【王戦】空飛ぶ騒音公害

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
3日
締切
2018/12/18 12:00
完成日
2018/12/23 13:38

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 美も過ぎれば毒である。
 そんな言葉が聖堂戦士の脳裏に浮かんで消えた。
「防げ!」
 隊長の命令は聞こえない。
 分厚い防具が振動するほど大きな音に晒されているからだ。
 音の発生源は空に浮かぶ球形金属。
 CAMと別の方向性で、別の世界の影響を感じる見た目だった。
「敵だ! 気を抜くな!」
 耳が麻痺していても何を命じられているかは分かる。
 何を期待されているのかも分かる。
 だから、完全鋼鉄製の大盾を構えて前に出た。
「機銃?」
 にょきにょき。
 直径4メートルの鉄球の天頂から見慣れたモノが伸びてくる。
 部隊の虎の子である車載機関銃にそっくりだ。
 収斂進化という言葉が頭をよぎった直後、轟音による音楽に比べるとささやかな銃声が連続した。
「防げ!」
 頑張って防ぐ。
 一部のハンターのような発砲を見てから銃撃を躱す技術はないので盾を斜めにして弾を受け止める。
 銃弾と盾が衝突する度に大きな火花が散り盾が押し込まれる。
 支える腕だけでなく、体のあちこちが衝撃で痛い。
「セイクリッドフラッシュの射程外ですっ」
「弓持ってこい!」
 古参の聖堂戦士が後ろに走る。
 球形金属が古参戦士の背中を狙ったので、盾を構えたまま横移動して銃撃を防ぐ。
「トラックは色々運べるから好きだぜ」
 メイスと盾の代わりに大型弓を装備する。
 鋼鉄の矢を弓につがえて弦を限界まで引っ張った。
「撃て!」
 隊長の身振りで一斉に放つ。
 青い空に4本の矢が真っ直ぐに飛ぶ。
 長年の修練と良質な装備によりようやく実現した、並の銃器を上回る長距離攻撃であった。
 かんっ。
 するんっ。
 矢尻が球形装甲で滑る。
 ハンターとは異なり、長距離の目標に垂直で当てるような技術は誰も持っていない。
 砲並の威力があれば多少ずれても損害を与えられただろうが、残念ながら普通の弓矢程度の威力しかないのでかすり傷未満だ。
「仕方が無い」
 隊長が覚悟を決めた。
 会計担当の戦士が顔を土気色にする。
「魔導軽トラを前に出せ。車載機関銃で落とす!」
 当然ことではあるが、軽トラは通常の魔導トラックよりも脆い。
 盾で頑張って防いでも流れ弾数発でお仕舞いだ。
 フロントガラスが一瞬で全壊して内装まで破壊される。
「修理費でおかずが一品減るぞ畜生がっ」
 運転手は重装甲の聖導士でありこの程度では死なない。
 弾痕だらけの兜の下から、殺気に満ち満ちた目で球状金属を睨み付けた。
「死ね」
 機銃を操作。
 大量の弾が吐き出される。
 球状装甲の正面で無数の火花が散る。
 絶妙な傾斜で弾が逸れても、弾の威力全てを殺すことはできず球形が歪んでいく。
 球形金属の反撃も激烈だ。
 同程度の威力と同程度の頻度で弾を送り込む。
「回避しろ」
「とっくにエンジン停止しました」
「盾がもうもちませんっ」
「法術で援護する」
 戦士団1部隊による全力防御である。
 有効な反撃手段が車載機関銃しかないのでそれしかできないともいう。
「死ねぇっ!!」
 3個目の予備弾倉を使い尽くすと同時に、球形金属の浮力が急速に消えていく。
 大音量も止まるが耳が麻痺してすぐには回復しない。
「敵撃破を確認!」
「やったぜ!」
「何か嫌な予感がするんだが」
 浮力が消えてもそれまでの速度は残っている。
 大破した魔導軽トラへ、ただの鉄球と化した物が突っ込んでいった。

●戦闘依頼
「魔導軽トラ……小型の魔導トラックを全員で抱えて逃げたのでユニットも人間も無事です」
 オフィス職員は地図を引っ張り出して説明を続ける。
「その2分後に、同一の形状の物3体を発見。足止めも不可能と判断して聖堂戦士団は撤退しました」
 遭遇した場所と逃げた方向を地図に書き込む。
 王国の主要街道に近い場所だ。
 歪虚相手に戦意旺盛な聖堂戦士団なら、死守しかねない状況に思える。
「はい、これらの球形物体からは歪虚の気配があまり感じられなかったそうです」
 歪虚でこの強さと大きさならかなり強い負の気配はするはずだ。
 それ故に冷静に判断でき、非常に低速の敵を置き去りにして避難誘導を行いながら撤退したらしい
「中身の一部だけが歪虚である可能性はあります。とても奇妙な敵ですので、可能なら捕獲をお願いしたいですが」
 呼びかけには一切応じず、騒音攻撃とも表現可能な音を流しながら街道に接近中だ。
 10キロほど進めば中規模都市があるのでここで止めるしかない。
「倒すのを最優先でお願いします。本当に五月蠅いらしくて、現時点で人死には0ですが街道に居座られると王国の物流が乱れかねませんので」
 長距離攻撃可能なユニットがお勧めですと結んだ職員に危機感はない。
 職員はハンターであれば確実に勝てると判断している。
 だがそのハンターは、非常にきな臭い気配を感じ取っていた。

リプレイ本文

 古い街道だ。
 石畳は丹念に整備されている。
 ブーツ越しに感じる石の感触も楽しい。
 左右を見てみると、瑞々しい緑の冬小麦とクローバーの畑が交互に見える。
 これに遠くから響いてくる讃美歌風音楽が加わると、良質なファンタジー映画の一場面のようにも見えた。

●傲慢との開戦
「そういえば6月頃に傲慢王が何やら演説してたな」
 軽快かつ力強い蹄の音を感じながら戦士としては小柄なエルフが独りごちた。
「年が暮れたころに先触れを出すから、王国なる地を整えて迎える準備してろって」
 既に音楽は聞こえない。
 数キロ先では音楽に聞こえても、近づけば心身を害する騒音でしかない。
 少しだけ先行しているウィーダ・セリューザ(ka6076)と意思疎通するときも、声は全く届かないのでハンドサインを使うしか無い。
「あれは傲慢王を讃える賛美歌、そしてあの球体が先触れってことかね」
「まあなんだっていいさ」
 冬の風の中に爽やかな微風が生じる。
 明るい緑の髪が揺れ、緑の瞳が冷たく澄んだ蒼に変わる。
「傲慢王だろうとただの雑魔だろうと」
 ウィーダが身の丈より大きな弓を引き絞る。
 ワンピースドレス姿のウィーダが純白の弓を構える様は、リアルブルーの趣味人が夢想したエルフの姿に限りなく近い。
「やることは変わらない」
 気配が一変する。
 矢に刻まれた幾何学模様がウィーダのマテリアルを吸い禍々しく発光する。
 極限まで絞り込まれた殺意が仰角30度で直進。高度100メートルを我が物顔で漂う金属球を震えさせる。
「これが出迎えだ」
 つがえた2本の矢をそっと放す。
 矢は空気をすり抜けるように飛翔し、矢と比べるとあまりに遅い金属球へ瞬く間に追いつく。
 素晴らしく滑らかな球形装甲が陽光を反射する。
 その次の瞬間ゼノンの矢が着弾。
 直角に着弾したため、装甲小さなクレーターじみた穴を開けた上で矢尻まで矢を埋め込む。
「見事なものだ」
 空で強烈な向かい風に吹かれながら、レイア・アローネ(ka4082)が力強く笑う。
 敵との距離は剣が届かない程度にはある。
 3体3つの球の天頂部分からにょきりと機銃が生え。
 地上の弓師たちに届かないことに気付いてレイア1人を狙う。
「甘く見るなよ」
 アウローラと名付けられたワイバーンが気配だけでうなずいた。
 高速で吐き出される弾は風の抵抗も重力も計算しきれていない。
 放物線を描く3連射のうち、レイアたちに当たる可能性のあるのは1連射のみだ。
 だがその威力は大きい。
 軽装のアウローラでは直撃を2度浴びれば失速からの墜落を心配しなくてはならないだろう。
 空気を裂く音を伴い銃弾が迫り、しかしワイバーンが軽く横に体を傾けるだけで明後日の方向へ消えた。
「今のは良かった。気は抜くなよ」
 お互い耳栓をしているので音は聞こえない。
 だから、手で鱗を優しく撫でてやってから、謎の飛行物体相手の格闘戦に突入した。

●謎の鉄塊
「奇怪な機械ね」
 斜め上で繰り広げられるワイバーン騎兵対球形兵器の戦いを見つめ、八原 篝(ka3104)が真剣な表情でつぶやいた。
「でも良い機会かもしれないわ。未知の相手を観察できる機会なんですもの」
 心なしかドヤ顔だ。
 精霊が解説まで加えた情報がウィーダに届き、なんとも反応に困った顔をされてしまう。
 キカイが、4回である。
 篝は冗談は飛ばすが行動も思考も対歪虚戦の専門家だ。
 冗談を言っている間も、クリムゾンウェスト連合軍や崑崙基地が全力で集めた知識と目の前の光景を比較検証している。
 リアルブルーとエバーグリーンに類似品多数。
 けれど数年重ねてきた経験と直感視が違うと囁いている。
「反重力機関とは思うけど」
 ウィーダの弓よりも大きなカオスセラミック製の弓を手に取る。
 不必要な重みはないとはいえかなりの重量のはずなのに、篝の手にあるそれは非常に軽く見える。
 扱いに慣れているのだ。
「別系統?」
 蒼機の名を持つ弓が、純白の外装に桜の文様も淡く輝かせる。
「なんとなくクリスマスっぽいわね」
 陽光を反射する球体はめでたいもののように見える。
 高度も速度も装甲の厚みも弓矢で狙うには最悪で、対空砲や対空ミサイル推奨の相手だ。
「まあ、落とすまでにすることは同じだけど」
 余剰のマテリアルが弾けた。
 蒼い花弁として宙に舞い、乾いた冬の空気を彩る。
 そして、赤々と輝く矢尻が2つ、滑らかな表面で滑ることも無く1メートル越えの装甲を貫いた。
 それは始まりでしかない。
 壮絶な速度で第3と第4の矢がつがえられ、放たれ、第5も第6も休み無く連続する。
 かつてロッソの中に引きこもっていた少女は、最高峰の弓使いになるまで成長していた。
 レイアが詠唱を終えた。
 マテリアルと感覚が周囲の空間を侵食し、剣と槍の間合にいた鉄球2つを無理矢理に引きつける。
 篝とウィーダに向いた重機関銃が2つ、勢いよく旋回してレイアとワイバーンへ向いた。
 発射の前に回避失敗が分かった。
 右の射撃はレイアの頭上3メートルを通り過ぎ、左の射撃はワイバーンの左翼への直撃コースだ。
 レイアは我が身と魔導剣を盾にして大口径弾を受ける。
 半分ほどしか引き受けることはできなかったが、これならアウローラもしばらく飛んでいられる。
「厄介だな」
 防御力については問題ない。
 魔力を帯びた矢と炎を帯びた矢が大砲じみた勢いで打ち込まれ続けている。
 レイアが時間を稼ぐだけで勝てはする。
 だが、これほどの威力の矢を放てる者がこの国に何人いる?
「いても王国騎士くらいか」
 ワイバーンの速度を落とす。
 3方向から集中する銃撃の2方は躱して1方は防御的に構えた剣で防いでワイバーンを守る。
 ソウルトーチが効いている感覚がある。
 ならば敵は歪虚なのだろう。
 なのに負の気配は酷く薄く、大気中に微量に混じる負マテリアルと混同してしまいそうだ。
「立場を得たつもりはないのだが」
 己の自身の生体マテリアルを刃まで伸ばし、ワイバーンとタイミングをあわせて巨大鉄球目がけて放つ。
 無色の衝撃刃が手前の鉄球にノの字の傷を刻み、反対側から突き抜け延長線上にいた別の1球に同型の傷をつける。
「外からの期待が大きくなる一方だ」
 手前の1機が動こうとして火を吹いた。
 前と後ろの傷口からどす黒い煙を吐いて、完全に浮力のなくなった自由落下を始める。
「大国なのだ。修理費は負担してもらおう」
 鉄球が砕けて石畳とその下の砂も土も巻き込み爆発する。
 煙が急膨張してレイアも鉄球も包み込む。
 鉄球がそろりと音を立てずに逃げ出そうとする。
「可能なら捕獲をお願いしたいとは言われているけど」
 蒼い瞳が半壊鉄球と健在鉄球を凝視する。
「無駄な危険を冒せる場面じゃない」
 ゼノンの矢を傷口周辺に送り込む。
 鉄球はなんとか無傷の部分で受けることはできたが、受けても装甲を貫通されて内部に甚大な被害を受ける。
「承知した。このまま攻める」
 声が届かなくても戦い方を見れば意図は分かる。
 星神器に伸ばしかけていた手で魔導剣を構え直し、巨体に対しては特によく効く衝撃波を惜しみなく放って2体目を料理する。
「後1つ」
 ぎざぎざの傷口で2つに断たれた飛行兵器が、一際大きな土産物店の庭に落ちていった。

●王国を蹂躙しかかったもの
 エクウス種の馬がクローバー畑を駆けている。
 王国の騎士から見ても絶賛する見事な馬術であるのだが、馬を駆るコロラ・トゥーラ(ka5954)はほとんど困惑していた。
「この手入れでこの土」
 故郷である辺境の山岳とは違い過ぎる。
 同じ面積の畑から得られる収穫は倍以上違うかもしれない。
「だからかしら」
 人間の危機感が薄い。
 敵の速度が極端に遅いのに、コロラの視力なら見える距離に避難民が残っているのだ。
 国力の割に弱いという俗説に説得力を感じてしまう。
「まずは仕事ね」
 馬の速度を落とす。
 こちら側の鉄球は手前に3つ奥に3つと合計6もある。
 射撃戦なら負けるつもりはないが、敵の逃亡を防いだ上で仕留めることを目指すなら難易度が上がる。
「この辺りが私の得意な射程。ここから打たせてもらうわね」
 青色の和弓を無造作に構え、矢を放って再装填してを繰り返す。
 空の鉄球が左右に震えて高度が落ちかかる。
 スキル無しでも装甲ごと打ち抜けるのに、コロラはマテリアルqお集束して装甲を貫通する能力まで矢に与える。
 矢は、鉄球とその内側を壊しながら進み反対側へ抜けた。
「後4つ」
 スコアを増やすような贅沢な戦い方はできない。
 まずは敵の注意を引きつけるのだ。
「ううん」
 彼女自身形容し辛い声が出た。
 戦闘という意味では非常に楽だ。
 極端な不運が無い限り当たる距離で放っているし、極端な不運が無い限り敵の攻撃が当たらない距離も保っている。
「少しなら試してもよいかしら」
 3つめの鉄球にも当てて奥の3つへ向かう。
 背後では追いついてきた見方CAMと鉄球3つの戦いが始まったようで、鉄と鉄が打ち合わされる音と砲声が連続している。
「がんばってね」
 コロラが連れてきて、速度の差で置いてけぼりにせざるを得なかったVolcaniusも奮闘中だ。
 ユニットとしては圧倒的な射程と広範囲への攻撃手段を持つVolcaniusは、この種の相手には非常に強い。
「これで終わる相手とは思えないから」
 だから今は探る。
 それぞれ属性の違う矢を、全く同じ形をした3つの鉄球へ1本ずつ打ち込む。
 手応えに変化は……属性による有利不利の感覚はなかった。
 それどころか、生身のものを打った感覚も全くなかった。
「ただの鉄球の癖に声だけは随分デカいんだな。叩けばいい音が出るだろう、パチンコ玉にしてやる」
 考え込むコロラとは対照的に、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は一切迷い無く引き金を引き続けている。
 リアルブルーの特殊部隊向けモデルが原型の、12.7mm対物狙撃銃だ。
 当然のように特注品で、重さも大きさも個人が携帯するのには絶望的に向いていない。
 だがコーネリアは常人ではない。
 覚醒者で、しかも軍人として高度な訓練を受けたハンターだ。
「相変わらず遠くに飛ばんな」
 王国基準では壮絶な射程でも、VOID以前を知っているコーネリアの基準では非常に短い。
「しかもなんだこの手応えは」
 装甲を破壊するため、高濃度にしたマテリアルを弾に纏わせて当ててみても、装甲で受けられている感覚は皆無だった。
 あの鉄球ども、球形装甲の性能だけを頼りに生き延びている。
「傾斜装甲と言えど立て続けに攻撃を受ければ破壊される。戦争舐めるなよ鉄屑?」
 マテリアルに別の方向性を持たせ銃弾に注ぎ込む。
 弾幕というには少ない、しかし威力は爆撃に匹敵する銃弾が球形装甲へ直撃。
 少し強いだけの雑魔でも耐えるはずの制圧射撃が完全な効果を発揮した。
「今のは」
 コロラは、躱す必要も無い空からの銃撃を念のために回避しながら目で問いかける。
 返って来た返事とスキル名に軽く目を見開き、コーネリアへとある依頼をする。
「よかろう。先に数を減らすぞ。貴様らが奏でる音はさすがに耳が悪い。私の聴覚が生きているうちに溶鉱炉にぶち込んでやる!」
 大型バイポッドのサポートを受けたライフルが容赦なく鉄球を抉る。
 試験から殲滅に切り替えたコロラが短時間のうちに1機また1機と砕く。
「始めるぞ」
 コーネリアが慎重にマテリアルを操り弾丸へ注ぐ。
 生き残りに制圧射撃を浴びせて機体の調子を狂わせ、速度と高度を確認しながら冷たい弾丸を当て飛行状態を終わらせる。
 その間コロラは、試作型蓄音石を使って演奏の生データを収集していた。
 ハンターの銃撃音は混じっているがそれ以外はほとんど混じっていない貴重なデータだ。
 リアルブルーの研究施設に送れば徹底的に分析した内容を知らせてくれただろう。
「あまり期待はするな。王国は技術の良い噂はほぼない」
 コーネリアが射撃を中断する。
 浮力を失った鉄球が、20メートルの距離からクローバー畑に落ちて半ばまでめり込んだ。
「だがよい発想だ。試さねば成果も得られない」
「ありがとう。ハンターズソサエティーに……クリムゾンウェスト連合軍にも依頼してみます」
 1ループ分を録音した後、未だ畑から脱出することもできない鉄球に必要最小限の破壊を与えた。

●CAM対鉄球
「わー、敵がとんでもなく遠いのビックリなの」
 ガッシャガッシャと走るR7エクスシアの中で、守護者にして聖導士であるディーナ・フェルミ(ka5843)が邪気なく驚いていた。
 なお、そうしている間も接地面から地平線までの地上と地平線から天頂までの空全てと機体全体を満遍なく警戒している。
 かつての地球連合宇宙軍が見れば血涙流して羨むこと間違い無しの凄腕CAM乗りである。
「戦力は十分だから」
 上を見上げたまま指だけで操作。
 R7の肩から背中にかけて装着されたミサイルランチャーへ、射撃のための諸元を送信させる。
「大成功狙いでいくの」
 全ての関節をクッションとして扱っても消えない衝撃が突き抜けた。
 実に20のミサイルが、1つも逸れずに鉄球1つへ次々着弾して傾ける。
「数撃って当てるのミサイル乱舞なの~」
 R7は移動しない。
 ここまで引きずってきた対爆コンテナから器用にミサイルと取り出してはランチャーに装填し続ける。
「けっこう楽しいの」
 リアリティ最高の射撃ゲームだ。
 しかの狙いは人類に害を与える謎の侵略者。
 ミサイル発射の際の衝撃も満足度を上げるアクセントにしかならない。
「でも」
 はしゃぐディーナの、目だけが一瞬冷たく深い色を浮かべる。
「音楽は気に入らないの」
 最近見たリアルブルー映画で、似た印象の曲を聴いた。
 観客として楽しむならともかく当事者としては論外だ。
 今すぐメイスで念入りに潰したい。
「そういう訳だからほどほどにやって欲しいの~」
 奇跡的に当たりかけた反撃の銃弾を鼻歌交じりに大型シールドで受けながら、ディーナは非常に攻撃的な外観のCAMへ語りかけた。
「意図は分かるがのう」
 戸惑いと困惑が大部分の返事をするミグ・ロマイヤー(ka0665)だが、その口元は心底愉快そうに笑っている。
「依頼である以上倒すしかあるまい? そろそろコロラから我らに……そう、ヘイトが移る頃じゃ」
 3機の浮遊鉄球が2機のCAMへ銃口を向けた。
 人の身にCAM以上の戦闘力を持つ存在に驚き混乱していたのは過去のこと。
 今目の前にいるのは大きな体に体格相応の力を持つ障害物であり、普通に戦えば問題ない。
 そう、愚かにも思考していた。
「残念じゃわい」
 浮遊金属から猛烈な十字射撃。
 非常に凶悪な砲を備えたダインスレイブへ、奇跡的な確率で次々命中する。
「防御の実験にも訓練にもならん」
 CAMの体格と比較すれば小型の盾の表面に、先頭が潰れた弾がみっちりと張り付いていた。
 はらはらと剥がれて落ちていく。
 一応衝撃は本体まで届いてはいるが、固いだけで無く耐衝撃も万全なヤクト・バウ・PCにとってはそよ風同然だ。
「じゃが」
 形の良い唇が三日月のように吊り上がる。
 CAMの本当の性能に気付き、鉄球3つが激しく動揺する。
「射撃試験には使えそうじゃの」
 悪意は皆無。
 技術屋としての欲が恒星じみて燃え上がる。
 くくくと響く声は可憐なはずなのに異様に禍々しい。
「プラネットキャノン射撃位置へ固定」
 アーマーを兼ねた砲座が2問の滑空砲を優しく受け止める。
 機体のあらゆる部分を知り尽くした改造と整備により実現した操作で、砲門の向きを繊細に調整する。
「各関節正常稼働を確認。全砲門安全装置解除」
 敵の3門が狂ったように吼え、射撃最優先のため回避能力が鈍ったダインスレイブに次々直撃させる。
 だが足りない。
 その程度で壊れる生温い造りにはしていない。
「射撃の試験にはなるじゃろう」
 操縦桿のボタンを数度押し、複数種類の通信機を介して射撃予定を伝える。
 後ろからの攻撃も気配で察知し躱すハンターにはこの程度で十分伝わる。
「その球体装甲の性能、試させてもらうぞ?」
 弾種、徹甲榴弾。
 歪虚の妨害にも負けぬ命中精度を持つに至った砲弾が球形装甲の中心へと当たる。
 弾の直径とあまり変わらぬ穴が開き。
 秒も経たぬ間に内側から盛り上がる。
 見事な鏡面状だった装甲が、無残な凸凹と亀裂まみれの残骸へと変わった。
「なんともろい」
 ミグの理想は高いのだ。
「遠いの」
 ディーナの不満度がゆっくりと上昇中だった。
 確実にダメージは与えているがミグの攻撃ほど有効ではない。
 単純に分厚い防御は戦いにおいて有効で、低予算低練度部隊にとっては絶望的な壁となり得る。
「いっそ空を飛んで……」
 球形金属が必死に飛ばして来る弾が、マント状に展開したマテリアルに受け止められこつんと盾に当たる。
「その必要もなかったの」
 圧倒的な速度差故に逃げ切れないと判断したのだろう。
 無傷に近い球形2つと既に球形で無いほぼ残骸1つが、本人たちとしては一生懸命こちらへ突っ込んで来た。
「よい覚悟じゃ」
 轟音音楽で痺れた耳にも届く振動が生じる。
 ミグ機から貫通徹甲弾が同時に連続で発射されて、不用意にも縦1列に並んでいた2鉄球をまとめて貫通。
 既に残骸だった1つは爆散して果て、もう1つも穴だらけされた上で内側から痛めつけ黒鉛を吐く。
 速度が落ち、残るもう1つとぶつかり絡まり合うようにして落下を始める。
「む」
「残念なの」
 受け止めるには重すぎる。
 ミグは砲撃を続けて適度に砕き、ディーナはじっと見つめて機会を探る。
「歪虚じゃないかもしれないけど危険だから焼くの。セイクリッドフラッシュ!」
 光の中で装甲も部品も焦げていく。
 生身で法術を使えば全て消し飛ぶ場面なのでディーナもしょんぼりだ。
「手応えはあったけど」
 音楽が途切れる。
 2つのただの鉄塊が〆の音を鳴らす。
 ディーナは、納得いっていない顔で星神器に手を伸ばした。

●王国への信頼
 少しくすんだ青に光る瞳に、数十の穴が開いた鉄球が映し出されている。
 ただの物に戻ったそれは重力に従い地面へ接近。
 数百年に渡り踏み固められた地面へ亀裂を刻んで自らも砕けた。
 ほぼ同時刻に敵集団複数が全滅し、突然の音量の変化で耳に違和感が生じた。
 9体からなる脅威を全て排除した後も依頼は終わらない。
 王国への連絡と、街道や民家の近くからの残骸排除。
 安全か否かの確認も重要な仕事だ。
「これって本当にヴォイド由来のものなのかしら? 知られざる別世界の技術だったら夢があるんだけどね」
 原型を止めているのは1機のみだ。
 コーネリアの強烈な状態異常攻撃に晒されたそれは、全く生の気配を感じさないまま土に半ば以上埋まっている。
「歪虚がいるなら消えるの」
 セイクリッドフラッシュが次に形が残った残骸に炸裂する。
 空振りを半ば覚悟していたのに、小さな、本当に小さな木片のような大きさの歪虚を焼いた感触があった。
「うーんうーん」
 私考えていますという態度を王国の役人に見せる。
「この敵何か先触れっぽい気がするの。調査はした方が良いのかなって思うの」
「これを、運べと?」
 役人が冷や汗を流す。
 街道にはこれまで足止めされていた人と物が溢れかえっている。
「運ぶなら協力しよう」
「私はそっちから持つの」
 重量物がCAMにより持ち上げられ運搬されていく。
「じゃが」
「王国の使える研究者の手が空いているか?」
 技術の低さに定評がある王国にも人材はいる。
 しかしその人材は少なくそれぞれの研究や仕事で忙しい。
 有用な情報が得られる可能性は、かなり低いかもしれない。

依頼結果

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MVP一覧

  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサーka4561
  • 弓師
    コロラ・トゥーラka5954

重体一覧

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • 金糸篇読了
    イリアス(ka0789
    エルフ|19才|女性|猟撃士
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アウローラ
    アウローラ(ka4082unit001
    ユニット|幻獣
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka5843unit002
    ユニット|CAM
  • 弓師
    コロラ・トゥーラ(ka5954
    人間(紅)|28才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ヴォルカヌス」
    刻令ゴーレム「Volcanius」(ka5954unit004
    ユニット|ゴーレム
  • 碧落の矢
    ウィーダ・セリューザ(ka6076
    エルフ|17才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ウィーダ・セリューザ(ka6076
エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/12/18 00:28:14
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/16 22:09:52