ゲスト
(ka0000)
聖導士学校――魔性の歌と音楽祭
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/29 07:30
- 完成日
- 2018/11/03 13:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ルル音楽祭予選会場
曲は耳に心地よく。
歌は心に突き刺さる。
挫折による怒りを剥き出しにした内容だ。
なのに、観衆の心を揺さぶり感激の涙を流させる。
演奏が終わりステージの上が空になっても、余韻は消えず誰も口を開かなかった。
「エントリーナンバー8、王都砂漠さんの演奏っした。どうっすかイコニア司祭?」
司会役のエルフが蛮勇を振るい職務をこなす。
「少しだけ時間をください」
涙を拭いて鼻をかみ、軽くメイクを直した司祭が真面目な顔になる。
「こういう形の芸術もあるのですね。本職の方でしょうか」
「えーっと、げっ、王立学校芸術科に通っているそうっす」
超エリートである。
そして、超エリートでも名声を得られず潰れることがある魔境が音楽業界である。
疲れ果て荒い息をつくミュージシャンに、妙に体格と服装が立派な男が近づいた。
「男爵様、パトロン交渉は後でお願いします」
ここは王国僻地の学校だ。
覚醒者の子供を聖導士に育てる教育機関であり、後援者や父兄に爵位持ちが何人もいる。
そんな場所で唐突に耳障りな鐘が鳴る。
「あ、今の鐘は不合格じゃなくて歪虚の襲撃警報っす。距離は10キロは離れてるんで大丈夫っすよ」
「会場警備は聖堂戦士団が責任をもって行います。避難が必要な場合はこちらからお伝えしますので……」
歪虚多発地帯に学校を造り、貴賓まで集めてイベントを執り行う。
主催者の正気を疑う状況ではあるが、主催者である聖堂教会(正確にはその中の過激な武断派)は少なくとも本気だ。
「解説のイコニアさん、合否は……いや聞くまでもない気がするっすけど」
「ええ、通常の音楽祭であればその通りなのですが」
黙っていれば美形なエルフと司祭が見つめ合う。
そこには艶っぽい感情は欠片も無く、あるものに振り回される者同士の共感が存在した。
すげー
すごーい
すごすぎてよくわかんないでちゅ
主賓席から高出力のテレパシーがまき散らされた。
鍛えていない非覚醒者なら最低でも重傷だ。
護衛もお世話係も負傷慣れしている覚醒者なので、最悪でも全治1週間で済んでいる。
「ルル様が喜んでいるので多分合格です」
音楽祭もこの予選会も、この地を象徴する精霊への捧げ物である。
その精霊が直接姿を現しているのだから、合否を決めるもの精霊になる。
まあ、7歳児な見た目以上に精神が幼いので、周囲が察して決めるしかないわけだが。
「続いてエントリーナンバー9、吟遊詩人のジョージさんです」
「偽名っぽんすけど」
エルフだ。
衣装もギターも手入れは良いが古びている。
顔にも口にも出さないが、会場の人間は誰一人期待していなかった。
演奏が始まる。
声が、甘かった。
ギターの音にのって、囁くような声が心と体を内側から愛撫する。
「やっべ性癖開眼しそうっす」
女性全員と一部男性が泥酔したかのように力を失う中、精霊がキャッキャとはしゃいでいた。
●裏方
「最後の最後にとんでもないのが来たな」
校長を務める司教がため息をついた。
「あれは私が若い頃に王都を引っかき回した奴だ。身を持ち崩した同期の女性が何人いたことか。絶対にひっかかるんじゃないぞイコニア君!」
孫ほどの年齢の司祭に熱弁を振るう。
だが司祭の側は別のことに気をとられて真面目に聞いていない。
「君の婚期がかかっているのだよイコニア君!」
「帝国の方から連絡が入りました」
灰皿を引っ張り出し自分の手で紙を燃やす。
「前の仕事の後退職したので、好きに処分して欲しいと」
司教が瞬きして、天井を見上げ、眉間を揉んでうなる。
「諜報関係?」
「偽情報の可能性はありますが、おそらく。本人は森に引っ込む前に純粋に演奏したいと主張していますがどこまで本当か」
炭を自分の指で崩して完全に隠滅する。
「それに、とんでもないのはあの老エルフだけではありません。音楽科の英才や有給中の著名楽団員まで、これまで寄り付かなかったクラスの人材が予選会に参加しています」
「再開拓が急激に進んでいるからか」
マスメディアの規模拡大で情報拡散のスピードが上がったせいでもあるのだが、基本が教師と武闘派貴族な2人は理解できていない。
「我々にはこの状況でイベントを運営する能力がありません」
「いつも通りにハンター任せか」
信頼も実績もあるので反対する気はない。
ただ、何かを見落としている気がした。
●魔性の歌
下心なく歌うのは何十年ぶりだろうか。
精霊にリクエストされたアニメ主題歌を、外套の短剣の世界で生き延びてきたエルフが無心に演奏する。
凍り付いた心が柔くなり、重く毒々しいものが溶け出し流れている。
指は羽のように軽く、考える通りに動く。
精霊の喜の感情を浴びれば浴びるほど技が冴えていくようだ。
吟遊詩人の曲が響けば響くほど森の気配が濃くなり人間が息苦しくなることを、精霊も人間もエルフもまだ気付けていない。
●依頼票
臨時教師または歪虚討伐
またはそれに関連する何か
可能であれば、丘精霊に捧げる音楽祭の運営も
●地図(1文字縦2km横2km)
abcdefghijkl
あ未未未未農川未未未未川川
い平平平学薬川川川川川川平 平=平地。低木や放棄された畑があります。かなり安全
う□平畑畑畑畑平□平平平平 学=平地。学校が建っています。工事中。緑豊か。北に向かって街道有
え平平平平平平木木墓■■■ 薬=平地。中規模植物園あり。猫が食事と引換に鳥狩中
お平□□□果果林□□■■■ 農=農業法人の敷地。宿舎、各種倉庫、パン生産設備有
か□□□林平丘林□□■■○ 畑=冬小麦と各種野菜の畑があります
き□□□□湿湿林林×■■■ 果=緩い丘陵。果樹園。柑橘系。休憩所有
く■■□□□林□□×■■■ 丘=平地。丘有り。精霊のおうち
け○■■□□林□□×◇◇■ 湿=湿った盆地。安全。精霊の遊び場
こ■■■■■□■■■■◎■ 川=平地。川があります。水量は並
さ■■■■■○■■■■■■ 林=平地。祝福された林。歪虚が侵入し辛く、歪虚から攻撃され難い
し■◇■■■■■■■■■■ 木=東西に歩道がある他は林と同じ
す■■◇■■■■■■■■■
せ■◎■■■■■■◎◎■■ 墓=平地。遠い昔に悲劇があった場所。墓碑複数有。掃除頻度低
そ■■■■■■■■◎◎■■
た■■■■■■■■■■■■
□=平地。負のマテリアルによる軽度汚染
■=未探索地域。基本的に平地。詳しい情報がない場所です
◇=荒野。負のマテリアルによる重度汚染
○=歪虚出現地点
◎=深刻な歪虚出現地点
×=歪虚に制圧された平地。負マテリアル濃度が上昇中
gえ=木の成長速度が不自然に加速中。法人がさらに肥料投入済
hき=東端の木が1本枯れました
iけ=歪虚が侵攻後汚染完了。侵攻部隊は撤退
た行から南に4~8キロ行くと隣領。領地の境はほぼ無人地帯。闇鳥、目無し烏は出没せず
地図の南3分の1の地上は、汚染の影響で遠くからは見辛い
曲は耳に心地よく。
歌は心に突き刺さる。
挫折による怒りを剥き出しにした内容だ。
なのに、観衆の心を揺さぶり感激の涙を流させる。
演奏が終わりステージの上が空になっても、余韻は消えず誰も口を開かなかった。
「エントリーナンバー8、王都砂漠さんの演奏っした。どうっすかイコニア司祭?」
司会役のエルフが蛮勇を振るい職務をこなす。
「少しだけ時間をください」
涙を拭いて鼻をかみ、軽くメイクを直した司祭が真面目な顔になる。
「こういう形の芸術もあるのですね。本職の方でしょうか」
「えーっと、げっ、王立学校芸術科に通っているそうっす」
超エリートである。
そして、超エリートでも名声を得られず潰れることがある魔境が音楽業界である。
疲れ果て荒い息をつくミュージシャンに、妙に体格と服装が立派な男が近づいた。
「男爵様、パトロン交渉は後でお願いします」
ここは王国僻地の学校だ。
覚醒者の子供を聖導士に育てる教育機関であり、後援者や父兄に爵位持ちが何人もいる。
そんな場所で唐突に耳障りな鐘が鳴る。
「あ、今の鐘は不合格じゃなくて歪虚の襲撃警報っす。距離は10キロは離れてるんで大丈夫っすよ」
「会場警備は聖堂戦士団が責任をもって行います。避難が必要な場合はこちらからお伝えしますので……」
歪虚多発地帯に学校を造り、貴賓まで集めてイベントを執り行う。
主催者の正気を疑う状況ではあるが、主催者である聖堂教会(正確にはその中の過激な武断派)は少なくとも本気だ。
「解説のイコニアさん、合否は……いや聞くまでもない気がするっすけど」
「ええ、通常の音楽祭であればその通りなのですが」
黙っていれば美形なエルフと司祭が見つめ合う。
そこには艶っぽい感情は欠片も無く、あるものに振り回される者同士の共感が存在した。
すげー
すごーい
すごすぎてよくわかんないでちゅ
主賓席から高出力のテレパシーがまき散らされた。
鍛えていない非覚醒者なら最低でも重傷だ。
護衛もお世話係も負傷慣れしている覚醒者なので、最悪でも全治1週間で済んでいる。
「ルル様が喜んでいるので多分合格です」
音楽祭もこの予選会も、この地を象徴する精霊への捧げ物である。
その精霊が直接姿を現しているのだから、合否を決めるもの精霊になる。
まあ、7歳児な見た目以上に精神が幼いので、周囲が察して決めるしかないわけだが。
「続いてエントリーナンバー9、吟遊詩人のジョージさんです」
「偽名っぽんすけど」
エルフだ。
衣装もギターも手入れは良いが古びている。
顔にも口にも出さないが、会場の人間は誰一人期待していなかった。
演奏が始まる。
声が、甘かった。
ギターの音にのって、囁くような声が心と体を内側から愛撫する。
「やっべ性癖開眼しそうっす」
女性全員と一部男性が泥酔したかのように力を失う中、精霊がキャッキャとはしゃいでいた。
●裏方
「最後の最後にとんでもないのが来たな」
校長を務める司教がため息をついた。
「あれは私が若い頃に王都を引っかき回した奴だ。身を持ち崩した同期の女性が何人いたことか。絶対にひっかかるんじゃないぞイコニア君!」
孫ほどの年齢の司祭に熱弁を振るう。
だが司祭の側は別のことに気をとられて真面目に聞いていない。
「君の婚期がかかっているのだよイコニア君!」
「帝国の方から連絡が入りました」
灰皿を引っ張り出し自分の手で紙を燃やす。
「前の仕事の後退職したので、好きに処分して欲しいと」
司教が瞬きして、天井を見上げ、眉間を揉んでうなる。
「諜報関係?」
「偽情報の可能性はありますが、おそらく。本人は森に引っ込む前に純粋に演奏したいと主張していますがどこまで本当か」
炭を自分の指で崩して完全に隠滅する。
「それに、とんでもないのはあの老エルフだけではありません。音楽科の英才や有給中の著名楽団員まで、これまで寄り付かなかったクラスの人材が予選会に参加しています」
「再開拓が急激に進んでいるからか」
マスメディアの規模拡大で情報拡散のスピードが上がったせいでもあるのだが、基本が教師と武闘派貴族な2人は理解できていない。
「我々にはこの状況でイベントを運営する能力がありません」
「いつも通りにハンター任せか」
信頼も実績もあるので反対する気はない。
ただ、何かを見落としている気がした。
●魔性の歌
下心なく歌うのは何十年ぶりだろうか。
精霊にリクエストされたアニメ主題歌を、外套の短剣の世界で生き延びてきたエルフが無心に演奏する。
凍り付いた心が柔くなり、重く毒々しいものが溶け出し流れている。
指は羽のように軽く、考える通りに動く。
精霊の喜の感情を浴びれば浴びるほど技が冴えていくようだ。
吟遊詩人の曲が響けば響くほど森の気配が濃くなり人間が息苦しくなることを、精霊も人間もエルフもまだ気付けていない。
●依頼票
臨時教師または歪虚討伐
またはそれに関連する何か
可能であれば、丘精霊に捧げる音楽祭の運営も
●地図(1文字縦2km横2km)
abcdefghijkl
あ未未未未農川未未未未川川
い平平平学薬川川川川川川平 平=平地。低木や放棄された畑があります。かなり安全
う□平畑畑畑畑平□平平平平 学=平地。学校が建っています。工事中。緑豊か。北に向かって街道有
え平平平平平平木木墓■■■ 薬=平地。中規模植物園あり。猫が食事と引換に鳥狩中
お平□□□果果林□□■■■ 農=農業法人の敷地。宿舎、各種倉庫、パン生産設備有
か□□□林平丘林□□■■○ 畑=冬小麦と各種野菜の畑があります
き□□□□湿湿林林×■■■ 果=緩い丘陵。果樹園。柑橘系。休憩所有
く■■□□□林□□×■■■ 丘=平地。丘有り。精霊のおうち
け○■■□□林□□×◇◇■ 湿=湿った盆地。安全。精霊の遊び場
こ■■■■■□■■■■◎■ 川=平地。川があります。水量は並
さ■■■■■○■■■■■■ 林=平地。祝福された林。歪虚が侵入し辛く、歪虚から攻撃され難い
し■◇■■■■■■■■■■ 木=東西に歩道がある他は林と同じ
す■■◇■■■■■■■■■
せ■◎■■■■■■◎◎■■ 墓=平地。遠い昔に悲劇があった場所。墓碑複数有。掃除頻度低
そ■■■■■■■■◎◎■■
た■■■■■■■■■■■■
□=平地。負のマテリアルによる軽度汚染
■=未探索地域。基本的に平地。詳しい情報がない場所です
◇=荒野。負のマテリアルによる重度汚染
○=歪虚出現地点
◎=深刻な歪虚出現地点
×=歪虚に制圧された平地。負マテリアル濃度が上昇中
gえ=木の成長速度が不自然に加速中。法人がさらに肥料投入済
hき=東端の木が1本枯れました
iけ=歪虚が侵攻後汚染完了。侵攻部隊は撤退
た行から南に4~8キロ行くと隣領。領地の境はほぼ無人地帯。闇鳥、目無し烏は出没せず
地図の南3分の1の地上は、汚染の影響で遠くからは見辛い
リプレイ本文
●ハンター部隊
闇色の歪虚が上下に切り裂かれた。
飛び散る肉と羽が解けて負マテリアルに戻り。
頭部が驚愕の表情のまま地面にぶつかり何度も弾む。
破壊はそれで終わりでは無い。
隣にいたより大きな闇鳥に、巨大な刃が横からめり込み絶叫を強いた。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が全身を使って魔斧を引き抜く。
斧に重さがないかのような速度で引き抜く。
そのままの勢いで真上から振り下ろし。
闇鳥の分厚い胸が左右に裂け、そのまま下へと広がり股まで届いた。
「よし」
中から体液が飛び出たときにはボルディアの姿は遠くにある。
イェジドが吼える。
無音で急降下して来た小型飛行歪虚が、姿勢制御に失敗して地面に墜落する。
軟着陸に成功した個体もボルディアの斧に潰され再び空に上がることはできない。
小型飛行歪虚……この地では目無し烏と呼ばれる歪虚が微量の負マテリアルに戻り地面に染みる。
CAMサイズ以上の大型歪虚である闇鳥もかなりの量の負マテリアルに変わり、乾ききった大地に負の属性を与えていく。
歪虚汚染拡散にすら見えるが歪虚を放置するより万倍マシだ。
倒せば、少なくとも数割の負マテリアルが消えるか変質するのだから。
「戻るぞ」
ヴァーミリオンが慌てたように振り向いた。
ボルディアは斧と鎧を感じさせない動きで相棒に飛び乗り、有無を言わせず北に向かわせる。
まだ2体いる、倒そう、という意図が気配で伝わってきた。
「もうちょっと多いぜ」
ボルディアの優れた感覚は、雑な偽装で隠れた闇鳥2体の南に息を殺して潜む大型闇鳥4体を捉えていた。
乾いた地面に数メートルの亀裂が走る。
土色に染まった闇鳥の頭が、固い地面を無理矢理押し広げてボルディアの後ろ姿を睨み付けた。
「まあ見てな」
10近い銃弾が闇鳥頭部に直撃。
ボルディアほどの威力も攻撃範囲もないが、闇鳥の分厚い防御を抜いた上で十分な打撃を与える程度の威力がある。
イェジドが滑るように斜め前へ。
溜なしで放たれた闇ブレスが、直前までイェジドの足があった地面を焼く。
「我慢しろ。迂闊に奥に突っ込んだら6体がかりで袋叩きだ」
紅の毛並みを撫でてやる。
「お前となら勝てはするさ。けど無傷じゃすまねぇ。合計10体ぽっちじゃじゃ暴れ足りねぇだろ」
ヴァーミリオンは機嫌を直し、途切れぬ銃撃の源の足下で停止した。
「リロード」
重機関銃が大量の銃弾を飲み込んだ。
小型コンテナじみた予備弾倉が空になり、R7の黒い腕に後ろへ投棄される。
頭上100と数メートルでワイバーンのブレスが光り、目無し烏9羽分の焦げた骨が風に乗って斜めに落ちていく。
「この前のようなことがないように」
HMDに表示される兵器がいつもと違う。
ため息とも安堵ともつかない息を吐きながら、エルバッハ・リオン(ka2434)は操縦桿のボタンの上に細い指を乗せる。
「武装などを強化しています」
機体を通して振動。
1連射10発の弾が9発当たった。
地面から腰まで抜け出た闇鳥の頭部が半ば形を失い、索敵能力が極端に低下する。
スラスター作動。
もう1体が放ったブレスがR7ウィザードの脚部装甲を掠めて温度を上げる。
塗装が傷ついた程度でダメージは0だ。
エルバッハは無傷な1体に銃撃を集中させ、時にスラスターを温存し時に躱し損ねて斬艦刀で受けながら射撃戦を継続する。
「刀よりも盾の方が良かったかもしれません。しかし接近戦能力を下げるのも……リロード」
再び頭上でブレスの光。
再装填の際に生じる微かな隙を、ワイバーンを駆るドラグーンが潰してくれている。
頭部損壊歪虚が銃声を頼りにブレスを放つ。
同属との同時攻撃による回避半減を狙ったようだが、2秒も時間差があるのでエルバッハは余裕をもって防ぐ。
時間が過ぎる。
ウィザードがわずかに傷つき、無傷だった闇鳥も片翼半壊状態に陥った。
「そろそろです」
「応」
「私は右を」
「んじゃ俺は左だ」
HMDの残弾表示が0になると同時に、中破闇鳥2体がブレスを撃たずに全力での突撃を開始する。
南方の地面から目無し烏が飛び立つ。
高度がないため加速は緩いがとにかく数が多い。
南東から南、そして南西まで合計して200と数十。
アリア・セリウス(ka6424)とボルディアは闇鳥突撃阻止に集中しているため、小型の全てがエルバッハ機へ殺到する。
「クウ、手前30メートル!」
上空のワイバーンが鋭角を描いて急降下に移る。
エルバッハのHMDに、蒼白の美しい鱗を持つドラグーンの凜々しい顔が映った。
「タイミングはこちらであわせます」
「はい! 2、1、今!」
火球の爆発とワイバーンのブレスが歪虚群の目の前で炸裂する。
いきなり停止することなどできるはずもなく、爆風あるいは炎に焼かれて骨あるいは炭に変わる。
「終わりました」
「こっちもだ」
アリアとボルディアが戻ってくる。
鎧袖一触だ。
中破までにかかった時間を考えるとため息の1つもつきたくなる。
力の性質が違うだけだということは分かっているが、こういうのは理性というより感情の問題だ。
「1機いるかどうかで何もかもが違ってきますね」
「そうだな。お陰で休憩もとれる」
前衛担当が一息ついている間もエルバッハは戦闘中だ。
重機関銃の射程内の敵に対して延々と銃撃しては再装填。
気力体力を磨り減らす重労働だが、敵の撃破数も減らした負マテリアルの量もダントツの一位である。
エルバッハの耳に軽い警告音。
HMDに新たな敵影が強調表示させる。
「真南に闇鳥4体、その100メートル南東に6体」
「俺手前な」
「では私は奥で」
剣と槍を両手に軽々と構え、アリアが最も敵陣深くへイェジドを走らせる。
感覚を惑わす負の気配も、近寄られたら超高位覚醒者の近くをごまかせない。
6体を囮に、南から4つの特に強い気配が歩調をあわせて接近。
6体が全滅する前に、増援による完璧な包囲網が形成されるかと思われた。
「ここまで御膳立てされてはね」
アリアが星神器を投擲。
空から龍騎士を称える歌が響く中、光纏う槍が闇を抉って南に抜ける。
強さの証である巨体が弱みとなり、5体とも消滅寸前まで追い詰められた。
「これが最後のブレス」
クウがファイアブレスを放って5体うち1体を焼き尽くす。
消えゆく闇鳥の脇を通ってアリアとイェジドが一旦北に戻り、ボルディアが残り1体まで討ち減らした闇鳥に止めを刺す。
「龍園なら龍園まで下がる状況だけど」
ユウ(ka6891)とクウが北へ加速した直後、彼女達が直前までいた空間を毒まみれのブレスが通過した。
「BS強化闇鳥と推定。撤退しますか?」
エルバッハの問いかけに即座に返答がある。
「お陰でスキルに余裕があります。あれが全てなら負傷者無しで倒せるでしょう」
エルバッハが雑魚全てを担当したことで、前衛陣のスキルと体力の消耗が最低限で済んでいる。
なので全力を闇鳥にぶつけることができる。
「なんつーか、お前エルフ扱いされくなってねーか?」
エルフに対しては多少態度が柔らかいはずの闇鳥達が、人間に対するような殺意に満ちた目でエルバッハを見ている。
「返答に困ります」
エルバッハは重機関銃の酷使を続ける。
自費で買えば報酬分が吹き飛ぶ量の弾を使ったのだ。
調子が悪くなってもおかしくないし、帰還後は分解整備必須だろう。
「闇鳥1撃破」
後退しながら防戦するアリア達の肩越しに撃つ。
「闇鳥1撃破」
かつての苦労はなんだったかと思ってしまうほど、簡単に敵が落ちる。
敵の得意な戦いに対応するしかなかった前回と、こちらの得意な戦いを強いることができた今回の違いかもしれない。
「来ます! BSに注意して下さい!」
コクピットの中でも腐臭が感じられた。
ユウの破邪の歌の影響下になければ、エンジンが一度止まっていた可能性もある。
表面がどろどろに溶けた闇鳥4体が、左右からアリア達の猛攻を受けながらR7に襲いかかった。
斬艦刀は使わない。
至近距離には使えない作電磁加速砲を構え、それを媒体にしてファイアーボールを行使する。
敵味方識別機能がない術ではあるが新人時代からこれまで使い続けた術だ。
混戦でも誤射は滅多にないし、一度や二度誤射されて倒れる者はこの場にはいない。
これまでの闇鳥に比べると柔らかな肉が焼け焦げ、強烈な腐臭を発生させながらあっという間に萎んでいく。
回避し辛い広範囲型ブレスがR7の腕部を焼き、しかし損傷は軽度であり小破と中破の中間程度のダメージしか受けなかった。
「脆い」
2度目の爆発で2体が倒れ、3度目の爆発で残りの2体が滅ぶ。
残っているのは通常型の死にかけ闇鳥だけだ。
「私達の手持ちのスキルでは永続的な浄化は出来ないわ。一度戻りましょう」
ロングヌスに貫かれた歪虚が、断末魔も残せずこの世から消滅した。
●音楽祭準備
上も下もない場所にメイム(ka2290)が浮いていた。
動かそうとしても体は動かない。
視界には色も変化もなく、時間の感覚も曖昧になる。
数秒過ぎたのか数時間過ぎたのか。
さすがに焦れてきたメイムに巨大な気配が近づいた。
「聞こえますか……エルフ・メイムよ……丘精霊ルルです……」
神秘体験である。
信心深くない者の価値観を一変させてしまう迫力と清らかさがある。
「森はいいです……すごくいいのです……ただいま移住促進キャンペーン中です……」
内容が俗っぽくても納得させられてしまう説得力がある。
メイムですら、この声と気配に慣れていなければ危なかった。
「エルフ定住を……」
「どうして祝福を強めているの?」
手を伸ばす。
見えはしないが卵のような肌に触れたのでむにゅむにゅする。
ニキビの感触と治りかけの肌の感触が指の先に触れた。
「やめて」
「ほしいの」
「だめかなー?」
声が3つに分かれて迫力がなくなり、声が音ですらなくなりテレパシーに変わる。
いつの間にか、大勢が行き来する道の脇の光景に戻っていた。
「この間はソナさんの希望に応えての巡礼路だと思ったけど、顔ブチブチだよ? ヒールでも治らないし」
ちょっといたい
精霊虐待反対ー
だれかたすけてー
この地の最高権威である精霊が助けを求める。
テレパシーに気付いた聖堂戦士や元王国騎士が駆け寄って来るが、メイムに気付くと苦笑して丘精霊様をよろしくと言い残して仕事に戻っていく。
このくらいのじゃれ合いはいつものことなのだ。
「ルル様」
半ば遊びながら抵抗していた丘精霊が焦りだす。
メイムの拘束から抜け出そうとしても、7歳児な見た目以下の体力しかないので抜け出せない。
物理的に姿を消すこともできはするるが、それで逃げると本気で軽蔑される気がするので打つ手がない。
「必要もないのに人を傷つけてはいけません」
口調はおっとりとしているが、ソナ(ka1352)は断固とした態度だ。
巫女というよりも保護者と称した方が実情に近い。
「仲良くなりたいのに近づけないばかりか、傷つけてしまうのは悲しいもの」
ソナが心から悲しんでいて、ソナが本心からルルを気遣っているのが分かるから辛い。
反抗したら自分が悪い子みたいじゃないか!
「ですから」
少し儚げに微笑み、子供用の落書き帳とペンを手渡しした。
「その時思ったことで一番伝えたいことをひとつ選んで書くのです。テレパシーでも一言づつ、焦らずやってみて」
えっ
そんな
すごくめんど……いえなんでもないです
メイムから開放されたのに気づきもせず、肩を落として近くの机付きベンチへ向かう。
ごはん
おかし
じゃなくて
独り言のテレパシーもかなりの高出力で、非覚醒者がうっかり近づかないようハンターが注意する必要がある。
「身体表現でも、声に出すのもよいのですが」
「あたしのときみたいに精霊様モードになるなら駄目じゃないかなー」
ペンを離して大声を出そうとしていた見た目幼女の精霊が、悲しそうな目をしてペンを拾って髪に向かう。
3文字書いては2文字か3文字に線を引いての繰り返しで、見ていて眠くなるほどだ。
「音楽祭への意気込みを大きな紙に書いて会場に張り出すのはでうでしょう? ルル様がこういうふうにしたいんだってわかると、見た人が意識してそうあろうと頑張るでしょうから」
ペンが止まる。
むむと声にもテレパシーにも出さずに考え込み、その光景を想像して表情がほころぶ。
やるっ
3文字書いてまた考え込み、1文字に数分かけながら文章を書き始めた。
「あ、いた」
宵待 サクラ(ka5561)が小走りなのにほとんど足音を立てずに駆けてくる。
「今時間いい? ありがと。今更私にルル様って呼ばれても微妙かなー、と思うので。ルルにお願いがあります」
言葉は軽いが礼儀正しく、真正面から精霊に向き合う。
丘精霊ルルはペンを丁寧に机へ置き、薄い太股の上で手を組んでサクラを見上げた。
「子供達の聖歌合唱時に、ハンドベルで参加して貰えないかな? せっかくの音楽祭だもん、ルルもこの学校の子、というか精霊として、聞くだけじゃなく一緒に楽しんで参加して貰えたらって思うんだ」
ルルはテレパシーを使う前に止めペンに手を伸ばす。
意外に綺麗な持ち方で、どんな曲? と書く。
「毎朝……っていうか今日も歌ってたじゃない。あのとき驚いて止めるの忘れてたけど、伴奏はともかく歌うのはまずいんじゃないかなー。前回の提案をうけてくれるならそれはそれでいいんだけど」
ルルは疑問符を書いて小首を傾げる。
「うわ、これちょっと拙いんじゃないかな。イコちゃーん、ちょっと相談。ひょっとしたらクリティカルなアレ」
「すみません後はマティ助祭とお願いしますっ」
大型荷馬車の向こう側から女司祭が顔を出す。
サクラに耳元で囁かれ、目眩に襲われ高価そうな荷馬車にすがりついた。
丘精霊にとり、エクラ教の儀式も装束も単なる趣味でしかない。
ルルがエクラに下ったと勘違いした人間の前で、丘精霊側は悪意無く地雷を踏みかねない。
具体的には、高位聖職者の前で宗教をからかう歌を熱唱するとか。
「こんなところにいた」
農業法人の技術者と話していたメイムが、話を終わらせてからイコニアへ近づく。
「他の人の意見とは異なるけれど、あたしは丘に隣接して浄化が完了した場所を会場に推すよ。浮足立っている今のルルさんがここに長居するのは祝福の低下を招きそう」
「一理……いえそれ以上の理はありますが」
反論を始めようとする聖堂教会司祭を目で制し、ルルに文字の書き順を始動しながら言葉を続ける、
「ルルさんの為の音楽祭なのに資材人材の都合でこんなに丘から離れたのは違和感があるよね。有事は果樹園を抜けて学校方向に避難させれば済むし、座れる場所さえ確保できれば演者の後ろに幕を張るくらいで十分だよね? 王都でもなしに」
「設備については反論できません。避難誘導については反論するしかないですけど」
イコニアが気合いを入れて姿勢を正す。
「最低限の訓練も受けていない非戦闘員の避難は困難です。演者のみに限定しても十数人も……」
ルルが凄い勢いで振り返り、涙目でぷるぷる震えだす。
乱れに乱れた筆跡で、みんなといっしょにききたいの、と3分かけて書き上げた。
「うーん……だったらもうちょっと北でもいいけど、それ以外にも理由があるでしょ?」
イコニアの表情が一瞬にも満たない時間制止し、ルルが明後日の方向を向いて下手なハンドベルの演奏を始める。
通りすがりのユキウサギとユグディラが混乱して踊り出す。
ソナとサクラが、ダメージ無しとはいえ軽度BSな演奏を近くの人間に謝罪していた。
「貴族の接待とかお菓子とか」
「丘精霊殿、ここにおられたか!」
押し出しの良い男が笑いながら現れた。
イコニアが頭を下げ、ルルが奇妙なほど愛想良く飛びつく。
「はっはっは、ポケットの中にお菓子はないですぞ? 今日の便で妻から土産が届くはずですので、娘と一緒にどうです?」
行くー
食べるー
祝福いるー?
ソナの言いつけも忘れてテレパシーを使う。
非覚醒者であり強烈な痛みに襲われているはずなのに、この爵位持ちは悲鳴を漏らすどころか笑顔も崩さない。
「祝福は安売りするものではありませんぞ。儂の娘のことをたまーに見守ってくださればそれで十分ですとも」
精霊を崇めながら利用する、ある意味王国貴族らしい態度であった。
わかったー
あっ
やべーでちゅ
食欲で蕩けた顔が、一瞬で清らかな表情に切り替わる。
澄まし顔で書き取りを始め、しかしソナの視線に気づいて動きが硬くなった。
「いやー、とんでもないね。イコちゃんの貴族式交渉術の完成形?」
悠然と立ち去る貴族の背を眺め、サクラがちらりとイコニアを見た。
「短時間で恨みを残さず懐柔するのは見習いたいですね。大公様という重石が外れて元気になった方が結構……」
非覚醒者なので全く聞こえていないはずなのに、男爵が一度だけ振り返ってにやりと笑った。
「ん、んんっ、私もまだまだということです。限度を超えた便宜を図れと言う方ではありませんし、穏便に持て成して穏便に帰って欲しいなー、と」
「世界は広いということね」
作業着姿のアリアが現れた。
目立たない服装なのに、ハンター以外の視線を強烈に集めて離さない。
舞台で映えるだけではなく、己の居場所を舞台に変えてしまう存在感の持ち主だ。
「お疲れ様です。作業の進捗はどうです?」
「音響面では問題ないわ。ここから見えるかしら」
イコニアとルルが、予算会場から1キロほど南に造られた本戦会場に目を向ける。
移動中の農業ゴーレムや魔導トラックが邪魔でよく分からない。
両者つま先立ちしようとしてバランスを崩しかけた。
「仮設舞台を流用させてもらったわ」
「凄かったです!」
ユウが目を輝かせている。
「音の重なりも声に乗った熱も、全部初めての経験です!」
それにどんな印象を受けたかは見れば分かる。
すらりとした手が元気に振られるたびに、アリアに集まっていた注目がゆっくりとユウに移り始める。
「録音であれなんですよね。今から生で聞けるのが楽しみです!」
そのセリフに恥ずかしさを感じることで、己の汚れ具合を自覚してしまうイコニアであった。
書き物に戻ろうとしていたルルが、鼻を可愛らしく動かしユウに向き直る。
空色ワイバーンのアップリケ付きエプロンを着たユウが、本来の用件を思い出す。
「ルル様、音楽祭で食べたいお菓子をこの中から選んで、後で教えて下さいね」
今朝方全身洗浄された農業ゴーレムが、気取った動作で銀製の盆を丘精霊に差し出した。
王都の一流職人がつくる品々と比べると、見た目も香りも明らかに劣る。
しかし、ルルを崇める者がこの土地でつくった麦が使われてるそれは別格だ。
王都の職人作は嗜好品。
こちらは精霊としての力に繋がる栄養だ。
ルルはいただきますもなしにかぶりつこうとして、ソナの目に気付いて慌てて姿勢を正した。
全部じゃだめ?
「私も演者として出るので少し時間が」
ユウが困った顔になる。
強く願えば歌を諦め作ってくれそうなので、ルルもそれ以上は主張できなくなる。
「あのっ」
生徒が声をかけてくる。
「私達にも手伝わせて下さいっ」
「お願いしますっ」
頭を下げるタイミングも不揃いだ。
姿勢も決してよくはない。
ただ、全く教育を受けていない状態から数ヶ月でこうなったのだから驚異的な成長だ。
ユウの目が優しくなる。
イコニアが司祭らしい顔になる。
ルルは、特に何も考えずに無邪気に喜んでいた。
●音楽祭
みんななかよく。
丘精霊ルル直筆の標語が最も目立つ場所に掲げられた。
舞台の部分部分は質素とすらいえる。
床の木材は頑丈さ優先で豪華さも華麗さもなく、上を覆う天幕も聖堂戦士団から貸し出された実用品だ。
「ほう」
「これは嬉しい予想外だ」
しかし全体を見れば違う印象になる。
出入り口以外の壁は音響を計算した角度をつけられ、視線が違和感なくステージに集中する形に全てが配置されている。
椅子は座り心地がよいだけでなく周囲との感覚が絶妙だ。
戦傷や加齢で足や腰を悪くしている者も負担無く楽しめる。
「これは貴方が?」
「舞台はアリアさんと……」
ソナが舞台脇に目を向ける。
農業用ゴーレムがぺこりと一礼するのを見てしまい、来賓は人の目があることも忘れて目を丸くした。
「予想外のことばかりだ」
「そろそろです」
天幕の位置がずれる。
会場が薄暗くなり、自然と私語が消えていく。
「ようこそおいでくださいました」
ゴーレムが綱を引っ張り天幕を動かす。
自然な光がステージ中央を照らし、細見の体をドレスで包んだアリアを浮かび上がらせる。
「本日の歌は、全て精霊様へ捧げる歌」
肝心の丘精霊は一番いい席でうとうとしている。
「今日の日を楽しみましょう。それが一番、精霊様の御心に適うはずです」
開会宣言はこれで終わりだ。
アリアは初の演者として、常人なら潰れかねないプレッシャーの中歌い始める。
声が透き通っている。
込められた感情も音の広がりも非常に繊細で、なのに耳の遠い老人にもはっきり聞こえるほどに大きい。
ステージの左右に配置された、魔導トラック搭載ソニックフォン・ブラスターの効果である。
歌の内容は陳腐とすらいえる。
人魚と人の種族を越えた恋が、精霊の導きで結ばれる恋愛歌。
故に歌い手の巧さが強調される。
歌としては少し長く、お話としては短く纏められた歌が会場に広がり耳を楽しませる。
いつの間にかルルも目を覚まし、食い入るようにアリアを見つめている。
あらゆる種族が種を越えて手を取り合う光景が、微かに見えた気がした。
―――何を求める
―――理想。実現。生
―――憎むより幸せを
音が解けて夢幻も消える。
アリアが一礼して終わりを告げても、観客皆が己の感情に翻弄され何も言えなかった。
「こりゃぁまずいな。次のがぶるっちまってる」
「誰が出ても見劣りしますから気持ちはすごくよく分かります。後1分経って駄目なら私が出ますね」
ステージの準備を始めようとしたイコニアを、ボルディアが不敵な笑みで止めた。
「俺が出る」
「正気ですか」
「お前結構失礼だよな。まあ見てな」
司会席に移ったアリアが演目順の変更を告げる。
飛び抜けて素晴らしくあっても王国の常識内にはあったアリアとは異なり、馴染みのない曲名と解説が直前とは別方向に客を混乱させる。
「演者の名前に聞き覚えが」
「ハンターの戦士?」
貴賓席も軽く混乱している。
ボルディアに対する悪意は無く、気遣うような雰囲気だ。
ある意味最悪の侮辱ともいえるが、ボルディアは怒りはせず純粋に闘志を燃やす。
天幕が操作される。
会場全体が暗く、特にステージは顔も見えないほど暗くされる。
足音が響く。
いったいどんな演奏がどんな衣装でされるのか観客全体が心配になったタイミングで、低音の熱い響きが会場全体に轟いた。
ソニックフォン無しでこれだ。
肌に直接振動を感じる大音量なのに、耳に痛みはなく腹の奥に強い熱を感じる。
光の量が増えボルディアが照らされる。
紅い。
鮮やかに動く滑らかで、全身機敏に跳ねると非常に若若しい。
少なくともイコニアより2~3歳下に見える。
正体不明の敗北感に襲われ、女司祭ががくりと膝をついた。
歌が続く。
頭や腕っ節の良し悪し気にする暇があるなら胸張って進め。
大事なものから逃げるダセェ真似だけはすんな。
ボルディアの生き方を形にした歌を、観客に理解し同調できるリズムとスペードで叩き付ける。
観衆が熱狂する。
ギターからマテリアルの炎が噴き上がり、力を貸した覚えのないルルが驚愕する。
この光景はカメラで撮影され、地域内イベントの紹介パンフと共に広く出回ることになる。
●正負の均衡
「風が動いています」
深刻な顔で呟いても似合う。
そんな男がカイン・A・A・マッコール(ka5336)であった。
「風?」
イツキ・ウィオラス(ka6512)が不思議そうに小首を傾げた。
相棒の銀イェジドは無言で周囲を警戒している。
過不足なく整備された果樹園には穏やかな風が吹き、小鳥と虫が生存競争を繰り広げている。
「マテリアルの流れです。南からこう向かって……」
カインは大きく手を動かして説明する。
理詰めでの発言ではなく半ば直感によるものなので、内容はかなり曖昧だ。
だが熟練のハンターの直感だ。
丘精霊本人よりも正確かもしれないほど、正負のマテリアルの流れが読めていた。
「ルル様の不在が長引くほど負マテリアルが活性化?」
「はい。いつもは違うのでしょうか」
カインの蒼い瞳に見つめられたら喜ぶ女性は多いだろうが、イツキは特に感慨なく今後の展開を考える。
「違いました。音楽祭は初めての試みですからおそらく……」
真剣な顔で若い男女が語り合う様は非常に絵になる。
狼煙台兼見張り台の上で聖堂戦士(独身)が舌打ちするのも無理はない。
貧乏強請をしながらもう一度舌打ちをしようとして、戦士の表情が別人の如く引き締まった。
「丘に異常、無線および魔導短伝話不通、着火する!」
単独なので返事はない。
ただ、休憩のため移動中だったハンター2人には伝わった。
「予算と人材の無駄遣いで終われば良かったのですが」
学校・精霊の丘間の狼煙を整備したのはカインだ。
気心の知れたイコニアにすら渋い顔をされたが、実際に役立ってしまった以上恒久的なものになるかもしれない。
「参ったな。届かない」
振り向くと、高度数十メートルに目無し烏数羽が飛んでいた。
手持ちに銃器はなく、ユニットのオートソルジャーは絶望的に射撃が苦手だ。
「丘に向かいます。カインさんは増援に事情を説明して下さい」
「分かった。それほど時間はかからないと思う」
北からこちらに向かって来る魔導トラック……正確にはそれに搭載された機関銃を気付いてそう言って、カインはイツキを送り出す。
銀のイェジドが風のように駆ける。
勝手知ったる道なので最高速を保ったまま走ることが可能だ。
立派な桜が1本生えた丘を登り切る。
昔とは違って丘の南にも緑が多い。
精霊に祝福された林は歪虚を退け、精霊の遊び場である沼は歪虚にとっての猛毒だ。
その沼の中に、見慣れたしまった闇鳥の巨体が見えた。
「ハンター殿か」
聖堂戦士たちが矢を放っている。
強弓による攻撃は遠くまで届いて負マテリアルの肉に突き刺さり、しかし威力が足りず浅い傷にしかならない。
闇鳥丘へ近づく。
強酸を浴びでもしたように、全身から腐臭じみた臭いと煙が発生している。
戦士団の半分が槍に持ち替え食い止める準備を始めるが、戦意に溢れた闇鳥を相手にするには足りない気がする。
「私が食い止めます。皆さんは東西と上に注意して下さい」
エイルとイェジド丘を南に駆け降りる。
闇鳥と同じように沼に触れているのに、水も泥も足を焼かず適度に固くなり移動を助けてくれる。
丘精霊の加護が、イツキを通してエイルにも影響を与えているのだ。
「上っ!? 3班は弓に持ち替えろ、小型歪虚が来るぞ」
後ろが五月蠅いが構っている暇はない。
イツキがエイルと呼吸を合わせて斜め前へ飛んだ瞬間、闇色のブレスが泥の上の湿気を消し飛ばしながら急速接近。
危なげ無く躱すことはできたが、気を抜けば骨まで焼かれかねない。
「威力偵察ですか」
闇鳥が己の足下へブレスをまき散らす。
清らかな水と泥により大分部分が無力化されたが、水蒸気が発生して闇鳥の姿が見えなくなる。
おそらく、このまま逃げ去るつもりだ。
「情報を持ち帰らす訳にはいきません。……エイル!」
主従覚悟を決めて突進する。
闇鳥が足を止めて全力のブレス。
丘精霊の力が体に染み込まれ浄化され、闇鳥は一度も攻撃も浴びていないのに重症状態になる。
「ただ討つだけで、何かを変えられるとは想っていません」
槍の握りをわずかに変える。
エイルの首を抉りかけた嘴を、槍の穂先で受け流す。
「今、必要なのは、時間」
イェジドが闇鳥の死角へ潜り込む。
受け流す際に手に残った衝撃も攻撃に活かし、全身全霊の力をのせてひと突きする。
蒼い輝きが巨体の脇から胸へ突き抜け、正マテリアルへの抵抗を失った闇鳥が丘に沈むこともできずに消滅した。
丘の戦いも終わりに向かっていた。
「失敗したな。噛み合っていない」
目無し烏に接近を強いられていた聖堂戦士弓兵達が、カインとその相棒によるあっさりと救出された。
空に浮かぶバリケードと化したオートソルジャーが安全地帯を提供。
小型歪虚相手ではではかすり傷も受けないカインが目無し烏を蹂躙する。
「感謝する。……一度や二度の戦いでは完全な連携は無理だ。口惜しいがね」
戦士団の隊長は本心から礼を述べる。
ハンターとは、能力も戦い方の水準も小さくない差があった。
●後半戦
オーケストラの演奏が終わった。
服装は移動に向いたものだが、演奏自体は王都でもなかなか聞けない水準だ。
「これで前半が終わり。ここまで聞いてみてどうだったかしら?」
「そうですね」
司会のアリアに話を向けられ、解説席に座るイコニアが真面目に答える。
「皆さんそれぞれに優れているので優劣は語れませんが」
精霊の機嫌と会場の盛り上がりではアリアとボルディアが双璧だった。
「個人的に、一番印象に残ったのはエルフのバンドさんです」
「なるほど」
アリアが楽しげに微笑む。
一番手と二番手で極限までハードルが上がった状態で、漫談風演奏をやり抜いたのは好印象だ。
技術的には正直2段ほど落ちる。
だが観客を楽しませようとする気持ちと気合いは評価できた。
「次の方の準備が整いました。お名前は……ジョージと呼んであげて下さい。曲に心を持っていかれないよう、気を付けて」
平然としていられたのはハンターだけだ。
技術のみで人を蕩かす曲が、長年の裏仕事から解放され伸び伸びした老エルフによる奏でられる。
「これが、司教様が言っていた……」
「地位が高くなれば誘惑も多くなるでしょう? このくらいは耐えないとね」
いつも通りのアリアと、顔を赤くし息を荒くしているイコニアが対照的だった。
曲が終わり司祭が安堵の息を吐く。
「聞くだけなのに気力と体力を消耗しますね」
「違う楽しみ方もあるけれど、今回はそうね」
休憩の回数は当初予定より増えている。
今も、はしゃいだ精霊に手を引っ張られた老エルフが、生徒がドーナツを揚げる屋台に向かっている。
「次、大丈夫でしょうか?」
会場内は、アリアやボルディアの直後のような雰囲気だ。
多少巧い程度では下手と認識されけなないので演奏者は辛いだろう。
アリアは微笑むだけで何も言わない。
心配する必要はどこにもないからだ。
「お待たせしました」
イツキの声だが姿は無い。
ステージが暗くなり、覚醒者が辛うじて聞き取れる小ささの足音が聞こえた。
暗がりで30近い目が光る。
1人だけのときに見れば恐怖体験でも、左右に観客がいれば奇抜な余興に代わる。
「幻獣や動物も盛り上げに来てくれました。是非、御照覧下さい!」
ステージが明るくなる。
白、黒、虎縞、三毛、ブチ、その他鮮やかな色の猫たちが勝手気ままなポーズをとって静止している。
観客が何が起きたか理解して歓声を上げるタイミングで、猫たち同じ姿勢になり同期した足踏みで床を叩く。
「猫のタップダンス!」
「気ままな猫にどうやってしつけたんだ」
観客が小声で騒いでいる。
猫が好きで詳しい者ほど目の前の光景が信じられなかった。
「誠心誠意お願いしただけなんです。報酬は必要でしたが」
演奏後イコニアに聞かれたイツキは、猫とユグディラと一緒にごろごろしながらそう返答した。
戦いの後、聖堂戦士団の増援に引き継ぎを行い、会場近くに戻って猫たちと合流して最終の交渉と練習を終えあのダンスだ。
さすがに疲れた。動きたくない。
「どんなに着飾ろうが南瓜や大根だと思えば怖くない! いろんな歌があるけどそれはそれ、いつも通りルル様と一緒に楽しく聖歌を歌って来よう! これはお祭り、楽しんだもの勝ちだ!ね、ルルも楽しもう」
「おー!」
「はい!」
子供用礼服に身を包んだ子供達が元気よく返事をする。
次の演奏は彼等と、丘精霊ルルだ。
普段は人見知りはあっても天真爛漫兼傍若無人なルルが、緊張で体が強ばっている。
持ったままのハンドベルが嫌な音をたてる。
するりとワイバーンが降下し、ルルほどでは無いが小さな人影が飛び降り着地した。
「大丈夫」
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)の腕に抱きしめられる。
ベルの不協和音は止まり、ルルの顔と体からこわばりが抜けた。
ルルは頑張ると目で宣言。
フィーナから名残惜しげに離れ、生徒を引き連れステージに向かう。
登場方法も順番も予定とは異なるが問題ない。
精霊という人間とは次元の違う存在を相手にこの程度のトラブルで済むなら、一般的には大成功といえる。
「打つ手は全て打った」
「ルル様がやらかしたときに私の首だけですむといいのですが」
手応えを感じているサクラと胃を痛めているイコニアを眺めてから、フィーナは後者に囁いた。
「準備」
「ええ、分かっています。反応が予想できないので……」
「上空から監視する」
「お願いします」
2人はサクラが何か言うより早くそれぞれの持ち場へ移動した。
賛美歌が響いている。
伴奏は教師のバイオリンと精霊のハンドベル。
ルルはおしゃれ着からカソックに切り替え、元の席にも同時顕現しているので、ステージ上のルルが丘精霊であることに気付く者は少ない。
気付ける能力があるなら黙っていた方がよいと判断できるので大丈夫だ。
「これが聖堂教会の音楽」
ユウはエプロンを脱ぎ、舞台袖から生徒と精霊をじっと見る。
はっきり言って歌は下手だ。
一部の貴族出身者を除けば音感が養われておらず、楽器演奏で全体をリードすべきルルが頻繁に音程を間違って全体を乱す。
でも楽しそうだ。
腹の底から声を出し、全身を使って音を出し、真剣に仲良く1つの音をつくる。
曲自体にも良さがある。
最低でも数百年歌い継がれてきたそれは、ドラグーンとは別の価値観と理屈で形作られ歌われることで完成する。
ユウの足がリズムを刻む。
楽しい。
綺麗だ。
私も歌いたい。
意識しないと今すぐ踊り出してしまいそうだ。
「学校の皆さんの演奏でした。続いて、龍園のドラーグーン、ユウさんの演奏になります」
笑顔で走って来る生徒達とハイタッチを交わし、最後にルルを抱き上げ下ろしてからステージの中央へ立つ。
視線に圧を感じる。
数は100を少し超える程度なのに、3桁代後半の歪虚を相手にしているよときより圧迫感がある。
「ドラグーンのユウと申します」
王国式の礼はしない。
ユウは一人前の戦士であり、王国という異境の地でもドラグーンの看板は下ろせない。
「これは、私の故郷に伝わる龍騎士の歌です」
静かに息を吸い胸を張る。
龍革の戦装束はユウの優美な曲線を隠さず、それでいて鎧としての性能も誇示している。
ユウ本人の媚びがないことが健康な色香を強調し、欲に慣れ欲で操る側の人間を強烈に惹きつける。
高く澄んだ声が広がる。
―――龍騎士達が戦うのは大切なヒト達を守る為
―――龍園に住まう、家族であり友人であり仲間である全ての為、傷つき倒れた友の思いを引き継ぎ戦い続ける
鼻を啜る音が混じる。
龍園とは形は違うが聖堂戦士も貴族も戦い続けてここにあるのだ。
無言で拳を握り、ユウの歌を通してドラグーンの歴史を追体験する。
―――けれど龍園から一歩外に出れば、様々な理由で互いに傷つけあう殺し合う関係で覆い尽くされている
龍園にいるときは大変でも単純だった。
外に出て遠くに行けばいくほど、同じ生き物で、同じ種族なのに争う姿を目にすることを強いられた。
豊かな土地を持つ王国は特に酷い。
以前なら想像もできなかった悪意を何度も目にして来た。
―――自分に何が出来るかは判らない、それでも自分の力は誰かを守る為に力を振う事に揺るぎはない
若々しく伸びやかな声が高らかに宣言し、浄化術も使っていないのに清らかな風が舞台から吹き付けた。
ユウが大きく息を吐く。
白い額から汗が流れて戦装束に当たって弾ける。
「いつも私達を見守って下さるルル様に感謝を。ヒトも精霊も誰もがきっと手を取り合うことが出来る。そしてそんな未来を作るため微力を尽くします」
長い戦歴を持つ者ほど強く心を動かされて重々しく首肯する。
自然と拍手が沸き起こるが、これまで行われた拍手とは異なり演者への評価だけでなく本人の決意が強く籠もっていた。
「素晴らしい」
「国の外にも目を向ける必要がありますな」
政治と宗教で最も保守的な価値観を持つ者がこの発言である。
この時点で閉会を宣言しても全く問題ないし、できればそうすべきだった。
「続いて……」
だかここで終われない理由がある。
聖導士教育機関として成長し、機械化大規模農業法人が立ち上がり、今回文化的な要素が加わった。
それだけ見れば輝かしい土地だが、地面の下には恨み辛みと負マテリアルが膨大に渦巻いている。
「聖堂教会司祭イコニアのレクイエムです」
着こなしも術媒体としての扱いも難しい衣装をまとい、貴族としてみても聖職者として見ても完璧な所作でイコニアが礼をする。
歓迎の拍手もあるが、ユウのときと比べると熱意が薄い。
権力を使って最後の演者になったのではないかと思われているのかもしれない。
ユウなどの少数を除けば白けつつある会場を、フィーナがイコニアの後ろから眺めていた。
「私の推測が正しいなら強い反応があるはず」
イコニアの狂気も特質も、ルルの……この土地の過去も、そこから生まれた禍根も全て承知している。
承知した上での選択だ。
歌が始まる。
イコニアの鎮魂歌は徹底して手堅く、フィーナが唱和しても面白みがない。
数百年前の法術とほとんど変わらないのだから当然だ。
「来た」
丘より南では日常的に感じる負の気配が現れる。
この地の象徴であるルルに気付かれないほど慎重に、負マテリアルを燃やし尽くすほどの殺意を以てただ一人の人間に集中する。
イコニアの口元が笑みの形に歪む。
過去の聖堂教会がやり過ぎたという思いもあるし、己が受け継いだものに関する後悔もある。
一生を鎮魂に捧げることすら選択肢の中にある。
であると同時に、歪虚に対する殺意だけは最初から変わらない。
「古エルフに鎮魂を。歪虚に無為な消滅を」
司祭の正マテリアルが激減する。
負マテリアル製の刺客が藻掻き苦しみ薄れていく。
実体を持たない歪虚に、司祭の浄化術は良く効いた。
司祭の側もただでは済まない。やせ我慢をしても意識は薄れ顔に出さないだけで精一杯。
フィーナがそっと体を支え、演奏終了の挨拶だけを身振りで行わせる。
「ありがとう……ございます」
「いい。早くベッドに」
閉会の挨拶をするアリアに注目が集まり、退場する司祭はほとんど誰にも気付かれなかった。
●日常
巨漢が2人荷台から飛び降りた。
顔にも腕にも無数の治療跡。
骨は太く筋肉は実戦で鍛えられたもので、甲冑を装備していなくても騎士にしか見えない。
荷台から苗木を引っ張り出し左右から抱える。
少し無理な姿勢だったので腰に痛みが走るが気にしている余裕はない。
ハンター部隊と闇鳥部隊が激突した場所まで数百メートルしか離れていないのだ。
「遅いよー?」
メイムは雑魔からなる小部隊1つを駆逐し、Gnomeは枯れた木を引き抜いた上で簡易防御壁まで建てている。
「うちのゴーレムと一緒にしないでくれ」
「いや俺もお前も体力落ってるからな?」
2人がかりで抱えた木は、周囲に漂う負の気配を押し退けている。
それをGnomeののーむたんが受け取り、周囲の警戒を行いつつ慣れた手つきでロの字型防御壁の中に植える。
「枯れ木を運んで。のーむたんは命令継続」
元王国騎士とGnomeが、メイムの命令に従い運搬と撤収に移った。
「それでどんな感じです」
数分後。おごりの食事を平らげ、最近作業着がしっくりしてきた元騎士がたずねる。
「すごく効率よく浄化してるんだけどねー」
枯れ木からは丘精霊の祝福が消えている。
しかし消える目に浄化あるいは無力化した負マテリアルは大量で、損得だけを考えるなら最高級の浄化アイテムだ。
「ルル様が身を削っているのを消耗品にしたくないよねー?」
「ですな」
「他の手段を思いつける頭があればよかったんですが」
腕っ節も見た目ほど頼りにならないが、頭脳面では頼りにならないどころか純粋な足手まといだった。
●墓参
白い小鳥が肩を寄せ合い微睡んでいる。
植生が回復したばかりのこの場所は、餌は少なく外敵はそれ以上に少ない。
闇鳥をはじめとする強力な歪虚は、人間は執拗に狙うが小動物はほとんど無視していた。
小鳥たちが目を覚ます。
雑巾を持ったユキウサギが動きを止め、大きなバケツを持ったソナが困ったように微笑み軽く頭を下げる。
ちいさい羽ばたきが聞こえ、2羽は食料を求めて北へ移動していった。
「ここは静かですね」
精霊を敬い精霊に祝福される、正の循環が成立している。
あの鳥たちも、その環の中にある。
「他者を嫌うのも辛いこと。そんな思いもさせたくないし」
慰霊の碑に視線を固定したまま語りかける。
強烈の負の気配が、周囲に負を撒き散らさずにこちらを見ている。
それは、丘精霊を崇めこの地で代を重ねてきたエルフだった。
今では生き物ですらなく、悲憤を核にした歪虚としてこの世にある。
「ルル様とならどこでも心が繋がる、でしょ?」
故に強く、故に丘精霊に遠慮し力を出し切れない。
負の気配は強くも弱くもならず、若きエルフに背を向け南へ消えた。
「ソナせんせー!」
「お供え物持って来ましたっ」
「途中でルル様に半分食べられちゃいましたけど」
分厚い革鎧姿の生徒たちが走って来る。
手には東方風のお盆。
皿の上にあるのは東方風の焼き菓子だろうか。
「こういう場所では静かに、ね。ルル様も騒いでいないでしょう?」
「え?」
「そ、そうですよねっ」
子供達が目を逸らし、誰もいないはずの場所をちらちらを見る。
ソナが気付いて振り向くと、気配を消してソナに飛びつこうとしていた丘精霊が、宙で静止したまま風に流されようとしていた。
「もう少しだけ、厳しく接した方がよいのかしら」
ルルの硬直が解け、ソナの袖を引き涙目で甘やかしを要求した。
●後片付け
「ん……」
最初に感じたのは獣臭だ。
次にシーツの感触。
どちらも覚えがあるのに感覚と知識が繋がらない。
「イコちゃん目ぇ覚めた? 後片付けできるところはしたけど回復次第確認お願い」
脳が正常に戻り大量の情報が処理される」
「二十四郎さん、護衛ありがとうございました」
獣臭と大きな熱が離れる。
寝ずの番をしてきたイェジドが大あくびをして、主であるサクラの足下で丸くなった。
「今何時です……まさか夜っ!?」
部屋が薄暗いのは午前の光をカーテンで遮っているからだ。
「まだ1日経っていないよ」
「ここまで運んでくれて感謝を……いやそうじゃなくて」
情報処理の速度が上がる。
額が熱いくらいに熱を持つ。
「今の指揮は?」
「名目上はマティちゃん。実質はソナさん達。バイトエルフの人達も時間を稼いでくれてるよ」
困惑の視線に気付いたサクラが詳しく説明する。
「お客さんも演奏者もかなり残ってるんだよねー」
肩をすくめる。
演奏者はコネ獲得に励み、貴賓は農業法人に興味津々で、屋台は聖堂戦士団の旺盛な食欲に応えて儲けている。
「あのまま街になるかも?」
「夢のある話ですね」
イコニアの言葉に悪意はなく、すがるような響きがあった。
サクラが咳払いする。
イェジドが立ち上がって警備を交代する。
「この前はごめん、ちょっと読み違えた。イコちゃんの隈がとれてイコちゃんが責任取らされないよう次も頑張る」
「私も失敗を重ねてきましたからサクラさんを非難できませんよ」
イコニアが順風満帆に見えるのは表面だけだ。
本来なら時間をかけて説得すべき場所で時間をかける余裕を作れず、教会内から恨まれている。
「できれば私のフォローできる範囲でお願いしますね」
「了解。イコちゃんもね」
イコニアの肌に触れる。
化粧を取り除いたそこには、濃い隈が浮かんでいた。
「お疲れ様でした」
数時間後。全ての挨拶と指示出しを終えたイコニアがうつろな目をしていた。
前日は屋台同然だったはずなのに、今は現状ななったカフェで持て成される。
来週には、農業ゴーレムによる臨時でない店舗になっているかもしれない。
「僕が作ったので、お口に合うかはわからないですが」
白い皿の上にはオレンジチョコタルト。
色と形で目を楽しませ、食欲を復活させる程よい香りを漂わせる。
「今は固形物は……」
ホットキャラメルミルクティーのカップが手渡される。
冷え切った白い指に、相手を気遣う熱がじわりとしみた。
「美味しい物を食べれば疲れも緊張も和らぐかなと思って」
邪気のない顔でワクワクしながら待つ。
イコニアの事情も知っているので、暗殺等の襲撃に備える位置でニコニコしている。
「僕は歌ったり踊ったりは出来ないですし、今まではお祭りの類や人混みは苦手だったのですが」
カップがわずかに傾き。
イコニアの眉間の皺が薄れ。
カインの口元がほころぶ。
「イコニアさんの誕生祭の時に喜んでくれたり今までにない経験で、また音楽祭でも煎れることが出来るのは嬉しいし楽しくなります、こう思えるようになったのは貴女のおかげです」
Grazie mille Iconia、と。
狙ってしているなら高レベルホスト並の手際であった。
意図して表情を変えないイコニアを、フィーナが3つ隣の席から眺めている。
効いている。
そして、流されない程度に自制できている。
「まずはお疲れ。例のエルフが素直に去ってくれたのは意外だった」
「歌だけでも脅威でしたけどね。皆さんの歌が素晴らしかったからあまり目立たなかっただけで」
小さく切ったケーキを口に運んで軽く息を吐く。
「最近婚期についてうるさく言われているようですが」
イコニアは、咽せた。
「心に決めてる人がいるわけでもなし」
カインの表情に変化はない。
「恋愛に興味が無いわけでもなし。もしその気が無くて煩わしいのなら虫除けになってもいい」
イコニアが、盛大に飲み物を噴き出した。
「そんな噂が流れたら私が社会的に死にますっ」
テーブルをカインが拭いているのにも気づけない。
「性別が問題?」
「年齢ですっ。同性同士を見ない振りはできても片方が低年齢なのは無視できませんからっ。上司にも部下にも問答無用で監禁されて再教育ですよ私だけっ」
「そう」
ある程度信頼はされていることと、とりあえずイコニアが元気になったことに満足し、フィーナは朝ご飯をカインに注文するのだった。
闇色の歪虚が上下に切り裂かれた。
飛び散る肉と羽が解けて負マテリアルに戻り。
頭部が驚愕の表情のまま地面にぶつかり何度も弾む。
破壊はそれで終わりでは無い。
隣にいたより大きな闇鳥に、巨大な刃が横からめり込み絶叫を強いた。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が全身を使って魔斧を引き抜く。
斧に重さがないかのような速度で引き抜く。
そのままの勢いで真上から振り下ろし。
闇鳥の分厚い胸が左右に裂け、そのまま下へと広がり股まで届いた。
「よし」
中から体液が飛び出たときにはボルディアの姿は遠くにある。
イェジドが吼える。
無音で急降下して来た小型飛行歪虚が、姿勢制御に失敗して地面に墜落する。
軟着陸に成功した個体もボルディアの斧に潰され再び空に上がることはできない。
小型飛行歪虚……この地では目無し烏と呼ばれる歪虚が微量の負マテリアルに戻り地面に染みる。
CAMサイズ以上の大型歪虚である闇鳥もかなりの量の負マテリアルに変わり、乾ききった大地に負の属性を与えていく。
歪虚汚染拡散にすら見えるが歪虚を放置するより万倍マシだ。
倒せば、少なくとも数割の負マテリアルが消えるか変質するのだから。
「戻るぞ」
ヴァーミリオンが慌てたように振り向いた。
ボルディアは斧と鎧を感じさせない動きで相棒に飛び乗り、有無を言わせず北に向かわせる。
まだ2体いる、倒そう、という意図が気配で伝わってきた。
「もうちょっと多いぜ」
ボルディアの優れた感覚は、雑な偽装で隠れた闇鳥2体の南に息を殺して潜む大型闇鳥4体を捉えていた。
乾いた地面に数メートルの亀裂が走る。
土色に染まった闇鳥の頭が、固い地面を無理矢理押し広げてボルディアの後ろ姿を睨み付けた。
「まあ見てな」
10近い銃弾が闇鳥頭部に直撃。
ボルディアほどの威力も攻撃範囲もないが、闇鳥の分厚い防御を抜いた上で十分な打撃を与える程度の威力がある。
イェジドが滑るように斜め前へ。
溜なしで放たれた闇ブレスが、直前までイェジドの足があった地面を焼く。
「我慢しろ。迂闊に奥に突っ込んだら6体がかりで袋叩きだ」
紅の毛並みを撫でてやる。
「お前となら勝てはするさ。けど無傷じゃすまねぇ。合計10体ぽっちじゃじゃ暴れ足りねぇだろ」
ヴァーミリオンは機嫌を直し、途切れぬ銃撃の源の足下で停止した。
「リロード」
重機関銃が大量の銃弾を飲み込んだ。
小型コンテナじみた予備弾倉が空になり、R7の黒い腕に後ろへ投棄される。
頭上100と数メートルでワイバーンのブレスが光り、目無し烏9羽分の焦げた骨が風に乗って斜めに落ちていく。
「この前のようなことがないように」
HMDに表示される兵器がいつもと違う。
ため息とも安堵ともつかない息を吐きながら、エルバッハ・リオン(ka2434)は操縦桿のボタンの上に細い指を乗せる。
「武装などを強化しています」
機体を通して振動。
1連射10発の弾が9発当たった。
地面から腰まで抜け出た闇鳥の頭部が半ば形を失い、索敵能力が極端に低下する。
スラスター作動。
もう1体が放ったブレスがR7ウィザードの脚部装甲を掠めて温度を上げる。
塗装が傷ついた程度でダメージは0だ。
エルバッハは無傷な1体に銃撃を集中させ、時にスラスターを温存し時に躱し損ねて斬艦刀で受けながら射撃戦を継続する。
「刀よりも盾の方が良かったかもしれません。しかし接近戦能力を下げるのも……リロード」
再び頭上でブレスの光。
再装填の際に生じる微かな隙を、ワイバーンを駆るドラグーンが潰してくれている。
頭部損壊歪虚が銃声を頼りにブレスを放つ。
同属との同時攻撃による回避半減を狙ったようだが、2秒も時間差があるのでエルバッハは余裕をもって防ぐ。
時間が過ぎる。
ウィザードがわずかに傷つき、無傷だった闇鳥も片翼半壊状態に陥った。
「そろそろです」
「応」
「私は右を」
「んじゃ俺は左だ」
HMDの残弾表示が0になると同時に、中破闇鳥2体がブレスを撃たずに全力での突撃を開始する。
南方の地面から目無し烏が飛び立つ。
高度がないため加速は緩いがとにかく数が多い。
南東から南、そして南西まで合計して200と数十。
アリア・セリウス(ka6424)とボルディアは闇鳥突撃阻止に集中しているため、小型の全てがエルバッハ機へ殺到する。
「クウ、手前30メートル!」
上空のワイバーンが鋭角を描いて急降下に移る。
エルバッハのHMDに、蒼白の美しい鱗を持つドラグーンの凜々しい顔が映った。
「タイミングはこちらであわせます」
「はい! 2、1、今!」
火球の爆発とワイバーンのブレスが歪虚群の目の前で炸裂する。
いきなり停止することなどできるはずもなく、爆風あるいは炎に焼かれて骨あるいは炭に変わる。
「終わりました」
「こっちもだ」
アリアとボルディアが戻ってくる。
鎧袖一触だ。
中破までにかかった時間を考えるとため息の1つもつきたくなる。
力の性質が違うだけだということは分かっているが、こういうのは理性というより感情の問題だ。
「1機いるかどうかで何もかもが違ってきますね」
「そうだな。お陰で休憩もとれる」
前衛担当が一息ついている間もエルバッハは戦闘中だ。
重機関銃の射程内の敵に対して延々と銃撃しては再装填。
気力体力を磨り減らす重労働だが、敵の撃破数も減らした負マテリアルの量もダントツの一位である。
エルバッハの耳に軽い警告音。
HMDに新たな敵影が強調表示させる。
「真南に闇鳥4体、その100メートル南東に6体」
「俺手前な」
「では私は奥で」
剣と槍を両手に軽々と構え、アリアが最も敵陣深くへイェジドを走らせる。
感覚を惑わす負の気配も、近寄られたら超高位覚醒者の近くをごまかせない。
6体を囮に、南から4つの特に強い気配が歩調をあわせて接近。
6体が全滅する前に、増援による完璧な包囲網が形成されるかと思われた。
「ここまで御膳立てされてはね」
アリアが星神器を投擲。
空から龍騎士を称える歌が響く中、光纏う槍が闇を抉って南に抜ける。
強さの証である巨体が弱みとなり、5体とも消滅寸前まで追い詰められた。
「これが最後のブレス」
クウがファイアブレスを放って5体うち1体を焼き尽くす。
消えゆく闇鳥の脇を通ってアリアとイェジドが一旦北に戻り、ボルディアが残り1体まで討ち減らした闇鳥に止めを刺す。
「龍園なら龍園まで下がる状況だけど」
ユウ(ka6891)とクウが北へ加速した直後、彼女達が直前までいた空間を毒まみれのブレスが通過した。
「BS強化闇鳥と推定。撤退しますか?」
エルバッハの問いかけに即座に返答がある。
「お陰でスキルに余裕があります。あれが全てなら負傷者無しで倒せるでしょう」
エルバッハが雑魚全てを担当したことで、前衛陣のスキルと体力の消耗が最低限で済んでいる。
なので全力を闇鳥にぶつけることができる。
「なんつーか、お前エルフ扱いされくなってねーか?」
エルフに対しては多少態度が柔らかいはずの闇鳥達が、人間に対するような殺意に満ちた目でエルバッハを見ている。
「返答に困ります」
エルバッハは重機関銃の酷使を続ける。
自費で買えば報酬分が吹き飛ぶ量の弾を使ったのだ。
調子が悪くなってもおかしくないし、帰還後は分解整備必須だろう。
「闇鳥1撃破」
後退しながら防戦するアリア達の肩越しに撃つ。
「闇鳥1撃破」
かつての苦労はなんだったかと思ってしまうほど、簡単に敵が落ちる。
敵の得意な戦いに対応するしかなかった前回と、こちらの得意な戦いを強いることができた今回の違いかもしれない。
「来ます! BSに注意して下さい!」
コクピットの中でも腐臭が感じられた。
ユウの破邪の歌の影響下になければ、エンジンが一度止まっていた可能性もある。
表面がどろどろに溶けた闇鳥4体が、左右からアリア達の猛攻を受けながらR7に襲いかかった。
斬艦刀は使わない。
至近距離には使えない作電磁加速砲を構え、それを媒体にしてファイアーボールを行使する。
敵味方識別機能がない術ではあるが新人時代からこれまで使い続けた術だ。
混戦でも誤射は滅多にないし、一度や二度誤射されて倒れる者はこの場にはいない。
これまでの闇鳥に比べると柔らかな肉が焼け焦げ、強烈な腐臭を発生させながらあっという間に萎んでいく。
回避し辛い広範囲型ブレスがR7の腕部を焼き、しかし損傷は軽度であり小破と中破の中間程度のダメージしか受けなかった。
「脆い」
2度目の爆発で2体が倒れ、3度目の爆発で残りの2体が滅ぶ。
残っているのは通常型の死にかけ闇鳥だけだ。
「私達の手持ちのスキルでは永続的な浄化は出来ないわ。一度戻りましょう」
ロングヌスに貫かれた歪虚が、断末魔も残せずこの世から消滅した。
●音楽祭準備
上も下もない場所にメイム(ka2290)が浮いていた。
動かそうとしても体は動かない。
視界には色も変化もなく、時間の感覚も曖昧になる。
数秒過ぎたのか数時間過ぎたのか。
さすがに焦れてきたメイムに巨大な気配が近づいた。
「聞こえますか……エルフ・メイムよ……丘精霊ルルです……」
神秘体験である。
信心深くない者の価値観を一変させてしまう迫力と清らかさがある。
「森はいいです……すごくいいのです……ただいま移住促進キャンペーン中です……」
内容が俗っぽくても納得させられてしまう説得力がある。
メイムですら、この声と気配に慣れていなければ危なかった。
「エルフ定住を……」
「どうして祝福を強めているの?」
手を伸ばす。
見えはしないが卵のような肌に触れたのでむにゅむにゅする。
ニキビの感触と治りかけの肌の感触が指の先に触れた。
「やめて」
「ほしいの」
「だめかなー?」
声が3つに分かれて迫力がなくなり、声が音ですらなくなりテレパシーに変わる。
いつの間にか、大勢が行き来する道の脇の光景に戻っていた。
「この間はソナさんの希望に応えての巡礼路だと思ったけど、顔ブチブチだよ? ヒールでも治らないし」
ちょっといたい
精霊虐待反対ー
だれかたすけてー
この地の最高権威である精霊が助けを求める。
テレパシーに気付いた聖堂戦士や元王国騎士が駆け寄って来るが、メイムに気付くと苦笑して丘精霊様をよろしくと言い残して仕事に戻っていく。
このくらいのじゃれ合いはいつものことなのだ。
「ルル様」
半ば遊びながら抵抗していた丘精霊が焦りだす。
メイムの拘束から抜け出そうとしても、7歳児な見た目以下の体力しかないので抜け出せない。
物理的に姿を消すこともできはするるが、それで逃げると本気で軽蔑される気がするので打つ手がない。
「必要もないのに人を傷つけてはいけません」
口調はおっとりとしているが、ソナ(ka1352)は断固とした態度だ。
巫女というよりも保護者と称した方が実情に近い。
「仲良くなりたいのに近づけないばかりか、傷つけてしまうのは悲しいもの」
ソナが心から悲しんでいて、ソナが本心からルルを気遣っているのが分かるから辛い。
反抗したら自分が悪い子みたいじゃないか!
「ですから」
少し儚げに微笑み、子供用の落書き帳とペンを手渡しした。
「その時思ったことで一番伝えたいことをひとつ選んで書くのです。テレパシーでも一言づつ、焦らずやってみて」
えっ
そんな
すごくめんど……いえなんでもないです
メイムから開放されたのに気づきもせず、肩を落として近くの机付きベンチへ向かう。
ごはん
おかし
じゃなくて
独り言のテレパシーもかなりの高出力で、非覚醒者がうっかり近づかないようハンターが注意する必要がある。
「身体表現でも、声に出すのもよいのですが」
「あたしのときみたいに精霊様モードになるなら駄目じゃないかなー」
ペンを離して大声を出そうとしていた見た目幼女の精霊が、悲しそうな目をしてペンを拾って髪に向かう。
3文字書いては2文字か3文字に線を引いての繰り返しで、見ていて眠くなるほどだ。
「音楽祭への意気込みを大きな紙に書いて会場に張り出すのはでうでしょう? ルル様がこういうふうにしたいんだってわかると、見た人が意識してそうあろうと頑張るでしょうから」
ペンが止まる。
むむと声にもテレパシーにも出さずに考え込み、その光景を想像して表情がほころぶ。
やるっ
3文字書いてまた考え込み、1文字に数分かけながら文章を書き始めた。
「あ、いた」
宵待 サクラ(ka5561)が小走りなのにほとんど足音を立てずに駆けてくる。
「今時間いい? ありがと。今更私にルル様って呼ばれても微妙かなー、と思うので。ルルにお願いがあります」
言葉は軽いが礼儀正しく、真正面から精霊に向き合う。
丘精霊ルルはペンを丁寧に机へ置き、薄い太股の上で手を組んでサクラを見上げた。
「子供達の聖歌合唱時に、ハンドベルで参加して貰えないかな? せっかくの音楽祭だもん、ルルもこの学校の子、というか精霊として、聞くだけじゃなく一緒に楽しんで参加して貰えたらって思うんだ」
ルルはテレパシーを使う前に止めペンに手を伸ばす。
意外に綺麗な持ち方で、どんな曲? と書く。
「毎朝……っていうか今日も歌ってたじゃない。あのとき驚いて止めるの忘れてたけど、伴奏はともかく歌うのはまずいんじゃないかなー。前回の提案をうけてくれるならそれはそれでいいんだけど」
ルルは疑問符を書いて小首を傾げる。
「うわ、これちょっと拙いんじゃないかな。イコちゃーん、ちょっと相談。ひょっとしたらクリティカルなアレ」
「すみません後はマティ助祭とお願いしますっ」
大型荷馬車の向こう側から女司祭が顔を出す。
サクラに耳元で囁かれ、目眩に襲われ高価そうな荷馬車にすがりついた。
丘精霊にとり、エクラ教の儀式も装束も単なる趣味でしかない。
ルルがエクラに下ったと勘違いした人間の前で、丘精霊側は悪意無く地雷を踏みかねない。
具体的には、高位聖職者の前で宗教をからかう歌を熱唱するとか。
「こんなところにいた」
農業法人の技術者と話していたメイムが、話を終わらせてからイコニアへ近づく。
「他の人の意見とは異なるけれど、あたしは丘に隣接して浄化が完了した場所を会場に推すよ。浮足立っている今のルルさんがここに長居するのは祝福の低下を招きそう」
「一理……いえそれ以上の理はありますが」
反論を始めようとする聖堂教会司祭を目で制し、ルルに文字の書き順を始動しながら言葉を続ける、
「ルルさんの為の音楽祭なのに資材人材の都合でこんなに丘から離れたのは違和感があるよね。有事は果樹園を抜けて学校方向に避難させれば済むし、座れる場所さえ確保できれば演者の後ろに幕を張るくらいで十分だよね? 王都でもなしに」
「設備については反論できません。避難誘導については反論するしかないですけど」
イコニアが気合いを入れて姿勢を正す。
「最低限の訓練も受けていない非戦闘員の避難は困難です。演者のみに限定しても十数人も……」
ルルが凄い勢いで振り返り、涙目でぷるぷる震えだす。
乱れに乱れた筆跡で、みんなといっしょにききたいの、と3分かけて書き上げた。
「うーん……だったらもうちょっと北でもいいけど、それ以外にも理由があるでしょ?」
イコニアの表情が一瞬にも満たない時間制止し、ルルが明後日の方向を向いて下手なハンドベルの演奏を始める。
通りすがりのユキウサギとユグディラが混乱して踊り出す。
ソナとサクラが、ダメージ無しとはいえ軽度BSな演奏を近くの人間に謝罪していた。
「貴族の接待とかお菓子とか」
「丘精霊殿、ここにおられたか!」
押し出しの良い男が笑いながら現れた。
イコニアが頭を下げ、ルルが奇妙なほど愛想良く飛びつく。
「はっはっは、ポケットの中にお菓子はないですぞ? 今日の便で妻から土産が届くはずですので、娘と一緒にどうです?」
行くー
食べるー
祝福いるー?
ソナの言いつけも忘れてテレパシーを使う。
非覚醒者であり強烈な痛みに襲われているはずなのに、この爵位持ちは悲鳴を漏らすどころか笑顔も崩さない。
「祝福は安売りするものではありませんぞ。儂の娘のことをたまーに見守ってくださればそれで十分ですとも」
精霊を崇めながら利用する、ある意味王国貴族らしい態度であった。
わかったー
あっ
やべーでちゅ
食欲で蕩けた顔が、一瞬で清らかな表情に切り替わる。
澄まし顔で書き取りを始め、しかしソナの視線に気づいて動きが硬くなった。
「いやー、とんでもないね。イコちゃんの貴族式交渉術の完成形?」
悠然と立ち去る貴族の背を眺め、サクラがちらりとイコニアを見た。
「短時間で恨みを残さず懐柔するのは見習いたいですね。大公様という重石が外れて元気になった方が結構……」
非覚醒者なので全く聞こえていないはずなのに、男爵が一度だけ振り返ってにやりと笑った。
「ん、んんっ、私もまだまだということです。限度を超えた便宜を図れと言う方ではありませんし、穏便に持て成して穏便に帰って欲しいなー、と」
「世界は広いということね」
作業着姿のアリアが現れた。
目立たない服装なのに、ハンター以外の視線を強烈に集めて離さない。
舞台で映えるだけではなく、己の居場所を舞台に変えてしまう存在感の持ち主だ。
「お疲れ様です。作業の進捗はどうです?」
「音響面では問題ないわ。ここから見えるかしら」
イコニアとルルが、予算会場から1キロほど南に造られた本戦会場に目を向ける。
移動中の農業ゴーレムや魔導トラックが邪魔でよく分からない。
両者つま先立ちしようとしてバランスを崩しかけた。
「仮設舞台を流用させてもらったわ」
「凄かったです!」
ユウが目を輝かせている。
「音の重なりも声に乗った熱も、全部初めての経験です!」
それにどんな印象を受けたかは見れば分かる。
すらりとした手が元気に振られるたびに、アリアに集まっていた注目がゆっくりとユウに移り始める。
「録音であれなんですよね。今から生で聞けるのが楽しみです!」
そのセリフに恥ずかしさを感じることで、己の汚れ具合を自覚してしまうイコニアであった。
書き物に戻ろうとしていたルルが、鼻を可愛らしく動かしユウに向き直る。
空色ワイバーンのアップリケ付きエプロンを着たユウが、本来の用件を思い出す。
「ルル様、音楽祭で食べたいお菓子をこの中から選んで、後で教えて下さいね」
今朝方全身洗浄された農業ゴーレムが、気取った動作で銀製の盆を丘精霊に差し出した。
王都の一流職人がつくる品々と比べると、見た目も香りも明らかに劣る。
しかし、ルルを崇める者がこの土地でつくった麦が使われてるそれは別格だ。
王都の職人作は嗜好品。
こちらは精霊としての力に繋がる栄養だ。
ルルはいただきますもなしにかぶりつこうとして、ソナの目に気付いて慌てて姿勢を正した。
全部じゃだめ?
「私も演者として出るので少し時間が」
ユウが困った顔になる。
強く願えば歌を諦め作ってくれそうなので、ルルもそれ以上は主張できなくなる。
「あのっ」
生徒が声をかけてくる。
「私達にも手伝わせて下さいっ」
「お願いしますっ」
頭を下げるタイミングも不揃いだ。
姿勢も決してよくはない。
ただ、全く教育を受けていない状態から数ヶ月でこうなったのだから驚異的な成長だ。
ユウの目が優しくなる。
イコニアが司祭らしい顔になる。
ルルは、特に何も考えずに無邪気に喜んでいた。
●音楽祭
みんななかよく。
丘精霊ルル直筆の標語が最も目立つ場所に掲げられた。
舞台の部分部分は質素とすらいえる。
床の木材は頑丈さ優先で豪華さも華麗さもなく、上を覆う天幕も聖堂戦士団から貸し出された実用品だ。
「ほう」
「これは嬉しい予想外だ」
しかし全体を見れば違う印象になる。
出入り口以外の壁は音響を計算した角度をつけられ、視線が違和感なくステージに集中する形に全てが配置されている。
椅子は座り心地がよいだけでなく周囲との感覚が絶妙だ。
戦傷や加齢で足や腰を悪くしている者も負担無く楽しめる。
「これは貴方が?」
「舞台はアリアさんと……」
ソナが舞台脇に目を向ける。
農業用ゴーレムがぺこりと一礼するのを見てしまい、来賓は人の目があることも忘れて目を丸くした。
「予想外のことばかりだ」
「そろそろです」
天幕の位置がずれる。
会場が薄暗くなり、自然と私語が消えていく。
「ようこそおいでくださいました」
ゴーレムが綱を引っ張り天幕を動かす。
自然な光がステージ中央を照らし、細見の体をドレスで包んだアリアを浮かび上がらせる。
「本日の歌は、全て精霊様へ捧げる歌」
肝心の丘精霊は一番いい席でうとうとしている。
「今日の日を楽しみましょう。それが一番、精霊様の御心に適うはずです」
開会宣言はこれで終わりだ。
アリアは初の演者として、常人なら潰れかねないプレッシャーの中歌い始める。
声が透き通っている。
込められた感情も音の広がりも非常に繊細で、なのに耳の遠い老人にもはっきり聞こえるほどに大きい。
ステージの左右に配置された、魔導トラック搭載ソニックフォン・ブラスターの効果である。
歌の内容は陳腐とすらいえる。
人魚と人の種族を越えた恋が、精霊の導きで結ばれる恋愛歌。
故に歌い手の巧さが強調される。
歌としては少し長く、お話としては短く纏められた歌が会場に広がり耳を楽しませる。
いつの間にかルルも目を覚まし、食い入るようにアリアを見つめている。
あらゆる種族が種を越えて手を取り合う光景が、微かに見えた気がした。
―――何を求める
―――理想。実現。生
―――憎むより幸せを
音が解けて夢幻も消える。
アリアが一礼して終わりを告げても、観客皆が己の感情に翻弄され何も言えなかった。
「こりゃぁまずいな。次のがぶるっちまってる」
「誰が出ても見劣りしますから気持ちはすごくよく分かります。後1分経って駄目なら私が出ますね」
ステージの準備を始めようとしたイコニアを、ボルディアが不敵な笑みで止めた。
「俺が出る」
「正気ですか」
「お前結構失礼だよな。まあ見てな」
司会席に移ったアリアが演目順の変更を告げる。
飛び抜けて素晴らしくあっても王国の常識内にはあったアリアとは異なり、馴染みのない曲名と解説が直前とは別方向に客を混乱させる。
「演者の名前に聞き覚えが」
「ハンターの戦士?」
貴賓席も軽く混乱している。
ボルディアに対する悪意は無く、気遣うような雰囲気だ。
ある意味最悪の侮辱ともいえるが、ボルディアは怒りはせず純粋に闘志を燃やす。
天幕が操作される。
会場全体が暗く、特にステージは顔も見えないほど暗くされる。
足音が響く。
いったいどんな演奏がどんな衣装でされるのか観客全体が心配になったタイミングで、低音の熱い響きが会場全体に轟いた。
ソニックフォン無しでこれだ。
肌に直接振動を感じる大音量なのに、耳に痛みはなく腹の奥に強い熱を感じる。
光の量が増えボルディアが照らされる。
紅い。
鮮やかに動く滑らかで、全身機敏に跳ねると非常に若若しい。
少なくともイコニアより2~3歳下に見える。
正体不明の敗北感に襲われ、女司祭ががくりと膝をついた。
歌が続く。
頭や腕っ節の良し悪し気にする暇があるなら胸張って進め。
大事なものから逃げるダセェ真似だけはすんな。
ボルディアの生き方を形にした歌を、観客に理解し同調できるリズムとスペードで叩き付ける。
観衆が熱狂する。
ギターからマテリアルの炎が噴き上がり、力を貸した覚えのないルルが驚愕する。
この光景はカメラで撮影され、地域内イベントの紹介パンフと共に広く出回ることになる。
●正負の均衡
「風が動いています」
深刻な顔で呟いても似合う。
そんな男がカイン・A・A・マッコール(ka5336)であった。
「風?」
イツキ・ウィオラス(ka6512)が不思議そうに小首を傾げた。
相棒の銀イェジドは無言で周囲を警戒している。
過不足なく整備された果樹園には穏やかな風が吹き、小鳥と虫が生存競争を繰り広げている。
「マテリアルの流れです。南からこう向かって……」
カインは大きく手を動かして説明する。
理詰めでの発言ではなく半ば直感によるものなので、内容はかなり曖昧だ。
だが熟練のハンターの直感だ。
丘精霊本人よりも正確かもしれないほど、正負のマテリアルの流れが読めていた。
「ルル様の不在が長引くほど負マテリアルが活性化?」
「はい。いつもは違うのでしょうか」
カインの蒼い瞳に見つめられたら喜ぶ女性は多いだろうが、イツキは特に感慨なく今後の展開を考える。
「違いました。音楽祭は初めての試みですからおそらく……」
真剣な顔で若い男女が語り合う様は非常に絵になる。
狼煙台兼見張り台の上で聖堂戦士(独身)が舌打ちするのも無理はない。
貧乏強請をしながらもう一度舌打ちをしようとして、戦士の表情が別人の如く引き締まった。
「丘に異常、無線および魔導短伝話不通、着火する!」
単独なので返事はない。
ただ、休憩のため移動中だったハンター2人には伝わった。
「予算と人材の無駄遣いで終われば良かったのですが」
学校・精霊の丘間の狼煙を整備したのはカインだ。
気心の知れたイコニアにすら渋い顔をされたが、実際に役立ってしまった以上恒久的なものになるかもしれない。
「参ったな。届かない」
振り向くと、高度数十メートルに目無し烏数羽が飛んでいた。
手持ちに銃器はなく、ユニットのオートソルジャーは絶望的に射撃が苦手だ。
「丘に向かいます。カインさんは増援に事情を説明して下さい」
「分かった。それほど時間はかからないと思う」
北からこちらに向かって来る魔導トラック……正確にはそれに搭載された機関銃を気付いてそう言って、カインはイツキを送り出す。
銀のイェジドが風のように駆ける。
勝手知ったる道なので最高速を保ったまま走ることが可能だ。
立派な桜が1本生えた丘を登り切る。
昔とは違って丘の南にも緑が多い。
精霊に祝福された林は歪虚を退け、精霊の遊び場である沼は歪虚にとっての猛毒だ。
その沼の中に、見慣れたしまった闇鳥の巨体が見えた。
「ハンター殿か」
聖堂戦士たちが矢を放っている。
強弓による攻撃は遠くまで届いて負マテリアルの肉に突き刺さり、しかし威力が足りず浅い傷にしかならない。
闇鳥丘へ近づく。
強酸を浴びでもしたように、全身から腐臭じみた臭いと煙が発生している。
戦士団の半分が槍に持ち替え食い止める準備を始めるが、戦意に溢れた闇鳥を相手にするには足りない気がする。
「私が食い止めます。皆さんは東西と上に注意して下さい」
エイルとイェジド丘を南に駆け降りる。
闇鳥と同じように沼に触れているのに、水も泥も足を焼かず適度に固くなり移動を助けてくれる。
丘精霊の加護が、イツキを通してエイルにも影響を与えているのだ。
「上っ!? 3班は弓に持ち替えろ、小型歪虚が来るぞ」
後ろが五月蠅いが構っている暇はない。
イツキがエイルと呼吸を合わせて斜め前へ飛んだ瞬間、闇色のブレスが泥の上の湿気を消し飛ばしながら急速接近。
危なげ無く躱すことはできたが、気を抜けば骨まで焼かれかねない。
「威力偵察ですか」
闇鳥が己の足下へブレスをまき散らす。
清らかな水と泥により大分部分が無力化されたが、水蒸気が発生して闇鳥の姿が見えなくなる。
おそらく、このまま逃げ去るつもりだ。
「情報を持ち帰らす訳にはいきません。……エイル!」
主従覚悟を決めて突進する。
闇鳥が足を止めて全力のブレス。
丘精霊の力が体に染み込まれ浄化され、闇鳥は一度も攻撃も浴びていないのに重症状態になる。
「ただ討つだけで、何かを変えられるとは想っていません」
槍の握りをわずかに変える。
エイルの首を抉りかけた嘴を、槍の穂先で受け流す。
「今、必要なのは、時間」
イェジドが闇鳥の死角へ潜り込む。
受け流す際に手に残った衝撃も攻撃に活かし、全身全霊の力をのせてひと突きする。
蒼い輝きが巨体の脇から胸へ突き抜け、正マテリアルへの抵抗を失った闇鳥が丘に沈むこともできずに消滅した。
丘の戦いも終わりに向かっていた。
「失敗したな。噛み合っていない」
目無し烏に接近を強いられていた聖堂戦士弓兵達が、カインとその相棒によるあっさりと救出された。
空に浮かぶバリケードと化したオートソルジャーが安全地帯を提供。
小型歪虚相手ではではかすり傷も受けないカインが目無し烏を蹂躙する。
「感謝する。……一度や二度の戦いでは完全な連携は無理だ。口惜しいがね」
戦士団の隊長は本心から礼を述べる。
ハンターとは、能力も戦い方の水準も小さくない差があった。
●後半戦
オーケストラの演奏が終わった。
服装は移動に向いたものだが、演奏自体は王都でもなかなか聞けない水準だ。
「これで前半が終わり。ここまで聞いてみてどうだったかしら?」
「そうですね」
司会のアリアに話を向けられ、解説席に座るイコニアが真面目に答える。
「皆さんそれぞれに優れているので優劣は語れませんが」
精霊の機嫌と会場の盛り上がりではアリアとボルディアが双璧だった。
「個人的に、一番印象に残ったのはエルフのバンドさんです」
「なるほど」
アリアが楽しげに微笑む。
一番手と二番手で極限までハードルが上がった状態で、漫談風演奏をやり抜いたのは好印象だ。
技術的には正直2段ほど落ちる。
だが観客を楽しませようとする気持ちと気合いは評価できた。
「次の方の準備が整いました。お名前は……ジョージと呼んであげて下さい。曲に心を持っていかれないよう、気を付けて」
平然としていられたのはハンターだけだ。
技術のみで人を蕩かす曲が、長年の裏仕事から解放され伸び伸びした老エルフによる奏でられる。
「これが、司教様が言っていた……」
「地位が高くなれば誘惑も多くなるでしょう? このくらいは耐えないとね」
いつも通りのアリアと、顔を赤くし息を荒くしているイコニアが対照的だった。
曲が終わり司祭が安堵の息を吐く。
「聞くだけなのに気力と体力を消耗しますね」
「違う楽しみ方もあるけれど、今回はそうね」
休憩の回数は当初予定より増えている。
今も、はしゃいだ精霊に手を引っ張られた老エルフが、生徒がドーナツを揚げる屋台に向かっている。
「次、大丈夫でしょうか?」
会場内は、アリアやボルディアの直後のような雰囲気だ。
多少巧い程度では下手と認識されけなないので演奏者は辛いだろう。
アリアは微笑むだけで何も言わない。
心配する必要はどこにもないからだ。
「お待たせしました」
イツキの声だが姿は無い。
ステージが暗くなり、覚醒者が辛うじて聞き取れる小ささの足音が聞こえた。
暗がりで30近い目が光る。
1人だけのときに見れば恐怖体験でも、左右に観客がいれば奇抜な余興に代わる。
「幻獣や動物も盛り上げに来てくれました。是非、御照覧下さい!」
ステージが明るくなる。
白、黒、虎縞、三毛、ブチ、その他鮮やかな色の猫たちが勝手気ままなポーズをとって静止している。
観客が何が起きたか理解して歓声を上げるタイミングで、猫たち同じ姿勢になり同期した足踏みで床を叩く。
「猫のタップダンス!」
「気ままな猫にどうやってしつけたんだ」
観客が小声で騒いでいる。
猫が好きで詳しい者ほど目の前の光景が信じられなかった。
「誠心誠意お願いしただけなんです。報酬は必要でしたが」
演奏後イコニアに聞かれたイツキは、猫とユグディラと一緒にごろごろしながらそう返答した。
戦いの後、聖堂戦士団の増援に引き継ぎを行い、会場近くに戻って猫たちと合流して最終の交渉と練習を終えあのダンスだ。
さすがに疲れた。動きたくない。
「どんなに着飾ろうが南瓜や大根だと思えば怖くない! いろんな歌があるけどそれはそれ、いつも通りルル様と一緒に楽しく聖歌を歌って来よう! これはお祭り、楽しんだもの勝ちだ!ね、ルルも楽しもう」
「おー!」
「はい!」
子供用礼服に身を包んだ子供達が元気よく返事をする。
次の演奏は彼等と、丘精霊ルルだ。
普段は人見知りはあっても天真爛漫兼傍若無人なルルが、緊張で体が強ばっている。
持ったままのハンドベルが嫌な音をたてる。
するりとワイバーンが降下し、ルルほどでは無いが小さな人影が飛び降り着地した。
「大丈夫」
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)の腕に抱きしめられる。
ベルの不協和音は止まり、ルルの顔と体からこわばりが抜けた。
ルルは頑張ると目で宣言。
フィーナから名残惜しげに離れ、生徒を引き連れステージに向かう。
登場方法も順番も予定とは異なるが問題ない。
精霊という人間とは次元の違う存在を相手にこの程度のトラブルで済むなら、一般的には大成功といえる。
「打つ手は全て打った」
「ルル様がやらかしたときに私の首だけですむといいのですが」
手応えを感じているサクラと胃を痛めているイコニアを眺めてから、フィーナは後者に囁いた。
「準備」
「ええ、分かっています。反応が予想できないので……」
「上空から監視する」
「お願いします」
2人はサクラが何か言うより早くそれぞれの持ち場へ移動した。
賛美歌が響いている。
伴奏は教師のバイオリンと精霊のハンドベル。
ルルはおしゃれ着からカソックに切り替え、元の席にも同時顕現しているので、ステージ上のルルが丘精霊であることに気付く者は少ない。
気付ける能力があるなら黙っていた方がよいと判断できるので大丈夫だ。
「これが聖堂教会の音楽」
ユウはエプロンを脱ぎ、舞台袖から生徒と精霊をじっと見る。
はっきり言って歌は下手だ。
一部の貴族出身者を除けば音感が養われておらず、楽器演奏で全体をリードすべきルルが頻繁に音程を間違って全体を乱す。
でも楽しそうだ。
腹の底から声を出し、全身を使って音を出し、真剣に仲良く1つの音をつくる。
曲自体にも良さがある。
最低でも数百年歌い継がれてきたそれは、ドラグーンとは別の価値観と理屈で形作られ歌われることで完成する。
ユウの足がリズムを刻む。
楽しい。
綺麗だ。
私も歌いたい。
意識しないと今すぐ踊り出してしまいそうだ。
「学校の皆さんの演奏でした。続いて、龍園のドラーグーン、ユウさんの演奏になります」
笑顔で走って来る生徒達とハイタッチを交わし、最後にルルを抱き上げ下ろしてからステージの中央へ立つ。
視線に圧を感じる。
数は100を少し超える程度なのに、3桁代後半の歪虚を相手にしているよときより圧迫感がある。
「ドラグーンのユウと申します」
王国式の礼はしない。
ユウは一人前の戦士であり、王国という異境の地でもドラグーンの看板は下ろせない。
「これは、私の故郷に伝わる龍騎士の歌です」
静かに息を吸い胸を張る。
龍革の戦装束はユウの優美な曲線を隠さず、それでいて鎧としての性能も誇示している。
ユウ本人の媚びがないことが健康な色香を強調し、欲に慣れ欲で操る側の人間を強烈に惹きつける。
高く澄んだ声が広がる。
―――龍騎士達が戦うのは大切なヒト達を守る為
―――龍園に住まう、家族であり友人であり仲間である全ての為、傷つき倒れた友の思いを引き継ぎ戦い続ける
鼻を啜る音が混じる。
龍園とは形は違うが聖堂戦士も貴族も戦い続けてここにあるのだ。
無言で拳を握り、ユウの歌を通してドラグーンの歴史を追体験する。
―――けれど龍園から一歩外に出れば、様々な理由で互いに傷つけあう殺し合う関係で覆い尽くされている
龍園にいるときは大変でも単純だった。
外に出て遠くに行けばいくほど、同じ生き物で、同じ種族なのに争う姿を目にすることを強いられた。
豊かな土地を持つ王国は特に酷い。
以前なら想像もできなかった悪意を何度も目にして来た。
―――自分に何が出来るかは判らない、それでも自分の力は誰かを守る為に力を振う事に揺るぎはない
若々しく伸びやかな声が高らかに宣言し、浄化術も使っていないのに清らかな風が舞台から吹き付けた。
ユウが大きく息を吐く。
白い額から汗が流れて戦装束に当たって弾ける。
「いつも私達を見守って下さるルル様に感謝を。ヒトも精霊も誰もがきっと手を取り合うことが出来る。そしてそんな未来を作るため微力を尽くします」
長い戦歴を持つ者ほど強く心を動かされて重々しく首肯する。
自然と拍手が沸き起こるが、これまで行われた拍手とは異なり演者への評価だけでなく本人の決意が強く籠もっていた。
「素晴らしい」
「国の外にも目を向ける必要がありますな」
政治と宗教で最も保守的な価値観を持つ者がこの発言である。
この時点で閉会を宣言しても全く問題ないし、できればそうすべきだった。
「続いて……」
だかここで終われない理由がある。
聖導士教育機関として成長し、機械化大規模農業法人が立ち上がり、今回文化的な要素が加わった。
それだけ見れば輝かしい土地だが、地面の下には恨み辛みと負マテリアルが膨大に渦巻いている。
「聖堂教会司祭イコニアのレクイエムです」
着こなしも術媒体としての扱いも難しい衣装をまとい、貴族としてみても聖職者として見ても完璧な所作でイコニアが礼をする。
歓迎の拍手もあるが、ユウのときと比べると熱意が薄い。
権力を使って最後の演者になったのではないかと思われているのかもしれない。
ユウなどの少数を除けば白けつつある会場を、フィーナがイコニアの後ろから眺めていた。
「私の推測が正しいなら強い反応があるはず」
イコニアの狂気も特質も、ルルの……この土地の過去も、そこから生まれた禍根も全て承知している。
承知した上での選択だ。
歌が始まる。
イコニアの鎮魂歌は徹底して手堅く、フィーナが唱和しても面白みがない。
数百年前の法術とほとんど変わらないのだから当然だ。
「来た」
丘より南では日常的に感じる負の気配が現れる。
この地の象徴であるルルに気付かれないほど慎重に、負マテリアルを燃やし尽くすほどの殺意を以てただ一人の人間に集中する。
イコニアの口元が笑みの形に歪む。
過去の聖堂教会がやり過ぎたという思いもあるし、己が受け継いだものに関する後悔もある。
一生を鎮魂に捧げることすら選択肢の中にある。
であると同時に、歪虚に対する殺意だけは最初から変わらない。
「古エルフに鎮魂を。歪虚に無為な消滅を」
司祭の正マテリアルが激減する。
負マテリアル製の刺客が藻掻き苦しみ薄れていく。
実体を持たない歪虚に、司祭の浄化術は良く効いた。
司祭の側もただでは済まない。やせ我慢をしても意識は薄れ顔に出さないだけで精一杯。
フィーナがそっと体を支え、演奏終了の挨拶だけを身振りで行わせる。
「ありがとう……ございます」
「いい。早くベッドに」
閉会の挨拶をするアリアに注目が集まり、退場する司祭はほとんど誰にも気付かれなかった。
●日常
巨漢が2人荷台から飛び降りた。
顔にも腕にも無数の治療跡。
骨は太く筋肉は実戦で鍛えられたもので、甲冑を装備していなくても騎士にしか見えない。
荷台から苗木を引っ張り出し左右から抱える。
少し無理な姿勢だったので腰に痛みが走るが気にしている余裕はない。
ハンター部隊と闇鳥部隊が激突した場所まで数百メートルしか離れていないのだ。
「遅いよー?」
メイムは雑魔からなる小部隊1つを駆逐し、Gnomeは枯れた木を引き抜いた上で簡易防御壁まで建てている。
「うちのゴーレムと一緒にしないでくれ」
「いや俺もお前も体力落ってるからな?」
2人がかりで抱えた木は、周囲に漂う負の気配を押し退けている。
それをGnomeののーむたんが受け取り、周囲の警戒を行いつつ慣れた手つきでロの字型防御壁の中に植える。
「枯れ木を運んで。のーむたんは命令継続」
元王国騎士とGnomeが、メイムの命令に従い運搬と撤収に移った。
「それでどんな感じです」
数分後。おごりの食事を平らげ、最近作業着がしっくりしてきた元騎士がたずねる。
「すごく効率よく浄化してるんだけどねー」
枯れ木からは丘精霊の祝福が消えている。
しかし消える目に浄化あるいは無力化した負マテリアルは大量で、損得だけを考えるなら最高級の浄化アイテムだ。
「ルル様が身を削っているのを消耗品にしたくないよねー?」
「ですな」
「他の手段を思いつける頭があればよかったんですが」
腕っ節も見た目ほど頼りにならないが、頭脳面では頼りにならないどころか純粋な足手まといだった。
●墓参
白い小鳥が肩を寄せ合い微睡んでいる。
植生が回復したばかりのこの場所は、餌は少なく外敵はそれ以上に少ない。
闇鳥をはじめとする強力な歪虚は、人間は執拗に狙うが小動物はほとんど無視していた。
小鳥たちが目を覚ます。
雑巾を持ったユキウサギが動きを止め、大きなバケツを持ったソナが困ったように微笑み軽く頭を下げる。
ちいさい羽ばたきが聞こえ、2羽は食料を求めて北へ移動していった。
「ここは静かですね」
精霊を敬い精霊に祝福される、正の循環が成立している。
あの鳥たちも、その環の中にある。
「他者を嫌うのも辛いこと。そんな思いもさせたくないし」
慰霊の碑に視線を固定したまま語りかける。
強烈の負の気配が、周囲に負を撒き散らさずにこちらを見ている。
それは、丘精霊を崇めこの地で代を重ねてきたエルフだった。
今では生き物ですらなく、悲憤を核にした歪虚としてこの世にある。
「ルル様とならどこでも心が繋がる、でしょ?」
故に強く、故に丘精霊に遠慮し力を出し切れない。
負の気配は強くも弱くもならず、若きエルフに背を向け南へ消えた。
「ソナせんせー!」
「お供え物持って来ましたっ」
「途中でルル様に半分食べられちゃいましたけど」
分厚い革鎧姿の生徒たちが走って来る。
手には東方風のお盆。
皿の上にあるのは東方風の焼き菓子だろうか。
「こういう場所では静かに、ね。ルル様も騒いでいないでしょう?」
「え?」
「そ、そうですよねっ」
子供達が目を逸らし、誰もいないはずの場所をちらちらを見る。
ソナが気付いて振り向くと、気配を消してソナに飛びつこうとしていた丘精霊が、宙で静止したまま風に流されようとしていた。
「もう少しだけ、厳しく接した方がよいのかしら」
ルルの硬直が解け、ソナの袖を引き涙目で甘やかしを要求した。
●後片付け
「ん……」
最初に感じたのは獣臭だ。
次にシーツの感触。
どちらも覚えがあるのに感覚と知識が繋がらない。
「イコちゃん目ぇ覚めた? 後片付けできるところはしたけど回復次第確認お願い」
脳が正常に戻り大量の情報が処理される」
「二十四郎さん、護衛ありがとうございました」
獣臭と大きな熱が離れる。
寝ずの番をしてきたイェジドが大あくびをして、主であるサクラの足下で丸くなった。
「今何時です……まさか夜っ!?」
部屋が薄暗いのは午前の光をカーテンで遮っているからだ。
「まだ1日経っていないよ」
「ここまで運んでくれて感謝を……いやそうじゃなくて」
情報処理の速度が上がる。
額が熱いくらいに熱を持つ。
「今の指揮は?」
「名目上はマティちゃん。実質はソナさん達。バイトエルフの人達も時間を稼いでくれてるよ」
困惑の視線に気付いたサクラが詳しく説明する。
「お客さんも演奏者もかなり残ってるんだよねー」
肩をすくめる。
演奏者はコネ獲得に励み、貴賓は農業法人に興味津々で、屋台は聖堂戦士団の旺盛な食欲に応えて儲けている。
「あのまま街になるかも?」
「夢のある話ですね」
イコニアの言葉に悪意はなく、すがるような響きがあった。
サクラが咳払いする。
イェジドが立ち上がって警備を交代する。
「この前はごめん、ちょっと読み違えた。イコちゃんの隈がとれてイコちゃんが責任取らされないよう次も頑張る」
「私も失敗を重ねてきましたからサクラさんを非難できませんよ」
イコニアが順風満帆に見えるのは表面だけだ。
本来なら時間をかけて説得すべき場所で時間をかける余裕を作れず、教会内から恨まれている。
「できれば私のフォローできる範囲でお願いしますね」
「了解。イコちゃんもね」
イコニアの肌に触れる。
化粧を取り除いたそこには、濃い隈が浮かんでいた。
「お疲れ様でした」
数時間後。全ての挨拶と指示出しを終えたイコニアがうつろな目をしていた。
前日は屋台同然だったはずなのに、今は現状ななったカフェで持て成される。
来週には、農業ゴーレムによる臨時でない店舗になっているかもしれない。
「僕が作ったので、お口に合うかはわからないですが」
白い皿の上にはオレンジチョコタルト。
色と形で目を楽しませ、食欲を復活させる程よい香りを漂わせる。
「今は固形物は……」
ホットキャラメルミルクティーのカップが手渡される。
冷え切った白い指に、相手を気遣う熱がじわりとしみた。
「美味しい物を食べれば疲れも緊張も和らぐかなと思って」
邪気のない顔でワクワクしながら待つ。
イコニアの事情も知っているので、暗殺等の襲撃に備える位置でニコニコしている。
「僕は歌ったり踊ったりは出来ないですし、今まではお祭りの類や人混みは苦手だったのですが」
カップがわずかに傾き。
イコニアの眉間の皺が薄れ。
カインの口元がほころぶ。
「イコニアさんの誕生祭の時に喜んでくれたり今までにない経験で、また音楽祭でも煎れることが出来るのは嬉しいし楽しくなります、こう思えるようになったのは貴女のおかげです」
Grazie mille Iconia、と。
狙ってしているなら高レベルホスト並の手際であった。
意図して表情を変えないイコニアを、フィーナが3つ隣の席から眺めている。
効いている。
そして、流されない程度に自制できている。
「まずはお疲れ。例のエルフが素直に去ってくれたのは意外だった」
「歌だけでも脅威でしたけどね。皆さんの歌が素晴らしかったからあまり目立たなかっただけで」
小さく切ったケーキを口に運んで軽く息を吐く。
「最近婚期についてうるさく言われているようですが」
イコニアは、咽せた。
「心に決めてる人がいるわけでもなし」
カインの表情に変化はない。
「恋愛に興味が無いわけでもなし。もしその気が無くて煩わしいのなら虫除けになってもいい」
イコニアが、盛大に飲み物を噴き出した。
「そんな噂が流れたら私が社会的に死にますっ」
テーブルをカインが拭いているのにも気づけない。
「性別が問題?」
「年齢ですっ。同性同士を見ない振りはできても片方が低年齢なのは無視できませんからっ。上司にも部下にも問答無用で監禁されて再教育ですよ私だけっ」
「そう」
ある程度信頼はされていることと、とりあえずイコニアが元気になったことに満足し、フィーナは朝ご飯をカインに注文するのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/10/29 06:16:23 |
|
![]() |
質問卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/10/26 00:49:25 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/25 21:30:58 |