ゲスト
(ka0000)
黄金の滝
マスター:サトー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/06 19:00
- 完成日
- 2015/01/10 12:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
嘘吐きは泥棒の始まり、と言うらしい。
それが本当なら、私の家族は皆、泥棒ということになる――。
●
「依頼を受けて下さり、ありがとうございます」
頭を下げたのは、二十代前半と見られる金髪の女性。
「私はカルパと言います。よろしくお願いします」
頭を下げた拍子にずれた眼鏡を直し、カルパはハンター達を見つめる。冬場だというのに身動きの取りやすい軽装は、急いで準備をしてきたのか生来の気質なのか、皺くちゃで身だしなみがちょっとだらしなく見える。
「依頼内容は既に伺っているかと思いますが、念のため確認しておきますね」
言って、カルパは手短に纏めた資料をハンター達に手渡す。
「まずは概要です」
資料にある簡素な地図を示し、カルパは説明を始めた。
向かう先は森の中。目的は黄金の滝の発見。そして、その辺りに生息している雑魔達の情報。
見るからにか弱そうなカルパの護衛。それが、今回ハンター達に求められていることだ。
黄金の滝とは、と問うハンターに、カルパは悲しそうな、寂しそうな、複雑な表情をした。
「これは、話すと長いのですが――」
カルパは、自身の平らな胸に手を当てて、長い長い物語を編み始めた。
●独白
「黄金の滝を見つけたんだ!」
父がそう語ったのは、今から十年ほど前のこと。
生物学者をしていた父が、寒い冬場の調査から帰って来たときの第一声がそれだった。カルパの髪のように綺麗なんだ、と興奮したように話す父の顔は、今でも鮮明に覚えている。
その森自体、多種多様な生物が生息しており、等しく通常よりもサイズが大きい。
色鮮やかなアゲハ蝶、毒々しい大蛇、銀色の鯉、真っ青なザリガニ、黒々とした鹿、雪よりも白いサギ、嘴の鋭いワシ、真っ赤な蛙などなど、魅力溢れる生物が沢山生息しているそうな。中でも、その滝の輝きは別格だった。
日も落ちかけ、調査を終了しさあ帰ろうかという頃合い、ふと遠く見上げた視線の先に、それが見えたという。西日が差す滝は黄金色にきらきらと輝き、何かに追い立てられるように飛び立った白鷺たちが滝の向こうへ消えていく。
身軽さを重視していたのと、単独での調査が仇となった。食料も残り少なく、日暮れも間近だったため、已む無くそのまま帰還した父は、すぐさま再度の大々的な調査を町の顔役に提案した。
調査隊が編成されたのは半年後のこと。みな、意気揚々と現地へ向かった。そして――、何も発見することなく帰って来た。
父は糾弾された。名をあげたいが為の虚偽報告を行った、と。
町中の人間は、父を「嘘吐き」呼ばわりした。目立ちたがりの卑怯者、と。
私たち一家は肩身の狭い思いをして暮らすことになった。
それでも、家族の誰も、父のことを疑ってはいなかった。父を庇う私たちも「嘘吐き」と呼ばれようとも。
半年後、父は家を出た。絶対に黄金の滝はあるのだと言って。
一ヶ月がたっても、父は帰らなかった。
更に半年後、十歳上の兄が家を出た。父さんの汚名をすすぐのだと言って。
二ヶ月がたっても、兄は帰らなかった。
一年後、母がこの世を去った。
積もり積もった心労が原因だった。
残された私と五歳上の兄は、二人で町を移り、細々と新たな生活を始めた。
それから六年、私が二十歳になったのを機に、兄は家を出て行った。皆の無念を晴らすのだと言って……。
一人になってから一年がたち、兄の便りを聞くことも無く、私はハンターらに依頼した。あの場所の調査を。
ハンターの調査では、最近になって多少雑魔が生息しているようだとのこと。
遺体らしきものは一切見つからなかった。
それが一月前のこと――。
●
「――経緯はそんなところです……」
カルパは曇った眼鏡を服で拭く。
「さて、現在確認されている雑魔は、白鷺、黄色の蝶、植物型の三種類。
全て元々生息していたものが、最近になって雑魔化したようです」
それぞれの特徴を記した報告書を、ハンター達は眺める。
「雑魔はいずれも、こちらから生息する領域に接近するまでは特に襲いかかってくることは無いそうですが、調査である以上、それなりに動き回らねばなりませんし、雑魔もじっとしているわけではないでしょうから」
遭遇すれば、当然戦闘は避けられないだろう。その為の護衛なのである。
「話が長くなりましたね」
カルパは、これから探索する森の方の空を眺めやる。
日が照っているお陰で、思ったほど寒くは無さそうだ。夜間も同様とは言えないかもしれないが。できれば後四日、晴れの日が続いてくれればありがたい。
「雪が降っていないのは幸いです。それでは、行きましょうか」
そう言って、カルパは森の中へ足を踏み入れた。
それが本当なら、私の家族は皆、泥棒ということになる――。
●
「依頼を受けて下さり、ありがとうございます」
頭を下げたのは、二十代前半と見られる金髪の女性。
「私はカルパと言います。よろしくお願いします」
頭を下げた拍子にずれた眼鏡を直し、カルパはハンター達を見つめる。冬場だというのに身動きの取りやすい軽装は、急いで準備をしてきたのか生来の気質なのか、皺くちゃで身だしなみがちょっとだらしなく見える。
「依頼内容は既に伺っているかと思いますが、念のため確認しておきますね」
言って、カルパは手短に纏めた資料をハンター達に手渡す。
「まずは概要です」
資料にある簡素な地図を示し、カルパは説明を始めた。
向かう先は森の中。目的は黄金の滝の発見。そして、その辺りに生息している雑魔達の情報。
見るからにか弱そうなカルパの護衛。それが、今回ハンター達に求められていることだ。
黄金の滝とは、と問うハンターに、カルパは悲しそうな、寂しそうな、複雑な表情をした。
「これは、話すと長いのですが――」
カルパは、自身の平らな胸に手を当てて、長い長い物語を編み始めた。
●独白
「黄金の滝を見つけたんだ!」
父がそう語ったのは、今から十年ほど前のこと。
生物学者をしていた父が、寒い冬場の調査から帰って来たときの第一声がそれだった。カルパの髪のように綺麗なんだ、と興奮したように話す父の顔は、今でも鮮明に覚えている。
その森自体、多種多様な生物が生息しており、等しく通常よりもサイズが大きい。
色鮮やかなアゲハ蝶、毒々しい大蛇、銀色の鯉、真っ青なザリガニ、黒々とした鹿、雪よりも白いサギ、嘴の鋭いワシ、真っ赤な蛙などなど、魅力溢れる生物が沢山生息しているそうな。中でも、その滝の輝きは別格だった。
日も落ちかけ、調査を終了しさあ帰ろうかという頃合い、ふと遠く見上げた視線の先に、それが見えたという。西日が差す滝は黄金色にきらきらと輝き、何かに追い立てられるように飛び立った白鷺たちが滝の向こうへ消えていく。
身軽さを重視していたのと、単独での調査が仇となった。食料も残り少なく、日暮れも間近だったため、已む無くそのまま帰還した父は、すぐさま再度の大々的な調査を町の顔役に提案した。
調査隊が編成されたのは半年後のこと。みな、意気揚々と現地へ向かった。そして――、何も発見することなく帰って来た。
父は糾弾された。名をあげたいが為の虚偽報告を行った、と。
町中の人間は、父を「嘘吐き」呼ばわりした。目立ちたがりの卑怯者、と。
私たち一家は肩身の狭い思いをして暮らすことになった。
それでも、家族の誰も、父のことを疑ってはいなかった。父を庇う私たちも「嘘吐き」と呼ばれようとも。
半年後、父は家を出た。絶対に黄金の滝はあるのだと言って。
一ヶ月がたっても、父は帰らなかった。
更に半年後、十歳上の兄が家を出た。父さんの汚名をすすぐのだと言って。
二ヶ月がたっても、兄は帰らなかった。
一年後、母がこの世を去った。
積もり積もった心労が原因だった。
残された私と五歳上の兄は、二人で町を移り、細々と新たな生活を始めた。
それから六年、私が二十歳になったのを機に、兄は家を出て行った。皆の無念を晴らすのだと言って……。
一人になってから一年がたち、兄の便りを聞くことも無く、私はハンターらに依頼した。あの場所の調査を。
ハンターの調査では、最近になって多少雑魔が生息しているようだとのこと。
遺体らしきものは一切見つからなかった。
それが一月前のこと――。
●
「――経緯はそんなところです……」
カルパは曇った眼鏡を服で拭く。
「さて、現在確認されている雑魔は、白鷺、黄色の蝶、植物型の三種類。
全て元々生息していたものが、最近になって雑魔化したようです」
それぞれの特徴を記した報告書を、ハンター達は眺める。
「雑魔はいずれも、こちらから生息する領域に接近するまでは特に襲いかかってくることは無いそうですが、調査である以上、それなりに動き回らねばなりませんし、雑魔もじっとしているわけではないでしょうから」
遭遇すれば、当然戦闘は避けられないだろう。その為の護衛なのである。
「話が長くなりましたね」
カルパは、これから探索する森の方の空を眺めやる。
日が照っているお陰で、思ったほど寒くは無さそうだ。夜間も同様とは言えないかもしれないが。できれば後四日、晴れの日が続いてくれればありがたい。
「雪が降っていないのは幸いです。それでは、行きましょうか」
そう言って、カルパは森の中へ足を踏み入れた。
リプレイ本文
黄金黄金、と口ずさみながらディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が、雑魔の注意を引く役目を請け負い胸を張って先頭を歩く。大王たるもの皆の道標と成らねばならないらしい。道に迷わぬ様、片手には地図が握りしめられている。
ジーク・ヴュラード(ka3589)らが周囲の警戒をする中、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は隣を歩く時音 ざくろ(ka1250)に話を向ける。
「どうなのでしょうね、ざくろさん?」
カルパの目的である黄金の滝の発見。以前調査隊が発見できなかったということは、何かしらの条件でもあるのだろうか。
「うーん」と考え込んだざくろは、カルパに黄金の滝について詳しく訊いてみる。
「そうですね」
と、答えようとしたカルパが躓き転びそうになったところを、ロジェ・オデュロー(ka3586)が紳士的に手を取った。兎のもこっとした掌に奇異な視線を向けつつ、カルパが礼を言って話を戻す。
父が昔語っていた内容を所々思い出しながら伝えるが、特に真新しい情報は無かった。何せ10年も前の事。もう記憶も曖昧になってきている。信じる気持ちに揺らぎは無くとも、疑惑の眼差しと重ねた日々が責めたてる。
「すみません」と謝るカルパの傍らで、ステラ・ブルマーレ(ka3014)は思索に耽る。同じ研究者として、カルパや彼女の父の気持ちは痛いほど理解できた。理解されない、ということがどれほど辛いのかも。
「同じ状況を辿れば必ず見つかるだろう」
ザザ(ka3765)の言葉に、久延毘 大二郎(ka1771)と迷わぬよう木々にマーキングをしていたリュカ(ka3828)も同意する。
「夕陽が滝を照らす事が第一条件であると思うが……」
「歳月の経過により、森の様相も変化しているかもしれない」
周囲への警戒を怠ることなく、一同は森を突き進みながら推論を交わす。
「何かしらの条件で光るようなモノがあるのかもしれませんね」とはジーク。
「季節による日射角度の違いも、影響しているのかもね」
大々的な調査が行われたのは夏のこと。誠堂 匠(ka2876)が推測を言うと、ざくろも首を縦に振り、氷でも流れて来るのかもと付け加えた。
「……ですが、調査隊はそれだけで発見できなかったのでしょうか?」
カルパは無念そうな父の顔を思い出す。何も見つけることのできなかった調査隊からの視線と共に。
「情報が限定されている現状では何とも、な」
「カルパさんのお父さんは、嘘は言ってないと思う」
大二郎の言葉に被せるように声を上げたのはステラ。今まで発見できなかったのは、きっと条件が揃わなかったからなのでは、とステラは既に上げられた条件に加え、生態系の問題を挙げる。
「銀色の鯉が生息してるんだよね? リアルブルーに伝わる諺の『鯉の滝登り』が起こるんじゃないかな?」
なるほどと感心する一同に、カルパは首を傾げる。
「鯉の滝登り?」
龍門の滝と呼ばれる急流を登りきった鯉は龍へと転ずるという故事。ステラの説明に、カルパは目を見開いて固まる。どうやら失念していたようだ。もしそれが起こるなら、銀色の鱗が夕陽に反射して黄金に、というのはありそうな話だと、カルパは雷に打たれたような心持ちだった。
「これ、ざくろのご先祖様の冒険家が残したって言われてる物で」
ざくろは懐から取り出した古びた手記を見せる。彼もまた、珍奇なものを見た時最初は信じて貰えなかったと。
「だから、カルパのお父さんが見たっていう黄金の滝も絶対あると思うんだ」
「うむ、トレジャーハンター見習いの僕がついてるんだから見つかるとも」
自身も父に連れられ色んな場所を旅したロジェは髭を摘まむ。
「大王たるボクがその秘密を明かしてやろうではないか!」と威勢の良いディアドラ。
カルパ一家の名誉の為にも、それは皆の共通の想いだった。
カルパは微笑んで、「はい、きっと」と意気込みを新たにした。
●二日目
「この辺り、ですね」
カルパが地図と見比べつつ確認する。
「さぁ、早速調べに――」と張り切るざくろを、アデリシアが引き止める。
「まずは」と、ベースキャンプの設営に取りかかる一同。ざくろは苦笑いして、それに倣った。
6人用の大型テントを用意してきたディアドラ。カルパを含めた女性5人がそこに、残りの男たちは2人用のテントにバラける。
「雨が降ると厄介だ」との曇天を見上げた大二郎の言葉に、拠点は川から離れた所に作ることにした。
設営と周囲の索敵が済むと、予め決めていた班分けに従って行動を開始する。
出払った野営地では、ディアドラが薪拾いに、ステラは夕食用の釣りに励む。皆が安心して探索に精を出せるように、拠点の防衛と炊事等の準備は大切なことだ。
薪を拾い集めたディアドラは、次に滝を見るのに障害となりそうな枝葉の伐採に取りかかる。
「これも刈り取らねば!」とレイピアを振るう一方で、ステラは釣りをしながらも、滝の観察に気を配る。何か変化が起こり次第トランシーバーで連絡を。好奇心旺盛な性格が、未知の不思議に胸わくだ。
「人助けと研究、両立できるならやるべきだよね♪」
「お怪我はありませんか?」
「はい、ありがとうございます」
カルパはアデリシアに支えられ、体勢を立て直す。
木々の密集している場所を迂回し、獣の死骸の有無などを見極め極力雑魔との遭遇を避けてきたが、完全にとはいかない。先行していた匠が植物型雑魔を発見。ロジェのファイアアローで怯んだところを、ジークがラストホープで両断する。初めて間近で見る戦闘というものに驚いたカルパを、アデリシアとざくろが優しく抱きとめた。
まずは滝を見たいというカルパの希望で、一行は慎重に滝に向かう。匠はこまめに地図に雑魔の少ないルートを書き込む。帰還時や調査が明日も続行となれば利用するためだ。
到着した一行は、早速調査を開始する。
3段の緩やかな階段状の滝を複雑な顔で見上げるカルパの隣に護衛として立つアデリシア。周囲に雑魔の姿が無いのを確認し、残照の反射が鍵であるなら日の陰るような障害物は取り除いておこうと、西側の木々の枝を白雪丸でさくさくと手際よく斬りおとす。
何か光りうるモノを探すジークと苔を怪しむロジェが滝の裏側を調べる一方、匠は逆に光を反射する物はないかと滝壺の様子を観察する。
一通り調べてみたが、特にこれといって関係のありそうなものは見当たらない。残りは――、と一行は揃って上を見上げる。高さ10mほどの崖は凹凸もあり、登ることは難しくはなさそうだ。鯉の滝登りが起こるなら、上流にその原因があるのかもしれない。
アデリシアとカルパを置いて、4人は崖を登り始める。
「足を滑らせて滝壺に落ちないよう注意しましょう」
「それは、御免こうむるね」
全身鎧を纏ったジークは自身に言い聞かせるように言う。兎の着ぐるみを着たオジェも他人事では無いかもしれない。
ざくろは氷でも流れてきやしないかと考えていたが、それは無いらしい。日の位置も曇天では確認しようもない。匠も同様に光を反射する物を見つけることはできず、光る苔のようなモノ・滝登りに必要なもの――例えば鯉の餌となりそうな魚を探すジークと人や動物の痕跡や植物、魚を睨むロジェであったが、痕跡も光る苔も無く、川には小魚程度しか見当たらなかった。
捜索範囲を広げようともう少し上流の方へ足を向けてみると、川のすぐ両脇のそこかしこに池のようなものが見えてきた。白い蒸気のようなものを放出するそれを見て、
「……温泉?」
首を傾げたざくろは、その池に手を伸ばす。と――
「っつ!」
慌てて手を引っ込めたざくろの隣で、同じく匠も膝を曲げて手を振っている。
「これは、熱すぎるね」
この熱さでは、生物が生息しているはずもなし。湯気が光の反射に影響しているかもとも考えたが、滝からは少し距離があるため、それも無さそうだった。特筆すべき収穫は無いまま、4人は滝の下へ戻っていった。
その頃、川の調査に赴いていた三人は、川べりで二匹の白鷺雑魔と対峙していた。
大二郎の研ぎ澄まされたファイアアローが一匹を消し飛ばした内に、駆け出したザザがもう一匹に祖霊の力を込めた一撃を見舞う。深手を負った白鷺が飛び立とうとしたところを牽制に、リュカが矢を放つ。飛び立ち損ねた白鷺を、返す刀でザザが討ち取った。
「これで鯉の遡上を妨げる障害が一つ減ったな」
「そうだな、だがまだまだ調べることは山ほどあるぞ、ザザ氏」
「その通りだ。気を抜かずにいこう」
ザザと大二郎とリュカは再度調査に戻る。
トランシーバーで伝え聞いた滝の形状からも、鯉の滝登り説は不可能では無いように思われた。故に、その障害となりうる白鷺は排除された。鯉にとって鷺は天敵のような存在だと、カルパからも聞かされている。
他にも、阻害因子となりそうな、川に落ちた枝葉の除去や眺望を遮る枝葉をリュカは切って回る。
「すまない。だが、これで下の草木にも光が入り、お前も残った幹や枝葉をより伸ばすだろう」
大きくおなりと呟く様は、森とともに生きてきたエルフであるが為に、思うところがあるのだろう。歪虚に森を奪われた自身の境遇に似た、カルパへの想いとともに。
それと並行して、大二郎は人が残した痕跡も探っていた。行方不明となったカルパ父兄の痕跡を。
大二郎は憤りを禁じ得なかった。『万物に存在する可能性はゼロを下回らない』という自身の信念に反する決断を下したカルパの町の人間に。それによって、不幸になった人間がいることに。
「……黄金の滝の実在を証明してみせようじゃないか」
彼女達の為にも、自身の信念の為にも。
日暮れ近くまで続いた調査で、粗方の阻害因子は排除することができた。人の痕跡もあるにはあったが、それは以前調査に来たハンターのものと思われるものだけだった。
「彼女がこの先も歩んでいけるために、何か残っていれば良かったのだが」というリュカの呟きに、大二郎とザザは黙然として立ち尽くしていた。
安全なルートを通って一足先に野営地に戻って来たアデリシアとカルパは、ディアドラとステラと共に炊事の準備をする。日暮れ前に皆が戻って来た頃には、食事の用意も無事に済ませることができた。
「どちらかというと、お菓子作りの方が得意なのですが」とアデリシアは謙遜していたが、新鮮な魚と野菜のスープはとりわけ好評だった。
火を囲み食事がてらに、詳細な報告会を行う。
滝側に光に関係するものは見られなかったこと。白鷺退治に邪魔な枝葉の伐採による視界の確保。川の鯉はどれも格別に大きく、泳ぐ力も高いことが確認できた。これならば、傾斜の緩い滝登りも可能なのではないかと思われた。が、問題が一つ――。
「この時季は深場に集まって、あまり動かないみたいなのですが」
カルパの言葉に皆口を噤む。そも何故滝登りが起こるのか。
「鯉が上流に上るのは、春になって温かくなってからのようで」
それに反応したのは、滝班の者達。彼らは、先ほど見た無数の熱泉について改めて語る。あれを利用できれば、水温に変化を与えられるのでは、と。しかし、ではどうやって、となると話は詰まってしまう。
と、ぽつりぽつりと雨が降り出す。報告会は中座し、昨晩同様順番こで見張りに立つ二人を除き、各自はテントに避難する。
さりげなく女性用テントに入り込もうとするオジェ。
「お父上の話をもっと詳しく――」
あえなく摘み出された。
幾刻かが過ぎ、テントから出てきたカルパは雨の降り続く空を眺める。テントは川から離れた場所にあるため水没の心配はないが、心配事は別にある。
黄金の滝を見るのに夕陽が必要というのは、ほぼ確定的だ。調査の猶予は、最大でも明日一杯。もし明日晴れなければ――。
不意に肩を叩かれ、見やればそこにはザザの姿が。
「そう気負うな。後でしんどくなるぞ」
見張りの交代に出てきたザザに次いで、ふぁさりと毛布がかけられる。匠だ。
「体調を崩しては元も子もありませんよ。きっと晴れる筈です」
一日目の道中、警戒を厳にし可能な限り戦闘を避けてきたお陰もあって、カルパの体力は大分余裕がある。けれども、二人の気遣いは素直に嬉しかった。
カルパは毛布を前で合わせ、小さく、はいと零してテントに戻った。
●三日目
「止みませんね……」
「そうだね……」
アデリシアとざくろは、ちらりとカルパの方を心配そうに見る。カルパは先ほどからずっと雨の降りしきる鉛色の空を見つめている。握りしめられた拳に込められた想いは、いかばかりか。励まそうと声をかけても、空返事ばかり。
「なぜ晴れぬのだ! 大王たるボクがここにいるのだぞ!」
太陽のような白光を纏ったディアドラが、天に向かって吠えたてる。
もうお昼だというのに、雨が止む気配は見られない。拠点からははっきりと滝の姿が見えるものの、この天気では輝きなどあろうはずもない。
「大分増水しているな」
川の様子を見に行っていた大二郎とザザ、リュカが戻って来た。
「雨で増水した折に、川魚が緩い滝を越える事もあると聞く。カルパはどう思う?」
ザザの問いに、カルパはしばし考えてから首肯した。
「確かに私も聞いたことがあります。それに増水すれば、熱泉が川に混じって水温が上がるかもしれません。けれど、そのためには雨が止み、もう少し流れが落ち着いてからでないと」
「いずれにせよ、雨が止む必要があるということか」
リュカは苦々しげに言うと、「んー、晴れないことには、ね……」とステラが応じる。
滝の様子を見てきた面々も、等しく顔を濁らせていた。とても鯉が登れるような状況では無いという。
道中遭遇した蝶の雑魔も、ジークとロジェ、匠の3人で難なく処理できた。雨中ということもあって、鱗粉による被害が無かったのも大きかった。
「どうしたものでしょうかね」
ジークの呟きは雨に呑まれ、ロジェは無言でカルパを見つめる。
「諦めずに待ちましょう」
匠の声は、鈍色の塊に押し潰されそうな空気の中、しんみりと一同に染み渡った。
午後3時を回ろうかという頃、弱まり始めていた雨が上がるのを皮切りに、漸くお日様が顔を覗かせるまでに回復した。
「ようやくなのだ!」
ディアドラの叫びは、皆の心の声でもあった。俄かに活気づいた一行は、雨により何か新たな障害が発生していないか、川と滝へそれぞれ確認に走る。川面に落ちた葉を掬い、滝の流れを見守る。日が傾いていくにつれ、徐々に水の流れも治まりゆく。やるべきことは全てやった。後は座して待つのみ。
日が沈む。滝は鮮やかな橙色の光に炙られ、きらきらと光彩を放ち始める。
これが黄金の滝、なのだろうか。確かにそう見えなくもない。けれど、黄金というには余りに稚拙な輝き――。
と、そこへトランシーバーから大二郎とリュカの声が届く。鯉の群れが動き始めた、と。
カルパは固唾を呑んで滝を見つめる。そして――、黄金の滝が現れた。
20,30,50,100と鯉の群れが滝へ殺到する。流れに逆らい、巨体をくねらせ、我先にと上流を目指す。鯉と鯉とがぶつかり合い、せめぎ合い、弾きだされたように宙を舞い、一跳ねする度に銀色の鱗が夕陽を照り返す。雫と鱗が互いに光を求めあい乱反射を繰り返す。それは遠目には、正しく煌めく黄金のように見えた。
「綺麗だ……」
「これが黄金の滝……」
「見事じゃ!」
呟いたのは匠とステラとディアドラ。アデリシアもざくろもジークも、皆喝采を挙げて黄金の滝を、そしてカルパを見守る。カルパは胸の前で両手を握りしめ、瞬き一つせずその光景を見つめていた。頬を、黄金の光が一筋伝い落ちた。
湖から拠点へ戻るザザとロジェ。黄金の滝の報に、満足気なザザ。ロジェは帰り道、ふと滝を振り返る。
「これは、一曲弾きたくなるね」
光り輝く滝は、見事なまでの光輝と賑わいを見せていた。
「スッキリできた?」
夕食を突きながら、ざくろはカルパに微笑む。
「良かったですね。カルパさん」
匠は笑顔で、ステラも安堵しているようだった。
「はい、皆さん。ありがとうございます」
カルパは頭を下げる。
「フフフ……大王にとっては訳ないのだ!」とカラカラと笑うディアドラ。少しは溜飲が下がったのか、大二郎も不敵な笑みを浮かべている。
それは皆にも言えることだった。昼までの鬱屈とした空気は、もうどこにもない。アデリシアもジークも、リュカもオジェも、優しさの籠った瞳には、カルパへの愛情が感じられる。
「でも、そのせいで明日は強行軍になりそうです。すみません」
食糧は4日分しか持ってきてはいない。明日は早朝からのせっかちな移動となるだろう。
「俺たちはハンターだ。ヤワな身体の作りはしていない。それに、体力勝負なら任せろ」
ザザが笑みを深めると、釣られてカルパも笑顔になった。
翌朝、空が白んできた刻限には一行の準備は済んでいた。
カルパは滝を振り返る。雲の出ている空に陽射しは無い。だが、心の中に刻み込まれた昨日の輝きが色褪せることはない。
父はやはり嘘吐きでは無かった。兄も母も私も……。
地に還った彼らに目礼し、カルパは荷物を背負い直す。
前を向いた先にいたのは、こちらに手を伸ばすロジェ。
「さあ、一緒に帰ろう。家に着くまでが冒険、ってね」
カルパの胸に、もう憂いは無かった。
ジーク・ヴュラード(ka3589)らが周囲の警戒をする中、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は隣を歩く時音 ざくろ(ka1250)に話を向ける。
「どうなのでしょうね、ざくろさん?」
カルパの目的である黄金の滝の発見。以前調査隊が発見できなかったということは、何かしらの条件でもあるのだろうか。
「うーん」と考え込んだざくろは、カルパに黄金の滝について詳しく訊いてみる。
「そうですね」
と、答えようとしたカルパが躓き転びそうになったところを、ロジェ・オデュロー(ka3586)が紳士的に手を取った。兎のもこっとした掌に奇異な視線を向けつつ、カルパが礼を言って話を戻す。
父が昔語っていた内容を所々思い出しながら伝えるが、特に真新しい情報は無かった。何せ10年も前の事。もう記憶も曖昧になってきている。信じる気持ちに揺らぎは無くとも、疑惑の眼差しと重ねた日々が責めたてる。
「すみません」と謝るカルパの傍らで、ステラ・ブルマーレ(ka3014)は思索に耽る。同じ研究者として、カルパや彼女の父の気持ちは痛いほど理解できた。理解されない、ということがどれほど辛いのかも。
「同じ状況を辿れば必ず見つかるだろう」
ザザ(ka3765)の言葉に、久延毘 大二郎(ka1771)と迷わぬよう木々にマーキングをしていたリュカ(ka3828)も同意する。
「夕陽が滝を照らす事が第一条件であると思うが……」
「歳月の経過により、森の様相も変化しているかもしれない」
周囲への警戒を怠ることなく、一同は森を突き進みながら推論を交わす。
「何かしらの条件で光るようなモノがあるのかもしれませんね」とはジーク。
「季節による日射角度の違いも、影響しているのかもね」
大々的な調査が行われたのは夏のこと。誠堂 匠(ka2876)が推測を言うと、ざくろも首を縦に振り、氷でも流れて来るのかもと付け加えた。
「……ですが、調査隊はそれだけで発見できなかったのでしょうか?」
カルパは無念そうな父の顔を思い出す。何も見つけることのできなかった調査隊からの視線と共に。
「情報が限定されている現状では何とも、な」
「カルパさんのお父さんは、嘘は言ってないと思う」
大二郎の言葉に被せるように声を上げたのはステラ。今まで発見できなかったのは、きっと条件が揃わなかったからなのでは、とステラは既に上げられた条件に加え、生態系の問題を挙げる。
「銀色の鯉が生息してるんだよね? リアルブルーに伝わる諺の『鯉の滝登り』が起こるんじゃないかな?」
なるほどと感心する一同に、カルパは首を傾げる。
「鯉の滝登り?」
龍門の滝と呼ばれる急流を登りきった鯉は龍へと転ずるという故事。ステラの説明に、カルパは目を見開いて固まる。どうやら失念していたようだ。もしそれが起こるなら、銀色の鱗が夕陽に反射して黄金に、というのはありそうな話だと、カルパは雷に打たれたような心持ちだった。
「これ、ざくろのご先祖様の冒険家が残したって言われてる物で」
ざくろは懐から取り出した古びた手記を見せる。彼もまた、珍奇なものを見た時最初は信じて貰えなかったと。
「だから、カルパのお父さんが見たっていう黄金の滝も絶対あると思うんだ」
「うむ、トレジャーハンター見習いの僕がついてるんだから見つかるとも」
自身も父に連れられ色んな場所を旅したロジェは髭を摘まむ。
「大王たるボクがその秘密を明かしてやろうではないか!」と威勢の良いディアドラ。
カルパ一家の名誉の為にも、それは皆の共通の想いだった。
カルパは微笑んで、「はい、きっと」と意気込みを新たにした。
●二日目
「この辺り、ですね」
カルパが地図と見比べつつ確認する。
「さぁ、早速調べに――」と張り切るざくろを、アデリシアが引き止める。
「まずは」と、ベースキャンプの設営に取りかかる一同。ざくろは苦笑いして、それに倣った。
6人用の大型テントを用意してきたディアドラ。カルパを含めた女性5人がそこに、残りの男たちは2人用のテントにバラける。
「雨が降ると厄介だ」との曇天を見上げた大二郎の言葉に、拠点は川から離れた所に作ることにした。
設営と周囲の索敵が済むと、予め決めていた班分けに従って行動を開始する。
出払った野営地では、ディアドラが薪拾いに、ステラは夕食用の釣りに励む。皆が安心して探索に精を出せるように、拠点の防衛と炊事等の準備は大切なことだ。
薪を拾い集めたディアドラは、次に滝を見るのに障害となりそうな枝葉の伐採に取りかかる。
「これも刈り取らねば!」とレイピアを振るう一方で、ステラは釣りをしながらも、滝の観察に気を配る。何か変化が起こり次第トランシーバーで連絡を。好奇心旺盛な性格が、未知の不思議に胸わくだ。
「人助けと研究、両立できるならやるべきだよね♪」
「お怪我はありませんか?」
「はい、ありがとうございます」
カルパはアデリシアに支えられ、体勢を立て直す。
木々の密集している場所を迂回し、獣の死骸の有無などを見極め極力雑魔との遭遇を避けてきたが、完全にとはいかない。先行していた匠が植物型雑魔を発見。ロジェのファイアアローで怯んだところを、ジークがラストホープで両断する。初めて間近で見る戦闘というものに驚いたカルパを、アデリシアとざくろが優しく抱きとめた。
まずは滝を見たいというカルパの希望で、一行は慎重に滝に向かう。匠はこまめに地図に雑魔の少ないルートを書き込む。帰還時や調査が明日も続行となれば利用するためだ。
到着した一行は、早速調査を開始する。
3段の緩やかな階段状の滝を複雑な顔で見上げるカルパの隣に護衛として立つアデリシア。周囲に雑魔の姿が無いのを確認し、残照の反射が鍵であるなら日の陰るような障害物は取り除いておこうと、西側の木々の枝を白雪丸でさくさくと手際よく斬りおとす。
何か光りうるモノを探すジークと苔を怪しむロジェが滝の裏側を調べる一方、匠は逆に光を反射する物はないかと滝壺の様子を観察する。
一通り調べてみたが、特にこれといって関係のありそうなものは見当たらない。残りは――、と一行は揃って上を見上げる。高さ10mほどの崖は凹凸もあり、登ることは難しくはなさそうだ。鯉の滝登りが起こるなら、上流にその原因があるのかもしれない。
アデリシアとカルパを置いて、4人は崖を登り始める。
「足を滑らせて滝壺に落ちないよう注意しましょう」
「それは、御免こうむるね」
全身鎧を纏ったジークは自身に言い聞かせるように言う。兎の着ぐるみを着たオジェも他人事では無いかもしれない。
ざくろは氷でも流れてきやしないかと考えていたが、それは無いらしい。日の位置も曇天では確認しようもない。匠も同様に光を反射する物を見つけることはできず、光る苔のようなモノ・滝登りに必要なもの――例えば鯉の餌となりそうな魚を探すジークと人や動物の痕跡や植物、魚を睨むロジェであったが、痕跡も光る苔も無く、川には小魚程度しか見当たらなかった。
捜索範囲を広げようともう少し上流の方へ足を向けてみると、川のすぐ両脇のそこかしこに池のようなものが見えてきた。白い蒸気のようなものを放出するそれを見て、
「……温泉?」
首を傾げたざくろは、その池に手を伸ばす。と――
「っつ!」
慌てて手を引っ込めたざくろの隣で、同じく匠も膝を曲げて手を振っている。
「これは、熱すぎるね」
この熱さでは、生物が生息しているはずもなし。湯気が光の反射に影響しているかもとも考えたが、滝からは少し距離があるため、それも無さそうだった。特筆すべき収穫は無いまま、4人は滝の下へ戻っていった。
その頃、川の調査に赴いていた三人は、川べりで二匹の白鷺雑魔と対峙していた。
大二郎の研ぎ澄まされたファイアアローが一匹を消し飛ばした内に、駆け出したザザがもう一匹に祖霊の力を込めた一撃を見舞う。深手を負った白鷺が飛び立とうとしたところを牽制に、リュカが矢を放つ。飛び立ち損ねた白鷺を、返す刀でザザが討ち取った。
「これで鯉の遡上を妨げる障害が一つ減ったな」
「そうだな、だがまだまだ調べることは山ほどあるぞ、ザザ氏」
「その通りだ。気を抜かずにいこう」
ザザと大二郎とリュカは再度調査に戻る。
トランシーバーで伝え聞いた滝の形状からも、鯉の滝登り説は不可能では無いように思われた。故に、その障害となりうる白鷺は排除された。鯉にとって鷺は天敵のような存在だと、カルパからも聞かされている。
他にも、阻害因子となりそうな、川に落ちた枝葉の除去や眺望を遮る枝葉をリュカは切って回る。
「すまない。だが、これで下の草木にも光が入り、お前も残った幹や枝葉をより伸ばすだろう」
大きくおなりと呟く様は、森とともに生きてきたエルフであるが為に、思うところがあるのだろう。歪虚に森を奪われた自身の境遇に似た、カルパへの想いとともに。
それと並行して、大二郎は人が残した痕跡も探っていた。行方不明となったカルパ父兄の痕跡を。
大二郎は憤りを禁じ得なかった。『万物に存在する可能性はゼロを下回らない』という自身の信念に反する決断を下したカルパの町の人間に。それによって、不幸になった人間がいることに。
「……黄金の滝の実在を証明してみせようじゃないか」
彼女達の為にも、自身の信念の為にも。
日暮れ近くまで続いた調査で、粗方の阻害因子は排除することができた。人の痕跡もあるにはあったが、それは以前調査に来たハンターのものと思われるものだけだった。
「彼女がこの先も歩んでいけるために、何か残っていれば良かったのだが」というリュカの呟きに、大二郎とザザは黙然として立ち尽くしていた。
安全なルートを通って一足先に野営地に戻って来たアデリシアとカルパは、ディアドラとステラと共に炊事の準備をする。日暮れ前に皆が戻って来た頃には、食事の用意も無事に済ませることができた。
「どちらかというと、お菓子作りの方が得意なのですが」とアデリシアは謙遜していたが、新鮮な魚と野菜のスープはとりわけ好評だった。
火を囲み食事がてらに、詳細な報告会を行う。
滝側に光に関係するものは見られなかったこと。白鷺退治に邪魔な枝葉の伐採による視界の確保。川の鯉はどれも格別に大きく、泳ぐ力も高いことが確認できた。これならば、傾斜の緩い滝登りも可能なのではないかと思われた。が、問題が一つ――。
「この時季は深場に集まって、あまり動かないみたいなのですが」
カルパの言葉に皆口を噤む。そも何故滝登りが起こるのか。
「鯉が上流に上るのは、春になって温かくなってからのようで」
それに反応したのは、滝班の者達。彼らは、先ほど見た無数の熱泉について改めて語る。あれを利用できれば、水温に変化を与えられるのでは、と。しかし、ではどうやって、となると話は詰まってしまう。
と、ぽつりぽつりと雨が降り出す。報告会は中座し、昨晩同様順番こで見張りに立つ二人を除き、各自はテントに避難する。
さりげなく女性用テントに入り込もうとするオジェ。
「お父上の話をもっと詳しく――」
あえなく摘み出された。
幾刻かが過ぎ、テントから出てきたカルパは雨の降り続く空を眺める。テントは川から離れた場所にあるため水没の心配はないが、心配事は別にある。
黄金の滝を見るのに夕陽が必要というのは、ほぼ確定的だ。調査の猶予は、最大でも明日一杯。もし明日晴れなければ――。
不意に肩を叩かれ、見やればそこにはザザの姿が。
「そう気負うな。後でしんどくなるぞ」
見張りの交代に出てきたザザに次いで、ふぁさりと毛布がかけられる。匠だ。
「体調を崩しては元も子もありませんよ。きっと晴れる筈です」
一日目の道中、警戒を厳にし可能な限り戦闘を避けてきたお陰もあって、カルパの体力は大分余裕がある。けれども、二人の気遣いは素直に嬉しかった。
カルパは毛布を前で合わせ、小さく、はいと零してテントに戻った。
●三日目
「止みませんね……」
「そうだね……」
アデリシアとざくろは、ちらりとカルパの方を心配そうに見る。カルパは先ほどからずっと雨の降りしきる鉛色の空を見つめている。握りしめられた拳に込められた想いは、いかばかりか。励まそうと声をかけても、空返事ばかり。
「なぜ晴れぬのだ! 大王たるボクがここにいるのだぞ!」
太陽のような白光を纏ったディアドラが、天に向かって吠えたてる。
もうお昼だというのに、雨が止む気配は見られない。拠点からははっきりと滝の姿が見えるものの、この天気では輝きなどあろうはずもない。
「大分増水しているな」
川の様子を見に行っていた大二郎とザザ、リュカが戻って来た。
「雨で増水した折に、川魚が緩い滝を越える事もあると聞く。カルパはどう思う?」
ザザの問いに、カルパはしばし考えてから首肯した。
「確かに私も聞いたことがあります。それに増水すれば、熱泉が川に混じって水温が上がるかもしれません。けれど、そのためには雨が止み、もう少し流れが落ち着いてからでないと」
「いずれにせよ、雨が止む必要があるということか」
リュカは苦々しげに言うと、「んー、晴れないことには、ね……」とステラが応じる。
滝の様子を見てきた面々も、等しく顔を濁らせていた。とても鯉が登れるような状況では無いという。
道中遭遇した蝶の雑魔も、ジークとロジェ、匠の3人で難なく処理できた。雨中ということもあって、鱗粉による被害が無かったのも大きかった。
「どうしたものでしょうかね」
ジークの呟きは雨に呑まれ、ロジェは無言でカルパを見つめる。
「諦めずに待ちましょう」
匠の声は、鈍色の塊に押し潰されそうな空気の中、しんみりと一同に染み渡った。
午後3時を回ろうかという頃、弱まり始めていた雨が上がるのを皮切りに、漸くお日様が顔を覗かせるまでに回復した。
「ようやくなのだ!」
ディアドラの叫びは、皆の心の声でもあった。俄かに活気づいた一行は、雨により何か新たな障害が発生していないか、川と滝へそれぞれ確認に走る。川面に落ちた葉を掬い、滝の流れを見守る。日が傾いていくにつれ、徐々に水の流れも治まりゆく。やるべきことは全てやった。後は座して待つのみ。
日が沈む。滝は鮮やかな橙色の光に炙られ、きらきらと光彩を放ち始める。
これが黄金の滝、なのだろうか。確かにそう見えなくもない。けれど、黄金というには余りに稚拙な輝き――。
と、そこへトランシーバーから大二郎とリュカの声が届く。鯉の群れが動き始めた、と。
カルパは固唾を呑んで滝を見つめる。そして――、黄金の滝が現れた。
20,30,50,100と鯉の群れが滝へ殺到する。流れに逆らい、巨体をくねらせ、我先にと上流を目指す。鯉と鯉とがぶつかり合い、せめぎ合い、弾きだされたように宙を舞い、一跳ねする度に銀色の鱗が夕陽を照り返す。雫と鱗が互いに光を求めあい乱反射を繰り返す。それは遠目には、正しく煌めく黄金のように見えた。
「綺麗だ……」
「これが黄金の滝……」
「見事じゃ!」
呟いたのは匠とステラとディアドラ。アデリシアもざくろもジークも、皆喝采を挙げて黄金の滝を、そしてカルパを見守る。カルパは胸の前で両手を握りしめ、瞬き一つせずその光景を見つめていた。頬を、黄金の光が一筋伝い落ちた。
湖から拠点へ戻るザザとロジェ。黄金の滝の報に、満足気なザザ。ロジェは帰り道、ふと滝を振り返る。
「これは、一曲弾きたくなるね」
光り輝く滝は、見事なまでの光輝と賑わいを見せていた。
「スッキリできた?」
夕食を突きながら、ざくろはカルパに微笑む。
「良かったですね。カルパさん」
匠は笑顔で、ステラも安堵しているようだった。
「はい、皆さん。ありがとうございます」
カルパは頭を下げる。
「フフフ……大王にとっては訳ないのだ!」とカラカラと笑うディアドラ。少しは溜飲が下がったのか、大二郎も不敵な笑みを浮かべている。
それは皆にも言えることだった。昼までの鬱屈とした空気は、もうどこにもない。アデリシアもジークも、リュカもオジェも、優しさの籠った瞳には、カルパへの愛情が感じられる。
「でも、そのせいで明日は強行軍になりそうです。すみません」
食糧は4日分しか持ってきてはいない。明日は早朝からのせっかちな移動となるだろう。
「俺たちはハンターだ。ヤワな身体の作りはしていない。それに、体力勝負なら任せろ」
ザザが笑みを深めると、釣られてカルパも笑顔になった。
翌朝、空が白んできた刻限には一行の準備は済んでいた。
カルパは滝を振り返る。雲の出ている空に陽射しは無い。だが、心の中に刻み込まれた昨日の輝きが色褪せることはない。
父はやはり嘘吐きでは無かった。兄も母も私も……。
地に還った彼らに目礼し、カルパは荷物を背負い直す。
前を向いた先にいたのは、こちらに手を伸ばすロジェ。
「さあ、一緒に帰ろう。家に着くまでが冒険、ってね」
カルパの胸に、もう憂いは無かった。
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相談卓 久延毘 大二郎(ka1771) 人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/01/06 13:06:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/04 20:21:16 |