ゲスト
(ka0000)
【CF】メリー・ネコミマス
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/21 15:00
- 完成日
- 2019/01/04 10:59
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――寒い。寒いったら寒い。
寒いけど何か暑いような気もする。
頭ガンガンする……というか、頭だけじゃなくて関節痛い。
喉も痛い。鼻水止まんない。
何か視界までぐるぐる回ってる気がする……。
――その日は、朝から身体が重かった。
依頼を受けていた為嫌々布団から這い出て、何とか依頼を終わらせて、仕事終わりに食事に行こうという仲間の誘いを断って、何とか家まで辿りついて……。
布団に倒れ込んだらもう、動けなくなってしまった。
何だこれ。一体何が起きた。
朦朧とする頭にふと、今日ハンターズソサエティで会ったハンターオフィス職員、イソラの声が蘇った。
「……今、風邪が流行ってるそうですよ。身体が丈夫なハンターさんでも暫く寝込むくらいの強烈な風邪らしいんで、皆さんも気を付けてくだいね」
うがい手洗いはきちんとして……なんていう彼女の忠告を、うんうんと頷きながら聞き流していたけれど。
これってもしかして。もしかしなくても。そのイソラが言っていた『強烈な風邪』というやつではないだろうか!
何たる不幸。
外は聖輝節で賑やかだというのに何で布団とお友達にならないといけないのか!
――あ。寒い。
風邪と自覚したらもっと寒くなってきた。
寒い。寒いぞこれ。
布団を着込むようにして被るハンター。
一向に温かくなる気配がない。
部屋を暖めようかと思ったけれど動く元気もない。
どうしよう……。
ハンターは魔導スマホを手にすると、あの人に通信を試みた。
「……何? どうしたの? 今日は家に戻ったんじゃなかった?」
「さ、さむい……」
「え? 何?」
「たすけて……」
「ちょっと! どうしたの!?」
ハンター達の、苦しい聖輝節がが始まる。
寒いけど何か暑いような気もする。
頭ガンガンする……というか、頭だけじゃなくて関節痛い。
喉も痛い。鼻水止まんない。
何か視界までぐるぐる回ってる気がする……。
――その日は、朝から身体が重かった。
依頼を受けていた為嫌々布団から這い出て、何とか依頼を終わらせて、仕事終わりに食事に行こうという仲間の誘いを断って、何とか家まで辿りついて……。
布団に倒れ込んだらもう、動けなくなってしまった。
何だこれ。一体何が起きた。
朦朧とする頭にふと、今日ハンターズソサエティで会ったハンターオフィス職員、イソラの声が蘇った。
「……今、風邪が流行ってるそうですよ。身体が丈夫なハンターさんでも暫く寝込むくらいの強烈な風邪らしいんで、皆さんも気を付けてくだいね」
うがい手洗いはきちんとして……なんていう彼女の忠告を、うんうんと頷きながら聞き流していたけれど。
これってもしかして。もしかしなくても。そのイソラが言っていた『強烈な風邪』というやつではないだろうか!
何たる不幸。
外は聖輝節で賑やかだというのに何で布団とお友達にならないといけないのか!
――あ。寒い。
風邪と自覚したらもっと寒くなってきた。
寒い。寒いぞこれ。
布団を着込むようにして被るハンター。
一向に温かくなる気配がない。
部屋を暖めようかと思ったけれど動く元気もない。
どうしよう……。
ハンターは魔導スマホを手にすると、あの人に通信を試みた。
「……何? どうしたの? 今日は家に戻ったんじゃなかった?」
「さ、さむい……」
「え? 何?」
「たすけて……」
「ちょっと! どうしたの!?」
ハンター達の、苦しい聖輝節がが始まる。
リプレイ本文
その日、ラミア・マクトゥーム(ka1720)は姉に頼まれて酒場の新メニューに必要な材料を買付にやってきていた。
何だか疲れたし、早めに戻ろう……。そう思った彼女が異変に気付いたのは宿のベッドに倒れ込んでからだった。
――だるい。熱いし寒い。
……あれ? これ風邪……?
うーん。風邪なんて引かないと思ってたのに。
うー。寒い。姉さん……を呼ぶには離れ過ぎてるし。
そもそも客商売をしている人に風邪を伝染する訳にもいかないよね。
……あぁ、身体痛い。そうだ、イェルズに……。
「……って、あたし何考えてんの!?」
上擦った声をあげるラミア。いくら身体が辛いからって、イェルズに頼ろうなんて……。
そもそも何であいつなのさ。寝てれば治るし、こんなの。
――でも。声聞くくらい、いいよ、ね?
のろのろと魔導スマートフォンを手にするラミア。数コールの後に通信が繋がった。
「はい。もしもし」
「あ、イェルズ? ごめん、忙しかった?」
「いえ、大丈夫ですよ。何かありました?」
「ううん。別に。ちょっと声が聞きたくて……」
言いかけて咳き込むラミア。イェルズが息を飲む音が聞こえる。
「……もしかして具合悪いんですか?」
「あ、ううん。大丈夫だし。……じゃ、またね!」
慌てて通信を切るラミア。
もうちょっと話していたかった気もするけど。声が聞けて良かった。
……あんな切り方して心配させてないといいな。
さあ、寝てしまおう。寝ればすぐに治るはずだ――。
「……ラミアさん」
……あれ。通信切ったはずなのに。イェルズの声がする。
呼ばれて寝返りを打つ彼女。瞼を無理矢理開けると、心配そうな顔をした赤毛の青年が目に入った。
――こんなところにイェルズがいる訳がないし。夢かな……。何て都合のいい夢なんだろう。
「すごい熱じゃないですか。俺飲み物取って来ますから……」
「……飲み物要らない。ここにいて」
「ラミアさん?」
「手握ってて欲しいな……」
「……これでいいですか?」
「うん。イェルズの手温かい。――良かった。あんた生きてるんだね。ねえ、もう無茶しないで。あたし、あんたに死なれたら生きていられない。好きなんだもん。……聞いてる?」
「聞いてますよ。ラミアさん重症なんだなあって……。とりあえず寝て、熱下げましょう」
「あたしは正気……イェルズ。どこにも行かないで」
困ったような顔をしている彼。そのまま手が伸びて来て、髪を撫でられる。
……くすぐったいけど、安心して眠くなる――。
遠くでヒバリの囀る声が聞こえる。
……もう朝か。頭が痛いけど、熱は下がったかな……?
何かイェルズの夢を見てたような気がするけど、喉乾いたし起きて……って、なんかやけに腕が重いな……。
ふと横を向いた彼女。己の手を握ったまま突っ伏して寝ているイェルズに気づいて飛び上がった。
「ギャアアアアアアア!!?」
「うわあっ!? あ、ラミアさんおはようございます」
「おはよう……って、何でイェルズがここにいるのさ!?」
「何でってラミアさん具合悪そうだから様子見に来たんですよ。そのまま看病してたんですけど……覚えてないです?」
覚えてるような気がするけど思い出したくないっていうか……!
苦笑するイェルズにラミアは頭を抱える。
「わあああ。ごめん。迷惑かけたね……」
「迷惑ってことはないですけど。……その調子だと覚えてなさそうですね」
「えっ。あたし何か変なことした!?」
「気にしないで大丈夫ですよ。……熱は大分下がったかな? 生姜湯作って来ますから、大人しくしててください」
ぽんぽん、と頭を撫でられて固まるラミア。……暫く彼の顔をまともに見られそうになかった。
「すまん。本当に申し訳ない……!」
「分かったからそんなに謝るでない」
本日何度目かの謝罪を口にする鳳凰院ひりょ(ka3744)。
そんな彼に、トモネはため息をついて……。
大きな戦いを切り抜け気が抜けたのか、珍しく風邪を引いてしまったひりょ。
鳳凰院家の者で、家事や料理が出来るのは彼だけ。
妹達には事情を話して外食をしてくるように頼み、自分の世話くらいは何とかなるだろう……と布団に入ったのだが。
そう。彼は肝心な事を忘れていた。
今日はトモネと買い物に行く約束をしていたのだ……!
ベッドでぼんやりしていたら彼女がやって来て、そこで初めて思い出したと言う訳だ。
普段律儀で、約束など破ろうはずもない彼。あまりの申し訳なさに土下座してしまうのも無理のない話だった。
「俺としたことがお前との約束を失念するなど……」
「もう良い。すごい顔色をしておるぞ?」
「確かに体調は良くないな……。すまんが、外出は延期にさせて貰って良いだろうか」
「勿論。ひりょの体調の方が大事だ」
「……そう言って貰えると少し気が楽になるよ。しかし、風邪など久方ぶりだ。ハンターでも風邪をひくものなんだな」
「ハンターも人の子ということだな。さあ、布団に戻るがよい。そうだ、キッチンを借りても良いか?」
ひりょをベッドに追い立て、掛布団をそっとかけるトモネ。
彼女の問いに、ひりょは首を傾げる。
「……構わないが、何をする気だ?」
「しょうが紅茶を淹れてやろうと思ってな。身体が温まるぞ」
「それは有り難い。ついでに昨日の食事の残りを温めて貰えないだろうか」
「まだ食事を摂っておらなんだのか? 分かった、任せておけ」
胸を張るトモネは可愛いし、ありがたい話ではあるが……はて、彼女の料理の腕前はどうなのだろう?
ひりょはベッドから降りるとトモネの後ろをついていく。
「何をしておる」
「何って、勝手を知っている者が一緒にいた方がいいだろう」
「それではひりょが休めぬではないか! いいから大人しくしておれ!」
再びベッドに追い立てられるひりょ。
どうやら手伝わせてくれる気はないらしい……。
不安な面持ちで待つこと数分。お盆を手にしたトモネが戻ってきた。
お皿から立ち昇る湯気。ティーポットから注がれる琥珀色が綺麗で……ひりょは目を細める。
「ひりょ。待たせたな。ほら。お茶と食事だ。起き上がれるか?」
「ああ、大丈夫だ。……何から何まですまん。トモネは料理が上手なんだな」
「そうか? 必要だったから覚えただけの話だ」
「……どういう意味だ?」
「私が孤児であったことは知っておろう?」
「ああ。前総帥に引き取られたんだったな」
「そうだ。次期総帥として望まれた私の行く末を父上は心配されておられた。……出自を突いて来る輩が現れるだろうとな。それ故、出自が相殺出来る程の完璧さ得る為に、色々習ったのだ。それに……父上は身体が弱い方だったから、良くお世話をしたものだ。お陰で看病はお手のものだぞ」
トモネは何でもないことのように言うが、幼い彼女がここまで出来るというのは、相当な努力を積んでいた筈だ。
健気な少女の髪を撫でて、ひりょは呟く。
「……トモネ。俺の前でまで無理することはないんだぞ?」
「その言葉そっくり返すぞ。全くこんなに熱があるのにキッチンに立とうとしおって!」
「これは痛いところを突かれたな。……今日はありがとうな、トモネ。1人だったらきつかったかもしれない」
「うむ。どんどん頼ってくれてよいぞ! あ、食べさせてやろうか?」
「一人で食べられるよ」
身を乗り出すトモネに慌てる彼。
――たまにはこうして、誰かに頼るのもいいな。
そう思ったひりょだった。
「ううう……。……ごめんねえ」
「良いんですよ。子供達喜んでましたし。こちらこそ無理させてしまってすみませんでした」
「ううん。すぐ調子に乗るの私の悪い癖だなぁ……」
気遣いを見せるイェルズを、布団の中でガクガク震えながら申し訳なさそうに見上げるシアーシャ(ka2507)。
この冬、色々と精力的に活動していた彼女。気が付けば輝紅士になっていた。
輝紅士のスキルは戦いで使うには少し難しいものが多かったが、何より楽しい! 盛り上げに最適!!
丁度聖輝節の季節だし、子供達に披露してあげよう!!
……なんて、オイマト族の逗留地に遊びに行って、はしゃいでいた矢先にばったり倒れたのだ。
風邪なのか頑張り過ぎなのか、どちらなのか分からなかったが、とにかく倦怠感と熱が酷く、シアーシャは布団から動けなくなっていた。
「薬湯持って来ましたよ。起き上がれますか?」
「……ちょっと難しそう……かも……」
「じゃあちょっと失礼しますね」
迷わず背中を支えて助け起こすイェルズに、ぼんやりとしていたシアーシャも流石に慌てる。
わあ!? 顔! 顔近い!!
服とか髪とかぐちゃぐちゃなのに、こんな近くに来られると……!
いやいや、何で慌ててんの私!!?
心を落ち着けるべく、イェルズから受け取ったコップに口をつけたシアーシャ。
その味に思わず顔を顰める。
「……うわぁ。苦い……」
「我慢してください。オイマト族に古くから伝わるものなんで、良く効きますよ」
「そうなんだ……。オイマト族はすごいねえ。色々作れて……」
「オイマト族だけじゃないですよ。辺境部族は自然から恵みを戴いて、それを利用して生きてますから。この薬湯についてはもうちょっと味が良くなるといいんですけどね」
「……お薬だもん。仕方ないよね」
寄り掛かり易いようにシアーシャの背中にクッションを敷くイェルズ。上着までかけてくれて……細やかな気遣いがありがたい。
「ごめんね、お部屋占領しちゃって……」
「大丈夫ですよ。ここベルカナの部屋ですけど、聖地に行っていて不在ですし」
「……ベルカナさん? 妹さんだっけ」
「はい。この熱じゃ帰るのは無理ですから、今日は泊まってゆっくり休んで下さい」
イェルズの声にこくりと頷くシアーシャ。
妹さんの部屋とはいえ、勝手に使ってしまうことになって申し訳ないような気もする。
とはいえ、家で1人で寝込んでいたらこんな風に手厚く看ては貰えなかっただろうし。
夜には帰るはずだったのに、こうして泊まることになって、長く一緒にいられることが……。
――やだ。私今、嬉しいって思わなかった?
忙しいイェルズさんを助けるつもりが、逆に足手まといになったのに。
何を自分勝手なこと考えてるんだろう……。
彼女はしょんぼりとして、手元の薬湯を見つめる。
……悪寒で震えている筈なのに、何だか温かいのは薬湯のせい? ドキドキしているのは熱が高いから?
――ううん。それだけじゃない気がする。
「ねえ、イェルズさん」
「はい?」
「勝手なことだけど……。ハンターになってからは、風邪をひいても怪我をしてもずっとひとりだったから。誰かがいてくれると嬉しいね」
「具合悪くなると心細くなりますよね。……と、部屋の温度下がってきたかな。ちょっと火鉢持って来ますね」
「うん。ありがと」
イェルズの背を見送るシアーシャ。残りの薬湯をグイッと飲み干して、布団に潜り込む。
――『誰か』がいてくれるから嬉しい、と言ったけれど、それは違う。
誰でも良い訳じゃなくて……この人だから嬉しいんだ。
この気持ちは何なのかな……。
シアーシャはそんなことを考えながら、眠りに落ちて行った。
「……すまぬのう。おんしを休ませるつもりが返って手間をかけてしまった」
「……いや、構わん。お前の行動には驚いたがな……」
「子等が無事で良かったが……後の姿は誇れるものでは無かったのう。反省しよるよ」
真っ赤な顔をして、すっかり弱っている様子の蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)に布団をかけるバタルトゥ。
オイマト族の逗留地にやって来て、子供達と遊んでいた蜜鈴。
足を滑らせ、川に転落しそうになった子供を助けあげたまでは良かったが、落とし物をしたと叫び、再び川の中に飛び込んで行き……結果として寒中水泳をする結果となった彼女は、瞬く間に熱を出して寝込んでしまった。
硝子玉のような石がついた根付を不思議そうに見つめているバタルトゥに、蜜鈴は弱々しい笑みを返す。
「これが気になるかや? ……これは妾が失うたものの中で……唯一残ったものでな。妾の騎士がくれた……最初で最後の贈り物じゃ」
「……そうか。立ち入ったことを聞いて悪かった……」
「何故謝る……?」
「……お前がそこまで必死になる程のものだ……。察して然るべきだった……」
「人の事情など聴かねば分かるまいて……おんしは遠慮が過ぎるのじゃ」
そこまで言って、ため息をつく蜜鈴。熱が高いせいか、ぼんやりとしたまま手を伸ばす。
「……のう、おんし。……ひととき、寝入る迄で良い。……手を、借りれぬか?」
その手を無言で取るバタルトゥ。
傷だらけの、武骨で……それでも温かい手。
それをきゅっと握り締めて、蜜鈴は安心したように微睡に落ちていく――。
――ああ、音が聞こえる。
笑い声。話し声。歩く音。走る音――賑やかで温かな人の気配。
……そうだ。これは妾がかつて持っていたもの。
懐かしく、愛しい。龍の伝承と共に生きた温かな我が故郷――。
そして横にある、静かな温もり。
――おんし。そこにいるのかえ?
もうどこにも行かないでおくれ。……妾を、置いていかないでおくれ。
「……蜜鈴?」
――そうじゃ。その名は始祖と同じ髪と瞳を持つ祝福された娘のもの。
大切なものを守れず、騎士に生きろと願われた娘。
――何故連れて行ってくれなかったのじゃ。妾独り生きて何になろうや。
「……すまない。それでも……」
……分かっておる。妾は生きる。おんしらの想いを忘れはせぬよ。たまには恨み言の一つも言わせておくれ――。
蜜鈴がふと目を覚ますと、座ったまま寝ているバタルトゥの姿が目に入った。
握られた手を振り払うこともできず、かといって横になるのも憚られて――思い悩んだ故の行動だったのだろう。
……前から少し思っていたことだが。この男は己の騎士にどこか似ている。
あまり喋らない静かな人物だからかと思っていたが――魂の在り方も近いのかもしれない。
……こんな妙なことを考えるのは、昔の夢を見ていたからか。
いやはや、病というのは恐ろしい。人の弱い部分をこうも簡単に暴き出すのだから。
「……さて。そろそろお暇するかの」
まだフラつくが、起き上れないことはない。そっと布団を抜け出そうとした蜜鈴だったが、手を掴まれて阻まれた。
「……どこへ行く気だ」
「おや。起きておったのかえ? 族長殿は目敏いのう」
「……眠りは浅い方でな。まだ熱が下がり切っていないようだ……。もう少し大人しくしていろ……」
「もう動ける。これ以上おんしの負担になる訳には……」
「俺には無茶をするなと言って、自分はするのか……?」
「……むう。これは一本取られたのう。ではお言葉に甘えるとするかの」
「……そうしてくれ。……粥と薬湯を持ってくる」
頷き返す蜜鈴。懐かしい記憶を胸にしまって、彼女は布団に倒れ込んだ。
何だか疲れたし、早めに戻ろう……。そう思った彼女が異変に気付いたのは宿のベッドに倒れ込んでからだった。
――だるい。熱いし寒い。
……あれ? これ風邪……?
うーん。風邪なんて引かないと思ってたのに。
うー。寒い。姉さん……を呼ぶには離れ過ぎてるし。
そもそも客商売をしている人に風邪を伝染する訳にもいかないよね。
……あぁ、身体痛い。そうだ、イェルズに……。
「……って、あたし何考えてんの!?」
上擦った声をあげるラミア。いくら身体が辛いからって、イェルズに頼ろうなんて……。
そもそも何であいつなのさ。寝てれば治るし、こんなの。
――でも。声聞くくらい、いいよ、ね?
のろのろと魔導スマートフォンを手にするラミア。数コールの後に通信が繋がった。
「はい。もしもし」
「あ、イェルズ? ごめん、忙しかった?」
「いえ、大丈夫ですよ。何かありました?」
「ううん。別に。ちょっと声が聞きたくて……」
言いかけて咳き込むラミア。イェルズが息を飲む音が聞こえる。
「……もしかして具合悪いんですか?」
「あ、ううん。大丈夫だし。……じゃ、またね!」
慌てて通信を切るラミア。
もうちょっと話していたかった気もするけど。声が聞けて良かった。
……あんな切り方して心配させてないといいな。
さあ、寝てしまおう。寝ればすぐに治るはずだ――。
「……ラミアさん」
……あれ。通信切ったはずなのに。イェルズの声がする。
呼ばれて寝返りを打つ彼女。瞼を無理矢理開けると、心配そうな顔をした赤毛の青年が目に入った。
――こんなところにイェルズがいる訳がないし。夢かな……。何て都合のいい夢なんだろう。
「すごい熱じゃないですか。俺飲み物取って来ますから……」
「……飲み物要らない。ここにいて」
「ラミアさん?」
「手握ってて欲しいな……」
「……これでいいですか?」
「うん。イェルズの手温かい。――良かった。あんた生きてるんだね。ねえ、もう無茶しないで。あたし、あんたに死なれたら生きていられない。好きなんだもん。……聞いてる?」
「聞いてますよ。ラミアさん重症なんだなあって……。とりあえず寝て、熱下げましょう」
「あたしは正気……イェルズ。どこにも行かないで」
困ったような顔をしている彼。そのまま手が伸びて来て、髪を撫でられる。
……くすぐったいけど、安心して眠くなる――。
遠くでヒバリの囀る声が聞こえる。
……もう朝か。頭が痛いけど、熱は下がったかな……?
何かイェルズの夢を見てたような気がするけど、喉乾いたし起きて……って、なんかやけに腕が重いな……。
ふと横を向いた彼女。己の手を握ったまま突っ伏して寝ているイェルズに気づいて飛び上がった。
「ギャアアアアアアア!!?」
「うわあっ!? あ、ラミアさんおはようございます」
「おはよう……って、何でイェルズがここにいるのさ!?」
「何でってラミアさん具合悪そうだから様子見に来たんですよ。そのまま看病してたんですけど……覚えてないです?」
覚えてるような気がするけど思い出したくないっていうか……!
苦笑するイェルズにラミアは頭を抱える。
「わあああ。ごめん。迷惑かけたね……」
「迷惑ってことはないですけど。……その調子だと覚えてなさそうですね」
「えっ。あたし何か変なことした!?」
「気にしないで大丈夫ですよ。……熱は大分下がったかな? 生姜湯作って来ますから、大人しくしててください」
ぽんぽん、と頭を撫でられて固まるラミア。……暫く彼の顔をまともに見られそうになかった。
「すまん。本当に申し訳ない……!」
「分かったからそんなに謝るでない」
本日何度目かの謝罪を口にする鳳凰院ひりょ(ka3744)。
そんな彼に、トモネはため息をついて……。
大きな戦いを切り抜け気が抜けたのか、珍しく風邪を引いてしまったひりょ。
鳳凰院家の者で、家事や料理が出来るのは彼だけ。
妹達には事情を話して外食をしてくるように頼み、自分の世話くらいは何とかなるだろう……と布団に入ったのだが。
そう。彼は肝心な事を忘れていた。
今日はトモネと買い物に行く約束をしていたのだ……!
ベッドでぼんやりしていたら彼女がやって来て、そこで初めて思い出したと言う訳だ。
普段律儀で、約束など破ろうはずもない彼。あまりの申し訳なさに土下座してしまうのも無理のない話だった。
「俺としたことがお前との約束を失念するなど……」
「もう良い。すごい顔色をしておるぞ?」
「確かに体調は良くないな……。すまんが、外出は延期にさせて貰って良いだろうか」
「勿論。ひりょの体調の方が大事だ」
「……そう言って貰えると少し気が楽になるよ。しかし、風邪など久方ぶりだ。ハンターでも風邪をひくものなんだな」
「ハンターも人の子ということだな。さあ、布団に戻るがよい。そうだ、キッチンを借りても良いか?」
ひりょをベッドに追い立て、掛布団をそっとかけるトモネ。
彼女の問いに、ひりょは首を傾げる。
「……構わないが、何をする気だ?」
「しょうが紅茶を淹れてやろうと思ってな。身体が温まるぞ」
「それは有り難い。ついでに昨日の食事の残りを温めて貰えないだろうか」
「まだ食事を摂っておらなんだのか? 分かった、任せておけ」
胸を張るトモネは可愛いし、ありがたい話ではあるが……はて、彼女の料理の腕前はどうなのだろう?
ひりょはベッドから降りるとトモネの後ろをついていく。
「何をしておる」
「何って、勝手を知っている者が一緒にいた方がいいだろう」
「それではひりょが休めぬではないか! いいから大人しくしておれ!」
再びベッドに追い立てられるひりょ。
どうやら手伝わせてくれる気はないらしい……。
不安な面持ちで待つこと数分。お盆を手にしたトモネが戻ってきた。
お皿から立ち昇る湯気。ティーポットから注がれる琥珀色が綺麗で……ひりょは目を細める。
「ひりょ。待たせたな。ほら。お茶と食事だ。起き上がれるか?」
「ああ、大丈夫だ。……何から何まですまん。トモネは料理が上手なんだな」
「そうか? 必要だったから覚えただけの話だ」
「……どういう意味だ?」
「私が孤児であったことは知っておろう?」
「ああ。前総帥に引き取られたんだったな」
「そうだ。次期総帥として望まれた私の行く末を父上は心配されておられた。……出自を突いて来る輩が現れるだろうとな。それ故、出自が相殺出来る程の完璧さ得る為に、色々習ったのだ。それに……父上は身体が弱い方だったから、良くお世話をしたものだ。お陰で看病はお手のものだぞ」
トモネは何でもないことのように言うが、幼い彼女がここまで出来るというのは、相当な努力を積んでいた筈だ。
健気な少女の髪を撫でて、ひりょは呟く。
「……トモネ。俺の前でまで無理することはないんだぞ?」
「その言葉そっくり返すぞ。全くこんなに熱があるのにキッチンに立とうとしおって!」
「これは痛いところを突かれたな。……今日はありがとうな、トモネ。1人だったらきつかったかもしれない」
「うむ。どんどん頼ってくれてよいぞ! あ、食べさせてやろうか?」
「一人で食べられるよ」
身を乗り出すトモネに慌てる彼。
――たまにはこうして、誰かに頼るのもいいな。
そう思ったひりょだった。
「ううう……。……ごめんねえ」
「良いんですよ。子供達喜んでましたし。こちらこそ無理させてしまってすみませんでした」
「ううん。すぐ調子に乗るの私の悪い癖だなぁ……」
気遣いを見せるイェルズを、布団の中でガクガク震えながら申し訳なさそうに見上げるシアーシャ(ka2507)。
この冬、色々と精力的に活動していた彼女。気が付けば輝紅士になっていた。
輝紅士のスキルは戦いで使うには少し難しいものが多かったが、何より楽しい! 盛り上げに最適!!
丁度聖輝節の季節だし、子供達に披露してあげよう!!
……なんて、オイマト族の逗留地に遊びに行って、はしゃいでいた矢先にばったり倒れたのだ。
風邪なのか頑張り過ぎなのか、どちらなのか分からなかったが、とにかく倦怠感と熱が酷く、シアーシャは布団から動けなくなっていた。
「薬湯持って来ましたよ。起き上がれますか?」
「……ちょっと難しそう……かも……」
「じゃあちょっと失礼しますね」
迷わず背中を支えて助け起こすイェルズに、ぼんやりとしていたシアーシャも流石に慌てる。
わあ!? 顔! 顔近い!!
服とか髪とかぐちゃぐちゃなのに、こんな近くに来られると……!
いやいや、何で慌ててんの私!!?
心を落ち着けるべく、イェルズから受け取ったコップに口をつけたシアーシャ。
その味に思わず顔を顰める。
「……うわぁ。苦い……」
「我慢してください。オイマト族に古くから伝わるものなんで、良く効きますよ」
「そうなんだ……。オイマト族はすごいねえ。色々作れて……」
「オイマト族だけじゃないですよ。辺境部族は自然から恵みを戴いて、それを利用して生きてますから。この薬湯についてはもうちょっと味が良くなるといいんですけどね」
「……お薬だもん。仕方ないよね」
寄り掛かり易いようにシアーシャの背中にクッションを敷くイェルズ。上着までかけてくれて……細やかな気遣いがありがたい。
「ごめんね、お部屋占領しちゃって……」
「大丈夫ですよ。ここベルカナの部屋ですけど、聖地に行っていて不在ですし」
「……ベルカナさん? 妹さんだっけ」
「はい。この熱じゃ帰るのは無理ですから、今日は泊まってゆっくり休んで下さい」
イェルズの声にこくりと頷くシアーシャ。
妹さんの部屋とはいえ、勝手に使ってしまうことになって申し訳ないような気もする。
とはいえ、家で1人で寝込んでいたらこんな風に手厚く看ては貰えなかっただろうし。
夜には帰るはずだったのに、こうして泊まることになって、長く一緒にいられることが……。
――やだ。私今、嬉しいって思わなかった?
忙しいイェルズさんを助けるつもりが、逆に足手まといになったのに。
何を自分勝手なこと考えてるんだろう……。
彼女はしょんぼりとして、手元の薬湯を見つめる。
……悪寒で震えている筈なのに、何だか温かいのは薬湯のせい? ドキドキしているのは熱が高いから?
――ううん。それだけじゃない気がする。
「ねえ、イェルズさん」
「はい?」
「勝手なことだけど……。ハンターになってからは、風邪をひいても怪我をしてもずっとひとりだったから。誰かがいてくれると嬉しいね」
「具合悪くなると心細くなりますよね。……と、部屋の温度下がってきたかな。ちょっと火鉢持って来ますね」
「うん。ありがと」
イェルズの背を見送るシアーシャ。残りの薬湯をグイッと飲み干して、布団に潜り込む。
――『誰か』がいてくれるから嬉しい、と言ったけれど、それは違う。
誰でも良い訳じゃなくて……この人だから嬉しいんだ。
この気持ちは何なのかな……。
シアーシャはそんなことを考えながら、眠りに落ちて行った。
「……すまぬのう。おんしを休ませるつもりが返って手間をかけてしまった」
「……いや、構わん。お前の行動には驚いたがな……」
「子等が無事で良かったが……後の姿は誇れるものでは無かったのう。反省しよるよ」
真っ赤な顔をして、すっかり弱っている様子の蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)に布団をかけるバタルトゥ。
オイマト族の逗留地にやって来て、子供達と遊んでいた蜜鈴。
足を滑らせ、川に転落しそうになった子供を助けあげたまでは良かったが、落とし物をしたと叫び、再び川の中に飛び込んで行き……結果として寒中水泳をする結果となった彼女は、瞬く間に熱を出して寝込んでしまった。
硝子玉のような石がついた根付を不思議そうに見つめているバタルトゥに、蜜鈴は弱々しい笑みを返す。
「これが気になるかや? ……これは妾が失うたものの中で……唯一残ったものでな。妾の騎士がくれた……最初で最後の贈り物じゃ」
「……そうか。立ち入ったことを聞いて悪かった……」
「何故謝る……?」
「……お前がそこまで必死になる程のものだ……。察して然るべきだった……」
「人の事情など聴かねば分かるまいて……おんしは遠慮が過ぎるのじゃ」
そこまで言って、ため息をつく蜜鈴。熱が高いせいか、ぼんやりとしたまま手を伸ばす。
「……のう、おんし。……ひととき、寝入る迄で良い。……手を、借りれぬか?」
その手を無言で取るバタルトゥ。
傷だらけの、武骨で……それでも温かい手。
それをきゅっと握り締めて、蜜鈴は安心したように微睡に落ちていく――。
――ああ、音が聞こえる。
笑い声。話し声。歩く音。走る音――賑やかで温かな人の気配。
……そうだ。これは妾がかつて持っていたもの。
懐かしく、愛しい。龍の伝承と共に生きた温かな我が故郷――。
そして横にある、静かな温もり。
――おんし。そこにいるのかえ?
もうどこにも行かないでおくれ。……妾を、置いていかないでおくれ。
「……蜜鈴?」
――そうじゃ。その名は始祖と同じ髪と瞳を持つ祝福された娘のもの。
大切なものを守れず、騎士に生きろと願われた娘。
――何故連れて行ってくれなかったのじゃ。妾独り生きて何になろうや。
「……すまない。それでも……」
……分かっておる。妾は生きる。おんしらの想いを忘れはせぬよ。たまには恨み言の一つも言わせておくれ――。
蜜鈴がふと目を覚ますと、座ったまま寝ているバタルトゥの姿が目に入った。
握られた手を振り払うこともできず、かといって横になるのも憚られて――思い悩んだ故の行動だったのだろう。
……前から少し思っていたことだが。この男は己の騎士にどこか似ている。
あまり喋らない静かな人物だからかと思っていたが――魂の在り方も近いのかもしれない。
……こんな妙なことを考えるのは、昔の夢を見ていたからか。
いやはや、病というのは恐ろしい。人の弱い部分をこうも簡単に暴き出すのだから。
「……さて。そろそろお暇するかの」
まだフラつくが、起き上れないことはない。そっと布団を抜け出そうとした蜜鈴だったが、手を掴まれて阻まれた。
「……どこへ行く気だ」
「おや。起きておったのかえ? 族長殿は目敏いのう」
「……眠りは浅い方でな。まだ熱が下がり切っていないようだ……。もう少し大人しくしていろ……」
「もう動ける。これ以上おんしの負担になる訳には……」
「俺には無茶をするなと言って、自分はするのか……?」
「……むう。これは一本取られたのう。ではお言葉に甘えるとするかの」
「……そうしてくれ。……粥と薬湯を持ってくる」
頷き返す蜜鈴。懐かしい記憶を胸にしまって、彼女は布団に倒れ込んだ。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/16 19:53:42 |