ゲスト
(ka0000)
【CF】No.1ホスト恋と聖夜の新装開店
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/29 12:00
- 完成日
- 2015/01/11 07:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
崖上都市「ピースホライズン」で進められていたクリスマスの準備も佳境に入っていた。
魔導仕掛けのイルミネーションの輝きを筆頭に、店も家も問わず、クリスマスの色で溢れている。
ハンターたちの手伝ったその成果も、町を歩く人々に広まっていた。
例えばプレゼントであったり、ツリーを飾る小物であったり。
目新しいものも、定番のものも等しくクリスマスの空気に溶け込んで、ピースホライズンのお祭り空気をより鮮やかにしている。
クリスマス当日は目前に迫っている。
どう過ごそうか、決まっていても、決まっていなくても。ピースホライズンに足を運ぶ人の数は日に日に増えていくのだった。
というわけで、ハンター達が手伝った成果の1つであるホストクラブ『クリムゾンクレセント』。
小さなテナントのドアにはクリスマスリースが飾られ、今はまだ『Close』の文字は、開店と同時に裏返されて華やかな『Open!!』に変わる。
大きなクリスマスツリーには、オーナメントが輝いて。
ワインセラーには、美味しいワインやシャンパン、カクテル用のリキュールなどが詰まっている。
台所には、飾り切りを済ませた果物に、あとは焼いたりゆでたりすれば出せるよう下ごしらえを終えたオードブル。
食器棚には、ピカピカに磨かれたグラスや皿。
大小のぬいぐるみがところどころに置かれ、可愛らしいクッションがソファを飾って。
玄関の近くの棚にそっと置かれているのは、安価だけれど可愛らしい細工の指輪。サイズもいろいろ、来てくれた客にお嬢様気分を味わってもらう小道具だ。
「ここまで来られたのは、ハンターの皆のおかげだ……本当に感謝してるぜ……」
感慨深げに、元リアルブルーのNo.1ホスト、三日月・王(みかづき・きんぐ)が呟く。
「とりあえず営業はクリスマス限り、だがきっと、これは俺様が、そしてクリムゾンクレセントが本格開店するときの糧になるだろう。それに、きっとこの店に来てくれた女の子達は、サイコーに楽しめるはずだ!」
ばさりとハンター達に向かって振り向いた三日月氏は、さっと天井に指を向けて。
「さぁ、『クリムゾンクレセント』開店! 素晴らしいクリスマスを、そして素晴らしいホストクラブをピースホライズンの皆にプレゼントだ!」
どなたさまも、いらっしゃいませこの店に!
魔導仕掛けのイルミネーションの輝きを筆頭に、店も家も問わず、クリスマスの色で溢れている。
ハンターたちの手伝ったその成果も、町を歩く人々に広まっていた。
例えばプレゼントであったり、ツリーを飾る小物であったり。
目新しいものも、定番のものも等しくクリスマスの空気に溶け込んで、ピースホライズンのお祭り空気をより鮮やかにしている。
クリスマス当日は目前に迫っている。
どう過ごそうか、決まっていても、決まっていなくても。ピースホライズンに足を運ぶ人の数は日に日に増えていくのだった。
というわけで、ハンター達が手伝った成果の1つであるホストクラブ『クリムゾンクレセント』。
小さなテナントのドアにはクリスマスリースが飾られ、今はまだ『Close』の文字は、開店と同時に裏返されて華やかな『Open!!』に変わる。
大きなクリスマスツリーには、オーナメントが輝いて。
ワインセラーには、美味しいワインやシャンパン、カクテル用のリキュールなどが詰まっている。
台所には、飾り切りを済ませた果物に、あとは焼いたりゆでたりすれば出せるよう下ごしらえを終えたオードブル。
食器棚には、ピカピカに磨かれたグラスや皿。
大小のぬいぐるみがところどころに置かれ、可愛らしいクッションがソファを飾って。
玄関の近くの棚にそっと置かれているのは、安価だけれど可愛らしい細工の指輪。サイズもいろいろ、来てくれた客にお嬢様気分を味わってもらう小道具だ。
「ここまで来られたのは、ハンターの皆のおかげだ……本当に感謝してるぜ……」
感慨深げに、元リアルブルーのNo.1ホスト、三日月・王(みかづき・きんぐ)が呟く。
「とりあえず営業はクリスマス限り、だがきっと、これは俺様が、そしてクリムゾンクレセントが本格開店するときの糧になるだろう。それに、きっとこの店に来てくれた女の子達は、サイコーに楽しめるはずだ!」
ばさりとハンター達に向かって振り向いた三日月氏は、さっと天井に指を向けて。
「さぁ、『クリムゾンクレセント』開店! 素晴らしいクリスマスを、そして素晴らしいホストクラブをピースホライズンの皆にプレゼントだ!」
どなたさまも、いらっしゃいませこの店に!
リプレイ本文
Open。
そう書かれた札を掛けてすぐに、最初の客が訪れる。
「皆が喜ぶと嬉しいですね」
そう微笑んだアクセル・ランパード(ka0448)に、ちらりとユージーン・L・ローランド(ka1810)が視線をよこして。
「アクセル、社交界では天然だった、は通じませんからね」
「……はい」
微笑と共に釘を刺されるアクセルである。
付く予定の客の服装を一番引き立てるスーツに着替えたアクセルを、ユージーンは促して。
「さて、参りましょうか」
「ええ、素敵な夢を、演出しにね」
煌く夢の店内へと、歩き出す。
「えーっと、確か大事なのは自然体で接するコトと、あくまでオレちゃん達がもてなす側だってのを覚えとくコトだっけか?」
「イエス。それがNo.1への道だ!」
びし、と天井を指さした三日月氏に、にかっと笑ってlol U mad ?(ka3514)が親指を立てる。
「Okie dokie. 任せな。オレちゃんがただのチンピラじゃねぇってコトを見せてやんよ♪」
Kingに教わったことを実行するチャンスだしな、と笑って、lolもスーツの上着に腕を通し、聖夜の客席へと現れる。
「私にどうしろと言うのだね……」
女性が接待される店だと聞いてきたのに、着くなり雇われバイトくんに渡されたのは男性用のスーツ。
Charlotte・V・K(ka0468)はちょっとだけ切なげな目をして、けれど躊躇いなくスーツに腕を通した。
心を決めてしまえば、Charlotteの行動は早い。ちょうどやってきた客に付き、たばこを取り出した彼女に素早くライターを取り出して火をつける。
「あら、ありがとう! 素敵なホストさんね」
「喫煙者としては、こういうものは嬉しいものだからね」
微笑んだ女性は、ピースホライズン在住の一般人のようだ。ハンターであるCharlotteの冒険譚を無邪気にねだり、楽しげに聞き入る。
そして次の煙草を取り出し、ふと目を輝かせて。
「ねぇ、私、あれやってみたいの。煙草の火を分けるって……」
期待を込めて言った女性に頷いて、自分の煙草に火をつけてからそっとその火を女性の煙草に分ける。
(というか、バレないものなのかね。バレないならバレないで、ショックなんだがね……)
女性は喜んでくれたが、雄々しいと言われる容姿がちょっと恨めしい。そんな複雑な気分のCharlotteである。
「ご指名ありがとうございま……ってあんたかよ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)を指名した女性客は、悪戯っぽく笑ってみせる。そう、彼の指名客のほとんどは、飲み屋で知り合った飲み友達だ。
普段とは違ってオールバックにした髪型。けれど知り合いに会ってしまえば、元の砕けた口調へと変わる。
しかし、もちろん初対面の客が来れば。
「いらっしゃいませ、クリムゾンクレセントへようこそ! ご指名はございますか?」
口調を丁寧に改め、顔を上げるとそこにいたのは。
「男の子達が接待してくれるお店なのね~。――私がお客でも大丈夫かしらん?」
リアルブルーの異文化に興味を惹かれたというナナート=アドラー(ka1668)が立っていた。
女性の装いを好む美丈夫。つまりは男性。
三日月氏の方針として、心が乙女であれば女性として大歓迎である。「もちろんですよ」と応えて、丁寧に案内するエヴァンス。
「ホスト君達は指名制なのねん。……こちらのNo.1はどなた?」
リアルブルー式の接待がどんなものか――じっくり拝見させてもらおうじゃない。
そう意気込んで、三日月氏を指名したナナートは。
「今日はありがとう、美しい人。今日は貴女に、最高の夜を」
(フフーン、これしきの話術で私が堕とせるわけないじゃない)
この強気が――、
「リアルブルーのカクテル、アラウンド・ザ・ワールド・。君の翠の瞳は、世界を一周してでも見つけたい宝石さ」
「あら、まぁ……ふふ、上手いこと言うわね」
こうなって、
「ああ、すまない。水が手についてしまったね、貸して……綺麗だね。美しくて、そして戦う勇ましい手だ」
「……や、やぁね……本気になっちゃうじゃない?」
こうである。
「今日は楽しめたわ。本格開店の時は是非報せてねん」
メロメロの瞳で、そう囁くナナートであった。
「No.1の奴が同じ『三日月』たぁ、妙な偶然もあるもんだぜ」
そう呟いて、三日月 壱(ka0244)はにまりと笑った。
「壱さん、3番テーブルお願いできますか?」
「あっ、はーい!」
黒服のジョン・フラム(ka0786)に声をかけられ、ぱっと顔を輝かせて飛んでいく壱。
完全に純真無垢なショタっ子スマイルである。腹黒ってなぁに僕知らない、とでも言いたげな。
そんな彼は、一般客のお姉さん達にもなかなかの人気。
「ねぇ、お姉さん炭酸ジュース入れてくれない? ボク、まだお酒飲めないからさ」
「ええ、いいわよぉ」
「よし来たありがとう! それじゃ炭酸タワーお願いします!」
というわけで積まれたグラスに、注がれる綺麗な金色のジンジャーエール。完成したタワーに拍手が起こる中、壱はてっぺんのグラスを手に取った。
一気に傾け、ぐぃっと飲み干す!
「ふぅっ!」
そして次のグラス、また次のグラス、さらにグラスを重ねて重ね、ついには飲み干す炭酸タワー!
「プハーッ! 飲んだぜ!」
グラスを掲げて決めポーズ!
ここだけはとても男らしいぞ!
「おおー、やるねぇあのホストくん」
ぱちぱちと手を叩いたのは、ちょうど店に入って受付をしていたテオドール・ロチェス(ka0138)である。
「ま、ふわっと店の感じとか見に来た系かなー、お気になさらずってやつ?」
「では、店内を自由に見回ってくれても構いませんよ」
「お、そりゃどうも」
にかっと笑って歩き出すテオドールに、「ホストと話したくなったら遠慮なく」とジョンが微笑む。受付に給仕にと、彼は今日は大忙しだ。
室内にはクリスマスツリーが飾られ、オーナメントがきらきらと煌き、天辺で輝くのは大きな星。ツリーの下のプレゼント箱の代わりに、玄関の棚には様々なサイズの指輪のケースが並べられている。
そして再び、今度はもっと高く積み上げられたグラス――
(ホストクラブねェ……あっちに居た頃にゃ、バイトしたっけな)
懐かしげに目を細め、ヤナギ・エリューナク(ka0265)はピンク色に輝くスパークリングワインを手に取った。
ゲストを楽しませる場ということは、リアルブルーでもここでも変わらない。その経験が、今生きている。
ピラミッド型に重ねられたグラスに注目が集まる。そこに照明を落として、ぽうっとタワーだけが浮かび上がるように。
「さ、いよいよだゼ~」
高い位置から、すぅっと注いでいくスパークリング。きらきらと弾ける気泡、輝く液体が流れる様に、わぁっと歓声が起こり――拍手。
完成したタワーは、上から順に皆に配っていく。未成年には用意していた同じ色のシャンパン風ジュースが配られて。客の1人であるヴィルマ・ネーベル(ka2549)も、目を輝かせてなみなみと注がれたグラスを受け取る。
「んじゃ、乾杯!」
「かんぱーい!!」
ヤナギの音頭と共に、グラスを打ち合わせる音が響いた。
ところでヴィルマが来店したのは、シャンパンタワーが始まる少し前のことである。
「いらっしゃい、お嬢さん」
「お嬢さん……ふふ、懐かしいのう」
思わずそう呟いたヴィルマは、「懐かしい?」と聞き返されて、慌てて首を振る。
「いや何でもないのじゃ。慣れないでのぅ、ちと恥ずかしいのじゃよ」
「そっか、それじゃ今日はたっぷりお嬢さんって呼んであげなきゃね」
そう言ってにこりと微笑むホストは灯心(ka2935)。せっかくのクリスマスだからホストクラブとやらを楽しむ、とわくわくしていたヴィルマは、灯心にエスコートされて上機嫌でソファに座る。
注文は、この夜のように甘いカクテル。青いパーティドレスとヘッドドレスに合わせ、灯心が作るのはまろやかココナッツに甘酸っぱいパイナップル、ブルーキュラソーの青を鮮やかにクラッシュアイスに注いだ『ブルー・コラーダ』。
「ほら、この青がお嬢さんに似合うだろ?」
「おお! 我のために選んでくれたのかの?」
「もちろん。今日はお嬢さんのための夜だからね」
甘い囁きに、爽やかで甘いカクテル。ほろ酔い気分で楽しんでいたヴィルマに、しかし腹黒ショタが忍び寄る!
「それでは、また来るよ。お嬢さん」
ぽんと頭を撫でて他の接客に出た灯心と交代で、壱がぺこりと一礼する。
「さあ、どうぞ。今宵は遠慮なく飲んでください!」
「おお、可愛いホストくんじゃの! それじゃ、もう1杯、今度はのぅ……」
勧められるままに1杯、また1杯と酒を重ね……気が付けば、ヴィルマの様子がおかしくなっていた。
「お酒美味しいね……」
まず口調からして変わっている。
「そうでしょうそうでしょう。もっと飲んでいいんですよ、お嬢さん」
「私なんかがお嬢様扱いされていいのかな……すみませんすみません!」
ぺこぺこ謝りながら、ぐいっと注がれた酒を煽るヴィルマ。さすがにちょっと次を注ごうか躊躇う壱。
だが。
「いいんですよ、お嬢さん。ほら、酔った姿も綺麗ですよ」
「ひぃ! そんな、綺麗って誰が、私が!? そんなことないよごめんなさいごめんなさい、お酒まだあるかな、ごめんなさい!」
「ほら、まだありますよ大丈夫です」
結局さらにお酌する壱である。
(面白いモノが見れたし、こいつはチョロそうだ……)
そう壱が思っていたところに、元々知り合いだったヴィルマの様子を見に来たエヴァンスが、慌てて酒を奪い水を飲ませる。
「お、おい! 大丈夫かヴィルマぁあ!」
「わ、私の心配とかしないで……お酒美味しいよ、うん……」
「いやいやいや! 誰かヘループ!!」
そして結局、ジョンに引っ張り出されて裏でお説教される壱と、カクテルをジュースにすり替えられながらlolに軽口で慰められるヴィルマであった。
「楽しくて、いい感じのお店だねー」
「ああ、光栄です」
客が席を立ったところで、ひょいと隣に座ったテオドールにCharlotteは頭を下げる。
「って、どしたの? お客じゃないの?」
「え?」
「だってこんな綺麗な女の子なのに。むしろホストにモテモテじゃない?」
にこ、と笑ってウィンクするテオドールに、あ、まぁ、と誤魔化しつつも、内心ちょっと嬉しいCharlotte。
そこに、慌てて駆け込んでくる三日月氏。
「お客様すみません! バイトを頼んだ子が、美しいレディに対してとんだ失礼を……」
慌てて頭を下げた三日月氏の申し出は、ホストと同じ報酬を払った上で、ここからは無料で楽しみ放題。
とりあえずホストから解放されたことにほっとして、スーツを脱ぐCharlotte。
「というわけで、ここからはレディ、俺にあなたをエスコートさせてほしいな」
そうホストモードに戻ってすっとCharlotteの指にリングを通す三日月氏と、御手並拝見と楽しげなテオドールは、いつしか3人で話しこんでいた。
「女の子喜ばせるの好き?」
「ああ、女の子は笑顔が一番可愛いからね」
「俺も好き。仲間だねー」
「私などは、どちらかと言えば凛々しいと言われるのだがな」
「その2つは相反しないよ。だって、こんなにもCharlotteさんは美しくて、さらに凛としている。誰だいそんな君を男扱いしたのは」
それはハンターではないバイトくんだが、雇ったのは三日月氏本人である。
「困ってることとかあったら、何でも聞くよ?」
「うーん……今困ってるのは、隣のレディが余りにも美しくてキスしてしまいたいことかな」
そっとCharlotteがこめかみを押さえたのは、キザすぎたのか――照れたのか。
「ふっ、オレの鍛え抜かれたテクを活かす職場だな……女性達を虜にしてやるぜ!」
そう気勢を上げてヴァイス(ka0364)が向かったのは、シルウィス・フェイカー(ka3492)が案内されたソファである。今はちょうど三日月氏と、会話を繰り広げているところだ。
「キング様、先日振りでございます。お元気そうで何よりです」
「ああ、シルウィス……俺が元気にこんないい店をやれるのは、君のおかげでもある。ありがとう」
甘いマスクで微笑む三日月氏に、シルウィスはにっこり笑って頷く。前回は開店準備を手伝った彼女だが、今日は客として。
店を見渡せば、確かに言っていた通りの準備が整い、自分が置いたぬいぐるみや活けた花も好評のようで、思わず笑みがこぼれる。
「かなりの数の店員さんがいらっしゃいますね。指名させていただいたのですが……」
「ああ、いらっしゃいませ。素敵な聖夜を過ごそうじゃねーの?」
そう言って笑ったのは、デルフィーノ(ka1548)である。倍増しの色気と妖しい雰囲気を出していく、と豪語しただけあって、濡れたような眼差しがひどく色っぽい。
丁寧にはめた指輪、そして白い髪には、紫の薔薇を。
「似合うぜ、お姫様……」
ウィンクと共に囁かれ、シルウィスがふわりと表情を緩める。
そしてディルフィーノに導かれたシルウィスと共に席に着いたのは、ヴァイス。
「楽しい時間を一緒に過ごしてくれると嬉しいぜ。まずは、喉を潤すかね?」
「あ、そうですね。では……」
酒を注文するシルウィス、応えてキッチンに注文を回すヴァイス、運ばれてきた酒を口に運び会話も少しずつ弾んでいく。
話すのは世間話やハンターとしての冒険譚――酒のペースが速くなりすぎないよう、ヴァイスは上手く話を振ってシルウィスの飲む速度を調整する。さらにシルウィスの話を引き出し、巧く会話を運ぼうとするのはディルフィーノの役割だ。
「あの時はそんなわけだったんだよ。それで、そうだな……次は、どんな話がいいかい?」
そう尋ねるヴァイスに、ふ、と数杯目の酒を口にしたシルウィスが、唇を吊り上げる。
「そうですね……ドキドキするようなお話、それとも、愛でも語り合いますか?」
蠱惑的に口を開いた瞬間、ヴァイスが飲んでいた水を思わず噴き出した。
「酔った私は積極的ですよ」
「え、あ、その……いや、やっぱり、お話に、しま、せんか」
ヴァイス本人はポーカーフェイスのつもりであるが、明らかに真っ赤になっていた。
「……ああ、いえ、冗談ですけれど」
さらりと目を逸らすシルウィスに、そっと安堵の息を吐くヴァイス。
「ふぅん、お姫様は愛の話がお望みかい?」
そこにニカッと笑ったのは、ディルフィーノ。すっとさりげなくシルウィスの髪を撫で、肩に腕を回す。
「冗談ですよ?」
「冗談じゃなくしてあげてもいいぜ?」
――大人のスリルある会話で、夜は更けていく。
「ホストクラブ……? リアルブルーの文化というものは良くわからんな」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は首を傾げ、ならば参加しなければわからないだろうとホストクラブの扉を叩く。
「とりあえず大王たるボクに相応しい接客をできるものがよいな」
そう要求したディアドラに、まず付いたのはユージーンである。
「いらっしゃいませお嬢様。今宵一夜この身は貴女の従僕、何なりとお申し付けくださいませ」
「ほう……なかなか殊勝なホストとやらではないか」
恭しい挨拶と、手を取って指に通される指輪、そしてすっと腰を落として指輪への口付け。流れるような美しいユージーンの挨拶を、ディアドラは堂々と胸を張って受け入れる。
「貴女の今宵のお相手に選ばれました幸運に感謝を。貴女の魅力に釣り合うよう精一杯お相手いたしますね」
この指輪を貴女がお外しになるまでは――夢の時間を共にいたしましょう。
そう微笑んだユージーンに、ディアドラはうむ、と楽しそうに頷いて。
「夢の時間……夢の姫君か、なるほどな」
大王と名乗り君臨すべく己を律する少女が、優雅にもてなしを受けるお姫様になれる日。
「それも、悪くないな」
ソファに身体を沈ませ、ノンアルコールカクテルを受け取りながら、ディアドラは楽しげに笑う。
「あら綺麗ね、うふふ、いい趣味してるじゃなぁい」
長い指に指輪を通され、美ドワ仲間のNon=Bee(ka1604)と日浦・知々田・雄拝(ka2796)はご満悦だ。
キラキラスパンコールドレスに艶やかな肌のNon、スリット入りのロングドレスに豊かな長髪の知々田、長身の美女と見まごう姿だが、身体の性別は、そして知々田の髪は実はウィッグ――いやいやここで大事なのは乙女心。
そちらは2人ともカンスト済みだ。
「いらっしゃいませ、お嬢さん方」
上等な灰色のスーツに黒白が対照的なベストとワイシャツ、軽く着崩した胸ポケットからは、勿忘草がそっと垂れる。
微笑んで手を伸ばした眼帯もセクシーな薄氷 薫(ka2692)に、美ドワ2人は大興奮だ。
「Nonちゃんホストよ、ホスト! どんなトークしてくれるのかしらね」
「ホントよねぇ知々田ちゃん! イイ男と飲めるなんて嬉しいわぁ」
きらきら目を輝かせる2人に、ソファ席では立ちあがったlolがウィンク。
「楽しもうぜ、お互いによ♪」
ちゅ、と飛ばした投げキッスに、きゃぁ、と上がる黄色い声。
(折角ホストってのを教えて貰ったんだ。活かさねーと損ってモンだろ?)
にかっと笑ったlolと薫で、客席へと2人をエスコート。
「このワイン美味しそうね、頂いちゃうわ♪ 貴方も一杯どうかしら?」
「Okey、んじゃ……素敵なHoly NightとBeautyにCheers!」
Nonからグラスを受け取って、チンと合わせてニヤリと笑うlol。
その傍らでは、薫が知々田にそっと流し目を送り、「その髪綺麗だな」と囁く。
「じゃ、その髪に映える飲み物作ってやるよ。甘いのが好きか? それとも……」
トン、とテーブルに置いたのは、少し強めのリキュール。
「強いの飲んで、今夜は俺の胸で寝る? なんて、な」
耳元で囁くようにすれば、知々田が口元を押さえながら軽く眉を寄せて。
「ふーんそういうサービスなの?」
素っ気なく言うが、心の中では。
(やだーイケメンがこんな間近で緊張するわー……!)
これである。
「やぁだ知々田ちゃんたら照れちゃってもう! この子ツンデレなのよ、かわいいわよねぇ」
「じゃあ素直になれる方のカクテルにしとこうかな」
そう言ってグラスにリキュールを注ぐ手つきにメロメロ津々。ちょっと濃いめのカクテルは、濃茶の髪に清楚に映える純白。
何杯かグラスを重ねているうちに、知々田の頬も熱くなる。
「やだ……あたし酔って来ちゃったわ~」
心の中で(さり気無くボディタッチよ)なんて思いながら、知々田が薫の肩に頭をもたせ掛ける。
「あたしも酔ってきちゃったわぁん」
反対側では、lolの腕に軽く手を添えるNon。
「素直になりたくなってきたか?」
「Hey hun wagwan. 折角の聖夜だ。今夜ぐれぇはサンタを待つ子どもに帰ろうぜ♪」
2人のホストの甘い言葉にさんざん酔わされた美ドワーフ達――その結果。
見事なテノールボイスと、手品で取り出した薔薇の花弁がクラブ中に広がった。
「っしゃぁ、今夜は一緒に飲もうぜ! クリスマスに乾杯!」
「かんぱーい!」
女性達に囲まれて、灼藍(ka3079)はホストを堪能していた。――もてなされる方ではなく、スーツを着る方である。
久々の陸上生活、久々の陸での出稼ぎ。女の子と遊んでお金までもらえるなんて一石二鳥、気楽に遊ぼうと灼藍は彼を囲む女性達に酒を注ぎ、再び乾杯。端正で線の細い容姿は、女性達の羨望を誘う。
「あ、灼藍兄。お似合いだね」
「おう、灯心! お前も飲むか?」
腹違いの弟、灯心の姿に、ひょいとグラスを差し出して乾杯。
「オレもお客さん居るからさ。でも似合ってんじゃん」
少し乱れたスーツを軽く直して、「うんうん、カッコいいよ。流石、灼藍兄」と灯心は笑って。女の子にモテて弟に褒められて、なかなかいい気分の灼藍。
――そして、そんな灼藍を追ってきた影が1つ。
(え、えっと……どのような、お店、なのでしょうか……)
そっと灼藍の後をついてきて、迷い込んでしまったのはスウェル・ローミオン(ka1371)。
当然こんな店に来るのも初めてで、何の店かもわかっていないし、人はいっぱいだし、もうパニックになりそうだが何とか状況を把握する。
――ここでは男性は女性に接客しなければいけないということを。……基本的には。
灼藍だって、頑張ってお仕事している(ように見える)し、邪魔してはいけないと思い詰めて。
「ぁ、あの……私と、一緒に……ええと……楽しんでくれると、嬉しい、です」
そう言ってぺこりと頭を下げた相手は、悠然とソファに座ったディアドラである。
「うむ、楽しませてみるがよい。ほれ、こちらに座ってよいぞ」
ぽんぽんと自分の隣を叩くディアドラに頷いて、恐る恐る隣に座る。
熟れた口説き文句などない。下手をすれば、会話すらもたどたどしい。
けれど、真摯に懸命に楽しんでもらいたいと接客するスウェルの姿に、ディアドラは満足そうである。
「あ、あ……すみません、ジュース、零して……」
「ふむ、大王たるもの小事に拘るものではないし、むしろ人間多少の欠点もまた美徳ということもある。気にするな」
大王らしくにこりと笑うディアドラに、緊張は解けぬながらも安心した様子で頷くスウェル。
だが、そこに飛び込んできたのは灼藍だ。
「何だってお前がこんなとこにいんだよ!!」
思いっきり頬を引っ張られて慌てるスウェル。ちなみに灼藍の方も完全に慌てている。
「すみ、ません……でも……」
たどたどしく言いながらも、働く意思を瞳に宿して出て行こうとしないスウェルを、渋々客席に戻す灼藍。
そんな様子を興味深げに眺めるディアドラ。
結局また接客を始めたスウェルを、最初はニヤニヤ眺めて楽しもうとした灼藍だが――徐々に混乱していく口調、挙動が拙くなっていくスウェルに、ついに放っておけなくなって。
「灯心!」
通りかかった灯心に、さっと耳打ち。
「悪りぃ灯心、お前にしか頼めねぇんだわ。アレ全部任せた」
「あ、あれって……灼藍兄!?」
戸惑う灯心を女性達の輪に放り込み、ヘルプに現れる灼藍。
「ぇ、ぁ、す、すみません……?」
「悪りぃですね、俺もちょっと一緒に話させてもらっていいですか」
「んむ、構わんぞ」
鷹揚に頷くディアドラと灼藍に挟まれて、スウェルは少し安心したように灼藍の服の裾を握るのだった。
「ホストクラブなんて名前くらいしか聞いたことないし、楽しみだな♪」
そう言ってちょっとお洒落した天竜寺 詩(ka0396)が現れたのは、丁度ちょっと空いている時間であった。
女形をしている一番下の兄と仲が良かったからと、詩がわくわく指名したのは優しそうで綺麗な顔立ちのアクセル、源氏名アーク・セイル。
「今宵一夜限りの夢を貴女に」
微笑みと共にそっと指輪を通されて、詩の頬が僅かに染まる。
席に案内されれば、びしりとスーツを着こなしたザレム・アズール(ka0878)が立ち上がって「ようこそ」と微笑む。バイトとして雇われることを希望して、三日月氏が自ら採用を決めた新人ホストだ。
「あ、よろしくお願いします!」
ホストが2人付くことに驚いた詩だが、ザレムも穏やかな表情の美少年である。アクセルに促され、安心したようにソファに座って――さて、次はどうしたものか。
「こういう所、初めてだから……とりあえず、お菓子でも……」
「では、パフェとシャンパン風ジュースなどいかがですか?」
開店前にメニューを完璧に暗記したザレムが勧めれば、「じゃあお願いします」と嬉しそうに詩が頷く。
自己紹介をしている間に、すぐにパフェとジュースが運ばれてくる。器を詩の前に置き、「失礼します」とスプーンを取ったアクセルが、クリームとフルーツをたっぷり載せて、けれど口に入りやすい大きさに掬ったスプーンをそっと詩に差し出す。
「え、えっと、これって……あ、あーん……」
「どうだろう、美味しいか?」
戸惑いながら口を開いたところに甘いパフェと、ザレムの言葉が同時に入ってきて、目を白黒されて赤くなる詩。
え、あ、うん、と困惑しながらジュースを一気飲みし――
「けふっ!? けほっ、けほ!」
「大丈夫か?」
「詩お嬢様、こちらをお使い下さい。平気ですか?」
炭酸にむせ込んだ詩の背をザレムがさすり、アクセルがハンカチを差し出す。
ようやく何とか落ち着いて――今度は自分でパフェを食べつつ、話題は詩の家族の話に。
「うちは歌舞伎したり、踊りしたり色々する家なんだ」
リアルブルー出身の詩の話しに、クリムゾンウェスト出身の2人のホストは興味深げに聞き入る。ザレムが歌舞伎とは何なのかと尋ねて詩が楽しげに説明したり、アクセルが頷きながら目を細めたり。
「……向こうの家族、元気かな」
懐かしげに呟いた言葉は、少し寂しげだったのかもしれない。
「きっと、同じことを思っていますよ。向こうの、ご家族も」
そうアクセルが行った言葉に、ザレムが続ける。
「だからきっと、詩さんが元気にしていることが、家族も嬉しいと思う」
ええ、とアクセルが頷いて。
「詩さんも、家族には元気にしていてほしいでしょう。互いに元気でいれば、どちらの願いも叶いますからね」
その言葉に瞳を輝かせた詩は、満面の笑みで礼を言う。
「本当に、有難う!」
そんな頃、店の外で首を傾げていたのはウィアド(ka3220)である。
「ルキハさんに呼ばれて来てみたが……ホストクラブって何だ?」
とりあえず入ってみるか、とドアを開きながら言いかけた台詞が、途中で止まった。
「うふふ、いらっしゃーい☆」
キリッとしたスーツ姿、眼鏡をきゅっと上げながら、にっこり微笑んだのはルキハ・ラスティネイル(ka2633)である。
「る、ルキハさん、いらっしゃいって……ここ何?」
「ウィアド君、夜遊びとかした事なさそうだから、社会勉強ってやつよん♪」
「え、え? えっと……」
おたおたしているウィアドを席へとご案内。ソファに座ってメニューを指し出し、にっこり笑うルキハ。
「酒を飲むところ? いや、酒は飲めるけど……」
「何がお好きかしら? これなんかオススメよぉ~」
そう言ってメニューの中でもいいシャンパンを指さすルキハ。
「じゃあ、そのおススメのシャンパンを……って高っ!?」
「ホストクラブだとそういうものよぉ」
「そ、そう……」
まぁ、うん。リアルブルーのホストクラブよりはずっと安いけど。
「はぁい、シャンパン入りまぁーす♪」
あと多分ルキハがオススメしたのがいいシャンパンだからだけど。
「シャンパン入りましたー!」
そして集まってくるホスト達に、唖然とするウィアド。
「え、何!? 何があるの!?」
「ウィアド王子が!」
「シャンパン!」
「入れてくれましたー!」
「わー!!」
そして行われるシャンパンコール。店中の手拍子と拍手。
その中心で真っ赤になるウィアド。
――美味しいシャンパンを頂いて、落ち着いたところで。
「ルキハさんはいつもこういうお仕事してるのか?」
そう尋ねたウィアドに、ルキハは眼鏡の奥からにこりと笑う。
「今回はお手伝いだけどねぇ~色んなお客さんとお話するのは楽しいから」
「そうか、凄いんだなぁ」
「今度はウィアド君におもてなしして欲しいわぁ~」
「俺にはとても無理……って」
いつの間にか重なっていたルキハの手に、慌てるウィアド。
「俺の手荒れてるから撫でない方がいいぞ?」
けれどルキハはにっこり笑って、そのざらついた手を撫でるのみ。
「またゆっくり飲みましょうねっ」
飲みの誘いの方は――喜んで。
「お姫様に酒は似合わないからな、代わりに俺の願い入れといた」
結局ダウンしかけたスウェルを連れて引っ込んだ灼藍の代わりに、ディオドラの隣に座ったのは薫。
「ほう、どんな願いだ?」
「大人になってもっと素敵になったあんたに、こうやって酒を創ってやれますようにってさ」
オリジナルのノンアルコールカクテルに、願いを込めて。楽しげに笑ったディアドラは、「では願いの礼に、一緒に飲む名誉を授けてやろう」とグラスを差し出す。
ゆらりと揺れる酒は――いつか、共に飲める時がくるかもしれぬ。
「光栄だよ、大王様」
「ああ、では、今宵の礼に」
――乾杯。
楽しかった時間が――終わりを告げる。そろそろピースホライズンで決められた、閉店の時間。
「Give a shout out to King! 素敵な一夜をプレゼントしてくれたKingに盛大な拍手と感謝を!」
立ち上がって拍手したlolに続き、店中を揺るがすような拍手と歓声の中――感激した様子で、三日月氏は「本当にありがとう!」と頭を下げた。
そして、後片付けも終わった店内で。
「正式オープンの時はよろしくな」
そう声を掛けられたザレムが、ぱっと顔を輝かせて頷く。
そこに、三日月氏に、そしてザレムやその場にいる全員に差し出されたのは、内臓に良いハーブティのカップ。
「顧客の求めに応えるのはホストもハンターも同じ。ならば依頼主であるキングさん、あなたもまた、我々にとってはもてなすべき対象です」
お客様はみな、大変良いお顔で帰られたようですよ、と告げたジョンに、三日月氏はああ、と顔を輝かせる。
「あなたにも良いクリスマスを!」
――メリー・クリスマス!
そう書かれた札を掛けてすぐに、最初の客が訪れる。
「皆が喜ぶと嬉しいですね」
そう微笑んだアクセル・ランパード(ka0448)に、ちらりとユージーン・L・ローランド(ka1810)が視線をよこして。
「アクセル、社交界では天然だった、は通じませんからね」
「……はい」
微笑と共に釘を刺されるアクセルである。
付く予定の客の服装を一番引き立てるスーツに着替えたアクセルを、ユージーンは促して。
「さて、参りましょうか」
「ええ、素敵な夢を、演出しにね」
煌く夢の店内へと、歩き出す。
「えーっと、確か大事なのは自然体で接するコトと、あくまでオレちゃん達がもてなす側だってのを覚えとくコトだっけか?」
「イエス。それがNo.1への道だ!」
びし、と天井を指さした三日月氏に、にかっと笑ってlol U mad ?(ka3514)が親指を立てる。
「Okie dokie. 任せな。オレちゃんがただのチンピラじゃねぇってコトを見せてやんよ♪」
Kingに教わったことを実行するチャンスだしな、と笑って、lolもスーツの上着に腕を通し、聖夜の客席へと現れる。
「私にどうしろと言うのだね……」
女性が接待される店だと聞いてきたのに、着くなり雇われバイトくんに渡されたのは男性用のスーツ。
Charlotte・V・K(ka0468)はちょっとだけ切なげな目をして、けれど躊躇いなくスーツに腕を通した。
心を決めてしまえば、Charlotteの行動は早い。ちょうどやってきた客に付き、たばこを取り出した彼女に素早くライターを取り出して火をつける。
「あら、ありがとう! 素敵なホストさんね」
「喫煙者としては、こういうものは嬉しいものだからね」
微笑んだ女性は、ピースホライズン在住の一般人のようだ。ハンターであるCharlotteの冒険譚を無邪気にねだり、楽しげに聞き入る。
そして次の煙草を取り出し、ふと目を輝かせて。
「ねぇ、私、あれやってみたいの。煙草の火を分けるって……」
期待を込めて言った女性に頷いて、自分の煙草に火をつけてからそっとその火を女性の煙草に分ける。
(というか、バレないものなのかね。バレないならバレないで、ショックなんだがね……)
女性は喜んでくれたが、雄々しいと言われる容姿がちょっと恨めしい。そんな複雑な気分のCharlotteである。
「ご指名ありがとうございま……ってあんたかよ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)を指名した女性客は、悪戯っぽく笑ってみせる。そう、彼の指名客のほとんどは、飲み屋で知り合った飲み友達だ。
普段とは違ってオールバックにした髪型。けれど知り合いに会ってしまえば、元の砕けた口調へと変わる。
しかし、もちろん初対面の客が来れば。
「いらっしゃいませ、クリムゾンクレセントへようこそ! ご指名はございますか?」
口調を丁寧に改め、顔を上げるとそこにいたのは。
「男の子達が接待してくれるお店なのね~。――私がお客でも大丈夫かしらん?」
リアルブルーの異文化に興味を惹かれたというナナート=アドラー(ka1668)が立っていた。
女性の装いを好む美丈夫。つまりは男性。
三日月氏の方針として、心が乙女であれば女性として大歓迎である。「もちろんですよ」と応えて、丁寧に案内するエヴァンス。
「ホスト君達は指名制なのねん。……こちらのNo.1はどなた?」
リアルブルー式の接待がどんなものか――じっくり拝見させてもらおうじゃない。
そう意気込んで、三日月氏を指名したナナートは。
「今日はありがとう、美しい人。今日は貴女に、最高の夜を」
(フフーン、これしきの話術で私が堕とせるわけないじゃない)
この強気が――、
「リアルブルーのカクテル、アラウンド・ザ・ワールド・。君の翠の瞳は、世界を一周してでも見つけたい宝石さ」
「あら、まぁ……ふふ、上手いこと言うわね」
こうなって、
「ああ、すまない。水が手についてしまったね、貸して……綺麗だね。美しくて、そして戦う勇ましい手だ」
「……や、やぁね……本気になっちゃうじゃない?」
こうである。
「今日は楽しめたわ。本格開店の時は是非報せてねん」
メロメロの瞳で、そう囁くナナートであった。
「No.1の奴が同じ『三日月』たぁ、妙な偶然もあるもんだぜ」
そう呟いて、三日月 壱(ka0244)はにまりと笑った。
「壱さん、3番テーブルお願いできますか?」
「あっ、はーい!」
黒服のジョン・フラム(ka0786)に声をかけられ、ぱっと顔を輝かせて飛んでいく壱。
完全に純真無垢なショタっ子スマイルである。腹黒ってなぁに僕知らない、とでも言いたげな。
そんな彼は、一般客のお姉さん達にもなかなかの人気。
「ねぇ、お姉さん炭酸ジュース入れてくれない? ボク、まだお酒飲めないからさ」
「ええ、いいわよぉ」
「よし来たありがとう! それじゃ炭酸タワーお願いします!」
というわけで積まれたグラスに、注がれる綺麗な金色のジンジャーエール。完成したタワーに拍手が起こる中、壱はてっぺんのグラスを手に取った。
一気に傾け、ぐぃっと飲み干す!
「ふぅっ!」
そして次のグラス、また次のグラス、さらにグラスを重ねて重ね、ついには飲み干す炭酸タワー!
「プハーッ! 飲んだぜ!」
グラスを掲げて決めポーズ!
ここだけはとても男らしいぞ!
「おおー、やるねぇあのホストくん」
ぱちぱちと手を叩いたのは、ちょうど店に入って受付をしていたテオドール・ロチェス(ka0138)である。
「ま、ふわっと店の感じとか見に来た系かなー、お気になさらずってやつ?」
「では、店内を自由に見回ってくれても構いませんよ」
「お、そりゃどうも」
にかっと笑って歩き出すテオドールに、「ホストと話したくなったら遠慮なく」とジョンが微笑む。受付に給仕にと、彼は今日は大忙しだ。
室内にはクリスマスツリーが飾られ、オーナメントがきらきらと煌き、天辺で輝くのは大きな星。ツリーの下のプレゼント箱の代わりに、玄関の棚には様々なサイズの指輪のケースが並べられている。
そして再び、今度はもっと高く積み上げられたグラス――
(ホストクラブねェ……あっちに居た頃にゃ、バイトしたっけな)
懐かしげに目を細め、ヤナギ・エリューナク(ka0265)はピンク色に輝くスパークリングワインを手に取った。
ゲストを楽しませる場ということは、リアルブルーでもここでも変わらない。その経験が、今生きている。
ピラミッド型に重ねられたグラスに注目が集まる。そこに照明を落として、ぽうっとタワーだけが浮かび上がるように。
「さ、いよいよだゼ~」
高い位置から、すぅっと注いでいくスパークリング。きらきらと弾ける気泡、輝く液体が流れる様に、わぁっと歓声が起こり――拍手。
完成したタワーは、上から順に皆に配っていく。未成年には用意していた同じ色のシャンパン風ジュースが配られて。客の1人であるヴィルマ・ネーベル(ka2549)も、目を輝かせてなみなみと注がれたグラスを受け取る。
「んじゃ、乾杯!」
「かんぱーい!!」
ヤナギの音頭と共に、グラスを打ち合わせる音が響いた。
ところでヴィルマが来店したのは、シャンパンタワーが始まる少し前のことである。
「いらっしゃい、お嬢さん」
「お嬢さん……ふふ、懐かしいのう」
思わずそう呟いたヴィルマは、「懐かしい?」と聞き返されて、慌てて首を振る。
「いや何でもないのじゃ。慣れないでのぅ、ちと恥ずかしいのじゃよ」
「そっか、それじゃ今日はたっぷりお嬢さんって呼んであげなきゃね」
そう言ってにこりと微笑むホストは灯心(ka2935)。せっかくのクリスマスだからホストクラブとやらを楽しむ、とわくわくしていたヴィルマは、灯心にエスコートされて上機嫌でソファに座る。
注文は、この夜のように甘いカクテル。青いパーティドレスとヘッドドレスに合わせ、灯心が作るのはまろやかココナッツに甘酸っぱいパイナップル、ブルーキュラソーの青を鮮やかにクラッシュアイスに注いだ『ブルー・コラーダ』。
「ほら、この青がお嬢さんに似合うだろ?」
「おお! 我のために選んでくれたのかの?」
「もちろん。今日はお嬢さんのための夜だからね」
甘い囁きに、爽やかで甘いカクテル。ほろ酔い気分で楽しんでいたヴィルマに、しかし腹黒ショタが忍び寄る!
「それでは、また来るよ。お嬢さん」
ぽんと頭を撫でて他の接客に出た灯心と交代で、壱がぺこりと一礼する。
「さあ、どうぞ。今宵は遠慮なく飲んでください!」
「おお、可愛いホストくんじゃの! それじゃ、もう1杯、今度はのぅ……」
勧められるままに1杯、また1杯と酒を重ね……気が付けば、ヴィルマの様子がおかしくなっていた。
「お酒美味しいね……」
まず口調からして変わっている。
「そうでしょうそうでしょう。もっと飲んでいいんですよ、お嬢さん」
「私なんかがお嬢様扱いされていいのかな……すみませんすみません!」
ぺこぺこ謝りながら、ぐいっと注がれた酒を煽るヴィルマ。さすがにちょっと次を注ごうか躊躇う壱。
だが。
「いいんですよ、お嬢さん。ほら、酔った姿も綺麗ですよ」
「ひぃ! そんな、綺麗って誰が、私が!? そんなことないよごめんなさいごめんなさい、お酒まだあるかな、ごめんなさい!」
「ほら、まだありますよ大丈夫です」
結局さらにお酌する壱である。
(面白いモノが見れたし、こいつはチョロそうだ……)
そう壱が思っていたところに、元々知り合いだったヴィルマの様子を見に来たエヴァンスが、慌てて酒を奪い水を飲ませる。
「お、おい! 大丈夫かヴィルマぁあ!」
「わ、私の心配とかしないで……お酒美味しいよ、うん……」
「いやいやいや! 誰かヘループ!!」
そして結局、ジョンに引っ張り出されて裏でお説教される壱と、カクテルをジュースにすり替えられながらlolに軽口で慰められるヴィルマであった。
「楽しくて、いい感じのお店だねー」
「ああ、光栄です」
客が席を立ったところで、ひょいと隣に座ったテオドールにCharlotteは頭を下げる。
「って、どしたの? お客じゃないの?」
「え?」
「だってこんな綺麗な女の子なのに。むしろホストにモテモテじゃない?」
にこ、と笑ってウィンクするテオドールに、あ、まぁ、と誤魔化しつつも、内心ちょっと嬉しいCharlotte。
そこに、慌てて駆け込んでくる三日月氏。
「お客様すみません! バイトを頼んだ子が、美しいレディに対してとんだ失礼を……」
慌てて頭を下げた三日月氏の申し出は、ホストと同じ報酬を払った上で、ここからは無料で楽しみ放題。
とりあえずホストから解放されたことにほっとして、スーツを脱ぐCharlotte。
「というわけで、ここからはレディ、俺にあなたをエスコートさせてほしいな」
そうホストモードに戻ってすっとCharlotteの指にリングを通す三日月氏と、御手並拝見と楽しげなテオドールは、いつしか3人で話しこんでいた。
「女の子喜ばせるの好き?」
「ああ、女の子は笑顔が一番可愛いからね」
「俺も好き。仲間だねー」
「私などは、どちらかと言えば凛々しいと言われるのだがな」
「その2つは相反しないよ。だって、こんなにもCharlotteさんは美しくて、さらに凛としている。誰だいそんな君を男扱いしたのは」
それはハンターではないバイトくんだが、雇ったのは三日月氏本人である。
「困ってることとかあったら、何でも聞くよ?」
「うーん……今困ってるのは、隣のレディが余りにも美しくてキスしてしまいたいことかな」
そっとCharlotteがこめかみを押さえたのは、キザすぎたのか――照れたのか。
「ふっ、オレの鍛え抜かれたテクを活かす職場だな……女性達を虜にしてやるぜ!」
そう気勢を上げてヴァイス(ka0364)が向かったのは、シルウィス・フェイカー(ka3492)が案内されたソファである。今はちょうど三日月氏と、会話を繰り広げているところだ。
「キング様、先日振りでございます。お元気そうで何よりです」
「ああ、シルウィス……俺が元気にこんないい店をやれるのは、君のおかげでもある。ありがとう」
甘いマスクで微笑む三日月氏に、シルウィスはにっこり笑って頷く。前回は開店準備を手伝った彼女だが、今日は客として。
店を見渡せば、確かに言っていた通りの準備が整い、自分が置いたぬいぐるみや活けた花も好評のようで、思わず笑みがこぼれる。
「かなりの数の店員さんがいらっしゃいますね。指名させていただいたのですが……」
「ああ、いらっしゃいませ。素敵な聖夜を過ごそうじゃねーの?」
そう言って笑ったのは、デルフィーノ(ka1548)である。倍増しの色気と妖しい雰囲気を出していく、と豪語しただけあって、濡れたような眼差しがひどく色っぽい。
丁寧にはめた指輪、そして白い髪には、紫の薔薇を。
「似合うぜ、お姫様……」
ウィンクと共に囁かれ、シルウィスがふわりと表情を緩める。
そしてディルフィーノに導かれたシルウィスと共に席に着いたのは、ヴァイス。
「楽しい時間を一緒に過ごしてくれると嬉しいぜ。まずは、喉を潤すかね?」
「あ、そうですね。では……」
酒を注文するシルウィス、応えてキッチンに注文を回すヴァイス、運ばれてきた酒を口に運び会話も少しずつ弾んでいく。
話すのは世間話やハンターとしての冒険譚――酒のペースが速くなりすぎないよう、ヴァイスは上手く話を振ってシルウィスの飲む速度を調整する。さらにシルウィスの話を引き出し、巧く会話を運ぼうとするのはディルフィーノの役割だ。
「あの時はそんなわけだったんだよ。それで、そうだな……次は、どんな話がいいかい?」
そう尋ねるヴァイスに、ふ、と数杯目の酒を口にしたシルウィスが、唇を吊り上げる。
「そうですね……ドキドキするようなお話、それとも、愛でも語り合いますか?」
蠱惑的に口を開いた瞬間、ヴァイスが飲んでいた水を思わず噴き出した。
「酔った私は積極的ですよ」
「え、あ、その……いや、やっぱり、お話に、しま、せんか」
ヴァイス本人はポーカーフェイスのつもりであるが、明らかに真っ赤になっていた。
「……ああ、いえ、冗談ですけれど」
さらりと目を逸らすシルウィスに、そっと安堵の息を吐くヴァイス。
「ふぅん、お姫様は愛の話がお望みかい?」
そこにニカッと笑ったのは、ディルフィーノ。すっとさりげなくシルウィスの髪を撫で、肩に腕を回す。
「冗談ですよ?」
「冗談じゃなくしてあげてもいいぜ?」
――大人のスリルある会話で、夜は更けていく。
「ホストクラブ……? リアルブルーの文化というものは良くわからんな」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は首を傾げ、ならば参加しなければわからないだろうとホストクラブの扉を叩く。
「とりあえず大王たるボクに相応しい接客をできるものがよいな」
そう要求したディアドラに、まず付いたのはユージーンである。
「いらっしゃいませお嬢様。今宵一夜この身は貴女の従僕、何なりとお申し付けくださいませ」
「ほう……なかなか殊勝なホストとやらではないか」
恭しい挨拶と、手を取って指に通される指輪、そしてすっと腰を落として指輪への口付け。流れるような美しいユージーンの挨拶を、ディアドラは堂々と胸を張って受け入れる。
「貴女の今宵のお相手に選ばれました幸運に感謝を。貴女の魅力に釣り合うよう精一杯お相手いたしますね」
この指輪を貴女がお外しになるまでは――夢の時間を共にいたしましょう。
そう微笑んだユージーンに、ディアドラはうむ、と楽しそうに頷いて。
「夢の時間……夢の姫君か、なるほどな」
大王と名乗り君臨すべく己を律する少女が、優雅にもてなしを受けるお姫様になれる日。
「それも、悪くないな」
ソファに身体を沈ませ、ノンアルコールカクテルを受け取りながら、ディアドラは楽しげに笑う。
「あら綺麗ね、うふふ、いい趣味してるじゃなぁい」
長い指に指輪を通され、美ドワ仲間のNon=Bee(ka1604)と日浦・知々田・雄拝(ka2796)はご満悦だ。
キラキラスパンコールドレスに艶やかな肌のNon、スリット入りのロングドレスに豊かな長髪の知々田、長身の美女と見まごう姿だが、身体の性別は、そして知々田の髪は実はウィッグ――いやいやここで大事なのは乙女心。
そちらは2人ともカンスト済みだ。
「いらっしゃいませ、お嬢さん方」
上等な灰色のスーツに黒白が対照的なベストとワイシャツ、軽く着崩した胸ポケットからは、勿忘草がそっと垂れる。
微笑んで手を伸ばした眼帯もセクシーな薄氷 薫(ka2692)に、美ドワ2人は大興奮だ。
「Nonちゃんホストよ、ホスト! どんなトークしてくれるのかしらね」
「ホントよねぇ知々田ちゃん! イイ男と飲めるなんて嬉しいわぁ」
きらきら目を輝かせる2人に、ソファ席では立ちあがったlolがウィンク。
「楽しもうぜ、お互いによ♪」
ちゅ、と飛ばした投げキッスに、きゃぁ、と上がる黄色い声。
(折角ホストってのを教えて貰ったんだ。活かさねーと損ってモンだろ?)
にかっと笑ったlolと薫で、客席へと2人をエスコート。
「このワイン美味しそうね、頂いちゃうわ♪ 貴方も一杯どうかしら?」
「Okey、んじゃ……素敵なHoly NightとBeautyにCheers!」
Nonからグラスを受け取って、チンと合わせてニヤリと笑うlol。
その傍らでは、薫が知々田にそっと流し目を送り、「その髪綺麗だな」と囁く。
「じゃ、その髪に映える飲み物作ってやるよ。甘いのが好きか? それとも……」
トン、とテーブルに置いたのは、少し強めのリキュール。
「強いの飲んで、今夜は俺の胸で寝る? なんて、な」
耳元で囁くようにすれば、知々田が口元を押さえながら軽く眉を寄せて。
「ふーんそういうサービスなの?」
素っ気なく言うが、心の中では。
(やだーイケメンがこんな間近で緊張するわー……!)
これである。
「やぁだ知々田ちゃんたら照れちゃってもう! この子ツンデレなのよ、かわいいわよねぇ」
「じゃあ素直になれる方のカクテルにしとこうかな」
そう言ってグラスにリキュールを注ぐ手つきにメロメロ津々。ちょっと濃いめのカクテルは、濃茶の髪に清楚に映える純白。
何杯かグラスを重ねているうちに、知々田の頬も熱くなる。
「やだ……あたし酔って来ちゃったわ~」
心の中で(さり気無くボディタッチよ)なんて思いながら、知々田が薫の肩に頭をもたせ掛ける。
「あたしも酔ってきちゃったわぁん」
反対側では、lolの腕に軽く手を添えるNon。
「素直になりたくなってきたか?」
「Hey hun wagwan. 折角の聖夜だ。今夜ぐれぇはサンタを待つ子どもに帰ろうぜ♪」
2人のホストの甘い言葉にさんざん酔わされた美ドワーフ達――その結果。
見事なテノールボイスと、手品で取り出した薔薇の花弁がクラブ中に広がった。
「っしゃぁ、今夜は一緒に飲もうぜ! クリスマスに乾杯!」
「かんぱーい!」
女性達に囲まれて、灼藍(ka3079)はホストを堪能していた。――もてなされる方ではなく、スーツを着る方である。
久々の陸上生活、久々の陸での出稼ぎ。女の子と遊んでお金までもらえるなんて一石二鳥、気楽に遊ぼうと灼藍は彼を囲む女性達に酒を注ぎ、再び乾杯。端正で線の細い容姿は、女性達の羨望を誘う。
「あ、灼藍兄。お似合いだね」
「おう、灯心! お前も飲むか?」
腹違いの弟、灯心の姿に、ひょいとグラスを差し出して乾杯。
「オレもお客さん居るからさ。でも似合ってんじゃん」
少し乱れたスーツを軽く直して、「うんうん、カッコいいよ。流石、灼藍兄」と灯心は笑って。女の子にモテて弟に褒められて、なかなかいい気分の灼藍。
――そして、そんな灼藍を追ってきた影が1つ。
(え、えっと……どのような、お店、なのでしょうか……)
そっと灼藍の後をついてきて、迷い込んでしまったのはスウェル・ローミオン(ka1371)。
当然こんな店に来るのも初めてで、何の店かもわかっていないし、人はいっぱいだし、もうパニックになりそうだが何とか状況を把握する。
――ここでは男性は女性に接客しなければいけないということを。……基本的には。
灼藍だって、頑張ってお仕事している(ように見える)し、邪魔してはいけないと思い詰めて。
「ぁ、あの……私と、一緒に……ええと……楽しんでくれると、嬉しい、です」
そう言ってぺこりと頭を下げた相手は、悠然とソファに座ったディアドラである。
「うむ、楽しませてみるがよい。ほれ、こちらに座ってよいぞ」
ぽんぽんと自分の隣を叩くディアドラに頷いて、恐る恐る隣に座る。
熟れた口説き文句などない。下手をすれば、会話すらもたどたどしい。
けれど、真摯に懸命に楽しんでもらいたいと接客するスウェルの姿に、ディアドラは満足そうである。
「あ、あ……すみません、ジュース、零して……」
「ふむ、大王たるもの小事に拘るものではないし、むしろ人間多少の欠点もまた美徳ということもある。気にするな」
大王らしくにこりと笑うディアドラに、緊張は解けぬながらも安心した様子で頷くスウェル。
だが、そこに飛び込んできたのは灼藍だ。
「何だってお前がこんなとこにいんだよ!!」
思いっきり頬を引っ張られて慌てるスウェル。ちなみに灼藍の方も完全に慌てている。
「すみ、ません……でも……」
たどたどしく言いながらも、働く意思を瞳に宿して出て行こうとしないスウェルを、渋々客席に戻す灼藍。
そんな様子を興味深げに眺めるディアドラ。
結局また接客を始めたスウェルを、最初はニヤニヤ眺めて楽しもうとした灼藍だが――徐々に混乱していく口調、挙動が拙くなっていくスウェルに、ついに放っておけなくなって。
「灯心!」
通りかかった灯心に、さっと耳打ち。
「悪りぃ灯心、お前にしか頼めねぇんだわ。アレ全部任せた」
「あ、あれって……灼藍兄!?」
戸惑う灯心を女性達の輪に放り込み、ヘルプに現れる灼藍。
「ぇ、ぁ、す、すみません……?」
「悪りぃですね、俺もちょっと一緒に話させてもらっていいですか」
「んむ、構わんぞ」
鷹揚に頷くディアドラと灼藍に挟まれて、スウェルは少し安心したように灼藍の服の裾を握るのだった。
「ホストクラブなんて名前くらいしか聞いたことないし、楽しみだな♪」
そう言ってちょっとお洒落した天竜寺 詩(ka0396)が現れたのは、丁度ちょっと空いている時間であった。
女形をしている一番下の兄と仲が良かったからと、詩がわくわく指名したのは優しそうで綺麗な顔立ちのアクセル、源氏名アーク・セイル。
「今宵一夜限りの夢を貴女に」
微笑みと共にそっと指輪を通されて、詩の頬が僅かに染まる。
席に案内されれば、びしりとスーツを着こなしたザレム・アズール(ka0878)が立ち上がって「ようこそ」と微笑む。バイトとして雇われることを希望して、三日月氏が自ら採用を決めた新人ホストだ。
「あ、よろしくお願いします!」
ホストが2人付くことに驚いた詩だが、ザレムも穏やかな表情の美少年である。アクセルに促され、安心したようにソファに座って――さて、次はどうしたものか。
「こういう所、初めてだから……とりあえず、お菓子でも……」
「では、パフェとシャンパン風ジュースなどいかがですか?」
開店前にメニューを完璧に暗記したザレムが勧めれば、「じゃあお願いします」と嬉しそうに詩が頷く。
自己紹介をしている間に、すぐにパフェとジュースが運ばれてくる。器を詩の前に置き、「失礼します」とスプーンを取ったアクセルが、クリームとフルーツをたっぷり載せて、けれど口に入りやすい大きさに掬ったスプーンをそっと詩に差し出す。
「え、えっと、これって……あ、あーん……」
「どうだろう、美味しいか?」
戸惑いながら口を開いたところに甘いパフェと、ザレムの言葉が同時に入ってきて、目を白黒されて赤くなる詩。
え、あ、うん、と困惑しながらジュースを一気飲みし――
「けふっ!? けほっ、けほ!」
「大丈夫か?」
「詩お嬢様、こちらをお使い下さい。平気ですか?」
炭酸にむせ込んだ詩の背をザレムがさすり、アクセルがハンカチを差し出す。
ようやく何とか落ち着いて――今度は自分でパフェを食べつつ、話題は詩の家族の話に。
「うちは歌舞伎したり、踊りしたり色々する家なんだ」
リアルブルー出身の詩の話しに、クリムゾンウェスト出身の2人のホストは興味深げに聞き入る。ザレムが歌舞伎とは何なのかと尋ねて詩が楽しげに説明したり、アクセルが頷きながら目を細めたり。
「……向こうの家族、元気かな」
懐かしげに呟いた言葉は、少し寂しげだったのかもしれない。
「きっと、同じことを思っていますよ。向こうの、ご家族も」
そうアクセルが行った言葉に、ザレムが続ける。
「だからきっと、詩さんが元気にしていることが、家族も嬉しいと思う」
ええ、とアクセルが頷いて。
「詩さんも、家族には元気にしていてほしいでしょう。互いに元気でいれば、どちらの願いも叶いますからね」
その言葉に瞳を輝かせた詩は、満面の笑みで礼を言う。
「本当に、有難う!」
そんな頃、店の外で首を傾げていたのはウィアド(ka3220)である。
「ルキハさんに呼ばれて来てみたが……ホストクラブって何だ?」
とりあえず入ってみるか、とドアを開きながら言いかけた台詞が、途中で止まった。
「うふふ、いらっしゃーい☆」
キリッとしたスーツ姿、眼鏡をきゅっと上げながら、にっこり微笑んだのはルキハ・ラスティネイル(ka2633)である。
「る、ルキハさん、いらっしゃいって……ここ何?」
「ウィアド君、夜遊びとかした事なさそうだから、社会勉強ってやつよん♪」
「え、え? えっと……」
おたおたしているウィアドを席へとご案内。ソファに座ってメニューを指し出し、にっこり笑うルキハ。
「酒を飲むところ? いや、酒は飲めるけど……」
「何がお好きかしら? これなんかオススメよぉ~」
そう言ってメニューの中でもいいシャンパンを指さすルキハ。
「じゃあ、そのおススメのシャンパンを……って高っ!?」
「ホストクラブだとそういうものよぉ」
「そ、そう……」
まぁ、うん。リアルブルーのホストクラブよりはずっと安いけど。
「はぁい、シャンパン入りまぁーす♪」
あと多分ルキハがオススメしたのがいいシャンパンだからだけど。
「シャンパン入りましたー!」
そして集まってくるホスト達に、唖然とするウィアド。
「え、何!? 何があるの!?」
「ウィアド王子が!」
「シャンパン!」
「入れてくれましたー!」
「わー!!」
そして行われるシャンパンコール。店中の手拍子と拍手。
その中心で真っ赤になるウィアド。
――美味しいシャンパンを頂いて、落ち着いたところで。
「ルキハさんはいつもこういうお仕事してるのか?」
そう尋ねたウィアドに、ルキハは眼鏡の奥からにこりと笑う。
「今回はお手伝いだけどねぇ~色んなお客さんとお話するのは楽しいから」
「そうか、凄いんだなぁ」
「今度はウィアド君におもてなしして欲しいわぁ~」
「俺にはとても無理……って」
いつの間にか重なっていたルキハの手に、慌てるウィアド。
「俺の手荒れてるから撫でない方がいいぞ?」
けれどルキハはにっこり笑って、そのざらついた手を撫でるのみ。
「またゆっくり飲みましょうねっ」
飲みの誘いの方は――喜んで。
「お姫様に酒は似合わないからな、代わりに俺の願い入れといた」
結局ダウンしかけたスウェルを連れて引っ込んだ灼藍の代わりに、ディオドラの隣に座ったのは薫。
「ほう、どんな願いだ?」
「大人になってもっと素敵になったあんたに、こうやって酒を創ってやれますようにってさ」
オリジナルのノンアルコールカクテルに、願いを込めて。楽しげに笑ったディアドラは、「では願いの礼に、一緒に飲む名誉を授けてやろう」とグラスを差し出す。
ゆらりと揺れる酒は――いつか、共に飲める時がくるかもしれぬ。
「光栄だよ、大王様」
「ああ、では、今宵の礼に」
――乾杯。
楽しかった時間が――終わりを告げる。そろそろピースホライズンで決められた、閉店の時間。
「Give a shout out to King! 素敵な一夜をプレゼントしてくれたKingに盛大な拍手と感謝を!」
立ち上がって拍手したlolに続き、店中を揺るがすような拍手と歓声の中――感激した様子で、三日月氏は「本当にありがとう!」と頭を下げた。
そして、後片付けも終わった店内で。
「正式オープンの時はよろしくな」
そう声を掛けられたザレムが、ぱっと顔を輝かせて頷く。
そこに、三日月氏に、そしてザレムやその場にいる全員に差し出されたのは、内臓に良いハーブティのカップ。
「顧客の求めに応えるのはホストもハンターも同じ。ならば依頼主であるキングさん、あなたもまた、我々にとってはもてなすべき対象です」
お客様はみな、大変良いお顔で帰られたようですよ、と告げたジョンに、三日月氏はああ、と顔を輝かせる。
「あなたにも良いクリスマスを!」
――メリー・クリスマス!
依頼結果
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相談卓 ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271) 人間(クリムゾンウェスト)|12才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/12/29 16:29:56 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/27 19:47:37 |