ゲスト
(ka0000)
要塞都市郊外に半魚人は存在した!
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/16 15:00
- 完成日
- 2018/09/23 05:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
切り立った崖の上にそびえ立つ大きな城壁に護られている都市。要塞都市【ノアーラ・クンタウ】。
現在は怠惰王、ビックマー・ザ・ヘカトンケイルが侵攻を始めており、脅威に襲われていた。
ハンターの活躍により、怠惰の歪虚の兵は倒され、ビックマーもチューダとの戦いで消息を消したとも言われている。
まだ歪虚は退却をしていない。
要塞都市に住まうものはいつ、再び兵を動かして攻め入るか分からず、不安な日々を送るしかなかった。
それでも日常を過ごすしかないのだ。
要塞都市内では物売りより、食べ物売りが多くいるような気がすると、ドワーフ工房の技師であるフォニケは思う。
彼女は技師として帝国の方から注文が来ており、オーバーワーク気味に働いていた。
日々の活力はお肉にあると断言する彼女は今日のお昼のおにくの物色をしている。
弱火でじっくり焼いた塊肉を削いで野菜と一緒にパンで挟むケバブ風が目に入った。
美味しそうと思いながら、ぐるっと通りを歩いていく。
「暑さが残ってるわね……」
ふーっ、とため息をつきつつ、フォニケは自身の手首から肘の半ばまでを覆うリストバンドのベルトを締めなおす。
ドワーフ工房は基本、長袖で作業をすることになっている。インナーは自由。
同じ工房の職人であるカペラはショート丈のジャケットに黒の丸襟インナーを着ており、フォニケは襟付きの白のシャツに暗いワインレッドのタイを緩くクロスさせている。
金属加工を主とする部署、クレムトの方では暑いからという事で、火傷も気にせずに上半身裸で金属加工をする者も少なくはない。
とりあえず、屋台の串肉を三本購入したフォニケは食べながら周囲を物色している。
背後からバタバタと足音が聞こえた。振り向くと、見回り部隊が歩いていて、どこか緊張感が漂う。
歪虚が侵攻してくると、住民に不安が掻き立てられ、トラブルが起きやすくなり、スリや窃盗犯罪も増えてくる。
人間の悪い悪循環だと思いながら、フォニケは串肉を一口齧り、ランチの物色に戻ろうとすると、タイミングずれて若い見回り兵が歩いてきた。
見た目は十七から十九歳くらいだろうか、まだ制服を着慣れていない様子も見受け、不安げにおろおろとしている。
「新兵さんかしら?」
途方に暮れている見回り兵にフォニケは声をかけた。
「は、はい……先輩方とはぐれてしまって……」
項垂れる新兵の青年にフォニケはふぅとため息を吐く。
「左側」
「え?」
フォニケが串肉で方向を教える。
「あの小物やと粉屋の屋台の間に小道があるでしょ。そのまま進めば、見回り兵と合流できるわ」
「え」
目を瞬かせる新兵にフォニケは「ほら、これ食べて」と、まだ食べていない串肉の一本を新兵に渡す。
「ええ!?」
新兵はおろおろするだけで肉と小道を交互に見ている。
「急いで、怒られるでしょ?」
「は、はい!」
ばたばたと小道を走る新兵の背を少し見送ってフォニケはランチ捜索に戻る。
その日は結局、行きつけの店ルクバトでランチとなった。
その翌日、フォニケはドワーフ達と一緒に要塞都市の壁の修繕補強に向かっていた。
「そういえば、最近この辺で密猟者が出るって聞いたな」
「狩場は大事なテリトリーなんだけどね」
ドワーフのひとりが呟けば、フォニケはあからさまに嫌そうな顔をする。
特に誰のテリトリーとは決まっていないが、猟師は必ず節度を守る。しかし、密猟者はとにかく奪っていく。
「人様のお肉を横取りだなんて許せないわね」
ふくれっ面をするフォニケにイオタがまぁまぁと宥める。
「とはいえだ、今は近隣の部族もこっちに避難しているからな。何かと売れるんだろうな」
イオタの言葉にフォニケはため息を吐く。
「ルクバトのおじさん達が、避難してる人たちに炊き出しとか考えてるみたいなの。密猟者からお肉横取りして材料に充てたいわね」
肩を竦めるフォニケにドワーフ達が頷く。
そんなやり取りをしていると、向こうから悲鳴が聞こえてきた。
猟師のような格好をした男三人。
「どうかしたのか!」
イオタをはじめとするドワーフ達が声をかける。
「今、歪虚が……!」
「助けてくれ!」
強面の男達が慌てふためいて説明を始めた。
餌や罠を仕掛けていたところ、歪虚が出てきたという。
「どんな歪虚? でも、巨人兵じゃないわよね。あんな大きなのなら、すぐ見つかるだろうし」
後ろからひょっこり顔を出したフォニケが尋ねる。
「そういうんじゃねぇよ! デカくて……足の生えた……」
「魚だ! 半魚人だ!」
「そいつらが俺達の得物を横取りしやがったんだ!」
それぞれ叫ぶ男達をフォニケは目を眇めて見つめた。
「この辺、決まった猟師が出入りしてるはずよ。貴方達、見たことないわ。必ず猟師の人達は街のどこかの店によりついているもの」
密猟者? と呟くフォニケに男達が慌てて否定するが、更にアヤシイ。
「お肉を奪う不埒者ーーーー! 魚ごときがお肉を食べるのも許せないけど、密猟者はもっと許せないーーー!」
掴みかかろうとするフォニケをイオタが背後から脇に腕を差し込んで両腕をロックする。他のドワーフ達は密猟者達を捕まえていた。
「シェダルとアルフェッカを呼べ!!!」
ひと悶着の後、呼び出されたフォニケの保護者達はフォニケに説教をしていたという。
そんな様子を横目で見ていたカペラは肩を落としつつ、ハンターへ歪虚討伐の依頼をした。
現在は怠惰王、ビックマー・ザ・ヘカトンケイルが侵攻を始めており、脅威に襲われていた。
ハンターの活躍により、怠惰の歪虚の兵は倒され、ビックマーもチューダとの戦いで消息を消したとも言われている。
まだ歪虚は退却をしていない。
要塞都市に住まうものはいつ、再び兵を動かして攻め入るか分からず、不安な日々を送るしかなかった。
それでも日常を過ごすしかないのだ。
要塞都市内では物売りより、食べ物売りが多くいるような気がすると、ドワーフ工房の技師であるフォニケは思う。
彼女は技師として帝国の方から注文が来ており、オーバーワーク気味に働いていた。
日々の活力はお肉にあると断言する彼女は今日のお昼のおにくの物色をしている。
弱火でじっくり焼いた塊肉を削いで野菜と一緒にパンで挟むケバブ風が目に入った。
美味しそうと思いながら、ぐるっと通りを歩いていく。
「暑さが残ってるわね……」
ふーっ、とため息をつきつつ、フォニケは自身の手首から肘の半ばまでを覆うリストバンドのベルトを締めなおす。
ドワーフ工房は基本、長袖で作業をすることになっている。インナーは自由。
同じ工房の職人であるカペラはショート丈のジャケットに黒の丸襟インナーを着ており、フォニケは襟付きの白のシャツに暗いワインレッドのタイを緩くクロスさせている。
金属加工を主とする部署、クレムトの方では暑いからという事で、火傷も気にせずに上半身裸で金属加工をする者も少なくはない。
とりあえず、屋台の串肉を三本購入したフォニケは食べながら周囲を物色している。
背後からバタバタと足音が聞こえた。振り向くと、見回り部隊が歩いていて、どこか緊張感が漂う。
歪虚が侵攻してくると、住民に不安が掻き立てられ、トラブルが起きやすくなり、スリや窃盗犯罪も増えてくる。
人間の悪い悪循環だと思いながら、フォニケは串肉を一口齧り、ランチの物色に戻ろうとすると、タイミングずれて若い見回り兵が歩いてきた。
見た目は十七から十九歳くらいだろうか、まだ制服を着慣れていない様子も見受け、不安げにおろおろとしている。
「新兵さんかしら?」
途方に暮れている見回り兵にフォニケは声をかけた。
「は、はい……先輩方とはぐれてしまって……」
項垂れる新兵の青年にフォニケはふぅとため息を吐く。
「左側」
「え?」
フォニケが串肉で方向を教える。
「あの小物やと粉屋の屋台の間に小道があるでしょ。そのまま進めば、見回り兵と合流できるわ」
「え」
目を瞬かせる新兵にフォニケは「ほら、これ食べて」と、まだ食べていない串肉の一本を新兵に渡す。
「ええ!?」
新兵はおろおろするだけで肉と小道を交互に見ている。
「急いで、怒られるでしょ?」
「は、はい!」
ばたばたと小道を走る新兵の背を少し見送ってフォニケはランチ捜索に戻る。
その日は結局、行きつけの店ルクバトでランチとなった。
その翌日、フォニケはドワーフ達と一緒に要塞都市の壁の修繕補強に向かっていた。
「そういえば、最近この辺で密猟者が出るって聞いたな」
「狩場は大事なテリトリーなんだけどね」
ドワーフのひとりが呟けば、フォニケはあからさまに嫌そうな顔をする。
特に誰のテリトリーとは決まっていないが、猟師は必ず節度を守る。しかし、密猟者はとにかく奪っていく。
「人様のお肉を横取りだなんて許せないわね」
ふくれっ面をするフォニケにイオタがまぁまぁと宥める。
「とはいえだ、今は近隣の部族もこっちに避難しているからな。何かと売れるんだろうな」
イオタの言葉にフォニケはため息を吐く。
「ルクバトのおじさん達が、避難してる人たちに炊き出しとか考えてるみたいなの。密猟者からお肉横取りして材料に充てたいわね」
肩を竦めるフォニケにドワーフ達が頷く。
そんなやり取りをしていると、向こうから悲鳴が聞こえてきた。
猟師のような格好をした男三人。
「どうかしたのか!」
イオタをはじめとするドワーフ達が声をかける。
「今、歪虚が……!」
「助けてくれ!」
強面の男達が慌てふためいて説明を始めた。
餌や罠を仕掛けていたところ、歪虚が出てきたという。
「どんな歪虚? でも、巨人兵じゃないわよね。あんな大きなのなら、すぐ見つかるだろうし」
後ろからひょっこり顔を出したフォニケが尋ねる。
「そういうんじゃねぇよ! デカくて……足の生えた……」
「魚だ! 半魚人だ!」
「そいつらが俺達の得物を横取りしやがったんだ!」
それぞれ叫ぶ男達をフォニケは目を眇めて見つめた。
「この辺、決まった猟師が出入りしてるはずよ。貴方達、見たことないわ。必ず猟師の人達は街のどこかの店によりついているもの」
密猟者? と呟くフォニケに男達が慌てて否定するが、更にアヤシイ。
「お肉を奪う不埒者ーーーー! 魚ごときがお肉を食べるのも許せないけど、密猟者はもっと許せないーーー!」
掴みかかろうとするフォニケをイオタが背後から脇に腕を差し込んで両腕をロックする。他のドワーフ達は密猟者達を捕まえていた。
「シェダルとアルフェッカを呼べ!!!」
ひと悶着の後、呼び出されたフォニケの保護者達はフォニケに説教をしていたという。
そんな様子を横目で見ていたカペラは肩を落としつつ、ハンターへ歪虚討伐の依頼をした。
リプレイ本文
依頼を受けたハンター達はドワーフ工房の打ち合わせ室にいた。
廊下より早足で近づく音にカフカ・ブラックウェル(ka0794)が顔を上げる。
「お待たせしてごめんなさい」
ドアを引き開けて顔を出したフォニケが待たせた事を謝ると、その合間からカペラが入ってきた。
「フォニケは又会うたのう」
椅子に座り、寛いでいた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が挨拶をする。
「此度もよしなに」
「また変な依頼でごめんねー。またよろしく」
あっけらかんとした様子でフォニケが再会を喜ぶ。
「早う片付けて美味い飯を喰おう」
「もっちろんよ! 魚ごときがお肉を食べるだなんて許せないわ!」
ぐっと拳を握りしめるフォニケの趣旨は妙に違う。
「しかし、戦の合間は何かと問題が出てくるな……」
溜息をついたのはロニ・カルディス(ka0551)。
「まぁ、住民への被害、損害が止められて何よりだよ……しかし……」
ハンターオフィスにも掲示していた通り、今回の依頼は歪虚の討伐であった。
「そもそもこの件自体が別な方向でひっかるなぁ……」
視線を天井へ向けて、ぽつりと呟いたのは白藤(ka3768)だ。
二種の歪虚が討伐対象である。片方は生足から始まるおさかな。
「妙な既視感というか、遠い記憶が……」
秀麗な美貌に翳りを落として俯くカフカにカペラが「どうしたの?」と小首を傾げる。
「いや……なんでもないよ……」
カペラの問いにカフカはそっと目を逸らした。
「でも、半魚人ですよぅ、薄い本的には美脚を期待したいじゃないですかぁ」
どこかがっかりした様子を見せるのは星野 ハナ(ka5852)だ。
薄い本、美脚というキーワードで期待したいのは雄なのか雌なのか気になる所である。
今回の歪虚は網タイツが似合い、小股が切れ上がった足……ではなく、サンショウウオのような手足。
全く美しくない。
「絶対許せないですぅ」
ぐぐっと、拳を握り締めるハナは殺気を振りまく。
「鰻食べたい……! 炭焼きにして、タレつけて……」
夢を呟く夢路 まよい(ka1328)だが、今回は歪虚ゆえ、食べることは不可能。
「終わったら、バッファロー狩りに行くから、お肉は食べれるわよ」
フォニケが苦悩するまよいに言葉を差し伸べると、険しい表情から一転する。
「お肉……お肉かあ。それも美味しそう!」
ぱぁっ、と顔を明るくさせたまよいは炊き出しを楽しみにしようと心に決めた。
要塞都市を出て、密猟者が証言していた場所へと向かう。
ロニが肩越しに振り向くと、壁を修繕しているドワーフ達の姿が見える。
先日のハンター達の働きにより、要塞都市へと向かう歪虚の動きは止まっていた。しかし、まだ撤退したという情報は入ってきていない。
嵐の前の静けさのようだ。
「ロニ君?」
先を歩いていたフォニケが声をかけた。
「いや……潮が引いた海のようだな……とな」
「そうね。歪虚の動きも妙に潜んでいるようね」
先日の戦いで怠惰王のマテリアルを削ることに成功した。だが、怠惰の陣営は王以外の札も残っている。
「何が来ても、退けるだけだ」
凛然と答えるロニに「そうね」とフォニケが頷く。
フォニケが案内していくと、道が険しくなっていく。
「この辺りだと聞いているわ」
しかし、周囲に歪虚らしい姿はなかった。
「今回の歪虚は魚型と鰻型ですよねぇ、水辺の方でしょうかぁ」
人差し指を顎に当てて小首を傾げるハナに蜜林が頷く。
「そうさのぉ、その方向へと行ってみようかの」
ここから水辺の方へ歩いていくと、林が見えてくるとフォニケが補足した。ハンター達は探す方角を定めて歩き出すと、直感視を発動していた白藤が足を止めた。
「どうした?」
彼女の様子に気づいたカフカが声をかける。
「なんや、おかしい……」
ぽつりと呟いた白藤が視線はそのままで銃を構えた。
ハンター達は襲撃に備える。
「アレは美しくないですねぇ」
おっとりした口調のハナだが、その目は据わっている。
異様にデカイ魚類に分類されるモノがそこにいた。陸を動いているため、土塗れだ。
「何とまぁ愉快な敵よ……」
扇を口元に当てつつ、蜜鈴が呆れた言葉を漏らす。
鯛のような胴体にサンショウウオのような手足。焦点が定まっていない目はどこを見ているのか定かではない。
ロニは精神を集中し、レクイエムを発動させる。
彼の静かな旋律が捉えたのは、魚型歪虚の周囲を疾走し、ハンター達の方へと向けられる土に塗れ、擬態したモノ。
まともにくらったのか、地の上で身悶えし、動きが鈍っている。
身悶えしている鰻型歪虚は更に進もうとしており、ハンターに気づいているようだ。
詠唱を始めているまよいは集束魔を発動させている。
「全てを無に帰せ……」
禍々しい紫色の球体が虚空より現れ、これから放つ魔力を収束していく。
「ブラックホールカノン!」
まよいより放たれた紫色の球体は一体の鰻型歪虚へ着弾する。球体は重力波へと姿を変え、対象である鰻が受ける重力を一気に歪ませた。
長い胴体があらぬ方向へと捩じり、その場にへばりつき、胴体の一部が千切れてしまう。
同胞が攻撃されている脇をすり抜けた鰻型一体がまよいへと飛び込んでくる。
しかし、その特攻をまよいは自身に取り巻く緑に輝く風のエスコートを受けるように軽やかに回避した。
「助かったよ」
にこりと笑むまよいの礼をカフカは涼しい顔で受け止める。
攻撃に失敗した鰻型歪虚は軌道を修正しようとするが、周囲の温度差に気づくのは動きが鈍くなってからだった。
カフカのブリザードで動けなくなってしまっている。
魚型歪虚の方は固まって行動していた。
「流る流水、鎮座する大地……」
蜜鈴が紡いでいる呪歌はアブソリュート。
声の主の歌に合わせ、朱金の蝶が舞う。
「強固たるその両で抱き、捕えたその身を余さず貫け」
二つの属性の攻撃が連続して魚型歪虚へ打ち付けられる。同じ個所への攻撃ではなく、片方ずつの側面へ攻撃が入り、吹き飛ぶというよりは行動阻害の効力も相まって、地に落ちるように倒れ込む。
俯いた白藤の視線は自身の胸元の蝶へ落とされている。
「さぁて、ちょいと暴れよか……「兄さん」」
瞬間、彼女の影より蝶の形をした黒炎が吹きあがり、彼女の周囲を舞う。黒炎が晴れると、白藤は魔導銃「アクケルテ」を構え、前に出る。
磨き上げられた白銀の銃口より放たれた銃弾は半漁歪虚の足元を撃ち、距離をハンターへ有利なものとする。
「ハナも蜜鈴も、怪我するよってあんま近寄らんようになー?」
白藤は明るい声音で二人に注意を促していると、「白藤ちゃんもでしょー?」と向こうにいるフォニケからツッコミが入る。
「女の子が怪我するんはあんま好ましいことやないよってな」
艶やかに笑む白藤は片目を瞑る。
更に安全を期すためにハナは結界の範囲内に歪虚が入るように五色光符陣を展開する。
「魚に両生類の足とかシュールにもほどがありますよぅ。美脚以外はノーサンキューですぅ」
ハナの指に挟んである陰陽符「伊吹」が一瞬、紫に輝くと同時に結界の中で光が歪虚を焼く。
魚型歪虚はダメージだけではなく、フラフラとおぼつかない足取りになっており、平衡感覚を失っているようにも見えた。
「五色光符陣の光に焼かれても魚の匂いはない……か。戯れもこれまでじゃ」
蜜鈴が宣言し、短剣を歪虚へと向ける。
再び呪歌が響くと、銀色の液状へ変化していく刃の先端に、柄に妖しく煌めく宝石の周囲に蝶が舞う。
「轟く雷、穿つは我が怨敵……一閃の想いに貫かれ、己が矮小さを識れ」
雷の種が芽吹き、紫電の茨が閃き、歪虚へと向けられる。雷を受けた歪虚二体が倒れる。
残り一体が撤退を試みようと動き出すが、白銀の銃口が逃すわけがなかった。
「逃がさへんよ」
白藤の声と同時に歪虚は制圧射撃を受けて逃げ場を失う。
「こっちはこれから予定があるんですよぉ。さっさと消し炭になっちゃえですぅ」
そう言ったハナが呪符を中空へ放つと、稲妻が起こり、醜い手足を持った薄い本のネタにもなれない魚型歪虚は二度と起きることはなかった。
「さーて、向こうは大丈夫やろか」
視線を巡らせる白藤が見たのは鞭で鰻の尻尾を回避するフォニケの姿。
鰻組も後一匹となっていた。
まよいがもう一度放ったブラックホールカノンが鰻型歪虚に命中する。
虚空から現れた闇の刃を操るのはロニだ。無数の刃はロニが味方と認識している存在には一切当たらず、敵のみを串刺していく。
地に刺された鰻をカフカのファイアアローが追撃する。
歪虚である鰻も動物同様にぬめりを持つ粘膜に覆われているが、この歪虚は火の矢や命中すると、粘膜に引火して勢いよく燃えていく。
「こっちは匂い、キッついなぁ……燃やす前に捌いたら蒲焼みたいやわぁ」
ぽつりと、白藤が呟いた。
「いい匂いがしても複雑だけどね」
どこか遠い目でカフカが返す。残念ながら、鰻の匂いは生臭かった。
他に歪虚がいないか確認した後は、ハナがフォニケの方を向く。
「今日のお目当ては何にしましょぉ?」
きらりと琥珀色の目を光らせる。
「デカブツなら二匹よ!」
バッファローか鹿あたりを狙っているだろうフォニケが叫ぶ。
肉食系女子二人が駆け出すと、他のハンター達も手伝いに入ってくれて、無事にバッファロー二匹、鹿一匹をゲットできた。
迅速なハナの手腕と用意で血抜きも綺麗に終わり、新鮮な肉となる。
解体中から酒で肉を洗って酒漬けにしていった。
「炊き出しだと、焼肉とスープあたりかな」
調理班に回ろうとしているカフカが問うと、ハナも同意だ。
「この辺りだとぉ、夜になると冷え始めてますのでぇ、シチューがいいかとぉ」
昼と夜の気温差もあるので、身体を温める食べ物と塩分、酒精は大事だ。
「火を通しますのでぇ、アルコールの苦手な方でもぉ、お子様にも大丈夫ですよぉ」
「やったぁ」
にっこりハナが補足説明を入れてくれると、まよいが喜ぶ。
ロニが力仕事を引き受け、要塞都市の入り口近くになると、ドワーフ達が手伝ってくれた。
炊事場に到着すると、かまどを作り、火を熾す。
「これだけの新鮮な肉、たたきにしても良いのぉ」
ふふと笑む蜜鈴にフォニケは「どんなの?」と首を傾げると、簡潔に説明をする。
「濃い目の果実酒と合いそう?」
「勿論じゃ。楽しみにしておるぞ」
山菜のあく抜きをしている蜜鈴が微笑む。
少し離れたところに立っていた白藤が振り向くと、十歳くらいの女の子が何事かと炊事場を見つめていた。
服装はどこかの辺境部族のものだろう。
「あー。ウチら、ハンターなんや。今、炊き出しの準備をしてるんよ」
白藤が答えると、女の子は目を丸くして驚いている。
「美味しいお肉やシチューを作っているから、出来上がったら皆で食べよって、他の人にも教えてあげて」
ひょっこりと白藤の後ろから姿を現したまよいが誘う。
「わかった」
こっくりと頷いた女の子がぱたぱたと走っていく。
すぐさま女達が現れると、その手には食材があった。どうやら、食べ物を分けてくれるようであった。
「いいんですよぅ、いつか必要となる食料なんですしぃ。今はこの肉を食べてってくださいねぇ」
ハナがやんわり断ると、女達はハンター達に感謝する。
この区画で居住区を作っている部族はドワーフ工房とかかわりがある部族とフォニケが説明する。皆女ばかりで、男は子供か年寄り。
この部族は戦闘部族でもあり、男手は怠惰王討伐に志願したらしいので、別行動と教えてくれた。
女も戦えるので、不安はそんなにないが、歪虚の侵略は恐怖のようだ。
「なるほど。戦えるとはいえ、不安だよね」
頷くカフカの隣でアップルソースの手伝いをしているカペラが微笑む。
仕事が終わってから大量のパンと酒を差し入れてくれた。
「治安部隊も見回っているけど、ハンターが近くにいれば、不埒な輩が減るでしょ? カフカさんの笛も楽しみにしてる」
「了解」
いつもの無表情なカフカだが、心なしか穏やかな表情で了承してくれた。
蜜鈴は餃子の皮を切り分けていると、子供達がそわそわと気になっている模様。
子供達の様子に気付いた蜜鈴が手招きをする。
「よければ、手伝うてもらおうかのう」
皮を広げてタネを落として手本を見せた。子供達は初めて見る手並みに「もう一回!」とせがむ。
「ゆっくり見せてやろうぞ」
銀鈴を振るように蜜鈴が笑うと、ゆっくりと見せる。
子供達は「おお」と感嘆の声を上げると、手を綺麗にしてから餃子の皮を包む。
小さな子供達は母親の傍にいる。家族によっては、三人も四人も引き連れる母親もいる。白藤は赤ん坊を抱かせてもらっていた。
ハンターならば、その強さにあやかりたいと母親が申し出たのだ。
「あったかいなぁ……」
赤ん坊の機嫌は良く、楽しそうだった。
母親に赤ん坊を返した白藤は「ありがとさん」と寂しそうに微笑んだが、すぐに首を振って調理場の方へと歩く。
調理を始めてから半刻ほどすると、いい匂いが立つ。
手分けして配膳していき、ロニが「皆、行き渡ったか?」と確認していた。
「どんどん食べて下さいねー!」
ハナが声をかけると、部族の皆は有難がって美味な食事を食べている。
大きな鉄板でカリッと焼けた餃子は特に子供達に好評だった。自分達が作ったものは美味しいようだ。
「達成感は大事なことだからのぅ」
葡萄酒を飲みつつ、蜜鈴が微笑む。
「美味しいね」
「うんっ」
まよいも焼肉のアップルソースがけに舌鼓をうち、先ほど声をかけた女の子と並んで食べていた。
温かいシチューを食べていた女の子は頬が上気して赤くなっている。
粗方満腹になると、片付け始める。
大鍋をロニが洗い始めると、部族の女達も手伝いを志願する。最初は断ったが、厚意なので受け取ることにした。
その間、白藤子供達に歌を披露していた。
子供達はじっと聴いていたのは彼女の歌声だけではなく、カフカの笛が伴奏として入ってくれていたお陰でもある。
優しい旋律は避難という緊迫した非日常の現状を少しだけ和らいだような思いに駆られる。
一曲が終わると、子供達は拍手をしてくれた。
「優しい歌ね」
先ほどの少女が白藤に笑顔を向ける。
「お姉ちゃんのお歌と、お兄ちゃんの笛、好き」
「ありがとなぁ。皆が知ってるお歌、教えてくれへん?」
素直に好きと言われた白藤は目じりを下げて礼を返すが、脳裏の端っこで『好きな人に、素直に伝えれる可愛さが何処に落ちているのか』と真面目に考えていた。
少し眠くなったまよいは夜空を見上げる。
上弦の月が膨らんできていた。
「これから満月かしら」
「いい機会ね」
まよいの呟きをフォニケが拾う。
「満月が近づくと、物事が達成すると聞くわ」
「怠惰王を倒すには好機……というわけか」
火のついていない煙管をくるりと回した蜜鈴が言葉を返した。
廊下より早足で近づく音にカフカ・ブラックウェル(ka0794)が顔を上げる。
「お待たせしてごめんなさい」
ドアを引き開けて顔を出したフォニケが待たせた事を謝ると、その合間からカペラが入ってきた。
「フォニケは又会うたのう」
椅子に座り、寛いでいた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が挨拶をする。
「此度もよしなに」
「また変な依頼でごめんねー。またよろしく」
あっけらかんとした様子でフォニケが再会を喜ぶ。
「早う片付けて美味い飯を喰おう」
「もっちろんよ! 魚ごときがお肉を食べるだなんて許せないわ!」
ぐっと拳を握りしめるフォニケの趣旨は妙に違う。
「しかし、戦の合間は何かと問題が出てくるな……」
溜息をついたのはロニ・カルディス(ka0551)。
「まぁ、住民への被害、損害が止められて何よりだよ……しかし……」
ハンターオフィスにも掲示していた通り、今回の依頼は歪虚の討伐であった。
「そもそもこの件自体が別な方向でひっかるなぁ……」
視線を天井へ向けて、ぽつりと呟いたのは白藤(ka3768)だ。
二種の歪虚が討伐対象である。片方は生足から始まるおさかな。
「妙な既視感というか、遠い記憶が……」
秀麗な美貌に翳りを落として俯くカフカにカペラが「どうしたの?」と小首を傾げる。
「いや……なんでもないよ……」
カペラの問いにカフカはそっと目を逸らした。
「でも、半魚人ですよぅ、薄い本的には美脚を期待したいじゃないですかぁ」
どこかがっかりした様子を見せるのは星野 ハナ(ka5852)だ。
薄い本、美脚というキーワードで期待したいのは雄なのか雌なのか気になる所である。
今回の歪虚は網タイツが似合い、小股が切れ上がった足……ではなく、サンショウウオのような手足。
全く美しくない。
「絶対許せないですぅ」
ぐぐっと、拳を握り締めるハナは殺気を振りまく。
「鰻食べたい……! 炭焼きにして、タレつけて……」
夢を呟く夢路 まよい(ka1328)だが、今回は歪虚ゆえ、食べることは不可能。
「終わったら、バッファロー狩りに行くから、お肉は食べれるわよ」
フォニケが苦悩するまよいに言葉を差し伸べると、険しい表情から一転する。
「お肉……お肉かあ。それも美味しそう!」
ぱぁっ、と顔を明るくさせたまよいは炊き出しを楽しみにしようと心に決めた。
要塞都市を出て、密猟者が証言していた場所へと向かう。
ロニが肩越しに振り向くと、壁を修繕しているドワーフ達の姿が見える。
先日のハンター達の働きにより、要塞都市へと向かう歪虚の動きは止まっていた。しかし、まだ撤退したという情報は入ってきていない。
嵐の前の静けさのようだ。
「ロニ君?」
先を歩いていたフォニケが声をかけた。
「いや……潮が引いた海のようだな……とな」
「そうね。歪虚の動きも妙に潜んでいるようね」
先日の戦いで怠惰王のマテリアルを削ることに成功した。だが、怠惰の陣営は王以外の札も残っている。
「何が来ても、退けるだけだ」
凛然と答えるロニに「そうね」とフォニケが頷く。
フォニケが案内していくと、道が険しくなっていく。
「この辺りだと聞いているわ」
しかし、周囲に歪虚らしい姿はなかった。
「今回の歪虚は魚型と鰻型ですよねぇ、水辺の方でしょうかぁ」
人差し指を顎に当てて小首を傾げるハナに蜜林が頷く。
「そうさのぉ、その方向へと行ってみようかの」
ここから水辺の方へ歩いていくと、林が見えてくるとフォニケが補足した。ハンター達は探す方角を定めて歩き出すと、直感視を発動していた白藤が足を止めた。
「どうした?」
彼女の様子に気づいたカフカが声をかける。
「なんや、おかしい……」
ぽつりと呟いた白藤が視線はそのままで銃を構えた。
ハンター達は襲撃に備える。
「アレは美しくないですねぇ」
おっとりした口調のハナだが、その目は据わっている。
異様にデカイ魚類に分類されるモノがそこにいた。陸を動いているため、土塗れだ。
「何とまぁ愉快な敵よ……」
扇を口元に当てつつ、蜜鈴が呆れた言葉を漏らす。
鯛のような胴体にサンショウウオのような手足。焦点が定まっていない目はどこを見ているのか定かではない。
ロニは精神を集中し、レクイエムを発動させる。
彼の静かな旋律が捉えたのは、魚型歪虚の周囲を疾走し、ハンター達の方へと向けられる土に塗れ、擬態したモノ。
まともにくらったのか、地の上で身悶えし、動きが鈍っている。
身悶えしている鰻型歪虚は更に進もうとしており、ハンターに気づいているようだ。
詠唱を始めているまよいは集束魔を発動させている。
「全てを無に帰せ……」
禍々しい紫色の球体が虚空より現れ、これから放つ魔力を収束していく。
「ブラックホールカノン!」
まよいより放たれた紫色の球体は一体の鰻型歪虚へ着弾する。球体は重力波へと姿を変え、対象である鰻が受ける重力を一気に歪ませた。
長い胴体があらぬ方向へと捩じり、その場にへばりつき、胴体の一部が千切れてしまう。
同胞が攻撃されている脇をすり抜けた鰻型一体がまよいへと飛び込んでくる。
しかし、その特攻をまよいは自身に取り巻く緑に輝く風のエスコートを受けるように軽やかに回避した。
「助かったよ」
にこりと笑むまよいの礼をカフカは涼しい顔で受け止める。
攻撃に失敗した鰻型歪虚は軌道を修正しようとするが、周囲の温度差に気づくのは動きが鈍くなってからだった。
カフカのブリザードで動けなくなってしまっている。
魚型歪虚の方は固まって行動していた。
「流る流水、鎮座する大地……」
蜜鈴が紡いでいる呪歌はアブソリュート。
声の主の歌に合わせ、朱金の蝶が舞う。
「強固たるその両で抱き、捕えたその身を余さず貫け」
二つの属性の攻撃が連続して魚型歪虚へ打ち付けられる。同じ個所への攻撃ではなく、片方ずつの側面へ攻撃が入り、吹き飛ぶというよりは行動阻害の効力も相まって、地に落ちるように倒れ込む。
俯いた白藤の視線は自身の胸元の蝶へ落とされている。
「さぁて、ちょいと暴れよか……「兄さん」」
瞬間、彼女の影より蝶の形をした黒炎が吹きあがり、彼女の周囲を舞う。黒炎が晴れると、白藤は魔導銃「アクケルテ」を構え、前に出る。
磨き上げられた白銀の銃口より放たれた銃弾は半漁歪虚の足元を撃ち、距離をハンターへ有利なものとする。
「ハナも蜜鈴も、怪我するよってあんま近寄らんようになー?」
白藤は明るい声音で二人に注意を促していると、「白藤ちゃんもでしょー?」と向こうにいるフォニケからツッコミが入る。
「女の子が怪我するんはあんま好ましいことやないよってな」
艶やかに笑む白藤は片目を瞑る。
更に安全を期すためにハナは結界の範囲内に歪虚が入るように五色光符陣を展開する。
「魚に両生類の足とかシュールにもほどがありますよぅ。美脚以外はノーサンキューですぅ」
ハナの指に挟んである陰陽符「伊吹」が一瞬、紫に輝くと同時に結界の中で光が歪虚を焼く。
魚型歪虚はダメージだけではなく、フラフラとおぼつかない足取りになっており、平衡感覚を失っているようにも見えた。
「五色光符陣の光に焼かれても魚の匂いはない……か。戯れもこれまでじゃ」
蜜鈴が宣言し、短剣を歪虚へと向ける。
再び呪歌が響くと、銀色の液状へ変化していく刃の先端に、柄に妖しく煌めく宝石の周囲に蝶が舞う。
「轟く雷、穿つは我が怨敵……一閃の想いに貫かれ、己が矮小さを識れ」
雷の種が芽吹き、紫電の茨が閃き、歪虚へと向けられる。雷を受けた歪虚二体が倒れる。
残り一体が撤退を試みようと動き出すが、白銀の銃口が逃すわけがなかった。
「逃がさへんよ」
白藤の声と同時に歪虚は制圧射撃を受けて逃げ場を失う。
「こっちはこれから予定があるんですよぉ。さっさと消し炭になっちゃえですぅ」
そう言ったハナが呪符を中空へ放つと、稲妻が起こり、醜い手足を持った薄い本のネタにもなれない魚型歪虚は二度と起きることはなかった。
「さーて、向こうは大丈夫やろか」
視線を巡らせる白藤が見たのは鞭で鰻の尻尾を回避するフォニケの姿。
鰻組も後一匹となっていた。
まよいがもう一度放ったブラックホールカノンが鰻型歪虚に命中する。
虚空から現れた闇の刃を操るのはロニだ。無数の刃はロニが味方と認識している存在には一切当たらず、敵のみを串刺していく。
地に刺された鰻をカフカのファイアアローが追撃する。
歪虚である鰻も動物同様にぬめりを持つ粘膜に覆われているが、この歪虚は火の矢や命中すると、粘膜に引火して勢いよく燃えていく。
「こっちは匂い、キッついなぁ……燃やす前に捌いたら蒲焼みたいやわぁ」
ぽつりと、白藤が呟いた。
「いい匂いがしても複雑だけどね」
どこか遠い目でカフカが返す。残念ながら、鰻の匂いは生臭かった。
他に歪虚がいないか確認した後は、ハナがフォニケの方を向く。
「今日のお目当ては何にしましょぉ?」
きらりと琥珀色の目を光らせる。
「デカブツなら二匹よ!」
バッファローか鹿あたりを狙っているだろうフォニケが叫ぶ。
肉食系女子二人が駆け出すと、他のハンター達も手伝いに入ってくれて、無事にバッファロー二匹、鹿一匹をゲットできた。
迅速なハナの手腕と用意で血抜きも綺麗に終わり、新鮮な肉となる。
解体中から酒で肉を洗って酒漬けにしていった。
「炊き出しだと、焼肉とスープあたりかな」
調理班に回ろうとしているカフカが問うと、ハナも同意だ。
「この辺りだとぉ、夜になると冷え始めてますのでぇ、シチューがいいかとぉ」
昼と夜の気温差もあるので、身体を温める食べ物と塩分、酒精は大事だ。
「火を通しますのでぇ、アルコールの苦手な方でもぉ、お子様にも大丈夫ですよぉ」
「やったぁ」
にっこりハナが補足説明を入れてくれると、まよいが喜ぶ。
ロニが力仕事を引き受け、要塞都市の入り口近くになると、ドワーフ達が手伝ってくれた。
炊事場に到着すると、かまどを作り、火を熾す。
「これだけの新鮮な肉、たたきにしても良いのぉ」
ふふと笑む蜜鈴にフォニケは「どんなの?」と首を傾げると、簡潔に説明をする。
「濃い目の果実酒と合いそう?」
「勿論じゃ。楽しみにしておるぞ」
山菜のあく抜きをしている蜜鈴が微笑む。
少し離れたところに立っていた白藤が振り向くと、十歳くらいの女の子が何事かと炊事場を見つめていた。
服装はどこかの辺境部族のものだろう。
「あー。ウチら、ハンターなんや。今、炊き出しの準備をしてるんよ」
白藤が答えると、女の子は目を丸くして驚いている。
「美味しいお肉やシチューを作っているから、出来上がったら皆で食べよって、他の人にも教えてあげて」
ひょっこりと白藤の後ろから姿を現したまよいが誘う。
「わかった」
こっくりと頷いた女の子がぱたぱたと走っていく。
すぐさま女達が現れると、その手には食材があった。どうやら、食べ物を分けてくれるようであった。
「いいんですよぅ、いつか必要となる食料なんですしぃ。今はこの肉を食べてってくださいねぇ」
ハナがやんわり断ると、女達はハンター達に感謝する。
この区画で居住区を作っている部族はドワーフ工房とかかわりがある部族とフォニケが説明する。皆女ばかりで、男は子供か年寄り。
この部族は戦闘部族でもあり、男手は怠惰王討伐に志願したらしいので、別行動と教えてくれた。
女も戦えるので、不安はそんなにないが、歪虚の侵略は恐怖のようだ。
「なるほど。戦えるとはいえ、不安だよね」
頷くカフカの隣でアップルソースの手伝いをしているカペラが微笑む。
仕事が終わってから大量のパンと酒を差し入れてくれた。
「治安部隊も見回っているけど、ハンターが近くにいれば、不埒な輩が減るでしょ? カフカさんの笛も楽しみにしてる」
「了解」
いつもの無表情なカフカだが、心なしか穏やかな表情で了承してくれた。
蜜鈴は餃子の皮を切り分けていると、子供達がそわそわと気になっている模様。
子供達の様子に気付いた蜜鈴が手招きをする。
「よければ、手伝うてもらおうかのう」
皮を広げてタネを落として手本を見せた。子供達は初めて見る手並みに「もう一回!」とせがむ。
「ゆっくり見せてやろうぞ」
銀鈴を振るように蜜鈴が笑うと、ゆっくりと見せる。
子供達は「おお」と感嘆の声を上げると、手を綺麗にしてから餃子の皮を包む。
小さな子供達は母親の傍にいる。家族によっては、三人も四人も引き連れる母親もいる。白藤は赤ん坊を抱かせてもらっていた。
ハンターならば、その強さにあやかりたいと母親が申し出たのだ。
「あったかいなぁ……」
赤ん坊の機嫌は良く、楽しそうだった。
母親に赤ん坊を返した白藤は「ありがとさん」と寂しそうに微笑んだが、すぐに首を振って調理場の方へと歩く。
調理を始めてから半刻ほどすると、いい匂いが立つ。
手分けして配膳していき、ロニが「皆、行き渡ったか?」と確認していた。
「どんどん食べて下さいねー!」
ハナが声をかけると、部族の皆は有難がって美味な食事を食べている。
大きな鉄板でカリッと焼けた餃子は特に子供達に好評だった。自分達が作ったものは美味しいようだ。
「達成感は大事なことだからのぅ」
葡萄酒を飲みつつ、蜜鈴が微笑む。
「美味しいね」
「うんっ」
まよいも焼肉のアップルソースがけに舌鼓をうち、先ほど声をかけた女の子と並んで食べていた。
温かいシチューを食べていた女の子は頬が上気して赤くなっている。
粗方満腹になると、片付け始める。
大鍋をロニが洗い始めると、部族の女達も手伝いを志願する。最初は断ったが、厚意なので受け取ることにした。
その間、白藤子供達に歌を披露していた。
子供達はじっと聴いていたのは彼女の歌声だけではなく、カフカの笛が伴奏として入ってくれていたお陰でもある。
優しい旋律は避難という緊迫した非日常の現状を少しだけ和らいだような思いに駆られる。
一曲が終わると、子供達は拍手をしてくれた。
「優しい歌ね」
先ほどの少女が白藤に笑顔を向ける。
「お姉ちゃんのお歌と、お兄ちゃんの笛、好き」
「ありがとなぁ。皆が知ってるお歌、教えてくれへん?」
素直に好きと言われた白藤は目じりを下げて礼を返すが、脳裏の端っこで『好きな人に、素直に伝えれる可愛さが何処に落ちているのか』と真面目に考えていた。
少し眠くなったまよいは夜空を見上げる。
上弦の月が膨らんできていた。
「これから満月かしら」
「いい機会ね」
まよいの呟きをフォニケが拾う。
「満月が近づくと、物事が達成すると聞くわ」
「怠惰王を倒すには好機……というわけか」
火のついていない煙管をくるりと回した蜜鈴が言葉を返した。
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【相談卓】討伐と…調理? 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009) エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/09/16 04:14:13 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/15 13:56:14 |