ゲスト
(ka0000)
【街コン】リゼリオ・アマチュア・ナイト!
マスター:cr

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/28 12:00
- 完成日
- 2015/01/09 16:33
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「なるほど、リアルブルーで行われている交流のためのイベントですか」
「それで俺たちにお鉢が回ってきたわけだ」
冒険都市リゼリオのとある酒場で3人の人間が話している。
一人は禿げ頭の中年男。
一人はヒゲ面の中年男。
そしてもう一人はショートカットの若い女。
禿げ頭の男の名はエチ ゴーヤ(kz0080)。この酒場の主である。
そして残りの二人はバロテッリとモア・プリマクラッセ(kz0066)、極彩色の街、ヴァリオスに店を構えるバロテッリ商会の主人と番頭である。
「まずは食事の用意ですね」
「大体100人か……用意するだけなら簡単だがバリエーションをどうするんだ?」
「旦那様、それならリアルブルーとクリムソンウェスト、それぞれの料理を半分ずつ用意しましょう」
ゴーヤが開こうとしているイベントはリアルブルーで「街コン」と呼ばれるもの。街全体を使い、参加者同士が食事をしながら会話を楽しみ、交流を図るというものである。
そして、参加者のための食事の用意などがバロテッリ商会に回って来たのだった。
●
「さて、準備はこれでいいか」
「いえ、旦那様。何か中心となるイベントが必要なようですよ」
モアはハンターオフィスの受付嬢も務めている。その際に得たリアルブルー知識を総動員し、必要なものの準備を始めていた。
そして参加者たちが一堂に会し、交流を促すきっかけとなる何かしらのイベント。それが必要なことを伝える。
「イベントか……歌や踊りでも披露すればいいんじゃないか? ほら、広場を舞台にすればいいさ」
「つってもこの時期は書き入れ時だぜ? 芸人連中はもう大体スケジュールが埋まっちまってる」
「それならば……」
男二人の会話にモアが口を挟んだ。
●
そして街コン当日。参加者たちには案内のパンフレットが配られる。
食事はピザやパスタなど、ヴァリオスで人気の高い料理と、おにぎりや天ぷらなどのリアルブルー料理。さらにジェオルジ自慢の「まめし」も提供され、各々好きなだけ食べて良いことになっている。
飲み物に関してもゴーヤが必要なだけ提供することになっている。
そしてパンフレットの真ん中にひときわ大きな文字でメインのイベントの内容が書かれていた。
「広場の舞台で皆さんを楽しませてくれる人募集! 内容は問わず、自慢の芸を披露してください! 好評を得た人には豪華賞品あり!」
「なるほど、リアルブルーで行われている交流のためのイベントですか」
「それで俺たちにお鉢が回ってきたわけだ」
冒険都市リゼリオのとある酒場で3人の人間が話している。
一人は禿げ頭の中年男。
一人はヒゲ面の中年男。
そしてもう一人はショートカットの若い女。
禿げ頭の男の名はエチ ゴーヤ(kz0080)。この酒場の主である。
そして残りの二人はバロテッリとモア・プリマクラッセ(kz0066)、極彩色の街、ヴァリオスに店を構えるバロテッリ商会の主人と番頭である。
「まずは食事の用意ですね」
「大体100人か……用意するだけなら簡単だがバリエーションをどうするんだ?」
「旦那様、それならリアルブルーとクリムソンウェスト、それぞれの料理を半分ずつ用意しましょう」
ゴーヤが開こうとしているイベントはリアルブルーで「街コン」と呼ばれるもの。街全体を使い、参加者同士が食事をしながら会話を楽しみ、交流を図るというものである。
そして、参加者のための食事の用意などがバロテッリ商会に回って来たのだった。
●
「さて、準備はこれでいいか」
「いえ、旦那様。何か中心となるイベントが必要なようですよ」
モアはハンターオフィスの受付嬢も務めている。その際に得たリアルブルー知識を総動員し、必要なものの準備を始めていた。
そして参加者たちが一堂に会し、交流を促すきっかけとなる何かしらのイベント。それが必要なことを伝える。
「イベントか……歌や踊りでも披露すればいいんじゃないか? ほら、広場を舞台にすればいいさ」
「つってもこの時期は書き入れ時だぜ? 芸人連中はもう大体スケジュールが埋まっちまってる」
「それならば……」
男二人の会話にモアが口を挟んだ。
●
そして街コン当日。参加者たちには案内のパンフレットが配られる。
食事はピザやパスタなど、ヴァリオスで人気の高い料理と、おにぎりや天ぷらなどのリアルブルー料理。さらにジェオルジ自慢の「まめし」も提供され、各々好きなだけ食べて良いことになっている。
飲み物に関してもゴーヤが必要なだけ提供することになっている。
そしてパンフレットの真ん中にひときわ大きな文字でメインのイベントの内容が書かれていた。
「広場の舞台で皆さんを楽しませてくれる人募集! 内容は問わず、自慢の芸を披露してください! 好評を得た人には豪華賞品あり!」
リプレイ本文
●
街コン当日、広場ではステージのための最後の準備が繰り広げられている。
そんな中、酒場の前に看板が飾られた。黒い看板には白い文字で「街混、スタート!」と書かれており、同時にドアには「OPEN」のプレートが掛けられる。
「よいっしょ。一番乗り~♪」
最初に入ってきたのはシルフェ・アルタイル(ka0143)。それを皮切りに、次々と参加者が入ってくる。メインイベントはもう少し先だが、食事は既に提供されている。しかも
「よっしゃ! 飲み放題に食べ放題だぜ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の言葉通り、料理も飲み物も自由に好きなだけ食べていいのだ。いくつもの種類の料理が盛られ、美味しそうな匂いを漂わせている。
「たち取り敢えず、なんでもよい、酒からじゃぁ♪」
と早速飲み物を注文したのは星輝 Amhran(ka0724)。妹のUisca Amhran(ka0754)は周りに挨拶をしている。
「お酒はダメですので、とりあえず、食べ物いただきますね」
とミオレスカ(ka3496)は料理を持っていく。それはエルフのミオが今まで見たことが無い料理。口に入れると、サクサクした衣の下から海産物の旨味が出てくる。ミオは料理の説明を聞いて
「テンプラとは、不思議な食べ物です」
と言いながらも、顔が自然にほころんでいた。
「うーん、このふたつはあまりなじみがない食べ物ですけれど、姉さまが食べていたのを見たことがあるような?」
と片手におにぎり、片手に天ぷらを持ちつつ見比べているのはイスカ。
「私のおすすめはこれですね」
とモアはおにぎりを勧める。
「それでは、この三角形の白いのを黒いもので巻いた食べ物をいただきますね」
とおにぎりを頬張り始めるイスカ。
一方レイオスは早速、パスタを山のように皿に盛る。ほほ肉を煮込んだソースがたっぷり掛けられたヴァリオス自慢の一品だ。
「おにぎりですか……此処でも、米の料理は在るんですね……」
と料理を見てしみじみと言っていたのは天央 観智(ka0896)だ。
「おにぎり、美味しいですよね。ジェオルジ辺りは米どころですよ」
とモアが返す。どうもモアはクリムゾンウェストの米についても詳しいらしい。
「それでは……消化が良く胃腸に優しいお米料理……という事で、重湯なんてありますか?」
「重湯、ですか。それは一体どういうものなのでしょうか」
モアの儲け話を嗅ぎ分けるスイッチが入ったのか、興味深くあれこれ聞き出すモア。どうも二人は似たもの同士らしい。カウンターで話し込み始める二人。
店内が盛り上がり出した頃、
「じゃあ、シルちょっと前座っていうのをやってる~♪」
とシルフィが店の真ん中に立って踊り始める。ステップを踏み、音を打ち鳴らす。その音がリズムを刻み、音楽を奏で始める。その音に合わせてさらにノリ始めるシルフィ。さらに逆立ちしたりスピンしたり、派手な動きで盛り上げる。最後にテーブルの上のナイフを跳ね上げ、空中で一回転して着地して決めポーズを取った。
酒場中から拍手が巻き起こる。
「本番はもっとすごいことするからみんな応援とかよろしくお願いします」
とぺこりと頭を下げて退場するシルフィ。
「おう、お疲れちゃーん♪ 本番の一発芸楽しみにしてるぜ♪」
とピザを口に押し込んでいたlol U mad ?(ka3514)が声をかけた。
一方その頃、カウンターではモアとキララとの間でひと悶着が繰り広げられていた。
「こちらなどはいかがでしょうか」
とキララに梅酒やレモンチェッロを差し出すモア。しかし、これらは全てノンアルコールに仕立て直してある。
「ふむ……これは酔えぬな♪ しかし、ふっふっふ……こんなこともあろうかと自前で酒をいくらか持ってきておるのじゃ♪」
とこっそり持ち込んだアルコールを混ぜようとするキララ
「ダメですよ。未成年の方にお酒を飲ませたら私が怒られてしまいます」
「わ、わしはナリはこれでも50以上は生きとるエルフじゃぞ……?」
止めようとするモアと混ぜようとするキララ。そんな攻防が繰り広げられているとき、笛の音が聞こえてきた。
演奏しているのはルカ(ka0962)。ルカは恥ずかしさから、舞台での演奏はするつもりはなかったが、代わりにゴーヤの許可を貰って店内で演奏をしていた。彼女が演奏する、リアルブルーでクラシックと呼ばれる音楽は喧騒の中にもゆったりとした柔らかい雰囲気をもたらしていく。
店内の視線がルカの元へと降り注ぐ。それに気づき、もじもじとするルカ。
そんな温かい雰囲気に包まれた酒場だが
「ああ、時間の経つのは早いですね」
とモアの声。本番の時間までもう余り無い。
「では、ここは飲む場面……」
と屋外(ka3530)はお酒を注文しようとしたが、周りを見れば飲めない人たちがたくさんいることに気づき
「やっぱりソフトドリンク下さい。クリスマスで余ったシャンメリーっぽいのあったらそれで! 」
と注文を変える。
モアは早速奥からシャンメリーを取り出し、コルクを抜くとポンッ! と軽い音がする。その音は気分を盛り上げてくれる。
「最後に皆さんこちらをどうぞ」
と店内にいる全員に注いで回るモア。
店内では一斉に乾杯の声が上がり、皆本番ステージが盛大な宴になることを祈るのだった。
●
店から人々がメイン会場に移動する最中、イスカは別の場所に移動していた。それは「巫女の集い“B.Grossa”」。ここは、聖地を離れて活動する巫女の互助組織である。そして、今回の街コンに協賛を行っていた。
その内容とは「白竜の宣託」なるもの。聖地に舞い降りたという白き竜から頂いた宣託を、希望者に伝えるというものである。リアルブルーで言うところのおみくじに近い内容だ。
幸運が訪れるという宣託を受けた者は喜んで帰っていくが、中には不運を告げられるものも居る。そういう時こそイスカの出番だ。希望者に対し、浄化の儀をおこなうのだ。
イスカが酒場で白竜の宣託の宣伝を行っていたためか、人で賑わっている。
「Abra‐cadabra Salvio‐Hexia……」
そして早速希望者に対し祈りを捧げていた。だが、浄化の儀の効果が薄かった様で、改めて行うことを申し出るイスカ。そこに姉がやって来て、改めて二人で儀式を執り行う。
この紅き大地に満ちる大精霊と
聖地に坐す白竜の御名において
この者を守り導き給い
幸多からん事を祈らん……
イスカの祈りを捧げる歌声に乗せてキララが舞い踊る。
「……はい、これでいかがでしょうか? 運勢が上向くといいんですが……」
そんなイスカの心配そうな問いかけには喜びの声が帰ってきた。例え白竜から受けた宣託が不運だったとしても、このような素敵なものを見られればそれだけで幸運だ、そんな笑顔を見て、イスカはすべての人の幸運を祈り、ステージで歌を唄う事を考えていた。
●
イベントが始まる少し前、準備が終わった会場にアル・シェ(ka0135)とアイ・シャ(ka2762)の兄妹が最初にやってきた。
アイ・シャは内心
(観劇デートです♪……デートです!)
と思いべたべたくっついていた。
「お食事お飲み物、何がよろしいでしょうか。わたくしがお持ちいたします♪」
「それじゃあまめしを貰おうか」
「……まめし、まだ食べたことがないのですよね。気になります……」
と甲斐甲斐しくお世話する妹。早速食事を取りに行く。
その間に兄の方はどこに座ろうか見繕っていた。選んだのは真ん中、一番後ろ。椅子だけでなくテーブルも用意され、見やすいように一段高くしてくれている。ここなら全体が見渡せ、しかもゆっくり座っていられるだろう。
座ろうとしたところで
(見てないところで喧嘩吹っ掛けていないか……)
と兄は妹のことを心配していた。
●
「さて最初の方は……」
かくして本番のステージが始まった。早速司会役のモアが出演者を呼び出そうとした時、突然照明が消え失せた。辺り一帯が暗くなる。
ざわめく客席。その時、突然蒸気音が鳴り響く。
観客たちが一斉に音の出処に目を向けた時、その場所が照らしだされ、名乗りを上げる声が聞こえてきた。
「愛と勇気で悪を討ち、灯せ明日への青信号! 双世勇者、ガイクオー! 紅き世界に只今到着!」
照らされた場所に居たのはCAM……にしては小さい、人間大サイズのもの。姿形は間違いなくデュミナスなのだが、大きさが違う。これは屋外が着ぐるみを着て作り上げた姿だった。
そして流れ始めるテンポのいい曲。どうもこれがガイクオーのテーマ曲らしい。
客席にいる男子の心が一気に盛り上がる。
「噂には聞いていたけど、ホントにファンタジーな植物だな。お、結構イケル」
とまめしをパクついていたレイオスも、その派手な光景に
「おお! 最高だぜ!」
と盛り上がっている。
そして舞台上の屋外改めガイクオーは曲に合わせ、ひらりと宙返りするとそのまま踊り始めた。
リズミカルなステップに派手なスピン。それはまさしく縦横無尽、という形容詞がぴったりだった。
そしてぴったり3分後、曲が流れ終わると同時に再び舞台が暗くなる。
もう一度舞台が明るくなった時、ガイクオーの姿は忽然と消えていた。
肝心の屋外は誰にも気づかれない内に、客席に回っていたのだった。
●
「街コン……か。そうね、折角の楽しいことなんだから、ガツンと盛り上げていきましょ」
次にステージに上がったのはケイ・R・シュトルツェ(ka0242)だ。
モアがケイにインタビュー。
「それでケイさんは何を披露していただけるのですか?」
「一芸と言われるとあたしには歌しか無いんだけれど……」
クールな表情で返すケイ。
「これでもリアルブルーでは『歌姫』なんて呼ばれてたのよ?」
と妖艶に微笑んで見せた。
そしてケイが手を上げると同時に音楽が流れ始めた。
激しいドラム音が体を揺らし、ストリングスの歪んだサウンドが心をかき乱す。
それは心地よい音楽ではない。しかし、体を、そして心を自然と揺り動かす様なサウンドだった。
リアルブルーでロックと呼ばれる音楽。聞いたことの無いクリムゾンウェストの人々は新鮮で、それでいて体が自然と縦に揺れる。
曲が盛り上がり始めたところでケイがシャウト!
クールな雰囲気で細身のケイのどこからこの声が出ているのか、大きく、伸びやかに響く。その声は広場の隅々に広がっていく。
「に~さま、とてもお上手ですね♪」
アイ・シャは自分の体を兄にべったりくっつける。すると、兄の体が縦に揺れている、その動きが自分に伝わってくる。激しいロックのサウンドが、いつもクールなアル・シェのハートに火を付けたようだ。
ステージ上ではケイの歌声はサビに差し掛かっていた。
心に1つの灯り
宵に1つの灯り
掴みとれ チャンスは1度きり
目を開けて その希望
胸に抱いて行け!
客席では、いくつもの拳が突き上げられる。うねりのように動く客席。知らず知らずのうちに、アル・シェも拳を突き上げていた。
そして歌い終えたケイは客席に向けて、「Thank you!」と叫んだ。
客席からは鳴り止まない歓声が聞こえてきた。
●
次に舞台に上がったのはディーナ(ka1748)とティーア(ka2701)の姉妹だ。
「ふふん、上がってしまったからには仕方ないです。ティーアのとっときを披露してやるです」
とステッキを手にティーアが出てくる。こちらは見るからにやる気満々だ。だが……
「あの……ディーナさん、大丈夫ですか?」
ディーナも踊り衣装に神楽鈴と、完璧な装備なのだがわかりやすく顔が赤くなって出来上がっている。モアも心配してしまうほど酔っ払っているようだ。どうも既にかなり飲んだらしい。
「こーみえても踊りも歌も姉上にしっかり教わってるぞよ! ばっちりぞーよー!」
しかし自信満々に言われてしまっては仕方がない。引き止める理由がない。
「そうおっしゃるなら……」
とモアが引き下がり、スタンバイしている演奏家の人々に合図を送る。
するとかわいらしいポップなメロディーが流れ始める。
これに合わせ、ステージ中央に進み出たティーアはステッキをくるくると回して顔の前に持ってきて決めポーズ。まるでステッキをリアルブルーで言うところのマイクスタンドにしたような振り付けに、否が応でも観客席は盛り上がる。
そしてイントロが終わり、ティーアが口を開く。その喉から流れ始めた歌声は……
その場に居た全員がズッコけてしまいそうな歌声であった。いや、もう歌声と言っていいのだろうか、テンポもあってない、音程も外している。皆は頭を抱えるしか無かった。
だが一人だけ頭を抱えていないものがいた。ディーナは酔いの勢いに任せて歌って踊ってはしゃいでいる。これがティーアに合わせようとしているのかしていないのかももうわからない。
一方のティーアは気持ち良く歌っていたが、客席にいるアル・シェとアイ・シャを発見するや
「ちょっとそこ待ちやがるですっ」
とそのままステージを降りて二人のもとに突進していってしまった。
「あら、ティーアさま」
と笑顔で応対するアイ・シャ。だが、あからさまに二人の間には火花が散っている。
客席の一角で不穏な空気が流れる中、舞台の上では一人気にせず目一杯はしゃいでいるディーナ。もうこの状況を止めるには一つしか無い。
「はい、タイムオーバーです。退場ですよ」
と、モアはほうきでディーナを舞台から掃き出すのであった。
●
次に舞台に上がったのはロルだ。
「オレちゃんが見せれんのはコレくれぇかな?」
と取り出したのはバタフライナイフ。片手に持って軽く振ると、遠心力で刃が飛び出す。もう一度振れば、グリップの中に刃が収まる。クルクル、チャカチャカとナイフを器用に操るロル。
「他のヤツらがやるモンに比べりゃちょいと地味かもしれねぇが、生憎とオレちゃんが自慢出来るモンってーとコレ位しかねぇからなぁ」
などと言いながら開閉を繰り返す。
「さて……ここからがお立ち会いだぜ?」
と言いながら、もう一度回転させてナイフを手の中に収めるロイ。そこから客席に見せるように手を開くとナイフが忽然と消えていた。
客席がどよめく。
「Check it out!」
さらに何もない掌を振ると、その手には消えたナイフが再出現。もう一度振れば一本だったナイフが二本に増える。消して出して、また消して。最後は右手を振っただけで、両手にナイフが出現していた。
ロルの不思議なナイフアクションと手品は、彼が言うような地味なものとは言えなかった。
●
続いて表れたのはシルフェだ。妖精のような踊り子の衣装に身を包み、両手にトンファーを持っている。
ぺこりとお辞儀をすると音楽が流れ始める。それに合わせ、リズミカルなステップで踊り始めるシルフェ。ここまでなら先ほど酒場で見せたものと同じだが、さらに今回は両手のトンファーをジャグリングも加えている。
初めて見たもの達だけでなく、一度見た者達も盛り上がり楽しんでいる。
そんな最中、シルフェはジャグリングしていたトンファーを両手に持ち直し舞台袖に声をかけた。
「模擬戦しようよ。その武器でいいから♪」
「オレちゃんか? まあいいぜ」
と出てきたのは、先程まで舞台に上がっていたロルだ。もちろんその手にはバタフライナイフが握られている。
そして、ロルが舞台の中央に再び進み出たところでもう一度曲が流れ始める。ロルがすかさずナイフを突き出すが、シルフェは音に合わせて踊るようにそれを回避、すかさず側転して回り込み、トンファーを叩きつける。ロルは咄嗟にナイフを構え直し、受け止める。
二人の攻防は真剣な戦いの様であり、また二人で踊るダンスのようでもあった。
音楽のテンポが上がる。二人の攻防も早くなっていく。
そしてクライマックス。ロルのナイフをふわりと躱したシルフェは、着地と同時に一回転して首筋へトンファーを打ち込む。最後の音が鳴り終わると同時に、首に突き刺さるトンファー!
……いや、それはそのように見えただけだった。きっちりと寸止めしてみせるシルフェ。
シルフェはその体制のまま、声をかける。
「お兄さん強いね。みんなお兄さんに拍手~♪」
その時、いつの間にかロルの逆の手に出現したナイフが、シルフェの首を切り裂く、その手前で止まっていた。
拍手の中、シルフェは笑顔を振りまき、バク宙しながら退場していった。
●
続いて舞台に上がったのは摩耶(ka0362)だ。
「どういう特技を披露していただけるのですか?」
そんなモアの質問に
「特技かどうかはわからないけれど……」
とギターを取り出す。観客席がギター演奏か、と思ったところで、彼女の馬が舞台袖から表れた。
観客たちが驚く間もなく、ギターをかき鳴らす摩耶。そのまま飛び上がると、愛馬の背中にスッと立ってみせた。
さらに馬はゆっくり歩き始める。その状況で、そのままの体勢で演奏を続ける摩耶。
彼女の演奏する曲のテンポはドンドンと早くなっていく。馬も釣られたのか、歩行スピードが上がり、駆け足するようになっていく。
火花を散らしていたアイ・シャとディーナも、そんな摩耶のパフォーマンスを見て
「とてもお上手です♪」
「なかなかやりやがるですっ」
と一時休戦し盛り上がっている。
舞台上では摩耶の演奏は最後に差し掛かっていた。曲のスピードは最高潮に達し、馬は完全に疾走している。最後に摩耶がリフレインを弾き終えると、そのまま空中に身を躍らせた。
クルクルと回転し、ひねりも加えて綺麗に地面に着地する摩耶。観客たちから万雷の拍手が降り注ぐ。
「これはエクストリームギターとでもしておこうかしら」
と、モアに最初にされた質問に応える摩耶。それはきっちり練習をして作り上げた彼女ならではの特技だった。
●
天竜寺 舞(ka0377)はリアルブルーで和服、と呼ばれる衣装に身を包み、同じくリアルブルー由来の下駄を履いてステージに上った。
「皆ー! 今日はリアルブルーの伝統音楽を演奏するよ。よろしくね!」
と客席に呼びかける舞の姿に緊張は感じられない。それもそのはず、舞は小さい頃から舞台に上がっていたのだ。むしろこの雰囲気を楽しんでいる。
そして舞は取り出した三味線をペペンとかき鳴らした。バチを叩きつけるようにして響かせるその音は、弦楽器というより打楽器の感覚。そのリズムは、自然と心をウキウキさせる。
「えへへ……何だかとっても楽しそうなの!」
エティ・メルヴィル(ka3732)は楽しいことはすることもされることも大好きだ。舞の三味線が奏でるパーカッシブな音色に、エティの心も楽しく弾んでいた。
そして、それは舞自身もだ。三味線を引きながらステップを踏み出す舞。下駄が舞台を踏み鳴らす音が、三味線の音に加わり新しい音楽を生み出す。リズミカルな曲は観客席を盛り上げ、観客席の熱が舞台に伝わり、舞の気分をさらに上げていく。音数がドンドン増えていき、舞の手の動きは目で追い切れない域に達していった。
そして空間全体のテンションが最高潮に達した頃、舞は一曲無事に弾き終えた。
「御清聴ありがとー!」
と挨拶して退場する舞。彼女の気持ちは最高に盛り上がっていた。
●
時音 ざくろ(ka1250)は手を振りながら舞台に登場する。
「みんなー、今日はざくろのコンサートに来てくれてどうもありがとー!今日は一緒に楽しもうね」
と挨拶すると、客席ににこっ、と微笑みかける。この微笑みでノックアウトされてしまった男性陣がたくさん出たとか出ないとか。
しかし、肝心のざくろは内心焦っていた。というのも、ざくろは今回のステージのために衣装をお願いしていたのだが、渡された衣装は真紅のゴシックドレスだったのだ。ざくろのことを女性だと思い込んだ担当者がやらかした結果である。
だが、ステージは容赦なく始まる。明るくポップな曲と共に、歌い踊り始めるざくろ。焦っていたざくろだが、いざ音楽が始まればもう腹が据わる。こういうところはざくろは男の子なのだ。
レースがふんだんにあしらわれたドレスは、ざくろの動きに合わせゆらゆらと動き、その姿はまるで炎が舞っているように見える。
「舞い踊る炎に見えるこの姿……興味深いですね」
天央は、そんなざくろの姿に興味津々だ。自然と視線が集まる。そしてそれは他の観客たちも同様だった。
「寒さなんて吹っ飛ばす、ざくろの炎でみんなを熱く……行くよ、炎と光の恋歌☆」
そして、その頃ざくろの言葉と同時に、ステージ上のパフォーマンスに変化が訪れた。ゆらめく炎に、輝く光が追加される。これは、ざくろがリズムに合わせて機動剣を発動させていたのだった。
炎の赤い輝きと、機動剣の白い輝き、二色の輝きに彩られた、華やかなパフォーマンスだった。
●
次に舞台に出てきたのはメトロノーム・ソングライト(ka1267)だ。
「何を披露していただけるのですか?」
モアの質問にメトロノームは
「わたしにできるのは歌う事だけですから……」
ともじもじしながら応える。
そして、一人舞台中央に進み出て、静かに歌い始めるメトロノーム。
その唇から紡ぎ出される音は、まるで空気まで凍りついた冬の静かな澄み渡る空気。風の音色も眠りについて、結晶すら震えるような音色が響く。
「え? 味が変わるんですか?」
食べたことのないまめしに興味を示し、話を聞きながら口に運んでいたエステル・クレティエ(ka3783)も、メトロノームの静かな歌声に耳を傾ける。
しかし、どんな寒い冬でも、家の中では暖炉が、家族の団らんが人々を温めてくれる。メトロノームの歌声も寒い冬の中のぬくもりの様に、優しく澄んだ空気に広がっていった。
メトロノームの歌声が観客の心まで温める。澄み渡るメトロノームの歌声が紡ぎ終わった時、人は誰一人歓声を上げなかった。評価を得られなかったわけでない。この暖かな空気に、もう少し触れていたい……そんな人々の気持ちが、彼女の歌声に歓声ではなく、優しく静かに味わうという行動を取らせたのだった。その証拠に人々は皆優しい笑顔になっていた。
●
「さあ、練習の成果を見せてくれよ。ソルト、シュガー」
舞台に上がったレイオスは、おもむろにハーモニカを取り出す。これを口元に当てるとメロディが流れ始める。決してプロの演奏レベルではない。だが、ノリと勢い、それにハートで勝負だ。
つい先程まで舞台に上がっていたメトロノームが、そんなレイオスの曲を背に客席に戻ってくる。
レイオスが息を吹き込むと流れる澄んだ音色。弾むようなメロディーに心を動かす。
メトロノームも曲を聞きながら、密かにノッていた。そんな彼女のもとにモアがやって来る。
「お疲れ様でした。喉に良いですよ」
と差し出したのははちみつ入りハーブティー。それをメトロノームはゆっくり飲みながら、曲を楽しむ。
一方舞台ではレイオスの袂からパルムが飛び出してきた。ソルトとシュガーと名づけた二人の妖精が、レイオスの曲に合わせてダンスを行い、ステージを盛り上げる。レイオスのハートが伝わったのか、客席の温度も上がっていく。
そしてレイオスが演奏を客席から大きな歓声が上がる。その声を聞きながら、レイオスも二人のパルムも誇らしげだった。
●
伊勢 渚(ka2038)は三味線を担いで舞台に出てきた。
ベベンとかき鳴らし、調弦を行って観客席に一言言い放つ。
「お目汚しになるかもしれないが、聴いてくれ」
そう言うと三味線を爪弾き、謡い始める。伊勢の声はどことなく侘びしさを感じさせる、そんな歌声だ。
「三千世界の~ 歪虚を殺し~ 主と朝寝が~ してみたい~」
これはリアルブルーの日本で活躍した偉人、高杉晋作が詠ったという都々逸を本歌取りにしたものだ。七七七五調で詠われるその歌声は実に味わい深い。伊勢の歌声は人々の心に染みわたるようだ。
「へえ……これがリアルブルーの歌か」
イーディス・ノースハイド(ka2106)も、伊勢の歌声を噛みしめるように聞いていた。
●
そのイーディスとユナイテル・キングスコート(ka3458)が二人してステージに上がって来た。二人共片手には剣、もう片方の手には盾を持っている。紋章が施された盾は、二人が共に正式な騎士であることを意味している。
それもそのはず、二人は共に元王立騎士団に所属していた騎士であった。
「芸事は苦手だからね。その分、研鑽した技を披露させてもらうよ」
とはイーディスの言葉。剣は木剣であり、いくら打ち合っても大丈夫なようになっている。だからといって手を抜くつもりはない。
「私はユナイテル! 名誉に賭けていざ尋常に勝負を!」
と名乗りを上げて、剣と盾を構える。二人から放たれる殺気は実戦の時と何ら変わりない。
そして二人の模擬戦が始まった。
体の大きさに近い、相当大きな長方形の盾を掲げ、守りを固めるイーディス。
しかしそれはユナイテルも百も承知だ。防御を得意とするイーディスに対向するにはどうするか。そこでユナイテルは反撃もろとも潰すような、苛烈な攻めで対抗することにした。
攻撃は最大の防御とばかりに、何度も何度も打ち込むユナイテル。イーディスはその盾で攻撃を受け流していく。ガン!ガン!と剣と盾とがぶつかる音が何度も響く。
何度も打ち込まれながら、盾の後ろで一瞬の隙を探すイーディス。そして彼女はそのチャンスを見逃さない。攻撃と攻撃のほんの一瞬の隙に鋭い突きを打ち込み反撃。ユナイテルはそれを咄嗟にかわしさらに反撃する。イーディスは体をひねり、その一撃をかわす。なびく髪を突き抜けるように木剣が振るわれる。髪一重の差でかわし切るイーディス。
「ならば……」
ユナイテルは手にした剣をスーッと上に掲げる。蜻蛉とも呼ばれる独特の構え。それは守りを捨て、次の一撃で勝負を決めるという決意を現した構えだ。そしてそこから、裂帛の気合と共に木剣を叩きつけるユナイテル。
イーディスはこの一撃は簡単に防ぎきれないと判断した。ならば、相手の一撃を受ける前にこちらの一撃を打ち込む。これしかないとばかりに鋭い突きをカウンターで打ち込む。
どちらの一撃が決まるか? 二人の剣が交錯し、バキィッ! と激しい音が響いた。
目にも留まらぬ両者の一撃が交わった結果。それは、二人が手にする刃の部分が砕け散った木剣が表していた。勝負は引き分けだ。
しかし、勝敗が決しなかったからと言ってその戦いがつまらなかったわけではない。観客は名勝負を繰り広げた両者に惜しみない拍手を送る。後ろの方で、一際強く手を叩く屋外の姿があった。
●
次にステージに上がったのはキララとイスカの姉妹に、イスカの恋人の瀬織 怜皇(ka0684)の三人だ。
「今回はどんな内容なのですか?」
モアの質問に
「巫女として、皆さまの幸せを祈願する唄を歌いますよ♪」
とイスカが答える。三人が披露しようとしているのは、巫女達の間で伝わるハレの日の歌。これはクリムゾンウェストではマテリアルの浄化を行うとても大切な儀式である。先日狂気の歪虚が現れたときに披露されたのは記憶に新しい。だからただ楽しいだけでなく、姉妹は正式な白い巫女服に身を包み準備万端で舞台に臨む。
そして始まる祈願の舞。まず、イスカが祈りを捧げる。すると彼女の持つ御幣と瀬織の持つ刀に光の精霊が集まり辺りを照らし出す。
次にイスカが一礼し、唄を謳い始める。
この紅き大地に満ちる大精霊と
聖地に坐す白竜の御名において
歌声と共に覚醒するイスカ。白竜の翼を思わせる淡い光が彼女を包む。
同時に覚醒する瀬織。彼の周囲を蒼き龍が動く。同時に、手にした刀を振るい剣舞を行う瀬織。これは破邪の願いを込めたものだ。
この地に住まうすべての者を守り導き給い
マテリアルが再び満ち溢れんことを祈らん
知らぬ間に辺りを霧が包んでいた。両手に扇を持ったキララが覚醒したのだ。その霧はやがて濃い部分と薄い部分に分かれ、龍の形へと変わる。キララが舞うとその龍は彼女を追従する。それは実に神秘的な雰囲気だ。
精霊を奉る舞と、雄々しき破邪の剣の舞。二つが歌声と共に時に離れ、時に絡み合う。
蒼の世界と紅の世界、違う場所に生まれた三人。違う二つの世界、祈ることは一つ。
そう、二つの世界の平安だ、
「本当に……ありがたいものです」
滅多に見れぬその舞に、モアは司会の立場を忘れ思わずつぶやいていた。
●
続いてエティが舞台に上がる。エティは
「エティは横笛が得意なの」
と手にした横笛を見せながら、自分の演目をアピールする。
すると、舞台に一つの人影が駆け上がってきた。
「もし、ご一緒できる様なら飛び入りを希望します」
と同じく横笛を見せながら舞台上に表れたのはエステル。エステルは、誰に聞こえるともなく、
「いつもは一人で吹いているので……」
とつぶやいた。それに対し、エティは
「うん! 何だかとっても楽しそうなの!」
と笑顔でOKサインを出す。しかし、出演者のエティがOKしたとしても、司会のモアはどうなのか、と思った人が居たか居ないか、舞台上を見やるとモアの姿が消えていた。
「さあ、ルカさんも上がってください」
とモアがルカを引っ張ってきた。
「恥ずかしいです……」
と拒否するルカ。だが、舞台上の二人はルカに微笑みかける。
「1つの小さな楽しさより、皆の大きな楽しさ。うん、すっごく素敵なの☆」
と手を差し出すエティ。これで決まった。急遽結成された横笛による三重奏。
エステルとルカは大きく深呼吸し、緊張を解きほぐすように客席に向けて笑顔で一礼。そして三人の横笛がハーモニーを奏で始める。
エティはスタッカートを多用し、跳ねるような演奏。
エステルはそんなエティの演奏に寄り添うように音を紡ぐ。
そしてルカは二人の演奏を包み込むように、柔らかく音を重ねていった。
三人が奏でる演奏は、自然と観客たちの心をわくわくさせていく。
「横笛をこうやって聞いたこと無かったけど、とっても楽しいね!」
と舞の心も踊っていた。
●
最後に舞台に立ったのはミオレスカだ。彼女は手にハープボウを持っている。
そして早速弾き始めるミオ。彼女の竪琴から奏でられる音は、観客のイメージとはずいぶん違っていた。
流麗というよりワイルドで、洗練された音楽というより、土着の音楽の荒々しさを感じられる。
そんな曲調はミオの狙いであった。他の者達の演奏を聴き、どういうものが受けるのか、を彼女なりに考えた結果だ。
そして演奏が進む。ミオは客席のシルフェや、イスカ、キララ姉妹に視線を送った。
彼女たちは全員辺境の人間である。だからミオが奏でる地元を思い起こさせる音楽に合わせ、彼女が伝えたいことが理解できた。音楽は、時に言葉よりも思いを伝えることができる。
三人はステージに跳び乗り、思い思いに即興で合わせていく。シルフェのタップが重なり、イスカの歌声が乗り、キララが扇を手に舞う。そしてこの三人のしたことが引き金になった。摩耶はギターを、舞と伊勢は三味線を手にステージに上がり、演奏を合わせていく。レイオスはそれにハーモニカで合わせ、エティ、エステル、ルカの三人が横笛の音色を加える。ケイとメトロノームの対照的な歌声は不協和音ではなくハーモニーを奏で、ざくろの歌声がポップな味付けを加えていく。踊れるものも踊れないものも自分なりに踊りだし、一大セッションが始まっていた。
ミオは再びシルフェにアイコンタクト。ステージ中央に進み出たシルフェがタップダンスでソロを取ると、彼女はロルにアイコンタクトを飛ばす。ロルはそれを受け、交代するように中央に出るとナイフアクションを行った。そこから視線がつなげるソロパートの数珠繋ぎ。それは、この街コンという機会で出会った人々の絆を、つながりを感じさせるものだった。全員によるジャムセッションはいつまでも、いつまでも続いていた。
●
「さて、優勝者なのですが……困りましたね」
モアがステージ中央に進み出てそう語る。予定では歓声の大きさをモアが判断し、優秀者に賞品を渡す予定だったのだが、全くもって甲乙付けがたい。一体誰を選べばいいものやら。
しばし考えていたモアだが、参加者全員を見てこう語った。
「もし皆様がよろしければ……全員に賞品をお配りしてよろしいでしょうか? もちろん一人ずつの量は減ってしまいますが」
モアの提案に異論を挟むものはいない。というわけでステージには賞品が個別に分けられて置かれ、各自が思い思いに持って帰ることになった。
「さて、豪華賞品は何かな……」
レイオスは早速包みを開く。中から出てきたのはまめしだった。
「ジェオルジからの提供ですよ。まめし、美味しいですよね」
とモアがレイオスに語り掛ける。
しかし、皆が手に入れた賞品はこれだけではなかった。何より、いろいろな人との交流という賞品を手に入れたのだから。
街コン当日、広場ではステージのための最後の準備が繰り広げられている。
そんな中、酒場の前に看板が飾られた。黒い看板には白い文字で「街混、スタート!」と書かれており、同時にドアには「OPEN」のプレートが掛けられる。
「よいっしょ。一番乗り~♪」
最初に入ってきたのはシルフェ・アルタイル(ka0143)。それを皮切りに、次々と参加者が入ってくる。メインイベントはもう少し先だが、食事は既に提供されている。しかも
「よっしゃ! 飲み放題に食べ放題だぜ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の言葉通り、料理も飲み物も自由に好きなだけ食べていいのだ。いくつもの種類の料理が盛られ、美味しそうな匂いを漂わせている。
「たち取り敢えず、なんでもよい、酒からじゃぁ♪」
と早速飲み物を注文したのは星輝 Amhran(ka0724)。妹のUisca Amhran(ka0754)は周りに挨拶をしている。
「お酒はダメですので、とりあえず、食べ物いただきますね」
とミオレスカ(ka3496)は料理を持っていく。それはエルフのミオが今まで見たことが無い料理。口に入れると、サクサクした衣の下から海産物の旨味が出てくる。ミオは料理の説明を聞いて
「テンプラとは、不思議な食べ物です」
と言いながらも、顔が自然にほころんでいた。
「うーん、このふたつはあまりなじみがない食べ物ですけれど、姉さまが食べていたのを見たことがあるような?」
と片手におにぎり、片手に天ぷらを持ちつつ見比べているのはイスカ。
「私のおすすめはこれですね」
とモアはおにぎりを勧める。
「それでは、この三角形の白いのを黒いもので巻いた食べ物をいただきますね」
とおにぎりを頬張り始めるイスカ。
一方レイオスは早速、パスタを山のように皿に盛る。ほほ肉を煮込んだソースがたっぷり掛けられたヴァリオス自慢の一品だ。
「おにぎりですか……此処でも、米の料理は在るんですね……」
と料理を見てしみじみと言っていたのは天央 観智(ka0896)だ。
「おにぎり、美味しいですよね。ジェオルジ辺りは米どころですよ」
とモアが返す。どうもモアはクリムゾンウェストの米についても詳しいらしい。
「それでは……消化が良く胃腸に優しいお米料理……という事で、重湯なんてありますか?」
「重湯、ですか。それは一体どういうものなのでしょうか」
モアの儲け話を嗅ぎ分けるスイッチが入ったのか、興味深くあれこれ聞き出すモア。どうも二人は似たもの同士らしい。カウンターで話し込み始める二人。
店内が盛り上がり出した頃、
「じゃあ、シルちょっと前座っていうのをやってる~♪」
とシルフィが店の真ん中に立って踊り始める。ステップを踏み、音を打ち鳴らす。その音がリズムを刻み、音楽を奏で始める。その音に合わせてさらにノリ始めるシルフィ。さらに逆立ちしたりスピンしたり、派手な動きで盛り上げる。最後にテーブルの上のナイフを跳ね上げ、空中で一回転して着地して決めポーズを取った。
酒場中から拍手が巻き起こる。
「本番はもっとすごいことするからみんな応援とかよろしくお願いします」
とぺこりと頭を下げて退場するシルフィ。
「おう、お疲れちゃーん♪ 本番の一発芸楽しみにしてるぜ♪」
とピザを口に押し込んでいたlol U mad ?(ka3514)が声をかけた。
一方その頃、カウンターではモアとキララとの間でひと悶着が繰り広げられていた。
「こちらなどはいかがでしょうか」
とキララに梅酒やレモンチェッロを差し出すモア。しかし、これらは全てノンアルコールに仕立て直してある。
「ふむ……これは酔えぬな♪ しかし、ふっふっふ……こんなこともあろうかと自前で酒をいくらか持ってきておるのじゃ♪」
とこっそり持ち込んだアルコールを混ぜようとするキララ
「ダメですよ。未成年の方にお酒を飲ませたら私が怒られてしまいます」
「わ、わしはナリはこれでも50以上は生きとるエルフじゃぞ……?」
止めようとするモアと混ぜようとするキララ。そんな攻防が繰り広げられているとき、笛の音が聞こえてきた。
演奏しているのはルカ(ka0962)。ルカは恥ずかしさから、舞台での演奏はするつもりはなかったが、代わりにゴーヤの許可を貰って店内で演奏をしていた。彼女が演奏する、リアルブルーでクラシックと呼ばれる音楽は喧騒の中にもゆったりとした柔らかい雰囲気をもたらしていく。
店内の視線がルカの元へと降り注ぐ。それに気づき、もじもじとするルカ。
そんな温かい雰囲気に包まれた酒場だが
「ああ、時間の経つのは早いですね」
とモアの声。本番の時間までもう余り無い。
「では、ここは飲む場面……」
と屋外(ka3530)はお酒を注文しようとしたが、周りを見れば飲めない人たちがたくさんいることに気づき
「やっぱりソフトドリンク下さい。クリスマスで余ったシャンメリーっぽいのあったらそれで! 」
と注文を変える。
モアは早速奥からシャンメリーを取り出し、コルクを抜くとポンッ! と軽い音がする。その音は気分を盛り上げてくれる。
「最後に皆さんこちらをどうぞ」
と店内にいる全員に注いで回るモア。
店内では一斉に乾杯の声が上がり、皆本番ステージが盛大な宴になることを祈るのだった。
●
店から人々がメイン会場に移動する最中、イスカは別の場所に移動していた。それは「巫女の集い“B.Grossa”」。ここは、聖地を離れて活動する巫女の互助組織である。そして、今回の街コンに協賛を行っていた。
その内容とは「白竜の宣託」なるもの。聖地に舞い降りたという白き竜から頂いた宣託を、希望者に伝えるというものである。リアルブルーで言うところのおみくじに近い内容だ。
幸運が訪れるという宣託を受けた者は喜んで帰っていくが、中には不運を告げられるものも居る。そういう時こそイスカの出番だ。希望者に対し、浄化の儀をおこなうのだ。
イスカが酒場で白竜の宣託の宣伝を行っていたためか、人で賑わっている。
「Abra‐cadabra Salvio‐Hexia……」
そして早速希望者に対し祈りを捧げていた。だが、浄化の儀の効果が薄かった様で、改めて行うことを申し出るイスカ。そこに姉がやって来て、改めて二人で儀式を執り行う。
この紅き大地に満ちる大精霊と
聖地に坐す白竜の御名において
この者を守り導き給い
幸多からん事を祈らん……
イスカの祈りを捧げる歌声に乗せてキララが舞い踊る。
「……はい、これでいかがでしょうか? 運勢が上向くといいんですが……」
そんなイスカの心配そうな問いかけには喜びの声が帰ってきた。例え白竜から受けた宣託が不運だったとしても、このような素敵なものを見られればそれだけで幸運だ、そんな笑顔を見て、イスカはすべての人の幸運を祈り、ステージで歌を唄う事を考えていた。
●
イベントが始まる少し前、準備が終わった会場にアル・シェ(ka0135)とアイ・シャ(ka2762)の兄妹が最初にやってきた。
アイ・シャは内心
(観劇デートです♪……デートです!)
と思いべたべたくっついていた。
「お食事お飲み物、何がよろしいでしょうか。わたくしがお持ちいたします♪」
「それじゃあまめしを貰おうか」
「……まめし、まだ食べたことがないのですよね。気になります……」
と甲斐甲斐しくお世話する妹。早速食事を取りに行く。
その間に兄の方はどこに座ろうか見繕っていた。選んだのは真ん中、一番後ろ。椅子だけでなくテーブルも用意され、見やすいように一段高くしてくれている。ここなら全体が見渡せ、しかもゆっくり座っていられるだろう。
座ろうとしたところで
(見てないところで喧嘩吹っ掛けていないか……)
と兄は妹のことを心配していた。
●
「さて最初の方は……」
かくして本番のステージが始まった。早速司会役のモアが出演者を呼び出そうとした時、突然照明が消え失せた。辺り一帯が暗くなる。
ざわめく客席。その時、突然蒸気音が鳴り響く。
観客たちが一斉に音の出処に目を向けた時、その場所が照らしだされ、名乗りを上げる声が聞こえてきた。
「愛と勇気で悪を討ち、灯せ明日への青信号! 双世勇者、ガイクオー! 紅き世界に只今到着!」
照らされた場所に居たのはCAM……にしては小さい、人間大サイズのもの。姿形は間違いなくデュミナスなのだが、大きさが違う。これは屋外が着ぐるみを着て作り上げた姿だった。
そして流れ始めるテンポのいい曲。どうもこれがガイクオーのテーマ曲らしい。
客席にいる男子の心が一気に盛り上がる。
「噂には聞いていたけど、ホントにファンタジーな植物だな。お、結構イケル」
とまめしをパクついていたレイオスも、その派手な光景に
「おお! 最高だぜ!」
と盛り上がっている。
そして舞台上の屋外改めガイクオーは曲に合わせ、ひらりと宙返りするとそのまま踊り始めた。
リズミカルなステップに派手なスピン。それはまさしく縦横無尽、という形容詞がぴったりだった。
そしてぴったり3分後、曲が流れ終わると同時に再び舞台が暗くなる。
もう一度舞台が明るくなった時、ガイクオーの姿は忽然と消えていた。
肝心の屋外は誰にも気づかれない内に、客席に回っていたのだった。
●
「街コン……か。そうね、折角の楽しいことなんだから、ガツンと盛り上げていきましょ」
次にステージに上がったのはケイ・R・シュトルツェ(ka0242)だ。
モアがケイにインタビュー。
「それでケイさんは何を披露していただけるのですか?」
「一芸と言われるとあたしには歌しか無いんだけれど……」
クールな表情で返すケイ。
「これでもリアルブルーでは『歌姫』なんて呼ばれてたのよ?」
と妖艶に微笑んで見せた。
そしてケイが手を上げると同時に音楽が流れ始めた。
激しいドラム音が体を揺らし、ストリングスの歪んだサウンドが心をかき乱す。
それは心地よい音楽ではない。しかし、体を、そして心を自然と揺り動かす様なサウンドだった。
リアルブルーでロックと呼ばれる音楽。聞いたことの無いクリムゾンウェストの人々は新鮮で、それでいて体が自然と縦に揺れる。
曲が盛り上がり始めたところでケイがシャウト!
クールな雰囲気で細身のケイのどこからこの声が出ているのか、大きく、伸びやかに響く。その声は広場の隅々に広がっていく。
「に~さま、とてもお上手ですね♪」
アイ・シャは自分の体を兄にべったりくっつける。すると、兄の体が縦に揺れている、その動きが自分に伝わってくる。激しいロックのサウンドが、いつもクールなアル・シェのハートに火を付けたようだ。
ステージ上ではケイの歌声はサビに差し掛かっていた。
心に1つの灯り
宵に1つの灯り
掴みとれ チャンスは1度きり
目を開けて その希望
胸に抱いて行け!
客席では、いくつもの拳が突き上げられる。うねりのように動く客席。知らず知らずのうちに、アル・シェも拳を突き上げていた。
そして歌い終えたケイは客席に向けて、「Thank you!」と叫んだ。
客席からは鳴り止まない歓声が聞こえてきた。
●
次に舞台に上がったのはディーナ(ka1748)とティーア(ka2701)の姉妹だ。
「ふふん、上がってしまったからには仕方ないです。ティーアのとっときを披露してやるです」
とステッキを手にティーアが出てくる。こちらは見るからにやる気満々だ。だが……
「あの……ディーナさん、大丈夫ですか?」
ディーナも踊り衣装に神楽鈴と、完璧な装備なのだがわかりやすく顔が赤くなって出来上がっている。モアも心配してしまうほど酔っ払っているようだ。どうも既にかなり飲んだらしい。
「こーみえても踊りも歌も姉上にしっかり教わってるぞよ! ばっちりぞーよー!」
しかし自信満々に言われてしまっては仕方がない。引き止める理由がない。
「そうおっしゃるなら……」
とモアが引き下がり、スタンバイしている演奏家の人々に合図を送る。
するとかわいらしいポップなメロディーが流れ始める。
これに合わせ、ステージ中央に進み出たティーアはステッキをくるくると回して顔の前に持ってきて決めポーズ。まるでステッキをリアルブルーで言うところのマイクスタンドにしたような振り付けに、否が応でも観客席は盛り上がる。
そしてイントロが終わり、ティーアが口を開く。その喉から流れ始めた歌声は……
その場に居た全員がズッコけてしまいそうな歌声であった。いや、もう歌声と言っていいのだろうか、テンポもあってない、音程も外している。皆は頭を抱えるしか無かった。
だが一人だけ頭を抱えていないものがいた。ディーナは酔いの勢いに任せて歌って踊ってはしゃいでいる。これがティーアに合わせようとしているのかしていないのかももうわからない。
一方のティーアは気持ち良く歌っていたが、客席にいるアル・シェとアイ・シャを発見するや
「ちょっとそこ待ちやがるですっ」
とそのままステージを降りて二人のもとに突進していってしまった。
「あら、ティーアさま」
と笑顔で応対するアイ・シャ。だが、あからさまに二人の間には火花が散っている。
客席の一角で不穏な空気が流れる中、舞台の上では一人気にせず目一杯はしゃいでいるディーナ。もうこの状況を止めるには一つしか無い。
「はい、タイムオーバーです。退場ですよ」
と、モアはほうきでディーナを舞台から掃き出すのであった。
●
次に舞台に上がったのはロルだ。
「オレちゃんが見せれんのはコレくれぇかな?」
と取り出したのはバタフライナイフ。片手に持って軽く振ると、遠心力で刃が飛び出す。もう一度振れば、グリップの中に刃が収まる。クルクル、チャカチャカとナイフを器用に操るロル。
「他のヤツらがやるモンに比べりゃちょいと地味かもしれねぇが、生憎とオレちゃんが自慢出来るモンってーとコレ位しかねぇからなぁ」
などと言いながら開閉を繰り返す。
「さて……ここからがお立ち会いだぜ?」
と言いながら、もう一度回転させてナイフを手の中に収めるロイ。そこから客席に見せるように手を開くとナイフが忽然と消えていた。
客席がどよめく。
「Check it out!」
さらに何もない掌を振ると、その手には消えたナイフが再出現。もう一度振れば一本だったナイフが二本に増える。消して出して、また消して。最後は右手を振っただけで、両手にナイフが出現していた。
ロルの不思議なナイフアクションと手品は、彼が言うような地味なものとは言えなかった。
●
続いて表れたのはシルフェだ。妖精のような踊り子の衣装に身を包み、両手にトンファーを持っている。
ぺこりとお辞儀をすると音楽が流れ始める。それに合わせ、リズミカルなステップで踊り始めるシルフェ。ここまでなら先ほど酒場で見せたものと同じだが、さらに今回は両手のトンファーをジャグリングも加えている。
初めて見たもの達だけでなく、一度見た者達も盛り上がり楽しんでいる。
そんな最中、シルフェはジャグリングしていたトンファーを両手に持ち直し舞台袖に声をかけた。
「模擬戦しようよ。その武器でいいから♪」
「オレちゃんか? まあいいぜ」
と出てきたのは、先程まで舞台に上がっていたロルだ。もちろんその手にはバタフライナイフが握られている。
そして、ロルが舞台の中央に再び進み出たところでもう一度曲が流れ始める。ロルがすかさずナイフを突き出すが、シルフェは音に合わせて踊るようにそれを回避、すかさず側転して回り込み、トンファーを叩きつける。ロルは咄嗟にナイフを構え直し、受け止める。
二人の攻防は真剣な戦いの様であり、また二人で踊るダンスのようでもあった。
音楽のテンポが上がる。二人の攻防も早くなっていく。
そしてクライマックス。ロルのナイフをふわりと躱したシルフェは、着地と同時に一回転して首筋へトンファーを打ち込む。最後の音が鳴り終わると同時に、首に突き刺さるトンファー!
……いや、それはそのように見えただけだった。きっちりと寸止めしてみせるシルフェ。
シルフェはその体制のまま、声をかける。
「お兄さん強いね。みんなお兄さんに拍手~♪」
その時、いつの間にかロルの逆の手に出現したナイフが、シルフェの首を切り裂く、その手前で止まっていた。
拍手の中、シルフェは笑顔を振りまき、バク宙しながら退場していった。
●
続いて舞台に上がったのは摩耶(ka0362)だ。
「どういう特技を披露していただけるのですか?」
そんなモアの質問に
「特技かどうかはわからないけれど……」
とギターを取り出す。観客席がギター演奏か、と思ったところで、彼女の馬が舞台袖から表れた。
観客たちが驚く間もなく、ギターをかき鳴らす摩耶。そのまま飛び上がると、愛馬の背中にスッと立ってみせた。
さらに馬はゆっくり歩き始める。その状況で、そのままの体勢で演奏を続ける摩耶。
彼女の演奏する曲のテンポはドンドンと早くなっていく。馬も釣られたのか、歩行スピードが上がり、駆け足するようになっていく。
火花を散らしていたアイ・シャとディーナも、そんな摩耶のパフォーマンスを見て
「とてもお上手です♪」
「なかなかやりやがるですっ」
と一時休戦し盛り上がっている。
舞台上では摩耶の演奏は最後に差し掛かっていた。曲のスピードは最高潮に達し、馬は完全に疾走している。最後に摩耶がリフレインを弾き終えると、そのまま空中に身を躍らせた。
クルクルと回転し、ひねりも加えて綺麗に地面に着地する摩耶。観客たちから万雷の拍手が降り注ぐ。
「これはエクストリームギターとでもしておこうかしら」
と、モアに最初にされた質問に応える摩耶。それはきっちり練習をして作り上げた彼女ならではの特技だった。
●
天竜寺 舞(ka0377)はリアルブルーで和服、と呼ばれる衣装に身を包み、同じくリアルブルー由来の下駄を履いてステージに上った。
「皆ー! 今日はリアルブルーの伝統音楽を演奏するよ。よろしくね!」
と客席に呼びかける舞の姿に緊張は感じられない。それもそのはず、舞は小さい頃から舞台に上がっていたのだ。むしろこの雰囲気を楽しんでいる。
そして舞は取り出した三味線をペペンとかき鳴らした。バチを叩きつけるようにして響かせるその音は、弦楽器というより打楽器の感覚。そのリズムは、自然と心をウキウキさせる。
「えへへ……何だかとっても楽しそうなの!」
エティ・メルヴィル(ka3732)は楽しいことはすることもされることも大好きだ。舞の三味線が奏でるパーカッシブな音色に、エティの心も楽しく弾んでいた。
そして、それは舞自身もだ。三味線を引きながらステップを踏み出す舞。下駄が舞台を踏み鳴らす音が、三味線の音に加わり新しい音楽を生み出す。リズミカルな曲は観客席を盛り上げ、観客席の熱が舞台に伝わり、舞の気分をさらに上げていく。音数がドンドン増えていき、舞の手の動きは目で追い切れない域に達していった。
そして空間全体のテンションが最高潮に達した頃、舞は一曲無事に弾き終えた。
「御清聴ありがとー!」
と挨拶して退場する舞。彼女の気持ちは最高に盛り上がっていた。
●
時音 ざくろ(ka1250)は手を振りながら舞台に登場する。
「みんなー、今日はざくろのコンサートに来てくれてどうもありがとー!今日は一緒に楽しもうね」
と挨拶すると、客席ににこっ、と微笑みかける。この微笑みでノックアウトされてしまった男性陣がたくさん出たとか出ないとか。
しかし、肝心のざくろは内心焦っていた。というのも、ざくろは今回のステージのために衣装をお願いしていたのだが、渡された衣装は真紅のゴシックドレスだったのだ。ざくろのことを女性だと思い込んだ担当者がやらかした結果である。
だが、ステージは容赦なく始まる。明るくポップな曲と共に、歌い踊り始めるざくろ。焦っていたざくろだが、いざ音楽が始まればもう腹が据わる。こういうところはざくろは男の子なのだ。
レースがふんだんにあしらわれたドレスは、ざくろの動きに合わせゆらゆらと動き、その姿はまるで炎が舞っているように見える。
「舞い踊る炎に見えるこの姿……興味深いですね」
天央は、そんなざくろの姿に興味津々だ。自然と視線が集まる。そしてそれは他の観客たちも同様だった。
「寒さなんて吹っ飛ばす、ざくろの炎でみんなを熱く……行くよ、炎と光の恋歌☆」
そして、その頃ざくろの言葉と同時に、ステージ上のパフォーマンスに変化が訪れた。ゆらめく炎に、輝く光が追加される。これは、ざくろがリズムに合わせて機動剣を発動させていたのだった。
炎の赤い輝きと、機動剣の白い輝き、二色の輝きに彩られた、華やかなパフォーマンスだった。
●
次に舞台に出てきたのはメトロノーム・ソングライト(ka1267)だ。
「何を披露していただけるのですか?」
モアの質問にメトロノームは
「わたしにできるのは歌う事だけですから……」
ともじもじしながら応える。
そして、一人舞台中央に進み出て、静かに歌い始めるメトロノーム。
その唇から紡ぎ出される音は、まるで空気まで凍りついた冬の静かな澄み渡る空気。風の音色も眠りについて、結晶すら震えるような音色が響く。
「え? 味が変わるんですか?」
食べたことのないまめしに興味を示し、話を聞きながら口に運んでいたエステル・クレティエ(ka3783)も、メトロノームの静かな歌声に耳を傾ける。
しかし、どんな寒い冬でも、家の中では暖炉が、家族の団らんが人々を温めてくれる。メトロノームの歌声も寒い冬の中のぬくもりの様に、優しく澄んだ空気に広がっていった。
メトロノームの歌声が観客の心まで温める。澄み渡るメトロノームの歌声が紡ぎ終わった時、人は誰一人歓声を上げなかった。評価を得られなかったわけでない。この暖かな空気に、もう少し触れていたい……そんな人々の気持ちが、彼女の歌声に歓声ではなく、優しく静かに味わうという行動を取らせたのだった。その証拠に人々は皆優しい笑顔になっていた。
●
「さあ、練習の成果を見せてくれよ。ソルト、シュガー」
舞台に上がったレイオスは、おもむろにハーモニカを取り出す。これを口元に当てるとメロディが流れ始める。決してプロの演奏レベルではない。だが、ノリと勢い、それにハートで勝負だ。
つい先程まで舞台に上がっていたメトロノームが、そんなレイオスの曲を背に客席に戻ってくる。
レイオスが息を吹き込むと流れる澄んだ音色。弾むようなメロディーに心を動かす。
メトロノームも曲を聞きながら、密かにノッていた。そんな彼女のもとにモアがやって来る。
「お疲れ様でした。喉に良いですよ」
と差し出したのははちみつ入りハーブティー。それをメトロノームはゆっくり飲みながら、曲を楽しむ。
一方舞台ではレイオスの袂からパルムが飛び出してきた。ソルトとシュガーと名づけた二人の妖精が、レイオスの曲に合わせてダンスを行い、ステージを盛り上げる。レイオスのハートが伝わったのか、客席の温度も上がっていく。
そしてレイオスが演奏を客席から大きな歓声が上がる。その声を聞きながら、レイオスも二人のパルムも誇らしげだった。
●
伊勢 渚(ka2038)は三味線を担いで舞台に出てきた。
ベベンとかき鳴らし、調弦を行って観客席に一言言い放つ。
「お目汚しになるかもしれないが、聴いてくれ」
そう言うと三味線を爪弾き、謡い始める。伊勢の声はどことなく侘びしさを感じさせる、そんな歌声だ。
「三千世界の~ 歪虚を殺し~ 主と朝寝が~ してみたい~」
これはリアルブルーの日本で活躍した偉人、高杉晋作が詠ったという都々逸を本歌取りにしたものだ。七七七五調で詠われるその歌声は実に味わい深い。伊勢の歌声は人々の心に染みわたるようだ。
「へえ……これがリアルブルーの歌か」
イーディス・ノースハイド(ka2106)も、伊勢の歌声を噛みしめるように聞いていた。
●
そのイーディスとユナイテル・キングスコート(ka3458)が二人してステージに上がって来た。二人共片手には剣、もう片方の手には盾を持っている。紋章が施された盾は、二人が共に正式な騎士であることを意味している。
それもそのはず、二人は共に元王立騎士団に所属していた騎士であった。
「芸事は苦手だからね。その分、研鑽した技を披露させてもらうよ」
とはイーディスの言葉。剣は木剣であり、いくら打ち合っても大丈夫なようになっている。だからといって手を抜くつもりはない。
「私はユナイテル! 名誉に賭けていざ尋常に勝負を!」
と名乗りを上げて、剣と盾を構える。二人から放たれる殺気は実戦の時と何ら変わりない。
そして二人の模擬戦が始まった。
体の大きさに近い、相当大きな長方形の盾を掲げ、守りを固めるイーディス。
しかしそれはユナイテルも百も承知だ。防御を得意とするイーディスに対向するにはどうするか。そこでユナイテルは反撃もろとも潰すような、苛烈な攻めで対抗することにした。
攻撃は最大の防御とばかりに、何度も何度も打ち込むユナイテル。イーディスはその盾で攻撃を受け流していく。ガン!ガン!と剣と盾とがぶつかる音が何度も響く。
何度も打ち込まれながら、盾の後ろで一瞬の隙を探すイーディス。そして彼女はそのチャンスを見逃さない。攻撃と攻撃のほんの一瞬の隙に鋭い突きを打ち込み反撃。ユナイテルはそれを咄嗟にかわしさらに反撃する。イーディスは体をひねり、その一撃をかわす。なびく髪を突き抜けるように木剣が振るわれる。髪一重の差でかわし切るイーディス。
「ならば……」
ユナイテルは手にした剣をスーッと上に掲げる。蜻蛉とも呼ばれる独特の構え。それは守りを捨て、次の一撃で勝負を決めるという決意を現した構えだ。そしてそこから、裂帛の気合と共に木剣を叩きつけるユナイテル。
イーディスはこの一撃は簡単に防ぎきれないと判断した。ならば、相手の一撃を受ける前にこちらの一撃を打ち込む。これしかないとばかりに鋭い突きをカウンターで打ち込む。
どちらの一撃が決まるか? 二人の剣が交錯し、バキィッ! と激しい音が響いた。
目にも留まらぬ両者の一撃が交わった結果。それは、二人が手にする刃の部分が砕け散った木剣が表していた。勝負は引き分けだ。
しかし、勝敗が決しなかったからと言ってその戦いがつまらなかったわけではない。観客は名勝負を繰り広げた両者に惜しみない拍手を送る。後ろの方で、一際強く手を叩く屋外の姿があった。
●
次にステージに上がったのはキララとイスカの姉妹に、イスカの恋人の瀬織 怜皇(ka0684)の三人だ。
「今回はどんな内容なのですか?」
モアの質問に
「巫女として、皆さまの幸せを祈願する唄を歌いますよ♪」
とイスカが答える。三人が披露しようとしているのは、巫女達の間で伝わるハレの日の歌。これはクリムゾンウェストではマテリアルの浄化を行うとても大切な儀式である。先日狂気の歪虚が現れたときに披露されたのは記憶に新しい。だからただ楽しいだけでなく、姉妹は正式な白い巫女服に身を包み準備万端で舞台に臨む。
そして始まる祈願の舞。まず、イスカが祈りを捧げる。すると彼女の持つ御幣と瀬織の持つ刀に光の精霊が集まり辺りを照らし出す。
次にイスカが一礼し、唄を謳い始める。
この紅き大地に満ちる大精霊と
聖地に坐す白竜の御名において
歌声と共に覚醒するイスカ。白竜の翼を思わせる淡い光が彼女を包む。
同時に覚醒する瀬織。彼の周囲を蒼き龍が動く。同時に、手にした刀を振るい剣舞を行う瀬織。これは破邪の願いを込めたものだ。
この地に住まうすべての者を守り導き給い
マテリアルが再び満ち溢れんことを祈らん
知らぬ間に辺りを霧が包んでいた。両手に扇を持ったキララが覚醒したのだ。その霧はやがて濃い部分と薄い部分に分かれ、龍の形へと変わる。キララが舞うとその龍は彼女を追従する。それは実に神秘的な雰囲気だ。
精霊を奉る舞と、雄々しき破邪の剣の舞。二つが歌声と共に時に離れ、時に絡み合う。
蒼の世界と紅の世界、違う場所に生まれた三人。違う二つの世界、祈ることは一つ。
そう、二つの世界の平安だ、
「本当に……ありがたいものです」
滅多に見れぬその舞に、モアは司会の立場を忘れ思わずつぶやいていた。
●
続いてエティが舞台に上がる。エティは
「エティは横笛が得意なの」
と手にした横笛を見せながら、自分の演目をアピールする。
すると、舞台に一つの人影が駆け上がってきた。
「もし、ご一緒できる様なら飛び入りを希望します」
と同じく横笛を見せながら舞台上に表れたのはエステル。エステルは、誰に聞こえるともなく、
「いつもは一人で吹いているので……」
とつぶやいた。それに対し、エティは
「うん! 何だかとっても楽しそうなの!」
と笑顔でOKサインを出す。しかし、出演者のエティがOKしたとしても、司会のモアはどうなのか、と思った人が居たか居ないか、舞台上を見やるとモアの姿が消えていた。
「さあ、ルカさんも上がってください」
とモアがルカを引っ張ってきた。
「恥ずかしいです……」
と拒否するルカ。だが、舞台上の二人はルカに微笑みかける。
「1つの小さな楽しさより、皆の大きな楽しさ。うん、すっごく素敵なの☆」
と手を差し出すエティ。これで決まった。急遽結成された横笛による三重奏。
エステルとルカは大きく深呼吸し、緊張を解きほぐすように客席に向けて笑顔で一礼。そして三人の横笛がハーモニーを奏で始める。
エティはスタッカートを多用し、跳ねるような演奏。
エステルはそんなエティの演奏に寄り添うように音を紡ぐ。
そしてルカは二人の演奏を包み込むように、柔らかく音を重ねていった。
三人が奏でる演奏は、自然と観客たちの心をわくわくさせていく。
「横笛をこうやって聞いたこと無かったけど、とっても楽しいね!」
と舞の心も踊っていた。
●
最後に舞台に立ったのはミオレスカだ。彼女は手にハープボウを持っている。
そして早速弾き始めるミオ。彼女の竪琴から奏でられる音は、観客のイメージとはずいぶん違っていた。
流麗というよりワイルドで、洗練された音楽というより、土着の音楽の荒々しさを感じられる。
そんな曲調はミオの狙いであった。他の者達の演奏を聴き、どういうものが受けるのか、を彼女なりに考えた結果だ。
そして演奏が進む。ミオは客席のシルフェや、イスカ、キララ姉妹に視線を送った。
彼女たちは全員辺境の人間である。だからミオが奏でる地元を思い起こさせる音楽に合わせ、彼女が伝えたいことが理解できた。音楽は、時に言葉よりも思いを伝えることができる。
三人はステージに跳び乗り、思い思いに即興で合わせていく。シルフェのタップが重なり、イスカの歌声が乗り、キララが扇を手に舞う。そしてこの三人のしたことが引き金になった。摩耶はギターを、舞と伊勢は三味線を手にステージに上がり、演奏を合わせていく。レイオスはそれにハーモニカで合わせ、エティ、エステル、ルカの三人が横笛の音色を加える。ケイとメトロノームの対照的な歌声は不協和音ではなくハーモニーを奏で、ざくろの歌声がポップな味付けを加えていく。踊れるものも踊れないものも自分なりに踊りだし、一大セッションが始まっていた。
ミオは再びシルフェにアイコンタクト。ステージ中央に進み出たシルフェがタップダンスでソロを取ると、彼女はロルにアイコンタクトを飛ばす。ロルはそれを受け、交代するように中央に出るとナイフアクションを行った。そこから視線がつなげるソロパートの数珠繋ぎ。それは、この街コンという機会で出会った人々の絆を、つながりを感じさせるものだった。全員によるジャムセッションはいつまでも、いつまでも続いていた。
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「さて、優勝者なのですが……困りましたね」
モアがステージ中央に進み出てそう語る。予定では歓声の大きさをモアが判断し、優秀者に賞品を渡す予定だったのだが、全くもって甲乙付けがたい。一体誰を選べばいいものやら。
しばし考えていたモアだが、参加者全員を見てこう語った。
「もし皆様がよろしければ……全員に賞品をお配りしてよろしいでしょうか? もちろん一人ずつの量は減ってしまいますが」
モアの提案に異論を挟むものはいない。というわけでステージには賞品が個別に分けられて置かれ、各自が思い思いに持って帰ることになった。
「さて、豪華賞品は何かな……」
レイオスは早速包みを開く。中から出てきたのはまめしだった。
「ジェオルジからの提供ですよ。まめし、美味しいですよね」
とモアがレイオスに語り掛ける。
しかし、皆が手に入れた賞品はこれだけではなかった。何より、いろいろな人との交流という賞品を手に入れたのだから。
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【相談】街コンを楽しみましょう ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/12/28 09:53:04 |
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【重要】コアタイムについて モア・プリマクラッセ(kz0066) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|一般人 |
最終発言 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/28 09:40:31 |