ゲスト
(ka0000)
ナイショのダイコン・パーティ
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/17 07:30
- 完成日
- 2015/01/24 22:26
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
近ごろ、耳に入ってくるニュースはあまり明るくないものばかり。
リムネラ(kz0018)は、最近ため息ばかりついている。
歪虚による、CAM強奪ゲーム――言葉の響きこそ可愛らしくもあるが、正直人類にとってはたまったものではない。これが歪虚側の勝ちとなってしまえば、大きな大きな駒を失ってしまう――そんな、紛れもない危機なのだ。
(リムネラさんが、暗い表情を浮かべているのは……僕たちのせいでもあるんだろうな)
彼女の世話係であるジークは、そんな憂い顔のリムネラに胸を痛めた。
(何か、憂さを晴らせないだろうか。たとえば、リムネラさんを驚かせるような、そんなかたちで)
そんなことを考えていると、ふと、手元にある冊子が目にとまった。
『世界の祭り』と言うタイトルの、リアルブルーの書籍だ。誰か、物好きなハンターが持ち込んでいたのだろうか。
それをぱらぱらとめくるうち、ジークの頭をよぎるものがあった。
……そうだ。
●
「以前、僕はリムネラさんやハンターの皆さんにずいぶんお世話になりました。今でこそハンターは引退していますが、このユニオンに所属して、リムネラさんのお手伝いをしているのは、皆さんのおかげと言って過言ではないでしょう」
ジークは集めたハンターたちにそう言いながら、一枚の紙を渡す。
「……厄払いの、ダイコンパーティ?」
不思議そうな顔をしたハンターに、彼は強く頷いた。
「ええ。リアルブルーのとある地方では、この時期にダイコンを食べることによって無病息災と開運を祈念するのだそうです。ダイコン料理はこの時期おいしいですし、食べ物であたたかくなれば心もほかほかするんじゃないかと、そう思いました」
以前はおどおどした弱気な青年だったとは思えないくらい、彼の声は自信に満ちている。それはリムネラの為なら命をもはれるとそう信じているのもあるだろう。そして事実、そうであるに違いなく。
「だから、リムネラさんにちょっとしたサプライズで、大根を使った料理のパーティをしませんか?」
リムネラは、ガーディナの精神的支柱であるのは間違いない。
そんな彼女と、ガーディナの為に。
そんなわけで、リムネラにはナイショのダイコンパーティ計画が立てられたのだった。
近ごろ、耳に入ってくるニュースはあまり明るくないものばかり。
リムネラ(kz0018)は、最近ため息ばかりついている。
歪虚による、CAM強奪ゲーム――言葉の響きこそ可愛らしくもあるが、正直人類にとってはたまったものではない。これが歪虚側の勝ちとなってしまえば、大きな大きな駒を失ってしまう――そんな、紛れもない危機なのだ。
(リムネラさんが、暗い表情を浮かべているのは……僕たちのせいでもあるんだろうな)
彼女の世話係であるジークは、そんな憂い顔のリムネラに胸を痛めた。
(何か、憂さを晴らせないだろうか。たとえば、リムネラさんを驚かせるような、そんなかたちで)
そんなことを考えていると、ふと、手元にある冊子が目にとまった。
『世界の祭り』と言うタイトルの、リアルブルーの書籍だ。誰か、物好きなハンターが持ち込んでいたのだろうか。
それをぱらぱらとめくるうち、ジークの頭をよぎるものがあった。
……そうだ。
●
「以前、僕はリムネラさんやハンターの皆さんにずいぶんお世話になりました。今でこそハンターは引退していますが、このユニオンに所属して、リムネラさんのお手伝いをしているのは、皆さんのおかげと言って過言ではないでしょう」
ジークは集めたハンターたちにそう言いながら、一枚の紙を渡す。
「……厄払いの、ダイコンパーティ?」
不思議そうな顔をしたハンターに、彼は強く頷いた。
「ええ。リアルブルーのとある地方では、この時期にダイコンを食べることによって無病息災と開運を祈念するのだそうです。ダイコン料理はこの時期おいしいですし、食べ物であたたかくなれば心もほかほかするんじゃないかと、そう思いました」
以前はおどおどした弱気な青年だったとは思えないくらい、彼の声は自信に満ちている。それはリムネラの為なら命をもはれるとそう信じているのもあるだろう。そして事実、そうであるに違いなく。
「だから、リムネラさんにちょっとしたサプライズで、大根を使った料理のパーティをしませんか?」
リムネラは、ガーディナの精神的支柱であるのは間違いない。
そんな彼女と、ガーディナの為に。
そんなわけで、リムネラにはナイショのダイコンパーティ計画が立てられたのだった。
リプレイ本文
●
「人を元気づける力! 料理ってのはそうじゃなきゃね!」
そう言いながら頼もしく腕をぶんぶん振るのはサバイバル生活も長い上に『食』にこだわりを持っている――この根源的な欲が彼の歪虚を倒すための理由ともなっている程に――という、自称貧弱マッチョマン藤堂研司(ka0569)。
「美味しいお料理を食べれば元気百倍、ですわね♪」
ルフィリア・M・アマレット(ka1544)がサファイアの瞳を優しく細めれば、
「そうそう。厄を祓うには笑顔も一番だよ! リムネラさんが笑ってくれるような、そんなパーティにしよう!」
ジュード・エアハート(ka0410)も、楽しそうに頷く。
「それにしても、所変われば何とやら、だな……大根にそんな効果があるとは。未知の習慣は実に興味深い」
辺境の部族で育ったエアルドフリス(ka1856)は、リアルブルーの習慣に興味を抱いた様子。
「うんうん、おもしろい習慣だと私も思うんだねー? 一応リアルブルーの料理なら師匠からある程度習っているからぬ。私もいくつか作ってみようかなー?」
大根が厄除けになるなんて、クリムゾンウェストではあまり聞かないのだろう。エルフの少女コリーヌ・エヴァンズ(ka0828)も、聡明そうな瞳を輝かせながら楽しそうにそんなことを言って見せた。
「リムネラ様(kz0018)は聞くところ普通の少女の感性のようだし、心労を取り除くために尽力させて頂こうかね」
エアルドフリスがそう言いながら周囲の仲間たちを見渡せば、彼らも思いは同じようだ。
「前からもそうだったが、リムネラ嬢は知らぬ間に一人でため込むところもあるようしな……少し自覚をさせる必要があるかな」
以前にもリムネラのために心を砕いてくれたことのあるレイス(ka1541)は、そんなことを思いながら一つ提案をする。
「リムネラ嬢にはファンクラブが存在するし、彼らにも手伝ってもらえるのではないかな。ユニオンの職員にもむろん声をかけて、人を集めてみようと思うが」
規模を大きくしてしまおうと言うことらしい。確かにリムネラは、若いながらもこの『ガーディナ』におけるリーダーであり、精神的支柱だ。彼女の為となれば、動いてくれる人間の数も多いだろう。
「そういうことなら任せてください」
今回相談を持ちかけたジークが頷く。彼はリムネラファンクラブの会長にして、今は彼女の補佐を務めるポジションにいるのだ。リムネラのために動いてくれる人を探すくらい、確かに造作もないことだろう。
「ええ。皆さんで、協力して、リムネラさんに元気になって、もらいましょう。もちろん、私たちも英気を養って、これからに、備えます」
少しばかり口べたなミオレスカ(ka3496)がそう頷けば、それが決意の合図と相成った。
「じゃあ皆で、頑張りましょう!」
誰からともなく手を振り上げる。そんな中、声を失っている少女メイ=ロザリンド(ka3394)も、言葉を発せないでいる代わりに胸の中で小さく祈っていた。
(どうか少しでも、少しでも元気になってもらえますように――)
準備にはそれほど時間のかかるわけではなかった。
大根はクリムゾンウェストでもさして珍しくもない。あとはどんな料理を披露するか、それが問題だった。
幸い、レシピだけなら存分にある。王国、帝国、同盟、辺境――そしてリアルブルー。各地の大根料理に加え、創作料理だって沢山あるだろう。
リムネラはまだ心ここにあらずといった状態で、水面下で彼らが何をしているのか、まったくと言っていいほど気づいていない。
そしてその日はやってきた。
●
その日、当のリムネラを除く誰もが緊張していた。
リムネラはいまだ、気づいていない。
彼女は執務室で、ぼんやりとため息をつくばかり。それはある意味ここ数日の光景であり、心配しないでいるなという方が無理というものだ。もっとも、最近は必要以上の執務というのは回ってきていない。本人は気づいてないが、これも周囲からの心配りの一つだった。
――と、そこへふんわりと漂ってくるのは優しくあたたかい香り。
「……タシカ、今日は会議……ですヨネ?」
ふと我に返ったリムネラは、わずかに首をかしげながらその場を立つ。職員たちはそう言えば、ここのところ妙にそわついていたような気がしなくもない。何かあったのかしら――そう思っていると、小麦色の肌に明るい金の髪をした、どこか眠たげな目の青年が話しかけてきた。エアルドフリスだ。
「おや、リムネラ様じゃないですか。こいつは僥倖。いや、以前の夜煌祭で御姿を拝見しましてね……あれは素晴らしい儀式でした。一度、お話ししてみたいと思っておりましてね」
さらさらと淀みなく言ってみせる。実は彼、辺境ユニオンには縁浅からぬ人物であるのだが、リムネラはあまり気づいていないようだった。そして得意の話術で、リムネラの心を少しでも解きほぐそうと、ひたすらに明るい話題だけを取り上げて話しかける。こうやって話をしていても、彼女の気がそぞろなのは傍目にも見て取れるほどだった。その原因が香りにあるのか、現在の情勢にあるのか、それはわからないけれど――
と、準備が出来た頃合いを見計らい、エアルドフリスは微笑んだ。
「今日はちょっと面白い試みがありましてね。リムネラ様もどうぞ」
リムネラは言われて瞬きをするばかり。しかし『面白い試み』という単語には、惹かれる。その辺りは普通の少女と変わらないのだから。誘われるままに、たどり着いたのは会議室。すると――
「リムネラさん、いらっしゃいませですよー!」
笑顔で声をかけたのはコリーヌだ。ぱたぱたと近づいてきて、嬉しそうに出迎える。
「皆サン……」
リムネラが目を丸くするのも当然だ。そこにはたくさんの、大根を使った料理がテーブルせましと並べられ、さらには見覚えのあるハンターたちが数多くそろっているのだから。
「リムネラ嬢」
後ろから声をかけてきてくれたのはレイスだ。
「……よく来てくれた。これからパーティなんだが、是非参加してくれないか?」
青年は、そういうと少しぎこちなく微笑む。
「パー、ティ?」
「はい。何でもリアルブルーの習俗らしいんですがね、大根には開運厄除だっけ、そういう効果があるらしいですよ」
教えてくれたのはジークさんですけどね、そう言って笑うのはジュード。
「大根は胃腸を整え、喉のあれにも聞く。薬としても優秀なんだ」
エアルドフリスが補足をする。
「だから、今日は大根のフルコース! 皆で分担して作ったんです、是非食べてくださいね!」
そういうと、メイが微笑みかけながらそっとリムネラを席に案内する。目は口ほどにものを言うわけで、言葉などなくてもそれくらいの意思疎通は十分可能だ。
リムネラは言われるままに座り、そして次々現れる料理を目を丸くしながら見つめていた――
●
「まずは前菜だな。食欲増進がないと始まらないだろ?」
そう笑う研司が持ってきたのは、大根とにんじんを使ったなます、そしてシンプルなリアルブルー風のピクルス――千枚漬けだ。
同時にコリーヌがほくほくのふろふき大根を運んでくる。
「なますは俺の故郷では、新年の縁起物なんだ!」
研司がそう言いながら器用に盛りつけると、あら不思議。なますはガーディナの紋章のかたちに盛りつけられていた。
コリーヌのふろふき大根も、適度な厚みのものを四等分されており、頬張りやすいサイズにされている。
「Oh……コレは、とてもおいしい……大根一つでコンナに違うんでスカ?」
リムネラが瞬きを何度も繰り返していると、くすくすと笑う声。
「まだこれは前菜だから、期待していてくださいだね♪」
楽しそうに微笑む彼らをみて、リムネラはただ頷くしかなかった。
(なんだか、リムネラさんのあんな笑顔……久しぶりに見た気が)
ジークがそう胸の中で思うと、それを察したのだろうか、メイがこっくりと頷いた。ユニオンなどの違いはあっても、やはり思うところはあったらしい。
『そう言えば、リムネラさんは雪に何か思い出はありますか?』
そっとスケッチブックを差し出してみると、リムネラはわずかに眉根を寄せた。
「そう……デスね。辺境の北ハ、結構雪が深くテ――」
口を開くと、懐かしそうに昔語りを始める。聖地リタ・ティトは今歪虚の手の中にある、取り戻さねばならない拠点の一つであるが、リムネラにとってみれば同時に懐かしい故郷。
そんな話を自らするというのも、珍しいことだった。リムネラを尊敬しているジークもまた、聞いたことのないような話が多い。
「さて、前菜のお次はサラダ……っと」
大きなボウルに運ばれてきたのは細切り大根と水菜、それに茹でたもやしを加えたものだ。梅風味のたれをかけて食べると、さっぱりした口当たりとしゃきしゃきとした歯ごたえが心地よい。
「まだまだたくさん料理はあるからねー。食欲増進のために、梅風味にしてみたんだよー」
確かにこれなら、まだまだ食べられそうだ。
続いてはスープ、それもリアルブルーの一部では冬の定番・「おでん風スープ」だ。
「ふふーふ。師匠から教わったおでんって料理を、スープ風にアレンジしてみたんだぬ。おでんのままだとおなかに重たいしね?」
コリーヌの力作というそれはまずおでん出汁を取ってから味が染むまで具を煮込み、そのつゆをスープ風に味付ける。更に取り出した出汁を細かく切り、ちょうど雰囲気は和風のミネストローネといった感じだ。口に含むと、独特の風味がふわりと鼻に抜けていく。
「暖かくて……オイシイ」
リムネラの表情も、どこかほっとした感じだった。
「リムネラ嬢。何故こんなパーティがひらかれたかはわかるな? ……別にいつも笑っていろとは言わない。その優しさも、貴方自身なのだから」
レイスが料理の合間にそう言って頷く。もっと弱みを見せて良いのだと、皆がリムネラの力になりたいと思っているのだからと。
「弱さを見せまいとするのは、貴方を好きでいる人を頼りにしていないと言っているようなもの。我儘を言ってもい。もし道を違えても、その時はしかって正してくれる誰かが、きっといる」
レイスの言葉は、胸にしみいる。それはきっと、一人で気を張っていた彼女にとって、一番うれしい言葉だったのかも知れない。
リムネラは小さく頷いて、それから微笑んだ。
「……ツギの料理、ナンですか?」
●
続いては、大根おろしを練り込んで仕上げたという、大根ブレッド。研司の自信作だ。ほんのり甘いのは、シロップを塗ってから焼いたかららしい。切り分けられたパンはふんわりとしていて、見ているだけで空腹がこみ上げてくる。
「無論これだけじゃないぜ? お次はいよいよ今日の主役の一つ、魚料理だ!」
研司が取り出したのはなんとぶり大根。完全な材料はさすがに入手困難だったが、さまざまな代用品で味を出来る限り再現している。
大根とぶりが醤油の香味と照りで彩られ、そして何より魚の独特の味わいもが大根にしみこんでいる。
「……WONDERFUL!」
リムネラは一口食べて思わずそう口に出した。異国情緒溢れる味わいに、誰も彼もが舌鼓を打つ。
「魚と大根って、こんなに相性が良いんですのね」
ルフィリアも驚いたようで、思わず口元に手を当てている。リアルブルーの知恵という奴だろうが、それにしても魚料理の奥深さには驚かされるばかりだった。
「さて、じゃあ次は俺のだね」
ジュードが持ってきたのは、口やすめの氷菓――シャーベット。
薄紅色の、苺風味のそれは、大根を使っているとはとうてい思えない。
「蜂蜜とお砂糖、レモンで味を調えているからわからないと思うけどね」
そう言ってから、ジュードは悪戯っぽくウィンク。
「しかし、この中には一つだけ当たりを仕込んでいまーす。それは苺の代わりにレッドペッパーを混ぜて凍らせた、紅葉おろしシャーベット!」
その瞬間、部屋の中が凍り付く。
それからやや置いて、わずかに眉をしかめているエアルドフリスをみて、けらけらとジュードが笑う。
「俺の料理だもん、もちろん食べるよね?」
エアルドフリスの方も慣れたもので、額にわずかに汗をにじませつつも
「なに、冬場の大根は甘いんだ。皆期待したかね?」
そう言ってのけるあたり、男前であった。周囲の仲間たちはコップを差し出したり逆に味をきいたり、反応は人それぞれ。
――まあ、コレも事前に聞き出していたから出来た芸当であるが。
「続いては、白菜と大根、鶏肉のクリーム煮ですわ」
気を取り直してルフィリアが言う。やわらかく、しかし食べ応えのある大きさの具材は、先ほどのぶり大根とはまた違った風味を醸し出す。どちらかというと、こちらの方が口当たりがまろやかだろうか。
「皆さんにも手伝ってもらいましたの。だって、お料理に込められる気持ちが多ければ多いほど美味しいスパイスになりますもの♪」
少女は嬉しそうに言ってみせる。リムネラもその言葉に同調するようにして頷いた。
「次は、チーズたっぷりの、グラタンです」
ミオレスカの言葉に、仲間たちは驚きの顔。なぜなら、その器こそが大根をくりぬいて作ったものだったからだ。具材はキノコにエビ、それに棒切りにした大根を小麦粉とバターで炒めて蒸し焼きにしたもの。
「熱いので、気を付けてくださいね」
ふうふう言いながらそれを口に入れると、独特のチーズの香りが鼻の奥から広がっていく。
「グラタンは好物でね、うん美味い」
エアルドフリスは満足そうに笑うと、リムネラも笑う。その笑顔で、ミオレスカも笑顔になるのだった。
「本当は、リムネラさんの、昔から食べていた味を、再現したかったんですけれど」
なかなかそれを知るものはいなかったらしい。ちょっと申し訳なさそうに肩をすくめるが、それでもその心遣いが嬉しかった。
そして色とりどりの果物を飾り切したものが出てくる。こちらもルフィリアの力作だ。華やかな印象で、目も口も喜ぶ。
「ルフィも幸せですわ♪ どの料理も美味しいですもの」
このくらいはお手の物、という感じで微笑んでいた。
またそれとほぼ同時にジュードのパウンドケーキも登場。大根の葉と胡麻、レーズンを混ぜた生地で焼いたらしい。粉砂糖でガーディナの紋章が象られており、これもリムネラの目を喜ばせた。
「太りそうデスね」
そんな言葉まで、リムネラの口から出る。
食後には大根の葉と鳩麦から作った茶と紅茶を淹れ、更にジュードが手配した菓子も届く。すっかり皆腹一杯だ。
●
――と、リムネラが口を開いた。
「皆サン……ありがとう。とっても、パワーになりマシタ。まだ大変なコトはたくさんアルけど……」
そう言って礼をするリムネラの表情は、とても穏やかだった。
――悩みはまだあるだろうけれど、助けてくれる人がいることをしっかりと感じることが出来たのだから。
「人を元気づける力! 料理ってのはそうじゃなきゃね!」
そう言いながら頼もしく腕をぶんぶん振るのはサバイバル生活も長い上に『食』にこだわりを持っている――この根源的な欲が彼の歪虚を倒すための理由ともなっている程に――という、自称貧弱マッチョマン藤堂研司(ka0569)。
「美味しいお料理を食べれば元気百倍、ですわね♪」
ルフィリア・M・アマレット(ka1544)がサファイアの瞳を優しく細めれば、
「そうそう。厄を祓うには笑顔も一番だよ! リムネラさんが笑ってくれるような、そんなパーティにしよう!」
ジュード・エアハート(ka0410)も、楽しそうに頷く。
「それにしても、所変われば何とやら、だな……大根にそんな効果があるとは。未知の習慣は実に興味深い」
辺境の部族で育ったエアルドフリス(ka1856)は、リアルブルーの習慣に興味を抱いた様子。
「うんうん、おもしろい習慣だと私も思うんだねー? 一応リアルブルーの料理なら師匠からある程度習っているからぬ。私もいくつか作ってみようかなー?」
大根が厄除けになるなんて、クリムゾンウェストではあまり聞かないのだろう。エルフの少女コリーヌ・エヴァンズ(ka0828)も、聡明そうな瞳を輝かせながら楽しそうにそんなことを言って見せた。
「リムネラ様(kz0018)は聞くところ普通の少女の感性のようだし、心労を取り除くために尽力させて頂こうかね」
エアルドフリスがそう言いながら周囲の仲間たちを見渡せば、彼らも思いは同じようだ。
「前からもそうだったが、リムネラ嬢は知らぬ間に一人でため込むところもあるようしな……少し自覚をさせる必要があるかな」
以前にもリムネラのために心を砕いてくれたことのあるレイス(ka1541)は、そんなことを思いながら一つ提案をする。
「リムネラ嬢にはファンクラブが存在するし、彼らにも手伝ってもらえるのではないかな。ユニオンの職員にもむろん声をかけて、人を集めてみようと思うが」
規模を大きくしてしまおうと言うことらしい。確かにリムネラは、若いながらもこの『ガーディナ』におけるリーダーであり、精神的支柱だ。彼女の為となれば、動いてくれる人間の数も多いだろう。
「そういうことなら任せてください」
今回相談を持ちかけたジークが頷く。彼はリムネラファンクラブの会長にして、今は彼女の補佐を務めるポジションにいるのだ。リムネラのために動いてくれる人を探すくらい、確かに造作もないことだろう。
「ええ。皆さんで、協力して、リムネラさんに元気になって、もらいましょう。もちろん、私たちも英気を養って、これからに、備えます」
少しばかり口べたなミオレスカ(ka3496)がそう頷けば、それが決意の合図と相成った。
「じゃあ皆で、頑張りましょう!」
誰からともなく手を振り上げる。そんな中、声を失っている少女メイ=ロザリンド(ka3394)も、言葉を発せないでいる代わりに胸の中で小さく祈っていた。
(どうか少しでも、少しでも元気になってもらえますように――)
準備にはそれほど時間のかかるわけではなかった。
大根はクリムゾンウェストでもさして珍しくもない。あとはどんな料理を披露するか、それが問題だった。
幸い、レシピだけなら存分にある。王国、帝国、同盟、辺境――そしてリアルブルー。各地の大根料理に加え、創作料理だって沢山あるだろう。
リムネラはまだ心ここにあらずといった状態で、水面下で彼らが何をしているのか、まったくと言っていいほど気づいていない。
そしてその日はやってきた。
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その日、当のリムネラを除く誰もが緊張していた。
リムネラはいまだ、気づいていない。
彼女は執務室で、ぼんやりとため息をつくばかり。それはある意味ここ数日の光景であり、心配しないでいるなという方が無理というものだ。もっとも、最近は必要以上の執務というのは回ってきていない。本人は気づいてないが、これも周囲からの心配りの一つだった。
――と、そこへふんわりと漂ってくるのは優しくあたたかい香り。
「……タシカ、今日は会議……ですヨネ?」
ふと我に返ったリムネラは、わずかに首をかしげながらその場を立つ。職員たちはそう言えば、ここのところ妙にそわついていたような気がしなくもない。何かあったのかしら――そう思っていると、小麦色の肌に明るい金の髪をした、どこか眠たげな目の青年が話しかけてきた。エアルドフリスだ。
「おや、リムネラ様じゃないですか。こいつは僥倖。いや、以前の夜煌祭で御姿を拝見しましてね……あれは素晴らしい儀式でした。一度、お話ししてみたいと思っておりましてね」
さらさらと淀みなく言ってみせる。実は彼、辺境ユニオンには縁浅からぬ人物であるのだが、リムネラはあまり気づいていないようだった。そして得意の話術で、リムネラの心を少しでも解きほぐそうと、ひたすらに明るい話題だけを取り上げて話しかける。こうやって話をしていても、彼女の気がそぞろなのは傍目にも見て取れるほどだった。その原因が香りにあるのか、現在の情勢にあるのか、それはわからないけれど――
と、準備が出来た頃合いを見計らい、エアルドフリスは微笑んだ。
「今日はちょっと面白い試みがありましてね。リムネラ様もどうぞ」
リムネラは言われて瞬きをするばかり。しかし『面白い試み』という単語には、惹かれる。その辺りは普通の少女と変わらないのだから。誘われるままに、たどり着いたのは会議室。すると――
「リムネラさん、いらっしゃいませですよー!」
笑顔で声をかけたのはコリーヌだ。ぱたぱたと近づいてきて、嬉しそうに出迎える。
「皆サン……」
リムネラが目を丸くするのも当然だ。そこにはたくさんの、大根を使った料理がテーブルせましと並べられ、さらには見覚えのあるハンターたちが数多くそろっているのだから。
「リムネラ嬢」
後ろから声をかけてきてくれたのはレイスだ。
「……よく来てくれた。これからパーティなんだが、是非参加してくれないか?」
青年は、そういうと少しぎこちなく微笑む。
「パー、ティ?」
「はい。何でもリアルブルーの習俗らしいんですがね、大根には開運厄除だっけ、そういう効果があるらしいですよ」
教えてくれたのはジークさんですけどね、そう言って笑うのはジュード。
「大根は胃腸を整え、喉のあれにも聞く。薬としても優秀なんだ」
エアルドフリスが補足をする。
「だから、今日は大根のフルコース! 皆で分担して作ったんです、是非食べてくださいね!」
そういうと、メイが微笑みかけながらそっとリムネラを席に案内する。目は口ほどにものを言うわけで、言葉などなくてもそれくらいの意思疎通は十分可能だ。
リムネラは言われるままに座り、そして次々現れる料理を目を丸くしながら見つめていた――
●
「まずは前菜だな。食欲増進がないと始まらないだろ?」
そう笑う研司が持ってきたのは、大根とにんじんを使ったなます、そしてシンプルなリアルブルー風のピクルス――千枚漬けだ。
同時にコリーヌがほくほくのふろふき大根を運んでくる。
「なますは俺の故郷では、新年の縁起物なんだ!」
研司がそう言いながら器用に盛りつけると、あら不思議。なますはガーディナの紋章のかたちに盛りつけられていた。
コリーヌのふろふき大根も、適度な厚みのものを四等分されており、頬張りやすいサイズにされている。
「Oh……コレは、とてもおいしい……大根一つでコンナに違うんでスカ?」
リムネラが瞬きを何度も繰り返していると、くすくすと笑う声。
「まだこれは前菜だから、期待していてくださいだね♪」
楽しそうに微笑む彼らをみて、リムネラはただ頷くしかなかった。
(なんだか、リムネラさんのあんな笑顔……久しぶりに見た気が)
ジークがそう胸の中で思うと、それを察したのだろうか、メイがこっくりと頷いた。ユニオンなどの違いはあっても、やはり思うところはあったらしい。
『そう言えば、リムネラさんは雪に何か思い出はありますか?』
そっとスケッチブックを差し出してみると、リムネラはわずかに眉根を寄せた。
「そう……デスね。辺境の北ハ、結構雪が深くテ――」
口を開くと、懐かしそうに昔語りを始める。聖地リタ・ティトは今歪虚の手の中にある、取り戻さねばならない拠点の一つであるが、リムネラにとってみれば同時に懐かしい故郷。
そんな話を自らするというのも、珍しいことだった。リムネラを尊敬しているジークもまた、聞いたことのないような話が多い。
「さて、前菜のお次はサラダ……っと」
大きなボウルに運ばれてきたのは細切り大根と水菜、それに茹でたもやしを加えたものだ。梅風味のたれをかけて食べると、さっぱりした口当たりとしゃきしゃきとした歯ごたえが心地よい。
「まだまだたくさん料理はあるからねー。食欲増進のために、梅風味にしてみたんだよー」
確かにこれなら、まだまだ食べられそうだ。
続いてはスープ、それもリアルブルーの一部では冬の定番・「おでん風スープ」だ。
「ふふーふ。師匠から教わったおでんって料理を、スープ風にアレンジしてみたんだぬ。おでんのままだとおなかに重たいしね?」
コリーヌの力作というそれはまずおでん出汁を取ってから味が染むまで具を煮込み、そのつゆをスープ風に味付ける。更に取り出した出汁を細かく切り、ちょうど雰囲気は和風のミネストローネといった感じだ。口に含むと、独特の風味がふわりと鼻に抜けていく。
「暖かくて……オイシイ」
リムネラの表情も、どこかほっとした感じだった。
「リムネラ嬢。何故こんなパーティがひらかれたかはわかるな? ……別にいつも笑っていろとは言わない。その優しさも、貴方自身なのだから」
レイスが料理の合間にそう言って頷く。もっと弱みを見せて良いのだと、皆がリムネラの力になりたいと思っているのだからと。
「弱さを見せまいとするのは、貴方を好きでいる人を頼りにしていないと言っているようなもの。我儘を言ってもい。もし道を違えても、その時はしかって正してくれる誰かが、きっといる」
レイスの言葉は、胸にしみいる。それはきっと、一人で気を張っていた彼女にとって、一番うれしい言葉だったのかも知れない。
リムネラは小さく頷いて、それから微笑んだ。
「……ツギの料理、ナンですか?」
●
続いては、大根おろしを練り込んで仕上げたという、大根ブレッド。研司の自信作だ。ほんのり甘いのは、シロップを塗ってから焼いたかららしい。切り分けられたパンはふんわりとしていて、見ているだけで空腹がこみ上げてくる。
「無論これだけじゃないぜ? お次はいよいよ今日の主役の一つ、魚料理だ!」
研司が取り出したのはなんとぶり大根。完全な材料はさすがに入手困難だったが、さまざまな代用品で味を出来る限り再現している。
大根とぶりが醤油の香味と照りで彩られ、そして何より魚の独特の味わいもが大根にしみこんでいる。
「……WONDERFUL!」
リムネラは一口食べて思わずそう口に出した。異国情緒溢れる味わいに、誰も彼もが舌鼓を打つ。
「魚と大根って、こんなに相性が良いんですのね」
ルフィリアも驚いたようで、思わず口元に手を当てている。リアルブルーの知恵という奴だろうが、それにしても魚料理の奥深さには驚かされるばかりだった。
「さて、じゃあ次は俺のだね」
ジュードが持ってきたのは、口やすめの氷菓――シャーベット。
薄紅色の、苺風味のそれは、大根を使っているとはとうてい思えない。
「蜂蜜とお砂糖、レモンで味を調えているからわからないと思うけどね」
そう言ってから、ジュードは悪戯っぽくウィンク。
「しかし、この中には一つだけ当たりを仕込んでいまーす。それは苺の代わりにレッドペッパーを混ぜて凍らせた、紅葉おろしシャーベット!」
その瞬間、部屋の中が凍り付く。
それからやや置いて、わずかに眉をしかめているエアルドフリスをみて、けらけらとジュードが笑う。
「俺の料理だもん、もちろん食べるよね?」
エアルドフリスの方も慣れたもので、額にわずかに汗をにじませつつも
「なに、冬場の大根は甘いんだ。皆期待したかね?」
そう言ってのけるあたり、男前であった。周囲の仲間たちはコップを差し出したり逆に味をきいたり、反応は人それぞれ。
――まあ、コレも事前に聞き出していたから出来た芸当であるが。
「続いては、白菜と大根、鶏肉のクリーム煮ですわ」
気を取り直してルフィリアが言う。やわらかく、しかし食べ応えのある大きさの具材は、先ほどのぶり大根とはまた違った風味を醸し出す。どちらかというと、こちらの方が口当たりがまろやかだろうか。
「皆さんにも手伝ってもらいましたの。だって、お料理に込められる気持ちが多ければ多いほど美味しいスパイスになりますもの♪」
少女は嬉しそうに言ってみせる。リムネラもその言葉に同調するようにして頷いた。
「次は、チーズたっぷりの、グラタンです」
ミオレスカの言葉に、仲間たちは驚きの顔。なぜなら、その器こそが大根をくりぬいて作ったものだったからだ。具材はキノコにエビ、それに棒切りにした大根を小麦粉とバターで炒めて蒸し焼きにしたもの。
「熱いので、気を付けてくださいね」
ふうふう言いながらそれを口に入れると、独特のチーズの香りが鼻の奥から広がっていく。
「グラタンは好物でね、うん美味い」
エアルドフリスは満足そうに笑うと、リムネラも笑う。その笑顔で、ミオレスカも笑顔になるのだった。
「本当は、リムネラさんの、昔から食べていた味を、再現したかったんですけれど」
なかなかそれを知るものはいなかったらしい。ちょっと申し訳なさそうに肩をすくめるが、それでもその心遣いが嬉しかった。
そして色とりどりの果物を飾り切したものが出てくる。こちらもルフィリアの力作だ。華やかな印象で、目も口も喜ぶ。
「ルフィも幸せですわ♪ どの料理も美味しいですもの」
このくらいはお手の物、という感じで微笑んでいた。
またそれとほぼ同時にジュードのパウンドケーキも登場。大根の葉と胡麻、レーズンを混ぜた生地で焼いたらしい。粉砂糖でガーディナの紋章が象られており、これもリムネラの目を喜ばせた。
「太りそうデスね」
そんな言葉まで、リムネラの口から出る。
食後には大根の葉と鳩麦から作った茶と紅茶を淹れ、更にジュードが手配した菓子も届く。すっかり皆腹一杯だ。
●
――と、リムネラが口を開いた。
「皆サン……ありがとう。とっても、パワーになりマシタ。まだ大変なコトはたくさんアルけど……」
そう言って礼をするリムネラの表情は、とても穏やかだった。
――悩みはまだあるだろうけれど、助けてくれる人がいることをしっかりと感じることが出来たのだから。
依頼結果
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相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/17 04:38:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/12 19:35:42 |