ゲスト
(ka0000)
【王国始動】未来の英雄達、その回顧録
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/23 22:00
- 完成日
- 2014/06/26 21:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
『賢明なる読者諸君には既知の事柄に過ぎるため、是より先は全て、自己満足の為の駄文に過ぎぬ。
しばしお付き合い願いたい。
グラムヘイズ王国で、庶民の娯楽として広く愛されているものを一つ挙げるとなると……さて、何を挙げるだろうか。
ある者は、劇場での観劇というかもしれない。またある者は、酒場で耳にする吟遊詩人の詩歌というかもしれない。
文化を愛する心。嗚呼、素晴らしい事だ。文化的素養は人生を豊かにする。
さて。賢明なる読者諸君。あなた方なら、きっとこういうことだろう。
たとえどれだけ下劣でも、どれだけ愚昧でも、どれだけ低俗でも、どれだけ醜穢でも、どれだけ猥雑だとしても。
ヘルメス情報局の『号外』こそが我々の娯楽だ、と。
――勿論、我々の記事が斯様に下劣で愚昧で低俗で醜穢で猥雑であるというのは仮定に過ぎない事もまた、賢明なる読者諸君ならご理解いただける事と思う』
●
昨今、サルヴァトーレ・ロッソなる紅い方舟の出現に呼応するように登録されたハンターの数が激増している。
覚醒者とは、何か。
覚醒者とは一定量以上のマテリアルを保有し、それを任意で行使出来る者を指す。
通常であれば、素養のあるものが覚醒者の高み――それすらも常人には計り知れない程の高みなのだ――に至るためには、筆舌に尽くし難い修練を要する。
そのため、現在は精霊との契約により、短期間で覚醒者に至る方法論が採択されている。
人の身で、精霊に触れる。
――そのことが何を意味するかは、触れた者にしか分かるまい。
読者諸君の中には、その邂逅について既に聞いたことがある者もいるかもしれない。筆者もその一人だ。
「もう一人の自分が、語りかけてきた」
そんな話を耳にした事がある。
今回、当情報局では精霊との接触――即ち契約について取材し、記事にした。
極めて個人的な内容も含まれるため、取材を快く受けてくれたハンター達に敬意を表するためにも、匿名性の高い記事になっている。
それでも、読者諸君らの知的好奇心をくすぐるに違いない。
何より――この世界の守護者であり、反抗の象徴である覚醒者達の物語だ。
未来の英雄達の、始まりの物語。
心行くままにに、お楽しみあれ。
『賢明なる読者諸君には既知の事柄に過ぎるため、是より先は全て、自己満足の為の駄文に過ぎぬ。
しばしお付き合い願いたい。
グラムヘイズ王国で、庶民の娯楽として広く愛されているものを一つ挙げるとなると……さて、何を挙げるだろうか。
ある者は、劇場での観劇というかもしれない。またある者は、酒場で耳にする吟遊詩人の詩歌というかもしれない。
文化を愛する心。嗚呼、素晴らしい事だ。文化的素養は人生を豊かにする。
さて。賢明なる読者諸君。あなた方なら、きっとこういうことだろう。
たとえどれだけ下劣でも、どれだけ愚昧でも、どれだけ低俗でも、どれだけ醜穢でも、どれだけ猥雑だとしても。
ヘルメス情報局の『号外』こそが我々の娯楽だ、と。
――勿論、我々の記事が斯様に下劣で愚昧で低俗で醜穢で猥雑であるというのは仮定に過ぎない事もまた、賢明なる読者諸君ならご理解いただける事と思う』
●
昨今、サルヴァトーレ・ロッソなる紅い方舟の出現に呼応するように登録されたハンターの数が激増している。
覚醒者とは、何か。
覚醒者とは一定量以上のマテリアルを保有し、それを任意で行使出来る者を指す。
通常であれば、素養のあるものが覚醒者の高み――それすらも常人には計り知れない程の高みなのだ――に至るためには、筆舌に尽くし難い修練を要する。
そのため、現在は精霊との契約により、短期間で覚醒者に至る方法論が採択されている。
人の身で、精霊に触れる。
――そのことが何を意味するかは、触れた者にしか分かるまい。
読者諸君の中には、その邂逅について既に聞いたことがある者もいるかもしれない。筆者もその一人だ。
「もう一人の自分が、語りかけてきた」
そんな話を耳にした事がある。
今回、当情報局では精霊との接触――即ち契約について取材し、記事にした。
極めて個人的な内容も含まれるため、取材を快く受けてくれたハンター達に敬意を表するためにも、匿名性の高い記事になっている。
それでも、読者諸君らの知的好奇心をくすぐるに違いない。
何より――この世界の守護者であり、反抗の象徴である覚醒者達の物語だ。
未来の英雄達の、始まりの物語。
心行くままにに、お楽しみあれ。
リプレイ本文
●リーリア・バックフィード(ka0873)
挨拶と共に紅茶が差し出された。
まさか、話を聞きに行った筈の筆者が歓待されるとは思わなかった。
紅茶の礼に、彼女の事を最初に紹介したい。
誉れ高き魔道の名家に生まれた彼女は、その生まれと生き方に矜持を抱いていた。
――その彼女が家を出る事になった。
「刻みましょう。私が駆けた道筋を」
彼女の契約の物語は、そこから始まる。
―・―
生家を出て間もない頃の事でした。
それまで目指していたものを諦めることになり、自由と引き換えに、目的を失ってしまっていた頃。
広大な世界に、それまでの矜持を、見失ってしまっていたのです。
その日。
数多の生命が奪われようとしている。
そのような状況を、目にする機会を得ました。
――ノーブルたらんことを、示す。
忘れかけていた誇りが、衝動となって私を突き動かすのを感じる反面で、
魔道を修めんとしていた私には、解決の術はありませんでした。
『それでも時は無情に進み、決断を迫る』
そういう状況で私は――契約に、臨みました。
―・―
「力に溺れず、義を信じて邁進致しましょう。如何なる絶望も、駆け抜け越えます」
少女の言葉には、誇りに裏打ちされた鋼の如き精神性が滲んでいた。
貴族よりもなお、貴族らしく。
理想主義的ではあるが、その施しの精神については疑念を挟む余地はない。
何故なら。
少女は、それまでの生を犠牲にしてでも、理想を、矜持を叶えんと行動した。
……少女はきっと、犠牲になどしていない、と笑うだろうが。
―・―
状況には、何よりも速度が求められていました。
それがなければ、救えない。
だから私は、契約の場で――疾影士になることを希求しました。
救うために、十全に気配を消す必要がありました。
救うために、十分な速度で往く必要がありました。
願いを持って、精霊と相対し……結果として、私は望んだものを手に入れる事が出来ました。
隠密の技も。速度も。救うべき、生命も。
―・―
「当時を振り返ると能力を過信した行動でしたね」
と、悔いや憂いなど見せず、少女は微笑んで言った。
これは、私の想像だが。
契約の時。精霊もきっと、少女に対して微笑み掛けていたのだろう。
かつて、少女は道に迷っていた。
今、契約を経て、少女は其の足で、駆ける事ができている。
その疾さに救われているのは、守るべき民だけではないのかもしれない。
●エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)
彼女の言葉に音は無い。それでも、彼女は雄弁だった。
笑顔に次いでそっと手を差し出した彼女は小首を傾げた。
『いくら出すの?』
不思議と彼女が伝えたい事が解った。
そうして彼女は一枚の絵を描いた。黒々と、硬質な鱗を持った蛇。瞳は虹色に輝いている。
―・―
黒は色彩の女王。虹色には全ての色が篭められている。
私は全てを宿した蛇と見つめ合ってた。
音はない。見つめ合い――見透かされている感じ。
あの蛇、笑っていたの。
蛇に表情があるのかは、知らないけど……優しくなんてなかった。
きっと私を嘲笑っていた。
蛇は笑ったまま、林檎を食べろって勧めたの。
それを食べたらどうなるんだろう、とか思う前に、手を伸ばしていた。
――もしかしたら、って。期待もあったかもしれない。
―・―
『それを食べたら、覚醒しちゃった!』
と、手を広げて『言う』彼女は、言葉が喋れない。生まれつきではないそうだ。柔らかい文字でそう教えてくれた。
その過去が彼女と精霊との契約の鍵であったことを、筆者は後に知ったのだが――。
筆者の物言いたげな視線に、気づいたのだろう。
彼女はじっと、深い紅色の目で筆者を見つめ返した。
蛇の瞳もこんな感じだったのかな、と。そんな事を思わせる瞳だった。
暫くの間、獲物にでもなった気分を味わっていると彼女は嘆息し、おもむろに続きを語り始めた……。
―・―
あの精霊――蛇とは、再会だったの。
初めて会ったのはもう少し前。
その時。傍らには父がいたの。もう、動かなくなった父。
……私も、同じようなものだった。
痛くて、苦しくて。声も、出せなくなって。
絶望の底の底で真っ黒に塗りつぶされて、何もかもがわからなくなってた。
でも。手が届く所に、父がいたの。
だから、こう願った。
『生きたい』って。
その時。
あの蛇が、現れたの。音もなく。虹色の瞳で私を見つめて。
多分、笑っていたのね。
そして、あの蛇は私の喉に――。
―・―
その日、彼女は声を無くした。
彼女は、凝った澱を吐き出すように、深く息を吐いた。
彼女なりに、誠意を見せてくれたのだろう。
彼女にとっての契約の意味を、教えてくれたのだから。
「恨んでいないのか」
とは、聞けなかった。代わりに――彼女に食事をご馳走するのは王国紳士として当然の振る舞いだったのだ、と。
一応弁明をしておこう。
●八剣 ノブ(ka0258)
少年と呼ぶべきか。青年と呼ぶべきか。筆者には判断が付かなかった。
だから便宜上、彼とだけ呼ぶことにする。
彼は、リアルブルーの住人だった。
此方の言葉は届く。彼方の言葉も響く。
どこかがチグハグな彼は、筆者の取材にどこか怯えながら語り始めた。
―・―
ガイダンスを受けた時、随分簡単なんだなーって思った。
そしてそのまま、契約に臨んだんだ。
でも、何も起きなかった。
選択肢を間違えたかな。それともバグった?
何も起こらないことに、拍子抜けをしていた。
突然だ。
目眩がした。世界が廻って、立っていられなくて。
膝をついて、目眩が収まるのを待つしかなかった。
漸く目眩が収まったと思ったら……眼の前に、それがいた。
ボクはそれが何かは分からなかった。でも。
――凄く、懐かしかった。
今でこそそれがヴォイドだったんだって解るけど、その時はとにかくそいつが気持ち悪くて、怖くて。
逃げようとしたんだ。当然だよね。
14歳のボクに、抗えるわけ、ないし。
そしたらさ。
声が、したんだ。
『――おいおい、こんな楽しいゲームから逃げようってのか?』
って。
―・―
『ボク、IDによると、元軍人らしいんだよね』と彼は言った。
らしい、というのは、彼が記憶を無くしているからだ。
今の彼は14歳の少年で。それまでの記憶しかない。
世界の狭間に落ちた記憶。
彼は精霊を縁に、そこに手を伸ばしたようだった。
―・―
じわじわと、胸の底から何かが衝き上げてきた。
そいつが何かは解らないままだったけど、気づけばそいつを斬ることばかり考えるようになった。
どこを斬って。どうやって勝つか、って。
そしたら笑い出したくなるくらいに楽しくなって。刀、持ってたし、そのままボクは、そいつに斬りかかってた。
衝動に身を任せるのは気持良くて。凄く、身体に馴染んでさ。
その時、思い出したんだ。
未来のボクは、戦いこそが最高のゲームだと感じていたんだ、って。
現在のボクも、同感だった。
だから――その時初めて、力を望んだ。
―・―
14歳の彼は、戦いを求めてハンターになった。
『闘い続ける』ために力が欲しいと願い、契約を成し遂げたのだそうだ。
その話を聞いて初めて、彼に感じた違和感の正体が解った。
無垢なる混沌。
分たれていた筈のものが、歪に繋ぎ合わされている彼は、もう。
14歳の少年でも、元軍人の青年でもなくなっているのだろう。
●天央 観智(ka0896)
深淵を望むものに碌な者はいないと筆者は思う。
筆者が世俗的に過ぎるからだろうか。
兎に角彼らは純粋だ。突き詰めれば突き詰める程に飯の種から遠ざかるにも関わらず、深みへと突き進む。
世界のほんの突端を拓いてはまた深く。
最終的に彼らは誰よりも深い場所で笑いながら息を吐く。まだまだ世界は深そうだ、と。
其の点で言えば、かの青年は立派な深淵予備軍であった。
転移者である彼は、かつて学者の卵――を目指していたそうだ。
今は、魔術の理を深めんとしているらしい。世界を越えてまで世界を理解しようとするのだから筋金入りだ。
青年は几帳面にも、持参したメモを片手に契約の場面について語ってくれた。
―・―
精霊に触れるということを考察しなかったわけではありません。
ただ、実践してみないことには解らない事もあった、というわけですね。
契約の場で、これから起こる事について想いを馳せながら精霊に呼びかけました。
すると直ぐに、言葉が何処かに吸い込まれていくような感覚を覚えたのです。
――まるで、世界を認識できなくなったような。
音が消えて行き、光が消えていき、自分自身が、消えていく。
でも、それは勘違いだと気づきました。
知識の泉、とでも、いうべきでしょうか。
次から次へと知識が溢れてきて、僕自身は溢れてくる知識を理解出来ずに溺れていただけ――でした。
―・―
「深淵を覗く者は、深淵にも覗かれている……という事だったのですかね」
青年は苦笑して、そう言った。
限りある身である人ならば、それを自覚した所で身を引くべきなのだろう。
青年は、そうしなかった。
―・―
溢れる知識の中で僕は、とにかく手を伸ばそうとしました。
そこに在る深淵……理の深淵を、掴もうと。
奔流の中で、動かない身体で、右も左も解らないまま、それを望みました。
望まなくては、伸ばさなくては、喪ってしまう。
そう思ったから。
……何も、掴めませんでしたけどね。
でも――確かに、この手を掠めた。そう感じました。
この世にも、深淵はあると。そう解っただけでも、あの契約には大きな意味があったと思います。
―・―
「またお話をしたい、いえ……訊きたい、ですね」
そういう青年は、囚われているのかもしれない。
目の前に渇望するものを吊るされたのだ。宜なるかな。
――精霊の罪深さを感じた体験談であった。
●春日 啓一(ka1621)
正直な所、その少年が今回の依頼を受けた事にまず驚愕した。
刃物のような目つき。飛びかかる寸前の獣のような気配。
武術一家の出というから頷けはしたものの、対面にいるだけで文系の筆者は緊張を強いられていた。
だが。思いの外、彼は協力的だった。
――恐らく、深い後悔が胸の裡に沈み込んでいたから、なのだろう。
―・―
俺の叔父が、サルヴァトーレ・ロッソのクルーだった。
その誼で、あの船に乗っていたんだ。
世界の広さは知っていた。だから、世界を見て聞いて。それらを吸収して、もっと強くなろうと思ってた。
それが、間違いだったわけじゃない。異世界にだって、辿り着いてしまうんだからな。
……ただ、世界は俺が思う以上に残酷で、恐ろしいものだったよ。
こっちに、転移してきた時の事だ。
事件を乗り越えて……あん時はそう思っていただけだが、知らない世界に辿り着いて。浮ついていたのかもしれないな。
叔父が、安全確認に行く、と言い出した。それがクルーの義務だって。
勿論、ついて行ったよ。
それこそが、間違いだったのかもしれない。
―・―
少年は、終止沈鬱な表情を崩さなかった。
取り返しのつかない間違いを犯した、という。
恐らく――少年はそれ故に、契約に至ったのだろう。
私見だが。精霊は、激情を好むようであるから。
―・―
叔父が覆いかぶさってきた、と。
気づいた時には、叔父はもう――死んでいた。
一瞬だった。俺を庇って、叔父は死んだ。
人間の命ってのはこれ程あっけないのかと思うくらいの死に様だった。
物陰に潜んでいた歪虚が、下手人だった。
理由が判ると、怒りと憎しみが、後悔となって身を灼いた。
いつもの様に周囲を見るのをちゃんとやっていたら。
もっと警戒を、蔑ろにしないでちゃんとしていたら。
強くなる事を求めて艦に乗ったはずだった。
なのに教え込まれた基本一つ守れなかった己の甘さに、焼け狂いそうだった。
そんな時。
声が、聞こえたんだ。
『その怒りと憎しみ、ぶつけるだけの力が欲しいか』
ってな。
勿論、答えたさ。
「今すぐよこしやがれ!』、と。
―・―
激憤をぶつけようにも少年には歪虚に勝てる道理などない。
その無理を通したのが、精霊との契約だった。
「……案外、精霊の面は、死んだ叔父かもな」
仇をとった、と拳を握りながら語った少年の顔は、終止晴れないままだった。
●一文字 花蘭(ka1912)
最後の一人は老齢の女性だ。歳にして70を数える、と老女は名乗った。
異世界からやってきた老女である。
……老女の話は長かった。
それは、どの世界でも変わらぬ真実なのかもしれないのだが……読者諸君には是が非でも留意頂きたいため、字数を割かせて頂く。
とまれ、老女は年齢を感じさせぬ凛とした佇まいを崩さなかった。
そんな老女から、弓を嗜むと聞いて、合点が言った。
彼女の佇まいは弓弦に似ていたからだ。
―・―
精霊と、契約した時の時の話だったね。
その為に、故郷の話をしておこうか。
あちらの世界にも、此処に劣らぬ素晴らしい木々や森があってねぇ。
此方の森とは、どこか空気が違う場所さ。
不意に、ね。そこに還った心地がしたんだ。
森を、実際に見たわけじゃないよ。
ただ、感じたんだ。
大樹に包み込まれているようだった。
暖かくてね。葉擦れの音。風の音。木漏れ日と、影。大樹の中を巡る、水の気配。
実際に何かを言われたわけではないけど、ね。
諭され赦されている気分になった。
―・―
何を諭され。何を許されたのか。
筆者が尋ねても、「女の秘密だよ」とやんわりとかわされた。
その言葉で、この老女は新たな生を謳歌しているのだと知れたが。
「まだまだ私にはやれることがある。若手達に活を、身近な位置から入れてやらねば、と。そんな気持ちになってね」
生を捨てるものではないと。そう思うようになったのだという。
――ならば、それ以前はどうだったのだろうと。筆者は想いを馳せた。
この老女が、その生き方を見つめていない状況というのだから……つまりは、そういうことだったのだろう。
―・―
ハンターになると決めて。それなら、と弓を取ったのさ。
前に立つのは難しいし、銃は好きではなかった。
もちろん、弓が違えば作法も違う。それでも、弓を張る時の姿勢は好きだったからね。
――慣れた弓じゃなくても。弓を持つと、心が澄む。
そうなると、木々の香りを感じるのさ。故郷の、木々の香りをね。
ああ、そう言えば昔ね……(割愛)
―・―
老女は、極めて前向きに生きる事と向き合っているようだった。
この後筆者は5時間ほど老女の話を聞いていたのだが、想い出が山程ある事だけは痛いほどに分かった。
その想い出と暮らしていく事を良しとしない。
射られた矢は、前にしか進まない。そんなことをふと思った。
挨拶と共に紅茶が差し出された。
まさか、話を聞きに行った筈の筆者が歓待されるとは思わなかった。
紅茶の礼に、彼女の事を最初に紹介したい。
誉れ高き魔道の名家に生まれた彼女は、その生まれと生き方に矜持を抱いていた。
――その彼女が家を出る事になった。
「刻みましょう。私が駆けた道筋を」
彼女の契約の物語は、そこから始まる。
―・―
生家を出て間もない頃の事でした。
それまで目指していたものを諦めることになり、自由と引き換えに、目的を失ってしまっていた頃。
広大な世界に、それまでの矜持を、見失ってしまっていたのです。
その日。
数多の生命が奪われようとしている。
そのような状況を、目にする機会を得ました。
――ノーブルたらんことを、示す。
忘れかけていた誇りが、衝動となって私を突き動かすのを感じる反面で、
魔道を修めんとしていた私には、解決の術はありませんでした。
『それでも時は無情に進み、決断を迫る』
そういう状況で私は――契約に、臨みました。
―・―
「力に溺れず、義を信じて邁進致しましょう。如何なる絶望も、駆け抜け越えます」
少女の言葉には、誇りに裏打ちされた鋼の如き精神性が滲んでいた。
貴族よりもなお、貴族らしく。
理想主義的ではあるが、その施しの精神については疑念を挟む余地はない。
何故なら。
少女は、それまでの生を犠牲にしてでも、理想を、矜持を叶えんと行動した。
……少女はきっと、犠牲になどしていない、と笑うだろうが。
―・―
状況には、何よりも速度が求められていました。
それがなければ、救えない。
だから私は、契約の場で――疾影士になることを希求しました。
救うために、十全に気配を消す必要がありました。
救うために、十分な速度で往く必要がありました。
願いを持って、精霊と相対し……結果として、私は望んだものを手に入れる事が出来ました。
隠密の技も。速度も。救うべき、生命も。
―・―
「当時を振り返ると能力を過信した行動でしたね」
と、悔いや憂いなど見せず、少女は微笑んで言った。
これは、私の想像だが。
契約の時。精霊もきっと、少女に対して微笑み掛けていたのだろう。
かつて、少女は道に迷っていた。
今、契約を経て、少女は其の足で、駆ける事ができている。
その疾さに救われているのは、守るべき民だけではないのかもしれない。
●エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)
彼女の言葉に音は無い。それでも、彼女は雄弁だった。
笑顔に次いでそっと手を差し出した彼女は小首を傾げた。
『いくら出すの?』
不思議と彼女が伝えたい事が解った。
そうして彼女は一枚の絵を描いた。黒々と、硬質な鱗を持った蛇。瞳は虹色に輝いている。
―・―
黒は色彩の女王。虹色には全ての色が篭められている。
私は全てを宿した蛇と見つめ合ってた。
音はない。見つめ合い――見透かされている感じ。
あの蛇、笑っていたの。
蛇に表情があるのかは、知らないけど……優しくなんてなかった。
きっと私を嘲笑っていた。
蛇は笑ったまま、林檎を食べろって勧めたの。
それを食べたらどうなるんだろう、とか思う前に、手を伸ばしていた。
――もしかしたら、って。期待もあったかもしれない。
―・―
『それを食べたら、覚醒しちゃった!』
と、手を広げて『言う』彼女は、言葉が喋れない。生まれつきではないそうだ。柔らかい文字でそう教えてくれた。
その過去が彼女と精霊との契約の鍵であったことを、筆者は後に知ったのだが――。
筆者の物言いたげな視線に、気づいたのだろう。
彼女はじっと、深い紅色の目で筆者を見つめ返した。
蛇の瞳もこんな感じだったのかな、と。そんな事を思わせる瞳だった。
暫くの間、獲物にでもなった気分を味わっていると彼女は嘆息し、おもむろに続きを語り始めた……。
―・―
あの精霊――蛇とは、再会だったの。
初めて会ったのはもう少し前。
その時。傍らには父がいたの。もう、動かなくなった父。
……私も、同じようなものだった。
痛くて、苦しくて。声も、出せなくなって。
絶望の底の底で真っ黒に塗りつぶされて、何もかもがわからなくなってた。
でも。手が届く所に、父がいたの。
だから、こう願った。
『生きたい』って。
その時。
あの蛇が、現れたの。音もなく。虹色の瞳で私を見つめて。
多分、笑っていたのね。
そして、あの蛇は私の喉に――。
―・―
その日、彼女は声を無くした。
彼女は、凝った澱を吐き出すように、深く息を吐いた。
彼女なりに、誠意を見せてくれたのだろう。
彼女にとっての契約の意味を、教えてくれたのだから。
「恨んでいないのか」
とは、聞けなかった。代わりに――彼女に食事をご馳走するのは王国紳士として当然の振る舞いだったのだ、と。
一応弁明をしておこう。
●八剣 ノブ(ka0258)
少年と呼ぶべきか。青年と呼ぶべきか。筆者には判断が付かなかった。
だから便宜上、彼とだけ呼ぶことにする。
彼は、リアルブルーの住人だった。
此方の言葉は届く。彼方の言葉も響く。
どこかがチグハグな彼は、筆者の取材にどこか怯えながら語り始めた。
―・―
ガイダンスを受けた時、随分簡単なんだなーって思った。
そしてそのまま、契約に臨んだんだ。
でも、何も起きなかった。
選択肢を間違えたかな。それともバグった?
何も起こらないことに、拍子抜けをしていた。
突然だ。
目眩がした。世界が廻って、立っていられなくて。
膝をついて、目眩が収まるのを待つしかなかった。
漸く目眩が収まったと思ったら……眼の前に、それがいた。
ボクはそれが何かは分からなかった。でも。
――凄く、懐かしかった。
今でこそそれがヴォイドだったんだって解るけど、その時はとにかくそいつが気持ち悪くて、怖くて。
逃げようとしたんだ。当然だよね。
14歳のボクに、抗えるわけ、ないし。
そしたらさ。
声が、したんだ。
『――おいおい、こんな楽しいゲームから逃げようってのか?』
って。
―・―
『ボク、IDによると、元軍人らしいんだよね』と彼は言った。
らしい、というのは、彼が記憶を無くしているからだ。
今の彼は14歳の少年で。それまでの記憶しかない。
世界の狭間に落ちた記憶。
彼は精霊を縁に、そこに手を伸ばしたようだった。
―・―
じわじわと、胸の底から何かが衝き上げてきた。
そいつが何かは解らないままだったけど、気づけばそいつを斬ることばかり考えるようになった。
どこを斬って。どうやって勝つか、って。
そしたら笑い出したくなるくらいに楽しくなって。刀、持ってたし、そのままボクは、そいつに斬りかかってた。
衝動に身を任せるのは気持良くて。凄く、身体に馴染んでさ。
その時、思い出したんだ。
未来のボクは、戦いこそが最高のゲームだと感じていたんだ、って。
現在のボクも、同感だった。
だから――その時初めて、力を望んだ。
―・―
14歳の彼は、戦いを求めてハンターになった。
『闘い続ける』ために力が欲しいと願い、契約を成し遂げたのだそうだ。
その話を聞いて初めて、彼に感じた違和感の正体が解った。
無垢なる混沌。
分たれていた筈のものが、歪に繋ぎ合わされている彼は、もう。
14歳の少年でも、元軍人の青年でもなくなっているのだろう。
●天央 観智(ka0896)
深淵を望むものに碌な者はいないと筆者は思う。
筆者が世俗的に過ぎるからだろうか。
兎に角彼らは純粋だ。突き詰めれば突き詰める程に飯の種から遠ざかるにも関わらず、深みへと突き進む。
世界のほんの突端を拓いてはまた深く。
最終的に彼らは誰よりも深い場所で笑いながら息を吐く。まだまだ世界は深そうだ、と。
其の点で言えば、かの青年は立派な深淵予備軍であった。
転移者である彼は、かつて学者の卵――を目指していたそうだ。
今は、魔術の理を深めんとしているらしい。世界を越えてまで世界を理解しようとするのだから筋金入りだ。
青年は几帳面にも、持参したメモを片手に契約の場面について語ってくれた。
―・―
精霊に触れるということを考察しなかったわけではありません。
ただ、実践してみないことには解らない事もあった、というわけですね。
契約の場で、これから起こる事について想いを馳せながら精霊に呼びかけました。
すると直ぐに、言葉が何処かに吸い込まれていくような感覚を覚えたのです。
――まるで、世界を認識できなくなったような。
音が消えて行き、光が消えていき、自分自身が、消えていく。
でも、それは勘違いだと気づきました。
知識の泉、とでも、いうべきでしょうか。
次から次へと知識が溢れてきて、僕自身は溢れてくる知識を理解出来ずに溺れていただけ――でした。
―・―
「深淵を覗く者は、深淵にも覗かれている……という事だったのですかね」
青年は苦笑して、そう言った。
限りある身である人ならば、それを自覚した所で身を引くべきなのだろう。
青年は、そうしなかった。
―・―
溢れる知識の中で僕は、とにかく手を伸ばそうとしました。
そこに在る深淵……理の深淵を、掴もうと。
奔流の中で、動かない身体で、右も左も解らないまま、それを望みました。
望まなくては、伸ばさなくては、喪ってしまう。
そう思ったから。
……何も、掴めませんでしたけどね。
でも――確かに、この手を掠めた。そう感じました。
この世にも、深淵はあると。そう解っただけでも、あの契約には大きな意味があったと思います。
―・―
「またお話をしたい、いえ……訊きたい、ですね」
そういう青年は、囚われているのかもしれない。
目の前に渇望するものを吊るされたのだ。宜なるかな。
――精霊の罪深さを感じた体験談であった。
●春日 啓一(ka1621)
正直な所、その少年が今回の依頼を受けた事にまず驚愕した。
刃物のような目つき。飛びかかる寸前の獣のような気配。
武術一家の出というから頷けはしたものの、対面にいるだけで文系の筆者は緊張を強いられていた。
だが。思いの外、彼は協力的だった。
――恐らく、深い後悔が胸の裡に沈み込んでいたから、なのだろう。
―・―
俺の叔父が、サルヴァトーレ・ロッソのクルーだった。
その誼で、あの船に乗っていたんだ。
世界の広さは知っていた。だから、世界を見て聞いて。それらを吸収して、もっと強くなろうと思ってた。
それが、間違いだったわけじゃない。異世界にだって、辿り着いてしまうんだからな。
……ただ、世界は俺が思う以上に残酷で、恐ろしいものだったよ。
こっちに、転移してきた時の事だ。
事件を乗り越えて……あん時はそう思っていただけだが、知らない世界に辿り着いて。浮ついていたのかもしれないな。
叔父が、安全確認に行く、と言い出した。それがクルーの義務だって。
勿論、ついて行ったよ。
それこそが、間違いだったのかもしれない。
―・―
少年は、終止沈鬱な表情を崩さなかった。
取り返しのつかない間違いを犯した、という。
恐らく――少年はそれ故に、契約に至ったのだろう。
私見だが。精霊は、激情を好むようであるから。
―・―
叔父が覆いかぶさってきた、と。
気づいた時には、叔父はもう――死んでいた。
一瞬だった。俺を庇って、叔父は死んだ。
人間の命ってのはこれ程あっけないのかと思うくらいの死に様だった。
物陰に潜んでいた歪虚が、下手人だった。
理由が判ると、怒りと憎しみが、後悔となって身を灼いた。
いつもの様に周囲を見るのをちゃんとやっていたら。
もっと警戒を、蔑ろにしないでちゃんとしていたら。
強くなる事を求めて艦に乗ったはずだった。
なのに教え込まれた基本一つ守れなかった己の甘さに、焼け狂いそうだった。
そんな時。
声が、聞こえたんだ。
『その怒りと憎しみ、ぶつけるだけの力が欲しいか』
ってな。
勿論、答えたさ。
「今すぐよこしやがれ!』、と。
―・―
激憤をぶつけようにも少年には歪虚に勝てる道理などない。
その無理を通したのが、精霊との契約だった。
「……案外、精霊の面は、死んだ叔父かもな」
仇をとった、と拳を握りながら語った少年の顔は、終止晴れないままだった。
●一文字 花蘭(ka1912)
最後の一人は老齢の女性だ。歳にして70を数える、と老女は名乗った。
異世界からやってきた老女である。
……老女の話は長かった。
それは、どの世界でも変わらぬ真実なのかもしれないのだが……読者諸君には是が非でも留意頂きたいため、字数を割かせて頂く。
とまれ、老女は年齢を感じさせぬ凛とした佇まいを崩さなかった。
そんな老女から、弓を嗜むと聞いて、合点が言った。
彼女の佇まいは弓弦に似ていたからだ。
―・―
精霊と、契約した時の時の話だったね。
その為に、故郷の話をしておこうか。
あちらの世界にも、此処に劣らぬ素晴らしい木々や森があってねぇ。
此方の森とは、どこか空気が違う場所さ。
不意に、ね。そこに還った心地がしたんだ。
森を、実際に見たわけじゃないよ。
ただ、感じたんだ。
大樹に包み込まれているようだった。
暖かくてね。葉擦れの音。風の音。木漏れ日と、影。大樹の中を巡る、水の気配。
実際に何かを言われたわけではないけど、ね。
諭され赦されている気分になった。
―・―
何を諭され。何を許されたのか。
筆者が尋ねても、「女の秘密だよ」とやんわりとかわされた。
その言葉で、この老女は新たな生を謳歌しているのだと知れたが。
「まだまだ私にはやれることがある。若手達に活を、身近な位置から入れてやらねば、と。そんな気持ちになってね」
生を捨てるものではないと。そう思うようになったのだという。
――ならば、それ以前はどうだったのだろうと。筆者は想いを馳せた。
この老女が、その生き方を見つめていない状況というのだから……つまりは、そういうことだったのだろう。
―・―
ハンターになると決めて。それなら、と弓を取ったのさ。
前に立つのは難しいし、銃は好きではなかった。
もちろん、弓が違えば作法も違う。それでも、弓を張る時の姿勢は好きだったからね。
――慣れた弓じゃなくても。弓を持つと、心が澄む。
そうなると、木々の香りを感じるのさ。故郷の、木々の香りをね。
ああ、そう言えば昔ね……(割愛)
―・―
老女は、極めて前向きに生きる事と向き合っているようだった。
この後筆者は5時間ほど老女の話を聞いていたのだが、想い出が山程ある事だけは痛いほどに分かった。
その想い出と暮らしていく事を良しとしない。
射られた矢は、前にしか進まない。そんなことをふと思った。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/23 07:01:52 |