【王戦】月下の行進

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/12/21 09:00
完成日
2018/12/31 00:25

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 グラズヘイム王国騎士団、青の隊所属の騎士であるノセヤは、特命を受けて港町ガンナ・エントラータへとやって来た。
 刻令術式外輪船フライングシスティーナ号の取り扱いについての議論に、一先ずの決着がついたからだ。
「暫く、船から離れていましたが、変わった事はありましたか?」
 全通式の甲板上でノセヤは水の精霊ソルラに話掛けた。
 精霊はニッコリと微笑みながら応える。
「変わりありませんよ」
 随分と人間らしくなったようにも見える。
 精霊自身は自らの命題に向き合っているだけなので、進んで人間らしさを目指している訳ではないだろうが。
「今日来たのは他でもありません。実は協力をお願いしたい事があって来ました」
「私に……ですか?」
「正確には、精霊の皆様のお力を。という事になります」
 そう前置きしてからノセヤは水の精霊に告げた。
 騎士団上層部からの特命で、刻令術式外輪船フライング・システィーナ号の運用を任された事。
 それに合わせる形で、休止状態にあった国内潜伏歪虚追跡調査隊、通称『アルテミス小隊』を再始動する事になったのだ。
 小隊の方は騎士団の外郭部隊という事でハンターや民間人からの登用という形になり、ノセヤが小隊長に就く。
「……という話で進めていまして、登録する者を集めているのが一つです」
「つまり、私に隊員になれと?」
「ソルラさんには、私のアドバイザーとして……です。実はもう一つ、やらなければならない事がありまして」
 ノセヤの台詞に水の精霊は首を傾げた。
 精霊の力が必要で、かつ、それは小隊活動でもあるというのだ。
「驚かないで聞いて下さいね……この船を、飛ばしたいのです」
「……はい?」
 人間と言うのは時に突拍子もない事を口走るのだなと、水の精霊は思った。
 フライングシスティーナ号は大型帆船数隻分あるのだ。それを浮かすだけではなく、空中を飛び回るなど想像を超えている。
「今度の主戦場は陸地になる可能性もあります。その為、内陸にも活動可能にするには空を飛ぶしかありませんから」
「理由は分かりましたが……さすがに、水の精霊の力を持ってしても、容易な事ではありませんよ」
「やはり、難しいですか?」
 苦笑を浮かべるノセヤに水の精霊は困った顔で応える。
 少なくとも、王国西部沖の海流の一部を司る程度の水の精霊では不可能だ。
「……そうですね。プラトニス様なら、何かできるかもしれません。ただ、やはり、水の精霊だけの力では難しいと思います」
「では、何か他にも手段を考えてみます。それにハンター達からも意見を聞いてみたいと思います」
 進むべき道には色々と問題が多そうだが、一歩一歩進んでいくしかないようだ。


 ハンターズソサエティの受付嬢である紡伎 希(kz0174)はリゼリオでのケーキ作りを抜け、王国北部のある街へと戻ってきた。
 オキナから【魔装】を受け取り、その鞘――というよりかは巨大な棺桶のようなもの――を背負う。
「これから古都でノセヤ様と面会する予定になっていますので、徒歩で向かいます」
「うむ……まぁ、大丈夫じゃろうが、鞘を担いだまま図書館には入らないようにの」
 心配するオキナに希は頷いた。
 あの図書館はただの図書館ではないのだ。想定外の事態が起こる可能性もある。
「街道の様子は如何でしょうか?」
「今の所、閉鎖や検問の話はない。ところで、ノゾミ嬢ちゃんは一人かの?」
「そうですが……何か?」
「いやなに、儂も古都に用事があるから、一緒に行こうかと思っての」
 神出鬼没のオキナはオキナで色々と忙しいのだろう。
 希にとって、オキナは師であり、かけがえのない存在でもある。実の祖父という存在に触れて来なかったので、そういう認識に近いものかもしれない。
「構いませんが、道中の食事は偏らないように注意をお願いします」
「もう老い先短いのじゃ、好きなものを食べても良いじゃろうに」
 オキナは両肩を竦める。
 対して、希は首を横に振った。
「いけません。暴飲暴食は身体に悪いだけに留まらず、無駄にお金を掛けてしまいます」
「これは手厳しいの」
「それでは、早速、旅の準備をしておきます」
 巨大な魔装の鞘を背負いつつ、希はそう告げると部屋から出て行った。
 色々と確りしているが、キチっとする所には頑として厳しいのが、彼女の性格だ。
「……そういえば、儂が色々と教えたんじゃったな……」
 閉まった扉を見つめつつ、オキナは呟いた。


 旅支度を早々に済ませて、二人と【魔装】は街道を進む。
 二人共覚醒者であるが、転移門を諸事情により使えない事もあり、夜でも強行軍で街道を行く。
「……何か、悩みごとがあるような感じじゃの」
 唐突にオキナが言った台詞に、希はハッとなる。
 止まらず動かしていた足がピタっと止まった。
「流石ですね……」
「そうでなければ教官などやって無かったわい」
 オキナは昔を懐かしむように言うと夜空を見上げた。
「実は……ノセヤ様からの面会の内容の事で……」
「ふむ」
「ある小隊を復活させる為に――」
 そこまで言った時だった。
 急に表情が険しくなったオキナが魔導拳銃剣を構える。
「何か物音がするぞい、ノゾミ嬢ちゃん」
 警戒の声に希は【魔装】の鞘を大地に降ろすと、機構に触れる。
 いつでも鞘を展開して【魔装】を取り出せるようにだ。
「まさか、歪虚に追われていたのでしょうか」
「いや、その鞘に入っているから大丈夫なはずじゃ……」
「それでは、偶然……ですか」
 月明かりの中、街道の周辺に広がる荒地に、何かが浮いていた。
 一瞬、ミュール関連の敵かと思ったが、そうではないようだ。
「姿は奇怪な機械のようじゃな。狂気とは違う様じゃが」
 オキナ渾身のおやじギャグを無視して希は【魔装】を展開した。
 見えたのは、金属のような外殻の球状物体だった。幾本もの針のように細い“脚”が出ていて、浮いているのか立っているのか判断が難しい。
 そして、物音に聞こえていたのは、何かの曲のようだった。勇壮で雄大な、行進曲のようにも聞こえる。
「これだけの数……どうしましょうか、オキナ」
「やるしかないじゃ――う! うぅっ!」
 ガクッと膝を地に付けるオキナ。
 手を腰に当てている。
「す、すまん。ノゾミ嬢ちゃん。ぎっくり腰じゃ!」
「えぇぇぇぇー!!」
 絶体絶命のピンチに希は【魔装】を確りと握り締めたのであった。

リプレイ本文

●ノゾミとオキナ
 月下の荒野に浮かぶのは、金属外殻の球体に針のようなものが生えている機械だった。
 それが歪虚化し負のマテリアルと、勇壮な曲を発し続けている。
「皆、行くぞ!」
 ヴァイス(ka0364)が仲間らに呼び掛けて、街道を駆け抜ける。
 機械歪虚が進む先に人影が見えたからだ。剣のようなものを構えているようにも見えた。
「あれは……ノゾミちゃん! ……と、オキナ?」
 目を見開きながらアルラウネ(ka4841)は驚きの声をあげた。
 用が無い限り二人の組み合わせは珍しいし、それに合わせてのこの状況だ。
「くそっ! 間に合えよ!!」
「ふむ……どの道、捨て置く訳には行きませんし。このまま敵の殲滅といきますか」
 瀬崎・統夜(ka5046)と鹿東 悠(ka0725)の二人も全速力で街道を進む。
 ハンター達は別依頼を遂行してきた後だ。残されたマテリアルは乏しい。
 先行するヴァイスを追い掛けるように星輝 Amhran(ka0724)は蒼機槍にマテリアルを込めて投げる。
 穂先が突き刺さった岩の横へとマテリアルに引っ張られるように進む。
「おにーちゃーん! いもーとよー。助太刀するぞや~!」
 その星輝の叫び声に紡伎 希(kz0174)は気が付いた。
 周囲を思わずキョロキョロ――“おにーちゃんが誰なのか”――とした隙を突かれ、機械歪虚が針のような物を飛ばす。
 針と言っても、ちょっとした木の幹位はある太さだ。当たればただでは済まない。
 直撃したそれは――誰かの祈りのおかげか、白い龍のオーラと共に消え去った。
「希、オキナ、大丈夫か!」
 続く機械歪虚の攻撃から、二人を庇ったのはヴァイスだった。
 いち早く到着するなり、盾を構える。マテリアルの力を使い、攻撃のベクトルを強引に捻じ曲げる。
「おぉ。これはすまんのう」
 座り込んで何とか顔を挙げたオキナが申し訳なさそうに言った。
「オキナ、あんたが動けなくなる程ヤバい能力を持った相手か!」
 初老とはいえ、この機導師の実力は高い。
 そのオキナがこうして身動きが取れないような状態なのだ。
「ぎ、ぎっくり腰じゃ……」
「ああ……歳じゃからか……」
 オキナの言い訳に到着したばかりの星輝が、光源代わりに松明を適当に地面に転がしつつ、遠い目をしながら呟いた。
 二人のやり取りに、最大限の警戒をしていたヴァイスが一瞬動きを止める。
「いや、まあ……確かに難敵と対峙しているのは変わりないか」
 戦闘でダメージを受けていれば回復魔法での改善があり得るが、持病となると、それは別だ。
 落ち着くまで、このままの方が良いだろう。
「今回のは、ちょいヤバイぞ」
「えぇい、根性見せぃ!」
「腰じゃなくて、敵じゃ、敵!」
 ぞろぞろと迫りくる機械歪虚。
 対するように、鹿東やアルラウネも到着した。
「一々状況を嘆いても仕方ないでしょう。『状況は常に最悪。それが当たり前』。敵はこちらの都合なんて気にしてくれませんよ」
「久しぶりね。お姉さんが助太刀に来たわよ~」
 動けないオキナを守りながら戦う事になるので、状況は良いとはいえないだろう。
 それでも、ハンター達の用意が良かった為、希とオキナに早期合流できた意味は大きい。
「間に合ったが……で、この五月蠅い曲はなんだ?」
 瀬崎が魔導銃を構えながら、疑問を口にした。
 機械歪虚からは、大層な行進曲のようなものが静寂な夜をぶち壊しているからだ。
 音楽からは負のマテリアルの波動のようなものは感じない。
「確かに……煩いですね。夜の演奏会は然るべき所でお願いしたい所ですよ」
 憮然とした様相で鹿東が応える。
 仲間とのやり取りはやや妨害されるが、戦闘自体には支障はない。
 となると、何の意味があってやっている事なのか。
(そう言えば、クリスマスの演奏会……と言うのも、季節的には良さそうですね)
 ふとそんな事を思いつつ、鹿東は一行の最前線に立った。
「即興なだけに簡易な連携で行きましょう」
「ノゾミちゃんには援護をお願いするね」
 馬に乗ったままアルラウネが鹿東の横に並ぶ。
「わ、分かりました」
 武器のモードを弓形態に切り替えながら希が返事をする。
 その時、瀬崎が放った魔導銃の発砲音が機械歪虚の行進曲を切り裂いて響いた。

●月下の戦闘
 鹿東が体内のマテリアルを燃やし、機械歪虚の誘引を試みる。
「……盲目的という訳ではなさそうですね」
 敵は集団から離れないように、有機的な動きを取った。
 多少の段差や障害物も、針のように突き出たものを伸ばしたり引っ込めたりして影響がないようだ。
「それでも、実際に動けば対処せざるを得ないはずです」
 針の間を狙って聖罰刃を突き出して攻撃。
 確かな手応えを感じる。装甲は見た目ほど硬くはなさそうだ。
 鹿東は敵をじっくりと観察しつつ反撃を受け払った。
 針を飛ばした箇所が無防備となり、そこにアルラウネが大太刀のリーチを活かして刀先をねじ込む。
「照明持ちを狙っているようにも見えないし……何が目的なんだろう」
 味方の射線を気にしつつ、間合いを調整するアルラウネ。
 瀬崎からの援護射撃は鹿東とアルラウネが手傷を負わせた敵を狙う。
「こちらも疲労があるから、各個撃破だな」
 マテリアルを集中させて放った弾丸が機械歪虚を貫く。
 すると、今まで行進曲のようなものを垂れ流していた敵が無機質な声を出して叫ぶ。
「ワレラガオウヨ、バンザイィィィ!」
 直後、ボロボロと外殻が崩れて、歪虚は砕け落ちた。
 どうやら、一定のダメージを与えれば倒せるようだ。
 発している言葉は気にはなるが、今は戦闘が最優先な状況にある。
「数があるようか?」
「そうみたいね。でも、隙を突いて雪崩れ込んでくるようじゃないみたいだ、し」
 歪虚の攻撃を無駄のない動きで避けるアルラウネ。
 前衛二人のハンターと向かい合うような形となる。
「きれいな月夜だし、ちょっとカッコつけてみたたくもなるね……明鏡止水―我が太刀は静――」
 大太刀を最上段に構えてアルラウネは精神を統一させる。
 横並びした歪虚を素早い刀捌きで斬りつけた。
「お姉さんだって、まだまだ伸びしろはあるんだから」
 確かな手応えに満足気に胸を張る。
 彼女が斬り抜けた後の敵に瀬崎は照準を合わす。
「よし、このまま追い打ちだな。希、やれるか?」
「はいっ!」
 二人が合わせた射撃が確実に一体ずつ機械歪虚を葬っていく。
 戦況はややハンター側が有利か……鹿東はそう感じながら、敵の動きを注意深く観察し続けていた。
 初見の敵だ。何をしでかしてくるか、見当もつかない。
「どういう原理か分かりませんが、飛べるようですね。後衛は気を付けて下さいね」
 並んだ敵の後ろにいた機械歪虚が宙に浮かび上がったのだ。
 フワフワと浮かんでいる。浮力があるような形状ではないので、マテリアル的な何か……なのかもしれない。
 その内に1体に対し、鹿東は手頃な岩をジャンプ台替わりに魔導バイクごと飛び上がった。
「帰投途中なだけに追加ボーナスでも貰いたいところだな!」
 体当たりするかのように聖罰刃で機械歪虚を叩きつけた。
 弾けるような音と共にバランスを崩した敵が地面へと叩きつけられる。
 落ちた先が瀬崎の目の前だったのは運が無かったようだ。銃口を直接当てられた機械歪虚は、やはり無機質な声で叫びながら倒される。
「ワレラガオウヨ、バンザイィィィ!」
 それでも幾体かの敵は月明かりの夜空に浮かぶ奇妙な姿のまま、空中を移動してきてオキナらの頭上に近づく。
「おおぉ!? 何かやばそうじゃ!」
 身動きの取れないオキナが空中から迫る敵を指さす。
 刹那、針のような攻撃が放たれた。だが、マテリアルの動きに直線的な機動が無理矢理、捻じ曲げられ、次々にヴァイスへと向かった。
 闘狩人としての力の一つだ。敵の攻撃ベクトルを自身に引き付けているのだ。
「俺がいる限り、この程度の攻撃なら、大丈夫だ」
「それは、頼もしいのう」
 オキナも希も守りつつ、耐え続けるヴァイス。
 流石に無傷といかないが、回復魔法もあるので、敵の攻撃が集中する形となっても影響は最小限となっている。
「星輝、いけるか?」
「当然じゃ」
 蒼機槍にマテリアルを込めながら、星輝が応える。
 ちらりと視線を希が持つ【魔装】へと向けた。
 【魔装】は何も言わなかったが気のせいか、機構がガチャっと動いた――気もする。
 仲間の話によると、【魔装】は会話ができる状況ではないという。
「あの時のお礼参りも出来んじゃろが……このヘタレめ……」
 僅かばかり目に涙を浮かべ、哀愁ある表情のまま、星輝は視線を戻すと、手に持っていたライトを口に咥えて両手で槍を構える。
 もごもごと言いながら、蒼機槍を宙に放つ星輝。
 技の名前を叫んでいるのかもしれないが、口に咥えているライトのせいでちゃんと聞こえない。
 それでも槍は不可思議な機動を描きながら、宙に浮く機械歪虚を貫いていく。
「守って貰ってばかりじゃ、儂もカッコがつかんの」
「無理はするなよ」
 オキナが腰に手を当てながら上体だけを起こす。
 手には機導術の発動体を握っていた。
「多分、ぎっくり腰はマテリアルに乗って注がれないと思うのじゃ」
「ちょっとドキドキする支援だのぅ」
 多重性強化で注ぎ込まれるマテリアルを感じつつ、星輝がニヤリと口元を緩めた。

●傲慢行進曲
 戦ってみてみれば、オキナに対する頭上からの攻撃が脅威なだけで、ハンター達が押し切った形となった。
「こいつで最後か」
 油断せずに瀬崎が言いながら、最後まで残った機械歪虚に向かって銃撃を放つ。
 小刻みに震える敵は行進曲を止めると「ワレラガオウヨ、バンザイィィィ!」と叫びつつ四散した。
「この馬鹿みたいな音はなんのつもりだ?」
 行進曲といい、最後に叫びといい、明らか何かの意図を感じる。
「増援でも呼ぼうというのか?」
 憮然とした表情の瀬崎の台詞に、鹿東は両肩を竦めてみせた。
 行進曲が流れている間、増援がどこからか現れる様子も無かった。
「まるで、ただ存在を示している……だけのようにも感じましたね」
 存在を示す行為自体に何か意味があるのだろうかと思案するが、理解に苦しむことだ。
 もっとも、相手は歪虚。人間とは思考回路そのものが違うかもしれない。
「それにしても……」
 僅かに残った機械歪虚の欠片を鹿東は手に取った。
 不可思議な金属だ。リアルブルーにも似たような合成金属はあるかもしれないが、同じではないと直感的に感じる。
「……どうですか、こちらの世界の物でしょうか?」
 同じように破片を拾っているアルラウネに尋ねる鹿東。
 月明かりに当てながら色々な角度からしげしげと眺めたアルラウネは首を横に振った。
「ちょっと分からないかな。詳しい人なら……」
 彼女は一行を見渡したが、金属片を知っている人は居そうには無かった。
 少なくとも、現在のクリムゾンウェストでは見かけないものであるのは確かなようだ。
「どちらにせよ、ギルドに報告ですね」
 鹿東の台詞に一行は頷いた。
 同じような敵が他の場所にも出現している可能性はあるかもしれないからだ。
 一段落しただろうと、ヴァイスが希の頭をいつものように、わしゃわしゃと撫でる。
「希、お疲れ様だ。オキナも大丈夫か?」
「はい。皆様のおかげで助かりました」
「一時はどうなるかと思ったわい」
 オキナの腰はようやく落ち着いてきたようだった。
 そこに星輝が背後から声を掛ける。
「ハ・カ・キお兄ちゃんよ、一物あるのではないか?」
「お兄ちゃんという年齢じゃないがのう」
「あの【魔装】で歪虚共を狩ると、力を吸収するとか、そういう仕組みではなかろうな?」
 “鞘”に【魔装】を戻している希を指さして尋ねる星輝に対し、オキナは首を横に振った。
「そんな事が出来れば、今頃、元の姿じゃろうに。アレはあのままじゃ」
「ふーん。そうなんだ、ノゾミちゃん」
 星輝とオキナの会話を聞いていたアルラウネが“鞘”を担いだ希に抱き着いた。
 “鞘”が邪魔で腕が回らず、身体が密着する。
「アルラウネ様、物凄く当たってます。というか、まだ成長しているのですが」
「いや、成長しているのは、ソレじゃなくて、ハンターとしての力量というか腕前の方で……」
「相変わらずの二人じゃな……ところで、あの煩わしかった曲……何処の曲か分かる者はおるかの?」
 一行を見渡す星輝だが、その反応に苦笑を浮かべる。
 曲が分かれば敵がどこから出て来たのか、そのヒントを得られると思ったからだ。
「流石に曲だけじゃな……そういえば、倒される間際に何か叫んでいたな」
 ヴァイスが機械歪虚の消え去った跡を見つめながら言った。
「確か、『ワレラガオウヨ、バンザイ』と言ったか」
「“我らが王よ、万歳”かの……まさか、コヤツら傲慢王の末端か。それならこの曲の説明もつきそうじゃな」
 思い出すように呟いた瀬崎の台詞に続いて星輝が考えるように口元に指を当てた。
 七眷属の一つ、傲慢――アイテルカイト――には、とある傾向が存在する。
 それは、その傲慢さから、相手からの畏怖や崇拝の念を向けられる事が当然であると思っているのだ。
 プライド高いアイテルカイトの事だ。自他から自身を賛美するものがあっても不思議ではない。
 その説明を聞いて鹿東が眉をひそめる。
「つまり、この曲は、傲慢が自分達の存在を知らしめる為に響かせていると……」
「物干し竿を売る移動販売車のようだな」
 そう考えれば、いかにも傲慢――アイテルカイト――らしい……かもしれない。
「もっとも、傲慢特有の能力を使ってこなかったから、傲慢かどうかは分からんの」
 なんとか立ち上がったオキナが言った。
 傲慢には【強制】や【懲罰】など厄介な能力を持つ歪虚もいるのだ。
 それらが使われれば傲慢歪虚だと分かるのだが、今回の敵は使ってくる様子はなかった。
「歪虚が何かを仕掛けてくる予兆なのか?」
「その可能性を考えておいた方が良い……儂はそう考えるがの」
 ヴァイスの問いにオキナが頷きながら答えた。
 月下に現れた敵は、今晩だけに出現した訳ではないかもしれない。
 これから起こるかもしれない何かを感じつつ、一行はギルドに向かって帰路につくのであった。 


 ハンター達の迅速な対応により、希もオキナも無事に古都へと到着する事が出来た。
 また、倒した敵から回収した金属片や情報はギルドや王国に伝えられたのであった。


 おしまい。


●希からの手紙
 ハンター達、一人ひとりに希からの手紙が届いたのは、月下の戦いの数日後の事だった。
 手紙の内容は、戦いでのお礼を告げる内容と、もう一つ、希がオフィスで収集した情報とオキナ独自の情報網から得られた情報を簡単にまとめたものが記されてあった。

 “王国各地で似たような襲撃が多数あるようです”
 “出現した敵自体に差異はあるものの、似たような曲を響かせているそうです”

 ――と。

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MVP一覧


  • ヴァイス・エリダヌスka0364
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠ka0725

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談の場
鹿東 悠(ka0725
人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/12/20 21:03:59
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/17 20:49:52