ゲスト
(ka0000)
【CF】Eat the meat
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/05 15:00
- 完成日
- 2018/12/13 06:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ハンターの先生様方、今日もお疲れさんでさー……さぁ!」
今日もハンターオフィスに、アン=ズヴォーの元気な声が響き渡……いや、言い直したけど今ちょっと語尾がへたれかけていた。
考えてみれば彼女もオフィス職員。リアルブルーの更なる大転移に纏わるあれこれの業務にはフル稼働であったことだろう。
それも漸く、収束の芽をみせつつはあるが、やはり通常レベルの仕事もこなしながらでは中々もう疲労も回復、とはいかないらしい。
それでも、恩あるハンターの先生様方のためにと、気丈に、そしてそのことに本当に喜びを感じているという風に、笑顔を浮かべる彼女である。
「いやいや手前どもなんぞ! ハンターの先生様方がしてきた事に比べりゃ全然でさあ! 先生様方に置かれやしては、先だっての大規模作戦、本当にお疲れさーしたぁ!」
誰かが疲れを指摘すれば、更に声を笑顔を元気にして応えてみせるアン。そして自分の言葉に目を見開いて「それだ!」とばかりに話を続ける。
「そうでした! 手前どもらつい忙しくて、大戦でお疲れの先生様方を労う機会もつい逃しておりやして! そうこうするうちにもう聖輝節の時期じゃねえですかい!」
パッと身体を乗り出して彼女は告げる。
「今年は新たにいらっしゃった方も多いってんで、部族会議の方でもこの期を切欠に歓迎会をするってえ向きがあるんでさあ。そのためのパーティーなら予算もだすってんでえ、手前どもも一枚噛ませて頂やして!」
どうやらアン嬢も、ハンターの相手ならオフィスに居る自分なら声をかけやすい、と申し出て何か企画をすることにしたらしい。
「……今回、本当に心身ともに疲弊する戦いであったとお聞きおよびしておりやす……そんなお疲れの先生様方に、手前ども何が出来るか必死で考えやした! そして!」
そして。
「閃きやした! 先生様方! 疲れたときはシンプルに肉でさあ!」
閃くって程のものなのだろうかそれは。
まああまり捻って滑られるよりは安全安定と言えるが。
「聖輝節と言えば鶏肉! 部族会議に頼んで大量に用意しやした! 心を込めて揚げますんで! え? 先生様方も料理したい? そいつあ楽しみでさあ! 是非よろしく頼みまさあ!」
……と言うことで。
要するに、聖輝節にちなんで──るのかは知らないが──屋外鶏肉パーティーの運びらしい。
そして。
「先生様方……今回は、本当に、本当に辛い戦いだったって聞いてまさあ……。残念ながら! 覚醒者になれねえ手前どもは一緒に戦うことは出来ねえでさあ! けど! だから! 手前どもは、何があっても先生様方の味方でありてえでさあ! 前回の作戦で先生様方がとったどんな作戦も決断も! 手前どもは労いたいんでさあ! ですんで……ですんで、お待ちしておりやす!」
だから、彼女は言う。
これは歓迎の交流会で。
そして、誰がなんと言おうと、戦勝会、だと。
今日もハンターオフィスに、アン=ズヴォーの元気な声が響き渡……いや、言い直したけど今ちょっと語尾がへたれかけていた。
考えてみれば彼女もオフィス職員。リアルブルーの更なる大転移に纏わるあれこれの業務にはフル稼働であったことだろう。
それも漸く、収束の芽をみせつつはあるが、やはり通常レベルの仕事もこなしながらでは中々もう疲労も回復、とはいかないらしい。
それでも、恩あるハンターの先生様方のためにと、気丈に、そしてそのことに本当に喜びを感じているという風に、笑顔を浮かべる彼女である。
「いやいや手前どもなんぞ! ハンターの先生様方がしてきた事に比べりゃ全然でさあ! 先生様方に置かれやしては、先だっての大規模作戦、本当にお疲れさーしたぁ!」
誰かが疲れを指摘すれば、更に声を笑顔を元気にして応えてみせるアン。そして自分の言葉に目を見開いて「それだ!」とばかりに話を続ける。
「そうでした! 手前どもらつい忙しくて、大戦でお疲れの先生様方を労う機会もつい逃しておりやして! そうこうするうちにもう聖輝節の時期じゃねえですかい!」
パッと身体を乗り出して彼女は告げる。
「今年は新たにいらっしゃった方も多いってんで、部族会議の方でもこの期を切欠に歓迎会をするってえ向きがあるんでさあ。そのためのパーティーなら予算もだすってんでえ、手前どもも一枚噛ませて頂やして!」
どうやらアン嬢も、ハンターの相手ならオフィスに居る自分なら声をかけやすい、と申し出て何か企画をすることにしたらしい。
「……今回、本当に心身ともに疲弊する戦いであったとお聞きおよびしておりやす……そんなお疲れの先生様方に、手前ども何が出来るか必死で考えやした! そして!」
そして。
「閃きやした! 先生様方! 疲れたときはシンプルに肉でさあ!」
閃くって程のものなのだろうかそれは。
まああまり捻って滑られるよりは安全安定と言えるが。
「聖輝節と言えば鶏肉! 部族会議に頼んで大量に用意しやした! 心を込めて揚げますんで! え? 先生様方も料理したい? そいつあ楽しみでさあ! 是非よろしく頼みまさあ!」
……と言うことで。
要するに、聖輝節にちなんで──るのかは知らないが──屋外鶏肉パーティーの運びらしい。
そして。
「先生様方……今回は、本当に、本当に辛い戦いだったって聞いてまさあ……。残念ながら! 覚醒者になれねえ手前どもは一緒に戦うことは出来ねえでさあ! けど! だから! 手前どもは、何があっても先生様方の味方でありてえでさあ! 前回の作戦で先生様方がとったどんな作戦も決断も! 手前どもは労いたいんでさあ! ですんで……ですんで、お待ちしておりやす!」
だから、彼女は言う。
これは歓迎の交流会で。
そして、誰がなんと言おうと、戦勝会、だと。
リプレイ本文
「ここならカリーブルスト作ろうがライブクーヘン作ろうが誰からも文句が出な……いえ、皆が喜んでくれると思います。頑張りましょう、ハンスさん」
穂積 智里(ka6819)の言いように、ハンス・ラインフェルト(ka6750)はやや不服気味の表情を浮かべる。
「いえ、ドイツのファーストフードと言えばケバブだってホットドックだってピザだってありますよ? マウジーは何か勘違いしている気がしますが」
困ったように肩を竦めて準備を進めていくハンス。
「器具や材料の準備がしやすいのにあまり普及していなくて私が食べたくなったというのも勿論ありますが」
彼が今日提供するものとして選択されたのはカリーブルスト。彼にとってはファーストフードのB級グルメ、といったイメージのものだが、あまり同盟や王国では見かけない、というのがその理由だ。
「帝国の依頼はほぼ受けたことがありませんから、あちらならあるのかもしませんね。行かなければないことに変わりありませんが」
雑談をしながらも、二人は息ぴったりにてきぱきと調理を進めていく。
ハンスが次々とソーセージを焼き上げていくと、智里がカレー粉、ケチャップをまぶしていく。ポテトと一緒に盛り付けて、行き交う人たちに声をかけて勧めていく。
「ドイツで良く食べられているB級グルメのファーストフードですね。どんどんどうぞ」
「せっかくのお祭りです、たくさん食べて早く大きくなって下さい」
子供たちには、ハンスが笑顔で大盛に。
「この世界じゃ車の運転はまずありませんし、アルコールもちょっと飛んでますから本当は大抵の人が飲んで大丈夫だと思うんですけど……どうなんでしょう?」
大人には、智里がグリューワインと共に勧める。
リンゴジャムを添えたライブクーヘンも沢山受け取られた。
食を通じて触れ合う異文化。美味を前にすれば交流のハードルは下がっていく。
興味を持つものが居れば、由来や故郷のことを彼らは楽しげに語って見せた。
「おにく! じゃもんっ♪」
「やさい、にく うまい。あまいは……もーっとうまいぞ!」
歌うように声を上げ、踊るようにくるくる歩く、和む小さな姿二つは泉(ka3737)と葉月(ka4528)の二人である。幸せそうに会場の料理の数々を食べて回るはらぺこ娘たち。葉月などは食事をくれる人にはすぐなつく人懐こさで、そんな二人を、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が見守っている。
「はづき! おいしーおにく! じゃもんっ!」
「えものは、わけあうものだぞ!」
やがて、葉月と泉が宣言と共に取り出したのは野兎の肉。今日のために狩ってきたらしい。下処理は完璧に施されている。
「やあっ! これは見事だねえっ! 葉月君と泉君でこれだけ仕留めてくるなんて、楽しみにしていたかいがあったよ!」
並べられるそれに、イルムが大袈裟なくらいに感嘆を込めた言葉で褒め称える。
調理法は豪快に丸焼き。焦げてもそこは削ぎ落とせばいいだろうという勢いだが、そこはイルムがさりげなくいい焼き加減になるようサポート。
見た目が派手な料理風景は、イルムの見立て通り、会場を大いに盛り上げていた。
豪快、と言えばもう一ヶ所、注目を集める風景があった。サクラ・エルフリード(ka2598)である。サンタの姿をした彼女は、刀を使って優雅に舞うように鶏肉を切り捌いていた。そして欲しい人には、その場から見事に皿に向かってスローされる。聖輝節の祝いのこの場、まさに輝紅士たる彼女の活躍に、会場は大いに沸いていた。
レイア・アローネ(ka4082)にも当然、そんなサクラの姿は目に留まる。
「やあ」
「レイアさん。こんにちは」
視線が合うと、互いに挨拶を交わす。
「賑わっているな。……ああ、忙しいならいいんだが」
「いえ、丁度次の肉が焼けるまで暇なところでしたから、私はいいんですが……」
そこまで言ってサクラは、同行するリュー・グランフェスト(ka2419)へと視線を向ける。
「私と参加する以外に誘う相手いないのか? とは言ったんだがな」
「お互い様だろ」
言い合う二人の様子は、性別を意識しない友人、といった感じで、色っぽい雰囲気は皆無だ。
「……それにしても、刀を使った料理パフォーマンスか。見事なものだな」
「え、ええ。敢えて刀で。べ、別に包丁だとうまくいかないというわけでは……」
「……いや、そんなつもりで言ったのでは無いのだが……」
レイアの称賛に、照れくささなのかついそんなことを言い出すサクラ。本当にそんなつもりではなかったのに、察してしまうレイアである。
誤魔化すようにレイアはリューに向き直った。
「サクラは先日の依頼でも世話になってな。それで挨拶をと思ったんだ。……そうそう」
そう言って彼女は持ち込んでいたと言う料理を取り出す。
「これもそのときの依頼で手に入れたものでな。農場直輸送の鶏肉だ」
「……鶏肉」
レイアの料理に視線を落として復唱するリュー。その両手には既に、会場内のあちこちで貰った鶏肉その他肉料理の数々がある。
「いいから食え、男だろう」
有無を言わさぬようにレイアは、近くのテーブルに料理と飲み物を並べていく。
「戦勝会、だろう?」
リューと、サクラに、飲み物のグラスを渡すと、そこで二人もレイアに笑い返す。
「こないだは世話になったな、サクラ。これからも世話になるぞ、リュー」
レイアがグラスを掲げると、リューとサクラもそれに続いた。
そんな、会場内の風景を見回して……。
「やっぱり、クリスマスはお肉なんですね。私も何か狩ってくるべきでしたでしょうか……でも熊はこの時期冬眠してるし……」
「いや、確かにクリスマスの食卓に鶏肉はよく出るけど、別に肉祭りって訳じゃなからね? ましてや自分で狩ってくる義務もないから」
やや勘違いした百鬼 一夏(ka7308)の発言を、ステラ=ライムライト(ka5122)がやんわりと訂正する。そしてそんな二人を両手に花というような位置で連れ歩かされるミトラ(ka7321)。
「二人はクリスマス初めてだよね。先輩が教えてあげるっ!」
三人の中では、ステラが先輩格。今日は二人に聖輝節を教えようと言う名目でここに来た。
そんなステラを尊敬して止まない一夏が、目をキラキラと輝かせてステラを見上げる。
三人が陣取ったテーブルに並べられていくのはステラが用意したケーキやプレゼントの箱。一夏も手伝ってセッティングされていくテーブルに、ミトラも見た目相応の表情を覗かせる。
「僕、料理取ってくるね」
準備の間にと、ミトラはそう言って、一度、テーブルから離れていった。……両手に花状態に、実は少し緊張していたのもあって。
「どの料理もおいしそうだけど……野菜も食べたいんだよな……」
肉の焼ける匂いで充満する広場を歩きながら、ミトラは呟く。
「おっボウズ、そんなら食ってけ!」
呟きに反応したかのような声にミトラが振り向くと、そこにはにやりと笑みを浮かべたアーサー・ホーガン(ka0471)。
差し出された料理は……。
「チキンティッカマサラ。イギリス発祥の、骨無しタンドリーチキンのインドカレーってとこだな。カレーのベースに、トマトをたっぷり使ったヘルシーな『野菜料理』だぜ」
アーサーは自信たっぷりに──まあ、確信犯のそれだろうが──そう解説する。
トマトは実際使われているだろうが見た目に一番割合を占めるのは肉である。おそらく通常の10割増しの肉が使われている。
思わず固まったままミトラが受け取ると、アーサーは更に肉の皿を追加で渡す。こちらはシンプルに鶏の丸焼きのようだ。添えるのはグレービーソース。
「ターキーじゃねぇが、まあ仕方ねぇな」
あからさまに過剰な量を盛り付けながらアーサーは陽気に言う。同行者が居るのを知っているのではなく、これが一人前のようである。
やはり圧倒されるミトラだが、どちらの料理も美味しそうではあった。アーサーの実家は畜産農家、肉の扱いだけは得意なのだ。
「ありがとう、ございます……」
まあ、トマトが使われているのは確かだし……と、最終的には礼を言って受け取るミトラ。
自分の出した屋台が一段落つくと、アーサーもまた他の肉を求めて会場を歩き始めた。
──アーサー・ホーガンは、雑食性肉食動物である。
おう、肉食うぜ肉!!
おら、肉食えや肉!!
今日はその心情で、酒で流し込みながら肉をおかずに肉を食う。
「祭りと言えば、肉と酒だぜ」
他の料理にも一通り手を付けつつも基本的にはひたすら肉、肉、肉。貪り歩く彼だった。
「ケーキの時期に肉祭り…なるほど、アンさんの狙いを理解したのっ」
話を聞くなり、ディーナ・フェルミ(ka5843)はキランと目を輝かせて準備に取り掛かった。
「アンさん、今日は素敵な肉祭りありがとうなの!」
「こ、これは……!」
差し出されたそれに、アンが目を丸くする。
それは。
ホールケーキ、に、見えた。
薄黄色の土台に、絞り出しで飾られた上面、その中央に鮮やかに輝く甘露煮のサクランボ。側面はハート柄で飾られている。
……が、よく見れば。
ハート柄は唐揚げのチューリップであるし、薄黄色はスポンジでは無くマッシュポテトである。そのマッシュポテト、実は形成できる最低限の量に抑えられており、内部は様々な部位の焼かれた肉が詰められている。
肉屋にて。お誕生日は肉ケーキという言霊を聞き作成を思い立ったそれは……──
「アンさんには特製肉ケーキをプレゼントなのっ! みんなで切り分けて食べるといいと思うの」
肉ケーキ。それはまさにそう呼ぶべきそれだった。差し出されたナイフ、アンは恭しくそれを受け取り、緊張気味に1ピースを切り取って皿に乗せる。間をポテトに埋められた、肉の断面。
「ををををを! 流石ディーナの姐さんでさあ! 手前どもの中では間違いなくバトルロワイアルNo.1のケーキでさあ!」
歓声を上げて、アンはそれを掲げてみせた。
まあ実際、ラインナップ見ても、参加出来てたら上位に行ったかもしれない気もする。その発想は無かったよね。
なお、実際の肉屋の肉ケーキは生肉を盛るものだそうである。
「調理って……肉まんも作れるニャスかな?」
分けてもらった鶏肉を包丁の背で叩いてミンチにして、生姜たっぷりの味付けで肉まんの種を造り始めたのはミア(ka7035)である。
生地に包んで蒸し上げて。
「ほんとは、“黒犬”と……大切な友達と来たかったんだよニャぁ」
一人手を動かしながら、少しだけ寂しげに呟く……が。
「しょーがニャい、この前一緒した依頼で勇気出したご褒美に、お土産持って帰ってあげよう!」
すぐにそうやって、明るい声で言い直す。その相手へのお土産用に、特大の肉まんを一つ準備しておいて。
それから、会場の皆にも食べてもらおうと、自らもむしゃむしゃ食べながら配り歩く。
……と。
「お!? おお、ミア君じゃないか!」
一つ、感極まった声が彼女に向けられた。
「あ、イルムちゃんニャス!? こんにちわニャス!」
「うんうん。こちらは葉月君と泉君だよ」
「元気ニャスねえ。肉まん食べるニャスか?」
紹介されたミアが二人に肉まんを差し出すと、二人はがぜん興味を向ける。
美味しそうにかぶりつくと、例によって二人はあっさりとミアへと懐き始めた。
「ミア君は一人かい? 良ければ一緒に回れたら、嬉しいなあ!」
「ん……せっかくだから、それもいいニャスね!」
そうやって、四人で行動することが決まると、泉がワクワクした様子でイルムを見ていた。
「イルムはなにごよーいじゃもん?」
「ぶどうの果実を入れたゼリーだよ。お肉の箸休めにと思ってね」
沢山用意されたそれに、一行は一度口の中をさっぱりさせると、再び会場内のあちこちの料理に目を向け始めるのだった。
「今日はチキンの日、決定ニャスー! さあ、かかってこいチキン!」
ミアの宣言に、泉、葉月が小躍りしながらついていく。そんな、美味しそうに食べる三人の笑顔を、イルムはもっと見ていたいと思うのだ。
「おっと失礼。ホホホ」
今新たにサクラのアイテムスロー、ならぬ肉スローを皿でキャッチしつつ、淑女を装って笑い声を上げたのはエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)である。
節度を保ちつつ会場を歩く彼女だが、
(肉を! YOKOSE!)
そんな欲が時折駄々漏れているのであった。
そんなエラの目に、ふと留まった三人組。
「……源一郎さん、こちら高瀬さんです。リアルブルー兵士の」
丁度、輝紅士姿のメアリ・ロイド(ka6633)が、高瀬 康太──現状もう、少尉とは言えない──を門垣 源一郎(ka6320)に紹介しているところだった。
「シュガースティックパイを配っていたら、偶々見かけて」
「……ハンターが集まる場と聞いて、情報収集になると思ったんですよ……」
経緯を解説するメアリに、ばつ悪そうに言う康太。
それにメアリは僅かに笑みを浮かべる。
「そういうところが、気が合うと思って」
言われて康太は、メアリから目をそらすように源一郎を見た。成程生真面目そうな日本人男性だ、というのが初見の印象だった。
実際、源一郎も催し物と言うよりは元強化人間たちや新米ハンターたちの様子が気になって確認しに来たのだから、メアリの言もそこまで的外れという訳でもないのだろう。
源一郎もまた康太を見返す。メアリに渡された形の歪なパイを、それでも結構味わって食べているようだった。
「約束しましたからね。寿命以外で死ぬのは無しだからな」
「僕としてはその懸念もあっての約束ですけど……まあ、努力はしますよ」
更にメアリから、精霊契約祝いも兼ねてだと渡されたお守り──水晶を日本風の守り袋に詰めたものだ。手作りらしく、やはり形は歪──を、複雑な顔で見ながら、そんな会話をしている。
……彼だけではない、元強化人間という存在。余生というにはあまりに短い寿命を源一郎は哀れに思うが、共感することも慰めることも出来ない。
「今更部外者が出来ることはそう多くもない。だが必要があれば力を貸そう」
「……え、ええ」
源一郎の言葉に、康太はぎこちなく頷いた。源一郎の雰囲気を掴み損ねているのだろう。突き放す社交辞令というわけではない。仲間として助けるつもりは本当にあるのだろう。だが優しさとは何か違う。
──自動的、そんな反応。
誰にでも親切に対応するが感情は伴わず、仲間の言葉も今は響かない。
源一郎は自覚すれど康太はまだそこまで理解出来ないが。
そんな源一郎を、メアリがじっと見ている。
どこか所在なさげになる康太。エラが割り込んだのは、この時だった。
「どうも、こんにちは。あ、挨拶だけしに来たんでお構い無く」
「……エラさん。こんにちは」
エラが手にしたコップを軽く掲げると、メアリがそれに応じる。
エラからすれば、メアリと源一郎はデートかなんかだろ、という認識である。二、三声を交わすと邪魔にならないようにと早々に辞して、康太もそれにいい機会だと、僕もこれでと離れていく。
……かくしてまた、メアリと源一郎の二人になった。
「戦う理由に迷いでも?」
メアリが話しかける。以前、自分が脱け殻だといった彼。
「私も迷子でしたが、手探りでも進んだら、中身も希望もあった。探して詰めてけば良い。歩くのだけ忘れずに。疲れたら、私が貴方を背負って歩くから」
そんな言葉に。源一郎は、そのどの言葉に対しても首を振った。
迷いはないが希望もない。ここ数年歩き続け、得たものはこの確信だった。
「惰性で殺しが出来る異常者を気遣う必要はないぞ」
それだけを答える。対して、
「気遣いじゃねーよただの愛だ」
メアリはやはり、懲りない様子できっぱり言った。
そんな二人のやり取りに。
(青春だなー)
なんて感想をエラは抱くのだった。
「お肉! 鶏肉! 懇親会!!」
「俺に! 肉を! 食わせろ!」
「お肉いっぱい食べていいんですか! 鶏肉は筋肉作りにも適しているんですよね! これでトレーニングすれば俺ももっと逞しい身体に……」
エラが次に向かったのは、会場内でも一際賑やかなテーブルだった。
クレール・ディンセルフ(ka0586)にラスティ(ka1400)、アリオーシュ・アルセイデス(ka3164)まで興奮気味の声を上げているのは少し意外か。
「やあエラさん、こんにちは」
挨拶するのは彼らの小隊【射光】の隊長である神代 誠一(ka2086)だ。どうやら小隊の懇親会を兼ねて集まっているらしい。彼にとって相棒のクィーロ・ヴェリル(ka4122)と、弟的存在のラスティには特別砕けた対応で酒を酌み交わしつつ、小隊員としては新入りの鞍馬 真(ka5819)にも気を使いながら一団で談笑している。
先ほどと同じように、コップを掲げ合って軽く挨拶……の後、エラの視線は彼らのテーブルの上、その中で彼女がまだ見ぬ料理へと向かう。
「簡単に摘めるものをと思って作ってきたから良かったどうぞ」
バーニャカウダーを指して、クィーロがそう言った。チキンだけだと味が飽きてしまうかな? と思っての持ち込みだ。
「あ、こちらは肉の味変用のソースになります。カレーソースと蜂蜜入りマスタードソース、山葵ソース等を作ってきました」
続いていうのはアリオーシュ。エラはアーサーの所から持ってきた丸焼きをそれらのソースで味わっていくと、残った分を御裾分けです、と置いて去っていく。
和やかに過ごす中、始まるのはカードゲーム。
「パルム抜きで勝負か。よく分からないが、クリムゾンウェスト版のババ抜きみたいなモンだよな?」
「私こういうの初めてなんです! 村にトランプ無くて!」
ラスティが挑戦的に言えば、クレールも身を乗り出してくる。それぞれに配られた札を持ち合って、順番に札を引いていく。
「うーん、どうしようかな……」
クレールと向かい合ったクィーロが、穏やかな笑みのまま思考する。
「あれ!? パルム持ちバレてます!? なんで!?」
その様子にクレールが驚きの声を上げる……露骨に「あー! パルムー!!」とか「うぐぬぬぬ……」という顔を浮かべていたからなのだが。
クィーロは暫く彼女の手札の上に掌を往復させて……そして、一枚引く。
その結果にクレールが歓声を上げた。
「あー……やっちゃったねえ。……はい、じゃあ誠一」
「……お前、俺に押し付けるためにわざと引きやがったな? おーし受けて立つ」
そして始まる誠一とクィーロの心理戦。
「あ……いや、何でも無いよ」
誠一が触れたカードに、ぽつりと告げるクィーロ。思わず、といった様子だが、それも誘導か。
そんな風に、視線や言葉による誘導を仕掛ける者もいつつ、基本はポーカーフェイスと勘に任せて、といった戦略で皆、手番を進めていく。
……このゲームは、進行上、幾度となく「顔を見合わせる」必要がある。
「しっかし、1年もあっという間だな」
そうするうちに、思い返すように、ラスティが言った。
「あっという間。そうだね……色々あったね。ふふ」
同じく、過ぎし日の速さを感じて、クィーロが応える。
テーブルの上に組み合わさった札を重ねていきながら。気付けば、話題は積み重ねた日々へと移っていく。
「色々あるけど窓際にてるてる坊主ぶら下げたの楽しかったなぁ。あとは……やっぱ、誕生日会。今年のは、忘れられそうにないよ」
優しく眼を細めながら、誠一が呟く。
「今年の思い出……は、個人的には受勲を戴けた事、なのですが……真さんやクレールさんはじめ、射光の仲間が続々増えたことが一番嬉しいかも、です♪」
次に口を開いたのはアリオーシュ。そんな彼の言葉に。
「なんだか、ずっといた気がしますが……私、ちょっと前に入隊したばかりなんですね」
クレールが、しみじみと。本当にしみじみと、言った。
「この感覚、仲間のそれです。それは、得難いもの……本当に、ありがとうございます」
元気な彼女の、静かな、だからこそ心からの想いを感じて。真が微笑む。
「私も……やっぱり思い出に残っているのは大規模作戦かなあ。今までは基本的に単独行動だったから、皆で戦域を決めて、作戦を立てて、皆で一緒に動くっていうのが新鮮で楽しかった」
「そうだな。新しく真も入ったし、これからも、ヨロシクな」
「役に立てているかはわからないけど、皆今後ともよろしくお願いします」
ラスティの相槌に、照れ笑いで真が応えて。
「大規模作戦! 魂のチャリで大爆走したりもしたよな! 来年も大規模作戦では知恵絞りつつ、俺達らしく楽しんで頑張っていこう」
誠一がそう締めると、語る言葉も途切れて。皆同時に、思い浮かべる。
駆け抜けた日々。皆で話し合った小隊用の部屋の……──惨状。
あっ駄目だ今部屋のこと思い浮かべると隙間風と散らかり放題のそこしか思い出せない。
「──……ちなみに、だ」
札を引きつつ、誠一が告げた。
「このゲーム、勝者のお願いを皆で叶えるルールになっている」
一転して悲愴な声になった誠一が勝利したら何を願うつもりなのかは……全員が即座に察した。
大規模作戦の話……と言えば。
アルフロディ(ka5615)と、彼に誘われてやってきた緋袮(ka5699)も丁度、そんな話をしていた。
クリスマスは良く知らない緋袮だが、アルフロディが作った和洋中様々な鶏肉料理には、
「お前こんなうめーの作れんのか!?」
と、相当美味いことに驚き、箸が止まらない勢いで堪能している。
アルフロディは会場の皆にも料理を振舞っていたが、やはり想い人である緋袮が称賛してくれることに嬉しそうに笑みを浮かべていた。
そうして。
「先の大規模、本当にお疲れ様でした。緋袮様の見事な御活躍、皆様にも見ていただきたかったものです」
アルフロディの口から出るのは、彼女の大規模での活躍を称える言葉ばかりだ。彼の料理を貰いに来た人々が興味を向けると、まるで我が事の様に嬉々として緋袮の武勇を語って聞かせていた。
「大げさだ、大した事じゃねー……」
緋袮はそんな風に言いながらも満更でもなさそうだ。そのせいだろうか。
「お前もまぁ、マシにはなったよな……」
大規模作戦の折、彼の援護に助けられる場面もあったと思い出し、ぼそりと呟く。
アルフロディはその言葉に、一旦信じられないという風に硬直して……それから、パァッとより一層笑顔を華やがせていく。
「はい……っ、ありがとうございます」
必死に高揚を抑えようとしているが、それでも喜びを抑えきれない様子で。
「調子に乗んじゃねえぞ!? ……料理の腕は認めてやるけどよ!!」
その喜びように彼女は慌てて言い返すが……例えそれが本気の叱責だったとしても、少しでも実力を認めてもらえたという事実にアルフロディの喜びが絶えることは無かった。
……というか、気付けば余計に褒めている。料理については相当気に入ったらしい。
「此れからも毎日、緋袮様の為に腕によりをかけて作らせていただきますね!」
満面の笑みの彼に、若干後悔する緋袮だが……それでも、彼のご飯は食べ続けていた。
「それじゃあ、お疲れさまとメリー★クリスマス♪」
「お疲れ様。とめりー、くりすます?」
準備が整ったテーブルで、ステラが宣言すると、ミトラがぎこちなく復唱する。
「このお肉美味しいですよ! ステラ先輩どうぞ!」
その周りを一夏が嬉しそうに駆け回る。
「クリスマスはあっちのお祭りで、サンタさんがプレゼントくれるんだ。あとは贈りあったり?」
慣れない二人にステラが説明すると、ミトラは覚えておこうと熱心にメモを取っていた。
「んー、ミトラ君は熱心だねえ。それじゃあご褒美。はいアーン」
「あ、アーン」
フォークにケーキを刺して差し出すステラ。ミトラは今日はそれに、素直に甘える。
……と。
「私の方がステラ先輩の後輩歴も憧れ歴も長いですし! 圧倒的後輩力ですし!」
さっきまで同じように一夏もミトラを甘やかしていたのも忘れたように、一夏がちょっと拗ねた態度を見せる。そんな一夏の頬を、ほら、クリームついてるよとミトラが拭う。
そんな風に、三人、楽しく過ごして。
「それじゃ……先輩から二人にプレゼント」
そういってステラは、一夏にはドレス「風壁の衣」。ミトラにはケープ「白龍の祝福」をそれぞれ渡す。
「似合うかなって選んでみたけど……どうかな?」
感激しつつ受け取る一夏が続けて取り出したのはお揃いの髪飾り。ステラとミトラに贈るという事で、男女どちらでもつけられるシンプルでお洒落なものだ。
「プレゼントを贈り合う。事前に聞いてれば用意出来たのにな……」
用意の無かったミトラは少し消沈した様子。だが、二人ともそんなことを気にする様子はちっともなくて。
「誘ってくれてありがとうな。とっても楽しかった」
……ミトラの、最後の言葉は。三人共通の気持ちであろうことは、間違いなかった。
宴もたけなわ。射光のテーブル。
パルム抜きを制したのはラスティ。この展開を予測して、暗記、幸運、遊戯といった使えそうな一般スキルを積んできたのが勝因か。
要求した願いは──「1人ずつ恥ずかしい話でもしてもらおうかな」。
笑い合いながら、皆が恥ずかしい話を打ち明け合って……。
「え? ええと……そうだなあ。私は、勝ったらお願いしようとしていたことが、落ち着いて考えたら恥ずかしいかも……」
真の言葉に、皆が視線で続きを求める。
「……頭を撫でて欲しいかなって。……好きなんだよ。安心するから」
ぼそりと真が言うと、「なんだ、そんなことなら」と誠一が満面の笑みで真の頭をわしゃわしゃと撫でた。そのまま一行に取り囲まれて順に撫でまわされると、真は嬉しそうな悲鳴を上げる。
「あはは。真さん良いですね。俺は『皆揃っておでかけがしたい』だったんですが」
アリオーシュがついでに言うと、それもいいじゃん、予定が合ったら行こう! と皆声を上げて。
「私は『皆でお土産に骨細工作りましょ!』でしたね! ……そう言えば試作品がそろそろいい感じです!」
これは、綺麗に洗われた骨を並べながらクレール。会場内で出た鶏ガラや骨を集めている、とは思っていたが……。
「来れなかった皆さんにお土産です! 皆さんご賞味あれ!!」
ここに居ない仲間のために自作の寸胴でガラスープ振る舞う目的だったらしい。
「なかなか良いダシが出ていますね。無駄のない食材活用、流石です!」
一口飲んだアリオーシュが賛辞の声を上げる。
その余剰として出た骨を並べてクレールが動物や壁飾りを象り始めると、皆興味深そうに手を伸ばした。
……結果的に、皆の願いが叶えられつつある。クィーロのも。そう。彼が望むのは『みんなの笑顔』。その想いを確認し、誠一を見て……。
「皆……それじゃ、大掃除も手伝ってくれるよな……?」
誠一のその言葉に。一同正に揃って、『にっこり』笑みを浮かべたのだった。
そんな射光のテーブルに、近づく小さな影が一つ。
葉月である。彼女はクレールが並べた骨細工の一つをじぃ、と見つめていた。
聞けば今日これなかった友人に土産を探していたのだ、という。既に、持ち帰れそうな料理は幾つか折詰にしてもらってもいるようだが……。
「来れなかった仲間の為、とあらば見過ごすわけには行きませんね!」
クレールがそう言うと皆頷いて、壁飾りの一つを葉月に渡す。
「きっと よろこぶ」
満足げに頷いて葉月がこくんと頭を下げると、射光の皆に見送られながら彼女は戻っていく。
入れ替わりに、そろそろ、とミアが三人から離れていくところだった。
独りになってミアは、いつの間にかすっかり暗くなった星空を見上げる。
「戦勝会、ニャスかぁ……」
呟いた、その言葉の響き。
(……戦った先には、ニャにがあるのかな)
傷ついて
苦しんで
それを重ねた戦いの先に、
(ミアの大切なもの……あるのかニャ……ミアが大切に想う人達の幸せが、あればいいな──)
同じころ。エラは、喫煙スペースで一服しながら奇しくも彼女も空を見上げていた。
「雪でも降ったりしないんかな……なんて」
呟くが、幸か不幸か、眼前に広がるのは満天の星空で──
なのに。
「ん!? 雪!? なのじゃ!?」
ちらちらと舞い降りる白い結晶に、泉が驚きの声を上げる。
イルムも驚いて手を翳して……降り積もる白は、その掌を擦り抜けていく。
「成程。どうやら粋なサンタさんがこの会場にいるようだね」
察して、笑顔を浮かべて。
「おっと。忘れるところだった」
そうして思い出して、イルムは泉と葉月、二人に近づいていく。
「ふふっ♪ 二人にだけの特別だよ!」
葉月には兎を、泉には白虎を模した小さなカップケーキをプレゼントに差し出す。
「おいしーいっぱい! しあわせじゃもんんん♪」
美味しい楽しい幸せの三拍子。
メロメロの気分を撒き散らしながら泉が言って、葉月と最後までくるくる回り続けていた。
「こういう時こそ輝紅士の出番ですし……」
粋なサンタさん、こと、スノーホワイトを行使したサクラは、あちこちで上がる感嘆の声に満足げに呟いていた。盛り上げに大いに貢献した彼女は正にサンタクロースで……だけど、そんな彼女は、自分の格好に恥ずかしそうにもしていたが。
やがて徐々に散り始める会場で。
「……ありがとな」
写真に収めた皆の様子を確認しながら、相棒にだけ聞こえる声で、誠一がこっそりと言った。
一年を振り返るこの時節。クィーロに色々話したのも今年のことだ。
「こちらこそ」
小さく笑い、クィーロは答える。
和やかな時はこうして過ぎ去っていく。闘いの日々の中、彼らは少しでも安らぎを得られただろうか。
穂積 智里(ka6819)の言いように、ハンス・ラインフェルト(ka6750)はやや不服気味の表情を浮かべる。
「いえ、ドイツのファーストフードと言えばケバブだってホットドックだってピザだってありますよ? マウジーは何か勘違いしている気がしますが」
困ったように肩を竦めて準備を進めていくハンス。
「器具や材料の準備がしやすいのにあまり普及していなくて私が食べたくなったというのも勿論ありますが」
彼が今日提供するものとして選択されたのはカリーブルスト。彼にとってはファーストフードのB級グルメ、といったイメージのものだが、あまり同盟や王国では見かけない、というのがその理由だ。
「帝国の依頼はほぼ受けたことがありませんから、あちらならあるのかもしませんね。行かなければないことに変わりありませんが」
雑談をしながらも、二人は息ぴったりにてきぱきと調理を進めていく。
ハンスが次々とソーセージを焼き上げていくと、智里がカレー粉、ケチャップをまぶしていく。ポテトと一緒に盛り付けて、行き交う人たちに声をかけて勧めていく。
「ドイツで良く食べられているB級グルメのファーストフードですね。どんどんどうぞ」
「せっかくのお祭りです、たくさん食べて早く大きくなって下さい」
子供たちには、ハンスが笑顔で大盛に。
「この世界じゃ車の運転はまずありませんし、アルコールもちょっと飛んでますから本当は大抵の人が飲んで大丈夫だと思うんですけど……どうなんでしょう?」
大人には、智里がグリューワインと共に勧める。
リンゴジャムを添えたライブクーヘンも沢山受け取られた。
食を通じて触れ合う異文化。美味を前にすれば交流のハードルは下がっていく。
興味を持つものが居れば、由来や故郷のことを彼らは楽しげに語って見せた。
「おにく! じゃもんっ♪」
「やさい、にく うまい。あまいは……もーっとうまいぞ!」
歌うように声を上げ、踊るようにくるくる歩く、和む小さな姿二つは泉(ka3737)と葉月(ka4528)の二人である。幸せそうに会場の料理の数々を食べて回るはらぺこ娘たち。葉月などは食事をくれる人にはすぐなつく人懐こさで、そんな二人を、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が見守っている。
「はづき! おいしーおにく! じゃもんっ!」
「えものは、わけあうものだぞ!」
やがて、葉月と泉が宣言と共に取り出したのは野兎の肉。今日のために狩ってきたらしい。下処理は完璧に施されている。
「やあっ! これは見事だねえっ! 葉月君と泉君でこれだけ仕留めてくるなんて、楽しみにしていたかいがあったよ!」
並べられるそれに、イルムが大袈裟なくらいに感嘆を込めた言葉で褒め称える。
調理法は豪快に丸焼き。焦げてもそこは削ぎ落とせばいいだろうという勢いだが、そこはイルムがさりげなくいい焼き加減になるようサポート。
見た目が派手な料理風景は、イルムの見立て通り、会場を大いに盛り上げていた。
豪快、と言えばもう一ヶ所、注目を集める風景があった。サクラ・エルフリード(ka2598)である。サンタの姿をした彼女は、刀を使って優雅に舞うように鶏肉を切り捌いていた。そして欲しい人には、その場から見事に皿に向かってスローされる。聖輝節の祝いのこの場、まさに輝紅士たる彼女の活躍に、会場は大いに沸いていた。
レイア・アローネ(ka4082)にも当然、そんなサクラの姿は目に留まる。
「やあ」
「レイアさん。こんにちは」
視線が合うと、互いに挨拶を交わす。
「賑わっているな。……ああ、忙しいならいいんだが」
「いえ、丁度次の肉が焼けるまで暇なところでしたから、私はいいんですが……」
そこまで言ってサクラは、同行するリュー・グランフェスト(ka2419)へと視線を向ける。
「私と参加する以外に誘う相手いないのか? とは言ったんだがな」
「お互い様だろ」
言い合う二人の様子は、性別を意識しない友人、といった感じで、色っぽい雰囲気は皆無だ。
「……それにしても、刀を使った料理パフォーマンスか。見事なものだな」
「え、ええ。敢えて刀で。べ、別に包丁だとうまくいかないというわけでは……」
「……いや、そんなつもりで言ったのでは無いのだが……」
レイアの称賛に、照れくささなのかついそんなことを言い出すサクラ。本当にそんなつもりではなかったのに、察してしまうレイアである。
誤魔化すようにレイアはリューに向き直った。
「サクラは先日の依頼でも世話になってな。それで挨拶をと思ったんだ。……そうそう」
そう言って彼女は持ち込んでいたと言う料理を取り出す。
「これもそのときの依頼で手に入れたものでな。農場直輸送の鶏肉だ」
「……鶏肉」
レイアの料理に視線を落として復唱するリュー。その両手には既に、会場内のあちこちで貰った鶏肉その他肉料理の数々がある。
「いいから食え、男だろう」
有無を言わさぬようにレイアは、近くのテーブルに料理と飲み物を並べていく。
「戦勝会、だろう?」
リューと、サクラに、飲み物のグラスを渡すと、そこで二人もレイアに笑い返す。
「こないだは世話になったな、サクラ。これからも世話になるぞ、リュー」
レイアがグラスを掲げると、リューとサクラもそれに続いた。
そんな、会場内の風景を見回して……。
「やっぱり、クリスマスはお肉なんですね。私も何か狩ってくるべきでしたでしょうか……でも熊はこの時期冬眠してるし……」
「いや、確かにクリスマスの食卓に鶏肉はよく出るけど、別に肉祭りって訳じゃなからね? ましてや自分で狩ってくる義務もないから」
やや勘違いした百鬼 一夏(ka7308)の発言を、ステラ=ライムライト(ka5122)がやんわりと訂正する。そしてそんな二人を両手に花というような位置で連れ歩かされるミトラ(ka7321)。
「二人はクリスマス初めてだよね。先輩が教えてあげるっ!」
三人の中では、ステラが先輩格。今日は二人に聖輝節を教えようと言う名目でここに来た。
そんなステラを尊敬して止まない一夏が、目をキラキラと輝かせてステラを見上げる。
三人が陣取ったテーブルに並べられていくのはステラが用意したケーキやプレゼントの箱。一夏も手伝ってセッティングされていくテーブルに、ミトラも見た目相応の表情を覗かせる。
「僕、料理取ってくるね」
準備の間にと、ミトラはそう言って、一度、テーブルから離れていった。……両手に花状態に、実は少し緊張していたのもあって。
「どの料理もおいしそうだけど……野菜も食べたいんだよな……」
肉の焼ける匂いで充満する広場を歩きながら、ミトラは呟く。
「おっボウズ、そんなら食ってけ!」
呟きに反応したかのような声にミトラが振り向くと、そこにはにやりと笑みを浮かべたアーサー・ホーガン(ka0471)。
差し出された料理は……。
「チキンティッカマサラ。イギリス発祥の、骨無しタンドリーチキンのインドカレーってとこだな。カレーのベースに、トマトをたっぷり使ったヘルシーな『野菜料理』だぜ」
アーサーは自信たっぷりに──まあ、確信犯のそれだろうが──そう解説する。
トマトは実際使われているだろうが見た目に一番割合を占めるのは肉である。おそらく通常の10割増しの肉が使われている。
思わず固まったままミトラが受け取ると、アーサーは更に肉の皿を追加で渡す。こちらはシンプルに鶏の丸焼きのようだ。添えるのはグレービーソース。
「ターキーじゃねぇが、まあ仕方ねぇな」
あからさまに過剰な量を盛り付けながらアーサーは陽気に言う。同行者が居るのを知っているのではなく、これが一人前のようである。
やはり圧倒されるミトラだが、どちらの料理も美味しそうではあった。アーサーの実家は畜産農家、肉の扱いだけは得意なのだ。
「ありがとう、ございます……」
まあ、トマトが使われているのは確かだし……と、最終的には礼を言って受け取るミトラ。
自分の出した屋台が一段落つくと、アーサーもまた他の肉を求めて会場を歩き始めた。
──アーサー・ホーガンは、雑食性肉食動物である。
おう、肉食うぜ肉!!
おら、肉食えや肉!!
今日はその心情で、酒で流し込みながら肉をおかずに肉を食う。
「祭りと言えば、肉と酒だぜ」
他の料理にも一通り手を付けつつも基本的にはひたすら肉、肉、肉。貪り歩く彼だった。
「ケーキの時期に肉祭り…なるほど、アンさんの狙いを理解したのっ」
話を聞くなり、ディーナ・フェルミ(ka5843)はキランと目を輝かせて準備に取り掛かった。
「アンさん、今日は素敵な肉祭りありがとうなの!」
「こ、これは……!」
差し出されたそれに、アンが目を丸くする。
それは。
ホールケーキ、に、見えた。
薄黄色の土台に、絞り出しで飾られた上面、その中央に鮮やかに輝く甘露煮のサクランボ。側面はハート柄で飾られている。
……が、よく見れば。
ハート柄は唐揚げのチューリップであるし、薄黄色はスポンジでは無くマッシュポテトである。そのマッシュポテト、実は形成できる最低限の量に抑えられており、内部は様々な部位の焼かれた肉が詰められている。
肉屋にて。お誕生日は肉ケーキという言霊を聞き作成を思い立ったそれは……──
「アンさんには特製肉ケーキをプレゼントなのっ! みんなで切り分けて食べるといいと思うの」
肉ケーキ。それはまさにそう呼ぶべきそれだった。差し出されたナイフ、アンは恭しくそれを受け取り、緊張気味に1ピースを切り取って皿に乗せる。間をポテトに埋められた、肉の断面。
「ををををを! 流石ディーナの姐さんでさあ! 手前どもの中では間違いなくバトルロワイアルNo.1のケーキでさあ!」
歓声を上げて、アンはそれを掲げてみせた。
まあ実際、ラインナップ見ても、参加出来てたら上位に行ったかもしれない気もする。その発想は無かったよね。
なお、実際の肉屋の肉ケーキは生肉を盛るものだそうである。
「調理って……肉まんも作れるニャスかな?」
分けてもらった鶏肉を包丁の背で叩いてミンチにして、生姜たっぷりの味付けで肉まんの種を造り始めたのはミア(ka7035)である。
生地に包んで蒸し上げて。
「ほんとは、“黒犬”と……大切な友達と来たかったんだよニャぁ」
一人手を動かしながら、少しだけ寂しげに呟く……が。
「しょーがニャい、この前一緒した依頼で勇気出したご褒美に、お土産持って帰ってあげよう!」
すぐにそうやって、明るい声で言い直す。その相手へのお土産用に、特大の肉まんを一つ準備しておいて。
それから、会場の皆にも食べてもらおうと、自らもむしゃむしゃ食べながら配り歩く。
……と。
「お!? おお、ミア君じゃないか!」
一つ、感極まった声が彼女に向けられた。
「あ、イルムちゃんニャス!? こんにちわニャス!」
「うんうん。こちらは葉月君と泉君だよ」
「元気ニャスねえ。肉まん食べるニャスか?」
紹介されたミアが二人に肉まんを差し出すと、二人はがぜん興味を向ける。
美味しそうにかぶりつくと、例によって二人はあっさりとミアへと懐き始めた。
「ミア君は一人かい? 良ければ一緒に回れたら、嬉しいなあ!」
「ん……せっかくだから、それもいいニャスね!」
そうやって、四人で行動することが決まると、泉がワクワクした様子でイルムを見ていた。
「イルムはなにごよーいじゃもん?」
「ぶどうの果実を入れたゼリーだよ。お肉の箸休めにと思ってね」
沢山用意されたそれに、一行は一度口の中をさっぱりさせると、再び会場内のあちこちの料理に目を向け始めるのだった。
「今日はチキンの日、決定ニャスー! さあ、かかってこいチキン!」
ミアの宣言に、泉、葉月が小躍りしながらついていく。そんな、美味しそうに食べる三人の笑顔を、イルムはもっと見ていたいと思うのだ。
「おっと失礼。ホホホ」
今新たにサクラのアイテムスロー、ならぬ肉スローを皿でキャッチしつつ、淑女を装って笑い声を上げたのはエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)である。
節度を保ちつつ会場を歩く彼女だが、
(肉を! YOKOSE!)
そんな欲が時折駄々漏れているのであった。
そんなエラの目に、ふと留まった三人組。
「……源一郎さん、こちら高瀬さんです。リアルブルー兵士の」
丁度、輝紅士姿のメアリ・ロイド(ka6633)が、高瀬 康太──現状もう、少尉とは言えない──を門垣 源一郎(ka6320)に紹介しているところだった。
「シュガースティックパイを配っていたら、偶々見かけて」
「……ハンターが集まる場と聞いて、情報収集になると思ったんですよ……」
経緯を解説するメアリに、ばつ悪そうに言う康太。
それにメアリは僅かに笑みを浮かべる。
「そういうところが、気が合うと思って」
言われて康太は、メアリから目をそらすように源一郎を見た。成程生真面目そうな日本人男性だ、というのが初見の印象だった。
実際、源一郎も催し物と言うよりは元強化人間たちや新米ハンターたちの様子が気になって確認しに来たのだから、メアリの言もそこまで的外れという訳でもないのだろう。
源一郎もまた康太を見返す。メアリに渡された形の歪なパイを、それでも結構味わって食べているようだった。
「約束しましたからね。寿命以外で死ぬのは無しだからな」
「僕としてはその懸念もあっての約束ですけど……まあ、努力はしますよ」
更にメアリから、精霊契約祝いも兼ねてだと渡されたお守り──水晶を日本風の守り袋に詰めたものだ。手作りらしく、やはり形は歪──を、複雑な顔で見ながら、そんな会話をしている。
……彼だけではない、元強化人間という存在。余生というにはあまりに短い寿命を源一郎は哀れに思うが、共感することも慰めることも出来ない。
「今更部外者が出来ることはそう多くもない。だが必要があれば力を貸そう」
「……え、ええ」
源一郎の言葉に、康太はぎこちなく頷いた。源一郎の雰囲気を掴み損ねているのだろう。突き放す社交辞令というわけではない。仲間として助けるつもりは本当にあるのだろう。だが優しさとは何か違う。
──自動的、そんな反応。
誰にでも親切に対応するが感情は伴わず、仲間の言葉も今は響かない。
源一郎は自覚すれど康太はまだそこまで理解出来ないが。
そんな源一郎を、メアリがじっと見ている。
どこか所在なさげになる康太。エラが割り込んだのは、この時だった。
「どうも、こんにちは。あ、挨拶だけしに来たんでお構い無く」
「……エラさん。こんにちは」
エラが手にしたコップを軽く掲げると、メアリがそれに応じる。
エラからすれば、メアリと源一郎はデートかなんかだろ、という認識である。二、三声を交わすと邪魔にならないようにと早々に辞して、康太もそれにいい機会だと、僕もこれでと離れていく。
……かくしてまた、メアリと源一郎の二人になった。
「戦う理由に迷いでも?」
メアリが話しかける。以前、自分が脱け殻だといった彼。
「私も迷子でしたが、手探りでも進んだら、中身も希望もあった。探して詰めてけば良い。歩くのだけ忘れずに。疲れたら、私が貴方を背負って歩くから」
そんな言葉に。源一郎は、そのどの言葉に対しても首を振った。
迷いはないが希望もない。ここ数年歩き続け、得たものはこの確信だった。
「惰性で殺しが出来る異常者を気遣う必要はないぞ」
それだけを答える。対して、
「気遣いじゃねーよただの愛だ」
メアリはやはり、懲りない様子できっぱり言った。
そんな二人のやり取りに。
(青春だなー)
なんて感想をエラは抱くのだった。
「お肉! 鶏肉! 懇親会!!」
「俺に! 肉を! 食わせろ!」
「お肉いっぱい食べていいんですか! 鶏肉は筋肉作りにも適しているんですよね! これでトレーニングすれば俺ももっと逞しい身体に……」
エラが次に向かったのは、会場内でも一際賑やかなテーブルだった。
クレール・ディンセルフ(ka0586)にラスティ(ka1400)、アリオーシュ・アルセイデス(ka3164)まで興奮気味の声を上げているのは少し意外か。
「やあエラさん、こんにちは」
挨拶するのは彼らの小隊【射光】の隊長である神代 誠一(ka2086)だ。どうやら小隊の懇親会を兼ねて集まっているらしい。彼にとって相棒のクィーロ・ヴェリル(ka4122)と、弟的存在のラスティには特別砕けた対応で酒を酌み交わしつつ、小隊員としては新入りの鞍馬 真(ka5819)にも気を使いながら一団で談笑している。
先ほどと同じように、コップを掲げ合って軽く挨拶……の後、エラの視線は彼らのテーブルの上、その中で彼女がまだ見ぬ料理へと向かう。
「簡単に摘めるものをと思って作ってきたから良かったどうぞ」
バーニャカウダーを指して、クィーロがそう言った。チキンだけだと味が飽きてしまうかな? と思っての持ち込みだ。
「あ、こちらは肉の味変用のソースになります。カレーソースと蜂蜜入りマスタードソース、山葵ソース等を作ってきました」
続いていうのはアリオーシュ。エラはアーサーの所から持ってきた丸焼きをそれらのソースで味わっていくと、残った分を御裾分けです、と置いて去っていく。
和やかに過ごす中、始まるのはカードゲーム。
「パルム抜きで勝負か。よく分からないが、クリムゾンウェスト版のババ抜きみたいなモンだよな?」
「私こういうの初めてなんです! 村にトランプ無くて!」
ラスティが挑戦的に言えば、クレールも身を乗り出してくる。それぞれに配られた札を持ち合って、順番に札を引いていく。
「うーん、どうしようかな……」
クレールと向かい合ったクィーロが、穏やかな笑みのまま思考する。
「あれ!? パルム持ちバレてます!? なんで!?」
その様子にクレールが驚きの声を上げる……露骨に「あー! パルムー!!」とか「うぐぬぬぬ……」という顔を浮かべていたからなのだが。
クィーロは暫く彼女の手札の上に掌を往復させて……そして、一枚引く。
その結果にクレールが歓声を上げた。
「あー……やっちゃったねえ。……はい、じゃあ誠一」
「……お前、俺に押し付けるためにわざと引きやがったな? おーし受けて立つ」
そして始まる誠一とクィーロの心理戦。
「あ……いや、何でも無いよ」
誠一が触れたカードに、ぽつりと告げるクィーロ。思わず、といった様子だが、それも誘導か。
そんな風に、視線や言葉による誘導を仕掛ける者もいつつ、基本はポーカーフェイスと勘に任せて、といった戦略で皆、手番を進めていく。
……このゲームは、進行上、幾度となく「顔を見合わせる」必要がある。
「しっかし、1年もあっという間だな」
そうするうちに、思い返すように、ラスティが言った。
「あっという間。そうだね……色々あったね。ふふ」
同じく、過ぎし日の速さを感じて、クィーロが応える。
テーブルの上に組み合わさった札を重ねていきながら。気付けば、話題は積み重ねた日々へと移っていく。
「色々あるけど窓際にてるてる坊主ぶら下げたの楽しかったなぁ。あとは……やっぱ、誕生日会。今年のは、忘れられそうにないよ」
優しく眼を細めながら、誠一が呟く。
「今年の思い出……は、個人的には受勲を戴けた事、なのですが……真さんやクレールさんはじめ、射光の仲間が続々増えたことが一番嬉しいかも、です♪」
次に口を開いたのはアリオーシュ。そんな彼の言葉に。
「なんだか、ずっといた気がしますが……私、ちょっと前に入隊したばかりなんですね」
クレールが、しみじみと。本当にしみじみと、言った。
「この感覚、仲間のそれです。それは、得難いもの……本当に、ありがとうございます」
元気な彼女の、静かな、だからこそ心からの想いを感じて。真が微笑む。
「私も……やっぱり思い出に残っているのは大規模作戦かなあ。今までは基本的に単独行動だったから、皆で戦域を決めて、作戦を立てて、皆で一緒に動くっていうのが新鮮で楽しかった」
「そうだな。新しく真も入ったし、これからも、ヨロシクな」
「役に立てているかはわからないけど、皆今後ともよろしくお願いします」
ラスティの相槌に、照れ笑いで真が応えて。
「大規模作戦! 魂のチャリで大爆走したりもしたよな! 来年も大規模作戦では知恵絞りつつ、俺達らしく楽しんで頑張っていこう」
誠一がそう締めると、語る言葉も途切れて。皆同時に、思い浮かべる。
駆け抜けた日々。皆で話し合った小隊用の部屋の……──惨状。
あっ駄目だ今部屋のこと思い浮かべると隙間風と散らかり放題のそこしか思い出せない。
「──……ちなみに、だ」
札を引きつつ、誠一が告げた。
「このゲーム、勝者のお願いを皆で叶えるルールになっている」
一転して悲愴な声になった誠一が勝利したら何を願うつもりなのかは……全員が即座に察した。
大規模作戦の話……と言えば。
アルフロディ(ka5615)と、彼に誘われてやってきた緋袮(ka5699)も丁度、そんな話をしていた。
クリスマスは良く知らない緋袮だが、アルフロディが作った和洋中様々な鶏肉料理には、
「お前こんなうめーの作れんのか!?」
と、相当美味いことに驚き、箸が止まらない勢いで堪能している。
アルフロディは会場の皆にも料理を振舞っていたが、やはり想い人である緋袮が称賛してくれることに嬉しそうに笑みを浮かべていた。
そうして。
「先の大規模、本当にお疲れ様でした。緋袮様の見事な御活躍、皆様にも見ていただきたかったものです」
アルフロディの口から出るのは、彼女の大規模での活躍を称える言葉ばかりだ。彼の料理を貰いに来た人々が興味を向けると、まるで我が事の様に嬉々として緋袮の武勇を語って聞かせていた。
「大げさだ、大した事じゃねー……」
緋袮はそんな風に言いながらも満更でもなさそうだ。そのせいだろうか。
「お前もまぁ、マシにはなったよな……」
大規模作戦の折、彼の援護に助けられる場面もあったと思い出し、ぼそりと呟く。
アルフロディはその言葉に、一旦信じられないという風に硬直して……それから、パァッとより一層笑顔を華やがせていく。
「はい……っ、ありがとうございます」
必死に高揚を抑えようとしているが、それでも喜びを抑えきれない様子で。
「調子に乗んじゃねえぞ!? ……料理の腕は認めてやるけどよ!!」
その喜びように彼女は慌てて言い返すが……例えそれが本気の叱責だったとしても、少しでも実力を認めてもらえたという事実にアルフロディの喜びが絶えることは無かった。
……というか、気付けば余計に褒めている。料理については相当気に入ったらしい。
「此れからも毎日、緋袮様の為に腕によりをかけて作らせていただきますね!」
満面の笑みの彼に、若干後悔する緋袮だが……それでも、彼のご飯は食べ続けていた。
「それじゃあ、お疲れさまとメリー★クリスマス♪」
「お疲れ様。とめりー、くりすます?」
準備が整ったテーブルで、ステラが宣言すると、ミトラがぎこちなく復唱する。
「このお肉美味しいですよ! ステラ先輩どうぞ!」
その周りを一夏が嬉しそうに駆け回る。
「クリスマスはあっちのお祭りで、サンタさんがプレゼントくれるんだ。あとは贈りあったり?」
慣れない二人にステラが説明すると、ミトラは覚えておこうと熱心にメモを取っていた。
「んー、ミトラ君は熱心だねえ。それじゃあご褒美。はいアーン」
「あ、アーン」
フォークにケーキを刺して差し出すステラ。ミトラは今日はそれに、素直に甘える。
……と。
「私の方がステラ先輩の後輩歴も憧れ歴も長いですし! 圧倒的後輩力ですし!」
さっきまで同じように一夏もミトラを甘やかしていたのも忘れたように、一夏がちょっと拗ねた態度を見せる。そんな一夏の頬を、ほら、クリームついてるよとミトラが拭う。
そんな風に、三人、楽しく過ごして。
「それじゃ……先輩から二人にプレゼント」
そういってステラは、一夏にはドレス「風壁の衣」。ミトラにはケープ「白龍の祝福」をそれぞれ渡す。
「似合うかなって選んでみたけど……どうかな?」
感激しつつ受け取る一夏が続けて取り出したのはお揃いの髪飾り。ステラとミトラに贈るという事で、男女どちらでもつけられるシンプルでお洒落なものだ。
「プレゼントを贈り合う。事前に聞いてれば用意出来たのにな……」
用意の無かったミトラは少し消沈した様子。だが、二人ともそんなことを気にする様子はちっともなくて。
「誘ってくれてありがとうな。とっても楽しかった」
……ミトラの、最後の言葉は。三人共通の気持ちであろうことは、間違いなかった。
宴もたけなわ。射光のテーブル。
パルム抜きを制したのはラスティ。この展開を予測して、暗記、幸運、遊戯といった使えそうな一般スキルを積んできたのが勝因か。
要求した願いは──「1人ずつ恥ずかしい話でもしてもらおうかな」。
笑い合いながら、皆が恥ずかしい話を打ち明け合って……。
「え? ええと……そうだなあ。私は、勝ったらお願いしようとしていたことが、落ち着いて考えたら恥ずかしいかも……」
真の言葉に、皆が視線で続きを求める。
「……頭を撫でて欲しいかなって。……好きなんだよ。安心するから」
ぼそりと真が言うと、「なんだ、そんなことなら」と誠一が満面の笑みで真の頭をわしゃわしゃと撫でた。そのまま一行に取り囲まれて順に撫でまわされると、真は嬉しそうな悲鳴を上げる。
「あはは。真さん良いですね。俺は『皆揃っておでかけがしたい』だったんですが」
アリオーシュがついでに言うと、それもいいじゃん、予定が合ったら行こう! と皆声を上げて。
「私は『皆でお土産に骨細工作りましょ!』でしたね! ……そう言えば試作品がそろそろいい感じです!」
これは、綺麗に洗われた骨を並べながらクレール。会場内で出た鶏ガラや骨を集めている、とは思っていたが……。
「来れなかった皆さんにお土産です! 皆さんご賞味あれ!!」
ここに居ない仲間のために自作の寸胴でガラスープ振る舞う目的だったらしい。
「なかなか良いダシが出ていますね。無駄のない食材活用、流石です!」
一口飲んだアリオーシュが賛辞の声を上げる。
その余剰として出た骨を並べてクレールが動物や壁飾りを象り始めると、皆興味深そうに手を伸ばした。
……結果的に、皆の願いが叶えられつつある。クィーロのも。そう。彼が望むのは『みんなの笑顔』。その想いを確認し、誠一を見て……。
「皆……それじゃ、大掃除も手伝ってくれるよな……?」
誠一のその言葉に。一同正に揃って、『にっこり』笑みを浮かべたのだった。
そんな射光のテーブルに、近づく小さな影が一つ。
葉月である。彼女はクレールが並べた骨細工の一つをじぃ、と見つめていた。
聞けば今日これなかった友人に土産を探していたのだ、という。既に、持ち帰れそうな料理は幾つか折詰にしてもらってもいるようだが……。
「来れなかった仲間の為、とあらば見過ごすわけには行きませんね!」
クレールがそう言うと皆頷いて、壁飾りの一つを葉月に渡す。
「きっと よろこぶ」
満足げに頷いて葉月がこくんと頭を下げると、射光の皆に見送られながら彼女は戻っていく。
入れ替わりに、そろそろ、とミアが三人から離れていくところだった。
独りになってミアは、いつの間にかすっかり暗くなった星空を見上げる。
「戦勝会、ニャスかぁ……」
呟いた、その言葉の響き。
(……戦った先には、ニャにがあるのかな)
傷ついて
苦しんで
それを重ねた戦いの先に、
(ミアの大切なもの……あるのかニャ……ミアが大切に想う人達の幸せが、あればいいな──)
同じころ。エラは、喫煙スペースで一服しながら奇しくも彼女も空を見上げていた。
「雪でも降ったりしないんかな……なんて」
呟くが、幸か不幸か、眼前に広がるのは満天の星空で──
なのに。
「ん!? 雪!? なのじゃ!?」
ちらちらと舞い降りる白い結晶に、泉が驚きの声を上げる。
イルムも驚いて手を翳して……降り積もる白は、その掌を擦り抜けていく。
「成程。どうやら粋なサンタさんがこの会場にいるようだね」
察して、笑顔を浮かべて。
「おっと。忘れるところだった」
そうして思い出して、イルムは泉と葉月、二人に近づいていく。
「ふふっ♪ 二人にだけの特別だよ!」
葉月には兎を、泉には白虎を模した小さなカップケーキをプレゼントに差し出す。
「おいしーいっぱい! しあわせじゃもんんん♪」
美味しい楽しい幸せの三拍子。
メロメロの気分を撒き散らしながら泉が言って、葉月と最後までくるくる回り続けていた。
「こういう時こそ輝紅士の出番ですし……」
粋なサンタさん、こと、スノーホワイトを行使したサクラは、あちこちで上がる感嘆の声に満足げに呟いていた。盛り上げに大いに貢献した彼女は正にサンタクロースで……だけど、そんな彼女は、自分の格好に恥ずかしそうにもしていたが。
やがて徐々に散り始める会場で。
「……ありがとな」
写真に収めた皆の様子を確認しながら、相棒にだけ聞こえる声で、誠一がこっそりと言った。
一年を振り返るこの時節。クィーロに色々話したのも今年のことだ。
「こちらこそ」
小さく笑い、クィーロは答える。
和やかな時はこうして過ぎ去っていく。闘いの日々の中、彼らは少しでも安らぎを得られただろうか。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/05 10:50:05 |
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【射光】懇親会の相談場 神代 誠一(ka2086) 人間(リアルブルー)|32才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/12/05 01:13:52 |
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食欲そそる香りの交流会場 イルム=ローレ・エーレ(ka5113) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/12/04 22:16:30 |