ゲスト
(ka0000)
【幻痛】ケリド川迎撃戦
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/29 22:00
- 完成日
- 2018/09/04 22:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ビックマー討伐作戦『ベアーレヤクト』は順調に進んでいるかと思われたが、予想外の事件が発生する。
チュプ大神殿にある幻獣強化システム『ラメトク』により大幻獣トリシュヴァーナを巨大化。それを切り札としてビックマーに決戦を挑む手筈となっていた。
しかし何のトラブルかは不明だが、巨大化したのはトリシュヴァーナではなく幻獣王チューダ(kz0173)。腕っ節はからっきし。幻獣に対する知識はあっても忘れっぽい挙げ句、プライドだけは生意気にも高い怠惰の眷属以上に怠惰な大幻獣である。
クマVSハムスターという一大カワイイ大決戦となっている馬鹿の真骨頂を目撃しているファリフとテトは死んだ目だった。
アクベンスに遭うわ、トリシュヴァーナの本懐はチューダに奪われるわ、自分は何をしたというのだと言わんばかりだ。
チュプ神殿前で頑張ってくれたハンターに申し訳ない気もしてきた。
前者は向こうとて、怠惰の王が動くんだから奴も出なくてはならないだろう。
後者はもう仕方ないことだ。
「ファリフは何も悪くないですにゃ……」
テトもそれしかコメントが出てこない。
少しでも歪虚の動きを止めなくてはならないのだ。
「移動しよう、トリシュ」
「ああ」
ひらり、とファリフはトリシュヴァーナの背に乗る。
「テト、また」
「はいですにゃ」
テトと別れてファリフはケリド川へ向かった。
●
ケリド川近くでハンターと合流したファリフは作戦内容を伝える。
「今、巨人たちはケリド川北岸へ向かおうとしている。テルル率いるピリカ部隊が川へ押し返しているんだ。僕達は更に援護射撃と、川に孤立させた巨人達の迎撃だ」
作戦内容を簡潔に伝えるファリフにハンターの一人が「ちょっとまて」と声をかけた。
ケリド川は広く流れも速い。深さも人の身の丈は優にあるし、巨人も胸くらいは浸かるだろう。
そんな中、巨人を迎撃する手段は限られる。
ファリフはなんでもないように上流を指さした。
「今、上流で大木を用意している。合図で流してもらうんだ。この川の速さならダメージに繋がるよ。かなりの量を流すから、ボク達の足場にもなるよ」
あっさりと告げるファリフは大木を足場に直接攻撃をする気満々のようだ。
「まぁ、危ないから推奨はできないけど。北岸で射撃の手も必要だよ」
大胆な作戦だが、ハンター達は了承して配置についた。
チュプ大神殿にある幻獣強化システム『ラメトク』により大幻獣トリシュヴァーナを巨大化。それを切り札としてビックマーに決戦を挑む手筈となっていた。
しかし何のトラブルかは不明だが、巨大化したのはトリシュヴァーナではなく幻獣王チューダ(kz0173)。腕っ節はからっきし。幻獣に対する知識はあっても忘れっぽい挙げ句、プライドだけは生意気にも高い怠惰の眷属以上に怠惰な大幻獣である。
クマVSハムスターという一大カワイイ大決戦となっている馬鹿の真骨頂を目撃しているファリフとテトは死んだ目だった。
アクベンスに遭うわ、トリシュヴァーナの本懐はチューダに奪われるわ、自分は何をしたというのだと言わんばかりだ。
チュプ神殿前で頑張ってくれたハンターに申し訳ない気もしてきた。
前者は向こうとて、怠惰の王が動くんだから奴も出なくてはならないだろう。
後者はもう仕方ないことだ。
「ファリフは何も悪くないですにゃ……」
テトもそれしかコメントが出てこない。
少しでも歪虚の動きを止めなくてはならないのだ。
「移動しよう、トリシュ」
「ああ」
ひらり、とファリフはトリシュヴァーナの背に乗る。
「テト、また」
「はいですにゃ」
テトと別れてファリフはケリド川へ向かった。
●
ケリド川近くでハンターと合流したファリフは作戦内容を伝える。
「今、巨人たちはケリド川北岸へ向かおうとしている。テルル率いるピリカ部隊が川へ押し返しているんだ。僕達は更に援護射撃と、川に孤立させた巨人達の迎撃だ」
作戦内容を簡潔に伝えるファリフにハンターの一人が「ちょっとまて」と声をかけた。
ケリド川は広く流れも速い。深さも人の身の丈は優にあるし、巨人も胸くらいは浸かるだろう。
そんな中、巨人を迎撃する手段は限られる。
ファリフはなんでもないように上流を指さした。
「今、上流で大木を用意している。合図で流してもらうんだ。この川の速さならダメージに繋がるよ。かなりの量を流すから、ボク達の足場にもなるよ」
あっさりと告げるファリフは大木を足場に直接攻撃をする気満々のようだ。
「まぁ、危ないから推奨はできないけど。北岸で射撃の手も必要だよ」
大胆な作戦だが、ハンター達は了承して配置についた。
リプレイ本文
本来はトリシュヴァーナがラトメクの力で巨大化する予定だった。
しかし、現在デカくなっているのはチューダ。
その現状に「あのヤロウ……」と云わんばかりに歯噛みをしたくなる者は少なからずいたというか、いる。
「かわいい顔、して……なんて、面倒なことを……」
呆れかえったリュラ=H=アズライト(ka0304)の呟きをチューダに聞かれたら、かわいいという単語だけに反応してもっと褒めろと言う可能性がある。
それぞれの方向で怠惰な対決になってしまっている。八島 陽(ka1442)の感想は「まさかね」と思い過ごした情景が目の前に広がった時は唖然となった。
しかし、普段の行いを鑑みると、いい機会だからしっかり働いてもらおうという意見も出ている為、陽は「ま、いいか」ですますことにした。
現状はとりあえず戦っているのだから。
初めから笑い事ではないが、今も笑い事ではない。色んな意味で。
「すまなかった……」
がっくりと肩を落とすアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はトリシュヴァーナに詫びた。
前回、チュプ神殿へ向かっている途中に現れた障害……アクベンスが共に連れてきた巨人兵との衝突があった。
護衛のハンターはトリシュヴァーナとファリフに対し、これからの戦いに備え、怒気を抑えてほしいことを告げた。
トリシュヴァーナに説得した一人がアルトだ。
アクベンスと戦わせ、倒してしまえばよかったのかもしれないという悔恨が彼女にはあった。
「了承したことだ、責めを負うことはない」
そう告げたトリシュヴァーナは尻尾をアルトの肩に絡ませる。
黄金の炎を思わせる毛並みはふわふわしており、絹のように滑らかだ。
トリシュヴァーナは誇り高き幻獣だ。おいそれと簡単に触れさせてもらうことなどはないという。
認めてくれるのか……とアルトは微かに口元を緩める。
「……あのネズミを切り刻みたいんだ。割と本気で」
「本来言うべき礼と本音が逆になっている」
ズバリと言い当てるHolmes(ka3813)にアルトは確かにと納得する。本当は『そう言ってくれると助かる』と言いたかったのだ。両方とも本音だから問題ない。
「安心しろ、歪虚にやられる前に引導を我の手でやるつもりだ」
「その気概に便乗しよう」
アルトとトリシュヴァーナの目はマジだった。
「トリシュもアルトもドンマイ……」
無難に纏めたのは陽である。
「我よりもファリフだな」
陽の言葉に反応したトリシュヴァーナの視線はファリフにあった。
ぱちぱちと目を瞬いた岩井崎 メル(ka0520)は放っておくと呆然としているファリフをじっと見やる。
「灰になってるね」
「はいはい……」
メルの言葉を返すファリフに「意味わかってる?」と陽が首を傾げた。
「適当に返してみた」
はははとファリフは力なく笑う。
「まぁ……この現状は残念だったな。物事をなるようになるっていうし、思いっきり暴れて、いい方向にもっていこうぜ!」
元気のないファリフの背を叩いたオウガ(ka2124)が声をかける。
「そうだね……前回の鬱憤を晴らそう」
ぐぐっと、拳を握るファリフは少し元気が出たようだ。
「この間のオウガ、凄かったね。ボクも負けてられないって思ったよ」
「逃げられちまったけどな、俺もお前に負けられねぇよ」
前回の依頼の時はオウガが主にアクベンスの抑え役をしており、その奮戦の様は見事とファリフは思う。
「かなりの敵が押し寄せているけど、辺境部族もハンターの皆もいるし、皆でなんとかしよう。ね、Holmesさん!」
ファリフの言葉にオウガの隣にいたHolmesは目を瞬かせる。以前のファリフにあった未熟で独りよがりな様子が消えていた。
「勿論さ」
右の口角を上げ、Holmesは笑む。
現在の状況は今回ファリフとハンター達が担当するエリアに巨人兵達が川の中で往生していた。
川の上流の方では今回の戦いに参加している部族たちが大木を仕込んでおり、後は合図を待つばかりだ。
視線を感じたリュラは斜め後ろにいるメルの視線を感じた。
「何か……?」
リュラはメルの方を向く。メルはどこか楽しそうな表情であり、こらえきれない様子でもある。
「今回、楽しそうなことに巻き込まれたなって」
明るい声音のメルだが、その目は真剣だ。
「やるべきことをやる……です。人類側はあまりにも手が足りません」
リュラは視線を川の方へと向けると、自身の刻令ゴーレムであるセントヘレンズの方へと歩いていく。
「手筈通り、お願いします」
「わかった」
二手に分かれてそれぞれの為すべきことを始めた。
先に魔導アーマー「プラヴァー」に搭乗していた陽はインカムを通してアルトと通話をしている。
アルトの話によれば、そろそろ攻撃を開始するという。
孤立させることに成功しても、岸に上がろうとする兵が出てくるので、すぐに作戦を実行に移すとの事。
「了解」
陽の了承のあと、通話が切れた。
アルトはファリフにリュラ、メル、陽に連絡をし終えたことを告げる。
「ありがとう。アルトさん」
ファリフがアルトへ返すと、近くにいた辺境部族の戦士に視線を向けた。心得たように辺境部族の戦士は手にしていた矢じりを火で炙る。
矢じりには油が塗られており、火が移る。素早く弓に番えて空高く火矢が飛んでいった。
緩やかな放物線を描く矢は昼間でも火の合図が分かる。
上流にも火矢は見えており、見張り役が気づいて声を上げた。辺境部族の戦士達が大木が流れないように抑えていた大きな麻布を支える縄を切っていく。
早い上流から流れてきた大木は大量にあり、川の流れる音にも負けない騒音を立てて勢いよく飛び出していった。
魔導アーマー「プラヴァー」に登場していた陽は上流の川岸にて待機していた。
火矢が飛んでいったのを確認した後、フライトシステム起動して離陸を始めていた。激しい川の流れの上をフライトすることになる為、フーファイターで現在の状況を機体に適応させ、安定してフライトシステムを作動させる。
川の上流からは跳ねるかのように大木が流されてきていた。
高度を維持して魔導アーマーのフライトシステムからベイグランディアへ切り替えする。
各部スラスターからマテリアルジェットを放出していき、性能を強化させた。
魔導アーマーの得物は斬艦刀「天翼」。
空中を飛ぶ魔導アーマーに大きな翼を思わせる形状の刃を持つ優美な趣を持つ大太刀が空に映える。
今は斬艦刀の切先を下……巨人兵へと向けている。
大木と巨人兵が衝突する前に陽は魔導エンジンの出力を最大まで発揮し、イカロスブレーカーを発動させる。
余剰マテリアルエネルギーが脚部ローラーから溢れていき、光の翼のオーラを纏っていく。
大量の大木が巨人兵にぶつかっていき、歪虚達は体勢を崩していく。
体勢を崩し、隙を見せた巨人兵へ魔導アーマーの斬艦刀が砕き斬っていった。
『前方、斜め右!』
魔導パイロットインカムから聞こえたのはオウガの声。
オウガが警告した方向の奥の方……巨人兵が重なってよく見えなかったがすぐに分かった。
巨人用突撃砲を構える歪虚の姿。
ぞっと、胃が重く冷えつく感覚を覚えた陽は急いで機体を突撃砲の範囲内から退避させる。
「ありがとう、オウガ」
冷や汗をかいたが、機体は無事だ。
「おお、これは迫力があるな」
Holmesが呟いた頃には先を流れていた大木が巨人兵の腕に抑えられていたりしてる。
しかし、先ほどの斬艦刀の攻撃でダメージが与えられており、続々と流れる大木に押されてしまい、足を踏み外して川の中へ沈む巨人もいるほど。
巨人兵という障壁にも大木は激しい川の流れに流されるまま流れては巨人にダメージを負わせている。
一部の大木が川岸につっかえており、渡りやすくなっていた。
「川が巨人か大木しかない状態だが、足場が広くなっていいな」
アルトが感想を呟くと、「先に行くぜ!」とリーリーに乗ったオウガが大木の上へ乗り込んでいった。
「おおっと!」
リーリーの跳躍に比例し、乗った大木がかなり沈んでしまうが、その辺りは移動の際の速度を調節すれば深く沈むことはない。
少し沈んでもオウガのリーリーは慌てた様子はなく、警戒に大木を渡り進んでいる。
主の行動に添うように佇むのはのイェジドであるВасилийだ。
綺麗にカットされた毛並みは艶やかな黒色。軽やかな跳躍に美しい尻尾の毛先が揺れる。
「先を越されたか。さぁ童心に返って、川下りと洒落込もうじゃあないか」
Holmesの誘う声にВасилийは淑やかに動き出す。
上流から辺境部族の戦士達が持ち場へ戻ってきた。
「頭よりも腕を狙って! 敵はまだ武器が使える状態だよ! ハンターに当てないようにね!」
ファリフの号令が響くと、ハンターがいない場所へ弓矢が飛んでいく。
巨人兵の腕を斬りつけ、誘導しているのはオウガだ。
「そら、追いつけるもんなら追いついてみな!」
煽られる巨人兵は腕を振り回してオウガを捕まえようとするが、リーリーも心得ているのか、敵の手に触れないように回避している。
特に彼が狙っているのは砲撃型の武器を持っている巨人兵だ。
砲撃型の武器は飛距離もあり、援護射撃の辺境部族にも被害が及ぶ可能性がある。
横からざぶん、と水飛沫が上がった。オウガは何かと思ってその方向を向けば、ファリフがトリシュヴァーナに乗り込んで大木の上を跳んで移動している。
トリシュヴァーナは大木を蹴りつけるように跳躍させている。上手い事大木同士を乗り合わせたり、端を川岸に乗せたりして巨人兵を囲むようにしていた。
「今、ファリフが大木を囲んでいる」
オウガのトランシーバーの通信先はリュラだ。
「了解」
現在、彼女の刻令ゴーレムは弾着修正指示て展開するため、チャージの真っ最中だった。モフロウを飛ばして更に敵位置の把握に努めている。
離れているとはいえ、正確な射撃をしなくてはならないからだ。
モフロウが戻ってくると、砲撃位置の確認を始めた。
最後のチャージが始まったことを確認したリュラはトランシーバーと魔導スマートフォンで仲間に通話を送る。
十秒後に砲撃を開始することと、地点を伝えた。
「範囲内から、退避して……」
リュラの通話が終了すると、大木の上で交戦していたハンター達が一気に退避していく。
ただ、メルからは「解放錬成完了」と告げられた。
「チャージ完了……放て…!!」
セントへレンズより炸裂弾が放たれる。
炸裂弾は弾着後、マテリアルにより周囲へ霰玉をまき散らすこととなるが、この砲弾は通常の威力ではない。
機導師であるメルのスキルである錬成解放が加わった砲撃だ。しかも、[SA]魔導ガントレッド「マシュルーウ」を介してのスキル発動の為、その効力は更に上乗せらせている。
着弾した個所は巨人兵の頭だった。
威力に耐えることが出来ず、首まで吹き飛んでいる。霰玉が巨人兵の頭の肉や骨と共に吹き飛ばされて周囲の巨人兵の頭から上半身までめり込ませていく。
リュラは成果の確認はせず、すぐに刻令ゴーレムより降りてメルのヘリ目がけて走り出す。
魔導ヘリコプター「ポルックス」のサキガケの操縦席にはメリが乗っており、エンジンを始動させていた。
「行きましょう」
リュラが乗り込むと、メルは「OK」と短く返す。
「しっかり捕まっててね」
横目でリュラを見やってメルが呟く。何しろ、ヘリの操縦は士官学校以来だったりする。
操縦の知識はあっても、経験が足りないことをメルは不安視していたが、今回は難しい操縦を頼まれていないので集中するだけだ。
「さぁ、いくよ!」
サキガケの機体が浮かび上がり、リュラのゴーレムを運んでいく。
リュラの炸裂弾が着弾した後、巨人兵達は大きく体勢を崩されたり、動きにくい水の中でもがく羽目になっていた。
ハンター達は巨人兵に動く時間を与えることなく、再び前線が動き出す。
「巨人兵が動く前に援護射撃を!」
ファリフが前線に出ているため、アルトが辺境部族の射撃部隊に声をかける。
射撃部隊は矢継ぎ早に矢を飛ばして巨人兵の動きを止めていく。
最前列の巨人兵が後列の巨人兵に押されて雪崩込むように川岸へとせり上がろうとしている。
歪虚は巨人用太刀を振り上げる。巨人がそのまま太刀を手放せば、射撃部隊の壊滅は避けることはできない。
アルトのイエジドであるジュリアが駆けだし、川岸の近くで浮かぶ大木の端へ思いっきり身を沈める。反対側が傾き、大きく持ち上がった。
ジュリアの背を飛び越えたアルトは傾く大木の上に足を置いた。アルトは一気に加速して大木を駆けあがっていく。
先まで上がると、彼女はマテリアルを込めて地を蹴った。
狙うのは太刀を持つ巨人兵の腕。
巨人兵と深紅の騎士刀を振り下ろすアルトが交差する。相手は巨人兵だけあって散華だけでは腕全部を切り倒すことはできなかったが、歪虚の傷口へアフターバーナーで追撃をかける。
縦横無尽に斬り裂かれた腕は重力に従い、肉が千切れていく。
アルトは自身が斬り落とした巨人兵の腕に乗り、足場代わりに伝って走っていった。
優雅に跳躍するように移動しているHolmesのイェジド、Василийが複数の巨人兵の腕に追い回されている。
「了解」
リュラからの伝話を受けたHolmesはВасилийを誘うように移動させる。巨人兵達は腕を振り回して彼女達の動きを阻害しようとしていた。
「やれやれ、かなりのせっかちぶりだな」
Василийは焦らず、慌てずにスティールステップを駆使して見事に回避をしている。
「しかし、短絡的な動きは悪くない」
そう呟いたHolmesは生体マテリアルを体内で練り上げ、筋肉の波動を溜めいていく。その間もВасилийは巨人兵の群れの中をゆったり跳んでいく。
すれ違いざまにВасилийが装備している大剣「獄門刀」が巨人兵の腕や首筋を斬りつけて行っている。
Holmesはどこかをちらりと見やってから巨人兵達を見据えた。
「追われるより解決を追う方が好みなんでね」
そう告げたHolmesは徐にBaritsuを巨人兵へ向けると、練り上げた生体マテリアルが光となって解き放たれる。
光と共に発せられたアブソリュート・ポーズの衝撃は巨人兵の上半身を揺らがせるには十分なものであった。
巨人兵の思考能力を奪うことに成功した事をHolmesはリュラに告げる。
メルの魔導ヘリコプターが空輸するセントへレンズの行き先は川の対岸側。
初弾の後、敵の巨人兵団は近接攻撃組と辺境部族の援護射撃組に意識を向けられており、ヘリコプターが飛んでいる事には気づいていなかった。
「お願い……このまま気づかないで……」
操縦に集中していたメルだが、つい言葉がでてしまう。
着陸の瞬間も、Holmesがアブソリュート・ポーズで敵の気を逸らし、無事に空輸が終了している。
リュラは再びセントへレンズに搭乗し、見える位置からの敵と味方の把握を始める。把握確認が終わると同時に味方へ炸裂弾の着弾地点を伝えた。
「……ファイヤ」
炸裂弾が発射されると同時に着弾地点から味方の姿はもう見えない。
着弾先は巨人兵の首の付け根だった。首が折れており、周囲の歪虚に霰玉が当たっている。
「チャージを、始めます」
少しずつ、確実に敵は減り始めていた。
前線では本来の川の色が全く別な色へと変貌している。
その色が同胞の血ではないことへの安堵、敵に勝とうという鼓舞に繋がっているとオウガは岸にて援護射撃をしている辺境部族を案じた。
「相手はまだまだいる。行くぜ!」
相棒のリーリーはオウガの言葉を肯定するように大きく羽を広げて再び駆け出していく。
ハンター達の働きで巨人兵の数は確実に減り始めている。生きているのか、死んでいるのかはわからないが、暫く動いていない歪虚の数が増えている。
逃亡を試みようとする歪虚も出始める頃だろう。
オウガは半端に離れている巨人兵目がけてリーリーを走らせる。
目的の巨人兵はオウガが自身の方へ近づいてきていることに気づいており、太刀を構えていた。
魔斧「モレク」を構えたオウガは太刀を受ける様子を見せ、巨人兵はオウガを大木ごと斬り倒すべく、太刀を振り上げる。
オウガは巨人兵が太刀を振り下ろしたところでリーリーの速度を減速させた。
「跳べ!!」
タイミングを見計らっていたオウガはリーリーにジャンプの指示を叫ぶ。
リーリージャンプは空は飛べないが、その跳躍は高く、長い。巨人兵の太刀が振り落ちていき、そのすれ違いにリーリーが太刀を飛び越えていく。
「その剣を受けるのは俺じゃねぇよ」
肩越しに不敵に笑うオウガの言葉の意味はその後すぐに理解できる。
巨人兵が気配を察知し、その方向へ視線を投げた。
「そうだね。僕が引き受けるよ」
凛々しい声がオウガのトランシーバーから聞こえる。
ベイグランティアの効力が発揮されている魔導アーマーが巨人兵の背後にいた。オウガを乗せたリーリーは別な場所へ駆けており、味方はいない。
魔導アーマーの操縦者である陽は斬艦刀を構え、思い切り巨人兵へ叩きつけた。
「もう少ししたら、セントヘレンズのチャージが終わる頃だ。川岸に上がらないように誘導を頼む」
陽は離脱の動作をしつつ、前線のハンターに声をかける。
「了解」
短く応えたのはアルトだ。彼女はマテリアルのオーラを纏っていた。
陽との伝話終了後、一気に加速を初め、自身の残像すら吹き飛ぶかのようだ。敵の死角を狙い、大木のない所からの加速をサポートする為、空渡を展開していた。
中空に極薄のマテリアルで足場を作り、駆けていく。彼女が炎のようなオーラを纏っているので、足がついたところに炎の花弁みたいにオーラが垣間見えて消える。
目的の巨人兵は現在、他の巨人兵と一緒にファリフと交戦していた。
交戦中のファリフは苦戦している様子ではなく、川岸に上がろうとする巨人兵を川へ戻すように誘導していたのだ。
アルトとの間合いを計り、ファリフは身を翻す。
巨人兵は尚も追おうとするが、アルトの気配に気づいていなかった。彼女は深紅の騎士刀を素早く振り下ろし、巨人兵の首を斬りつけ、更に追撃をしていく。
リュラのセントヘレンズがチャージを終えようとした時、巨人兵が自分達の背後にゴーレムがいた事に気づいたようだ。
当該の巨人兵の手には巨人型散弾砲がある。
いち早く気づいたのはメルだ。
「前線! 背後に注意! ワンダーフラッシュ発動するよ!」
更にメルが巨人への位置を叫ぶと、前線のハンター達が蜘蛛の子を散らすように退避していった。
射撃部隊も身を伏せて視界を守る。
自身のマテリアルに集中していくメルは錬成した光の玉を敵の方へと向ける。瞬間、光の玉が弾けて眩い光が巨人兵の目を焼いていった。
ワンダーフラッシュの効力の余韻が響いている中、セントヘレンズのチャージが完了する。
「完了……ファイア」
再びメルの解放錬成が付与された炸裂弾が巨人兵の群れへと跳んでいく。
着弾した巨人兵は動かなくなり、周囲の巨人兵も前線組ハンターとの交戦でダメージを追っていたところに霰玉をくらい、倒れて川に沈む敵も出てきた。
ハンターの攻撃も連携も見事であり、巨人兵からのダメージは少ないものであった。
巨人兵は動きは遅いが知能はある。動かなくなった同胞の身体を掻い潜って出し抜こうと試みる歪虚がいた。
戦闘の中で大木が折れたものもあり、その破片が歪虚の近くでくるり、と回る。
不自然に。
歪虚を威嚇するように。
「逃亡ではなく、出し抜きか」
凛と声を上げたのはHolmesだ。その手にはBaritsuが握られており、ペストマスクを模したグリップ部分より鎌刃が彼女のマテリアルに反応して姿を見せている。
「流木による川の氾濫により、ここから先は通行止めだ」
Holmesは祖霊を自らに憑依させて幻影を纏い巨大化する。
「最後まで付き合って貰うよ」
耳の先から尻尾までモフい幻影が巨人兵を圧倒しようとしていたが、巨人兵の手にはまだ武器を隠し持っていた。
水面から砲口が覗く。
「それもお見通しだ」
口元を緩めるHolmes。
巨人兵は弾丸を射出しようとした瞬間、後頭部からの衝撃で巨人兵は顔を砲口へと埋める。
衝撃の主である陽はすぐに魔導アーマーを反転させて退避をし、Holmesを乗せたВасилийも軽やかに跳び、退避していた。
突撃砲が暴発して歪虚の動きが止る。
リュラやメルも刻令ゴーレムより降りて掃討に入った。
「粗方片づけたけど、また隠れていたら嫌だよね」
メルが大木を渡りつつ、歪虚が動いているかどうかの確認をしていく。
「そうだね」
魔導ゴーレムより降りた陽も同感であり、ハンターとファリフ達は確認して歪虚の殲滅となった。
ハンター達が川岸に戻ると、早馬が来ており、ビックマーVSチューダの速報が到着していた。
チューダはハンターの声援を受けて奮戦、ビックマーの大きさも小さくする事に成功したとのこと。
わっと湧き上がる中で、トリシュヴァーナは「歪虚め、ネズミを仕留めそこなったか」と嘯く。
「まぁ、やることはやりましたね」
リュラがどこか意外そうに口を開いた。その隣でメルがくすっと笑う。トリシュヴァーナは「ああ、及第点だ」と褒めた。
「とりあえず、チューダが功労者だね」
陽がトリシュヴァーナに言えば、「我の敵はまだいる」と返す。
ちらり、とHolmesがトリシュヴァーナの方を向いた。
「アクベンス……だな」
オウガが言えばトリシュヴァーナが頷く。
「ビックマーの消息も分かってないようだし、これからが正念場だな」
溜息をつきつつ、アルトは空を見上げた。
しかし、現在デカくなっているのはチューダ。
その現状に「あのヤロウ……」と云わんばかりに歯噛みをしたくなる者は少なからずいたというか、いる。
「かわいい顔、して……なんて、面倒なことを……」
呆れかえったリュラ=H=アズライト(ka0304)の呟きをチューダに聞かれたら、かわいいという単語だけに反応してもっと褒めろと言う可能性がある。
それぞれの方向で怠惰な対決になってしまっている。八島 陽(ka1442)の感想は「まさかね」と思い過ごした情景が目の前に広がった時は唖然となった。
しかし、普段の行いを鑑みると、いい機会だからしっかり働いてもらおうという意見も出ている為、陽は「ま、いいか」ですますことにした。
現状はとりあえず戦っているのだから。
初めから笑い事ではないが、今も笑い事ではない。色んな意味で。
「すまなかった……」
がっくりと肩を落とすアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はトリシュヴァーナに詫びた。
前回、チュプ神殿へ向かっている途中に現れた障害……アクベンスが共に連れてきた巨人兵との衝突があった。
護衛のハンターはトリシュヴァーナとファリフに対し、これからの戦いに備え、怒気を抑えてほしいことを告げた。
トリシュヴァーナに説得した一人がアルトだ。
アクベンスと戦わせ、倒してしまえばよかったのかもしれないという悔恨が彼女にはあった。
「了承したことだ、責めを負うことはない」
そう告げたトリシュヴァーナは尻尾をアルトの肩に絡ませる。
黄金の炎を思わせる毛並みはふわふわしており、絹のように滑らかだ。
トリシュヴァーナは誇り高き幻獣だ。おいそれと簡単に触れさせてもらうことなどはないという。
認めてくれるのか……とアルトは微かに口元を緩める。
「……あのネズミを切り刻みたいんだ。割と本気で」
「本来言うべき礼と本音が逆になっている」
ズバリと言い当てるHolmes(ka3813)にアルトは確かにと納得する。本当は『そう言ってくれると助かる』と言いたかったのだ。両方とも本音だから問題ない。
「安心しろ、歪虚にやられる前に引導を我の手でやるつもりだ」
「その気概に便乗しよう」
アルトとトリシュヴァーナの目はマジだった。
「トリシュもアルトもドンマイ……」
無難に纏めたのは陽である。
「我よりもファリフだな」
陽の言葉に反応したトリシュヴァーナの視線はファリフにあった。
ぱちぱちと目を瞬いた岩井崎 メル(ka0520)は放っておくと呆然としているファリフをじっと見やる。
「灰になってるね」
「はいはい……」
メルの言葉を返すファリフに「意味わかってる?」と陽が首を傾げた。
「適当に返してみた」
はははとファリフは力なく笑う。
「まぁ……この現状は残念だったな。物事をなるようになるっていうし、思いっきり暴れて、いい方向にもっていこうぜ!」
元気のないファリフの背を叩いたオウガ(ka2124)が声をかける。
「そうだね……前回の鬱憤を晴らそう」
ぐぐっと、拳を握るファリフは少し元気が出たようだ。
「この間のオウガ、凄かったね。ボクも負けてられないって思ったよ」
「逃げられちまったけどな、俺もお前に負けられねぇよ」
前回の依頼の時はオウガが主にアクベンスの抑え役をしており、その奮戦の様は見事とファリフは思う。
「かなりの敵が押し寄せているけど、辺境部族もハンターの皆もいるし、皆でなんとかしよう。ね、Holmesさん!」
ファリフの言葉にオウガの隣にいたHolmesは目を瞬かせる。以前のファリフにあった未熟で独りよがりな様子が消えていた。
「勿論さ」
右の口角を上げ、Holmesは笑む。
現在の状況は今回ファリフとハンター達が担当するエリアに巨人兵達が川の中で往生していた。
川の上流の方では今回の戦いに参加している部族たちが大木を仕込んでおり、後は合図を待つばかりだ。
視線を感じたリュラは斜め後ろにいるメルの視線を感じた。
「何か……?」
リュラはメルの方を向く。メルはどこか楽しそうな表情であり、こらえきれない様子でもある。
「今回、楽しそうなことに巻き込まれたなって」
明るい声音のメルだが、その目は真剣だ。
「やるべきことをやる……です。人類側はあまりにも手が足りません」
リュラは視線を川の方へと向けると、自身の刻令ゴーレムであるセントヘレンズの方へと歩いていく。
「手筈通り、お願いします」
「わかった」
二手に分かれてそれぞれの為すべきことを始めた。
先に魔導アーマー「プラヴァー」に搭乗していた陽はインカムを通してアルトと通話をしている。
アルトの話によれば、そろそろ攻撃を開始するという。
孤立させることに成功しても、岸に上がろうとする兵が出てくるので、すぐに作戦を実行に移すとの事。
「了解」
陽の了承のあと、通話が切れた。
アルトはファリフにリュラ、メル、陽に連絡をし終えたことを告げる。
「ありがとう。アルトさん」
ファリフがアルトへ返すと、近くにいた辺境部族の戦士に視線を向けた。心得たように辺境部族の戦士は手にしていた矢じりを火で炙る。
矢じりには油が塗られており、火が移る。素早く弓に番えて空高く火矢が飛んでいった。
緩やかな放物線を描く矢は昼間でも火の合図が分かる。
上流にも火矢は見えており、見張り役が気づいて声を上げた。辺境部族の戦士達が大木が流れないように抑えていた大きな麻布を支える縄を切っていく。
早い上流から流れてきた大木は大量にあり、川の流れる音にも負けない騒音を立てて勢いよく飛び出していった。
魔導アーマー「プラヴァー」に登場していた陽は上流の川岸にて待機していた。
火矢が飛んでいったのを確認した後、フライトシステム起動して離陸を始めていた。激しい川の流れの上をフライトすることになる為、フーファイターで現在の状況を機体に適応させ、安定してフライトシステムを作動させる。
川の上流からは跳ねるかのように大木が流されてきていた。
高度を維持して魔導アーマーのフライトシステムからベイグランディアへ切り替えする。
各部スラスターからマテリアルジェットを放出していき、性能を強化させた。
魔導アーマーの得物は斬艦刀「天翼」。
空中を飛ぶ魔導アーマーに大きな翼を思わせる形状の刃を持つ優美な趣を持つ大太刀が空に映える。
今は斬艦刀の切先を下……巨人兵へと向けている。
大木と巨人兵が衝突する前に陽は魔導エンジンの出力を最大まで発揮し、イカロスブレーカーを発動させる。
余剰マテリアルエネルギーが脚部ローラーから溢れていき、光の翼のオーラを纏っていく。
大量の大木が巨人兵にぶつかっていき、歪虚達は体勢を崩していく。
体勢を崩し、隙を見せた巨人兵へ魔導アーマーの斬艦刀が砕き斬っていった。
『前方、斜め右!』
魔導パイロットインカムから聞こえたのはオウガの声。
オウガが警告した方向の奥の方……巨人兵が重なってよく見えなかったがすぐに分かった。
巨人用突撃砲を構える歪虚の姿。
ぞっと、胃が重く冷えつく感覚を覚えた陽は急いで機体を突撃砲の範囲内から退避させる。
「ありがとう、オウガ」
冷や汗をかいたが、機体は無事だ。
「おお、これは迫力があるな」
Holmesが呟いた頃には先を流れていた大木が巨人兵の腕に抑えられていたりしてる。
しかし、先ほどの斬艦刀の攻撃でダメージが与えられており、続々と流れる大木に押されてしまい、足を踏み外して川の中へ沈む巨人もいるほど。
巨人兵という障壁にも大木は激しい川の流れに流されるまま流れては巨人にダメージを負わせている。
一部の大木が川岸につっかえており、渡りやすくなっていた。
「川が巨人か大木しかない状態だが、足場が広くなっていいな」
アルトが感想を呟くと、「先に行くぜ!」とリーリーに乗ったオウガが大木の上へ乗り込んでいった。
「おおっと!」
リーリーの跳躍に比例し、乗った大木がかなり沈んでしまうが、その辺りは移動の際の速度を調節すれば深く沈むことはない。
少し沈んでもオウガのリーリーは慌てた様子はなく、警戒に大木を渡り進んでいる。
主の行動に添うように佇むのはのイェジドであるВасилийだ。
綺麗にカットされた毛並みは艶やかな黒色。軽やかな跳躍に美しい尻尾の毛先が揺れる。
「先を越されたか。さぁ童心に返って、川下りと洒落込もうじゃあないか」
Holmesの誘う声にВасилийは淑やかに動き出す。
上流から辺境部族の戦士達が持ち場へ戻ってきた。
「頭よりも腕を狙って! 敵はまだ武器が使える状態だよ! ハンターに当てないようにね!」
ファリフの号令が響くと、ハンターがいない場所へ弓矢が飛んでいく。
巨人兵の腕を斬りつけ、誘導しているのはオウガだ。
「そら、追いつけるもんなら追いついてみな!」
煽られる巨人兵は腕を振り回してオウガを捕まえようとするが、リーリーも心得ているのか、敵の手に触れないように回避している。
特に彼が狙っているのは砲撃型の武器を持っている巨人兵だ。
砲撃型の武器は飛距離もあり、援護射撃の辺境部族にも被害が及ぶ可能性がある。
横からざぶん、と水飛沫が上がった。オウガは何かと思ってその方向を向けば、ファリフがトリシュヴァーナに乗り込んで大木の上を跳んで移動している。
トリシュヴァーナは大木を蹴りつけるように跳躍させている。上手い事大木同士を乗り合わせたり、端を川岸に乗せたりして巨人兵を囲むようにしていた。
「今、ファリフが大木を囲んでいる」
オウガのトランシーバーの通信先はリュラだ。
「了解」
現在、彼女の刻令ゴーレムは弾着修正指示て展開するため、チャージの真っ最中だった。モフロウを飛ばして更に敵位置の把握に努めている。
離れているとはいえ、正確な射撃をしなくてはならないからだ。
モフロウが戻ってくると、砲撃位置の確認を始めた。
最後のチャージが始まったことを確認したリュラはトランシーバーと魔導スマートフォンで仲間に通話を送る。
十秒後に砲撃を開始することと、地点を伝えた。
「範囲内から、退避して……」
リュラの通話が終了すると、大木の上で交戦していたハンター達が一気に退避していく。
ただ、メルからは「解放錬成完了」と告げられた。
「チャージ完了……放て…!!」
セントへレンズより炸裂弾が放たれる。
炸裂弾は弾着後、マテリアルにより周囲へ霰玉をまき散らすこととなるが、この砲弾は通常の威力ではない。
機導師であるメルのスキルである錬成解放が加わった砲撃だ。しかも、[SA]魔導ガントレッド「マシュルーウ」を介してのスキル発動の為、その効力は更に上乗せらせている。
着弾した個所は巨人兵の頭だった。
威力に耐えることが出来ず、首まで吹き飛んでいる。霰玉が巨人兵の頭の肉や骨と共に吹き飛ばされて周囲の巨人兵の頭から上半身までめり込ませていく。
リュラは成果の確認はせず、すぐに刻令ゴーレムより降りてメルのヘリ目がけて走り出す。
魔導ヘリコプター「ポルックス」のサキガケの操縦席にはメリが乗っており、エンジンを始動させていた。
「行きましょう」
リュラが乗り込むと、メルは「OK」と短く返す。
「しっかり捕まっててね」
横目でリュラを見やってメルが呟く。何しろ、ヘリの操縦は士官学校以来だったりする。
操縦の知識はあっても、経験が足りないことをメルは不安視していたが、今回は難しい操縦を頼まれていないので集中するだけだ。
「さぁ、いくよ!」
サキガケの機体が浮かび上がり、リュラのゴーレムを運んでいく。
リュラの炸裂弾が着弾した後、巨人兵達は大きく体勢を崩されたり、動きにくい水の中でもがく羽目になっていた。
ハンター達は巨人兵に動く時間を与えることなく、再び前線が動き出す。
「巨人兵が動く前に援護射撃を!」
ファリフが前線に出ているため、アルトが辺境部族の射撃部隊に声をかける。
射撃部隊は矢継ぎ早に矢を飛ばして巨人兵の動きを止めていく。
最前列の巨人兵が後列の巨人兵に押されて雪崩込むように川岸へとせり上がろうとしている。
歪虚は巨人用太刀を振り上げる。巨人がそのまま太刀を手放せば、射撃部隊の壊滅は避けることはできない。
アルトのイエジドであるジュリアが駆けだし、川岸の近くで浮かぶ大木の端へ思いっきり身を沈める。反対側が傾き、大きく持ち上がった。
ジュリアの背を飛び越えたアルトは傾く大木の上に足を置いた。アルトは一気に加速して大木を駆けあがっていく。
先まで上がると、彼女はマテリアルを込めて地を蹴った。
狙うのは太刀を持つ巨人兵の腕。
巨人兵と深紅の騎士刀を振り下ろすアルトが交差する。相手は巨人兵だけあって散華だけでは腕全部を切り倒すことはできなかったが、歪虚の傷口へアフターバーナーで追撃をかける。
縦横無尽に斬り裂かれた腕は重力に従い、肉が千切れていく。
アルトは自身が斬り落とした巨人兵の腕に乗り、足場代わりに伝って走っていった。
優雅に跳躍するように移動しているHolmesのイェジド、Василийが複数の巨人兵の腕に追い回されている。
「了解」
リュラからの伝話を受けたHolmesはВасилийを誘うように移動させる。巨人兵達は腕を振り回して彼女達の動きを阻害しようとしていた。
「やれやれ、かなりのせっかちぶりだな」
Василийは焦らず、慌てずにスティールステップを駆使して見事に回避をしている。
「しかし、短絡的な動きは悪くない」
そう呟いたHolmesは生体マテリアルを体内で練り上げ、筋肉の波動を溜めいていく。その間もВасилийは巨人兵の群れの中をゆったり跳んでいく。
すれ違いざまにВасилийが装備している大剣「獄門刀」が巨人兵の腕や首筋を斬りつけて行っている。
Holmesはどこかをちらりと見やってから巨人兵達を見据えた。
「追われるより解決を追う方が好みなんでね」
そう告げたHolmesは徐にBaritsuを巨人兵へ向けると、練り上げた生体マテリアルが光となって解き放たれる。
光と共に発せられたアブソリュート・ポーズの衝撃は巨人兵の上半身を揺らがせるには十分なものであった。
巨人兵の思考能力を奪うことに成功した事をHolmesはリュラに告げる。
メルの魔導ヘリコプターが空輸するセントへレンズの行き先は川の対岸側。
初弾の後、敵の巨人兵団は近接攻撃組と辺境部族の援護射撃組に意識を向けられており、ヘリコプターが飛んでいる事には気づいていなかった。
「お願い……このまま気づかないで……」
操縦に集中していたメルだが、つい言葉がでてしまう。
着陸の瞬間も、Holmesがアブソリュート・ポーズで敵の気を逸らし、無事に空輸が終了している。
リュラは再びセントへレンズに搭乗し、見える位置からの敵と味方の把握を始める。把握確認が終わると同時に味方へ炸裂弾の着弾地点を伝えた。
「……ファイヤ」
炸裂弾が発射されると同時に着弾地点から味方の姿はもう見えない。
着弾先は巨人兵の首の付け根だった。首が折れており、周囲の歪虚に霰玉が当たっている。
「チャージを、始めます」
少しずつ、確実に敵は減り始めていた。
前線では本来の川の色が全く別な色へと変貌している。
その色が同胞の血ではないことへの安堵、敵に勝とうという鼓舞に繋がっているとオウガは岸にて援護射撃をしている辺境部族を案じた。
「相手はまだまだいる。行くぜ!」
相棒のリーリーはオウガの言葉を肯定するように大きく羽を広げて再び駆け出していく。
ハンター達の働きで巨人兵の数は確実に減り始めている。生きているのか、死んでいるのかはわからないが、暫く動いていない歪虚の数が増えている。
逃亡を試みようとする歪虚も出始める頃だろう。
オウガは半端に離れている巨人兵目がけてリーリーを走らせる。
目的の巨人兵はオウガが自身の方へ近づいてきていることに気づいており、太刀を構えていた。
魔斧「モレク」を構えたオウガは太刀を受ける様子を見せ、巨人兵はオウガを大木ごと斬り倒すべく、太刀を振り上げる。
オウガは巨人兵が太刀を振り下ろしたところでリーリーの速度を減速させた。
「跳べ!!」
タイミングを見計らっていたオウガはリーリーにジャンプの指示を叫ぶ。
リーリージャンプは空は飛べないが、その跳躍は高く、長い。巨人兵の太刀が振り落ちていき、そのすれ違いにリーリーが太刀を飛び越えていく。
「その剣を受けるのは俺じゃねぇよ」
肩越しに不敵に笑うオウガの言葉の意味はその後すぐに理解できる。
巨人兵が気配を察知し、その方向へ視線を投げた。
「そうだね。僕が引き受けるよ」
凛々しい声がオウガのトランシーバーから聞こえる。
ベイグランティアの効力が発揮されている魔導アーマーが巨人兵の背後にいた。オウガを乗せたリーリーは別な場所へ駆けており、味方はいない。
魔導アーマーの操縦者である陽は斬艦刀を構え、思い切り巨人兵へ叩きつけた。
「もう少ししたら、セントヘレンズのチャージが終わる頃だ。川岸に上がらないように誘導を頼む」
陽は離脱の動作をしつつ、前線のハンターに声をかける。
「了解」
短く応えたのはアルトだ。彼女はマテリアルのオーラを纏っていた。
陽との伝話終了後、一気に加速を初め、自身の残像すら吹き飛ぶかのようだ。敵の死角を狙い、大木のない所からの加速をサポートする為、空渡を展開していた。
中空に極薄のマテリアルで足場を作り、駆けていく。彼女が炎のようなオーラを纏っているので、足がついたところに炎の花弁みたいにオーラが垣間見えて消える。
目的の巨人兵は現在、他の巨人兵と一緒にファリフと交戦していた。
交戦中のファリフは苦戦している様子ではなく、川岸に上がろうとする巨人兵を川へ戻すように誘導していたのだ。
アルトとの間合いを計り、ファリフは身を翻す。
巨人兵は尚も追おうとするが、アルトの気配に気づいていなかった。彼女は深紅の騎士刀を素早く振り下ろし、巨人兵の首を斬りつけ、更に追撃をしていく。
リュラのセントヘレンズがチャージを終えようとした時、巨人兵が自分達の背後にゴーレムがいた事に気づいたようだ。
当該の巨人兵の手には巨人型散弾砲がある。
いち早く気づいたのはメルだ。
「前線! 背後に注意! ワンダーフラッシュ発動するよ!」
更にメルが巨人への位置を叫ぶと、前線のハンター達が蜘蛛の子を散らすように退避していった。
射撃部隊も身を伏せて視界を守る。
自身のマテリアルに集中していくメルは錬成した光の玉を敵の方へと向ける。瞬間、光の玉が弾けて眩い光が巨人兵の目を焼いていった。
ワンダーフラッシュの効力の余韻が響いている中、セントヘレンズのチャージが完了する。
「完了……ファイア」
再びメルの解放錬成が付与された炸裂弾が巨人兵の群れへと跳んでいく。
着弾した巨人兵は動かなくなり、周囲の巨人兵も前線組ハンターとの交戦でダメージを追っていたところに霰玉をくらい、倒れて川に沈む敵も出てきた。
ハンターの攻撃も連携も見事であり、巨人兵からのダメージは少ないものであった。
巨人兵は動きは遅いが知能はある。動かなくなった同胞の身体を掻い潜って出し抜こうと試みる歪虚がいた。
戦闘の中で大木が折れたものもあり、その破片が歪虚の近くでくるり、と回る。
不自然に。
歪虚を威嚇するように。
「逃亡ではなく、出し抜きか」
凛と声を上げたのはHolmesだ。その手にはBaritsuが握られており、ペストマスクを模したグリップ部分より鎌刃が彼女のマテリアルに反応して姿を見せている。
「流木による川の氾濫により、ここから先は通行止めだ」
Holmesは祖霊を自らに憑依させて幻影を纏い巨大化する。
「最後まで付き合って貰うよ」
耳の先から尻尾までモフい幻影が巨人兵を圧倒しようとしていたが、巨人兵の手にはまだ武器を隠し持っていた。
水面から砲口が覗く。
「それもお見通しだ」
口元を緩めるHolmes。
巨人兵は弾丸を射出しようとした瞬間、後頭部からの衝撃で巨人兵は顔を砲口へと埋める。
衝撃の主である陽はすぐに魔導アーマーを反転させて退避をし、Holmesを乗せたВасилийも軽やかに跳び、退避していた。
突撃砲が暴発して歪虚の動きが止る。
リュラやメルも刻令ゴーレムより降りて掃討に入った。
「粗方片づけたけど、また隠れていたら嫌だよね」
メルが大木を渡りつつ、歪虚が動いているかどうかの確認をしていく。
「そうだね」
魔導ゴーレムより降りた陽も同感であり、ハンターとファリフ達は確認して歪虚の殲滅となった。
ハンター達が川岸に戻ると、早馬が来ており、ビックマーVSチューダの速報が到着していた。
チューダはハンターの声援を受けて奮戦、ビックマーの大きさも小さくする事に成功したとのこと。
わっと湧き上がる中で、トリシュヴァーナは「歪虚め、ネズミを仕留めそこなったか」と嘯く。
「まぁ、やることはやりましたね」
リュラがどこか意外そうに口を開いた。その隣でメルがくすっと笑う。トリシュヴァーナは「ああ、及第点だ」と褒めた。
「とりあえず、チューダが功労者だね」
陽がトリシュヴァーナに言えば、「我の敵はまだいる」と返す。
ちらり、とHolmesがトリシュヴァーナの方を向いた。
「アクベンス……だな」
オウガが言えばトリシュヴァーナが頷く。
「ビックマーの消息も分かってないようだし、これからが正念場だな」
溜息をつきつつ、アルトは空を見上げた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 リュラ=H=アズライト(ka0304) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/08/29 20:34:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/26 16:33:41 |