ゲスト
(ka0000)
【虚動】ガルドブルム襲来
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/11 22:00
- 完成日
- 2015/01/20 05:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ドミニオンはハンターに包囲されていた。
操られていても移動手段は2本の脚でしかなく、馬や抜け道を駆使したハンターに勝てるはずがなかったのだ。
歪虚の手先が30ミリ口径の銃を構える。
初期の傲慢さは既に消え去り、己の決めたルールを無視してでも逃げ切るつもりにしか見えなかった。
「白兵戦用意!」
騎乗ハンターが馬の足を活かして距離を詰める。
誰1人油断はしていない。敵は奪還対象であると同時に、CAM用アサルトライフルやスナイパーライフルを装備した強敵なのだから。
ドミニオンが急に動きを止め空を見上げる。
薄緑色の操り糸がセンサー部分に集中し、各種ライフルの安全装置が解除される。
銃口は、ハンターではなく天の一点に向けられた。
曳光弾が光の線を空に描く。
その威力を誇るように、地表100メートルを超えてもほぼ直線を保っていた。
光の線が途切れる。
否、重戦車に当たった拳銃弾の如く、30ミリ弾が全て弾かれ虚しく地表へ落ちてくる。
「ドラ、ゴン?」
あるハンターのつぶやきは巨大な翼が巻き起こす轟音にかき消された。
大地が震える。
ドミニオン全機がよろめく。
ハンター達は危険を冒してドミニオンの退路を完全に断った。徒歩の仲間と合流して剣を、メイスを、ワンドを銃を構えた。
『おう、出迎え大儀である。なんてな』
存在感のある声が響き渡り、土煙が急速に晴れていく。
ドラゴンがドミニオンとハンターを見下ろしていた。
艶やかな鱗は1つも欠けていない。
ドミニオン越しにヴォイドの金切り声が響く。
ルール違反を責める声が響くが、ガルドブルムと呼ばれたドラゴンは気にもせず鼻を鳴らした。
『おいおい、はるばる見に来てやったらよォ……CAMたァこんなもんか?』
悪意はなく落胆だけがあった。
鋭い爪で己の胸をこする。30ミリ弾を何十発も受けているはずだがダメージはかすり傷未満だ。
金切り声が途絶え、ドミニオンの1機が片膝をついた。
機体が緑の光を発する。
肩部装備が抵抗かのようにきしみ、数秒の後に機械的な封印が弾けて飛んだ。
「退避ぃっ!」
ハンターの包囲が崩れる。
ドラゴンは楽しげに目を細め、対ヴォイドミサイルを無防備に受けた。
閃光。轟音。激震。
1機のドミニオンが爆発に巻き込まれて右足を破壊され、直前までハンターがいた場所にクレーターが出来る。
『おお!? いいねいいねェ!』
ドラゴンは歓喜を滲ませ口を開く。
胸から肩にかけて鱗が脱落している。
口元からはどす黒い血が大量に溢れている。
なのに、無傷だった頃とは比較にならない圧力がほとばしり、無事なドミニオンを後退させ馬達を怯えさせた。
『デキの悪ィ玩具かと思ったが、なかなかイイ牙隠し持ってんじゃねェか! ハ、よーし気に入った! この俺がもらってやるよ!』
30ミリが吼える。
ドラゴンは全弾道を見切って1歩だけ前進する。1歩でも元が巨大な分速度は凄まじく、ミサイル装備ドミニオンの間近まで瞬間移動したように見えた。
鉄塊じみた爪がCAM装甲に触れ、熱せられたバターのごとくえぐり取る。
関節部が負荷に耐えかね吹き飛び、CAMの残骸が地面に落ちた。
『んァ? なんだ、さっきの牙に比べて随分貧弱な身体だな、おい。ったく、仕方ねェなァ』
ドラゴンがまた消えた。
片足CAMからの狙撃も健在な3機からの銃撃もドラゴンの影に触れることすらできない。
ドラゴンが翼を一振りする。
風が吹く。背後から接近中だったドミニオンが倒れかけ、上空から複数の雄叫びが返ってくる。
ドラゴンを2回りは小さくした飛竜型ヴォイドが強引に、ドミニオンの上半身に着地し押し倒した。
『壊すなよォ? レイディをもてなすように丁重に扱え。ああ? お前らのメスじゃねェよ、人間のやわっこい肉を運ぶようにっつってんだ』
1対1では確実にヴォイドが強い。しかし破壊ではなく捕獲が目的なので戦況は五分だ。
片足のCAMは抜こうとしたカタナを潰され抵抗虚しく脇に抱えられる。
健在な1機はガルドブルムとハンター両方を警戒して2機を助けに行けない。
『嫉妬の、それに人間共』
ドラゴンは至極真面目に語りかける。
『この俺の首をとる絶好のチャンスだぜ』
装甲は半減、血が流れただけ体力は落ち、CAMを巻き込むとまずいので派手な技も使えない。そんな不利な状況にも関わらず、ガルドブルムは笑み崩れてしまいそうだ。
『しっかり頑張ってくれよ? じゃねェと面白くねェからなァ!』
腹の底から楽しげに笑いながら、血塗れドラゴンが進撃を開始した。
操られていても移動手段は2本の脚でしかなく、馬や抜け道を駆使したハンターに勝てるはずがなかったのだ。
歪虚の手先が30ミリ口径の銃を構える。
初期の傲慢さは既に消え去り、己の決めたルールを無視してでも逃げ切るつもりにしか見えなかった。
「白兵戦用意!」
騎乗ハンターが馬の足を活かして距離を詰める。
誰1人油断はしていない。敵は奪還対象であると同時に、CAM用アサルトライフルやスナイパーライフルを装備した強敵なのだから。
ドミニオンが急に動きを止め空を見上げる。
薄緑色の操り糸がセンサー部分に集中し、各種ライフルの安全装置が解除される。
銃口は、ハンターではなく天の一点に向けられた。
曳光弾が光の線を空に描く。
その威力を誇るように、地表100メートルを超えてもほぼ直線を保っていた。
光の線が途切れる。
否、重戦車に当たった拳銃弾の如く、30ミリ弾が全て弾かれ虚しく地表へ落ちてくる。
「ドラ、ゴン?」
あるハンターのつぶやきは巨大な翼が巻き起こす轟音にかき消された。
大地が震える。
ドミニオン全機がよろめく。
ハンター達は危険を冒してドミニオンの退路を完全に断った。徒歩の仲間と合流して剣を、メイスを、ワンドを銃を構えた。
『おう、出迎え大儀である。なんてな』
存在感のある声が響き渡り、土煙が急速に晴れていく。
ドラゴンがドミニオンとハンターを見下ろしていた。
艶やかな鱗は1つも欠けていない。
ドミニオン越しにヴォイドの金切り声が響く。
ルール違反を責める声が響くが、ガルドブルムと呼ばれたドラゴンは気にもせず鼻を鳴らした。
『おいおい、はるばる見に来てやったらよォ……CAMたァこんなもんか?』
悪意はなく落胆だけがあった。
鋭い爪で己の胸をこする。30ミリ弾を何十発も受けているはずだがダメージはかすり傷未満だ。
金切り声が途絶え、ドミニオンの1機が片膝をついた。
機体が緑の光を発する。
肩部装備が抵抗かのようにきしみ、数秒の後に機械的な封印が弾けて飛んだ。
「退避ぃっ!」
ハンターの包囲が崩れる。
ドラゴンは楽しげに目を細め、対ヴォイドミサイルを無防備に受けた。
閃光。轟音。激震。
1機のドミニオンが爆発に巻き込まれて右足を破壊され、直前までハンターがいた場所にクレーターが出来る。
『おお!? いいねいいねェ!』
ドラゴンは歓喜を滲ませ口を開く。
胸から肩にかけて鱗が脱落している。
口元からはどす黒い血が大量に溢れている。
なのに、無傷だった頃とは比較にならない圧力がほとばしり、無事なドミニオンを後退させ馬達を怯えさせた。
『デキの悪ィ玩具かと思ったが、なかなかイイ牙隠し持ってんじゃねェか! ハ、よーし気に入った! この俺がもらってやるよ!』
30ミリが吼える。
ドラゴンは全弾道を見切って1歩だけ前進する。1歩でも元が巨大な分速度は凄まじく、ミサイル装備ドミニオンの間近まで瞬間移動したように見えた。
鉄塊じみた爪がCAM装甲に触れ、熱せられたバターのごとくえぐり取る。
関節部が負荷に耐えかね吹き飛び、CAMの残骸が地面に落ちた。
『んァ? なんだ、さっきの牙に比べて随分貧弱な身体だな、おい。ったく、仕方ねェなァ』
ドラゴンがまた消えた。
片足CAMからの狙撃も健在な3機からの銃撃もドラゴンの影に触れることすらできない。
ドラゴンが翼を一振りする。
風が吹く。背後から接近中だったドミニオンが倒れかけ、上空から複数の雄叫びが返ってくる。
ドラゴンを2回りは小さくした飛竜型ヴォイドが強引に、ドミニオンの上半身に着地し押し倒した。
『壊すなよォ? レイディをもてなすように丁重に扱え。ああ? お前らのメスじゃねェよ、人間のやわっこい肉を運ぶようにっつってんだ』
1対1では確実にヴォイドが強い。しかし破壊ではなく捕獲が目的なので戦況は五分だ。
片足のCAMは抜こうとしたカタナを潰され抵抗虚しく脇に抱えられる。
健在な1機はガルドブルムとハンター両方を警戒して2機を助けに行けない。
『嫉妬の、それに人間共』
ドラゴンは至極真面目に語りかける。
『この俺の首をとる絶好のチャンスだぜ』
装甲は半減、血が流れただけ体力は落ち、CAMを巻き込むとまずいので派手な技も使えない。そんな不利な状況にも関わらず、ガルドブルムは笑み崩れてしまいそうだ。
『しっかり頑張ってくれよ? じゃねェと面白くねェからなァ!』
腹の底から楽しげに笑いながら、血塗れドラゴンが進撃を開始した。
リプレイ本文
ドラゴンが走り出す。
逞しい翼は重りにしかならず、片腕に掴んだCAMは重量以上に揺れる四肢が邪魔だ。
胸部はミサイルによって大きくえぐれ、筋肉が動く度に体液が噴き出している。
『いいねェ』
そんな最悪に限りなく近い状況でも、ガルドブルムの上体は揺れず足の動きはハンターの視力でも追いきれないほど速い。
地面には浅い足跡しか残していない。己の力と重さを見事の制御している証拠だ。足音に至ってはハンターの銃声の方が目立つほどだ。
竜鱗の上で火花が踊る。
CAMの30ミリに比べると威力は弱く、しかし狙いは比較にならなほど正確だった。
火花の発生地点は狙いやすい腹から腕へ、翼が邪魔な上半身へ移り、鱗の守りがない胸部へ近づいていく。
「こんにちはドラゴンさん!」
アンフィス(ka3134)が真っ直ぐにガルドブルムに近づいていく。
彼女の駆る乗用馬も、乗用馬よりも速いガルドブルムも一直線に進み、数十メートルあった距離が瞬く間に0になる。
馬ほどもある爪が振り下ろされる。
アンフィスは怯える馬をぺちんと叩き、馬は生涯最高級の身のこなしで爪と地面の隙間をくぐり抜けた。
銃弾が肉に埋まる音が聞こえ、わずかに遅れて血の臭いが漂った。
「何かしょっぱなからケガしてるのにすごい元気ね!!」
竜の胸に銃口を向けた弾にっこり笑う。
対するドラゴンは足を緩めず方向だけずらし、それまでの勢いを無視して逆向きに爪を振るった。
「誰かヘルプミーメーン」
馬が恐怖で悲鳴をあげながら弧を描いて逃げ続け、アンフィスは兜の飾りを消し飛ばされつつ几帳面にドラゴンの胸肉を狙い、ガルドブルムは上機嫌に目を細めてハンターを狙った。
爪はハンターの兜や鎧を傷つけても速度が衰えない。
達人に匹敵する狙いと速度、災厄の十三魔の名に恥じぬ威力と射程で複数のハンターに深い傷を負わせた。
「待ちわびたぞ! ガルドブルム殿!」
屋外(ka3530)が斜め後方へ向けてランアウト。
直後に寸前まで屋外がいた空間を竜の巨体が通り抜けた。
予想以上に速く、しかも戦慣れしている。このままでは一方的に不利な距離を押しつけられかねない。
「さすがだ!」
屋外は賞賛の言葉を吐きつつ銃口を斜め上方に向けた。
『ぬう!?』
銃弾が鱗と鱗の合間を撃つ。弾は鱗にめり込み止まったが、衝撃が貫通して筋と神経を確かに傷つけた。
『おいおい』
竜の尾が天に向かって立ち上がる。
大重量が前進するエネルギーが手足を動かす力に変換され、銃撃直後の屋外を十数メートルはね飛ばした。
『頑張ればできるじゃねェか! はは、よーくやった!』
屋外の攻撃威力が竜の予想の上限を超えていた。ミサイルで壊されていない防御を抜くなど予想外で、今後確実に発生する激戦が最高に楽しみだ。
ガルドブルムは目を動かさずに周囲を認識する。初手で移動を優先し、覚醒者の前衛を突破して後衛を蹂躙するつもりだったのに、何故か近くにハンターがいない。
「移動を忘れるな。敵に攻撃の機会を渡さぬことが肝要だ」
久延毘 大二郎(ka1771)はトランシーバーを作動させたまま、皆に聞こえる大きな声で指示を出しつつ移動し続ける。
動いている間も攻撃は忘れず、石礫、水球、風刃を切り替え切り替えドラゴンの上半身を狙う。
「巨神と共闘し、そして一転矛を交え、次はドラゴンと戦うか……面白い、まるで神話の登場人物になった気分だよ」
カラカラ笑う。笑いながら受け身のことを考えずに後ろに飛ぶ。
至近距離を掠めた爪がローブごと大二郎の肌をえぐった。
『くくっ』
竜が歓喜している。
大二郎に傷を負わせたのは正直どうでもよい。被害を最低限に抑える、大二郎の戦巧者ぶりが楽しくてたまらないのだ。
ドラゴンから見て東側、CAMが30ミリを振り回しているはずの戦場から大きな音が消えた。
あのCAMは人間が獲るかとガルドブルムが一瞬にも満たない間余計なことを考え、丁度そのタイミングで東に別の動きがあった。
「霊狼の力、思い知らせてやるっす!」
地面とほぼ水平になって狛(ka2456)が駆ける。
ドラゴンの視界の意識の死角をついて距離を詰め、気づかれた。
巨大な尾が狛の仮面めがけて直進する。狛は左右に避けるのではなく加速して直撃だけを避け、血塗れ埃まみれになりながら地面を転がり停止した。
「人間舐めてると痛い目見るっすよー? トカゲさん」
口元だけで不敵に笑う。
ガルドブルムは回るのは口だけかと興味の失せた視線を一瞬だけ向け、しかしようやく異常に気づいて目を見開いた。
小さな人影が、両の足を揃えてドラゴンの鼻に着地したのだ。
「後任せたっすよ」
敵を油断させるため、狛はわざと負け犬っぽく後退していく。
星輝 Amhran(ka0724)が感謝を示すために一度だけ手を振って、嘲弄目的の笑みの仮面を被る。
「ヌシら程の強健な躯と膂力でもって尚アレが欲しいんかや?」
可憐で、洗練された、悪意したたる甘いささやきだ。
『ハ、欲しいモンは奪い壊したいモンは壊す。そこに野暮な理由がいるたァ誰が決めた?』
ドラゴンは初手同様に加速する。
自らにとりついたエルフ1人との対話と洒落込みながらも、同時に現実の脅威であるハンター達の対処をも行う。それができる力が、この竜にはある。
星輝に強風がぶつかる。けれどドラゴンと同じく揺れずに安定している。
「そういえば」
見透かす視線と声が歪虚の意識に突き刺さる。
「この朧は口伝曰く、元はそっち側での? 逆にお主は200年ほど前に性格が」
ドラゴンの足が地面に食い込んだ。
大きすぎる衝撃に星輝が振り落とされ、ガルドブルムの姿勢が初めて崩れる。
星輝が着地する。高度と速度のせいで衝撃を殺しきれず足が痛いが、ドラゴンでも気付けないほど見事に隠しきる。
「そうじゃ、妹が話したい事があるとか」
余裕のある態度を保ったまま下がり、代わりにUisca Amhran(ka0754)が前に出る。
もしこのときガルドブルムが聞く耳持たずに攻撃していたら、Uiscaは地面に広がるペースト状の何かに成り果てていたかもしれない。
だが圧倒的な敏捷性を誇る星輝に警戒心を刺激され、高い攻撃性を鈍らせてしまった。
「ガルドブルムさん、私と賭けをしません?」
クリムゾンウェストに伝わる伝承からドラゴンの性格を推測し、激発せず興味を引き続けるだろう話題を口にする。
「私達の一斉攻撃を無抵抗で受けて貴方が倒れなかったら、ここにあるCAMを全て持っていっていいですよ」
口から出任せだ。
出任せだ。出任せでも、ドラゴンの本気に一撃を避けも耐えもできないはず距離で悠然と立ち続けることで大物感と説得力を獲得する。
彼女の腰にあるトランシーバーが、通信を受け取り淡く光っていた。
●
ドラゴンの興味が南側のハンターに集中した。
フラン・レンナルツ(ka0170)が木の陰から姿を現し、可能な限り速く、同時にドラゴンの注意をひかない速度で西側へ向かう。
「これは……」
残骸が転がっていた。
竜の破壊力を示すように、見た目よりはるかに頑丈なCAMが一山いくらのゴミにしか見えなくなっていた。
「運が良かったね」
フランは安堵して大きめの残骸の後ろにまわる。
ロッソ勤務時代を思いだし、覚醒者の力で搭乗者出入り口をこじ開ける。
人気のない乾いた空気がフランの鼻をくすぐった。
「火器管制制御不能」
コクピット内は無事に見えるのにフランの操作を受け付けない。フランは、これだけ壊れてもまだCAMがヴォイドの支配下にあるのに気付いた。
「通信機使える?」
八原 篝(ka3104)がコクピットを覗き込む。
フランが慣れた動きで外へ出て篝に場所を譲る。
篝は大きく息を吸い、目に力を入れて、ガルドブルムに気付かれてもかまわないつもりで言葉を叩きつけた。
「あの竜のバケモノは『ルール』を破ったんでしょう。相応の罰が必要よね? だったら、少しでいいから手を貸して!」
火器管制がエラーを吐き出して停止した。
クラーレが言うことを聞いたのか、クラーレが込めた力が使い尽くされただけなのかは分からない。どちらでもかまわない。
「外回りはざっと見OK」
コクピット外ではサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)がCAM腕部パーツを掘り出している。
装甲が全壊している上に内側も酷い状態だ。対ヴォイドミサイル1発が誘爆しなかったのが奇跡に近い。
「内装は……よし、生きてる」
緊急時用ケーブルをミサイルからコクピット部分に繋ぎ、フランにうなずいた。
「任せたぞ狙撃手」
フランの顔が少しだけひきつる。再起動した管制装置はエラーを吐きっぱなしだしセンサは目視限定の上いつ動力が停止するか分からない。そもそも実験中の機体だったわけで、つまり特殊燃料だってほとんど積んでいなかったはずだ。仮に脚が生きていたとしても、脚1本動かせたか分からない。
それでもやるしかない。新しい戦力が現れない限り、このまま戦えば死ぬのはガルドブルムではなくハンターなのだから。
「向きはこれで?」
サーシャがフランの指示に従いミサイルの向きを微調整し攻性強化をかける。
対象がほぼ全壊CAMなので普段の半分も効いている気がしない。
フランが合図を送る。篝が通信相手に聞こえる程度の声で指示を出す。
「発射準備完了。ガルドブルムが停止次第対ヴォイドミサイルを発射する!」
そのときようやく、ドラゴンがUiscaのはったりに気付いた。
舌打ちして移動を再開しようとする。
「ヴァルナ=エリゴスと申します! 未熟者ですがまずは一手、見舞わせて頂きます!」
巨体が最高速に達する前にヴァルナ=エリゴス(ka2651)が仕掛けた。
馬上、両手でグレートソードを掲げ、対ヴォイドミサイルがない方向から距離を詰め、振り下ろす。
鱗の上を刃が滑る。火花が散り微かな線が引かれるが敵に与えたダメージはそれだけだ。
鋼より堅いドラゴンクローが迫る。ヴァルナがグレートソードを戻し、会心のタイミングで巨大な爪を弾いた。
かすめただけでも即死な爪が明後日の方向を向く。
ハンターのダメージとスキル残量を考えると、これが最後のチャンスだった。
「止まって、もらい、ますよ!」
瀬織 怜皇(ka0684)が神楽鈴を鳴らす。うまれた雷光は鱗のない胸を貫く。
ドラゴンクローは止まらず反転して怜皇とヴァルナを狙う。
「くくく、ハーッハッハァー!!」
心底楽しげに笑い、紫月・海斗(ka0788)がドラゴンの体にとりつきよじ登る。
振り落とされれば大重量に踏まれて死に、手足と胴で挟まれても死ぬのが分かった上でなお楽しく笑って上に行く、
「竜だ! ドラゴンだよおい! 最高だなぁ!」
脅威に怯えず楽しんで、狂気と縁がない冷静さでアサルトライフルを掲げて引き金を引く。
狙うのは龍の剥き出しの胸。大量の銃弾や術を浴び血が流れ続ける急所だ。
銃口から飛び出したのは高威力の銃弾ではなく雷。肉すら撃ち抜けず消えたのに、ドラゴンの瞳にこれまで無かった焦りが浮かぶ。
竜鱗を粉砕しながらクローが降ってくる。紫月が地面に叩きつけられる。
防御障壁と左手で防いでも死ぬのを避けるだけで精一杯だ。
「数打ちゃ抵抗を抜けるぜ。後1発だ!」
血塗れの歯を剥き出し、紫月がにやりと笑った。
地面に手首まで埋まった腕を伝って怜皇が駆け上がる。
ドラゴンが抜こうとする。ヴァルナが大剣をクローへ振り下ろしてわずかで純金より希少な時間を稼ぐ。
ガルドブルムが強引に腕を揺らす。その半秒前に怜皇が飛んでいた。
神楽鈴を鳴らす。ドラゴンの防御を抜けない威力の、ドラゴンの抵抗を抜く可能性のある光が射程ぎりぎりで胸肉を捉え、浸透した。
『むうう!?』
ガルドブルムが目を見開き、ここにきて初めて間近の人間にのみ意識を向けた。それが、誰の目にも分かった。
「今です」
「発射!」
対ヴォイドミサイルが起動する。
噴射でCAMの肩部残骸が吹き飛ばされる。
ミサイルはじれったくなるほどゆっくりと、しかし竜が我に返る余裕を与えない速度でドラゴンに到達し、眩い光と爆風で戦場を彩った。
●
開戦直後の疾走するドラゴンに、真横から極太の光が突き立った。
直径3センチの質量弾からなる豪雨だ。
リアルブルーで数多の歪虚を仕留めてきた砲撃だ。なのにドラゴン型のヴォイドにはかすり傷すら与えることができなかった。
馬が戦場に突入する。
CAMのセンサが馬と馬を駆るハンターを捉えてはいたが、ハンターが鞍から転げ落ちるのをみて興味を無くす。
30ミリガトリングガンが停止する。
ドミニオンはガルドブルムへの攻撃も妨害も諦めて、方向転換の後南東に向け移動を開始した。
2頭目の馬が急接近する。ブースター抜きのCAMを上回る速度だ。
『……』
ヴォイドの影響下にあるドミニオンが、30ミリの矛先をクリスティン・ガフ(ka1090)の馬に向けた。
飛来する矢の音が近づき衝突音に代わる。
銃口が小指1本にも満たない距離横にずれ、クリスティンの騎馬の脇腹にうっすらと焼き色をつけるだけに終わる。
「1発だけなら死なないでしょうけど」
少し離れた木々の間で、J(ka3142)が次の援護の準備をしつつ呟いていた。
クリスティンは下馬する時間は無いと判断した。
盾と得物を攻撃に使える程度に速度を落とし、それでも接触即重傷な速度でCAMの巨体の至近にまで到達した。
ワイヤーを伸ばして振るう。ドミニオンの左足に巻き付く。
ドミニオンが城壁級の盾を押し出す。
クリスティンが鞍から飛び降り、直前まで彼女がいた空間を大重量の盾が通り過ぎた。
「硬い」
ワイヤーが滑ってCAMの関節部分に巻き付く形になり、柄内のモーターと自身の腕力で切断するための力をかけたのに関節部の薄い装甲すら切断できていなかった。
足音が近づき鉄塊が大気を押しのける。
レイフェン=ランパード(ka0536)のクレイモアは関節部分の上を数センチ滑ってからワイヤーによってついた傷で止まり、剣の勢いとレイフェンの筋力を余すところ無く伝えきった。
CAMは有用な兵器ではあるが無敵の存在ではない。人の技と人以上の力を兼ね備えた覚醒者には、場合によっては酷く弱い。
「さてと。僕的に気にするところは君が『壊す』対象なのか『殺す』対象なのかってとこかな」
レイフェンはクレイモアではなくただの石で追撃をかけた。
斬撃で出来た切れ目に土まみれの石を詰め込んで、機能を削ぐと同時に敵の反応を見たのだ。
「中途半端だね」
機械の単純故の圧倒的速度もなく、生物の先読みも総合判断もなかった。
予めプログラムされた動きで、周囲の状況も考えずに銃口をレイフェンに向ける。
Jの第2矢が今度はガトリングガンの機関部分に当たる。歯車が外れるのに似た音が聞こえ、30ミリが1発も弾を撃てずに停止した。
「何が『レイディをもてなすように』だ!」
西で暴れているドラゴンに死ねのハンドサインを送りながら、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は機杖を振り上げた。
「他人様のパーティに乗り込んで押し倒して」
移動は愛馬に任せて雷を放つ。
稲光は音もなく伸びて関節部分の破損箇所に潜り込み、命令を伝える部位を一時的に麻痺させた。
「してるようなもんだろーが!」
親指を下に向けると同時に、ドミニオンの片足が凍り付く。
クリスティンがワイヤーを伸ばす。狙うのは関節ではなくブースターだ。
CAMが何も考えず定められたとおりにエネルギーをつぎ込んだため、ここを狙ってくださいと宣伝しているようだった。
ワイヤーが巻き付きめり込む。
ブースターには飛行は出来なくてもこの場から脱する程度の力はあり、けれどワイヤーの直撃に無傷に耐える頑丈さは無かった。
クリスティンが防御を考えずに全身の力と重さをワイヤーに込める。ワイヤーに巻き付かれたブースターは壊れはしないが噴出口の方向を大きく歪まされた。
「流石にそこは庇えへんやろ」
皐月=A=カヤマ(ka3534)が馬を駆り、大きく回り込んでドミニオンの背後をとる。
メルヴイルM38が吼えた。1発が重く貫通力も素晴らしく、半壊していた足関節に止めを刺した。
「まだだ」
宮地 楓月(ka3802)が自らの足でたどりつく。
「腰も破壊して移動手段を完全に潰せ」
魔導銃をCAMの腰部分に向け発砲。2度、3度と打ち込んでも破壊はできないがレオーネ達も援護にまわる。
「見た限りでは駆動系も伝達系も変わっていない。そう、そこだ」
レオーネが鞍の上から手を伸ばし、ワンドを弾痕に押し当て雷を中に向けて打ち込んだ。
特徴的な焦げ臭さがCAMの全身から溢れる。
「どんな形でも意思があるなら思い出せ!」
鳴神 真吾(ka2626)が得物を手放す。鞍の上に立ち、CAMの背中に飛びつきしがみつく。
ドミニオンの機能が回復した。身をよじり真吾を振り落とそうとしても、真吾は全身の装甲と体力が削られようと決して離れない。
作戦前、通信機越しにロッソの整備員から教わった操作を行う。
装甲板が浮き上がる。搭乗口が真吾の目に映る。
そのタイミングで、ドミニオンがシールドを回し、致命的な角度で真吾にぶつかった。
「生みの親がお前に願ったのは理不尽から逃避ではなく立ち向かう意思のはずだ!」
兜の下で血を吐きながら声をかけ、真吾は数度バウンドして地面に倒れ伏した。
真吾が倒れても搭乗口は開きっぱなし。状況はハンターの圧倒的有利だ。
「ブースターを使うつもりだ!」
皐月が感情を込めて叫ぶ。
彼の位置からは開け放たれた搭乗口がよく見える。機体の中にある、大量のエラー表示がされたコクピットもだ。
未だ歪虚の支配力は健在で、残った回路を組み合わせブースターで離脱つもりなのがコクピットの様子から分かった。
皐月は、コクピットに向けていた銃口をブースターにずらす。
「再利用可能な状態で倒さねーと実質敗北だからな」
コクピットのかわりにブースターへ弾をくれてやる。
数秒後、すっかり変形したブースターから不気味な色の炎が伸びた。
「進路は塞ぐな。押し潰される」
楓月が一歩横へ移動し振り返る。
ドミニオンの速度は凄まじいが制御できていない。回避の役に立たない蛇行を繰り返し、肩、腕、頭が地面を掘り返して速度が衰え無意味に土煙をまき散らす。
焦らず、徹底して冷静に。
楓月は離れて行くCAMに、必要にして十分なだけ弾丸を浴びせ、狙った通りの場所へ追い込むことに成功した。
ドミニオンは勝利を確信していた。足は使用不能でブースターも沈黙寸前。だがハンターの包囲を抜けた以上、ガルドブルムでも追いつけない場所へ逃げることができる。
「ろくでもないことを考えているな」
CAMの進路上、開戦直後に落馬した死体があるだけのはずの場所に、傷一つ無いヴァイス(ka0364)が立っていた。
大人と赤子ほど体格差がある両者が接触する。
ヴァイスの体が押されている。しかし倒れも吹き飛ばされもしない。
「コクピットまわりのケーブルだ。そこなら潰しても再生可能だ」
楓月が、ブースターの音に負けない声で叫んで伝えてくれた。
「応」
ヴァイスはCAMの装甲を登っていく。特別な技は使ってない。極めて優れた身体能力により力押しだ。
搭乗口から乗り込んで、魔導回転ノコギリに火を入れる。
「俺に気づいたから位置を変えたのかと思ったが」
重要部位を避け、適切な場所を切断し情報の流れを止める。
「予想以上に馬鹿だっただけとはな」
歪虚の激怒が届くより、CAMが歪虚から解放される方が早かった。
ブースターが停止する。ヴァイスが飛び降りて着地し、CAMが数回転して止まる。
「対ヴォイドミサイル発射! 衝撃に備えなさい!」
Jが警告。ヴァイスが素早く身を伏せる。
1秒後。戦場が白く染まり歪虚を滅ぼす暴風が吹き荒れた。
●
対ヴォイドミサイルはガルドブルムの後方10メートルで作動した。
壊れたCAMが装備していた品を設計時に想定されていないやり方で使った結果、狙いは10メートル外れて威力も数割減っていた。
竜翼が堅い背中に押しつけられる。
竜鱗の何割かが圧力に耐えきれずにひび割れる。
衝撃が鱗と筋を貫通して内蔵に達し、ガルドブルムの口と胸から赤黒い体液がこぼれた。
視界が歪む。夜間飛行時でも大丈夫なはずの平衡感覚が失われている。
「往くぞ、小僧。精々死なぬように気張るのだな」
爆発直前には朱殷(ka1359)がいたはずの場所から、濃い血の匂いと軽快な足音が近づいてくる。
竜は堪えきれずに歓喜に笑う。
感情に任せて振るう竜爪は、開戦以来最高の精度と速度を持っていた。
「そうだよね。真っ正面から向かって勝ちに行くしか無いね」
陽炎(ka0142)は朱殷と速度を合わせて、つまりは文字通り限界まで馬を加速させ、朱殷と同様得物に力を込めた。
ガルドブルムの五感が回復しない。
当たれば2人と2頭まとめて血煙に変えていたはずの竜爪が、大きくずれて朱殷だけを襲う。
「は」
刀を振り下ろす。竜爪の先が欠けて空へ消え、狙いの外れた竜の手が手首まで地面に埋まる。
速度と正確さは上回っていたとはいえ重さが違いすぎる。指先から肩までの骨がことごとく割れて、けれど朱殷は落馬せず走り続ける。
「今ぞ!」
柄を噛んで斬撃を繰り出す。
割れた竜鱗に吸い込まれて血が噴き出し朱殷を赤く染める。
陽炎は竜脚を一撃して素早く反転し、半死半生の共を連れ一旦下がる。
「騎士として、ドラゴンに対するは我が剣の誉れ!」
長剣を手に、全身鎧で身を固め、ユナイテル・キングスコート(ka3458)が真正面からドラゴンに挑んだ。
巨大な体が片手のCAMごと揺れている。
巨体から放たれる暴の気配と血臭で、戦場は地獄にしか見えない有様だ。
「征くぞ!」
前進は突撃はなく助走だ。
グリーヴで割れた鱗を踏み砕きながら脚から胸へ駆け上がり、純白の刃を胸肉の中央やや左に埋める。
ドラゴンがその意思に反して震える。
全身の傷から、体液ではなく瘴気にしか見えないものが噴き出し、中空を漂い薄れて消える。
『いい気付けだ』
存在が吹き飛びかねない痛みがガルドブルムの感覚を正常に戻す。
「今です、一斉に攻撃を!」
ユナイテルが胸肉を真横に裂いて剣を取り出す。
竜が翼を振るう。ユナイテルの剣と盾の一部が鏡の如き断面を残し切り飛ばされ、ユナイテル小柄な体に吹き飛ばされる。
八城雪(ka0146)がドラゴンに向けて走る。爆風の範囲から逃れていたので、他の面々と比べると傷が浅い。
浅いとはいっても体は敵と己の血で赤く染まり、マテリアルヒーリングはとうに使い尽くしている。
「このゾクゾクする感じ、たまんねぇ、です」
ユナイテルに倣って脚から腰へ駆け上がる。
「こーゆーヤツには、全力であたんのが、礼儀ってもん、です」
ルーサーンハンマーを短く持って体ごと、ドラゴンの胸の傷に叩き込む。
狙うのは敢えて端。無論怯え故の行動ではない。
戦場後方で柊 恭也(ka0711)が狙いを微修正。雪の頭上10センチを狙って、弾倉に残った最後の弾を送り込む。
竜肉が弾ける。これまでになく深く潜りって止まる。
恭也だけでなく重傷未満のハンター達が弾丸と術を送り込む。胸以外では筋で止められる。だが胸に当たれば奥まで通る。
「出し惜しみとか、テメー相手にゃ、失礼、です」
再度振り上げたルーサーンハンマーが肉を打つと同時に、横からの竜翼に跳ね飛ばされ雪が宙に舞った。
『ハ』
楽しくて楽しくてたまらない。
かつてないほど己の消滅が近い。まさかこんな人間が、こんなにも多く、同時代に生まれているとは。一人の英雄ではない一人ひとりの勇士たち。故に面白い!
ハンターも消耗しているので戦闘を継続すれば勝率6割程度。CAMを諦めれば増えて9割か。ハンターの増援が到着すれば5割を切るかもしれない。むしろ切ってほしいところだが。
『ははっ、最高だ……お前たちは最高だぜェ……!』
CAMをその場に落とす。
体に満ちる力は半減しても、技と心が最高に研ぎ澄まされていた。
『死』
死ね。死ぬぞ。死のう。
どの言葉を発するか決まる前に、戦場の北に大きすぎる動きがあった。
「ワイバーン?」
ガルドブルムが最初に下した命に従い、2体のワイバーンがCAMを掴んで飛んでいく。
『……』
ドラゴンが溜息をつくかのように天を仰いだ。
ユナイテルが不屈の闘志で立ち上がり、傷だらけの竜脚に刃を突き立てる。
ガルドブルムは反撃どころか反応もせず、ここまで戦ってなお健在な翼を広げた。
『興が削がれたな』
膨大な量の空気が下向きに流れる。
巨体が浮き上がり、脚の爪がCAM1機を掴む。
「飛ばせない……! 射程圏内から逃がさないように囲い込むんだ!!」
陽炎が生き残りの前衛と共に風に逆らい竜を囲む。
打つ、斬る、刺す。
鱗の破片と血と瘴気が舞い、しかしドラゴンの命を削りきれない。
恭也が翼の付け根を狙う。
対ヴォイドミサイルの影響だろう。最初は絶対防御に見えた表皮を貫く。それでもまだ足りない。
東からの矢が翼に刺さって揺れる。
「こっちに、来る?」
Jの頬を冷や汗が流れる。
安全を重視するなら逃げるべきだが、これほどのチャンスは今後あるかどうか分からない。
「次会うときゃ、ぜってー今より、強くなっててやる、です。楽しみに待ってろ、です!」
雪が地面に倒れたまま、首を掻ききる仕草をして気絶した。
『おいおい、最近の人間はどんだけサービス精神旺盛なんだよ。最近の若いモンは……なんて言いたくなっちまうぜ』
竜の爪がCAMを摘む。
恭也が眉をしかめてリロード。再度胸肉の奥を狙うがまた摘まれて止められる。
止められても防がれても誰1人諦めない。
浮かび飛んでいくガルドブルムの腹を、恭也の銃弾が、多種多様な術が繰り返し押し寄せる。Jの矢は牽制にしかなっていないがそれで十分だ。確保したCAMを守り抜けば実質勝利なのだから。
『ま、代わりに俺もサービスしてやるよ。あくまでサービスだから、他の奴らには内緒な』
言うやガルドブルムの胸が大きく膨らみ、次の瞬間、灼熱が天を覆い尽くした。
黒き火炎。地獄もかくやと思わせるほどの、業火。遥か上空で空に向かって吐き出したはずのそのブレスはしかし、熱気が地表にまで届くほどの熱量を誇っていた。どんな金属だって溶けそうな炎。どんな物質だって還りそうな虚無。本能的な恐怖が、ハンターたちの心臓を鷲掴みにした。
――いや。
いち早く我に返った恭也の銃撃が翼の先端を砕く……!
しかしドラゴンは即座に飛び方を調節して揺れすらしない。
最後に届いたJの矢をかわし、ドラゴンはワイバーンを引き連れ空高く消えていった。
災厄の十三魔ガルドブルム。
攻めきれずに去ったのは、クリムゾンウェスト史上これが初めてである。
逞しい翼は重りにしかならず、片腕に掴んだCAMは重量以上に揺れる四肢が邪魔だ。
胸部はミサイルによって大きくえぐれ、筋肉が動く度に体液が噴き出している。
『いいねェ』
そんな最悪に限りなく近い状況でも、ガルドブルムの上体は揺れず足の動きはハンターの視力でも追いきれないほど速い。
地面には浅い足跡しか残していない。己の力と重さを見事の制御している証拠だ。足音に至ってはハンターの銃声の方が目立つほどだ。
竜鱗の上で火花が踊る。
CAMの30ミリに比べると威力は弱く、しかし狙いは比較にならなほど正確だった。
火花の発生地点は狙いやすい腹から腕へ、翼が邪魔な上半身へ移り、鱗の守りがない胸部へ近づいていく。
「こんにちはドラゴンさん!」
アンフィス(ka3134)が真っ直ぐにガルドブルムに近づいていく。
彼女の駆る乗用馬も、乗用馬よりも速いガルドブルムも一直線に進み、数十メートルあった距離が瞬く間に0になる。
馬ほどもある爪が振り下ろされる。
アンフィスは怯える馬をぺちんと叩き、馬は生涯最高級の身のこなしで爪と地面の隙間をくぐり抜けた。
銃弾が肉に埋まる音が聞こえ、わずかに遅れて血の臭いが漂った。
「何かしょっぱなからケガしてるのにすごい元気ね!!」
竜の胸に銃口を向けた弾にっこり笑う。
対するドラゴンは足を緩めず方向だけずらし、それまでの勢いを無視して逆向きに爪を振るった。
「誰かヘルプミーメーン」
馬が恐怖で悲鳴をあげながら弧を描いて逃げ続け、アンフィスは兜の飾りを消し飛ばされつつ几帳面にドラゴンの胸肉を狙い、ガルドブルムは上機嫌に目を細めてハンターを狙った。
爪はハンターの兜や鎧を傷つけても速度が衰えない。
達人に匹敵する狙いと速度、災厄の十三魔の名に恥じぬ威力と射程で複数のハンターに深い傷を負わせた。
「待ちわびたぞ! ガルドブルム殿!」
屋外(ka3530)が斜め後方へ向けてランアウト。
直後に寸前まで屋外がいた空間を竜の巨体が通り抜けた。
予想以上に速く、しかも戦慣れしている。このままでは一方的に不利な距離を押しつけられかねない。
「さすがだ!」
屋外は賞賛の言葉を吐きつつ銃口を斜め上方に向けた。
『ぬう!?』
銃弾が鱗と鱗の合間を撃つ。弾は鱗にめり込み止まったが、衝撃が貫通して筋と神経を確かに傷つけた。
『おいおい』
竜の尾が天に向かって立ち上がる。
大重量が前進するエネルギーが手足を動かす力に変換され、銃撃直後の屋外を十数メートルはね飛ばした。
『頑張ればできるじゃねェか! はは、よーくやった!』
屋外の攻撃威力が竜の予想の上限を超えていた。ミサイルで壊されていない防御を抜くなど予想外で、今後確実に発生する激戦が最高に楽しみだ。
ガルドブルムは目を動かさずに周囲を認識する。初手で移動を優先し、覚醒者の前衛を突破して後衛を蹂躙するつもりだったのに、何故か近くにハンターがいない。
「移動を忘れるな。敵に攻撃の機会を渡さぬことが肝要だ」
久延毘 大二郎(ka1771)はトランシーバーを作動させたまま、皆に聞こえる大きな声で指示を出しつつ移動し続ける。
動いている間も攻撃は忘れず、石礫、水球、風刃を切り替え切り替えドラゴンの上半身を狙う。
「巨神と共闘し、そして一転矛を交え、次はドラゴンと戦うか……面白い、まるで神話の登場人物になった気分だよ」
カラカラ笑う。笑いながら受け身のことを考えずに後ろに飛ぶ。
至近距離を掠めた爪がローブごと大二郎の肌をえぐった。
『くくっ』
竜が歓喜している。
大二郎に傷を負わせたのは正直どうでもよい。被害を最低限に抑える、大二郎の戦巧者ぶりが楽しくてたまらないのだ。
ドラゴンから見て東側、CAMが30ミリを振り回しているはずの戦場から大きな音が消えた。
あのCAMは人間が獲るかとガルドブルムが一瞬にも満たない間余計なことを考え、丁度そのタイミングで東に別の動きがあった。
「霊狼の力、思い知らせてやるっす!」
地面とほぼ水平になって狛(ka2456)が駆ける。
ドラゴンの視界の意識の死角をついて距離を詰め、気づかれた。
巨大な尾が狛の仮面めがけて直進する。狛は左右に避けるのではなく加速して直撃だけを避け、血塗れ埃まみれになりながら地面を転がり停止した。
「人間舐めてると痛い目見るっすよー? トカゲさん」
口元だけで不敵に笑う。
ガルドブルムは回るのは口だけかと興味の失せた視線を一瞬だけ向け、しかしようやく異常に気づいて目を見開いた。
小さな人影が、両の足を揃えてドラゴンの鼻に着地したのだ。
「後任せたっすよ」
敵を油断させるため、狛はわざと負け犬っぽく後退していく。
星輝 Amhran(ka0724)が感謝を示すために一度だけ手を振って、嘲弄目的の笑みの仮面を被る。
「ヌシら程の強健な躯と膂力でもって尚アレが欲しいんかや?」
可憐で、洗練された、悪意したたる甘いささやきだ。
『ハ、欲しいモンは奪い壊したいモンは壊す。そこに野暮な理由がいるたァ誰が決めた?』
ドラゴンは初手同様に加速する。
自らにとりついたエルフ1人との対話と洒落込みながらも、同時に現実の脅威であるハンター達の対処をも行う。それができる力が、この竜にはある。
星輝に強風がぶつかる。けれどドラゴンと同じく揺れずに安定している。
「そういえば」
見透かす視線と声が歪虚の意識に突き刺さる。
「この朧は口伝曰く、元はそっち側での? 逆にお主は200年ほど前に性格が」
ドラゴンの足が地面に食い込んだ。
大きすぎる衝撃に星輝が振り落とされ、ガルドブルムの姿勢が初めて崩れる。
星輝が着地する。高度と速度のせいで衝撃を殺しきれず足が痛いが、ドラゴンでも気付けないほど見事に隠しきる。
「そうじゃ、妹が話したい事があるとか」
余裕のある態度を保ったまま下がり、代わりにUisca Amhran(ka0754)が前に出る。
もしこのときガルドブルムが聞く耳持たずに攻撃していたら、Uiscaは地面に広がるペースト状の何かに成り果てていたかもしれない。
だが圧倒的な敏捷性を誇る星輝に警戒心を刺激され、高い攻撃性を鈍らせてしまった。
「ガルドブルムさん、私と賭けをしません?」
クリムゾンウェストに伝わる伝承からドラゴンの性格を推測し、激発せず興味を引き続けるだろう話題を口にする。
「私達の一斉攻撃を無抵抗で受けて貴方が倒れなかったら、ここにあるCAMを全て持っていっていいですよ」
口から出任せだ。
出任せだ。出任せでも、ドラゴンの本気に一撃を避けも耐えもできないはず距離で悠然と立ち続けることで大物感と説得力を獲得する。
彼女の腰にあるトランシーバーが、通信を受け取り淡く光っていた。
●
ドラゴンの興味が南側のハンターに集中した。
フラン・レンナルツ(ka0170)が木の陰から姿を現し、可能な限り速く、同時にドラゴンの注意をひかない速度で西側へ向かう。
「これは……」
残骸が転がっていた。
竜の破壊力を示すように、見た目よりはるかに頑丈なCAMが一山いくらのゴミにしか見えなくなっていた。
「運が良かったね」
フランは安堵して大きめの残骸の後ろにまわる。
ロッソ勤務時代を思いだし、覚醒者の力で搭乗者出入り口をこじ開ける。
人気のない乾いた空気がフランの鼻をくすぐった。
「火器管制制御不能」
コクピット内は無事に見えるのにフランの操作を受け付けない。フランは、これだけ壊れてもまだCAMがヴォイドの支配下にあるのに気付いた。
「通信機使える?」
八原 篝(ka3104)がコクピットを覗き込む。
フランが慣れた動きで外へ出て篝に場所を譲る。
篝は大きく息を吸い、目に力を入れて、ガルドブルムに気付かれてもかまわないつもりで言葉を叩きつけた。
「あの竜のバケモノは『ルール』を破ったんでしょう。相応の罰が必要よね? だったら、少しでいいから手を貸して!」
火器管制がエラーを吐き出して停止した。
クラーレが言うことを聞いたのか、クラーレが込めた力が使い尽くされただけなのかは分からない。どちらでもかまわない。
「外回りはざっと見OK」
コクピット外ではサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)がCAM腕部パーツを掘り出している。
装甲が全壊している上に内側も酷い状態だ。対ヴォイドミサイル1発が誘爆しなかったのが奇跡に近い。
「内装は……よし、生きてる」
緊急時用ケーブルをミサイルからコクピット部分に繋ぎ、フランにうなずいた。
「任せたぞ狙撃手」
フランの顔が少しだけひきつる。再起動した管制装置はエラーを吐きっぱなしだしセンサは目視限定の上いつ動力が停止するか分からない。そもそも実験中の機体だったわけで、つまり特殊燃料だってほとんど積んでいなかったはずだ。仮に脚が生きていたとしても、脚1本動かせたか分からない。
それでもやるしかない。新しい戦力が現れない限り、このまま戦えば死ぬのはガルドブルムではなくハンターなのだから。
「向きはこれで?」
サーシャがフランの指示に従いミサイルの向きを微調整し攻性強化をかける。
対象がほぼ全壊CAMなので普段の半分も効いている気がしない。
フランが合図を送る。篝が通信相手に聞こえる程度の声で指示を出す。
「発射準備完了。ガルドブルムが停止次第対ヴォイドミサイルを発射する!」
そのときようやく、ドラゴンがUiscaのはったりに気付いた。
舌打ちして移動を再開しようとする。
「ヴァルナ=エリゴスと申します! 未熟者ですがまずは一手、見舞わせて頂きます!」
巨体が最高速に達する前にヴァルナ=エリゴス(ka2651)が仕掛けた。
馬上、両手でグレートソードを掲げ、対ヴォイドミサイルがない方向から距離を詰め、振り下ろす。
鱗の上を刃が滑る。火花が散り微かな線が引かれるが敵に与えたダメージはそれだけだ。
鋼より堅いドラゴンクローが迫る。ヴァルナがグレートソードを戻し、会心のタイミングで巨大な爪を弾いた。
かすめただけでも即死な爪が明後日の方向を向く。
ハンターのダメージとスキル残量を考えると、これが最後のチャンスだった。
「止まって、もらい、ますよ!」
瀬織 怜皇(ka0684)が神楽鈴を鳴らす。うまれた雷光は鱗のない胸を貫く。
ドラゴンクローは止まらず反転して怜皇とヴァルナを狙う。
「くくく、ハーッハッハァー!!」
心底楽しげに笑い、紫月・海斗(ka0788)がドラゴンの体にとりつきよじ登る。
振り落とされれば大重量に踏まれて死に、手足と胴で挟まれても死ぬのが分かった上でなお楽しく笑って上に行く、
「竜だ! ドラゴンだよおい! 最高だなぁ!」
脅威に怯えず楽しんで、狂気と縁がない冷静さでアサルトライフルを掲げて引き金を引く。
狙うのは龍の剥き出しの胸。大量の銃弾や術を浴び血が流れ続ける急所だ。
銃口から飛び出したのは高威力の銃弾ではなく雷。肉すら撃ち抜けず消えたのに、ドラゴンの瞳にこれまで無かった焦りが浮かぶ。
竜鱗を粉砕しながらクローが降ってくる。紫月が地面に叩きつけられる。
防御障壁と左手で防いでも死ぬのを避けるだけで精一杯だ。
「数打ちゃ抵抗を抜けるぜ。後1発だ!」
血塗れの歯を剥き出し、紫月がにやりと笑った。
地面に手首まで埋まった腕を伝って怜皇が駆け上がる。
ドラゴンが抜こうとする。ヴァルナが大剣をクローへ振り下ろしてわずかで純金より希少な時間を稼ぐ。
ガルドブルムが強引に腕を揺らす。その半秒前に怜皇が飛んでいた。
神楽鈴を鳴らす。ドラゴンの防御を抜けない威力の、ドラゴンの抵抗を抜く可能性のある光が射程ぎりぎりで胸肉を捉え、浸透した。
『むうう!?』
ガルドブルムが目を見開き、ここにきて初めて間近の人間にのみ意識を向けた。それが、誰の目にも分かった。
「今です」
「発射!」
対ヴォイドミサイルが起動する。
噴射でCAMの肩部残骸が吹き飛ばされる。
ミサイルはじれったくなるほどゆっくりと、しかし竜が我に返る余裕を与えない速度でドラゴンに到達し、眩い光と爆風で戦場を彩った。
●
開戦直後の疾走するドラゴンに、真横から極太の光が突き立った。
直径3センチの質量弾からなる豪雨だ。
リアルブルーで数多の歪虚を仕留めてきた砲撃だ。なのにドラゴン型のヴォイドにはかすり傷すら与えることができなかった。
馬が戦場に突入する。
CAMのセンサが馬と馬を駆るハンターを捉えてはいたが、ハンターが鞍から転げ落ちるのをみて興味を無くす。
30ミリガトリングガンが停止する。
ドミニオンはガルドブルムへの攻撃も妨害も諦めて、方向転換の後南東に向け移動を開始した。
2頭目の馬が急接近する。ブースター抜きのCAMを上回る速度だ。
『……』
ヴォイドの影響下にあるドミニオンが、30ミリの矛先をクリスティン・ガフ(ka1090)の馬に向けた。
飛来する矢の音が近づき衝突音に代わる。
銃口が小指1本にも満たない距離横にずれ、クリスティンの騎馬の脇腹にうっすらと焼き色をつけるだけに終わる。
「1発だけなら死なないでしょうけど」
少し離れた木々の間で、J(ka3142)が次の援護の準備をしつつ呟いていた。
クリスティンは下馬する時間は無いと判断した。
盾と得物を攻撃に使える程度に速度を落とし、それでも接触即重傷な速度でCAMの巨体の至近にまで到達した。
ワイヤーを伸ばして振るう。ドミニオンの左足に巻き付く。
ドミニオンが城壁級の盾を押し出す。
クリスティンが鞍から飛び降り、直前まで彼女がいた空間を大重量の盾が通り過ぎた。
「硬い」
ワイヤーが滑ってCAMの関節部分に巻き付く形になり、柄内のモーターと自身の腕力で切断するための力をかけたのに関節部の薄い装甲すら切断できていなかった。
足音が近づき鉄塊が大気を押しのける。
レイフェン=ランパード(ka0536)のクレイモアは関節部分の上を数センチ滑ってからワイヤーによってついた傷で止まり、剣の勢いとレイフェンの筋力を余すところ無く伝えきった。
CAMは有用な兵器ではあるが無敵の存在ではない。人の技と人以上の力を兼ね備えた覚醒者には、場合によっては酷く弱い。
「さてと。僕的に気にするところは君が『壊す』対象なのか『殺す』対象なのかってとこかな」
レイフェンはクレイモアではなくただの石で追撃をかけた。
斬撃で出来た切れ目に土まみれの石を詰め込んで、機能を削ぐと同時に敵の反応を見たのだ。
「中途半端だね」
機械の単純故の圧倒的速度もなく、生物の先読みも総合判断もなかった。
予めプログラムされた動きで、周囲の状況も考えずに銃口をレイフェンに向ける。
Jの第2矢が今度はガトリングガンの機関部分に当たる。歯車が外れるのに似た音が聞こえ、30ミリが1発も弾を撃てずに停止した。
「何が『レイディをもてなすように』だ!」
西で暴れているドラゴンに死ねのハンドサインを送りながら、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は機杖を振り上げた。
「他人様のパーティに乗り込んで押し倒して」
移動は愛馬に任せて雷を放つ。
稲光は音もなく伸びて関節部分の破損箇所に潜り込み、命令を伝える部位を一時的に麻痺させた。
「してるようなもんだろーが!」
親指を下に向けると同時に、ドミニオンの片足が凍り付く。
クリスティンがワイヤーを伸ばす。狙うのは関節ではなくブースターだ。
CAMが何も考えず定められたとおりにエネルギーをつぎ込んだため、ここを狙ってくださいと宣伝しているようだった。
ワイヤーが巻き付きめり込む。
ブースターには飛行は出来なくてもこの場から脱する程度の力はあり、けれどワイヤーの直撃に無傷に耐える頑丈さは無かった。
クリスティンが防御を考えずに全身の力と重さをワイヤーに込める。ワイヤーに巻き付かれたブースターは壊れはしないが噴出口の方向を大きく歪まされた。
「流石にそこは庇えへんやろ」
皐月=A=カヤマ(ka3534)が馬を駆り、大きく回り込んでドミニオンの背後をとる。
メルヴイルM38が吼えた。1発が重く貫通力も素晴らしく、半壊していた足関節に止めを刺した。
「まだだ」
宮地 楓月(ka3802)が自らの足でたどりつく。
「腰も破壊して移動手段を完全に潰せ」
魔導銃をCAMの腰部分に向け発砲。2度、3度と打ち込んでも破壊はできないがレオーネ達も援護にまわる。
「見た限りでは駆動系も伝達系も変わっていない。そう、そこだ」
レオーネが鞍の上から手を伸ばし、ワンドを弾痕に押し当て雷を中に向けて打ち込んだ。
特徴的な焦げ臭さがCAMの全身から溢れる。
「どんな形でも意思があるなら思い出せ!」
鳴神 真吾(ka2626)が得物を手放す。鞍の上に立ち、CAMの背中に飛びつきしがみつく。
ドミニオンの機能が回復した。身をよじり真吾を振り落とそうとしても、真吾は全身の装甲と体力が削られようと決して離れない。
作戦前、通信機越しにロッソの整備員から教わった操作を行う。
装甲板が浮き上がる。搭乗口が真吾の目に映る。
そのタイミングで、ドミニオンがシールドを回し、致命的な角度で真吾にぶつかった。
「生みの親がお前に願ったのは理不尽から逃避ではなく立ち向かう意思のはずだ!」
兜の下で血を吐きながら声をかけ、真吾は数度バウンドして地面に倒れ伏した。
真吾が倒れても搭乗口は開きっぱなし。状況はハンターの圧倒的有利だ。
「ブースターを使うつもりだ!」
皐月が感情を込めて叫ぶ。
彼の位置からは開け放たれた搭乗口がよく見える。機体の中にある、大量のエラー表示がされたコクピットもだ。
未だ歪虚の支配力は健在で、残った回路を組み合わせブースターで離脱つもりなのがコクピットの様子から分かった。
皐月は、コクピットに向けていた銃口をブースターにずらす。
「再利用可能な状態で倒さねーと実質敗北だからな」
コクピットのかわりにブースターへ弾をくれてやる。
数秒後、すっかり変形したブースターから不気味な色の炎が伸びた。
「進路は塞ぐな。押し潰される」
楓月が一歩横へ移動し振り返る。
ドミニオンの速度は凄まじいが制御できていない。回避の役に立たない蛇行を繰り返し、肩、腕、頭が地面を掘り返して速度が衰え無意味に土煙をまき散らす。
焦らず、徹底して冷静に。
楓月は離れて行くCAMに、必要にして十分なだけ弾丸を浴びせ、狙った通りの場所へ追い込むことに成功した。
ドミニオンは勝利を確信していた。足は使用不能でブースターも沈黙寸前。だがハンターの包囲を抜けた以上、ガルドブルムでも追いつけない場所へ逃げることができる。
「ろくでもないことを考えているな」
CAMの進路上、開戦直後に落馬した死体があるだけのはずの場所に、傷一つ無いヴァイス(ka0364)が立っていた。
大人と赤子ほど体格差がある両者が接触する。
ヴァイスの体が押されている。しかし倒れも吹き飛ばされもしない。
「コクピットまわりのケーブルだ。そこなら潰しても再生可能だ」
楓月が、ブースターの音に負けない声で叫んで伝えてくれた。
「応」
ヴァイスはCAMの装甲を登っていく。特別な技は使ってない。極めて優れた身体能力により力押しだ。
搭乗口から乗り込んで、魔導回転ノコギリに火を入れる。
「俺に気づいたから位置を変えたのかと思ったが」
重要部位を避け、適切な場所を切断し情報の流れを止める。
「予想以上に馬鹿だっただけとはな」
歪虚の激怒が届くより、CAMが歪虚から解放される方が早かった。
ブースターが停止する。ヴァイスが飛び降りて着地し、CAMが数回転して止まる。
「対ヴォイドミサイル発射! 衝撃に備えなさい!」
Jが警告。ヴァイスが素早く身を伏せる。
1秒後。戦場が白く染まり歪虚を滅ぼす暴風が吹き荒れた。
●
対ヴォイドミサイルはガルドブルムの後方10メートルで作動した。
壊れたCAMが装備していた品を設計時に想定されていないやり方で使った結果、狙いは10メートル外れて威力も数割減っていた。
竜翼が堅い背中に押しつけられる。
竜鱗の何割かが圧力に耐えきれずにひび割れる。
衝撃が鱗と筋を貫通して内蔵に達し、ガルドブルムの口と胸から赤黒い体液がこぼれた。
視界が歪む。夜間飛行時でも大丈夫なはずの平衡感覚が失われている。
「往くぞ、小僧。精々死なぬように気張るのだな」
爆発直前には朱殷(ka1359)がいたはずの場所から、濃い血の匂いと軽快な足音が近づいてくる。
竜は堪えきれずに歓喜に笑う。
感情に任せて振るう竜爪は、開戦以来最高の精度と速度を持っていた。
「そうだよね。真っ正面から向かって勝ちに行くしか無いね」
陽炎(ka0142)は朱殷と速度を合わせて、つまりは文字通り限界まで馬を加速させ、朱殷と同様得物に力を込めた。
ガルドブルムの五感が回復しない。
当たれば2人と2頭まとめて血煙に変えていたはずの竜爪が、大きくずれて朱殷だけを襲う。
「は」
刀を振り下ろす。竜爪の先が欠けて空へ消え、狙いの外れた竜の手が手首まで地面に埋まる。
速度と正確さは上回っていたとはいえ重さが違いすぎる。指先から肩までの骨がことごとく割れて、けれど朱殷は落馬せず走り続ける。
「今ぞ!」
柄を噛んで斬撃を繰り出す。
割れた竜鱗に吸い込まれて血が噴き出し朱殷を赤く染める。
陽炎は竜脚を一撃して素早く反転し、半死半生の共を連れ一旦下がる。
「騎士として、ドラゴンに対するは我が剣の誉れ!」
長剣を手に、全身鎧で身を固め、ユナイテル・キングスコート(ka3458)が真正面からドラゴンに挑んだ。
巨大な体が片手のCAMごと揺れている。
巨体から放たれる暴の気配と血臭で、戦場は地獄にしか見えない有様だ。
「征くぞ!」
前進は突撃はなく助走だ。
グリーヴで割れた鱗を踏み砕きながら脚から胸へ駆け上がり、純白の刃を胸肉の中央やや左に埋める。
ドラゴンがその意思に反して震える。
全身の傷から、体液ではなく瘴気にしか見えないものが噴き出し、中空を漂い薄れて消える。
『いい気付けだ』
存在が吹き飛びかねない痛みがガルドブルムの感覚を正常に戻す。
「今です、一斉に攻撃を!」
ユナイテルが胸肉を真横に裂いて剣を取り出す。
竜が翼を振るう。ユナイテルの剣と盾の一部が鏡の如き断面を残し切り飛ばされ、ユナイテル小柄な体に吹き飛ばされる。
八城雪(ka0146)がドラゴンに向けて走る。爆風の範囲から逃れていたので、他の面々と比べると傷が浅い。
浅いとはいっても体は敵と己の血で赤く染まり、マテリアルヒーリングはとうに使い尽くしている。
「このゾクゾクする感じ、たまんねぇ、です」
ユナイテルに倣って脚から腰へ駆け上がる。
「こーゆーヤツには、全力であたんのが、礼儀ってもん、です」
ルーサーンハンマーを短く持って体ごと、ドラゴンの胸の傷に叩き込む。
狙うのは敢えて端。無論怯え故の行動ではない。
戦場後方で柊 恭也(ka0711)が狙いを微修正。雪の頭上10センチを狙って、弾倉に残った最後の弾を送り込む。
竜肉が弾ける。これまでになく深く潜りって止まる。
恭也だけでなく重傷未満のハンター達が弾丸と術を送り込む。胸以外では筋で止められる。だが胸に当たれば奥まで通る。
「出し惜しみとか、テメー相手にゃ、失礼、です」
再度振り上げたルーサーンハンマーが肉を打つと同時に、横からの竜翼に跳ね飛ばされ雪が宙に舞った。
『ハ』
楽しくて楽しくてたまらない。
かつてないほど己の消滅が近い。まさかこんな人間が、こんなにも多く、同時代に生まれているとは。一人の英雄ではない一人ひとりの勇士たち。故に面白い!
ハンターも消耗しているので戦闘を継続すれば勝率6割程度。CAMを諦めれば増えて9割か。ハンターの増援が到着すれば5割を切るかもしれない。むしろ切ってほしいところだが。
『ははっ、最高だ……お前たちは最高だぜェ……!』
CAMをその場に落とす。
体に満ちる力は半減しても、技と心が最高に研ぎ澄まされていた。
『死』
死ね。死ぬぞ。死のう。
どの言葉を発するか決まる前に、戦場の北に大きすぎる動きがあった。
「ワイバーン?」
ガルドブルムが最初に下した命に従い、2体のワイバーンがCAMを掴んで飛んでいく。
『……』
ドラゴンが溜息をつくかのように天を仰いだ。
ユナイテルが不屈の闘志で立ち上がり、傷だらけの竜脚に刃を突き立てる。
ガルドブルムは反撃どころか反応もせず、ここまで戦ってなお健在な翼を広げた。
『興が削がれたな』
膨大な量の空気が下向きに流れる。
巨体が浮き上がり、脚の爪がCAM1機を掴む。
「飛ばせない……! 射程圏内から逃がさないように囲い込むんだ!!」
陽炎が生き残りの前衛と共に風に逆らい竜を囲む。
打つ、斬る、刺す。
鱗の破片と血と瘴気が舞い、しかしドラゴンの命を削りきれない。
恭也が翼の付け根を狙う。
対ヴォイドミサイルの影響だろう。最初は絶対防御に見えた表皮を貫く。それでもまだ足りない。
東からの矢が翼に刺さって揺れる。
「こっちに、来る?」
Jの頬を冷や汗が流れる。
安全を重視するなら逃げるべきだが、これほどのチャンスは今後あるかどうか分からない。
「次会うときゃ、ぜってー今より、強くなっててやる、です。楽しみに待ってろ、です!」
雪が地面に倒れたまま、首を掻ききる仕草をして気絶した。
『おいおい、最近の人間はどんだけサービス精神旺盛なんだよ。最近の若いモンは……なんて言いたくなっちまうぜ』
竜の爪がCAMを摘む。
恭也が眉をしかめてリロード。再度胸肉の奥を狙うがまた摘まれて止められる。
止められても防がれても誰1人諦めない。
浮かび飛んでいくガルドブルムの腹を、恭也の銃弾が、多種多様な術が繰り返し押し寄せる。Jの矢は牽制にしかなっていないがそれで十分だ。確保したCAMを守り抜けば実質勝利なのだから。
『ま、代わりに俺もサービスしてやるよ。あくまでサービスだから、他の奴らには内緒な』
言うやガルドブルムの胸が大きく膨らみ、次の瞬間、灼熱が天を覆い尽くした。
黒き火炎。地獄もかくやと思わせるほどの、業火。遥か上空で空に向かって吐き出したはずのそのブレスはしかし、熱気が地表にまで届くほどの熱量を誇っていた。どんな金属だって溶けそうな炎。どんな物質だって還りそうな虚無。本能的な恐怖が、ハンターたちの心臓を鷲掴みにした。
――いや。
いち早く我に返った恭也の銃撃が翼の先端を砕く……!
しかしドラゴンは即座に飛び方を調節して揺れすらしない。
最後に届いたJの矢をかわし、ドラゴンはワイバーンを引き連れ空高く消えていった。
災厄の十三魔ガルドブルム。
攻めきれずに去ったのは、クリムゾンウェスト史上これが初めてである。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/11 17:43:21 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/10 22:21:43 |