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「どうも有り難うございましたー！」
　明るい声をした女性が、拍手をする。その脇には少しおどついた男性と、ちょっと強面な外見の男性という、最近人気上昇中の男性お笑いコンビ『サトウジョウユ』が座っていた。
「いやー、それにしてもまさか……あの人たち、アイドルデビューもしてたんですねぇ」
「アイドルって言っても色々いますからねぇ。ああいう、ばりばりの八十年代風は大分廃れてますけど」
　彼ら三人はこの人気歌番組、『ミュージック・クリムゾン』のＭＣだ。

　ミュージック・クリムゾン。
　この世界では知らぬものはいないとまで言わしめる、超人気音楽番組である。
　その番組に出るというのは若手ミュージシャンや若手アイドルの憧れなのだ。生放送のこの番組では、ちょっとしたミスなどもそのまま放送されてしまうが――それがまたアイドルの素がわかって良いともっぱらの評判だった。
　放送の翌日には町中でうわさになるという位なのだから、影響力はかなりのものだろう。
　そして今日も、その華やかな舞台に立つのを夢見て努力を重ねるアイドルたちがいるのだった。

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「では、ここからは今週のピックアップコーナー！」
　女性ＭＣの明るい声が響く。
「今週のゲストはまだまだフレッシュな八人組だそうですね」
　おどついた方が眼鏡をあげながら、そわそわしたように言う。
「いままでシークレット多かったさかい、ずいぶん待ちのぞんどった人もおおいんちゃうやろか？　うちもずいぶん気にはしてるんやけど」
　強面のほうが関西弁混じりにそういうと、うんうんと女性ＭＣが頷いた。
「はい、ではそろそろお呼びしましょうか。デビュー後メディア初登場、その名は――」
　ＡＤが、合図を送る。
　さあ、君たちの出番だ。

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「それでは、登場していただきましょう――」
　若い女性ＭＣがにっこりと手を振る。
「『マジェンタ・ノーヴェ』の皆さんでーす！」
　そう呼ばれてやってきたのは、女性七名男性一名の集団。
　揃いのふりふりドレスは、いかにも新人アイドルといった感じなのだが……黒一点のヴァイス(ka0364)と男装女子（？）のサーシャ・Ｖ・クリューコファ(ka0723)は揃いのスーツ。
　いずれも二つの世界をイメージしたらしく、紅を基調とした中に蒼の差し色が入るという、これまたいかにもアイドルといった感じの色彩豊かな服装だ。
「今回はよろしくお願いします」
「よろしくおねがいしまーす！」
　新人アイドルたちは、にっこりと笑顔を浮かべて頷いた。
「モットーは【みんながセンター】のアイドルグループ、」
「『マジェンダ・ノーヴェ』でーす！」
　少女たちがそう、順繰りに言いながら決めポーズ。わぁっと、拍手――のＳＥがわき起こった。微妙にチープな感じだが、これはこの番組の方針らしい。
「おおー、べっぴんさんぞろいやなぁ」
　男性お笑いコンビのサトウジョウユ、こわもての方がそう言ってにこっと笑う。顔に似合わず（？）、優しげな笑顔だった。
「そりゃあ、やっぱりアイドルですからね。こんばんは、ようこそ『ミュージック・クリムゾン』へ」
　もう一人のメガネの方も、そう言いながら微笑む。この芸人、元アイドルオタクだったことをプロフィールに記してあるくらいのアイドル通なのは業界でも有名な話だ。
「皆さんは、今回八人グループとしてデビューなさったわけですが、何かきっかけなどはあるんでしょうか？」
　そんな二人のジャブを軽くいなしながら、女性ＭＣがなめらかに進行していく。
「はい！」
　そう楽しそうに頷いたのは、Uisca Amhran(ka0754)。
「私は本職は巫女ですが、巫女もあいどるも皆を幸せにするのは同じだと思うんです。だから、なってみようかな、って。『せーと―は』を目指してます。それが『おーどー』って、姉様にも教えてもらいましたし♪」
　アイドル、と言う響きに少しだけ独特のアクセントがあるのは、アイドルというものに対する認識のせいだろうか。あるいは、まだ把握しきっていないのかも知れない。
「ファリス(ka2853)はね、みんなに笑顔になっていてもらいたいの。ファリスにはその力があるんだって、誘ってくれた人から言われたの……だから、少し迷ったけど、アイドルさんになる決心をしたの」
　そうニコニコしながら元気に応える、【みんなの妹】ポジションのファリス。小柄な銀髪の少女は、確かにどこか守りたくなるような雰囲気を備えていた。
「私はあるイベントでマイマイカブリの着ぐるみでお仕事をしていた時にいい動きと言われたのです。それをダンスにいかせたらと思ったのです」
　頭にマイマイカブリという昆虫の飾りをつけ、グループの中でも不思議ちゃんなリナリア・リアナ・リリアナ(ka3127)は、しごく真面目にそんなことを言う。それから、そう言えば、と言いながら、
「わたし、サトウジョウユさんのデビュー当時からのファンなのです」
「おー、うれしいこといってくれるやん！」
　リナリアの言葉にこわもてのほうが相好を崩す。思ってもみなかったファン宣言に、メガネの方もまんざらでもない様子で、
「ぼくらもがんばりますね」
　と笑顔を見せた。
「うちはね、姪がふざけて事務所に履歴書を送ってね。しかも修正ばっちりの写真で書類選考通過、面接ではさすがに悶着あったけどデビューに至った……まあこれも天の采配だろうね」
　一人達観しているのは最年長の年齢二十代（公式でも詳細不明）、髪型が特徴的な【姉系ポジション】ヴィジェア＝ダンディルディエン(ka3316)。まあ、乙女の年齢など気にしてはいけないのだ。うん。
「ひばりんはね、アイドルも好きだけど畑のお手伝いとかも結構してるんだよー！」
　大柄でぼんきゅっぼんのだいなまいとぼでぃーには、ちょっとばかりアホの子ぶりが目につくというツインドリルの雲雀丘・ヴィルヘルミーネ・鈿女(ka3513)。
「アイドルって色んなことに精通しているものですよねー、農業とか」
　無邪気にそう笑う姿はなんというか……うん。ちなみに地元では「歌を歌う農家」と思われてるらしい。
（でも、どうしてここにいるか私はいまだにわからないんですけど……）
　やや引きつった笑みを浮かべているのは金刀比良　十六那(ka1841)。まあ、そういうこともある日はある。
「十六那ちゃん、ファイトっ」
　鈿女にそう励まされてはっと我に返ると、きゅっと握りこぶしを作り頷き返した。
「はっ、はいっ」
　そう返すと、一つ深呼吸。そんな姿も初々しい。
　と、そこで女性ＭＣが話題を変える。
「そう言えば、こちら二人はスーツですが」
　ふりふりワンピとはずいぶん差があるので、サーシャとヴァイスの姿はいやでも目を惹く。
「……俺はアイドルという言葉を聞いた時に、人を笑顔にして楽しませる仕事と聞いて憧れたのが一番のきっかけかな」
　ヴァイスは正統派な応え。一方サーシャは
「流れ星に三回願ったから、としておこうか」
　と、姿同様のミステリアスなキャラクターぶりを発揮する。
「なるほどー。皆さんそれぞれに抱く思いは少しずつ違うけど、その終着点はアイドルだったって訳ですね！」
　女性ＭＣ、半ば強引に纏める。
「ほんなら、せっかく今年一発目やし、抱負みたいなんはある？」
　こわもてがそう尋ねる。
「年が変わろうとどうしようと、好きなように歌うまで」
　今度もまたそう言って、サーシャは余裕の笑み。この雰囲気が、彼女をミステリアスたらしめているといえる。
「はいっ、【ノーヴェ】に込められた九の文字はメンバー八人と世界の皆さん一人一人と繋がるって意味なので、皆を笑顔にできるようにしたいです。目標は……」
　超人気アイドルの二人を名指しするウィスカ。
「大きく出ましたね！」
　アイドルオタクの血が騒ぐのか、目を輝かせるメガネ。
「はい、二人は友達であり良きライバルです。それから……」
　ウィスカはまだ何か言おうとしたが、さすがに何かを察したヴァイスがそこでフォローに入る。
「うんうん。確かに俺たちの歌と踊りでファンの心を虜にして、最高のひとときを提供できるようにしたいよな」
　その言葉には全員が頷く。
「ファリスもね、そう思うの！　だから、もっともっとお歌もダンスも頑張るの！」
　ファリスはいかにも妹キャラっぽく、ちょっぴり舌足らずな声でウサギのぬいぐるみを抱え、そして楽しそうにいう。
「歌もダンスも、っていうのはわたしもなのです。ついでにいうと、歌って踊って被れるアイドルを目指すのです」
「被れる？」
　リナリアの発言に、不思議そうに尋ねる女性ＭＣ。
「です。今年はもっとゴージャスな生物の着ぐるみを着てみたいのです。たとえば世界一美しいカナブンの【ヴィリディ・アウラタ・カブトハナムグリ】とか――」
　それが実現すれば虫好きな小学生男子あたりにモテモテかも知れないが、アイドルとしては微妙なラインだろう。しかし彼女は彼女でしごくまっすぐな眼差しだから、無下に否定するわけにもいかない。いや、どちらかというとメガネが食いついた。
「へえ、なんだか面白そうな試みですね。実現させてくださいね！」
　ここに無茶ぶり発生。
「私はまあな、健康に気を遣いエステに通い、健康食品を食べて美を磨きたい」
　一人、こちらも少し方向性の違ヴィジェア。
「やっぱり大人の意見はちゃうなぁ」
「そうじゃなくて。あくまでアイドルとして不可欠な美と健康の維持のためだ」
　いたずらっ気を込めて返したこわもてに、更にしっかりとした返し。さすがの姉ポジション。いやむしろ姉御と呼ばせてください。

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「さてそろそろスタンバイの方よろしいでしょうか、お願いしまーす」
　女性ＭＣにいわれ、ステージの方に移る八人。
　サーシャはにやっと笑い、
「諸君、我々の美声を是非、聴き給え！」
　そう言って画面からはけていく。そんなメンバーたちを見て、
「なかなか舞台度胸のあるメンバーやなあ」
「うんうん、初めてのテレビ出演でもまったく動じていませんし、期待のアイドル出現ですよね」
　サトウジョウユの二人はそう言い合い、アイドルたちをほほえましく見守る。きっと新人たちの成長を見守るのは、こんな人たちなのだろう。
「では、マジェンタ・ノーヴェのデビューシングル、『Ｆｌａｍｅ　ｉｎ　ｔｈｅ　Ｂｌｕｅ』です！　どうぞ！」
　その声とともに、イントロが始まった。

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　ステージには、スポットライト。
　八人がそれぞれ、シュッと立っている。
　ひとり、鈿女だけはエレキギターらしきものを抱えているが、それもありだろう。

　メロディは静かに、けれど耳に残るような。
　音に合わせ、ステップを踏むアイドルたち。
　そして、ウィスカがゆっくりと口を開いた。

「蒼い蒼い空の真ん中　紅く輝く太陽の下で」

　続けて歌うは十六那。

「今こそ新たな冒険（たび）を　はじめよう」

　サーシャの声が伸びる。

「何も見えない寒空の下でも」

　ヴァイスはよく染み渡る声で。

「暖かなこのひかりとともに」

　ファリスの舌足らずな声は、しかし愛らしい。

「Flame in the Blue　刻み込んで」

　リナリアがそっと手を振る。

「行く手に何が待ち受けているかわからない」

　ヴィジェアがそれに重ねるように、低音を響かせ。

「だけど、何も恐れない」

　鈿女が楽しそうに。

「君（あなた）が　隣にいるから――」

　そして、声が重なる。
　リナリア、十六那、ウィスカ、ヴァイスのものが。

「みんなで　夢を探そう」

　続いて、サーシャ、ファリス、ヴィジェア。

「きっと素晴らしい　未来（ゆめ）が待っているから」

　メロディの雰囲気が変わった。それまでよりも更に華やかで明るいものに。
　転調だ。
　声も次々と重なり、移り変わり、ステージライトが紅と蒼を効果的に入れ替えていく。

「気ままに流れる雲の流れが　悪戯して去ってく小さな風が」

「そっと僕たちを見守って　視界が開ける――道が拡がる――！」

「隣に炎（きみ）の　熱（あたたかさ）を感じて　だから僕は恐れない」

「君（あなた）と僕（わたし）と　蒼い世界は拡がってくから」

　そして最後のフレーズは、全員そろって。
　手を、さしのべるようにして。

「さあ　踏み出そう　The blue is in the new world with the flame――！」

　そのメロディに合わせ、また踊り出す八人。
　歌い、踊る――それは確かに、ただの『アイドル』を越えた何かのようにも感じられ。
　何故って、それはきっと祈りが込められているからにならない。
　平和を祈る、歌声なのだから。

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　拍手の音が鳴り止まない。
　やりきった、その思いが胸を熱くさせる。
　けれど彼らの活動はまだ始まったばかり――
　がんばれ、新米アイドル。

　目指すは――世界一のアイドルなのだから！