ゲスト
(ka0000)
大江の住むところで秋まつり
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/03 07:30
- 完成日
- 2018/09/08 21:41
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●怒られないのも辛い
エトファリカ連邦国天ノ都の吉備家の一室、大江 紅葉は首をひねったり、眉をしかめたり落ち着かなかった。
先日、妖怪に命を狙われていた。原因は大江家の始祖な人物であり、妖怪は主人筋のどこかの姫君だったらしいという状況。調べるにしても文献の散逸が多すぎてできないし、したところで起こったことは変わらない。
里の方に行こうとしていたためにハンターは雇っていた。しかし、ハンターが来る前に襲撃され、紅葉は魔導トラックで逃げた。紅葉が逃げれば追ってくると考えたからだ。案の定その通りになったが、それがいけなかった。
「怒られる方が気が楽、というのはこういうことですね」
スピードを考えれば追いつかれることはなかったのだが、途中で横転した。そのどこかの里の跡でどうにかするのが一番効率としていいとは考えてはいた。
その結果、方々に心配をかけた。紅葉が無事だったこと、妖怪は討伐されたことは良かったのだが。
なお、魔導トラックの横転に関しては、運が悪かった以外思っていない。自分の運転が普通だと思っているため、反省はしない。ぬかるみがいけないのであり、スピードを出していた自分に非はないのだ。
そして、怒られる一割、心配されていたわられる九割だった。
ただ、何かが足りない。里の復興に何がいるのかと考える。
「お金です! お金が足りないのです!」
現状足りないものが何か気づいた。
自分が住む里の地域を「師岬(もろさき)」と名付けたことはいい。師岬を興して上で、発展していくにはお金がいるのは事実。ただし、声に上げて言ったものの、あまりしっくりこない。
「お金だけではないのです……人、ものなども必要です。それと、地域の色々人がいますし交流と気分転換です」
街道から逸れているため妖怪が直接南の方向から来ることは少ないと思われる。しかし、道はあるため妖怪が来ないとは限らない。実際そのルートで妖怪は何度となく来ている。守りのために幕府側に頼むわけにもいかないし、自力でどうにかしないとならない。トップがいないとなると、順当に繰り上がり大江家がトップ代理になる。
そして、紅葉があれこれ悩んだ結果、砦の建設は必須で、島の橋づくりも必要。砦の建設費用に維持のための人員、それらを賄うための里という器が足りない。特産品があるわけでもないし、そもそも歪虚支配地域以前何がここの売りだったかもわかっていない。
すなわち、全部足りない。だから、他所から人を呼び込みお金を稼ぎつつ、里の人たちの気分転換や交流も深めるきっかけになればいいと思っている。
「どうやって人に来てもらうかです。それと、観光でもいいのです、天ノ都から人が動くことも重要です。何かイベントを考えないといけません! 七夕なのです、お盆なのです、盆踊りです!」
それはすでに終わっているのは知っている。季節は移ろう。
「そうです! そうですね! 秋のおまつりですっ!」
紅葉はガバッと立ち上がると、こぶしを握り締める。
「花火職人と花火職人と花火……いえ、花火以外もいります。盆踊りのやぐらに、出店に演芸大会です! 盆踊りってなんでしたっけ?」
紅葉は座卓に紙を広げ、墨をすると筆で素案を書き始める。
「花火と出店と、神社ですね……神社? それはいらないです。でも、御神輿って面白そうです! うーん、龍のこういうのをこうしてこういうのでしたっけ? 多分、何か混じってきましたね……。時間がありません、それは放置です。それから、キャンプ場を造らないといけません。なにせ、師岬には宿泊施設ありませんからね」
さらさらと書き進める。
「えっと……これくらいですね?」
紅葉は計画書を仕上げた。
●秋まつりへ
紅葉は意気揚々と師岬に出向き、家令の許可をもらい、師匠であり兄弟子である吉備 灯世にも念のため計画を告げる。
そして、職人を手配した。
そのあと、ハンターオフィスに出向く。
「キャンプと出店と演芸大会、龍舞です! ぜひ、のんびりと残暑を楽しんでください」
「……残暑を楽しむ? 龍舞? 海は入れます?」
「たぶん」
職員は危険を察知した。
「浜あります?」
「あまりありません」
遊泳は禁止、足を入れたりするのは可。
「屋形船くらい出していいのでは?」
「なるほどです」
という具合でイベント情報をハンターに出した。
エトファリカ連邦国天ノ都の吉備家の一室、大江 紅葉は首をひねったり、眉をしかめたり落ち着かなかった。
先日、妖怪に命を狙われていた。原因は大江家の始祖な人物であり、妖怪は主人筋のどこかの姫君だったらしいという状況。調べるにしても文献の散逸が多すぎてできないし、したところで起こったことは変わらない。
里の方に行こうとしていたためにハンターは雇っていた。しかし、ハンターが来る前に襲撃され、紅葉は魔導トラックで逃げた。紅葉が逃げれば追ってくると考えたからだ。案の定その通りになったが、それがいけなかった。
「怒られる方が気が楽、というのはこういうことですね」
スピードを考えれば追いつかれることはなかったのだが、途中で横転した。そのどこかの里の跡でどうにかするのが一番効率としていいとは考えてはいた。
その結果、方々に心配をかけた。紅葉が無事だったこと、妖怪は討伐されたことは良かったのだが。
なお、魔導トラックの横転に関しては、運が悪かった以外思っていない。自分の運転が普通だと思っているため、反省はしない。ぬかるみがいけないのであり、スピードを出していた自分に非はないのだ。
そして、怒られる一割、心配されていたわられる九割だった。
ただ、何かが足りない。里の復興に何がいるのかと考える。
「お金です! お金が足りないのです!」
現状足りないものが何か気づいた。
自分が住む里の地域を「師岬(もろさき)」と名付けたことはいい。師岬を興して上で、発展していくにはお金がいるのは事実。ただし、声に上げて言ったものの、あまりしっくりこない。
「お金だけではないのです……人、ものなども必要です。それと、地域の色々人がいますし交流と気分転換です」
街道から逸れているため妖怪が直接南の方向から来ることは少ないと思われる。しかし、道はあるため妖怪が来ないとは限らない。実際そのルートで妖怪は何度となく来ている。守りのために幕府側に頼むわけにもいかないし、自力でどうにかしないとならない。トップがいないとなると、順当に繰り上がり大江家がトップ代理になる。
そして、紅葉があれこれ悩んだ結果、砦の建設は必須で、島の橋づくりも必要。砦の建設費用に維持のための人員、それらを賄うための里という器が足りない。特産品があるわけでもないし、そもそも歪虚支配地域以前何がここの売りだったかもわかっていない。
すなわち、全部足りない。だから、他所から人を呼び込みお金を稼ぎつつ、里の人たちの気分転換や交流も深めるきっかけになればいいと思っている。
「どうやって人に来てもらうかです。それと、観光でもいいのです、天ノ都から人が動くことも重要です。何かイベントを考えないといけません! 七夕なのです、お盆なのです、盆踊りです!」
それはすでに終わっているのは知っている。季節は移ろう。
「そうです! そうですね! 秋のおまつりですっ!」
紅葉はガバッと立ち上がると、こぶしを握り締める。
「花火職人と花火職人と花火……いえ、花火以外もいります。盆踊りのやぐらに、出店に演芸大会です! 盆踊りってなんでしたっけ?」
紅葉は座卓に紙を広げ、墨をすると筆で素案を書き始める。
「花火と出店と、神社ですね……神社? それはいらないです。でも、御神輿って面白そうです! うーん、龍のこういうのをこうしてこういうのでしたっけ? 多分、何か混じってきましたね……。時間がありません、それは放置です。それから、キャンプ場を造らないといけません。なにせ、師岬には宿泊施設ありませんからね」
さらさらと書き進める。
「えっと……これくらいですね?」
紅葉は計画書を仕上げた。
●秋まつりへ
紅葉は意気揚々と師岬に出向き、家令の許可をもらい、師匠であり兄弟子である吉備 灯世にも念のため計画を告げる。
そして、職人を手配した。
そのあと、ハンターオフィスに出向く。
「キャンプと出店と演芸大会、龍舞です! ぜひ、のんびりと残暑を楽しんでください」
「……残暑を楽しむ? 龍舞? 海は入れます?」
「たぶん」
職員は危険を察知した。
「浜あります?」
「あまりありません」
遊泳は禁止、足を入れたりするのは可。
「屋形船くらい出していいのでは?」
「なるほどです」
という具合でイベント情報をハンターに出した。
リプレイ本文
●交渉
エルバッハ・リオン(ka2434)はイベントの内容を見て、演芸大会でひとつ意見があった。そのため、大江 紅葉(kz0163)に交渉を持ちかける。
「たまにはこういうことでも魔法の腕前を見せたいです……が、祭り用のやぐらだとスペースとして厳しいです」
「……そうですね、高さが高いですね」
「いえ、スペースが狭いのです」
紅葉はこくんとうなずく。
「そこでです。実演用のスペースをやぐらそばに作ってもいいでしょうか?」
「あ、別にかまいませんよ。本当は盆踊りしたかったのですけれど、練習間に合わないのであきらめたのです」
あっさりと許可が出たうえ、なぞのやぐらの理由が明らかになった。
「それと、魔法の使用中、十分注意は払いますが、酔っ払いや小さなお子さんが寄ってくるというようなアクシデントが想定できます。そのため、警備員を出してほしいのです」
「かまいませんよー」
紅葉は激しくうなずく。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、来ていただいて幸いです」
エルバッハは早速準備に取り掛かった。
●秋まつりとは
レイア・アローネ(ka4082)はイベントの告知を見つけ、しばらく考える。
「夏祭りというやつか」
「秋祭りです」
職員が横から告げる。
「しかし、やっていることは夏祭りと同じではないか?」
「告知を貼っていた人は『暦の上では秋だから、秋祭り』だそうです」
「ああ、まあ、間違っていないな」
レイアは気を取り直して告知を見る。
「紅葉のところか。賑やかしもいるといないでは違うだろう。楽しませてもらおうかな」
そして、友人に連絡を取って出かけることにした。
札抜 シロ(ka6328)はハンターオフィスの催し案内を見ていて、秋祭りのポスターが目に留まる。
「演芸大会? それは、手品師であるあたしが黙っているわけにはいかないの!」
そして、トランプやグラスなど手品道具を引っ提げて、現地に向かったのだった。
夢路 まよい(ka1328)は純粋にまつりだと歓喜の声をあげ、出かけることにした。
「おまつりと言えば夏祭りが定番だけど、秋祭りってどんな感じなんだろ?」
イベントの日程を見ると、収穫祭みたいではない。
「まっ、まずは飛び込んで体感してみよう」
なぜ秋祭りなのか主催者に聞けばいいのだ。紅葉ならば顔見知りであるから探せるはずだ。
●準備万端
星野 ハナ(ka5852)は出店を作ることを考えていた。内容を見て、場所を考えると、ハナの出す店の傾向は東方茶屋だった。
「今まで通りだと普通のこっちのお茶屋さんですもんねぇ。でも、久方ぶりならなじんだものンお方がいいでしょうか?」
祭りが催される経緯を考えると、馴染みの味があってもよいのではないかと気づいた。
「そちらはまだ物資不足で、おやつなど後回しですね。そうなると、甘いもの好きはこういうのを求めているはずです」
準備を着々と進め、出かけたのだった。
フェリア(ka2870)はレイアから連絡を受けて、せっかくなのでやってきた。
東方のこのような祭りは初めてではないため、先日友人に見立ててもらった浴衣で参加することにしていた。
「何もないけれど、人がいて活気があることはいいことですね」
テントに荷物を置き、着替え、準備を整える。
天央 観智(ka0896)はのんびり過ごすためにやってくるのだが、用心には用心を重ねる。
(お祭りは、楽しいことだけがあれば、良いですけれど……でも、危険がない、わけでもないですからね)
屋形船で楽しめるなら楽しみたいと考えたが、何があるかわからないため【ウォーターウォーク】と【マジックフライト】をスキルセットして出かける。屋形船から転落する者がいなければ一番いい。
アシェ-ル(ka2983)は警備をすることを申し出た。せっかく住民同士、見物人がいたとして祭りで気が緩み問題が起こることは良くない。
「人は気が緩むと油断しますからね。つまらないことから人間関係が壊れたら、これからが困るでしょう」
用意している鎧は和装甲冑にたいそうな武器を持ち、立つことにした。
話を聞いた紅葉は「楽しんでくれてもいいのです」と告げる。
「人間関係は重要です。だから、私、警備の鬼になりますっ! 独り身で他にすることがないとかそんなことないですから! 他にすることがないとかないですから!」
力説されたため紅葉がきょとんとなる。
「き、きっと、出会いがあります!」
ぎゅとこぶしを握った紅葉が力強く告げた。
「で、出会い……」
あるといいな、とは思った。
●テント村
ミオレスカ(ka3496)はこの場所にも名前が付いたことを知り、紅葉が頑張っていることを知った。祭りの演芸大会に出る為、申し込みに行く。
その時、忙しそうにうろついている紅葉を見つけた。
「紅葉さん、こんにちは」
忙しそうにしていた紅葉は足を止め、挨拶と来てくれたことへの礼を述べた。その首にガマ口財布がぶら下げられている。なんとなく家臣から子ども扱いされたままではないかと感じる。
「師岬という場所になるのですね。不思議な響きですが、いいと思います」
「ありがとうございます。この辺りの地名、結構忘却してしまって……一からつけるならば、皆が守れるようにということを願いました」
ミオレスカは「なるほど」とうなずく。
「収穫前の祭りですね。そういえば、紅葉さんは領主まで務めるんですね」
「……え? いえいえいえいえ、そんなたいそうな者ではないですよ」
紅葉が激しく首を横に振った。
「そうなのですか?」
ミオレスカが見聞きしていることから言うと、国に申し出ているわけではないが、この地域では紅葉がトップという認識は強いと思われる。つまり、領主的な立場。
「船も出せるなら、海の向こうから人が来ることもあるでしょう。交易路は整備できるのでしょうか?」
紅葉はミオレスカの言葉に目を瞬いた。
「そうですね……船ですか……確かに、それは……」
紅葉が考え込み、ブツブツ言い始める。しかし、ミオレスカがいることをすぐに思い出し「楽しんでくださいね」と述べた。
「あ、はい」
紅葉はいそいそ離れて行く。
「役に立てたのでしょうか? わからないですが、今日は楽しみましょう」
エルバッハは各種準備をしている傍ら、やぐらの側に追加のスペースを設ける。準備が整う中、子どもや動物が動き回っているのを目にした。
「大人ばかりではないというのは重要ですね」
地域に人が戻ってきていることを象徴するから。
到着後、ハナは出店をする旨を告げ、場所を確保した。
背もたれのない長い椅子に緋毛氈を敷きく。野点傘を何本立て、日陰を作る。風は抜けるがこの地域は日陰がほとんどない。
「木が植わっていないのは問題ですぅ」
海が見える為、松の木でも植わっていると見ごたえも、地域的に良さそうだ。
「それはそうと、準備ですぅ。保冷がきちんとできる所でないとあんこの提供は怖かったんですよねぇ。見たことがあるものが多めの方が良いかなと思いました」
せっせと準備を進めた。
まよいは収穫祭ではないと気づいた。
「畑がまずないもの!」
建物もまばら、資材山積みという状況だ。
「あ、紅葉だー」
何か考えながら歩いている紅葉を発見する。呼び止めると挨拶をかわし、質問をした。
「秋祭りってなんでかなって」
「夏ではなく秋だからです」
「……え」
「実施するタイミングが秋だからです」
「あ、言い方変えて二度言った……でも、ま、楽しいことはいいことだよね」
「そうですよ」
紅葉は重々しくなずく。
「楽しむよー」
まよいは紅葉と別れて、出店の方に向かって行った。
シロが参加希望を提出すると、近くで男の子がじっと見ていた。
「ねえ、手品ってなーに?」
「手品っていうのはね、こういうのよ?」
トランプを取ると、子どもの前で見せる。その中から一枚取り、手の中に収める。子どもの目がキラキラと近づく。
「いいかな? ここの手の仲中からトランプは消えるよ」
「嘘だー」
「本当だよ。一、二、三」
子どもの声も加わり三と言ったと同時にぱっと手を開くと、何もなかった。
「うわああ」
「そして、ここからでるの」
反対側のそでから出す。
「すごーい」
「ぜひ見に来てね」
「うん。兄上えええ」
子どもは走っていく。少し年長の男の子に必死に何かを語っていた。シロを見て両手を振って立ち去る。
「さて、時間までは……本日の宿となるテントと寝袋の感触と、準備だと食事ね」
食事は出店を楽しむと同時に祭りを体感できるのだった。
アシェ-ルはテントで鎧を着て、外に出る。
鎧の継ぎ目や重なった部分が立てる音が響く。そこに鎧武者がいるというアピールになり、地元の子らがやってくる。
「すげー、かっけー」
「ハンターなの?」
子どもたちに取り囲まれた。何人かでまとめてしゃべるためどれに応えていいかわからなくなる。
「ハンターですよ」
アシェ-ルはたじたじになりながらも応対した。そのあと、出店ややぐらを中心に見回りもする。
観智はまずは宿代わりのテント村にやってきた。一晩明かすのには十分なものである。
ところどころに煮炊きができる場所が用意されている。
「祭りでもフェスという感じですね」
人はそれなりに集まっているのがわかる。顔見知りのハンターもいるだろう。
「祭りのメーン会場に行きましょうか。屋形船は夜ですが、見えるんでしょうかね?」
景観を楽しみたいところだが、花火以外は見えない気がした。それならば出店を楽しみつつ、見て歩けばいいのだ、陸地を。
「それより、岬なんでしょうか?」
場所は「師岬」となっているが、岬というには突き出した地形ではない。
「ぎりぎり岬ということにしましょう」
そういうことにした。
レイアは用意した浴衣を着る。待ち合わせ場所はテントの前。フェリアがどのような格好かどきどきワクワクする。
「早かったというのは、待ちに待っていたイベントということかしら?」
声がしたほうを見て、レイアは破顔する。浴衣姿のフェリアが苦笑しつつ立っていた。
「フェリア! 似合っているぞ」
「そっちもよ」
笑顔で挨拶を交わす。
「メーンは花火よね」
「そうだな。それと、どのような屋台が出ているのか」
「さすがにここまで匂いはしてこないわね」
「行こう」
「ええ」
テント村から賑わいの中心に向かっていた。
●飲食
出店とやぐらのあるスペースでアシェ-ルは視線を走らせる。
周囲の人たちはすでにアシェ-ルになれて、いいハンターさんと理解されていた。
「のんびりとしていいですね。このまま、ボーと花火が見られれば最高です」
アシェ-ルは突然、柴犬の集団に取り囲まれた。
「ワンワン」
「ウゥゥ」
うなり声などがする。見慣れていないモノに対してどうやら反応されてしまったようだ。
「ちょっちょっと! 敵ではありませんよ!」
アシェ-ルに向かって吠えている割には柴犬たちは腰が引けている。話せばわかり合えるかもしれないと思わせる。
「ああ、駄目だよ。シバたち!」
アシェ-ルが困っていると、鬼の女の子がやってきた。
「これはあなたの犬なのですか?」
「ううん。紅葉様のところの柴犬たちだよ。あたしは世話をする係なんだ」
「なるほど。名前はなんですか?」
「テユカだよ」
アシェ-ルは一瞬考えたが、この子の名前だと理解した。
「初めまして、テユカさん」
そして自己紹介をしてから、改めて柴犬の名前を聞く。
「紅葉様が途中で力尽きたから適当に呼んでいるんだ」
それでも名前を教えてくれた。
「シバたち、行くよ。あっちにごちそうがあるんだから」
柴犬たちはしぶしぶテユカについて行った。
「そんなに不審者でしょうか」
アシェ-ルは少し悲しくなった。
観智は出店を見て歩いていると、虎猫や柴犬の姿が散見された。
「つられてくるんですね……野犬というわけではないのですね」
柴犬も虎猫も首に同じ布を巻いている。その上、住民は見慣れた風景らしく、邪険にもあえてかまったりもしていない。
「なじんでいますね」
違うところからきている人間は把握するのか、虎猫と柴犬の視線がちらちら向いているようだった。
飲食を始めると、わざとらしいくらいアピールされ始めた。
腹ごしらえ後、船出発時間まで周囲をのんびりと見て回ることにした。
ミオレスカは出店を見る中で、大江家の虎猫達がうろついているのに気づいた。
「何か欲しいのがあるのですか」
声をかけられると猫たちは慌てて立ち去る。魚介につられているということがよくわかった。隙あれば取ろうとしているのだろうかとも感じる。
「少し、おすそ分けしてあげましょう」
虎猫対出店は避けられるような気がした。虎猫達はミオレスカの回りにこれでもかというくらい集まり始めた。
まよいは出店を回り、その場で食べたり、後で食べる用を確保したりしていた。
「東方交流東方茶屋ですぅ。お茶と東西のお菓子がありますよぅ」
そこにハナの声が届いた。繁盛しており、女性と子供が多いが、老夫婦がいたり年齢層性別は様々だ。
「行ってみよう」
まよいは思ったときにはたどり着いてた。
「こんにちはー。なにがあるの?」
「飲み物は、煎茶、ほうじ茶、薄茶霰に甘酒ですぅ。お茶請けはクッキー、フィナンシェ、串焼きだんごみたらし味、焼き酒かすですぅ」
「うーん……冷たいのは?」
「こっちですぅ」
「じゃ、それで。食べ物は全部」
「ほほーう。毎度ありですー。ところで、クッキーとフィナンシェにはジャムを添えるのですが」
「おすすめでー」
まよいは全部乗せの皿と飲み物のカップが載った盆を受け取った。
「本当、和洋折衷だね」
「そうですよぉ」
まよいは開いている場所に座り、日陰で飲食した。
ピクニックにも近い現状であるが、楽しい雰囲気であることに違いはない。より一層、美味しく食べられた。
肉や魚介を焼いたもの、煮物などが販売されいている。飲み物だと酒類からジュースやお茶類まで様々あった。
レイアとフェリアは近況やこの辺りのことなど飲食しながら話す。
「恋ってなんだろうなー」
「してみないと分からないでしょ?」
レイアにフェリアは淡々とした口調で返す。
(家の者から隙あらば見合いの話を持ち込まれているのに、こんなところまで勘弁してほしいわ)
フェリアの気持ちを知ってか知らずか、レイアははあとため息漏らす。
「結構、お酒飲んでるわよね?」
「このくらい……あ、そろそろ時間だな!」
レイアは笑顔で立ち上がるが、結構飲んでいたような足取りにも見える。
「そうね。行きましょう」
フェリアはほっとしていた。話が終わるだろうことは良かった。
●演芸大会
やぐらは高い。高いと見えづらいため、横にできた別の台に載るものが多かった。
やぐらだと高いというのは感じ取っていたシロもそちらを選んだ。
演芸スペースその二に手品に必要な道具を置く台を置き、観衆を見渡す。
「紳士、淑女の皆さまー、初めましてー、まずは小手調べなの」
シロは【ドローアクション】も用い、トランプをパッと出す。
観客の中で一部反応が鈍いところが見えた。
(そういえば、符術師がいるのよね)
勘づかれたのかもしれないと推測した。スキルを生かした技ではなく、手品の腕を生かしたものを選んでいけば問題はないはずだと判断した。
「そういえば、まだ暑いのよね。この地域は普段もこんな感じなのかな?」
カードを台に置いたあと、何も持っていないのを見せた直後、扇をぱっと広げ仰ぐ。扇を持っているそぶりを見せていなかったため、どよめきが湧いた。
(つかめたみたいなの)
「残暑には雪を降らせようかな」
扇から紙吹雪を生み出し、散らす。灯に照らされてまるで花弁のように舞った。
そのあと、シロは空のグラスを一回転させ、なみなみと液体が入っているのを見せた。いくつかの手品を見せて、シロの持ち時間は終わった。
昼に出会った子がシロのところに来る。両親と兄も一緒のようだ。
「おねえさん、面白かったよ!」
「ありがとう」
「ぱって出すの父上もできる」
その瞬間、父親が子供の頬を両脇から軽くつまむ。
「うわああ」
「無粋なことを言うのはこの口か。お嬢さん、気を悪くしないでくださいね」
男は柔らかい物腰で告げる。
「符術師なの?」
「そういうことだね。手品と言ったらこの程度だ」
男は親指を丸め込み、親指を抜く動作をした。
シロは破顔した。
「それ以上できたら、手品師がいらなくなってしまうの」
「それはそうか。まつりは続くから、楽しんでいってくれると弟子が喜ぶからな」
「はい」
一家とシロは別れ、夕食をとることにした。暗くなった空には、星が輝いていた。
魔法実演を行う際、エルバッハは戦闘用の、露出多めの魔術師風の衣装にした。魔術実演をするわけであるが、エンターテイメント性を持たせるためでもあるだろう。
「まずはあの的を倒します」
【ウィンドスラッシュ】と【ファイアアロー】を用いる。
身近に魔術師がいなかったのか、歓声の上がり方が違った。
「次は範囲魔法です。絶対に中に入らないでくださいね。入ると、凍り付いたり、押しつぶされてしまいますから」
エルバッハは注意事項を述べた。
個別の魔法は的を外さない限り問題はないが、範囲魔法はその範囲全員に及ぶ。
注意事項後、実演する。【ブリザード】で吹雪が起こると、涼しくなったような気になる。そのあとに【グラビディフォール】が使われると、なんとなく重さや何かを感じる。
そして、実演が終わり、エルバッハは花火の音で空を見た。
●花火
演芸大会で最初に演奏をしたミオレスカは屋形船に乗る。
急造らしいが中では簡単な料理と飲み物がふるまわれる。
薄闇の中、花火が上がる。
ポン、パアアンン。
乗っている人たちから歓声が上がる。
「平和であることはいいことですね」
ミオレスカは微笑んだ。
「このようなことであればまた遊びに来させてもらいますね」
歪虚支配地域だったころが嘘だといわれるくらいに平和になってくれることを願った。
屋形船からの景色は光と闇であり、明確に陸地の景色は見えない。シルエットであり、焚かれた火の明かりが照らしているだけである。波は穏やかで、よほどでない限り人は落ちたりしないだろう。
持ってきたスキルが必要にならないのが一番いいと観智は思う。
「活気がありますね」
陸地を見ると祭りをやっているところだけ明るい光に満ちている。
ボン、パアアーン。
花火が始まった。非常に大きい花火ではないが、この地域を考えれば十分大きな花火だ。幾重にも花が咲き、散る。
「夏が終わる、という感じですかね……でも秋祭りなんですよね」
何にせよ、残暑を乗り越える活力になるだろうと感じた。
海からの風が心地よかった。
屋形船は何艘かある。一層に乗り込んだ。
「こういうのは、恋人と乗ると違うのか?」
「……」
レイアの言葉によってフェリアは話が終わっていないことを知る。
「ごめんなさいね?」
「そうじゃない! あ、そうだ、どうだ、恋人でもできたか?」
レイアが目をきらきらさせてフェリアに問う。暗いはずなのによく見える。
パーンと花火が打ちあがる。一層、レイアの顔がキラキラしていた。
フェリアは花火に視線を移した。
「その話は勘弁してほしいわ……で、むしろ、あなたはどうなの?」
「え? はひ? うううんんんんん」
激しく狼狽したレイアであるが、すぐにしおれる。
「よくわからない……」
「花火見なさいよ!」
「そうだな。せっかくの花火だ!」
レイアはもやもやしつつも花火を見つめる。
フェリアはそのあと、陸に戻って、眠り落ちたレイアをどうにかするという事態に陥るのだった。
「恋は素敵なものなのだ」
寝言をむにゃりというレイアにフェリアは溜息が漏れたが、無邪気な友人の表情に表情を崩した。
アシェールは花火を見上げた。
ポーン、パアアアン。
大きな音ともに見事な大輪の花が咲く。
「紅葉さんが言ったけれど、出会いなんて……」
思わずため息が漏れる。
「わふ」
一匹の柴犬が寄ってきた。口にくわえていた骨をアシェールの前に置く。そして、尻尾を振っている。
「……え、くれるの?」
柴犬は尻尾を振っている。そして、花火の音が激しくなったところで、アシャールに引っ付いた。
「……出会い。そうですね、出会いはたくさんありました」
アシェールはなだめるように柴犬を撫でたのだった。
まよいは食べ物を持って、やぐらの近くでのんびりと過ごす。
花火の音が聞こえると自動的にそちらに目が向いた。
「なんだかんだでもう終わりなんだ」
かすかに座っている草のどこから、虫の音が聞こえた気がした。夏より秋というのは事実だと感じた。
ハナは花火の音で祭りが終わると気づく。
「売り切れも出てきましたし、良かったです」
演芸大会や花火に人が行ったため、その隙に傘をたたんだ。販売のラストスパートをかけるときである。
「秋、なんですねぇ」
虫の音がかすかに聞こえた。
平穏な時が続くことを願った。
エルバッハ・リオン(ka2434)はイベントの内容を見て、演芸大会でひとつ意見があった。そのため、大江 紅葉(kz0163)に交渉を持ちかける。
「たまにはこういうことでも魔法の腕前を見せたいです……が、祭り用のやぐらだとスペースとして厳しいです」
「……そうですね、高さが高いですね」
「いえ、スペースが狭いのです」
紅葉はこくんとうなずく。
「そこでです。実演用のスペースをやぐらそばに作ってもいいでしょうか?」
「あ、別にかまいませんよ。本当は盆踊りしたかったのですけれど、練習間に合わないのであきらめたのです」
あっさりと許可が出たうえ、なぞのやぐらの理由が明らかになった。
「それと、魔法の使用中、十分注意は払いますが、酔っ払いや小さなお子さんが寄ってくるというようなアクシデントが想定できます。そのため、警備員を出してほしいのです」
「かまいませんよー」
紅葉は激しくうなずく。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、来ていただいて幸いです」
エルバッハは早速準備に取り掛かった。
●秋まつりとは
レイア・アローネ(ka4082)はイベントの告知を見つけ、しばらく考える。
「夏祭りというやつか」
「秋祭りです」
職員が横から告げる。
「しかし、やっていることは夏祭りと同じではないか?」
「告知を貼っていた人は『暦の上では秋だから、秋祭り』だそうです」
「ああ、まあ、間違っていないな」
レイアは気を取り直して告知を見る。
「紅葉のところか。賑やかしもいるといないでは違うだろう。楽しませてもらおうかな」
そして、友人に連絡を取って出かけることにした。
札抜 シロ(ka6328)はハンターオフィスの催し案内を見ていて、秋祭りのポスターが目に留まる。
「演芸大会? それは、手品師であるあたしが黙っているわけにはいかないの!」
そして、トランプやグラスなど手品道具を引っ提げて、現地に向かったのだった。
夢路 まよい(ka1328)は純粋にまつりだと歓喜の声をあげ、出かけることにした。
「おまつりと言えば夏祭りが定番だけど、秋祭りってどんな感じなんだろ?」
イベントの日程を見ると、収穫祭みたいではない。
「まっ、まずは飛び込んで体感してみよう」
なぜ秋祭りなのか主催者に聞けばいいのだ。紅葉ならば顔見知りであるから探せるはずだ。
●準備万端
星野 ハナ(ka5852)は出店を作ることを考えていた。内容を見て、場所を考えると、ハナの出す店の傾向は東方茶屋だった。
「今まで通りだと普通のこっちのお茶屋さんですもんねぇ。でも、久方ぶりならなじんだものンお方がいいでしょうか?」
祭りが催される経緯を考えると、馴染みの味があってもよいのではないかと気づいた。
「そちらはまだ物資不足で、おやつなど後回しですね。そうなると、甘いもの好きはこういうのを求めているはずです」
準備を着々と進め、出かけたのだった。
フェリア(ka2870)はレイアから連絡を受けて、せっかくなのでやってきた。
東方のこのような祭りは初めてではないため、先日友人に見立ててもらった浴衣で参加することにしていた。
「何もないけれど、人がいて活気があることはいいことですね」
テントに荷物を置き、着替え、準備を整える。
天央 観智(ka0896)はのんびり過ごすためにやってくるのだが、用心には用心を重ねる。
(お祭りは、楽しいことだけがあれば、良いですけれど……でも、危険がない、わけでもないですからね)
屋形船で楽しめるなら楽しみたいと考えたが、何があるかわからないため【ウォーターウォーク】と【マジックフライト】をスキルセットして出かける。屋形船から転落する者がいなければ一番いい。
アシェ-ル(ka2983)は警備をすることを申し出た。せっかく住民同士、見物人がいたとして祭りで気が緩み問題が起こることは良くない。
「人は気が緩むと油断しますからね。つまらないことから人間関係が壊れたら、これからが困るでしょう」
用意している鎧は和装甲冑にたいそうな武器を持ち、立つことにした。
話を聞いた紅葉は「楽しんでくれてもいいのです」と告げる。
「人間関係は重要です。だから、私、警備の鬼になりますっ! 独り身で他にすることがないとかそんなことないですから! 他にすることがないとかないですから!」
力説されたため紅葉がきょとんとなる。
「き、きっと、出会いがあります!」
ぎゅとこぶしを握った紅葉が力強く告げた。
「で、出会い……」
あるといいな、とは思った。
●テント村
ミオレスカ(ka3496)はこの場所にも名前が付いたことを知り、紅葉が頑張っていることを知った。祭りの演芸大会に出る為、申し込みに行く。
その時、忙しそうにうろついている紅葉を見つけた。
「紅葉さん、こんにちは」
忙しそうにしていた紅葉は足を止め、挨拶と来てくれたことへの礼を述べた。その首にガマ口財布がぶら下げられている。なんとなく家臣から子ども扱いされたままではないかと感じる。
「師岬という場所になるのですね。不思議な響きですが、いいと思います」
「ありがとうございます。この辺りの地名、結構忘却してしまって……一からつけるならば、皆が守れるようにということを願いました」
ミオレスカは「なるほど」とうなずく。
「収穫前の祭りですね。そういえば、紅葉さんは領主まで務めるんですね」
「……え? いえいえいえいえ、そんなたいそうな者ではないですよ」
紅葉が激しく首を横に振った。
「そうなのですか?」
ミオレスカが見聞きしていることから言うと、国に申し出ているわけではないが、この地域では紅葉がトップという認識は強いと思われる。つまり、領主的な立場。
「船も出せるなら、海の向こうから人が来ることもあるでしょう。交易路は整備できるのでしょうか?」
紅葉はミオレスカの言葉に目を瞬いた。
「そうですね……船ですか……確かに、それは……」
紅葉が考え込み、ブツブツ言い始める。しかし、ミオレスカがいることをすぐに思い出し「楽しんでくださいね」と述べた。
「あ、はい」
紅葉はいそいそ離れて行く。
「役に立てたのでしょうか? わからないですが、今日は楽しみましょう」
エルバッハは各種準備をしている傍ら、やぐらの側に追加のスペースを設ける。準備が整う中、子どもや動物が動き回っているのを目にした。
「大人ばかりではないというのは重要ですね」
地域に人が戻ってきていることを象徴するから。
到着後、ハナは出店をする旨を告げ、場所を確保した。
背もたれのない長い椅子に緋毛氈を敷きく。野点傘を何本立て、日陰を作る。風は抜けるがこの地域は日陰がほとんどない。
「木が植わっていないのは問題ですぅ」
海が見える為、松の木でも植わっていると見ごたえも、地域的に良さそうだ。
「それはそうと、準備ですぅ。保冷がきちんとできる所でないとあんこの提供は怖かったんですよねぇ。見たことがあるものが多めの方が良いかなと思いました」
せっせと準備を進めた。
まよいは収穫祭ではないと気づいた。
「畑がまずないもの!」
建物もまばら、資材山積みという状況だ。
「あ、紅葉だー」
何か考えながら歩いている紅葉を発見する。呼び止めると挨拶をかわし、質問をした。
「秋祭りってなんでかなって」
「夏ではなく秋だからです」
「……え」
「実施するタイミングが秋だからです」
「あ、言い方変えて二度言った……でも、ま、楽しいことはいいことだよね」
「そうですよ」
紅葉は重々しくなずく。
「楽しむよー」
まよいは紅葉と別れて、出店の方に向かって行った。
シロが参加希望を提出すると、近くで男の子がじっと見ていた。
「ねえ、手品ってなーに?」
「手品っていうのはね、こういうのよ?」
トランプを取ると、子どもの前で見せる。その中から一枚取り、手の中に収める。子どもの目がキラキラと近づく。
「いいかな? ここの手の仲中からトランプは消えるよ」
「嘘だー」
「本当だよ。一、二、三」
子どもの声も加わり三と言ったと同時にぱっと手を開くと、何もなかった。
「うわああ」
「そして、ここからでるの」
反対側のそでから出す。
「すごーい」
「ぜひ見に来てね」
「うん。兄上えええ」
子どもは走っていく。少し年長の男の子に必死に何かを語っていた。シロを見て両手を振って立ち去る。
「さて、時間までは……本日の宿となるテントと寝袋の感触と、準備だと食事ね」
食事は出店を楽しむと同時に祭りを体感できるのだった。
アシェ-ルはテントで鎧を着て、外に出る。
鎧の継ぎ目や重なった部分が立てる音が響く。そこに鎧武者がいるというアピールになり、地元の子らがやってくる。
「すげー、かっけー」
「ハンターなの?」
子どもたちに取り囲まれた。何人かでまとめてしゃべるためどれに応えていいかわからなくなる。
「ハンターですよ」
アシェ-ルはたじたじになりながらも応対した。そのあと、出店ややぐらを中心に見回りもする。
観智はまずは宿代わりのテント村にやってきた。一晩明かすのには十分なものである。
ところどころに煮炊きができる場所が用意されている。
「祭りでもフェスという感じですね」
人はそれなりに集まっているのがわかる。顔見知りのハンターもいるだろう。
「祭りのメーン会場に行きましょうか。屋形船は夜ですが、見えるんでしょうかね?」
景観を楽しみたいところだが、花火以外は見えない気がした。それならば出店を楽しみつつ、見て歩けばいいのだ、陸地を。
「それより、岬なんでしょうか?」
場所は「師岬」となっているが、岬というには突き出した地形ではない。
「ぎりぎり岬ということにしましょう」
そういうことにした。
レイアは用意した浴衣を着る。待ち合わせ場所はテントの前。フェリアがどのような格好かどきどきワクワクする。
「早かったというのは、待ちに待っていたイベントということかしら?」
声がしたほうを見て、レイアは破顔する。浴衣姿のフェリアが苦笑しつつ立っていた。
「フェリア! 似合っているぞ」
「そっちもよ」
笑顔で挨拶を交わす。
「メーンは花火よね」
「そうだな。それと、どのような屋台が出ているのか」
「さすがにここまで匂いはしてこないわね」
「行こう」
「ええ」
テント村から賑わいの中心に向かっていた。
●飲食
出店とやぐらのあるスペースでアシェ-ルは視線を走らせる。
周囲の人たちはすでにアシェ-ルになれて、いいハンターさんと理解されていた。
「のんびりとしていいですね。このまま、ボーと花火が見られれば最高です」
アシェ-ルは突然、柴犬の集団に取り囲まれた。
「ワンワン」
「ウゥゥ」
うなり声などがする。見慣れていないモノに対してどうやら反応されてしまったようだ。
「ちょっちょっと! 敵ではありませんよ!」
アシェ-ルに向かって吠えている割には柴犬たちは腰が引けている。話せばわかり合えるかもしれないと思わせる。
「ああ、駄目だよ。シバたち!」
アシェ-ルが困っていると、鬼の女の子がやってきた。
「これはあなたの犬なのですか?」
「ううん。紅葉様のところの柴犬たちだよ。あたしは世話をする係なんだ」
「なるほど。名前はなんですか?」
「テユカだよ」
アシェ-ルは一瞬考えたが、この子の名前だと理解した。
「初めまして、テユカさん」
そして自己紹介をしてから、改めて柴犬の名前を聞く。
「紅葉様が途中で力尽きたから適当に呼んでいるんだ」
それでも名前を教えてくれた。
「シバたち、行くよ。あっちにごちそうがあるんだから」
柴犬たちはしぶしぶテユカについて行った。
「そんなに不審者でしょうか」
アシェ-ルは少し悲しくなった。
観智は出店を見て歩いていると、虎猫や柴犬の姿が散見された。
「つられてくるんですね……野犬というわけではないのですね」
柴犬も虎猫も首に同じ布を巻いている。その上、住民は見慣れた風景らしく、邪険にもあえてかまったりもしていない。
「なじんでいますね」
違うところからきている人間は把握するのか、虎猫と柴犬の視線がちらちら向いているようだった。
飲食を始めると、わざとらしいくらいアピールされ始めた。
腹ごしらえ後、船出発時間まで周囲をのんびりと見て回ることにした。
ミオレスカは出店を見る中で、大江家の虎猫達がうろついているのに気づいた。
「何か欲しいのがあるのですか」
声をかけられると猫たちは慌てて立ち去る。魚介につられているということがよくわかった。隙あれば取ろうとしているのだろうかとも感じる。
「少し、おすそ分けしてあげましょう」
虎猫対出店は避けられるような気がした。虎猫達はミオレスカの回りにこれでもかというくらい集まり始めた。
まよいは出店を回り、その場で食べたり、後で食べる用を確保したりしていた。
「東方交流東方茶屋ですぅ。お茶と東西のお菓子がありますよぅ」
そこにハナの声が届いた。繁盛しており、女性と子供が多いが、老夫婦がいたり年齢層性別は様々だ。
「行ってみよう」
まよいは思ったときにはたどり着いてた。
「こんにちはー。なにがあるの?」
「飲み物は、煎茶、ほうじ茶、薄茶霰に甘酒ですぅ。お茶請けはクッキー、フィナンシェ、串焼きだんごみたらし味、焼き酒かすですぅ」
「うーん……冷たいのは?」
「こっちですぅ」
「じゃ、それで。食べ物は全部」
「ほほーう。毎度ありですー。ところで、クッキーとフィナンシェにはジャムを添えるのですが」
「おすすめでー」
まよいは全部乗せの皿と飲み物のカップが載った盆を受け取った。
「本当、和洋折衷だね」
「そうですよぉ」
まよいは開いている場所に座り、日陰で飲食した。
ピクニックにも近い現状であるが、楽しい雰囲気であることに違いはない。より一層、美味しく食べられた。
肉や魚介を焼いたもの、煮物などが販売されいている。飲み物だと酒類からジュースやお茶類まで様々あった。
レイアとフェリアは近況やこの辺りのことなど飲食しながら話す。
「恋ってなんだろうなー」
「してみないと分からないでしょ?」
レイアにフェリアは淡々とした口調で返す。
(家の者から隙あらば見合いの話を持ち込まれているのに、こんなところまで勘弁してほしいわ)
フェリアの気持ちを知ってか知らずか、レイアははあとため息漏らす。
「結構、お酒飲んでるわよね?」
「このくらい……あ、そろそろ時間だな!」
レイアは笑顔で立ち上がるが、結構飲んでいたような足取りにも見える。
「そうね。行きましょう」
フェリアはほっとしていた。話が終わるだろうことは良かった。
●演芸大会
やぐらは高い。高いと見えづらいため、横にできた別の台に載るものが多かった。
やぐらだと高いというのは感じ取っていたシロもそちらを選んだ。
演芸スペースその二に手品に必要な道具を置く台を置き、観衆を見渡す。
「紳士、淑女の皆さまー、初めましてー、まずは小手調べなの」
シロは【ドローアクション】も用い、トランプをパッと出す。
観客の中で一部反応が鈍いところが見えた。
(そういえば、符術師がいるのよね)
勘づかれたのかもしれないと推測した。スキルを生かした技ではなく、手品の腕を生かしたものを選んでいけば問題はないはずだと判断した。
「そういえば、まだ暑いのよね。この地域は普段もこんな感じなのかな?」
カードを台に置いたあと、何も持っていないのを見せた直後、扇をぱっと広げ仰ぐ。扇を持っているそぶりを見せていなかったため、どよめきが湧いた。
(つかめたみたいなの)
「残暑には雪を降らせようかな」
扇から紙吹雪を生み出し、散らす。灯に照らされてまるで花弁のように舞った。
そのあと、シロは空のグラスを一回転させ、なみなみと液体が入っているのを見せた。いくつかの手品を見せて、シロの持ち時間は終わった。
昼に出会った子がシロのところに来る。両親と兄も一緒のようだ。
「おねえさん、面白かったよ!」
「ありがとう」
「ぱって出すの父上もできる」
その瞬間、父親が子供の頬を両脇から軽くつまむ。
「うわああ」
「無粋なことを言うのはこの口か。お嬢さん、気を悪くしないでくださいね」
男は柔らかい物腰で告げる。
「符術師なの?」
「そういうことだね。手品と言ったらこの程度だ」
男は親指を丸め込み、親指を抜く動作をした。
シロは破顔した。
「それ以上できたら、手品師がいらなくなってしまうの」
「それはそうか。まつりは続くから、楽しんでいってくれると弟子が喜ぶからな」
「はい」
一家とシロは別れ、夕食をとることにした。暗くなった空には、星が輝いていた。
魔法実演を行う際、エルバッハは戦闘用の、露出多めの魔術師風の衣装にした。魔術実演をするわけであるが、エンターテイメント性を持たせるためでもあるだろう。
「まずはあの的を倒します」
【ウィンドスラッシュ】と【ファイアアロー】を用いる。
身近に魔術師がいなかったのか、歓声の上がり方が違った。
「次は範囲魔法です。絶対に中に入らないでくださいね。入ると、凍り付いたり、押しつぶされてしまいますから」
エルバッハは注意事項を述べた。
個別の魔法は的を外さない限り問題はないが、範囲魔法はその範囲全員に及ぶ。
注意事項後、実演する。【ブリザード】で吹雪が起こると、涼しくなったような気になる。そのあとに【グラビディフォール】が使われると、なんとなく重さや何かを感じる。
そして、実演が終わり、エルバッハは花火の音で空を見た。
●花火
演芸大会で最初に演奏をしたミオレスカは屋形船に乗る。
急造らしいが中では簡単な料理と飲み物がふるまわれる。
薄闇の中、花火が上がる。
ポン、パアアンン。
乗っている人たちから歓声が上がる。
「平和であることはいいことですね」
ミオレスカは微笑んだ。
「このようなことであればまた遊びに来させてもらいますね」
歪虚支配地域だったころが嘘だといわれるくらいに平和になってくれることを願った。
屋形船からの景色は光と闇であり、明確に陸地の景色は見えない。シルエットであり、焚かれた火の明かりが照らしているだけである。波は穏やかで、よほどでない限り人は落ちたりしないだろう。
持ってきたスキルが必要にならないのが一番いいと観智は思う。
「活気がありますね」
陸地を見ると祭りをやっているところだけ明るい光に満ちている。
ボン、パアアーン。
花火が始まった。非常に大きい花火ではないが、この地域を考えれば十分大きな花火だ。幾重にも花が咲き、散る。
「夏が終わる、という感じですかね……でも秋祭りなんですよね」
何にせよ、残暑を乗り越える活力になるだろうと感じた。
海からの風が心地よかった。
屋形船は何艘かある。一層に乗り込んだ。
「こういうのは、恋人と乗ると違うのか?」
「……」
レイアの言葉によってフェリアは話が終わっていないことを知る。
「ごめんなさいね?」
「そうじゃない! あ、そうだ、どうだ、恋人でもできたか?」
レイアが目をきらきらさせてフェリアに問う。暗いはずなのによく見える。
パーンと花火が打ちあがる。一層、レイアの顔がキラキラしていた。
フェリアは花火に視線を移した。
「その話は勘弁してほしいわ……で、むしろ、あなたはどうなの?」
「え? はひ? うううんんんんん」
激しく狼狽したレイアであるが、すぐにしおれる。
「よくわからない……」
「花火見なさいよ!」
「そうだな。せっかくの花火だ!」
レイアはもやもやしつつも花火を見つめる。
フェリアはそのあと、陸に戻って、眠り落ちたレイアをどうにかするという事態に陥るのだった。
「恋は素敵なものなのだ」
寝言をむにゃりというレイアにフェリアは溜息が漏れたが、無邪気な友人の表情に表情を崩した。
アシェールは花火を見上げた。
ポーン、パアアアン。
大きな音ともに見事な大輪の花が咲く。
「紅葉さんが言ったけれど、出会いなんて……」
思わずため息が漏れる。
「わふ」
一匹の柴犬が寄ってきた。口にくわえていた骨をアシェールの前に置く。そして、尻尾を振っている。
「……え、くれるの?」
柴犬は尻尾を振っている。そして、花火の音が激しくなったところで、アシャールに引っ付いた。
「……出会い。そうですね、出会いはたくさんありました」
アシェールはなだめるように柴犬を撫でたのだった。
まよいは食べ物を持って、やぐらの近くでのんびりと過ごす。
花火の音が聞こえると自動的にそちらに目が向いた。
「なんだかんだでもう終わりなんだ」
かすかに座っている草のどこから、虫の音が聞こえた気がした。夏より秋というのは事実だと感じた。
ハナは花火の音で祭りが終わると気づく。
「売り切れも出てきましたし、良かったです」
演芸大会や花火に人が行ったため、その隙に傘をたたんだ。販売のラストスパートをかけるときである。
「秋、なんですねぇ」
虫の音がかすかに聞こえた。
平穏な時が続くことを願った。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/02 20:25:01 |