ゲスト
(ka0000)
涙の記憶
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/02/10 09:00
- 完成日
- 2019/02/16 15:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
記憶に刻まれた悪夢は何度もやってきた。
夜の帳をあざ笑うかのように襲いかかり、レイナ・エルト・グランツが領主となる少し前のあの出来事を、繰り返し映し出すのだ。
父親である前領主アイザックが、領内の視察に出掛け変わり果てた姿で帰ってきた。
馬車から降ろされたアイザックのむせ返るような血の臭いも、僅かばかりしか残っていない体温も、苦悶に満ちた表情も、現実の如く生々しく夢に現れる。
「いやぁぁーーーーーーー!!」
夢の中の自分の悲鳴で目が醒めレイナは跳び起きた。
ドクドクと早鐘を打つ心臓、乱れた呼吸、胃の腑に張り付くように空気は重く、苦しくなる胸。
背筋を伝う冷たい汗と頬を濡らした涙が、レイナの体を震わせた。
「また……、同じ夢」
肩を撫でつけショールを羽織ると、レイナはベットを抜け出し冷たい風の吹くテラスへと出た。
何度も、何度も見る夢。
もう居ないと理解していながらも、心の奥ではその死を信じていない自分がいることにレイナは気が付いていた。
だからなのだろうか……、こんなにも悪夢が繰り返されるのは―――。
「もうすぐ……1年になるのね」
誰に言うでもなく呟いた言葉は、ため息と共に風に流され澄んだ空気に溶ける。
父親であるアイザックが亡くなってから1年。
レイナは自分の気持ちと決着をつける時が来たのだと、唇を噛み締めた。
「許しが出なくても、わたくしは行きます」
「なりません」
翌朝、執務室には張り詰めた空気が漂っていた。
「あの森は未だに雑魔が出没する危険な場所です、行かせる訳にはいきません」
レイナは決めたのだ。父親の死を、ちゃんと受け入れようと……。
だからこそ、アイザックが亡くなった場所に行きたいのだ。
自分自身を納得させ、今度こそ前を向いて進む。それが今のレイナには必要で大切なことだった。
「お気持ちはわかります、……ですが」
「花を手向けるだけです。長居は致しません」
険しい顔をしたサイファーは、レイナの余りの気迫に息を飲んだ。
「無駄ですよ、サイファー。お嬢様は旦那様に似て意外と頑固なところがありますから」
執事のジルが少し呆れたような笑みを浮かべ、サイファーに告げる。
「…………………ハァ」
しばらくの沈黙の後、サイファーは大きなため息を吐き口を開いた。
「分かりました、ハンターにお願いしておきます。ですが、……俺も一緒に行きますからね」
気持ちを分かってくれたサイファーの優しさに、レイナの目の奥がツンと痛んだ。
「はい。……ありがとうございます、サイファー」
レイナが小さな笑みを浮かべ礼を言うと、サイファーは複雑そうな顔をして目を伏せた。
夜の帳をあざ笑うかのように襲いかかり、レイナ・エルト・グランツが領主となる少し前のあの出来事を、繰り返し映し出すのだ。
父親である前領主アイザックが、領内の視察に出掛け変わり果てた姿で帰ってきた。
馬車から降ろされたアイザックのむせ返るような血の臭いも、僅かばかりしか残っていない体温も、苦悶に満ちた表情も、現実の如く生々しく夢に現れる。
「いやぁぁーーーーーーー!!」
夢の中の自分の悲鳴で目が醒めレイナは跳び起きた。
ドクドクと早鐘を打つ心臓、乱れた呼吸、胃の腑に張り付くように空気は重く、苦しくなる胸。
背筋を伝う冷たい汗と頬を濡らした涙が、レイナの体を震わせた。
「また……、同じ夢」
肩を撫でつけショールを羽織ると、レイナはベットを抜け出し冷たい風の吹くテラスへと出た。
何度も、何度も見る夢。
もう居ないと理解していながらも、心の奥ではその死を信じていない自分がいることにレイナは気が付いていた。
だからなのだろうか……、こんなにも悪夢が繰り返されるのは―――。
「もうすぐ……1年になるのね」
誰に言うでもなく呟いた言葉は、ため息と共に風に流され澄んだ空気に溶ける。
父親であるアイザックが亡くなってから1年。
レイナは自分の気持ちと決着をつける時が来たのだと、唇を噛み締めた。
「許しが出なくても、わたくしは行きます」
「なりません」
翌朝、執務室には張り詰めた空気が漂っていた。
「あの森は未だに雑魔が出没する危険な場所です、行かせる訳にはいきません」
レイナは決めたのだ。父親の死を、ちゃんと受け入れようと……。
だからこそ、アイザックが亡くなった場所に行きたいのだ。
自分自身を納得させ、今度こそ前を向いて進む。それが今のレイナには必要で大切なことだった。
「お気持ちはわかります、……ですが」
「花を手向けるだけです。長居は致しません」
険しい顔をしたサイファーは、レイナの余りの気迫に息を飲んだ。
「無駄ですよ、サイファー。お嬢様は旦那様に似て意外と頑固なところがありますから」
執事のジルが少し呆れたような笑みを浮かべ、サイファーに告げる。
「…………………ハァ」
しばらくの沈黙の後、サイファーは大きなため息を吐き口を開いた。
「分かりました、ハンターにお願いしておきます。ですが、……俺も一緒に行きますからね」
気持ちを分かってくれたサイファーの優しさに、レイナの目の奥がツンと痛んだ。
「はい。……ありがとうございます、サイファー」
レイナが小さな笑みを浮かべ礼を言うと、サイファーは複雑そうな顔をして目を伏せた。
リプレイ本文
空は、誰の心を映したのだろう。
悲しみ、そして後悔を混ぜたようなどんよりと重い雲は広がり、時折吹く冷たい風が頬を撫で、服の裾を翻す。
これから足を踏み入れる場所に緊張と不安を隠せないレイナ・エルト・グランツは、強張った顔に無理やり笑みを浮かべ、
「皆様、この様な願いにお力を貸して下さりありがとうございます」
林の外れに集まったハンター達に深く頭を下げた。
「父親が亡くなって1年か……。過去と割り切るにゃまだ早いが、未来に進む区切りってことだな」
少し目を細めたジャック・エルギン(ka1522)は、レイナが抱える大きな白い花束に視線を向ける。陽の光の下ならばもっと美しかったであろう花も、曇り空のようにくすんで見えた。
「そうか……、あれからもう1年か……」
レイア・アローネ(ka4082)がその1年前を思い出すように空を見上げると、同じように鞍馬 真(ka5819)も空を見上げる。
2人は1年前、レイナの父親が亡くなった際に雑魔の討伐を請け負ったハンターだ。
あの時レイナが流した悲しみの涙を思い出し、2人の表情が曇る。
「時の流れは、こんなにも速いんだね……」
呟いた真は、小さく息を吐いた。
「ツィスカ様。帝国貴族であるツィスカ様にお力を貸して頂ける事、光栄にございます」
レイナが優雅な礼をすると、それに合わせてロングコートがフワリと揺れる。
「いいえ、今の私は1人のハンターに過ぎません。貴方の思いが叶うよう務めさせて頂きますわ」
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は微笑みレイナ同様優雅な礼を返した。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
そう言って、リュー・グランフェスト(ka2419)は手を差し出す。
「はい、存じ上げております。リューさん」
「そうか? ああ、そうだったな」
横でレイアが目を瞬いたが、思い出したように頷く。
「以前春のお祭りでトマト運びの手伝いをしてくださいました折、ご挨拶を」
レイナは微笑み、リューの手を取った。
「この度も、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「ああ、……辛いだろうけど、前に進む為の一歩だもんな」
リューの言葉に、レイナは小さく頷いた。
「よし、そろそろ出発するか」
トリプルJ(ka6653)の大きな声が、そこに居る者すべてを鼓舞するように辺りに響く。
「よろしくお願い致します」
レイナがハンターに向かいもう一度礼をすると、一行は林の中に踏み入った。
林の中は空気が重かった。唯でさえ曇り空で沈んでいると言うのに、重なり合う木の葉に光は遮られ、密集した樹木に風は淀む。
1年前の傷痕をそのまま保存したかのような雰囲気に、同行したサイファーの顔は益々引きつった。
その横顔をチラリと窺うレイナは唇を強く噛みしめ、それでも足を進める。
そして、―――そこでハンターとサイファーの脚は止まった。
1年前のあの日、アイザックが雑魔に襲われ亡くなった場所で……。
「ここ……なのですね?」
震える声で呟いたレイナに、
「うん。この場所だよ」
1年前の光景を目に浮かべた真が静かに応える。
この1年は……長かった。
晴れた日もあれば、大雨が続いた日もあった。
その長い月日に消され、アイザックと兵士たちが流した命の跡は少しも残っていなかった。
そこにあるのは、兵士がやったのだろか……それともハンターだろうか、戦闘を物語る不自然に砕かれた岩だけ。
レイナはその岩に近付いて抱えていた花束をそっと置き、膝を着いて祈るように手を組み大きく息を吐いて目を閉じる。
そんなレイナから離れた所に佇むサイファーは、見ているこちらが辛くなるような酷く苦しげな表情をしていた。
溢れ出る怒り、悲しみ、そして不甲斐なさ、握り締めた拳は震え溜め込んだ感情が爆発しそうだ。
ジャックはそんなサイファーに近付き、勢いよく肩を叩く。
「サイファー、お前もこの1年の間色んなもん抱え込んでいたんだな。自責の念ってやつだろ? それを忘れろなんて言わねえ。ただ、領主サマが1歩を踏み出そうとしたんだ。……なら、その手を引いて前に進んでやることが、お前の役目だと思うぜ」
諭すように、元気づけるように、小さいが力強い声でジャックが呟く。
「……手を、引いて……前に……」
その言葉の意味を飲みこもうと、ファイファーがくり返す。
「おい! 雑魔だ!!」
周囲を警戒していたとトリプルJの鋭い声が、皆の緊張を一気に高めた。
「ぞ、……雑魔……」
驚いたレイナがすぐさま立ち上がり後ずさると、真は駆け寄り背に庇う。
ハンター達はすぐさま武器を握り辺りへ視線を巡らせた。
「まだ遠い……、だけど西方に1匹」
リューが落ち着いて口を開く。
「こちらも同様ね、1匹居るわ」
対角に居るツィスカも静かに応えた。
「あの姿……覚えているぞ。すべて討伐したはずなのだが……どこから湧いて出た」
忌々しそうに鼻に皺を寄せたレイアが吐き捨てるように呟く。
「どうやらホントに厄介ごとに出会っちまったみたいだな」
そんなレイアの隣へと並んだリューは苦笑を漏らす。
ハンター達を囲むように巨大な百足が4匹姿を見せた。
「チッ、囲まれるまで気付かないとは情けねえ。包囲を開く! サイファー、領主サマの手を放さず駆け抜けろ! 真、任せたぜ!」
そう声を張り上げたジャックが飛び出し、ソウルトーチで百足の注意を引きつけた。
「なら、こっちのは任せろ!」
一拍の後、トリプルJも横へと飛び出し、向かいくる百足をファントムハンドで拘束する。
「行こう!!」
真の鋭い声を合図にサイファーがレイナの手を引き走り出し、ジャックとトリプルJが相対するムカデの間を一気に駆け抜けた。
真は後方からの攻撃を警戒しながら2人の後を追う。
「おっと、ここから先には行かせないぜ」
リューは走り去る3人のその方向を一瞥し百足の動きを確認すると、抜き放ったエクスカリバーを掲げた。己の覚悟を刻み込んだ剣には陽炎の如き篝火の紋章が浮かび上がる。
「肉親の死を乗り越えるために、一歩進もうとする決意を邪魔させるわけにはいきません。リューさん援護します!」
ツィスカは雪の精霊の加護を受けた白銀の銃身を構えた。ベンティスカはスキル制圧射撃の効果を合わせ吹雪の如く無数の弾丸を放つ。
大きく鋏を開きリューに襲い掛かろうとしていた百足の動きを制圧すると、そのタイミングでリューが踏み込み高く跳躍、百足の頭部に渾身の一打を叩き込んだ。
その様子を横目で捕えたレイアは友の勇姿に小さな笑みを浮かべるが、直ぐに瞳は氷のように冷たくなった。
「またあの百足か……。しかも今度は4匹、あの時のように2人で1匹という訳にはいかないか。……だが、1年前のそれと思うな。我々とて歩み続けているのだからな!」
右手にはソウルエッジで強化したカオスウィース、左に手にした天羽羽斬で触角を弾くと、煌めいたカオスウィースが胴体を掠め幾本もの脚を切り落とす。痛みにのた打ち回る百足からレイアは素早く距離を取った。
「チッ、こりゃ1匹ずつ地道に片付けるしかねぇか」
悪態をつきながらもトリプルJは拘束した百足の胴体に鎧徹しの一撃を叩き込む。鎧の防御効果を無視した打撃は鋼のような甲殻を突き抜け内部の肉をグズグズに砕いた。
その衝撃に瓦のように並んだ節の薄い部分が破れ体液が噴き出す。勢いよく身を縮めた百足の脚が、トリプルJを掠めた。
曳航肢を樹に叩き付けた百足はジャックを威嚇し、頭部を持ち上げてはカチカチと鋏を鳴らし、毒液を滴らせる。
そんな百足を睨み付け、ジャックは不敵に笑った。
口元に形の良い弧が描かれると同時に百足は持ち上げていた頭部をジャック目掛け勢いよく下ろす。
アルマーザを掲げ鎧受けで受け流しカウンターアタックで百足の側頭部に鋭い反撃をお見舞いすると、横からの衝撃に百足の身体はひっくり返る。足掻くように空を掻いた足が不意に伸びジャックを掠めた。
「ったく空気の読めねえ百足だな。速攻でカタを付けさせてもらうぜ!」
僅かな間も与えず、ジャックは渾身撃を裏返った頭部へと叩き込む。
いくら鋼のように硬いとは言えその衝撃に甲殻は砕け散り、突き刺さったままのアニマ・リベラを力任せに滑らせると、魚でも捌くかのように腹まで割れ、不気味な色の体液が溢れ出る側から百足の身体は塵へと変わり、サラサラと流れて消えた。
真は振り返り、百足の注意がまだ僅かにこちらに向いている事を悟った。
向き直った時、前を走るレイナの足が樹の根に取られ、フワリとその身体が一瞬宙に浮く。
「きゃっ!」
真は走りながらその傾いた身体を軽々と抱きかかえ、足を止めることなく走り続ける。
「サイファー君、先導して下さい」
振り返ったサイファーはレイナの無事に安堵の表情浮かべ頷く。
「はい。こっちです」
サイファーは力強く応えると再び先を走り始めた。
「ここまでくれば、雑魔も追ってこないよ」
安心させるように、真が笑みを浮かべる。
「はい……」
不安そうに呟いたレイナは、祈るように手を組む。林の中を見つめる横顔は、寂し気で苦し気だ。
「……実は、私には転移前の記憶が無いんだ。今も失くした過去に囚われて前に進めなくなることがある。だから、レイナさんが気持ちに決着を付けようと思ったことを、本当に凄いと思っている。……私には、まだできないことだからね。サイファー君も、至らなさとか後悔を覚えることもあるだろうけど。それでも、レイナさんを支えて前に進んでいる。……立派だと思うよ」
眉尻を下げた真は少し寂しそうに笑った。
「そうなのですね……記憶が。……私、こんなに辛い記憶ならいっそ無くなってしまえばいいと考えた事もありました。でも、違うんですね……。どんなに辛くても、悲しくても、前に進む為に……私の糧となるために必要なものなのですね……」
レイナの瞳から耐え切れなくなった涙が零れ頬を伝う。
「真さんの記憶、早く戻るといいですね」
涙を拭ったレイナの瞳は、先程までとは違う光を宿しているようだった。
「うん。私はいつでも二人を応援しているから。困った時は、頼って欲しい」
頷くレイナの瞳にある力強い光を見たサイファーは、ハッとしたように目を見開き、その2人の姿を見守る真は優しく目を細めた。
「さすがですね、ジャックさん! 私も負けてはいられません」
遊撃手として少し距離を取っていたツィスカは、レイアが百足から飛び退いた刹那、逃げる事は許さぬと言わんばかりに睨み付け、機導砲を放った。
マテリアルを返還したエネルギーが一条の光となり、薄暗い林の中を一瞬眩く照らして駆け抜ける。
凝縮したエネルギーに身体を貫かれた百足はビクビクと身体を痙攣させ、小さな煙を燻らせた。
「ツィスカ、助かった。止めは任せてもらおうか!」
カオスウィースの柄を握り直したレイアは、頭部を持ち上げた状態で動きを止めた百足の開ききった鋏の中央に刃を突き立てる。それに反射するように曳航肢がレイアを打った。
体液が飛び散るのも気にせず、ぶら下がるように剣に体重を掛けると、カオスウィースは百足の腹を切り裂いた。刹那百足の身体は弾けるように塵に変わり、土の上に積もる。
「雑魔如きに怪我させられてたまるかってんだよ」
血が滲む腕を撫でつけて片方の唇を持ち上げたトリプルJは、インシネーションを強く握り締めた。
蜷局を巻くように湾曲する胴体に短剣のような鉄爪の鋭い刃を叩き込む。
直後、1本1本が意思を持っているかのようにトリプルJを狙い百足の脚がモゾモゾと動く。
「ハッ! そんな鈍間じゃ当たんないぜ! こんな樹が密集した場所じゃ動けねえのか? それとも図体がデカくて重いのか?」
揶揄するように呟くと、百足は怒気を露わに素早く曳航肢を地面に叩き付けた。一抱えありそうな岩が弾き飛ばされ、トリプルJに向かって飛ぶ。
「おっと!」
それを屈んで避けるとそのまま百足の持ち上げられた頭部の下に潜り込み、鎧徹しの一撃を顎肢部分に叩き込む。獲物を捕食し飲み込むための口からは、衝撃で粉砕した肉片と体液が逆流して噴き出した。
飛び退き顔を顰めて百足がビクビクと痙攣する様を見ていたトリプルJだが、やがて百足の身体が溶けるように塵に変わり始めると、ゆっくりと背を向けた。
弓なりに胴体を曲げた百足は曳航肢をリューに向けて叩き付けた。
刹那それを避けたリューに向かい百足は大きく鋏を開き襲い掛かった。
「げっ!」
驚いたように目を見開いたリューだが、鋏が閉じる直前、リミット・オーバーを突き出す。ガキンッと音をさせて盾を挟み、百足の顎が小刻みに震えた。
押し潰すかのように力を掛ける百足に、リューは鼻に皺を寄せる。足は地面を滑り背中が樹の幹に強く打ちつけられた。
「っ……、この程度で勝ったなんて思うな! 守りたいものはな……これよりもっと重いんだよ!」
盾を握る手に力を込めると一気に押し返し、盾のアシストスキルを使った竜貫で貫く。
鋭い突きの一撃に、百足の頭部の半分が吹き飛び、左右に頭を振って悶えたかと思うとドスンッと地面に倒れ、身体はボロボロと崩れ塵へと変わった。
雑魔を討伐したハンター達は、林の外れで待つレイナ達と合流した。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ!」
レイナは笑みを浮かべ応えるハンターに、安堵の息を吐いた。
「皆さん、本当にありがとうございました。私の願いも叶い、お父様の無くなった場所に花を手向ける事が出来ました。深くお礼申し上げます」
そう言ってレイナが頭を下げると、それに続きサイファーも頭を下げた。
「ああ、レイナの願いが叶って、私達も嬉しい」
レイアが目尻を下げ優しい笑みを浮かべる。
「そうだな……。まぁ、これはちょっとした提案なんだがリアルブルーの地方にゃ月命日って言葉がある。そんなに頻繁にここまで来るのは仕事上無理だって分かっちゃいるが……年1回か2回、ハンター雇って親父さんに報告に来てみないか? そのついでに雑魔の退治もな」
トリプルJは煙草に火を付けるとそれを深く吸い込み吐き出した。
「え?」
その言葉にレイナが目を見開く。
「そうね、それに貴女の成長した姿を御見せ出来れば、お父様きっと天国で喜ぶんじゃないかしら?」
トリプルJに同意するようにツィスカも頷いた。
「そう、……そうですね! その時は皆さん、またお力をお貸しください」
少し迷いを見せたレイナだが、その顔には笑みが広がっている。
空は誰の心を映しているのだろう。
いつの間にか澄み渡った青い空には、明るく輝く太陽が大地を照らしていた。
悲しみ、そして後悔を混ぜたようなどんよりと重い雲は広がり、時折吹く冷たい風が頬を撫で、服の裾を翻す。
これから足を踏み入れる場所に緊張と不安を隠せないレイナ・エルト・グランツは、強張った顔に無理やり笑みを浮かべ、
「皆様、この様な願いにお力を貸して下さりありがとうございます」
林の外れに集まったハンター達に深く頭を下げた。
「父親が亡くなって1年か……。過去と割り切るにゃまだ早いが、未来に進む区切りってことだな」
少し目を細めたジャック・エルギン(ka1522)は、レイナが抱える大きな白い花束に視線を向ける。陽の光の下ならばもっと美しかったであろう花も、曇り空のようにくすんで見えた。
「そうか……、あれからもう1年か……」
レイア・アローネ(ka4082)がその1年前を思い出すように空を見上げると、同じように鞍馬 真(ka5819)も空を見上げる。
2人は1年前、レイナの父親が亡くなった際に雑魔の討伐を請け負ったハンターだ。
あの時レイナが流した悲しみの涙を思い出し、2人の表情が曇る。
「時の流れは、こんなにも速いんだね……」
呟いた真は、小さく息を吐いた。
「ツィスカ様。帝国貴族であるツィスカ様にお力を貸して頂ける事、光栄にございます」
レイナが優雅な礼をすると、それに合わせてロングコートがフワリと揺れる。
「いいえ、今の私は1人のハンターに過ぎません。貴方の思いが叶うよう務めさせて頂きますわ」
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は微笑みレイナ同様優雅な礼を返した。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
そう言って、リュー・グランフェスト(ka2419)は手を差し出す。
「はい、存じ上げております。リューさん」
「そうか? ああ、そうだったな」
横でレイアが目を瞬いたが、思い出したように頷く。
「以前春のお祭りでトマト運びの手伝いをしてくださいました折、ご挨拶を」
レイナは微笑み、リューの手を取った。
「この度も、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「ああ、……辛いだろうけど、前に進む為の一歩だもんな」
リューの言葉に、レイナは小さく頷いた。
「よし、そろそろ出発するか」
トリプルJ(ka6653)の大きな声が、そこに居る者すべてを鼓舞するように辺りに響く。
「よろしくお願い致します」
レイナがハンターに向かいもう一度礼をすると、一行は林の中に踏み入った。
林の中は空気が重かった。唯でさえ曇り空で沈んでいると言うのに、重なり合う木の葉に光は遮られ、密集した樹木に風は淀む。
1年前の傷痕をそのまま保存したかのような雰囲気に、同行したサイファーの顔は益々引きつった。
その横顔をチラリと窺うレイナは唇を強く噛みしめ、それでも足を進める。
そして、―――そこでハンターとサイファーの脚は止まった。
1年前のあの日、アイザックが雑魔に襲われ亡くなった場所で……。
「ここ……なのですね?」
震える声で呟いたレイナに、
「うん。この場所だよ」
1年前の光景を目に浮かべた真が静かに応える。
この1年は……長かった。
晴れた日もあれば、大雨が続いた日もあった。
その長い月日に消され、アイザックと兵士たちが流した命の跡は少しも残っていなかった。
そこにあるのは、兵士がやったのだろか……それともハンターだろうか、戦闘を物語る不自然に砕かれた岩だけ。
レイナはその岩に近付いて抱えていた花束をそっと置き、膝を着いて祈るように手を組み大きく息を吐いて目を閉じる。
そんなレイナから離れた所に佇むサイファーは、見ているこちらが辛くなるような酷く苦しげな表情をしていた。
溢れ出る怒り、悲しみ、そして不甲斐なさ、握り締めた拳は震え溜め込んだ感情が爆発しそうだ。
ジャックはそんなサイファーに近付き、勢いよく肩を叩く。
「サイファー、お前もこの1年の間色んなもん抱え込んでいたんだな。自責の念ってやつだろ? それを忘れろなんて言わねえ。ただ、領主サマが1歩を踏み出そうとしたんだ。……なら、その手を引いて前に進んでやることが、お前の役目だと思うぜ」
諭すように、元気づけるように、小さいが力強い声でジャックが呟く。
「……手を、引いて……前に……」
その言葉の意味を飲みこもうと、ファイファーがくり返す。
「おい! 雑魔だ!!」
周囲を警戒していたとトリプルJの鋭い声が、皆の緊張を一気に高めた。
「ぞ、……雑魔……」
驚いたレイナがすぐさま立ち上がり後ずさると、真は駆け寄り背に庇う。
ハンター達はすぐさま武器を握り辺りへ視線を巡らせた。
「まだ遠い……、だけど西方に1匹」
リューが落ち着いて口を開く。
「こちらも同様ね、1匹居るわ」
対角に居るツィスカも静かに応えた。
「あの姿……覚えているぞ。すべて討伐したはずなのだが……どこから湧いて出た」
忌々しそうに鼻に皺を寄せたレイアが吐き捨てるように呟く。
「どうやらホントに厄介ごとに出会っちまったみたいだな」
そんなレイアの隣へと並んだリューは苦笑を漏らす。
ハンター達を囲むように巨大な百足が4匹姿を見せた。
「チッ、囲まれるまで気付かないとは情けねえ。包囲を開く! サイファー、領主サマの手を放さず駆け抜けろ! 真、任せたぜ!」
そう声を張り上げたジャックが飛び出し、ソウルトーチで百足の注意を引きつけた。
「なら、こっちのは任せろ!」
一拍の後、トリプルJも横へと飛び出し、向かいくる百足をファントムハンドで拘束する。
「行こう!!」
真の鋭い声を合図にサイファーがレイナの手を引き走り出し、ジャックとトリプルJが相対するムカデの間を一気に駆け抜けた。
真は後方からの攻撃を警戒しながら2人の後を追う。
「おっと、ここから先には行かせないぜ」
リューは走り去る3人のその方向を一瞥し百足の動きを確認すると、抜き放ったエクスカリバーを掲げた。己の覚悟を刻み込んだ剣には陽炎の如き篝火の紋章が浮かび上がる。
「肉親の死を乗り越えるために、一歩進もうとする決意を邪魔させるわけにはいきません。リューさん援護します!」
ツィスカは雪の精霊の加護を受けた白銀の銃身を構えた。ベンティスカはスキル制圧射撃の効果を合わせ吹雪の如く無数の弾丸を放つ。
大きく鋏を開きリューに襲い掛かろうとしていた百足の動きを制圧すると、そのタイミングでリューが踏み込み高く跳躍、百足の頭部に渾身の一打を叩き込んだ。
その様子を横目で捕えたレイアは友の勇姿に小さな笑みを浮かべるが、直ぐに瞳は氷のように冷たくなった。
「またあの百足か……。しかも今度は4匹、あの時のように2人で1匹という訳にはいかないか。……だが、1年前のそれと思うな。我々とて歩み続けているのだからな!」
右手にはソウルエッジで強化したカオスウィース、左に手にした天羽羽斬で触角を弾くと、煌めいたカオスウィースが胴体を掠め幾本もの脚を切り落とす。痛みにのた打ち回る百足からレイアは素早く距離を取った。
「チッ、こりゃ1匹ずつ地道に片付けるしかねぇか」
悪態をつきながらもトリプルJは拘束した百足の胴体に鎧徹しの一撃を叩き込む。鎧の防御効果を無視した打撃は鋼のような甲殻を突き抜け内部の肉をグズグズに砕いた。
その衝撃に瓦のように並んだ節の薄い部分が破れ体液が噴き出す。勢いよく身を縮めた百足の脚が、トリプルJを掠めた。
曳航肢を樹に叩き付けた百足はジャックを威嚇し、頭部を持ち上げてはカチカチと鋏を鳴らし、毒液を滴らせる。
そんな百足を睨み付け、ジャックは不敵に笑った。
口元に形の良い弧が描かれると同時に百足は持ち上げていた頭部をジャック目掛け勢いよく下ろす。
アルマーザを掲げ鎧受けで受け流しカウンターアタックで百足の側頭部に鋭い反撃をお見舞いすると、横からの衝撃に百足の身体はひっくり返る。足掻くように空を掻いた足が不意に伸びジャックを掠めた。
「ったく空気の読めねえ百足だな。速攻でカタを付けさせてもらうぜ!」
僅かな間も与えず、ジャックは渾身撃を裏返った頭部へと叩き込む。
いくら鋼のように硬いとは言えその衝撃に甲殻は砕け散り、突き刺さったままのアニマ・リベラを力任せに滑らせると、魚でも捌くかのように腹まで割れ、不気味な色の体液が溢れ出る側から百足の身体は塵へと変わり、サラサラと流れて消えた。
真は振り返り、百足の注意がまだ僅かにこちらに向いている事を悟った。
向き直った時、前を走るレイナの足が樹の根に取られ、フワリとその身体が一瞬宙に浮く。
「きゃっ!」
真は走りながらその傾いた身体を軽々と抱きかかえ、足を止めることなく走り続ける。
「サイファー君、先導して下さい」
振り返ったサイファーはレイナの無事に安堵の表情浮かべ頷く。
「はい。こっちです」
サイファーは力強く応えると再び先を走り始めた。
「ここまでくれば、雑魔も追ってこないよ」
安心させるように、真が笑みを浮かべる。
「はい……」
不安そうに呟いたレイナは、祈るように手を組む。林の中を見つめる横顔は、寂し気で苦し気だ。
「……実は、私には転移前の記憶が無いんだ。今も失くした過去に囚われて前に進めなくなることがある。だから、レイナさんが気持ちに決着を付けようと思ったことを、本当に凄いと思っている。……私には、まだできないことだからね。サイファー君も、至らなさとか後悔を覚えることもあるだろうけど。それでも、レイナさんを支えて前に進んでいる。……立派だと思うよ」
眉尻を下げた真は少し寂しそうに笑った。
「そうなのですね……記憶が。……私、こんなに辛い記憶ならいっそ無くなってしまえばいいと考えた事もありました。でも、違うんですね……。どんなに辛くても、悲しくても、前に進む為に……私の糧となるために必要なものなのですね……」
レイナの瞳から耐え切れなくなった涙が零れ頬を伝う。
「真さんの記憶、早く戻るといいですね」
涙を拭ったレイナの瞳は、先程までとは違う光を宿しているようだった。
「うん。私はいつでも二人を応援しているから。困った時は、頼って欲しい」
頷くレイナの瞳にある力強い光を見たサイファーは、ハッとしたように目を見開き、その2人の姿を見守る真は優しく目を細めた。
「さすがですね、ジャックさん! 私も負けてはいられません」
遊撃手として少し距離を取っていたツィスカは、レイアが百足から飛び退いた刹那、逃げる事は許さぬと言わんばかりに睨み付け、機導砲を放った。
マテリアルを返還したエネルギーが一条の光となり、薄暗い林の中を一瞬眩く照らして駆け抜ける。
凝縮したエネルギーに身体を貫かれた百足はビクビクと身体を痙攣させ、小さな煙を燻らせた。
「ツィスカ、助かった。止めは任せてもらおうか!」
カオスウィースの柄を握り直したレイアは、頭部を持ち上げた状態で動きを止めた百足の開ききった鋏の中央に刃を突き立てる。それに反射するように曳航肢がレイアを打った。
体液が飛び散るのも気にせず、ぶら下がるように剣に体重を掛けると、カオスウィースは百足の腹を切り裂いた。刹那百足の身体は弾けるように塵に変わり、土の上に積もる。
「雑魔如きに怪我させられてたまるかってんだよ」
血が滲む腕を撫でつけて片方の唇を持ち上げたトリプルJは、インシネーションを強く握り締めた。
蜷局を巻くように湾曲する胴体に短剣のような鉄爪の鋭い刃を叩き込む。
直後、1本1本が意思を持っているかのようにトリプルJを狙い百足の脚がモゾモゾと動く。
「ハッ! そんな鈍間じゃ当たんないぜ! こんな樹が密集した場所じゃ動けねえのか? それとも図体がデカくて重いのか?」
揶揄するように呟くと、百足は怒気を露わに素早く曳航肢を地面に叩き付けた。一抱えありそうな岩が弾き飛ばされ、トリプルJに向かって飛ぶ。
「おっと!」
それを屈んで避けるとそのまま百足の持ち上げられた頭部の下に潜り込み、鎧徹しの一撃を顎肢部分に叩き込む。獲物を捕食し飲み込むための口からは、衝撃で粉砕した肉片と体液が逆流して噴き出した。
飛び退き顔を顰めて百足がビクビクと痙攣する様を見ていたトリプルJだが、やがて百足の身体が溶けるように塵に変わり始めると、ゆっくりと背を向けた。
弓なりに胴体を曲げた百足は曳航肢をリューに向けて叩き付けた。
刹那それを避けたリューに向かい百足は大きく鋏を開き襲い掛かった。
「げっ!」
驚いたように目を見開いたリューだが、鋏が閉じる直前、リミット・オーバーを突き出す。ガキンッと音をさせて盾を挟み、百足の顎が小刻みに震えた。
押し潰すかのように力を掛ける百足に、リューは鼻に皺を寄せる。足は地面を滑り背中が樹の幹に強く打ちつけられた。
「っ……、この程度で勝ったなんて思うな! 守りたいものはな……これよりもっと重いんだよ!」
盾を握る手に力を込めると一気に押し返し、盾のアシストスキルを使った竜貫で貫く。
鋭い突きの一撃に、百足の頭部の半分が吹き飛び、左右に頭を振って悶えたかと思うとドスンッと地面に倒れ、身体はボロボロと崩れ塵へと変わった。
雑魔を討伐したハンター達は、林の外れで待つレイナ達と合流した。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ!」
レイナは笑みを浮かべ応えるハンターに、安堵の息を吐いた。
「皆さん、本当にありがとうございました。私の願いも叶い、お父様の無くなった場所に花を手向ける事が出来ました。深くお礼申し上げます」
そう言ってレイナが頭を下げると、それに続きサイファーも頭を下げた。
「ああ、レイナの願いが叶って、私達も嬉しい」
レイアが目尻を下げ優しい笑みを浮かべる。
「そうだな……。まぁ、これはちょっとした提案なんだがリアルブルーの地方にゃ月命日って言葉がある。そんなに頻繁にここまで来るのは仕事上無理だって分かっちゃいるが……年1回か2回、ハンター雇って親父さんに報告に来てみないか? そのついでに雑魔の退治もな」
トリプルJは煙草に火を付けるとそれを深く吸い込み吐き出した。
「え?」
その言葉にレイナが目を見開く。
「そうね、それに貴女の成長した姿を御見せ出来れば、お父様きっと天国で喜ぶんじゃないかしら?」
トリプルJに同意するようにツィスカも頷いた。
「そう、……そうですね! その時は皆さん、またお力をお貸しください」
少し迷いを見せたレイナだが、その顔には笑みが広がっている。
空は誰の心を映しているのだろう。
いつの間にか澄み渡った青い空には、明るく輝く太陽が大地を照らしていた。
依頼結果
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/02/09 22:11:23 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/07 21:03:59 |