• 落葉

【落葉】邪霊フリーデリーケ・カレンベルク

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/27 22:00
完成日
2018/12/03 10:26

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●異界、それはもうひとつの何か

 街が、燃える。幻の街が。

 女は足元に広がる砂を忌々しげに踏みつけると、空を仰いだ。
 青いはずの空はどこまでも黒く、炎だけが鮮やかな色を放つ。
 その時、足元に「じゃり」と湿った感覚があった。――たしか、この足元で朽ちた砂の精霊とともに最後まで抵抗してきた水の精霊の成れの果てか。
 ブーツについたそれを振り落とすと女は眉間に皺を寄せる。
『亜人とはそこまでして守るべきものなのか……? 私にはわからんな。私は亜人を殺し、歪虚を殺し……いや……?』
 女は水たまりの上に落ちている白い野菊を拾うと、それをくしゃりと掌の中で潰した。もうあの無邪気な花の精霊も炎に身を焦がし、絶命している。
『そういえば……この野菊も砂と水を守るために最期までここにあったな。馬鹿なものだ、他者など放っておけばいい。どうせその心中は裏切りか疑念ばかりだ』
 かつて戦友8人を戦えぬ身にした手が疼く。戦友たちは我が身を犠牲にしてでも戦った自分を認めず、ただただ詰った。皆が無事でよかった、と微笑んだ傷だらけの自分に容赦なく。その記憶がフラッシュバックし、女は頭を抱えた。
 そして女が開いた掌を見ると――潰れた花弁が地面に落ちる。その様がかつての自分のようで。女は腹を抱えて嗤った。
『アハハハハッ! そうだよ、私はこれと変わりない……ぶっ潰れた花だ。誰も見てくれない……騎士道とは根にして茎とは言うが、花が開かなければただの雑草と変わらないじゃないか!』
 騎士の矜持が折れ、絶望とともに叫んだ瞬間。彼女の口が亀裂のように裂ける。質素な鎧はかつて纏っていた漆黒の甲冑と化し、黒髪がざらりと音を立てて腰まで伸びた。――そして力が湧いてくる。無尽蔵なまでの闇の力を彼女は確かに感じていた。
(結局、敵の首級を上げなければ騎士は存在する価値がない。ならば私は……この世界のすべての存在の首を狩る。さすれば陛下も私をお認めになり、赦してくださることだろう。……いや。陛下を討ち、誰もいない世界を作るのも一興だ。力あるモノはひとりで良い)
 さあ。早くこの暗闇が裂けることを。いつかこの狭い世界から解き放たれたなら、全ての命を葬り孤独な世界の王となろう。
 たとえそれが邪神の掌の上であったとしてもかまわない。ただ壊したい、失いたい、何もかも消してしまいたい。……女はそう思うと、もう既に人の目を為していないケダモノのような瞳で天に手を伸ばした。
 ――そこに奇妙な光景が広がった。くすんだ色の骨どもが大斧を背負い、闇色の空をこじ開けようと、黒い翼を広げて空に手をかけたのだ。
 仮初の空といえどひとりの力では到底足りるものではない。だがその翼を持つスケルトンが増えるほど、空はひしゃげたドアを無理に開くような不気味な音を立てて――光をその世界にもたらしたていく。
『ああ、光が……私も往こう、空に向かって』
 女の背に黒い翼がばさりと開く。その形は大鷲に似た勇壮なものだ。まだ力は満ちていないが、ほんの数日もすれば空を舞うこともできるようになるだろう。
『邪悪なる神よ、私に殺戮を! 孤独を! 永遠の苦しみへ忘却の力を!』
 女はそう叫ぶとひたすらに笑い続けた。


●異界の門が開く時

 その日はとても天気が良かった。
 漁師のアルベルトはいつもどおり海に仕掛けを設置し、壊れた網を暖かな日差しの下で修理する。先日結婚したばかりの愛妻が作ってくれた弁当包みからは素朴な炊き込み飯と揚げ鳥の香りがし、それを開くのばかりが楽しみで……彼はせっせと網を繕っていく。
 そんな時のことだった。空中に白骨の指がぽかりと浮かんだと思ったら――次々と翼の生えたスケルトンが宙に現れたのだ。
「あ、あわわ……」
 彼は弁当だけを小脇に抱えると、慌てて駆け出した。振り向けばそこには漆黒の球体がぽっかりと浮かんでいる。
「なんだよ、あれ……歪虚の卵か何かかよォ。勘弁してくれえ!」
 半泣きで村へ戻るアルベルト。彼はまず愛妻の無事を確認するなり飛び込むようにハンターオフィスへ駆け込んだ。


●翼のあるもの

「……翼のあるスケルトン? 珍しいですね、鳥型でもない雑魔が飛行能力を持つなんて」
 只埜 良人(kz0235)はオフィスで渡された情報に目を通すと怪訝そうな表情を浮かべた。
 ここのところ異界の出現に関する情報は数あれど、大抵は一般的なスケルトンが尖兵として出現するだけだ。
 とりあえずその異変のあった村に偶然滞在していたハンター達がスケルトンのほとんどを倒したが、その異様さを警戒し、異界周辺の警戒を続けているという。
 良人の上司は珈琲のカップを傾けながら苦々しげに言う。
「ああ、しかもそれは大鷲のようにご立派な翼と大斧を持っていたんだとよ」
「大鷲と大斧……」
 良人は心に引っかかるものがあり、眼鏡のフレームに無意識に手をかけた。たしか先日再会した英霊の首に下げられた紋章も大鷲の意匠ではなかったか。
(異界の中にある何かがスケルトンに影響を与えているとして。そして、異界は過去の帝国をモチーフにした造りになっているとも聞いた。それなら……!?)
 彼は上司に許可を求め、コロッセオ傍のオフィスに繋がる転移門へすぐさま飛び込む。かの英霊に再び会うために。


●英霊の意向

『大鷲と大斧……か』
 英霊フリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)は良人の話を聞くと錆びたロケットを開いてみせた。
『もしお前の推測が本物だとしたら、その異界からいずれは私に似た何かが現れる可能性があるだろうな』
「……ですね。しかも歪虚に近い存在になって」
『ならば始末せねばなるまい。もっとも、あの世界はソードオブジェクトとやらを破壊すれば消滅するのだろう? ならばどちらも仕留めてやろう。何より歪虚に身を堕とした英霊など精霊の沽券に関わる問題だ、放置はできん』
「で。フリーデリーケさん、何度も言ってますけど……」
『わかっている。必ず無事で帰還し、これからも帝国のために戦い抜く。その矜持は今も変わらんよ。それよりもほら、早く依頼文を書くが良い。紅茶一杯を飲むぐらいの時間なら待ってやる』
 なぜか最近良人だけに妙にふてぶてしい態度を見せてきたフリーデ。彼女が紅茶に大量の砂糖をぶち込む様を見ながら、良人は白紙にペンを走らせた。

リプレイ本文

●瘴気の街

 英霊暴走事件を基にした異界に侵入したハンター一行は物陰に身を隠しながら強烈な負のマテリアルの源に向かっていた。
 セレスティア(ka2691)が割れた空を見るや麗しい顔を顰める。
「異界……やはり奇妙に感じますね」
「いや、ここは今まで以上に違和感があります。この街では死者が出なかった。そしてこのように強い歪虚もいなかった。現実が書き換えられているんですよ」
 嘗ての事件の当事者Gacrux(ka2726)が道端に転がる死体にため息を吐く。その一方でフリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)の姿を見るや(これも可能性のひとつなんでしょうがね)と考え、己の顎を撫でた。
 突然の熱風に目を細めたのはキャリコ・ビューイ(ka5044)だ。
「炎の匂い……肌を焼くような熱と光……あの時もそうだったな……」
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)が友の呟きに思わず息を呑んだ。キャリコは幼少時に故郷を焼かれ、戦場を渡り歩いてきた身。しかし彼はそれ以上を口にせず、黙々と進む。
 そんな中、セレスティアは足を止めるとフリーデに向き直った。
「フリーデさん、初めまして。私はセレスティア。澪よりお話は伺っています」
『澪か。その、澪とその連れを見ないが恙ないか?』
「二人とも多忙でして。今回は私が皆様をお支えします。その代わり、ソードオブジェクトの早期破壊をお願いできますか」
『!? 今回の敵は私と縁のある可能性が高いのだぞ?』
 セレスティアの提案に心を乱すフリーデ。そこでフィロ(ka6966)が落ち着いて状況を分析した。
「フリーデ様、この戦場に漂う寂しさや悔しさを感じられますか。ソードオブジェクトの存在感を覆うほどの負の力を。その苦しみを乗り越えられたのが今のフリーデ様。感情を上回る信念こそが、隠匿を見抜くものと私は信じております」
「今、ソードオブジェクトの発見を確実にできるのはフリーデさんぐらいです。澪や此処にいる方々が信じているように、私も貴女を信じます」
 重ねるようなセレスティアの声に戸惑うフリーデ。そこで意外にも反応したのはキャリコだった。
「この先にお前の偽物がいようが、アルマ達に任せておけばいい。ソードオブジェクトを早急に壊せば偽物も消滅する。それが最も犠牲の出ない戦だ」
『……そうだな。敵を見誤ってはならない、か』
 こんな時にキャリコの判断力は頼りになる。フリーデは早速マテリアルの流れを読むと彼に伝えた。
「ああ。オブジェクトが余計な事を始める前に行くぞ」
 そう言ってキャリコがフリーデの手を引いた。アルマが叫ぶ。
「わぅ、ふたりとも絶対無事で返ってきてください! 僕、頑張りますから!!」
 キャリコが手をひらりと振る。フリーデは「お前達こそ!」と叫び返すと、そのまま駆けて行った。


●黒き邪霊

 重苦しい負のマテリアルの源。それは広場に佇む黒い甲冑姿の女だった。流れるマテリアルの正負は真逆だが、本質がフリーデと酷似している。女は無言で斧を構えた。
 フィロはその殺気に応じ、星神器「角力」の業「鹿島の剣腕」を発動させた。
「神速の拳にて。お覚悟を!」
 鎧崩しとソードブレイカーが宿った腕が胸へ瞬時に突き刺さる。しかしもう一打は盾の如く誂えられた処刑用棺に受け止められてしまった。しかし棺が歪み、機能しなくなったのは幸いか。フィロは微かに笑むと、次の攻撃に向けて半身に構えた。
 続いて中衛のアルマが盾剣を宙に浮遊させ、指先で光の三角形を作り出す。デルタレイ――アルマの強大な魔力が歪虚の脇腹を撃ち抜く。
『ぐっ!?』
 風と闇で造られた身体を引き裂く光。しかしその射手アルマは明らかに微笑んでいた。
「わふ! あなたがフリーデお姉さんから剥がれた可能性なら、僕、お礼を言わないとです!」
『お礼だと?』
「あなたという可能性が剥がれたから、フリーデお姉さんに今があるのです。わふふ。僕の自己満足なんですけどねっ」
『何、お前も私を否定するのか? 叩き潰してやる!』
 大斧を構えてアルマに突進する歪虚。するとそこに炎の如きオーラを纏ったボルディア・コンフラムス(ka0796)が立ち塞がる。
「……違う。全っ然違う。テメェの怒りも絶望も憎しみも、それは全部アイツを真似ただけの紛いモンだ。そこにはテメェは居ねぇだろうがよォ! もし俺と闘りてぇなら、アイツじゃなくてテメェで戦え! 他人の想いでケンカなんざしてんじゃねえ!」
『何を言うかと思えば。私は無数の亜人の首を狩り、身を堕としてでも亜人を殺し続けた絶火の騎士フリーデリーケだ!』
 血を吐くような叫び。それと同時に腕が漆黒の闇を孕み、ボルディアをの背を強く掴んだ。
「ぐっ! 何すんだっ!!」
『無礼者は真っ先に潰す』
 ボルディアも女性としては大柄な部類に入るが、それをゆうに超える巨躯が身体を締め付けていく。
「ぐあああああっ!」
 万力で捻り潰されるような痛みが全身に奔る中、歪虚の鋭い犬歯が輝く。危機感を抱きながらも体が動かない。そんなボルディアの耳に鋭い声が響いた。
「それ以上はさせませんよ!」
 Gacruxがソウルエッジを宿らせた蒼機槍で歪虚の腕を斜に斬ったのだ。途端に力が落ち、ボルディアが地に膝を着く。
「今のうちに態勢を!」
 叫びつつ続けてリバースエッジで歪虚の肩を突くGacrux。ボルディアでさえ重い傷を受けたのだ、誰にもあの抱擁を受けさせてはならないと。
 その間、ボルディアは紅火血で傷を癒しつつ、斧を構え直した。
 ボルディアが下がる兆しを見せないのをみとめたセレスティアは星剣をかざすと、癒しの大いなる光を彼女に与える。
「どうかご無理はなさらないよう。あなたは守りの要、皆が生還するに欠かせない方なのです。どうかそのことを忘れないで!」
「ああ、サンキュ! 必ず借りは返すぜ!」
 にっと笑い、セレスティアに向かって親指を立ててみせるボルディア。
 そう、ここには腕の立つハンター達が力を揃えて立っている。敵はたったひとりの「造り物」だ。
 ボルディアは不敵に笑うと両足を踏ん張り、巨大斧をその逞しい腕でしかと構えた。――もう負ける気はしない。
「同じ斧使いのよしみだ。気の済むまで打ち合ってやらぁ!」


●銃と雷

 ボルディア達が歪虚を惹きつけているさなか、キャリコと英霊フリーデは瓦礫の間を縫うように移動し、ソードオブジェクトへの接近に成功していた。
 その証拠にオブジェクトを護衛する翼持ちのスケルトン達が宙を舞っている。
「敵が増えてきたな」
『……そうだな。しかしどうやらあちらは善戦してくれているようだ。オブジェクトの気配が掴みやすくなっている』
「具体的にはどの辺りだ?」
『南東の教会。そう遠くはない』
「ふん、祈りの場が呪いの地になるとは皮肉な話だな」
 息を吐くようにして笑うキャリコ。フリーデは異界にあることで身体の自由が些か利きにくくなっていることを感じつつも、戦友に負担を負わせないよう勢いよく歩き出した。


●救済の盟約

 歪虚との戦いは徐々にハンター側が有利となっていった。
 フィロは前衛に立ち続け、鎧崩しで着実に敵の体力を奪っていく。時にあの抱擁で鋼鉄の身体を砕かれようとも、金剛不壊の業を瞬時に発揮し、敵から受けた痛みをそれ以上のダメージで返し続けた。その耐久力に歪虚が呻く。
『何なのだ、貴様らは。亜人、機械、人間の共存した部隊など聞いたこともない!』
「そうさ、俺らは人種とか出身だとかそんなくだんねーことにこだわんねーんだよ。お前の時代と違ってな!」
 ボルディアが砕火で歪虚の身体を獣の如く炎で喰らった。すると歪虚の斧を持った腕が重い音とともに落ちる。アルマはそこが勝機とばかりにデルタレイの力を紡いだ。
(もう少しです。もう少しで、お姉さんを眠らせることができるです。そしてお姉さんを助けにいけるです。光の力を……どうか!)
 だがそこで不思議な現象が起きた。残った腕がアルマに向けて突き出された途端、光が二手に分かれ歪虚とアルマの身体を貫いたのだ。
「わぅっ!? なんで?」
 しかし思いのほか、痛みは弱かった。本来なら意識を失ってもおかしくないほどの魔力が込められているはずなのに。
『……我が友が無事帰ってこられるよう、祈るのな』
『俺にできることは、こうして支えることだけや』
 友の声が穏やかに響く。大切な誰かの声。戦場にありながら心が温かくなる。
 しかしそれと同時に絶望的な瞬間をGacruxが目にしていた。失われた歪虚の腕が不完全な形ながらも再生を始めたのだ。
(これが完全な歪虚化……憎悪に呑み込まれている。オブジェクトを破壊しない限り、この戦いに終わりはないのか)
 彼はその場にいる仲間達に小声でフリーデ達を追ってオブジェクト破壊に協力する旨を伝えた。
 仲間たちの応援を背に、英霊フリーデの風の気配を追って駆け出すGacrux。距離的にはそう離れていないはずだ。彼は目の前をゆらりと飛ぶスケルトン達に臆することなく一気に駆け抜けた。


●大剣を前に

「これがここのソードオブジェクトか……」
 キャリコは教会の中にそそり立つ赤黒い大剣を目にするなり、すぐに仲間達へトランシーバーで位置を連絡した。そして新式魔導銃「応報せよアルコル」の銃弾を1つだけ装填する。
『トリガーエンドで撃ちぬくのか? 悪くない策だが……』
「いや、それにチャージし切ったコンバージェンスとサジタリウスを乗せてぶち抜く」
 その時、不吉な羽音が響いてきた。主を守るべく翼の生えしスケルトンが集まってきたのだ。
『守ってやる。お前の最強の一発を見届けるまでな』
 フリーデはそう言うと、教会の中に侵入してきたスケルトン達を黒い雷で焼き落とした。同時にオブジェクトにも雷が落ち、キャリコの顔を眩く照らし出す。彼は姿勢を安定させると静かに祈り始めた。
「これこそ我が銃……銃は数あれど我がものは一つ。これぞ我が最良の友、わが命」
 マテリアルが指先と瞳に集中していくのが猟撃士として何とも心地よい。
 一方、次々と乱入してくるスケルトン達。フリーデは懸命に雷を落とし続ける。しかしマテリアルの過剰消費は精霊の力を削るため、オブジェクトにダメージを与えているといえど、いつしか消失さえしかねない状況となっていた。
 しかしキャリコは敬虔に祈りを続ける。
「我、銃を制すなり。我が命を制す如く。我なくて、銃は役立たず。銃なくて、我は役立たず……」
 祈りの中で骨の群れが再び窓を突き破り、フリーデの前に現れる。そして一斉に勢いよく槍を突き出した。
 ……もはやこれまでか。そこに2人の少女の声が聞こえてきた。
『今の貴女を信じてる』
『……フリーデなら。きっとだいじょうぶ。がんばって』
 聴きなじみのある優しい声。彼女達の願いが槍を浅く食い止めさせた。
 その時、教会のドアが勢いよく開いた。Gacruxが到着したのだ。
「よく無事で! 異界は帝国と状況が違います。後は俺に任せてください」
 彼はそう言うと再び槍に破魔の力を宿し、苛烈な衝撃波でスケルトンの群れを呆気なく吹き飛ばした。
 その時、キャリコが呟く。最後の祈りを。
「我らは敵には征服者、我が命には救世主。敵が滅び――平和が来るその日までかくあるべし」
 アルコルに満ちていく力。そして風を斬る音と共に、複雑な軌道を描く銃弾が宙を幾重にも行き交いソードオブジェクトに無数の傷を刻み込んだ。剣には穴が無数に空き、辛うじて立っている。しかしその力は絶えてはいない。
「あれでも落ちないか。かなり気張ったんだがな。まぁいいい、壊せるまで何度でもやるだけだ」
 そう言うと、キャリコは何でもないような顔でハンドガンを手にした。
 だがその時、教会が大きく揺れた。歪虚がオブジェクトの危機に反応し、壁を叩き割って侵入したのだ。
『貴様ら、よクも…!!』
「邪霊。いや、もうひとりのフリーデ……俺はあんたと戦いますよ。最後まで、迷いなく」
 Gacruxが槍を構える。そこに追跡してきたフィロ、アルマ、ボルディア、セレスティアが到着する。
「おっしゃ、あと少しじゃねーか。俺が守ってやる、皆思いっきりやろうぜ!」
 ボルディアが宙に浮かぶ歪虚を炎檻の力で引き寄せ、砕火で喰らいついた。彼女の檻は至極強固である。歪虚は再びボルディアの身体を潰そうとしたが、その力は明確に衰えていた。
「はッ、痛ぇっちゃ痛ぇがさっきほどじゃねえ。そのボロ剣、さっさとぶっ壊しな!」
 腕を突き上げ叫ぶボルディア。セレスティアはフリーデにフルリカバリーを付与した。
「私は皆さまをお守りします! 存分にお力を行使してくださいませ!」
 そう。後は剣を完全に破壊するだけ――キャリコがトリガーエンドで刃の大半を吹き飛ばし、Gacruxが地面に突き刺さった刃を突き崩した。
 暗闇と瓦礫の街が宙に溶けていくのと同時に少しずつ……歪虚、いや邪霊の身体が消えていく。
 その時、フィロが邪霊のもとに歩み寄った。
「身を焦がす怒りと嘆きを昇華して、お眠りくださいフリーデ様。大事なものを守ってこその騎士です。御首級を上げるのは仲間を守る過程のひとつに過ぎないと、嘗てのフリーデ様は良くご存知でした」
『カツテ?』
「このほど再編された史料に残されているのです。御首級は容易に奪えども、家族や友や故郷への愛は容易に奪えるものではないと。戦の虚しさをご存知だったのですよ」
 最早意識も覚束なくなったのだろう。首を傾げる邪霊の手をアルマが握る。
「僕、ちゃんとフリーデお姉さんのこと見てますし、信じてるです。わふっ。僕、フリーデお姉さん大好きですから!」
『ワタシモ、フリーデ』
「わふ。そう、君もお姉さんのひとりですね。ところでお姉さんは僕らを心配してくれる割に無茶しいで、結局全然自分を大事にしてくれないです。あなたもです?」
『ワカンナイ。デモ、スキトカアリガトトカテイワレルトウレシイ、ガンバル』
「そうですか。でも、それじゃだめです。自分を大事にしないと……わぅ。本当は、わかってたと思うです」
『……』
「おやすみなさい。……きっと君は守りたかっただけです。寂しかったですね」
 そう言うと、アルマは女の手を胸の上で組ませた。そしてフィロが太陽のもと、砕ける身体を見送っていく。
「お眠りください、そして思い出してください。貴女の英霊としてのお戻りを心よりお祈り申し上げます。……そしてフリーデリーケ様、分かたれた力もいつか、貴女の下に戻りましょう」
 同じくそれを見届けたアルマが子犬のように甘えた声を発し、フリーデへ腕を絡ませた。どこにもいかないで、と言いたげに。
『ああ、どこにも行かないよ。私はここにいる』
 その穏やかな笑顔にGacruxが頷いた。
「……泣いているより、笑っている方が良い。今のフリーデが幸せなら、それで十分ですよ」

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 30
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901

重体一覧

参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン フリーデに質問
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/11/27 02:50:36
アイコン 堕ちた精霊に安らぎを(相談卓)
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/11/27 01:41:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/23 09:10:48