ゲスト
(ka0000)
【空蒼】少女たちとハンター
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/11 07:30
- 完成日
- 2018/10/12 19:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●美紅という少女
イクシード・アプリをインストールした多くの人間は、暴走という結果を迎えた。
結局イクシード・アプリはハンターになれるという謳い文句通りのものではなく、全く逆の、契約者、つまり強化人間と同じ存在になってしまう最悪の代物だった。
地球防衛軍の強化人間たちの中にも、暴走者は多く出た。分母に圧倒的な差があるイクシード・アプリの使用者は語るまでもない。
暴走してハンターたちに取り押さえられた彼らは、強化人間、アプリ使用者に関わらず全員月に送られたという。
テレビやラジオなどで断片的に伝わってくる情報によると、月の崑崙基地には暴走を防ぐ結界が張られ、絶対に暴走することがないのだとか。
(……でも、私は暴走していない。今まで、その予兆もない。……とはいえ、これからはどうか、分からない。でも、そうなったらそうなったで死ねばいい。自殺が駄目でも、殺されればいい。最後の手段だけど)
美紅の意識は正常だ。暴走する前に死んでしまえばいいと、本気でそう考えている。
適応したのは、美紅自身が元より獲得していた性格によるものかもしれない。
あるがままを受け入れる心。
こんなはずではなかった、とは思わない。
力を得るなんて、本来簡単なことではないのだ。
ハンターになる儀式だって、単純なものではあるまい。
多くの時間と労力と時間、そして人の手間をかけて行われるもののはずだ。
それらを省略するのなら、相応の代償を求められるのは当然のこと。
美紅にとってはそれが「実は自分がなったのがハンターではなく強化人間だった」というだけであり、事実が判明してからも、「ああ、そういうことか」と納得してしまえるものに過ぎなかった。
早い話が、自業自得なのだ。全て。
「今日は、襲撃が多いわね……。まあ、何度繰り返そうが結果は変わらない。年貢の納め時ね、あなたたちも。……聞く耳は、残ってないでしょうけど」
だからこそ、美紅は自分たちがいる避難所を守る強化人間兵たちに交じって戦っている。
当然、彼らも暴走せず現状に適応した、いわゆる適正が高い者たちだ。
対するは暴走者たち。
「死ねえええええええ!」
「がああああああああ!」
「もう地球は終わりなんだから、全部ぶっ壊しちまえばいいんだよおおおおおおおお!」
狂乱状態で殺戮に酔い痴れる者。
理性が吹き飛びまともな会話ができない者。
あらゆる物事が無価値に堕し、とにかく何かを破壊できればそれでいい者。
精神が破壊されもはや元に戻れなくなるくらい深刻な暴走状態にまで進んでしまった暴走者たち。
そして、それ以外にも襲撃してくる存在として、VOIDが混じっている。
どういうわけか、VOIDは暴走者たちを襲うことはない。
まとめて、避難所を守る強化人間たちと美紅によって倒されていく。
強化人間と同じ装備を貸し与えられ、さらに強化人間たちの戦い方を見て、そして実際に戦って学習し、美紅はその適正を開花させていた。
「ここには、家族も、友達も、冴子もいる。……あなたたちの自由にはさせないわ」
美紅が振るうセラミックソードが暴走者一人を昏倒させ、さらに背中にマウントした銃器からアサルトライフルを選んで抜き放ち、近付かれると危険なVOIDたちを銃撃して牽制する。
結局は付け焼刃でしかない美紅の腕では銃撃の命中率が落ちるものの、相手の足を止める威嚇手段としては申し分ない。VOIDが怯んでいる隙に、他の強化人間たちがケリをつけてくれた。
それに、どうせ敵の数は多いのだ。目標から逸れても、また別の目標に当たるだけである。
強化人間たちと協力して襲撃を凌ぎ切るまで、美紅は戦い続けた。
●冴子という少女
──自分は本当に、ずっと守られるままの存在でいいのか?
それは、学校がVOIDの群れに襲撃された時から、冴子がずっと考えてきたことだった。
戦う手段はある。アプリをインストールすればいい。
もちろんそれは愚かな選択だ。後戻りはできないし、暴走してかえって事態を悪化させる可能性の方が高い。
でも、何もできない己が歯がゆいのだ。
暴走者たちの襲撃を撃退し、美紅が避難所の中に戻ってきた。
「美紅……。強化人間の人たちは?」
「引き続き警戒中。私は一応民間人だから、また襲撃があるまでは休んでいてくれだって」
「ごめんね……。ずっと、美紅に任せっきりで。美紅だって、自分のことで辛いはずなのに」
「気に病むことないよ。私がアプリをインストールしたのは、私の意志だし。確かに騙されていた部分はあったけどさ。それで誰かを恨んだりはしないよ」
「強いんだね、美紅は……」
驚いたように冴子を見た美紅は、ふっと表情を穏やかなものに変える。
「別に、強くはないよ。騙された結果、失ってばかりで何も得られなかったら、私も平静じゃいられなかったと思うし。でも、冴子と友達になれたから。うん、これはアプリのおかげって認定してもいい事柄かな。私、ずっと竜造寺さんと友達になりたかったんだ」
最近の日々が濃厚過ぎて、懐かしさすら感じる苗字呼びに、冴子が目を丸くする。
「そういえば、呼び方……」
「アプリが広まる前は、友達でも何でもない関係だったよね。竜造寺さんは委員長で皆に一目置かれて頼りにされてて、私はクラスで影が薄くて、友達もあまりいなくて。だから、そんなあなたに憧れてた。あなたみたいになりたいってずっと思ってた」
「そっか……。じゃあ、憧れを壊しちゃったね。だって、現実の私は、皆を見捨てて逃げ回るような女だもの……。実際は逆だわ」
「今の私だって、アプリあってのものだよ。それに、ハンターの人だっていってたじゃない。その選択を誇るべきだって。私はぶら下がっていた安易な選択に逃げた。冴子は逃げなかった。それって、凄いことだと思う」
冴子は頷けなかった。
美紅の変化は、リスクあってのものだ。つまり、正当な理由がある。
でも冴子は違う。リスクから逃げて、負債を他人に押し付けた卑怯者。美紅の方が、自分よりもずっと凄い。
本気で冴子はそう思う。
「そういえば、今度ハンターたちが応援に来てくれるんだってさ。強化人間たちが話してるの、聞いちゃった」
「えっ? どうして? 月でも大きな作戦があって、ハンターたちはそっちに行くって聞いたけど」
切り出した美紅の話が意外で、冴子は身を乗り出す。
「防衛戦力が私たちだけだと、どうしても暴走する可能性を考えると不安だから、もしもの時のためにハンターをつけるみたい。まあ、当然よね」
「そっか……。ハンターと、また会えるんだ……」
自然と冴子の表情が綻ぶ。期待で頬を染める様子は、まるで恋する乙女のようだ。
「いっぱい、お話できるといいね」
気が上向いた様子の親友に、美紅の表情も柔らかくなった。
イクシード・アプリをインストールした多くの人間は、暴走という結果を迎えた。
結局イクシード・アプリはハンターになれるという謳い文句通りのものではなく、全く逆の、契約者、つまり強化人間と同じ存在になってしまう最悪の代物だった。
地球防衛軍の強化人間たちの中にも、暴走者は多く出た。分母に圧倒的な差があるイクシード・アプリの使用者は語るまでもない。
暴走してハンターたちに取り押さえられた彼らは、強化人間、アプリ使用者に関わらず全員月に送られたという。
テレビやラジオなどで断片的に伝わってくる情報によると、月の崑崙基地には暴走を防ぐ結界が張られ、絶対に暴走することがないのだとか。
(……でも、私は暴走していない。今まで、その予兆もない。……とはいえ、これからはどうか、分からない。でも、そうなったらそうなったで死ねばいい。自殺が駄目でも、殺されればいい。最後の手段だけど)
美紅の意識は正常だ。暴走する前に死んでしまえばいいと、本気でそう考えている。
適応したのは、美紅自身が元より獲得していた性格によるものかもしれない。
あるがままを受け入れる心。
こんなはずではなかった、とは思わない。
力を得るなんて、本来簡単なことではないのだ。
ハンターになる儀式だって、単純なものではあるまい。
多くの時間と労力と時間、そして人の手間をかけて行われるもののはずだ。
それらを省略するのなら、相応の代償を求められるのは当然のこと。
美紅にとってはそれが「実は自分がなったのがハンターではなく強化人間だった」というだけであり、事実が判明してからも、「ああ、そういうことか」と納得してしまえるものに過ぎなかった。
早い話が、自業自得なのだ。全て。
「今日は、襲撃が多いわね……。まあ、何度繰り返そうが結果は変わらない。年貢の納め時ね、あなたたちも。……聞く耳は、残ってないでしょうけど」
だからこそ、美紅は自分たちがいる避難所を守る強化人間兵たちに交じって戦っている。
当然、彼らも暴走せず現状に適応した、いわゆる適正が高い者たちだ。
対するは暴走者たち。
「死ねえええええええ!」
「がああああああああ!」
「もう地球は終わりなんだから、全部ぶっ壊しちまえばいいんだよおおおおおおおお!」
狂乱状態で殺戮に酔い痴れる者。
理性が吹き飛びまともな会話ができない者。
あらゆる物事が無価値に堕し、とにかく何かを破壊できればそれでいい者。
精神が破壊されもはや元に戻れなくなるくらい深刻な暴走状態にまで進んでしまった暴走者たち。
そして、それ以外にも襲撃してくる存在として、VOIDが混じっている。
どういうわけか、VOIDは暴走者たちを襲うことはない。
まとめて、避難所を守る強化人間たちと美紅によって倒されていく。
強化人間と同じ装備を貸し与えられ、さらに強化人間たちの戦い方を見て、そして実際に戦って学習し、美紅はその適正を開花させていた。
「ここには、家族も、友達も、冴子もいる。……あなたたちの自由にはさせないわ」
美紅が振るうセラミックソードが暴走者一人を昏倒させ、さらに背中にマウントした銃器からアサルトライフルを選んで抜き放ち、近付かれると危険なVOIDたちを銃撃して牽制する。
結局は付け焼刃でしかない美紅の腕では銃撃の命中率が落ちるものの、相手の足を止める威嚇手段としては申し分ない。VOIDが怯んでいる隙に、他の強化人間たちがケリをつけてくれた。
それに、どうせ敵の数は多いのだ。目標から逸れても、また別の目標に当たるだけである。
強化人間たちと協力して襲撃を凌ぎ切るまで、美紅は戦い続けた。
●冴子という少女
──自分は本当に、ずっと守られるままの存在でいいのか?
それは、学校がVOIDの群れに襲撃された時から、冴子がずっと考えてきたことだった。
戦う手段はある。アプリをインストールすればいい。
もちろんそれは愚かな選択だ。後戻りはできないし、暴走してかえって事態を悪化させる可能性の方が高い。
でも、何もできない己が歯がゆいのだ。
暴走者たちの襲撃を撃退し、美紅が避難所の中に戻ってきた。
「美紅……。強化人間の人たちは?」
「引き続き警戒中。私は一応民間人だから、また襲撃があるまでは休んでいてくれだって」
「ごめんね……。ずっと、美紅に任せっきりで。美紅だって、自分のことで辛いはずなのに」
「気に病むことないよ。私がアプリをインストールしたのは、私の意志だし。確かに騙されていた部分はあったけどさ。それで誰かを恨んだりはしないよ」
「強いんだね、美紅は……」
驚いたように冴子を見た美紅は、ふっと表情を穏やかなものに変える。
「別に、強くはないよ。騙された結果、失ってばかりで何も得られなかったら、私も平静じゃいられなかったと思うし。でも、冴子と友達になれたから。うん、これはアプリのおかげって認定してもいい事柄かな。私、ずっと竜造寺さんと友達になりたかったんだ」
最近の日々が濃厚過ぎて、懐かしさすら感じる苗字呼びに、冴子が目を丸くする。
「そういえば、呼び方……」
「アプリが広まる前は、友達でも何でもない関係だったよね。竜造寺さんは委員長で皆に一目置かれて頼りにされてて、私はクラスで影が薄くて、友達もあまりいなくて。だから、そんなあなたに憧れてた。あなたみたいになりたいってずっと思ってた」
「そっか……。じゃあ、憧れを壊しちゃったね。だって、現実の私は、皆を見捨てて逃げ回るような女だもの……。実際は逆だわ」
「今の私だって、アプリあってのものだよ。それに、ハンターの人だっていってたじゃない。その選択を誇るべきだって。私はぶら下がっていた安易な選択に逃げた。冴子は逃げなかった。それって、凄いことだと思う」
冴子は頷けなかった。
美紅の変化は、リスクあってのものだ。つまり、正当な理由がある。
でも冴子は違う。リスクから逃げて、負債を他人に押し付けた卑怯者。美紅の方が、自分よりもずっと凄い。
本気で冴子はそう思う。
「そういえば、今度ハンターたちが応援に来てくれるんだってさ。強化人間たちが話してるの、聞いちゃった」
「えっ? どうして? 月でも大きな作戦があって、ハンターたちはそっちに行くって聞いたけど」
切り出した美紅の話が意外で、冴子は身を乗り出す。
「防衛戦力が私たちだけだと、どうしても暴走する可能性を考えると不安だから、もしもの時のためにハンターをつけるみたい。まあ、当然よね」
「そっか……。ハンターと、また会えるんだ……」
自然と冴子の表情が綻ぶ。期待で頬を染める様子は、まるで恋する乙女のようだ。
「いっぱい、お話できるといいね」
気が上向いた様子の親友に、美紅の表情も柔らかくなった。
リプレイ本文
●つかの間の平和
「ミグである、よろしくなお若いの」
話しかけると、二人とも驚いたような表情をした。
美紅と冴子に話しかけてみる気になったのは、少し発音が狂うと美紅と間違ってしまうかと思うほど名前が似ているからだろうか。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)にとっては、彼女らは孫たちと同じような物だ。
少し、おせっかいを焼くことにする。
「アティといいます。よろしくお願いしますね」
自分の癒しが少しでも助けになるなら、とそう思い避難所にやってきたアティ(ka2729)は、強化人間たちに挨拶すると、バリケード補修の手伝いを申し出た。
不満がたまっている避難民の嘆願を聞くのは、同じこの世界の出身者の方のほうが上手くいくだろうという予測もある。
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は差し入れを行おうと思ったが、寄れるスーパーはVOIDや暴走者の襲撃を受けて廃墟になっていて、まともな商品が並べられていなかった。
クリムゾンウエストから持ち込んだものは戻る際に一緒に戻ってしまうので意味がない。
「チョコ菓子を避難民に、トランプを強化人間兵に配りたかったのですが、仕方ありませんね」
せめて関係自治体へ連絡すると話を通したが、今も自治体が機能しているかは未知数だ。
「学校が襲撃された事件、デパートでの事件、両方に関わった者の一人として……その後の状況が気になる所だ」
竜造寺冴子と西園美紅の両名に逢いに行くことに決めた鳳凰院ひりょ(ka3744)は、二人の下へ向かう。
とはいえ学校では冴子と少し話した程度、美紅とはデパートで本当にチラッと顔を合わせた程度で、覚えているだろうか。
「やれやれ、だ。里帰りしてもいつもこんなんだなあ、最近は……」
アティと同じく強化人間達を手伝ってバリゲードの補修にあたるつもりの輝羽・零次(ka5974)は、感慨深い気持ちを抱いた。
当時は鬱陶しくて仕方なかったものだ。
「おお、学校なんて久しぶりだな! なんかすげー物々しいけど」
現状は学生抗争かと思うような有様だ。
見知った霧島 百舌鳥(ka6287)の姿を見て、不安げだった冴子と美紅の表情が華やいだ。
「やぁ、冴子君に美紅君! また会った……いや、違うかな。会いに来たよ!」
「百舌鳥さん!」
「デパートではありがとうございました!」
口々に礼を述べる。
二人とも、百舌鳥に守られ避難した身だ。
ひりょも見つけ、慌ただしく二人は駆け出していく。
気を使ってか、休むことを勧めてくる強化人間兵たちに、蓬(ka7311)は首を横に振った。
「今は休んでいるより、何かしていたほうが落ち着くので」
平和なのは今だけだ。
戦闘が始まってしまったら、戦いに関係すること以外はできなくなってしまう。
避難所の手伝いも気分転換も今のうちに行うべきだろう。
当然バリケードの補修も。
ハンターたちはそれぞれの思いを胸に、つかの間の平和が訪れた避難所でできることをしようと方々に散っていく。
さあ、依頼の始まりだ!
●冴子と美紅
二人の下へは、ミグ、ひりょ、百舌鳥の三人が訪れた。
ミグは初対面だが、ひりょ、百舌鳥の二人はもう既に二度、面識がある。
故に、対面する冴子と美紅の表情は柔らかい。
「まずは簡単に講義といこうかの。ハンターと強化人間の違いについてじゃ」
口火を切ったのはミグだ。
見た目に似合わない老ドワーフらしい口振りで、冴子と美紅は目を瞬かせる。
かなり姿と口振りに乖離がある状態なので、クリムゾンウエストに行ったことがない彼女たちは、実際に目にすると吃驚してしまうようだ。
「ハンターはクリムゾンウェストの精霊樹と契約する。強化人間は歪虚と契約して力を得る。暴走の危険性が付きまとうが力そのものに善悪は無いのじゃ。力とは振るう者の心意気一つ。重要なのは由来ではない」
真剣な表情で話を聞く二人の様子を見て、理解していることを確認し、ミグは次の話に移る。
「本題じゃ。力亡き者の役割とは何か? 冴子といったか。答えてみよ」
「……無力だからこそ、できることもある、ということでしょうか」
「そうじゃ。力亡き者は、力ある者の帰れる場所となることが肝要である。力ある物とて同じ人間であることに変わりはない。優劣などないのじゃ。だから力ある物と心を通わせられるのなら、戦う力はなくとも恥じることはない。力ある物は誤解されやすいゆえ、他の者との橋渡しとなるとよいのである」
老婆心ながら説教してしまうロリババアであった。
「ほれ、次はお主らの番じゃ。先達としてするべきことがあろう」
ミグに促され、次に冴子と美紅の前に進み出たのはひりょと百舌鳥だった。
「何の為に戦っているか、それを聞いておこう。もし、何かを守る為に戦っているのなら……、少しは力になれるかもしれない」
「私は冴子を守りたい。……稽古を、つけてくれますか?」
美紅から負のマテリアル光が迸る。
「ニ対一をご所望かい! 豪胆だねぇ! いいだろう、答えようとも!」
セラミックソードを引き抜き素早く駆け出した美紅が最初に狙ったのは百舌鳥だ。
戦槍で数合打ち合った後、間合いを取った百舌鳥は銃を抜き美紅の足元を撃つ。
「便利だよねぇ。近接職が銃を使ってはいけないって法律はどこにもないのさ!」
「その通り、ですね! 同感です!」
アサルトライフルを応射する美紅にひりょが突っ込んでいった。
とっさに美紅がアサルトライフルで攻撃を受け止めたのを確認し、ひりょは守りの技術について実演を交えて教えながら美紅に尋ねた。
「君から見て冴子の現状はどうだ?」
「あの子は今の自分に自信が持てていない。私も、この力を得るまではそうだった。何一つ、誇れるものがなかったから」
「一度、しっかり話をするべきだな」
「行ってあげてください。きっと冴子も、あなたたちを必要としている」
以前、アプリを使わなかった事を正解だとひりょは冴子に伝えた。
だが、心の葛藤は今も続いているようだ。
美紅への稽古を終え近付くひりょと百舌鳥に、冴子は俯く。
「今の君にできる事はあるはずだ。ミグが教えてくれただろう?」
ひりょの言葉に、冴子が自分のスカートの裾を握り締める。
「理屈は分かります。でも、感情はどうにもなりません」
「……まぁ、ボクは好かないから今日は教える為に持ってきたのだけれど。なんなら、あげるよ」
冴子は百舌鳥からオートマチックを受け取った。
美紅が戻ってきて、魅入られるようにじっと手元のオートマチックを見つめる冴子の肩を、慰めるように叩く。
「遠距離が得意な相手でも不用意に飛び込むと……予想外の事が起こるかもしれない。常に自分の得意な間合いで戦うんだ。相手にペースを渡しちゃいけないよ」
まるで経験してきたことのように語られ不思議そうな顔をする美紅に、百舌鳥は苦笑した。
「何の事はないよ。高火力後衛の癖に近距離対応できて馬鹿に堅い、僕の攻撃程度では掠り傷すら……なんて理不尽を一例、知っているのさ」
「……そんな化け物がいるんですか」
美紅の表情が強張る。
オートマチックを握り締める冴子の指が白くなった。
「自分を全肯定なんて、どうせ誰にもできやしない。残念な事に、現実はいつも都合がいいものだとは限らないのだからねぇ。……それでも、選んだ選択肢は絶対手放さず、その中で自分にできる何かを探す。それがきっと、ヒトってものさ。きっと選ばなかった方は、選んだ子が補ってくれるよ。……こんな戯言でも、君たちの役に立つといいのだけれどね」
●強化人間たち
ミグは他にも強化人間兵たちの連日の健闘をたたえつつ、戦闘面のアドバイスを行った。
機導師として身につけた知識、技術を用いて装備のメンテなども請け負う。
それ以外で強化人間兵たちに接触したのは、アティ、エラ、零次、蓬の四人だった。
四人の目的は一致している。
強化人間兵たちが行っている、避難所を囲むバリケードの補修だ。
敵襲のたびにどこかが壊れるので、手が空いているうちに修理しなければならない。
「有難い! 正直僕たちだけでは手が回るか不安なんだ。避難民たちの様子も見て回らなければならないが、そっちも遅れ気味でね……。頼めるだろうか」
もちろん、お願いされてハンターたちに否やはない。
「任せてください!」
「やり遂げてみせましょう」
「力仕事あれば俺に言ってくれよな! いくらでもやってやるぜ!」
「私たちにできることなら、喜んで」
アティ、エラ、零次、蓬の全員が快く強化人間部隊隊長である少年兵の頼みを引き受けた。
避難民の対応の方も、この後になるが手伝うつもりだ。
同じこの世界の出身者の方の方が、嘆願に上手く対応できるだろうし、色々気付くこともあるだろう。
もちろん、アティは自分の耳に入るならできることをしてあげたいと思っている。
他にも避難所内の周辺清掃、発電機の整備など、強化人間兵が行わなければならない力仕事は多岐に渡る。
発電機整備など、有用であればエラが持つ機導師としての知識や技術が役に立つかもしれないし、軍用品ツールボックスや教会印のレンジャーキットなども使い時がありそうだ。
特に生命線である発電機の故障併発だけは防止しなければならない。
力が必要な場面では、零次の怪力が役に立つはずだ。
全員で協力し、避難所のバリケード補修を手伝う。
「皆さんは今までどのような戦闘を?」
蓬が強化人間兵の一人に尋ねた。
「とにかく避難所内に敵を入れないように、もし入れてしまっても、避難民たちがいる体育館と校舎に入らないよう、私たちで誘導するようにしています。……でも、その、正直一度の戦闘で出る怪我人が多過ぎて、厳しい状態です」
「中にまで入ってくるのですか?」
さすがに聞き逃せなかったのか、エラが話題に入ってきた。
「はい。できるだけ遠くにいるうちに撃ち殺すようにしているのですが、バリケードに取りつかれると、そちらの排除に手を割かなければならなくなって、その間に無理やり正門や裏門を突破してくる敵もいるので……」
「なるほど。となると、そもそもバリケードに近寄らせないことが重要そうだな」
ふむふむと零次は難しい表情で頷く。
どんな観点でバリケード構築をしているのか充分に強化人間兵から聞き出すと、アティ、エラ、零次、蓬で力を合わせ、補修作業を行う。
「この板、割れかけてますね。交換しておきましょう」
「コンクリートブロックに罅が入っています」
「鉄条網が千切れてるぞ」
「車が大破しています。近くの放置車両に交換しておきますね」
アティ、エラ、零次、蓬から矢継ぎ早にバリケードの状態が知らされる。
強化人間兵たちと連携し、補強は迅速に進んだ。
「困っていることや辛いこと、ないですか?」
「戦いに関してはそれが仕事なので仕方ないですけど、毎日避難民の方々の愚痴を聞かされるのは勘弁して欲しいですね」
不足だらけの現状、直ぐに解決できないことだらけではあるが、蓬と話した強化人間兵は、少し精神面で楽になったようだ。
●避難民たち
突然避難民同士で殴り合いが始まり流血騒ぎになった。
「どう見ても同量だろ!」
「いいや、お前の配給の方が一グラム多い! 寄越せ!」
「お、落ち着いてくださーい!」
慌ててアティが止めに入り治療を行うが、その順番でまた揉める始末。
エラが避難民へ不満の聞き込みを行っても、基本的には同じ避難民への妬み、やっかみがほとんどを占めている。
「……これは、思っていた以上に深刻ですね。差し入れをできなかったのが響きそうです」
感情的な訴えを親身に聞いたエラは、感情部分を整理し、理論だった内容へ編纂した。
ガソリンは自分たちや強化人間が合間を縫って周りの車から抜いてくれば何とかなる。
問題は主に二つで、まず第一に食料が足りない。食料ほどではないが、それ以外の物資も足りない。
物資は備蓄倉庫を漁ればまだ出てくる可能性があるものの、問題は食料だ。
行きがけに寄った近くのスーパーは廃墟だった。
「調達可能なら、私たちで出向いてもいいのですが……」
「あの……」
エラに声をかけたのは避難民の老夫婦だった。
そのスーパーのオーナーらしく、倉庫の鍵を託された。
確かに店舗自体は荒らされていたが、倉庫には鍵が掛かっていて建物も無事で、荒らされた形跡はなかった。
いくら無事でも窃盗はどうかと、その時は諦めたのだが。
「こんなご時世です。取りにいけない儂らでは持っていても意味がないものです。どうか、役立ててください」
「……責任を持って、私たちハンターと強化人間兵で回収させていただきます」
避難民の悪感情の原因は、状況が悪いのに一行に改善されない焦りが表層化しているためだ。
何を切欠に暴徒化するか分からず、老夫婦も言い出せなかったのだろう。
駄目元で自治体への連絡及び、自治体へ送付する文書を作成しておこうとエラは決めた。
「そんなのがあったってよう、強化人間がそのまま逃げ出さない保証はあるのかよ」
やり取りを見ていた避難民の男性にエラが絡まれる。
「やめねえか! ほら、不満があるなら聞いてやるから話してみろって。な?」
怪我させない様に注意しながら取り押さえた零次が、エラに絡んだ避難民を引きずっていく。
根気よく話を聞いてみれば、不満の根底には強化人間たちに対する偏見があった。
「不安なのはわかるけどよ。だからってこういうのはやめようぜ。お前にだって大切なもんはあんだろ? そいつに悲しませたり笑われたりしないように頑張ろうぜ。俺もそうしたいからよ」
エラと男性、零次の一部始終を見た蓬はため息をつく。
避難民の中には強化人間に偏見を持つ者もいる。
大人の意見を変えることは難しいかもしれないが、せめて自分と同年代の子どもに対しては、偏った見方をしないで欲しいと願う蓬だった。
「守るべきもののために、あらゆる困難を乗り越えて戦い続ける。……それが軍人だと教わりました」
今戦っている強化人間とハンターに、違うところなんてほんの少ししかないということを伝えようと、蓬は避難民たちの間を見て回ることにした。
●倉庫には大量の物資と食料が
エラが倉庫の鍵を開けて扉を開くと、中にはスーパーの商品在庫が満載されていた。
「これだけあれば、避難民たちの不満も和らぐでしょうね。あの老夫婦に感謝しなければ」
商品の中には当初差し入れしようと思っていたチョコ菓子やトランプなどもある。
「持ち帰られるだけ持ち出します。手伝っていただけますか?」
道案内を行ってくれた強化人間兵を含め、仲間たちにエラは振り返った。
「ミグである、よろしくなお若いの」
話しかけると、二人とも驚いたような表情をした。
美紅と冴子に話しかけてみる気になったのは、少し発音が狂うと美紅と間違ってしまうかと思うほど名前が似ているからだろうか。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)にとっては、彼女らは孫たちと同じような物だ。
少し、おせっかいを焼くことにする。
「アティといいます。よろしくお願いしますね」
自分の癒しが少しでも助けになるなら、とそう思い避難所にやってきたアティ(ka2729)は、強化人間たちに挨拶すると、バリケード補修の手伝いを申し出た。
不満がたまっている避難民の嘆願を聞くのは、同じこの世界の出身者の方のほうが上手くいくだろうという予測もある。
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は差し入れを行おうと思ったが、寄れるスーパーはVOIDや暴走者の襲撃を受けて廃墟になっていて、まともな商品が並べられていなかった。
クリムゾンウエストから持ち込んだものは戻る際に一緒に戻ってしまうので意味がない。
「チョコ菓子を避難民に、トランプを強化人間兵に配りたかったのですが、仕方ありませんね」
せめて関係自治体へ連絡すると話を通したが、今も自治体が機能しているかは未知数だ。
「学校が襲撃された事件、デパートでの事件、両方に関わった者の一人として……その後の状況が気になる所だ」
竜造寺冴子と西園美紅の両名に逢いに行くことに決めた鳳凰院ひりょ(ka3744)は、二人の下へ向かう。
とはいえ学校では冴子と少し話した程度、美紅とはデパートで本当にチラッと顔を合わせた程度で、覚えているだろうか。
「やれやれ、だ。里帰りしてもいつもこんなんだなあ、最近は……」
アティと同じく強化人間達を手伝ってバリゲードの補修にあたるつもりの輝羽・零次(ka5974)は、感慨深い気持ちを抱いた。
当時は鬱陶しくて仕方なかったものだ。
「おお、学校なんて久しぶりだな! なんかすげー物々しいけど」
現状は学生抗争かと思うような有様だ。
見知った霧島 百舌鳥(ka6287)の姿を見て、不安げだった冴子と美紅の表情が華やいだ。
「やぁ、冴子君に美紅君! また会った……いや、違うかな。会いに来たよ!」
「百舌鳥さん!」
「デパートではありがとうございました!」
口々に礼を述べる。
二人とも、百舌鳥に守られ避難した身だ。
ひりょも見つけ、慌ただしく二人は駆け出していく。
気を使ってか、休むことを勧めてくる強化人間兵たちに、蓬(ka7311)は首を横に振った。
「今は休んでいるより、何かしていたほうが落ち着くので」
平和なのは今だけだ。
戦闘が始まってしまったら、戦いに関係すること以外はできなくなってしまう。
避難所の手伝いも気分転換も今のうちに行うべきだろう。
当然バリケードの補修も。
ハンターたちはそれぞれの思いを胸に、つかの間の平和が訪れた避難所でできることをしようと方々に散っていく。
さあ、依頼の始まりだ!
●冴子と美紅
二人の下へは、ミグ、ひりょ、百舌鳥の三人が訪れた。
ミグは初対面だが、ひりょ、百舌鳥の二人はもう既に二度、面識がある。
故に、対面する冴子と美紅の表情は柔らかい。
「まずは簡単に講義といこうかの。ハンターと強化人間の違いについてじゃ」
口火を切ったのはミグだ。
見た目に似合わない老ドワーフらしい口振りで、冴子と美紅は目を瞬かせる。
かなり姿と口振りに乖離がある状態なので、クリムゾンウエストに行ったことがない彼女たちは、実際に目にすると吃驚してしまうようだ。
「ハンターはクリムゾンウェストの精霊樹と契約する。強化人間は歪虚と契約して力を得る。暴走の危険性が付きまとうが力そのものに善悪は無いのじゃ。力とは振るう者の心意気一つ。重要なのは由来ではない」
真剣な表情で話を聞く二人の様子を見て、理解していることを確認し、ミグは次の話に移る。
「本題じゃ。力亡き者の役割とは何か? 冴子といったか。答えてみよ」
「……無力だからこそ、できることもある、ということでしょうか」
「そうじゃ。力亡き者は、力ある者の帰れる場所となることが肝要である。力ある物とて同じ人間であることに変わりはない。優劣などないのじゃ。だから力ある物と心を通わせられるのなら、戦う力はなくとも恥じることはない。力ある物は誤解されやすいゆえ、他の者との橋渡しとなるとよいのである」
老婆心ながら説教してしまうロリババアであった。
「ほれ、次はお主らの番じゃ。先達としてするべきことがあろう」
ミグに促され、次に冴子と美紅の前に進み出たのはひりょと百舌鳥だった。
「何の為に戦っているか、それを聞いておこう。もし、何かを守る為に戦っているのなら……、少しは力になれるかもしれない」
「私は冴子を守りたい。……稽古を、つけてくれますか?」
美紅から負のマテリアル光が迸る。
「ニ対一をご所望かい! 豪胆だねぇ! いいだろう、答えようとも!」
セラミックソードを引き抜き素早く駆け出した美紅が最初に狙ったのは百舌鳥だ。
戦槍で数合打ち合った後、間合いを取った百舌鳥は銃を抜き美紅の足元を撃つ。
「便利だよねぇ。近接職が銃を使ってはいけないって法律はどこにもないのさ!」
「その通り、ですね! 同感です!」
アサルトライフルを応射する美紅にひりょが突っ込んでいった。
とっさに美紅がアサルトライフルで攻撃を受け止めたのを確認し、ひりょは守りの技術について実演を交えて教えながら美紅に尋ねた。
「君から見て冴子の現状はどうだ?」
「あの子は今の自分に自信が持てていない。私も、この力を得るまではそうだった。何一つ、誇れるものがなかったから」
「一度、しっかり話をするべきだな」
「行ってあげてください。きっと冴子も、あなたたちを必要としている」
以前、アプリを使わなかった事を正解だとひりょは冴子に伝えた。
だが、心の葛藤は今も続いているようだ。
美紅への稽古を終え近付くひりょと百舌鳥に、冴子は俯く。
「今の君にできる事はあるはずだ。ミグが教えてくれただろう?」
ひりょの言葉に、冴子が自分のスカートの裾を握り締める。
「理屈は分かります。でも、感情はどうにもなりません」
「……まぁ、ボクは好かないから今日は教える為に持ってきたのだけれど。なんなら、あげるよ」
冴子は百舌鳥からオートマチックを受け取った。
美紅が戻ってきて、魅入られるようにじっと手元のオートマチックを見つめる冴子の肩を、慰めるように叩く。
「遠距離が得意な相手でも不用意に飛び込むと……予想外の事が起こるかもしれない。常に自分の得意な間合いで戦うんだ。相手にペースを渡しちゃいけないよ」
まるで経験してきたことのように語られ不思議そうな顔をする美紅に、百舌鳥は苦笑した。
「何の事はないよ。高火力後衛の癖に近距離対応できて馬鹿に堅い、僕の攻撃程度では掠り傷すら……なんて理不尽を一例、知っているのさ」
「……そんな化け物がいるんですか」
美紅の表情が強張る。
オートマチックを握り締める冴子の指が白くなった。
「自分を全肯定なんて、どうせ誰にもできやしない。残念な事に、現実はいつも都合がいいものだとは限らないのだからねぇ。……それでも、選んだ選択肢は絶対手放さず、その中で自分にできる何かを探す。それがきっと、ヒトってものさ。きっと選ばなかった方は、選んだ子が補ってくれるよ。……こんな戯言でも、君たちの役に立つといいのだけれどね」
●強化人間たち
ミグは他にも強化人間兵たちの連日の健闘をたたえつつ、戦闘面のアドバイスを行った。
機導師として身につけた知識、技術を用いて装備のメンテなども請け負う。
それ以外で強化人間兵たちに接触したのは、アティ、エラ、零次、蓬の四人だった。
四人の目的は一致している。
強化人間兵たちが行っている、避難所を囲むバリケードの補修だ。
敵襲のたびにどこかが壊れるので、手が空いているうちに修理しなければならない。
「有難い! 正直僕たちだけでは手が回るか不安なんだ。避難民たちの様子も見て回らなければならないが、そっちも遅れ気味でね……。頼めるだろうか」
もちろん、お願いされてハンターたちに否やはない。
「任せてください!」
「やり遂げてみせましょう」
「力仕事あれば俺に言ってくれよな! いくらでもやってやるぜ!」
「私たちにできることなら、喜んで」
アティ、エラ、零次、蓬の全員が快く強化人間部隊隊長である少年兵の頼みを引き受けた。
避難民の対応の方も、この後になるが手伝うつもりだ。
同じこの世界の出身者の方の方が、嘆願に上手く対応できるだろうし、色々気付くこともあるだろう。
もちろん、アティは自分の耳に入るならできることをしてあげたいと思っている。
他にも避難所内の周辺清掃、発電機の整備など、強化人間兵が行わなければならない力仕事は多岐に渡る。
発電機整備など、有用であればエラが持つ機導師としての知識や技術が役に立つかもしれないし、軍用品ツールボックスや教会印のレンジャーキットなども使い時がありそうだ。
特に生命線である発電機の故障併発だけは防止しなければならない。
力が必要な場面では、零次の怪力が役に立つはずだ。
全員で協力し、避難所のバリケード補修を手伝う。
「皆さんは今までどのような戦闘を?」
蓬が強化人間兵の一人に尋ねた。
「とにかく避難所内に敵を入れないように、もし入れてしまっても、避難民たちがいる体育館と校舎に入らないよう、私たちで誘導するようにしています。……でも、その、正直一度の戦闘で出る怪我人が多過ぎて、厳しい状態です」
「中にまで入ってくるのですか?」
さすがに聞き逃せなかったのか、エラが話題に入ってきた。
「はい。できるだけ遠くにいるうちに撃ち殺すようにしているのですが、バリケードに取りつかれると、そちらの排除に手を割かなければならなくなって、その間に無理やり正門や裏門を突破してくる敵もいるので……」
「なるほど。となると、そもそもバリケードに近寄らせないことが重要そうだな」
ふむふむと零次は難しい表情で頷く。
どんな観点でバリケード構築をしているのか充分に強化人間兵から聞き出すと、アティ、エラ、零次、蓬で力を合わせ、補修作業を行う。
「この板、割れかけてますね。交換しておきましょう」
「コンクリートブロックに罅が入っています」
「鉄条網が千切れてるぞ」
「車が大破しています。近くの放置車両に交換しておきますね」
アティ、エラ、零次、蓬から矢継ぎ早にバリケードの状態が知らされる。
強化人間兵たちと連携し、補強は迅速に進んだ。
「困っていることや辛いこと、ないですか?」
「戦いに関してはそれが仕事なので仕方ないですけど、毎日避難民の方々の愚痴を聞かされるのは勘弁して欲しいですね」
不足だらけの現状、直ぐに解決できないことだらけではあるが、蓬と話した強化人間兵は、少し精神面で楽になったようだ。
●避難民たち
突然避難民同士で殴り合いが始まり流血騒ぎになった。
「どう見ても同量だろ!」
「いいや、お前の配給の方が一グラム多い! 寄越せ!」
「お、落ち着いてくださーい!」
慌ててアティが止めに入り治療を行うが、その順番でまた揉める始末。
エラが避難民へ不満の聞き込みを行っても、基本的には同じ避難民への妬み、やっかみがほとんどを占めている。
「……これは、思っていた以上に深刻ですね。差し入れをできなかったのが響きそうです」
感情的な訴えを親身に聞いたエラは、感情部分を整理し、理論だった内容へ編纂した。
ガソリンは自分たちや強化人間が合間を縫って周りの車から抜いてくれば何とかなる。
問題は主に二つで、まず第一に食料が足りない。食料ほどではないが、それ以外の物資も足りない。
物資は備蓄倉庫を漁ればまだ出てくる可能性があるものの、問題は食料だ。
行きがけに寄った近くのスーパーは廃墟だった。
「調達可能なら、私たちで出向いてもいいのですが……」
「あの……」
エラに声をかけたのは避難民の老夫婦だった。
そのスーパーのオーナーらしく、倉庫の鍵を託された。
確かに店舗自体は荒らされていたが、倉庫には鍵が掛かっていて建物も無事で、荒らされた形跡はなかった。
いくら無事でも窃盗はどうかと、その時は諦めたのだが。
「こんなご時世です。取りにいけない儂らでは持っていても意味がないものです。どうか、役立ててください」
「……責任を持って、私たちハンターと強化人間兵で回収させていただきます」
避難民の悪感情の原因は、状況が悪いのに一行に改善されない焦りが表層化しているためだ。
何を切欠に暴徒化するか分からず、老夫婦も言い出せなかったのだろう。
駄目元で自治体への連絡及び、自治体へ送付する文書を作成しておこうとエラは決めた。
「そんなのがあったってよう、強化人間がそのまま逃げ出さない保証はあるのかよ」
やり取りを見ていた避難民の男性にエラが絡まれる。
「やめねえか! ほら、不満があるなら聞いてやるから話してみろって。な?」
怪我させない様に注意しながら取り押さえた零次が、エラに絡んだ避難民を引きずっていく。
根気よく話を聞いてみれば、不満の根底には強化人間たちに対する偏見があった。
「不安なのはわかるけどよ。だからってこういうのはやめようぜ。お前にだって大切なもんはあんだろ? そいつに悲しませたり笑われたりしないように頑張ろうぜ。俺もそうしたいからよ」
エラと男性、零次の一部始終を見た蓬はため息をつく。
避難民の中には強化人間に偏見を持つ者もいる。
大人の意見を変えることは難しいかもしれないが、せめて自分と同年代の子どもに対しては、偏った見方をしないで欲しいと願う蓬だった。
「守るべきもののために、あらゆる困難を乗り越えて戦い続ける。……それが軍人だと教わりました」
今戦っている強化人間とハンターに、違うところなんてほんの少ししかないということを伝えようと、蓬は避難民たちの間を見て回ることにした。
●倉庫には大量の物資と食料が
エラが倉庫の鍵を開けて扉を開くと、中にはスーパーの商品在庫が満載されていた。
「これだけあれば、避難民たちの不満も和らぐでしょうね。あの老夫婦に感謝しなければ」
商品の中には当初差し入れしようと思っていたチョコ菓子やトランプなどもある。
「持ち帰られるだけ持ち出します。手伝っていただけますか?」
道案内を行ってくれた強化人間兵を含め、仲間たちにエラは振り返った。
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/10/10 07:51:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/07 08:29:45 |