ゲスト
(ka0000)
【HW】神の指先を貴方に
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/01 12:00
- 完成日
- 2018/11/09 06:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
やあ、選ばれし皆さんこんにちは。
呼ばせてもらったのは他でもない、日々運命に翻弄されるばかりの君たちに一つこんな機会を与えようというものだ。
そう、翻弄される。君たちは翻弄され続けるばかりだった。ほんの気紛れで起こされる災難、現象。それに君たちは受け身、後手で対応させられるばかりだ。
そんな君たちだからこそこの機会を受けとる権利があるんじゃないかと思うんだ。
──すなわち、君が誰かの運命を限定的に導くことが出来る。
細やかな出来事ではあるだろうけどね。君たちが今回は『起こす側』になれるというわけだよ。
……ふむ、ピンと来ていないようだ。ではもう少しぶっちゃけて言おう。
【NPCだっておまかせしたい】
いいよねおまかせ祭あれね。こっちだってお任せしたい。予想してないシチュエーションをそわそわ待ち構えて意外な一面とか発見したい。私にだって知らないうちの子の表情があるはずだ。私以外の発想で動かしたらどうなるのかが見てみたい。
そんなわけで君たちに授けよう。好きな状況を引き起こせる神の指先の一部だ。他人の運命を部分的に司れるとしたら君はどういう風に使うかね?
呼ばせてもらったのは他でもない、日々運命に翻弄されるばかりの君たちに一つこんな機会を与えようというものだ。
そう、翻弄される。君たちは翻弄され続けるばかりだった。ほんの気紛れで起こされる災難、現象。それに君たちは受け身、後手で対応させられるばかりだ。
そんな君たちだからこそこの機会を受けとる権利があるんじゃないかと思うんだ。
──すなわち、君が誰かの運命を限定的に導くことが出来る。
細やかな出来事ではあるだろうけどね。君たちが今回は『起こす側』になれるというわけだよ。
……ふむ、ピンと来ていないようだ。ではもう少しぶっちゃけて言おう。
【NPCだっておまかせしたい】
いいよねおまかせ祭あれね。こっちだってお任せしたい。予想してないシチュエーションをそわそわ待ち構えて意外な一面とか発見したい。私にだって知らないうちの子の表情があるはずだ。私以外の発想で動かしたらどうなるのかが見てみたい。
そんなわけで君たちに授けよう。好きな状況を引き起こせる神の指先の一部だ。他人の運命を部分的に司れるとしたら君はどういう風に使うかね?
リプレイ本文
●俺がお前がPCでNPC
タイトルっぽいもの『迷子の迷子の……?』
■オープニングっぽいもの
「……敗因は分かっているのだ」
どこか哀れみを誘うような、徒労に掠れる女性の声がした。
天央 観智(ka0896)はふと、声の方へと視線を向ける。
ハンターオフィスの一角である。観智はちょっとした手続きがあるためここに来ていて、今は受付の作業が完了するまで、ここで呼び出されるのを待っていた。その時に聞こえてきたものだ。
どうやら頼み事をする上で状況の経緯を語っているらしい。曰く、彼女は今日は用事があって姉と共に機導師の工房を訪れていたらしいのだが……。
「姉上に言っておいたのだ。『その辺で待っていてくれ』と。ああ……そうだな。何故『そこでじっとしててくれ』と言わなかったのだろうな。逆にある程度の移動を許したことに他ならないじゃないか? あの! 母の腹に東西南北を置き忘れてきたとまで言われる姉上に!」
後に知った、彼女の名は夕霧。その姉、どうやら朝霞は聞くだに無惨な方向音痴のようで──その姉がまた、一人で居なくなったと、そう言う話のようだった。
その頃の朝霞。
「うんうん。やっと追い付いた。いやあ、私も暇していたからね。少しばかり遊んでくれると嬉しいなあ」
どこぞとも知らぬ道を歩く彼女は、今、猫を抱き上げて上機嫌だった。
「つれないかと思ったら、意外と人慣れしているね君は? 毛ヅヤも良いし、どこかのおうちの子かな?」
ニコニコと歩く。そう、歩く。なんとなく。ただ猫を抱き上げてこうしていると気分が良いだけで、どこに向かっているとかでは無い。というか、どこに向かっているのか分かっているのかは果てしなく怪しい。が、気にしていない。
そうして歩くうちに……。
「あ、……ああ!?」
驚きの声が下の方から聞こえてきて、朝霞は不意に視線を向ける。
その先に居たのは猫耳を着けた少女、夢路 まよい(ka1328)だった。
「やあ、どこかで会ったかな」
「うん、見覚えあるねー……って、それよりもその猫!」
朝霞が抱いている猫、それを目掛けてまよいは朝霞に近づいていく。
「やっぱり! 今日うちの店に来る筈だった猫ちゃんのうち一匹だよ!」
キョトン、と朝霞は目を瞬かせる。
「君の店?」
「あ、私の、っていうか今バイトしてる猫カフェなんだけど」
「成程、猫耳はそれで」
で、なんでも、今日新しく入るはずだった猫が二匹、手違いで逃げ出してしまったのだという。
「それでこの子、見つけてきてくれたの!?」
「え? いや、偶々一緒に遊んでてもらっただけ、だよ?」
ふわふわと朝霞は答える。実際彼女はこの猫がまよいの店の子だということも知らなければその店に向かっていた覚えもない。ただの、彼女が迷えばたまに誰かの役に立つという特殊能力がまたも発揮されただけである。いやただの特殊能力ってのがなんかおかしいけど。
「でも、猫ちゃんの扱いに慣れてるみたいだし……お願い! もう一匹の猫ちゃんも探してきてもらえない、かな!」
まよい自身は接客に忙しい。こればかりは慣れたスタッフがやるべきなのだ。だから、どのみち誰かに捜索をお願いできないかと思っていた所だったのだ。
──その、迷い猫探しを頼んだ人間が今まさに迷い人として探されていることなど知る由もない。
猫探しはこうして、行き掛かりで朝霞に託されたのだった。
■解説っぽいもの
・目的
夕霧の姉、朝霞の捜索
まよいがバイトをする店の猫の捜索
・状況
朝霞も猫も、まよいの店を起点にその辺を転々と彷徨いている。時間経過と共に行動範囲は広がるものとする。
・登場人物
天央 観智…オフィスで夕霧の依頼する状況を見ていた青年。今回は見守り役。事件解決後に会話は可能
夢路 まよい…朝霞に猫の捜索を頼んだ依頼人。店の付近からは動かないが話しかければ朝霞の話は聞けるものとする
■リプレイっぽいもの
「よーするに、どううろつくか分からねえ人間を当てもなく探せってかよ……」
話を聞いて、居合わせた一人であるシュンはうんざりと告げた。夕霧が申し訳なさそうに肩を縮める。
「まあしかし時間はある」
対し、どこか余裕を持った態度でリッキィは言った。
「私自身に支障が出ないところまで手を貸すのは構わないよ。何かの縁だ」
「……マジかよ」
「大切な者に会えないというのは辛いものだろう?」
ふ、とリッキィが微笑んで言うと、シュンはぐ、と僅かに喉の奥を詰まらせたような音を立てたきり沈黙した。
「──で、そこの君も手伝ってくれるんだろうか」
そうして、次にリッキィが話を向けたのは、やはり居合わせただけでそのまま近くで話を聞いていた伊佐美 透だった。彼は一瞬、ええ……? と言いたげな顔は浮かべたものの、
「……まあ、俺もちょうど今は暇はあります」
半ば吐息を零すようにしてそう答えた。面倒さは予想できるものの根の善良さがそれに勝ったらしい。
どうやらすぐ動けるハンターはこの場にはこの三名だけのようだ。本当にすまない、と夕霧が改めて頭を下げる。
一旦の方針として、それぞれの捜索範囲はリッキィが割り振った。シュンは姉妹がいた工房、それに近い大通りの区画をそれなりに広範囲で割り振られる。一瞬文句を言いかけたが、視線で意図は理解できた。
ぶつくさと言いながらシュンは示された大通りへと向かう。正面から見据えるとそれなりの人が歩いていた。真っ向から見るだけでは重なる人影一つ一つを確認するには視界が狭い。
手近な建物に足を掛ける。そのまま壁を歩くようにして店の上まで立つ。見下ろしざっと一気に見えるようになった人たちに視線を流していく。
(……東方風の雰囲気の女、だろ)
とみにリゼリオは様々な人種で溢れる街と言えるが、それでも東方風の人間というのはまだそこら中やたらめったら居るものでも無い。荒く眺めて、気になる対象が居たときのみ双眼鏡で確認する。勝手に店の上に長くも立ってられまい。そうやって次から次へと屋根を伝っていき大通りとその裏通りを一気に潰していく。飛び移る際足場が心許なければ空渡も使って、そうして上空からの捜索を続けていった。
これが出来るからリッキィはこの一帯を自分にまかせたのだろう。逆にそれが出来ないリッキィは。
(……まあ、地道に探すんだろうな)
それが出来るやつだ。しかも、他人のために。
自分を救ってくれた時だって、別に特別なことをされたわけじゃない。地道に、時間をかけて、待って、ゆっくり話を聞いてくれた、その繰り返しの先。そんなもので救ってくれた。
……だからまあ、そんな相手に信頼して任せられればどうせ逆らえないのだ。
とまあ、初対面ではあるがそれでも仲のよさそうだと分かる二人組と別行動になって。
「あいつなんでこういう時に居ないんだろうな」
なんとなく透が零したのは己の相棒の不在の事だった。いやまあ、あいつはあいつで辺境の事で色々あるのだろうし、そもそも都合のいい時に居る者扱いするのもどうかと思うので文句を言うのはお門違いだとは分かっているのだが。
……信頼しつつもそうやって割り切れる間柄だからこそ、リアルブルーに帰ると言い続けている自分と長らくやってくれているのだろうし。
ただまあ、今の状況で人手が足りないのはやはり痛手に感じたし、この手の半ば運任せになるようなものはむしろあいつの方が向いてそうだなあ、とはどうしても考える。
運任せ、か。自分が幸か不幸か。考え方でどうとでも言えそうだが。止めることにする。
それよりもどう在りたいか。己の何を信じるのか。それを考えるなら、運よりはやはり、堅実さを。積み重ねてきたものを。
下手に当たりを付けたりはせず、担当された区域を順に見て回る。
「あ! すみません、ちょっとお聞きしていいですか?」
声と振る舞いに意識して明るさを、人当たりの良さを作り手ごろな相手に話しかける。大体の人から好意的に話は聞けた。……思った成果は中々には出なかったが。
そうやって、皆で手分けして捜索を進めるうちに。
「あ、うん、朝霞さんなら会ったよ? 丁度通りかかってくれたから、猫の捜索をお願いして」
リッキィがついに、まよいからその話を聞きだしたのだった。急ぎ皆に通信を入れる。
『……よく分からん動きするやつが、よく分からん動きする猫を探してるって?』
シュンの声は、ますますうんざりというか、絶望的な色すら含んでいた。
『い、や……しかし! すまない、猫というのはどのように探せばいいか、何かコツのようなものはご教授願えるだろうか!?』
そこで不意に夕霧が割り込んで、まよいに尋ねる。いいけど、とまよいが軽く幾つか心当たりを伝えて……。
『すまないが、私はこれからその猫を探す方針で動こうと思う……なんというか、姉上は「見つける」気がするのだ! こういう時は! ……だから困るという面もあるが……私は、私が信じてきた姉上を信じたい!』
夕霧が、縋るようにそう宣言するのを聞いて。
「じゃあ……私とシュンはこれまで通りの方針で探し続ける。君と伊佐美君は猫を探す方向で。一旦、それで行こうか」
非論理的ではあるが、と苦笑しつつも、リッキィはまたそう皆を纏めた。
そうして、聞き込みの内容に猫の特徴も加えて捜索を続けた結果──
「あ。妹ちゃんだ。やっぱりこっちで合ってたよね?」
「全然違うぞ姉上ぇぇぇ!」
やがて、猫を抱えた朝霞が、ひょっこりと夕霧の前に現れたのだった。
助かったよと礼を言うまよいに別れを告げて、五人は一応事態の収束を伝えにオフィスへと戻る。
「おや? 見付かって良かったですね」
まだオフィスに残っていた、というかさり気なく成り行きを気にしていたのだろう観智が、戻って来た一行を労うように声をかけた。
大体は軽く応じるくらいの反応だったが、リッキィは白衣仲間という事で多少興味を持ったらしい。気にしていそうな観智に、事の顛末を軽く説明した上で。
「迷子の度に誰かの役に立つ……か。貴方はこの現象をどう考える?」
試すように、聞いてみた。
「そうですね。普通に考えるなら。しょっちゅう道に迷う方向音痴なら、回数が増えればそういう偶然も増えるでしょう。そしてその印象だけが残る……といったところですが」
見解に同意できる部分は多いのだろう。リッキィは満足げに頷く。……疑問の余地を残しているところも含めて。
「この世界は、まだ私の理解の及ばない力がありますからね。そうした物が起こしている力であることも、まだ否定はできません」
意志や願い、信じる心。そうした物がこの世界では力になる。それを知っているから。
そうした法がこの世界を作るなら。それにとても興味があるんですよと観智は笑う。リッキィは、それを面白そうに見ていた。
●鞍馬 真(ka5819)の頼み
「透は空を飛んだこと、ある?」
どこか躊躇いがちに切り出されたそれが、真の、誘いの言葉の第一声だった。
気分転換に付き合ってほしい、とのことだった。空の遠乗りに行きたいと。そう言う真は、実際、このところ──というべきなのか彼の場合──のハードワークで、身も心も疲れているようではあった。
透がまず考えたのは、果たしてこれが本当に『彼の』気分転換のためなのだろうか、という事だった。ここ最近で身も心も磨り減るような思いをしているのは透も同様だ。気を使わせてのことか、とも考えたのだが。
「空を飛ぶのは楽しいよ。全てから解放された気分になるから」
そう誘う真の言葉は軽やかで、ああ、彼が空を飛ぶこと自体は本当に好きなんだろうな、と、そうして、そんな彼の様子を見ていると楽しそうだな、と素直に思えるものだった。
──そんなわけで、二人、今、空の旅路にある。
「……生身で空の空気と景色を感じるのは初めて、だな」
ゆっくりと流れていく景色、その、遠くの方を見渡すようにしながら、透はポツリと言った。
その声は新鮮な体験への興奮が見てとれる。悪くは無さそうな感触に、
「どんな気分?」
と真は聞いてみた。透が空を飛ぶことをどう感じるのかは、結構興味がある。
「気持ちいいよ。景色が広いな。なんかこう……大声出したくなるな」
「大声?」
「うん。なんか、どこまでも遠くまで届けられそうな気がしてきてさ」
なるほど彼らしい感覚なのかもしれない。くすりと真は微笑む。
「出してみれば?」
「え……今、か?」
「今だから。別に誰にも迷惑かけないよ、ここなら」
今眼下に広がる景色は人里を離れた広野だ。確かにここで声を出しても聞かれることは、聞かれたとしても苦情が出ることは無いのだろうが。
「え、いや、いざ声出すって言ってもそうなると何言えばいいかな……」
それでも少し照れ臭そうに彼はそう言って。
やがて。
伸びやかな声で歌い始めた。少し目を細めて真はそれに聞き入る。知らない歌……──だよな?
聞いていて、僅かに何か引っ掛かるのを感じた。この曲。この感じ。ああ、この歌を知らなくても、これが何なのかは分かる。知識として。そうか。
「……合唱曲?」
一通り歌い終わっただろうタイミングで、真はつい聞いていた。
「ああうん。大体どの中学でも習うと……」
そこで、失策に気が付いたのか透は気まずそうな顔を浮かべた。
「……すまない、悪いことしたかな」
「あはは。そんなの全然気にしなくていいよ。……確かに、思い切り遠くまで声を伸ばすには良いよね」
それは確かに、失われた記憶を意識させるものではあった、けど。
「聞いてて気持ち良かったよ。歌も得意なんだな、透は」
それも素直な感想だった。だからこれ以上気まずくならないように、話題の矛先を変える。
「……そこの自己評価は難しいなあ……」
透も、気持ちを汲むことにしたのか、そのまま変えられた話題に乗ってきた。
「舞台で歌うことは、何度かあったよ。そういうこともあるから、多少は勉強もしてるけど……そう言う舞台には、大体段違いの人が居る」
「ああ……成程」
「ただ上手い、だけじゃないんだよな。声色や全身で伝えてくるものが全然違う。そんな人たちの横だとな。大丈夫かな、って、後でディレクターや所長に聞くんだけど、『苦情は来てない』止まりだよ。歌に関しては」
そう語る透の瞳は悔しそうで、でも楽しそうだった。視線は前、そして少し上向き。はだかる壁を見ているような。
──夢を追う人間の眼。
きっと真は、これを好ましいと思うし、羨ましいと思うのだ。
そんな風に話しながら、短い空の旅は終わった。
「なんか付き合わせてごめん……」
真は最後、そう詫びの言葉を告げて、透はキョトン、と眼を丸くした。
「楽しかったよ。有難う……というか。なあ、今日のこれ、実際のところ俺が気を使わせてのことじゃないのか?」
「それは違うよ!? ……本当に、私の気分転換だ。そこは本当に、きみが気にする所じゃない」
「そうか。その言葉を信じていいなら……君の方からこうして、気分転換に俺を誘ってくれたのは、嬉しいよ」
そう言って、透は笑った。
「いつも君には感謝してる。俺で役に立つならいつでも言ってくれ。……無理な時はちゃんと断るからさ」
本当に楽しかった空中散歩。だが、普段自分のことは遠慮しがちな真が誘ってくれたことが何よりうれしかったと、最後に透はそう言うのだった。
●星野 ハナ(ka5852)の情景
誰にも等しく雨は降る
貴方が迎えに行くのかそれとも迎えがやってくるのか
それともそんなことを顧みることも出来ない状況なのか
雨が降る
誰にも等しく雨が降る
可能であれば、全ての貴方の一コマを
──これは、そんな言の葉から紡がれることになった一つのシーン
リッキィは機導術や興味があることへの研究に対しては一日にいくらでも時間をつぎ込めるタイプの人間ではあるが、それでも連続して完全に集中していられる時間というのは限りがあった。
無理をしても効率が良くならないことは理解している。一時間ほど熱中していた調べ物、そこにふと余計な思考が混ざるようになってきたのを自覚して、そろそろ休憩が必要か、と一度大きく伸びをした。
聞こえてくる音がある。窓の外を見れば結構な雨粒がガラスを叩いていた。葉や地面の濡れ方を見ればついさっき降り始めたという雰囲気でもない。耳に入るようになれば、これほど派手な雨音をよくもまあ無視していたものだ、と半ば己に呆れそうになる。
思い出したのは同居人であり恋人であるシュンのことだ。今朝がた、依頼を受けてくると言ってオフィスに出かけて行った。その時は快晴で、この後こんな天気になるなど予測もし難かったと思うが。
……どうせ彼が引き受ける様なのは戦闘依頼だろう。そののちに、土砂降りに遭遇しての帰り道、というのはいかにも難儀そうだ。
……ふむ。迎えに行ってみようか。
いつ彼が戻ってくるのかは分からないけれども。
読み止しの本に栞を挟んで、多少の雨には染みない鞄にしまうと、傘を手に外に出る。
どうせ今日は理論だけで終わりそうだと思っていたのだ。ハンターオフィスで待ちながら読んでいても支障は無いだろう。
傘にレインブーツ。外に出てみれば雨は思った以上に重たくて、大きな雨粒が傘を叩く感触がはっきりと感じられる。石畳にはよけきれないほどの水たまりがあちこちに出来ていて、準備と覚悟をして出たとしてもこれは中々に厄介だな、と感じる程だった。
それでも、後悔ではなく優しさを感じるようになるのだから、不思議な心地だ。まるで合理的じゃない。
こんな雨の中、とは思うが、それでも道行くのは自分一人ではない。
誰にも等しく降る雨の中、何の用事で、どんな気持ちで歩いているのだろうか。リッキィはふと考える。
そうして歩いていく。
彼を迎えに行くために。
オフィスにたどり着いて、問題が一つあった。
自分が迎えに来ている、という事を彼に伝える方法が無い。
リアルブルーの世界にはEメールなる、相手に受信の余裕がなくとも一方的に伝文を送信しておくシステムがあるらしいが、あいにくと魔導スマホにそのような機能は無い。これは技術革新がまだ必要だなと、機導師のはしくれとして決意する。いつかじっくり研究する機会が訪れたら参加しよう。
そんな野望はさておいて。
今とりあえず考えらえる方法としては、転移門から出てくるものを待ち構えらえる一のソファで待っている、事なのだろうが。
……手にした本に目を落す。
また集中し始めたら気付かない自信があった。
愛しい恋人のことは恋人の事として、自分のことはそれ以上によく分かっているのだ。
かと言っていつやってくるか分からないものをなんの慰みも無しに待ち続けるのはそれはそれで辛いものがある。長引けば、いずれ本の誘惑に負けるだろう。それも容易に予想できた。
期待するならば。
彼が、ここで待っている自分に気がつくことだろう。
それはつまり、彼が、自分が迎えに来るという可能性を考慮するかにもよると思うのだが。
……どうなのだろう。戦闘を終えたばかりの彼に、それを考える、そんなことを顧みる余裕があるだろうか。
──もしかしたら、あまり趣味がいいとは言えないのかもしれないが。
それを、試してみるのも一興か、等とリッキィは考えたのだった。
疲れ、傷ついて。何かを引きずって帰ってくるかもしれない彼が、ここで待つ自分に気づくのか。
彼を試す──つもりは無い、と思う。気付かなかったとして、それを責める予定はない。
ただ知りたいと思ったのだ。自分と彼の今、その一部分を。一つの例として。
雨が降る。
誰にも等しく雨が降る。
そうして。
「……えっ!」
声に、顔を上げる。
「やあ、迎えに来たよ。移動先では降ってなかったのかな? 良かった。君の傘だ」
「……こういう時って、相合傘じゃねえの?」
「そんなことやったらずぶ濡れになるくらいの雨だよ、意味がない」
「……まあ、お前ってそういう奴だよな」
それでも、今日自分に降るこの雨を、優しく思う。
●初月 賢四郎(ka1046)のif──『神様ちょっと、僕の手を引いて』Another
これは彼がまだその命の今を負債ととらえていた頃の一つの可能性。
自らの命運を神の手に完全に委ね、絶望から逃げるために希望に終わりを求めたあの時の会話。その少し後。もう一人そこに導かれていたら。
今となってはもう戯れでしかない。結果は変えられない。過去も。それでも、覗いてみたいと望まれた、もしもの物語。
誰一人、自分の命を奪う、という選択をしないまま、最後の狂気の一体が討たれる。
このまま引き返すより無いのだろう、と、高瀬少尉は誰に促されることなく下山を始めた。
油断しきった背中を見せればあるいは、という最後の期待もあったのかもしれない。
……が。
「少し、話をしても?」
先行する少尉の背中に掛けられたのは、全てを終わらせてくれる刃ではなく彼のみに聞こえるように潜められた声だった。その音声から、賢四郎と理解する。
彼が切り出してきたのは、何れ軍部内を改革する、その協力者──というよりは共犯者、というニュアンスを彼は隠そうともしていなかった──として手を組めないか、という提案だった。
少尉の反応は少なく簡潔だった。軽く振り向いて、怪訝な表情を見せる。そしてすぐ視線を反らして前を向きなおす。
「軍にとって腫れ物扱いになった貴方と居ないものと扱われている自分。だからこそ話になり得ると思うんですがね」
暴走の危険性のある強化人間と、いまだ公的には死亡扱いの転移者。だから、と。
構わず話を続ける賢四郎。反応にさしたる落胆も感じられないのは、手応えがあると思っているのではなくはなから期待はしていないからだろう。
「……改革が必要だとは思いません。強化人間はこのまま、責任と基盤がしっかりした組織に委ねられているべきでしょう」
「そのまま、使い潰される。あるいは処分となることも厭わない、と?」
賢四郎の言葉に。少尉は迷うことは無い……筈だった。そこまでを考えているからこそ、『暴走した振りをするから殺せ』などという提案まで仄めかせて見せたのだから。
どうせこの先、己にろくな未来など無い。そうとしか思えない……筈だった。
「自分も勝算が無いなら諦めますがね。今は絶望的に低いだけでしょう──とはいえ乗るか否か決めるのは貴方の決断」
どこか面白がるように賢四郎は肩を竦めてそう言葉を切った。
事実、ある程度は賢四郎は面白がってこの状況を見ている。
……八割方、乗ってこないだろう。賢四郎は提案しつつも彼のことをそう分析していた。ただ可能性は追及するというだけ。
八割方、そう、八割方、だ。この依頼が開始したくらいからの見込みからは。彼が未来の改善、己の可能性に眼を向ける見込み。だが今はどうだろう……七割九分……八分……。若干に、己の中で揺れる数字を感じていた。これまでの、他のハンターと彼との会話。特に『彼女』がもたらして見せたもの──正直に言わせてもらえば中々傑作だった!──は、確かに彼に影響を及ぼしている。
きっとこれを己は眺めたいだけなのだろう、状況は、何より人は刻々と変化する。可能性は変わる。故に完全なる絶望はあり得ない。
「……僕はともかく、貴方方の状況が絶望的に悪い、とは、僕は考えませんよ」
やがて少尉が切り出してきたのはそんな話だった。
「貴方方が死亡扱い、という話ですがね。事実、一日程しかこちらに居られない、いつ来るか分からないという存在の環境整備が懸案として優先事項が上がらないのは現状、仕方の無い事なのだと思いませんか」
単にそれに伴う手続きや想定される混乱への準備に手を回している状況ではないからそれが出来ないだけではと少尉は推論を口にする。
「権利を回復したいのであれば。必要なのはその体力をもつ組織を余計に混乱させることではなく、早く『それどころ』の状況に持っていくことだと思いますがね」
VOIDの攻勢への対応が落ち着き、そして長期の帰還が叶うようになれば。ハンターの状況は変わる見込みはあるように思えた。何か火種になりかねないことを準備しようというのは、少尉には早計に思える。
「──成程。あくまで自分が所属する場所の健全性を信じると、そう言うわけか」
賢四郎の結論に、少尉は顔をしかめる。
「腐敗や堕落が全く無いとは言いませんよ。だが強い薬が必要なほど機能が危うい状態とも思いませんね」
少尉の答えに、賢四郎は腹の中を伺わせない表情で頷いて、話はそこで終わりとなった。
……思ったより話し込んでしまったと、少尉は少し後悔する。
何故だろう、さっさと無視しても良かった筈だった。それでも彼の話に耳を傾けてしまったのは。
……ある種の安心感、だろうか。
──互いに目的が、裏があるくらいの方が話し合いは、信用はしやすいものだ。希望とか友情とか、そう言ったあやふやなものにすがるよりは。
●メアリ・ロイド(ka6633)のIf──高瀬少尉After
まだ地上が凍結される前で、地球軍もそれなりに機能している頃──の、高瀬少尉の休日、とのことだが。
強化人間という存在そのものに、ハンターズソサエティも、統一地球連合政府も何ら罪や咎を明言するものでも無い。
故に理屈の上では自由は与えられているのだが、それはそれとして暴走の危険性を考えればその辺のリスクコントロールを無しにして好き勝手に出来るというものでも無かった。
だから、強化人間である彼は休日と言ってもその行動範囲は限られる。
とは言え、軍施設内にあるもので何か生活に事足りないという訳でもない。どうしても一般人のいる街に出なければ購入や実行できないような趣味らしい趣味も無いことは、逆に幸いだったと言えるのだろう。
洋食よりの朝食を済ませると、時間をかけてニュースに目を通す。特にVOID関連のものはよくよく。可能ならば、ハンターが対応したというもの含めて報告書を求めていた。そうすると、休日までの間に読むべきものはそれなりの量になる。
根っからの仕事人間。熱心というよりはそれ以外の過ごし方を知らないという風でもあった。
といって、籠りきりで平気という訳でもないらしい。暫くそうして資料を読み漁っていると、やがて体が動かしたくなってくる。
午前中は自室で軽く筋トレなどもこなしていた。が、一日にそう何度もやることではないし、代り映えのしない室内では完全な気分転換にはならない。
昼食をとり、またしばらく資料を読みふけったあとは、彼は行き先を報告した上で散歩に出ることにした。なるべく人気がない場所、というのはこうなってからすぐに調べてある。
ちなみに服装はというと、ジャージ姿である。いや、こういうと若干語弊を生むか。せめてトレーニングウェアと言うべきか。動きやすさ、着替えやすさ重視の上下である。くたびれているわけでもなくピシっとした、それなりにスタイリッシュなデザインなので、姿勢の良い彼が着ていると外に出歩くのにそこまで咎められるようなスタイルでもない。
こうした散歩には、川沿いをやや早足で歩くことが最近多い。時折立ち止まり川の流れを眺める。そこに何か感傷が生まれるわけでは無いが、とりあえず何となく持て余したときにそうしていると時間が潰れてくれる。
広い河川敷に出ると彼は本格的に身体を動かし始めた。
脳裏に描いているのは散々読み込んできたVOIDとの戦闘報告だ。報告書から分かる敵の動き。対応方法。それを脳内でシミュレートして、自分の動きに蓄積する。……ハンターたちの報告には、当然再現不可能なものも大きく含まれるが。この時間が、最も真剣かつ充実しているときのように思えた。
──とまあ、このあたりまでを見て、客観的な観察としては十分だと思ったのだろう。
「こんにちは高瀬少尉」
メアリは隠の徒の使用をやめてひょいと彼の前に姿を現した。
完全に気配を察することなど出来なかった。向こうの通りからやって来たとかではなく不意にすぐ近くに姿を現した彼女に、少尉は暫くリアクションに困って固まっていた。
「その姿からすると休日ですか? 伸び伸び過ごされてるようで何よりです」
しげしげとジャージ姿を、興味深そうに間近で眺められて、そうして少尉はようやく事態を認識したようだった。
「何っ……でっ……!」
「依頼の後で暇だったので、近くまで来てみたらお見かけしたもので」
だいぶ前から。具体的には散歩を始めたあたりから。それから今まで隠密で見守っていたことは言わずに、メアリはそれだけ答える。
「付近でVOIDが出たという話は聞いていませんが!?」
だったら少尉がここまで休日を満喫できてはいないはずである。
「ええまあ。ですから依頼後なんとなく近くまでは来てみて」
「どんだけ暇ですか!?」
「強制帰還まで帰れねえの実際無駄な奴には無駄だよな。私は良いけど」
「……!」
そこは確かに、彼女に言っても仕方がない。何とかならないのか今度詳しく聞いてみよう。深呼吸して少尉はそう決意して。
そうやってツッコミ返す少尉はなんだかんだで元気そうで。真面目で堅物(?)な彼を心配してやって来た彼女はこれで結構、ほっとしていた。
そうするうちに少尉は気を取り直したのか、無視するように背中を向けて歩き始める。
だが、メアリがお構いなしにそれについてくるのを認めると、それを止めることもしなかった。
──許したわけじゃない。諦めただけです。
内心で少尉はこの状況をそう説明付ける。だが実際、いざという時自分を止められる人間と共に行動するのは、気が楽ではあった。
タイトルっぽいもの『迷子の迷子の……?』
■オープニングっぽいもの
「……敗因は分かっているのだ」
どこか哀れみを誘うような、徒労に掠れる女性の声がした。
天央 観智(ka0896)はふと、声の方へと視線を向ける。
ハンターオフィスの一角である。観智はちょっとした手続きがあるためここに来ていて、今は受付の作業が完了するまで、ここで呼び出されるのを待っていた。その時に聞こえてきたものだ。
どうやら頼み事をする上で状況の経緯を語っているらしい。曰く、彼女は今日は用事があって姉と共に機導師の工房を訪れていたらしいのだが……。
「姉上に言っておいたのだ。『その辺で待っていてくれ』と。ああ……そうだな。何故『そこでじっとしててくれ』と言わなかったのだろうな。逆にある程度の移動を許したことに他ならないじゃないか? あの! 母の腹に東西南北を置き忘れてきたとまで言われる姉上に!」
後に知った、彼女の名は夕霧。その姉、どうやら朝霞は聞くだに無惨な方向音痴のようで──その姉がまた、一人で居なくなったと、そう言う話のようだった。
その頃の朝霞。
「うんうん。やっと追い付いた。いやあ、私も暇していたからね。少しばかり遊んでくれると嬉しいなあ」
どこぞとも知らぬ道を歩く彼女は、今、猫を抱き上げて上機嫌だった。
「つれないかと思ったら、意外と人慣れしているね君は? 毛ヅヤも良いし、どこかのおうちの子かな?」
ニコニコと歩く。そう、歩く。なんとなく。ただ猫を抱き上げてこうしていると気分が良いだけで、どこに向かっているとかでは無い。というか、どこに向かっているのか分かっているのかは果てしなく怪しい。が、気にしていない。
そうして歩くうちに……。
「あ、……ああ!?」
驚きの声が下の方から聞こえてきて、朝霞は不意に視線を向ける。
その先に居たのは猫耳を着けた少女、夢路 まよい(ka1328)だった。
「やあ、どこかで会ったかな」
「うん、見覚えあるねー……って、それよりもその猫!」
朝霞が抱いている猫、それを目掛けてまよいは朝霞に近づいていく。
「やっぱり! 今日うちの店に来る筈だった猫ちゃんのうち一匹だよ!」
キョトン、と朝霞は目を瞬かせる。
「君の店?」
「あ、私の、っていうか今バイトしてる猫カフェなんだけど」
「成程、猫耳はそれで」
で、なんでも、今日新しく入るはずだった猫が二匹、手違いで逃げ出してしまったのだという。
「それでこの子、見つけてきてくれたの!?」
「え? いや、偶々一緒に遊んでてもらっただけ、だよ?」
ふわふわと朝霞は答える。実際彼女はこの猫がまよいの店の子だということも知らなければその店に向かっていた覚えもない。ただの、彼女が迷えばたまに誰かの役に立つという特殊能力がまたも発揮されただけである。いやただの特殊能力ってのがなんかおかしいけど。
「でも、猫ちゃんの扱いに慣れてるみたいだし……お願い! もう一匹の猫ちゃんも探してきてもらえない、かな!」
まよい自身は接客に忙しい。こればかりは慣れたスタッフがやるべきなのだ。だから、どのみち誰かに捜索をお願いできないかと思っていた所だったのだ。
──その、迷い猫探しを頼んだ人間が今まさに迷い人として探されていることなど知る由もない。
猫探しはこうして、行き掛かりで朝霞に託されたのだった。
■解説っぽいもの
・目的
夕霧の姉、朝霞の捜索
まよいがバイトをする店の猫の捜索
・状況
朝霞も猫も、まよいの店を起点にその辺を転々と彷徨いている。時間経過と共に行動範囲は広がるものとする。
・登場人物
天央 観智…オフィスで夕霧の依頼する状況を見ていた青年。今回は見守り役。事件解決後に会話は可能
夢路 まよい…朝霞に猫の捜索を頼んだ依頼人。店の付近からは動かないが話しかければ朝霞の話は聞けるものとする
■リプレイっぽいもの
「よーするに、どううろつくか分からねえ人間を当てもなく探せってかよ……」
話を聞いて、居合わせた一人であるシュンはうんざりと告げた。夕霧が申し訳なさそうに肩を縮める。
「まあしかし時間はある」
対し、どこか余裕を持った態度でリッキィは言った。
「私自身に支障が出ないところまで手を貸すのは構わないよ。何かの縁だ」
「……マジかよ」
「大切な者に会えないというのは辛いものだろう?」
ふ、とリッキィが微笑んで言うと、シュンはぐ、と僅かに喉の奥を詰まらせたような音を立てたきり沈黙した。
「──で、そこの君も手伝ってくれるんだろうか」
そうして、次にリッキィが話を向けたのは、やはり居合わせただけでそのまま近くで話を聞いていた伊佐美 透だった。彼は一瞬、ええ……? と言いたげな顔は浮かべたものの、
「……まあ、俺もちょうど今は暇はあります」
半ば吐息を零すようにしてそう答えた。面倒さは予想できるものの根の善良さがそれに勝ったらしい。
どうやらすぐ動けるハンターはこの場にはこの三名だけのようだ。本当にすまない、と夕霧が改めて頭を下げる。
一旦の方針として、それぞれの捜索範囲はリッキィが割り振った。シュンは姉妹がいた工房、それに近い大通りの区画をそれなりに広範囲で割り振られる。一瞬文句を言いかけたが、視線で意図は理解できた。
ぶつくさと言いながらシュンは示された大通りへと向かう。正面から見据えるとそれなりの人が歩いていた。真っ向から見るだけでは重なる人影一つ一つを確認するには視界が狭い。
手近な建物に足を掛ける。そのまま壁を歩くようにして店の上まで立つ。見下ろしざっと一気に見えるようになった人たちに視線を流していく。
(……東方風の雰囲気の女、だろ)
とみにリゼリオは様々な人種で溢れる街と言えるが、それでも東方風の人間というのはまだそこら中やたらめったら居るものでも無い。荒く眺めて、気になる対象が居たときのみ双眼鏡で確認する。勝手に店の上に長くも立ってられまい。そうやって次から次へと屋根を伝っていき大通りとその裏通りを一気に潰していく。飛び移る際足場が心許なければ空渡も使って、そうして上空からの捜索を続けていった。
これが出来るからリッキィはこの一帯を自分にまかせたのだろう。逆にそれが出来ないリッキィは。
(……まあ、地道に探すんだろうな)
それが出来るやつだ。しかも、他人のために。
自分を救ってくれた時だって、別に特別なことをされたわけじゃない。地道に、時間をかけて、待って、ゆっくり話を聞いてくれた、その繰り返しの先。そんなもので救ってくれた。
……だからまあ、そんな相手に信頼して任せられればどうせ逆らえないのだ。
とまあ、初対面ではあるがそれでも仲のよさそうだと分かる二人組と別行動になって。
「あいつなんでこういう時に居ないんだろうな」
なんとなく透が零したのは己の相棒の不在の事だった。いやまあ、あいつはあいつで辺境の事で色々あるのだろうし、そもそも都合のいい時に居る者扱いするのもどうかと思うので文句を言うのはお門違いだとは分かっているのだが。
……信頼しつつもそうやって割り切れる間柄だからこそ、リアルブルーに帰ると言い続けている自分と長らくやってくれているのだろうし。
ただまあ、今の状況で人手が足りないのはやはり痛手に感じたし、この手の半ば運任せになるようなものはむしろあいつの方が向いてそうだなあ、とはどうしても考える。
運任せ、か。自分が幸か不幸か。考え方でどうとでも言えそうだが。止めることにする。
それよりもどう在りたいか。己の何を信じるのか。それを考えるなら、運よりはやはり、堅実さを。積み重ねてきたものを。
下手に当たりを付けたりはせず、担当された区域を順に見て回る。
「あ! すみません、ちょっとお聞きしていいですか?」
声と振る舞いに意識して明るさを、人当たりの良さを作り手ごろな相手に話しかける。大体の人から好意的に話は聞けた。……思った成果は中々には出なかったが。
そうやって、皆で手分けして捜索を進めるうちに。
「あ、うん、朝霞さんなら会ったよ? 丁度通りかかってくれたから、猫の捜索をお願いして」
リッキィがついに、まよいからその話を聞きだしたのだった。急ぎ皆に通信を入れる。
『……よく分からん動きするやつが、よく分からん動きする猫を探してるって?』
シュンの声は、ますますうんざりというか、絶望的な色すら含んでいた。
『い、や……しかし! すまない、猫というのはどのように探せばいいか、何かコツのようなものはご教授願えるだろうか!?』
そこで不意に夕霧が割り込んで、まよいに尋ねる。いいけど、とまよいが軽く幾つか心当たりを伝えて……。
『すまないが、私はこれからその猫を探す方針で動こうと思う……なんというか、姉上は「見つける」気がするのだ! こういう時は! ……だから困るという面もあるが……私は、私が信じてきた姉上を信じたい!』
夕霧が、縋るようにそう宣言するのを聞いて。
「じゃあ……私とシュンはこれまで通りの方針で探し続ける。君と伊佐美君は猫を探す方向で。一旦、それで行こうか」
非論理的ではあるが、と苦笑しつつも、リッキィはまたそう皆を纏めた。
そうして、聞き込みの内容に猫の特徴も加えて捜索を続けた結果──
「あ。妹ちゃんだ。やっぱりこっちで合ってたよね?」
「全然違うぞ姉上ぇぇぇ!」
やがて、猫を抱えた朝霞が、ひょっこりと夕霧の前に現れたのだった。
助かったよと礼を言うまよいに別れを告げて、五人は一応事態の収束を伝えにオフィスへと戻る。
「おや? 見付かって良かったですね」
まだオフィスに残っていた、というかさり気なく成り行きを気にしていたのだろう観智が、戻って来た一行を労うように声をかけた。
大体は軽く応じるくらいの反応だったが、リッキィは白衣仲間という事で多少興味を持ったらしい。気にしていそうな観智に、事の顛末を軽く説明した上で。
「迷子の度に誰かの役に立つ……か。貴方はこの現象をどう考える?」
試すように、聞いてみた。
「そうですね。普通に考えるなら。しょっちゅう道に迷う方向音痴なら、回数が増えればそういう偶然も増えるでしょう。そしてその印象だけが残る……といったところですが」
見解に同意できる部分は多いのだろう。リッキィは満足げに頷く。……疑問の余地を残しているところも含めて。
「この世界は、まだ私の理解の及ばない力がありますからね。そうした物が起こしている力であることも、まだ否定はできません」
意志や願い、信じる心。そうした物がこの世界では力になる。それを知っているから。
そうした法がこの世界を作るなら。それにとても興味があるんですよと観智は笑う。リッキィは、それを面白そうに見ていた。
●鞍馬 真(ka5819)の頼み
「透は空を飛んだこと、ある?」
どこか躊躇いがちに切り出されたそれが、真の、誘いの言葉の第一声だった。
気分転換に付き合ってほしい、とのことだった。空の遠乗りに行きたいと。そう言う真は、実際、このところ──というべきなのか彼の場合──のハードワークで、身も心も疲れているようではあった。
透がまず考えたのは、果たしてこれが本当に『彼の』気分転換のためなのだろうか、という事だった。ここ最近で身も心も磨り減るような思いをしているのは透も同様だ。気を使わせてのことか、とも考えたのだが。
「空を飛ぶのは楽しいよ。全てから解放された気分になるから」
そう誘う真の言葉は軽やかで、ああ、彼が空を飛ぶこと自体は本当に好きなんだろうな、と、そうして、そんな彼の様子を見ていると楽しそうだな、と素直に思えるものだった。
──そんなわけで、二人、今、空の旅路にある。
「……生身で空の空気と景色を感じるのは初めて、だな」
ゆっくりと流れていく景色、その、遠くの方を見渡すようにしながら、透はポツリと言った。
その声は新鮮な体験への興奮が見てとれる。悪くは無さそうな感触に、
「どんな気分?」
と真は聞いてみた。透が空を飛ぶことをどう感じるのかは、結構興味がある。
「気持ちいいよ。景色が広いな。なんかこう……大声出したくなるな」
「大声?」
「うん。なんか、どこまでも遠くまで届けられそうな気がしてきてさ」
なるほど彼らしい感覚なのかもしれない。くすりと真は微笑む。
「出してみれば?」
「え……今、か?」
「今だから。別に誰にも迷惑かけないよ、ここなら」
今眼下に広がる景色は人里を離れた広野だ。確かにここで声を出しても聞かれることは、聞かれたとしても苦情が出ることは無いのだろうが。
「え、いや、いざ声出すって言ってもそうなると何言えばいいかな……」
それでも少し照れ臭そうに彼はそう言って。
やがて。
伸びやかな声で歌い始めた。少し目を細めて真はそれに聞き入る。知らない歌……──だよな?
聞いていて、僅かに何か引っ掛かるのを感じた。この曲。この感じ。ああ、この歌を知らなくても、これが何なのかは分かる。知識として。そうか。
「……合唱曲?」
一通り歌い終わっただろうタイミングで、真はつい聞いていた。
「ああうん。大体どの中学でも習うと……」
そこで、失策に気が付いたのか透は気まずそうな顔を浮かべた。
「……すまない、悪いことしたかな」
「あはは。そんなの全然気にしなくていいよ。……確かに、思い切り遠くまで声を伸ばすには良いよね」
それは確かに、失われた記憶を意識させるものではあった、けど。
「聞いてて気持ち良かったよ。歌も得意なんだな、透は」
それも素直な感想だった。だからこれ以上気まずくならないように、話題の矛先を変える。
「……そこの自己評価は難しいなあ……」
透も、気持ちを汲むことにしたのか、そのまま変えられた話題に乗ってきた。
「舞台で歌うことは、何度かあったよ。そういうこともあるから、多少は勉強もしてるけど……そう言う舞台には、大体段違いの人が居る」
「ああ……成程」
「ただ上手い、だけじゃないんだよな。声色や全身で伝えてくるものが全然違う。そんな人たちの横だとな。大丈夫かな、って、後でディレクターや所長に聞くんだけど、『苦情は来てない』止まりだよ。歌に関しては」
そう語る透の瞳は悔しそうで、でも楽しそうだった。視線は前、そして少し上向き。はだかる壁を見ているような。
──夢を追う人間の眼。
きっと真は、これを好ましいと思うし、羨ましいと思うのだ。
そんな風に話しながら、短い空の旅は終わった。
「なんか付き合わせてごめん……」
真は最後、そう詫びの言葉を告げて、透はキョトン、と眼を丸くした。
「楽しかったよ。有難う……というか。なあ、今日のこれ、実際のところ俺が気を使わせてのことじゃないのか?」
「それは違うよ!? ……本当に、私の気分転換だ。そこは本当に、きみが気にする所じゃない」
「そうか。その言葉を信じていいなら……君の方からこうして、気分転換に俺を誘ってくれたのは、嬉しいよ」
そう言って、透は笑った。
「いつも君には感謝してる。俺で役に立つならいつでも言ってくれ。……無理な時はちゃんと断るからさ」
本当に楽しかった空中散歩。だが、普段自分のことは遠慮しがちな真が誘ってくれたことが何よりうれしかったと、最後に透はそう言うのだった。
●星野 ハナ(ka5852)の情景
誰にも等しく雨は降る
貴方が迎えに行くのかそれとも迎えがやってくるのか
それともそんなことを顧みることも出来ない状況なのか
雨が降る
誰にも等しく雨が降る
可能であれば、全ての貴方の一コマを
──これは、そんな言の葉から紡がれることになった一つのシーン
リッキィは機導術や興味があることへの研究に対しては一日にいくらでも時間をつぎ込めるタイプの人間ではあるが、それでも連続して完全に集中していられる時間というのは限りがあった。
無理をしても効率が良くならないことは理解している。一時間ほど熱中していた調べ物、そこにふと余計な思考が混ざるようになってきたのを自覚して、そろそろ休憩が必要か、と一度大きく伸びをした。
聞こえてくる音がある。窓の外を見れば結構な雨粒がガラスを叩いていた。葉や地面の濡れ方を見ればついさっき降り始めたという雰囲気でもない。耳に入るようになれば、これほど派手な雨音をよくもまあ無視していたものだ、と半ば己に呆れそうになる。
思い出したのは同居人であり恋人であるシュンのことだ。今朝がた、依頼を受けてくると言ってオフィスに出かけて行った。その時は快晴で、この後こんな天気になるなど予測もし難かったと思うが。
……どうせ彼が引き受ける様なのは戦闘依頼だろう。そののちに、土砂降りに遭遇しての帰り道、というのはいかにも難儀そうだ。
……ふむ。迎えに行ってみようか。
いつ彼が戻ってくるのかは分からないけれども。
読み止しの本に栞を挟んで、多少の雨には染みない鞄にしまうと、傘を手に外に出る。
どうせ今日は理論だけで終わりそうだと思っていたのだ。ハンターオフィスで待ちながら読んでいても支障は無いだろう。
傘にレインブーツ。外に出てみれば雨は思った以上に重たくて、大きな雨粒が傘を叩く感触がはっきりと感じられる。石畳にはよけきれないほどの水たまりがあちこちに出来ていて、準備と覚悟をして出たとしてもこれは中々に厄介だな、と感じる程だった。
それでも、後悔ではなく優しさを感じるようになるのだから、不思議な心地だ。まるで合理的じゃない。
こんな雨の中、とは思うが、それでも道行くのは自分一人ではない。
誰にも等しく降る雨の中、何の用事で、どんな気持ちで歩いているのだろうか。リッキィはふと考える。
そうして歩いていく。
彼を迎えに行くために。
オフィスにたどり着いて、問題が一つあった。
自分が迎えに来ている、という事を彼に伝える方法が無い。
リアルブルーの世界にはEメールなる、相手に受信の余裕がなくとも一方的に伝文を送信しておくシステムがあるらしいが、あいにくと魔導スマホにそのような機能は無い。これは技術革新がまだ必要だなと、機導師のはしくれとして決意する。いつかじっくり研究する機会が訪れたら参加しよう。
そんな野望はさておいて。
今とりあえず考えらえる方法としては、転移門から出てくるものを待ち構えらえる一のソファで待っている、事なのだろうが。
……手にした本に目を落す。
また集中し始めたら気付かない自信があった。
愛しい恋人のことは恋人の事として、自分のことはそれ以上によく分かっているのだ。
かと言っていつやってくるか分からないものをなんの慰みも無しに待ち続けるのはそれはそれで辛いものがある。長引けば、いずれ本の誘惑に負けるだろう。それも容易に予想できた。
期待するならば。
彼が、ここで待っている自分に気がつくことだろう。
それはつまり、彼が、自分が迎えに来るという可能性を考慮するかにもよると思うのだが。
……どうなのだろう。戦闘を終えたばかりの彼に、それを考える、そんなことを顧みる余裕があるだろうか。
──もしかしたら、あまり趣味がいいとは言えないのかもしれないが。
それを、試してみるのも一興か、等とリッキィは考えたのだった。
疲れ、傷ついて。何かを引きずって帰ってくるかもしれない彼が、ここで待つ自分に気づくのか。
彼を試す──つもりは無い、と思う。気付かなかったとして、それを責める予定はない。
ただ知りたいと思ったのだ。自分と彼の今、その一部分を。一つの例として。
雨が降る。
誰にも等しく雨が降る。
そうして。
「……えっ!」
声に、顔を上げる。
「やあ、迎えに来たよ。移動先では降ってなかったのかな? 良かった。君の傘だ」
「……こういう時って、相合傘じゃねえの?」
「そんなことやったらずぶ濡れになるくらいの雨だよ、意味がない」
「……まあ、お前ってそういう奴だよな」
それでも、今日自分に降るこの雨を、優しく思う。
●初月 賢四郎(ka1046)のif──『神様ちょっと、僕の手を引いて』Another
これは彼がまだその命の今を負債ととらえていた頃の一つの可能性。
自らの命運を神の手に完全に委ね、絶望から逃げるために希望に終わりを求めたあの時の会話。その少し後。もう一人そこに導かれていたら。
今となってはもう戯れでしかない。結果は変えられない。過去も。それでも、覗いてみたいと望まれた、もしもの物語。
誰一人、自分の命を奪う、という選択をしないまま、最後の狂気の一体が討たれる。
このまま引き返すより無いのだろう、と、高瀬少尉は誰に促されることなく下山を始めた。
油断しきった背中を見せればあるいは、という最後の期待もあったのかもしれない。
……が。
「少し、話をしても?」
先行する少尉の背中に掛けられたのは、全てを終わらせてくれる刃ではなく彼のみに聞こえるように潜められた声だった。その音声から、賢四郎と理解する。
彼が切り出してきたのは、何れ軍部内を改革する、その協力者──というよりは共犯者、というニュアンスを彼は隠そうともしていなかった──として手を組めないか、という提案だった。
少尉の反応は少なく簡潔だった。軽く振り向いて、怪訝な表情を見せる。そしてすぐ視線を反らして前を向きなおす。
「軍にとって腫れ物扱いになった貴方と居ないものと扱われている自分。だからこそ話になり得ると思うんですがね」
暴走の危険性のある強化人間と、いまだ公的には死亡扱いの転移者。だから、と。
構わず話を続ける賢四郎。反応にさしたる落胆も感じられないのは、手応えがあると思っているのではなくはなから期待はしていないからだろう。
「……改革が必要だとは思いません。強化人間はこのまま、責任と基盤がしっかりした組織に委ねられているべきでしょう」
「そのまま、使い潰される。あるいは処分となることも厭わない、と?」
賢四郎の言葉に。少尉は迷うことは無い……筈だった。そこまでを考えているからこそ、『暴走した振りをするから殺せ』などという提案まで仄めかせて見せたのだから。
どうせこの先、己にろくな未来など無い。そうとしか思えない……筈だった。
「自分も勝算が無いなら諦めますがね。今は絶望的に低いだけでしょう──とはいえ乗るか否か決めるのは貴方の決断」
どこか面白がるように賢四郎は肩を竦めてそう言葉を切った。
事実、ある程度は賢四郎は面白がってこの状況を見ている。
……八割方、乗ってこないだろう。賢四郎は提案しつつも彼のことをそう分析していた。ただ可能性は追及するというだけ。
八割方、そう、八割方、だ。この依頼が開始したくらいからの見込みからは。彼が未来の改善、己の可能性に眼を向ける見込み。だが今はどうだろう……七割九分……八分……。若干に、己の中で揺れる数字を感じていた。これまでの、他のハンターと彼との会話。特に『彼女』がもたらして見せたもの──正直に言わせてもらえば中々傑作だった!──は、確かに彼に影響を及ぼしている。
きっとこれを己は眺めたいだけなのだろう、状況は、何より人は刻々と変化する。可能性は変わる。故に完全なる絶望はあり得ない。
「……僕はともかく、貴方方の状況が絶望的に悪い、とは、僕は考えませんよ」
やがて少尉が切り出してきたのはそんな話だった。
「貴方方が死亡扱い、という話ですがね。事実、一日程しかこちらに居られない、いつ来るか分からないという存在の環境整備が懸案として優先事項が上がらないのは現状、仕方の無い事なのだと思いませんか」
単にそれに伴う手続きや想定される混乱への準備に手を回している状況ではないからそれが出来ないだけではと少尉は推論を口にする。
「権利を回復したいのであれば。必要なのはその体力をもつ組織を余計に混乱させることではなく、早く『それどころ』の状況に持っていくことだと思いますがね」
VOIDの攻勢への対応が落ち着き、そして長期の帰還が叶うようになれば。ハンターの状況は変わる見込みはあるように思えた。何か火種になりかねないことを準備しようというのは、少尉には早計に思える。
「──成程。あくまで自分が所属する場所の健全性を信じると、そう言うわけか」
賢四郎の結論に、少尉は顔をしかめる。
「腐敗や堕落が全く無いとは言いませんよ。だが強い薬が必要なほど機能が危うい状態とも思いませんね」
少尉の答えに、賢四郎は腹の中を伺わせない表情で頷いて、話はそこで終わりとなった。
……思ったより話し込んでしまったと、少尉は少し後悔する。
何故だろう、さっさと無視しても良かった筈だった。それでも彼の話に耳を傾けてしまったのは。
……ある種の安心感、だろうか。
──互いに目的が、裏があるくらいの方が話し合いは、信用はしやすいものだ。希望とか友情とか、そう言ったあやふやなものにすがるよりは。
●メアリ・ロイド(ka6633)のIf──高瀬少尉After
まだ地上が凍結される前で、地球軍もそれなりに機能している頃──の、高瀬少尉の休日、とのことだが。
強化人間という存在そのものに、ハンターズソサエティも、統一地球連合政府も何ら罪や咎を明言するものでも無い。
故に理屈の上では自由は与えられているのだが、それはそれとして暴走の危険性を考えればその辺のリスクコントロールを無しにして好き勝手に出来るというものでも無かった。
だから、強化人間である彼は休日と言ってもその行動範囲は限られる。
とは言え、軍施設内にあるもので何か生活に事足りないという訳でもない。どうしても一般人のいる街に出なければ購入や実行できないような趣味らしい趣味も無いことは、逆に幸いだったと言えるのだろう。
洋食よりの朝食を済ませると、時間をかけてニュースに目を通す。特にVOID関連のものはよくよく。可能ならば、ハンターが対応したというもの含めて報告書を求めていた。そうすると、休日までの間に読むべきものはそれなりの量になる。
根っからの仕事人間。熱心というよりはそれ以外の過ごし方を知らないという風でもあった。
といって、籠りきりで平気という訳でもないらしい。暫くそうして資料を読み漁っていると、やがて体が動かしたくなってくる。
午前中は自室で軽く筋トレなどもこなしていた。が、一日にそう何度もやることではないし、代り映えのしない室内では完全な気分転換にはならない。
昼食をとり、またしばらく資料を読みふけったあとは、彼は行き先を報告した上で散歩に出ることにした。なるべく人気がない場所、というのはこうなってからすぐに調べてある。
ちなみに服装はというと、ジャージ姿である。いや、こういうと若干語弊を生むか。せめてトレーニングウェアと言うべきか。動きやすさ、着替えやすさ重視の上下である。くたびれているわけでもなくピシっとした、それなりにスタイリッシュなデザインなので、姿勢の良い彼が着ていると外に出歩くのにそこまで咎められるようなスタイルでもない。
こうした散歩には、川沿いをやや早足で歩くことが最近多い。時折立ち止まり川の流れを眺める。そこに何か感傷が生まれるわけでは無いが、とりあえず何となく持て余したときにそうしていると時間が潰れてくれる。
広い河川敷に出ると彼は本格的に身体を動かし始めた。
脳裏に描いているのは散々読み込んできたVOIDとの戦闘報告だ。報告書から分かる敵の動き。対応方法。それを脳内でシミュレートして、自分の動きに蓄積する。……ハンターたちの報告には、当然再現不可能なものも大きく含まれるが。この時間が、最も真剣かつ充実しているときのように思えた。
──とまあ、このあたりまでを見て、客観的な観察としては十分だと思ったのだろう。
「こんにちは高瀬少尉」
メアリは隠の徒の使用をやめてひょいと彼の前に姿を現した。
完全に気配を察することなど出来なかった。向こうの通りからやって来たとかではなく不意にすぐ近くに姿を現した彼女に、少尉は暫くリアクションに困って固まっていた。
「その姿からすると休日ですか? 伸び伸び過ごされてるようで何よりです」
しげしげとジャージ姿を、興味深そうに間近で眺められて、そうして少尉はようやく事態を認識したようだった。
「何っ……でっ……!」
「依頼の後で暇だったので、近くまで来てみたらお見かけしたもので」
だいぶ前から。具体的には散歩を始めたあたりから。それから今まで隠密で見守っていたことは言わずに、メアリはそれだけ答える。
「付近でVOIDが出たという話は聞いていませんが!?」
だったら少尉がここまで休日を満喫できてはいないはずである。
「ええまあ。ですから依頼後なんとなく近くまでは来てみて」
「どんだけ暇ですか!?」
「強制帰還まで帰れねえの実際無駄な奴には無駄だよな。私は良いけど」
「……!」
そこは確かに、彼女に言っても仕方がない。何とかならないのか今度詳しく聞いてみよう。深呼吸して少尉はそう決意して。
そうやってツッコミ返す少尉はなんだかんだで元気そうで。真面目で堅物(?)な彼を心配してやって来た彼女はこれで結構、ほっとしていた。
そうするうちに少尉は気を取り直したのか、無視するように背中を向けて歩き始める。
だが、メアリがお構いなしにそれについてくるのを認めると、それを止めることもしなかった。
──許したわけじゃない。諦めただけです。
内心で少尉はこの状況をそう説明付ける。だが実際、いざという時自分を止められる人間と共に行動するのは、気が楽ではあった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/01 01:31:26 |