ゲスト
(ka0000)
【血断】雪明かり 上
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/28 15:00
- 完成日
- 2019/03/11 13:47
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●もう一度、あなたと
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)は、帝都の端にある大衆酒場の裏口にいた。ブレンネ・シュネートライベン(kz0145)のライブが今夜ここで行われると聞いたからだ。
グリューエリンは、アイドルとして復帰してからずっと、ブレンネに会いに行かなきゃと思っていた。錬魔院に提出されていたブレンネのスケジュールから今日のライブ予定を知り、ついに決心して、会場まで来たものの、それでも今更自分に何か言えることなどあるのだろうか、と迷って入り口に佇んでいたのだ。
すると、裏口から従業員が出てきて、
「何か用でも?」
と聞かれたので、
「ブレンネに会いに」
と答えたら、あっさり中へ入れてくれた。
ブレンネは従業員の休憩室にもなっている、狭い部屋にいた。
●莉子の話
大柳莉子はブレンネのプロデューサーだ。髪は黒く、やや長身の美人である。
ナサニエル・カロッサ(kz0028)が逮捕されて、それまで順調だったブレンネと莉子の状況は変わった。ナサニエルが関わった悪しき研究の調査のため、機材が押収されてしまったので、大規模なライブ活動はできなくなったのだ。
それでも、アイドル活動を諦める訳にはいかないので、帝都に増えつつある楽器の置いてあるバーなどと出演交渉をしていたが、錬魔院所属という肩書きが良くないのか次第に出演を断られるようになった。
今となっては、路上ライブをする日々。ブレンネの歌に合わせ、莉子はギターで伴奏する。足を止めてまで歌を聴く人はほとんどいない。
そんな時に、偶然通りかかった、かつて莉子の入り浸っていた酒場の主人クラバック氏が、
「行く場所がないなら、自分の店を使ったらどうか」
と声をかけてくれたのだ。
莉子はそもそもリアルブルーからの転移者である。ブレンネのプロデューサーになる前は、ハンターとして日銭を稼いでいた。その頃の莉子は、稼いだ金のほとんどを酒に使うほど荒れていた。
クラバックの店は帝都の端にある、大衆酒場だ。客は下層階級ばかり。音響環境はもちろん悪く、ステージは椅子と机を退けてようやく確保した狭いスペースだ。
それでも、寒空の下の路上ライブよりマシだし、ここには酒を飲みにきた客がいるので、幾らかは歌に耳を傾けてくれるだろうと、莉子は出演を決めた。
●拒絶
グリューエリンが訪ねてきた時、莉子は酒場のホールでクラバックと最終確認をしていたので、控え室にはブレンネしかいなかった。
「あの、ブレンネ。今日はお話が……」
「帰ってよ!!」
グリューエリンの言葉を遮り、ブレンネは激昂する。
「あたしはあんたと話したくなんかない! なにさ、今になって現れて。落ちぶれたあたしを笑いにきたわけ? ……まあ、そうよね。グリューエリン、あんたは復帰ライブとか言って帰ってきて、みんなに受け入れられて。剣魔討伐では大活躍したそうじゃない。楽しかったでしょ、歌を聴いてもらえるのは。あんたがいない間、この帝国でずっとずっとずっとずっと歌っていたのはあたしなのに!!」
「ち、違います、ブレンネ。私は……」
ブレンネの剣幕にグリューエリンは押されていた。
「所詮、あたしなんて……あんたの……」
しかしブレンネはそこから先の言葉をぐっとこらえた。それを言ってしまったら全てが終わりになる気がしたから。
「……帰ってよ」
グリューエリンは何も言えなかった。でも、ここで逃げてはダメなことだけはわかっていた。伝わらなくても、伝えなくちゃ。
「ブレンネ──」
と、言葉を紡ぎかけた時、酒場で破裂音のようなものがした。
●少女の心を他所に、世界は廻る
「え、……何?」
唐突に響いた炸裂音に、ブレンネは唖然とした。その脇を、剣の柄に手をかけたグリューエリンが酒場の方へ走っていく。
「ちょっと、グリューエリン!」
細い通路を曲がって、グリューエリンの姿はすぐに見えなくなる。
ブレンネは狭い控え室にひとり取り残された。
異常事態が進行しているのはブレンネにも理解できた。だが、ブレンネにとって、そんなことより、去って行くグリューエリンの姿の方が印象深かった。
(グリューエリン、あんたっていつもそう)
(あたしより先に、アイドルをやっていて。あたしより前を走ってた)
(あたしはそんなあんたの姿に憧れて……)
(それなのに、あんたはいなくなってしまった。あたしをひとり残して)
(今もそうやって、また──)
●刃を隠して
グリューエリンが酒場のホールについてみると、そこは混沌していた。壊されたり、ひっくり返されたりした机と椅子。散乱する酒と料理。逃げ惑う人々。
中央にはシェオル型歪虚が2体いた。世界結界がよりにもよってこの場で綻びたのだ。
倒れ込んだ客にシェオルが、鋭い腕を振り下ろした。
しかし、すかさず飛び込んだグリューエリンが腕を双剣で受け止め庇う。敵の攻撃は腕が痺れるほど強かった。とてもひとりでは倒せるものではないと彼女は悟った。
倒れた客をクラバックが手を貸して引き起こす。
「そこの方! この店の方とお見受けします。すぐにハンターの方々を呼んできてください!」
クラバックはグリューエリンの言葉を受けて、ともに混乱した店内の避難誘導をしていた給仕の少年を裏口からハンターたちの元へ走らせた。
酒場の正面口に人々が殺到する。
グリューエリンは死者を出すまいと、シェオルに立ち向かうが、2体を同時に相手にするのは難しく、1体だけで手一杯だ。
もう1体のシェオルはフリーであるかと思いきや、マジックアローに撃ち据えられた。
「協力するわ」
莉子の魔法である。莉子は腕輪型の魔術具に再度マテリアルを込める。
だが、魔法が紡がれるより早く、シェオルの腕が莉子の体を吹き飛ばした。体を壁に打ち付けて呻く莉子。
「莉子殿!」
しかし、グリューエリンには莉子を助けに行けるほどの余裕はない。
莉子に迫るシェオル。牙のような腕が振り下ろされ、あわや致命傷かと思った時、銀の姿が敵を斬り付けた。
「ブレンネ……!」
護身用に持ち歩いているナイフを握ったブレンネだった。
「……莉子に死なれちゃ困るのよ。あたし、予定組むの苦手だし。あーあ、これで今日のライブは中止かあ。どうして──」
(──あたしの人生、うまくいかないんだろう? ああ、イライラする)
「ブレンネ、莉子殿、ハンターの皆様が来るまで持ちこたえましょう!」
敵の強さから、グリューエリンが当座の方針を示す。
(そうね。死んだら終わりだもの。ハンターが来るまでは大人しくしておいてあげる)
(でも……そのあとは少しぐらい八つ当たりしても、いいよね?)
どこか虚な表情のまま、ブレンネはナイフを握り直した。
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)は、帝都の端にある大衆酒場の裏口にいた。ブレンネ・シュネートライベン(kz0145)のライブが今夜ここで行われると聞いたからだ。
グリューエリンは、アイドルとして復帰してからずっと、ブレンネに会いに行かなきゃと思っていた。錬魔院に提出されていたブレンネのスケジュールから今日のライブ予定を知り、ついに決心して、会場まで来たものの、それでも今更自分に何か言えることなどあるのだろうか、と迷って入り口に佇んでいたのだ。
すると、裏口から従業員が出てきて、
「何か用でも?」
と聞かれたので、
「ブレンネに会いに」
と答えたら、あっさり中へ入れてくれた。
ブレンネは従業員の休憩室にもなっている、狭い部屋にいた。
●莉子の話
大柳莉子はブレンネのプロデューサーだ。髪は黒く、やや長身の美人である。
ナサニエル・カロッサ(kz0028)が逮捕されて、それまで順調だったブレンネと莉子の状況は変わった。ナサニエルが関わった悪しき研究の調査のため、機材が押収されてしまったので、大規模なライブ活動はできなくなったのだ。
それでも、アイドル活動を諦める訳にはいかないので、帝都に増えつつある楽器の置いてあるバーなどと出演交渉をしていたが、錬魔院所属という肩書きが良くないのか次第に出演を断られるようになった。
今となっては、路上ライブをする日々。ブレンネの歌に合わせ、莉子はギターで伴奏する。足を止めてまで歌を聴く人はほとんどいない。
そんな時に、偶然通りかかった、かつて莉子の入り浸っていた酒場の主人クラバック氏が、
「行く場所がないなら、自分の店を使ったらどうか」
と声をかけてくれたのだ。
莉子はそもそもリアルブルーからの転移者である。ブレンネのプロデューサーになる前は、ハンターとして日銭を稼いでいた。その頃の莉子は、稼いだ金のほとんどを酒に使うほど荒れていた。
クラバックの店は帝都の端にある、大衆酒場だ。客は下層階級ばかり。音響環境はもちろん悪く、ステージは椅子と机を退けてようやく確保した狭いスペースだ。
それでも、寒空の下の路上ライブよりマシだし、ここには酒を飲みにきた客がいるので、幾らかは歌に耳を傾けてくれるだろうと、莉子は出演を決めた。
●拒絶
グリューエリンが訪ねてきた時、莉子は酒場のホールでクラバックと最終確認をしていたので、控え室にはブレンネしかいなかった。
「あの、ブレンネ。今日はお話が……」
「帰ってよ!!」
グリューエリンの言葉を遮り、ブレンネは激昂する。
「あたしはあんたと話したくなんかない! なにさ、今になって現れて。落ちぶれたあたしを笑いにきたわけ? ……まあ、そうよね。グリューエリン、あんたは復帰ライブとか言って帰ってきて、みんなに受け入れられて。剣魔討伐では大活躍したそうじゃない。楽しかったでしょ、歌を聴いてもらえるのは。あんたがいない間、この帝国でずっとずっとずっとずっと歌っていたのはあたしなのに!!」
「ち、違います、ブレンネ。私は……」
ブレンネの剣幕にグリューエリンは押されていた。
「所詮、あたしなんて……あんたの……」
しかしブレンネはそこから先の言葉をぐっとこらえた。それを言ってしまったら全てが終わりになる気がしたから。
「……帰ってよ」
グリューエリンは何も言えなかった。でも、ここで逃げてはダメなことだけはわかっていた。伝わらなくても、伝えなくちゃ。
「ブレンネ──」
と、言葉を紡ぎかけた時、酒場で破裂音のようなものがした。
●少女の心を他所に、世界は廻る
「え、……何?」
唐突に響いた炸裂音に、ブレンネは唖然とした。その脇を、剣の柄に手をかけたグリューエリンが酒場の方へ走っていく。
「ちょっと、グリューエリン!」
細い通路を曲がって、グリューエリンの姿はすぐに見えなくなる。
ブレンネは狭い控え室にひとり取り残された。
異常事態が進行しているのはブレンネにも理解できた。だが、ブレンネにとって、そんなことより、去って行くグリューエリンの姿の方が印象深かった。
(グリューエリン、あんたっていつもそう)
(あたしより先に、アイドルをやっていて。あたしより前を走ってた)
(あたしはそんなあんたの姿に憧れて……)
(それなのに、あんたはいなくなってしまった。あたしをひとり残して)
(今もそうやって、また──)
●刃を隠して
グリューエリンが酒場のホールについてみると、そこは混沌していた。壊されたり、ひっくり返されたりした机と椅子。散乱する酒と料理。逃げ惑う人々。
中央にはシェオル型歪虚が2体いた。世界結界がよりにもよってこの場で綻びたのだ。
倒れ込んだ客にシェオルが、鋭い腕を振り下ろした。
しかし、すかさず飛び込んだグリューエリンが腕を双剣で受け止め庇う。敵の攻撃は腕が痺れるほど強かった。とてもひとりでは倒せるものではないと彼女は悟った。
倒れた客をクラバックが手を貸して引き起こす。
「そこの方! この店の方とお見受けします。すぐにハンターの方々を呼んできてください!」
クラバックはグリューエリンの言葉を受けて、ともに混乱した店内の避難誘導をしていた給仕の少年を裏口からハンターたちの元へ走らせた。
酒場の正面口に人々が殺到する。
グリューエリンは死者を出すまいと、シェオルに立ち向かうが、2体を同時に相手にするのは難しく、1体だけで手一杯だ。
もう1体のシェオルはフリーであるかと思いきや、マジックアローに撃ち据えられた。
「協力するわ」
莉子の魔法である。莉子は腕輪型の魔術具に再度マテリアルを込める。
だが、魔法が紡がれるより早く、シェオルの腕が莉子の体を吹き飛ばした。体を壁に打ち付けて呻く莉子。
「莉子殿!」
しかし、グリューエリンには莉子を助けに行けるほどの余裕はない。
莉子に迫るシェオル。牙のような腕が振り下ろされ、あわや致命傷かと思った時、銀の姿が敵を斬り付けた。
「ブレンネ……!」
護身用に持ち歩いているナイフを握ったブレンネだった。
「……莉子に死なれちゃ困るのよ。あたし、予定組むの苦手だし。あーあ、これで今日のライブは中止かあ。どうして──」
(──あたしの人生、うまくいかないんだろう? ああ、イライラする)
「ブレンネ、莉子殿、ハンターの皆様が来るまで持ちこたえましょう!」
敵の強さから、グリューエリンが当座の方針を示す。
(そうね。死んだら終わりだもの。ハンターが来るまでは大人しくしておいてあげる)
(でも……そのあとは少しぐらい八つ当たりしても、いいよね?)
どこか虚な表情のまま、ブレンネはナイフを握り直した。
リプレイ本文
4人のハンターは酒場の正面口と裏口、2人ずつ分かれて中へ突入することにした。
「先に戦ってる人がいるって、給仕のお兄さんが言ってたけど、大丈夫かな?」
フューリト・クローバー(ka7146)が裏口に回りながら、ともに進むキヅカ・リク(ka0038)に話しかけた。
「大丈夫だと思いたいけど……」
キヅカがこたえる。
(こんなところにまでシェオルは現れるのか……)
裏口の扉を開くと、剣戟音が聞こえてきた。
廊下を駆け抜け、酒場のホールに着いてみるとそこにいたのは、
「……へ? エリンちゃんにブレンネ……? なんでいんの?」
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)、ブレンネ・シュネートライベン(kz0145)、そのプロデューサーの大柳莉子であった。
「あ、グリューさんだ! へーい、ぐっといぶにんぐー」
「リク殿に、リトさん……!?」
グリューエリンも驚いていた。
「助けに来たよ!」
正面口からも時音 ざくろ(ka1250)とUisca Amhran(ka0754)が突入して来た。
「さぁお前の相手はざくろだ!」
剣を振りかぶり、黒髪をなびかせて、ざくろがブレンネと莉子をかばうようにシェオルの前に躍り出た。
「ブレンネさん、莉子さん、こちらへ! すぐに回復しますね」
Uiscaは2人に【龍魂】白龍纏歌を施す。術を発動したことで一瞬、Uiscaの体に白龍に酷似した角や尾が出現した。
「エリンちゃん、一旦交代」
グリューエリンに代わってキヅカがシェオルを押しとどめる。
立ち位置を変える一瞬、キヅカとグリューエリンはハイタッチを交わした。
「グリューさんは僕が回復するねー」
フューリトはアンチボディでグリューエリンの傷を癒す。傷口が塞がって、流血が押しとどめられる。
「んー、と」
フューリトはあたらめて店内を見渡す。
グリューエリンが戦っていたシェオルはキヅカと、ブレンネが抑えていたシェオルはざくろと刃を交わしている。
キヅカの方が裏口に近く、ざくろは正面口に近い位置だ。
店内は狭いが、戦闘に支障はなさそうである。
シェオルの黒々とした体の色は、悪感情を塗り固めたよう。
「ね、グリューさん、あれどこから来たんだろうねーヤなかんじだよねー」
「世界結界はどこでほつれてもおかしくない、ということなのでしょうね……」
フューリトの回復によって、グリューエリンの戦闘により上がっていた息が落ち着いて来た。
側面から強襲するシェオルの腕をざくろは盾と、攻性防壁で軌道をそらす。攻撃が触れた瞬間、防壁が白色の光をあげた。
「超機導パワーオン、弾け跳べっ!」
防壁に食い込んだシェオルの腕を押し出すように、雷撃が発せられる。
その衝撃で、シェオルは後ろに弾き飛ばされる。牙のような手足が床を引っかいた。床に散らばった、壊れたテーブルや椅子、散らばった皿や料理がさらにめちゃくちゃになり、吹き飛ばされた先にある家具がシェオルのぶつかった衝撃で転がったり壊れたりした。
「敵を分断するのは大事だけど、戦闘する場所を広げちゃうと、まずいかも……!?」
シェオルが出現した場所や、グリューエリンたちが戦っていたところなら、すでに家具などは壊れてしまっているので、これ以上壊れても仕方ないと思えるが、まだ壊れていない家具を新たに壊してしまうのはよろしくない。
シェオルが後ろ足で、邪魔な机を蹴り飛ばして立ち上がる。その体を、より鋭い爪や牙が串刺した。
Uiscaの【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻である。
「動きは止めます。おそらく、2体の距離はこのくらいあれば連携は取れないでしょう」
「うん、そうだね……それじゃあ攻めて行くよ! ざくろと共に踊れ武器達☆」
ざくろは機導剣・操牙を発動した。携帯していた剣とタガー、そして盾がざくろの周囲に浮かび上がり、切っ先を敵に向けた。
「ブレンネさん、莉子さん、こちらで一緒に戦ってっ」
「痛みも引いたし、これで魔術に専念できるわ。ありがとう」
莉子は、短く礼を言う。
「ブレンネ、無理をしてはダメよ?」
そして、横にいるブレンネを心配そうに見た。
「平気。こいつ殴っても良い敵なんでしょ? なら、あたしもやる」
ブレンネの口調は淡々としている。
「……危なくなったら、問答無用で止めるわよ」
莉子はこの状況でブレンネだけを仲間外れにするのは逆効果だと思ったので、それ以上何も言わなかった。
ざくろはシェオルを剣で突き刺す。同時に操牙で浮遊した剣の一撃も加わる。
ブレンネと莉子は、ざくろとUiscaをサポートするように立ち回っていた。
「じゃ、こっちも攻撃……いくよ!」
キヅカがマグダレーネを媒介にデルタレイを発動する。虚空に現れた輝く三角形の2つの頂点から、光線が伸びてシェオルの体を焼き焦がす。キヅカは敵の足を先に潰すことにした。狙いを正確につけたために、威力は低下したが、キヅカの無事を祈る思いがそれを相殺した。
その光線の輝きに、グリューエリンは優しい思いが込められているのを感じた。
「私も、まだ、戦えます」
グリューエリンは双剣を構え、シェオルに斬りかかる。
シェオルは、キヅカとグリューエリンに対し、腕と足を外側に突き出して勢いよく独楽のように回転させた。
爪のような腕先や足先がキヅカの盾と擦過して火花をあげる。発動した攻性防壁の電撃がシェオルに絡みついた。
グリューエリンも剣を構えて攻撃をいなす。フューリトが発動したホーリーヴェールが淡い光を発して消えていった。グリューエリンもハンターが到着し、戦力が増したことで、足止めから敵の討伐に目的を切り替えている。彼女は、キヅカがしたように、足を狙って攻撃する。
「こんなところで、負けてらんないもんな……!」
デルタレイの光線が冴え渡る。
しかし、シェオルもやられるばかりではない。
上半身を起こして、両の腕を獣の牙のようにキヅカへ振り下ろした。
「ぐっ……!」
盾で片方の腕は防ぐも、反対の腕は、鎧を貫通して体に深く突き刺さる。攻性防壁の名残のような紫電が弱々しくシェオルに巻き付いていた。
「こん、の……!」
その紫電が勢いよく発光し、シェオルを1スクエアだけ弾き飛ばした。シェオルの両腕は、弾かれるに従って、ずるりと血を引きずって抜けた。
傷口から噴出した血液がキヅカの頬を濡らす。
「はーい、回復するよー」
フューリトがアンチボディで出血を止める。それでも回復量が追いつかないので、キヅカはエナジーショットで傷を塞ぐ。
「あんまり動かないでねぇ」
フューリトがエクラ・ソードの切っ先を敵に向けて[SA]により強度の増したジャッジメントを撃ち込んだ。
弾き飛ばされたシェオルが杭に縫い付けられて移動を封じられる。
グリューエリンがシェオルに肉薄し、ダメージを与えた。シェオルの攻撃は、剣と、フューリトのホーリーヴェールで防御するので、大きな傷にはならず、即座に攻勢に移る。
キヅカはブレンネの方をちらりと見た。
ブレンネはUiscaとざくろたちと戦っている。
問題ない──今の所は。
Uiscaは店の正面口を背にして戦っていた。この場から逃げたら困る誰かを止めるため。
ブレンネは近接攻撃を主軸にし、莉子は後方からハンターたちを支援するように魔法を紡いでいた。
強化術式・紫電により、電流に変換されたマテリアルがざくろの反応速度を上げている。残像を残すような速度で、繰り出される一撃が敵の体に突き刺さる。
シェオルが、ざくろの体を吹き飛ばそうと横薙ぎに腕を払うが、ざくろ自身が構えた盾と、操牙によって浮遊する盾が攻撃を受け止める。シェオルの体は硬いのか、金属同士がぶつかるような音がした。
「好きには、させないから……!」
盾越しに伝わった衝撃で、体が震える。
シェオルがざくろに攻撃している隙に、ブレンネが後ろに回って、ナイフで斬り付けようとするが、敵は後ろ足を持ち上げて、ブレンネを蹴り飛ばした。
苦鳴を上げて、ブレンネが吹き飛んだ。
「ブレンネさん!」
Uiscaが声をかける。
「大丈夫、ちょっとぶっ飛んだだけでしょ?」
ブレンネはすぐに起き上がる。
「それに、無理をするほどあたしもバカじゃないわ。こういった荒事はハンターとか軍人の方が向いてるものね」
ブレンネは再びナイフを握り直し、攻撃の隙を伺う。
「人々の平和な暮らしの為にも、絶対やっつけるよ!」
剣を踊らせて、ざくろがシェオルを斬り裂いた。
「ええ、とにかく倒さないと話になりませんから……!」
Uiscaは【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻で、シェオルの自由を奪う。
莉子もマジックアローで攻撃する。
ざくろの剣戟とともに、操牙の剣も踊る。
シェオルの腕や足による攻撃は盾で防御する。鈍い金属音がその度に大気を揺らした。
Uiscaの【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻は高火力で、確実にシェオルの体にダメージを与えていく。
そして、ついに、敵の体にうっすらとした亀裂が入る。
「もう少し……!」
立ち上がり、獣が獲物を噛み砕くように、両腕を牙にして上から強襲するようなシェオルの攻撃を、ざくろの攻性防壁が受け止める。電撃が迸り、敵の攻撃がいくらか鈍った。
その攻撃を難なくざくろは2枚の盾で受け流す。
勢いのままに、シェオルはつんのめるように地面に腕を突き立てた。
「隙あり!」
シェオルの腕を、ざくろは上段から剣を振り下ろして、叩き斬る。
ばきり、とシェオルの腕がひしゃげた。
追い討ちをかけるように、Uiscaの【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻の黒龍の牙が、シェオルの歪んだ腕に喰らいついた。
「腕がなくなれば、攻撃はできませんよね?」
それでもシェオルはかろうじてくっついている腕をふるって、ざくろを殴り飛ばそうとしたが、ざくろの盾に腕が触れた途端、流石にUiscaの攻撃で耐久限度を超えていたのだろう、どこか儚げな音を立てて完全にへし折れて、腕先が宙を舞った。
3本足になったシェオル。短くなった腕を棍棒のように振るうが、ざくろはそれをたやすく躱す。腕という支柱を失ったためか、体勢が不安定になりシェオルの攻撃には勢いがなくなった。
それでも、シェオルは体を独楽のように回転させて周囲を斬り裂くが、ざくろは盾で、ブレンネは後方転回を決めて回避した。
「このお店は、戦いの場所ではありません。ここが居場所となる人がきっといるはず。だから──」
Uiscaは【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻を紡ぐ。龍爪がシェオルを上から押しつぶすように顕現した。シェオルは3本足で踏ん張るも、やはり支柱のない方に傾く。
さらに莉子のマジックアローが飛来して、シェオルに衝撃を与える。
「長引かせはしない」
ざくろが剣を体に引き付けた。剣術の居合に似た体勢になる。
「強制……解放!」
ざくろの握る、カオスウィースがかたかた震え始めた。解放錬成により強制解放されたマテリアルが、剣という外装を壊しかねないほど力を荒ぶらせているのだ。ざくろはそれを冷静に制御し、マテリアルの流れを「斬る」ことにのみ集中させる。これにより震えは収まり、血色の刃は眩いばかりに輝き始めた。
「加速装置っ……」
強化術式・紫電により、ざくろは身体的な能力を強化する。
ざくろの赤い瞳がシェオルを捉えた。
「これで止めだ、魔導剣・禍炎Xの字斬り!」
ざくろは剣を逆袈裟に振り抜く。
同時に、操牙によって浮遊する禍炎剣「レーヴァテイン」がざくろの太刀筋とXを書くように振り下ろされた。
シェオルは4分割されて、床に崩れ落ち、塵になって消えていった。
「残り1体ね」
そうカウントしたのはブレンネである。彼女はやはりどこか虚な顔であった。
「ブレンネ、その、大丈夫? 怪我とか……」
ざくろは、ブレンネの様子が気にかかる。
「平気。あんたたち強いんでしょ? なんとかしてくれるって、信じてるから」
ブレンネはそれだけ答えて、もう1体のシェオルに向かっていった。
だが、その言葉は、信頼を示すものには聞こえなかった。
キヅカにはある思惑があった。ブレンネに敵の止めをさせることである。それにより、この酒場を彼女が守ったという構図を作りたいのだ。
キヅカのデルタレイがシェオルの足を切り落とした。切断面のなだらかな、鮮やかな一撃であった。
上記の思惑と、脚を狙うという精密攻撃で、キヅカの一撃あたりの威力は落ちている。
さて、ざくろとUiscaたちが担当していたシェオルは討伐された。残りは1体である。それも度重なる攻撃で体のいたるところに罅が入っている。体力も残り少ないだろう。
ブレンネは誰に言われるでもなく、シェオルへ飛び込み斬りつける。
ならば、とキヅカが機導砲で、ブレンネを支援した。
シェオルが、累積したダメージに耐えかねて、体勢を崩す。
「ブレンネ、止めを──」
キヅカが呼ぶより速く、ブレンネは逆手に持ったナイフを振り下ろした。
だが、その攻撃は一度では終わらなかった。
ブレンネは何度もナイフを振り下ろして敵を滅多刺しにする。それは戦闘行為ではなく八つ当たりに等しかった。
シェオルは最期の力を振り絞って、ブレンネを遠ざけようとするが、彼女は避けることもしない。
「あんたたちのおかげで台無しよ。どうしてくれるの? これからどうすればいいの?」
ナイフは乱雑な扱いのために、シェオルに刺さったところで、遂に刃の部分が折れてしまった。
「本当にむかつくのよ!!」
ブレンネは力の限りにシェオルを蹴っ飛ばした。
倒れたシェオルの体は、それで塵になってこの世界から消滅する。
「あーあ、」
ブレンネは使い物にならなくなったナイフを投げ捨てた。
「こんなんじゃ、今日はもう、ライブはできないわね」
言う通り、シェオルの襲来で店の中はめちゃくちゃだし、ブレンネの衣装も戦闘行為によりところどころ破け、血が滲んでいる。片付ける必要も、着替える必要もあるし、前者には時間がかかりそうだった。
「……虚しいものね、八つ当たりって」
ブレンネが自虐的に言う。
他に誰も喋ることはできなかった。それでも、キヅカはエナジーショットでブレンネの傷を癒した。
「ありがと。……でもまあ、多少はすっきりしたわ」
「ブレンネさん、あの──」
Uiscaの言葉を、しかしブレンネが制した。
「ごめん。まずはあたしに喋らせて。多分、ひどいことにはならないから」
フューリトはしばし様子を見守ることにする。ブレンネは意外と落ち着いているからだ。
ブレンネは深呼吸をしてから、グリューエリンに向き合う。
グリューエリンはブレンネの視線を受けて、体を強張らせたのが、目に見えてわかった。
「グリューエリン、あたしもあんたに話がある」
空気が張り詰める。
その中を、パルムだけがのんきに植林作業をしていた。
つづく
「先に戦ってる人がいるって、給仕のお兄さんが言ってたけど、大丈夫かな?」
フューリト・クローバー(ka7146)が裏口に回りながら、ともに進むキヅカ・リク(ka0038)に話しかけた。
「大丈夫だと思いたいけど……」
キヅカがこたえる。
(こんなところにまでシェオルは現れるのか……)
裏口の扉を開くと、剣戟音が聞こえてきた。
廊下を駆け抜け、酒場のホールに着いてみるとそこにいたのは、
「……へ? エリンちゃんにブレンネ……? なんでいんの?」
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)、ブレンネ・シュネートライベン(kz0145)、そのプロデューサーの大柳莉子であった。
「あ、グリューさんだ! へーい、ぐっといぶにんぐー」
「リク殿に、リトさん……!?」
グリューエリンも驚いていた。
「助けに来たよ!」
正面口からも時音 ざくろ(ka1250)とUisca Amhran(ka0754)が突入して来た。
「さぁお前の相手はざくろだ!」
剣を振りかぶり、黒髪をなびかせて、ざくろがブレンネと莉子をかばうようにシェオルの前に躍り出た。
「ブレンネさん、莉子さん、こちらへ! すぐに回復しますね」
Uiscaは2人に【龍魂】白龍纏歌を施す。術を発動したことで一瞬、Uiscaの体に白龍に酷似した角や尾が出現した。
「エリンちゃん、一旦交代」
グリューエリンに代わってキヅカがシェオルを押しとどめる。
立ち位置を変える一瞬、キヅカとグリューエリンはハイタッチを交わした。
「グリューさんは僕が回復するねー」
フューリトはアンチボディでグリューエリンの傷を癒す。傷口が塞がって、流血が押しとどめられる。
「んー、と」
フューリトはあたらめて店内を見渡す。
グリューエリンが戦っていたシェオルはキヅカと、ブレンネが抑えていたシェオルはざくろと刃を交わしている。
キヅカの方が裏口に近く、ざくろは正面口に近い位置だ。
店内は狭いが、戦闘に支障はなさそうである。
シェオルの黒々とした体の色は、悪感情を塗り固めたよう。
「ね、グリューさん、あれどこから来たんだろうねーヤなかんじだよねー」
「世界結界はどこでほつれてもおかしくない、ということなのでしょうね……」
フューリトの回復によって、グリューエリンの戦闘により上がっていた息が落ち着いて来た。
側面から強襲するシェオルの腕をざくろは盾と、攻性防壁で軌道をそらす。攻撃が触れた瞬間、防壁が白色の光をあげた。
「超機導パワーオン、弾け跳べっ!」
防壁に食い込んだシェオルの腕を押し出すように、雷撃が発せられる。
その衝撃で、シェオルは後ろに弾き飛ばされる。牙のような手足が床を引っかいた。床に散らばった、壊れたテーブルや椅子、散らばった皿や料理がさらにめちゃくちゃになり、吹き飛ばされた先にある家具がシェオルのぶつかった衝撃で転がったり壊れたりした。
「敵を分断するのは大事だけど、戦闘する場所を広げちゃうと、まずいかも……!?」
シェオルが出現した場所や、グリューエリンたちが戦っていたところなら、すでに家具などは壊れてしまっているので、これ以上壊れても仕方ないと思えるが、まだ壊れていない家具を新たに壊してしまうのはよろしくない。
シェオルが後ろ足で、邪魔な机を蹴り飛ばして立ち上がる。その体を、より鋭い爪や牙が串刺した。
Uiscaの【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻である。
「動きは止めます。おそらく、2体の距離はこのくらいあれば連携は取れないでしょう」
「うん、そうだね……それじゃあ攻めて行くよ! ざくろと共に踊れ武器達☆」
ざくろは機導剣・操牙を発動した。携帯していた剣とタガー、そして盾がざくろの周囲に浮かび上がり、切っ先を敵に向けた。
「ブレンネさん、莉子さん、こちらで一緒に戦ってっ」
「痛みも引いたし、これで魔術に専念できるわ。ありがとう」
莉子は、短く礼を言う。
「ブレンネ、無理をしてはダメよ?」
そして、横にいるブレンネを心配そうに見た。
「平気。こいつ殴っても良い敵なんでしょ? なら、あたしもやる」
ブレンネの口調は淡々としている。
「……危なくなったら、問答無用で止めるわよ」
莉子はこの状況でブレンネだけを仲間外れにするのは逆効果だと思ったので、それ以上何も言わなかった。
ざくろはシェオルを剣で突き刺す。同時に操牙で浮遊した剣の一撃も加わる。
ブレンネと莉子は、ざくろとUiscaをサポートするように立ち回っていた。
「じゃ、こっちも攻撃……いくよ!」
キヅカがマグダレーネを媒介にデルタレイを発動する。虚空に現れた輝く三角形の2つの頂点から、光線が伸びてシェオルの体を焼き焦がす。キヅカは敵の足を先に潰すことにした。狙いを正確につけたために、威力は低下したが、キヅカの無事を祈る思いがそれを相殺した。
その光線の輝きに、グリューエリンは優しい思いが込められているのを感じた。
「私も、まだ、戦えます」
グリューエリンは双剣を構え、シェオルに斬りかかる。
シェオルは、キヅカとグリューエリンに対し、腕と足を外側に突き出して勢いよく独楽のように回転させた。
爪のような腕先や足先がキヅカの盾と擦過して火花をあげる。発動した攻性防壁の電撃がシェオルに絡みついた。
グリューエリンも剣を構えて攻撃をいなす。フューリトが発動したホーリーヴェールが淡い光を発して消えていった。グリューエリンもハンターが到着し、戦力が増したことで、足止めから敵の討伐に目的を切り替えている。彼女は、キヅカがしたように、足を狙って攻撃する。
「こんなところで、負けてらんないもんな……!」
デルタレイの光線が冴え渡る。
しかし、シェオルもやられるばかりではない。
上半身を起こして、両の腕を獣の牙のようにキヅカへ振り下ろした。
「ぐっ……!」
盾で片方の腕は防ぐも、反対の腕は、鎧を貫通して体に深く突き刺さる。攻性防壁の名残のような紫電が弱々しくシェオルに巻き付いていた。
「こん、の……!」
その紫電が勢いよく発光し、シェオルを1スクエアだけ弾き飛ばした。シェオルの両腕は、弾かれるに従って、ずるりと血を引きずって抜けた。
傷口から噴出した血液がキヅカの頬を濡らす。
「はーい、回復するよー」
フューリトがアンチボディで出血を止める。それでも回復量が追いつかないので、キヅカはエナジーショットで傷を塞ぐ。
「あんまり動かないでねぇ」
フューリトがエクラ・ソードの切っ先を敵に向けて[SA]により強度の増したジャッジメントを撃ち込んだ。
弾き飛ばされたシェオルが杭に縫い付けられて移動を封じられる。
グリューエリンがシェオルに肉薄し、ダメージを与えた。シェオルの攻撃は、剣と、フューリトのホーリーヴェールで防御するので、大きな傷にはならず、即座に攻勢に移る。
キヅカはブレンネの方をちらりと見た。
ブレンネはUiscaとざくろたちと戦っている。
問題ない──今の所は。
Uiscaは店の正面口を背にして戦っていた。この場から逃げたら困る誰かを止めるため。
ブレンネは近接攻撃を主軸にし、莉子は後方からハンターたちを支援するように魔法を紡いでいた。
強化術式・紫電により、電流に変換されたマテリアルがざくろの反応速度を上げている。残像を残すような速度で、繰り出される一撃が敵の体に突き刺さる。
シェオルが、ざくろの体を吹き飛ばそうと横薙ぎに腕を払うが、ざくろ自身が構えた盾と、操牙によって浮遊する盾が攻撃を受け止める。シェオルの体は硬いのか、金属同士がぶつかるような音がした。
「好きには、させないから……!」
盾越しに伝わった衝撃で、体が震える。
シェオルがざくろに攻撃している隙に、ブレンネが後ろに回って、ナイフで斬り付けようとするが、敵は後ろ足を持ち上げて、ブレンネを蹴り飛ばした。
苦鳴を上げて、ブレンネが吹き飛んだ。
「ブレンネさん!」
Uiscaが声をかける。
「大丈夫、ちょっとぶっ飛んだだけでしょ?」
ブレンネはすぐに起き上がる。
「それに、無理をするほどあたしもバカじゃないわ。こういった荒事はハンターとか軍人の方が向いてるものね」
ブレンネは再びナイフを握り直し、攻撃の隙を伺う。
「人々の平和な暮らしの為にも、絶対やっつけるよ!」
剣を踊らせて、ざくろがシェオルを斬り裂いた。
「ええ、とにかく倒さないと話になりませんから……!」
Uiscaは【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻で、シェオルの自由を奪う。
莉子もマジックアローで攻撃する。
ざくろの剣戟とともに、操牙の剣も踊る。
シェオルの腕や足による攻撃は盾で防御する。鈍い金属音がその度に大気を揺らした。
Uiscaの【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻は高火力で、確実にシェオルの体にダメージを与えていく。
そして、ついに、敵の体にうっすらとした亀裂が入る。
「もう少し……!」
立ち上がり、獣が獲物を噛み砕くように、両腕を牙にして上から強襲するようなシェオルの攻撃を、ざくろの攻性防壁が受け止める。電撃が迸り、敵の攻撃がいくらか鈍った。
その攻撃を難なくざくろは2枚の盾で受け流す。
勢いのままに、シェオルはつんのめるように地面に腕を突き立てた。
「隙あり!」
シェオルの腕を、ざくろは上段から剣を振り下ろして、叩き斬る。
ばきり、とシェオルの腕がひしゃげた。
追い討ちをかけるように、Uiscaの【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻の黒龍の牙が、シェオルの歪んだ腕に喰らいついた。
「腕がなくなれば、攻撃はできませんよね?」
それでもシェオルはかろうじてくっついている腕をふるって、ざくろを殴り飛ばそうとしたが、ざくろの盾に腕が触れた途端、流石にUiscaの攻撃で耐久限度を超えていたのだろう、どこか儚げな音を立てて完全にへし折れて、腕先が宙を舞った。
3本足になったシェオル。短くなった腕を棍棒のように振るうが、ざくろはそれをたやすく躱す。腕という支柱を失ったためか、体勢が不安定になりシェオルの攻撃には勢いがなくなった。
それでも、シェオルは体を独楽のように回転させて周囲を斬り裂くが、ざくろは盾で、ブレンネは後方転回を決めて回避した。
「このお店は、戦いの場所ではありません。ここが居場所となる人がきっといるはず。だから──」
Uiscaは【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻を紡ぐ。龍爪がシェオルを上から押しつぶすように顕現した。シェオルは3本足で踏ん張るも、やはり支柱のない方に傾く。
さらに莉子のマジックアローが飛来して、シェオルに衝撃を与える。
「長引かせはしない」
ざくろが剣を体に引き付けた。剣術の居合に似た体勢になる。
「強制……解放!」
ざくろの握る、カオスウィースがかたかた震え始めた。解放錬成により強制解放されたマテリアルが、剣という外装を壊しかねないほど力を荒ぶらせているのだ。ざくろはそれを冷静に制御し、マテリアルの流れを「斬る」ことにのみ集中させる。これにより震えは収まり、血色の刃は眩いばかりに輝き始めた。
「加速装置っ……」
強化術式・紫電により、ざくろは身体的な能力を強化する。
ざくろの赤い瞳がシェオルを捉えた。
「これで止めだ、魔導剣・禍炎Xの字斬り!」
ざくろは剣を逆袈裟に振り抜く。
同時に、操牙によって浮遊する禍炎剣「レーヴァテイン」がざくろの太刀筋とXを書くように振り下ろされた。
シェオルは4分割されて、床に崩れ落ち、塵になって消えていった。
「残り1体ね」
そうカウントしたのはブレンネである。彼女はやはりどこか虚な顔であった。
「ブレンネ、その、大丈夫? 怪我とか……」
ざくろは、ブレンネの様子が気にかかる。
「平気。あんたたち強いんでしょ? なんとかしてくれるって、信じてるから」
ブレンネはそれだけ答えて、もう1体のシェオルに向かっていった。
だが、その言葉は、信頼を示すものには聞こえなかった。
キヅカにはある思惑があった。ブレンネに敵の止めをさせることである。それにより、この酒場を彼女が守ったという構図を作りたいのだ。
キヅカのデルタレイがシェオルの足を切り落とした。切断面のなだらかな、鮮やかな一撃であった。
上記の思惑と、脚を狙うという精密攻撃で、キヅカの一撃あたりの威力は落ちている。
さて、ざくろとUiscaたちが担当していたシェオルは討伐された。残りは1体である。それも度重なる攻撃で体のいたるところに罅が入っている。体力も残り少ないだろう。
ブレンネは誰に言われるでもなく、シェオルへ飛び込み斬りつける。
ならば、とキヅカが機導砲で、ブレンネを支援した。
シェオルが、累積したダメージに耐えかねて、体勢を崩す。
「ブレンネ、止めを──」
キヅカが呼ぶより速く、ブレンネは逆手に持ったナイフを振り下ろした。
だが、その攻撃は一度では終わらなかった。
ブレンネは何度もナイフを振り下ろして敵を滅多刺しにする。それは戦闘行為ではなく八つ当たりに等しかった。
シェオルは最期の力を振り絞って、ブレンネを遠ざけようとするが、彼女は避けることもしない。
「あんたたちのおかげで台無しよ。どうしてくれるの? これからどうすればいいの?」
ナイフは乱雑な扱いのために、シェオルに刺さったところで、遂に刃の部分が折れてしまった。
「本当にむかつくのよ!!」
ブレンネは力の限りにシェオルを蹴っ飛ばした。
倒れたシェオルの体は、それで塵になってこの世界から消滅する。
「あーあ、」
ブレンネは使い物にならなくなったナイフを投げ捨てた。
「こんなんじゃ、今日はもう、ライブはできないわね」
言う通り、シェオルの襲来で店の中はめちゃくちゃだし、ブレンネの衣装も戦闘行為によりところどころ破け、血が滲んでいる。片付ける必要も、着替える必要もあるし、前者には時間がかかりそうだった。
「……虚しいものね、八つ当たりって」
ブレンネが自虐的に言う。
他に誰も喋ることはできなかった。それでも、キヅカはエナジーショットでブレンネの傷を癒した。
「ありがと。……でもまあ、多少はすっきりしたわ」
「ブレンネさん、あの──」
Uiscaの言葉を、しかしブレンネが制した。
「ごめん。まずはあたしに喋らせて。多分、ひどいことにはならないから」
フューリトはしばし様子を見守ることにする。ブレンネは意外と落ち着いているからだ。
ブレンネは深呼吸をしてから、グリューエリンに向き合う。
グリューエリンはブレンネの視線を受けて、体を強張らせたのが、目に見えてわかった。
「グリューエリン、あたしもあんたに話がある」
空気が張り詰める。
その中を、パルムだけがのんきに植林作業をしていた。
つづく
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 5人 |
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/02/28 09:11:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/24 19:36:33 |