ゲスト
(ka0000)
彼らは知らない
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/15 15:00
- 完成日
- 2019/01/23 06:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
高瀬 康太は眼前の敵を注視しながら、己に平常心を命じていた。
リアルブルーで戦っていた頃とは何もかも勝手が違う。そのことは心得ていたつもりだった。
元軍属として、大きな作戦の際には宇宙軍を中心とした組織に合流する予定だが、それまでに新たに身に付けた力をいち早く馴染ませ、少しでも強くなっておきたかった。そのために、ハンターとしての身分で請け負った討伐依頼。
集団戦が主だったこれまでとは根本的に戦い方が違う。
また、強化人間だったときの力はその使い方を系統立てられているわけでもなかった。単純な力の強化ではなく、特定の方向性を持った力の的確な扱い、それに、スキル──銃を握る。選んだのは猟撃士だった。今後の戦局で今更前衛を志向して、長く留まれるだけの実力を付けられるとは思わない。それでも少しでも多く自らの活かし方を見出だすために。
そして、なによりこれまでと違う点として。彼らは、雑魔という物を良く知らない。敵と言えば狂気、ほぼそれだけだった故に。この世界の敵が持つ「多様さ」というものに慣れがない。
──そう、今回はまさにそこが問題だった。
(……何故猫の手なのだ)
平常心を命じながらも、康太は考えずにいられない。目の前の敵の姿。
ローブを目深に被った人の姿をデフォルメした感じ、と言えば良いだろうか。そのフードの奥には空洞を思わせる闇と、目の位置に光のようなものが見えるだけだが。体長は1m程に思えた。そしてその、やはりローブで覆われた腕とおぼしき先に、杖を手にしていて……その杖の先端が、猫の手の形状になっていた。ピンクの肉球がやけに愛らしい。
それが、計6体。以上が今回の討伐対象である。
(いや……見た目に惑わされるな……)
前衛と切り結ぶ、その威力を冷静に見る。やはり負のマテリアルから成る敵性存在なのだ。侮ってはいけない。
不意に一体が康太の方を向いた。雑魔が杖を掲げると、エネルギーの矢が生まれ彼に向かって放たれる。回避しようとしたが叶わないと判断するや、片手の盾で受け止める。
周囲のハンターたちが、彼を見て……。
彼は口を開いた。
「まだ大丈夫にゃんっ! 回復もフォローも不要だにゃん!」
…………。
隣に居た符術師──やはりリアルブルーから来たばかりの人間──が、ぎょっと目を向いて康太を見る。
「~~~~!?!? ちっ、違うにゃんっ! さ、さっきの魔法かにゃん!?」
何でだ! それに一体何の意味が!?
……いやまあ意味なら確かにあるのだが。きっちり動揺しまくって照準がぶれるのを康太ははっきり認めていた。
気にするな気にするな魔法だこれは魔法なんだあああああ恥ずかしい!
……リアルブルーで戦ってきた彼らは知らない。
この世界にはこのような理不尽なコメディ雑魔が稀に良く出ることを。
同行するあなたたちは、紅の世界の洗礼を受けてなお戦う彼らを導いてやらねばならないだろう。
リアルブルーで戦っていた頃とは何もかも勝手が違う。そのことは心得ていたつもりだった。
元軍属として、大きな作戦の際には宇宙軍を中心とした組織に合流する予定だが、それまでに新たに身に付けた力をいち早く馴染ませ、少しでも強くなっておきたかった。そのために、ハンターとしての身分で請け負った討伐依頼。
集団戦が主だったこれまでとは根本的に戦い方が違う。
また、強化人間だったときの力はその使い方を系統立てられているわけでもなかった。単純な力の強化ではなく、特定の方向性を持った力の的確な扱い、それに、スキル──銃を握る。選んだのは猟撃士だった。今後の戦局で今更前衛を志向して、長く留まれるだけの実力を付けられるとは思わない。それでも少しでも多く自らの活かし方を見出だすために。
そして、なによりこれまでと違う点として。彼らは、雑魔という物を良く知らない。敵と言えば狂気、ほぼそれだけだった故に。この世界の敵が持つ「多様さ」というものに慣れがない。
──そう、今回はまさにそこが問題だった。
(……何故猫の手なのだ)
平常心を命じながらも、康太は考えずにいられない。目の前の敵の姿。
ローブを目深に被った人の姿をデフォルメした感じ、と言えば良いだろうか。そのフードの奥には空洞を思わせる闇と、目の位置に光のようなものが見えるだけだが。体長は1m程に思えた。そしてその、やはりローブで覆われた腕とおぼしき先に、杖を手にしていて……その杖の先端が、猫の手の形状になっていた。ピンクの肉球がやけに愛らしい。
それが、計6体。以上が今回の討伐対象である。
(いや……見た目に惑わされるな……)
前衛と切り結ぶ、その威力を冷静に見る。やはり負のマテリアルから成る敵性存在なのだ。侮ってはいけない。
不意に一体が康太の方を向いた。雑魔が杖を掲げると、エネルギーの矢が生まれ彼に向かって放たれる。回避しようとしたが叶わないと判断するや、片手の盾で受け止める。
周囲のハンターたちが、彼を見て……。
彼は口を開いた。
「まだ大丈夫にゃんっ! 回復もフォローも不要だにゃん!」
…………。
隣に居た符術師──やはりリアルブルーから来たばかりの人間──が、ぎょっと目を向いて康太を見る。
「~~~~!?!? ちっ、違うにゃんっ! さ、さっきの魔法かにゃん!?」
何でだ! それに一体何の意味が!?
……いやまあ意味なら確かにあるのだが。きっちり動揺しまくって照準がぶれるのを康太ははっきり認めていた。
気にするな気にするな魔法だこれは魔法なんだあああああ恥ずかしい!
……リアルブルーで戦ってきた彼らは知らない。
この世界にはこのような理不尽なコメディ雑魔が稀に良く出ることを。
同行するあなたたちは、紅の世界の洗礼を受けてなお戦う彼らを導いてやらねばならないだろう。
リプレイ本文
──少し時を戻して、ハンターオフィス。
依頼に応じたハンターたちが転移門の前で顔を合わせていた。
真っ先に口を開いたのはマリエル(ka0116)だ。
「マリエルと言います。よろしくお願いしますね」
高瀬さんはお久しぶりになりますね。言われて康太は、彼女が自分が最も荒れていた時に会話をしたハンターの一人であることを思い出す。
「……。どうも」
何を言えば良いのか咄嗟には分からず、しばらく考えて康太はそれだけを答えた。
死んでほしくないと望まれた。今はどうにか、この通り生きている。だがそれを口にするのも、どこか皮肉めいているのが現状だ。結局そのまま、反らした視線の先にはメアリ・ロイド(ka6633)が居た。何かと康太に話しかけてくる彼女は、康太に軽く挨拶を終えた後で 、今は符術師の女性の方に話しかけている。
「あたし? 菫です。福島 菫」
一緒に戦う人の名前は知っておきたいと名を聞いたメアリに女性は少し驚いて、それから気さくな態度で答えてきた。
よろしくお願いします、とメアリが言うと、菫もすこし躊躇い気味によろしく、と応じる。若干緊張気味なのは、ハンターとしてまだ未熟という自覚故なのだろう。
「ふむ。マリエルの知り合いか」
レイア・アローネ(ka4082)はその様子を見て、まずはと確認のように、マリエルと康太に近づいている。
「ええ、前に少し」
その時のことはまだ手短に気安く話せることでもなくて。マリエルは曖昧にそれだけを答える。康太も特に否定せずにいると、レイアはそれだけで納得したように頷いてみせた。
「同じハンターというなら共闘せねばな」
その言葉も。今の康太には否定すべきことは……無い。
転移門が起動する。各々順に、それを潜っていく。闘いの前の空気はこうしたもので、互いの間にあるものは穏やかだった。
そうして、彼らは現地にて敵と相対したのだった。
「これはまた……可愛らしい見た目ですね……」
マリエルはそう言いながらも声には緊張があり、視線は油断なく敵へと向け続けられている。
警戒する一行。その中でレイアがすっと前に歩み出た。
「……何であろうと、私がすべきことは決まっている」
剣士として。前に出なければ始まらない。それが例え、未知の攻撃を真っ先に食らうことだとしても……それもまた、前衛としての務めというものだろう。
覚悟はマテリアルに伝わり、力となって顕れる。炎のようなオーラが彼女の身体から生まれ、敵の目を引き付ける。彼女が距離を詰めると同時に、直近の一体も彼女へと向かっていき、さらに別の二体が魔法の矢を彼女へと放つ。
(……全員がこちらに向かうことは無かったか。ならば)
彼女は杖と魔法の一撃、それを敢えて避けずに受ける。
さすがに棒立ちで受けるほど自分を過信してもいない。鎧の硬い部分を上手く利用し、何かの作用だろう、魔力の流れも散らせた感触があった。己の身に走る衝撃を冷静に分析する。この程度の威力なら。そう、
(相手がどんな攻撃をしてこようとも、私は驚かない!)
心を固めながら、彼女はそうして、無事を確認するために仲間へと向かった矢の行方を追う。
そうして。
「まだ大丈夫にゃんっ! 回復もフォローも不要だにゃん!」
……そうしてまあ、オープニングの状況になるわけである。
「にゃ、にゃにい!?」
レイアは思わず声を上げて……そして、己にもその効果が降りかかっていることを認識する。
「!?!?!?」
……先程までの余裕が一気に形無しとなった。
「にゃ、にゃんという恐ろしい攻撃だにゃん! これは恥ずかしい恥ずかしすぎるにゃんっ!?」
慌てふためいて余計ににゃん語を晒すはめになるレイアと康太。
「あらぁ」
氷雨 柊(ka6302)が、思わず目を丸くして声を上げた。
敵から目を反らすことのなかったマリエルも思わず一度視線を向ける。
「はにゃ、語尾をにゃんに変えちゃう攻撃ですかぁ……可愛いですねぇ」
「可愛い……で、済むのかなあ……あたしにはきっついもんがあるわ」
のんびりとした口調のまま告げる柊に、引き気味に菫が言う。
「20代が、って言うなら私もそうですよぅ?」
言われて菫は、思わず柊をマジマジと見て。
「いや、無理。貴女が良くてもむしろ余計にあたし無理」
エルフの、透けるように白く滑らかな肌。柊の小柄な体躯に、菫は余計に溜め息を深くして言うのだった。
そんな、緊迫感があるんだかないんだかな会話の横で。
「……ともかく、動きが鈍るのはなんとかしないといけませんね」
気を取り直したように、マリエルが進み出る。前に出るのではなく、位置取りは皆が布陣する中央。回復役として皆をサポート出来る場所。
祈りの言葉が紡がれる。神の祝福が、レイアと康太を包み、不浄を消し去っていく。動揺がさざ波のように引いていくのを感じて……。
「助かるにゃん! ……ってにゃんはそのままなのかにゃん!?」
礼を言ったレイアがそのまま再度悲鳴を上げた。……だがそれでも、先程までの動揺と比べれば遥かにマシである。
……つまり冷静に、自分のにゃん語を認識してしまうことでもあるわけだが。
「……命にかかわるよりいいですよね?」
なんだか余計にダメージを受けたように見えなくもないレイアに、マリエルはそっと呟くのだった。
ノリが軽い、あるいは動揺しているようで、戦闘に向かう彼らの姿勢は決して遊んでいる訳ではなかった。
柊の身体がゆらりと前傾姿勢を取る。立ち上る気から感じるのは動物の祖霊の力か。魔法の矢が彼女にも襲いかかる。それを、しなやかな身のこなしで避けていく。
柊の動きを見てだろうか、当たらなければ魔法の影響を受けないと察したメアリが、機杖でマテリアルを一つの法則に練り上げる。やがて流れ出たマテリアルはまず康太の元へ向かい、彼の運動能力を強化する。
柊も次いで、動揺が大きいレイアに風を纏わせ、敵の攻撃を逸らしやすくする。それを確認したメアリは再び運動強化を菫の方へ。レイアはその間、自身の生体マテリアルの力を己の刃へと這わせていく。
無論その間、敵からの攻撃もあった。だがそれは即座にマリエルの祈りの力で癒され、あるいは弾き散らされていく。
聖句から生まれた祈りの光が。康太に向かう攻撃を弾いたとき、マリエルは少し、伺うような目を彼へと向けた。既視感のある光景。あの時もこうして彼を守った彼女に、彼はなんと答えたか。
……この場において自分はまだ弱い。その自覚と焦りは、まだ康太の中にあった。だが今は、それをすぐ他のハンターにぶつけずにいられないほど追い詰められても居ない。多少は冷静に見ることが出来た。……別にマリエルは今、取り立てて彼を意識し集中して守っている訳でもないということを。どの攻撃、どの怪我に対しても、同じように対応している。
「私には回復と防御しか出来ませんから」
強い視線を感じたのだろう。困り顔でマリエルがポツリと告げる。康太は彼女には不服が無いことを示す為に一つ頷いて見せると、彼女の側の一体に向けて銃口を向けて。マリエルは困り顔のまま、少し微笑んだ。
メアリの機導砲が、康太の射撃を追うように放たれる。それは、どこの依頼でも見かけるような、ハンター同士の連携だった。
さてそんなわけでこの状況を……どう評すればいいのだろう。戦況的には何ら問題は無い。
敵の殲滅にあたり彼らは十分な実力を擁していたし、異常事態に対する対策も十分だった。このままいけば間もなく討伐されることは間違い無いだろう。
……で、それを「無事」と記してよいものなのか。
レイアが踏み込む。周囲の配置に気を使いながら獲物を大きく振りかぶり、二体纏めて薙ぎ払う構えを取る。
「にゃんっ!」
……普段ならば「とうっ」とかそんな感じなのだろう気迫の声にも、にゃんの呪いは容赦が無かった。
『神と精霊の御名において……にゃん』
聖句の詠唱も遠慮なくにゃん。
「そのうち当たったら猫になっちゃう魔法とか出してきたりー……したら流石に大変ですねぇ」
じわじわとカオスが増していく状況に、柊が恐ろしい事を言い出した。
「倒せなくなっちゃいそうですー」
「そういう問題なのかにゃん!?」
思わず入れたツッコミも勿論にゃんである。
……マリエルの魔法で冷静さを取り戻したことで、彼らはもしかしてこう思っただろうか。
『語尾がにゃんになるだけなら、黙ってれば良いのでは?』
残念ながらそうはいかない。
変化は何気なく口から零れる音声全てに作用し、その度に声を詰まらせるレイアと康太。
同じくかかっていることが確認されたマリエルは、
「飼い猫に話しかける時に偶にそうなる時もあるらしいので慣れてしまっているかもしれませんにゃん」
と一先ず平気な様子だった。
……自分が言う分には。
その一方で、見た目はクールな女戦士たるレイアや、今は私服とはいえ物腰は軍人の康太が猫語で喋るギャップに、吹き出すのは堪えようとしているのだろうが時折肩を震わせている。
段々、再び顔をひきつらせていく康太に、メアリが声をかけた。
「これは慣れでどうにかなるものではないにゃん。こういう良く分からないバッドステータスを付与する敵はこっちの歪虚には稀にいますが、遭遇確率のが低いにゃん。私もしっかりかかってますし、皆これだから恥ずかしくないにゃん」
「稀……そうですかにゃん」
そのメアリもいつの間にやらきっちり食らっていた。多少は落ち着きを取り戻す康太だが、その会話は申し訳ないがやはり傍目にシュールである。
「そうですにゃん。語尾がにゃんだって、皆でやれば怖くないですにゃん。メアリさんも可愛らしいですにゃん?」
……実際。メアリはメアリで可愛いと言われると多少気恥ずかしそうだったりする。
「……って、貴女全部回避して無かった……?」
「あら? ふふ、つられちゃいました」
その、可愛いと言った柊は菫に指摘されて、キョトンと言い直した。その様子は、狙ったのではなく本気で流されてしまったようではあるが。
「今の姿だと、にゃんって言ってもしっくりしますにゃん」
そのまま、もう流れにのってた方がしっくり来るとばかりに、そう言ってのける。
「言っていれば恥ずかしさなんてどこか行っちゃいますよぅっ! アワアワするのも勿体ないですし、避けられないなら楽しんじゃいましょう!」
そうして柊は、手を軽く握り、猫の形を作って。皆に向かって、声を上げた。
「ほら、一緒に言ってみませんかー?」
──にゃん♪
かくて。
「甘いにゃん!」
脇から繰り出された杖の一撃を鋭く受け止めたレイアの一言に。
「そこかにゃん!」
支援を受けて必中の機を得て構える康太の一言に。
「……貫け、にゃん」
機導術で三筋の光弾を打ち出すメアリの呟きに。
『護りたまえ、にゃん』
光の防御をもたらすマリエルの聖句に。
「猫さんゴーゴーですよぅ!」
『うなぁん』
ファミリアに命令を下す柊の……あ、今のは違う、ガチの猫の鳴き声だ。流石に一味違った。
……そんな戦場に。
「いやこの状況なんにゃのっ!? ってつられたあぁぁぁ!?」
きっちり、ソウルトーチを発動させたレイアの後方に陣取ることで標的にされるのを逃れていた菫も、最終的にはきっちり巻き込まれ。
それでもめげずに戦い続けるのがハンターと言う稼業である。
可愛い見た目と現象。それでも、一撃に力を抜く者はここには居ない。
レイアの猛攻の中、気付けば数が減っていった敵をメアリの機導砲が叩き。
「にゃん語尾だけだったら良かったんですけどぉ。これでも普通の方々は大怪我しちゃいますからね」
柊が駆け抜ける。相棒の猫と共に、強靭にして静かなステップで雑魔の前に立ち。リュートから放たれた魔力の一撃が、最後の一体を無に還した。
かくして戦闘は終結した。
……一部の者に、尋常じゃない疲労を残して。
敵の姿が見えなくなってからも、一行の間にはしばらく沈黙が漂っている。
そこに抱く気持ちはこうだろう。
……敵が全て居なくなった今だからこそ。今にゃんが出たら相当に恥ずかしい。
やがて。
「え、ええと……あ、戻ったみたいですね」
敵の魔法を食らった中で最初に声を上げたのはマリエルだった。
それを認めて、ゆっくりとメアリが。レイアが。「あ、あー……」などと小さく声を出し、戻ったことを確認する。
そうして、皆がどこか緊張して見守る中──多分吹き出さないように──康太も恐る恐る確かめて。無事、元に戻っていた。
「恐ろしい敵だった……ある意味」
レイアが、ぐったりと肩を落としながら呟く。
そうして、メアリが思い出したように康太に言った。
「あのしゃべり方の高瀬さん、とても可愛いかったので録音機材を持っていなかったのを大変後悔しています」
クールな声と態度のまま、それでも少し笑って、彼女にそんなことを言われて……。
「……!?!? 可愛い! 訳が! ありますか! ろくでもない事を考えますね貴女は……戦闘中は大人しいかと思えば!」
からかい目的の言葉と分かってだろう。それでも叫ばずにいられない康太の声が、平穏と取り戻した平原に響いていった。
……彼は知らない。メアリが、戦闘の記録用に蓄音石を持ってきており、既に記録済みだと言うことは。
依頼に応じたハンターたちが転移門の前で顔を合わせていた。
真っ先に口を開いたのはマリエル(ka0116)だ。
「マリエルと言います。よろしくお願いしますね」
高瀬さんはお久しぶりになりますね。言われて康太は、彼女が自分が最も荒れていた時に会話をしたハンターの一人であることを思い出す。
「……。どうも」
何を言えば良いのか咄嗟には分からず、しばらく考えて康太はそれだけを答えた。
死んでほしくないと望まれた。今はどうにか、この通り生きている。だがそれを口にするのも、どこか皮肉めいているのが現状だ。結局そのまま、反らした視線の先にはメアリ・ロイド(ka6633)が居た。何かと康太に話しかけてくる彼女は、康太に軽く挨拶を終えた後で 、今は符術師の女性の方に話しかけている。
「あたし? 菫です。福島 菫」
一緒に戦う人の名前は知っておきたいと名を聞いたメアリに女性は少し驚いて、それから気さくな態度で答えてきた。
よろしくお願いします、とメアリが言うと、菫もすこし躊躇い気味によろしく、と応じる。若干緊張気味なのは、ハンターとしてまだ未熟という自覚故なのだろう。
「ふむ。マリエルの知り合いか」
レイア・アローネ(ka4082)はその様子を見て、まずはと確認のように、マリエルと康太に近づいている。
「ええ、前に少し」
その時のことはまだ手短に気安く話せることでもなくて。マリエルは曖昧にそれだけを答える。康太も特に否定せずにいると、レイアはそれだけで納得したように頷いてみせた。
「同じハンターというなら共闘せねばな」
その言葉も。今の康太には否定すべきことは……無い。
転移門が起動する。各々順に、それを潜っていく。闘いの前の空気はこうしたもので、互いの間にあるものは穏やかだった。
そうして、彼らは現地にて敵と相対したのだった。
「これはまた……可愛らしい見た目ですね……」
マリエルはそう言いながらも声には緊張があり、視線は油断なく敵へと向け続けられている。
警戒する一行。その中でレイアがすっと前に歩み出た。
「……何であろうと、私がすべきことは決まっている」
剣士として。前に出なければ始まらない。それが例え、未知の攻撃を真っ先に食らうことだとしても……それもまた、前衛としての務めというものだろう。
覚悟はマテリアルに伝わり、力となって顕れる。炎のようなオーラが彼女の身体から生まれ、敵の目を引き付ける。彼女が距離を詰めると同時に、直近の一体も彼女へと向かっていき、さらに別の二体が魔法の矢を彼女へと放つ。
(……全員がこちらに向かうことは無かったか。ならば)
彼女は杖と魔法の一撃、それを敢えて避けずに受ける。
さすがに棒立ちで受けるほど自分を過信してもいない。鎧の硬い部分を上手く利用し、何かの作用だろう、魔力の流れも散らせた感触があった。己の身に走る衝撃を冷静に分析する。この程度の威力なら。そう、
(相手がどんな攻撃をしてこようとも、私は驚かない!)
心を固めながら、彼女はそうして、無事を確認するために仲間へと向かった矢の行方を追う。
そうして。
「まだ大丈夫にゃんっ! 回復もフォローも不要だにゃん!」
……そうしてまあ、オープニングの状況になるわけである。
「にゃ、にゃにい!?」
レイアは思わず声を上げて……そして、己にもその効果が降りかかっていることを認識する。
「!?!?!?」
……先程までの余裕が一気に形無しとなった。
「にゃ、にゃんという恐ろしい攻撃だにゃん! これは恥ずかしい恥ずかしすぎるにゃんっ!?」
慌てふためいて余計ににゃん語を晒すはめになるレイアと康太。
「あらぁ」
氷雨 柊(ka6302)が、思わず目を丸くして声を上げた。
敵から目を反らすことのなかったマリエルも思わず一度視線を向ける。
「はにゃ、語尾をにゃんに変えちゃう攻撃ですかぁ……可愛いですねぇ」
「可愛い……で、済むのかなあ……あたしにはきっついもんがあるわ」
のんびりとした口調のまま告げる柊に、引き気味に菫が言う。
「20代が、って言うなら私もそうですよぅ?」
言われて菫は、思わず柊をマジマジと見て。
「いや、無理。貴女が良くてもむしろ余計にあたし無理」
エルフの、透けるように白く滑らかな肌。柊の小柄な体躯に、菫は余計に溜め息を深くして言うのだった。
そんな、緊迫感があるんだかないんだかな会話の横で。
「……ともかく、動きが鈍るのはなんとかしないといけませんね」
気を取り直したように、マリエルが進み出る。前に出るのではなく、位置取りは皆が布陣する中央。回復役として皆をサポート出来る場所。
祈りの言葉が紡がれる。神の祝福が、レイアと康太を包み、不浄を消し去っていく。動揺がさざ波のように引いていくのを感じて……。
「助かるにゃん! ……ってにゃんはそのままなのかにゃん!?」
礼を言ったレイアがそのまま再度悲鳴を上げた。……だがそれでも、先程までの動揺と比べれば遥かにマシである。
……つまり冷静に、自分のにゃん語を認識してしまうことでもあるわけだが。
「……命にかかわるよりいいですよね?」
なんだか余計にダメージを受けたように見えなくもないレイアに、マリエルはそっと呟くのだった。
ノリが軽い、あるいは動揺しているようで、戦闘に向かう彼らの姿勢は決して遊んでいる訳ではなかった。
柊の身体がゆらりと前傾姿勢を取る。立ち上る気から感じるのは動物の祖霊の力か。魔法の矢が彼女にも襲いかかる。それを、しなやかな身のこなしで避けていく。
柊の動きを見てだろうか、当たらなければ魔法の影響を受けないと察したメアリが、機杖でマテリアルを一つの法則に練り上げる。やがて流れ出たマテリアルはまず康太の元へ向かい、彼の運動能力を強化する。
柊も次いで、動揺が大きいレイアに風を纏わせ、敵の攻撃を逸らしやすくする。それを確認したメアリは再び運動強化を菫の方へ。レイアはその間、自身の生体マテリアルの力を己の刃へと這わせていく。
無論その間、敵からの攻撃もあった。だがそれは即座にマリエルの祈りの力で癒され、あるいは弾き散らされていく。
聖句から生まれた祈りの光が。康太に向かう攻撃を弾いたとき、マリエルは少し、伺うような目を彼へと向けた。既視感のある光景。あの時もこうして彼を守った彼女に、彼はなんと答えたか。
……この場において自分はまだ弱い。その自覚と焦りは、まだ康太の中にあった。だが今は、それをすぐ他のハンターにぶつけずにいられないほど追い詰められても居ない。多少は冷静に見ることが出来た。……別にマリエルは今、取り立てて彼を意識し集中して守っている訳でもないということを。どの攻撃、どの怪我に対しても、同じように対応している。
「私には回復と防御しか出来ませんから」
強い視線を感じたのだろう。困り顔でマリエルがポツリと告げる。康太は彼女には不服が無いことを示す為に一つ頷いて見せると、彼女の側の一体に向けて銃口を向けて。マリエルは困り顔のまま、少し微笑んだ。
メアリの機導砲が、康太の射撃を追うように放たれる。それは、どこの依頼でも見かけるような、ハンター同士の連携だった。
さてそんなわけでこの状況を……どう評すればいいのだろう。戦況的には何ら問題は無い。
敵の殲滅にあたり彼らは十分な実力を擁していたし、異常事態に対する対策も十分だった。このままいけば間もなく討伐されることは間違い無いだろう。
……で、それを「無事」と記してよいものなのか。
レイアが踏み込む。周囲の配置に気を使いながら獲物を大きく振りかぶり、二体纏めて薙ぎ払う構えを取る。
「にゃんっ!」
……普段ならば「とうっ」とかそんな感じなのだろう気迫の声にも、にゃんの呪いは容赦が無かった。
『神と精霊の御名において……にゃん』
聖句の詠唱も遠慮なくにゃん。
「そのうち当たったら猫になっちゃう魔法とか出してきたりー……したら流石に大変ですねぇ」
じわじわとカオスが増していく状況に、柊が恐ろしい事を言い出した。
「倒せなくなっちゃいそうですー」
「そういう問題なのかにゃん!?」
思わず入れたツッコミも勿論にゃんである。
……マリエルの魔法で冷静さを取り戻したことで、彼らはもしかしてこう思っただろうか。
『語尾がにゃんになるだけなら、黙ってれば良いのでは?』
残念ながらそうはいかない。
変化は何気なく口から零れる音声全てに作用し、その度に声を詰まらせるレイアと康太。
同じくかかっていることが確認されたマリエルは、
「飼い猫に話しかける時に偶にそうなる時もあるらしいので慣れてしまっているかもしれませんにゃん」
と一先ず平気な様子だった。
……自分が言う分には。
その一方で、見た目はクールな女戦士たるレイアや、今は私服とはいえ物腰は軍人の康太が猫語で喋るギャップに、吹き出すのは堪えようとしているのだろうが時折肩を震わせている。
段々、再び顔をひきつらせていく康太に、メアリが声をかけた。
「これは慣れでどうにかなるものではないにゃん。こういう良く分からないバッドステータスを付与する敵はこっちの歪虚には稀にいますが、遭遇確率のが低いにゃん。私もしっかりかかってますし、皆これだから恥ずかしくないにゃん」
「稀……そうですかにゃん」
そのメアリもいつの間にやらきっちり食らっていた。多少は落ち着きを取り戻す康太だが、その会話は申し訳ないがやはり傍目にシュールである。
「そうですにゃん。語尾がにゃんだって、皆でやれば怖くないですにゃん。メアリさんも可愛らしいですにゃん?」
……実際。メアリはメアリで可愛いと言われると多少気恥ずかしそうだったりする。
「……って、貴女全部回避して無かった……?」
「あら? ふふ、つられちゃいました」
その、可愛いと言った柊は菫に指摘されて、キョトンと言い直した。その様子は、狙ったのではなく本気で流されてしまったようではあるが。
「今の姿だと、にゃんって言ってもしっくりしますにゃん」
そのまま、もう流れにのってた方がしっくり来るとばかりに、そう言ってのける。
「言っていれば恥ずかしさなんてどこか行っちゃいますよぅっ! アワアワするのも勿体ないですし、避けられないなら楽しんじゃいましょう!」
そうして柊は、手を軽く握り、猫の形を作って。皆に向かって、声を上げた。
「ほら、一緒に言ってみませんかー?」
──にゃん♪
かくて。
「甘いにゃん!」
脇から繰り出された杖の一撃を鋭く受け止めたレイアの一言に。
「そこかにゃん!」
支援を受けて必中の機を得て構える康太の一言に。
「……貫け、にゃん」
機導術で三筋の光弾を打ち出すメアリの呟きに。
『護りたまえ、にゃん』
光の防御をもたらすマリエルの聖句に。
「猫さんゴーゴーですよぅ!」
『うなぁん』
ファミリアに命令を下す柊の……あ、今のは違う、ガチの猫の鳴き声だ。流石に一味違った。
……そんな戦場に。
「いやこの状況なんにゃのっ!? ってつられたあぁぁぁ!?」
きっちり、ソウルトーチを発動させたレイアの後方に陣取ることで標的にされるのを逃れていた菫も、最終的にはきっちり巻き込まれ。
それでもめげずに戦い続けるのがハンターと言う稼業である。
可愛い見た目と現象。それでも、一撃に力を抜く者はここには居ない。
レイアの猛攻の中、気付けば数が減っていった敵をメアリの機導砲が叩き。
「にゃん語尾だけだったら良かったんですけどぉ。これでも普通の方々は大怪我しちゃいますからね」
柊が駆け抜ける。相棒の猫と共に、強靭にして静かなステップで雑魔の前に立ち。リュートから放たれた魔力の一撃が、最後の一体を無に還した。
かくして戦闘は終結した。
……一部の者に、尋常じゃない疲労を残して。
敵の姿が見えなくなってからも、一行の間にはしばらく沈黙が漂っている。
そこに抱く気持ちはこうだろう。
……敵が全て居なくなった今だからこそ。今にゃんが出たら相当に恥ずかしい。
やがて。
「え、ええと……あ、戻ったみたいですね」
敵の魔法を食らった中で最初に声を上げたのはマリエルだった。
それを認めて、ゆっくりとメアリが。レイアが。「あ、あー……」などと小さく声を出し、戻ったことを確認する。
そうして、皆がどこか緊張して見守る中──多分吹き出さないように──康太も恐る恐る確かめて。無事、元に戻っていた。
「恐ろしい敵だった……ある意味」
レイアが、ぐったりと肩を落としながら呟く。
そうして、メアリが思い出したように康太に言った。
「あのしゃべり方の高瀬さん、とても可愛いかったので録音機材を持っていなかったのを大変後悔しています」
クールな声と態度のまま、それでも少し笑って、彼女にそんなことを言われて……。
「……!?!? 可愛い! 訳が! ありますか! ろくでもない事を考えますね貴女は……戦闘中は大人しいかと思えば!」
からかい目的の言葉と分かってだろう。それでも叫ばずにいられない康太の声が、平穏と取り戻した平原に響いていった。
……彼は知らない。メアリが、戦闘の記録用に蓄音石を持ってきており、既に記録済みだと言うことは。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 9人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
対猫メイジ(のBS)相談卓 メアリ・ロイド(ka6633) 人間(リアルブルー)|24才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/01/14 09:47:01 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/10 11:20:02 |