クリス&マリー はじめての王都観光

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2018/09/15 22:00
完成日
2018/09/24 01:00

みんなの思い出

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オープニング

 王国全土の聖堂を巡ってきたクリスとマリーの巡礼の旅も、長い長い旅路の末に遂に終わりの時を迎えようとしていた。
 久方ぶりの再訪に随分と懐かしい感じを受けた『始まりの村』トルティアを経由して、以前にも通った道を通って王都へと帰還する。
 そして、第二城壁の城門で巡礼者であることを告げ、王都第一街区にある──王城と並び立つ聖ヴェレニウス大聖堂の宿舎へと案内される。ここで巡礼者たちは『よき日』を待って大聖堂へと通され、祈りと沐浴を捧げた後、大司教(セドリック・マクファーソンではなく、大聖堂の教区大司教)と抱擁を交わし、祝福を受けて、巡礼の旅は終わるのだ。
「次の『良き日』は三日後の予定です。それまでこちらでお休みください」
 手水の小川の聖なる水で長旅の汚れを落とし、その疲れを癒した後──女性宿舎の一室へと案内してくれたまだ若い(というより幼い)修道士に礼を言い、ベッドの端に腰掛けて人心地つく。貴族の身分を明かした為か、案内された部屋は2人部屋だった。普通だったら、同じ広さの部屋に4つの二段ベッドを詰め込んだ8人部屋に案内されていたはずだ。女性だけの二人連れというのも考慮されたのかもしれない。2人部屋と言っても壁に掛けられた聖印以外飾り気のない簡素なものだが、スリや痴漢を気にしないで寝られるだけありがたい。
「……次の『良き日』まで、って…… これ、絶対、巡礼者の数がある程度『溜まる』のを待つ為よね。毎日、少人数を相手に大司教様の時間を取るのも大変だから」
「こら、マリー」
 いたずらな表情を浮かべて小声で呟くマリーを、クリスが苦笑交じりに窘める。
 二人が案内された宿舎には、巡礼者が殆どいなかった。恐らく、昨日辺りが前回の『良き日』であったのだろう。或いは、自分たちがすんなり2人部屋に案内されたのも、人が掃けたばかりであったというタイミングもあったかもしれない。
「まぁ、特別扱いを望むような貴族だったら、第二街区にある別宅か高級宿屋に泊まるかするんでしょうけどねー。……ところで、思いのほか時間が空いてしまったわね。……ぶっちゃけ、暇だわ。どうする、クリス?」
 ベッドにボフンと倒れ込んで、両足をパタパタさせながらマリーが甘えたような視線をクリスに向ける。
 内心で微笑を浮かべるクリス。マリーがそう言うであろうことは、付き合いの長い彼女には初めからお見通しだった。
「そうですね。では、『良き日』までの間、王都を観光するというのはどうでしょう?」
「そうこなくっちゃ!」
 ベッドから跳び起きて、マリーが瞳を輝かせる。クリスは微笑を浮かべながら、あんちょこの手帳を捲り、読み上げる……

 グラズヘイム王国王都イルダーナにはそれぞれ城壁によって同心円状に仕切られた6つの街区がある。
 王城と大聖堂を筆頭に、王立銀行や王立劇場などを擁する第一街区。『冷たい石の街』といった風情の街並みだが、それはそれで他にはない特徴的な街並みと言えるかもしれない。
 政庁関連の建物やグラズヘイム王立学園、貴族たちの別邸、それらを相手に商売をする老舗の大店(高級家具や宝飾品、オーダーメイドのドレスや芸術品、パーティに使われるような高級食材)が立ち並ぶ第二街区── 言わゆる山の手、高級住宅街とも呼ばれるエリア。これら、なだらかな丘の頂に近い第一・第二街区は、第二城壁によって下区と隔てらえている。城門には衛兵が詰めており、用無き者がみだりに中に立ち入ることはできない。成功してこの第二街区に館を構える事が一般市民にとっては最高のステータスであると言える。
 第三街区は王都で最も古い市街地。歴史ある文化的な街並みと、王国における最先端の市民向けファッションを扱う『服飾通り』を初めとした商店街が共存する地区で、商人ギルドや騎士団本部、ハンターズソサエティ支部もここに存在する。王都で市街地と言えばまずこの第三街区のことを指し、ここに住む市民たちは『王都で最も古き民』であることに誇りを持って暮らす者が多い。
 第四街区は所謂(或いは、文字通りの)下町。第三街区の住民たちからは新市民などと呼ばれた、様々な職人たちが多く住む街で、服飾通り(安めの一般的な衣料品)の他、鍛冶通り、ろうそく通り、など業種ごとに店の集まった通りや、職人ギルド、健全な歓楽街や多くの大衆公衆浴場が他の街区と比べて特徴的。
 第五街区はもう丘の裾のに近い辺りで、元々は河川港──レーヌ川を用いた水上交通の拠点であり、今も船着き場の近くには運ばれて来た物資を収める倉庫群が立ち並ぶ。問屋街や業務用品店が多くあったことから物価が安く、家賃の安いアパートメントや集合住宅が建てられていったことから市街地として発展した。今でも物価は王都で一番と言っていい程に安く、露店通り(小さな店が並んだ露店街)や服飾通り(こちらは布などの素材が中心)、問屋街が有名。
 第六街区は新興住宅街。王都の中だが、野原や畑、練兵場といった土地も多く残る地区。多くは普通の集合住宅が立ち並ぶ普通の市街地だが、王都の外縁ということもあって街道から続く目抜き通りには安宿も多くあり、通りからちょっと裏手に入ると、狭く怪しい(妖しい、とも言う)飲み屋街や歓楽街があったりする。また、あの手この手で新規顧客を開拓しようと奇抜な商売を始めてみたりする新興商人たちが多いのも特徴で、滑り台のついたプールの様な不思議系公衆浴場や娯楽施設や珍商売が現れては消えるを繰り返しており、そんな街の雰囲気の為か、フリーの音楽家や芸術家たちが多く住まい、日夜、腕を磨いていり堕落したりしている街でもある。

「……で、どこを見て回るのがいいの、クリス?」
 読み上げられたあんちょこの内容を聞いて、マリーがうーん、と顔をしかめた。……流石は王都、大都会。何と言うか……他の一般的な観光地とは一味違った、個性的な……平たく言えば、想像もつかず、どこから手を付けていいのかも分からない。
「王国では他に類を見ない大都市ですから……ただ歩いて回るだけでも面白いと思いますよ?」
「クリスには無いの? 個人的に面白いと思う所……?」
「私もお館様のお遣いで一、二度、来たことがある程度ですから…… その時には観光なんてする余裕はありませんでしたし」
 それきり、二人は沈黙した。とりあえず、外に出てみることにした。
 とりあえず、大聖堂の周りをグルリと回って…… 目当てもなしに街をぶらつくのは時間の無駄だと判明した。
 王都は彼女たちのスケールでは測れぬ程に大きかった。ある程度、目的地を絞らなければ、ただ街の散策だけで終わってしまう。
「とりあえず、こういう時は……ハンターの皆様に相談しましょう。私たちよりは王都に詳しいはずですから……」
 クリスはそう言うと、マリーと連れ立ち、知り合いのハンターたちが定宿にしている宿屋に足を向けた。

リプレイ本文

「なんと。何事もなく到着出来てしまいましたね…… これが奇跡というものでしょうか」
 思わずサクラ・エルフリード(ka2598)がポツリと呟いた通り──マリーとクリスとハンターたちは、それまでずっとトラブル続きであった事が嘘の様に、あっけなく巡礼の旅の終着点である王都に辿り着いた。
 大聖堂へと向かうクリスとマリーと第二城壁の門で分かれ、ハンターたちは第三街区に自分たちの宿を取った。巡礼の旅はこの王都で終わるが、依頼された護衛の任は彼女たちの故郷であるオードラン伯爵領に着くまで終わらないからだ。
「『よき日』ですか…… 組織の規模が大きくなると官僚的になってしまうのは、役所も教会も変わらないようで」
 無事の王都到着を祝しての打ち上げを兼ねた夕食の席── アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が酒杯を片手に溜め息交じりで愚痴を零し……
 翌朝。クリスとマリーがハンターたちを王都観光に誘うべく彼らの宿を訪れた時。完全に油断していたルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、寝ぐせの付いたままの頭で寝ぼけ眼を擦りながら彼女たちの前に現れることとなった。
「あ……観光……? ……うん。僕も是非、見て回りたいと思っていたよ。王都って仕事で来たことはあるけど、詳しく見て回る機会はなかったからね。僕も一緒に勉強させてもらおうかな?」
「えっ?」
「え???」
 どうにも話の噛み合っていない様子のクリスとマリーに詳しい話を訊いてみる。……どうやら二人は、自分たちに王都の案内を頼むつもりでいたらしい。
「でも、私も王都の事はよく知らないわけで……」
 困った様な表情で、仲間たちへ期待の籠った視線を向けるアデリシア。だが、彼女が頼みの綱としたサクラとシレークス(ka0752)も王都については似たり寄ったりの知識しか無かった。
「詳しく知っているのは……第七街区くらいですが……」
 サクラの言葉に、シレークスはピン! と来るものがあった。
「あー、うん。観光とは違うかも知れねーですが……」
 シレークスはサクラを手で呼ぶとその耳元に何かを囁き、話し合い…… クリスとマリーに後の時間の待ち合わせを約束し、二人して宿を出て行く。
「あー、もう! 王都の事はよく分からないけど、私が案内するよ! ガイドブック的なのは読んだし、だいじょうぶだいじょうぶ! 多分!」
 どーんと胸を叩いて安請け合いをするレイン・レーネリル(ka2887)に、ルーエルが疑わしげな目を向ける。
「……とりあえず、第三街区から第五街区までを流してみましょうか」
 レインの言うところのガイドブックを自分の目でも流し見て……提案するルーエルに従い、一行は宿を出た。

 第三街区は市街地の中でも古い歴史を有する地区だ。歴史的建造物が住宅地の中に普通に交じっていたり、今もそこに人が住んでいたりもする。それでいて、王都最先端のカジュアルファッションを扱う『服飾通り』など流行の発信地としても知られ、まさに古きと新しきが隣り合わせに同居している街でもある。
「んー……! ……平和だ! こりゃおねーさんの日ごろの行いが良かったからだね!」
 晴れ渡った空の下、大きく伸びをして全身いっぱいに太陽の光を感じて歩くレイン。その傍らではルーエルが『護衛』として生真面目に、怪しい者が近づいて来ないか、さり気なく警戒している。
 そんなルーエルが案内したのは、街区の歴史地区だった。王国史の前半部は宗教と動乱の歴史であり、この第三街区にもエクラ教に関連する歴史的建造物が数多く残っていた。中でも弾圧時代の教徒の労苦を偲ばせる聖堂遺跡群は発掘後に聖地化──という名の観光地化がなされており、大勢の人々で賑わいを見せていた。
「……歴史を感じる建物って見てて飽きないよね。僕たちには想像もつかないほど長い時間、ここに在って……人々を見守って来たんだよ?」
 連綿と積み重ねられてきた時の重みを、生活の跡を、人の想いをそこかしこに感じつつ……感嘆の吐息と共に、キラキラとした瞳でルーエルが皆を振り返る。
 だが、その感動を共有できていたのは、一行の中でクリスだけのようだった。アデリシアは至極真面目な表情で聞いていたが、それは興味というより他者の信教に対する礼節の面が強そうだったし、レインとマリーに至っては半眼ジト目でジッと見返している。
「……ルー君」
「なんだい?」
「……すっごい地味」
(がーん!)
 案内のバトンをルーエルから(半ば強引に)奪ったレインは「若い娘さんたちならここでしょ!」と、一行を服飾通りへ連れて来た。
 だが、そこは彼女が思っていた以上に『最先端な』街だった。どのくらい先端がとんがっているかと言えば、ファッショナブルが行き過ぎて突き抜けて、というか突き破った、実用性を過去にマッハで置き去りにしてきてしまったようなデザインと言うか……
「ここは……アレだね。シャレオツ過ぎて、おねーさん、ついていけないわ。『流行はここから生まれる!』的な熱すぎる(=暑すぎる)波動をビンビン感じる」
 普段、あまり服にお金を掛けないレインが通りの入り口で足を止め、中を行き交う『おしゃれ』な人々の恰好に軽くドン引き(?)する。
「……クリスちゃんとマリーちゃんはなんか買ってく? もっと輝けって何かが囁いちゃう?」
「勿論!」
 握った拳をガッと立てて返事をしたマリーが鼻息荒く通りへ飛び込んで行き、付き添いのクリスが頭を下げていそいそとその後を追い。何軒かの店を巡って試着を繰り返し……最終的に何も買わずに戻って来た。
「ん? マリーちゃん、何も買わなかったの?」
「ええ。途中で冷静になってしまったみたいで……」
 何か感情の無い顔で帰って来たマリーを見て、クリスが苦笑交じりに答える。
 いや、服飾通りの名誉の為に付け加えれば、普通に品の良いハイブランドなお店も数多く、というか殆どを占めている。……レインの『引き』がピンポイント過ぎただけで。
「……そー言えば、アデちゃんは自分で洋服(戦装束です)のカスタマイズしちゃう程のおしゃれさん(違 だけど……興味ない?」
 レインが振り返ると、アデリシアは服飾そっちのけで一人、何かを呟いていた。
「……辺境生まれとしては随分と猥雑という感じもしますが……しかし、戦神の教えを広めるのなら、こういう所にも神殿の一つでも建てる必要が……」
 それを見て「うっ……」と半歩後退さるレイン。ちなみにルーエルは先程「地味」と言われて以降、魂が抜けたままになっている。

 第四街区──ここは王都の職人街だ。王都の発展──即ち人口の増加と共に街として形成された。武具を扱う鍛冶屋からねじ等の工具、家具、食器、各種雑貨等の日用品を扱う生産者まで── 主な取引先は仕入れの商人たちではあるが、作業場の他に店舗を構えて直売を行っている職人たちも少なくない。
「職人街……! きっと何かが生み出され続ける王都の中心! 技術畑の流行最先端……! ライフラインの革新ってのはいつもこういう所で生まれてるんだよね!」
「お、おねーさん、趣味に走り過ぎ! また変なものを作る気……って、ぁぁぁ、そんなに買い物しないで! 持ち帰るの大変だから!」
 猛ダッシュで各店舗を回り始めたレインを止めることを早々に諦めて……代わりに案内役を担うことになったルーエルが傍らのマリーに訊ねた。
「マリーはどう? 興味ある?」
「うーん……日用品かぁ」
 まだ若いマリーにはどうにもピンと来ないようだった。だが、そこは王都。中には同業者との差別化の為に若い人たちを意識して可愛さを追及したものもあって、これはこれで面白い。
「旅行者向けに売ってたスーベニアスプーン(おみやげスプーン)を買って来たわ。クリスとお揃い」
 素朴な微笑みを浮かべて品物を見せてくるマリー。ルーエルもまた微笑で頷き……そして、工具やらを山盛り買って戻って来たレインの姿に、表情と魂とを漂白される。
 ……職人街で買い物を済ませた一行は、そのまま第五街区へ入った。第四街区の飲み屋街や大衆浴場はパスをした。
 アデリシアが言う。
「誰かさんが好きそうなとこですけどね。クリスとマリーを連れ回すにはちょっと庶民的( すぎますからね」

 その頃、その『誰かさん』は第七街区でサクラと別れ、地区の自治を任されているドゥブレー一家の事務所にいた。
「さあ、野郎ども! おめーらのアイドル(?)、シレークスが来ましたですよ!」
 バァン! と扉を押し開け、またカチコミと間違われながら。訪問の目的などを彼らに告げる。
「同じエクラ教徒の誼でシスターマリアンヌに会わせに行くのです。わたくしの大事な、そりゃーもう『大事な』友達なんで、くれぐれも粗相がないようにお願いしやがりますよ、ええ」

「第五街区ー。ここは……んー……アレだね。えーと……ルー君、何だっけ?」
「新興住宅地──特に有名なのは問屋街だよ。しっかりして、レインおねーさん!」
 第四街区の職人街で魂を燃やし尽くしてしまってぐったりとした様子のレインに、ルーエルが(半分持たされた荷物を背に)ツッコミを入れる。
「あー、河川港とかがあるんだっけ…… 物流の中心地。ってことは倉庫街もあるのかな? コンテナ船とか好きだよ、私。下町の雰囲気も。……やっぱり落ち着いた街は私に合うね! ……アレ? 同意してもいいんだよ?」
 一行はそのままレーヌ川岸を散策すると、ルーエルの提案で、安くておいしいと評判の下町食堂で昼食を取り、お腹を満たした。
「ふぅ…… どうやら今回は何事もなくこのまま終わりそうですねえ…… え? 何もないですよね?」
「私に聞かれましても……」
 アデリシアに苦笑を返しながら、クリス。
 その後、第六街区を通って、シレークスやサクラと待ち合わせをした第六城壁へと向かう。約束した時間ごろに南門に辿り着くと、合流したシレークスとサクラがクリスとマリーに包みを手渡し、こう言った。
「これに着替えるです。普通だと目立つんで」
「えっと……これは……?」
「古着でやがります。これから第七街区に入りますので」

 第七街区── その呼び名はあくまで通称であり、正式には王都の行政区画に含まれない。
 かのホロウレイドの戦いにおいて故郷を失い、逃げて来た人々の難民街── 王都の食糧支援の下、役人ではなく委任を受けた地元の有力者が自治を担う街。そして、先の第六城壁の戦いによって、再び焼け出された街──
「……その様な場所に、マリーを連れて行くというのですか……?」
 そっと庇うようにマリーを引き寄せながら、クリスが難しい表情で訊ねた。
「治安面に関しては、シレークスさんとサクラさんが手を回しているはずです。その為の別行動だったのでしょうから。護衛に関しても、我々がついてますから問題はないでしょう」
 呆れた様な表情でアデリシアがフォローする。シレークスとサクラは微苦笑を浮かべながら頷いた。
「なに、危ないって言ってもダフィールド領ほどじゃねーです(」
「まあ、クリスさんたちだと何かしら起こりかねない気もしますが…… マリー。将来、貴族として人の上に立つあなたは、一度はここを見ておくべきです。……本当はルーサーも一緒に連れて来れればよかったのですがね。王国にもこういう場所がある、と知っていて欲しいのです」

 一行は第七街区へ入った。そこはこれまでの王都と比べて空気の臭いからして違った。
 崩れ落ちた建物、立ち並ぶバラック。そこかしこに無気力に座り込んでいる人々…… だが、同時に、商店街と思しき場所では炊き出し合戦(どうやら同じ配給された食糧でどこが美味いものを作れるか競い合っているらしい)が行われ、何もかも失くした中でも生きる活気に溢れていたりもする。
 そんな廃墟の街中を抜けて暫く歩くと、やがて、被害の小さな地区へと入った。その中でも一際目立つのは教会の尖塔だった。
「ドゥブレー地区、ジョアニス教会── ここは、王都でのわたくしの家みたいなもんです」
 一歩先に門から入ったシレークスがクルリとクリスらを振り返り、ようこそ、と満面の笑顔で彼女たちを出迎える。
 教会の敷地には、シスターたちやご近所の老人たち、そしてたくさんの子供たちもいた。聞けば、この教会は孤児院も兼ねているらしい。元気よく歓迎の言葉を述べる子供らの笑顔を見れば、ここが彼らにとって良き『ホーム』でることが窺い知れた。
「はじめまして。私、この教会の『留守』を預かっております、シスターマリアンヌと申します」
「奇遇ですね……! 私もマリアンヌっていうんです」
 代表者と面会し、挨拶を交わすクリスとマリー。客人として遇された二人は、だが、しかし、それが性分なのか、忙しそうなシスターたちを見かねて仕事を手伝うことになった。
 シレークス、サクラと共にシスターたちの作業を手伝い、子供たちの遊び相手を務める。特に、快活なマリーはすぐに年上のお姉ちゃんとして子供たちに大人気になった。途中、悪戯な男の子が新入りに対する洗礼として『スカート捲り』を敢行したが、逆に『電気アンマ』の逆襲にあって新たに何かの扉を開いた(ちなみに、シレークスの対応は明快な鉄拳制裁。クリスは正座で膝突き詰めてのお説教。サクラは感情の一切ない真顔で「なぜこのようなことをしたのです? え? 何が面白いと……?」と相手が涙目で謝るまで迫り続けるというものである)
 そのまま孤児院で夕食を共にし、一泊し。翌朝、別れたくないと泣く子供たちに見送られながら教会を後にする。 
「最後の最後で社会科見学──もとい、視察みたいになってしまいましたが……まあこれも将来を考えれば避けては通れないでしょうし」
「知ることは重要ですしね。その知識を今後にどう活かすかはクリスさんとマリー次第です」
 アデリシアとサクラの言葉に、マリーとクリスは無言で頷いた。……寝る前に子供たちといっぱいいっぱい話をした。たとえ今は『幸せ』であっても……彼らが受けた辛苦はその端々に感じられた。
 最後に、レインと共に合流したルーエルが、王都観光の記念に、と皆にアクセサリーを配った。王都のお土産屋で買ったものだ。レインにだけはこっそりと、もう一つ別の物を送った。高価ではないものの、とても綺麗な石のイヤリング── みんなにはナイショだよ、とウィンクしたルーエルに、だが、感極まったレインが抱きつき。結局、皆にバレてしまって冷やかされたり、生暖かい目で見守られたり……

「……さて、これで長かった巡礼の旅も終わりですか。随分寄り道をしたような気もしますが、後は真っ直ぐ帰るだけですね」
 『よき日』を終えた二人を第二城壁で出迎えたアデリシアが。最後にポツリと付け加えた。
「……もっとも、真っ直ぐ帰れればの話ですが(」

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参加者一覧

  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/12 23:49:10
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/09/15 05:09:43