ゲスト
(ka0000)
【郷祭】薄い本を求めて
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/15 12:00
- 完成日
- 2018/11/22 02:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●お前も薄い本にしてやろうか!
自由都市同盟を活動範囲にしている歪虚の一人に、八歳くらいの少女の姿をしたアウグスタというのがいる。
彼女は戦いや歪虚としての破壊活動となると、残虐で嫌みな戦法を取ることもあるが、それ以外では見た目かそれ以下の幼さを露呈することもあり、この日もジェオルジに向かっている理由は、子どもじみた思いつきによるものだった。
「お前も『うすいほん』の題材にしてやる! うーん、これが本当に脅し文句になるのかしら」
そう、どこぞの同人作家が、うっかり彼女が聞いているところでそんな話をしてしまったのである。詳細は割愛するが、アウグスタは「うすいほん」の題材にされることが、相手にとって手ひどいダメージになるらしいことを知ってしまった。
ちなみに、その同人作家は成人男性向け年齢制限付き同人誌で人気を博している作家なのだが詳細はこれまた割愛しよう。言った相手も男であったので、想像した相手はたいへんに嫌がったのである。想像力がなければ、怖い物など何もないとはリアルブルーにかつていた著名な作家の言葉であるが、まったくもってその通りである。
閑話休題。
そんなこんなで、アウグスタはまずその「うすいほん」とやらが何なのかと言うことに興味を持った。どうやら、「どうじんし」と言って、ジェオルジの郷祭でも売り出されるのだそうだ。
そこでアウグスタは、陶器的な意味でつやつやのお肌を隠すためにたっぷり着込み、いざとなったら顔も隠してしまえるボンネットをかぶって郷祭に向かっている、と言うわけだ。大型蜘蛛に乗って。
●薄い本とは
アウグスタは、人目につかない外れで蜘蛛を降りると、まっすぐに同人誌即売会のエリアに突撃した。しかし、少年が少女を後ろから抱きしめているものや、男子学生同士が取っ組み合いしているもの、女学生同士が恥ずかしそうに額をくっつけているもの、様々な表紙の本が置いてる。
「……なんだか脅し文句にはなりそうにないわね」
こんな幸せそうな表紙から、ヒントを得るのは難しそうだ。アウグスタはとことこと会場内を移動する。そして、一冊の本に目を奪われた。
おそらくはイラストなのだろうが、実に生き生きした筆致で描かれた蜘蛛の表紙の本だ。まるで写真のよう。実物の蜘蛛を、そのまま平面に閉じ込めて表紙にしたような……。
「素敵」
アウグスタはそれを一冊手に取った。
「見ても良いかしら?」
「どうぞ。虫の本だけどよろしいかな?」
店主は嬉しそうに言った。虫のイラストが表紙の本を手に取る少女なんてそうそういない。おそらくは蜘蛛にそこまで嫌悪感がないのだろう、と彼は思って喜んでいるのだ。
「蜘蛛が好きなの」
「優しいお嬢さんだ」
アウグスタはご機嫌にぱらぱらと本をめくる。やがて、食い入る様に一ページずつじっくりと読み出した。そして、全部読んでしまうと、ほう、と満足のため息を吐いて財布を出した。
「私、これを三冊買うわ! ええと、『かんしょうよう』と、『ほぞんよう』と、『ふきょうよう』と言うのでしょ。素敵な本は三冊買うのが礼儀なのよね?」
「気持ちは嬉しいがお嬢さん、だったら一冊分のお値段で三冊差し上げましょう」
「いけないわ! ほんとに素敵なんだもの。ね、こう言うときはちゃんとお支払いしないと駄目だって、お兄さんが言ってたわ」
お兄さんはとは、アウグスタにうっかりヒントを与えてしまった同人作家のことである。彼女はその本を三冊購入すると、スキップして即売会エリアを離れたのであった。
●ハンドアウト
あなたたちは、何らかの理由で郷祭に来ているハンターです。
あなたたちは、ここに来る以前に、ハンターオフィスで、「この顔にピンと来たらすぐ通報!」と書かれた指名手配歪虚の似顔絵を見ているものとします。それは八歳くらいの少女の姿をした嫉妬の歪虚で、蜘蛛雑魔を操り、迎えに来る来ないでめちゃくちゃ嫉妬すると言うことが書かれていました。名前もわかっていて、アウグスタと言います。
さて、あなたたちは、黄土色のワンピースに、黄土色のボンネット帽子をかぶった少女を見付けました。彼女は蜘蛛の表紙の同人誌を持っており、いたく興奮している様子です。その顔にあなたたちはピンと来ました。
そう、アウグスタです。なんと言うことでしょう。アウグスタは郷祭にまで出没しているのでした!
あなたたちは、最初から一緒にいたか、あるいは声を掛け合って集まり、アウグスタを会場から外れたところに連れ出しました。あなたたちがアウグスタを問いただすと、彼女は何故か得意げな顔になります。
「よく聞いてくれたわね! 私は今日、あなたたちを震え上がらせる武器のヒントを探しに来たの!」
あなたたちはその言葉に身構えました。アウグスタはえへん! と胸を張ると、腰に手を当てて言い放ちました。
「あなたたちも『うすいほん』の題材にしてやるわ! この本みたいに虫かごに入れてあげる!」
………。
あなたたちは顔を見合わせました。どう返事をしたら良いのだ。その様子を見て、アウグスタは怪訝そうに首を傾げます。
「怖くないの? それはさておき、この本すごいのよ! 蜘蛛のことが何でも書いてある! 『ふきょうよう』と『ほぞんよう』であと二冊余分にあるけど、あなたたちにはあげないわ! 欲しければブースを教えてあげるから自分で買いに行って!」
あげなかったら布教できないじゃないですか。
自由都市同盟を活動範囲にしている歪虚の一人に、八歳くらいの少女の姿をしたアウグスタというのがいる。
彼女は戦いや歪虚としての破壊活動となると、残虐で嫌みな戦法を取ることもあるが、それ以外では見た目かそれ以下の幼さを露呈することもあり、この日もジェオルジに向かっている理由は、子どもじみた思いつきによるものだった。
「お前も『うすいほん』の題材にしてやる! うーん、これが本当に脅し文句になるのかしら」
そう、どこぞの同人作家が、うっかり彼女が聞いているところでそんな話をしてしまったのである。詳細は割愛するが、アウグスタは「うすいほん」の題材にされることが、相手にとって手ひどいダメージになるらしいことを知ってしまった。
ちなみに、その同人作家は成人男性向け年齢制限付き同人誌で人気を博している作家なのだが詳細はこれまた割愛しよう。言った相手も男であったので、想像した相手はたいへんに嫌がったのである。想像力がなければ、怖い物など何もないとはリアルブルーにかつていた著名な作家の言葉であるが、まったくもってその通りである。
閑話休題。
そんなこんなで、アウグスタはまずその「うすいほん」とやらが何なのかと言うことに興味を持った。どうやら、「どうじんし」と言って、ジェオルジの郷祭でも売り出されるのだそうだ。
そこでアウグスタは、陶器的な意味でつやつやのお肌を隠すためにたっぷり着込み、いざとなったら顔も隠してしまえるボンネットをかぶって郷祭に向かっている、と言うわけだ。大型蜘蛛に乗って。
●薄い本とは
アウグスタは、人目につかない外れで蜘蛛を降りると、まっすぐに同人誌即売会のエリアに突撃した。しかし、少年が少女を後ろから抱きしめているものや、男子学生同士が取っ組み合いしているもの、女学生同士が恥ずかしそうに額をくっつけているもの、様々な表紙の本が置いてる。
「……なんだか脅し文句にはなりそうにないわね」
こんな幸せそうな表紙から、ヒントを得るのは難しそうだ。アウグスタはとことこと会場内を移動する。そして、一冊の本に目を奪われた。
おそらくはイラストなのだろうが、実に生き生きした筆致で描かれた蜘蛛の表紙の本だ。まるで写真のよう。実物の蜘蛛を、そのまま平面に閉じ込めて表紙にしたような……。
「素敵」
アウグスタはそれを一冊手に取った。
「見ても良いかしら?」
「どうぞ。虫の本だけどよろしいかな?」
店主は嬉しそうに言った。虫のイラストが表紙の本を手に取る少女なんてそうそういない。おそらくは蜘蛛にそこまで嫌悪感がないのだろう、と彼は思って喜んでいるのだ。
「蜘蛛が好きなの」
「優しいお嬢さんだ」
アウグスタはご機嫌にぱらぱらと本をめくる。やがて、食い入る様に一ページずつじっくりと読み出した。そして、全部読んでしまうと、ほう、と満足のため息を吐いて財布を出した。
「私、これを三冊買うわ! ええと、『かんしょうよう』と、『ほぞんよう』と、『ふきょうよう』と言うのでしょ。素敵な本は三冊買うのが礼儀なのよね?」
「気持ちは嬉しいがお嬢さん、だったら一冊分のお値段で三冊差し上げましょう」
「いけないわ! ほんとに素敵なんだもの。ね、こう言うときはちゃんとお支払いしないと駄目だって、お兄さんが言ってたわ」
お兄さんはとは、アウグスタにうっかりヒントを与えてしまった同人作家のことである。彼女はその本を三冊購入すると、スキップして即売会エリアを離れたのであった。
●ハンドアウト
あなたたちは、何らかの理由で郷祭に来ているハンターです。
あなたたちは、ここに来る以前に、ハンターオフィスで、「この顔にピンと来たらすぐ通報!」と書かれた指名手配歪虚の似顔絵を見ているものとします。それは八歳くらいの少女の姿をした嫉妬の歪虚で、蜘蛛雑魔を操り、迎えに来る来ないでめちゃくちゃ嫉妬すると言うことが書かれていました。名前もわかっていて、アウグスタと言います。
さて、あなたたちは、黄土色のワンピースに、黄土色のボンネット帽子をかぶった少女を見付けました。彼女は蜘蛛の表紙の同人誌を持っており、いたく興奮している様子です。その顔にあなたたちはピンと来ました。
そう、アウグスタです。なんと言うことでしょう。アウグスタは郷祭にまで出没しているのでした!
あなたたちは、最初から一緒にいたか、あるいは声を掛け合って集まり、アウグスタを会場から外れたところに連れ出しました。あなたたちがアウグスタを問いただすと、彼女は何故か得意げな顔になります。
「よく聞いてくれたわね! 私は今日、あなたたちを震え上がらせる武器のヒントを探しに来たの!」
あなたたちはその言葉に身構えました。アウグスタはえへん! と胸を張ると、腰に手を当てて言い放ちました。
「あなたたちも『うすいほん』の題材にしてやるわ! この本みたいに虫かごに入れてあげる!」
………。
あなたたちは顔を見合わせました。どう返事をしたら良いのだ。その様子を見て、アウグスタは怪訝そうに首を傾げます。
「怖くないの? それはさておき、この本すごいのよ! 蜘蛛のことが何でも書いてある! 『ふきょうよう』と『ほぞんよう』であと二冊余分にあるけど、あなたたちにはあげないわ! 欲しければブースを教えてあげるから自分で買いに行って!」
あげなかったら布教できないじゃないですか。
リプレイ本文
●同人誌にまつわる十人十色
レイア・アローネ(ka4082)は混乱していた。警護しつつ楽しんでいたところを、顔なじみのハンター仲間に出くわしただけでもびっくりしたのだが、現在指名手配中の少女歪虚・アウグスタまで来ていたので更にびっくりである。おまけに……。
「あなたたちも『うすいほん』の題材にしてやるわ! この本みたいに虫かごに入れてあげる!」
「ええ~~っ?」
自分は何を見せられているのだろうか。これは戦意を喪失させるアウグスタの作戦なのだろうか。これは、彼女とトラウマレベルの出会いを果たした教師にこそ見せるべき姿ではないだろうか……。
絶句していると、Gacrux(ka2726)が、
「薄い本……ああ、同人誌のことでしょう。要はエロ本ですよ」
さらっと言い放つ。かつて同人誌即売会に参加した時の感想である。彼はその時の印象から、アウグスタ持っているのが人外×人の特殊性癖本であると誤解しているのだが、アウグスタがそもそも何一つ理解していないので、誤解されていることすら気付いていない。
(……特殊性癖に目覚めるとは、業の深い)
性癖そのものを否定する気はない。生温かい目で少女を見下ろした。
「薄い本にされても直接ダメージを被る訳じゃないんだけど……」
レイアほどではないにせよ、鞍馬 真(ka5819)もまたこの状況に気が抜けそうな思いであった。あの山で残虐そうに笑っていたのは何だったんだ。路地裏で「轢いちゃうわよ」なんて冷ややかに言ってたのは何だったんだ。
「……本当?」
アウグスタは真とのやりとりで口が滑ったことがあるので、真の言うことに少々懐疑的な様だ。
「うん、本当だよ」
「ぷー、くすくす。薄い本にされて恥ずかしがるのは美麗な絵で漫画の主人公にされるのを嫌がる男性くらいですよぅ」
口元にそろえた指先を当てて、わざとらしく指さして笑って見せるのは星野 ハナ(ka5852)である。彼女自身同人経験があるので、アウグスタの言いたいことはわかった。
「こういう場所で売ってるのは自費出版の同人誌って言う素敵な趣味本ですぅ。ところでお嬢ちゃんは美麗な漫画は描けるのかなぁ、くすくす」
「漫画じゃないとだめなの? 絵本は?」
「媒体が何であれぇ、創作の技術はあるのかなぁ? って言うお話ですよぉ、くすくす」
「むー! 悪かったわね、お絵かきなんて地面にしかしたことないわ!」
ないのかよ。
全員が内心でツッコミを入れたかもしれない。
「……意味がそこまでわからず使っていてほっとしました……ええ、本当に……」
自身が薄い本にされたことのあるサクラ・エルフリード(ka2598)はほっと胸をなで下ろす。今日も、自分の本が出ていないかチェックしに来たのであった。
「……不思議な歪虚ですね」
蓬(ka7311)はそのやりとりを見ながらぽつりと感想を漏らす。敵と話している感じがしないという点では戦いにくい気もする。
●本の悪用
「……ともあれ……こうして至近で話すのは初めてになるか……私達の事はわかるか……?」
見た目だけなら普通の子どもであるアウグスタが楽しんでいるところを邪魔するのは、レイア的にはちょっとだけ気が咎めた。しかし、相手は歪虚である。
「うんとね、あなたと、そこのお兄さんとそこのお姉さんは知ってるわ」
アウグスタはそう言って真とハナを指す。教員救出のために山へ入った面子だ。真にいたっては、先日別件でばっちり顔を合わせている。
「そ、そうか……随分楽しんでいるようだが、君のしていることはいけないことだぞ!」
「薄い本の題材にするのが?」
「いやそっちじゃなくて!」
「蜘蛛よりも、俺はあんた自身の話に興味がありますねえ」
Gacruxが巧妙に話をすり替えた。あんまり同人誌に興味を持たせると後々執着されて厄介だ。ハナも、同じ結論に至ったからこそ自分にヘイトを向けさせようとして煽ったのだ。
「私?」
「ええ。歪虚が人間の創作物を賞賛するとは意外です。あんたにとって、生者は憎い存在ではないのですか?」
「うーん……人が作ったって言うか、蜘蛛の本だし……」
答えながらこっそり本のページをめくる。人と話しているときに本を読むな。
「迎えについて大分ご執心の様ですが、あんたは誰の迎えを待っているんですか?」
Gacruxには疑問がある。生前、迎えを待つ少女が何故死んだのか? また、迎えが来なかった理由をどれほど理解していたのか。
アウグスタはGacruxをじっと見つめた。それから、つん、とすまし顔。
「内緒よ」
「何でその人は迎えに来なかったんでしょうね」
「そ、そんなの知らないわ。それまでは、私が泣いてるとママはいつも迎えに……あ」
アウグスタはそこまで喋ってから慌てて手で口を塞いだ。しかし時既に遅し。
「母親でしたか」
「もう! あなたたちなんて蜘蛛の巣に引っかかっちゃえば良いのに!」
真は肩を竦める。
「私たちが蜘蛛の巣にかかるかは置いといて……その本を悪用するのは止しておいた方が良いよ、とは忠告しておく」
「悪用? どうやって? 角で殴るには頑丈さが足りないんじゃないかしら……」
(やっぱり、これ意味わかってなくない?)
(わかってないですね。俺やハナが言ってることも、半分も理解してないんじゃないでしょうか)
真とGacruxはひそひそと囁きあった。本を逆さにしたり、振ったりしてどう悪用するのかと頭を捻るアウグスタに、ハナがとどめの一言を言い放つ。
「私は符術師の星野ハナって言いますぅ。何回でも全力で遊んであげますからぁ、何度でも、かつてのママみたいに、私を迎えに来ても良いですよぅ、アウグスタ?」
かっちーん!
アウグスタの怒りが一瞬で沸点に達した。
「むー! ほんと意地悪なお姉さんね!」
彼女はわかりやすくむくれると、指笛を吹いた。遠くから金属音が轟く。小型蜘蛛が駆け込んで来た。そして、その後ろから高さ三メートルはあろうかと言う鉄板蜘蛛も現れる。アウグスタは、たたたと大蜘蛛に駆け寄ると、ぴょんと飛び乗った。手綱を引いて号令を掛ける。
「やっちゃって! いいえ、やるわよ!」
●後で考える
「待ってください」
静かに蓬が声を掛けた。アウグスタは、見た目の年齢よりも落ち着き払った彼女の雰囲気を無視できないで、怪訝そうに視線をやる。
「なぁに?」
「その本が大事なら、安全なところに置いておくのが良いのではないでしょうか」
蓬としては、本を巻き込む理由がないのもあるが、気に入りの本が破損したりして逆上されたりするのを防ぐ意味合いがあった。しかしアウグスタはそんなこと気付かないので、
「それもそうね……はい、じゃあ、あなたとあなたとあなた……」
小蜘蛛三匹を脇によけさせると、集まったその背中に本を乗せた。
「あなたたちは戦ったら駄目よ。そこで本を守ってね」
これで安心と言わんばかりに、アウグスタは満足そうに頷くと、再びハンターたちを見る。
「行くわよ! 戦いのまぶたは切って落とされたわ!」
「火蓋ですかねぇ」
Gacruxが小声で訂正したが、アウグスタには届いていない。
「まぶたが切って落とされる……想像すると怖いような……」
想像してしまったサクラは渋面だ。
「小蜘蛛はこっちで引き受けましょう」
Gacruxはタービュレンスを両手で持ちながらソウルトーチを燃やした。半数以上の小蜘蛛がそれに引きつけられる。アウグスタと大蜘蛛もだ。
「そう。あなたを囲んで食いちぎって、頭をボールみたいにして遊んで欲しいのね? 良いわ。手足と胴体の使い道はあとで考える」
ぱっと、アウグスタの表情に嗜虐の色が差す。
「がっくん……!」
真がその害意に警戒した。だが、当のGacruxはまるで慌てていない。
「大丈夫ですよ、真。大蜘蛛を頼みます」
「鞍馬!」
レイアが声を掛けた。彼女がカオスウィースと天羽羽斬、二本の剣を抜いているのを見て、戦略が近いことを彼は知った。自分もまた、カオスウィースとオペレッタを抜く。オペレッタを軽く振ると、刀身に空いた穴がマテリアルに共鳴して、管楽器を試しに吹いたような音がした。その音に、アウグスタは肩をふるわせる。
「何? 今の音?」
「この音かな?」
真はソウルエッジを掛けてから二刀流で蜘蛛に迫った。さらにアラストゥーリで追撃を加える。オペレッタが鳴り響く。一撃はかわされたものの、残りの二撃は大蜘蛛の頭と腹を叩いた。鉄がひしゃげる豪快な音がする。
「きゃーっ!?」
アウグスタが悲鳴を上げた。
「なんでなんでなんでー!? この蜘蛛、馬車もひっくり返せるのよー!? 何で剣だけでこんなに壊れそうなのー!?」
「やりにくい……!」
レイアが真と反対方向から、同じようにソウルエッジを付与した二刀流で斬りかかる。避けようとしたアウグスタだったが、
「させません」
蓬の牽制射撃で脚が止まった。アスラトゥーリの追撃に加えて、リバースエッジが襲いかかる!
ごっつーん!
「ぎゃーっ!」
その内一撃が、アウグスタ本人にヒットした。蜘蛛の背中がひしゃげ、脚が一本外れかかっている。
「い、痛い……昼なのにお星様が見える……うう……」
彼女の頭の上で、ぴーちくぱーちく鳴いて飛び回る小鳥が見える様である。
「会場には行かせませんよぉ」
一方、ハナは小蜘蛛退治を優先した。いくらGacruxがソウルトーチで引きつけているとは言え、万が一会場に行かれてしまってもまずい。なら、行ってしまって困るものを排除すれば良いのだ。
五色光符陣を、蜘蛛の集まっているところに展開する。先日新人にフラッシュバンと言わしめた閃光が炸裂した。
他方ではトーチの誘引を拒否した蜘蛛たちの一部がサクラに寄ってくる。
「蜘蛛にたかられるのは流石に嬉しくないです……離れてください……セイクリッドフラッシュ……!」
光の波動がまとめて蜘蛛を消し去る。
「撃ち抜きます」
蓬が雀蜂で狙いをつけた。大蜘蛛はGacruxに注意を引かれていて動き回る気配がない。しかし、蜘蛛がひょいと脚を上げた。惜しかった。見切っていたのか偶然なのかは定かではないが、蓬の撃った弾丸はさっきまで脚がついていた地面に着弾する。
「きゃー! 今の何!?」
とはいえ、アウグスタを驚かせるには充分だったようである。
的を引き受けたGacruxは、盾に持ち替えた。八割近くの蜘蛛が彼のソウルトーチに引きつけられているのだ。大蜘蛛も。わらわらと飛びかかって来る蜘蛛は、持ち前の身体能力で回避する。蜘蛛同士が空中でぶつかって無様に落ちることもあった。
「食らえー!」
大蜘蛛が糸を吐きかけた。Gacruxに絡みつくが、彼はその糸をナイフや素手で引きちぎる。その隙を狙って……いたかどうかは定かではないが、大蜘蛛が動いた。前の脚を高く上げて、Gacruxに振り下ろす。彼は尖った鉄骨のようなそれを、盾で受け止めた。しゃがみ込んで狙われた脚を守る。が、大きさに見合った重量、勢いは完全にしのぎきれない。
「がっくん!?」
真が振り返る。
「大丈夫ですよ。しかし、これは防御を固めてこなかったら危なかったですね」
当のGacruxは平然とした顔をしているが、ダメージを受けているのは明白だ。だが、アウグスタは彼が言ったことをそのまま受け取ったらしい。
「むー! あんなに思い切って殴ったのに!」
「Gacruxさん、大丈夫ですか……」
サクラが駆け寄る。
「ええ、何とか」
アウグスタは彼が無傷だと思ってじたばたしている。サクラはその間に、ヒーリングスフィアを展開してその傷を癒やした。完全回復は無理でも、傷は癒えた筈だ。
「ありがとうございます、サクラ。さて」
彼は武器を槍に持ち帰る。
「反撃といきましょうか」
彼は自分に寄ってきていた小型蜘蛛を、四体まとめて薙ぎ払った。
●満身創痍
真は再び二刀流で蜘蛛の脚を叩き斬った。今度はそれで脚が一本、節の所から折れて外れる。
「きゃー!? 脚が取れちゃっ……そんなところから取れるのー!?」
「その程度の構造把握能力で絵本が書けるのかなぁ?」
ハナが言葉の追撃を加える!
一方、同人誌を任された三匹の蜘蛛は、なんだかおろおろしているように見えた。仲間たちが次々と消し去られ、主たるアウグスタもピンチ。
「ごしゅじんさまがたいへんだー!」
「たすけにいかないと!」
「でもこのほんがおっこちちゃうぞー!」
と、言ってるように見えなくもない。ある意味和むような和まないような……。
「和むかッ! 和んでたまるかッ!」
レイアも二刀流で斬りかかる。
「援護します」
蓬の短筒が火を吹いた。
「助かる!」
やりにくい、非常にやりにくい。だが、彼女の脳裏には、ジェレミアや、ハロウィンの蜘蛛騒ぎで恐怖に陥れられた市民たちの顔が脳裏に過ぎった。
「ここで倒さなければまた被害に遭う市民が出てしまう……!」
カオスウィースの切っ先をアウグスタに突きつける。
「だから……君を倒す……!」
今度の攻撃は、アウグスタにはわずかに届かなかった。だが、大蜘蛛に損傷を与えるのには十分すぎた。蜘蛛の頭と背中はひしゃげ、脚は数本取れてしまっている。
「ぬー!」
アウグスタはじたばたして悔しがった。これ以上やり合うと、足がなくなる……蜘蛛の足も、移動手段としての足も……ことに気が付いた様だ。
「きょ、今日の所はこれくらいにしておいてあげるわ」
「逆じゃないですかね」
Gacruxが冷静に指摘する。
「えーん! うるさーい! がっくんの意地悪! わからず屋!」
馴れ馴れしく愛称で呼びつけながらアウグスタは手綱を引いた。ハンターたちは身構えるが、大蜘蛛は残った脚をがちゃがちゃ言わせながら方向転換をする。
「今回ツケをためたのはどちらかな?」
その背中に真が声を投げかけると、アウグスタは目をつり上げて言い捨てた。
「しらない! 帰る!」
脚が欠けても、まだ走る力は残っていたらしい。ぼろぼろになった蜘蛛は、同人誌を背中に乗せた三匹を伴ってその場から走り去った。けたたましい金属音。
「行ってしまいました……」
サクラが呟く。蓬が、残った蜘蛛を見回して頷いた。
「どうやら、本当にあの本は気に入っているようですね……」
大蜘蛛の脅威がされば後はすっかりおなじみの小蜘蛛退治だ。なかなかにすばしっこいが、連携すればどうと言うことはない。程なくして小蜘蛛は殲滅された。
「……虚しい……」
レイアががっくりと肩を落とす。
「こんな虚しさを味わうのは初めてだ……」
その後、Gacruxは蜘蛛の本を出したブースに立ち寄ると、本を二冊購入した。若い男性までもが興味を持ってくれているのだと知って、サークル主は喜んでいる。
その内一冊をオフィスに提供した彼は、持ち帰ってページをめくりながら呟いた。
「ああ……別に特殊性癖ではなかったんですね……」
レイア・アローネ(ka4082)は混乱していた。警護しつつ楽しんでいたところを、顔なじみのハンター仲間に出くわしただけでもびっくりしたのだが、現在指名手配中の少女歪虚・アウグスタまで来ていたので更にびっくりである。おまけに……。
「あなたたちも『うすいほん』の題材にしてやるわ! この本みたいに虫かごに入れてあげる!」
「ええ~~っ?」
自分は何を見せられているのだろうか。これは戦意を喪失させるアウグスタの作戦なのだろうか。これは、彼女とトラウマレベルの出会いを果たした教師にこそ見せるべき姿ではないだろうか……。
絶句していると、Gacrux(ka2726)が、
「薄い本……ああ、同人誌のことでしょう。要はエロ本ですよ」
さらっと言い放つ。かつて同人誌即売会に参加した時の感想である。彼はその時の印象から、アウグスタ持っているのが人外×人の特殊性癖本であると誤解しているのだが、アウグスタがそもそも何一つ理解していないので、誤解されていることすら気付いていない。
(……特殊性癖に目覚めるとは、業の深い)
性癖そのものを否定する気はない。生温かい目で少女を見下ろした。
「薄い本にされても直接ダメージを被る訳じゃないんだけど……」
レイアほどではないにせよ、鞍馬 真(ka5819)もまたこの状況に気が抜けそうな思いであった。あの山で残虐そうに笑っていたのは何だったんだ。路地裏で「轢いちゃうわよ」なんて冷ややかに言ってたのは何だったんだ。
「……本当?」
アウグスタは真とのやりとりで口が滑ったことがあるので、真の言うことに少々懐疑的な様だ。
「うん、本当だよ」
「ぷー、くすくす。薄い本にされて恥ずかしがるのは美麗な絵で漫画の主人公にされるのを嫌がる男性くらいですよぅ」
口元にそろえた指先を当てて、わざとらしく指さして笑って見せるのは星野 ハナ(ka5852)である。彼女自身同人経験があるので、アウグスタの言いたいことはわかった。
「こういう場所で売ってるのは自費出版の同人誌って言う素敵な趣味本ですぅ。ところでお嬢ちゃんは美麗な漫画は描けるのかなぁ、くすくす」
「漫画じゃないとだめなの? 絵本は?」
「媒体が何であれぇ、創作の技術はあるのかなぁ? って言うお話ですよぉ、くすくす」
「むー! 悪かったわね、お絵かきなんて地面にしかしたことないわ!」
ないのかよ。
全員が内心でツッコミを入れたかもしれない。
「……意味がそこまでわからず使っていてほっとしました……ええ、本当に……」
自身が薄い本にされたことのあるサクラ・エルフリード(ka2598)はほっと胸をなで下ろす。今日も、自分の本が出ていないかチェックしに来たのであった。
「……不思議な歪虚ですね」
蓬(ka7311)はそのやりとりを見ながらぽつりと感想を漏らす。敵と話している感じがしないという点では戦いにくい気もする。
●本の悪用
「……ともあれ……こうして至近で話すのは初めてになるか……私達の事はわかるか……?」
見た目だけなら普通の子どもであるアウグスタが楽しんでいるところを邪魔するのは、レイア的にはちょっとだけ気が咎めた。しかし、相手は歪虚である。
「うんとね、あなたと、そこのお兄さんとそこのお姉さんは知ってるわ」
アウグスタはそう言って真とハナを指す。教員救出のために山へ入った面子だ。真にいたっては、先日別件でばっちり顔を合わせている。
「そ、そうか……随分楽しんでいるようだが、君のしていることはいけないことだぞ!」
「薄い本の題材にするのが?」
「いやそっちじゃなくて!」
「蜘蛛よりも、俺はあんた自身の話に興味がありますねえ」
Gacruxが巧妙に話をすり替えた。あんまり同人誌に興味を持たせると後々執着されて厄介だ。ハナも、同じ結論に至ったからこそ自分にヘイトを向けさせようとして煽ったのだ。
「私?」
「ええ。歪虚が人間の創作物を賞賛するとは意外です。あんたにとって、生者は憎い存在ではないのですか?」
「うーん……人が作ったって言うか、蜘蛛の本だし……」
答えながらこっそり本のページをめくる。人と話しているときに本を読むな。
「迎えについて大分ご執心の様ですが、あんたは誰の迎えを待っているんですか?」
Gacruxには疑問がある。生前、迎えを待つ少女が何故死んだのか? また、迎えが来なかった理由をどれほど理解していたのか。
アウグスタはGacruxをじっと見つめた。それから、つん、とすまし顔。
「内緒よ」
「何でその人は迎えに来なかったんでしょうね」
「そ、そんなの知らないわ。それまでは、私が泣いてるとママはいつも迎えに……あ」
アウグスタはそこまで喋ってから慌てて手で口を塞いだ。しかし時既に遅し。
「母親でしたか」
「もう! あなたたちなんて蜘蛛の巣に引っかかっちゃえば良いのに!」
真は肩を竦める。
「私たちが蜘蛛の巣にかかるかは置いといて……その本を悪用するのは止しておいた方が良いよ、とは忠告しておく」
「悪用? どうやって? 角で殴るには頑丈さが足りないんじゃないかしら……」
(やっぱり、これ意味わかってなくない?)
(わかってないですね。俺やハナが言ってることも、半分も理解してないんじゃないでしょうか)
真とGacruxはひそひそと囁きあった。本を逆さにしたり、振ったりしてどう悪用するのかと頭を捻るアウグスタに、ハナがとどめの一言を言い放つ。
「私は符術師の星野ハナって言いますぅ。何回でも全力で遊んであげますからぁ、何度でも、かつてのママみたいに、私を迎えに来ても良いですよぅ、アウグスタ?」
かっちーん!
アウグスタの怒りが一瞬で沸点に達した。
「むー! ほんと意地悪なお姉さんね!」
彼女はわかりやすくむくれると、指笛を吹いた。遠くから金属音が轟く。小型蜘蛛が駆け込んで来た。そして、その後ろから高さ三メートルはあろうかと言う鉄板蜘蛛も現れる。アウグスタは、たたたと大蜘蛛に駆け寄ると、ぴょんと飛び乗った。手綱を引いて号令を掛ける。
「やっちゃって! いいえ、やるわよ!」
●後で考える
「待ってください」
静かに蓬が声を掛けた。アウグスタは、見た目の年齢よりも落ち着き払った彼女の雰囲気を無視できないで、怪訝そうに視線をやる。
「なぁに?」
「その本が大事なら、安全なところに置いておくのが良いのではないでしょうか」
蓬としては、本を巻き込む理由がないのもあるが、気に入りの本が破損したりして逆上されたりするのを防ぐ意味合いがあった。しかしアウグスタはそんなこと気付かないので、
「それもそうね……はい、じゃあ、あなたとあなたとあなた……」
小蜘蛛三匹を脇によけさせると、集まったその背中に本を乗せた。
「あなたたちは戦ったら駄目よ。そこで本を守ってね」
これで安心と言わんばかりに、アウグスタは満足そうに頷くと、再びハンターたちを見る。
「行くわよ! 戦いのまぶたは切って落とされたわ!」
「火蓋ですかねぇ」
Gacruxが小声で訂正したが、アウグスタには届いていない。
「まぶたが切って落とされる……想像すると怖いような……」
想像してしまったサクラは渋面だ。
「小蜘蛛はこっちで引き受けましょう」
Gacruxはタービュレンスを両手で持ちながらソウルトーチを燃やした。半数以上の小蜘蛛がそれに引きつけられる。アウグスタと大蜘蛛もだ。
「そう。あなたを囲んで食いちぎって、頭をボールみたいにして遊んで欲しいのね? 良いわ。手足と胴体の使い道はあとで考える」
ぱっと、アウグスタの表情に嗜虐の色が差す。
「がっくん……!」
真がその害意に警戒した。だが、当のGacruxはまるで慌てていない。
「大丈夫ですよ、真。大蜘蛛を頼みます」
「鞍馬!」
レイアが声を掛けた。彼女がカオスウィースと天羽羽斬、二本の剣を抜いているのを見て、戦略が近いことを彼は知った。自分もまた、カオスウィースとオペレッタを抜く。オペレッタを軽く振ると、刀身に空いた穴がマテリアルに共鳴して、管楽器を試しに吹いたような音がした。その音に、アウグスタは肩をふるわせる。
「何? 今の音?」
「この音かな?」
真はソウルエッジを掛けてから二刀流で蜘蛛に迫った。さらにアラストゥーリで追撃を加える。オペレッタが鳴り響く。一撃はかわされたものの、残りの二撃は大蜘蛛の頭と腹を叩いた。鉄がひしゃげる豪快な音がする。
「きゃーっ!?」
アウグスタが悲鳴を上げた。
「なんでなんでなんでー!? この蜘蛛、馬車もひっくり返せるのよー!? 何で剣だけでこんなに壊れそうなのー!?」
「やりにくい……!」
レイアが真と反対方向から、同じようにソウルエッジを付与した二刀流で斬りかかる。避けようとしたアウグスタだったが、
「させません」
蓬の牽制射撃で脚が止まった。アスラトゥーリの追撃に加えて、リバースエッジが襲いかかる!
ごっつーん!
「ぎゃーっ!」
その内一撃が、アウグスタ本人にヒットした。蜘蛛の背中がひしゃげ、脚が一本外れかかっている。
「い、痛い……昼なのにお星様が見える……うう……」
彼女の頭の上で、ぴーちくぱーちく鳴いて飛び回る小鳥が見える様である。
「会場には行かせませんよぉ」
一方、ハナは小蜘蛛退治を優先した。いくらGacruxがソウルトーチで引きつけているとは言え、万が一会場に行かれてしまってもまずい。なら、行ってしまって困るものを排除すれば良いのだ。
五色光符陣を、蜘蛛の集まっているところに展開する。先日新人にフラッシュバンと言わしめた閃光が炸裂した。
他方ではトーチの誘引を拒否した蜘蛛たちの一部がサクラに寄ってくる。
「蜘蛛にたかられるのは流石に嬉しくないです……離れてください……セイクリッドフラッシュ……!」
光の波動がまとめて蜘蛛を消し去る。
「撃ち抜きます」
蓬が雀蜂で狙いをつけた。大蜘蛛はGacruxに注意を引かれていて動き回る気配がない。しかし、蜘蛛がひょいと脚を上げた。惜しかった。見切っていたのか偶然なのかは定かではないが、蓬の撃った弾丸はさっきまで脚がついていた地面に着弾する。
「きゃー! 今の何!?」
とはいえ、アウグスタを驚かせるには充分だったようである。
的を引き受けたGacruxは、盾に持ち替えた。八割近くの蜘蛛が彼のソウルトーチに引きつけられているのだ。大蜘蛛も。わらわらと飛びかかって来る蜘蛛は、持ち前の身体能力で回避する。蜘蛛同士が空中でぶつかって無様に落ちることもあった。
「食らえー!」
大蜘蛛が糸を吐きかけた。Gacruxに絡みつくが、彼はその糸をナイフや素手で引きちぎる。その隙を狙って……いたかどうかは定かではないが、大蜘蛛が動いた。前の脚を高く上げて、Gacruxに振り下ろす。彼は尖った鉄骨のようなそれを、盾で受け止めた。しゃがみ込んで狙われた脚を守る。が、大きさに見合った重量、勢いは完全にしのぎきれない。
「がっくん!?」
真が振り返る。
「大丈夫ですよ。しかし、これは防御を固めてこなかったら危なかったですね」
当のGacruxは平然とした顔をしているが、ダメージを受けているのは明白だ。だが、アウグスタは彼が言ったことをそのまま受け取ったらしい。
「むー! あんなに思い切って殴ったのに!」
「Gacruxさん、大丈夫ですか……」
サクラが駆け寄る。
「ええ、何とか」
アウグスタは彼が無傷だと思ってじたばたしている。サクラはその間に、ヒーリングスフィアを展開してその傷を癒やした。完全回復は無理でも、傷は癒えた筈だ。
「ありがとうございます、サクラ。さて」
彼は武器を槍に持ち帰る。
「反撃といきましょうか」
彼は自分に寄ってきていた小型蜘蛛を、四体まとめて薙ぎ払った。
●満身創痍
真は再び二刀流で蜘蛛の脚を叩き斬った。今度はそれで脚が一本、節の所から折れて外れる。
「きゃー!? 脚が取れちゃっ……そんなところから取れるのー!?」
「その程度の構造把握能力で絵本が書けるのかなぁ?」
ハナが言葉の追撃を加える!
一方、同人誌を任された三匹の蜘蛛は、なんだかおろおろしているように見えた。仲間たちが次々と消し去られ、主たるアウグスタもピンチ。
「ごしゅじんさまがたいへんだー!」
「たすけにいかないと!」
「でもこのほんがおっこちちゃうぞー!」
と、言ってるように見えなくもない。ある意味和むような和まないような……。
「和むかッ! 和んでたまるかッ!」
レイアも二刀流で斬りかかる。
「援護します」
蓬の短筒が火を吹いた。
「助かる!」
やりにくい、非常にやりにくい。だが、彼女の脳裏には、ジェレミアや、ハロウィンの蜘蛛騒ぎで恐怖に陥れられた市民たちの顔が脳裏に過ぎった。
「ここで倒さなければまた被害に遭う市民が出てしまう……!」
カオスウィースの切っ先をアウグスタに突きつける。
「だから……君を倒す……!」
今度の攻撃は、アウグスタにはわずかに届かなかった。だが、大蜘蛛に損傷を与えるのには十分すぎた。蜘蛛の頭と背中はひしゃげ、脚は数本取れてしまっている。
「ぬー!」
アウグスタはじたばたして悔しがった。これ以上やり合うと、足がなくなる……蜘蛛の足も、移動手段としての足も……ことに気が付いた様だ。
「きょ、今日の所はこれくらいにしておいてあげるわ」
「逆じゃないですかね」
Gacruxが冷静に指摘する。
「えーん! うるさーい! がっくんの意地悪! わからず屋!」
馴れ馴れしく愛称で呼びつけながらアウグスタは手綱を引いた。ハンターたちは身構えるが、大蜘蛛は残った脚をがちゃがちゃ言わせながら方向転換をする。
「今回ツケをためたのはどちらかな?」
その背中に真が声を投げかけると、アウグスタは目をつり上げて言い捨てた。
「しらない! 帰る!」
脚が欠けても、まだ走る力は残っていたらしい。ぼろぼろになった蜘蛛は、同人誌を背中に乗せた三匹を伴ってその場から走り去った。けたたましい金属音。
「行ってしまいました……」
サクラが呟く。蓬が、残った蜘蛛を見回して頷いた。
「どうやら、本当にあの本は気に入っているようですね……」
大蜘蛛の脅威がされば後はすっかりおなじみの小蜘蛛退治だ。なかなかにすばしっこいが、連携すればどうと言うことはない。程なくして小蜘蛛は殲滅された。
「……虚しい……」
レイアががっくりと肩を落とす。
「こんな虚しさを味わうのは初めてだ……」
その後、Gacruxは蜘蛛の本を出したブースに立ち寄ると、本を二冊購入した。若い男性までもが興味を持ってくれているのだと知って、サークル主は喜んでいる。
その内一冊をオフィスに提供した彼は、持ち帰ってページをめくりながら呟いた。
「ああ……別に特殊性癖ではなかったんですね……」
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/11/15 08:35:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/15 07:31:27 |