ゲスト
(ka0000)
【虚動】機械巨人とぜんまい仕掛けの蜘蛛姫
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2015/01/13 22:00
- 完成日
- 2015/01/28 01:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「さぁ、いよいよ本番だよ」
混乱の実験場を抜けだした『混迷の遊戯者』クラーレ・クラーラは、にやりと笑って傍らの彼女に語りかける。
「モナは今回は、よく働いたね」
「お褒めに預かり光栄にございますわ、クラーレ様」
大仰な言い回しでドレスの裾を摘む少女――モナ・アラーネア(kz0083)を見て、クラーレは意地悪く笑った。
「でも、あまりいい働きではなかったようだけど」
「う……それはその」
「まぁ、興が乗ってしまったなら仕方がないか……別に咎めるつもりはないよ」
蜘蛛姫を名乗るモナは、このクラーレ・クラーラに仕える歪虚の一つだ。
嫉妬の歪虚は総じて享楽主義だが、一方で彼らの『遊び』の中で序列を作りグループを生むことがある。大体において繋がりは薄く、自分の興味が被っている間だけの関係であることが多いが。
破壊を愛するモナ・アラーネアは、クラーレ・クラーラの齎す混沌とした状況を酷く好んでいた。
クラーレは機嫌よく鼻歌を歌い出した。彼が始めたゲームに皆が踊り始める。歪虚も、人類も。彼の意の下で走りだすCAMを見て、クラーレはこのゲームが盛り上がるであろうことを確信していた。
「結果はともかく、キミは十分に働いた。だから御褒美として、大一番をキミに任せるよ」
彼が示したのは、海の向こうの遥か遠く。だがモナもクラーレも、それをはっきり視認していた。
――ラッツィオ島。
因縁深いかの島こそ、同盟領へ向かったCAMのゴール地点だ。
「人類に立ち塞がり、ゲームのボスとして暴れ回るといい。――頑張って盛り上げてほしいな」
「ご期待に添えるよう……全力で叩き壊してご覧にいれますわ」
そして、それこそ彼女の本分であった。
「少しは手加減してあげるといいよ。初めから全力では、盛り上がらないからね」
彼はそう言って、足元のそれを靴で叩いた。
彼と彼女を乗せて歩くそれは、鋼と歯車とぜんまいで出来た、巨大な、巨大な――。
●
歪虚化CAMの目指す先はラッツィオ島だと判明し、ブルーノ元帥は多くの海軍を引き連れて先行した。
南東に次いで真東にニ機目が浮上、ヴァリオス商工会青年会会長のエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)が船を貸し出し、ハンターと共に迎撃に出発。
――そして北東、三機がほぼ同時に出現した。
「今回の目標はこの三機です」
イルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)は眼鏡を押し上げた。
「ラッツィオ島海岸でCAMを迎撃、これを撃破してください。後続二機に関しては同盟海軍が進行ルートを塞ぎ、進行を妨げます。……先に出撃した海軍は全体の七割。残る三割では足止めが限界です。彼らが戦線を維持出来る時間は長くありません」
現状では奇跡が起きれば3機撃墜できるかどうかと言った所だ。
加えて、とイルムは地図を広げた。
「敵援軍、歪虚化亜人と無機物の雑魔を運ぶ海賊船がラッツィオ島を目指しています。現状の戦力でCAMとこれを同時に対処することは不可能です」
これがラッツィオ島に到達するまでに全てのCAMを撃破しなければならない。全機撃破は不可能に近い状態だ。
「可能な限りで構いません。歪虚CAMを撃破し、敵勢力への編入を阻止してください」
●
――そういう依頼だった。
ともすれば翼のようにも見える巨大な手。指先から伸びる糸で人形のように操られる歪虚CAM。
人類の希望だったものが、睥睨するが如くにアイセンサーを赤く光らせ、海岸へとまっすぐに向かってくる。
これを打ち倒さねばならぬというのだから、運命というやつを呪ってやらねばなるまい。リアルブルーの出身者はそう嘆いた。
島内の亜人歪虚が群がってくる。多くは南東へ向かったらしく、数が少ないのが救いだった。
最早一刻の猶予もなく、『敵』はもうすぐ射程に入る。海岸に陣取り、ハンターたちは武器を構え――。
「お――っほっほっほっほっほっ!!」
そこに、高らかな笑声が響き渡った。
遥か海の先から、壮絶な勢いで接近する海賊船。マテリアルの糸によって操られるそれは、船にあらざる速度で島へと向かっていた。
それは船の後ろで何かを爆発させて、反動で推進している。
「お集まり頂きました覚醒者の皆々様! ようこそゲームの盤上へ! 歓っ迎! 致しますわぁ!」
フィギュアヘッドの上に立つ少女は、ぜんまい仕掛けの嫉妬の歪虚モナ・アラーネア。
「敵は多く、状況は苛烈、時に一刻の猶予もなし――シチュエーションは完璧でしょう!? ならばそこに、障害はあって然るべし!」
嫉妬に連なる機械の歪虚は、主と仰ぐモノの命により、ハンターたちの前へと現れた。
「我が主、クラーレ・クラーラ様よりお送りする、皆々様への最後の難関!」
岸へと向かう海賊船は一層速度を増し、増し、増しに増した。
それが停止を考えぬ特攻であると気付いた時には、それはもう目前まで来ていた。
退避しろ、と誰かが叫ばなければ、巻き込まれていたかもしれない。
「立ち塞がる最後の敵は不肖この私、蜘蛛姫モナ・アラーネアが努めさせて頂きますわぁ――!」
哄笑が響き渡り、それは海岸へと激突した。
仕様外の速度で陸へ突進した海賊船雑魔は、轟音と共にその船体を撒き散らした。その身を砕きながら陸を滑り転げ回り、浜に轍を引いて木々をへし折り、不運な亜人歪虚を散々轢き潰した後、負のマテリアルの消滅と共に崩れ落ち瓦礫の山と化した。
強烈な破砕の後、砂埃が巻き起こる中、轟音は波と共に遠ざかっていく。
自爆に等しい登場をしたモナの声は、船の残骸からは聞こえない。
何処だと誰かが問うより早く、まさか死んだかという憶測を嘲笑うように。
或いは、誰もが想像した通りに。
「さぁ! さぁ! さぁさぁさぁ――!」
今この瞬間陸上へと乗り上げた歪虚CAM、その目の前に――モナ・アラーネアは降り立った。
潮風がその鋼糸の銀髪を靡かせ、赤いドレスの裾をはためかせる。
黒い日傘を閉じた彼女の肌は陶器の白。割れた皮膚からは内臓のような歯車の群れが覗いている。
――マテリアルがうねり唸る。
誰もが戦況の悪化を理解した。ギリギリだった3機撃破の可能性が潰えたことも。
「ゲームのお時間ですわ!」
指先から鋼糸が踊り、荷箱を一つ割った。
溢れ出た武具が彼女のマテリアルに触れ、亜人めがけて飛び出した。
亜人の雑魔が悲鳴を上げる。
四肢に突き刺さった自律行動する武器たちが操り人形の如く亜人を動かしていた。
無機物の雑魔化。
それこそが嫉妬の異能。玩具を兵器に替え、武器を操り、CAMを歪虚に堕とした力。
「派手に壊し、派手に壊れて! 私を――クラーレ様を――」
止まぬ哄笑の中、嵐の如くに鋼糸を渦巻かせ。
背後の巨人が一歩を踏み出すのに合わせ――。
「――楽しませなさい、ハンター!」
鋼鉄の蜘蛛姫は、覚醒者たちへと牙を向いた。
●
そして暗闇の中、それは静かに時を待つ――。
「さぁ、いよいよ本番だよ」
混乱の実験場を抜けだした『混迷の遊戯者』クラーレ・クラーラは、にやりと笑って傍らの彼女に語りかける。
「モナは今回は、よく働いたね」
「お褒めに預かり光栄にございますわ、クラーレ様」
大仰な言い回しでドレスの裾を摘む少女――モナ・アラーネア(kz0083)を見て、クラーレは意地悪く笑った。
「でも、あまりいい働きではなかったようだけど」
「う……それはその」
「まぁ、興が乗ってしまったなら仕方がないか……別に咎めるつもりはないよ」
蜘蛛姫を名乗るモナは、このクラーレ・クラーラに仕える歪虚の一つだ。
嫉妬の歪虚は総じて享楽主義だが、一方で彼らの『遊び』の中で序列を作りグループを生むことがある。大体において繋がりは薄く、自分の興味が被っている間だけの関係であることが多いが。
破壊を愛するモナ・アラーネアは、クラーレ・クラーラの齎す混沌とした状況を酷く好んでいた。
クラーレは機嫌よく鼻歌を歌い出した。彼が始めたゲームに皆が踊り始める。歪虚も、人類も。彼の意の下で走りだすCAMを見て、クラーレはこのゲームが盛り上がるであろうことを確信していた。
「結果はともかく、キミは十分に働いた。だから御褒美として、大一番をキミに任せるよ」
彼が示したのは、海の向こうの遥か遠く。だがモナもクラーレも、それをはっきり視認していた。
――ラッツィオ島。
因縁深いかの島こそ、同盟領へ向かったCAMのゴール地点だ。
「人類に立ち塞がり、ゲームのボスとして暴れ回るといい。――頑張って盛り上げてほしいな」
「ご期待に添えるよう……全力で叩き壊してご覧にいれますわ」
そして、それこそ彼女の本分であった。
「少しは手加減してあげるといいよ。初めから全力では、盛り上がらないからね」
彼はそう言って、足元のそれを靴で叩いた。
彼と彼女を乗せて歩くそれは、鋼と歯車とぜんまいで出来た、巨大な、巨大な――。
●
歪虚化CAMの目指す先はラッツィオ島だと判明し、ブルーノ元帥は多くの海軍を引き連れて先行した。
南東に次いで真東にニ機目が浮上、ヴァリオス商工会青年会会長のエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)が船を貸し出し、ハンターと共に迎撃に出発。
――そして北東、三機がほぼ同時に出現した。
「今回の目標はこの三機です」
イルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)は眼鏡を押し上げた。
「ラッツィオ島海岸でCAMを迎撃、これを撃破してください。後続二機に関しては同盟海軍が進行ルートを塞ぎ、進行を妨げます。……先に出撃した海軍は全体の七割。残る三割では足止めが限界です。彼らが戦線を維持出来る時間は長くありません」
現状では奇跡が起きれば3機撃墜できるかどうかと言った所だ。
加えて、とイルムは地図を広げた。
「敵援軍、歪虚化亜人と無機物の雑魔を運ぶ海賊船がラッツィオ島を目指しています。現状の戦力でCAMとこれを同時に対処することは不可能です」
これがラッツィオ島に到達するまでに全てのCAMを撃破しなければならない。全機撃破は不可能に近い状態だ。
「可能な限りで構いません。歪虚CAMを撃破し、敵勢力への編入を阻止してください」
●
――そういう依頼だった。
ともすれば翼のようにも見える巨大な手。指先から伸びる糸で人形のように操られる歪虚CAM。
人類の希望だったものが、睥睨するが如くにアイセンサーを赤く光らせ、海岸へとまっすぐに向かってくる。
これを打ち倒さねばならぬというのだから、運命というやつを呪ってやらねばなるまい。リアルブルーの出身者はそう嘆いた。
島内の亜人歪虚が群がってくる。多くは南東へ向かったらしく、数が少ないのが救いだった。
最早一刻の猶予もなく、『敵』はもうすぐ射程に入る。海岸に陣取り、ハンターたちは武器を構え――。
「お――っほっほっほっほっほっ!!」
そこに、高らかな笑声が響き渡った。
遥か海の先から、壮絶な勢いで接近する海賊船。マテリアルの糸によって操られるそれは、船にあらざる速度で島へと向かっていた。
それは船の後ろで何かを爆発させて、反動で推進している。
「お集まり頂きました覚醒者の皆々様! ようこそゲームの盤上へ! 歓っ迎! 致しますわぁ!」
フィギュアヘッドの上に立つ少女は、ぜんまい仕掛けの嫉妬の歪虚モナ・アラーネア。
「敵は多く、状況は苛烈、時に一刻の猶予もなし――シチュエーションは完璧でしょう!? ならばそこに、障害はあって然るべし!」
嫉妬に連なる機械の歪虚は、主と仰ぐモノの命により、ハンターたちの前へと現れた。
「我が主、クラーレ・クラーラ様よりお送りする、皆々様への最後の難関!」
岸へと向かう海賊船は一層速度を増し、増し、増しに増した。
それが停止を考えぬ特攻であると気付いた時には、それはもう目前まで来ていた。
退避しろ、と誰かが叫ばなければ、巻き込まれていたかもしれない。
「立ち塞がる最後の敵は不肖この私、蜘蛛姫モナ・アラーネアが努めさせて頂きますわぁ――!」
哄笑が響き渡り、それは海岸へと激突した。
仕様外の速度で陸へ突進した海賊船雑魔は、轟音と共にその船体を撒き散らした。その身を砕きながら陸を滑り転げ回り、浜に轍を引いて木々をへし折り、不運な亜人歪虚を散々轢き潰した後、負のマテリアルの消滅と共に崩れ落ち瓦礫の山と化した。
強烈な破砕の後、砂埃が巻き起こる中、轟音は波と共に遠ざかっていく。
自爆に等しい登場をしたモナの声は、船の残骸からは聞こえない。
何処だと誰かが問うより早く、まさか死んだかという憶測を嘲笑うように。
或いは、誰もが想像した通りに。
「さぁ! さぁ! さぁさぁさぁ――!」
今この瞬間陸上へと乗り上げた歪虚CAM、その目の前に――モナ・アラーネアは降り立った。
潮風がその鋼糸の銀髪を靡かせ、赤いドレスの裾をはためかせる。
黒い日傘を閉じた彼女の肌は陶器の白。割れた皮膚からは内臓のような歯車の群れが覗いている。
――マテリアルがうねり唸る。
誰もが戦況の悪化を理解した。ギリギリだった3機撃破の可能性が潰えたことも。
「ゲームのお時間ですわ!」
指先から鋼糸が踊り、荷箱を一つ割った。
溢れ出た武具が彼女のマテリアルに触れ、亜人めがけて飛び出した。
亜人の雑魔が悲鳴を上げる。
四肢に突き刺さった自律行動する武器たちが操り人形の如く亜人を動かしていた。
無機物の雑魔化。
それこそが嫉妬の異能。玩具を兵器に替え、武器を操り、CAMを歪虚に堕とした力。
「派手に壊し、派手に壊れて! 私を――クラーレ様を――」
止まぬ哄笑の中、嵐の如くに鋼糸を渦巻かせ。
背後の巨人が一歩を踏み出すのに合わせ――。
「――楽しませなさい、ハンター!」
鋼鉄の蜘蛛姫は、覚醒者たちへと牙を向いた。
●
そして暗闇の中、それは静かに時を待つ――。
リプレイ本文
●
「CAMというのは初めて見るが……なるほど、これは素晴らしいな」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)はそれを見て唸った。
鋼の巨体が長大な得物を振り上げ、ゆっくりと海岸へ歩を進めている。
「いやー、CAMが三体! 壮観だね!」
フワ ハヤテ(ka0004)は、頬を伝う冷や汗を拭った。
「あれがこちらに来ると思うとゾッとするよ」
海上すぐ近くでは、軍艦が海底目掛けて艦砲射撃を繰り返す。轟音と水飛沫の中で、歪虚CAMの残る二機が軍艦を突破せんと得物を振るう。
「確かにCAMが戦ってる姿は見たかったが、あれは違う」
鈴胆 奈月(ka2802)はそれを睨んで断言した。
しかし、それ一個一個が強敵であることは言うまでもない。
「とはいえ、歪虚と化している以上は倒さねばならぬとは、もったいない話だな」
ディアドラは大盾を手に、その正面へと立ち塞がった。
「うぅ、CAMに頬擦りしたばかりなのに、敵として立ちはだかるなんてね」
魔導拳銃を手に難しい顔をするレイン・レーネリル(ka2887)。
「でも歪虚なんかにされて可哀想だからね。少しでも苦しみから解放してあげたい!」
彼女はぐっと拳を握りしめた。
「……あと、モナさんを直接妨害するよりCAM狙った方があの人嫌がりそうだから」
――CAMと比べると酷く小さい、人型の異形。
陶器質の肌をした歪虚は、日傘の裏で薄く笑いながらハンターたちを見ていた。
こちらに来ないのかと、CAMが一歩を踏み出すたびに、まるで誘うように。
「……此処にある全ての命がゲームの駒だと言うなら、その盤を叩き壊してあげるよ」
獰猛に笑ったルーエル・ゼクシディア(ka2473)に、彼女は笑い返した。
「口でなら、なんとでも言えるでしょう?」
「……上等だよ」
CAMが更なる一歩を踏み出す、その直前。
「戦闘開始! 各員、配置についてください!」
水城もなか(ka3532)の号令と共に、一同は飛び出した。
●
ディアドラ、ルーエル、龍崎・カズマ(ka0178)の三人は、真っ直ぐCAMへと走る。
CAMは銃口を避けるように動くカズマを早々に無視し、ディアドラへと巨大な銃器を向けた。爆音。発砲音すら大砲の如しだ。
「ぬおっ!?」
盾越しに伝わる衝撃。一人では長くは持たず、受け損ねればひとたまりもないだろう。
「益々惜しいぞ」
ディアドラは側面へと回り込みながら叫んだ。
「狙いは右足よ!」
やや後方、離れた位置の瓦礫に隠れながら、フワが風の魔術を放つ。
「確実に、一本ずつもぎ取ろう」
装甲に僅かに傷をつけたのを見て、彼は顔を顰めた。
「……どうやら歪虚化と同時に固くなってるらしいからね」
ハンターが狙うは脚部の破壊。まずは移動力を奪う算段だが、道程は決して短くはないらしい。
「嫉妬の歪虚は随分と大きな人形遊びが好きなのね」
エルティア・ホープナー(ka0727)は弓を射るが、CAMの振るったナイフが矢をはたき落とした。
「ただの人形であれば良かったけどね」
撃った弾丸が避けられるのを見て、シルヴェイラ(ka0726)はぼやく。
敵の動きは、少なくとも人形と揶揄できる程にのろまではなかった。
彼らCAM攻撃班を狙って、歪虚化したゴブリンたちが森から現れる。
そのうち二体は、モナによって歪に強化されている。
「思う事はあるけど、今はボクのやるべき事をやるんだよ」
それらの前に、弓月 幸子(ka1749)が立ち塞がった。
「ゲームに乗るのは悔しいけど、やってみせるんだよ」
「勿論です。CAMを敵の手に渡すのは避けたいですからね」
もなかも頷いた。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)と扼城(ka2836)はデリンジャーで遠くのゴブリンの注意を惹き、まず一箇所へ集めようとする。
雪ノ下正太郎(ka0539)は、CAMへの攻撃を庇いに向かう強化歪虚を殴りつけた。
「行かせるわけにはいきません」
「後ろの皆の足を引っ張る訳には行かんのでな……!」
群れるゴブリンたちに向けて、扼城は剣を振り上げた。
「そこのオネーサン、一緒に踊りましょ♪」
それらを一望していたモナ・アラーネアへ、シルフェ・アルタイル(ka0143)が吶喊する。
「ダンスの誘いなら、もっと品が欲しい所ですわね」
パン、と音を立てて開かれた傘が、シルフェの煙管を弾き返した。
「――で」
彼女に立ち塞がるのは、都合六名。シルフェ、黒の夢(ka0187)、十色 エニア(ka0370)、白神 霧華(ka0915)、ラブリ"アリス"ラブリーハート(ka2915)、壬生 義明(ka3397)。
「皆様が私の相手と……それで相違ありませんわね?」
「勿論」
エニアが頷いた。
「戦いたければ盤上へ……だっけ? 来てあげたよ」
「結構、結構。ならば語ることは多くありませんわ」
モナは日傘を肩に乗せ、艶然と微笑んだ。
「では、勝負と行きましょう!」
「大丈夫、ハートの女王は負けないわ」
ラブリは不敵に微笑み、プロテクションを唱えた。
空いた左手が振り払われる。シルフェと義明は横へ跳び、霧華はワイヤーウィップを振り抜くと盾を構えた。砂浜を何かが鋭く駆け抜けていく。
見づらいが、紛れも無く鋼糸の一閃だ。
「やる時はやらないとねぇ。気合入れていくよ」
義明の手で魔導銃が火を噴く。モナはひらりと身をかわした。続く黒の夢の放つ礫を宙返りで飛び越えたその横合いから、エニアの水の魔法が襲いかかる。
「おっと」
水流は傘が阻んでいた。砂浜に屈んだ姿勢で着地するなり、畳まれた傘がシルフェ目掛けて振り抜かれる。
「うわわっ!」
辛うじて屈んで避けた彼女に対し、モナはさらに踏み出すが、即座に振り返って銃弾を傘で叩き落とした。
「おいおい、冗談キツいよ」
義明の呆れた言葉に、モナはくすりと微笑んだ。シルフェが少し距離を取る。
「いい傘でしょう? とっても丈夫なんですのよ」
「いやいや、そこじゃなくてね」
言葉で注意を惹く義明に隠れて、黒の夢が土塊の弾丸を放つ。モナはそれを裏拳で吹き飛ばした。
「わー、見かけに寄らずに武闘派なのじゃな」
「そちらも、存外厭らしい戦いをしますのね」
そう言う彼女の手の甲、陶器の肌は罅割れていた。
各員が提げた魔導短伝話によって、多方面からタイミングを合わせて攻撃を仕掛けている。厄介といえば厄介な連携だ。
敵の視線が後衛に向いているのを見て、霧華が口を開く。
「一つゲームを思いついたのですが、私と遊びませんか?」
モナの視線が霧華に向いたのを見て、彼女は頷いた。
「あなたの体に私が触れれば勝ち、私が倒れればあなたの勝ち。もちろん他の方はこんなゲームお構い無しであなたに攻撃仕掛けますので、あしからず」
「ふむ」
モナは暫し思案するようにして、傘を開いて魔術と銃弾を捌いた。シルフェの煙管を腕で受け止め、押し返す。
「やはり、なしですわね」
「何故?」
「お答えしますわ」
ラブリのプロテクションを尻目に、モナは割れた手を一振する。三方向へ飛ぶ鋼糸が霧華を捉える。だが先程ワイヤーウィップを絡みつかせていた霧華は落ち着いて巻取機構を起動、糸を切断しにかかる……が。
「……え?」
切れた糸とは違う糸が、彼女の体を絡め取った。
「まず忠告ですけれど、蜘蛛姫に糸で仕掛けるというのが甘い目論見」
すぐさま銃弾と魔術が壁のように迫る。あろうことかモナはこれに頭から突っ込んだ。
水流を屈んでかわし、礫と銃弾を足に受けながら、モナは傘を振り上げる。
「それと」
砂浜が吹き飛んだ。
「――実力差が不公平に過ぎて、ゲームになりませんわ」
「霧華!」
彼女は地に叩きつけられ、砂と共に跳ね上がっていた。すぐさまラブリがヒールを掛け、霧華はどうにか体勢を立て直し着地。
肩を押さえる霧華をモナは追わず、砂のかかったドレスをパンパンと叩く。
「……武闘派っていうか、脳筋」
エニアが苦い顔をした。敵に傷を嫌って戦力温存という考えはないらしい。
モナは小首を傾げて微笑んだ。
「さぁ、もっとですわ。もっと激しく来なさいな! おーっほっほっほっ!」
●
銃撃により、多くの雑魔を追い立てた。
「エヴァさん!」
幸子の声に頷き、エヴァは催眠の魔術を描き出す。一箇所にまとまった通常雑魔の多くが眠りに落ちるが。
(やっぱり一般の亜人より効きが悪い)
集めた十数体のうち、半数以上が抵抗した。続けて幸子も眠りの雲を放ち数を減らす。これで数は約半分。
そこへ扼城が駆け込んだ。
「雑魚は任せろ」
そう言う彼に幸子とエヴァは頷き、武器と融合した歪虚へと杖を向けた。
「せあっ!」
正太郎は邪魔な雑魔を数体殴り倒した。その横では、もなかが融合亜人に刀を向ける。
動き回りながらの近距離戦闘。幸い盾と融合した亜人は攻撃は疎かであり、彼女一人でも十分相手をすることは出来た。
(急造であるとしても、性能自体が向上しているというわけではない……けど)
鋭く振り下ろした刀が、大振りな盾に阻まれた。
「硬い……!」
「加勢します」
正太郎が挟撃の形でゴブリンの横面を殴り飛ばす。
亜人の動きは奇妙だ。大振りでたたらを踏みながらだというのに、攻撃は綺麗に防御する。その様子を見て、もなかは結論を下した。
「こいつ、盾も雑魔化してます」
「というと」
「無機物の側に主導権があるんです。盾持ち亜人じゃなく亜人付き盾なんですよ!」
その言葉を発すると同時に、彼女は盾を持つ腕を切り落とす。
途端、亜人の側は萎れながら倒れた。
「正太郎さん、お願いします!」
裂帛の正拳突きが盾を正面から打ち抜く。続く瓦割りが盾を真っ二つに破壊した。
「とりあえず、一つ」
「ですね。亜人から切り離せば破壊は容易……と」
その話を聞いて、幸子は呟いた。
「ボクの知ってる奴とちょっと違うんだよ」
比べてみれば、機械とただの剣である。所詮は急造ということか。幸子は武器持ちの腕に風の刃をぶつけた。
エヴァは素早く雑魔を倒す事に決める。何度目かの火矢がゴブリンの胸を貫き、もがくゴブリンが焼失すると、剣も落下して動かなくなった。
「寄生先が死ねば、本体も死亡ですか」
正太郎はそれを見て頷いた。
「大体対処は分かりましたね。可能なら切り離し、不可なら飽和攻撃」
と、そこへエヴァが銃声を響かせた。喋れない彼女の警告である。
眠っていたゴブリン二体に、近くの瓦礫から武具が飛来し、その身に突き刺さった。
「……まだまだ終わらなさそうですね」
「早く倒すんだよ」
正太郎は両腕を打ち付けて、盾の亜人へ跳びかかった。
やや離れた位置で、CAM班へと向かう歪虚亜人たちに、扼城は立ちはだかっていた。
「何処へ行く、歪虚共」
その先頭に立つ歪虚の爪を防ぎもせず、カウンター気味に振りぬいた剣でその首が刎ねる。
「此処から先へ行きたくば……俺を殺し尽くしてみせろ」
男は次の亜人へと飛びかかる。彼は端から無事であることを放棄していた。
カズマのパイルバンカーが、CAMの膝裏を直撃した。
「ダメ……」
歪虚化の影響で、機体の装甲がより堅牢になっている。部品一つ破壊するのも一苦労だ。
「……ってわけでもなさそうだな?」
関節部が軋みを上げたのを、彼は確かに聞いた。
「もう一押しだ!」
「ボクに任せておくがよい!」
ディアドラは横薙ぎのナイフをやや後退しながら盾で受け流す。ナイフと言ってもCAM用だ、人間から見れば大剣と大差ない。衝撃に手が緩みそうになる。
「大王は膝をつかんッ!」
それでもディアドラは耐える。そして、振り抜く動きは大きな隙となった。
「今だ、狙いは膝ッ!」
真白・祐(ka2803)が号令を発する。彼とその仲間四人は固まって行動していた。
「あいあいさー、なのですヨ!」
身軽な五月女 和香(ka3510)が飛びかかって一撃。続いて、三河 ことり(ka2821)と園藤 美桜(ka2822)が踏み込む。
「せーので行くの!」
「全力で行きますよ……!」
変形剣と日本刀が同時に叩きこまれ、二人が飛び退いた所に御崎・汀(ka2918)が全力で火矢の魔術を放った。CAMの体が僅かに揺らぐが、まだ健在。
「ダメですか……!?」
汀の声に、祐は首を横に振った。
「いや、これで大丈夫」
傷ついたCAMの右脚部は、内部機器を露出していた。
「今がチャンス!」
歪虚CAMへ、月影 夕姫(ka0102)と奈月が駆け寄った。欲を言えば電導性の高い液体でもぶち撒けてやりたかったが、余裕が無い。
「無人のCAMなんか見たくないんだ」
「いい加減止まりなさいっ!」
二人合わせての電撃の機導術が迸り、CAMの動きを止めた。脚部の異常が鉄巨人に膝をつかせる。
「――行きます!」
そしてルーエルが突っ込む。光の魔術で強化されたパイルバンカーが更に関節部を穿った。
「これで……どうだッ!」
撃ち出された穂先がついに金属を押し貫く。
――自重に耐え切れず、CAMの膝下がばきりと折れた。
「よしっ!」
ハンターたちがその光景に静かに沸いた。まだ撃破には程遠いが、一つ足を止める事に成功したのだ。
ここまでは作戦通り。夕姫は即座に軍へ通信を入れる。
「こちらハンター! 二機目の放出をお願い!」
『敵機放出、了解した! 貴官らの迅速な対応に感謝する!』
瓦礫の裏へと戻った夕姫は、海の向こうへ視線を向けた。海軍は既に四割以上は消耗している。同じく瓦礫に身を隠すフワは、海を見るやすぐに計算を終えた。
「ドミニオン一機をこのペースなら、ギリギリかな」
「まだ断言は出来ないけど……多分いけるわ」
二人は顔を見合わせて頷いた。
「三機目の放出までに」
「海軍の戦力は残るはず!」
――光明であった。
即ちそれは、不可能と思われた完全勝利の道。
「二機目到着までに武器を破壊するわ!」
「あの蜘蛛姫の鼻を明かしてやるのも悪くない」
三機全撃破の可能性が、ほんの僅かに生まれたのである。
しかし、決して消耗は少なくない。最前線で攻撃を受け止め続けたディアドラは既に自己回復のスキルを使いきろうとしていたし、回復支援もルーエルが最低限行えるだけ。前線に出ているカズマもナイフの一閃を受け損ね、美桜は銃撃を浴びて一度倒れかけている。魔術もスキルも使用限界が見えつつあった。
シビアな条件だ。結局海を渡る敵援軍が到着すれば撤退するより他にない。それまでに三機全てを撃破するとなると、相当な連携と集中が必要になる。
だが、それでも。
絶望的な状況に果敢に挑みかかる戦士たちである。況や、希望が見えたのならば。
士気は高い。その時確かに、彼らは追い風に背を押されていたのである。
その目論見は成功した、とは言い難かった。
蜘蛛姫モナ・アラーネアは当たり前のように雑魔を強化し、時には被弾すら覚悟でこちらに大打撃を与えてくる。派手なドレスと激しい格闘に見合った苛烈な攻めに、誰もが消耗していた。
「てやぁーッ!」
シルフェが飛びかかるも、日傘がそれを受け流す。エニアの水流の魔術は開いた日傘が受け止めていた。
彼女は開いた日傘を肩に担ぐ。ドレスはそこかしこが銃弾によって裂け、肌が露出していた。それが人であれば艶めかしくもあっただろうが、覗いているのは内蔵代わりの鉄の歯車である。
シルフェが糸に絡め取られるが、動きを奪われる直前、彼女はモナに肉薄した。
「踊りは最後まで付き合うのがマナーだよ」
「あら」
「このままシルごと攻撃して!」
糸にモナを巻き込むことに成功したシルフェは、皆に通信を入れた。
「怖いことするねぇ!」
義明はそれでも狙いをシルフェから外して、引き金を引いた。黒の夢は躊躇なく土魔術を放つ。
「同性愛も乙なものですけれど」
しかし、土煙の向こうからは嘲笑が響く。
「う、うぅ……」
「一方的なのはよくありませんわね」
絡め取られた状態で密着してしまったシルフェは、当然のように盾にされていた。
モナは糸を緩め、密着していたシルフェを放り捨てる。
「私、これでも所謂ボスですのよ? 諸共倒そうなどとは考えが甘いですわ」
「あんなお粗末な人形しか作れないのが、ボスなんて……クソゲーじゃない?」
エニアの挑発に、モナは肩を竦めた。
「そういう勘違いが多いんですのよね、貴女方……。準備の時間は幾らでもあったんですのよ?」
あくまでゲーム。この戦いは、混迷の遊戯者クラーレ・クラーラの手によって制御されたもの。当然、難易度設定もだ。
「ずらりと並んだ亜人が弓を射掛け、近づけば銃器が火を噴く。そんな戦いがお望みだったのなら、まぁ、申し訳なくも思いますけれど」
「鋼糸よ!」
モナが腕を引いたのを見て、ラブリが看破した。放たれた糸の刃を霧華が受ける。ラブリとエニアも回避に成功した。
「そう言う割に、余裕なんだけど? やっぱりクソゲーだわ」
「……ま、好きにおっしゃい」
ラブリは不味いと感じた。相手は忍耐力に乏しく、言い換えれば飽き性だ。つまらない事を続けられる性格には見えない。より面白い物を見つけてしまったら不味い。
「その眼中にないって態度、私のハートがムッカムカだわ」
「貴女はわりと面白い方ですわよ。未だに別の敵を警戒している所とか」
モナは背後を振り返る。今まさにCAMが膝をもがれた所だ。義明の銃弾を半歩ズレて避けると、彼女は呟く。
「あら。あまり遊んでばかりじゃダメですわね」
モナは腕を引いた。
「しまっ」
霧華が割り込もうとするが、遅い。放たれた鋼糸は鋭く伸びて、三人を横から強襲した。
CAMを狙っているレイン、奈月、エルティアを。
「なっ」
「エアッ!」
シルヴェイラが咄嗟に割り込み、障壁と共に刃を受けた。
「ちょ、うわっ!?」
「いっ……!?」
レインが足を絡めとられ、奈月はやや深く腕を斬られた。
「――皆様、私の戦力を測ろうともしないんですもの」
「モナ、あなたっ……!」
「私は、邪魔しようと思えば、ここからでも邪魔できた」
彼女は日傘を肩に乗せる。
「意気揚々と私に挑んだわりに、私とアレを分断しようともせず、能力を測るでもない……飽きるのも当然ですわ」
彼女は大げさに溜息をついた。
「私の相手にはふそ――」
その言葉を遮った音があった。
歌である。
「……あの鉄人形の下へ向かうとしまし――」
特徴的な高笑いすらも遮る、歌があった。
「ちょっと貴女」
呼びかけすらも遮った。
黒の夢の朗々たる歌声が、モナの言葉を片っ端から遮っていた。
そして、彼女にとって腹立たしいことに、それは魔術の詠唱でもあった。
「……面白い」
傷つくのも構わず礫を手で受けて握りつぶすと、モナは口の端をひくつかせて日傘を閉じる。
「今までで一番ムカつきましたわよ、黒エルフ――!」
前衛が慌てて割り込む中、黒の夢はふにゃりと笑って小首を傾げた。
「お人形遊び、続けるのな?」
●
亜人といえど歪虚……扼城はそう思った。途中から起き上がってきた歪虚に囲まれたのは、完全な失敗だった。
「扼城さん!」
もなかが彼の背を抱える。単身、それも捨て身で攻撃を繰り返した彼は、既に満身創痍だ。
だが、そのおかげで亜人を抑えることには成功している。
強化亜人は思いの外強く、もなかと正太郎では撃破に時間がかかり、魔術師二人は定期的に距離を取る必要があった。扼城がその間通常歪虚を請け負ったからこそではある。
彼が代償は大きかったが、幸い今後に差し障るような怪我はなかった。
「あと一体っ!」
正太郎の拳が歪虚の頭を粉砕する。その横で、エヴァの火矢が最後のゴブリンを焼き払った。
「周辺に亜人なし」
「邪魔者退治は終わったんだよ、皆の所に急ぐんだよ」
幸子は急かすように言った。
片足をもがれ、銃器を失ったCAMは、最早這って進むことしか出来ない。
振り払うナイフも体勢からして避けるのは容易であり、移動ものろまだ。
「こんなCAMの姿は見たくなかったかな」
奈月が傷を押さえながらぼやき、二機目の膝へとペンライトから機導砲を放った。
一機目と二機目で対処は変わらない。脚部を破壊し、武器を破壊する。
「たとえ阻止できなくても五体満足では渡さないわ。可能な限り削るわよ」
夕姫は号令を出しつつ、拳銃の引き金を引いた。
まず機動力を奪い、海軍戦力の消耗を抑えることで戦闘時間を伸ばす。それによって得た猶予をフルに使ってCAMを落とす。理に適った戦術である。
「和香、引きつけて!」
「まっかせなさーい!」
二機目にアサルトライフルで狙われた和香は、そのまま擱座機と二機目の中心に割って入る。
「今っ!」
祐の号令でひらりと身をかわす。目標を外したアサルトライフルは歪虚CAMをぶち抜いた。
擱座機を盾にするという戦術のおかげで、それまで一人でCAMを押さえ込んでいたディアドラの負担も減る。
「ちっ……だが!」
ナイフを受け損ねたカズマだが、去り際にパイルバンカーをぶち込んだ。
「膝の装甲が壊れた!」
「よし、もう少しだ!」
魔術と銃弾が殺到し、CAMの足を破壊せんとする。
そこへ、もなかが扼城を抱えてやってきた。
「すみません、ルーエルさん、回復を!」
「分かりました!」
扼城の状態をひと目見て、ルーエルは攻撃の手を止めて回復術を発動。
「すまん、迷惑を掛ける」
どうにか持ち直した扼城は言った。
「おかげで助かりました。……後少しだけ、頑張ってください」
CAM攻撃班に移った幸子。もなかも拳銃で支援しつつ、周囲を伺う。まだ増援が来ないとも限らない。正太郎やエヴァは後方で援軍を警戒した。
エルティアとシルヴェイラは得物を構えつつ、一機目に近寄る。今のうちにコクピット周辺を破壊しておくことにしたのだ。
「まだなにがあるかわからない。十分注意をしてくれよ、エア」
「分かっている……っと!」
ナイフの一閃を避けると、コクピットへ視線を走らせる。
「核のようなものはないのか……?」
「そのようだ」
幾度かの同士討ちでCAMも消耗している。二人がコクピット周辺へ攻撃を繰り返すと、やがてドミニオンは沈黙した。
「ああいうのは、中に人が乗り込んで動かしてるからいいんじゃないか!」
奈月は怒りととともに機導砲を放つ。光条は鉄の膝を貫き、二機目の足に穴を開けた。
膝から崩れ落ちるCAMを見て、夕姫はすぐ通信を入れる。
「こちらハンター、三機目、解放して!」
『助かる! もうそろそろ限界だったんだ!』
海の向こうで、軍艦が少しずつ位置をずらしていく。
洋上、三機目のCAMが悠々とこちらへ向かってくる。ドミニオンとは違う純粋な対歪虚用戦闘兵器、R6M2bデュミナス。
マッシブながらスマートなシルエットも、敵となるとこれほど恐ろしい物はない。
「意外に時間がかかったな」
フワは呟いた。スキル切れのせいだろうと見当はついたが、もう少し統制が取れていれば、敵の編成が違ったら、状況は変わっていたかもしれない。
「三機は、厳しいかな……」
レインは悲しげに零した。
●
黒の夢を、日傘が強かに打ち据える。
「ぐぬっ……!?」
吹き飛ぶ彼女は鋼糸に腕を縛られていた。
「嗜虐趣味はそれほどありませんけれど、中々いい眺めですわね! おーっほっほっほっ!」
モナは一つ高笑いをした。
「あぁ、ようやく出来ましたわ。……しかし鬱陶しい」
肩をぐるぐると回し、彼女はとんとん腕を叩いて砂を落とした。
黒の夢は徹底的に嫌がらせを行った。土塊を体内の歯車目掛けて放ったり、エニアと組んで体内を水で濡らしたり。
「関節に砂が入って、海水的なものが染みたら、お人形さんはきっとしんどいのなー」
間延びした語り口で言い放った内容は、半分真実であった。先程から砂を噛んだ歯車ががちがち嫌な音を立てているのは、モナにとっては堪らなく不快であったし、ボロボロとはいえお気に入りの衣装を濡らされるのはいい気分ではない。
「美女に呪いをかけるのは、よくあるお話であろう?」
「あら、貴女も十分美しいですわ。大事に大事に壊したくなるくらい」
六人、皆相当に消耗していた。体はまだまだ動くか、ラブリのヒールが既にない事を踏まえると危うい状態だ。防御の硬い霧華ですら、もう数合受けたならば膝をつくだろう。何より、もう魔術もスキルも切れつつあった。
とは言え、モナも無傷ではない。というより、六人で戦ったにしては十分なほど彼女も傷を負っていた。
依然健在ではあったが、もう二人もいれば、もしかすると勝てたかもしれないと思わせる程に。
「どうしましたの? 楽勝と言っていたのは貴女ですわよ?」
「っ、くそ……」
エニアは歯噛みした。もう風の守りすら張れない。ガス欠だ。序盤温存していた黒の夢も早々に術を切らしている。
「なんて、冗談ですわ」
モナは無邪気に笑っていた。
「満身創痍でも立ち上がるその心、素晴らしいですわ。奪われたくないと思う心、身を賭してでも立ち塞がろうという熱意、実に美しい。美しくて美しくて」
始め侮っていた相手も素晴らしい敵であったと、その点を彼女は確認してしまったのだ。
「――楽しくなってしまいますわ」
「させるかっ!」
エニアは敵が何か隠し玉を使おうとしているのを感じた。だから鞭を使って、モナの動きを縛ろうとした。
だが、それは無意味。彼女が何かをするわけではなかったからだ。
「……何か、来るわ」
それが飛び出したのは、山に突っ込んだ海賊船の残骸、その中からだった。
真っ先にラブリが森へ視線を向け、それはその頭上を飛び越す。
「なんだい、ありゃあ」
義明が呻いた。
「ところで」
影が落ちていた。
空から何かが降りてきていた。
「――私は、皆様になんと名乗りましたかしら?」
それは。
鋼と歯車とぜんまいで出来た、巨大な、巨大な――。
蜘蛛であった。
「ふざけんな……」
鋼の蜘蛛の上に立つモナの、その下半身がばらばら解ける。
蜘蛛の頭部に空いた穴へと、下半身が埋まっていく。
リアルブルーでは、アラクネーとでも言うのだろう。
「手、抜いてたってわけね」
上半身は、妖艶な美女。
下半身は、巨大な蜘蛛。
鋼と陶器に包まれて、ぜんまいと歯車で駆動する、機械仕掛けの蜘蛛女。
「かっこいいのなー」
黒の夢の場違いな感想に、彼女はにやりと微笑む。
それを拘束していた鞭が、切り落とされて地に落ちた。
●
時間切れか、と誰かが言った。
三機破壊は間に合わなかったのだと、皆それを理解した。
誰かが指し示した海の向こうに、船の影があったからだ。
敵増援の到着である。時間切れの合図だ。見れば、同盟軍も船を寄せて来ていた。
それでも、ハンターは時間一杯まで攻撃を続ける。無事なままでくれてやるつもりはなかった。
時間切れなのだから、飛び出してくる必要はなかった。
彼女は高笑いをして待っていれば良かったのだ。
しかしながら、堪え性のなさは彼女の致命的な欠点であった。
それは、倒れ伏した二機目のCAMの、丁度真上に落ちてきた。
擱座したCAMを踏みつけるように現れたのは、巨大な鋼の蜘蛛と、その上に乗る陶器の女性だった。
「――お見事ですわ」
それは彼女の偽らざる本心のようだった。
「悔しいけれど、今回は私の完敗ですわ」
ハンターたちが身構える中、彼女は隠すことなく笑顔を見せていた。
「実にお見事と言わざるを得ません。鮮やかなお手並みでございましたわ」
見れば、彼女も無傷ではなかった。潜んでいたらしい蜘蛛は兎も角、女性の体はドレスもボロボロ、陶器の皮膚は少し罅割れている。
「侮っていたことを認めます。まさか三機目を壊すかどうかという所まで来るとは思いませんでしたわ」
ですから、と彼女はその長い前足を振り上げる。
「こちらは皆様の物ですわ」
がつんと突き刺さった前足が、CAMの装甲を貫いて沈黙させた。
「勿論、この二機を強引に奪うなんて真似は致しません。ゲームのルールに則り、きちんと返却致しますわ」
放置という形になりますけれど、と彼女は言った。
互いに満身創痍の中、形勢は確実に不利の状況だというのに、敗者の装いではない。
「改めまして、私の名はモナ・アラーネア」
モナは朗々と、鋼の声帯を震わせた。
「嫉妬に連なる蜘蛛の姫」
鋼の蜘蛛が、その鋏角をかちかちと鳴らした。
撤退しろ、乗れ、と軍人が言った。
「いつかまたお会いしましょう、ハンターズソサエティの皆々様」
逃げる背を追うこともせず、モナは笑顔でそれを見送っていた。
「その統制が、その連携が、その強い心が……気に入りましたの」
少なくとも、敗北を悔やむ顔ではなかった。
新たなゲームを見つけた子供の顔であった。
破壊されたCAMを蹴りつけながら、彼女は語り続ける。
「私は、皆様と戦いたい――皆様を壊してみたい、壊されてみたい」
瞳を細めて笑う彼女を背に、軍艦は島を離れた。
かの状況からCAM二機の撃墜ならば結果は上々――しかし、新たな火種が熾るのを、誰もがその目で見た。
いつかまた。
それが果たしてどれほど先のことなのか、今はまだ誰も知らない。
奪われた最後の一機の行方もまた――。
「CAMというのは初めて見るが……なるほど、これは素晴らしいな」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)はそれを見て唸った。
鋼の巨体が長大な得物を振り上げ、ゆっくりと海岸へ歩を進めている。
「いやー、CAMが三体! 壮観だね!」
フワ ハヤテ(ka0004)は、頬を伝う冷や汗を拭った。
「あれがこちらに来ると思うとゾッとするよ」
海上すぐ近くでは、軍艦が海底目掛けて艦砲射撃を繰り返す。轟音と水飛沫の中で、歪虚CAMの残る二機が軍艦を突破せんと得物を振るう。
「確かにCAMが戦ってる姿は見たかったが、あれは違う」
鈴胆 奈月(ka2802)はそれを睨んで断言した。
しかし、それ一個一個が強敵であることは言うまでもない。
「とはいえ、歪虚と化している以上は倒さねばならぬとは、もったいない話だな」
ディアドラは大盾を手に、その正面へと立ち塞がった。
「うぅ、CAMに頬擦りしたばかりなのに、敵として立ちはだかるなんてね」
魔導拳銃を手に難しい顔をするレイン・レーネリル(ka2887)。
「でも歪虚なんかにされて可哀想だからね。少しでも苦しみから解放してあげたい!」
彼女はぐっと拳を握りしめた。
「……あと、モナさんを直接妨害するよりCAM狙った方があの人嫌がりそうだから」
――CAMと比べると酷く小さい、人型の異形。
陶器質の肌をした歪虚は、日傘の裏で薄く笑いながらハンターたちを見ていた。
こちらに来ないのかと、CAMが一歩を踏み出すたびに、まるで誘うように。
「……此処にある全ての命がゲームの駒だと言うなら、その盤を叩き壊してあげるよ」
獰猛に笑ったルーエル・ゼクシディア(ka2473)に、彼女は笑い返した。
「口でなら、なんとでも言えるでしょう?」
「……上等だよ」
CAMが更なる一歩を踏み出す、その直前。
「戦闘開始! 各員、配置についてください!」
水城もなか(ka3532)の号令と共に、一同は飛び出した。
●
ディアドラ、ルーエル、龍崎・カズマ(ka0178)の三人は、真っ直ぐCAMへと走る。
CAMは銃口を避けるように動くカズマを早々に無視し、ディアドラへと巨大な銃器を向けた。爆音。発砲音すら大砲の如しだ。
「ぬおっ!?」
盾越しに伝わる衝撃。一人では長くは持たず、受け損ねればひとたまりもないだろう。
「益々惜しいぞ」
ディアドラは側面へと回り込みながら叫んだ。
「狙いは右足よ!」
やや後方、離れた位置の瓦礫に隠れながら、フワが風の魔術を放つ。
「確実に、一本ずつもぎ取ろう」
装甲に僅かに傷をつけたのを見て、彼は顔を顰めた。
「……どうやら歪虚化と同時に固くなってるらしいからね」
ハンターが狙うは脚部の破壊。まずは移動力を奪う算段だが、道程は決して短くはないらしい。
「嫉妬の歪虚は随分と大きな人形遊びが好きなのね」
エルティア・ホープナー(ka0727)は弓を射るが、CAMの振るったナイフが矢をはたき落とした。
「ただの人形であれば良かったけどね」
撃った弾丸が避けられるのを見て、シルヴェイラ(ka0726)はぼやく。
敵の動きは、少なくとも人形と揶揄できる程にのろまではなかった。
彼らCAM攻撃班を狙って、歪虚化したゴブリンたちが森から現れる。
そのうち二体は、モナによって歪に強化されている。
「思う事はあるけど、今はボクのやるべき事をやるんだよ」
それらの前に、弓月 幸子(ka1749)が立ち塞がった。
「ゲームに乗るのは悔しいけど、やってみせるんだよ」
「勿論です。CAMを敵の手に渡すのは避けたいですからね」
もなかも頷いた。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)と扼城(ka2836)はデリンジャーで遠くのゴブリンの注意を惹き、まず一箇所へ集めようとする。
雪ノ下正太郎(ka0539)は、CAMへの攻撃を庇いに向かう強化歪虚を殴りつけた。
「行かせるわけにはいきません」
「後ろの皆の足を引っ張る訳には行かんのでな……!」
群れるゴブリンたちに向けて、扼城は剣を振り上げた。
「そこのオネーサン、一緒に踊りましょ♪」
それらを一望していたモナ・アラーネアへ、シルフェ・アルタイル(ka0143)が吶喊する。
「ダンスの誘いなら、もっと品が欲しい所ですわね」
パン、と音を立てて開かれた傘が、シルフェの煙管を弾き返した。
「――で」
彼女に立ち塞がるのは、都合六名。シルフェ、黒の夢(ka0187)、十色 エニア(ka0370)、白神 霧華(ka0915)、ラブリ"アリス"ラブリーハート(ka2915)、壬生 義明(ka3397)。
「皆様が私の相手と……それで相違ありませんわね?」
「勿論」
エニアが頷いた。
「戦いたければ盤上へ……だっけ? 来てあげたよ」
「結構、結構。ならば語ることは多くありませんわ」
モナは日傘を肩に乗せ、艶然と微笑んだ。
「では、勝負と行きましょう!」
「大丈夫、ハートの女王は負けないわ」
ラブリは不敵に微笑み、プロテクションを唱えた。
空いた左手が振り払われる。シルフェと義明は横へ跳び、霧華はワイヤーウィップを振り抜くと盾を構えた。砂浜を何かが鋭く駆け抜けていく。
見づらいが、紛れも無く鋼糸の一閃だ。
「やる時はやらないとねぇ。気合入れていくよ」
義明の手で魔導銃が火を噴く。モナはひらりと身をかわした。続く黒の夢の放つ礫を宙返りで飛び越えたその横合いから、エニアの水の魔法が襲いかかる。
「おっと」
水流は傘が阻んでいた。砂浜に屈んだ姿勢で着地するなり、畳まれた傘がシルフェ目掛けて振り抜かれる。
「うわわっ!」
辛うじて屈んで避けた彼女に対し、モナはさらに踏み出すが、即座に振り返って銃弾を傘で叩き落とした。
「おいおい、冗談キツいよ」
義明の呆れた言葉に、モナはくすりと微笑んだ。シルフェが少し距離を取る。
「いい傘でしょう? とっても丈夫なんですのよ」
「いやいや、そこじゃなくてね」
言葉で注意を惹く義明に隠れて、黒の夢が土塊の弾丸を放つ。モナはそれを裏拳で吹き飛ばした。
「わー、見かけに寄らずに武闘派なのじゃな」
「そちらも、存外厭らしい戦いをしますのね」
そう言う彼女の手の甲、陶器の肌は罅割れていた。
各員が提げた魔導短伝話によって、多方面からタイミングを合わせて攻撃を仕掛けている。厄介といえば厄介な連携だ。
敵の視線が後衛に向いているのを見て、霧華が口を開く。
「一つゲームを思いついたのですが、私と遊びませんか?」
モナの視線が霧華に向いたのを見て、彼女は頷いた。
「あなたの体に私が触れれば勝ち、私が倒れればあなたの勝ち。もちろん他の方はこんなゲームお構い無しであなたに攻撃仕掛けますので、あしからず」
「ふむ」
モナは暫し思案するようにして、傘を開いて魔術と銃弾を捌いた。シルフェの煙管を腕で受け止め、押し返す。
「やはり、なしですわね」
「何故?」
「お答えしますわ」
ラブリのプロテクションを尻目に、モナは割れた手を一振する。三方向へ飛ぶ鋼糸が霧華を捉える。だが先程ワイヤーウィップを絡みつかせていた霧華は落ち着いて巻取機構を起動、糸を切断しにかかる……が。
「……え?」
切れた糸とは違う糸が、彼女の体を絡め取った。
「まず忠告ですけれど、蜘蛛姫に糸で仕掛けるというのが甘い目論見」
すぐさま銃弾と魔術が壁のように迫る。あろうことかモナはこれに頭から突っ込んだ。
水流を屈んでかわし、礫と銃弾を足に受けながら、モナは傘を振り上げる。
「それと」
砂浜が吹き飛んだ。
「――実力差が不公平に過ぎて、ゲームになりませんわ」
「霧華!」
彼女は地に叩きつけられ、砂と共に跳ね上がっていた。すぐさまラブリがヒールを掛け、霧華はどうにか体勢を立て直し着地。
肩を押さえる霧華をモナは追わず、砂のかかったドレスをパンパンと叩く。
「……武闘派っていうか、脳筋」
エニアが苦い顔をした。敵に傷を嫌って戦力温存という考えはないらしい。
モナは小首を傾げて微笑んだ。
「さぁ、もっとですわ。もっと激しく来なさいな! おーっほっほっほっ!」
●
銃撃により、多くの雑魔を追い立てた。
「エヴァさん!」
幸子の声に頷き、エヴァは催眠の魔術を描き出す。一箇所にまとまった通常雑魔の多くが眠りに落ちるが。
(やっぱり一般の亜人より効きが悪い)
集めた十数体のうち、半数以上が抵抗した。続けて幸子も眠りの雲を放ち数を減らす。これで数は約半分。
そこへ扼城が駆け込んだ。
「雑魚は任せろ」
そう言う彼に幸子とエヴァは頷き、武器と融合した歪虚へと杖を向けた。
「せあっ!」
正太郎は邪魔な雑魔を数体殴り倒した。その横では、もなかが融合亜人に刀を向ける。
動き回りながらの近距離戦闘。幸い盾と融合した亜人は攻撃は疎かであり、彼女一人でも十分相手をすることは出来た。
(急造であるとしても、性能自体が向上しているというわけではない……けど)
鋭く振り下ろした刀が、大振りな盾に阻まれた。
「硬い……!」
「加勢します」
正太郎が挟撃の形でゴブリンの横面を殴り飛ばす。
亜人の動きは奇妙だ。大振りでたたらを踏みながらだというのに、攻撃は綺麗に防御する。その様子を見て、もなかは結論を下した。
「こいつ、盾も雑魔化してます」
「というと」
「無機物の側に主導権があるんです。盾持ち亜人じゃなく亜人付き盾なんですよ!」
その言葉を発すると同時に、彼女は盾を持つ腕を切り落とす。
途端、亜人の側は萎れながら倒れた。
「正太郎さん、お願いします!」
裂帛の正拳突きが盾を正面から打ち抜く。続く瓦割りが盾を真っ二つに破壊した。
「とりあえず、一つ」
「ですね。亜人から切り離せば破壊は容易……と」
その話を聞いて、幸子は呟いた。
「ボクの知ってる奴とちょっと違うんだよ」
比べてみれば、機械とただの剣である。所詮は急造ということか。幸子は武器持ちの腕に風の刃をぶつけた。
エヴァは素早く雑魔を倒す事に決める。何度目かの火矢がゴブリンの胸を貫き、もがくゴブリンが焼失すると、剣も落下して動かなくなった。
「寄生先が死ねば、本体も死亡ですか」
正太郎はそれを見て頷いた。
「大体対処は分かりましたね。可能なら切り離し、不可なら飽和攻撃」
と、そこへエヴァが銃声を響かせた。喋れない彼女の警告である。
眠っていたゴブリン二体に、近くの瓦礫から武具が飛来し、その身に突き刺さった。
「……まだまだ終わらなさそうですね」
「早く倒すんだよ」
正太郎は両腕を打ち付けて、盾の亜人へ跳びかかった。
やや離れた位置で、CAM班へと向かう歪虚亜人たちに、扼城は立ちはだかっていた。
「何処へ行く、歪虚共」
その先頭に立つ歪虚の爪を防ぎもせず、カウンター気味に振りぬいた剣でその首が刎ねる。
「此処から先へ行きたくば……俺を殺し尽くしてみせろ」
男は次の亜人へと飛びかかる。彼は端から無事であることを放棄していた。
カズマのパイルバンカーが、CAMの膝裏を直撃した。
「ダメ……」
歪虚化の影響で、機体の装甲がより堅牢になっている。部品一つ破壊するのも一苦労だ。
「……ってわけでもなさそうだな?」
関節部が軋みを上げたのを、彼は確かに聞いた。
「もう一押しだ!」
「ボクに任せておくがよい!」
ディアドラは横薙ぎのナイフをやや後退しながら盾で受け流す。ナイフと言ってもCAM用だ、人間から見れば大剣と大差ない。衝撃に手が緩みそうになる。
「大王は膝をつかんッ!」
それでもディアドラは耐える。そして、振り抜く動きは大きな隙となった。
「今だ、狙いは膝ッ!」
真白・祐(ka2803)が号令を発する。彼とその仲間四人は固まって行動していた。
「あいあいさー、なのですヨ!」
身軽な五月女 和香(ka3510)が飛びかかって一撃。続いて、三河 ことり(ka2821)と園藤 美桜(ka2822)が踏み込む。
「せーので行くの!」
「全力で行きますよ……!」
変形剣と日本刀が同時に叩きこまれ、二人が飛び退いた所に御崎・汀(ka2918)が全力で火矢の魔術を放った。CAMの体が僅かに揺らぐが、まだ健在。
「ダメですか……!?」
汀の声に、祐は首を横に振った。
「いや、これで大丈夫」
傷ついたCAMの右脚部は、内部機器を露出していた。
「今がチャンス!」
歪虚CAMへ、月影 夕姫(ka0102)と奈月が駆け寄った。欲を言えば電導性の高い液体でもぶち撒けてやりたかったが、余裕が無い。
「無人のCAMなんか見たくないんだ」
「いい加減止まりなさいっ!」
二人合わせての電撃の機導術が迸り、CAMの動きを止めた。脚部の異常が鉄巨人に膝をつかせる。
「――行きます!」
そしてルーエルが突っ込む。光の魔術で強化されたパイルバンカーが更に関節部を穿った。
「これで……どうだッ!」
撃ち出された穂先がついに金属を押し貫く。
――自重に耐え切れず、CAMの膝下がばきりと折れた。
「よしっ!」
ハンターたちがその光景に静かに沸いた。まだ撃破には程遠いが、一つ足を止める事に成功したのだ。
ここまでは作戦通り。夕姫は即座に軍へ通信を入れる。
「こちらハンター! 二機目の放出をお願い!」
『敵機放出、了解した! 貴官らの迅速な対応に感謝する!』
瓦礫の裏へと戻った夕姫は、海の向こうへ視線を向けた。海軍は既に四割以上は消耗している。同じく瓦礫に身を隠すフワは、海を見るやすぐに計算を終えた。
「ドミニオン一機をこのペースなら、ギリギリかな」
「まだ断言は出来ないけど……多分いけるわ」
二人は顔を見合わせて頷いた。
「三機目の放出までに」
「海軍の戦力は残るはず!」
――光明であった。
即ちそれは、不可能と思われた完全勝利の道。
「二機目到着までに武器を破壊するわ!」
「あの蜘蛛姫の鼻を明かしてやるのも悪くない」
三機全撃破の可能性が、ほんの僅かに生まれたのである。
しかし、決して消耗は少なくない。最前線で攻撃を受け止め続けたディアドラは既に自己回復のスキルを使いきろうとしていたし、回復支援もルーエルが最低限行えるだけ。前線に出ているカズマもナイフの一閃を受け損ね、美桜は銃撃を浴びて一度倒れかけている。魔術もスキルも使用限界が見えつつあった。
シビアな条件だ。結局海を渡る敵援軍が到着すれば撤退するより他にない。それまでに三機全てを撃破するとなると、相当な連携と集中が必要になる。
だが、それでも。
絶望的な状況に果敢に挑みかかる戦士たちである。況や、希望が見えたのならば。
士気は高い。その時確かに、彼らは追い風に背を押されていたのである。
その目論見は成功した、とは言い難かった。
蜘蛛姫モナ・アラーネアは当たり前のように雑魔を強化し、時には被弾すら覚悟でこちらに大打撃を与えてくる。派手なドレスと激しい格闘に見合った苛烈な攻めに、誰もが消耗していた。
「てやぁーッ!」
シルフェが飛びかかるも、日傘がそれを受け流す。エニアの水流の魔術は開いた日傘が受け止めていた。
彼女は開いた日傘を肩に担ぐ。ドレスはそこかしこが銃弾によって裂け、肌が露出していた。それが人であれば艶めかしくもあっただろうが、覗いているのは内蔵代わりの鉄の歯車である。
シルフェが糸に絡め取られるが、動きを奪われる直前、彼女はモナに肉薄した。
「踊りは最後まで付き合うのがマナーだよ」
「あら」
「このままシルごと攻撃して!」
糸にモナを巻き込むことに成功したシルフェは、皆に通信を入れた。
「怖いことするねぇ!」
義明はそれでも狙いをシルフェから外して、引き金を引いた。黒の夢は躊躇なく土魔術を放つ。
「同性愛も乙なものですけれど」
しかし、土煙の向こうからは嘲笑が響く。
「う、うぅ……」
「一方的なのはよくありませんわね」
絡め取られた状態で密着してしまったシルフェは、当然のように盾にされていた。
モナは糸を緩め、密着していたシルフェを放り捨てる。
「私、これでも所謂ボスですのよ? 諸共倒そうなどとは考えが甘いですわ」
「あんなお粗末な人形しか作れないのが、ボスなんて……クソゲーじゃない?」
エニアの挑発に、モナは肩を竦めた。
「そういう勘違いが多いんですのよね、貴女方……。準備の時間は幾らでもあったんですのよ?」
あくまでゲーム。この戦いは、混迷の遊戯者クラーレ・クラーラの手によって制御されたもの。当然、難易度設定もだ。
「ずらりと並んだ亜人が弓を射掛け、近づけば銃器が火を噴く。そんな戦いがお望みだったのなら、まぁ、申し訳なくも思いますけれど」
「鋼糸よ!」
モナが腕を引いたのを見て、ラブリが看破した。放たれた糸の刃を霧華が受ける。ラブリとエニアも回避に成功した。
「そう言う割に、余裕なんだけど? やっぱりクソゲーだわ」
「……ま、好きにおっしゃい」
ラブリは不味いと感じた。相手は忍耐力に乏しく、言い換えれば飽き性だ。つまらない事を続けられる性格には見えない。より面白い物を見つけてしまったら不味い。
「その眼中にないって態度、私のハートがムッカムカだわ」
「貴女はわりと面白い方ですわよ。未だに別の敵を警戒している所とか」
モナは背後を振り返る。今まさにCAMが膝をもがれた所だ。義明の銃弾を半歩ズレて避けると、彼女は呟く。
「あら。あまり遊んでばかりじゃダメですわね」
モナは腕を引いた。
「しまっ」
霧華が割り込もうとするが、遅い。放たれた鋼糸は鋭く伸びて、三人を横から強襲した。
CAMを狙っているレイン、奈月、エルティアを。
「なっ」
「エアッ!」
シルヴェイラが咄嗟に割り込み、障壁と共に刃を受けた。
「ちょ、うわっ!?」
「いっ……!?」
レインが足を絡めとられ、奈月はやや深く腕を斬られた。
「――皆様、私の戦力を測ろうともしないんですもの」
「モナ、あなたっ……!」
「私は、邪魔しようと思えば、ここからでも邪魔できた」
彼女は日傘を肩に乗せる。
「意気揚々と私に挑んだわりに、私とアレを分断しようともせず、能力を測るでもない……飽きるのも当然ですわ」
彼女は大げさに溜息をついた。
「私の相手にはふそ――」
その言葉を遮った音があった。
歌である。
「……あの鉄人形の下へ向かうとしまし――」
特徴的な高笑いすらも遮る、歌があった。
「ちょっと貴女」
呼びかけすらも遮った。
黒の夢の朗々たる歌声が、モナの言葉を片っ端から遮っていた。
そして、彼女にとって腹立たしいことに、それは魔術の詠唱でもあった。
「……面白い」
傷つくのも構わず礫を手で受けて握りつぶすと、モナは口の端をひくつかせて日傘を閉じる。
「今までで一番ムカつきましたわよ、黒エルフ――!」
前衛が慌てて割り込む中、黒の夢はふにゃりと笑って小首を傾げた。
「お人形遊び、続けるのな?」
●
亜人といえど歪虚……扼城はそう思った。途中から起き上がってきた歪虚に囲まれたのは、完全な失敗だった。
「扼城さん!」
もなかが彼の背を抱える。単身、それも捨て身で攻撃を繰り返した彼は、既に満身創痍だ。
だが、そのおかげで亜人を抑えることには成功している。
強化亜人は思いの外強く、もなかと正太郎では撃破に時間がかかり、魔術師二人は定期的に距離を取る必要があった。扼城がその間通常歪虚を請け負ったからこそではある。
彼が代償は大きかったが、幸い今後に差し障るような怪我はなかった。
「あと一体っ!」
正太郎の拳が歪虚の頭を粉砕する。その横で、エヴァの火矢が最後のゴブリンを焼き払った。
「周辺に亜人なし」
「邪魔者退治は終わったんだよ、皆の所に急ぐんだよ」
幸子は急かすように言った。
片足をもがれ、銃器を失ったCAMは、最早這って進むことしか出来ない。
振り払うナイフも体勢からして避けるのは容易であり、移動ものろまだ。
「こんなCAMの姿は見たくなかったかな」
奈月が傷を押さえながらぼやき、二機目の膝へとペンライトから機導砲を放った。
一機目と二機目で対処は変わらない。脚部を破壊し、武器を破壊する。
「たとえ阻止できなくても五体満足では渡さないわ。可能な限り削るわよ」
夕姫は号令を出しつつ、拳銃の引き金を引いた。
まず機動力を奪い、海軍戦力の消耗を抑えることで戦闘時間を伸ばす。それによって得た猶予をフルに使ってCAMを落とす。理に適った戦術である。
「和香、引きつけて!」
「まっかせなさーい!」
二機目にアサルトライフルで狙われた和香は、そのまま擱座機と二機目の中心に割って入る。
「今っ!」
祐の号令でひらりと身をかわす。目標を外したアサルトライフルは歪虚CAMをぶち抜いた。
擱座機を盾にするという戦術のおかげで、それまで一人でCAMを押さえ込んでいたディアドラの負担も減る。
「ちっ……だが!」
ナイフを受け損ねたカズマだが、去り際にパイルバンカーをぶち込んだ。
「膝の装甲が壊れた!」
「よし、もう少しだ!」
魔術と銃弾が殺到し、CAMの足を破壊せんとする。
そこへ、もなかが扼城を抱えてやってきた。
「すみません、ルーエルさん、回復を!」
「分かりました!」
扼城の状態をひと目見て、ルーエルは攻撃の手を止めて回復術を発動。
「すまん、迷惑を掛ける」
どうにか持ち直した扼城は言った。
「おかげで助かりました。……後少しだけ、頑張ってください」
CAM攻撃班に移った幸子。もなかも拳銃で支援しつつ、周囲を伺う。まだ増援が来ないとも限らない。正太郎やエヴァは後方で援軍を警戒した。
エルティアとシルヴェイラは得物を構えつつ、一機目に近寄る。今のうちにコクピット周辺を破壊しておくことにしたのだ。
「まだなにがあるかわからない。十分注意をしてくれよ、エア」
「分かっている……っと!」
ナイフの一閃を避けると、コクピットへ視線を走らせる。
「核のようなものはないのか……?」
「そのようだ」
幾度かの同士討ちでCAMも消耗している。二人がコクピット周辺へ攻撃を繰り返すと、やがてドミニオンは沈黙した。
「ああいうのは、中に人が乗り込んで動かしてるからいいんじゃないか!」
奈月は怒りととともに機導砲を放つ。光条は鉄の膝を貫き、二機目の足に穴を開けた。
膝から崩れ落ちるCAMを見て、夕姫はすぐ通信を入れる。
「こちらハンター、三機目、解放して!」
『助かる! もうそろそろ限界だったんだ!』
海の向こうで、軍艦が少しずつ位置をずらしていく。
洋上、三機目のCAMが悠々とこちらへ向かってくる。ドミニオンとは違う純粋な対歪虚用戦闘兵器、R6M2bデュミナス。
マッシブながらスマートなシルエットも、敵となるとこれほど恐ろしい物はない。
「意外に時間がかかったな」
フワは呟いた。スキル切れのせいだろうと見当はついたが、もう少し統制が取れていれば、敵の編成が違ったら、状況は変わっていたかもしれない。
「三機は、厳しいかな……」
レインは悲しげに零した。
●
黒の夢を、日傘が強かに打ち据える。
「ぐぬっ……!?」
吹き飛ぶ彼女は鋼糸に腕を縛られていた。
「嗜虐趣味はそれほどありませんけれど、中々いい眺めですわね! おーっほっほっほっ!」
モナは一つ高笑いをした。
「あぁ、ようやく出来ましたわ。……しかし鬱陶しい」
肩をぐるぐると回し、彼女はとんとん腕を叩いて砂を落とした。
黒の夢は徹底的に嫌がらせを行った。土塊を体内の歯車目掛けて放ったり、エニアと組んで体内を水で濡らしたり。
「関節に砂が入って、海水的なものが染みたら、お人形さんはきっとしんどいのなー」
間延びした語り口で言い放った内容は、半分真実であった。先程から砂を噛んだ歯車ががちがち嫌な音を立てているのは、モナにとっては堪らなく不快であったし、ボロボロとはいえお気に入りの衣装を濡らされるのはいい気分ではない。
「美女に呪いをかけるのは、よくあるお話であろう?」
「あら、貴女も十分美しいですわ。大事に大事に壊したくなるくらい」
六人、皆相当に消耗していた。体はまだまだ動くか、ラブリのヒールが既にない事を踏まえると危うい状態だ。防御の硬い霧華ですら、もう数合受けたならば膝をつくだろう。何より、もう魔術もスキルも切れつつあった。
とは言え、モナも無傷ではない。というより、六人で戦ったにしては十分なほど彼女も傷を負っていた。
依然健在ではあったが、もう二人もいれば、もしかすると勝てたかもしれないと思わせる程に。
「どうしましたの? 楽勝と言っていたのは貴女ですわよ?」
「っ、くそ……」
エニアは歯噛みした。もう風の守りすら張れない。ガス欠だ。序盤温存していた黒の夢も早々に術を切らしている。
「なんて、冗談ですわ」
モナは無邪気に笑っていた。
「満身創痍でも立ち上がるその心、素晴らしいですわ。奪われたくないと思う心、身を賭してでも立ち塞がろうという熱意、実に美しい。美しくて美しくて」
始め侮っていた相手も素晴らしい敵であったと、その点を彼女は確認してしまったのだ。
「――楽しくなってしまいますわ」
「させるかっ!」
エニアは敵が何か隠し玉を使おうとしているのを感じた。だから鞭を使って、モナの動きを縛ろうとした。
だが、それは無意味。彼女が何かをするわけではなかったからだ。
「……何か、来るわ」
それが飛び出したのは、山に突っ込んだ海賊船の残骸、その中からだった。
真っ先にラブリが森へ視線を向け、それはその頭上を飛び越す。
「なんだい、ありゃあ」
義明が呻いた。
「ところで」
影が落ちていた。
空から何かが降りてきていた。
「――私は、皆様になんと名乗りましたかしら?」
それは。
鋼と歯車とぜんまいで出来た、巨大な、巨大な――。
蜘蛛であった。
「ふざけんな……」
鋼の蜘蛛の上に立つモナの、その下半身がばらばら解ける。
蜘蛛の頭部に空いた穴へと、下半身が埋まっていく。
リアルブルーでは、アラクネーとでも言うのだろう。
「手、抜いてたってわけね」
上半身は、妖艶な美女。
下半身は、巨大な蜘蛛。
鋼と陶器に包まれて、ぜんまいと歯車で駆動する、機械仕掛けの蜘蛛女。
「かっこいいのなー」
黒の夢の場違いな感想に、彼女はにやりと微笑む。
それを拘束していた鞭が、切り落とされて地に落ちた。
●
時間切れか、と誰かが言った。
三機破壊は間に合わなかったのだと、皆それを理解した。
誰かが指し示した海の向こうに、船の影があったからだ。
敵増援の到着である。時間切れの合図だ。見れば、同盟軍も船を寄せて来ていた。
それでも、ハンターは時間一杯まで攻撃を続ける。無事なままでくれてやるつもりはなかった。
時間切れなのだから、飛び出してくる必要はなかった。
彼女は高笑いをして待っていれば良かったのだ。
しかしながら、堪え性のなさは彼女の致命的な欠点であった。
それは、倒れ伏した二機目のCAMの、丁度真上に落ちてきた。
擱座したCAMを踏みつけるように現れたのは、巨大な鋼の蜘蛛と、その上に乗る陶器の女性だった。
「――お見事ですわ」
それは彼女の偽らざる本心のようだった。
「悔しいけれど、今回は私の完敗ですわ」
ハンターたちが身構える中、彼女は隠すことなく笑顔を見せていた。
「実にお見事と言わざるを得ません。鮮やかなお手並みでございましたわ」
見れば、彼女も無傷ではなかった。潜んでいたらしい蜘蛛は兎も角、女性の体はドレスもボロボロ、陶器の皮膚は少し罅割れている。
「侮っていたことを認めます。まさか三機目を壊すかどうかという所まで来るとは思いませんでしたわ」
ですから、と彼女はその長い前足を振り上げる。
「こちらは皆様の物ですわ」
がつんと突き刺さった前足が、CAMの装甲を貫いて沈黙させた。
「勿論、この二機を強引に奪うなんて真似は致しません。ゲームのルールに則り、きちんと返却致しますわ」
放置という形になりますけれど、と彼女は言った。
互いに満身創痍の中、形勢は確実に不利の状況だというのに、敗者の装いではない。
「改めまして、私の名はモナ・アラーネア」
モナは朗々と、鋼の声帯を震わせた。
「嫉妬に連なる蜘蛛の姫」
鋼の蜘蛛が、その鋏角をかちかちと鳴らした。
撤退しろ、乗れ、と軍人が言った。
「いつかまたお会いしましょう、ハンターズソサエティの皆々様」
逃げる背を追うこともせず、モナは笑顔でそれを見送っていた。
「その統制が、その連携が、その強い心が……気に入りましたの」
少なくとも、敗北を悔やむ顔ではなかった。
新たなゲームを見つけた子供の顔であった。
破壊されたCAMを蹴りつけながら、彼女は語り続ける。
「私は、皆様と戦いたい――皆様を壊してみたい、壊されてみたい」
瞳を細めて笑う彼女を背に、軍艦は島を離れた。
かの状況からCAM二機の撃墜ならば結果は上々――しかし、新たな火種が熾るのを、誰もがその目で見た。
いつかまた。
それが果たしてどれほど先のことなのか、今はまだ誰も知らない。
奪われた最後の一機の行方もまた――。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 18人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓(全体) ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271) 人間(クリムゾンウェスト)|12才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/01/13 19:15:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/12 22:02:50 |
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分からない事は教えてもらおう シルフェ・アルタイル(ka0143) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/13 19:23:34 |
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作戦会議【CAM】篇 シルフェ・アルタイル(ka0143) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/13 19:20:48 |
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作戦会議【モナ】篇 シルフェ・アルタイル(ka0143) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/13 19:27:08 |
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作戦会議【雑魔】篇 シルフェ・アルタイル(ka0143) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/13 20:15:16 |