ゲスト
(ka0000)
前回までのあらすじ(?)
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/30 07:30
- 完成日
- 2018/12/11 15:47
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「それにしても、ヘレは本当にすごいですよね」
そう言ったのは、ジーク・真田。
「?」
リムネラがその言葉の真意をわかりかねる、と言う表情で見やると、
「や、だってつい半年くらいで成長めざましいというか……言葉を使うという点ではまだまだですけど、僕やリムネラさんのまねをよくしているみたいですから」
なるほど。言われてみればリムネラやジークの後ろをついて回って、なにかと様子を見守っている風にしていることが多い。
「そうデスね。ヘレも、覚えたいコトがタクサンあるんだと、思いマス」
リムネラはふんわりと微笑んで、側で今は寝息を立てているヘレをそっとなでた。龍園から帰還してから、ヘレは毎日昼寝をするようになっている。きっと身体や心がさらなる成長をするために、力をため込んでいるのだろう。
「ヘレも知りたい盛りなんだと思いますよ。本当はもっと僕たちとも話したいだろうし……でも、どんなことを知りたいのかは、わからないですからね」
「ンー……思うんデス、ケド。ヘレは知ろうと思えば、キット色々知るコトができるハズです。青龍も、手を貸してクレルはずデスし……むしろ、なかなか知るコトの出来ないコト、リアルブルーやエバーグリーン……これマデのおさらいをシタラ、いいかもシレマセンね」
なるほど、これまでの出来事を改めて思い返せば、たしかに勉強になるだろうし……これからの出来事への何かしらのヒントが埋もれているかもしれない。
まだハンターになって間もない人にも便利な報告書ができるかもしれないなら、やる価値はあるかもしれないな、と確かに感じられるのだ。
気がつけば、リムネラは筆を走らせていた。
――「これまでのおさらいをしませんか?」
「それにしても、ヘレは本当にすごいですよね」
そう言ったのは、ジーク・真田。
「?」
リムネラがその言葉の真意をわかりかねる、と言う表情で見やると、
「や、だってつい半年くらいで成長めざましいというか……言葉を使うという点ではまだまだですけど、僕やリムネラさんのまねをよくしているみたいですから」
なるほど。言われてみればリムネラやジークの後ろをついて回って、なにかと様子を見守っている風にしていることが多い。
「そうデスね。ヘレも、覚えたいコトがタクサンあるんだと、思いマス」
リムネラはふんわりと微笑んで、側で今は寝息を立てているヘレをそっとなでた。龍園から帰還してから、ヘレは毎日昼寝をするようになっている。きっと身体や心がさらなる成長をするために、力をため込んでいるのだろう。
「ヘレも知りたい盛りなんだと思いますよ。本当はもっと僕たちとも話したいだろうし……でも、どんなことを知りたいのかは、わからないですからね」
「ンー……思うんデス、ケド。ヘレは知ろうと思えば、キット色々知るコトができるハズです。青龍も、手を貸してクレルはずデスし……むしろ、なかなか知るコトの出来ないコト、リアルブルーやエバーグリーン……これマデのおさらいをシタラ、いいかもシレマセンね」
なるほど、これまでの出来事を改めて思い返せば、たしかに勉強になるだろうし……これからの出来事への何かしらのヒントが埋もれているかもしれない。
まだハンターになって間もない人にも便利な報告書ができるかもしれないなら、やる価値はあるかもしれないな、と確かに感じられるのだ。
気がつけば、リムネラは筆を走らせていた。
――「これまでのおさらいをしませんか?」
リプレイ本文
●
リムネラとその相棒ともいえる白龍ヘレが、ときおりこうやって人を募るのには理由がある。
ヘレは次代の白龍として、今まで以上にものを知らなければならない。誰しも子どものままではいられない、それは龍種とても同じことだ。
――いや、龍種だからこそ、知らねばならない。将来の六大龍たるヘレにとって、世界を知ることは自身を知ることにも通じる。
押さないながらも言葉を発するようになってきたヘレの今の精神年齢は――人間換算で言えば十になるかならないかというくらいだろうか。頭の回転自体は早いようで、発語はまだ少ないとはいえ皆の言葉を理解しているらしい。
そしてまた、こう言う茶会の席はいつも戦闘で疲弊しているであろうハンターたちに少しでも心の安らぎを、と言うリムネラの心遣いでもあった。戦場に出ることがほぼないリムネラにとって、ハンターたちの苦労というのは想像以上のものだという認識である。そして同時にそれを知ることは、ユニオンリーダーとしての責務でもあった。
ひとり何も知らずにいると言うことを、そもそもリムネラ自身心よしとしない。
リムネラにとっても、ヘレにとっても、そしてハンターにとっても利のある話し合いなのだ。
●
そんな今回の茶会のテーマは、【これまでの戦いについて】。
戦いのみならず、これまであった出来事一般、それぞれの見地から教えてほしいというのがリムネラの主張だった。
むろん事件や出来事は、ハンターズソサエティの資料をひもとけばいくらでも出てくるだろう。しかしそれはごくごく事務的な事柄のみを記してあることの方が多い。
リムネラが知るべきなのは、その出来事に遭遇したときの生の声なのだ。
どんな安楽椅子探偵も、全く動かないというわけではなかろう。
それと同じ。それに、口伝えで聞く物語というのは臨場感を伴うことが多い。それは話の中で言葉遣いや口調が熱を帯びることから生まれるのだが、言ってみれば紙芝居や瓦版といった古くからの情報伝達に近いのかもしれない。
「先日帝国の方に行っていたので、そちらのお店の品を買ってきましたよ」
そう言いながらクッキーの缶を携えてきたのはUisca Amhran(ka0754)。いつもながらリムネラたちに気を回してくれるのだが、少し回しすぎてから周りすることもままあるのはご愛敬と言うべきか。
「マア……ありがとうゴザイマス」
リムネラが礼を言えば、横についているヘレもぺこっと頭を下げる。その愛らしさは、ちょうどアニメのマスコットキャラかなにかのようだ。
「ヘレもお辞儀するんだ、ちゃんと賢くなってるんだね! こうやって教えてあげる機会も今までに時々あったけど、じっさいに賢くなっていくのを見るのは嬉しいし、楽しいね! うん、誰かになにかを教えてあげる、っていうことも、楽しいことなのかも!」
嬉しそうに青銀がかった色の髪をなびかせて笑うのは、夢路 まよい(ka1328)だ。Uiscaもまよいもこの類いの依頼についてはそれなりに常連で、顔見知りと言うことになる。
そこにまた見知った顔が――
今回の黒一点、天央 観智(ka0896)だ。帽子に手をやって外すと、にこりと微笑みかける。
「今回はお招きありがとうございます。……なにか、助けになればいいんですが」
観智は元々頭脳労働者系のハンターだ。とはいえハンターとしての経歴も決して短いわけではなく、
(僕が此方に来る前で、話でしか知らない範囲……ですと、たぶんナディア総長がハンターズ・ソサエティを立ち上げたこと……でもそれは今に連なる一番最初の契機ともいえるわけ、なんでしょうけれど)
そんな風に考え込んでしまう。
逆にここに集まった中で一番ハンターとしての経験が浅いといえるのはオートマトンのフィロ(ka6966)である。オートマトンという種族であるため、見た目よりも重たかったり、個体差ではあるかもしれないが知識に偏りがあったりなどもするが、彼女の場合はとくにガードマンを兼ねたメイドとして作られた存在だ。家事などを得手としているし言葉遣いも丁寧。
「私もアフタヌーン・ティーへのお誘いと言うことで、色々見繕って参りました」
そう言いながら持参してきたジャスミンと千日紅の工芸茶と、工芸茶のためのグラスを人数分並べる。
工芸茶というのは花茶などと同じように目でも楽しむことができる茶だ。湯を注げば小さくまとめられていた茶葉がふわりとほどけ、さながらハーバリウムのように茶の中で花が愛らしく開く。
リムネラやほかの面々も初めて見るものが多く、目を輝かせてその様子を眺めていた。
「面白いものもあるものだな。……しかしそれにしても、これまでの出来事、か……」
レイア・アローネ(ka4082)は言いながら、至極真面目ぶった面持ちでなにやら考えている。そしてふとヘレに視線をやると、
「……よしヘレ。絶対に関わり合いになってはいけないげっ歯類の話を――」
……まあそこで彼女の言葉は途切れたわけだが。むろんジョークである。レイアにとってあの幻獣王は絶好(?)のネタなのだが、
(いや、これ以上奴を持ちネタのように使うと、そのうち夢でチューダになってしまいそうだ……)
そう言う悪寒が走るのである。
夢依頼? 知らない子ですね。
しかしそれはともかく、ハンターたちも話したそうにしている。
「それでは、始めましょうか」
記録係を兼ねたジークが、やんわりと口を開いた。
●
「ヘレちゃんは次代の白龍様と言うこともあって、これまでの代々の記憶を継承しているかもですが……周囲が白龍様をどう思っているかということも知ることができるだろうから、白龍様のお話を」
口火を切ったのはUiscaだ。
「ハンターが初めて白龍様に会ったのは『聖地奪還』という戦いでのことです。先代の白龍様は作戦成功の時にはすでに消えかかっていて……ファリフさんが、その最期に立ち会ったそうです。そのとき、別れは一時的なものであると言い、『必ず、またいずこで』と仰ったとか。だからこそハンターや聖地の巫女は白龍様が力を取り戻し、この地に戻られるのを待っているのです」
「……」
リムネラはそのときのことを思い出して、わずかに目を伏せる。あのとき、リムネラはここ――リゼリオにいた。今からすれば、あの頃からヘレのもつマテリアルにわずかな兆しがあったようにも思える。それからまもなく聖地にも赴いたが……
なにやら考え込んでいるリムネラに、ヘレが
「だいじょぶ?」
と小さく声をかける。ヘレが自分から声をかけるのを見た面々はその様子をほほえましく眺めているが、リムネラは胸元にわずかに手を寄せ、小さく頷くばかりだった。
「……そうそう、血盟作戦の時は過去の様子を再現した世界で、白龍様ともお話しすることが出来たんです。むろん、本物の白龍様ではないですけど」
Uiscaはリムネラが落ち着いた様子を見せると話を続ける。
「そこで白龍様は、ひとの存続を願い、深く愛し、常にひとと寄り添う――と。……私は歪虚が本当はどんな存在のものかもわからないまま、ただすべてを滅ぼすのみと言うことには懐疑の思いを持っています。だから私は、歪虚を滅ぼすのではなく、白龍様と同じような意思でこの力を振るいたいんです」
Uiscaは話の間、嬉しそうに笑んでいた。それは白龍の巫女としての誇りからかもしれない――けれど。
リムネラは茶をすすり、そして一つ息をついた。
「……そういえば歴史、というのは……連綿と続く人々の行動を束ねた、結果みたいなもの……ですけれど、契機と言いますか、節目……みたいなものって、やはりありますよね」
観智がそう指摘すると、誰もが頷く。
「個人的に、今に連なる大きな節目、みたいなもの……と言うと、やはりサルヴァトーレ・ロッソが、転移してきたとき……だと思うんですけれど。当時、僕は……此方に来て、ソサエティに保護されて……その後、ハンターになったばかりの頃で……魔法とかマテリアルとかについては、転移直後から気になってはいたのですが……両世界の似ているところと、似ていないところを気にしだしたのは、あのときから……でしたね」
魔法やマテリアルといった超自然的概念は、リアルブルーではすでに失われているものだ。それに興味を持ったというのも、無理はないだろう。
「ソサエティも、僕が知る限り……元々それなりに大所帯でしたけど、あの一件を機会に、更に大所帯になった、という感じは、ありますしね」
サルヴァトーレ・ロッソ。それは確かに多くのものにとっての契機になったに違いない。あまりに大規模な転移だったのだから。既成の概念が通じない世界に放り出されたら、誰だってそうなるだろう。
「そうですね……少し、ロッソの中での暮らしについても、教えましょうか?」
観智の言葉に、ヘレは目をきらきら輝かせたのだった。
「そういえば、さっきイスカさんの言った血盟作戦のころ、総長とお茶したことがあるんだ」
まよいは、言葉を続けるように言う。
「星石って言う、覚醒者としての力を強めるアイテムが、精霊から認められることで手に入れられるようになって……それって、ハンターがひととしての存在から離れていくことでしょ? そんな中で、邪神との戦いに身を投じていくハンターたちを、心配してくれてたんだよね」
まよいの、名前と裏腹によどみのない語りは続く。大精霊クリムゾンウェストとの交信が、ナディアの働きで可能になった、反影という作戦の時の話も。
「……って、アレ? この話はヘレにお帰りなさいしたときにも少ししたんだっけかな? ま、なんにしても、特別な星石を手に入れることで、ハンターが大精霊の守護者としての契約を結ぶことも可能になったんだ」
ちなみに奇遇なことだが、今回の依頼にはガーディアン・ウェポンを取得した者、つまりが守護者たる存在も参加していたりするわけで、当事者たちはどこか照れくさそうにその話を聞いている。
「それでね。すでに守護者ハンターとして活躍してる人たちもたくさんいるけど、ヘレも龍として、ある意味この世界を守護する立場になっていくのかな? ハンターの立場や契約のあり方は人それぞれだけど、みんな世界を護りたいって思いがあるからこそ活動していることに違いはないからね。……そう言う意味では、ヘレも、私たちも、仲間なんだねきっと!」
まよいは嬉しそうにそう言いきると、ヘレの頭をわずかになでた。その様子は確かに二人が仲間であることを示しているようで、唇に笑みが浮かんだのはある意味当然のことなのだろう。
さて、そんなガーディアン・ウェポンの所持者の一人、レイアはと言うと。
「んー……やはり話すなら、龍園まで行った旅の話だろうか」
むろんそれは、ヘレのためにリムネラが赴いたときのことだ。ヘレ自身に関わりあることだし、ある程度は知っているが、こうやって第三者の口から聞くことは今までほとんどなかったから興味深そうに目を輝かせている。
リムネラもあえて苦労話などするタイプではないだろうから、なおのことだ。それでもレイアが話そうと思ったのは、『子が母の苦労話を聞くのは決して悪いことではない』という思いからだ。血のつながった母子ではないにしろ、絆のあるヘレとリムネラの関係を大切に思っているからである。
「あのときはリムネラもすごく慌てたり、頑張ったりしていたよな。ここに居る半分以上が知っていることだし」
その言葉にUiscaやまよい、観智がうんうんと頷く。リムネラは顔を赤く染めたが、そんなことに臆するハンターたちではない。あの頃のリムネラの必死ぶりをかいつまんで説明してやると、ヘレはきゅう、とのどを鳴らしてからリムネラにしがみつき、
「……ありがと、りむねら!」
そう言って目を細めた。その様子は確かに、親子にも見えるような姿だった。
「まあ、そんなに顔を赤くするな。せっかく土産のモンブランもあるんだからな。もう秋も終わりではあるが。無論作ったわけではなく買ってきたものだがな」
楽しそうにレイアが言う。
「ヘレも甘いものは好きか?……そうか、好きならよかった。そういえば、いつかうちの相棒にも会わせてやりたいな。龍とは違うとは聞いているが、きっと遊び仲間にはなれるだろう。アウローラと言うんだ」
ヘレが前に差し出されたモンブランをおいしそうに平らげるのを眺めながら、つい誰もが笑みを浮かべた。
そういえば、フィロはというと。
実はこの間も、根っからのメイドだからと言うべきか、くるくると仕事を続けていたのである。茶が足りなくなりそうなら継ぎ足し、軽食も取り出したりして。
「今回花茶を用意しましたのは、軽食をつまんでからおかわりしながらのむのなら、カロリーを気にせず胃にも比較的優しいと考えましたからです。目で楽しむのも、一時間は十分楽しめますし、お茶会向きかと」
そしてそんな彼女に話の順が回ってくると、フィロはそっと目を伏せた。
「私は目覚めてからまだ一年と四ヶ月ほどしかたっておりませんので、ヘレ様とリアルブルーに行った頃がちょうど記憶の半分……それ以降の方が、濃密な出来事は多かった気はしますが」
守護者の契約、そして邪神戦……どれも忘れられない強烈な思い出だ。
「……とはいえ、リアルブルー封印後は滅びたエバーグリーンのこともよく考えるようになりました。元々私たちオートマトンはエバーグリーン産であっても、そことの繋がりはありません。ですが、たったふたりのエバーグリーン生存者、そして非主流エバーグリーン国家の、この世界での行く末はとても案じております」
世界を越えて、手を取らねばならない現状。
先の見えない戦いに身を投じたからこそ、生まれる不安。けれど――
「大丈夫。きっと、めでたしめでたしになるから!」
まよいが笑うと、Uiscaも、観智も、レイアも――頷いた。
●
ヘレは確実に成長している。肉体的な意味でなく、心が。
リムネラはそれを応援しつつ、それでもときおり不安になる。
でも、大丈夫。
仲間が、いるから。
リムネラとその相棒ともいえる白龍ヘレが、ときおりこうやって人を募るのには理由がある。
ヘレは次代の白龍として、今まで以上にものを知らなければならない。誰しも子どものままではいられない、それは龍種とても同じことだ。
――いや、龍種だからこそ、知らねばならない。将来の六大龍たるヘレにとって、世界を知ることは自身を知ることにも通じる。
押さないながらも言葉を発するようになってきたヘレの今の精神年齢は――人間換算で言えば十になるかならないかというくらいだろうか。頭の回転自体は早いようで、発語はまだ少ないとはいえ皆の言葉を理解しているらしい。
そしてまた、こう言う茶会の席はいつも戦闘で疲弊しているであろうハンターたちに少しでも心の安らぎを、と言うリムネラの心遣いでもあった。戦場に出ることがほぼないリムネラにとって、ハンターたちの苦労というのは想像以上のものだという認識である。そして同時にそれを知ることは、ユニオンリーダーとしての責務でもあった。
ひとり何も知らずにいると言うことを、そもそもリムネラ自身心よしとしない。
リムネラにとっても、ヘレにとっても、そしてハンターにとっても利のある話し合いなのだ。
●
そんな今回の茶会のテーマは、【これまでの戦いについて】。
戦いのみならず、これまであった出来事一般、それぞれの見地から教えてほしいというのがリムネラの主張だった。
むろん事件や出来事は、ハンターズソサエティの資料をひもとけばいくらでも出てくるだろう。しかしそれはごくごく事務的な事柄のみを記してあることの方が多い。
リムネラが知るべきなのは、その出来事に遭遇したときの生の声なのだ。
どんな安楽椅子探偵も、全く動かないというわけではなかろう。
それと同じ。それに、口伝えで聞く物語というのは臨場感を伴うことが多い。それは話の中で言葉遣いや口調が熱を帯びることから生まれるのだが、言ってみれば紙芝居や瓦版といった古くからの情報伝達に近いのかもしれない。
「先日帝国の方に行っていたので、そちらのお店の品を買ってきましたよ」
そう言いながらクッキーの缶を携えてきたのはUisca Amhran(ka0754)。いつもながらリムネラたちに気を回してくれるのだが、少し回しすぎてから周りすることもままあるのはご愛敬と言うべきか。
「マア……ありがとうゴザイマス」
リムネラが礼を言えば、横についているヘレもぺこっと頭を下げる。その愛らしさは、ちょうどアニメのマスコットキャラかなにかのようだ。
「ヘレもお辞儀するんだ、ちゃんと賢くなってるんだね! こうやって教えてあげる機会も今までに時々あったけど、じっさいに賢くなっていくのを見るのは嬉しいし、楽しいね! うん、誰かになにかを教えてあげる、っていうことも、楽しいことなのかも!」
嬉しそうに青銀がかった色の髪をなびかせて笑うのは、夢路 まよい(ka1328)だ。Uiscaもまよいもこの類いの依頼についてはそれなりに常連で、顔見知りと言うことになる。
そこにまた見知った顔が――
今回の黒一点、天央 観智(ka0896)だ。帽子に手をやって外すと、にこりと微笑みかける。
「今回はお招きありがとうございます。……なにか、助けになればいいんですが」
観智は元々頭脳労働者系のハンターだ。とはいえハンターとしての経歴も決して短いわけではなく、
(僕が此方に来る前で、話でしか知らない範囲……ですと、たぶんナディア総長がハンターズ・ソサエティを立ち上げたこと……でもそれは今に連なる一番最初の契機ともいえるわけ、なんでしょうけれど)
そんな風に考え込んでしまう。
逆にここに集まった中で一番ハンターとしての経験が浅いといえるのはオートマトンのフィロ(ka6966)である。オートマトンという種族であるため、見た目よりも重たかったり、個体差ではあるかもしれないが知識に偏りがあったりなどもするが、彼女の場合はとくにガードマンを兼ねたメイドとして作られた存在だ。家事などを得手としているし言葉遣いも丁寧。
「私もアフタヌーン・ティーへのお誘いと言うことで、色々見繕って参りました」
そう言いながら持参してきたジャスミンと千日紅の工芸茶と、工芸茶のためのグラスを人数分並べる。
工芸茶というのは花茶などと同じように目でも楽しむことができる茶だ。湯を注げば小さくまとめられていた茶葉がふわりとほどけ、さながらハーバリウムのように茶の中で花が愛らしく開く。
リムネラやほかの面々も初めて見るものが多く、目を輝かせてその様子を眺めていた。
「面白いものもあるものだな。……しかしそれにしても、これまでの出来事、か……」
レイア・アローネ(ka4082)は言いながら、至極真面目ぶった面持ちでなにやら考えている。そしてふとヘレに視線をやると、
「……よしヘレ。絶対に関わり合いになってはいけないげっ歯類の話を――」
……まあそこで彼女の言葉は途切れたわけだが。むろんジョークである。レイアにとってあの幻獣王は絶好(?)のネタなのだが、
(いや、これ以上奴を持ちネタのように使うと、そのうち夢でチューダになってしまいそうだ……)
そう言う悪寒が走るのである。
夢依頼? 知らない子ですね。
しかしそれはともかく、ハンターたちも話したそうにしている。
「それでは、始めましょうか」
記録係を兼ねたジークが、やんわりと口を開いた。
●
「ヘレちゃんは次代の白龍様と言うこともあって、これまでの代々の記憶を継承しているかもですが……周囲が白龍様をどう思っているかということも知ることができるだろうから、白龍様のお話を」
口火を切ったのはUiscaだ。
「ハンターが初めて白龍様に会ったのは『聖地奪還』という戦いでのことです。先代の白龍様は作戦成功の時にはすでに消えかかっていて……ファリフさんが、その最期に立ち会ったそうです。そのとき、別れは一時的なものであると言い、『必ず、またいずこで』と仰ったとか。だからこそハンターや聖地の巫女は白龍様が力を取り戻し、この地に戻られるのを待っているのです」
「……」
リムネラはそのときのことを思い出して、わずかに目を伏せる。あのとき、リムネラはここ――リゼリオにいた。今からすれば、あの頃からヘレのもつマテリアルにわずかな兆しがあったようにも思える。それからまもなく聖地にも赴いたが……
なにやら考え込んでいるリムネラに、ヘレが
「だいじょぶ?」
と小さく声をかける。ヘレが自分から声をかけるのを見た面々はその様子をほほえましく眺めているが、リムネラは胸元にわずかに手を寄せ、小さく頷くばかりだった。
「……そうそう、血盟作戦の時は過去の様子を再現した世界で、白龍様ともお話しすることが出来たんです。むろん、本物の白龍様ではないですけど」
Uiscaはリムネラが落ち着いた様子を見せると話を続ける。
「そこで白龍様は、ひとの存続を願い、深く愛し、常にひとと寄り添う――と。……私は歪虚が本当はどんな存在のものかもわからないまま、ただすべてを滅ぼすのみと言うことには懐疑の思いを持っています。だから私は、歪虚を滅ぼすのではなく、白龍様と同じような意思でこの力を振るいたいんです」
Uiscaは話の間、嬉しそうに笑んでいた。それは白龍の巫女としての誇りからかもしれない――けれど。
リムネラは茶をすすり、そして一つ息をついた。
「……そういえば歴史、というのは……連綿と続く人々の行動を束ねた、結果みたいなもの……ですけれど、契機と言いますか、節目……みたいなものって、やはりありますよね」
観智がそう指摘すると、誰もが頷く。
「個人的に、今に連なる大きな節目、みたいなもの……と言うと、やはりサルヴァトーレ・ロッソが、転移してきたとき……だと思うんですけれど。当時、僕は……此方に来て、ソサエティに保護されて……その後、ハンターになったばかりの頃で……魔法とかマテリアルとかについては、転移直後から気になってはいたのですが……両世界の似ているところと、似ていないところを気にしだしたのは、あのときから……でしたね」
魔法やマテリアルといった超自然的概念は、リアルブルーではすでに失われているものだ。それに興味を持ったというのも、無理はないだろう。
「ソサエティも、僕が知る限り……元々それなりに大所帯でしたけど、あの一件を機会に、更に大所帯になった、という感じは、ありますしね」
サルヴァトーレ・ロッソ。それは確かに多くのものにとっての契機になったに違いない。あまりに大規模な転移だったのだから。既成の概念が通じない世界に放り出されたら、誰だってそうなるだろう。
「そうですね……少し、ロッソの中での暮らしについても、教えましょうか?」
観智の言葉に、ヘレは目をきらきら輝かせたのだった。
「そういえば、さっきイスカさんの言った血盟作戦のころ、総長とお茶したことがあるんだ」
まよいは、言葉を続けるように言う。
「星石って言う、覚醒者としての力を強めるアイテムが、精霊から認められることで手に入れられるようになって……それって、ハンターがひととしての存在から離れていくことでしょ? そんな中で、邪神との戦いに身を投じていくハンターたちを、心配してくれてたんだよね」
まよいの、名前と裏腹によどみのない語りは続く。大精霊クリムゾンウェストとの交信が、ナディアの働きで可能になった、反影という作戦の時の話も。
「……って、アレ? この話はヘレにお帰りなさいしたときにも少ししたんだっけかな? ま、なんにしても、特別な星石を手に入れることで、ハンターが大精霊の守護者としての契約を結ぶことも可能になったんだ」
ちなみに奇遇なことだが、今回の依頼にはガーディアン・ウェポンを取得した者、つまりが守護者たる存在も参加していたりするわけで、当事者たちはどこか照れくさそうにその話を聞いている。
「それでね。すでに守護者ハンターとして活躍してる人たちもたくさんいるけど、ヘレも龍として、ある意味この世界を守護する立場になっていくのかな? ハンターの立場や契約のあり方は人それぞれだけど、みんな世界を護りたいって思いがあるからこそ活動していることに違いはないからね。……そう言う意味では、ヘレも、私たちも、仲間なんだねきっと!」
まよいは嬉しそうにそう言いきると、ヘレの頭をわずかになでた。その様子は確かに二人が仲間であることを示しているようで、唇に笑みが浮かんだのはある意味当然のことなのだろう。
さて、そんなガーディアン・ウェポンの所持者の一人、レイアはと言うと。
「んー……やはり話すなら、龍園まで行った旅の話だろうか」
むろんそれは、ヘレのためにリムネラが赴いたときのことだ。ヘレ自身に関わりあることだし、ある程度は知っているが、こうやって第三者の口から聞くことは今までほとんどなかったから興味深そうに目を輝かせている。
リムネラもあえて苦労話などするタイプではないだろうから、なおのことだ。それでもレイアが話そうと思ったのは、『子が母の苦労話を聞くのは決して悪いことではない』という思いからだ。血のつながった母子ではないにしろ、絆のあるヘレとリムネラの関係を大切に思っているからである。
「あのときはリムネラもすごく慌てたり、頑張ったりしていたよな。ここに居る半分以上が知っていることだし」
その言葉にUiscaやまよい、観智がうんうんと頷く。リムネラは顔を赤く染めたが、そんなことに臆するハンターたちではない。あの頃のリムネラの必死ぶりをかいつまんで説明してやると、ヘレはきゅう、とのどを鳴らしてからリムネラにしがみつき、
「……ありがと、りむねら!」
そう言って目を細めた。その様子は確かに、親子にも見えるような姿だった。
「まあ、そんなに顔を赤くするな。せっかく土産のモンブランもあるんだからな。もう秋も終わりではあるが。無論作ったわけではなく買ってきたものだがな」
楽しそうにレイアが言う。
「ヘレも甘いものは好きか?……そうか、好きならよかった。そういえば、いつかうちの相棒にも会わせてやりたいな。龍とは違うとは聞いているが、きっと遊び仲間にはなれるだろう。アウローラと言うんだ」
ヘレが前に差し出されたモンブランをおいしそうに平らげるのを眺めながら、つい誰もが笑みを浮かべた。
そういえば、フィロはというと。
実はこの間も、根っからのメイドだからと言うべきか、くるくると仕事を続けていたのである。茶が足りなくなりそうなら継ぎ足し、軽食も取り出したりして。
「今回花茶を用意しましたのは、軽食をつまんでからおかわりしながらのむのなら、カロリーを気にせず胃にも比較的優しいと考えましたからです。目で楽しむのも、一時間は十分楽しめますし、お茶会向きかと」
そしてそんな彼女に話の順が回ってくると、フィロはそっと目を伏せた。
「私は目覚めてからまだ一年と四ヶ月ほどしかたっておりませんので、ヘレ様とリアルブルーに行った頃がちょうど記憶の半分……それ以降の方が、濃密な出来事は多かった気はしますが」
守護者の契約、そして邪神戦……どれも忘れられない強烈な思い出だ。
「……とはいえ、リアルブルー封印後は滅びたエバーグリーンのこともよく考えるようになりました。元々私たちオートマトンはエバーグリーン産であっても、そことの繋がりはありません。ですが、たったふたりのエバーグリーン生存者、そして非主流エバーグリーン国家の、この世界での行く末はとても案じております」
世界を越えて、手を取らねばならない現状。
先の見えない戦いに身を投じたからこそ、生まれる不安。けれど――
「大丈夫。きっと、めでたしめでたしになるから!」
まよいが笑うと、Uiscaも、観智も、レイアも――頷いた。
●
ヘレは確実に成長している。肉体的な意味でなく、心が。
リムネラはそれを応援しつつ、それでもときおり不安になる。
でも、大丈夫。
仲間が、いるから。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/29 22:39:19 |