ゲスト
(ka0000)
【街混】巡り巡る混沌と椅子
マスター:雨龍一

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/01 22:00
- 完成日
- 2015/04/10 14:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
年末年始とはどの世界でも共通にして忙しいのかもしれない。
それは責任を伴った立場での忙しさだったり、共にいる人とのわずかな時間を一緒に過ごそうと目論む楽しさだったりもする。
しかし、残念ながらそれが叶わない人間もいて――
「ふわぁぁ」
スウィルは目の前に広がる広場に思わず声を上げた。
彼女自体は旅人――と称するしかない程のしがない流しだったりする。
そんな中、たどり着いた街で資金確保のために色々な仕事を請け負っていたりするのだが。
「で、出来るのかなぁ」
初の大舞台となりそうな今回の仕事はとある怪しい禿のおっさん……もとい、エチ ゴーヤ(kz0080)によるイベントの司会だった。
しかも、イベント自体もその司会が企画担当だったりもする。
「ふぇぇ……で、でもお給金良かったし、年末だと物価高いし……」
唯一ともいえる荷物の楽器を抱きしめながら、書き出してもらった今回の条件を確認していく。
「食べ物……ごきゅん。いあいあ、あくまでもあたしじゃなくお客さんが食べるのだしぃ……」
第一項目である大量の飲食が提供される旨が彼女の胃袋を刺激する。
「えっと……出会い?」
どうやら見知らぬ人同士で楽しく過ごせるような、そんな感じにしたいのでは……と、少し違った意味に受け取る。
残念ながら、彼女はコンパなどといったものには縁がなかった。
「ふむふむ……じゃぁ、とりあえず適当に話せる環境を作ってあげればいいんだねっ!」
ぽんと手を打つと、目の前の広場にあるものを吟味しだした。
「よぉっし。あとは参加者を使って……」
広場の中心にあるステージの上には、椅子がずらりと円状に並べられている。
しかも、その椅子の裏側には何やら紙が貼ってあるようだ。
「ふふ……一回やってみたかったのよねぇ。いすとりげーむっていうやつ」
前に訪れた街で子供たちが遊んでいたのを思い出したのだ。
それを少し応用して趣向の一つとして盛り上げようというつもりらしい。
「まぁ……一回顔合せたら、切っ掛けにはなるでしょ」
後は……と、最初とは打って変わってルンルン気分で会場を設営していく。
もう少ししたら、依頼主であるエチ ゴーヤからの使いが料理等をセッティングしていくであろう。
大きなテーブルを2つに分け、そこに料理を置くようだ。
そして、その近くには4つに分かれたテーブルとイスがある。どうやら、グループ分けが目的らしい。
そして、そことは違う場所で椅子のみが置かれた部分もまたあった。
テーブル席以外は、どうやら立食のようだ。
「ふふん……あとは、まぁあたしもご馳走食べたいし。――ごちそう」
きゅるるんとどこかから音がしたのは、気のせいだろう。
そんなこんなで、エチ ゴーヤによる街混会場がまた一つ完成したようだった。
それは責任を伴った立場での忙しさだったり、共にいる人とのわずかな時間を一緒に過ごそうと目論む楽しさだったりもする。
しかし、残念ながらそれが叶わない人間もいて――
「ふわぁぁ」
スウィルは目の前に広がる広場に思わず声を上げた。
彼女自体は旅人――と称するしかない程のしがない流しだったりする。
そんな中、たどり着いた街で資金確保のために色々な仕事を請け負っていたりするのだが。
「で、出来るのかなぁ」
初の大舞台となりそうな今回の仕事はとある怪しい禿のおっさん……もとい、エチ ゴーヤ(kz0080)によるイベントの司会だった。
しかも、イベント自体もその司会が企画担当だったりもする。
「ふぇぇ……で、でもお給金良かったし、年末だと物価高いし……」
唯一ともいえる荷物の楽器を抱きしめながら、書き出してもらった今回の条件を確認していく。
「食べ物……ごきゅん。いあいあ、あくまでもあたしじゃなくお客さんが食べるのだしぃ……」
第一項目である大量の飲食が提供される旨が彼女の胃袋を刺激する。
「えっと……出会い?」
どうやら見知らぬ人同士で楽しく過ごせるような、そんな感じにしたいのでは……と、少し違った意味に受け取る。
残念ながら、彼女はコンパなどといったものには縁がなかった。
「ふむふむ……じゃぁ、とりあえず適当に話せる環境を作ってあげればいいんだねっ!」
ぽんと手を打つと、目の前の広場にあるものを吟味しだした。
「よぉっし。あとは参加者を使って……」
広場の中心にあるステージの上には、椅子がずらりと円状に並べられている。
しかも、その椅子の裏側には何やら紙が貼ってあるようだ。
「ふふ……一回やってみたかったのよねぇ。いすとりげーむっていうやつ」
前に訪れた街で子供たちが遊んでいたのを思い出したのだ。
それを少し応用して趣向の一つとして盛り上げようというつもりらしい。
「まぁ……一回顔合せたら、切っ掛けにはなるでしょ」
後は……と、最初とは打って変わってルンルン気分で会場を設営していく。
もう少ししたら、依頼主であるエチ ゴーヤからの使いが料理等をセッティングしていくであろう。
大きなテーブルを2つに分け、そこに料理を置くようだ。
そして、その近くには4つに分かれたテーブルとイスがある。どうやら、グループ分けが目的らしい。
そして、そことは違う場所で椅子のみが置かれた部分もまたあった。
テーブル席以外は、どうやら立食のようだ。
「ふふん……あとは、まぁあたしもご馳走食べたいし。――ごちそう」
きゅるるんとどこかから音がしたのは、気のせいだろう。
そんなこんなで、エチ ゴーヤによる街混会場がまた一つ完成したようだった。
リプレイ本文
●
その時、会場にやって来たハンター達が見たものは数々の椅子だった。劇場などに並べられる椅子よりは遥かに数が少ないはずなのだが、円形に並べられているため数よりも多く見える。
これらの椅子を並べてやること、それに察しの良い者は気づいていたようであった。
「イス取りゲームって懐かしいな、オイ」
鹿島 雲雀(ka3706)もその一人だった。が、わざわざ付き合ってやる必要もない。大きく足を広げて手近な椅子にどっかと腰を下ろした所で
「はい、まだ座っちゃダメよ~」
と司会のスウィルがもう一度立たせる。そんなこんなしている内に他のハンター達も集まってくる。「あ、場所できとった……!」
と入ってきたミィナ・アレグトーリア(ka0317)は
「とりあえず飲み物類はこっちに準備でええかな?」
とミルクやらぶどうジュースやらを並べていく。
「さて、ケーキは何処かな?」
と辺りを見回すイーディス・ノースハイド(ka2106)。彼女はケーキが気になっているようだ。
「会場はここかのぅ? 飲みつつ甘いものを摂取なのじゃ」
とやって来たヴィルマ・ネーベル(ka2549)は既に楽しげな様子で浮かれている。
「甘いものに惹かれて外に出たらご覧の有り様だよ!」
と不満を漏らしているのはエハウィイ・スゥ(ka0006)。端的に言えば引きこもりの彼女が甘い物を食べ放題と聞いて街混に参加したらこれである。できれば動きたくない。しかも、彼女が不満を漏らす理由はそれだけではない。
「あっ! ウィイちゃんだ! ウィイちゃあん!」
キルシッカ・レヴォントゥリ(ka1300)に見つかってしまったのだ。エハウィイは決してキルシの事を嫌いではないが、賑やかで楽しげな雰囲気に大声ではしゃいでいるキルシの側に居るだけで疲れてしまう。
「いすとりゲームってなあに? いすをいっぱいとるのかな? たのしそう! かりはとくい! いっしょにいっぱい、いすをとろうね! え? いすとりゲームだけど、いすはとらないの? ふしぎ!」
ますますはしゃぐキルシの声をBGMに、エルウィイはどうしてこうなった、と大きくため息を一つつくのだった。
そんなこんなをしている間に会場に参加者が全員到着し、イス取りゲームが始まる。スウィルが曲を演奏している間、参加者は椅子の周りをぐるぐると歩く。その内に演奏が止まったら合図。一斉に椅子に座る参加者達。
「ではではっ、椅子の裏の紙を見てくださいっ」
とスウィルが音頭を取った所で、不満の声が上がった。
「エルちゃん、椅子に座れなかったんだけどー!」
と声を上げたのはエリス・ブーリャ(ka3419)。実は参加者25人に対して置かれた椅子は21個。足りない分座れない者達が出てくるのは道理である。
そんなエルを置いておいて、スウィルは司会を続ける。
「紙に書かれた数字がグループです。適当に椅子を並べてグループ作ってね。あ、椅子に座れなかった人はその人達だけでグループね」
この言葉を聞いて、ぽつねんと取り残されていたエルの顔にニヤリと笑みが浮かぶ。
「楽しく過ごせばいいんだよね? 私そういうの、得意だよ♪」
さらに隣を見れば夢路 まよい(ka1328)が居る。先日街角インタビューに答えていたまよいを見て、雰囲気とかキャラとか似てると(勝手に)ライバル視していたエル。早速絡みだす。
「ヘイヘイ、あなたどこギルド? エルちゃんGSMのひとー」
しかし、ここで誰も予想だにしていなかった事があった。エルとまよい、この二人は楽しいことが大好きな享楽主義者という点で完全に一致していたのである。となると、仲良くなるのはのに時間は要らなかった。他のグループがまともに街コンをスタートさせる前に肩を組んでキャハハと笑いながら会場中を練り歩く二人。この二人が椅子無し、つまり自由に動き回れるグループになった時点で今回のイベントがカオスな事になるのはもはや自明の理であった。
●
「宴会といえばお酒、蔵出しの逸品を揃えてきました……是非」
その頃、第1グループでは早速酒盛りが始まっていた。王国自慢のデュニクスワインを持ち込んだのはユナイテル・キングスコート(ka3458)。秘蔵の逸品を手に入れられたのはさすが元王国騎士団といった所か。
「まぁ、まぁ! こんなに楽しくて華やかな場、久し振りですわっ♪」
一方、すっかり賑やかになった(その原因の大半はエルとまよい)会場の雰囲気に胸をときめかせていたのはロジー・ビィ(ka0296)だ。そんな彼女の目に映ったのは
「……あら、あそこに見えるは、お酒、かしら? ふふっ、良いですわね~」
ユナイテルの持ち込んだワインであった。早速一杯受け取り口をつける。
「……楽しい場にはお酒が良く合いますわ!」
口に広がり鼻に抜ける芳醇な香りを楽しみながら、明るくお酒を飲みだすロジー。
「エチ ゴーヤ? 街コン? 街混!? いったい何なのかしら」
対照的に頭にハテナマークを一杯浮かべ、戸惑っていたのは摩耶(ka0362)である。果たして何をすればいいのか考えて、考えあぐねた挙句
「どうすればよいかわからないのだけれど、とにかく食べればいいのね」
とわかりやすい結論になる。
そこに大量の食事を運んできたのはシバ・ミラージュ(ka2094)だ。ハンター登録をして間もない彼には、ここにはあまり顔見知りの相手が居ない。新参の立場で参加すべきでは無かったかも、と公開しつつ、ならば皆が楽しめるお手伝いをしようと配膳作業を行っていた。両手に大量の料理を持って摩耶の前にずらずらと並べるシバ。そしてその料理を眉一つ動かさず、黙々と口に運ぶ摩耶。
「なにかよくわからねえけどよ……酒と食い物とカワイコちゃんがいるなら、来ねえ理由はねえ!!」
そこに突撃してきたのはキー=フェイス(ka0791)。酒はユナイテルが用意した。食べ物ならシバが大量に運んでいる。そしてカワイコちゃんならユナイテルにロジーに摩耶とよりどりみどりだ。早速適当に飲んで適当に食べつつ品定め。そしてそんなフェイスが見定めたのは、別の場所にいる人間だった。
「お? あそこにいる綺麗な黒い髪のお嬢さんとか、いいねぇ」
と食事を楽しみつつ観察中だ。
その頃、会場の一角ではエリオット・ウェスト(ka3219)が机の上に何やら大量の品物を置いていた。水にレモン、砂糖にぶどう、そして謎の薬品。
「僕もだけど、アルコールが飲めない人のために、こっちの世界じゃ珍しいソーダ水を作るよ」
この薬品の正体は炭酸水素ナトリウム、俗にいう重曹だ。
「何だか面白そう!」
その調理というよりは実験という言葉の方が似合っている状況に、ワクワクしながら首を突っ込んできたのはまよい。早速調理開始だ。
といっても簡単、すべての材料を混ぜるだけ。あっという間にレモンソーダが出来上がる。
「おおっ! 口の中がパチパチして楽しー!」
と一口飲んで大騒ぎするエル。
「こういうのんびりほのぼのとした雰囲気は好きですが、どうも馴染めませんね」
その頃対照的に会場の片隅で椅子に座っていたのはジーク・ヴュラード(ka3589)だ。のんびり椅子に座っているヴュラードだが、その格好は異様。真っ黒な全身鎧に身を包み、フルフェイスの兜をかぶって顔が見えないようになっている。
「折角の出会いパーティというのだから、存分に楽しまなきゃね!」
とそこにやって来たのはロジェ・オデュロー(ka3586)だ。オデュローとヴュラードは友人同士だけあって、オデュローの格好も異様だった。全身うさぎの着ぐるみを着用し、その上からさらにタキシードを着用したその姿はまるで童話から抜けだしたようだ。
何となく助けを求めるような空気を出すヴュラードだが、オデュローは気づかない。
そんなオデュローだがリュートを手にしている。実は彼も椅子に座れなかった。そこでとばかりに、あちこちのテーブルを渡り歩きながら、弾き語りを披露することにしたのだ。となるといくら友人とはいえ、ヴュラードとばかり語っているわけにはいかない。挨拶を終えるとさっと席を立ち、次のテーブルに向かうオデュロー。そして黒い鎧が一つ、取り残されるのであった。
●
「みんなー! こんばんわ! ざくろは時音ざくろだよ! よろしくね!」
一方第2グループは、時音 ざくろ(ka1250)の自己紹介から街コンが始まった。元気いっぱいの挨拶の後には満面の笑み。それはまさにリアルブルーで言うところのアイドルのそれだ。そのスマイルにキュンと胸をときめかせた者もいたとかいないとか。しかし残念ながらざくろはこんなルックスでも男。今日は女の子に間違われないといいな、と思いつつ周囲を見渡して思う。
(このグループ、性別間違えそうな人多い?)
そんな性別を間違われそうな代表がアルファス(ka3312)。アルファスは早速ケーキを沢山取ってきて、テーブルの皆に配ろうとしていた。そこにざくろの視線が合う。
「一緒に行きませんか?」
と言うわけで、二人でテーブルの皆に順番に挨拶をしていくことになった。だが、その前に
「わぁ、ケーキ、食べる! 食べる! ……凄く美味しそう」
とケーキに目を引かれていたざくろがぱくりと一口。そして
「おお、美味しい♪」
そして幸せのおすそ分けとばかりにテーブルを回り始める。
最初にやって来たのはケイ・R・シュトルツェ(ka0242)とヤナギ・エリューナク(ka0265)の二人組。二人共黒い、鋭い印象を与える服に身を包み、静かに椅子に佇んでいる。
「こんにちはー!」
と挨拶しても、二人のクールな横顔は崩れない。ややあって、ケイがざくろの方に振り向いた。
「ステージ……有るなら歌わなくて何をすると言うのかしら?」
と指差した先にあったのはステージだ。どうもこの二人はステージ上で何かを披露しようとしているようだ。それに対し、ざくろも何かやる事を思いついたらしく、笑顔になる。
「よければ僕の曲に合わせてひとつ歌ってくれないかい?」
そこにやって来たのはオデュローだ。リュートをポロロンと爪弾いて、アイコンタクト……はできるかわからないが、ともかく意思を伝える。それに対しケイが微笑んだかのように見えた。
それを肯定の合図として、オデュローが演奏を始め、そしてケイの歌声が口から放たれる。
その時会場に響き渡ったのはパワフルでセクシーなケイの歌声。一瞬の内に会場の雰囲気が変わったかのように思え……そしてケイはワンフレーズで歌を止めた。
「残りはステージで、ね?」
そして、ケイはエリューナクに何やら耳打ちをしているのであった。
「じゃあ代わりに私達が歌うー!」
と乱入してきたのはまよいとエルのコンビだ。あっという間にドタバタと大騒ぎの喧騒に包まれる第2グループのテーブル。
「あー、人伝にメシが腹いっぱい食えると聞いて来たはいいが……」
その状況に巻き込まれていたのはカルス(ka3647)だ。早速始まった大騒ぎに思わず
「なんだこの、混沌とした状況は?」
と漏らしてしまう。しかしまずはメシの確保だとばかりに食事を持ってきて、食べ始めるカルス。
その隣で同じように食事を始めようとしていたイーディスだが、そこにざくろとアルファスが挨拶にやって来る。それに対し椅子から立ち上がりお辞儀をするイーディス。さすが元王国騎士団員として礼儀作法が身についている……が、ここでイーディスはアルファスが持っている物に目が行く。
「ケーキをお一ついかがですか?」
「うん、いただくよ」
少し微笑みそう返し、ケーキを受け取るイーディス。しかし彼女の心は内心浮き足立っていた。実は彼女、ケーキが大好きな超甘党なのである。
「この街に来たばかりだけど、いつもこんな感じなんですか……?」
そしてこのテーブルではセツァルリヒト(ka3807)が呆然と立ち尽くしていた。辺境から来た彼には、カオスで賑やかな熱気の奔流に飲まれて右往左往するのが精一杯。はたしてどうしたものか。いろんな人と話そうと思ったのだが、誰に話せばいいのか困ってしまうのであった。
●
「グループ分けされて椅子に座ったらもう動かないから。何されても動かないから。何なら地べたに寝転ぶ勢いだから!」
第3グループではそう叫び、じっと椅子にしがみついてお目当てのケーキを食べようとするエハウィイの姿があった。しかし、こう言ってその通りに事が運んだことなど古今東西を問わず無いのである。
「……あれ? ウィイちゃんなにしてるの? ひきこもりするのは、おうちにかえってからだよ!」
そう、キルシに見つかってしまったのだ。
「いっしょにみんなとおはなししよう! ほら、いっしょにいこう! ね?」
椅子にしがみつくエハウィイだったが、あえなくキルシによって椅子ごと引きずられていくのであった。
「人と話すのは大好きなのじゃ。皆色々な考えをもっておるしのぅ」
そんな二人に声をかけたのはヴィルマだ。あっという間に打ち解けて楽しみ始めるキルシと対照的に、どうしてこうなったと呆然としているエハウィイ。
「椅子取りゲームを組分けに利用したか。なるほど、見知らぬ者同士の会話には切欠が必要だからな。良く考えたものだ」
とそんな様子を横から感心して見ていたのはレシュ・フィラー(ka3600)。あちこちで楽しげに食事を取り、飲み物を飲んでいる様子を見て自分も食事に取り掛かろうかと思った所で、食べ物がこちらには無いことに気づく。
「せっかくのお祭りだし、目一杯楽しみたいしね」
ちょうどそこに戻ってきたのはユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)。その手にはいっぱいのケーキと紅茶。見ればあちこちですごい勢いで食べつくす者達のせいで、あれだけ用意されていた食べ物が既に心もとなくなっていた。そこでユーリは念のため自分の経営する雑貨屋に戻り、これらを持ち込んだのだった。
甘くて美味しそうなケーキを見てやっと顔に生気が戻るエハウィイ。
「この番号に従って組み分けしろってか? おう、宜しくなー」
さらにそこに大量の食事を確保した雲雀が戻ってきた。やっぱり飲み食いを楽しまなければ嘘だと全種類制覇を目指している雲雀。その前にユーリが用意したケーキがずらりと並ぶ。
「そのケーキ美味しそう~」
さらにまよいが美味しそうなケーキに引き寄せられ、フラフラと乱入してきた。まよいがやって来たからにはもちろんエルもセットである。
そして始まる楽しい食事タイム。王国の貴族の次男として生まれたフィラーなどは、こういった形での食事に最初は思わず戸惑うが、美味しいケーキが彼の心を解きほぐす。これも良い経験だと無心で食事に勤しむ。
そしてテーブルの片隅で、デルフィーノ(ka1548)が黙々とギターをチューニングしていた。視線を向ければそこにはケイとエリューナクの姿。喧騒を横目に、その時に備えて一人、ギターを触っていた。
●
もはやどこで誰が何をしているのか、誰も把握していないカオスな状況になっていた。そんな中、一人空いた皿を片付けていたシバ。
喧騒の中一人孤独を感じてしまい、物寂しさのあまり思わず目がかすむ。そんなとき声がかけられた。
「きみのような方が憂い顔なんて、似合わないよ」
声の咆哮を振り向くとそこに居たのはうさぎの着ぐるみ、そう、オデュローだ。リュートをつまびき、シバに微笑みかける。いや、表情はわからんが。
「さあ、僕の曲で笑顔になってくれ、レディ」
その声に目元を拭って一言。
「僕男の子です……」
「せっかくだから一緒にどうですか?」
そんな状況でシバに声をかけてきたのはヴュラードだった。ここにはシバが配膳に勤しんだ食べ物が沢山積み上げられている。一人で食べるのもいいが、皆で食べるのもまたいい。そしてさあ食事をしようとしたところで、ヴュラードは大変なことに気づいた。
「で、今気づいたのですがこの全身鎧状態でどう飲み食いすればいいのでしょうか。人がいる前で脱ぎたくない……しかし飲食はしたい。……悩ましい」
うーんと考えこむヴュラードの姿をみて、思わずふわりと笑みがこぼれるシバであった。
●
その頃カルスは虎視眈々とチャンスを狙っていた。何のチャンスか? それは好きなだけ食事、それもスイーツを狙い撃つチャンスである。何せここには食事がいっぱいある。それなら、とばかりにカルスが建てた作戦はこうだった。
女は甘味を好む。そこにカルスが気を利かせて盛り合わせを持っていく。そして混ざって食べる。
「完璧すぎる作戦だろ……完璧すぎて血糖値があがりそうだぜ」
そしておあつらえ向きに綺麗なのとかわいいのが二人やって来た。しかも綺麗な方は沢山のケーキを抱えている。これはチャンスだ。
「お嬢さん方、一緒にスイーツはどうだい?」
と素早くケーキ盛り合わせを取って持っていくカルス。しかし結論から言うとこの作戦は大失敗に終わるのであった。
「ざくろ男、男だから」
そう、カルスが声をかけてしまったのはざくろとアルファスだったのだ。わたわたと真っ赤になるざくろ。その隣で妖艶な笑みを浮かべているアルファス。そしてガックリと肩を落とすカルスの姿がそこにあった。
●
セツァルリヒトはどうしたものかと辺りを見回していたが、そこで目に入ったのは幸せそうな表情でケーキを口に運ぶイーディス。
「ケーキ、美味しそうですよね。甘いものはお好きなんですか?」
おどおどしていた彼だが、甘いものは共通言語なようだ。
「うん、甘いモノは大好きだよ。その中でもケーキは至高だね、色んな味が楽しめるし彩りも鮮やかで綺麗だ」
「ケーキあるよー」
とイーディスが返した所でアルファスはチョコケーキとショートケーキをホールで置く。
早速ケーキを取り分けようとした所で、3人は視線を感じた。
そこに居たのはケーキをじーっと見つめるまよいの姿。さらにその隣にはミィナもやって来ていた。「あ、ケーキ配った方がいいかな?」
そこで二人にもケーキを配るアルファス。
「ありがとう! ん~っ、美味しそう♪ いただきま~す」
立ったままケーキに飛びつくまよい。口の周りをクリームだらけにしてケーキに舌鼓を打つ。
「ケーキみんなで食べた方が美味しいですよね」
そんなまよいの姿を見て、自分まで幸せになるセツァルリヒトであった。
●
辺りはすっかり相当騒々しい状況になっているのだが、摩耶は相変わらず黙々と料理を食べていた。ただひたすらに食べていた。黙々と、ペースを一切変えず、テーブルマナーも守りつつ食事を続けていた。
その前をフェイスが通り過ぎていった。フェイスが見定めた『綺麗な黒い髪のお嬢さん』とは
「ちーす黒にゃんこちゃん、もしかして会場スタッフか? 美味しいもん食ってる?」
司会を務めていたスウィルであった。
「どうだ、折角のイベントなんだしよ、俺と一緒に飲まねえか? 貴重なこの出会いに乾杯ってな」
そのまま壁側に体を寄せ、両手で逃げ道を塞いで顔を寄せる。最近流行らしい壁ドンだ!
だがスウィルはスルリとかわすと、たった一言。
「お断りします」
と笑顔のままで回答する。そしてその場には一刀両断にされ茫然自失なフェイスが立ち尽くすのであった。
●
ユナイテルとロジーの二人はワインを飲みながら楽しい話に花を咲かせていた。酒には強いと自認している二人だけあって、かなりのピッチで飲み進めているはずだが、ほんのり頬が赤くなった程度だ。
となると自然と行われることは飲み比べである。交互に杯を空ける二人。
「飲み比べとあらば我も参加するのじゃ!」
さらにそこにヴィルマも乱入し、酒豪たちによる狂宴が始まるのであった。
●
「さて、今年の運勢を占ってみるのはいかがでしょう」
そう言いながら、アルファスが沢山のケーキを持ってきた。
「食べて中にコインが入っていたら大きな幸運が訪れる、甘い木の実が入っていたら小さな幸運が訪れる……といった感じですね」
「それだと皆幸せになれるんだね」
とエリオットがケーキを一口。すると
「うわ、ケーキから辛い実が!」
「と、不運な人はこうなると。名づけてロシアンケーキと言ったところでしょうか」
涙目になっているエリオットを尻目に、怖いもの知らずな挑戦者が次々とロシアンケーキに手を出していく。
「試してみるかね」
最初の挑戦者は先ほど不幸な目に会ったばかりのカルスだ。まあこういう状況でロシアンケーキに挑戦しても結果は見えているわけで、そのしかめっ面になっているカルスの顔を見てお察しください。
「何が当たっても幸運だと笑ってみせよう!」
次に挑戦するのはオデュローだ。早速ケーキを一つ取り口に入れる……どうやって口に入れたんだ?
まあそれはイリュージョンということにして、言葉通り笑っているオデュロー……まあ笑っているも何も着ぐるみの顔は変わらないのですが。ただ、何だか着ぐるみが妙に汗をかいていたのは気のせいではなかったようだ。
「運試しの一種? ふむ、やってみるのも一興か」
続いての挑戦者はフィラーだ。言うなりケーキをパクリと一口。そして良しと頷く。どうやら初めての幸運はフィラーに微笑んだようだ。
「こういうのも中々に良いな。今度は、アイツも連れて来るか」
と機嫌を良くし、次回の事を考えるフィラー
「ケーキに甘いお酒……幸せすぎ。私大丈夫なのかなこんなに……すみませんすみません。あ、おかわり」
次にやって来たのは飲み比べに参加していたはずのヴィルマだ。酒には強いが、それでもすっかり酔っ払ってしまったヴィルマ。酔っ払ったヴィルマは先ほどと全く違い、臆病におどおどし始める。果たしてどちらが素なのやら。
それはさておきやって来るなりケーキを一口。すると甘い味わいが口に広がる。
「ひぃっ! こ、こんなに幸せでいいのかな……」
なぜか怖がり始めたヴィルマだった。
「美味しそうなケーキだけど中身が気になるのん!」
そこにやって来たのはミィナだ。早速一つ選び
「頂きます」
とかぷりと食べる。
次の瞬間、大慌てで近くにあったブドウ色のグラスを手に取り一気にがぶ飲み。
「ふぇぇ~辛かったにょん~!」
舌を出しているミィナ。どうも不運な目にあったようだ。そして彼女の不運はこれだけではなかった。
「むぇ。そう言えばジュースにしては甘くなかったにょー。ふぁふぁするしおしゃけらったんかにゃー」
みるみる顔が赤くなり、千鳥足で歩き出すミィナ。そのまま涙目でソーダ水を飲んでいたエリオットに抱きつく。
「ソーダ水上手くいったにょ?」
そしてそのままエリオットが手にしていたグラスを飲み干し
「すごくシュワシュワしてるにょー♪」
と抱きしめる。誰がどう見てもわかりやすく酔っ払っているミィナ。そして真っ赤になっているエリオット。その背後で最初にミィナが飲んだグラスを一口飲んだ雲雀が
「……これブドウジュースだよな?」
と首をひねっていた。
「今日は種類も多いし、美味しいモノが多くて嬉しいよ」
とご機嫌なイーディスが最後にロシアンケーキにも手をつける。いつものように一口。すると
ガリッ!
という音が。イーディスが口元を見ると、そこに銀貨が一枚入っていた。
「おめでとうございます。今年は幸運が訪れそうですね」
「うん、ケーキがたくさん食べれて幸せだよ」
と柔らかく微笑む姿は、歳相応の女性のそれであった。
「それであなたはケーキは食べないのですか?」
とアルファスが雲雀に声をかける。
「いや、酒のつまみになるような、辛いモンとかねーかなーってさ」
「それならお口に合うかわかりませんが」
と取り出したのは煎餅であった。早速雲雀は一口。
「気が利くじゃねーか……お、これはイケる」
と辛党の彼女好みの味わいにご機嫌だ。
「僕も一口貰っていいかな」
と復活したエリオットも欠片を一つ貰い口に入れる。
「ああ、それは余った辛い木の実を使って作ったんですよ」
「……先に言ってよ」
そこには再び涙目になっているエリオットの姿があった。
「じゃあ私も挑戦するよ」
と名乗りを上げたのはユーリだ。ケーキをサーブしていたら親友が何やら楽しそうなことをしている。一も二もなく参加するユーリ。
早速選んで一口食べると、甘い味わいが広がる。どうやら幸運に恵まれるようだ。にっこりと微笑むユーリのその後ろで、何やら別の大騒ぎが始まるのであった。
●
「そうそう、小さな花火を持参しましたの」
騒ぎの中心にはロジーがいた。早速並んでいる料理に突き刺して火をつけるロジー。
「……ほら! こんなに華やかさが増して……素敵でしょう?」
ころころと笑うロジーの顔が花火のオレンジ色の光りに照らされる。美しい顔が火花に演出されて、より一層華やかな雰囲気が出る。
だが、花火が騒がしいわけでもロジーが騒がしいわけでも無かった。
「花火? はなびはいいれすねー!」
と大声を出しているのはユナイテル。酒には強いはずだったのだが、どうも相手が悪すぎたようだ。
「あ、あの! いいですか!」
そんな中、近くではセツァルリヒトが恐る恐る声をかけていた。
「お、俺か? いいぜ」
と声をかけられたフェイスも機嫌よく対応。ナンパは失敗したものの、美味しいお酒を飲めればあっとという間に復活だ。
「……で、そういうことがあってこっちへ出てきたのか」
「ええ、そうなんです」
少し時間が経てば、打ち解けて話を始める二人。その証拠にセツァルリヒトのしゃべり方は歳相応の物に変わっていた。この場の雰囲気は距離を縮めるのに大いに役立っているようだ。
「いやぁ、そんなちびっこいナリして大変だな」
「ちびっ子? だれがちびっ子れすかー!」
が、そんな会話の最中フェイスの言葉を聞いたユナイテルが突然絡みだす。脇にフェイスの頭を抱え込むと馬鹿力で締め付け始める。レスリングは騎士の嗜みの一つである。
「い、いてー!」
「あ、あの、キーさん! ユナイテルさん!」
じたばたするフェイスとそれを止めようとするセツァルリヒト。セツァルリヒトは状況にどうすればいいのかとパニックを起こす。そして周りの余りにカオスな状況とそこからもたらされる情報量に
「……きゅう」
目を回してダウンしてしまった。
「お、おい! 大丈夫か?」
開放されたフェイスが助け起こそうとしている所で
「ああ、なんて事をしてしまったのでしょう」
すっかり酔いが覚めたユナイテルが落ち込んでいた。
こうしてセツァルリヒトの初めてのリゼリオは終わった。これから彼には沢山の出会いと冒険が待っているだろう。その第一歩をこうして踏み出したのだった。
●
「みんなー、盛り上がってる!」
そんな時、突然会場が暗くなり、そしてステージが照らしだされた。そこには真紅の衣装に身を包んだざくろがポーズを決めて立っていた。実は何を隠そうざくろはピュアアルケミーというアイドルグループのメンバーなのである。ステージネームはピュア紅だ。
その姿にピュアアルケミーの事を知っていた摩耶は一瞬ステージ上に反応し……そして摩耶なのでまた食事を再開した。というかこの人もうどれだけ食べたんだろう。
「良かったら、ざくろの歌と踊りで、楽しんで行ってね♪ 聞いて、恋のマジカル★機導術」
その合図と共に、明るくポップな曲が流れ始める。そしてざくろが口を開こうとしたその瞬間
「「ちょっと待ったー!」」
の声と共にステージに飛び込んで来たのはまよい&エルだ。
「アイドルといったらエルちゃん! みんなー、のってるー?」
エルは最初から超ハイテンションだ。
「アイドルといったら私!」
と声を上げたまよいは、残念ながら口の周りにクリームがたっぷりついていた。
そんなまよいの口元を拭きつつ
「よーし、それじゃあざくろと一緒に行っちゃうよ!」
と突如結成された三人組によるライブが改めてスタートした。
明るい曲に合わせて歌い踊るざくろ。残りの二人も見よう見まねで踊るが、エルは元々ダンスが得意だけあって初見のざくろの振り付けにピッタリ合わせて行っている。
一方のまよいは素養が無いため、ちょっと振り付けが遅れたりしているが、それはそれでカワイイと大好評だ。
そしてステージ上で三人がダンスを披露していた頃
「アルファス、私達も踊ろう?」
とユーリが手を引っ張ってステージ前に飛び出す。
お酒が入ったからか、足元をふらつかせながら踊るアルファス。そんな彼をユーリは巧みにリードしていく。そうやってリードされたからか、アルファスもどんどんテンションがアップ。まだまだダンスはつたないが、目一杯の笑顔で楽しいという気持ちをアピールする。そんな5人のダンスはしばらくの間続いていた。
●
アイドル達のライブが終わりはけていくと、突然ステージに暗幕が降ろされた。
何が起こるのかと観客たちが心待ちにしている。だが、なかなか何も始まらない。
ざわざわとざわめきが起こり、たっぷり待ちかねた所で突如としてギターの激しいディストーションサウンドが鳴り響き、それと同時に暗幕が一気に降ろされた。
そして会場中を走る色鮮やかな光線の数々。光の奔流が襲い埋め尽くしていく。そんな中、力強く、それでいて透き通った声が会場中に響き渡った
青い空 青い海
何処までも続く
白いステージ上に黒い衣装に身を包んだ三人の姿。ケイ、エリューナク、そしてデルフィーノの三人によるハードロックライブがスタートしていた。
光る星 光る魂
何時までも瞬く
太い弦を指で弾くように演奏しているのはエリューナク。四本の弦がリズミカルなサウンドを紡ぎ、観客たちの心を揺り動かしている。
そしてたっぷりと観客たちの心を弾けさせた所で、突如としてメロディアスなサウンドを紡ぎだす。一瞬の内に切り替わったその音色は、とても同じ楽器とは思えない程だ。存分にベースが奏でるメロディを観客たちに堪能させた所で、エリューナクは客席の女の子達に向かってウインク。思わず黄色い歓声が上がった所で男子達に向けて拳を突き上げた。
客席の男子達も、エリューナクに煽られ拳を突き上げる!
さぁ、躊躇してる暇はない
さぁ、駆けだす準備を
前にはアナタだけの自由
デルフィーノがギターを激しくかき鳴らす。ピックが六本の弦に叩きつけられ、荒々しい音の波が観客たちを打ちのめす。
ギターが暴れ、咆哮するように叫ぶそのサウンドはまるで怪物のようだ。そして、それをデルフィーノが乗りこなしているようにも見える。
しかし、その音圧を喰らっていた観客たちに今度は色気のあるサウンドが絡みだす。その甘く柔らかな音色で観客たちを酔わせていくデルフィーノ。
すっかり客席がダウン寸前になった所で、とどめとばかりに速弾きを披露する。高速で動かされるデルフィーノの手は、逆にゆっくりと動くように見える。
デルフィーノはクリムゾンウェスト出身のエルフである。そんな彼が出会ったのはリアルブルーの音楽。彼の持つギターは、二つの世界の出会いの象徴とも言える存在であった。
手に入れろ 掴み取れ
アナタだけの大切な自由
ベースとギター、二つの弦楽器が殴りあうかのようにも、抱き合うかのようにも音を奏であう。エリューナクとデルフィーノ、二人が争うようにその弦からサウンドを紡ぎ、そして二つのサウンドを中央で受け止めるのはケイだ。
ステージの真ん中で、その歌声一つで観客たちを魅了していくケイの姿は、まるで神話に語られる音楽の女神の様にも思えた。
そしてケイが叫ぶ。そのシャウトが会場に響き渡り、いつまでも観客たちの耳に残っていた。
●
ステージが終わると、飲み足りないとばかりにエリューナクとデルフィーノが酒をあおる。
そんな二人にロジーは飲みに付き合う。飲み比べになってたっぷりと酒を飲んだはずなのに、まだ酔った素振りを見せないロジー。三人の酒はこの後延長戦が行われたという。
「ごちそうさま」
その頃食事をずっと続けていた摩耶は、やっと食べ終えたのかきっちりと手を合わせ完食の挨拶。彼女の目の前にはうず高く積み上げられた皿がまるで塔の様に立っていた。
「やっと落ち着く……」
人混みにすっかり疲れてしまったエハウィイは、ダラダラと甘い物を食べ続けていた。
「もう、しょうがないなぁ」
そしてユーリは酔いつぶれたアルファスを見て優しく微笑み、彼を背中に背負って家路につくのであった。
(代筆:cr)
その時、会場にやって来たハンター達が見たものは数々の椅子だった。劇場などに並べられる椅子よりは遥かに数が少ないはずなのだが、円形に並べられているため数よりも多く見える。
これらの椅子を並べてやること、それに察しの良い者は気づいていたようであった。
「イス取りゲームって懐かしいな、オイ」
鹿島 雲雀(ka3706)もその一人だった。が、わざわざ付き合ってやる必要もない。大きく足を広げて手近な椅子にどっかと腰を下ろした所で
「はい、まだ座っちゃダメよ~」
と司会のスウィルがもう一度立たせる。そんなこんなしている内に他のハンター達も集まってくる。「あ、場所できとった……!」
と入ってきたミィナ・アレグトーリア(ka0317)は
「とりあえず飲み物類はこっちに準備でええかな?」
とミルクやらぶどうジュースやらを並べていく。
「さて、ケーキは何処かな?」
と辺りを見回すイーディス・ノースハイド(ka2106)。彼女はケーキが気になっているようだ。
「会場はここかのぅ? 飲みつつ甘いものを摂取なのじゃ」
とやって来たヴィルマ・ネーベル(ka2549)は既に楽しげな様子で浮かれている。
「甘いものに惹かれて外に出たらご覧の有り様だよ!」
と不満を漏らしているのはエハウィイ・スゥ(ka0006)。端的に言えば引きこもりの彼女が甘い物を食べ放題と聞いて街混に参加したらこれである。できれば動きたくない。しかも、彼女が不満を漏らす理由はそれだけではない。
「あっ! ウィイちゃんだ! ウィイちゃあん!」
キルシッカ・レヴォントゥリ(ka1300)に見つかってしまったのだ。エハウィイは決してキルシの事を嫌いではないが、賑やかで楽しげな雰囲気に大声ではしゃいでいるキルシの側に居るだけで疲れてしまう。
「いすとりゲームってなあに? いすをいっぱいとるのかな? たのしそう! かりはとくい! いっしょにいっぱい、いすをとろうね! え? いすとりゲームだけど、いすはとらないの? ふしぎ!」
ますますはしゃぐキルシの声をBGMに、エルウィイはどうしてこうなった、と大きくため息を一つつくのだった。
そんなこんなをしている間に会場に参加者が全員到着し、イス取りゲームが始まる。スウィルが曲を演奏している間、参加者は椅子の周りをぐるぐると歩く。その内に演奏が止まったら合図。一斉に椅子に座る参加者達。
「ではではっ、椅子の裏の紙を見てくださいっ」
とスウィルが音頭を取った所で、不満の声が上がった。
「エルちゃん、椅子に座れなかったんだけどー!」
と声を上げたのはエリス・ブーリャ(ka3419)。実は参加者25人に対して置かれた椅子は21個。足りない分座れない者達が出てくるのは道理である。
そんなエルを置いておいて、スウィルは司会を続ける。
「紙に書かれた数字がグループです。適当に椅子を並べてグループ作ってね。あ、椅子に座れなかった人はその人達だけでグループね」
この言葉を聞いて、ぽつねんと取り残されていたエルの顔にニヤリと笑みが浮かぶ。
「楽しく過ごせばいいんだよね? 私そういうの、得意だよ♪」
さらに隣を見れば夢路 まよい(ka1328)が居る。先日街角インタビューに答えていたまよいを見て、雰囲気とかキャラとか似てると(勝手に)ライバル視していたエル。早速絡みだす。
「ヘイヘイ、あなたどこギルド? エルちゃんGSMのひとー」
しかし、ここで誰も予想だにしていなかった事があった。エルとまよい、この二人は楽しいことが大好きな享楽主義者という点で完全に一致していたのである。となると、仲良くなるのはのに時間は要らなかった。他のグループがまともに街コンをスタートさせる前に肩を組んでキャハハと笑いながら会場中を練り歩く二人。この二人が椅子無し、つまり自由に動き回れるグループになった時点で今回のイベントがカオスな事になるのはもはや自明の理であった。
●
「宴会といえばお酒、蔵出しの逸品を揃えてきました……是非」
その頃、第1グループでは早速酒盛りが始まっていた。王国自慢のデュニクスワインを持ち込んだのはユナイテル・キングスコート(ka3458)。秘蔵の逸品を手に入れられたのはさすが元王国騎士団といった所か。
「まぁ、まぁ! こんなに楽しくて華やかな場、久し振りですわっ♪」
一方、すっかり賑やかになった(その原因の大半はエルとまよい)会場の雰囲気に胸をときめかせていたのはロジー・ビィ(ka0296)だ。そんな彼女の目に映ったのは
「……あら、あそこに見えるは、お酒、かしら? ふふっ、良いですわね~」
ユナイテルの持ち込んだワインであった。早速一杯受け取り口をつける。
「……楽しい場にはお酒が良く合いますわ!」
口に広がり鼻に抜ける芳醇な香りを楽しみながら、明るくお酒を飲みだすロジー。
「エチ ゴーヤ? 街コン? 街混!? いったい何なのかしら」
対照的に頭にハテナマークを一杯浮かべ、戸惑っていたのは摩耶(ka0362)である。果たして何をすればいいのか考えて、考えあぐねた挙句
「どうすればよいかわからないのだけれど、とにかく食べればいいのね」
とわかりやすい結論になる。
そこに大量の食事を運んできたのはシバ・ミラージュ(ka2094)だ。ハンター登録をして間もない彼には、ここにはあまり顔見知りの相手が居ない。新参の立場で参加すべきでは無かったかも、と公開しつつ、ならば皆が楽しめるお手伝いをしようと配膳作業を行っていた。両手に大量の料理を持って摩耶の前にずらずらと並べるシバ。そしてその料理を眉一つ動かさず、黙々と口に運ぶ摩耶。
「なにかよくわからねえけどよ……酒と食い物とカワイコちゃんがいるなら、来ねえ理由はねえ!!」
そこに突撃してきたのはキー=フェイス(ka0791)。酒はユナイテルが用意した。食べ物ならシバが大量に運んでいる。そしてカワイコちゃんならユナイテルにロジーに摩耶とよりどりみどりだ。早速適当に飲んで適当に食べつつ品定め。そしてそんなフェイスが見定めたのは、別の場所にいる人間だった。
「お? あそこにいる綺麗な黒い髪のお嬢さんとか、いいねぇ」
と食事を楽しみつつ観察中だ。
その頃、会場の一角ではエリオット・ウェスト(ka3219)が机の上に何やら大量の品物を置いていた。水にレモン、砂糖にぶどう、そして謎の薬品。
「僕もだけど、アルコールが飲めない人のために、こっちの世界じゃ珍しいソーダ水を作るよ」
この薬品の正体は炭酸水素ナトリウム、俗にいう重曹だ。
「何だか面白そう!」
その調理というよりは実験という言葉の方が似合っている状況に、ワクワクしながら首を突っ込んできたのはまよい。早速調理開始だ。
といっても簡単、すべての材料を混ぜるだけ。あっという間にレモンソーダが出来上がる。
「おおっ! 口の中がパチパチして楽しー!」
と一口飲んで大騒ぎするエル。
「こういうのんびりほのぼのとした雰囲気は好きですが、どうも馴染めませんね」
その頃対照的に会場の片隅で椅子に座っていたのはジーク・ヴュラード(ka3589)だ。のんびり椅子に座っているヴュラードだが、その格好は異様。真っ黒な全身鎧に身を包み、フルフェイスの兜をかぶって顔が見えないようになっている。
「折角の出会いパーティというのだから、存分に楽しまなきゃね!」
とそこにやって来たのはロジェ・オデュロー(ka3586)だ。オデュローとヴュラードは友人同士だけあって、オデュローの格好も異様だった。全身うさぎの着ぐるみを着用し、その上からさらにタキシードを着用したその姿はまるで童話から抜けだしたようだ。
何となく助けを求めるような空気を出すヴュラードだが、オデュローは気づかない。
そんなオデュローだがリュートを手にしている。実は彼も椅子に座れなかった。そこでとばかりに、あちこちのテーブルを渡り歩きながら、弾き語りを披露することにしたのだ。となるといくら友人とはいえ、ヴュラードとばかり語っているわけにはいかない。挨拶を終えるとさっと席を立ち、次のテーブルに向かうオデュロー。そして黒い鎧が一つ、取り残されるのであった。
●
「みんなー! こんばんわ! ざくろは時音ざくろだよ! よろしくね!」
一方第2グループは、時音 ざくろ(ka1250)の自己紹介から街コンが始まった。元気いっぱいの挨拶の後には満面の笑み。それはまさにリアルブルーで言うところのアイドルのそれだ。そのスマイルにキュンと胸をときめかせた者もいたとかいないとか。しかし残念ながらざくろはこんなルックスでも男。今日は女の子に間違われないといいな、と思いつつ周囲を見渡して思う。
(このグループ、性別間違えそうな人多い?)
そんな性別を間違われそうな代表がアルファス(ka3312)。アルファスは早速ケーキを沢山取ってきて、テーブルの皆に配ろうとしていた。そこにざくろの視線が合う。
「一緒に行きませんか?」
と言うわけで、二人でテーブルの皆に順番に挨拶をしていくことになった。だが、その前に
「わぁ、ケーキ、食べる! 食べる! ……凄く美味しそう」
とケーキに目を引かれていたざくろがぱくりと一口。そして
「おお、美味しい♪」
そして幸せのおすそ分けとばかりにテーブルを回り始める。
最初にやって来たのはケイ・R・シュトルツェ(ka0242)とヤナギ・エリューナク(ka0265)の二人組。二人共黒い、鋭い印象を与える服に身を包み、静かに椅子に佇んでいる。
「こんにちはー!」
と挨拶しても、二人のクールな横顔は崩れない。ややあって、ケイがざくろの方に振り向いた。
「ステージ……有るなら歌わなくて何をすると言うのかしら?」
と指差した先にあったのはステージだ。どうもこの二人はステージ上で何かを披露しようとしているようだ。それに対し、ざくろも何かやる事を思いついたらしく、笑顔になる。
「よければ僕の曲に合わせてひとつ歌ってくれないかい?」
そこにやって来たのはオデュローだ。リュートをポロロンと爪弾いて、アイコンタクト……はできるかわからないが、ともかく意思を伝える。それに対しケイが微笑んだかのように見えた。
それを肯定の合図として、オデュローが演奏を始め、そしてケイの歌声が口から放たれる。
その時会場に響き渡ったのはパワフルでセクシーなケイの歌声。一瞬の内に会場の雰囲気が変わったかのように思え……そしてケイはワンフレーズで歌を止めた。
「残りはステージで、ね?」
そして、ケイはエリューナクに何やら耳打ちをしているのであった。
「じゃあ代わりに私達が歌うー!」
と乱入してきたのはまよいとエルのコンビだ。あっという間にドタバタと大騒ぎの喧騒に包まれる第2グループのテーブル。
「あー、人伝にメシが腹いっぱい食えると聞いて来たはいいが……」
その状況に巻き込まれていたのはカルス(ka3647)だ。早速始まった大騒ぎに思わず
「なんだこの、混沌とした状況は?」
と漏らしてしまう。しかしまずはメシの確保だとばかりに食事を持ってきて、食べ始めるカルス。
その隣で同じように食事を始めようとしていたイーディスだが、そこにざくろとアルファスが挨拶にやって来る。それに対し椅子から立ち上がりお辞儀をするイーディス。さすが元王国騎士団員として礼儀作法が身についている……が、ここでイーディスはアルファスが持っている物に目が行く。
「ケーキをお一ついかがですか?」
「うん、いただくよ」
少し微笑みそう返し、ケーキを受け取るイーディス。しかし彼女の心は内心浮き足立っていた。実は彼女、ケーキが大好きな超甘党なのである。
「この街に来たばかりだけど、いつもこんな感じなんですか……?」
そしてこのテーブルではセツァルリヒト(ka3807)が呆然と立ち尽くしていた。辺境から来た彼には、カオスで賑やかな熱気の奔流に飲まれて右往左往するのが精一杯。はたしてどうしたものか。いろんな人と話そうと思ったのだが、誰に話せばいいのか困ってしまうのであった。
●
「グループ分けされて椅子に座ったらもう動かないから。何されても動かないから。何なら地べたに寝転ぶ勢いだから!」
第3グループではそう叫び、じっと椅子にしがみついてお目当てのケーキを食べようとするエハウィイの姿があった。しかし、こう言ってその通りに事が運んだことなど古今東西を問わず無いのである。
「……あれ? ウィイちゃんなにしてるの? ひきこもりするのは、おうちにかえってからだよ!」
そう、キルシに見つかってしまったのだ。
「いっしょにみんなとおはなししよう! ほら、いっしょにいこう! ね?」
椅子にしがみつくエハウィイだったが、あえなくキルシによって椅子ごと引きずられていくのであった。
「人と話すのは大好きなのじゃ。皆色々な考えをもっておるしのぅ」
そんな二人に声をかけたのはヴィルマだ。あっという間に打ち解けて楽しみ始めるキルシと対照的に、どうしてこうなったと呆然としているエハウィイ。
「椅子取りゲームを組分けに利用したか。なるほど、見知らぬ者同士の会話には切欠が必要だからな。良く考えたものだ」
とそんな様子を横から感心して見ていたのはレシュ・フィラー(ka3600)。あちこちで楽しげに食事を取り、飲み物を飲んでいる様子を見て自分も食事に取り掛かろうかと思った所で、食べ物がこちらには無いことに気づく。
「せっかくのお祭りだし、目一杯楽しみたいしね」
ちょうどそこに戻ってきたのはユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)。その手にはいっぱいのケーキと紅茶。見ればあちこちですごい勢いで食べつくす者達のせいで、あれだけ用意されていた食べ物が既に心もとなくなっていた。そこでユーリは念のため自分の経営する雑貨屋に戻り、これらを持ち込んだのだった。
甘くて美味しそうなケーキを見てやっと顔に生気が戻るエハウィイ。
「この番号に従って組み分けしろってか? おう、宜しくなー」
さらにそこに大量の食事を確保した雲雀が戻ってきた。やっぱり飲み食いを楽しまなければ嘘だと全種類制覇を目指している雲雀。その前にユーリが用意したケーキがずらりと並ぶ。
「そのケーキ美味しそう~」
さらにまよいが美味しそうなケーキに引き寄せられ、フラフラと乱入してきた。まよいがやって来たからにはもちろんエルもセットである。
そして始まる楽しい食事タイム。王国の貴族の次男として生まれたフィラーなどは、こういった形での食事に最初は思わず戸惑うが、美味しいケーキが彼の心を解きほぐす。これも良い経験だと無心で食事に勤しむ。
そしてテーブルの片隅で、デルフィーノ(ka1548)が黙々とギターをチューニングしていた。視線を向ければそこにはケイとエリューナクの姿。喧騒を横目に、その時に備えて一人、ギターを触っていた。
●
もはやどこで誰が何をしているのか、誰も把握していないカオスな状況になっていた。そんな中、一人空いた皿を片付けていたシバ。
喧騒の中一人孤独を感じてしまい、物寂しさのあまり思わず目がかすむ。そんなとき声がかけられた。
「きみのような方が憂い顔なんて、似合わないよ」
声の咆哮を振り向くとそこに居たのはうさぎの着ぐるみ、そう、オデュローだ。リュートをつまびき、シバに微笑みかける。いや、表情はわからんが。
「さあ、僕の曲で笑顔になってくれ、レディ」
その声に目元を拭って一言。
「僕男の子です……」
「せっかくだから一緒にどうですか?」
そんな状況でシバに声をかけてきたのはヴュラードだった。ここにはシバが配膳に勤しんだ食べ物が沢山積み上げられている。一人で食べるのもいいが、皆で食べるのもまたいい。そしてさあ食事をしようとしたところで、ヴュラードは大変なことに気づいた。
「で、今気づいたのですがこの全身鎧状態でどう飲み食いすればいいのでしょうか。人がいる前で脱ぎたくない……しかし飲食はしたい。……悩ましい」
うーんと考えこむヴュラードの姿をみて、思わずふわりと笑みがこぼれるシバであった。
●
その頃カルスは虎視眈々とチャンスを狙っていた。何のチャンスか? それは好きなだけ食事、それもスイーツを狙い撃つチャンスである。何せここには食事がいっぱいある。それなら、とばかりにカルスが建てた作戦はこうだった。
女は甘味を好む。そこにカルスが気を利かせて盛り合わせを持っていく。そして混ざって食べる。
「完璧すぎる作戦だろ……完璧すぎて血糖値があがりそうだぜ」
そしておあつらえ向きに綺麗なのとかわいいのが二人やって来た。しかも綺麗な方は沢山のケーキを抱えている。これはチャンスだ。
「お嬢さん方、一緒にスイーツはどうだい?」
と素早くケーキ盛り合わせを取って持っていくカルス。しかし結論から言うとこの作戦は大失敗に終わるのであった。
「ざくろ男、男だから」
そう、カルスが声をかけてしまったのはざくろとアルファスだったのだ。わたわたと真っ赤になるざくろ。その隣で妖艶な笑みを浮かべているアルファス。そしてガックリと肩を落とすカルスの姿がそこにあった。
●
セツァルリヒトはどうしたものかと辺りを見回していたが、そこで目に入ったのは幸せそうな表情でケーキを口に運ぶイーディス。
「ケーキ、美味しそうですよね。甘いものはお好きなんですか?」
おどおどしていた彼だが、甘いものは共通言語なようだ。
「うん、甘いモノは大好きだよ。その中でもケーキは至高だね、色んな味が楽しめるし彩りも鮮やかで綺麗だ」
「ケーキあるよー」
とイーディスが返した所でアルファスはチョコケーキとショートケーキをホールで置く。
早速ケーキを取り分けようとした所で、3人は視線を感じた。
そこに居たのはケーキをじーっと見つめるまよいの姿。さらにその隣にはミィナもやって来ていた。「あ、ケーキ配った方がいいかな?」
そこで二人にもケーキを配るアルファス。
「ありがとう! ん~っ、美味しそう♪ いただきま~す」
立ったままケーキに飛びつくまよい。口の周りをクリームだらけにしてケーキに舌鼓を打つ。
「ケーキみんなで食べた方が美味しいですよね」
そんなまよいの姿を見て、自分まで幸せになるセツァルリヒトであった。
●
辺りはすっかり相当騒々しい状況になっているのだが、摩耶は相変わらず黙々と料理を食べていた。ただひたすらに食べていた。黙々と、ペースを一切変えず、テーブルマナーも守りつつ食事を続けていた。
その前をフェイスが通り過ぎていった。フェイスが見定めた『綺麗な黒い髪のお嬢さん』とは
「ちーす黒にゃんこちゃん、もしかして会場スタッフか? 美味しいもん食ってる?」
司会を務めていたスウィルであった。
「どうだ、折角のイベントなんだしよ、俺と一緒に飲まねえか? 貴重なこの出会いに乾杯ってな」
そのまま壁側に体を寄せ、両手で逃げ道を塞いで顔を寄せる。最近流行らしい壁ドンだ!
だがスウィルはスルリとかわすと、たった一言。
「お断りします」
と笑顔のままで回答する。そしてその場には一刀両断にされ茫然自失なフェイスが立ち尽くすのであった。
●
ユナイテルとロジーの二人はワインを飲みながら楽しい話に花を咲かせていた。酒には強いと自認している二人だけあって、かなりのピッチで飲み進めているはずだが、ほんのり頬が赤くなった程度だ。
となると自然と行われることは飲み比べである。交互に杯を空ける二人。
「飲み比べとあらば我も参加するのじゃ!」
さらにそこにヴィルマも乱入し、酒豪たちによる狂宴が始まるのであった。
●
「さて、今年の運勢を占ってみるのはいかがでしょう」
そう言いながら、アルファスが沢山のケーキを持ってきた。
「食べて中にコインが入っていたら大きな幸運が訪れる、甘い木の実が入っていたら小さな幸運が訪れる……といった感じですね」
「それだと皆幸せになれるんだね」
とエリオットがケーキを一口。すると
「うわ、ケーキから辛い実が!」
「と、不運な人はこうなると。名づけてロシアンケーキと言ったところでしょうか」
涙目になっているエリオットを尻目に、怖いもの知らずな挑戦者が次々とロシアンケーキに手を出していく。
「試してみるかね」
最初の挑戦者は先ほど不幸な目に会ったばかりのカルスだ。まあこういう状況でロシアンケーキに挑戦しても結果は見えているわけで、そのしかめっ面になっているカルスの顔を見てお察しください。
「何が当たっても幸運だと笑ってみせよう!」
次に挑戦するのはオデュローだ。早速ケーキを一つ取り口に入れる……どうやって口に入れたんだ?
まあそれはイリュージョンということにして、言葉通り笑っているオデュロー……まあ笑っているも何も着ぐるみの顔は変わらないのですが。ただ、何だか着ぐるみが妙に汗をかいていたのは気のせいではなかったようだ。
「運試しの一種? ふむ、やってみるのも一興か」
続いての挑戦者はフィラーだ。言うなりケーキをパクリと一口。そして良しと頷く。どうやら初めての幸運はフィラーに微笑んだようだ。
「こういうのも中々に良いな。今度は、アイツも連れて来るか」
と機嫌を良くし、次回の事を考えるフィラー
「ケーキに甘いお酒……幸せすぎ。私大丈夫なのかなこんなに……すみませんすみません。あ、おかわり」
次にやって来たのは飲み比べに参加していたはずのヴィルマだ。酒には強いが、それでもすっかり酔っ払ってしまったヴィルマ。酔っ払ったヴィルマは先ほどと全く違い、臆病におどおどし始める。果たしてどちらが素なのやら。
それはさておきやって来るなりケーキを一口。すると甘い味わいが口に広がる。
「ひぃっ! こ、こんなに幸せでいいのかな……」
なぜか怖がり始めたヴィルマだった。
「美味しそうなケーキだけど中身が気になるのん!」
そこにやって来たのはミィナだ。早速一つ選び
「頂きます」
とかぷりと食べる。
次の瞬間、大慌てで近くにあったブドウ色のグラスを手に取り一気にがぶ飲み。
「ふぇぇ~辛かったにょん~!」
舌を出しているミィナ。どうも不運な目にあったようだ。そして彼女の不運はこれだけではなかった。
「むぇ。そう言えばジュースにしては甘くなかったにょー。ふぁふぁするしおしゃけらったんかにゃー」
みるみる顔が赤くなり、千鳥足で歩き出すミィナ。そのまま涙目でソーダ水を飲んでいたエリオットに抱きつく。
「ソーダ水上手くいったにょ?」
そしてそのままエリオットが手にしていたグラスを飲み干し
「すごくシュワシュワしてるにょー♪」
と抱きしめる。誰がどう見てもわかりやすく酔っ払っているミィナ。そして真っ赤になっているエリオット。その背後で最初にミィナが飲んだグラスを一口飲んだ雲雀が
「……これブドウジュースだよな?」
と首をひねっていた。
「今日は種類も多いし、美味しいモノが多くて嬉しいよ」
とご機嫌なイーディスが最後にロシアンケーキにも手をつける。いつものように一口。すると
ガリッ!
という音が。イーディスが口元を見ると、そこに銀貨が一枚入っていた。
「おめでとうございます。今年は幸運が訪れそうですね」
「うん、ケーキがたくさん食べれて幸せだよ」
と柔らかく微笑む姿は、歳相応の女性のそれであった。
「それであなたはケーキは食べないのですか?」
とアルファスが雲雀に声をかける。
「いや、酒のつまみになるような、辛いモンとかねーかなーってさ」
「それならお口に合うかわかりませんが」
と取り出したのは煎餅であった。早速雲雀は一口。
「気が利くじゃねーか……お、これはイケる」
と辛党の彼女好みの味わいにご機嫌だ。
「僕も一口貰っていいかな」
と復活したエリオットも欠片を一つ貰い口に入れる。
「ああ、それは余った辛い木の実を使って作ったんですよ」
「……先に言ってよ」
そこには再び涙目になっているエリオットの姿があった。
「じゃあ私も挑戦するよ」
と名乗りを上げたのはユーリだ。ケーキをサーブしていたら親友が何やら楽しそうなことをしている。一も二もなく参加するユーリ。
早速選んで一口食べると、甘い味わいが広がる。どうやら幸運に恵まれるようだ。にっこりと微笑むユーリのその後ろで、何やら別の大騒ぎが始まるのであった。
●
「そうそう、小さな花火を持参しましたの」
騒ぎの中心にはロジーがいた。早速並んでいる料理に突き刺して火をつけるロジー。
「……ほら! こんなに華やかさが増して……素敵でしょう?」
ころころと笑うロジーの顔が花火のオレンジ色の光りに照らされる。美しい顔が火花に演出されて、より一層華やかな雰囲気が出る。
だが、花火が騒がしいわけでもロジーが騒がしいわけでも無かった。
「花火? はなびはいいれすねー!」
と大声を出しているのはユナイテル。酒には強いはずだったのだが、どうも相手が悪すぎたようだ。
「あ、あの! いいですか!」
そんな中、近くではセツァルリヒトが恐る恐る声をかけていた。
「お、俺か? いいぜ」
と声をかけられたフェイスも機嫌よく対応。ナンパは失敗したものの、美味しいお酒を飲めればあっとという間に復活だ。
「……で、そういうことがあってこっちへ出てきたのか」
「ええ、そうなんです」
少し時間が経てば、打ち解けて話を始める二人。その証拠にセツァルリヒトのしゃべり方は歳相応の物に変わっていた。この場の雰囲気は距離を縮めるのに大いに役立っているようだ。
「いやぁ、そんなちびっこいナリして大変だな」
「ちびっ子? だれがちびっ子れすかー!」
が、そんな会話の最中フェイスの言葉を聞いたユナイテルが突然絡みだす。脇にフェイスの頭を抱え込むと馬鹿力で締め付け始める。レスリングは騎士の嗜みの一つである。
「い、いてー!」
「あ、あの、キーさん! ユナイテルさん!」
じたばたするフェイスとそれを止めようとするセツァルリヒト。セツァルリヒトは状況にどうすればいいのかとパニックを起こす。そして周りの余りにカオスな状況とそこからもたらされる情報量に
「……きゅう」
目を回してダウンしてしまった。
「お、おい! 大丈夫か?」
開放されたフェイスが助け起こそうとしている所で
「ああ、なんて事をしてしまったのでしょう」
すっかり酔いが覚めたユナイテルが落ち込んでいた。
こうしてセツァルリヒトの初めてのリゼリオは終わった。これから彼には沢山の出会いと冒険が待っているだろう。その第一歩をこうして踏み出したのだった。
●
「みんなー、盛り上がってる!」
そんな時、突然会場が暗くなり、そしてステージが照らしだされた。そこには真紅の衣装に身を包んだざくろがポーズを決めて立っていた。実は何を隠そうざくろはピュアアルケミーというアイドルグループのメンバーなのである。ステージネームはピュア紅だ。
その姿にピュアアルケミーの事を知っていた摩耶は一瞬ステージ上に反応し……そして摩耶なのでまた食事を再開した。というかこの人もうどれだけ食べたんだろう。
「良かったら、ざくろの歌と踊りで、楽しんで行ってね♪ 聞いて、恋のマジカル★機導術」
その合図と共に、明るくポップな曲が流れ始める。そしてざくろが口を開こうとしたその瞬間
「「ちょっと待ったー!」」
の声と共にステージに飛び込んで来たのはまよい&エルだ。
「アイドルといったらエルちゃん! みんなー、のってるー?」
エルは最初から超ハイテンションだ。
「アイドルといったら私!」
と声を上げたまよいは、残念ながら口の周りにクリームがたっぷりついていた。
そんなまよいの口元を拭きつつ
「よーし、それじゃあざくろと一緒に行っちゃうよ!」
と突如結成された三人組によるライブが改めてスタートした。
明るい曲に合わせて歌い踊るざくろ。残りの二人も見よう見まねで踊るが、エルは元々ダンスが得意だけあって初見のざくろの振り付けにピッタリ合わせて行っている。
一方のまよいは素養が無いため、ちょっと振り付けが遅れたりしているが、それはそれでカワイイと大好評だ。
そしてステージ上で三人がダンスを披露していた頃
「アルファス、私達も踊ろう?」
とユーリが手を引っ張ってステージ前に飛び出す。
お酒が入ったからか、足元をふらつかせながら踊るアルファス。そんな彼をユーリは巧みにリードしていく。そうやってリードされたからか、アルファスもどんどんテンションがアップ。まだまだダンスはつたないが、目一杯の笑顔で楽しいという気持ちをアピールする。そんな5人のダンスはしばらくの間続いていた。
●
アイドル達のライブが終わりはけていくと、突然ステージに暗幕が降ろされた。
何が起こるのかと観客たちが心待ちにしている。だが、なかなか何も始まらない。
ざわざわとざわめきが起こり、たっぷり待ちかねた所で突如としてギターの激しいディストーションサウンドが鳴り響き、それと同時に暗幕が一気に降ろされた。
そして会場中を走る色鮮やかな光線の数々。光の奔流が襲い埋め尽くしていく。そんな中、力強く、それでいて透き通った声が会場中に響き渡った
青い空 青い海
何処までも続く
白いステージ上に黒い衣装に身を包んだ三人の姿。ケイ、エリューナク、そしてデルフィーノの三人によるハードロックライブがスタートしていた。
光る星 光る魂
何時までも瞬く
太い弦を指で弾くように演奏しているのはエリューナク。四本の弦がリズミカルなサウンドを紡ぎ、観客たちの心を揺り動かしている。
そしてたっぷりと観客たちの心を弾けさせた所で、突如としてメロディアスなサウンドを紡ぎだす。一瞬の内に切り替わったその音色は、とても同じ楽器とは思えない程だ。存分にベースが奏でるメロディを観客たちに堪能させた所で、エリューナクは客席の女の子達に向かってウインク。思わず黄色い歓声が上がった所で男子達に向けて拳を突き上げた。
客席の男子達も、エリューナクに煽られ拳を突き上げる!
さぁ、躊躇してる暇はない
さぁ、駆けだす準備を
前にはアナタだけの自由
デルフィーノがギターを激しくかき鳴らす。ピックが六本の弦に叩きつけられ、荒々しい音の波が観客たちを打ちのめす。
ギターが暴れ、咆哮するように叫ぶそのサウンドはまるで怪物のようだ。そして、それをデルフィーノが乗りこなしているようにも見える。
しかし、その音圧を喰らっていた観客たちに今度は色気のあるサウンドが絡みだす。その甘く柔らかな音色で観客たちを酔わせていくデルフィーノ。
すっかり客席がダウン寸前になった所で、とどめとばかりに速弾きを披露する。高速で動かされるデルフィーノの手は、逆にゆっくりと動くように見える。
デルフィーノはクリムゾンウェスト出身のエルフである。そんな彼が出会ったのはリアルブルーの音楽。彼の持つギターは、二つの世界の出会いの象徴とも言える存在であった。
手に入れろ 掴み取れ
アナタだけの大切な自由
ベースとギター、二つの弦楽器が殴りあうかのようにも、抱き合うかのようにも音を奏であう。エリューナクとデルフィーノ、二人が争うようにその弦からサウンドを紡ぎ、そして二つのサウンドを中央で受け止めるのはケイだ。
ステージの真ん中で、その歌声一つで観客たちを魅了していくケイの姿は、まるで神話に語られる音楽の女神の様にも思えた。
そしてケイが叫ぶ。そのシャウトが会場に響き渡り、いつまでも観客たちの耳に残っていた。
●
ステージが終わると、飲み足りないとばかりにエリューナクとデルフィーノが酒をあおる。
そんな二人にロジーは飲みに付き合う。飲み比べになってたっぷりと酒を飲んだはずなのに、まだ酔った素振りを見せないロジー。三人の酒はこの後延長戦が行われたという。
「ごちそうさま」
その頃食事をずっと続けていた摩耶は、やっと食べ終えたのかきっちりと手を合わせ完食の挨拶。彼女の目の前にはうず高く積み上げられた皿がまるで塔の様に立っていた。
「やっと落ち着く……」
人混みにすっかり疲れてしまったエハウィイは、ダラダラと甘い物を食べ続けていた。
「もう、しょうがないなぁ」
そしてユーリは酔いつぶれたアルファスを見て優しく微笑み、彼を背中に背負って家路につくのであった。
(代筆:cr)
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