ゲスト
(ka0000)
【空蒼】レフト・ムービー
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/22 15:00
- 完成日
- 2018/09/29 00:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●遺留品
アメリカ合衆国、ペンシルベニア州。
廃病院が残る森に、使徒が現れた。使徒は光のビームで森の木々をなぎ倒し、病院の天井もぶち抜いて去って行く。
そこに、VOIDに準ずる何かがいたのであろうことは想像に難くない。派遣された連合軍の調査隊は、壊れかけたスマートフォンを発見した。所有者はイクシード・アプリをインストールしていたようで、ホーム画面にそのアイコンが浮かんでいる。
所有者は動画を残していた。以下が、その簡単な内容である。
●動画
「ハロー! ジェニファーよ」
一人の女性がカメラに向かって笑いかけた。角度からして、自撮りのようだ。彼女がこの端末の持ち主だろう。
「今日は、使徒とやらをおびき寄せるために、廃墟に来てみたわ」
彼女の他にも、他に女性が二人、男性が三人いたようだ。
「ヘイ! ジョージ! お前の髪の毛みたいな草があったぜ!」
「やめてくれよ」
六人は、廃病院に向かって夜の森を歩いて行く。
「使徒は来るかな? 必ずしもアプリのところに来るわけじゃないんだろ?」
「来ないでほしいの?」
「そんなことはない」
彼女たちは順調に病院にたどり着いた。建築様式からして、20世紀くらいまで使われていたようだが、すっかり古びている。幽霊でも出そうなたたずまいだ。
「ここは何の病院だったの?」
「呼吸器だったみたいだ。綺麗な空気の中で肺の病気を治しましょう、ってこったな」
中に入る。六人は口笛を吹いたり、手を叩いたり、奇声を上げながら、割れた硝子や埃の散らばるロビーを走り回る。
その時だった。外が突然明るくなった。
「何だ!?」
「使徒だ!」
「よっしゃ! 来やがった! 石でも投げてやろうぜ!」
「俺たちがひとまず行ってくるから、お嬢ちゃんたちは待ってな」
「はいはい」
彼女たちは男子三人を見送った。
「本当に使徒なんて来るのかな?」
一人が言う。
「どうだろう。このアプリが本当にVOIDの力を借りてるかもわかんないし。覚醒者の力かどうかもわかんないけど」
画面の外から、わずかに男子たちの歓声が聞こえる。再び、画面の外が明るくなった。悲鳴らしき声が混ざる。
「何? 今の」
「ティムの声じゃなかった?」
その時だった。
光の柱が天井を貫通した。女子たちもまた悲鳴を上げる。
「何!? 何なの!?」
「わかんない!」
「あれが使徒なの!?」
「出よう!」
今の衝撃で、天井の破片や窓硝子の破片が降ってくる。女子たちも森の外に出た。
「ジェニー!」
先頭を走っていた女子が突然立ち止まって、端末の持ち主を呼んだ。
「何?」
「これ……」
カメラが、彼女の指す物体を映し出す。ちぎれた人の脚だった。特徴的なスニーカーを履いている。
「ジェイソンの靴……」
そう言ったジェニファーの目の前で、光線が地面と水平に過ぎていった。さっきまでそこにいた友人も、ジェイソンの脚も、跡形もなく消えている。音の割れた大きな音が入った。恐らくはジェニファーの悲鳴だろう。
「エマ! エマどこ!? 助けて! アニーが消えちゃった!」
画面が激しく動いた。ジェニファーが走っているらしい。画面の外が、断続的に明るくなる。
「エマ! エマ! きゃっ!」
世界が回転した。止まって、画面は廃病院を映す。そこに向かって這ってくる、泣き顔の女性も。
「だ、誰か……たすけ……」
画面が真っ白になった。
あとには何もなかった。空の向こうを、天使のように美しく光る何かが、役目を終えたように飛んで行く。
それから、電池が切れるまで撮影は続いていたらしい。空の色以外何も動かない画面がずっと続いた。
●仇討ち
「と、言うのが動画の内容であります」
マシュー・アーミテイジ連合軍軍曹は、そう言って動画を停止した。集められたハンターたちは、それぞれ思うところがありながらも、続きを待つ。
「恐らく、使徒のあの光はマテリアル兵器のようなものだと思われます。遺体が残らないほどの威力なのでしょう。ですが、この動画で、死亡が確認されていない、エマ、ティム、ジョージはまだ生存の可能性があります。限り無く低いとは思いますが。彼らはまだ学生なんです。生存の可能性があれば放っておくことはできません。もちろん学生に限った話ではないのですが」
そこで、使徒に対抗しうるハンターたちに、廃病院とその周辺森の調査を依頼したい、と言うわけだ。
「自分も同道いたします。支援物資は持って行き、皆さんのサポートを……失礼します」
軍曹の端末が鳴った。
「アーミテイジ軍曹です。はい、今クリムゾンウェストの方たちに……え?」
彼は目を見開いた。
「同じ大学の学生が、仇討ちと言って森に入った!? アプリは……三人中二人……」
ハンターたちは顔を見合わせた。軍曹の様子から、森に入ったと言う大学生たちはアプリをインストールしていたらしい。
「了解しました。すぐに向かいます」
彼は通話を切った。そして、ハンターたちを見る。
「申し訳ありません。お聞きになった通りです。使徒に消される前に連れ戻さなくては。どうか助力を頂きたく存じます」
マシューはすがるようにそう請うた。
アメリカ合衆国、ペンシルベニア州。
廃病院が残る森に、使徒が現れた。使徒は光のビームで森の木々をなぎ倒し、病院の天井もぶち抜いて去って行く。
そこに、VOIDに準ずる何かがいたのであろうことは想像に難くない。派遣された連合軍の調査隊は、壊れかけたスマートフォンを発見した。所有者はイクシード・アプリをインストールしていたようで、ホーム画面にそのアイコンが浮かんでいる。
所有者は動画を残していた。以下が、その簡単な内容である。
●動画
「ハロー! ジェニファーよ」
一人の女性がカメラに向かって笑いかけた。角度からして、自撮りのようだ。彼女がこの端末の持ち主だろう。
「今日は、使徒とやらをおびき寄せるために、廃墟に来てみたわ」
彼女の他にも、他に女性が二人、男性が三人いたようだ。
「ヘイ! ジョージ! お前の髪の毛みたいな草があったぜ!」
「やめてくれよ」
六人は、廃病院に向かって夜の森を歩いて行く。
「使徒は来るかな? 必ずしもアプリのところに来るわけじゃないんだろ?」
「来ないでほしいの?」
「そんなことはない」
彼女たちは順調に病院にたどり着いた。建築様式からして、20世紀くらいまで使われていたようだが、すっかり古びている。幽霊でも出そうなたたずまいだ。
「ここは何の病院だったの?」
「呼吸器だったみたいだ。綺麗な空気の中で肺の病気を治しましょう、ってこったな」
中に入る。六人は口笛を吹いたり、手を叩いたり、奇声を上げながら、割れた硝子や埃の散らばるロビーを走り回る。
その時だった。外が突然明るくなった。
「何だ!?」
「使徒だ!」
「よっしゃ! 来やがった! 石でも投げてやろうぜ!」
「俺たちがひとまず行ってくるから、お嬢ちゃんたちは待ってな」
「はいはい」
彼女たちは男子三人を見送った。
「本当に使徒なんて来るのかな?」
一人が言う。
「どうだろう。このアプリが本当にVOIDの力を借りてるかもわかんないし。覚醒者の力かどうかもわかんないけど」
画面の外から、わずかに男子たちの歓声が聞こえる。再び、画面の外が明るくなった。悲鳴らしき声が混ざる。
「何? 今の」
「ティムの声じゃなかった?」
その時だった。
光の柱が天井を貫通した。女子たちもまた悲鳴を上げる。
「何!? 何なの!?」
「わかんない!」
「あれが使徒なの!?」
「出よう!」
今の衝撃で、天井の破片や窓硝子の破片が降ってくる。女子たちも森の外に出た。
「ジェニー!」
先頭を走っていた女子が突然立ち止まって、端末の持ち主を呼んだ。
「何?」
「これ……」
カメラが、彼女の指す物体を映し出す。ちぎれた人の脚だった。特徴的なスニーカーを履いている。
「ジェイソンの靴……」
そう言ったジェニファーの目の前で、光線が地面と水平に過ぎていった。さっきまでそこにいた友人も、ジェイソンの脚も、跡形もなく消えている。音の割れた大きな音が入った。恐らくはジェニファーの悲鳴だろう。
「エマ! エマどこ!? 助けて! アニーが消えちゃった!」
画面が激しく動いた。ジェニファーが走っているらしい。画面の外が、断続的に明るくなる。
「エマ! エマ! きゃっ!」
世界が回転した。止まって、画面は廃病院を映す。そこに向かって這ってくる、泣き顔の女性も。
「だ、誰か……たすけ……」
画面が真っ白になった。
あとには何もなかった。空の向こうを、天使のように美しく光る何かが、役目を終えたように飛んで行く。
それから、電池が切れるまで撮影は続いていたらしい。空の色以外何も動かない画面がずっと続いた。
●仇討ち
「と、言うのが動画の内容であります」
マシュー・アーミテイジ連合軍軍曹は、そう言って動画を停止した。集められたハンターたちは、それぞれ思うところがありながらも、続きを待つ。
「恐らく、使徒のあの光はマテリアル兵器のようなものだと思われます。遺体が残らないほどの威力なのでしょう。ですが、この動画で、死亡が確認されていない、エマ、ティム、ジョージはまだ生存の可能性があります。限り無く低いとは思いますが。彼らはまだ学生なんです。生存の可能性があれば放っておくことはできません。もちろん学生に限った話ではないのですが」
そこで、使徒に対抗しうるハンターたちに、廃病院とその周辺森の調査を依頼したい、と言うわけだ。
「自分も同道いたします。支援物資は持って行き、皆さんのサポートを……失礼します」
軍曹の端末が鳴った。
「アーミテイジ軍曹です。はい、今クリムゾンウェストの方たちに……え?」
彼は目を見開いた。
「同じ大学の学生が、仇討ちと言って森に入った!? アプリは……三人中二人……」
ハンターたちは顔を見合わせた。軍曹の様子から、森に入ったと言う大学生たちはアプリをインストールしていたらしい。
「了解しました。すぐに向かいます」
彼は通話を切った。そして、ハンターたちを見る。
「申し訳ありません。お聞きになった通りです。使徒に消される前に連れ戻さなくては。どうか助力を頂きたく存じます」
マシューはすがるようにそう請うた。
リプレイ本文
●森の入り口
「わざわざ二次遭難に行くんじゃねぇよ、バカヤロウ。美談じゃなくて黒歴史だって自覚しろや、アホウ」
そう言い放ったのはトリプルJ(ka6653)だ。
「なんだか、心霊スポットで悪ふざけ……みたいな、そういう感じだったのかなって思うよ。でも、アプリを使ったら悪ふざけじゃ終わらないんだよ」
「VOIDならまだしも、使徒に手を出すなんて」
桜崎 幸(ka7161)、天王寺茜(ka4080)も、真剣な面持ちで口にする。
「命を投げ捨てるようなものだわ」
八原 篝(ka3104)は首を横に振りながらマシューの隣に立った。彼と行動を共にすることになっている。
「学生発見後に使徒が来た場合、はっきりと使徒が、と言うのはまずいと思うので、『お客さんが来た』と言いますね」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はそう言って箒を取り出した。
「森に来るお客さんって言ったら相場は決まってるがな。良いさ」
トリプルJは頷くと、軍曹に向き直る。
「軍曹、使徒でも学生でも発見したら俺達全員に連絡くれ。特に怪我人発見時はな? 俺も桜崎も天王寺も回復手段の持ち合わせがある、近い奴が急行する。バカがバカやったと自覚させるためにも全員生きて連れ帰らにゃな」
「そうですね。ちょっと、学生さんたちには俺からも言いたいことがあります」
トリプルJの言葉に神代 誠一(ka2086)も同意する。
「生存者確保だけじゃなく被害者回収の仕事もあるだろ? 手分けして探す目は欲しいが怪我して貰っちゃ困るからな」
「イエッサー」
マシューは敬礼した。トリプルJは元軍人だが、マシューは経歴を細かく確認していない。それでもなんとなく、にじみ出るものを感じたのだろう。上官にするように、彼は自然に敬礼した。教師であることが会話の中で垣間見えた誠一のことは、先生と何気なく呼んでいる。
「さて、俺は先に行かせて貰いますね。よろしくお願いします」
誠一は一同に挨拶をすると、森の中に消えて行った。
「僕は誰にも死んでほしくないから、だから、助けたいんだ」
魔導バイクにまたがって、幸は言った。茜も頷く
「生き残ってる人はなんとしてでも助けないと」
トリプルJが南東からジグザグに南北に移動して探すと言う。幸、茜、エラは西側をばらけて探し、誠一、篝、マシューは廃病院と言うことになっている。魔導ママチャリを持参した篝を見て、マシューも備品のバイクを軍から持ち出していた。
「では、行きましょうか」
●ナースステーション
高校教諭たる誠一は、学生の軽率な行動が他人事ではない。受け持っていた学生たちと重なるところもあり、一人でも多くを救出したいと思っている。彼はスキルを駆使して病院まで駆けて行った。
「ハンク! エド! ジョン! 誰かいるか?」
マイクを通して語りかけた彼の声は、吹き抜けのロビーに反響して天井の穴に抜けて行った。反応はない。彼はそのまま上階を捜索して行く。生き残りを目されている、ティム、ジョージ、エマの名前も呼びながら。
「俺に何か用か? 先生」
二階のナースステーションに到着した時だった。水晶球の灯りの中に人影が浮かび上がる。ステーションの窓口傍に誰かが立っている。若い男性だ。学生だろう。誠一の立ち居振る舞いや口調から、教師であることを見て取ったようだ。
「君は?」
「エド。あなたは法学部か、医学部の先生?」
「俺は高校の数学教師だ。怪我は?」
「何だ、大学から来たのかと思った。怪我も何も。まだ使徒も出てねぇ。ジェイソンたちの死体どころか指一本見つからない」
エドは肩を竦める。
「無事で良かった。ハンクたちは?」
「森じゃないか?」
「こちら神代です。エドを発見しました。病院三階です。今のところ心身共に問題ないようです。ハンクたちは森ではないかとのこと。引き続き捜索をお願いします」
「トリプルJだ。了解。引き続き森の捜索を行なう」
他のメンバーたちからも了解の通信が入る。誠一はエドの手を取った。
「地下に避難する」
「使徒が来るから?」
「そうだ。急いで」
「こちら八原」
篝から入電がある。
「今病院に着いて地下なんだけど……」
「どうしました?」
「動画の子がいて……」
その歯切れの悪さで誠一は察した。発狂しているか、悪ければ死亡している。伝話の向こうは静かだ。おそらくは後者。
「アーミテイジです。少年は持ち物からしてジョージです。安全なところに自分が移動させます。エドを連れて来ていただいて結構です」
霊安室に運ぶと言う意味だろう。
「了解。エドを連れて行きます」
●モルグ
使徒の放った光線を受けたのか、ジョージの遺体には致命傷とみられる大きな傷があった。ここに逃げ込んで力尽きたのだろう。マシューは遺体を担いで霊安室に運んだ。放置されていたストレッチャーの上に乗せる。幸いにも地下は暗いので、血痕は言われなければ気付かないだろう。
「八原さん、マシューさん」
誠一がエドを連れてやって来た。篝はつかつかとエドに歩み寄ると、上を指す。
「天井の穴、見たわね? コレが、アンタ達が相手にしようとしていたものよ」
「……」
「命を投げ捨てるんじゃないわよ」
エドが何か言い返そうとしたその時だった。幸から入電する。
「桜崎だよ! ハンクを見付けたよ!」
「良かった! 桜崎さん、そのまま病院に連れてこられますか?」
「うん。ジョンのことを気にしてるけど行くって。すごく怯えてるけど怪我はないよ。急いで行くねぇ」
「よろしくね、桜崎さん」
「こちらトリプルJ。ジョンを発見した。と言うか病院に向かっているのを見付けた。こちらも怪我はない。こいつは二人を止めきれないでついてきたそうだ」
幸が捜索中に、合流場所が病院であることを拡声器で呼びかけており、それを聞いたらしい。ハンクとエドも聞いていれば、と思って向かっていたそうだ。
「ベルです」
今度はエラが通信を入れた。前職が秘書であることを思い起こさせる、丁寧な言葉だ。
「お客様がいらっしゃいました」
使徒が来た。
●避難指示
誠一と篝は病院から飛び出した。誠一は学生保護、篝は使徒対応の為だ。エドはマシューに任せてある。
「今、森を脱出しても追いつかれます! 病院へ走ってください!」
茜が通信機に向かって叫んでいる。
「避難が完了するまで最終防衛ラインになります! 行ってください!」
「桜崎だよ! 了解! 誠一さん、ジョンをお願いするよぉ! 僕はこのままハンクを病院に連れて行くねぇ! 茜さんは気をつけてねぇ!」
「了解しました! トリプルJさん、ジョンを拾いに行きます。今どちらですか?」
「了解した。今の位置は……」
トリプルJから大まかな位置を聞いた誠一はそちらの方に向かって走って行く。同じくこちらに向かっていたトリプルJと合流すると、ジョンを抱えて病院まで戻った。ハンクを連れて来た幸も合流した。どうやら、ハンクは森の中で友人達とはぐれてパニックになっていたらしい。
「ハンク!」
ジョンはハンクのことを案じていたようで、友人の顔を見るや安堵の顔になる。
「エドは?」
「エドは地下にいる」
ジョンの問いに、誠一が答えた。
「二人とも、大丈夫か?」
「ぼ、僕は……」
「もう大丈夫だよぉ。僕たちが守るからねぇ」
ハンクは動揺していた。その時、上空で何かが動く。使徒だ。しかし、それを三本の光線が撃ち抜く。エラの三烈だろう。一行は使徒がこちらへ来ない内に、地下へと避難する。
「来たかお前ら」
エドは面白そうに、錯乱しかかっているハンクを見た。ジョンがエドを睨む。
「エドとハンクを離した方が良いと思うなぁ」
幸が言った。冷笑的なエドと、怯えているハンクを一緒にしておくのは悪影響だ。ジョンがそれで激昂し、ハンクの精神状態が悪化する。
「自分も同感です」
「マシューさん精神安定剤お持ちでしたよね?」
「はい」
マシューは精神安定剤を教師に渡すと、エドを廊下の奥に連れて行った。幸が、ハンクの手を握ってさすっている。
「生きてて良かったよぉ。無闇に命が失われるのは悲しいからねぇ」
「もう大丈夫だ。本当に、無事で良かった」
「アーミテイジです。地下へ退避完了しました」
マシューが無線に報告する。
「天王寺です。合流します!」
●最終防衛ライン
「後ろには、絶対に抜かせないわ!!」
茜は強い意思で、使徒対応組と病院の間に立った。使徒を地面に下ろすトリプルJが到着するまでは、エラが空中戦を引き受けることになる。
「穿て、瞬光」
三条の光が使徒を穿つ。光に貫かれる天使とは、皮肉な絵面だ。
「リトリビューションを降らせるわ!」
一方、病院を出てすぐのところで、篝はピアッサーを展開していた。通信機で友軍に呼びかける。彼女がこれから使おうとしているリトリビューションは、敵のみを穿つ雨だが、礼儀として彼女は声を掛けた。
フレイムアローを番えて、彼女は弦を引き絞る。
「こっちを見ろッ!」
炎の矢が放たれた。配管から、マテリアル混じりの蒸気が噴き出した。使徒を一度素通りした矢は、すぐに光の雨となって降り注ぐ。
「ベルです。使徒は依然上空。飛ぶなら先にどうぞ」
「了解」
飛び立つのとファントムハンドの使用は同時にはできない。トリプルJはエラの助言に従って、移動中に飛び立った。代わりに、エラは飛行時間のリミットを感じて地上に降りる。
使徒が反撃として篝に光線を放つ。だが、誰が見ても調子外れの射線だった。マルチステップでかわそうとしていた篝も、いざとなれば防御障壁でかばうことも考えていた茜も、拍子抜けする。
「あれ、本当に狙ってんの?」
「わかりません……」
「動画のものと同一個体ではなさそうですね」
エラがそう結論づけた、その時だった。
「待たせたな」
枝を鳴らして、トリプルJが突っ込んで来た。使徒は、こちらに向かって飛来してくる彼を見て戸惑っているようだ。ファントムハンドが伸びる。幻影の手は使徒をがっちりと捕まえると、使い手まで引き寄せた。
「アーミテイジです。地下へ退避完了しました」
無線からマシューの声がする。
「天王寺です。合流します!」
「茜、皆をよろしくね」
「はい! 皆さん気をつけて」
引きずり下ろされた使徒は、何が起っているのかわかっていないようにも見えた。ただ、トリプルJが自分に干渉したことはわかったらしい。着陸して剣を構えた。霊闘士は何も言わずに鎧通しでまずはキツい一発をお見舞いする。甲冑が破損するかと思うような重たい音がした。篝のリトリビューション、エラの三烈の追撃で、使徒は膝を突く。
しかし、まだ撃退までは届かない。使徒は剣を杖代わりにして立ち上がると、剣を振り下ろした。トリプルJはそれをディスターブで受け止める。障壁が浮かび上がった。同時にリジェネレーションを発動し回復を図る。殴り合いで倒れるわけにはいかない。
彼は再び、鎧通しで殴り掛かった。
●生きてこそ
病院地下に合流した茜は、エドの傍にいる幸が真剣な顔をして話をしているのを聞いた。怒っているようで、悲しんでいるような声だ。
「仇討ちがしたいのもわかるよ。でも、二人アプリを使ってるからって、使徒を倒せると思うの?」
エドはそっぽを向いている。引っ込みがつかなくなったのかも知れない。幸の声音に含まれている気持ちが、伝わらない筈はない。
「何故自分達も危険なことをしようとするの? 君達が死んでしまったら、悲しむ人が増えるんだ。僕だって……無闇に命が失われるのは、悲しいよ」
茜は、精神安定剤の効果でぼんやりとしているハンクの傍に座った。語りかけるように、言葉を紡ぐ。
「今は我慢して、世界で何が起きているのか、そのことを知ってください。皆さんの協力が必要になることが、たくさんあるんです」
「うん……」
「アプリの力は人間の焦りに付け込んだVOIDの罠であって、使徒には遠く及びません。その上、VOIDの仲間として攻撃されるだけなんです。私たち覚醒者でも、使徒を倒せるかどうかは危ういんです」
「皆、やっぱり死んだんだ」
「連絡はつかなかったんですか?」
「だれとも」
「そうですか……」
ジョージの遺体が霊安室にあるらしい。身体が残ったのが奇跡なのかも知れない。遺体のことは黙っておいた方が良いだろう。
「八原よ。使徒は撤退したわ。もう出てきて大丈夫」
篝からの通信が入って、その場の全員がほっと息を吐く。マシューが軍に報告を入れた。廊下の少し先に進んで小声で話していたのは、ジョージの遺体が発見されたことを伝えているのだろう。
「学生の三人は一度軍で保護します」
「めんどくせぇな」
エドが言ったその瞬間、誠一の眼鏡に反射した光が動いた。彼はエドの前に立つと、その頬を平手で張った。覚醒者の力ではない。教師としての一発。
「先生……」
マシューが呟いた。
「あと少し遅ければ全員死んでる。二次被害を招いたこともわかるな?」
エドは頬を押さえてまたそっぽを向く。
「助けになんて来なきゃ良いだけだろ」
「そんなことはできない。頼むから。もう、こんな向こう見ずなことをしないでくれ。君達を大切に思う人達を悲しませるな」
その声に滲む悲痛さを感じたのか、エドはもう反論しなかった。
「悪かったよ、先生」
彼はぽつりと言った。ちら、と幸を見る。
「幸も」
マシューの連絡を受けた軍がやって来た。二台のストレッチャーの内、一台にはハンクが、もう一台には、遺体袋に入れられたジョージの遺体が乗せられる。
それを見送る誠一の隣に、マシューが立った。
「先生、軍人として学生への平手は看過できませんが……その時マシュー・アーミテイジ軍曹は居眠りをしておりましたので」
マシューは片目をつむって見せる。
「ですので、先生も自分の居眠りについてはご内密に」
「ふっ」
誠一は吹き出した。
「ええ、口外しませんよ」
「ありがとうございます」
「おや、鬼軍曹にでも転向しましたか?」
エラがとぼけてた調子で言う。
「いやいや! そんなんじゃないって!」
ハンクはストレッチャーの上から茜と幸に手を振った。
「幸、茜、ありがとう」
「お大事に、だよぉ」
「次会うなら、元気な姿を見せてくださいね」
ジョンはトリプルJの前に立つ。屈強な軍人を前にバツの悪そうな顔をしていたが、やがて頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ああ。これに懲りたら、ついていかないで通報しろよ」
「イエッサー」
軍人に挟まれてハンクを見送るエドの背中に、篝は言葉を投げかける。
「今生きてる友達を守りなさい」
「善処するよ」
ジョージ発見を受けて、ティムとエマの捜索が再度行なわれた。その結果、二人の遺体が森の外れで発見された。ジョージと同じような有様だった。軍曹は、これをもって動画の六人は全員死亡と報告を上げた。
「わざわざ二次遭難に行くんじゃねぇよ、バカヤロウ。美談じゃなくて黒歴史だって自覚しろや、アホウ」
そう言い放ったのはトリプルJ(ka6653)だ。
「なんだか、心霊スポットで悪ふざけ……みたいな、そういう感じだったのかなって思うよ。でも、アプリを使ったら悪ふざけじゃ終わらないんだよ」
「VOIDならまだしも、使徒に手を出すなんて」
桜崎 幸(ka7161)、天王寺茜(ka4080)も、真剣な面持ちで口にする。
「命を投げ捨てるようなものだわ」
八原 篝(ka3104)は首を横に振りながらマシューの隣に立った。彼と行動を共にすることになっている。
「学生発見後に使徒が来た場合、はっきりと使徒が、と言うのはまずいと思うので、『お客さんが来た』と言いますね」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はそう言って箒を取り出した。
「森に来るお客さんって言ったら相場は決まってるがな。良いさ」
トリプルJは頷くと、軍曹に向き直る。
「軍曹、使徒でも学生でも発見したら俺達全員に連絡くれ。特に怪我人発見時はな? 俺も桜崎も天王寺も回復手段の持ち合わせがある、近い奴が急行する。バカがバカやったと自覚させるためにも全員生きて連れ帰らにゃな」
「そうですね。ちょっと、学生さんたちには俺からも言いたいことがあります」
トリプルJの言葉に神代 誠一(ka2086)も同意する。
「生存者確保だけじゃなく被害者回収の仕事もあるだろ? 手分けして探す目は欲しいが怪我して貰っちゃ困るからな」
「イエッサー」
マシューは敬礼した。トリプルJは元軍人だが、マシューは経歴を細かく確認していない。それでもなんとなく、にじみ出るものを感じたのだろう。上官にするように、彼は自然に敬礼した。教師であることが会話の中で垣間見えた誠一のことは、先生と何気なく呼んでいる。
「さて、俺は先に行かせて貰いますね。よろしくお願いします」
誠一は一同に挨拶をすると、森の中に消えて行った。
「僕は誰にも死んでほしくないから、だから、助けたいんだ」
魔導バイクにまたがって、幸は言った。茜も頷く
「生き残ってる人はなんとしてでも助けないと」
トリプルJが南東からジグザグに南北に移動して探すと言う。幸、茜、エラは西側をばらけて探し、誠一、篝、マシューは廃病院と言うことになっている。魔導ママチャリを持参した篝を見て、マシューも備品のバイクを軍から持ち出していた。
「では、行きましょうか」
●ナースステーション
高校教諭たる誠一は、学生の軽率な行動が他人事ではない。受け持っていた学生たちと重なるところもあり、一人でも多くを救出したいと思っている。彼はスキルを駆使して病院まで駆けて行った。
「ハンク! エド! ジョン! 誰かいるか?」
マイクを通して語りかけた彼の声は、吹き抜けのロビーに反響して天井の穴に抜けて行った。反応はない。彼はそのまま上階を捜索して行く。生き残りを目されている、ティム、ジョージ、エマの名前も呼びながら。
「俺に何か用か? 先生」
二階のナースステーションに到着した時だった。水晶球の灯りの中に人影が浮かび上がる。ステーションの窓口傍に誰かが立っている。若い男性だ。学生だろう。誠一の立ち居振る舞いや口調から、教師であることを見て取ったようだ。
「君は?」
「エド。あなたは法学部か、医学部の先生?」
「俺は高校の数学教師だ。怪我は?」
「何だ、大学から来たのかと思った。怪我も何も。まだ使徒も出てねぇ。ジェイソンたちの死体どころか指一本見つからない」
エドは肩を竦める。
「無事で良かった。ハンクたちは?」
「森じゃないか?」
「こちら神代です。エドを発見しました。病院三階です。今のところ心身共に問題ないようです。ハンクたちは森ではないかとのこと。引き続き捜索をお願いします」
「トリプルJだ。了解。引き続き森の捜索を行なう」
他のメンバーたちからも了解の通信が入る。誠一はエドの手を取った。
「地下に避難する」
「使徒が来るから?」
「そうだ。急いで」
「こちら八原」
篝から入電がある。
「今病院に着いて地下なんだけど……」
「どうしました?」
「動画の子がいて……」
その歯切れの悪さで誠一は察した。発狂しているか、悪ければ死亡している。伝話の向こうは静かだ。おそらくは後者。
「アーミテイジです。少年は持ち物からしてジョージです。安全なところに自分が移動させます。エドを連れて来ていただいて結構です」
霊安室に運ぶと言う意味だろう。
「了解。エドを連れて行きます」
●モルグ
使徒の放った光線を受けたのか、ジョージの遺体には致命傷とみられる大きな傷があった。ここに逃げ込んで力尽きたのだろう。マシューは遺体を担いで霊安室に運んだ。放置されていたストレッチャーの上に乗せる。幸いにも地下は暗いので、血痕は言われなければ気付かないだろう。
「八原さん、マシューさん」
誠一がエドを連れてやって来た。篝はつかつかとエドに歩み寄ると、上を指す。
「天井の穴、見たわね? コレが、アンタ達が相手にしようとしていたものよ」
「……」
「命を投げ捨てるんじゃないわよ」
エドが何か言い返そうとしたその時だった。幸から入電する。
「桜崎だよ! ハンクを見付けたよ!」
「良かった! 桜崎さん、そのまま病院に連れてこられますか?」
「うん。ジョンのことを気にしてるけど行くって。すごく怯えてるけど怪我はないよ。急いで行くねぇ」
「よろしくね、桜崎さん」
「こちらトリプルJ。ジョンを発見した。と言うか病院に向かっているのを見付けた。こちらも怪我はない。こいつは二人を止めきれないでついてきたそうだ」
幸が捜索中に、合流場所が病院であることを拡声器で呼びかけており、それを聞いたらしい。ハンクとエドも聞いていれば、と思って向かっていたそうだ。
「ベルです」
今度はエラが通信を入れた。前職が秘書であることを思い起こさせる、丁寧な言葉だ。
「お客様がいらっしゃいました」
使徒が来た。
●避難指示
誠一と篝は病院から飛び出した。誠一は学生保護、篝は使徒対応の為だ。エドはマシューに任せてある。
「今、森を脱出しても追いつかれます! 病院へ走ってください!」
茜が通信機に向かって叫んでいる。
「避難が完了するまで最終防衛ラインになります! 行ってください!」
「桜崎だよ! 了解! 誠一さん、ジョンをお願いするよぉ! 僕はこのままハンクを病院に連れて行くねぇ! 茜さんは気をつけてねぇ!」
「了解しました! トリプルJさん、ジョンを拾いに行きます。今どちらですか?」
「了解した。今の位置は……」
トリプルJから大まかな位置を聞いた誠一はそちらの方に向かって走って行く。同じくこちらに向かっていたトリプルJと合流すると、ジョンを抱えて病院まで戻った。ハンクを連れて来た幸も合流した。どうやら、ハンクは森の中で友人達とはぐれてパニックになっていたらしい。
「ハンク!」
ジョンはハンクのことを案じていたようで、友人の顔を見るや安堵の顔になる。
「エドは?」
「エドは地下にいる」
ジョンの問いに、誠一が答えた。
「二人とも、大丈夫か?」
「ぼ、僕は……」
「もう大丈夫だよぉ。僕たちが守るからねぇ」
ハンクは動揺していた。その時、上空で何かが動く。使徒だ。しかし、それを三本の光線が撃ち抜く。エラの三烈だろう。一行は使徒がこちらへ来ない内に、地下へと避難する。
「来たかお前ら」
エドは面白そうに、錯乱しかかっているハンクを見た。ジョンがエドを睨む。
「エドとハンクを離した方が良いと思うなぁ」
幸が言った。冷笑的なエドと、怯えているハンクを一緒にしておくのは悪影響だ。ジョンがそれで激昂し、ハンクの精神状態が悪化する。
「自分も同感です」
「マシューさん精神安定剤お持ちでしたよね?」
「はい」
マシューは精神安定剤を教師に渡すと、エドを廊下の奥に連れて行った。幸が、ハンクの手を握ってさすっている。
「生きてて良かったよぉ。無闇に命が失われるのは悲しいからねぇ」
「もう大丈夫だ。本当に、無事で良かった」
「アーミテイジです。地下へ退避完了しました」
マシューが無線に報告する。
「天王寺です。合流します!」
●最終防衛ライン
「後ろには、絶対に抜かせないわ!!」
茜は強い意思で、使徒対応組と病院の間に立った。使徒を地面に下ろすトリプルJが到着するまでは、エラが空中戦を引き受けることになる。
「穿て、瞬光」
三条の光が使徒を穿つ。光に貫かれる天使とは、皮肉な絵面だ。
「リトリビューションを降らせるわ!」
一方、病院を出てすぐのところで、篝はピアッサーを展開していた。通信機で友軍に呼びかける。彼女がこれから使おうとしているリトリビューションは、敵のみを穿つ雨だが、礼儀として彼女は声を掛けた。
フレイムアローを番えて、彼女は弦を引き絞る。
「こっちを見ろッ!」
炎の矢が放たれた。配管から、マテリアル混じりの蒸気が噴き出した。使徒を一度素通りした矢は、すぐに光の雨となって降り注ぐ。
「ベルです。使徒は依然上空。飛ぶなら先にどうぞ」
「了解」
飛び立つのとファントムハンドの使用は同時にはできない。トリプルJはエラの助言に従って、移動中に飛び立った。代わりに、エラは飛行時間のリミットを感じて地上に降りる。
使徒が反撃として篝に光線を放つ。だが、誰が見ても調子外れの射線だった。マルチステップでかわそうとしていた篝も、いざとなれば防御障壁でかばうことも考えていた茜も、拍子抜けする。
「あれ、本当に狙ってんの?」
「わかりません……」
「動画のものと同一個体ではなさそうですね」
エラがそう結論づけた、その時だった。
「待たせたな」
枝を鳴らして、トリプルJが突っ込んで来た。使徒は、こちらに向かって飛来してくる彼を見て戸惑っているようだ。ファントムハンドが伸びる。幻影の手は使徒をがっちりと捕まえると、使い手まで引き寄せた。
「アーミテイジです。地下へ退避完了しました」
無線からマシューの声がする。
「天王寺です。合流します!」
「茜、皆をよろしくね」
「はい! 皆さん気をつけて」
引きずり下ろされた使徒は、何が起っているのかわかっていないようにも見えた。ただ、トリプルJが自分に干渉したことはわかったらしい。着陸して剣を構えた。霊闘士は何も言わずに鎧通しでまずはキツい一発をお見舞いする。甲冑が破損するかと思うような重たい音がした。篝のリトリビューション、エラの三烈の追撃で、使徒は膝を突く。
しかし、まだ撃退までは届かない。使徒は剣を杖代わりにして立ち上がると、剣を振り下ろした。トリプルJはそれをディスターブで受け止める。障壁が浮かび上がった。同時にリジェネレーションを発動し回復を図る。殴り合いで倒れるわけにはいかない。
彼は再び、鎧通しで殴り掛かった。
●生きてこそ
病院地下に合流した茜は、エドの傍にいる幸が真剣な顔をして話をしているのを聞いた。怒っているようで、悲しんでいるような声だ。
「仇討ちがしたいのもわかるよ。でも、二人アプリを使ってるからって、使徒を倒せると思うの?」
エドはそっぽを向いている。引っ込みがつかなくなったのかも知れない。幸の声音に含まれている気持ちが、伝わらない筈はない。
「何故自分達も危険なことをしようとするの? 君達が死んでしまったら、悲しむ人が増えるんだ。僕だって……無闇に命が失われるのは、悲しいよ」
茜は、精神安定剤の効果でぼんやりとしているハンクの傍に座った。語りかけるように、言葉を紡ぐ。
「今は我慢して、世界で何が起きているのか、そのことを知ってください。皆さんの協力が必要になることが、たくさんあるんです」
「うん……」
「アプリの力は人間の焦りに付け込んだVOIDの罠であって、使徒には遠く及びません。その上、VOIDの仲間として攻撃されるだけなんです。私たち覚醒者でも、使徒を倒せるかどうかは危ういんです」
「皆、やっぱり死んだんだ」
「連絡はつかなかったんですか?」
「だれとも」
「そうですか……」
ジョージの遺体が霊安室にあるらしい。身体が残ったのが奇跡なのかも知れない。遺体のことは黙っておいた方が良いだろう。
「八原よ。使徒は撤退したわ。もう出てきて大丈夫」
篝からの通信が入って、その場の全員がほっと息を吐く。マシューが軍に報告を入れた。廊下の少し先に進んで小声で話していたのは、ジョージの遺体が発見されたことを伝えているのだろう。
「学生の三人は一度軍で保護します」
「めんどくせぇな」
エドが言ったその瞬間、誠一の眼鏡に反射した光が動いた。彼はエドの前に立つと、その頬を平手で張った。覚醒者の力ではない。教師としての一発。
「先生……」
マシューが呟いた。
「あと少し遅ければ全員死んでる。二次被害を招いたこともわかるな?」
エドは頬を押さえてまたそっぽを向く。
「助けになんて来なきゃ良いだけだろ」
「そんなことはできない。頼むから。もう、こんな向こう見ずなことをしないでくれ。君達を大切に思う人達を悲しませるな」
その声に滲む悲痛さを感じたのか、エドはもう反論しなかった。
「悪かったよ、先生」
彼はぽつりと言った。ちら、と幸を見る。
「幸も」
マシューの連絡を受けた軍がやって来た。二台のストレッチャーの内、一台にはハンクが、もう一台には、遺体袋に入れられたジョージの遺体が乗せられる。
それを見送る誠一の隣に、マシューが立った。
「先生、軍人として学生への平手は看過できませんが……その時マシュー・アーミテイジ軍曹は居眠りをしておりましたので」
マシューは片目をつむって見せる。
「ですので、先生も自分の居眠りについてはご内密に」
「ふっ」
誠一は吹き出した。
「ええ、口外しませんよ」
「ありがとうございます」
「おや、鬼軍曹にでも転向しましたか?」
エラがとぼけてた調子で言う。
「いやいや! そんなんじゃないって!」
ハンクはストレッチャーの上から茜と幸に手を振った。
「幸、茜、ありがとう」
「お大事に、だよぉ」
「次会うなら、元気な姿を見せてくださいね」
ジョンはトリプルJの前に立つ。屈強な軍人を前にバツの悪そうな顔をしていたが、やがて頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ああ。これに懲りたら、ついていかないで通報しろよ」
「イエッサー」
軍人に挟まれてハンクを見送るエドの背中に、篝は言葉を投げかける。
「今生きてる友達を守りなさい」
「善処するよ」
ジョージ発見を受けて、ティムとエマの捜索が再度行なわれた。その結果、二人の遺体が森の外れで発見された。ジョージと同じような有様だった。軍曹は、これをもって動画の六人は全員死亡と報告を上げた。
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/09/21 23:02:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/20 21:11:15 |