内のマテリアルを燃やし、敵をおびき寄せてからの銃撃。
銃弾が直撃すると同時に、雑魔の背後に迫った深紅が強烈な一撃を叩き込んで、雑魔は消滅していった。
「助太刀感謝だ」
深紅の言葉にニーロートパラが笑顔で返す。
「良かった。無事に倒せて。皆も無事のようだし」
世界に影響があるほど力は無いかもしれないが、それでも誰かを守れるだけで嬉しい事だ。
満足そうなニーロートパラの表情に、深紅は自分とは違う種類の者だなと思った。
違う種類だが、どこか同じ空気を感じる――互いに知る由はないが、遠い故郷から違う環境に来たという共通の境遇かもしれない。
「依頼頑張って下さい」
「あぁ。死なない程度に、かな」
丁寧な物腰のニーロートパラに深紅は手を挙げて答えたのであった。
●
ギラギラと陽射しが降り注ぐ中、真っ白な砂浜に時音 ざくろ(ka1250)ら一行が到着した。
一行以外に人の姿が見られないのは、ここが雑魔退治の場でもなければ、宝探しの秘境でもなく、ハンター達に提示されたプライベートビーチだからだ。
「着いた! 夏の海を堪能する大冒険だよ!」
爽やかな笑顔で振り返るざくろ。
黒いビキニスタイルの舞桜守 巴(ka0036)と、白いワンピース水着のアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)。そして、ビキニブラとデニムショートの白山 菊理(ka4305)の三人が、ざくろの宣言に力強く頷いた。
「巴もアデリシアも菊理も、みんな、水着良く似合ってるし、とっても! 綺麗だよ!」
嬉しいよと照れながら続けて言うざくろが一番可愛いかもしれないと、3人は思った。
白い短パンの水着姿なのだが、持ち前の華奢な身体と長い髪――申し合わせた訳でもないのに、巴とアデリシアの二人がざくろを両側から挟み込む。
「遠慮なく、くっついてしまいますかー」
「わりといつものように……といったところですか」
両腕から伝わる豊かな胸の感触に、ざくろは顔が真っ赤になる。
「はわわわわ…」
鼻血が出そうだから手で抑えたい所だが、両腕とも胸によって挟まれ身動きが取れない。
「ほら、遊んでないでオイルを塗ろう」
ざくろのいつもの反応に微笑みながら、菊理が日焼け止めのオイルをざくろに手渡す。
こうも陽射しが強いと日焼けしてしまうだろう。
「もしかして、ざくろが全員塗るの?」
「当然ですわ。まぁ、私が塗ってもいいけど」
そう言いながらも巴が先に身体を横にした。女の子に塗るのも好きだが、やっぱり、先にざくろに塗って欲しい所だ。
胸元のビキニを自分で引っ張る――胸の全容が見えそうで見えないのが逆にエロい。
「それでは私もお願いします」
サッと横に寝転ぶアデリシア。
柔らかそうなお尻がプリっと見える。
「塗るなら日焼けする前に、なるべく早い方がいいだろう」
二人に並ぶように菊理も横になった。
くびれが美しいラインを描く。
美女3人が寝転びながら挑発的な視線を向けてくる光景だけで十分過ぎる程の攻撃力だ。
思わず前屈みになりながら、ざくろは両手にオイルを付けると、寝転ぶ菊理の背中に触れた。
「は、んっ! く、くすぐったいぞ」
「あ。ごめん。て、手が凄い勢いで滑って……」
わざとやっている訳ではないのにざくろの手はダイレクトに菊理の胸を掴んでいた。
ラキスケの神が早速、降臨したようだ。
オイルを塗り終わり、バレーをして遊んだ後、ざくろ達はスイカ割を始めた。
「目隠しが窮屈な気がするけど……」
当然のようにざくろがバットを持つ。
「気のせいですわ」
「ちゃんと狙ってですの」
アデリシアと巴の言葉を聞きながら、ざくろは神経を集中する。
大丈夫。視界が見えなくなった程度だと自分に言い聞かせた。戦場では時に視界に頼れない時もある。ざくろは自身の勘を信じて一歩踏み出した。
「えと……真っ直ぐかな」
砂の感触を確かめながら慎重に進む彼に3人の声援が飛ぶ。
「右ですの」
「もうちょっと右ですよ」
「いや、行きすぎだ。左」
誰か一人、明らか違う事を告げたおかげで、ざくろは完全にスイカを見失ったようだ。
進むうちに、砂に足を取られ、盛大に転ぶざくろ。
まぁ、彼が目隠しした時点で確実にらきすけ案件なのは言うまでもなかった事だろうが。
「まだ日が出ているのですわ」
「もう、しょうがないですね」
巴とアデリシアの二人に覆いかぶさるようにざくろが飛んだ。
そして、当然のように、彼の両腕はそれぞれの柔らかい頂きを確りと握っていたのであった。
その後、海水浴を堪能し、日もそろそろ陰ってきた。
夕立が降りそうな曇り空にもなってきて風も吹いてきたので、少し肌寒い。
ざくろは3人をまとめてギュっと引き寄せる。
「ほら、こうしたら暖かいし」
そして、しばし3人を引き寄せたままジッと体温を感じてから、照れながら小さく「愛してる」と告げるざくろ。
その仕草にアデリシアが腕をざくろの身体に回す。
「身体が冷えてきたら、どこかで温まるのもいいでしょうか」
「流石に、夕方ともなれば少し肌寒いか」
菊理もピトっと、身体をくっ付けた。
そんな状態で、ざくろが赤く染まった顔で言った。
「ねぇ、この後、どうして欲しい? どこかって?」
「どこかがどこですかって? それはもう……決まっているじゃないですか」
意地悪そうに耳元で告げるアデリシア。
あたふたとざくろの心の様相を表現している彼の腕を掴む巴。
「わかりきった事を聞くのは野暮ですわよ? イチャイチャはまだまだ続くのです」
そして、ざくろは温泉が出るという岩陰へと、3人の美女に連れていかれるのであった。
●
相変わらずお堅い門番にアポイントをちゃんと取った事を告げ、場内に通されたアルマ・A・エインズワース(ka4901)と和住晶波(ka7184)の二人は、ある一室に案内された。
「紫草さーんっ!」
部屋の中で待っていた紫草にいつものように突撃するアルマ。
紫草は微笑を浮かべながら受け止める。これも見慣れた光景だ。
「この人があの大将軍……」
晶波が驚きのあまり言葉を失っていた。
目の前に居るのは、東方最強の侍であり、東方を実質的に収める幕府の頂点に立つ者だ。
そんな凄い人物に親し気に飛び込んでいくアルマの行動にも驚きだが。
紫草は冷静に飛び込んできた犬系ハンターの頭を撫でる。
「お元気そうですね、アルマ……そちらの方はお友達ですか?」
わふわふを堪能しながら、アルマはちょっとだけ頭を振り返った。
「わぅ? 僕のうさちゃんです。紫草さんに会ってみたいって言うので!」
「和住晶波と申しやす。もし、よければ俺……ぼ、僕とも、仲ようしてもらえたら嬉しいです」
「えぇ、こちらこそ、よろしくお願いします」
ニッコリと笑った紫草に晶波はホッとした。
無礼な対応をして気分を害するのではないかと思ったのもある。
「アルマ……のお友達ですから、やはり、そのまま名前で呼んだ方がいいのでしょうか?」
「え? いや、僕は――」
普通に呼んで貰って大丈夫ですという言葉はアルマに遮られた。
「僕のうさちゃんなので、うさちゃんが良いです!」
「分かりました。うさちゃんですね」
そんな流れになってしまった以上、これは仕方ない。
晶波は話題を変える事にした。
「お怪我の方は大丈夫……のようですね」
「えぇ、アルマのおかげですよ」
「……でも、紫草さん、不調があったらすぐに言うです。ちょっとでもです! 紫草さん大事で、すきーですから!」
鋭い嗅覚を持っているかのようなアルマの反応に紫草は思わず苦笑を浮かべた。
体調が万全では無いのは――やっぱり黙っておこうと思う。
「ところで、拠点について話とは?」
憤怒が築いた拠点の汚染についてだ。アルマには思う事があったようだ。
「わぅ。きっと、地面のずっと下に何かあるです。たくさん浄化……」
話を続けようとしたその時、突如、場内が慌ただしくなった。
窓の外を確認した晶波は“異変”に指を差した。
「あれは……噴煙?」
程なく、火急の知らせと入ってきた紫草の側近から、憤怒拠点が噴火したと告げられたのであった。
ハンター達はそれぞれの場所で一日を過ごした……そんな中、龍尾城に驚くべき報告が入る。
それは、憤怒歪虚が構築した拠点から負のマテリアルで汚染されたマグマが噴出したという事であった。
おしまい。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 17人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/20 23:28:39 |
|
![]() |
【質問卓】だよ! 鳴月 牡丹(kz0180) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/08/20 23:11:45 |