ゲスト
(ka0000)
【虚動】陽動の79
マスター:cr

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/02 19:00
- 完成日
- 2015/01/10 19:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
荒野に降り立つ歪虚の群れ。
それは最近、CAM実験場に暴悪な牙を剥いた雑魔とは違い、明確な意思を持って動く虚無の使者。人類と相対する宿敵であった。
その先頭に、派手な服を着飾った嫉妬の歪虚、クラーレ・クラーラが立っている。彼は四本の腕を器用に使い、眼前に佇むCAMをハンドル付き双眼鏡で見やった。
「へぇ、結構たくさん用意したんだね。思ったより人も多いし、とても盛り上がりそうだ」
とはいえ、これもすべて彼が仕組んだことだ。ここまではすべて計画通り。
しかも今回、人類から『災厄の十三魔』と呼ばれる歪虚たちの協力を得ている。自分が考えた楽しいゲームを始める前に計画が頓挫するなんて、考えたくもない。いや、そんなことは絶対に起こり得ない。
「じゃあ、みんなよろしくね。ボクは、ゲームの駒を貰いに行く」
クラーレは手下を率い、CAM実験場の中央へと足を向けた。それに呼応するかのように、他の歪虚たちも持ち場へと散っていく。
彼らの狙いは、もはや明白であった。
●
実験場の端の方、シートが掛けられた巨大な人形の周りに多くの人々が集まっている。打ち合わせを行う人、食事を楽しむ人、実験に向けてセッティングを行う人、多種多様な目的の人が居る。軍人、商人、エルフ、ドワーフ、そしてハンター達。立場も種族も様々な人が揃っている。
いざ実験が始まったら、緊張感を持って事態に当たらなければならない。だが、今はまだ違う。和やかな雰囲気の中、あちらこちらで交流が行われていた。
「おい、危ねぇぞ!」
そんな時だった。一人の人間が、巨大な人形の上に人影を見たのは。
人形の上に立つのは少女。フリフリした服に身を包み、にこやかな笑顔を湛え下にいる人々に手を振っている。ピンク色の髪と瞳に白い肌、その姿は実に愛らしい。だが、この場所には明らかに場違いだ。やがて、人々は少女の姿に次々と気付き、ざわざわとざわめきが広がっていく。
そんな時、少女は表情を変えず指をピシッと人々に向けて突き出し、こう言った。
「今日は、ナナのために集まってくれてありがとーっ☆」
語尾に星が付きそうな可愛らしい口調で放たれたのは場違いに場違いを塗り重ねる台詞。こんな時一体どういった反応を返せばいいものやら。人々はあっけに取られる。
だが、その次にナナと名乗った少女が放った台詞は、この場の状況を一瞬で変えた。
「今日は、特別にみんなを――殺しちゃうぞ☆」
●
人々は悲鳴を上げる間も無かった。
ナナはその身を空中に躍らせる。音もなく着地した少女が目の前に立つ男に手を突き出した次の刹那、男の背中からその細い腕が飛び出す。その手は血で真っ赤に濡れていた。
逃げ惑う人々。その間を縫うようにナナが駆け、彼女を追う様に血煙が上がる。
地獄絵図と化した実験場。だが、突如としてナナはその動きを止めた。
「あ~! 覚醒者がいる~! 簡単に死なないから楽しくないんだよねー☆」
そしてナナが指を弾くと、その周りにナナを縮小コピーしたような人形が現れた。ナナはハンター達にこう呼びかける。
「ねえ、みんなはこの子達と遊んでてね☆」
だが、その言葉を聞くわけには行かない。君たちハンターはナナの呼び出した人形を倒し、人々を救い出さなければならない。
荒野に降り立つ歪虚の群れ。
それは最近、CAM実験場に暴悪な牙を剥いた雑魔とは違い、明確な意思を持って動く虚無の使者。人類と相対する宿敵であった。
その先頭に、派手な服を着飾った嫉妬の歪虚、クラーレ・クラーラが立っている。彼は四本の腕を器用に使い、眼前に佇むCAMをハンドル付き双眼鏡で見やった。
「へぇ、結構たくさん用意したんだね。思ったより人も多いし、とても盛り上がりそうだ」
とはいえ、これもすべて彼が仕組んだことだ。ここまではすべて計画通り。
しかも今回、人類から『災厄の十三魔』と呼ばれる歪虚たちの協力を得ている。自分が考えた楽しいゲームを始める前に計画が頓挫するなんて、考えたくもない。いや、そんなことは絶対に起こり得ない。
「じゃあ、みんなよろしくね。ボクは、ゲームの駒を貰いに行く」
クラーレは手下を率い、CAM実験場の中央へと足を向けた。それに呼応するかのように、他の歪虚たちも持ち場へと散っていく。
彼らの狙いは、もはや明白であった。
●
実験場の端の方、シートが掛けられた巨大な人形の周りに多くの人々が集まっている。打ち合わせを行う人、食事を楽しむ人、実験に向けてセッティングを行う人、多種多様な目的の人が居る。軍人、商人、エルフ、ドワーフ、そしてハンター達。立場も種族も様々な人が揃っている。
いざ実験が始まったら、緊張感を持って事態に当たらなければならない。だが、今はまだ違う。和やかな雰囲気の中、あちらこちらで交流が行われていた。
「おい、危ねぇぞ!」
そんな時だった。一人の人間が、巨大な人形の上に人影を見たのは。
人形の上に立つのは少女。フリフリした服に身を包み、にこやかな笑顔を湛え下にいる人々に手を振っている。ピンク色の髪と瞳に白い肌、その姿は実に愛らしい。だが、この場所には明らかに場違いだ。やがて、人々は少女の姿に次々と気付き、ざわざわとざわめきが広がっていく。
そんな時、少女は表情を変えず指をピシッと人々に向けて突き出し、こう言った。
「今日は、ナナのために集まってくれてありがとーっ☆」
語尾に星が付きそうな可愛らしい口調で放たれたのは場違いに場違いを塗り重ねる台詞。こんな時一体どういった反応を返せばいいものやら。人々はあっけに取られる。
だが、その次にナナと名乗った少女が放った台詞は、この場の状況を一瞬で変えた。
「今日は、特別にみんなを――殺しちゃうぞ☆」
●
人々は悲鳴を上げる間も無かった。
ナナはその身を空中に躍らせる。音もなく着地した少女が目の前に立つ男に手を突き出した次の刹那、男の背中からその細い腕が飛び出す。その手は血で真っ赤に濡れていた。
逃げ惑う人々。その間を縫うようにナナが駆け、彼女を追う様に血煙が上がる。
地獄絵図と化した実験場。だが、突如としてナナはその動きを止めた。
「あ~! 覚醒者がいる~! 簡単に死なないから楽しくないんだよねー☆」
そしてナナが指を弾くと、その周りにナナを縮小コピーしたような人形が現れた。ナナはハンター達にこう呼びかける。
「ねえ、みんなはこの子達と遊んでてね☆」
だが、その言葉を聞くわけには行かない。君たちハンターはナナの呼び出した人形を倒し、人々を救い出さなければならない。
リプレイ本文
●
「何か可愛い娘が現れたぞ?!」
ナナがCAMの上に出現し人々が戸惑っていた頃、ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は一人色めきだっていた。女好き故にハンターとなったロジャーの場合、この状況ですることはただ一つ……ナンパである。
そこへスルスルと近づき声を掛けようとした時、ナナが飛び降りて惨劇が始まったのだ。
●
「ったく、クソ歪虚程度にギャーギャー騒ぎやがって。やっぱ俺様みてぇな貴族が平民共を引っ張って……」
人々がパニックを起こし逃げ回る中、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は愚痴りながら状況の把握に努めていた。グリーヴ家は貴族である。成り上がり、という但し書きが付くが。それ故、貴族としての強烈な自負があった。このような状況で人々を引っ張ること、それが貴族の務め。
だが、この状況を巻き起こしている歪虚を見て、ジャックの顔色は変わる。
「……クソ歪虚が女、だと……」
惨劇が巻き起こる舞台のセンターで踊るのはナナ。見た目だけならかわいらしい少女だが、そこにあるものはまるでアリを踏み潰すかのごとく、人間を殺して回っている鮮烈な姿。赤くなっている場合ではない。
「クソッタレ! 平民共はビビってねぇで俺様について来いや!」
人々を先導するジャック。目指すはこの戦闘が起きているエリアからの脱出。彼の声に人々は縋り付くように反応し、必死の移動を開始する。
「貴方達は私たちが守ります、慌てず指示する方に向かってください!」
その頃、アイビス・グラス(ka2477)はジャックと同じように一般人の誘導に努めていた。
(一人でも多く人々を逃がさないと。誰かが守れないんじゃ意味がないもの)
焦りを抑え、一人でも多く非難させようと必死に声を上げるアイビス。心の隅にはナナに立ち向かいたい思いもあった。だが、自分が覚醒者としてまだまだ未熟なことも、悪名高い災厄の十三魔が歯が立たない相手であることもわかっている。
(私じゃ足手まといになりかねないから……)
勇敢と無謀は違う。迷いを打ち払い、ハンターとして自分にできることを行う。ここにいる人の命を守れればそれでいい。自分が体を張るのは最後の最後だ。覚悟を決め、アイビスは人々を避難させていた。
淡く輝く銀髪が風になびく。そんな中、凛とした声が辺りに響く。
「慌てずに急ぎなさい! 必ず護るわ」
別の場所では、フェリア(ka2870)が人々の誘導を行っていた。人々は列を為して移動し、しんがりにはフェリア。
敵を近付かせないため目を光らせつつ進んでいく。やがて、アイビスの誘導する列と出くわす。
目と目で通じ合い、二つの列は合流する。
「悪いけど、お人形遊びって年齢でもないの」
アイビスに誘導を任せたフェリアは人形達に向かい合う。後は障害を排除するのみ。
その頃、ロジャーは少しでも注意を惹きつけようとあの手この手で声をかけるが、ナナはまるで意に介さない。
とうとうロジャーは実力行使に出た。銃を抜き、威嚇射撃。それで効かなければ手足を狙って発射。だが、銃声にすら興味を示さず、ナナはただ自分のやりたいことをしようとしていた。
一方別の場所では、同じようにパニックを起こしている人々が居た。
そこに突っ込んでいくナナ。だが、その前に立ちはだかる者が居た。脚にマテリアルを込め、一気に加速して飛び込む。
「……そう易々と事が成せると思うな」
二刀の小太刀を構えた男の名は、蘇芳 和馬(ka0462)。彼はすぐさま背後の人々に声をかける。
「……此処から離れろ、出来るだけ早く遠くへ」
蘇芳の背後では、人々が我先にと逃げ出す。だが、ナナは彼を無視して、逃げ出す人々の元へ追いかけ始めた。
「離れるぐらいの時間は稼いでみせよう」
ならばと、蘇芳は体にマテリアルを巡らせる。そこから繰り出される二刀。鋭い剣速。変幻自在にして華麗な太刀筋。
「援護は任せてくださるかしら?」
「ほいじゃ、有り難く突っ込ませてもらうわ」
さらに、そこに飛び込んで来た者達が居た。まるで狼のように一直線に地を駆け、逃げ出す人々とナナの間に割り込んだのはシャガ=VII(ka2292)。そしてその後ろから走りこんできているのはクレア=I(ka3020)。クレアが二丁の拳銃で牽制し、シャガが一気に飛び込む。シャガは黄金に輝く巨大なウォーハンマーを思い切りナナに叩きつける。鋭い二撃と重い一撃が交わる。どれも必殺の一撃となりうる攻撃。それが三つ重なってナナを襲う。
しかし……ナナはただ走るだけで、苦も無くかわして見せる。それらを攻撃と認識していたかも怪しい。ただ、ナナには一切の傷がついていない、という事実だけがそこにあった。
「ねえ、みんなはあの子たちと遊んでて、って言ったでしょ☆」
ナナは三人の方を向き、あざといぐらいかわいらしく話しかける。顔は先ほどと変わらない、アイドルの微笑み。だが、ナナの顔は既に返り血で赤い化粧が施されていた。そんな中でも人形のように動かないその笑顔は、かわいいという気持ちより先に嫌悪感をもたらす。
「とても可愛らしいアイドルさんね。でも、愛想を振りまく相手が違うわよ?」
「俺等が気に食ねェンなら全力で遊びな。楽しませてやンぜ?」
シャガとクレアの二人は軽口を叩き、ナナを挑発する。顔は余裕の表情。だが、頭の中では猛スピードで計算が始まっている。この状況なら一秒でも長く、時間を稼げればいい。それならば……計算の結果が導き出した二人の行動。
一方、蘇芳は怒りに震えていた。武人である蘇芳はより強い相手を求めている。ならば災厄の十三魔が一人、ナナ・ナインは相手にとって不足はない。だが、ナナはハンター達をただ「簡単に死なないから」という理由だけで無視し、一般人を狙っている。子供が嫌いなニンジンを皿の端によけるような、その行動理念は理解できるようなものでは無い。
「……貴様を斬る」
彼は静かに宣戦布告した。
●
一方、ナナが「あの子たち」と呼んだ人形たちは、ハンターを妨害すべく動き始めていた。人々の身長の半分にも満たない小さなナナ達は群れを成して襲い来る。顔は判で押したように同じ顔。変わらぬ笑顔のままだ。
「チッ、こんな下らねー足止めなんかでよォ!」
それを防ぐべく前に立ったのは、岩井崎 旭(ka0234)。彼は焦っていた。民間人の防衛に行きたいが、人形たちのせいでとても向かそうな状況ではない。ならば、少しでも早くこの人形たちを潰すしかない。人形たちに妨害を受けていないハンター達が人々を守ってくれていることを信じつつ、岩井崎は人形たちに向き合う。
「可愛らしい服に愛らしい容姿、それに人形なんてファンシーな敵ね」
その隣で並び立つのは、ナル(ka3448)。小柄な少女がミミズクの姿へと変わった岩井崎の隣に立ち、二丁の拳銃を構え銃口を人形達に向ける。
「ま、やってる事は随分と面白くないし、さっさと退場願いましょ」
「そしたら思う存分ナナをぶん殴らせてもらうぜッ!」
二人は人形たちを潰し、人々を救うため一つの壁となって立ち向かう。
「ねぇねぇ、あのお人形さん……壊しちゃっても、いいんだよね?」
そしてその壁の後ろから風が人形を切り刻むために飛んでいく。風を紡いだのは、夢路 まよい(ka1328)だ。
「同じ顔たくさんとか気持ち悪い芸だねぇ」
さらにその後ろから銃弾が発射される。ただの銃弾では無い、発射の瞬間マテリアルを込めた銃弾だ。この銃弾を発射したのはフィドルフ(ka2525)。
二人の思いは一つ。前に立つ岩井崎やナルと同じ、一刻でも早く人形を壊し、人々を救うこと。
風は群れの先頭にいる人形にまとわりつき、そこにマテリアル入り銃弾が到着する。
その攻撃は人形を破壊するかに見えた……が、人形は一瞬スピードを増し、前に進み出ていた。
その小さな体と、想像を超える急加速がわずかに二人の想定を上回ってしまう。しかし、決して二人の攻撃は無駄ではなかった。先頭の人形が回避するために加速して前に進み出れば、自然と一体だけ孤立することになる。
ならば――岩井崎はカウンターになる形で、人形の膝へ向けてレイピアを突き下ろす。ブスリ、と刺さる刃。それでも奇妙に体を曲げ、変わらぬスピードで接近し貫手を突き出す人形。人形だから当然だが、表情は最初に見た時から変わらず笑顔のまま。
関節が壊れたことにより奇妙な軌道となった貫手が岩井崎の体を傷つける。だが、彼はひるまず懐にある人形の頭を逆の手で掴むとそのまま腕を振り回した。
岩井崎は掴んだ手で地面を殴りつける。人形の頭は大きく振り回され、地面と手でサンドイッチ。そしてそのまま砕け散った。
「ダッラアッ! 次はどいつだッ!」
岩井崎は吠える。敵の進軍はまだまだ続く。
●
小さな人形たちとハンター達が交戦を開始した頃、一回り大きな人形達――ナナ本人よりは小さいので中型人形とでも呼ぶべきか――も動き始めていた。これら人形たちの行動パターンはただひとつ、ナナにとって邪魔なハンター達を排除し、ナナが“遊ぶ”お膳立てをすること。
人形はナナとは逆に一般人を無視し、一直線にハンター達を目指す。そのままナナから人々を守っているハンター達に人形がぶつかれば、その先に待っているのは大量虐殺。そしてハンター達なら分かる。中型人形は、小さな人形よりずっと強い。恐らく一対一でぶつかり合えば、敗北しか無いだろう。ならば――
「ワシと同程度の身長のがやり易いで、あやつに向かうぞや?」
星輝 Amhran(ka0724)はその人形に向かう。前を走るキララ。その後ろには彼女の妹、Uisca Amhran(ka0754)。そしてイスカの恋人、瀬織 怜皇(ka0684)。三人が作る三角はその向きを人形に向けて走る。ただ向かうだけではない。
「早く逃げてください!」
イスカは一般人に避難を呼びかけつつ、精霊に祈りを捧げる。すると光がキララを包み込む。この光は攻撃からキララを守るためのヴェールだ。
一方、瀬織が身につけた魔導計算機のキーを打ち込むと、マテリアルがキララに流れ込んでいく。するとキララの動きがギアアップした。前で人形とぶつかり合うキララをサポートし、陣形を崩さない三人の連携。
そのまま人形を射程範囲に収めた三人は攻撃を開始する。まずイスカが遠距離からホーリーライトを放つ。放たれた光弾にどう対応するかを見て次の一手を考える。遠距離攻撃で応戦してきたらキララがその遠距離攻撃を潰し、対応できなければそのまま終わらせる。
だが、人形は別の選択肢を選んだ。すなわち、光弾を交わしながら接近戦。ぶつかり合った人形はキララの心臓を抜き出そうと貫手を突く。かわそうとするキララ。だが、一瞬の内に軌道が変わり、人形の手は刃となってキララを斬りつける。
この変化にキララはもう反応できない。だが、瀬織が対処する。素早くキーを叩くとキララの前に光の壁が出来上がる。その壁は人形により、すぐに粉々に砕かれてしまうがそれでもキララの傷を抑えることが出来た。
「姉さま!」
すかさず妹がヒールで姉の傷を塞ぎ、姉は刀でもって人形の膝を斬り捨てる。脚一つをへし折られ、あらぬ方向に曲がる人形。だが、ポーズを変えて敵は動き続ける。
「誰1人欠けさせませんわ……!」
そんな中、馬で戦場を駆ける者がいた。エルウィング・ヴァリエ(ka0814)である。エルウィングは戦場を縦横無尽に動きながら、負傷者を治癒していく。キララが中型人形に傷を受けたのを見て、すかさず近づきヒール。感謝の言葉を背中に受けながら、次の場所へ移動する。
さらにエルウィングは、馬上で通信を行う。連絡を取りながら、彼女は思考を巡らせる。なぜナナはCAMを無視して殺戮を繰り広げているのか。なぜ、ナナがピンポイントでCAM実験場であるここに出現したのか。
――陽動。それが彼女の結論だった。ナナが時間を稼ぎ、背後に控える歪虚が目的を達成するのが敵の狙いだ。だが……だからといってこの状況を放り出すなんてことはとても出来ない。絶対に無視できない災厄の十三魔による陽動。奥歯を噛み締めながら、一秒でも早くこの状況を打開するため彼女は走った。
「これ以上、被害を出さないためにも……ここは守らせてもらうよ」
別の中型人形には、シェラリンデ(ka3332)が対峙していた。味方と連携して戦いに挑むつもりだったが、現在は一人。ならば味方と合流できるまで粘る必要がある。彼女は体にマテリアルを巡らせ、懐に飛び込んで斬りつける。手ごたえは無い。かわされたのであろう。だが確認もせずそのまま防御の態勢に入り、襲い来る反撃をマテリアルの力で身体を翻してかわす。
そして彼女は次の一撃を放った。二人の戦いはぶつかり合う音も無く、静かに進んでいた。
一方、もう一体の中型人形には二人の部下、カムイ=アルカナ(ka3676)とキョウカ=アルカナ(ka3797)を従えたクリスティーナ=VI(ka2328)が立ち向かう。
クリスティーナはカムイと共に挟み込むように人形と対峙。一歩後ろにキョウカが立つ。
「では……参りましょうか。どうぞ、ご武運を」
彼女の声と共に、クリスティーナはまず軽くレイピアで一撃。手の内がわからない以上、どのような攻撃が来てもおかしくない。ならばがら空きの隙に必殺の一撃を食らってしまうような最悪の事態は防がなければいけない。そして繰り出された、防御を主に置いた攻撃。それに愛すべき部下たちがいる。
「申し訳ありません、主。確実な一手を打つための布石を」
精霊に祈りを捧げていたカムイが、主に続いて薙刀を横に薙ぐ。この一撃が見事に人形の胴を捉えた。砕ける胴部。だが人形は自らの傷を何とも思わず、変わらぬ表情で襲い来る。
右手を刃として、手刀がクリスティーナ目がけ振り下ろされる。彼はこれを避ける。
「フェイントです!」
だが、その時後ろでキョウカが叫んだ。振り下ろされる軌道は止まり、代わりに下から突き上げるような手刀が襲う。
そしてキョウカの声に反応したものが居た。カムイが主の前に自らの体をねじ込む。ザクリと刺さる人形の手。下には赤い血だまりができる。
朦朧とする意識の中、カムイの前にトランシーバーが差し出される。
「……姉さんがいなければ俺なんて半人前にもならないな……すまない、助かった」
姉の手に意識を取り戻し、カムイは後ろに下がる。
「後悔、させて差し上げますわ」
代わりに前に出たキョウカ。大切な弟を傷つけられ、怒りに燃えるキョウカの姿はいつの間にか捕食者たる野獣の雰囲気を纏っていた。
●
その頃、小型人形とハンター達が交戦している場所では別の動きがあった。
「えー、こいつら片付けないといけないの? ……野郎、こんなものに頼らず直接殴りに来やがれ!」
エリス・ブーリャ(ka3419)はトランシーバーで連絡を取りながら、後方から魔導銃で人形達の相手をしていた。イライラからか怒りからか、口調が変わるエリス。そんな中、瞳に映る赤い姿の人形。
「何だかポイント高そー!」
エリスは優先的に赤い人形を狙撃する。そして、エリスが狙撃した人形に反応していたものが他にもいた。
「弱っちそうで不自然だよね」
ユノ(ka0806)は、赤い人形の不自然さに気づいていた。他の人形達がハンター達とぶつかり合っている最中、赤い人形だけはコソコソと戦闘を避けて動いている。まるで何らかの別の目的があると言わんばかりに。ならば、やる必要がある。ユノは盾を構えて突進すると、赤い人形に炎の矢を叩きこむ。だが……赤い人形は反撃せず、逃げるように動き出す。ますますもって怪しい。
「何だありゃ……まあ、撃っておいて損はねぇだろ」
そして別の場所でも、同様に反応していた者が居た。その名はシャトン(ka3198)。その瞳は猫のようにアーモンド形に変化し、そして猫のようにターゲットを見通す。他の者に当たらないよう、よく狙って射撃。接近されると気持ち悪いと野生の勘が告げる。
「無辜の民をこれ以上傷つけさせる訳にはいきません」
兄のアルバート・P・グリーヴ(ka1310)に援護を受けながら、後方で支援に徹していたシメオン・E・グリーヴ(ka1285)も、前方で壁となって傷ついたものにヒールをかけつつ赤い人形に注意を払っていた。広がる不信感。シメオンは何が起こっても対応できるように、支援をしつつプロテクションをいつでも唱えられるように備える。
だが、赤い人形はもう一体いた。最後の一体はそのまま混乱に乗じ、ナナを挑発している二人の元へと近づく。
「だってみんなと遊んでもつまんなーい☆」
ナナがシャガの挑発にそう返したとき、シャガはズシリという重みが背中にかかるのを感じた。気づいた時には背中に抱き着いている赤い人形。
「……仕掛けつき?」
フィドルフはすかさずターゲットを切り替える。
「やべぇ!」
シャトンは地を蹴って走り出す。
だがそれよりも早く、耳をつんざく音と共に赤い人形が爆発した。爆風が消えたときには、傷つき膝をつくシャガとクレア。
「だから、余計なことしないでね☆」
二人を見下ろしながらナナは悠々と動き出す。
「……逃がすか!」
それを追いかける蘇芳。
「随分と楽しそうなことしてるじゃねえか。今度はお前が殺される番だな?」
そしてそんなナナを塞ぐように現れたのは斬馬刀を肩に担いだ男、ライガ・ミナト(ka2153)。ライガはそのまま蘇芳に声をかける。
「手伝おうか? そこのお兄さん。あのアマは此処できっちりわからせておいた方がいい」
その言葉に頷いて答える蘇芳。二人が刀を構え直し、鍔が鳴る音が聞こえた。
●
赤い人形は爆発する。それは場の状況を変えた。敵は戦場をひっくり返す手段を持っていることがわかったのだから。
まよいは興が乗ったのか、強い集中を込めて魔力の風を放つ。その風は赤い人形を切り刻む。
さらにエリスの銃弾が貫くと、人形は爆発もせず活動を停止した。
「へぇ~、壊した時にはパーン!って爆発しないんだ」
ならば、人形が爆発する前に壊せばいい。後衛はターゲットを赤い人形に切り替える。
別の場所では赤い人形をユノが追いかけていた。突っ込みながら炎の矢を打ち込み、そのままスピードを落とさず体当りするように接近する。
赤い人形は観念したのか、シャガにしたのと同じようにユノに抱きついた。
だが、それが狙いである。人形はユノが構えた盾に抱きついていた。
あとは体重を掛け、押しつぶすように地面に倒し上に乗る。さらにフィドルフが盾と地面の間に射撃を一発入れると、人形は爆発せずに活動を停止した。
一方、中型人形とやりあっていたキララ達は、一進一退の状況が続いていた。動きが早く相手に的を絞らせない人形の動きにキララは手を焼いている。
この状況を打破するには……三人がフルスピードで頭を回転させ、そして瀬織が動いた。キララより前に飛び出した瀬織は、手のひらを人形にくっ付ける。
次の瞬間、バチバチッ!という大きな音とともに、瀬織の体は電流に包まれた。エレクトリックショック。機導術の技。人形ごと電撃の渦に巻き込む。
人形が電気により麻痺するのか。やはり機械の体は電気に弱いのか。そのようなことを考える前に、キララは動いた。振動刀を握り直し、上段に構える。傷が痛むが泣き言を言う時間はない。妹の彼氏が作った千載一遇のチャンスを潰すなんてことはしない。そのまま刀を一気に振り下ろす。光を反射した刃は振動と共に振り下ろされ、あたかも稲妻の様に人形を打ち貫いた。
三人の目の前にはバラバラになった人形の姿。顔が半分に割れながら、相変わらず笑顔を残している。
「姉さま、レオ、次へ行きましょう」
「姉遣いが荒いのじゃー!」
妹の言葉にキララは口では不満を漏らすが、考えは一致していた。次に向かうべきは一人で人形とやりあっている、シェラリンデだ。
その頃、クリスティーナ達は全員血に濡れていた。受けた傷は皆酷いが、まだ誰も倒れていない。
ならば……三人の考えは一致していた。一瞬の隙に賭ける。
そしてその時が来た。誰が「頭か」など判断もしていないだろうが、人形はもう一度クリスティーナを襲う。それをレイピアで受け流したところに、キョウカが鎖を振るう。鞭の様に飛んだ鎖は人形の下半身に巻きつき動きを止めた。
そしてそこに強い踏込。土煙が上がり、目にも留まらぬレイピアの刺突が人形の胸を貫く。
二人の攻撃で移動ができなくなった人形。だが、それでも人形は手を振り上げ、前二人の首を刎ねようとしていた。
そして鮮血が舞い、首が飛ぶ。
しかし、ハンター達は誰も倒れていなかった。二人が動きを止めたところにカムイが前に出る。三人の中で最も深手を負ったカムイは、流れる血も厭わず、この好機を逃すまいと戦う。薙刀を大きく振り上げる。刃は人形の首元へとまっすぐ向かい、そのまま斬り飛ばした。首が落ちた人形は崩れ、そのまま活動を停止する。笑顔のままコロリと転がる首。
人形を倒したカムイは、そのまま膝をつく。血が流れ過ぎたようだ。
「お前らは、ねぇ……何度言やぁ分かるの、もっと自分を大事にしなさい」
自分の傷を棚に上げ、クリスティーナは愛する部下二人を叱っていた。
●
岩井崎は傷だらけになりつつも、まだ立ち続けていた。小型人形は一体一体はそこまで強くなくても、とにかく数が多い。物量に任せて押し寄せる人形との最前線に立つ岩井崎に少しずつダメージが蓄積されていく。
「こっちは大丈夫だよー」
だが、岩井崎は一人ではなかった。赤い人形を潰し終えたユノは戻ってきて岩井崎に魔法をかける。彼のレイピアが、そして拳が赤く輝く。炎の精霊力を纏ったその二つの武器で、刺し貫き殴り飛ばす。
さらに後ろからはまよいの魔法が、シャトン、フィドルフとエリスの銃弾が援護してくれる。エリスは少しでも岩井崎の負担を軽減するため、適切なタイミングで光の防壁を作り出す。一度は押し込まれかけながらも、流れは再びハンター側へと傾いた。
だが、それも岩井崎が前で立っていればこそ。もう一度痛む身体に鞭を居れ、小型人形の前にその身を晒す。
一方、ナルは荒く息をしながらも、まだ傷は受けていない。次々と襲い来る攻撃をかわしながら、二丁の拳銃を巧みに操り反撃する。打ち込まれた手刀をかわしそこに一発。右から来た貫手をバックステップで交わして、さらに一発。そこに後ろからの襲撃。だが、ナルは空中に跳び上がり、ひらりと体を回転させながら左右の拳銃を連射する。小気味よい音とともに人形の笑顔は崩れていき、着地と同時に砕け散った。
そしてナルを守り人形を排除すべく、フェリアが後方から呪文を詠唱する。炎の矢が、かまいたちが人形を襲う。幾重もの弾丸の雨が人形を寄せ付けない。
だが……人形たちは向きを変え、ナルに殺到し始めた。攻撃を手薄と見たのか、与し易いと判断したのか、それとも唯の気まぐれか。ともかく三つ、四つとナルに襲いかかる。
ナルは連続で繰り出される人形たちの攻撃をひらり、ひらりとかわしていた。だが、その数が少しずつバランスを崩す。ギリギリのところで攻撃をかわし続けていたナルに、人形の攻撃が当たった。
脚を切りつけられ、バランスを崩したナル。そこに次の人形が、さらに次の人形が、と殺到する。
フェリアはナルに集まる人形を吹き飛ばすべく、呪文を詠唱し風を吹き付けるが、逆に人形たちはナルを越えフェリアに押し寄せる。
連続攻撃を受け、その身が人形たちの群れに飲まれていくナル。
そして飛び出した人形が、フェリアの急所めがけて飛び込んできた。
「ほぉら、こっち来いよぉ!」
シャトンはフェリアに取り付いた人形に銃弾を一発撃ち込み、そのまま猫のように地を駆け飛び蹴りで吹き飛ばす。
吹き飛んだ人形にもう一発撃ち込むと、追い打ちを掛けるように突っ込み、ナルを飲み込んだ人形たちにパンチを連打するシャトン。その握りこぶしには刃が飛び出していた。
人形は今度はシャトンのパンチを打ち込んできた、肩目掛け手刀を突き刺す。
「お触りは禁止だぜ? 気色わりぃ」
シャトンは肩を傷つけられながらも、人形の側頭目掛けを蹴り飛ばす。人形は後ろに居た人形を巻き込みながら吹っ飛んでいった。
ナルとフェリアの救出には成功したものの、二人の受けた傷は深い。気を失い倒れ伏した二人にコレ以上戦わせるのは不可能だ。ならば……ハンター達は再び気合を入れなおす。
●
ナナを間に挟んで蘇芳とライガが向かい合う。そこに蹄の音が鳴った。
「――誰1人欠けさせませんわ……!」
蘇芳とライガの身体が光に包まれる。
「例えその相手が『災厄の十三魔』ナナ・ナインだったとしても……」
二人にプロテクションを駆けたのはエルウィングだ。馬を急がせ、何とか間に合った。
「……ナナさん、貴女のお相手は私達が致します。一般の方々には指一本触れさせません」
そして彼女はナナに対し、凛とした声を響かせ言い放つ。
だが、それを否定したものがいた。ナナではない。蘇芳とライガだ。
「……他の負傷者を頼む」
癒やしの力を持つエルウィングが倒れたら、ゲームオーバーへ一直線。それ故の判断だ。エルウィングもその思いを理解し、後ろ髪を引かれつつ馬を走らせ去っていく。
そして蘇芳は蹄の音が遠ざかるのを聞きながら、小太刀二刀で再び斬りつけた。目の前に居るのは人型なれど、決して相容れない歪虚たち、災厄の十三魔。挑発なんて手段は意味を為さない。ならば実力で止めるしかない。
その二連撃は苦も無くかわすナナだが、そこにライガが斬馬刀を振り下ろす。かわしたところへの一撃。並の雑魔ならこれで終わるはずのコンビネーション。
「覚醒者ってこれでも死なないんでしょ? だからつまんなーい☆」
だが、そうはならなかった。ライガが振り下ろすよりも早く、その腹にナナの手が突き刺さっていた。その手は金属板の鎧を突き破り、肉をえぐる。ナナがかわいらしい声と共に手を引き抜くと、血が噴き出し、その中にライガは沈んだ。
「――特別だよ☆」
そしてナナは振り向くと、そのまま流れるように蘇芳に襲いかかる。例え自分が倒れても、一秒でも長く時間を稼げれば……だが、歪虚の力は彼の想像を超えていた。一呼吸で繰り出される四発の攻撃。二刀流で戦う自分の倍の攻撃を武器一つ持たず行ってみせる。これが災厄の十三魔の力だというのか。
一つ、二つ……それでも必死にかわしていたが三発目が脇腹に突き刺さる。そして動きを止めたところに袈裟がけに斬り下ろすようなナナの手刀。肩口から大きく斬られ、蘇芳はゆっくりと崩れていった。
●
自らにちょっかいをかけてきた邪魔者を沈め、ナナは嬉々として本来の目的、つまり虐殺へと戻った。おあつらえ向きに、必死に走って逃げる人々の群れが見える。スピードを上げ、そのまま襲いかかった!
……だが誰も死ななかった。逃げる人々とナナの間にジャックが割り込んでいた。
「俺様の傷なんて気にする必要はねぇ!」
ジャックは盾でその一撃を受け止めてはいたが、ナナのその一撃は盾ごとジャックを傷つけていた。
だが、ジャックはその二本の脚でしっかりと立ち、背後の人々へ向け叫ぶ。ナナが手を引っ込めた時には、既に人々は遠くまで逃げ延びていた。
「貴族が平民守んのは当然の責務なんだからよ」
痛む身体でも、ジャックは自らが責務を果たせたことを感じていた。
一方ナナは追いかけるわけでもなく、別の逃げる人々へ襲いかかろうと走り出す。グングンと迫り、今度こそ殺そうと突っ込む。どう殺そうか、縦に裂こうか、横にちぎろうか。そんな事を考えながらナナは人々に襲いかかった。
だが、またもナナの目的は防がれた。逃げる人々のかわりに、腹部にナナの手を突き刺していたのはアイビス。
ボタボタとアイビスの血が流れるの見ながら、ナナはただ人々を殺すことだけを考えていた。ナナにとってはアイビスは羽音をたて周囲を飛ぶ蚊のようなものだ。気にも留めるでなく、アイビスを飛び越え襲いかかろうとする。
しかし……そうはならなかった。薄れ行く意識の中、アイビスは自分の腹に刺さっているナナの細い腕を握っていた。
力は入っていない。振り解こうと思えば簡単な話だ。何なら、人々の前にアイビスの体を八つ裂きにすることもナナには出来たであろう。
「……つまんなーい」
その時ハンター達ははっきりとナナの声を聞いた。顔は笑顔のまま。しかしその声には、はっきりとネガティブな感情が含まれていた。
それはちょうどその時、他のハンター達が人形を全て破壊したからだったのだろうか。それとも人々を殺すという楽しみを何度も邪魔されたからだろうか。それはハンター達にはわからない。ただ確かに見えたものは、今までの行為が嘘のように去っていくナナの姿だった。
意識を失い崩れるアイビスの体をエルウィングが受け止める。酷い傷だが命に別状は無いようだ。戦いの中で倒れた者も多いが、命を落とした者も再起不能の怪我を負った者もいなかった事は救いだった。
「ナナちゃんのファン辞めます……」
緊張から開放されたロジャーは、思わずそう呟きへたりこむ。
「遊びも満足に出来ねェのかよ、クソガキが」
シャガは去っていくナナの姿を見ながら、やり場のない怒りをそうやってぶつけるしか無かった。
「何か可愛い娘が現れたぞ?!」
ナナがCAMの上に出現し人々が戸惑っていた頃、ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は一人色めきだっていた。女好き故にハンターとなったロジャーの場合、この状況ですることはただ一つ……ナンパである。
そこへスルスルと近づき声を掛けようとした時、ナナが飛び降りて惨劇が始まったのだ。
●
「ったく、クソ歪虚程度にギャーギャー騒ぎやがって。やっぱ俺様みてぇな貴族が平民共を引っ張って……」
人々がパニックを起こし逃げ回る中、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は愚痴りながら状況の把握に努めていた。グリーヴ家は貴族である。成り上がり、という但し書きが付くが。それ故、貴族としての強烈な自負があった。このような状況で人々を引っ張ること、それが貴族の務め。
だが、この状況を巻き起こしている歪虚を見て、ジャックの顔色は変わる。
「……クソ歪虚が女、だと……」
惨劇が巻き起こる舞台のセンターで踊るのはナナ。見た目だけならかわいらしい少女だが、そこにあるものはまるでアリを踏み潰すかのごとく、人間を殺して回っている鮮烈な姿。赤くなっている場合ではない。
「クソッタレ! 平民共はビビってねぇで俺様について来いや!」
人々を先導するジャック。目指すはこの戦闘が起きているエリアからの脱出。彼の声に人々は縋り付くように反応し、必死の移動を開始する。
「貴方達は私たちが守ります、慌てず指示する方に向かってください!」
その頃、アイビス・グラス(ka2477)はジャックと同じように一般人の誘導に努めていた。
(一人でも多く人々を逃がさないと。誰かが守れないんじゃ意味がないもの)
焦りを抑え、一人でも多く非難させようと必死に声を上げるアイビス。心の隅にはナナに立ち向かいたい思いもあった。だが、自分が覚醒者としてまだまだ未熟なことも、悪名高い災厄の十三魔が歯が立たない相手であることもわかっている。
(私じゃ足手まといになりかねないから……)
勇敢と無謀は違う。迷いを打ち払い、ハンターとして自分にできることを行う。ここにいる人の命を守れればそれでいい。自分が体を張るのは最後の最後だ。覚悟を決め、アイビスは人々を避難させていた。
淡く輝く銀髪が風になびく。そんな中、凛とした声が辺りに響く。
「慌てずに急ぎなさい! 必ず護るわ」
別の場所では、フェリア(ka2870)が人々の誘導を行っていた。人々は列を為して移動し、しんがりにはフェリア。
敵を近付かせないため目を光らせつつ進んでいく。やがて、アイビスの誘導する列と出くわす。
目と目で通じ合い、二つの列は合流する。
「悪いけど、お人形遊びって年齢でもないの」
アイビスに誘導を任せたフェリアは人形達に向かい合う。後は障害を排除するのみ。
その頃、ロジャーは少しでも注意を惹きつけようとあの手この手で声をかけるが、ナナはまるで意に介さない。
とうとうロジャーは実力行使に出た。銃を抜き、威嚇射撃。それで効かなければ手足を狙って発射。だが、銃声にすら興味を示さず、ナナはただ自分のやりたいことをしようとしていた。
一方別の場所では、同じようにパニックを起こしている人々が居た。
そこに突っ込んでいくナナ。だが、その前に立ちはだかる者が居た。脚にマテリアルを込め、一気に加速して飛び込む。
「……そう易々と事が成せると思うな」
二刀の小太刀を構えた男の名は、蘇芳 和馬(ka0462)。彼はすぐさま背後の人々に声をかける。
「……此処から離れろ、出来るだけ早く遠くへ」
蘇芳の背後では、人々が我先にと逃げ出す。だが、ナナは彼を無視して、逃げ出す人々の元へ追いかけ始めた。
「離れるぐらいの時間は稼いでみせよう」
ならばと、蘇芳は体にマテリアルを巡らせる。そこから繰り出される二刀。鋭い剣速。変幻自在にして華麗な太刀筋。
「援護は任せてくださるかしら?」
「ほいじゃ、有り難く突っ込ませてもらうわ」
さらに、そこに飛び込んで来た者達が居た。まるで狼のように一直線に地を駆け、逃げ出す人々とナナの間に割り込んだのはシャガ=VII(ka2292)。そしてその後ろから走りこんできているのはクレア=I(ka3020)。クレアが二丁の拳銃で牽制し、シャガが一気に飛び込む。シャガは黄金に輝く巨大なウォーハンマーを思い切りナナに叩きつける。鋭い二撃と重い一撃が交わる。どれも必殺の一撃となりうる攻撃。それが三つ重なってナナを襲う。
しかし……ナナはただ走るだけで、苦も無くかわして見せる。それらを攻撃と認識していたかも怪しい。ただ、ナナには一切の傷がついていない、という事実だけがそこにあった。
「ねえ、みんなはあの子たちと遊んでて、って言ったでしょ☆」
ナナは三人の方を向き、あざといぐらいかわいらしく話しかける。顔は先ほどと変わらない、アイドルの微笑み。だが、ナナの顔は既に返り血で赤い化粧が施されていた。そんな中でも人形のように動かないその笑顔は、かわいいという気持ちより先に嫌悪感をもたらす。
「とても可愛らしいアイドルさんね。でも、愛想を振りまく相手が違うわよ?」
「俺等が気に食ねェンなら全力で遊びな。楽しませてやンぜ?」
シャガとクレアの二人は軽口を叩き、ナナを挑発する。顔は余裕の表情。だが、頭の中では猛スピードで計算が始まっている。この状況なら一秒でも長く、時間を稼げればいい。それならば……計算の結果が導き出した二人の行動。
一方、蘇芳は怒りに震えていた。武人である蘇芳はより強い相手を求めている。ならば災厄の十三魔が一人、ナナ・ナインは相手にとって不足はない。だが、ナナはハンター達をただ「簡単に死なないから」という理由だけで無視し、一般人を狙っている。子供が嫌いなニンジンを皿の端によけるような、その行動理念は理解できるようなものでは無い。
「……貴様を斬る」
彼は静かに宣戦布告した。
●
一方、ナナが「あの子たち」と呼んだ人形たちは、ハンターを妨害すべく動き始めていた。人々の身長の半分にも満たない小さなナナ達は群れを成して襲い来る。顔は判で押したように同じ顔。変わらぬ笑顔のままだ。
「チッ、こんな下らねー足止めなんかでよォ!」
それを防ぐべく前に立ったのは、岩井崎 旭(ka0234)。彼は焦っていた。民間人の防衛に行きたいが、人形たちのせいでとても向かそうな状況ではない。ならば、少しでも早くこの人形たちを潰すしかない。人形たちに妨害を受けていないハンター達が人々を守ってくれていることを信じつつ、岩井崎は人形たちに向き合う。
「可愛らしい服に愛らしい容姿、それに人形なんてファンシーな敵ね」
その隣で並び立つのは、ナル(ka3448)。小柄な少女がミミズクの姿へと変わった岩井崎の隣に立ち、二丁の拳銃を構え銃口を人形達に向ける。
「ま、やってる事は随分と面白くないし、さっさと退場願いましょ」
「そしたら思う存分ナナをぶん殴らせてもらうぜッ!」
二人は人形たちを潰し、人々を救うため一つの壁となって立ち向かう。
「ねぇねぇ、あのお人形さん……壊しちゃっても、いいんだよね?」
そしてその壁の後ろから風が人形を切り刻むために飛んでいく。風を紡いだのは、夢路 まよい(ka1328)だ。
「同じ顔たくさんとか気持ち悪い芸だねぇ」
さらにその後ろから銃弾が発射される。ただの銃弾では無い、発射の瞬間マテリアルを込めた銃弾だ。この銃弾を発射したのはフィドルフ(ka2525)。
二人の思いは一つ。前に立つ岩井崎やナルと同じ、一刻でも早く人形を壊し、人々を救うこと。
風は群れの先頭にいる人形にまとわりつき、そこにマテリアル入り銃弾が到着する。
その攻撃は人形を破壊するかに見えた……が、人形は一瞬スピードを増し、前に進み出ていた。
その小さな体と、想像を超える急加速がわずかに二人の想定を上回ってしまう。しかし、決して二人の攻撃は無駄ではなかった。先頭の人形が回避するために加速して前に進み出れば、自然と一体だけ孤立することになる。
ならば――岩井崎はカウンターになる形で、人形の膝へ向けてレイピアを突き下ろす。ブスリ、と刺さる刃。それでも奇妙に体を曲げ、変わらぬスピードで接近し貫手を突き出す人形。人形だから当然だが、表情は最初に見た時から変わらず笑顔のまま。
関節が壊れたことにより奇妙な軌道となった貫手が岩井崎の体を傷つける。だが、彼はひるまず懐にある人形の頭を逆の手で掴むとそのまま腕を振り回した。
岩井崎は掴んだ手で地面を殴りつける。人形の頭は大きく振り回され、地面と手でサンドイッチ。そしてそのまま砕け散った。
「ダッラアッ! 次はどいつだッ!」
岩井崎は吠える。敵の進軍はまだまだ続く。
●
小さな人形たちとハンター達が交戦を開始した頃、一回り大きな人形達――ナナ本人よりは小さいので中型人形とでも呼ぶべきか――も動き始めていた。これら人形たちの行動パターンはただひとつ、ナナにとって邪魔なハンター達を排除し、ナナが“遊ぶ”お膳立てをすること。
人形はナナとは逆に一般人を無視し、一直線にハンター達を目指す。そのままナナから人々を守っているハンター達に人形がぶつかれば、その先に待っているのは大量虐殺。そしてハンター達なら分かる。中型人形は、小さな人形よりずっと強い。恐らく一対一でぶつかり合えば、敗北しか無いだろう。ならば――
「ワシと同程度の身長のがやり易いで、あやつに向かうぞや?」
星輝 Amhran(ka0724)はその人形に向かう。前を走るキララ。その後ろには彼女の妹、Uisca Amhran(ka0754)。そしてイスカの恋人、瀬織 怜皇(ka0684)。三人が作る三角はその向きを人形に向けて走る。ただ向かうだけではない。
「早く逃げてください!」
イスカは一般人に避難を呼びかけつつ、精霊に祈りを捧げる。すると光がキララを包み込む。この光は攻撃からキララを守るためのヴェールだ。
一方、瀬織が身につけた魔導計算機のキーを打ち込むと、マテリアルがキララに流れ込んでいく。するとキララの動きがギアアップした。前で人形とぶつかり合うキララをサポートし、陣形を崩さない三人の連携。
そのまま人形を射程範囲に収めた三人は攻撃を開始する。まずイスカが遠距離からホーリーライトを放つ。放たれた光弾にどう対応するかを見て次の一手を考える。遠距離攻撃で応戦してきたらキララがその遠距離攻撃を潰し、対応できなければそのまま終わらせる。
だが、人形は別の選択肢を選んだ。すなわち、光弾を交わしながら接近戦。ぶつかり合った人形はキララの心臓を抜き出そうと貫手を突く。かわそうとするキララ。だが、一瞬の内に軌道が変わり、人形の手は刃となってキララを斬りつける。
この変化にキララはもう反応できない。だが、瀬織が対処する。素早くキーを叩くとキララの前に光の壁が出来上がる。その壁は人形により、すぐに粉々に砕かれてしまうがそれでもキララの傷を抑えることが出来た。
「姉さま!」
すかさず妹がヒールで姉の傷を塞ぎ、姉は刀でもって人形の膝を斬り捨てる。脚一つをへし折られ、あらぬ方向に曲がる人形。だが、ポーズを変えて敵は動き続ける。
「誰1人欠けさせませんわ……!」
そんな中、馬で戦場を駆ける者がいた。エルウィング・ヴァリエ(ka0814)である。エルウィングは戦場を縦横無尽に動きながら、負傷者を治癒していく。キララが中型人形に傷を受けたのを見て、すかさず近づきヒール。感謝の言葉を背中に受けながら、次の場所へ移動する。
さらにエルウィングは、馬上で通信を行う。連絡を取りながら、彼女は思考を巡らせる。なぜナナはCAMを無視して殺戮を繰り広げているのか。なぜ、ナナがピンポイントでCAM実験場であるここに出現したのか。
――陽動。それが彼女の結論だった。ナナが時間を稼ぎ、背後に控える歪虚が目的を達成するのが敵の狙いだ。だが……だからといってこの状況を放り出すなんてことはとても出来ない。絶対に無視できない災厄の十三魔による陽動。奥歯を噛み締めながら、一秒でも早くこの状況を打開するため彼女は走った。
「これ以上、被害を出さないためにも……ここは守らせてもらうよ」
別の中型人形には、シェラリンデ(ka3332)が対峙していた。味方と連携して戦いに挑むつもりだったが、現在は一人。ならば味方と合流できるまで粘る必要がある。彼女は体にマテリアルを巡らせ、懐に飛び込んで斬りつける。手ごたえは無い。かわされたのであろう。だが確認もせずそのまま防御の態勢に入り、襲い来る反撃をマテリアルの力で身体を翻してかわす。
そして彼女は次の一撃を放った。二人の戦いはぶつかり合う音も無く、静かに進んでいた。
一方、もう一体の中型人形には二人の部下、カムイ=アルカナ(ka3676)とキョウカ=アルカナ(ka3797)を従えたクリスティーナ=VI(ka2328)が立ち向かう。
クリスティーナはカムイと共に挟み込むように人形と対峙。一歩後ろにキョウカが立つ。
「では……参りましょうか。どうぞ、ご武運を」
彼女の声と共に、クリスティーナはまず軽くレイピアで一撃。手の内がわからない以上、どのような攻撃が来てもおかしくない。ならばがら空きの隙に必殺の一撃を食らってしまうような最悪の事態は防がなければいけない。そして繰り出された、防御を主に置いた攻撃。それに愛すべき部下たちがいる。
「申し訳ありません、主。確実な一手を打つための布石を」
精霊に祈りを捧げていたカムイが、主に続いて薙刀を横に薙ぐ。この一撃が見事に人形の胴を捉えた。砕ける胴部。だが人形は自らの傷を何とも思わず、変わらぬ表情で襲い来る。
右手を刃として、手刀がクリスティーナ目がけ振り下ろされる。彼はこれを避ける。
「フェイントです!」
だが、その時後ろでキョウカが叫んだ。振り下ろされる軌道は止まり、代わりに下から突き上げるような手刀が襲う。
そしてキョウカの声に反応したものが居た。カムイが主の前に自らの体をねじ込む。ザクリと刺さる人形の手。下には赤い血だまりができる。
朦朧とする意識の中、カムイの前にトランシーバーが差し出される。
「……姉さんがいなければ俺なんて半人前にもならないな……すまない、助かった」
姉の手に意識を取り戻し、カムイは後ろに下がる。
「後悔、させて差し上げますわ」
代わりに前に出たキョウカ。大切な弟を傷つけられ、怒りに燃えるキョウカの姿はいつの間にか捕食者たる野獣の雰囲気を纏っていた。
●
その頃、小型人形とハンター達が交戦している場所では別の動きがあった。
「えー、こいつら片付けないといけないの? ……野郎、こんなものに頼らず直接殴りに来やがれ!」
エリス・ブーリャ(ka3419)はトランシーバーで連絡を取りながら、後方から魔導銃で人形達の相手をしていた。イライラからか怒りからか、口調が変わるエリス。そんな中、瞳に映る赤い姿の人形。
「何だかポイント高そー!」
エリスは優先的に赤い人形を狙撃する。そして、エリスが狙撃した人形に反応していたものが他にもいた。
「弱っちそうで不自然だよね」
ユノ(ka0806)は、赤い人形の不自然さに気づいていた。他の人形達がハンター達とぶつかり合っている最中、赤い人形だけはコソコソと戦闘を避けて動いている。まるで何らかの別の目的があると言わんばかりに。ならば、やる必要がある。ユノは盾を構えて突進すると、赤い人形に炎の矢を叩きこむ。だが……赤い人形は反撃せず、逃げるように動き出す。ますますもって怪しい。
「何だありゃ……まあ、撃っておいて損はねぇだろ」
そして別の場所でも、同様に反応していた者が居た。その名はシャトン(ka3198)。その瞳は猫のようにアーモンド形に変化し、そして猫のようにターゲットを見通す。他の者に当たらないよう、よく狙って射撃。接近されると気持ち悪いと野生の勘が告げる。
「無辜の民をこれ以上傷つけさせる訳にはいきません」
兄のアルバート・P・グリーヴ(ka1310)に援護を受けながら、後方で支援に徹していたシメオン・E・グリーヴ(ka1285)も、前方で壁となって傷ついたものにヒールをかけつつ赤い人形に注意を払っていた。広がる不信感。シメオンは何が起こっても対応できるように、支援をしつつプロテクションをいつでも唱えられるように備える。
だが、赤い人形はもう一体いた。最後の一体はそのまま混乱に乗じ、ナナを挑発している二人の元へと近づく。
「だってみんなと遊んでもつまんなーい☆」
ナナがシャガの挑発にそう返したとき、シャガはズシリという重みが背中にかかるのを感じた。気づいた時には背中に抱き着いている赤い人形。
「……仕掛けつき?」
フィドルフはすかさずターゲットを切り替える。
「やべぇ!」
シャトンは地を蹴って走り出す。
だがそれよりも早く、耳をつんざく音と共に赤い人形が爆発した。爆風が消えたときには、傷つき膝をつくシャガとクレア。
「だから、余計なことしないでね☆」
二人を見下ろしながらナナは悠々と動き出す。
「……逃がすか!」
それを追いかける蘇芳。
「随分と楽しそうなことしてるじゃねえか。今度はお前が殺される番だな?」
そしてそんなナナを塞ぐように現れたのは斬馬刀を肩に担いだ男、ライガ・ミナト(ka2153)。ライガはそのまま蘇芳に声をかける。
「手伝おうか? そこのお兄さん。あのアマは此処できっちりわからせておいた方がいい」
その言葉に頷いて答える蘇芳。二人が刀を構え直し、鍔が鳴る音が聞こえた。
●
赤い人形は爆発する。それは場の状況を変えた。敵は戦場をひっくり返す手段を持っていることがわかったのだから。
まよいは興が乗ったのか、強い集中を込めて魔力の風を放つ。その風は赤い人形を切り刻む。
さらにエリスの銃弾が貫くと、人形は爆発もせず活動を停止した。
「へぇ~、壊した時にはパーン!って爆発しないんだ」
ならば、人形が爆発する前に壊せばいい。後衛はターゲットを赤い人形に切り替える。
別の場所では赤い人形をユノが追いかけていた。突っ込みながら炎の矢を打ち込み、そのままスピードを落とさず体当りするように接近する。
赤い人形は観念したのか、シャガにしたのと同じようにユノに抱きついた。
だが、それが狙いである。人形はユノが構えた盾に抱きついていた。
あとは体重を掛け、押しつぶすように地面に倒し上に乗る。さらにフィドルフが盾と地面の間に射撃を一発入れると、人形は爆発せずに活動を停止した。
一方、中型人形とやりあっていたキララ達は、一進一退の状況が続いていた。動きが早く相手に的を絞らせない人形の動きにキララは手を焼いている。
この状況を打破するには……三人がフルスピードで頭を回転させ、そして瀬織が動いた。キララより前に飛び出した瀬織は、手のひらを人形にくっ付ける。
次の瞬間、バチバチッ!という大きな音とともに、瀬織の体は電流に包まれた。エレクトリックショック。機導術の技。人形ごと電撃の渦に巻き込む。
人形が電気により麻痺するのか。やはり機械の体は電気に弱いのか。そのようなことを考える前に、キララは動いた。振動刀を握り直し、上段に構える。傷が痛むが泣き言を言う時間はない。妹の彼氏が作った千載一遇のチャンスを潰すなんてことはしない。そのまま刀を一気に振り下ろす。光を反射した刃は振動と共に振り下ろされ、あたかも稲妻の様に人形を打ち貫いた。
三人の目の前にはバラバラになった人形の姿。顔が半分に割れながら、相変わらず笑顔を残している。
「姉さま、レオ、次へ行きましょう」
「姉遣いが荒いのじゃー!」
妹の言葉にキララは口では不満を漏らすが、考えは一致していた。次に向かうべきは一人で人形とやりあっている、シェラリンデだ。
その頃、クリスティーナ達は全員血に濡れていた。受けた傷は皆酷いが、まだ誰も倒れていない。
ならば……三人の考えは一致していた。一瞬の隙に賭ける。
そしてその時が来た。誰が「頭か」など判断もしていないだろうが、人形はもう一度クリスティーナを襲う。それをレイピアで受け流したところに、キョウカが鎖を振るう。鞭の様に飛んだ鎖は人形の下半身に巻きつき動きを止めた。
そしてそこに強い踏込。土煙が上がり、目にも留まらぬレイピアの刺突が人形の胸を貫く。
二人の攻撃で移動ができなくなった人形。だが、それでも人形は手を振り上げ、前二人の首を刎ねようとしていた。
そして鮮血が舞い、首が飛ぶ。
しかし、ハンター達は誰も倒れていなかった。二人が動きを止めたところにカムイが前に出る。三人の中で最も深手を負ったカムイは、流れる血も厭わず、この好機を逃すまいと戦う。薙刀を大きく振り上げる。刃は人形の首元へとまっすぐ向かい、そのまま斬り飛ばした。首が落ちた人形は崩れ、そのまま活動を停止する。笑顔のままコロリと転がる首。
人形を倒したカムイは、そのまま膝をつく。血が流れ過ぎたようだ。
「お前らは、ねぇ……何度言やぁ分かるの、もっと自分を大事にしなさい」
自分の傷を棚に上げ、クリスティーナは愛する部下二人を叱っていた。
●
岩井崎は傷だらけになりつつも、まだ立ち続けていた。小型人形は一体一体はそこまで強くなくても、とにかく数が多い。物量に任せて押し寄せる人形との最前線に立つ岩井崎に少しずつダメージが蓄積されていく。
「こっちは大丈夫だよー」
だが、岩井崎は一人ではなかった。赤い人形を潰し終えたユノは戻ってきて岩井崎に魔法をかける。彼のレイピアが、そして拳が赤く輝く。炎の精霊力を纏ったその二つの武器で、刺し貫き殴り飛ばす。
さらに後ろからはまよいの魔法が、シャトン、フィドルフとエリスの銃弾が援護してくれる。エリスは少しでも岩井崎の負担を軽減するため、適切なタイミングで光の防壁を作り出す。一度は押し込まれかけながらも、流れは再びハンター側へと傾いた。
だが、それも岩井崎が前で立っていればこそ。もう一度痛む身体に鞭を居れ、小型人形の前にその身を晒す。
一方、ナルは荒く息をしながらも、まだ傷は受けていない。次々と襲い来る攻撃をかわしながら、二丁の拳銃を巧みに操り反撃する。打ち込まれた手刀をかわしそこに一発。右から来た貫手をバックステップで交わして、さらに一発。そこに後ろからの襲撃。だが、ナルは空中に跳び上がり、ひらりと体を回転させながら左右の拳銃を連射する。小気味よい音とともに人形の笑顔は崩れていき、着地と同時に砕け散った。
そしてナルを守り人形を排除すべく、フェリアが後方から呪文を詠唱する。炎の矢が、かまいたちが人形を襲う。幾重もの弾丸の雨が人形を寄せ付けない。
だが……人形たちは向きを変え、ナルに殺到し始めた。攻撃を手薄と見たのか、与し易いと判断したのか、それとも唯の気まぐれか。ともかく三つ、四つとナルに襲いかかる。
ナルは連続で繰り出される人形たちの攻撃をひらり、ひらりとかわしていた。だが、その数が少しずつバランスを崩す。ギリギリのところで攻撃をかわし続けていたナルに、人形の攻撃が当たった。
脚を切りつけられ、バランスを崩したナル。そこに次の人形が、さらに次の人形が、と殺到する。
フェリアはナルに集まる人形を吹き飛ばすべく、呪文を詠唱し風を吹き付けるが、逆に人形たちはナルを越えフェリアに押し寄せる。
連続攻撃を受け、その身が人形たちの群れに飲まれていくナル。
そして飛び出した人形が、フェリアの急所めがけて飛び込んできた。
「ほぉら、こっち来いよぉ!」
シャトンはフェリアに取り付いた人形に銃弾を一発撃ち込み、そのまま猫のように地を駆け飛び蹴りで吹き飛ばす。
吹き飛んだ人形にもう一発撃ち込むと、追い打ちを掛けるように突っ込み、ナルを飲み込んだ人形たちにパンチを連打するシャトン。その握りこぶしには刃が飛び出していた。
人形は今度はシャトンのパンチを打ち込んできた、肩目掛け手刀を突き刺す。
「お触りは禁止だぜ? 気色わりぃ」
シャトンは肩を傷つけられながらも、人形の側頭目掛けを蹴り飛ばす。人形は後ろに居た人形を巻き込みながら吹っ飛んでいった。
ナルとフェリアの救出には成功したものの、二人の受けた傷は深い。気を失い倒れ伏した二人にコレ以上戦わせるのは不可能だ。ならば……ハンター達は再び気合を入れなおす。
●
ナナを間に挟んで蘇芳とライガが向かい合う。そこに蹄の音が鳴った。
「――誰1人欠けさせませんわ……!」
蘇芳とライガの身体が光に包まれる。
「例えその相手が『災厄の十三魔』ナナ・ナインだったとしても……」
二人にプロテクションを駆けたのはエルウィングだ。馬を急がせ、何とか間に合った。
「……ナナさん、貴女のお相手は私達が致します。一般の方々には指一本触れさせません」
そして彼女はナナに対し、凛とした声を響かせ言い放つ。
だが、それを否定したものがいた。ナナではない。蘇芳とライガだ。
「……他の負傷者を頼む」
癒やしの力を持つエルウィングが倒れたら、ゲームオーバーへ一直線。それ故の判断だ。エルウィングもその思いを理解し、後ろ髪を引かれつつ馬を走らせ去っていく。
そして蘇芳は蹄の音が遠ざかるのを聞きながら、小太刀二刀で再び斬りつけた。目の前に居るのは人型なれど、決して相容れない歪虚たち、災厄の十三魔。挑発なんて手段は意味を為さない。ならば実力で止めるしかない。
その二連撃は苦も無くかわすナナだが、そこにライガが斬馬刀を振り下ろす。かわしたところへの一撃。並の雑魔ならこれで終わるはずのコンビネーション。
「覚醒者ってこれでも死なないんでしょ? だからつまんなーい☆」
だが、そうはならなかった。ライガが振り下ろすよりも早く、その腹にナナの手が突き刺さっていた。その手は金属板の鎧を突き破り、肉をえぐる。ナナがかわいらしい声と共に手を引き抜くと、血が噴き出し、その中にライガは沈んだ。
「――特別だよ☆」
そしてナナは振り向くと、そのまま流れるように蘇芳に襲いかかる。例え自分が倒れても、一秒でも長く時間を稼げれば……だが、歪虚の力は彼の想像を超えていた。一呼吸で繰り出される四発の攻撃。二刀流で戦う自分の倍の攻撃を武器一つ持たず行ってみせる。これが災厄の十三魔の力だというのか。
一つ、二つ……それでも必死にかわしていたが三発目が脇腹に突き刺さる。そして動きを止めたところに袈裟がけに斬り下ろすようなナナの手刀。肩口から大きく斬られ、蘇芳はゆっくりと崩れていった。
●
自らにちょっかいをかけてきた邪魔者を沈め、ナナは嬉々として本来の目的、つまり虐殺へと戻った。おあつらえ向きに、必死に走って逃げる人々の群れが見える。スピードを上げ、そのまま襲いかかった!
……だが誰も死ななかった。逃げる人々とナナの間にジャックが割り込んでいた。
「俺様の傷なんて気にする必要はねぇ!」
ジャックは盾でその一撃を受け止めてはいたが、ナナのその一撃は盾ごとジャックを傷つけていた。
だが、ジャックはその二本の脚でしっかりと立ち、背後の人々へ向け叫ぶ。ナナが手を引っ込めた時には、既に人々は遠くまで逃げ延びていた。
「貴族が平民守んのは当然の責務なんだからよ」
痛む身体でも、ジャックは自らが責務を果たせたことを感じていた。
一方ナナは追いかけるわけでもなく、別の逃げる人々へ襲いかかろうと走り出す。グングンと迫り、今度こそ殺そうと突っ込む。どう殺そうか、縦に裂こうか、横にちぎろうか。そんな事を考えながらナナは人々に襲いかかった。
だが、またもナナの目的は防がれた。逃げる人々のかわりに、腹部にナナの手を突き刺していたのはアイビス。
ボタボタとアイビスの血が流れるの見ながら、ナナはただ人々を殺すことだけを考えていた。ナナにとってはアイビスは羽音をたて周囲を飛ぶ蚊のようなものだ。気にも留めるでなく、アイビスを飛び越え襲いかかろうとする。
しかし……そうはならなかった。薄れ行く意識の中、アイビスは自分の腹に刺さっているナナの細い腕を握っていた。
力は入っていない。振り解こうと思えば簡単な話だ。何なら、人々の前にアイビスの体を八つ裂きにすることもナナには出来たであろう。
「……つまんなーい」
その時ハンター達ははっきりとナナの声を聞いた。顔は笑顔のまま。しかしその声には、はっきりとネガティブな感情が含まれていた。
それはちょうどその時、他のハンター達が人形を全て破壊したからだったのだろうか。それとも人々を殺すという楽しみを何度も邪魔されたからだろうか。それはハンター達にはわからない。ただ確かに見えたものは、今までの行為が嘘のように去っていくナナの姿だった。
意識を失い崩れるアイビスの体をエルウィングが受け止める。酷い傷だが命に別状は無いようだ。戦いの中で倒れた者も多いが、命を落とした者も再起不能の怪我を負った者もいなかった事は救いだった。
「ナナちゃんのファン辞めます……」
緊張から開放されたロジャーは、思わずそう呟きへたりこむ。
「遊びも満足に出来ねェのかよ、クソガキが」
シャガは去っていくナナの姿を見ながら、やり場のない怒りをそうやってぶつけるしか無かった。
依頼結果
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質問卓 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/01 18:57:56 |
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相談卓 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/02 18:49:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/02 15:05:33 |