ゲスト
(ka0000)
【初夢】キミカノ
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2019/01/09 15:00
- 完成日
- 2019/01/23 00:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
時は年末、今年もよく働いた。
休日返上の日もあった位で気付けば恋愛なんてしてる余裕がなかった。
そんな帰り道、年末セールで立ち寄ったおもちゃ屋で見つけたのは一つのタイトル――。
それは恋愛シュミレーションという恋愛を疑似体験できるゲームソフトだ。
「あ…この子、かわいいかも…」
パッケージの裏には恋愛対象となるキャラクターが描かれ、それぞれに声優が割り当てられている。
その割り当てられた声優さんも実は自分の好みにぴったりだ。
「うーん、どうすっかなー?」
年始は長めの休暇を取っている。年末ギリギリまで働いたのだから当然だ。
(炬燵でのんびりゲーム三昧…それもいいなぁ)
聞き慣れないタイトルだったが、好みの絵柄にも背中を押されて早速レジへ。
「三百円になりまーす」
思いの外安い値段に得した気分。
もしかすると、駄作かもしれないが、声優は豪華だしそれだけでも買う価値はあるだろう。
「ほい…じゃあこれで」
溜まっていた小銭を集めて、三百円を作りトレーに入れる。これで財布も足取りも軽くなる。
外に出た頃には止んでいた筈の雪がまたチラついて、どうもこの分だと積もりそうだ。
「…よし、帰るか」
これからの数日。このゲームは果たしてどれだけ自分を楽しませてくれるのだろう。
翌日、一人暮らしをいいことに大掃除なんてそっちのけでカップラーメンでも作りつつ、買ってきたばかりのソフトを本体にセットする。
「萌え萌えしたいあなたへ…か。今思えば在り来たりなキャッチコピーだよな」
売り文句は重要だが、それはそれ。問題は中身だ。安い文句でも中身がよければそれでいい。
制作会社のロゴが流れた後、OPムービーが始まる。
「おお、なかなかいいじゃんか」
丁寧なアニメーションに歌もそこそこ好印象。どうやらストーリーはフルボイスらしい。
「これは掘り出しものだぜ」
アップテンポの曲を聞きながらコントローラーを握りしめる。
プレーヤーとなる主人公はクリムゾンウエストと言う世界の武器職人らしかった。
田舎から単身出てきて、今や天才ルーキーとして名が知れているが、実は少し子供が苦手な一面も。
普段は標準語を話す彼であるが、動揺したり焦ったりすると関西弁が出るというユニークなキャラ設定をしている。そんな彼の元には日夜ハンターという名の冒険者が集まり、その中の何人かと恋仲になるというストーリーらしい。始めのうちは他愛のない会話が展開されていたが、後半はモンスターの襲撃や嫌がらせへの対応、果ては伝説の武器探しなんかのイベントもあり盛り沢山。少しだけするつもりがいつの間にか熱中し、気付けばお目当てのお相手との好感度もMAX手前まで来てしまっているではないか。
「やべっ、麺だだのびだぜ…」
うっかりほっといてしまったばかりに楽しみにとっていた限定版のカップラーメンが台無しだ。
「くそっ、これ今年いっぱいしか売ってないんだっけ」
折角並んで買ったカップ麺。けれど、これでは本当のおいしさを味わえない。
(しゃーない。もう一回買って来るか)
ゲームは気になるけれど、このカップ麺も自分にとっては大事なのだ。
まだ残っている事を祈りつつ、コンビニに走る。
(最高のEDと最高のカップ麺。これは断然燃えてきた)
寒い歩道を歩きながら、それでも心は温かかった。
休日返上の日もあった位で気付けば恋愛なんてしてる余裕がなかった。
そんな帰り道、年末セールで立ち寄ったおもちゃ屋で見つけたのは一つのタイトル――。
それは恋愛シュミレーションという恋愛を疑似体験できるゲームソフトだ。
「あ…この子、かわいいかも…」
パッケージの裏には恋愛対象となるキャラクターが描かれ、それぞれに声優が割り当てられている。
その割り当てられた声優さんも実は自分の好みにぴったりだ。
「うーん、どうすっかなー?」
年始は長めの休暇を取っている。年末ギリギリまで働いたのだから当然だ。
(炬燵でのんびりゲーム三昧…それもいいなぁ)
聞き慣れないタイトルだったが、好みの絵柄にも背中を押されて早速レジへ。
「三百円になりまーす」
思いの外安い値段に得した気分。
もしかすると、駄作かもしれないが、声優は豪華だしそれだけでも買う価値はあるだろう。
「ほい…じゃあこれで」
溜まっていた小銭を集めて、三百円を作りトレーに入れる。これで財布も足取りも軽くなる。
外に出た頃には止んでいた筈の雪がまたチラついて、どうもこの分だと積もりそうだ。
「…よし、帰るか」
これからの数日。このゲームは果たしてどれだけ自分を楽しませてくれるのだろう。
翌日、一人暮らしをいいことに大掃除なんてそっちのけでカップラーメンでも作りつつ、買ってきたばかりのソフトを本体にセットする。
「萌え萌えしたいあなたへ…か。今思えば在り来たりなキャッチコピーだよな」
売り文句は重要だが、それはそれ。問題は中身だ。安い文句でも中身がよければそれでいい。
制作会社のロゴが流れた後、OPムービーが始まる。
「おお、なかなかいいじゃんか」
丁寧なアニメーションに歌もそこそこ好印象。どうやらストーリーはフルボイスらしい。
「これは掘り出しものだぜ」
アップテンポの曲を聞きながらコントローラーを握りしめる。
プレーヤーとなる主人公はクリムゾンウエストと言う世界の武器職人らしかった。
田舎から単身出てきて、今や天才ルーキーとして名が知れているが、実は少し子供が苦手な一面も。
普段は標準語を話す彼であるが、動揺したり焦ったりすると関西弁が出るというユニークなキャラ設定をしている。そんな彼の元には日夜ハンターという名の冒険者が集まり、その中の何人かと恋仲になるというストーリーらしい。始めのうちは他愛のない会話が展開されていたが、後半はモンスターの襲撃や嫌がらせへの対応、果ては伝説の武器探しなんかのイベントもあり盛り沢山。少しだけするつもりがいつの間にか熱中し、気付けばお目当てのお相手との好感度もMAX手前まで来てしまっているではないか。
「やべっ、麺だだのびだぜ…」
うっかりほっといてしまったばかりに楽しみにとっていた限定版のカップラーメンが台無しだ。
「くそっ、これ今年いっぱいしか売ってないんだっけ」
折角並んで買ったカップ麺。けれど、これでは本当のおいしさを味わえない。
(しゃーない。もう一回買って来るか)
ゲームは気になるけれど、このカップ麺も自分にとっては大事なのだ。
まだ残っている事を祈りつつ、コンビニに走る。
(最高のEDと最高のカップ麺。これは断然燃えてきた)
寒い歩道を歩きながら、それでも心は温かかった。
リプレイ本文
●幻獣のおねぇさん編
「おーい、ギア。出来てるか?」
霊闘士に相応しい鍛え抜かれた肉体に燃えるような赤い髪、彼女の名前はボルディア・コンフラムス(ka0796)と言う。今日も周りの職人の目を気にする事なく、一直線に僕の元へと歩いてくる。
「ええ、メンテナンスは完了していますよ。しかし、また派手にやりましたね」
彼女の獲物は魔斧『モレク』…全長250cmもある巨大な斧だ。地獄の炎を連想させる明滅する斧頭であるが、ここに届いた時にはかなりの刃毀れが起こり、本来の力の半分が失われていたと思う。本来ならこの手の大物は先輩が扱うのであるが、噂を聞いてご指名とあらば話は別だ。
「派手って言ってもそれが仕事だからな。敵をぶん殴るのに手加減は必要ネェだろう?」
まるでバーでお酒を片手に話す様に、彼女が言う。
「まぁ、そうですが…たまにはこの子を労わってやって下さいね。なんたってあなたのパートナーなのですから」
皮肉交じりに僕がそう返す。武器職人として武器が活躍するを嬉しく思うものの、やはり乱暴に扱われ呆気なく壊れてしまうのは見ていられない。
「ハッ、まあなぁ。けど、こいつは俺の力を食らうんだぜ? お互い様だろ」
力を食らうとはどういう事か。世界には只の武器では済ませない伝説や曰く付きのものが存在する。
その一つがこれだ。魔斧と名がついているのはその為で、生贄を食らう悪魔の名がついている為かパワーと引き換えに使用者の生命力を奪うのだと言われている。だが、そんなのはハッキリ言って信じられない。仮にもしそれが本当だとしたら、彼女はなぜ今もピンピンしているのか。確かに刃を叩き直した時、僅かな違和感を感じたが、それは伝説級の物が持つ特有の『何か』であり、決して呪いなんていう陳腐な言葉で言い現わしてはいけないのだ。
「またまた冗談でしょう? そう言うのは僕信じませんからね」
僕がそう言い、仕上がったモレクの元に案内する。
するとそれを見た彼女は喜々としてその斧を取り上げて…、
「おいおい、マジかよ……全然輝きが違うじゃねぇか!?」
軽々と斧を取り上げて斧頭の波紋に目を輝かせる。
「ええ、まあ。出来る限りの事はさせて頂きましたから」
自分でもなかなかうまくいったと思う。それを褒められるとやはり嬉しい。
すると突然視界が暗くなって、気付けば自分が彼女にぎゅっと抱きしめられている事を知る。
「あ、え…ちょっと…」
突然の出来事と息苦しさに口籠る僕。しかし、彼女はお構いなした。
「スゲーよ、マジ有難うだぜ。こんなになるとは思ってなかったしなッ。噂も信じてみるもんだな」
まるで子供に戻ったように彼女が続ける。
「おいおい、どういう状況だ…こりゃあ」
「えっ!?」
だが、そこに工房長が現れると状況が一変した。僕は突き飛ばされ、あわや壁にぶつかりそうになる。
「あ、いや…なんつーか、何でもない、よぅ?」
ボルディアの語尾が僅かにおかしな事になっているのに気付いて、工房長がにやにや笑う。
「あの…で、何か用でしょうか?」
そこで僕は話を逸らすべく、用件を尋ねる。
「んー…まぁ、今すぐにでなくてもいいんだがな。とある情報を得たんで知らせに」
「情報…というと?」
「純正オリハルコンだ」
その言葉にぞくりとした。オリハルコン…本物なら大収穫だ。
「そんな…本当ですかっ!」
オリハルコンと言えばとても硬い金属であるが、伸縮性も兼ね備えているらしく加工に適した伝説の鉱物だ。だが、この世界においてその存在はまだハッキリしておらず、『純正』が発見されればどえらいことになるのは間違いないだろう。
「おい、それってそんなに凄いのかよ?」
置いてけぼりになっていた彼女が会話の間に入って来る。
そこで細かく説明すると、彼女もこれに興味を持ったらしい。だが、この話には続きがあって…その鉱物が見つかったのが、火山の近くの地中だという。狭い洞穴の奥深くだとかで、ガイドもないから行くなら全て自己責任になるそうだ。
「ま、もう少し調査が進めばもっと行きやすくなるだろうがな」
工房長が言う。もう少し待つ? 聞いてしまったからには自分の目で見てみたい。
彼が去った後、僕は何度も考えた後、傍にいた彼女に切り出す。
「あの…ボルディアさん」
「何だ?」
「あの…さっきの話、僕行ってみたいと思うんです。けど、聞いての通りで…僕に力を貸して頂けませんか?」
真剣な眼で僕が言う。
「……ま、なんとなくそう言うかなって思ってたぜ。おし、なら付きやってやるぜ」
「有難う御座います! よかった、さすがボルディアさんだっ!」
今度は僕が嬉しさの余り彼女に抱き付く。
「ハッ、ちょっ…離れろよぅ…」
それに慌てふためくボルディアはとても可愛かった。
が、この話はハッピーばかりでは終わらない。判っていた事だ、危険な道のり…狭い岩肌。
洞穴を進むにつれて、何処かで溶岩が流れているのか中はどんどん熱さを増してくる。窯の熱になれている筈の自分でさえ、あっという間に息が上がる。慣れていない彼女にとってはまさに地獄かもしれない。
(えらい場所に連れてきてしまったなぁ)
彼女はハンターとはいえ女性だ。強がっていても辛い事もあるだろう。が持ち込んだ水筒の水はとっくに空だ。
「なあ、一度戻った方がよくねェか?」
熱さに耐えながら彼女が提案する。
「けど、ここまで来たんです後少しだ…あ、あそこは!」
少し先に見える明るい場所。溶岩が流れる場所であるが、そこは少し開けているようにも見える。駆け出したい気持ちを抑えて、二人はその先に向かう。そして、広がった空間に出たその時だった。
溶岩がゴボゴボと湧き上がる場所があったのに、僕らは気付かなかったのだ。
「うわっと…やべっ」
彼女が足を滑らせ重心が崩れる。その光景を見た瞬間、僕の身体は咄嗟に動いていて…。
後に感じたのは熱いというより、一瞬に広がった刺すような痛み――。
どさりと彼女が洞穴側に倒れた音がする。
「良かった…」
「馬鹿言え! 何処もよくねぇ、テメェがこんな事になったら、俺は、オレは…」
この時の彼女の表情は鮮明に覚えている。不安、恐怖、動揺…いつもは絶対に見せない顔で僕を見ていたっけ。熱さに当てられたように僕は目を閉じる。
「フザけんなっ! こんな所で死ぬなんざ、俺は許さねぇぞ!」
彼女の声がする。しかし、今の僕に目を開ける気力はなかった。
そして一週間後――僕は病室で目を覚ます。傍には彼女の姿がある。
「ボルディア?」
僕がそう呟くと彼女はハッとし、次に見えたのは目尻に溜まる輝く液体。
「ゴメン…でも、よかった。だから泣かないで?」
僕は自分の状況を思い出す。
彼女を助けたい一心でやった行動が彼女をとても心配させてしまったらしい。
「ハァ? バカ…な、泣いてなんかいねぇからなっ! こ、これは、欠伸だから…」
必死で零れそうになる雫を拭いつつ、彼女が赤い顔をして言う。
「はは、そうか…でも、よかった。貴方を残して逝ってしまうのは僕も嫌ですから」
それは僕の口から自然と零れた言葉だ。が、その言葉の意味に気付くと、
「へ……え、いや、ええっっ!?」
僕にだけ見せる慌てる彼女がとてもとても可愛かった。 【fin】
●ベゴニアを君に編
僕の工房にちょくちょく来るハンターがいる。彼女の名前はマリィア・バルデス(ka5848)だ。
扱う武器は銃が多いらしく、多くの場合銃身や銃創のクリーニングに来る。
「あら、だって貴方メンテナンスも請け負っているのでしょう? だったら構わないわよね?」
「それはそうですが…まだ昨日の分もありますし」
「そんなの私の知った事ではないわ」
しれっとそう言って今日も黄金拳銃を差し出してくるものだから、それを受け取る他ない。実のところ現在彼女から受けているメンテナンスの武器の数は二桁に近かった。だから一旦ストップしたいのだが、お得意様である事から無碍にも扱えないという訳だ。
「とりあえずもう少し待っていて貰えませんか? あ、マシンガンの方は出来ていますが」
僕はそう言って彼女に背を向ける。正直な事を言うと彼女の事は子供の次に苦手だ。
大人であるからそこまで拒絶反応がある訳ではないが、捉え所がないというか何を考えているかが判らないというかでどんな顔で対応すればいいのか判らない。
「工房長、どうしたらいいのでしょうか?」
毎日何かしらのも武器を持って訪れるマリィアの事をこっそりと相談した時、工房長はあっさりとこう言った。「どうもこうも君のお客だ。これも勉強、頑張って考えてみる事だな」――と。だから、ずっと考えているのだが、未だに答えは出そうにない。そんな僕の気持ちも知らずに、彼女は他の職人の傍に行って作業の様子を眺めたりして、時間を潰しているようだ。
「お待たせしました。弾がスムーズに撃ち出せるように少し手を加えておきましたよ」
大型のそれを抱えながら持ってきて、彼女に渡す。
それを受け取ると彼女は早速その部分を眺めて、違いを確認しているようだ。
「どうでしょうか? お気に召さないようなら元に戻しますが」
「まさか…良くなったのなら戻す理由がないわ」
「で、ですよね」
やはり掴みどころがなく苦手だった。会話のキャッチボールが出来ているようでいて続かない。
(もうこれは相性が悪いという事だな。真面目に考えるだけ無駄だ)
そう思って代金を受け取り、おつりを用意し始めた時だ。
彼女はまたも平然とある質問を僕にぶつけてくる。
「…ねえ。貴方は普段の私が好きかしら?」
「は、はい?」
僕は一瞬、この人が何を言い出したのか判らなかった。
普段の自分(マリィア)が好きかどうかだって? それを本人の目の前で答えろと言うのか。
「え、えーと、冗談はよしてくれませんか。そんな事いきなり言われても…」
「フフッ、答えられないと。そうね、じゃあ今度来た時答えを聞かせてくれるかしら?」
マリィアがそう言い、マシンガンを受け取り帰っていく。
次来た時…という事はきっと明日になるだろう。
(好きかどうかだって? そんなの、多分…)
苦手の先にあるものは一体何なのだろう? よく判らないが、答え見つけなくては…。
~翌日~
昨日、余り眠れなかった。無理もない、解けない難題をぶつけられた様なものだ。
が彼女は一向に来ない。今まで一日と日を空ける事無くやってきていたのに、今日に限って来ないのだ。
(もう、来ないだろうな…これである意味ホッとしたかも)
作業を終えて片付けを始めて…その日はそれで終了した。
しかし、その後がいけない。次の日もまた次の日も、待てど暮らせど今度は来ないのだ。
おかげで預かっていた武器の全ての修繕やメンテが終了し、自分の開発に集中できる…筈だった。
なのに、今度は彼女の事が気になって仕事に身が入らない。
(どうしたんでしょうか…もしかして、仕事で怪我でもしたとか?)
「ッ…て、あちっ!」
集中できない頭で窯の近くにいるものではない。飛び来た火の粉で軽い火傷と全くもってついてない。
「あら、火傷? あなたもそんなドシを踏むことあるのね」
「マリィアさん!?」
そこへひょっこりと顔を出した彼女に僕は胡瓜を前にした猫のように飛び上がる。
「どうしたの? そんなに吃驚して、お化けでも見えたかしら?」
くすくす笑いながら彼女が言う。
「み、見えてませんけど……いきなり現れるから」
「ごめんなさいね。気配を消すのは性分なのよ」
元軍人――そう聞いていた。まあ、戦場を生き抜く為にはそれも必要なのだろう。
「で、答えを聞かせてくれるかしら?」
丁度工房に先輩方がいない事を知ってか単刀直入に尋ねてくる。
「僕は貴方が…」
「貴方が?」
「貴方が苦手です。いや、嫌い…かもしれません」
正直に僕が言葉する。だって、そうだ。取り繕った所できっと態度で見抜かれていると思うし、彼女自身僕をおちょくって楽しんでいるようにも見えるから、下手に煽てた回答をするよりはこの方がいいに決まっている。案の定、彼女は僕の言葉を聞くと笑いを堪えている。
「マリィアさん?」
僕がそう尋ねると、彼女は堪らなくなったように口を開いて、
「…あはははは。それ、本人の前で言っちゃう? 言っちゃうの? そう…うれしいわ」
と控えめにお腹を抱えながら一頻り笑い、顔を上げる。
僕はそれを呆気にとられたまま、見ているしかなかった。だって、本当に意味が解らないのだ。その事をは悟って、マリィアは徐々に話し出す。
「私、友人と恋人は絶対的な差があると思うの。だから、友人に甘えようとは思わないわ。友人って仕事の延長上にある関係だと思うもの…」
いきなりの話に更にぽかんとしてしまう僕。が、この後だ。
「でもね、恋人は違う。生涯を共にしたい大事な相手よ? 喧嘩しても分かりあいたいの。言いたい事、判るかしら?」
小さく首を傾げて、彼女が僕に尋ねる。
彼女の言いたい事…少し哲学染みているから完全に理解したとは言い難い。
でも、多分大まかな部分は判ったようにも思う。
「つまり恋人に求める条件は隠し事はなく本音をぶつけられる相手でないといけないと?」
「まあ、そんなところね。そして、貴方はその条件を満たした…さっきの、それを分かって言ってくれたんでしょう?」
さっきのとは…好きか嫌いかの回答の事だろうか。そこまで深く考えていなかったとは今更言えない。
が、ここで素直に言えばまたそれは逆に取られなくもない訳で…。
(何だか混乱してきました…)
僕が無言でいるとそれを肯定と彼女は受け取ったらしい。靴の踵を鳴らして、ゆっくりと僕に近付いてくる。
「私、自分が重い女だって自覚はあるわ。でも、貴方は私を選んでくれた。だったら私も応えなきゃね。私はこれから貴方にしか甘えない、甘えたくないの。だから、私のことも、武器と同じくらい構ってね?」
そっと僕の身体に両腕が回る。そして、その後は頬に柔らかな感触…。
「マリィアさん…」
ある意味、この時僕は大人の色香にやられたのだと思う。
彼女の言葉と腕のぬくもりに触れて、いつしか彼女から目が離せなくなっていたのは事実だ。
「そうですね…貴方の想いに答えられるかは判りませんが、僕でよければ貴方と共に…」
彼女の熱意に負けたと言えばそうだが、でも彼女のストイックの中の孤独を癒せるならそれもいい。
この際、彼女専用の武器を開発してみるのも悪くない。
彼女が望むのならば――求められるのはやはり嫌いではないのだ。 【Fin】
●悲劇のビキニアーマー編
「え…」
「うおぉっと!?」
どってーーんっ
彼女――エメラルド・シルフィユ(ka4678)との出会いは突然だった。
道具屋から工房への帰り道だったと思う。まず目に入ったのは慌てる彼女の表情で、その次に視界を奪ったのはとにかく白くて柔らかな二つの果実…いや、これは比喩的表現で実際はまあ、幼少の折以来感じる事もなかった胸の感触…。
「ったた…って、この変態がっ!」
その後の事は正直あまり覚えていない。声がしたかと思うと頬に強い衝撃を覚えて、次目が覚めた時にはベッドの上に横たわっていたと記憶している。
「あのあの、本当にエメラルドがすみませんでした」
さっきとは違う女性が僕に謝る。
「ここは…」
「私の教会のベッドです。その、親友があなたにひどい事をしてしまったみたいで」
「しん、ゆう? あの、金髪の?」
「はい。こちらの事故なのに、思わず殴ってしまったとかで」
喋る彼女を余所に部屋を見回してみるが、問題の女の姿はない。
(なんて人だ…僕を友達に任せて一体自分は何してるんだか)
この対応には正直呆れてしまう。がその直後、金髪の彼女が部屋に駆け込んできて…。
「あったぞ! それが湿布に効く薬草だそうだ。これがあればあっという間に…と起きたのか、ムッツリスケベ」
「ちょっとエメラルド、なんてこと…」
失礼な良いように正直ムッとする。が、彼女は気にせず続ける。
「ムッツリはムッツリだ。涼しい顔して、よくもまぁあんな事を」
見た目で判断するのはいけないが、彼女は貴族出身なのだろう。少しばかり庶民を見下しているようにも思える。
「…あの、言っておきますが、あれは完全に貴方の事故ですからね。僕は被害者ですよ」
ベッドから上体を起こし反論する。
「何おぅ? 確かにこけた。それは認めよう…だが、おまえとて避けれた筈だろう。なのに避けなかったのは大方私の子の胸目当てで」
「はい? 被害妄想も激し過…」
「ストップ、ストーップ! 二人共落ち着いて下さい」
二人の間に入ってもう一人が僕らを宥める。
「知るか、そんなの。とにかく私は許さないからな…もうすぐ縁談だというのに、こんな事がばれたらどうなる事か」
エメラルドが腕を組んで言う。
「もう、いいです。僕はこれで失礼しますんで」
僕もこれ以上関わりたくなくて、ベッドを抜け工房に戻ろうと背を向ける。
「おまえ、名は?」
エメラルドが僕に尋ねる。
「治療代を払ってくれるんですか? でしたら、お教えしてもいいですが」
「違う! こっちが」
「だったら言いません。そんなの払うつもり有りませんので」
僕はそう言って教会を後にする。しかし、この偶然はもう少し引き摺る事となる。
「あぁっっっ! おまえはあの時のムッツリスケベ!」
それは工房を尋ねてきたお客が彼女だったからだ。
「何事だ、ギア。今、何か聞こえたが…」
その彼女の声に慌てて工房長が駆けてくる。
「いえ、何でもありません。あれは事故ですので」
僕はそう言いその場を収めて、改めてこのじゃじゃ馬と向き合う事を要される。
「で、何用ですか? 仕事でしたら何も僕でなくとも」
「いや、まあそうだが…おまえがあの噂の『匠』なのだろう?」
手にした星剣を握り締めながら彼女が尋ねる。
「一応は…しかし、貴方が言うムッツリスケベに手入れをお願いするのは貴方にとっても不本意なのでは?」
視線を逸らしたままの彼女が黙り込む。その後は少し時間が過ぎて、折れたのは僕の方だ。
(そこまでして直したいもの…という事でしょうし、武器に罪はありません)
「それ、見せて下さい」
「えっ」
僕の言葉に彼女が驚く。
そして、それからは度々彼女の依頼を受け、顔を合わせる事も増えれば自ずと見えなかった部分も見えてくる訳で…具合を確かめる為実践に近い動きをとって貰い、改善点はないか確認する。が、いつしか彼女のしなやかな動きに見惚れてしまっていたらしい。
「な、なんだ…その目は? 私としては申し分ないと思うが、何かあるのか?」
黙ったまま何も言わなくなった僕に彼女が訝しむ。
「あ、いえ…貴方がそう思うなら大丈夫でしょうからこのままで」
「はぁ? 何かあったのではないか?」
僕を疑うように彼女がずずいっと迫ってくる。
「あー、いえただ本当に綺麗で美しいなと思いまして」
「う、美しいだとっ!? なっ、何言ってんだ、おまえはっ」
彼女が僕の言葉に顔を真っ赤にしながら後づさる。
「あれ、僕今何か変な事言いましたか?」
その彼女のリアクションに僕が首を傾げる。
「クッ…冗談も大概にしろ! 私は、もうすぐ婚儀を控える身なのだからなっ! では、さらばだっ!!」
そう言い切って彼女が工房を走り出ていく。婚儀…その言葉に心が粟立つ。
(そうだ、彼女はもうすぐ式なんだっけ…。あれ? 僕は何でこんなに動揺しているんだ…)
チクチク胸を刺すこの痛みの正体は? 彼女の結婚式まで後二週間。
その後は彼女も工房を訪れる事は無くなった。
どうやら彼女の親友の話によると新郎側の親が神経質で大事を取り、悪い虫がつかないよう式までは彼女を外出禁止にしたらしい。
「そういえば彼女の婚約者ってどんな人だろう…」
そう思い何となく町の情報通に聞くと、余り良い話は出てこない。
「容姿はまあまあなんだけどね。女遊びも激しい割に束縛するタイプだとか…今までの恋人は皆なぜか行方知れずだってさ。だから今回は貴族でありハンターでもある娘を宛がったんだろうけどねぇ~さてはて、どうなるやら」
肩を軽く振るわせて男が言う。
「そんな人って事を彼女…いえ、エメラルドさんは知ってるんですか!」
声を荒らげて僕が尋ねる。
「さあねぇ、だけどあのボンボン外面だけはいいからなぁ」
(エメラルドさん…)
僕の中で何かに火が灯る。こうなれば後は行動するのみだ。
幸いにも二人の結婚式は僕が以前運ばれた教会で行われる事が判っていた。
だから、準備するのは簡単だ。彼女の親友にも力を貸して貰い、警備の目を掻い潜る。そして、参列者にこっそり混じって、後は時を待つだけだ。何も知らない彼女がゆっくりとヴァージンロードを歩いてくる。
「…きれいだ」
いつもはビキニアーマーだが今日だけは違う純白のドレス。新郎の目が野犬の様にギラリと輝く。
(あんな奴に渡すもんか)
半分くらい進んだ頃僕は教壇裏から飛び出して、彼女の元へ走る。
「え、ええっ」
彼女の戸惑う顔が可愛く思えるようになったのはいつの事だろう。
「あいつは女誑しの悪い男だそうです。だから僕と行きましょう!」
僕が彼女の手を取る。彼女は混乱していたが、何かを悟ったようにヒールを脱ぎ捨て共に走り出す。
『エメラルドッ! 戻ってきなさい!』
彼女の両親の声がした。後で色々話さなくては…そう思うも今を逃せば、また彼女が監禁される可能性もあるから足は止められない。
「き、貴様ッ! こんな事して責任は取って貰うぞっ!」
共に並んで駆けながら彼女が頬を染めたまま言う。
その時の表情に自分と同じものを見て取り、僕は確信して今ここで秘めていた言葉を口にする。
「いいですよっ! 責任とります、僕と結婚してくれればねっ!」
僕の言葉に彼女の目が見開かれ…続いたのはYESを示す歓喜の破顔であった。 【Fin】
●好奇心と探求心編
「あっ」
坂を転がる林檎に彼女――マリア(ka6586)が振り返る。彼女は修道士だった。
紙袋から零れた林檎を拾った僕はその場で拾い、彼女に手渡す…筈だった。しかし、思わぬ声に拾った林檎を取り落とす。
「おまえ、今スカートを覗こうとしただろう」
彼女と共に買い物に来ていたのだろう。別の店から出てきた金髪の女騎士が僕に言いがかりをつけてきたからだ。
「そんな、ただ拾おうとしただけで…」
まあ、確かに拾う為に屈みはしたが、ロングスカートの彼女のその下の覗ける訳がない。しかし、向こうも引き下がらなくて…当人を外して口論に発展してしまう。
「ハッ、このムッツリ野郎が。マリアは避難してていいぞ」
女騎士が彼女を誘導する。
「ちょっと、エメラルド…そんな人には」
「おまえは甘いんだ。男というものはみんなスケベであって…」
「ごめんなさい。失礼しますね」
その後も騒ごうとする友を引き摺って、マリアと呼ばれた女性は慌ててその場を去っていく。
「あ、林檎…」
僕は林檎を持ったまま立ち尽くす。集まってしまった観衆の目は真実はどうあれかなり冷たかった。
とまぁ、そんな事がきっかけだったが、その後僕の姿を覚えていた彼女に街で声を掛けられ、まずはあの時の謝罪から。その後は、流れでお茶を共にしたのだが、どうもあのマリアの友人は僕を何故だか敵視しているらしい。
「むっ、おまえはあの時の! なぜまたマリアと一緒なんだ」
と駆け付けては彼女を庇う様に自分の後ろに引き込み自分が矢面に立つ。
「あ、あの…エメラルド?」
そう言い困惑するマリアがいてもお構いなしだ。
己がボディガードだとでも言う様に立ち振る舞い、そのまま別の場所へ連れて行こうとする。
「大丈夫よ、あの人は悪い人じゃないもの」
マリアの声がする。けれど、エメラルドは聞く耳を持たない。あいつはハレンチ男だ、あんなのと会ってはいけないの一点張りで今日も楽しい時間が台無しだ。
「ごめんなさい…また…」
彼女の声が小さく聞こえる。何がそんなにいけないのか、この時の僕は判らなかった。
そんなこんな中でも徐々に彼女との逢瀬も増えていく。歳が近い事もあって話しやすかったからだ。
(今日も会えるだろうか)
二人がよく行くパン屋で…この時間なら来ているかもしれない。が中にはまだいなくて、暫しパン屋の娘さんとお喋りタイム。武器ではないが、パン切の刃を研いで欲しいのだという。
「構いませんよ。その位だったら簡単ですし…」
その言葉に娘さんが微笑む。その視界の端にマリアの姿が入って、
「あ、マリアさん。こんにちは」
僕は自然に声をかけたつもりだった。
しかし、彼女はこちらに気付くとハッとした様子で傍の看板に身を潜める。
「あれ、違った…でしょうか?」
その様子に僕が首を傾げる。
いつもなら手を振ってくれる筈だが、どうやら今日はパン屋の娘さんを気にしているようだ。
「マリアさーん?」
もう一度呼びかける。しかし、それを聞き肩をびくりと揺らすと途端に踵を返して駆け出していく。
(どうしたんだろう、具合でも悪かったのかな…?)
それとも何かしてしまっていたのだろうか。考えるも答えは出ない。
「困ったな…折角いい友達が出来た思っていたのに」
そう呟いた時だった。いつも間にか戻って来ていたマリアがぽつりと呟く。
「と、友達…そっか…私、は…友達」
彼女がそう言い、再び駆け出す。
その瞳には涙が見えて、慌てて追いかけようとする僕に立ちはだかるのはまた彼女だ。
「ふんっ、ついにマリアを泣かせたな! なんて奴だ!」
確かエメラルドと言ったと思う。彼女が僕の進路を妨害する。
「いや、だってあれは」
「言い訳は無用だ! やはりおまえはマリアに相応しくなかったのだ! もう近寄るなよ」
彼女がそう言い放ち、去っていく。残された僕の頭は大混乱だ。
(何故こんな事に? 考えろ…俺は、なんで彼女を泣かせた?)
自分でも驚く程冷静ではいられない。脳内で『僕』を保てなくなっている事にさえ気付かない。
(そうや…彼女は『友達』言う言葉に動揺して…その前俺がしていたのは…そうか、そう言う事か)
どくどくいう心音がうるさい。今追いかけるべきだろうか。
しかし、今いけば同時に彼女を守護者にも会う事になる。
説得できるだろうか。いや、もうここは説得するしかない。
「今いくで、マリア」
何となく彼女の行きそうな場所へと走り出す。そういえば何度かデートらしい事もしたっけ。時間は僅かだったけれど、買い物に付き合ったり、カフェで話をしたり、それらは今でも驚く程鮮明に思い出せる。
(多分あそこだ…港の灯台の下)
お気に入りの場所だと言っていた。辛い事や困った事があると行くとも…だったらそこに間違いない。
案の定、彼女はそこに膝を抱えて座り地平線を眺めている。
「マリアさん…いや、マリア」
俺が彼女を前に一歩踏み出す。
どうやら、エメラルドは彼女を見つけられなかったようだ。まだここに姿はない。
「こ、来ないで下さい…こんな私、見られたくない」
俯いたままで彼女が言う。
「大丈夫、さっきのは誤解です。あれはその…」
「何ですか? 私はギアさんのお友達ですよね…知ってます。なのに、何でか私…モヤモヤしてそれで」
「ごめんなさい。僕は本当はお友達だなんて思わない。思いたくない」
「え…」
その言葉に再び彼女が狼狽える。
「そんな…じゃあ、私は一体…」
「マリアは僕の事、嫌いですか?」
意を決してストレートに僕は言葉する。
「嫌いだなんて、そんなこと…でも、あなたを見てると辛くなって…これは何ですか?」
彼女はきっとそれの正体を知らないのだ。だからこんなに不安になっているに違いない。そう思い、僕は傍に寄ると彼女をぎゅっと抱きしめて、
「どうですか? まだモヤモヤしますか?」
僕からの質問。これで拒絶されるなら脈なしだと思うが、彼女から出た言葉はNOだ。
「…いえ、ただ温かい…この気持ちは? 私、知りたいです。ギアさん、教えてくれませんか?」
彼女が顔を上げ僕を見る。その顔は涙に濡れていたけれど、とても輝いて見える。
「僕が言うのも何ですが、それが好きって事です…言い換えれば恋の花が咲いたという所かな」
少しカッコを付けたかもと思うもそれを素直に受け取る彼女がとても愛おしい。
「だったら、さっきのモヤモヤは」
「嫉妬だな」
「わっ!?」
突然聞こえた別の声に僕がハッとする。するとそこにはエメラルドがいてマリアは不思議そうだ。
「嫉妬って…そんな、まさか…」
「だってそれしか考えられんだろう。最近のマリアは口を開けば『ギアさんギアさん』と言っていたからな。もしかして、恋をしているのではと思っていたらこれだ。しかもそこまで進んでいたとは…正直無念だ」
エメラルドが呆れ果てた様子で息を吐く。
「私が恋…」
それを意識するとマリアは一瞬にして顔を赤くすると同時に、僕の腕からそっと抜け出し…。
「あわわ…私が恋なんて。ホント、どうしちゃったのかな…私…」
呟く言動が乙女全開。もじもじしたり、顔を隠したり極端に照れ始める。
そこで僕は一度落ち着いて、軽く深呼吸。そして、いざ。
「マリア、こんな僕だけどこれからは恋人として付き合ってくれませんか?」
工房で働かせて貰う為のお願いに行った時以来の綺麗なお辞儀で僕が彼女に手を差し出す。
「ギアさん…」
それを聞き彼女も僕に向き直る。そして、
「貴方がいいです。貴方が私の事、知りたいと思ってくれるなら…私は喜んで」
「有難う、マリア!」
再びがしりと抱きしめる。
「いいか。もし、またマリアを泣かしたら…今度こそタダじゃおかないからな」
エメラルドの忠告に僕は笑顔で頷いた。 【Fin】
「おーい、ギア。出来てるか?」
霊闘士に相応しい鍛え抜かれた肉体に燃えるような赤い髪、彼女の名前はボルディア・コンフラムス(ka0796)と言う。今日も周りの職人の目を気にする事なく、一直線に僕の元へと歩いてくる。
「ええ、メンテナンスは完了していますよ。しかし、また派手にやりましたね」
彼女の獲物は魔斧『モレク』…全長250cmもある巨大な斧だ。地獄の炎を連想させる明滅する斧頭であるが、ここに届いた時にはかなりの刃毀れが起こり、本来の力の半分が失われていたと思う。本来ならこの手の大物は先輩が扱うのであるが、噂を聞いてご指名とあらば話は別だ。
「派手って言ってもそれが仕事だからな。敵をぶん殴るのに手加減は必要ネェだろう?」
まるでバーでお酒を片手に話す様に、彼女が言う。
「まぁ、そうですが…たまにはこの子を労わってやって下さいね。なんたってあなたのパートナーなのですから」
皮肉交じりに僕がそう返す。武器職人として武器が活躍するを嬉しく思うものの、やはり乱暴に扱われ呆気なく壊れてしまうのは見ていられない。
「ハッ、まあなぁ。けど、こいつは俺の力を食らうんだぜ? お互い様だろ」
力を食らうとはどういう事か。世界には只の武器では済ませない伝説や曰く付きのものが存在する。
その一つがこれだ。魔斧と名がついているのはその為で、生贄を食らう悪魔の名がついている為かパワーと引き換えに使用者の生命力を奪うのだと言われている。だが、そんなのはハッキリ言って信じられない。仮にもしそれが本当だとしたら、彼女はなぜ今もピンピンしているのか。確かに刃を叩き直した時、僅かな違和感を感じたが、それは伝説級の物が持つ特有の『何か』であり、決して呪いなんていう陳腐な言葉で言い現わしてはいけないのだ。
「またまた冗談でしょう? そう言うのは僕信じませんからね」
僕がそう言い、仕上がったモレクの元に案内する。
するとそれを見た彼女は喜々としてその斧を取り上げて…、
「おいおい、マジかよ……全然輝きが違うじゃねぇか!?」
軽々と斧を取り上げて斧頭の波紋に目を輝かせる。
「ええ、まあ。出来る限りの事はさせて頂きましたから」
自分でもなかなかうまくいったと思う。それを褒められるとやはり嬉しい。
すると突然視界が暗くなって、気付けば自分が彼女にぎゅっと抱きしめられている事を知る。
「あ、え…ちょっと…」
突然の出来事と息苦しさに口籠る僕。しかし、彼女はお構いなした。
「スゲーよ、マジ有難うだぜ。こんなになるとは思ってなかったしなッ。噂も信じてみるもんだな」
まるで子供に戻ったように彼女が続ける。
「おいおい、どういう状況だ…こりゃあ」
「えっ!?」
だが、そこに工房長が現れると状況が一変した。僕は突き飛ばされ、あわや壁にぶつかりそうになる。
「あ、いや…なんつーか、何でもない、よぅ?」
ボルディアの語尾が僅かにおかしな事になっているのに気付いて、工房長がにやにや笑う。
「あの…で、何か用でしょうか?」
そこで僕は話を逸らすべく、用件を尋ねる。
「んー…まぁ、今すぐにでなくてもいいんだがな。とある情報を得たんで知らせに」
「情報…というと?」
「純正オリハルコンだ」
その言葉にぞくりとした。オリハルコン…本物なら大収穫だ。
「そんな…本当ですかっ!」
オリハルコンと言えばとても硬い金属であるが、伸縮性も兼ね備えているらしく加工に適した伝説の鉱物だ。だが、この世界においてその存在はまだハッキリしておらず、『純正』が発見されればどえらいことになるのは間違いないだろう。
「おい、それってそんなに凄いのかよ?」
置いてけぼりになっていた彼女が会話の間に入って来る。
そこで細かく説明すると、彼女もこれに興味を持ったらしい。だが、この話には続きがあって…その鉱物が見つかったのが、火山の近くの地中だという。狭い洞穴の奥深くだとかで、ガイドもないから行くなら全て自己責任になるそうだ。
「ま、もう少し調査が進めばもっと行きやすくなるだろうがな」
工房長が言う。もう少し待つ? 聞いてしまったからには自分の目で見てみたい。
彼が去った後、僕は何度も考えた後、傍にいた彼女に切り出す。
「あの…ボルディアさん」
「何だ?」
「あの…さっきの話、僕行ってみたいと思うんです。けど、聞いての通りで…僕に力を貸して頂けませんか?」
真剣な眼で僕が言う。
「……ま、なんとなくそう言うかなって思ってたぜ。おし、なら付きやってやるぜ」
「有難う御座います! よかった、さすがボルディアさんだっ!」
今度は僕が嬉しさの余り彼女に抱き付く。
「ハッ、ちょっ…離れろよぅ…」
それに慌てふためくボルディアはとても可愛かった。
が、この話はハッピーばかりでは終わらない。判っていた事だ、危険な道のり…狭い岩肌。
洞穴を進むにつれて、何処かで溶岩が流れているのか中はどんどん熱さを増してくる。窯の熱になれている筈の自分でさえ、あっという間に息が上がる。慣れていない彼女にとってはまさに地獄かもしれない。
(えらい場所に連れてきてしまったなぁ)
彼女はハンターとはいえ女性だ。強がっていても辛い事もあるだろう。が持ち込んだ水筒の水はとっくに空だ。
「なあ、一度戻った方がよくねェか?」
熱さに耐えながら彼女が提案する。
「けど、ここまで来たんです後少しだ…あ、あそこは!」
少し先に見える明るい場所。溶岩が流れる場所であるが、そこは少し開けているようにも見える。駆け出したい気持ちを抑えて、二人はその先に向かう。そして、広がった空間に出たその時だった。
溶岩がゴボゴボと湧き上がる場所があったのに、僕らは気付かなかったのだ。
「うわっと…やべっ」
彼女が足を滑らせ重心が崩れる。その光景を見た瞬間、僕の身体は咄嗟に動いていて…。
後に感じたのは熱いというより、一瞬に広がった刺すような痛み――。
どさりと彼女が洞穴側に倒れた音がする。
「良かった…」
「馬鹿言え! 何処もよくねぇ、テメェがこんな事になったら、俺は、オレは…」
この時の彼女の表情は鮮明に覚えている。不安、恐怖、動揺…いつもは絶対に見せない顔で僕を見ていたっけ。熱さに当てられたように僕は目を閉じる。
「フザけんなっ! こんな所で死ぬなんざ、俺は許さねぇぞ!」
彼女の声がする。しかし、今の僕に目を開ける気力はなかった。
そして一週間後――僕は病室で目を覚ます。傍には彼女の姿がある。
「ボルディア?」
僕がそう呟くと彼女はハッとし、次に見えたのは目尻に溜まる輝く液体。
「ゴメン…でも、よかった。だから泣かないで?」
僕は自分の状況を思い出す。
彼女を助けたい一心でやった行動が彼女をとても心配させてしまったらしい。
「ハァ? バカ…な、泣いてなんかいねぇからなっ! こ、これは、欠伸だから…」
必死で零れそうになる雫を拭いつつ、彼女が赤い顔をして言う。
「はは、そうか…でも、よかった。貴方を残して逝ってしまうのは僕も嫌ですから」
それは僕の口から自然と零れた言葉だ。が、その言葉の意味に気付くと、
「へ……え、いや、ええっっ!?」
僕にだけ見せる慌てる彼女がとてもとても可愛かった。 【fin】
●ベゴニアを君に編
僕の工房にちょくちょく来るハンターがいる。彼女の名前はマリィア・バルデス(ka5848)だ。
扱う武器は銃が多いらしく、多くの場合銃身や銃創のクリーニングに来る。
「あら、だって貴方メンテナンスも請け負っているのでしょう? だったら構わないわよね?」
「それはそうですが…まだ昨日の分もありますし」
「そんなの私の知った事ではないわ」
しれっとそう言って今日も黄金拳銃を差し出してくるものだから、それを受け取る他ない。実のところ現在彼女から受けているメンテナンスの武器の数は二桁に近かった。だから一旦ストップしたいのだが、お得意様である事から無碍にも扱えないという訳だ。
「とりあえずもう少し待っていて貰えませんか? あ、マシンガンの方は出来ていますが」
僕はそう言って彼女に背を向ける。正直な事を言うと彼女の事は子供の次に苦手だ。
大人であるからそこまで拒絶反応がある訳ではないが、捉え所がないというか何を考えているかが判らないというかでどんな顔で対応すればいいのか判らない。
「工房長、どうしたらいいのでしょうか?」
毎日何かしらのも武器を持って訪れるマリィアの事をこっそりと相談した時、工房長はあっさりとこう言った。「どうもこうも君のお客だ。これも勉強、頑張って考えてみる事だな」――と。だから、ずっと考えているのだが、未だに答えは出そうにない。そんな僕の気持ちも知らずに、彼女は他の職人の傍に行って作業の様子を眺めたりして、時間を潰しているようだ。
「お待たせしました。弾がスムーズに撃ち出せるように少し手を加えておきましたよ」
大型のそれを抱えながら持ってきて、彼女に渡す。
それを受け取ると彼女は早速その部分を眺めて、違いを確認しているようだ。
「どうでしょうか? お気に召さないようなら元に戻しますが」
「まさか…良くなったのなら戻す理由がないわ」
「で、ですよね」
やはり掴みどころがなく苦手だった。会話のキャッチボールが出来ているようでいて続かない。
(もうこれは相性が悪いという事だな。真面目に考えるだけ無駄だ)
そう思って代金を受け取り、おつりを用意し始めた時だ。
彼女はまたも平然とある質問を僕にぶつけてくる。
「…ねえ。貴方は普段の私が好きかしら?」
「は、はい?」
僕は一瞬、この人が何を言い出したのか判らなかった。
普段の自分(マリィア)が好きかどうかだって? それを本人の目の前で答えろと言うのか。
「え、えーと、冗談はよしてくれませんか。そんな事いきなり言われても…」
「フフッ、答えられないと。そうね、じゃあ今度来た時答えを聞かせてくれるかしら?」
マリィアがそう言い、マシンガンを受け取り帰っていく。
次来た時…という事はきっと明日になるだろう。
(好きかどうかだって? そんなの、多分…)
苦手の先にあるものは一体何なのだろう? よく判らないが、答え見つけなくては…。
~翌日~
昨日、余り眠れなかった。無理もない、解けない難題をぶつけられた様なものだ。
が彼女は一向に来ない。今まで一日と日を空ける事無くやってきていたのに、今日に限って来ないのだ。
(もう、来ないだろうな…これである意味ホッとしたかも)
作業を終えて片付けを始めて…その日はそれで終了した。
しかし、その後がいけない。次の日もまた次の日も、待てど暮らせど今度は来ないのだ。
おかげで預かっていた武器の全ての修繕やメンテが終了し、自分の開発に集中できる…筈だった。
なのに、今度は彼女の事が気になって仕事に身が入らない。
(どうしたんでしょうか…もしかして、仕事で怪我でもしたとか?)
「ッ…て、あちっ!」
集中できない頭で窯の近くにいるものではない。飛び来た火の粉で軽い火傷と全くもってついてない。
「あら、火傷? あなたもそんなドシを踏むことあるのね」
「マリィアさん!?」
そこへひょっこりと顔を出した彼女に僕は胡瓜を前にした猫のように飛び上がる。
「どうしたの? そんなに吃驚して、お化けでも見えたかしら?」
くすくす笑いながら彼女が言う。
「み、見えてませんけど……いきなり現れるから」
「ごめんなさいね。気配を消すのは性分なのよ」
元軍人――そう聞いていた。まあ、戦場を生き抜く為にはそれも必要なのだろう。
「で、答えを聞かせてくれるかしら?」
丁度工房に先輩方がいない事を知ってか単刀直入に尋ねてくる。
「僕は貴方が…」
「貴方が?」
「貴方が苦手です。いや、嫌い…かもしれません」
正直に僕が言葉する。だって、そうだ。取り繕った所できっと態度で見抜かれていると思うし、彼女自身僕をおちょくって楽しんでいるようにも見えるから、下手に煽てた回答をするよりはこの方がいいに決まっている。案の定、彼女は僕の言葉を聞くと笑いを堪えている。
「マリィアさん?」
僕がそう尋ねると、彼女は堪らなくなったように口を開いて、
「…あはははは。それ、本人の前で言っちゃう? 言っちゃうの? そう…うれしいわ」
と控えめにお腹を抱えながら一頻り笑い、顔を上げる。
僕はそれを呆気にとられたまま、見ているしかなかった。だって、本当に意味が解らないのだ。その事をは悟って、マリィアは徐々に話し出す。
「私、友人と恋人は絶対的な差があると思うの。だから、友人に甘えようとは思わないわ。友人って仕事の延長上にある関係だと思うもの…」
いきなりの話に更にぽかんとしてしまう僕。が、この後だ。
「でもね、恋人は違う。生涯を共にしたい大事な相手よ? 喧嘩しても分かりあいたいの。言いたい事、判るかしら?」
小さく首を傾げて、彼女が僕に尋ねる。
彼女の言いたい事…少し哲学染みているから完全に理解したとは言い難い。
でも、多分大まかな部分は判ったようにも思う。
「つまり恋人に求める条件は隠し事はなく本音をぶつけられる相手でないといけないと?」
「まあ、そんなところね。そして、貴方はその条件を満たした…さっきの、それを分かって言ってくれたんでしょう?」
さっきのとは…好きか嫌いかの回答の事だろうか。そこまで深く考えていなかったとは今更言えない。
が、ここで素直に言えばまたそれは逆に取られなくもない訳で…。
(何だか混乱してきました…)
僕が無言でいるとそれを肯定と彼女は受け取ったらしい。靴の踵を鳴らして、ゆっくりと僕に近付いてくる。
「私、自分が重い女だって自覚はあるわ。でも、貴方は私を選んでくれた。だったら私も応えなきゃね。私はこれから貴方にしか甘えない、甘えたくないの。だから、私のことも、武器と同じくらい構ってね?」
そっと僕の身体に両腕が回る。そして、その後は頬に柔らかな感触…。
「マリィアさん…」
ある意味、この時僕は大人の色香にやられたのだと思う。
彼女の言葉と腕のぬくもりに触れて、いつしか彼女から目が離せなくなっていたのは事実だ。
「そうですね…貴方の想いに答えられるかは判りませんが、僕でよければ貴方と共に…」
彼女の熱意に負けたと言えばそうだが、でも彼女のストイックの中の孤独を癒せるならそれもいい。
この際、彼女専用の武器を開発してみるのも悪くない。
彼女が望むのならば――求められるのはやはり嫌いではないのだ。 【Fin】
●悲劇のビキニアーマー編
「え…」
「うおぉっと!?」
どってーーんっ
彼女――エメラルド・シルフィユ(ka4678)との出会いは突然だった。
道具屋から工房への帰り道だったと思う。まず目に入ったのは慌てる彼女の表情で、その次に視界を奪ったのはとにかく白くて柔らかな二つの果実…いや、これは比喩的表現で実際はまあ、幼少の折以来感じる事もなかった胸の感触…。
「ったた…って、この変態がっ!」
その後の事は正直あまり覚えていない。声がしたかと思うと頬に強い衝撃を覚えて、次目が覚めた時にはベッドの上に横たわっていたと記憶している。
「あのあの、本当にエメラルドがすみませんでした」
さっきとは違う女性が僕に謝る。
「ここは…」
「私の教会のベッドです。その、親友があなたにひどい事をしてしまったみたいで」
「しん、ゆう? あの、金髪の?」
「はい。こちらの事故なのに、思わず殴ってしまったとかで」
喋る彼女を余所に部屋を見回してみるが、問題の女の姿はない。
(なんて人だ…僕を友達に任せて一体自分は何してるんだか)
この対応には正直呆れてしまう。がその直後、金髪の彼女が部屋に駆け込んできて…。
「あったぞ! それが湿布に効く薬草だそうだ。これがあればあっという間に…と起きたのか、ムッツリスケベ」
「ちょっとエメラルド、なんてこと…」
失礼な良いように正直ムッとする。が、彼女は気にせず続ける。
「ムッツリはムッツリだ。涼しい顔して、よくもまぁあんな事を」
見た目で判断するのはいけないが、彼女は貴族出身なのだろう。少しばかり庶民を見下しているようにも思える。
「…あの、言っておきますが、あれは完全に貴方の事故ですからね。僕は被害者ですよ」
ベッドから上体を起こし反論する。
「何おぅ? 確かにこけた。それは認めよう…だが、おまえとて避けれた筈だろう。なのに避けなかったのは大方私の子の胸目当てで」
「はい? 被害妄想も激し過…」
「ストップ、ストーップ! 二人共落ち着いて下さい」
二人の間に入ってもう一人が僕らを宥める。
「知るか、そんなの。とにかく私は許さないからな…もうすぐ縁談だというのに、こんな事がばれたらどうなる事か」
エメラルドが腕を組んで言う。
「もう、いいです。僕はこれで失礼しますんで」
僕もこれ以上関わりたくなくて、ベッドを抜け工房に戻ろうと背を向ける。
「おまえ、名は?」
エメラルドが僕に尋ねる。
「治療代を払ってくれるんですか? でしたら、お教えしてもいいですが」
「違う! こっちが」
「だったら言いません。そんなの払うつもり有りませんので」
僕はそう言って教会を後にする。しかし、この偶然はもう少し引き摺る事となる。
「あぁっっっ! おまえはあの時のムッツリスケベ!」
それは工房を尋ねてきたお客が彼女だったからだ。
「何事だ、ギア。今、何か聞こえたが…」
その彼女の声に慌てて工房長が駆けてくる。
「いえ、何でもありません。あれは事故ですので」
僕はそう言いその場を収めて、改めてこのじゃじゃ馬と向き合う事を要される。
「で、何用ですか? 仕事でしたら何も僕でなくとも」
「いや、まあそうだが…おまえがあの噂の『匠』なのだろう?」
手にした星剣を握り締めながら彼女が尋ねる。
「一応は…しかし、貴方が言うムッツリスケベに手入れをお願いするのは貴方にとっても不本意なのでは?」
視線を逸らしたままの彼女が黙り込む。その後は少し時間が過ぎて、折れたのは僕の方だ。
(そこまでして直したいもの…という事でしょうし、武器に罪はありません)
「それ、見せて下さい」
「えっ」
僕の言葉に彼女が驚く。
そして、それからは度々彼女の依頼を受け、顔を合わせる事も増えれば自ずと見えなかった部分も見えてくる訳で…具合を確かめる為実践に近い動きをとって貰い、改善点はないか確認する。が、いつしか彼女のしなやかな動きに見惚れてしまっていたらしい。
「な、なんだ…その目は? 私としては申し分ないと思うが、何かあるのか?」
黙ったまま何も言わなくなった僕に彼女が訝しむ。
「あ、いえ…貴方がそう思うなら大丈夫でしょうからこのままで」
「はぁ? 何かあったのではないか?」
僕を疑うように彼女がずずいっと迫ってくる。
「あー、いえただ本当に綺麗で美しいなと思いまして」
「う、美しいだとっ!? なっ、何言ってんだ、おまえはっ」
彼女が僕の言葉に顔を真っ赤にしながら後づさる。
「あれ、僕今何か変な事言いましたか?」
その彼女のリアクションに僕が首を傾げる。
「クッ…冗談も大概にしろ! 私は、もうすぐ婚儀を控える身なのだからなっ! では、さらばだっ!!」
そう言い切って彼女が工房を走り出ていく。婚儀…その言葉に心が粟立つ。
(そうだ、彼女はもうすぐ式なんだっけ…。あれ? 僕は何でこんなに動揺しているんだ…)
チクチク胸を刺すこの痛みの正体は? 彼女の結婚式まで後二週間。
その後は彼女も工房を訪れる事は無くなった。
どうやら彼女の親友の話によると新郎側の親が神経質で大事を取り、悪い虫がつかないよう式までは彼女を外出禁止にしたらしい。
「そういえば彼女の婚約者ってどんな人だろう…」
そう思い何となく町の情報通に聞くと、余り良い話は出てこない。
「容姿はまあまあなんだけどね。女遊びも激しい割に束縛するタイプだとか…今までの恋人は皆なぜか行方知れずだってさ。だから今回は貴族でありハンターでもある娘を宛がったんだろうけどねぇ~さてはて、どうなるやら」
肩を軽く振るわせて男が言う。
「そんな人って事を彼女…いえ、エメラルドさんは知ってるんですか!」
声を荒らげて僕が尋ねる。
「さあねぇ、だけどあのボンボン外面だけはいいからなぁ」
(エメラルドさん…)
僕の中で何かに火が灯る。こうなれば後は行動するのみだ。
幸いにも二人の結婚式は僕が以前運ばれた教会で行われる事が判っていた。
だから、準備するのは簡単だ。彼女の親友にも力を貸して貰い、警備の目を掻い潜る。そして、参列者にこっそり混じって、後は時を待つだけだ。何も知らない彼女がゆっくりとヴァージンロードを歩いてくる。
「…きれいだ」
いつもはビキニアーマーだが今日だけは違う純白のドレス。新郎の目が野犬の様にギラリと輝く。
(あんな奴に渡すもんか)
半分くらい進んだ頃僕は教壇裏から飛び出して、彼女の元へ走る。
「え、ええっ」
彼女の戸惑う顔が可愛く思えるようになったのはいつの事だろう。
「あいつは女誑しの悪い男だそうです。だから僕と行きましょう!」
僕が彼女の手を取る。彼女は混乱していたが、何かを悟ったようにヒールを脱ぎ捨て共に走り出す。
『エメラルドッ! 戻ってきなさい!』
彼女の両親の声がした。後で色々話さなくては…そう思うも今を逃せば、また彼女が監禁される可能性もあるから足は止められない。
「き、貴様ッ! こんな事して責任は取って貰うぞっ!」
共に並んで駆けながら彼女が頬を染めたまま言う。
その時の表情に自分と同じものを見て取り、僕は確信して今ここで秘めていた言葉を口にする。
「いいですよっ! 責任とります、僕と結婚してくれればねっ!」
僕の言葉に彼女の目が見開かれ…続いたのはYESを示す歓喜の破顔であった。 【Fin】
●好奇心と探求心編
「あっ」
坂を転がる林檎に彼女――マリア(ka6586)が振り返る。彼女は修道士だった。
紙袋から零れた林檎を拾った僕はその場で拾い、彼女に手渡す…筈だった。しかし、思わぬ声に拾った林檎を取り落とす。
「おまえ、今スカートを覗こうとしただろう」
彼女と共に買い物に来ていたのだろう。別の店から出てきた金髪の女騎士が僕に言いがかりをつけてきたからだ。
「そんな、ただ拾おうとしただけで…」
まあ、確かに拾う為に屈みはしたが、ロングスカートの彼女のその下の覗ける訳がない。しかし、向こうも引き下がらなくて…当人を外して口論に発展してしまう。
「ハッ、このムッツリ野郎が。マリアは避難してていいぞ」
女騎士が彼女を誘導する。
「ちょっと、エメラルド…そんな人には」
「おまえは甘いんだ。男というものはみんなスケベであって…」
「ごめんなさい。失礼しますね」
その後も騒ごうとする友を引き摺って、マリアと呼ばれた女性は慌ててその場を去っていく。
「あ、林檎…」
僕は林檎を持ったまま立ち尽くす。集まってしまった観衆の目は真実はどうあれかなり冷たかった。
とまぁ、そんな事がきっかけだったが、その後僕の姿を覚えていた彼女に街で声を掛けられ、まずはあの時の謝罪から。その後は、流れでお茶を共にしたのだが、どうもあのマリアの友人は僕を何故だか敵視しているらしい。
「むっ、おまえはあの時の! なぜまたマリアと一緒なんだ」
と駆け付けては彼女を庇う様に自分の後ろに引き込み自分が矢面に立つ。
「あ、あの…エメラルド?」
そう言い困惑するマリアがいてもお構いなしだ。
己がボディガードだとでも言う様に立ち振る舞い、そのまま別の場所へ連れて行こうとする。
「大丈夫よ、あの人は悪い人じゃないもの」
マリアの声がする。けれど、エメラルドは聞く耳を持たない。あいつはハレンチ男だ、あんなのと会ってはいけないの一点張りで今日も楽しい時間が台無しだ。
「ごめんなさい…また…」
彼女の声が小さく聞こえる。何がそんなにいけないのか、この時の僕は判らなかった。
そんなこんな中でも徐々に彼女との逢瀬も増えていく。歳が近い事もあって話しやすかったからだ。
(今日も会えるだろうか)
二人がよく行くパン屋で…この時間なら来ているかもしれない。が中にはまだいなくて、暫しパン屋の娘さんとお喋りタイム。武器ではないが、パン切の刃を研いで欲しいのだという。
「構いませんよ。その位だったら簡単ですし…」
その言葉に娘さんが微笑む。その視界の端にマリアの姿が入って、
「あ、マリアさん。こんにちは」
僕は自然に声をかけたつもりだった。
しかし、彼女はこちらに気付くとハッとした様子で傍の看板に身を潜める。
「あれ、違った…でしょうか?」
その様子に僕が首を傾げる。
いつもなら手を振ってくれる筈だが、どうやら今日はパン屋の娘さんを気にしているようだ。
「マリアさーん?」
もう一度呼びかける。しかし、それを聞き肩をびくりと揺らすと途端に踵を返して駆け出していく。
(どうしたんだろう、具合でも悪かったのかな…?)
それとも何かしてしまっていたのだろうか。考えるも答えは出ない。
「困ったな…折角いい友達が出来た思っていたのに」
そう呟いた時だった。いつも間にか戻って来ていたマリアがぽつりと呟く。
「と、友達…そっか…私、は…友達」
彼女がそう言い、再び駆け出す。
その瞳には涙が見えて、慌てて追いかけようとする僕に立ちはだかるのはまた彼女だ。
「ふんっ、ついにマリアを泣かせたな! なんて奴だ!」
確かエメラルドと言ったと思う。彼女が僕の進路を妨害する。
「いや、だってあれは」
「言い訳は無用だ! やはりおまえはマリアに相応しくなかったのだ! もう近寄るなよ」
彼女がそう言い放ち、去っていく。残された僕の頭は大混乱だ。
(何故こんな事に? 考えろ…俺は、なんで彼女を泣かせた?)
自分でも驚く程冷静ではいられない。脳内で『僕』を保てなくなっている事にさえ気付かない。
(そうや…彼女は『友達』言う言葉に動揺して…その前俺がしていたのは…そうか、そう言う事か)
どくどくいう心音がうるさい。今追いかけるべきだろうか。
しかし、今いけば同時に彼女を守護者にも会う事になる。
説得できるだろうか。いや、もうここは説得するしかない。
「今いくで、マリア」
何となく彼女の行きそうな場所へと走り出す。そういえば何度かデートらしい事もしたっけ。時間は僅かだったけれど、買い物に付き合ったり、カフェで話をしたり、それらは今でも驚く程鮮明に思い出せる。
(多分あそこだ…港の灯台の下)
お気に入りの場所だと言っていた。辛い事や困った事があると行くとも…だったらそこに間違いない。
案の定、彼女はそこに膝を抱えて座り地平線を眺めている。
「マリアさん…いや、マリア」
俺が彼女を前に一歩踏み出す。
どうやら、エメラルドは彼女を見つけられなかったようだ。まだここに姿はない。
「こ、来ないで下さい…こんな私、見られたくない」
俯いたままで彼女が言う。
「大丈夫、さっきのは誤解です。あれはその…」
「何ですか? 私はギアさんのお友達ですよね…知ってます。なのに、何でか私…モヤモヤしてそれで」
「ごめんなさい。僕は本当はお友達だなんて思わない。思いたくない」
「え…」
その言葉に再び彼女が狼狽える。
「そんな…じゃあ、私は一体…」
「マリアは僕の事、嫌いですか?」
意を決してストレートに僕は言葉する。
「嫌いだなんて、そんなこと…でも、あなたを見てると辛くなって…これは何ですか?」
彼女はきっとそれの正体を知らないのだ。だからこんなに不安になっているに違いない。そう思い、僕は傍に寄ると彼女をぎゅっと抱きしめて、
「どうですか? まだモヤモヤしますか?」
僕からの質問。これで拒絶されるなら脈なしだと思うが、彼女から出た言葉はNOだ。
「…いえ、ただ温かい…この気持ちは? 私、知りたいです。ギアさん、教えてくれませんか?」
彼女が顔を上げ僕を見る。その顔は涙に濡れていたけれど、とても輝いて見える。
「僕が言うのも何ですが、それが好きって事です…言い換えれば恋の花が咲いたという所かな」
少しカッコを付けたかもと思うもそれを素直に受け取る彼女がとても愛おしい。
「だったら、さっきのモヤモヤは」
「嫉妬だな」
「わっ!?」
突然聞こえた別の声に僕がハッとする。するとそこにはエメラルドがいてマリアは不思議そうだ。
「嫉妬って…そんな、まさか…」
「だってそれしか考えられんだろう。最近のマリアは口を開けば『ギアさんギアさん』と言っていたからな。もしかして、恋をしているのではと思っていたらこれだ。しかもそこまで進んでいたとは…正直無念だ」
エメラルドが呆れ果てた様子で息を吐く。
「私が恋…」
それを意識するとマリアは一瞬にして顔を赤くすると同時に、僕の腕からそっと抜け出し…。
「あわわ…私が恋なんて。ホント、どうしちゃったのかな…私…」
呟く言動が乙女全開。もじもじしたり、顔を隠したり極端に照れ始める。
そこで僕は一度落ち着いて、軽く深呼吸。そして、いざ。
「マリア、こんな僕だけどこれからは恋人として付き合ってくれませんか?」
工房で働かせて貰う為のお願いに行った時以来の綺麗なお辞儀で僕が彼女に手を差し出す。
「ギアさん…」
それを聞き彼女も僕に向き直る。そして、
「貴方がいいです。貴方が私の事、知りたいと思ってくれるなら…私は喜んで」
「有難う、マリア!」
再びがしりと抱きしめる。
「いいか。もし、またマリアを泣かしたら…今度こそタダじゃおかないからな」
エメラルドの忠告に僕は笑顔で頷いた。 【Fin】
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/08 08:59:00 |