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【CF】はじめてのおつかいinリゼリオ

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~9人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/12/06 07:30
完成日
2018/12/23 21:38

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 今年も紅界に聖輝節がやってくる。
 ただ去年と大きく変わったことは、先の空蒼作戦により、蒼界の月と人々が大量に転移してきていることだった。
 聖輝節は蒼界で言うクリスマス。蒼界の人々にとっても大事な行事でありイベントだ。転移してきたばかりで右も左もわからぬまま、ケーキのひとつさえなく過す彼らを見るのは忍びない。
 そこで、ソサエティは『ケーキ屋さんバトルロイヤル』と銘打ち、ソサエティ関係者らが作るケーキを被災者へ無償で振る舞う企画を打ち出した。
 辺境部族会議も立ち上がり、このほどリゼリオにて『ウェルカムパーティ』が行われる運びと相成った。
 その心意気に感銘を受けた龍園勢もリゼリオでケーキ店を出店することとなり、紆余曲折の末なんとかカボチャとコケモモを使ったケーキを振る舞うという所までは決まった。出店する場所も確保した。


 だ が し か し。


「……あのさぁ」
 待ち合わせたリゼリオのオフィスで、香藤 玲(kz0220)は途方に暮れた。
 界冥作戦で龍騎士隊隊長であるシャンカラ(kz0226)と共闘した縁のある玲は、蒼界出身でクリスマスの知識がありリゼリオにも馴染みがあるということで、龍騎士達の材料仕入れの手伝いに呼ばれたのだが。
「玲くんお久しぶりです、お忙しい所すみません」
 そう言って駆け寄ってくるシャンカラは、作戦の時同様にがっつり鎧姿にがっつり大剣佩いている。
「おう、悪ィな! 早速店までの案内頼むわ」
 年長龍騎士・ダルマ(kz0251)も同じくガチ装備で、何やらでっかい白布袋をパンパンにして背負っているし、
「わぁ~初めての西方ですー♪ こぉーんなに人がいるなんてー! すごーい!」
 眼鏡っ娘龍騎士・リブも当然のように武装姿で、きょろきょろそわそわうきうきわくわく。
 思わず額を押さえる玲。
「えーっと、今日はケーキの材料仕入れに行くんだよね? 強欲竜一狩り行こうぜってワケじゃないんだよね?」
 それに対し、シャンカラはにっこり。
「はい。お店の方には予め必要な品物を連絡してあるので、受け取りと支払いをするだけなんですが……リゼリオは初めてで、買い物をするということ自体慣れていないので、是非玲くんにお手伝いをお願いしたくて。
 ……見たところ、こちらにはドラグーンはあまりいないようですね。鱗が目立って、街の皆さんを驚かせたりしないでしょうか」
 異界で鱗を見られたが為に捕縛された経験のあるシャンカラ、そわそわ。気にするトコはソコじゃない! と全力でツッコみたい衝動をぐっと堪え、玲は笑顔を取り繕う。
「ドラグーンのハンターさんも活躍してくれてるし大丈夫だと思うよ。それよりもあの、買い物に行くのに完全武装してる方が目立つかな、なんて……リゼリオにはハンターさんいっぱいいるから、街の人も慣れっこだとは思うけど。……で、そっちのオジサンの袋は何かな? サンタコス?」
 ダルマはよいせと背から袋を下ろし、
「俺ぁオジサンじゃねェ! 代金だよ代金。こっちじゃ金がいるんだろォ?」
 開いて見せると、中にはずっしり詰まった金、金、金!!!!
「それ全部お金なの!? そんなに要らないよ、買うの小麦粉とかだよね!? 何トン買うつもりなの!?」
 龍園では今も物々交換が成り立っており、日常生活の中で金銭を扱うことがほとんどないのだ。おまけに西方の品々にも疎く、相場というものもわからない。
 そういった事情を思い出し、玲は密かに深呼吸して気を落ち着ける。
「まずは普段着に着替えるトコから始めよっか?」
「分かりました。買った品を運ぶのに飛龍を呼ぼうと思うんですが、」
「んんーそれが龍騎士スタンダードな考え方かぁ。こっちでは馬に積んだり荷車に積むのが一般的でね?」

 そうしてなんやかんやありながらも北方の普段着に着替えさせることに成功した玲は、彼らを先導し最初の店へ向け第1歩を踏み出した。

 ……が、

「うわー道が凍ってなーい、お店がこんなにたくさーん!」
「ダメッ、リブちゃん迷子になるから走ってかないで!」
「西方には別嬪さんがいっぱい居ンなぁ!」
「オジサンはジロジロ見ない、セクハラで訴えられるよ!」
「あのお店可愛いっ、見てきちゃダメですか?」
「お店の準備もあるんでしょ? あとであとでっ! ……あれ、隊長さんは?」
 玲が辺りを見回すと、いかにも女っ気のなさそうなガラの悪い若者に囲まれているシャンカラが。
「色男はいいよなぁ? 聖輝節も美人の彼女とイチャコラすんだろぉー!?」
「オレらにも恵んでくんねぇかなー、せめて金だけでもよぉー?」
(龍騎士隊隊長がカツアゲされてるううぅー!?)
 だめだあの兄ちゃん達死んだわ……と玲が目を覆いかけた時。何故かシャンカラは大層ショックを受けた顔で、目に涙を浮かべて若者の手を握りしめた。
「これが貧困……これが格差社会というものですか!? 何て恐ろしい! ……この寒空の下ではさぞお辛いでしょう、これで何か温かいものでも」
 そう言って彼らに金の詰まった革袋を握らせようと……
「だめえぇぇぇそれ違うから!! ただのイキった兄ちゃん達だからあぁぁ!!」
「お、何だァ? 隊長殿の危機か? アイツらぶん殴って良いのか?」
「だめえぇぇぇ騒ぎは困るよ!! ってリブちゃんはどこ!? 隊長さんはこっち戻ってきて! オジサンは止まって! すとっぷ! ステイ! ホーム!! ……あ゛あ゛ぁ゛もうツッコみきれない!!

 誰か助けてく゛た゛さ゛あ゛あ゛ぁ゛ーーーーーーい゛!!」

リプレイ本文

●小麦班の奮闘
 聖輝節を目前に控え、リゼリオの街はどこも華やかだ。感激するシャンカラをブリジット(ka4843)が振り返る。
「リゼリオにはハンターが多く、治安が良いんです」
 はぐれないようガイドしつつ上手く視線を誘導。好奇心旺盛な彼は指し示す先に釘付けだ。ミィナ・アレグトーリア(ka0317)とニーロートパラ(ka6990)は微笑ましく眺めていた。
 その時何やらぐ~っと音が。首を傾げる3人へシャンカラが慌てて言う。
「えっと、ミィナさんの馬とても凛々しいですね!」
 誤魔化された気がした3人だったが、戦馬のフォルトゥナを褒められたミィナは嬉しそうにその鼻先を撫でる。
「幻獣さんは町に出すと怖がられちゃうから、お馬さんや驢馬さんで運ぶとえぇんよー」
 軍馬をお供にする予定だったミィナだが、勿論戦馬でも運搬に支障はない。ニーロは改めてシャンカラを見やる。
(故郷の先輩がいらしたのですから、しっかりとエスコートしていきたいですね)
 加えて同行する男性は自分だけ。万一の時は盾たらんと気合いを入れる。ところがシャンカラの視線が、徐々にブリジットの指す先からズレだした事に気付いた。
「今のは奥の建物のお話で、そこはスコーンのワゴンですよ」
「あっ」
 シャンカラ急いで視点修正。が、
「いえ、そこは焼鳥屋台で……お腹空いたんですか?」
 するとまたぐ~っと鳴った。お腹の音だったのだ。彼は真っ赤になって俯く。
「すっすみません。ちょっと食べてみたいな、なんて」
 と言うが早いか、ミィナがその口へクッキーを押し込んだ。
「あ、南瓜味♪」
「好きなお味なら良かったんよー。小麦粉はこういうのの材料にもなるのん!」
 ミィナが広げた包みの中にはカボチャクッキーの他にも、アイシングで可愛くデコったものなど様々なクッキーが。シャンカラは目を輝かす。
「小麦粉、大事ですねっ」
「頑張って手に入れて欲しいのん!」
 続いてミィナ、程良い塩味のチーズクッキーを口へスロー。
「お金、足りんくなったら必要な量交換して貰えないんよー。だから買い食いは頼まれた物を買ってからにすると安心なのんー」
 ニーロは幸せそうに頬張る姿を若干不安げに見つめ、
「隊長を担う方ですから、分別は大丈夫ですよね? ね?」
 かかる期待に今度こそ軌道修正したシャンカラ、半ばクッキーに釣られるようにして問屋を目指すのだった――物陰からガン見されているとも知らずに。

 3人の巧みな誘導で、恙無く買い物を終える事ができた。残金は食べ歩きに十二分、フォルトゥナに荷を積んだお陰で全員両手も空いている。
「気になったお店はあるのん?」
「迷いますねぇ」
「ふふ、あまり過ごされませんように」
「甘辛ダレのリブ串とか美味しそうだったのーん!」
「オレも気になりました、いい匂いでしたね」
 いざ屋台と思いきや、突如辻から女性の一群が飛び出してきた! 彼女達は血走った目でシャンカラを凝視する。
「愛は分かち合うもの、イケメンは皆で愛でるものッ」
「同担拒否を拒否します。推せる推しがいれば彼氏なんてッ」
 そんな事を口走りジリジリ距離を詰めてくる。謎の迫力に飲まれミィナ硬直!
「仰る事が理解できないのは僕だけですか?」
「大丈夫です、オレも分かりません」
「何やら『自由の鐘』めく空気……『聖輝節に恋人が欲しかったけれど叶わなかった方々』でしょうか」
 ブリジット、シャンカラを庇うようスッと進み出た。ニーロも共に前へ出たが、
「弟系男子確保ッ!」
 哀れニーロ、独女の渦に散る! 我に返ったミィナは急いでシャンカラに何かを耳打ちした。その間ブリジットは微笑を浮かべ優雅に一礼。
「今は先を急いでおります。近々お店を出しますから、是非そちらへ来てくださいね」
 あくまで物腰柔らかに。シャンカラに西方へ嫌な印象を抱いて欲しくないし、彼女達も恐らく悪気はない、はず。思いが通じたのかブリジットの美貌に見とれたか、彼女達はほぅっと溜息。そこへミィナの知恵でシャンカラもダメ押しでにっこり。
「『カフェ ド リュウエン』です。皆さんのお越しをお待ちしています」
 途端怒涛の質問タイムと相成った。場所や開店時間など手分けして答えていく。何という事でしょう、窮地がとんだ宣伝タイムに!
 揉みくちゃにされたニーロは這々の体で抜け出すと、別の路地からもっさい男達が向かってくるのを見つけた。モテとは縁遠そうな彼らだ、女性に囲まれた一行はさぞ不愉快だろう。皆が気づく前に駆け寄り、人好きのする笑みで言う。
「聖輝節ですよ? どうか穏便に」
 その笑顔に舐めてかかろうとした男達だったが、ニーロがさっと頭を下げると懐から白い拳銃が覗き、真っ青になって逃げ出した。
「ニーロさん?」
「いえ何も。さあ、食べに行きましょうか」
 そうして買い物ばかりか店の宣伝まで果たした4人は、屋台へ繰り出したのだった。

●もみの葉班の格闘
「私の女に手を出すとはいい度胸だな?」
 マリナ アルフェウス(ka6934)の周りを蒼いデータ片が乱舞する。リブは状況が飲み込めず?を乱舞させていた。相対するのはチャラそうな若者達。
「マリナさん、そんなおっかない顔しなくても……この人達お茶をご馳走してくれようとしただけで、」
 するとマリナはリブの顎をくいっと指で掬う。
「私では不満か、私の姫様?」
「!?」
 不意打ちの"顎クイ"におぼこいリブは尊死した。最早止める者はない。一触即発かに思えたその時、颯爽と割り込んできたのはダイナマイトバディなミニスカサンタ、もといトリエステ・ウェスタ(ka6908)。歩く度、ドレスから豊かな胸が零れ落ちそうになる。男達の前へ出ると、手で肩を抱き身震いして見せた。腕に押し上げられ強調された胸は正にギリギリ。
「今日は冷えるわね。あなた達が暖めてくださらない……?」
 上目遣いに囁かれ、抗える男がいるだろうか(魅了術併用している事はさておいて)。
 男達が彼女に釣られている隙に、マリナはリブを姫抱きに抱え素早く立ち去った。

 数分後。
 無事合流を果たした後、3人はスムーズに葉の仕入れを終えた。
 よそ見して迷子になる事が懸念されたリブだが、お姉様と慕うトリエステ・仲良しのマリナに両脇を固められた上、華麗な即興彼氏ムーブで昇天し、よそ見などしようがなかったのである。
 先程のがナンパだったと説明されたリブは、妖艶なセクシーサンタお姉様を見、スタイリッシュなワンピース姿のマリナを見、最後に自分を見た。
「私こんな地味なのに。マリナさんに頂いたドレス、持ってくれば良かったな」
 隊の活動の一環と思っていたので仕方ないのだが、リブは口を尖らせる。ついでに地味な子=押しに弱そうに見えるなどという法則も知らない。と、お姉様はサッとドレスを取り出した。お揃いの真っ赤なセクシーサンタドレスを!
「じゃあ今からコレに着替える?」
「無理です私胸ないですし!」
 するとマリナがチッと舌打ち。見ればマリナは取り出しかけていたドレスを鞄に押し込んでいる。ちらりと見えたそれは同じ真っ赤な色をしていた。リブ戦慄!
「というかマリナさんの鞄パンパン……中身は一体?」
「フッ、これか」
 マリナはガバッと鞄を開いた。何と中にはドレス・ドレス・ドレス!
「今の服も似合っている。ただ……リブは可愛いからな。正直あれこれ着せ替えt……気に入ったものがあれば、少し早いが今年のプレゼントに、と」
 滔々と語るマリナをお姉様がつつく。
「この子あまりの事に放心してるわ」
「何と、そんなに喜んでくれたのか」
「じゃあ私も服くらい奢ってあげようかしら。龍園生まれとしてここは後輩の面倒を……はっ!? ちちち違うし!? 私の実家は龍園じゃないし!? 実家に帰るために龍園出たんだし!?」
「理解不能だが、複雑な事情があるんだな」
 すると正気に戻ったリブが大慌てでかぶりを振った。
「お気持ちは嬉しいんですがっ」
 つっかえつっかえ懸命に話す。お小遣いの中には新米卒業祝いとして隊長から渡された分もあり、是非それを使って初めて女の子らしい買い物がしてみたいのだと。
「大好きなおふたりに選んで貰えたら、とっても嬉しいんですが……ダメですか?」
 妹分のお願いに、お姉様はばさっと髪を掻き上げた。
「そういう事なら、お姉様に任せなさい!」
 マリナも頼もしく胸を反らし、
「張り合うわけではないが。私がリブに一番似合う物を見立てよう」
 ふたりの間で激しく火花が散る。かくして聖輝節コーデバトルが勃発した!

●牛乳・卵班の辛労
 リフィカ・レーヴェンフルス(ka5290)は捕獲したダルマの腕を、クラン・クィールス(ka6605)は首根っこを押さえ盛大に溜息を吐く。出発早々ダルマは行方をくらませた。慌てて探してみれば、売り子のミニスカサンタに釣られていたのだ。
「……まぁ。環境も文化も違うんだし、仕方のない話ではあるんだが。それならそれで、もう少し自覚を持って欲しいというか……落ち着きと自粛をだな……?」
 荷車を引いたリフィカの重装馬・ルデトの所へ連れ帰ると、心配して待っていた氷雨 柊(ka6302)とファリン(ka6844)が、ふたりと入れ替わりにダルマの左右をがっちり固めた。
「全く、柊君とファリン君という可愛らしいお嬢さん方がいるのに……嘆かわしい。君は手のかかる弟の様だよ……そこが、ダルマ君の愛嬌であり魅力であるがね」
 苦笑するリフィカに、珍しく年下扱いされたダルマは不貞腐れて言う。
「っつったってよォ兄者」
 ダルマは右に添う柊を見下ろした。柊は視線に気付き、
「ダルマさんから見たら私、女性っていうより子供ですかねぇ」
 自身なさげにほにゃっと笑う。その慎ましさも、小柄な割に出るトコ出た艶やかな旗袍姿も、オッサン心にグッと来るのだが。だがダルマは知っている。柊はクランの『可愛いコ』であるとッ!
 現に柊、先程から若干不安げに彼をチラチラ振り返っている。そんないじらしい柊に幸多かれと願いつつ、クランに爆発しやがれと内心悪態づかずにおれないダルマだが、流石に友人の恋人に鼻の下伸ばせない。
 と、左腕へ柔らかなものが触れた。可愛らしいワンピース姿のファリンが、唇をちょっぴり尖らせ腕にしがみついている。
「…………」
 しばしファリンを見つめていたダルマ、ややあってニッと笑うと柊へ耳打ちする。
「俺ぁ大丈夫だ、クランの隣行ってやんな。クリスマスなんだしよォ」
「はにゃっ!? ですがぁ、」
 耳まで真っ赤にして言い募る柊を制し、ダルマはファリンとがっしり腕を組む。
「よォし、今度こそ行くぜお嬢!」
「!? は、はいダルマ様!」
 目を白黒させるファリンを強引にエスコートし、浮かれたダルマは猛然と走り出す。すぐに方向が違うと気付いた銀髪カップル、
「おいダルマ、やる気を出すのはいいが地図を見ろっ」
「さっきお渡ししましたよねー?」
「俺ぁもうよそ見しねェ、今日はお嬢だけ見るッ」
「いや見ろよ、地図は見ろよ……」
 げんなりするクランの肩を、リフィカが労るように叩いた。もう一方の手にはマッピングセット。そこには既に商店への最短ルートがチェックされていた。クランはすんっと遠い目になり、リフィカは無言で深く頷く。世代を越え男達が確かに通じ合った瞬間だった。
 そんなクランの傍らで、彼の袖を控えめに抓んだ柊は、どこかホッとしたように頬を綻ばせていた。

 そうしてどうにかこうにか、リフィカの軌道修正で商店へ。
 幼いファリンにデレてさながら犯罪者と化したダルマ、請求額も確かめぬまま、金の詰まった革袋を店主に渡そうとする。有り金全部だ。ファリンは急いで押し止めた。
「まあ。いけません、いけませんよダルマ様。豪快な所は好きですが、お金は大事に使わないといけません」
 好きの一言で更にだらしなく眦を垂れたダルマの手から、リフィカはそっと革袋を取り、支払額と余剰分をより分ける。
「有り金を全部出してしまっては、この後の『お楽しみ』に差し支えてしまうだろう?」
 と意味ありげに片目を瞑って見せた。ファリンも棚に並んだ酒瓶を指し、
「ちゃんと計算すればこんなのも買えますよ」
「ほお?」
 ダルマには珍しい西方の酒だ、キラリと目が光る。すかさず柊が紙とペンを差し出した。
「暗算が面倒なら、紙とペンで計算しましょうー? こういう苦労も先日のサッカーの時と一緒、交流の一部ですよぅ。支払いが多すぎると、お店の人が困っちゃいますー。多いから良いってわけではないんですよねぇ」
「そうなンか?」
「それはそうだろう……店主が悪人なら別だが。計算は苦手か? そら、貸してみろ」
 クランは直に答えを教えず、近い数字で計算し解き方を教える。そして弾き出した残金から酒の棚を見やり、
「……これ位余ったなら、あの一番高い酒が買えるぞ」
 お楽しみ、そして高級酒。鼻先に人参をぶらさげられた馬の如く、ダルマは俄然やる気になってペンを握った。しかし残念ながら脳筋である。途中兄分とクランにちょいちょい修正され、美女ふたりに宥めすかされ励まされ、何とか卵と牛乳、それに3本の高級酒を正規額で購入することに成功した。
 店で貰った緩衝材の藁を荷車に敷き、更に柊が卵を厳重に風呂敷で包む。積込み完了、あとは無事戻れば完了だ。荷台の空いたスペースに皆でお邪魔し、ルデトの歩みに揺られていると、止せば良いのにダルマは卵にちょっかい出そうとする。けれど帰路の対策も万全だ。
「ぶちまけようものなら処理に困る上、汚いし臭くなるぞ」
 クランが嗜め、その不届きな手を再びファリンが抱え込む。にやけるダルマをリフィカが振り返り、
「今夜は空いているかい? 美味い酒と肴を出す酒場を知っているんだ」
 "終わった後"に気を向けさせ、寄り道する気をごっそり削いだ。実はその店には可憐な歌姫がいるのだが、大人なリフィカはファリンの手前言わずにおいた。
 直に集合場所が見えてくると、柊は隣に座るクランを仰ぎ、こっそり肩寄せ幸せそうに微笑んだ。


 全員が戻るとクッキー片手の玲が待っていた。ミィナからの嬉しい差入れだった。
「おかえりー。……隊長さんは口拭こうか、ソースついてるよ? オジサンはやに下がり顔どうにかしよ、捕まるよ? リブちゃんは……え、リブちゃん?」
 それぞれの顔から、三者三様に街歩きを楽しんできた事が窺えた。中でもリブは見立ててもらった淡青のワンピとボレロを纏い、せめてとふたりが買ってくれたお姉様チョイスのリップとマリナチョイスの髪飾りで、地味眼鏡っ娘を見事返上。
 各班の品々を検品し終え、玲もクッキーだらけの頬でにっこり。
「ちゃんと注文した分揃ってるね、皆お疲れ様!」

 ――ハンター達の(恐らく本来しなくてもいい)苦労と工夫の末、無事『ノエル カボチャ・コケモモ』が売り出される事になったのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリア(ka0317
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • 咲き初めし白花
    ブリジット(ka4843
    人間(紅)|16才|女性|舞刀士
  • 兄者
    リフィカ・レーヴェンフルス(ka5290
    人間(紅)|38才|男性|猟撃士
  • 一握の未来へ
    氷雨 柊(ka6302
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 望む未来の為に
    クラン・クィールス(ka6605
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 淡雪の舞姫
    ファリン(ka6844
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 龍園降臨★ミニスカサンタ
    トリエステ・ウェスタ(ka6908
    ドラグーン|21才|女性|魔術師
  • 青き翼
    マリナ アルフェウス(ka6934
    オートマトン|17才|女性|猟撃士
  • 碧蓮の狙撃手
    ニーロートパラ(ka6990
    ドラグーン|19才|男性|猟撃士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
マリナ アルフェウス(ka6934
オートマトン|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/12/06 06:24:35
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/02 09:51:47