あらしのよるに

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2018/10/18 09:00
完成日
2018/10/19 16:47

みんなの思い出

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オープニング

●ここまでのあらすじ

 とある依頼でリゼリオより遠く離れた町までやって来たハンターたち。無事に依頼を終え帰路についたところで突然の大雨に遭遇してしまう。やむなく街道沿いの宿屋に駆け込むものの、夜になっても嵐のような風雨は落ち着く気配はなく、このままこの宿に一泊する事を決意。宿屋の女将はこの大雨の中ハンターたちを追い出すことはしなかったものの、個室に空きはなく、広めの部屋に半ば雑魚寝になってしまうと申し訳なさそうに告げてくるのだった。

●というわけで

 そんな感じで予定外の宿泊をすることになった機導師のリッキィは、この夜何度目かになるか分からない寝返りをうった。
 無意識に動かしてしまってから身体の状態を意識する。幸い風呂にはありつけたとはいえ、依頼に加えて暫く冷たい雨にさらされた四肢は今もなお気だるい重たさを訴えていた。疲れている。はっきりその事を自覚して……しかし眠気は遠かった。
 身体が疲れすぎて頭が冴えているとか、未だ窓を叩き続ける風と雨の音だとか、あるいはやはり、普段とは共にしないものと寝室を一つにしているせいなどもあるのだろうが。
 それらの原因は思いあたったところで、解消法が思い浮かぶようなものではなかった。結局、眠気は訪れてくれないまま、とりとめもなく何かが浮かんではぼやけていく状態に身を任せるしかない。
 そう思っていたら、室内でもぞりと動く気配がした。そばに寄せ合っている布団の一つ。誰かの寝返りだろう──己がそうしたように。己が?
「もしかして」
 小さく。気を付けて小さく、かすれるような声でリッキィは呟く。
「起きているかい?」
 側の布団の山の動きが変わった。寝返りを感じた場所ではない。いや、言い直そう。だけではない。
 頭を寄せ会うようにして並べられた布団、同じく並んでいた頭が一斉にもぞもぞと持ち上がった。薄い明かりの中、互いにそのことを認めあって苦笑しあう。
「ふむ。そういうことなら」
 思い付いて、リッキィはまた口を開いた。
 眠れない夜。枕を寄せ会う、行きずりの相手同士。この状況……──

「恋バナでもしようか」

リプレイ本文

●B

 ……次に口を開く人が現れるまではしばらくの時間は必要だった。
 たまたま居合わせた者同士だ。こんな風になった時の空気の取り直し方、というのは若干に手探りしあいになる。
 ただ。もはやどうにも、眠りには落ちがたくなった、というのは決定的だった。
「コイバナ、なのですぅ……?」
 やがて初めに何かを決意したのか、声を発したのはエトナ・V・リインカネーション(ka7307)だった。
「このまま、眠れぬ夜をぼう、とするのも辛いですし、私たちは楽しくお話ししますう? お付き合いするのですよ」
 ポツリと提案する。この場に居る者は、暫し顔を見合せて……。
「そう、だね。やっぱりそうするのがいいのかもしれない」
 鞍馬 真(ka5819)が、意識しながら柔らかく笑み、暖かさを感じさせるような吐息を吐きながら答えた。
「……。そうですね。私たちは。そうすべき……なのかもです」
 メアリ・ロイド(ka6633)もそうして、何かを決断するようにポツリと言った。
 一行はそうして、しばらく視線を交わし合う。
「……そう言えば、なにか喋りたそうでした?」
 やがて、クスクスと笑いながらエトナが指名したのは真だった。
「あ、いや、ええと……」
 若干気恥ずかしそうに真は笑う。先ほど、「恋バナ……」と、目を輝かせ気味に食いついてきたのを受けての事だろう。
 男性であるということを遠慮して隅の方で寝ていた彼だが、今は若干身を寄せている。
「じゃあ……恋バナ……とは違うかもしれないけど、最近人の恋愛を見守る立場になることが多くてね」
 そうして真は、促されるままポツリポツリと話し始めた。
「例えば……不器用な女の子が、歳上の鈍感な……フリかもしれないけど……男に片想いをしている話とか」
「歳上の……鈍感な男……」
 メアリに、ぴくりと反応する気配が生まれた。
 元より、こうした話が出たとき、自分以外の、恋する人間の思考や行動はどういった風になっているのかと興味を引いていた彼女である。
 自分自身恋愛の波に身を置く者として、情報は収集したかったし丁度いい。
 隅に居た真が寄ってくることは、気にならない。そもそも男女混合部屋なのも気にしていなかった。依頼で泊まり込みなどを行うこともある。
「まあそんな組み合わせだから全然進展しないんだ」
「進展しない……そうですか」
 だからメアリは続く真の言葉に、落胆と共感を覚えた。やはりそういうものでもあるのか、と。それは、年齢差に由来するものだろうか、それとも……。
「鈍感な……『振りかもしれない』?」
 エトナが、そこに少し興味を持ったのか聞き返してくる。
「何か、彼が彼女を避けてる風でもありますのぅ?」
 言われて、真はしばし考える。
「……いや、もしかしたら彼女をじゃなくて、恋愛そのものを避けようとしてるの……かな? とか。まあ、どうしても憶測混じりというか」
 そう考えたのは、彼の友人から話を聞いたことがあるせいだろうか。現在彼に恋人が居るのか、という問いに、彼の友人は居ないだろう、と答えた──ただし、他に何か含むようなことを残して。
「だから、彼の態度に何かあるって訳じゃないんだ。ただ……」
 ただ。彼が本気で何かを誤魔化そう、と言うなら。それを見抜くのは中々難しいんじゃないだろうか……とも思う。何せ、ある意味そうしたことのプロだ。
「……傍目に、上手くいってないんですか。その二人」
 探るようにメアリに問われて、真は目をぱちくりとした。
「え? いや。そういう風に感じるわけでもないな。やっぱり見ていると、甘酸っぱいというか、わくわくするというか、そういうのはあるね」
「あらあらぁ。青春まっしぐら、ですかぁ?」
 エトナがまた、可愛らしく笑い声を立てながら茶々を入れた。真はそれに、にっこりと頷く。
「私はただ側で見守っているだけで……もどかしいけど、二人とも大切な友人だから、恋が成就するしないに関わらず、……幸せになって欲しいな、って思うんだ」
 そうやって。真は知らず、自然に口元に笑みが浮かぶようになったのを感じた。
「他にも見守っている恋はあるんだけど、何だか私まで恋愛のトキメキを分けてもらっている気になるよ」
 これをきっかけに皆が話しやすくなれば、と思って話し始めた部分もあるが。
 話していくうちにどんどんと自分が満たされていくような感覚を自覚した。
 ……記憶が無い彼に、こういう修学旅行的なトークは憧れだったのかもしれない。

 ……だから。
「それで?」
 もう少し、この空気に浸りたい。そう願ってしまった彼は、メアリへと微笑みかける。
「きみは? 恋をしてるのかな」
 そう水を向けられて、彼女はしばし固まっていた。傍目に無愛想という自覚のある自分に、そんな話が振られるとは予想だにしていなかったのだ。
 そうしたまましばらく考えて……自分が、こうも情報収集、という目的でしっかり聞いていた以上、こちらが何も言わないのも、か、と思い、少しだけ話すことにする。
「……片想いです。相手は6つくらい歳上の人で……だから子供扱いされている気がしますが」
 淡々とした声音でそんなことを語るのが逆に興味深くて、真は聞き入る体勢に入る。
 エトナは……反応は良く分からない。ただずっと、綺麗な笑みを会話する相手へと向けている。
「私からすればその人は、過去に心を囚われていて、現在を見ていない感じで……今の自分は抜け殻だというその人ですが、私はそうで無いと思っていますので。感情をぶつけすぎない程度に、今の貴方にも価値が充分にあるし、抜け殻ではない事を伝えていきたい、と」
 とりとめもなく。
 ポツリポツリと、促されるようにメアリがそこまで語るのを、真はいつしか思ったより真剣に聞いていた。
「過去に心を囚われて……か」
 真が呟いた時、エトナが布団の中で微かに身動ぎする気配がした。ふとそちらに視線をやれば、やはり彼女は、凪を感じさせるような静かな笑みを浮かべるだけだったが。
「……全然伝わってない状態ですけど、何事もポジティブに頑張ります」
 メアリが、それはもう決まっていることかのように変わらぬ口調で言うと、真は背中を押すように優しく頷いた。
「心を囚われてしまうもの……というのはやはり、あると思う。そこからは中々抜け出せない事もね。だから、私には良く分からない訳だし、きみの言う彼の反応を責めることはできない、むしろそれも分かるん、だけど」
 ゆっくりと慎重に、言葉を選んで真は言う。
「それでも、誰かが手を差し伸べてくれたから抜け出せる場所、というのも間違いなくあると思う。だから……私はきみのことを、きみの想いと行動を、応援したいと思うよ」
 そう言うと、メアリは真をしばらくまじまじと見つめていた。
「あっいや本当、良く分からないのに色々言ってごめんね!? 気にしないで。ただ……どうしても言いたくなったっていうか……」
 真があわててわたわたと手を振ると、メアリは僅かに微笑んだ。
「いえ……ありがとうございます。私としては、空回ってるだけだと思っていたので……そのように言われると、正直その……」
 なんと言えばいいのか。うまくまとまらずに、メアリはしばらく口元に手を当てて考えていた。
(片思い方面も友情方面も、人との関わりは難しい……)
 ふと思い浮かぶのは、リアルブルーの一連の事件で関わることになった軍人の彼だった。
「そうですねぇ」
 生まれた沈黙を掬い上げたのはエトナだった。
「上手くいくと良いですねぇ。私も願ってますよぉ?」
 彼女はただ、微笑んでそれだけを言った。

 彼女の。エトナの笑顔には、綺麗さだけではない何かを感じずにいられなかった。だが、それが何なのか、はっきりと言葉にはできない。
 視線を受けてエトナは、あれ? と可愛らしく小首をかしげてみせた。
「もしかして、私も話さないといけない流れですかぁ?」
 悪戯っぽく笑う。真とメアリはそれに、曖昧に頷く──頷かされた心地で。
「私のお話は大分詰まらないと思うのですよぅ?」
 仕方ないですねえ、という風に肩を竦めて。
 そも、こんな子供のコイバナなんて、信じて頂けるか分かりませんけど。話半分に聞いて頂ければ。そんな風に前置いて、彼女は語り始める。
「ふふ……格好良いお兄様も素敵なおじ様も、色々な方がおりましたけれど……。ちょっと多くて全員は覚えていないのですよねぇ」
 様々な話を語って聞かせながら、癖のように彼女は耳に触れていた。
 よくよく見ると、語る相手が変わる度に触れる位置が変わっているようにも見えた。
「ピアスの数だけ、好きな人がいたと思って頂ければ」
 メアリの視線に指摘を受けたように、彼女は格好つけて見せるようにそう言った。
 そうしてエトナは、また一つの話に区切りをつけて、思い出すようにんー、と顎に人差し指を当てて軽く上を向く。
「まだ……あんのか?」
「指折り数えたくらいでは、きっと足りませんのでぇ」
 そうして、少し素の口調を出して聞いたメアリに、エトナはそう答えてみせる。
 こんな子供。
 彼女は言った。
 確かに彼女の年齢を見た目そのまま信じるのであれば、それだけの遍歴があるのは与太話めいていた。
 だが彼女の話は、嘘と言い切るには引っかかりを覚えるほどのものではあった。
「でも、ちゃんと皆様のことが好きでしたとも。ええ、とぉっても好きだったのですよぉ……」
 鮮やかなほどに。
 綺麗な笑顔で。
 透明感のある声で。
 彼女はそれらの話を、そう、締めくくる。
 ……それは、真の胸に響くものがあった。共振すると言っていいかもしれない──これは、空洞に響く音だ。
 彼自身も空虚を抱える、だから気付いてしまう。そしてそれは、『忘れた』彼の空虚とは全く性質の異なるものだろうという事も、感じる。
 ──こんな子供のコイバナなんて、信じて頂けるか分かりませんけど。
 そう前置いたのは果たしてどういうつもりだったのだろう。
 彼女の話が全て嘘だというのならば、こんな嘘が作り出せるというのはなんという子供だろう、と思う。
 彼女の話が全て本当だというのならば──今語られた、注がれた全て。その全てが彼女にとって、無だとでもいうのか。
 その感覚は、メアリにははっきりは分からない。
 だから何故だろうと思いながら……ふと聞いてみたくなった。
(──……『自分が抜け殻』って、貴女からはどんな感覚の事だと思う?)
 彼女を見ていてそう思って……思いとどまる。エトナとメアリはまだそれほど深い知己があるわけでは無い。今夜は特に、そのことを意識している。
 真も、それは弁える。特に今は、この場の空気を更に危ういものにしたくは無かった。
「恋バナというと、これくらいですかねえ……」
 エトナは変わらぬ様子で──見ただけなら年相応の少女の振る舞い──また可愛らしく小首を曲げて見せて、順に視線を巡らせる。
 彼女が口を閉じたのはそのまま沈黙の訪れだった。認識して、互いに顔を見合わせる。
「それなら、好きなものの話をするのはどうでしょう?」
 話題が詰まりそうな空気に、エトナは提案した。好きなものの話をして、詰まらない方はそういないだろう、と。
「……ああ、そうだね。それは良いね」
 真は今度は、なるべく早くに反応した。そうすべきだと、今度ははっきりと自覚的に。
「ちなみに私の好きなことは、新しいピアスやマニキュアを探すことなのですよぉ」
 エトナは軽く触りのようにそう言って視線を送る。
「私は……そうだな。最近は箒とか飛龍で飛ぶ機会が増えたけど、空を飛ぶのは気持ちいいから好きだなあ。重力とか色々なものから解放されて…何というか、自由だなって感じるんだ」
 真が視線を受けて続ける。
「好きなもの……食べ物なら栗、ですかね。モンブランなどの栗系のケーキでしょうか。あとは、他人が作ったものが好き、です」
 誰かが作った物は心がこもっていてあったかい味がするから、とメアリが言うと、ああ、分かると頷いて。会話が進んでいく。
 そうやって言葉を繋げながら布団の温かさに包まれていると、やがて彼らの間にゆっくりと眠りの帳が降りてきて。

 エトナが、メアリがと順に眠りに落ちるのを確認してから、真はそっと布団から出た。
 部屋を出る。
 雨で身体が冷えているだろうし、と、毛布を手に──二枚。
 静かになると、風雨は大分収まりつつあるということを意識した。

 ……果たして、優しい朝を、迎えられるだろうか。

















●A

「恋バナ……!」
 リッキィの言葉に、部屋の隅から目を輝かせて真が布団から身体を上げる。
 次の瞬間。
「……この流れでなんで怪談じゃないんですぅ!? リア獣ブッコロハンターに対する挑戦ですぅ!? 死ねやゴラァ!」
 激しい声と共に、リッキィが居た場所から衝撃音がする。
「か……は?」
 星野 ハナ(ka5852)が昏倒させるつもりでぶつけた枕をずり落としながら、リッキィは苦痛の呻きを上げた。
「……オ、オホホ、ちょっと目が覚めたのでお手洗いに行ってきますぅ。みなさんは甘々トークどうぞですぅ」
 ハナは冷や汗交じりにそう言って立ち上がって、部屋から出ようとする。
 そして。
「……待ちたまえよ」
 それを、未だ疼く頭を振り立ち上がりながら、リッキィが呼び止めた。
「私はどうして、今日初対面の君から急にこんな仕打ちを受けなければいけないんだ?」
 声は。怒りも何も感じなかった。むしろ全く興味がないものに向けるかのような色彩のないものだった。
「まさか枕でなければ殴り倒されると思うほどの一撃が冗談で済むと思っているのか。いわれのない暴力を受けるという事を笑える話だとしたくはないよ私は」
 ハナはその言葉と態度に流石に青褪めて、口を開いて──、
「君は君の不満に対し私と何の対話も挟まずに襲い掛かって来た。だから私も君とは何も話せる気はしないよ──謝罪もだ。暴力や暴言を投げつけられるというのは強いショックを受けるんだよ。後で謝られたりしおらしい態度を見せられても、もうその事は消えてなくなりはしない」
 そう言ってリッキィは話を遮った。視線を部屋の扉へと向けると、ハナは逃げるように出ていった。追いはしない。今日はこれで、彼女と話すことは無いと。……彼女とは。
 未だ布団の中の残りの人たちを見る。
「……君たちがこんな空気に巻き込まれることは無いよね。今の私に非の打ち所がないとは言わないよ。私も出ていくべきだな……ただ。勝手を承知で、どうか君たちには、なんとも思わないで欲しい。何事も無かったことにして、この後穏やかな時間を過ごしてほしい。その方が私は……明日の朝は、優しく迎えられるよと、表明は、させてくれ」
 そう言って、リッキィも部屋を出ていった。
 部屋に訪れる沈黙。
 ……次に口を開く人が現れるまではしばらくの時間は必要だった。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧


  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 天使にはなれなくて
    メアリ・ロイド(ka6633
    人間(蒼)|24才|女性|機導師
  • 炎を阻み制す者
    エトナ・V・リインカネーション(ka7307
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/15 17:51:43
アイコン 普通怪談の流れじゃあるまいか
星野 ハナ(ka5852
人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2018/10/16 02:37:40