エビ祭り

マスター:紫雨

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2019/01/19 12:00
完成日
2019/01/26 08:17

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●大量のエビ
 海岸一面が水飛沫をあげている。その合間から見えるのは赤。
 2m程の巨大なエビが湾内で暴れていたのだ。漁師たちが束になって釣り上げようとするもいかんせん、数が多すぎる。それに巨大エビが暴れているせいで海流が読みづらく、船が転覆しかねないのだ。
 困り果てた漁師たちはハンターたちへ依頼を出すことにした。自分たちの取り分をもらっても大量に残るのであれば、ハンターたちに持って帰ってもらえばいい。
 それでも余るのならばいっそ、エビ祭りとして大々的にやればいいのではないか? 地域を盛り上げることにも繋がる、と。善は急げと漁師たちは依頼を出しに向かった。

●エビ祭り開催
「そうは言ってもこれはどうなのでしょうか? いや、慰安の意味もあるのでいいとは思うのですが……好みに左右されそうな気もしますね」
 受付嬢が手にした依頼書を眺め、もう片手のチラシにも視線を向ける。ハンターたちの声が聞こえ、顔をあげた。
「あ、みなさん。エビはお好きですか? ちょっとこの海岸で巨大なエビが大量発生してしまったそうなんです。それで、みなさんに駆除、というか釣り上げてもらいという依頼が来てます。売り物にするのは数匹だそうで、残りはみなさんが好きに食べていいとのことです」
 苦笑気味に告げた受付嬢がもう一つとチラシを差し出す。エビ祭りと称されたものだった。
「もし、みなさんが食べなかった場合はエビ祭りとして地域のみなさんと祭りの参加者のみなさんで食べるそうです。地域おこしの一環としてみたいですね。そちらに参加するのも可能ですよ」
 誰でも調理ができる様に調理場は解放されているらしい。出来上がった料理をいただくもよし、自ら調理して振る舞うもよし、ということだ。
「どちらでも参加は可能ですので、みなさんのお好きな方で参加してみてはいかがですか?」
 受付嬢がほほ笑みながら提案をしていた。

リプレイ本文

●大漁を目指して
 大エビが現れた海岸。漁師たちが見守る中、ハンターたちが大エビを退治、もとい漁の準備をしている。準備運動をしている者、道具の確認をしている者、エビの様子を見ている者とさまざまだ。
「なぜ巨大なエビがこれほど湧いてしまったのだろう? 原因は後回しだな。まずは狩ってしまおうかね」
 準備運動を終えたアレイダ・リイン(ka6437)がサイズ『イガリマ』を手に海へと入っていく。水中から大エビを打ち揚げるつもりらしい。狩猟生活を送ってきた経験があるからこそ、その泳ぎに無駄はなくエビの大群へ突き進んだ。
 その隣をキヅカ・リク(ka0038)が砂浜を駆け、海へ入る直前にブーツからマテリアルを噴出し、空へ。マテリアルを噴出し続けホバリングを行うことで空中からエビ漁を行うようだ。携えている聖機剣『マグダレーネ』を構え、海の様子を見た瞬間、絶句した。
「え、なにこれ。全部……エビ? なにこれキモい……。取りあえず、全部処理すればいいんですよね。うん」
 海の一部を赤く染めあげる大エビが跳ね、蠢いているさまは生理的に受け付けない絵面になりえるだろう。少しでも早く終わらせ、美味しいご飯にありつくためにも聖機剣を握る手に力が入った。
「私も行こうか。それにしても大きな海老だなあ……。これ、歪虚じゃないよね?」
 自らに水の精霊力を纏わせ【ウォーターウォーク】使用したのは鞍馬 真(ka5819)だ。2mもの大きさに成長したエビが歪虚ではないかと疑問を抱いた真は漁師たちに確認を取った。漁師たちは大きいだけで普通のエビだから大丈夫だろうと解答をもらっている。
「大丈夫なら、いいんだけどね……。心配して海に落ちることはないようにしないと」
 やり取りを思い出した真だが、その時はその時と割り切る。それよりもと懐中時計を取り出し、効果が切れる時間を確認。この時期に水中に落ちるのは避けたい、次にスキルを発動させる為の時間を把握すると懐中時計を仕舞う。レヴェリーワンドを握り直し、エビの大群へと身体を向けた。

 浜辺から釣り上げようとしているのは楸(ka7070)とミア(ka7035)の二人。巨大なエビを釣りあげられるようにと太めの糸、しなりが強く折れにくいロッド、過負荷に対応できるリール、漁師たちが何とか釣り上げることができたセットを渡された。今は簡単な釣りについてレクチャーを受けているところだ。
「こう、ですね。ありがとうございます」
「ありがとうニャス! いっぱい釣るニャー!」
 楸は丁寧に漁師たちに頭を下げ、どこから釣ろうかと場所を探しに行く。ミアは借りた釣竿を振り回しながら大漁目指して走り出した。

「2mの巨大エビかぁ……そこまで大きくなるってすごいね」
 大エビが蠢いている海域を視界に収めながらロッドを振るい、通常より大き目の釣り針を投げ込む。あれだけの大きさならかなり重いだろう。一種の感動を抱きながらも海に引きずり込まれない様に注意せねばと気を引き締める。もしもの時には攻撃できるようにフォトンバインダー『フロックス』にマテリアルを流し、獲物がかかるのを待つのだ。

「ニャあっ! 待ってろ大エビ! ミアが釣り上げてやるニャス!」
 楸とはまた別の場所でミアも釣り針を投げ入れていた。彼女の目に映るのは大エビが大好きな友人たちの手で美味しい料理へと変わる瞬間のみ。そのためにも絶対に釣り上げると熱い想いを胸に大エビがかかるのを今か今かと待ち構えている。

 釣り組も準備ができた頃、海に出ている面々が戦闘もとい、漁の始まりを告げるのは歌声。
 声の主は水上にいる真。彼は【旋風の唄】を歌い舞を奏で、エビを威圧し弱らせようとする。その声は海原を駆け巡る風のように一帯に響き渡った。彼の周囲にいるエビたちの動きが少し弱くなったように感じる。
(これで少しはやりやすくなるかな? でも、油断はできないね)
 舞の動きを止めずに手近にいる大エビを掬い上げる様にワンドで殴りつけた。狙われた大エビはひしめき合っているせいかうまく避けることができず、頭部に直撃。ぶつかった殻が凹み、大エビが海面に浮かぶ。まずは1匹。
「さて、僕もやろうかな」
 空中をホバリングしているキヅカも動き出す。眼鏡『キュクロープス』で補正を行った【機導砲】を発射。彼の視界に映る大量の大エビが一条の光に貫かれ、海面へ浮かび上がった。その数は20になる。

(派手にやっているようだな。私もやるとしよう)
 離れたところを走って行った光を視界に入りアレイダは大エビの群れに目を向ける。手の中のサイズを構え、手近な1匹へ力を込めたサイズを振り抜いた。逃げようともがく大エビを射程に捕らえ、頭部と胴の間にサイズの柄を突き刺そうとする。逃げる獲物の急所を狙い、一撃で仕留める実力を彼女は有しており、見事一撃で突き刺すことに成功した。柄を引き抜けば自然と大エビは海面へ上がっていく。

 沖での漁が始まれば大エビたちの動きは変わり、逃げようと進路を変えるものが出てくる。逃走する大エビが針に気づかずに引っかかることもある。事実、別々の場所で針を投げ込んだ二人のロッドにあたりがきていた。
「わっ! 重い……これは、筋肉痛にならないといいなぁ」
 ロッドを通して両手にかかる重さに楸が顔を歪めながらも確実に少しずつリールを巻いて、手繰り寄せていく。海面を糸が左右に走りながらも切れる様子はなく、ロッドも折れるかもしれないというほどしなっているが、異音は聞こえてこない。道具は無事そうだが、彼は肉体の方に不安があるらしく、筋肉痛にならないかと心配そうだ。
「もうちょっと、かなっ……。少し、大人しくしてくれよ」
 遠目に見えていた赤が徐々に近づき、その巨体を眼前に気を緩めず、少しだけリールから手を離す。暴れ回り、こちらに害をくわえかねない大エビへカードホルダーから符を1枚投げつけた。すると大エビは途端に大人しくなり、そのまま浜へ引きずり上げられる。
「ふぅ……何とかなった。あ、すみません。あとお願いしていいですか?」
「任せとけ! もう少し頼むぜ、ハンターさん」
 見守っていた漁師たちが引っかかっていた針を外し、数人がかりで会場へと運んで行った。楸はそれを見送り、次の獲物へ向けて針を投げ込む。
(……折角だから捌いているところを見せてもらおうかな)
 漁が終わるころに大エビを捌くところを見てみようと思いながら、静かに次のあたりを待つのだ。

「ニャあっ! こいつはデカいニャ!」
 暴れ回る大エビをものともせず、慎重に時に大胆に糸を手繰っているミア。動き回る大エビの姿が彼女の鋭い視覚に映っていた。そして、方向転換をするために動きを止めていることに気づいたミアはそのタイミングを計る。大エビが動きを止めた一瞬、彼女は叫ぶ。
「ニャあああっ!! 大将、エビの丸焼き一人前ーーーっ!!!」
 不思議な掛け声と共に渾身の力で振り抜かれたロッド、その先にいる大エビは浜へと打ち上げられた。
 ドスンッ。
 身がしっかりつまっている音が響く。あっけにとられていた漁師たちが正気に戻ると行動を始めた。
「ハンターさん。こいつを運んでいくぜ」
「ニャ、ミアも一緒に運ぶニャス!」
 ミアは漁師たちと一緒に大エビを運んでいく。大好きな友人たちに自分が釣った獲物を調理してほしいからだ。彼女は先に浜辺を後にする。

 釣り組が大エビと格闘している間にキヅカ、真、アレイダの3人が着々と大エビを仕留めていた。一番多く仕留めているのはキヅカだ。彼が空中から【機導砲】でまとめて狙い撃ちにしていることが大きい。
「ふーはは、いいぞべいべー。逃げる海老はただの海老だ」
 視界にいる大エビの集団へ向け聖機剣を構えた。気晴らしも兼ねているのはどこか楽し気に言葉を紡いでいる。
「逃げない海老はただの鴨だ。ほんと、エビ漁は地獄だぜ」
 彼の視界が一瞬、赤く染まった。再び、一条の光が放たれる。光だけでは大エビも対応しきれずに避けることができず、多くの大エビが貫かれた。その数、18になる。
 真は剣舞を舞い続け、大エビを弱めている。海中にいるアレイダより真へ襲おうと6匹の大エビが集まってきた。
「ここはこっちだね」
 得物をワンドから槍へ持ち替え、迫る大エビたちをまとめて薙ぎ払う。海面を漂い動かなくなったのを見届けた後、時間を確認した。【ウォーターウォーク】の効果時間を確認するためだ。
「まだ平気だね。それじゃ、続けようか」
 効果時間内であることを確認して懐中時計を仕舞う。確認不足で海に落ちるのは避けたいからだ。
「ほぼ終わりというところか。原因がわからない以上、すべて仕留めたほうがいいだろうな」
 息継ぎのために海面へ顔を出していたアレイダは素早く浮いている大エビの数を確認する。最初に見た数を正しく把握はしていないが、ほぼすべてとあたりをつけ、再び潜水。大エビが残っていないか確認のために目を凝らすと2匹残っていた。1匹は何かに引っかかったのか不自然に暴れはじめ、もう1匹は暴れたのを助けずにそのまま逃げてしまう。
(あちらは後だな。向こうを仕留めよう)
 1匹たりとも逃がしはしないと泳ぐ速さをあげていく。どうにか追いつくことができた大エビの胴へサイズの柄を突き刺そうと腕を伸ばした。力を込められた一撃が大エビの胴を貫き、その動きを止める。大エビを貫いたままアレイダは浮上を始めた。その際に残りの1匹の方へ視線を向けるとそれはどこかへ引っ張られているように見える。
「……釣りをしている者もいたんだ。なら、ここにいるのはこれで最後だ。引き上げよう」
「そうだね。それにしても沢山だよ」
「久々に美味しいお夕飯にありつけそうだ」
 海面から顔をだし共に漁をしていた二人へ声をかける。自分が仕留めた最後の大エビはそのまま持っていこうと考え、浜へ向かって泳ぎ出した。
 アレイダへ返事を返した真とキヅカも浜へ向かって移動を始める。真はこれだけたくさんいたのかと驚きながら、キヅカは久々に携帯食料以外の食事にありつけると嬉しそうにしながら。三人は会場へと向かう。
 海面を覆う大エビたちの回収は漁師たちが船を出し、行うことになっている。そのまま祭りの会場へ運ぶ手はずになっていた。
 沖に出ての漁はこれにて終了となった。

 楸は海へ出ている他のハンターの方へ視線を向けた。
「向こうのみんなが終わらせてくれたところかな?」
 遠目からは赤い絨毯が海の上に広がっているように見えるだろう。あれが全部大エビなのだと理解するとこんなに居たのかと更に驚いてしまった。
「僕のほうはこれ以上無さそうかなっ!? って、え……まだいたんだっ」
 自分の出番はもうないだろうと糸を手繰っていたら急に重くなる。先ほどと同じくらいの重さにまたあたりが来るとは思っていなかった。それでも少しずつ確実に糸を手繰っていく。
「これで終わりだといいんだけどね」
 歯を食いしばりながら、リールを回し続ける。これがきっと最後だと信じて、視界に赤色が見えたところで符を1枚投げつけた。たちどころに大エビが暴れるのをやめ、大人しく引きずられていく。
「ふぅ……。これでよし、かな」
「ありがとうよ、ハンターさん。そいつで最後だそうだ。お疲れさん」
「あ、ありがとうございます。最後なら捌くところを見せていただけますか?」
 額に浮いた汗をぬぐっていると一人の漁師が声をかけてきた。今のが最後の1匹であり、ここでの役割は終わりとなる。ならばと捌くところを見学したいと申し出たのだ。
「構わねぇよ。会場はこっちだぜ」
 漁師たちと共に楸は会場へと向かう。これから見るものがどんなものか期待が膨らんでいた。

 ハンターたちの活躍により大量発生した大エビはすべて仕留められ、海に平穏が戻った。
 この後は楽しい祭りの時間。誰もが美味しい料理に舌鼓をうち、至福の時を満喫する。

●祭りに向けて
 続々と大エビを広場の中央に担ぎ込まれ、有志たちの手で丁寧に捌かれていく。本来であれば一人で捌けるのだが、この巨体と厚みで数人がかりになっていた。その中にはアレイダの姿もあり、彼女も共に解体作業を行っている。
 頭部と身の間に切り込みを入れ、頭部を抱えて引っ張り、身の方を抑える。すると頭部と一緒に背わたも綺麗に抜き取ることができた。綺麗に背わたが抜けた身は三等分にされ氷水の中へと入れられていく。
 中には頭部から背まで切り開かれている大エビもあり、それはまた別の場所へ運ばれていった。
 そんな中、切り分けられた大エビの切り身を見ながら漁師たちに声をかけているハンターがいる。彼女は星野 ハナ(ka5852)だ。
「この海老、生食できそうですぅ? 小エビもあったらうれしいですぅ」
「こいつは生でもいけると思うぞ。ついさっき水揚げされたしな」
「小エビか、なら甘エビでいいか? そいつなら冷凍してあるから好きに使ってくれ」
 さばいている漁師たちが彼女の問いに答え、作業場から少し離れた巨大な冷凍庫を指差した。食べきれなかった大エビは冷凍しておくつもりらしい。
「ありがとうございますぅ。私も調理を始めますぅ」
 捌かれたエビの切り身を受け取り、彼女用にとあてがわれた調理スペースへ向かう。途中、冷凍の甘エビも回収して行くのを忘れない。
「お祭りも始まるころですし、すぐ食べられるものから用意しましょお」
 冷凍されている甘エビを解凍するために袋のまま流水へつけておく。その隣で貰って来たエビの切り身を一口大に切る。ぷりぷりと程よい弾力を指先で感じながら、複数のボールに一口大に切ったエビをいれていく。それぞれで違うものを作るからだ。
 続いて取り出したのは卵とトースト、作るのはエビトーストだ。卵は先に卵白と卵黄を分けてそれぞれボールへ、トーストは縦1/3切にされている。軽くといた卵白をつなぎに一口大のエビをトーストへ貼り付けて、小麦粉をはたく。熱しておいたフライパンにエビの面を下にして揚げ焼きに。
 エビトーストを作っている間に次の調理へ。解凍した甘エビを一口大に切り、塩をもみ込んでからしばらく冷暗所に置いておく。
 次へ次へと調理を進めていく手際は料理を行うことに慣れているものだ。
「鬼殻焼きは漁師さんたちが作っているみたいですぅ。あれだけ大きいと大変そうですぅ」
 そちらへ視線を向けると巨大な身を丸々乗せ、どうにかひっくり返しながら焼いている漁師たちの姿が見えるだろう。漁師たちもどこか楽し気に見えるので手を出すのは控えることにしたのだ。
「食べてくれるみなさんに喜んでもらいましょお」
  気合を入れて調理の続きに取り掛かる。エビのかき揚げにエビチリと作りたい料理はまだまだたくさんあるのだ。

 ハナが作業するスペースとは別の場所で調理を始めるハンターたちがいる。
「しーちゃん、蜜鈴ちゃん、見て見てーニャス!」
 大エビの前で胸を張って大切な友人である白藤(ka3768)と蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)に自慢をしているのはミア。自分が釣り上げた大エビを調理してほしくて待っていたのだ。
「これまたでかいな。ミアが釣り上げたん?」
「斯様な大きさか……始めて見るが……突然変異じゃろうか?」
 大エビの大きさに驚く二人にミアは涎が垂れない様に気を付けて言葉を告げる。
「蜜鈴ちゃん、こいつを美味しくお料理してくれニャス♪」
「勿論じゃ。して、二人共、然りと腹は減らしてきよったか?」
 自信にあふれた笑みを浮かべて蜜鈴は共に料理をする二人へ問う。当然のように二人は頷き返した。その姿が腹を減らした猫のように見え、笑みが柔らかく変わる。
「腕に寄りをかけねばのう。手伝ってくれるかえ?」
「勿論ニャス!」
「当然や。にしても蜜鈴、これ背ワタとるん……でかいな……とれる?」
 元気のいい返事が二人から返される。白藤は改めて大エビの方を見るとその大きさから背わたが取れるか心配になったようだ。
「まぁ、とれるじゃろうて」
 蜜鈴はどうにかなると白藤に笑みを返せばそれもそうかと納得した様子。忙しくなると支度を整えて大エビの調理へと移っていく。そんな蜜鈴の手伝いをすべく、ミアと白藤も支度を整えるのだった。

●美味しい匂いに誘われて
 広場から少し離れた所には3m近い巨大なバーベーキューコンロが設置され、1匹ずつ丁寧に鬼殻焼きにされている。麺つゆや味噌と混ざり合って焼けるエビの香ばしい匂いが登り立つ。その食欲をそそる強烈な匂いが会場内外に広がるだろう。
 祭りの入り口、そこへ一人の少女が現れた。瞳をキラキラと輝かせて広場へ飛び込もうとしている。
「エ・ビ・だ―!」
 両手を天へ向け、全力ジャンプで喜びを表しているのはリュミア・ルクス(ka5783)だ。大好きでたまらないエビをたくさん食べられるのが嬉しいと不思議な歌と踊りを披露するくらいエビ祭りが楽しみな様子。
「エビだっ。エビだっ。エ・ビ・だ~~っ! そーれエビだっ! エビだっ! エッビエッビだ~~~っ♪」
 聞いている他の参加者もよくわからないが楽しそうだと微笑ましく見守っている。美味しい物を食べたいという想いは共通しているから。
「いざゆかん! エビがあたしを待ってるぜ!」
 満足いくまで踊ったリュミアは堂々と会場へ入っていく。大好物を心行くまで食すために。

「海老は好きですが、流石に大きいですね、これ……。でも味がいいなら問題なしです……」
 サクラ・エルフリード(ka2598)は大エビの鬼殻焼きや塩焼きを焼いているところを見つめていた。これから堪能するエビの大きさを確認するためであり、提供されるエビ料理をすべて食べ尽くすためでもある。
「それに色んな料理の色んないい匂いが……。空腹を刺激してます……。これは一杯食べられそうです……」
 一人前にカットされた鬼殻焼きや塩焼きを受け取り、次に受け取る料理をどれにしようかとあたりを見回す。手元の料理からだけでなく、様々なエビ料理の匂いに翻弄され次の料理を選べずにいた。だが、すべて食べたいと考えているのだから焦らなくていいと考え直し、フードコートへ向かう。
 まだ祭りは始まったばかり、焦らずじっくりと堪能すればいいのだ。

 フードコートに当たる場所は参加者で賑わっていた。エビ味噌のクリームパスタやエビのマリネ、塩焼きや茹でエビなどなど多くのエビ料理が並んでいるテーブルの主はどこか憂いを帯びている。
「美味しいものはいつ食べても美味しいですね」
 それぞれのエビ料理にあうビールやワインを用意してエビ料理を堪能しているのはGacrux(ka2726)だ。何か悩みごとを抱えているのか美味しいと口にしながらも帯びている憂いが晴れない。パスタやマリネなどにはワイン、塩焼きや茹でエビなどにはビール、とゆっくり堪能している彼の膝に港猫が飛び乗った。
『にゃぁ』
「ん? これはあげられません。他のものなら……これなら大丈夫でしょう」
 Gacruxが食べようとしていたのはエビのマリネ、玉ねぎが含まれているので猫にあげることはできない。それは自分が食べてしまう。猫にあげてもいいものはとテーブルを見回すと茹でエビならいいのではと思い至った。小さめの身を更に食べやすいようにほぐし、掌に載せ猫に差し出す。
『みゃぉ』
 礼を言うように猫は鳴くと彼が差し出したエビを口にする。掌を舐め、欠片一つも残さず猫は食べきると膝から降りてしまった。猫につられてGacruxが視線を下へ動かせばそこには十を超える野良猫が集まっているのに気づく。
「こんなにたくさん。エビはあまりよくないんです」
 困ったようにいくつかのエビ料理を持ってテーブルを離れるが、野良猫たちはGacruxの後をついて行く。餌をくれそうだと思っているようだ。どこか静かに過ごせる場所を探して彼は野良猫たちを引き連れてその場を去っていく。

 Gacruxと入れ違うようにサクラがやってきた。どこで食べようか空席を探してみるが、誰もいないテーブルというのはない。相席しかないようだ。
「あの、もしよろしければ、ご一緒していいでしょうか……?」
「構わないんだよ! エビを愛する者同士だからね!」
「ありがとうございます……」
 相席の相手はリュミア。礼を告げたサクラが席につくと共に目の前の料理を食べるのを開始する。どれも美味しそうにそれでいてたくさんの量を口いっぱいに頬張るリュミア。エビ天を飲み込んだ彼女はつい想いを口にする。
「エビ天の天は天国の天! ここが我らのヴァルハラか……ッ!」
 唐突に言われた言葉の意味は解りにくいが喜んでいることは痛いほど伝わってくる。その姿に触発されたサクラも自分の料理を食べ始めた。
「目指せ、全種類制覇……ですが、結構色々と料理がるような……。いえ、これは負けていられないですね……」
「流石同士だぜ! 一緒にエビを食べつくそうぞ!」
 サクラの言葉に同意を示したリュミアが握りこぶしを天へと突きあげる。その様子に負けられないと気を引き締めて目の前の料理を堪能する。時にはお互いの料理を交換してどれが美味しいと話しながら。
 充実した時間が流れていくのだった。

「すみません、これ貰っていいですか?」
「いいですよぉ。それは今できたばかりですぅ」
 ハナの出店にキヅカが訪れていた。出来上がったばかりというのはエビと葱のかき揚げだ。他にも甘エビの簡単塩辛、エビトースト、エビ入り卵焼き、エビチリなど色とりどりのエビ料理が並べられている。キヅカが選んだのはかき揚げだ。
「ありがとうございます」
「また来てくださいねぇ」
 かき揚げを受け取り、キヅカは次の料理を求めて移動する。普段はジャンキーな食べ方をしているが、この時くらいは海の幸を堪能しようと。口の中に広がるエビと葱の風味が一仕事終えた彼を優しく癒したかもしれない。

●穏やかな時の中で
 蜜鈴が作り上げたのは、海老と茸のアヒージョ、すり身の蓮根はさみ揚げ、海老ハンバーグ、ビスクの以上四品。それぞれ大皿にのせられたそれらを三人は仲良く食べているところだ。
「美味しいは嬉しいニャぁ。嬉しいと笑顔になるニャス」
「ミア、かぶりつくんやないで、ちょっとちっちゃいしてから食べよ?」
 小さく切らずにかぶりつきそうなミアへ白藤が注意を促す。大丈夫と言わんばかりに頷いたミアは食べやすい大きさに切って食べる。その様子を見守っている蜜鈴は満足げに笑った。自分の料理を美味しいと食べてくれるのはとても嬉しい事だから。
「ほんに美味そうに喰いよるのう……ふふ、見て居るだけで妾は腹が膨れてしまいよるよ」
 蜜鈴は見事な食べっぷりに見惚れてしまう。来れなかった友人たちへと土産を作って別に置いてある。そうしないとすべて二人に食べられてしまいそうなのだ。彼女はミアの口元へ食べかすがついていればハンカチで拭い、白藤のグラスへはビールを注ぎ、甲斐甲斐しく二人の世話を焼いていく。
 ふと遠くに見える海へ視線を投げた白藤は誰にも聞こえないような小さな声で自問し、瞳を閉じた。
「後悔せんように、か……うちは戦場に身を置きたいんか、それとも、この癒しの中で休みたいんか」
「白藤? どうかしたんかえ?」
 白藤の声が聞こえたのか蜜鈴が聞き返すも彼女はアヒージョを頬張って嬉しそうに笑みを浮かべる。
「いや、なんでもあらへんよ。これ美味いわ」
「それは嬉しいのぅ。白藤も食べねばミアに食べつくされてまうよ」
 蜜鈴は深く追求はせず、褒められて嬉しいそうだ。あえて深く追求しなかったのかもしれない。それは白藤にはわからない。だが、一つだけ彼女の中ではっきりしたことがある。
「せやな。うちもまだ食べるで」
(暖かな仲間、心を揺らす、この気持ちをくれる人……今更諦められへんな……)
 自分の気持ちに、想いに正直でいようと。そのためにするべきことを為すために。今はこの楽しいひと時を満喫しよう。大切な仲間との暖かいひと時を。

「おや、がっくんもきていたんだ」
「ん……?真くん。奇遇ですね。あ、座りますか?」
 祭りの会場から離れた堤防の上で真とGacruxがいる。Gacruxの周りにはたくさんの野良猫がじゃれ合ったり、お昼寝をしたり、ほのぼのとした空気が流れていた。真のために港猫を膝の上にのせて座れるように場所を作る。
「お言葉に甘えて。ここは静かだね」
「えぇ、そうですね」
 交わす言葉は少ないが二人は堤防から海を眺めていた。この平穏は長く続かないかもしれない。野良猫たちに囲まれてのんびり過ごすのも悪くないだろう。

 人それぞれに祭りを楽しみ、大切な人と思い出を増やし、心行くまで満喫しただろう。これからもハンターたちは戦いに身を投じていく、いつか来る平和を求めて。その日がやってくるまで、彼ら彼女らの歩みは止まらない。

依頼結果

依頼成功度普通
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ドラゴンハート(本体)
    リュミア・ルクス(ka5783
    人間(紅)|20才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 赤き霊闘士
    アレイダ・リイン(ka6437
    人間(紅)|21才|女性|霊闘士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士
  • 開眼せし智者
    楸(ka7070
    人間(蒼)|40才|男性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/19 02:50:35