ゲスト
(ka0000)
Sleigh Ride Show !
マスター:紺一詠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/09 07:30
- 完成日
- 2015/03/13 10:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「たまにはそりあそび等いかがでしょうか?」
ハンターオフィスの受付嬢が、ふっくらと笑む。すわデートの誘いかといきりたてば豈図らんや、これも仕事の依頼らしい。
ある山麓の村里が、なにかとわびしい冬場の景気づけにと、仮装そりすべり大会を企画した。
「仮装そりすべり大会ぃ? なんというか、えらく、ニッチなかんじがするけど」
「リアルブルーにそんな催し物があると聞いた村の人たちが、手探りで、あれこれ試しているそうです。でも所詮は人伝の知識だからか、こういうときに具体的になにをしていいものか、彼等自身にもいまいち不明瞭らしくて」
しかも、だ。辺鄙な土地柄のせいもあって、参加者の集まりがはかばかしくない。そこでハンター達に、当日までの数日間における宣伝・告知、且つ、大会当日は参加者の一員として会場を盛り上げて欲しい、とのこと。
仮装そりすべりとは――仮装した姿でそりすべりを行うことだ(そのまんまだった)。
レースというよりはエンタテイメント。スポーツというよりパフォーマンス。大人の本気の悪ふざけ。
スピードを競う大会ではない。焦点は、どれだけ会場を沸かせたか、参加者と観客を楽しませたか。アイディアや独自性、完成度。自らを飾り立てるだけでなく、そりへの細工もまた大歓迎だ。それに危険さえ伴わなければ。
要は『おもしろけりゃそれでいいんだよ。ただし、余所様に迷惑をかけるのだけは勘弁な』の、精神である。
会場は、村の外れの丘陵。恐がり屋でも安心して遊ぶことのできる、なだらかな自然のゲレンデ。降雪はいい按配に固まって、今がまさに滑り頃。
大会が終われば、羊肉と根菜を煮込んだポトフを肴に、村の集会所でささやかな打ち上げの予定もある。
「仕事は仕事ですけど、だからといって、満喫しちゃいけないなんて規則はありませんから」
愉快な時間をおすごしください。でも、羽目をはずしすぎちゃダメですよ。
受付嬢は、ハンター達に、村への地図を差し出した。
ハンターオフィスの受付嬢が、ふっくらと笑む。すわデートの誘いかといきりたてば豈図らんや、これも仕事の依頼らしい。
ある山麓の村里が、なにかとわびしい冬場の景気づけにと、仮装そりすべり大会を企画した。
「仮装そりすべり大会ぃ? なんというか、えらく、ニッチなかんじがするけど」
「リアルブルーにそんな催し物があると聞いた村の人たちが、手探りで、あれこれ試しているそうです。でも所詮は人伝の知識だからか、こういうときに具体的になにをしていいものか、彼等自身にもいまいち不明瞭らしくて」
しかも、だ。辺鄙な土地柄のせいもあって、参加者の集まりがはかばかしくない。そこでハンター達に、当日までの数日間における宣伝・告知、且つ、大会当日は参加者の一員として会場を盛り上げて欲しい、とのこと。
仮装そりすべりとは――仮装した姿でそりすべりを行うことだ(そのまんまだった)。
レースというよりはエンタテイメント。スポーツというよりパフォーマンス。大人の本気の悪ふざけ。
スピードを競う大会ではない。焦点は、どれだけ会場を沸かせたか、参加者と観客を楽しませたか。アイディアや独自性、完成度。自らを飾り立てるだけでなく、そりへの細工もまた大歓迎だ。それに危険さえ伴わなければ。
要は『おもしろけりゃそれでいいんだよ。ただし、余所様に迷惑をかけるのだけは勘弁な』の、精神である。
会場は、村の外れの丘陵。恐がり屋でも安心して遊ぶことのできる、なだらかな自然のゲレンデ。降雪はいい按配に固まって、今がまさに滑り頃。
大会が終われば、羊肉と根菜を煮込んだポトフを肴に、村の集会所でささやかな打ち上げの予定もある。
「仕事は仕事ですけど、だからといって、満喫しちゃいけないなんて規則はありませんから」
愉快な時間をおすごしください。でも、羽目をはずしすぎちゃダメですよ。
受付嬢は、ハンター達に、村への地図を差し出した。
リプレイ本文
●いざ白銀の世界
イベント当日、予想の斜め上を行く人数が参加や観戦のために集まってきていた。
人が多いというのはそれだけで圧巻ではあるが、なにせ仮装大会も兼ねているのだ。普段から大勢の人間になれていない村人たちにとってそれは、ここがまるで自分たちの村ではないかのように錯覚させるほど。
「よくここまで集まったもんだな」
「宣伝の効果があったようでなによりじゃ」
「あとはどれだけ楽しんでもらえるか、だな」
集まってきている参加者たちより少し高い位置から見下ろしているドミノ・ウィル(ka0208)と火々弥(ka3260)、そしてアルルベル・ベルベット(ka2730)の三人。
さっきまでは残りの三人もいたのだが、ずば抜けてテンションの高いネフィリア・レインフォード(ka0444)に、
「三人で遊べるのだ♪ 楽しみなのだー♪ 一杯、一杯遊ばないとだねー♪」
といって引っ張られる形で雪遊びをしに行ってしまった。
高いところから眺めることで分かったが、少し離れたところに、参加者の数をはるかに上回る見物人が集まってきていた。
参加者たちの知り合いに加えて、ソリ滑り大会の様子を見てみたいという人たちも来ているのだろう。
「お、始まるみたいじゃな」
何かに気づいた火ヶ弥が向く方向を見ると、司会者のような男が壇に登り始めているところだった。
「あーあー。お集まりくださったみなさん、ようこそおいでくださいました。このイベントが開催できたこと、我々主催者一同、心より嬉しく思います」
「もしかしたら人が集まらないんじゃないだろうか。村人だけでのソリ滑り大会になってしまうんじゃないだろうか。そんな心配に、夜も眠れない日々を過ごしてきました」
「卑屈なことを言うのね」
開会式の開始に伴って、雪遊びから戻ってきたフローレンス・レインフォード(ka0443)がつぶやく。
「しかし! 今ここにはこんなにも大勢の参加者の皆様が集まってくれている! こんなに嬉しいことはありません!」
「思い起こせばこの企画は……(中略)……そうして今日の成功を見ることができたわけなのです!」
「話……長いね」
「早くソリすべり始まらないのかな?」
だんだんとその言葉に熱を帯びていき、それに比例するように話が長くなっていく司会者。かれこれ十分は話している。
それに対してポソッと言葉をもらすブリス・レインフォード(ka0445)に、ネフィリアが同調を示す。
「おっと。話が長くなってしまって申し訳ない。さぁそれじゃあ、ここにの開会を宣言する!」
おそらく皆途中から話を聞いていなかったのだろう。
「お、おぉー!」
司会者の開会宣言に一拍遅れて歓声が上がる。
●準備のわきで
開会宣言の後、それぞれの参加者たちはソリ滑りに向けた最終調整に取り掛かった。
これは六人のハンターたちも例外ではない。
火ヶ弥が滑っている最中の仕掛けを用意していると、知った顔が近づいてくるのが見えた。
今回の広告をするにあたって火ヶ弥はこの村の珍味、豪雪地帯特有ともいえる各種干し肉を文字通り餌にしたのだった。
獲物、もとい参加者がかかるのを待っているところにやってきたのがこの男、自称食の研究者。
風土に根差した食品というのはいい研究材料になるらしく、催し物の内容を告げる前に二つ返事で参加を約束してくれた。
「よく来てくれたのう」
「吾輩にとっても重要なイベントですからな。もちつもたれつ、winーwin。表現は色々ですわ」
その男はいまいち理解できない言葉を返してきた。
……とりあえず参加してくれるというのだからそれでいいだろう。
「おぬしの健闘を祈っておるからの」
「ええ、ええ。お互いさまに」
そういえばもう一人、広告をしていたなと思いだした火ヶ弥があたりを見回すと、案の定参加者となにやら話をしていた。
ゴシック調に整えられたソリに仕込まれたバネ。アルルベルがその確認をしていると、近づいてきた男に声をかけられる。
「いたいた。あんたには絶対に負けないからな」
「あなたは?」
派手なピエロの格好に身を包んだ男はさも残念そうな顔を見せてから、
「ま、無理もねぇか。ほらあんた、うちの里で宣伝してただろ?」
それを聞いてアルルベルの合点がいく。
今回の依頼主から受けた内容はソリ滑りを盛り上げることともう一つ。事前の広告活動が含まれていた。
そこでアルルベルはこの村の近くの里へ、自分のソリとおそろいのゴシック調の装いで訪れていたのだ。
「きっと何者にもなれないお前たちに告げる! ……っと、違った。何者かになろうという者はいないか」
「当日は概ねこのような装いで、観客を最も沸かせた者が勝者となる。私もその参加者の一人、挑戦を待っている」
この男もその近隣の里の大通りで行った呼びかけに応じたうちの一人らしい。
ともなれば「負けない」という言葉の意味が自ずと分かってくる。
「私もあなたに負けるつもりはない」
そう言いつつ、大会のいい盛り上げ役になってくれそうだ、アルルベルは密かにそう考えていた。
用意を整えた参加者たちがソリ滑りの舞台へ続々と集まってくる。
「さぁーさぁ! 皆さんの準備が整ったようです!」
仮装をした、滑走者達がスタートラインにつく。
「ソリ遊び、一緒にのるのだー♪ 僕、一番前ー♪ ブリスちゃんの胸枕なのだ♪」
「……ネフィ姉様の頭、ブリスのおっぱいに埋まって……んぅ、なんか変な感じ……。
……あ、でもブリスの頭もフロー姉様のおっぱい当たって……気持ちぃ……」
「私達は楽しんでいきましょう、ね? ……ネフィ、お、落ち着いて頂戴ね?」
ネフィリア、ブリス、フローレンスの順で、二人乗りのソリに乗ると、いくら小柄といえど僅かながら窮屈である……いろいろと。
しかし当の本人たちにそれを気にする様子はない。
「準備はいいですか? 行きますよ?」
騒がしかった会場が、司会者のその一言で静寂に落ちる。
「よーい……どん!」
●白銀に映える仮装者たち
背景が銀色ということも加味して、斜面を滑る衣装はとても煌びやかに見える。
言わずもがな、ウェディング風に統一されたドミノのドレスも。
すると、サンタ衣装に身を包んだカップルが、すべっている最中だというのに器用に接近してきた。
「その衣装、見事ですね」
「そうか? そう言ってもらえるのはうれしい限りだな」
笑顔で会話をしていたのだが、突然、カップルのうちの男が深刻そうな表情を見せる。
「どうした?」
「いや、俺……」
ソリの後ろにのせている女のほうをちらちらと見ながら、言いあぐねている様子の男。
「俺……この大会でちゃんと滑りきれたら結婚を申し込もうと思ってるんです」
「それって……!」
逡巡の後に出てきた男のセリフに、ドミノの表情も深刻な物へと変化する。男の声はトーンが落ちていたため、後ろの女には聞こえていなかったようだが、
「わかって言ってるのか?」
「当たり前です。でもそんなフラグを乗り越えられないようなら、この先こいつを守っていけないと思って……」
真剣そのものの男の顔。そちらに気を取られていたために前方不注意となっていたドミノは、他より多く雪が積もりジャンプ台のようになった場所を踏んでしまった。
ドミノのソリが跳ね上げられ、体勢を崩してしまう。
「お前のフラグは俺が預かったぁ!」
先へと滑り降りていくカップルのソリへ、ドミノは転倒しながらも可能な限り大きな声で叫んでいた。
ネフィリアたち三人を乗せたソリは比較的安全運転であった。
しかしそれをよしとするはずもないのが一人。
「せっかくだしもっとスピード出すのだ♪ どーんっといってみよー♪」
徐々にスピードを上げていくソリは、前を滑走していたのを何台か抜き始めた。
「……って、そ、ソリちょっと早すぎ……!? ね、ネフィ姉様もうちょっとゆっくり、ぅきゃーーーーーー!?」
あまりのスピードに、フローレンスに抱き付いてしまったブリス。緊急のことだったとはいえ、その手は意図せずフローレンスの『なにか』へ触れてしまっていた。
それをきっかけにバランスを崩したソリは雪の深いところへ突っ込んでしまう。
「……?」
衝撃でソリから投げ出されたはずなのに、不思議と痛みや衝撃がない。それはハンターゆえ、というわけでもなさそうだった。
ブリスはふと自分の上にやわらかく、そしていい匂いのする『なにか』があるのに気がついた。手を伸ばして揉んでみる。……やわらかい。
「……ブリス……」
そんなことをしていると、唐突にその『なにか』がしゃべりだした。
「……あ」
「大丈夫かしら?」
ここにきてようやく状況を把握するブリス。そして芋づる式に、衝撃がなかった謎も解ける。
ソリから振り落とされたと思ったのは、ブリスとネフィリアを気遣ったフローレンスが、二人を抱えてソリを離脱し、雪にダイブしたものだった。
「あやや、ちょっと出し過ぎちゃったかな? かな? 雪まみれになったのだー」
おかげでブリスもネフィリアも無傷である。
「フロー姉様は……大丈夫?」
「ちゃんと着地したから私も大丈夫よ」
雪まみれにはなってしまったが全員無傷で済んで何よりだった。
下に戻ったらネフィリアが持ってきたものに着替えよう。
……少なくとも現時点でのフローレンスはそう考えていた。
「まだまだコースはあるのだー♪」
少し先でひっくり返っていたソリをネフィリアが回収してきたので、再びそれに三人で乗り込む。
雪がついてしまったため、肌に当たる風は冷たかったが、三人がそこにいるという温かみに勝るものではなかった。
煌びやかな仮装の中に、立ち乗りでソリを操り、黙々と滑っている、分厚く地味な服装の者がいた。
仮装を楽しみにしていた観客陣からは、非難に近しい視線が向けられる。
けれどその乗り手はそんな視線など全く気にするそぶりを見せない。
しばらく滑っていくと、コースの終盤が近づくにつれて、脇の観客の数も増えていった。コースはどこでも観戦が可能になっているが、山を登るのは皆億劫なのだろう。
「そろそろ頃合いかのう」
火ヶ弥は羽織っているその分厚い上着に思わせぶりに手をかけた。
その仕草に気づいた観客の目が徐々に集まってくるのを感じる。
ばさっ!
大仰に取り払われた上着の下からは薄手で派手な戦装束が姿を現す。
今まで上着を羽織っていた中から出てきた華美な衣装。他の参加者のものが引けをとっていたと一概に言うことはできないが、火ヶ弥の演出つきの衣装を凌駕できるものはなかった。
観客たちの視線が一瞬にして引き付けられる。
しかし策はそれでは終わらない。
大げさに上着を取り払ったことで体勢を崩したようなフリをして転んで見せたのだ。
なんとも形容しがたい、思い思いの声が観客の中で爆発した。
コースもそろそろ終わりを迎える。ゴールのゲートの大きさの関係上少しずつ道が狭くなっていくため、徐々にソリとソリとの間が狭まっていく。
接触の危険が高まるため、ソリのスピードも自然と落ちていき、操作性を重視した滑りになる。
しかしそんななかを、スピードをそのままにした白と黒のゴシック調に包まれたソリが優雅に滑走していく。
その滑りに合わせてなびく飾り布もその優雅さに一役買っているようだった。
「板バネ……快調、だな」
取り付けられた板バネ。衝撃を吸収してくれるそれが、周囲の速度が落ちる中で優雅な動きを可能とさせていた。
背景の銀に白と黒。見事な様式美がそこにはあった。
雪を撥ね飛ばしながら進むソリ。その乗り手にも雪がかかっている。終わったら着替えるのが先決だろう。
「……なに、着替え……? ……。しまった……」
ソリは優雅に滑っていく。
●祭りの終わり
コースの終わり、ゴールゲートを続々とくぐっていく参加者たち。
参加者の知人だけでなく、滑走中に気になったソリの近くに寄る観客の姿もある。
そして今まさにゲートをくぐったウェディング風のソリ。その乗り手はゲートをくぐった瞬間、
「冬に結婚する方、人生にも似てるそり滑り、これを見習うかどうかはおいといて、お幸せに!」
と叫んだ。
パチパチとゴールを祝福する拍手の中、一組のカップルがその乗り手に近づいていくのが見える。
……そこでの会話はあえて記述する必要もないだろう。
「皆さんお疲れ様でした!」
全ての参加者がゴールゲートをくぐった後、閉会式での司会者の第一声。始めからよくこのテンションがもつな、と感心する声も上がる。
「まずは、誰一人けがすることなく終わってよかった! そしてそして、どの仮装も素晴らしかった!」
「参加者の皆さんがどれほど工夫をこらして今日の……(中略)……ま、そういうわけで。ささやかながらではありますが皆さんにお土産、この村名産の干し肉があります!」
「話が長すぎないか」
熱く語り続ける司会者と対照的に、聞き手はみるみるうちに萎れていっている。
「あの司会者、わしたちの気力でも吸い取ってるんじゃろうか」
アルルベルの言葉に、火ヶ弥が苦笑いを浮かべる。
「なんとこれ、春ぐらいまでなら放っておいても腐らない優れもの! その制作過程は……(中略)……みなさんお疲れ様でした! これをもって閉会の言葉とします!」
「……わぁー!」
またしても一拍遅れて、けれど開会式より大きな歓声が上がった。
着替えのために村は個室を用意していた。
個室というにはなかなかの広さを有していたため、フローレンスたち三人が同時に入っても窮屈ということはない。
「取り敢えず着替えましょう。ネフィ、着替えは……え?」
「……って、ネフィ姉様、服、忘れちゃった……!?」
「えー、着替えはいらないと思ったからないよー? きっとそのうち乾くのだ♪」
着替えを持っている割には荷物が少ないな、とは思っていた。
しかし、本当に持ってないとは。
村が用意したこの部屋は着替えを意識したのか、幸いなことに外よりかは暖かかった。
しかしそれも比較すればの話。満足な温かみではない。
フローレンスは、服を乾かす傍らで、ネフィリアやブリスを冷えないように抱き寄せ、
「二人共、もっとくっ付きなさい。ほら、遠慮はしなくても良いのよ?」
「ブリスちゃんがそういうならー。こうやってぎゅーっとしてれば少しは温かいのだ」
やはりそこにはなにをも上回る不思議な暖かみがあった。
(代筆:岡本龍馬)
イベント当日、予想の斜め上を行く人数が参加や観戦のために集まってきていた。
人が多いというのはそれだけで圧巻ではあるが、なにせ仮装大会も兼ねているのだ。普段から大勢の人間になれていない村人たちにとってそれは、ここがまるで自分たちの村ではないかのように錯覚させるほど。
「よくここまで集まったもんだな」
「宣伝の効果があったようでなによりじゃ」
「あとはどれだけ楽しんでもらえるか、だな」
集まってきている参加者たちより少し高い位置から見下ろしているドミノ・ウィル(ka0208)と火々弥(ka3260)、そしてアルルベル・ベルベット(ka2730)の三人。
さっきまでは残りの三人もいたのだが、ずば抜けてテンションの高いネフィリア・レインフォード(ka0444)に、
「三人で遊べるのだ♪ 楽しみなのだー♪ 一杯、一杯遊ばないとだねー♪」
といって引っ張られる形で雪遊びをしに行ってしまった。
高いところから眺めることで分かったが、少し離れたところに、参加者の数をはるかに上回る見物人が集まってきていた。
参加者たちの知り合いに加えて、ソリ滑り大会の様子を見てみたいという人たちも来ているのだろう。
「お、始まるみたいじゃな」
何かに気づいた火ヶ弥が向く方向を見ると、司会者のような男が壇に登り始めているところだった。
「あーあー。お集まりくださったみなさん、ようこそおいでくださいました。このイベントが開催できたこと、我々主催者一同、心より嬉しく思います」
「もしかしたら人が集まらないんじゃないだろうか。村人だけでのソリ滑り大会になってしまうんじゃないだろうか。そんな心配に、夜も眠れない日々を過ごしてきました」
「卑屈なことを言うのね」
開会式の開始に伴って、雪遊びから戻ってきたフローレンス・レインフォード(ka0443)がつぶやく。
「しかし! 今ここにはこんなにも大勢の参加者の皆様が集まってくれている! こんなに嬉しいことはありません!」
「思い起こせばこの企画は……(中略)……そうして今日の成功を見ることができたわけなのです!」
「話……長いね」
「早くソリすべり始まらないのかな?」
だんだんとその言葉に熱を帯びていき、それに比例するように話が長くなっていく司会者。かれこれ十分は話している。
それに対してポソッと言葉をもらすブリス・レインフォード(ka0445)に、ネフィリアが同調を示す。
「おっと。話が長くなってしまって申し訳ない。さぁそれじゃあ、ここにの開会を宣言する!」
おそらく皆途中から話を聞いていなかったのだろう。
「お、おぉー!」
司会者の開会宣言に一拍遅れて歓声が上がる。
●準備のわきで
開会宣言の後、それぞれの参加者たちはソリ滑りに向けた最終調整に取り掛かった。
これは六人のハンターたちも例外ではない。
火ヶ弥が滑っている最中の仕掛けを用意していると、知った顔が近づいてくるのが見えた。
今回の広告をするにあたって火ヶ弥はこの村の珍味、豪雪地帯特有ともいえる各種干し肉を文字通り餌にしたのだった。
獲物、もとい参加者がかかるのを待っているところにやってきたのがこの男、自称食の研究者。
風土に根差した食品というのはいい研究材料になるらしく、催し物の内容を告げる前に二つ返事で参加を約束してくれた。
「よく来てくれたのう」
「吾輩にとっても重要なイベントですからな。もちつもたれつ、winーwin。表現は色々ですわ」
その男はいまいち理解できない言葉を返してきた。
……とりあえず参加してくれるというのだからそれでいいだろう。
「おぬしの健闘を祈っておるからの」
「ええ、ええ。お互いさまに」
そういえばもう一人、広告をしていたなと思いだした火ヶ弥があたりを見回すと、案の定参加者となにやら話をしていた。
ゴシック調に整えられたソリに仕込まれたバネ。アルルベルがその確認をしていると、近づいてきた男に声をかけられる。
「いたいた。あんたには絶対に負けないからな」
「あなたは?」
派手なピエロの格好に身を包んだ男はさも残念そうな顔を見せてから、
「ま、無理もねぇか。ほらあんた、うちの里で宣伝してただろ?」
それを聞いてアルルベルの合点がいく。
今回の依頼主から受けた内容はソリ滑りを盛り上げることともう一つ。事前の広告活動が含まれていた。
そこでアルルベルはこの村の近くの里へ、自分のソリとおそろいのゴシック調の装いで訪れていたのだ。
「きっと何者にもなれないお前たちに告げる! ……っと、違った。何者かになろうという者はいないか」
「当日は概ねこのような装いで、観客を最も沸かせた者が勝者となる。私もその参加者の一人、挑戦を待っている」
この男もその近隣の里の大通りで行った呼びかけに応じたうちの一人らしい。
ともなれば「負けない」という言葉の意味が自ずと分かってくる。
「私もあなたに負けるつもりはない」
そう言いつつ、大会のいい盛り上げ役になってくれそうだ、アルルベルは密かにそう考えていた。
用意を整えた参加者たちがソリ滑りの舞台へ続々と集まってくる。
「さぁーさぁ! 皆さんの準備が整ったようです!」
仮装をした、滑走者達がスタートラインにつく。
「ソリ遊び、一緒にのるのだー♪ 僕、一番前ー♪ ブリスちゃんの胸枕なのだ♪」
「……ネフィ姉様の頭、ブリスのおっぱいに埋まって……んぅ、なんか変な感じ……。
……あ、でもブリスの頭もフロー姉様のおっぱい当たって……気持ちぃ……」
「私達は楽しんでいきましょう、ね? ……ネフィ、お、落ち着いて頂戴ね?」
ネフィリア、ブリス、フローレンスの順で、二人乗りのソリに乗ると、いくら小柄といえど僅かながら窮屈である……いろいろと。
しかし当の本人たちにそれを気にする様子はない。
「準備はいいですか? 行きますよ?」
騒がしかった会場が、司会者のその一言で静寂に落ちる。
「よーい……どん!」
●白銀に映える仮装者たち
背景が銀色ということも加味して、斜面を滑る衣装はとても煌びやかに見える。
言わずもがな、ウェディング風に統一されたドミノのドレスも。
すると、サンタ衣装に身を包んだカップルが、すべっている最中だというのに器用に接近してきた。
「その衣装、見事ですね」
「そうか? そう言ってもらえるのはうれしい限りだな」
笑顔で会話をしていたのだが、突然、カップルのうちの男が深刻そうな表情を見せる。
「どうした?」
「いや、俺……」
ソリの後ろにのせている女のほうをちらちらと見ながら、言いあぐねている様子の男。
「俺……この大会でちゃんと滑りきれたら結婚を申し込もうと思ってるんです」
「それって……!」
逡巡の後に出てきた男のセリフに、ドミノの表情も深刻な物へと変化する。男の声はトーンが落ちていたため、後ろの女には聞こえていなかったようだが、
「わかって言ってるのか?」
「当たり前です。でもそんなフラグを乗り越えられないようなら、この先こいつを守っていけないと思って……」
真剣そのものの男の顔。そちらに気を取られていたために前方不注意となっていたドミノは、他より多く雪が積もりジャンプ台のようになった場所を踏んでしまった。
ドミノのソリが跳ね上げられ、体勢を崩してしまう。
「お前のフラグは俺が預かったぁ!」
先へと滑り降りていくカップルのソリへ、ドミノは転倒しながらも可能な限り大きな声で叫んでいた。
ネフィリアたち三人を乗せたソリは比較的安全運転であった。
しかしそれをよしとするはずもないのが一人。
「せっかくだしもっとスピード出すのだ♪ どーんっといってみよー♪」
徐々にスピードを上げていくソリは、前を滑走していたのを何台か抜き始めた。
「……って、そ、ソリちょっと早すぎ……!? ね、ネフィ姉様もうちょっとゆっくり、ぅきゃーーーーーー!?」
あまりのスピードに、フローレンスに抱き付いてしまったブリス。緊急のことだったとはいえ、その手は意図せずフローレンスの『なにか』へ触れてしまっていた。
それをきっかけにバランスを崩したソリは雪の深いところへ突っ込んでしまう。
「……?」
衝撃でソリから投げ出されたはずなのに、不思議と痛みや衝撃がない。それはハンターゆえ、というわけでもなさそうだった。
ブリスはふと自分の上にやわらかく、そしていい匂いのする『なにか』があるのに気がついた。手を伸ばして揉んでみる。……やわらかい。
「……ブリス……」
そんなことをしていると、唐突にその『なにか』がしゃべりだした。
「……あ」
「大丈夫かしら?」
ここにきてようやく状況を把握するブリス。そして芋づる式に、衝撃がなかった謎も解ける。
ソリから振り落とされたと思ったのは、ブリスとネフィリアを気遣ったフローレンスが、二人を抱えてソリを離脱し、雪にダイブしたものだった。
「あやや、ちょっと出し過ぎちゃったかな? かな? 雪まみれになったのだー」
おかげでブリスもネフィリアも無傷である。
「フロー姉様は……大丈夫?」
「ちゃんと着地したから私も大丈夫よ」
雪まみれにはなってしまったが全員無傷で済んで何よりだった。
下に戻ったらネフィリアが持ってきたものに着替えよう。
……少なくとも現時点でのフローレンスはそう考えていた。
「まだまだコースはあるのだー♪」
少し先でひっくり返っていたソリをネフィリアが回収してきたので、再びそれに三人で乗り込む。
雪がついてしまったため、肌に当たる風は冷たかったが、三人がそこにいるという温かみに勝るものではなかった。
煌びやかな仮装の中に、立ち乗りでソリを操り、黙々と滑っている、分厚く地味な服装の者がいた。
仮装を楽しみにしていた観客陣からは、非難に近しい視線が向けられる。
けれどその乗り手はそんな視線など全く気にするそぶりを見せない。
しばらく滑っていくと、コースの終盤が近づくにつれて、脇の観客の数も増えていった。コースはどこでも観戦が可能になっているが、山を登るのは皆億劫なのだろう。
「そろそろ頃合いかのう」
火ヶ弥は羽織っているその分厚い上着に思わせぶりに手をかけた。
その仕草に気づいた観客の目が徐々に集まってくるのを感じる。
ばさっ!
大仰に取り払われた上着の下からは薄手で派手な戦装束が姿を現す。
今まで上着を羽織っていた中から出てきた華美な衣装。他の参加者のものが引けをとっていたと一概に言うことはできないが、火ヶ弥の演出つきの衣装を凌駕できるものはなかった。
観客たちの視線が一瞬にして引き付けられる。
しかし策はそれでは終わらない。
大げさに上着を取り払ったことで体勢を崩したようなフリをして転んで見せたのだ。
なんとも形容しがたい、思い思いの声が観客の中で爆発した。
コースもそろそろ終わりを迎える。ゴールのゲートの大きさの関係上少しずつ道が狭くなっていくため、徐々にソリとソリとの間が狭まっていく。
接触の危険が高まるため、ソリのスピードも自然と落ちていき、操作性を重視した滑りになる。
しかしそんななかを、スピードをそのままにした白と黒のゴシック調に包まれたソリが優雅に滑走していく。
その滑りに合わせてなびく飾り布もその優雅さに一役買っているようだった。
「板バネ……快調、だな」
取り付けられた板バネ。衝撃を吸収してくれるそれが、周囲の速度が落ちる中で優雅な動きを可能とさせていた。
背景の銀に白と黒。見事な様式美がそこにはあった。
雪を撥ね飛ばしながら進むソリ。その乗り手にも雪がかかっている。終わったら着替えるのが先決だろう。
「……なに、着替え……? ……。しまった……」
ソリは優雅に滑っていく。
●祭りの終わり
コースの終わり、ゴールゲートを続々とくぐっていく参加者たち。
参加者の知人だけでなく、滑走中に気になったソリの近くに寄る観客の姿もある。
そして今まさにゲートをくぐったウェディング風のソリ。その乗り手はゲートをくぐった瞬間、
「冬に結婚する方、人生にも似てるそり滑り、これを見習うかどうかはおいといて、お幸せに!」
と叫んだ。
パチパチとゴールを祝福する拍手の中、一組のカップルがその乗り手に近づいていくのが見える。
……そこでの会話はあえて記述する必要もないだろう。
「皆さんお疲れ様でした!」
全ての参加者がゴールゲートをくぐった後、閉会式での司会者の第一声。始めからよくこのテンションがもつな、と感心する声も上がる。
「まずは、誰一人けがすることなく終わってよかった! そしてそして、どの仮装も素晴らしかった!」
「参加者の皆さんがどれほど工夫をこらして今日の……(中略)……ま、そういうわけで。ささやかながらではありますが皆さんにお土産、この村名産の干し肉があります!」
「話が長すぎないか」
熱く語り続ける司会者と対照的に、聞き手はみるみるうちに萎れていっている。
「あの司会者、わしたちの気力でも吸い取ってるんじゃろうか」
アルルベルの言葉に、火ヶ弥が苦笑いを浮かべる。
「なんとこれ、春ぐらいまでなら放っておいても腐らない優れもの! その制作過程は……(中略)……みなさんお疲れ様でした! これをもって閉会の言葉とします!」
「……わぁー!」
またしても一拍遅れて、けれど開会式より大きな歓声が上がった。
着替えのために村は個室を用意していた。
個室というにはなかなかの広さを有していたため、フローレンスたち三人が同時に入っても窮屈ということはない。
「取り敢えず着替えましょう。ネフィ、着替えは……え?」
「……って、ネフィ姉様、服、忘れちゃった……!?」
「えー、着替えはいらないと思ったからないよー? きっとそのうち乾くのだ♪」
着替えを持っている割には荷物が少ないな、とは思っていた。
しかし、本当に持ってないとは。
村が用意したこの部屋は着替えを意識したのか、幸いなことに外よりかは暖かかった。
しかしそれも比較すればの話。満足な温かみではない。
フローレンスは、服を乾かす傍らで、ネフィリアやブリスを冷えないように抱き寄せ、
「二人共、もっとくっ付きなさい。ほら、遠慮はしなくても良いのよ?」
「ブリスちゃんがそういうならー。こうやってぎゅーっとしてれば少しは温かいのだ」
やはりそこにはなにをも上回る不思議な暖かみがあった。
(代筆:岡本龍馬)
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