気持ちの容れ物

マスター:音無奏

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/01/26 15:00
完成日
2019/02/09 02:37

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ルカは物を入れる時何を使う?」
「はぁ? そりゃあ……籠とかだろ?」
 いきなり突撃して来て珍妙な事を言い出す幼女・マナに対して、工芸士のルカは嫌な顔をしつつも答えた。
 ルカは細かな要項こそあれど概ね女嫌いである、幼女と言えど例外ではなくて、用がないならどっか行けとばかりに追い払いたがっている。
「リアルブルーの人たちは紙で作った箱を使うらしいのよ」
「知ってる、贅沢な話だよな」
 ルカの出身地だと木材は燃料となる貴重品だ、全く使わない訳には行かないが、贅沢は憚れる。容れ物といえば蔦を編んだ籠や、布を縫い合わせた袋とかで、必要なものにだけ木箱を使う、そんな有様だ。
「それどころかリアルブルーの贈り物は、色付きの紙で包装するらしいの」
「胸焼けしそう」
 反応の芳しくないルカに、マナは腰に手を当てて「もう!」と憤慨する様子を見せる。
 そんな事言われても、ルカは育ちがそういう場所なんだから仕方ない、というかマナも同じだろとばかりの態度だ。

「で、その話をなんで僕にするんだ、買って欲しいのか?」
「む……そんな事は言わないわよ」
 2月に向けて包装用品を買いに行きたいから、保護者としてついてきて欲しいの、そうマナは言う。
「イオ兄を誘いたいんだろ、馬鹿」
「イオを誘うとあんたの機嫌が悪くなるから気を使ってあげたんじゃない!」
 それにイオにこの手のイベントは向かないわ、と断言するマナに、僕なら向いてるような前提やめろよ、とルカは小さく毒づいた。

 ……そんな経緯は、外出届けを提出するルカからイオにも筒抜けだった。

「俺も一応それなりに触れる機会があるんだけど、審美眼という意味ではルカに負けるかな」
 苦笑しながらイオは言い、特についていくつもりはない代わりとばかりに、ハンター達に店の紹介をしてくれた。

 かの店は普段は文房具を扱っているが、この時期だけ包装品の専門店の如き品揃えになる。
 安価で手が届きやすいものには、籠や袋。少し値が伸びるところだと、ガラス瓶や紙の箱。
 包装紙の用意だって当然のようにある、単色染だけでも色とりどりだが、柄をつけた試作品だって用意されてるのが、専門店の如き品揃えだと言われる所以だろう。

 もちろん、包装には紙を使わずとも、布を使ってもいい。
 柄を編み込んだもの、刺繍を施したもの、拘ろうと思えばいくらでも出来る。
 彩りを増す選択にはリボンや色紐を使うのもありだ、もしも贈り物を食べ物にするなら、中身を保護するための清潔なシートも欠かせない。
 別フロアには作業用に大きな机と、疎らに座れる椅子が用意されている、半月前という時期もあり、人の姿はちらほら見えるようだった。

「別にお金を使わなければ立派なものにならないという訳じゃないから、気軽に選んでいいと思うよ」
 色付きの布袋とリボンだけでもそれなりのものには出来る。
 そういう意味では安価でセンスのいい仕上げにするルカを連れ出したのは正解かもな、と兄は遠い目をしていた。

リプレイ本文

 洞窟探検、灯りが照らし出す店内は、そんなフレーズがとても似合いそうだった。
 扉をくぐった先の店内は奥に向けてそれなりの広さがあり、意図的に日差しが遮られた空間には人工的な明かりだけが灯っていて、明暗のはっきりした神秘的な空間を作っている。
 入ってすぐの展示台に並べられたのは趣を凝らした籠と瓶、日差しを厭う店奥には、専用の棚で布と包装紙が展示されている。
 潜めてはいてもはしゃぎ気味の声は時折どこかから漏れる、愛らしいもの、想いを込めたもの、どれで贈り物を飾ろうか。

 立ち並ぶ商品の数々を前に、ベル(ka1896)の口からふぁ、と感嘆の息が漏れる。
 もっと近くで見ようと足取りが弾めば、首にかけられたベルが同調するようにからんころんと音を鳴らした。
 引き寄せられる足取りの後ろをイルム=ローレ・エーレ(ka5113)が付き従い、数歩進んだベルはぱっと振り返って、二人の間で繋がれた手を見て笑みを深める。
「イルム、さそってくれてありがとーなんだよ」
 棚の間を二人でゆっくりと歩き、ベルの視線はあちこちと目移りする。色々詰め込んだ棚は少し窮屈で、良く見えないものがあれば手を伸ばせずにはいられない。思いの外可愛いものが見つかればベルの機嫌も上がる、宝探しみたいだと体をくすぐる高揚に笑みを転がせば、差し詰め宝箱探しの探検隊だとイルムはベルと同じくらいの上機嫌で応えた。

 星型の薄桃箱を手にして、ベルは悩み気味に唸る。それをイルムは見守り続け、これにする、と決めれば優しく頷きを返す。イルムから貰ったイースターエッグの飾り台にリボンをつけてあげたい、そう語るベルは「どのいろがいいおもう?」とイルムに意見を求めた。
 先程と違って明確にイルムを頼ったのはそれが二人の間を繋げる代物だからだろうか。きっと甘える気持ちがあったのだろうけど、イルムは厭うことなく真剣な思考と共に棚を吟味する。
 深めの緑は落ち着きと安らぎの色、傍らに寄り添う金のラインをベルと交互に見つめ、これはどうかと掌に乗せて差し出す。
「どこまでも広がる草原と、暖かく射し込む光が、いつまでもベル君と共にあるように」
 言葉と共に繋いだ手を大切に握れば、ベルは「じゃぁこれ!」と屈託のない笑顔を浮かべてリボンを手に取った。

「ボクからの贈り物も、受け取ってくれるかい?」
 なんだろう? とか、もういっぱいもらってるよ? とか浮かんだものの、イルムの弾む足取りにベルもついていく。
 選ぶものは決まっていたのか迷いがなく、イルムはベルと一緒に会計へと向かっていく。
 少し待ってね、と言ってリボンをかける姿は魔術師のように手際がいい、はいこれ、と差し出されたのは、たくさんの動物が描かれた包装紙に、イルム自身を現す深い青のリボンで包んだ贈り物。中身は横にいたから知っている、絵日記とクレヨンだ。
「君が感じた楽しさと嬉しさ、笑顔と幸せを、いつまでも形に残せますように」
 色づいた思い出を描いて欲しいと想いを伝えて渡せば、はわーとベルは大切にする手付きでそれを受け取った。
 イルムがくれるプレゼントは品物以上に言葉と想いが溢れている、品物は今は用意できないけど、言葉はきっと今すぐでも返せるだろう。
「イルム。あのね? あのね? きょーは。まんまに、まんまに、おにぎりなんだよっ!!」
 満面の笑顔で伝えられる、何かを間違って覚えた言葉。
 虚をつかれたイルムだけれど、すぐに礼を言われているのだとわかったのか、どう致しましてと微笑んで、イースターエッグを大切にしてくれて有難うと、小さく囁いた。

 +

 包装など余り考えてこなかった、それがラティナ・スランザール(ka3839)にとって正直なところだ。
 でも妻が喜ぶならたまにはいいとも考えてる、だってラティナは妻が喜ぶ顔を一番好ましく思っていた。
 贈るものは決めていた、持ち手を少し大ぶりに取った半月型の櫛に、妻の好きな向日葵と鈴蘭を自分で彫っている。
 東方で見かけて、装飾を施せるのがいいと思って気に留めていた品だった。
 どう包装するか、思案しながら棚の間を歩く。贈る品物が東方ゆかりのものだから、きっとそれにあったものがいい。櫛は日常で使うものだから、蓋付きの竹籠がとても合うだろう。櫛を包む紙に籠の中に敷く布も選んで、作業場に行くと周囲と風向きに注意しながら、持参した香炉で紙を香りつきに炊き染める。
 籠を飾るのは自分の想いを現すものがいいと思った、赤は愛情を、橙色は幸福を、それぞれの色言葉を持った色付き紐を組紐にして、蓋を閉じた籠に結びつけるとラティナは満足げに笑みを湛える。

 どうしたものかと、カイン・シュミート(ka6967)は考えを巡らせていた。
 菓子を贈るつもりだ、目当ての相手だけじゃなく、それ以外の周囲にも。
 いらぬ勘ぐりを避けるため、もっと言うなら、周囲を含めた全員に対して平等だという建前を得るため。
 その上でそいつに対してどうするかと考えて、世話になっている名目で、菓子とは別にちょっとだけ特別に仕立ててやろうと思った。
 買い込むのは数種類のリボンにタイムの花を模した造花、籠を飾る布に無地の便箋。
 籠には細いリボンを編み込み、造花を添えれば彩りになる、籠のサイズに合うミニブーケを用意して、菓子を入れれば十分だろう。ブーケの花は、後で便箋への押し花にでも使ってくれればいい。
 凝りすぎるのは禁物だ、周囲にばれてしまう、……尤も、それでも構わないとカインは思っていたのだが。

 リボンの棚の前でヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)はふむと思案する。
 品揃えの豊富さから包装としての人気度合いが伺える、青系がまとめてあるコーナーに視線を写し、少し手を伸ばせば思いの外高級な手触りに感心の息が漏れた。
 色合いも様々で、果たしてどれが彼が好んでくれる自分の色合いに近いものか。
 透き通るような水の色、自分の髪の色に近いけど、こんな清らかな色でいいものか。
 夜を薄くしたような青、夜が明けるような色合いは嫌いじゃないけど、自分の瞳は彼の目にどう映るのだろう。
 自惚れてはいないけど、贈る相手がここにいれば――と考えると、これしかないように思えてしまう。
 ぐぬぬと思いながら買い物籠に入れ、次はと包装紙のコーナーに歩いていく。
 香り付きの紙はなかなか洒落ている、客も引き寄せられる人が多くて、思案に陥ったところ、きらりと光る瓶がヴィルマの注意を引いた。
 思い返せば、かつて瓶にべっこう飴を詰めて贈った事があった。
 固くて、だから漏れず逃さないガラスの瓶、口が小さいから入れる時は本当に詰め込む感じで、これにリボンをかけて贈るのも一興かと、ヴィルマはガラス瓶を手に取った。

 真剣な顔つきをして、エステル・ソル(ka3983)は容れ物を吟味する。
 バレンタインチョコを贈る事は決めている、後はいかにして贈るか、だ。
 口に出すと気恥ずかしいけれど、言ってしまえば相手には自分を近しく特別だと想って欲しい。贈り物で、自分がそれだけの想いを持っていると示したかった。
 辺境の人たちはなんでも上手に使い切るから、自分もそれに準じたものを。贈った後も使えるもので包装すれば、感心し喜んでもらえるだろうか。
 籠も袋もチョコには適していない、紙の箱はもったいなくて、どれがいいかなと考えながら棚の間を歩いて行く。
「あ……」
 これだ、と思って掌サイズの木箱を手に取った。蝶番と鍵がついていて、ちょっとした小物入れに出来る気がする、何より、素朴な工芸品、というのが辺境のあの人にとても合っている気がした。
 飾り付けるものをいくつか買い込んで、ソルは工作フロアに向かう。
 オイマト族の祖霊は黄色の鬣の茶馬、箱の上部にはそれが描かれた布を貼り付け、側面には上品な色合いの茶布で布貼り箱に仕立て上げる。
 箱自体を包む布は青空のような爽やかな色合い、ソルの髪色であり、あの人が好きな草原の空の色で、ソルは仕上げを終えふにゃりと笑う。

 唇の動きだけで歌を口ずさみながら、フューリト・クローバー(ka7146)は上機嫌で店内を回っていた。
 バレンタインとやらには余り興味がないのだけれど、日頃の感謝を贈るのはいいことだから、それらを包むためのアイテムを買いにだ。
 るんるんと体を揺らし、ステップを弾ませる。親愛も友愛も立派な愛情で、フューリトはそれらをかけがえなく想っている。贈りたい相手はいっぱいいる、家族はもちろん、近所の人たちにも仲良くしてくれる事に感謝の意を示したい。
 それと、お友達にも。それほど高貴なものではないけれど、受け取ってくれたら嬉しいと思う。
 大丈夫だろうとフューリトは持ち前の楽天さで彼女の分も確保した、小さい紙の箱に包装紙、特別なのは大きなリボンで作るお花だ。
 直前まで内緒にするため、中身は外で調達するのがきっといい、どのお店にしようかと思案しながら、フューリトは選ぶ楽しみに身を揺らしていた。

 抱えたものを見られないように、ジュード・エアハート(ka0410)はひっそりと人目を縫って動く。
 途中、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)に気づかれたけど、彼にも見られる訳には行かなかったから、まだダメと示すように、そっと制止の指を立てる。
 最低限携えたものを見えなくしないといけない、買い込んだ布を作業机に広げて、持ってきた御菓子の箱をそれぞれ違う色合いで包み込む、口を麻紐で縛り、飾り付けには春のドライフラワーを。これで一安心だから、包んだものを袋にまとめ直すと、アルヴィンの方に戻った。
「ごめんね、中身はサプライズしたかったから」
 大丈夫、とアルヴィンが振り返って会釈する。腕には精算を終えたばかりの包装紙とリボンが大量に抱えられていて、ここまで種類を揃えると流石にそれなりの値になっている。
「物珍しくて、ネ」
 値が張ろうが、手に入れる機会も贈り物にするチャンスも、今年の今回切りだけかもしれない。ならばアルヴィンにとっては、私財を使ってでも手を伸ばす価値はあった。
 大地の色合いは自分たちをまとめる人に、包むリボンは曇っても輝きを失わないいぶし銀。純粋なまでの白は祈りを捧げる誰かに、その深さは海の色に似ている。同じ海でも傍らに立つ人はもっと爽やかな南国の海の色、その前向きさ、高貴さを飾るのは金が相応しい。
 淡い黄緑は森に差し込む光の色合い、機械に興味を示していたから歯車のグレーをきっと喜んでくれる。リアルブルーの青と緑も用意した、その人は故郷をずっと想っていたから、願いが叶いますようにと。空色を選んだのは、あの人がずっと仰ぎ見ていたのはそれだと思っていたから、少しロマンチストなのだろう、だから雲の白をつける。最後に、距離感の難しい誰かには色合いが定まらない紫を、線引きも自我もしっかりしているから、飾るのは黒が似合う。
 話に応じる形で、ジュードは植物をテーマにした染め布を用意したのだと語った。
 どれを誰に渡すかはまだ秘密だけれど、当てて見る事自体は構わない。
 渋さを感じさせる炎のような赤銅、落ち着きを持った森と大地の色、明るく軽やかな黄緑に、雨を受けて波紋さざめく水の色。空と水が混ざりあったような曖昧な色合い、安寧の夜のような青藍に、気づく人にしか気づかない、ピンクが隠れるピーチベージュ。
 被ってる色もあるだろうし、全然違う色もあるだろう、それはアルヴィンとジュードで見ているものが違うから。
 これかな? あれかな? と暫く楽しげに話していたが、ジュードは思い出したようにはっと立ち上がる。
「他の人達にお店の御菓子を売る約束をしてたんだった、ちょっと行ってくる」

 +

 想いの先なんて、想像もつかない。
 ただあの人と一緒にいると幸せで、彼が好きなのかもとシアーシャ(ka2507)が気づいたのも最近の事。
 断言なんて出来ないけど、気持ちは跳ね回って落ち着かない、もしかしてを何度も頭にちらつかせつつ、チョコを贈ってみたい、そう思った。
 お店を訪れれば、シアは品揃えの可愛らしさに心をときめかせる。ガラスの瓶が持つ透明感はシアを感嘆させるには十分で、リボンを飾ったら可愛いかもしれないと想像が膨らんでいく。
 何をどうやって贈ろう、考えはそこから回る。きっかけを求めて視線を彷徨わせると、相談してもいいと言われていた相手が目に留まった。
「ルカさんっ」
 だって、何もかも未経験なのだ、どれが正しいのかわからなくて誰かに答えを求めたくなる。
「男の子って、どういうのを貰ったら喜んでくれますか……?」
 ルカは少し思案する素振りを見せたけど、とりあえずこれは言っておくべきだろうと、一言だけ返した。
「貴女が贈りたい相手は、男の子以前に特定の誰かだと思いますが」
 その通りだ、だからシアも小さい声で頷く。
 男の子って青は好き? と問いかければ、嫌いにくいけど、特別な意味がないなら感想は抱きにくいとある意味致命的な事を言われてしまう。どうしようと頭を抱えたら、ルカは多少呆れる様子を見せつつも、辛抱強くシアの話を聞き出してくれた。
 一途に彼を思い、自分の事にまで気が回ってないなら、彼の色合いから選ぶのがいいとルカは言う。
 彼をイメージする色、彼が好きな色、彼に想う色。あらゆる色を詰め込んだ棚を指してそれはどれかと問いかけた。
「……瞳がね、緑なんだ、覚醒前も、覚醒後も」
「いいんじゃないですか、貴女の髪色も近しい色合いだ」

 溢れ出しそうな想いがある、でもイスフェリア(ka2088)はそれをぐっと堪えて、秘めていた。
 彼の人は多くを持ち、多くを背負っていた、立場、カリスマ、慕う人も多い。一方で自分と言えば、偽りに秘め事、とても釣り合うような出自ではない。
 恋ゆえに夢は見る、振り向いてくれたらどれほど喜ばしいだろうか、家族として生きる事を許されたらこれ以上の幸せなんてないけれど、夢は夢のまま留めないといけないとも思っている。
 そもそも相手からしてみればイスフェリアは子供扱いなので、憂鬱さだって吐息としてこぼれてしまう。夢は秘める、でもせめて彼の力になりたかった。
 彼の人が庇護し、自分とも親しくしてる子どもたち、彼らと共に分け合って食べられる果物なら喜んでもらえるだろうか。籠にぎっしりと詰めて贈れば、遠慮も嫌とも言われない気はする。
 この季節にいい果物はなんだろうかと思案して、ぱっと浮かぶのは苺と蜜柑だった、包装は柔らかい苺を保護するための布がきっと適している、少しだけ想いとわがままを込めるなら、刺繍を施してもいいだろうか。
 矜持とか想いとか色々絡みあって、選んだのは果物を引き立て、汚れにも強いピンクの布地、これを装飾するための道具を探そうと、イスフェリアは強い意志を持って前を向いた。
 出来るだけ近くに、彼を支えられる人に、今はそれだけで満足できる。

 彼を想って、ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)は息を詰める。
 息をするにも隙間や理由を見つけないといけない、自分の中に抱えるのはもう限界で、今回こそは、と思っていた。
 私を見て欲しい、だから選ぶ色合いには自分の髪のようなピンクを。
 私を想って欲しい、だから選んだリボンに、自分が好むフレーバーティーに近い香りがついているものを選んだ。
 探すのは彼の手のサイズで、革手袋が入る程度の真っ白な袋。実用性と心の中で力強く唱えて、作りも強度もしっかりしているものを選んだ。
(これを贈ったら、役立ったって言ってくれます、か……?)
 貴方からの想いが欲しくて、どうしても欲張りになってしまう。少しでも可愛らしく見えるように、勧められた小さな赤薔薇の造花をつけた。
 時々くれる幸せな時間が、私に夢を見せる。ちらりと見せてくれる優しさはどこまで本気になっていいのだろう。
 進むことには怖さもあるのに、必死で手を伸ばす私には制止なんてちっとも聞こえてない。その事が不安で、恐ろしくて、それでいいのかと心の問いかけが私を焦らす。
 一本の赤薔薇が示す花言葉は『貴方しかいない』、貴方はいつだってするりと逃げてしまう。振り回されてばかりだから、今年こそは貴方に私の恋心を食べてもらいたかった。

 胸が震えるのは、不安と期待が同時に存在するから。
 そんな事を思いながら、エステル・クレティエ(ka3783)は探し求めた東方の紙を、そっと手の中に抱えた。
 本番用にじっくり選んだものと、練習用の少しお手軽なもの、これで桔梗の花を手作りして、贈り物に添えればと思っている。
 この手の知識については、自分より彼の人の方が豊富に知っているかもしれない、それをわかって尚そうしたいと思うのはどのような心向きなのか。
 自分が知る彼の断片だから、それともいっそこの想いに気づいて欲しいからか。
 どれもちょっとずつあるような気もするし、彼がその知識を自分に当てはめてくれるかどうか、そこから心がびくついてしまう。
 共に訪れていたルナ・レンフィールド(ka1565)の近くに戻って、今更気づく。
 包むものを考えてなかったし、何なら御菓子作りの練習もまだしていなかった。

 今年もチョコレートにしよう、そうルナは考えていた。
 ラッピングはどうしようか、戻ってきた友人に話を振ってみたけれど、色々案は出る一方でどうも決め手に欠ける。
 違う意見を求めてルカを捕まえる、ルナの考えを一通り聞いて貰い、傍らのクレティエに視線が向けられれば、自分には言えることがないとばかりに目が逸らされた。
「兄は……多分何でもいいと言うので……その」
「なんでもいいと言うなら、相手の色じゃ決め手に欠けて当然ですね」
 そもそもどういう思惑を抱いて贈りたいのかと、ルカは切り込んで来る。
「発展を望んでいるのなら、わかりやすく情熱的な赤でぶん殴る事をオススメします」
「ぶん……っ」
「答えをくれない男は、壁ドンする勢いじゃないと逃げられますよ」
 ルナが恥じらいで何も言えなくなるのもわかってた、そんな風にルカは言葉を続けた。
「せめて想いを示す形にはした方がいいでしょう」
 想いを示す、そう言われてルナの視線は反射的に紫のリボンへと向いた。いつしか彼にも贈った、自分の色。
「相手の色を自分の色で縛りますか、やりますね」
「違います!」
 まだ決めてない、そんな風に言い募るルナと、妙にわくわくした様子のクレティエを置いて、建言は済んだとルカは笑ってその場を離れた。

 ルナが長考……というよりは葛藤に陥ったので、クレティエはそっとするべくその場を離れた。
 後ろ髪を引かれるようにしてルナの方を振り向く、向こうが気づく様子はなくて、言葉は口から出かかっていたけど、まだ思い切る事が出来ずぐっと飲み込んだ。
 おねえさん、その言葉を自分の中でどう受け止めればいいのかわからない。
 折よく思案気味のユメリア(ka7010)を見かけたので、少し走るようにして、逃げた。

 和紙に合う布を選んで欲しい、そう言って駆け寄ってきたクレティエに、ユメリアは快く頷いていた。
「紺などの深めな色合いはどうでしょうか、紙の鮮やかさが良く映えます」
 本命の和紙と衝突しすぎないように、抑えめの色合いなら和柄を取り入れてもいいかもしれない。
 感心したように礼を言うクレティエを見送ると、今度はルナが寄ってきて香り付きの紙はどう使えばいいのかと尋ねてきた。
「チョコと混ざらないように、香りをメッセージカードにつけるのはどうでしょう?」
 流石です、そう言われるとこそばゆさがあり、嬉しそうに礼を告げる友人たちをユメリアは微笑ましく見送っていく。
 頼られるのは、嬉しい、役に立てたのも良かったと思う。
 だが一方で実はユメリア自身の買い物と言えばさっぱり進んでなくて、それが密かな悩みの種だった。
 ルナも、クレティエも、求めれば彼女たちの意見をくれる。どれも素敵なもので、どれも取り入れたいと思ってしまう。
 当然、まとまらない。申し訳ない事に、追加で言葉を貰っても消化しきれていなかった。
 少し休もう、そう思ってユメリアは少し腰を下ろせる場所へと向かう。

「はいこれ、頼まれたもの」
 休んでいるユメリアのところに、ジュードが店の御菓子を携えてやってきた。代金と御菓子を引き換えて、ユメリアの物憂げな様子を見てジュードは首を傾げる。
「もしかして上手く行ってない?」
「お恥ずかしながら……」
 決めきれなかったのだと口にすれば小さくため息も漏れる。
「何も考えずに、その人を思って浮かんだ色はどんな色?」
 ヒントになればいいけどと言い残して、ジュードは手を振って去って行った。

 三十路はおろか、次の段階へのカウントは着々と進んでいる。
 その事に気づいて愕然とした水流崎トミヲ(ka4852)は、ある決意を胸に店を訪れていた。
 これも全てバレンタインで振りまかれる甘い空気を感じて奮起するためである、愛らしさを詰め込んだような包装品のエリアに踏み込み、この時点で半分死にそうな予感がしていたが、思い切って買い物に勤しむ人々を見渡す。

 迷いを示すように、考え事をする氷雨 柊(ka6302)の指が宙を彷徨う。
 贈り物をすると決めたはいいが、中身をどうするかというところから定まらない。やはり御菓子だろうか、ならばシートが別に必要だと店の中を歩きながら考えてた。
 色々と迷ったけれど、足が留まったのは布袋が置かれた場所、シンプルなのが彼らしい気がして、御菓子の他にリボンとメッセージカードをつけようと心に決める。
 リボンには彼の髪色である銀を、光が当たって透ける様子を思い出せば笑みが溢れるのも致し方ない。上機嫌のまま袋を選ぼうとして、透き通った紫が柊の目を引いた。
 少し透明感のあるところが自分の瞳そっくりで、この色を彼に贈ったらどんな反応をしてくれるだろうかと考えると柊のときめきも止まらない。自分を想ってくれるだろうか、想って欲しいなと舞い上がって、気が付かないままに顔は紅潮していた。
 ダメだ、これを見ていたら他のものを選べる気がしない。一旦クールダウンしようと、柊はリボンを選びに別のコーナーへと向かう。

 かつて、大切な想いをガラス瓶に入れて贈ってもらった。
 浅黄 小夜(ka3062)にとって贈り物といえばそれで、だから包装を選ぶ時、小夜もガラスの容れ物に惹かれるのは必然に近い。
 中身が見えるのも嬉しければ、容れ物として残しやすいのも嬉しい。そういうのを渡せればいいのだけどと考えつつ、小夜は贈り先に合わせたものを選んでいく。
 少し年上のお姉さん二人はとても仲よさげで、星と月の双子瓶を喜んでくれるかどうか、自分より遥か遠くを見通してる人には、蒼く凛としたガラスの容れ物が似合う気がする。気さくで穏やかな郵便屋さんには、彼に合わせたレター型のケースを。不思議なおねにーさんには薔薇の形をしたトレーを選んだけれど、喜んでくれるかどうか確信が持てない。
 師匠は師匠だから魔法の小瓶。そして大好きな誰かに、薄いピンクの飼い猫を。彼のイメージと合わない事は承知しているが、それでも大好きだから、これにしたいのだ。

「あ”ま”っ”っ”っ”っ”!」
 周囲を見渡したトミヲは振りまかれるラブオーラにノックダウンされてた。どこもかしこも一人しかいないはずなのに、甘かったり酸っぱかったり色んな感情に満ちあふれている。いや甘いのはいい事だ、酸っぱくても幸せになって欲しいと思っている、というか知り合いが混じっていたのでこそこそ様子を伺った。
 小夜が真剣に選んでるのはガラスの容器類、一つだけじゃないからきっと他の人の分も考えてくれているのだろうけど、人を好きになってくれた事が嬉しくて、つい子供の旅立ちを見つめるような気持ちになってしまう。
 幸せを祈りつつ、自らが抱いた目標も必ずや達成しようと志を立てる。まずは買い物、そう思って店を回った結果、最終的に目に留まったのは箱や籠に比べて人気のなかった袋類。
 理由はなんとも言えないのだけれど、彼らがいいと思ったトミヲは、売れ残りとも言えるそれを買い込んでいく。
「トミヲのお兄はん?」
「ゲェッ! 小夜ちゃん!!?」
 小夜に気づかれた、いや別段やましい事など何もしていないのだが、いきなり来られた驚きと持ち前の挙動不審さでトミヲはついつい飛び上がってしまう。
 行動に首を傾げつつも、お兄はんも買い物に来たのですね、と無邪気に語りかけてくる笑顔が眩しかった。良ければ買った物のお話をしませんか、と目を輝かせながら持ちかけられれば冷や汗も流れる、いや無理、だって殆どフィーリングだし。
 それを本人に言えるかどうかというのがトミヲの試されるところで、結論から言えば、……話に付き合い、後から自供する事になった。

「お、ルカくんだ〜♪ お久しぶりさんダヨ〜♪」
 軽い調子で声をかけてくるパトリシア=K=ポラリス(ka5996)に、ルカは応じるようにして手を上げた。
 イオがいないせいか、前ほど刺々しくない。誰かにプレゼント? と尋ねれば、ルカは軽く否定してただの付き添いだと応える。
「プレゼント買いに来たのはお前たちの方だろ」
「パティはちょっと違うンダヨ~」
 パティが買いに来たのは符術に使うカードの装飾素材だ、勿論他人に贈るのだけれど、別にバレンタインに限った話でもない。
「おめかししたっテ効果が上がるとかじゃないンダケドネ?」
 でもどうせ配るなら可愛い方がいいじゃない? と口にするパティに、ルカは別に返事が求められてる訳じゃないと理解しつつも、いいんじゃないか、と小さく答えた。
 パティが語る可愛いにも、ルカは黙って聞いて相槌を打ってくれる。幸運の四葉はぜひとも入れたい、バレンタイン仕様にするならチョコとかピンクとかどうだろうか、リボンもつけようかな、と言い出せば、流石のルカも「それ男にも配るのか?」とツッコミを入れている。
「ダメ?」
「……消滅するなら妥協できるかな」
 残念ながら消滅しても装飾はそのままだ。
 お喋りしてるうちに知り合いを見つけたのか、パティはルカに会釈すると小さく走っていった。

 結構の数の材料を抱えながら、天王寺茜(ka4080)は作業フロアに向かっていた。
 容器はどれも四角のケース、片腕に抱える包装材だけが三種の色合いで細かく違う。
 赤の包装紙は女性に向けての友達チョコ、バレンタインといえばやはりこのカラーだし、ピンクのリボンを使って可愛くしたいと思っている。黒い包装紙は世話になってる大人の人向けに、金のリボンで大人らしい節度と上品さを、ついでに少しの高級感を感じてくれればいいなと考えた。
 緑の包装紙に黄色のリボン、これは男の子向けの、茜の好きな色だ。基本ベースはこれで行こうと思っているけど、模様は何にするか考えないといけない、作業机で試して見ようと思ったところ、後ろから柔らかな感触が抱きついてきた。
「アカネ~♪」
「えっと……パティ?」
 視界が限定されるけど、金色のもこもこ頭は多分パティだ。問いかけると、ソウダヨと背中に埋められていた顔が上がる。
「アカネも買い物カナ? 良かったら帰りにお茶してイカナイ?」
「……もしかして暇?」
「忙しくはナイヨ~」
 じゃあ可愛く出来てるかどうか意見頂戴、そう言って茜はパティをひっつけたまま、予定通り作業フロアへと向かう事にした。

 小さく、しかし強い決意がエアルドフリス(ka1856)の中で生まれる。
 冬に華やぐこの時期、エアと想い人の間には二人だけのささやかな決まり事があった。
 半月後に、想い人から贈られる彼の店の御菓子と、彼らしいセンスの良さを発揮した小物、そしてそのひと月後に、自分はヴァリオスまで行って彼へのお礼の御菓子を買ってくるのだ。
 ささやかで、それほど重さのないやり取り。勿論秘めた思いは決して軽くはないのだけれど、重いのかと言ったら、エアは意図的にそれを避けてたと言わざるを得なかった。

 自分が重く、かっこ悪い事をエアは知っている、だから贈り物をする時は、その重さを薄めてから渡していたフシがあった。
 ……今までは。
 今年は特別にしたいといつしか芽生えた思い、避けていた品と想いを薄めず、決意と共にジュードに渡したいと思っている。
 先を、約束するように。

 芽生えた想いを抱えながら、エアは包装品たちの間を歩く。
 彼を思って浮かぶ色は、一つじゃ収まらない、翡翠の瞳、海の青、頬の紅……視線を走らせ、最終的に目を止めたのは、漆器のような艶やさを持つ黒の箱。
 模様は繊細な金のラインで彫り込まれ、鮮やかに描かれる華の装飾はどことなく東方の様式を想わせる、これがいいと考えたら、他にはもう目をくれる事なく店員の元へと持っていっていた。
 リボンはどうするかと問われるとそこまで考えが回らなかったことに気づく、少し悩んだ挙げ句、似合うものはないかと尋ねれば、何を入れるのかと再び問い返された。
 少し言葉に詰まったけれど、アクセサリーだと迷いなく答える。
 気持ちを示すならどうあってもそこに行き着く、つけてもらったのはリボンじゃなくて、赤の組紐、何も言われなかったけれど、愛情と約束を示すのに、これ以上の色はないと言われている気がしていた。

 決意の日まで後一月半、それまでにこの容れ物の中身を、用意しておかないといけない。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 18
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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • えがおのまほうつかい
    ベル(ka1896
    エルフ|18才|女性|魔術師
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • いつか、その隣へと
    ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394
    人間(紅)|22才|女性|聖導士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 光森の絆
    ラティナ・スランザール(ka3839
    ドワーフ|19才|男性|闘狩人
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜(ka4080
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師
  • 一握の未来へ
    氷雨 柊(ka6302
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 離苦を越え、連なりし環
    カイン・シュミート(ka6967
    ドラグーン|22才|男性|機導師
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • 寝る子は育つ!
    フューリト・クローバー(ka7146
    人間(紅)|16才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/26 01:14:20
アイコン 雑談所
イルム=ローレ・エーレ(ka5113
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2019/01/26 02:38:16