ゲスト
(ka0000)
白き日の準備は宜しいか(龍騎士勢まだです
マスター:鮎川 渓

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/08 07:30
- 完成日
- 2019/03/20 21:32
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
【Take1】
ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ~♪
ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ~♪
軽快な音楽の幻聴をBGMに、エプロン姿のシャンカラ(kz0226)とダルマ(kz0251)がエプロン姿でキッチンに立っていた。
「さあ、じゃあ早速『ざっはとるて』を作っていこうかダルマさん!」
「おい待てよ隊長殿、『じゃあ』じゃねェよ何なんだこの状況はよォ」
「レシピはあるし、失敗してもいいよう材料は多めに用意したから安心だね!」
「何で失敗する前提で準備してンだ、そこからして既に何も安心じゃねェよ?」
「ふむふむ。まずはチョコを砕くんだね。ダルマさんよろしくね」
「よぉわからんが砕きゃいいんだな?」
ダルマは袋に入ったぶ厚い製菓用板チョコに思い切り拳を振り下ろす。
次の瞬間、破裂音と共に粉々になったチョコと袋の残骸がキッチン中に飛び散った。
【Take2】
チョコの破片が壁や天井に飛び散ったキッチンに、相変わらずシャンカラとダルマがエプロン姿で立っていた。
「次は砕いたチョコを湯煎にかけて溶かすんだってさダルマさん」
「『湯煎』ってのは何だァ?」
「……『湯』っていうくらいだから、お湯を使うんだろうね?」
シャンカラ、鍋いっぱいに沸かした湯へ砕いたチョコをざぁっと投入。
味も色味も恐ろしくうっすい液体が錬成された。
【Take3】
うっすい甘い香りの充満するキッチンに、相変わらずシャンカラとダルマが以下省略。
「どうも『湯煎』ってのは、湯にチョコをぶち込むことじゃないらしいなァ」
「あ、『チョコを湯煎にかけて』ってことは、『かける』んじゃないかな?」
「チョコに湯を?」
「だって『かける』って。少量のお湯をかけて溶かすんじゃないかな」
「その割にゃ、湯の分量がレシピに載ってねぇってのはどういうこった?」
「お菓子作りをする人には暗黙の了解みたいな、知ってて当然な事柄なのかもしれないね……」
「菓子作りってのは初心者お断りなのかよ、怖ェな!?」
ふたりは無駄に慄きつつ砕いたチョコに湯をかけていく。
何だかめっちょりした茶色い物体が生成された。
【Take4】
「じゃあ今度は卵を割ろう。黄身と白身を分けなきゃいけないから上手く割らないと、」
時既に遅し。ダルマの豪腕でボールの縁に叩きつけられた卵は、爆発したかの勢いで辺りに飛散した。
【Take5】
「嘘だろうダルマさん、まさか卵もちゃんと割れないなんて! 一体どうやって生活してるんだい!?」
「おめぇこそ何だ、簡単な料理くれェできたはずだろ!?」
「お菓子作りしたのはこの前のケーキバトルが初めてだったよ!」
「あっ、思い出した! 隊長殿テメェこの野郎ッ、ケーキの上に飾り乗せるだけの一番ラクな係とってったろ!?」
「それは成り行きで、」
「うるせェ、これでも喰らえ!」
ダルマは卵でドロドロになっていた手をシャンカラの胸に押し付けた。もはや飛び散った何やかやで汚れていたエプロンの胸元に卵だったものがこびりつく。それを見たシャンカラの額に青筋が浮いた。
「……ダルマさん、食べ物で遊んじゃいけないって子供の頃教わらなかったのかい?」
「ちょっと手ェ拭っただけだ、おめぇのエプロンでだけどなァ」
殺気立った男達の視線が、汚れきったキッチンの中で交錯した。
●
元新米龍騎士の双子・カマラとカルマは、迫る『ほわいとでー』について頭を悩ませていた。先達ての『ばれんたいん』の日、西方の文化を柔軟に取り入れエンジョイしている少女龍騎士達にチョコ(義理)を貰ったので、そのお返しをしなければならないのだ。
そんなふたりに朗報が。
「聞いたかカルマ、今日隊長とダルマさんが『ほわいとでー』に配るお菓子を作ってるってさぁ」
「なら早速手伝いに行こう、うまくすれば完成したお菓子を分けてもらえるかも!?」
あわよくばそのお菓子をお返しに……と目論み現場を訪れた双子だったが、目に飛び込んで来たのはチョコや卵でどろどろになったキッチンで胸ぐら掴み合っているふたりの姿だった。
「何だぁこの地獄絵図……」
「これじゃあお返しどころじゃないねぇ!?」
「でもお返ししなかったら後が怖いしなぁ」
「言ってる場合かよぅ兄貴、まずはふたりを止めねぇと!」
そうしてカルマはふたりの仲裁に飛び込み、カマラはお菓子作りを手伝ってくれそうな人を求めハンターオフィスに走った。
【Take1】
ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ~♪
ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ~♪
軽快な音楽の幻聴をBGMに、エプロン姿のシャンカラ(kz0226)とダルマ(kz0251)がエプロン姿でキッチンに立っていた。
「さあ、じゃあ早速『ざっはとるて』を作っていこうかダルマさん!」
「おい待てよ隊長殿、『じゃあ』じゃねェよ何なんだこの状況はよォ」
「レシピはあるし、失敗してもいいよう材料は多めに用意したから安心だね!」
「何で失敗する前提で準備してンだ、そこからして既に何も安心じゃねェよ?」
「ふむふむ。まずはチョコを砕くんだね。ダルマさんよろしくね」
「よぉわからんが砕きゃいいんだな?」
ダルマは袋に入ったぶ厚い製菓用板チョコに思い切り拳を振り下ろす。
次の瞬間、破裂音と共に粉々になったチョコと袋の残骸がキッチン中に飛び散った。
【Take2】
チョコの破片が壁や天井に飛び散ったキッチンに、相変わらずシャンカラとダルマがエプロン姿で立っていた。
「次は砕いたチョコを湯煎にかけて溶かすんだってさダルマさん」
「『湯煎』ってのは何だァ?」
「……『湯』っていうくらいだから、お湯を使うんだろうね?」
シャンカラ、鍋いっぱいに沸かした湯へ砕いたチョコをざぁっと投入。
味も色味も恐ろしくうっすい液体が錬成された。
【Take3】
うっすい甘い香りの充満するキッチンに、相変わらずシャンカラとダルマが以下省略。
「どうも『湯煎』ってのは、湯にチョコをぶち込むことじゃないらしいなァ」
「あ、『チョコを湯煎にかけて』ってことは、『かける』んじゃないかな?」
「チョコに湯を?」
「だって『かける』って。少量のお湯をかけて溶かすんじゃないかな」
「その割にゃ、湯の分量がレシピに載ってねぇってのはどういうこった?」
「お菓子作りをする人には暗黙の了解みたいな、知ってて当然な事柄なのかもしれないね……」
「菓子作りってのは初心者お断りなのかよ、怖ェな!?」
ふたりは無駄に慄きつつ砕いたチョコに湯をかけていく。
何だかめっちょりした茶色い物体が生成された。
【Take4】
「じゃあ今度は卵を割ろう。黄身と白身を分けなきゃいけないから上手く割らないと、」
時既に遅し。ダルマの豪腕でボールの縁に叩きつけられた卵は、爆発したかの勢いで辺りに飛散した。
【Take5】
「嘘だろうダルマさん、まさか卵もちゃんと割れないなんて! 一体どうやって生活してるんだい!?」
「おめぇこそ何だ、簡単な料理くれェできたはずだろ!?」
「お菓子作りしたのはこの前のケーキバトルが初めてだったよ!」
「あっ、思い出した! 隊長殿テメェこの野郎ッ、ケーキの上に飾り乗せるだけの一番ラクな係とってったろ!?」
「それは成り行きで、」
「うるせェ、これでも喰らえ!」
ダルマは卵でドロドロになっていた手をシャンカラの胸に押し付けた。もはや飛び散った何やかやで汚れていたエプロンの胸元に卵だったものがこびりつく。それを見たシャンカラの額に青筋が浮いた。
「……ダルマさん、食べ物で遊んじゃいけないって子供の頃教わらなかったのかい?」
「ちょっと手ェ拭っただけだ、おめぇのエプロンでだけどなァ」
殺気立った男達の視線が、汚れきったキッチンの中で交錯した。
●
元新米龍騎士の双子・カマラとカルマは、迫る『ほわいとでー』について頭を悩ませていた。先達ての『ばれんたいん』の日、西方の文化を柔軟に取り入れエンジョイしている少女龍騎士達にチョコ(義理)を貰ったので、そのお返しをしなければならないのだ。
そんなふたりに朗報が。
「聞いたかカルマ、今日隊長とダルマさんが『ほわいとでー』に配るお菓子を作ってるってさぁ」
「なら早速手伝いに行こう、うまくすれば完成したお菓子を分けてもらえるかも!?」
あわよくばそのお菓子をお返しに……と目論み現場を訪れた双子だったが、目に飛び込んで来たのはチョコや卵でどろどろになったキッチンで胸ぐら掴み合っているふたりの姿だった。
「何だぁこの地獄絵図……」
「これじゃあお返しどころじゃないねぇ!?」
「でもお返ししなかったら後が怖いしなぁ」
「言ってる場合かよぅ兄貴、まずはふたりを止めねぇと!」
そうしてカルマはふたりの仲裁に飛び込み、カマラはお菓子作りを手伝ってくれそうな人を求めハンターオフィスに走った。
リプレイ本文
●
無事調理を開始し、キッチンから甘い匂いが漂いだした頃。
「大変だったな……」
廊下では、双子から到着前の惨状を聞いたクラン・クィールス(ka6605)が同情を滲ませていた。傍らのサフィーア(ka6909)はそんな彼を横目で見、先の蹴球試合を思い出す。
(釘バットの人だわ……)
彼の釘バットによる大根斬りシュートは両陣営に衝撃を与えた。が、装甲のアームで球を掴み疾走した彼女もまた大いに観客の度肝を抜いたのだった。もとい。双子へチョコを差し出し労う。
「疲労には糖分摂取が有効だそうよ」
「あざっす!」
双子はリフィカ・レーヴェンフルス(ka5290)から貰った果実の砂糖煮をふたりにシェアし、もぐもぐ。双子に笑顔が戻り安堵したふたりは、双子をキッチンへ誘った。
「手はいくつ在っても良いわ。手伝えばもっと食べられる可能性は有るし」
「ああ。疲れているなら無理にとは言わないが……お前達も返す相手が居るのなら、手伝って損は無いと思うぞ?」
「多く作れば貰える確率も高まるでしょう。どうかしら?」
兄貴と慕うクラン、お菓子をくれたサフィーアの言葉に、双子が頷こうとした時だ。
「待った、そんなもんどうする気だッ!?」
「ダルマ君、シャンカラ君、落ち着くんだ」
キッチンからカイン・シュミート(ka6967)とリフィカのただならぬ声が響いてきた。
「不測の事態が発生したものと推察するわ」
ふたりは双子を伴いキッチンへ。4人の目に飛び込んできたのは、包丁を短剣のごとく構えたシャンカラと、戦斧を振りかぶったダルマの姿だった。
●
十数分前。
事件現場もといキッチンに5名のハンターが到着した。
「ここは常に何かしら問題が起きている様な……気のせいかな?」
「否定できないのが我が故郷の悲しいところね……はっ! 私の実家は他所だし!?」
苦笑するリフィカの横で、トリエステ・ウェスタ(ka6908)は何故かわたわた。ふたりは廊下に座り込む双子へ歩み寄り、
「カルマ君とカマラ君はお疲れ様。少し休んでおいで」
リフィカは件の砂糖煮を渡した。大人な気遣いに双子の目が潤む。白いドレス姿のトリエステは、ふたりの前に屈み込み柳眉を寄せた。
「ごめん、今日もプレゼント持ってこられなかったのよ。まあ、なんか堪能したらしいから大丈夫……よね?」
クリスマスに彼らへプレゼントを渡せなかったことを侘びたが、双子の耳には届いていなかった。何故なら今彼らの眼前には、前屈みになり強調された彼女のお胸が。ミニスカサンタ姿に続き、本日は豊かな谷間を堪能した双子、真っ赤な顔して無言のサムズアップで応じた。
先にキッチンへ入ったクランは室内を見回し、
「綺麗にはなっているが……どんな惨状だったんだか」
シャンカラとダルマは照れ笑いで流そうとしたが、リフィカが笑顔でその肩を叩く。
「キッチンは料理人の聖域、喧嘩をする場所じゃないぞ?」
一見穏やかな笑みが醸す絶対零度の威圧感に、震え上がる脳筋達。
「しょうがねぇな……っと、結構量作るんだったよな。どれ位作る? 早速始めようぜ」
苦笑いのカインのとりなしで、ザッハトルテ作りがリスタートした。
ハンター達は調理工程を前後半に分け、担当分担してきていた。前半はリフィカ・トリエステ・カインが担当だ。
着手前、リフィカとトリエステはショップで買ってきたザッハトルテを見せた。
「これが完成品、見本ね」
「実物を見た方がイメージが湧くだろう?」
「せっかくだからこれもみんなで食べ、る?」
トリエステの声が尻すぼみになる。何故なら元上司達が今にも食いつきそうな勢いで身を乗り出してきたからだ。
「あー……そうそう。ダルマさんには聖輝節のプレゼント代わりにお酒持ってきたわ。あとでこれ食べつつ酌しましょうか?」
「お、嬉しいねェ!」
「試食もするだろ? 食べ比べができるな」
とカイン。
「宜しくお願いします」
深々頭を下げたシャンカラは、早速レシピを指し困り顔。
「お恥ずかしいんですが、最初の『湯煎』からして分からなくて」
「……湯煎ってのは、お湯をかけることでもお湯にぶち込むことでもないからね?」
トリエステの指摘にシャンカラぎくっと顔を引きつらせたが、さておいて。最初にリフィカとカインがチョコを刻むお手本を披露。料理に慣れた彼らが振るう包丁は軽快なリズムを刻む。
「あまり力を入れると飛び散るからね」
「細かく刻んだ方が早く溶ける。こんなカンジに……ほら、やってみ?」
促され、包丁を手に調理台へ向かう脳筋達。と、背中へすかさずアンチボディが飛んできた。
「ん!?」
振り向くと法具の腕輪を翳したカインが。
「負傷してもヒールあるから」
脳筋達戦慄。
(複数の回復術を準備している……!? キッチンとは料理人の聖域にして戦場だった!?)
気も身も引き締め粛々とチョコを刻んでいく。その間トリエステは鍋に湯を沸かす。
「温度はこんなもんかしらね」
「いいと思うぜ」
湯煎は湯温が肝心だ。温度管理は先生役の3人がきっちり行う。それからトリエステは刻んだチョコを移したボウルの底を湯につけ、
「チョコを容器ごと湯に入れて、容器越しに、間接的に熱するの。これが湯煎よ」
「まどろッこしいなァ?」
「チョコは焦げやすいの」
量が多いので、複数の鍋を用意し手分けして作業に当たる。リフィカとカインは龍騎士に作業を任せつつマンツーマンで適宜フォローし、恙無く湯煎の工程を終える事ができた。
「お次は卵割って、メレンゲ作りだな」
カインは使用するボウルについた水滴を丁寧に拭う。余計な水分や油分は泡立ちに影響するからだ。料理上手な彼らしい気配りが光る。
「卵を扱う時はそっとね」
リフィカは卵を台へ軽くコツン。これが彼の弟分には難関だというのだから困ったものだ。トリエステも割って見せ、
「卵黄を殻の中に入れたまま、卵白だけ殻の外に出すの」
黄身を殻の間で往復させる。殻から溢れた白身は下のボウルに落ち、黄身だけが殻の内に残った。龍騎士も早速実践。
「できました♪」
シャンカラはお手本のお陰で難なくクリア。しかしダルマは卵を割る所までは良かったものの、つるっと滑って黄身までボウルへどぷん。
「あちゃー」
嘆くダルマに、
「ちょっと貸してくれるか?」
手を差し出すカイン。カインはボウルの中の黄身にスプーンの背をあてがい、ゆっくり押さえていく。すると何という事でしょう! 上から押された黄身は逃げるように横へ移動したかと思うと、スプーンの中にすっぽり収まった!
「何ィーッ!? 黄身が自らスプーンに入りやがったッ!」
「何て生きのいい卵でしょう、驚きです!」
「弟がやってる方法なんだが……その驚きっぷりの方が驚きだぜ?」
そうして各自やり易い方法で分けていく。複数の方法が丁寧なお手本付きで示されたことで、卵のロスはひとつも出ずに済んだ。続いて卵白を泡立て器で混ぜていく。
「少し泡立ってきたら、数回に分けて砂糖を入れていくぜ」
「メレンゲの先が尖るくらいになるまで混ぜるの」
「『先が尖る』?」
首捻る脳筋達に、リフィカが泡立て器をボウルから持ち上げて見せた。泡の表にちょんっと立った三角は、すぐ元に戻ってしまう。
「これさ。今はまだ混ぜ足りないという事だね」
カインは頷き、
「角って言うんだけど、角が礼儀正しくお辞儀してるかどうかチェックすると良いんだ」
「『角がお辞儀』?」
「あー……ともかく泡立てていこう。俺達も一緒に見るからさ」
頭上にハテナを浮かべるふたりを促す。そうして卵白はふわふわなメレンゲに、卵黄は他の材料や先程のチョコと混ぜて生地に姿を変えた。
直後、事態は急変する。
「次は『メレンゲと生地をざっくり混ぜる』か。私達がやって見せ……、」
「おっし任せろ!」
ダルマの暴走を懸念し傍らについていたリフィカが、レシピに目を落とした一瞬の出来事だった。
突如ダルマが戦斧を取り出し振り上げる!
「やだなぁ、そんなのでざっくりやったら調理台ごと真っ二つになるじゃないか」
シャンカラは包丁を短剣の如く構え肩を竦めた。
(『ざっくり』ってそうじゃない!)
斜め上すぎる脳筋流解釈ッ。
「待った、そんなもんどうする気だッ!?」
「ダルマ君、シャンカラ君、落ち着くんだ」
騒ぎを聞きつけ、廊下からクランとサフィーア、双子が慌てて戻ってくる。
「何だ!? ……いや本当に何だ?」
「どういう状況か推測しかねるわ」
「わあぁ!」
混乱と喧騒の内に、戦斧と包丁がボウルをかち割る勢いで振り下ろされた――刹那、ボウルを守る聖盾の如く鍋蓋が閃く!
鍋蓋に接触する寸前、脳筋達は慌てて刃を止めた。颯爽と鍋蓋を構えボウルを死守したのはトリエステ!
「あのねぇ……その手の速さ、作業の方に活かせないもんかしら?」
何と彼女、この度し難い脳筋達の行動を読んでいた!
――こうして生地は守られた。脳筋達が極寒のブリザードと化したリフィカにこってり絞られたのは言うまでもない。
ハンター5名の厳重な監督下の許、双子も加わり作業再開。
「ざっくり混ぜる、っていうのは感覚的な表現だからちょっと難しいけど」
「まさか刃物でざっくりやろうとするとは……ほら、メレンゲの泡を潰さねぇよう気をつけて。つか何でザッハトルテ?」
何故初っ端から難しいものに挑んでしまったのか。当然の疑問を口にするカインに、シャンカラはしんなり項垂れる。
「う……実は、」
ホワイトデーに配るお菓子を買いにリゼリオへ赴いたところ、通りがかった金物屋の女将に『結構簡単だから!』と強引にレシピを渡され、勧められるまま型や泡立て器など一式購入させられたのだと。
「熟練者の『結構簡単』って言葉は信じちゃだめだって」
「買い物、できるようになったのか……以前付き添った時は苦労したが」
「成長を感じるね」
頭を抱えるカインの横で、クランとリフィカはしみじみ頷き合った。
●
そうして生地を焼きつつ小休止を挟んだ後、作業は後半に突入。複数の型で焼かれた生地は、どれもいい具合にふっくりふくれていい色がついていた。
今度は主にクランとサフィーアが担当だ。髪を結いエプロンを身に着けたサフィーアは、型からそっと取り出した生地に包丁をあてがって見せる。
「柔らかいスポンジを潰してしまわないよう、手元をしっかり確認しましょう」
菓子作りはあまり経験がないというクランは慎重に刃を入れ、
「これはなかなか……力の入れ加減が難しいな。気を付けよう」
「そう言うわりにゃ綺麗に切れてンぞ」
「押さえる手も気をつけないとッスね」
男5人、真剣な顔で生地とにらめっこ。その様子にサフィーアの眉尻がかすかに下がったようだった。そっと離れ、鍋に湯を沸かす。もう一度湯煎するためだ。
切り分けた生地へ龍園製コケモモジャムを塗り終えると、本日2度目の湯煎にかかるわけだが、
「……もう一度やったからと、楽観視は禁物か」
「一応、1つ1つ確認していきましょう。正確に事を進めないと菓子作りは失敗するそうよ」
警戒していたふたり、大正解だった。先程の湯煎の様子を見ていなかった双子は湯へチョコを投入しようとし、間一髪でクランが阻止。ダルマが生クリームをあるだけぶっ込もうとしたが、サフィーアがレシピの文字を指しながら説明し事なきを得た。
ふたりの奮闘により何とかかんとかできたコーティング用のチョコソースは、少量垂らしたお酒のおかげで香りも良く、色艶も申し分ない。
「レシピによれば、『周りから中心へ』かけていくと鏡面のような仕上がりになるそうよ」
「おっし任せろ!」
気合いを漲らせるダルマ。何だかデジャヴ。ふたりは顔を見合わせ小声で囁き交わす。
「コーティングは、ダルマが以前似た事をやっていたんだったか……」
「ええ、聖輝節のケーキにクリームを塗っていたのよね? ならコーティングの懸念はないかしら。……ない、わよね」
「……まぁ、明らかに過剰に塗りすぎなければ大丈夫だと思うが」
龍園通なふたり、ダルマの経験とやる気を尊重し任せてみることにした。何とこれがまた大正解。経験済みの作業を意外とそつなくこなして見せた。
「どうだァ!」
ダルマ渾身のドヤ顔。綺麗にできた事も勿論、ふたりが任せてくれた事が嬉しかったようだ。
冷ますため少し窓を開け風を取り入れ、ケーキを並べる。サフィーアはふるりと身震い。
「体感温度はとても低いのね」
「良けりゃ見てるッスよ」
双子が申し出たが、彼女は感謝を口にしつつ首を横に振り、
「……凍ったら味が落ちたりするのかしら。いえ、試さないわ。興味は……多少、あるけれど」
並べたケーキの前にしゃがみ込む。釣られて双子もしゃがみケーキをガン見。並んだ3つの背に向かい、クランは思わず咳払い。
「綺麗に出来ても味が落ちては苦労した甲斐が無いだろうし。気をつけないとな……、」
「…………」
「気をつけろよ?」
「あ、はい」
「ええ」
(大丈夫なのか……)
若干不安になるクラン。けれど数分後、ツヤツヤな見目のザッハトルテが完成したのだった。
●
お楽しみの試食タイム。作ったものと購入してきたものを切り分け、盛り付ける。更にリフィカ手作りオランジェットとシトロネットが並んだ。後半の作業中にこっそり作っていたのだ。
「ダルマ君、オランジェットはワインティーとよく合うつまみにもなるんだよ」
「ほう?」
「これ清酒だけど良いかしら? どうぞダルマさん」
わいわい賑やかに、作ったものを口に運ぶ時はちょっぴりどきどきしながら、各々口へ運ぶ。
「!」
頬張るや目を輝かすシャンカラに、カインが尋ねる。
「味はどうだ?」
「美味しいです! お店の物にはかなわないかもしれませんが、苦労した分美味しく感じますねっ」
「俺はコッチのが好きだぜェ」
とダルマも満面の笑み。苦労したのは概ねハンター達なのだが、さておいて。カインは美味いなと首肯してから双子へ向き直る。
「これ、さっき作ったんだ。ティンギニスっていうコンデンスミルク使った菓子。今日はお疲れさん」
「マジすか!?」
双子、感涙。ハンター達にこんなに労ってもらえるとは夢にも思わず、頑張って良かったとしみじみ。その珍しいお菓子を指咥えて見ているシャンカラに気付き、カインはやれやれとその口にも押し込んでやった。
「子供か」
呆れて見ていたクランだったが、ケーキの出来映えには内心感心していたりして。今度恋人に作るのも悪くないかと考え、ほんのり口許を綻ばす。
食べ比べてみたサフィーアはゆっくり目を瞬き、
(……不思議ね。苦労や手間というものは味覚に影響を及ぼすのかしら。それとも……皆で作ったものだから?)
うっかり凍らせてみなくて良かったと密かに安堵した。
そうして和やかに試食会を終え、ハンター達は作ったケーキをお土産を手に家路についた。後に配られたケーキは勿論大好評だった。
無事調理を開始し、キッチンから甘い匂いが漂いだした頃。
「大変だったな……」
廊下では、双子から到着前の惨状を聞いたクラン・クィールス(ka6605)が同情を滲ませていた。傍らのサフィーア(ka6909)はそんな彼を横目で見、先の蹴球試合を思い出す。
(釘バットの人だわ……)
彼の釘バットによる大根斬りシュートは両陣営に衝撃を与えた。が、装甲のアームで球を掴み疾走した彼女もまた大いに観客の度肝を抜いたのだった。もとい。双子へチョコを差し出し労う。
「疲労には糖分摂取が有効だそうよ」
「あざっす!」
双子はリフィカ・レーヴェンフルス(ka5290)から貰った果実の砂糖煮をふたりにシェアし、もぐもぐ。双子に笑顔が戻り安堵したふたりは、双子をキッチンへ誘った。
「手はいくつ在っても良いわ。手伝えばもっと食べられる可能性は有るし」
「ああ。疲れているなら無理にとは言わないが……お前達も返す相手が居るのなら、手伝って損は無いと思うぞ?」
「多く作れば貰える確率も高まるでしょう。どうかしら?」
兄貴と慕うクラン、お菓子をくれたサフィーアの言葉に、双子が頷こうとした時だ。
「待った、そんなもんどうする気だッ!?」
「ダルマ君、シャンカラ君、落ち着くんだ」
キッチンからカイン・シュミート(ka6967)とリフィカのただならぬ声が響いてきた。
「不測の事態が発生したものと推察するわ」
ふたりは双子を伴いキッチンへ。4人の目に飛び込んできたのは、包丁を短剣のごとく構えたシャンカラと、戦斧を振りかぶったダルマの姿だった。
●
十数分前。
事件現場もといキッチンに5名のハンターが到着した。
「ここは常に何かしら問題が起きている様な……気のせいかな?」
「否定できないのが我が故郷の悲しいところね……はっ! 私の実家は他所だし!?」
苦笑するリフィカの横で、トリエステ・ウェスタ(ka6908)は何故かわたわた。ふたりは廊下に座り込む双子へ歩み寄り、
「カルマ君とカマラ君はお疲れ様。少し休んでおいで」
リフィカは件の砂糖煮を渡した。大人な気遣いに双子の目が潤む。白いドレス姿のトリエステは、ふたりの前に屈み込み柳眉を寄せた。
「ごめん、今日もプレゼント持ってこられなかったのよ。まあ、なんか堪能したらしいから大丈夫……よね?」
クリスマスに彼らへプレゼントを渡せなかったことを侘びたが、双子の耳には届いていなかった。何故なら今彼らの眼前には、前屈みになり強調された彼女のお胸が。ミニスカサンタ姿に続き、本日は豊かな谷間を堪能した双子、真っ赤な顔して無言のサムズアップで応じた。
先にキッチンへ入ったクランは室内を見回し、
「綺麗にはなっているが……どんな惨状だったんだか」
シャンカラとダルマは照れ笑いで流そうとしたが、リフィカが笑顔でその肩を叩く。
「キッチンは料理人の聖域、喧嘩をする場所じゃないぞ?」
一見穏やかな笑みが醸す絶対零度の威圧感に、震え上がる脳筋達。
「しょうがねぇな……っと、結構量作るんだったよな。どれ位作る? 早速始めようぜ」
苦笑いのカインのとりなしで、ザッハトルテ作りがリスタートした。
ハンター達は調理工程を前後半に分け、担当分担してきていた。前半はリフィカ・トリエステ・カインが担当だ。
着手前、リフィカとトリエステはショップで買ってきたザッハトルテを見せた。
「これが完成品、見本ね」
「実物を見た方がイメージが湧くだろう?」
「せっかくだからこれもみんなで食べ、る?」
トリエステの声が尻すぼみになる。何故なら元上司達が今にも食いつきそうな勢いで身を乗り出してきたからだ。
「あー……そうそう。ダルマさんには聖輝節のプレゼント代わりにお酒持ってきたわ。あとでこれ食べつつ酌しましょうか?」
「お、嬉しいねェ!」
「試食もするだろ? 食べ比べができるな」
とカイン。
「宜しくお願いします」
深々頭を下げたシャンカラは、早速レシピを指し困り顔。
「お恥ずかしいんですが、最初の『湯煎』からして分からなくて」
「……湯煎ってのは、お湯をかけることでもお湯にぶち込むことでもないからね?」
トリエステの指摘にシャンカラぎくっと顔を引きつらせたが、さておいて。最初にリフィカとカインがチョコを刻むお手本を披露。料理に慣れた彼らが振るう包丁は軽快なリズムを刻む。
「あまり力を入れると飛び散るからね」
「細かく刻んだ方が早く溶ける。こんなカンジに……ほら、やってみ?」
促され、包丁を手に調理台へ向かう脳筋達。と、背中へすかさずアンチボディが飛んできた。
「ん!?」
振り向くと法具の腕輪を翳したカインが。
「負傷してもヒールあるから」
脳筋達戦慄。
(複数の回復術を準備している……!? キッチンとは料理人の聖域にして戦場だった!?)
気も身も引き締め粛々とチョコを刻んでいく。その間トリエステは鍋に湯を沸かす。
「温度はこんなもんかしらね」
「いいと思うぜ」
湯煎は湯温が肝心だ。温度管理は先生役の3人がきっちり行う。それからトリエステは刻んだチョコを移したボウルの底を湯につけ、
「チョコを容器ごと湯に入れて、容器越しに、間接的に熱するの。これが湯煎よ」
「まどろッこしいなァ?」
「チョコは焦げやすいの」
量が多いので、複数の鍋を用意し手分けして作業に当たる。リフィカとカインは龍騎士に作業を任せつつマンツーマンで適宜フォローし、恙無く湯煎の工程を終える事ができた。
「お次は卵割って、メレンゲ作りだな」
カインは使用するボウルについた水滴を丁寧に拭う。余計な水分や油分は泡立ちに影響するからだ。料理上手な彼らしい気配りが光る。
「卵を扱う時はそっとね」
リフィカは卵を台へ軽くコツン。これが彼の弟分には難関だというのだから困ったものだ。トリエステも割って見せ、
「卵黄を殻の中に入れたまま、卵白だけ殻の外に出すの」
黄身を殻の間で往復させる。殻から溢れた白身は下のボウルに落ち、黄身だけが殻の内に残った。龍騎士も早速実践。
「できました♪」
シャンカラはお手本のお陰で難なくクリア。しかしダルマは卵を割る所までは良かったものの、つるっと滑って黄身までボウルへどぷん。
「あちゃー」
嘆くダルマに、
「ちょっと貸してくれるか?」
手を差し出すカイン。カインはボウルの中の黄身にスプーンの背をあてがい、ゆっくり押さえていく。すると何という事でしょう! 上から押された黄身は逃げるように横へ移動したかと思うと、スプーンの中にすっぽり収まった!
「何ィーッ!? 黄身が自らスプーンに入りやがったッ!」
「何て生きのいい卵でしょう、驚きです!」
「弟がやってる方法なんだが……その驚きっぷりの方が驚きだぜ?」
そうして各自やり易い方法で分けていく。複数の方法が丁寧なお手本付きで示されたことで、卵のロスはひとつも出ずに済んだ。続いて卵白を泡立て器で混ぜていく。
「少し泡立ってきたら、数回に分けて砂糖を入れていくぜ」
「メレンゲの先が尖るくらいになるまで混ぜるの」
「『先が尖る』?」
首捻る脳筋達に、リフィカが泡立て器をボウルから持ち上げて見せた。泡の表にちょんっと立った三角は、すぐ元に戻ってしまう。
「これさ。今はまだ混ぜ足りないという事だね」
カインは頷き、
「角って言うんだけど、角が礼儀正しくお辞儀してるかどうかチェックすると良いんだ」
「『角がお辞儀』?」
「あー……ともかく泡立てていこう。俺達も一緒に見るからさ」
頭上にハテナを浮かべるふたりを促す。そうして卵白はふわふわなメレンゲに、卵黄は他の材料や先程のチョコと混ぜて生地に姿を変えた。
直後、事態は急変する。
「次は『メレンゲと生地をざっくり混ぜる』か。私達がやって見せ……、」
「おっし任せろ!」
ダルマの暴走を懸念し傍らについていたリフィカが、レシピに目を落とした一瞬の出来事だった。
突如ダルマが戦斧を取り出し振り上げる!
「やだなぁ、そんなのでざっくりやったら調理台ごと真っ二つになるじゃないか」
シャンカラは包丁を短剣の如く構え肩を竦めた。
(『ざっくり』ってそうじゃない!)
斜め上すぎる脳筋流解釈ッ。
「待った、そんなもんどうする気だッ!?」
「ダルマ君、シャンカラ君、落ち着くんだ」
騒ぎを聞きつけ、廊下からクランとサフィーア、双子が慌てて戻ってくる。
「何だ!? ……いや本当に何だ?」
「どういう状況か推測しかねるわ」
「わあぁ!」
混乱と喧騒の内に、戦斧と包丁がボウルをかち割る勢いで振り下ろされた――刹那、ボウルを守る聖盾の如く鍋蓋が閃く!
鍋蓋に接触する寸前、脳筋達は慌てて刃を止めた。颯爽と鍋蓋を構えボウルを死守したのはトリエステ!
「あのねぇ……その手の速さ、作業の方に活かせないもんかしら?」
何と彼女、この度し難い脳筋達の行動を読んでいた!
――こうして生地は守られた。脳筋達が極寒のブリザードと化したリフィカにこってり絞られたのは言うまでもない。
ハンター5名の厳重な監督下の許、双子も加わり作業再開。
「ざっくり混ぜる、っていうのは感覚的な表現だからちょっと難しいけど」
「まさか刃物でざっくりやろうとするとは……ほら、メレンゲの泡を潰さねぇよう気をつけて。つか何でザッハトルテ?」
何故初っ端から難しいものに挑んでしまったのか。当然の疑問を口にするカインに、シャンカラはしんなり項垂れる。
「う……実は、」
ホワイトデーに配るお菓子を買いにリゼリオへ赴いたところ、通りがかった金物屋の女将に『結構簡単だから!』と強引にレシピを渡され、勧められるまま型や泡立て器など一式購入させられたのだと。
「熟練者の『結構簡単』って言葉は信じちゃだめだって」
「買い物、できるようになったのか……以前付き添った時は苦労したが」
「成長を感じるね」
頭を抱えるカインの横で、クランとリフィカはしみじみ頷き合った。
●
そうして生地を焼きつつ小休止を挟んだ後、作業は後半に突入。複数の型で焼かれた生地は、どれもいい具合にふっくりふくれていい色がついていた。
今度は主にクランとサフィーアが担当だ。髪を結いエプロンを身に着けたサフィーアは、型からそっと取り出した生地に包丁をあてがって見せる。
「柔らかいスポンジを潰してしまわないよう、手元をしっかり確認しましょう」
菓子作りはあまり経験がないというクランは慎重に刃を入れ、
「これはなかなか……力の入れ加減が難しいな。気を付けよう」
「そう言うわりにゃ綺麗に切れてンぞ」
「押さえる手も気をつけないとッスね」
男5人、真剣な顔で生地とにらめっこ。その様子にサフィーアの眉尻がかすかに下がったようだった。そっと離れ、鍋に湯を沸かす。もう一度湯煎するためだ。
切り分けた生地へ龍園製コケモモジャムを塗り終えると、本日2度目の湯煎にかかるわけだが、
「……もう一度やったからと、楽観視は禁物か」
「一応、1つ1つ確認していきましょう。正確に事を進めないと菓子作りは失敗するそうよ」
警戒していたふたり、大正解だった。先程の湯煎の様子を見ていなかった双子は湯へチョコを投入しようとし、間一髪でクランが阻止。ダルマが生クリームをあるだけぶっ込もうとしたが、サフィーアがレシピの文字を指しながら説明し事なきを得た。
ふたりの奮闘により何とかかんとかできたコーティング用のチョコソースは、少量垂らしたお酒のおかげで香りも良く、色艶も申し分ない。
「レシピによれば、『周りから中心へ』かけていくと鏡面のような仕上がりになるそうよ」
「おっし任せろ!」
気合いを漲らせるダルマ。何だかデジャヴ。ふたりは顔を見合わせ小声で囁き交わす。
「コーティングは、ダルマが以前似た事をやっていたんだったか……」
「ええ、聖輝節のケーキにクリームを塗っていたのよね? ならコーティングの懸念はないかしら。……ない、わよね」
「……まぁ、明らかに過剰に塗りすぎなければ大丈夫だと思うが」
龍園通なふたり、ダルマの経験とやる気を尊重し任せてみることにした。何とこれがまた大正解。経験済みの作業を意外とそつなくこなして見せた。
「どうだァ!」
ダルマ渾身のドヤ顔。綺麗にできた事も勿論、ふたりが任せてくれた事が嬉しかったようだ。
冷ますため少し窓を開け風を取り入れ、ケーキを並べる。サフィーアはふるりと身震い。
「体感温度はとても低いのね」
「良けりゃ見てるッスよ」
双子が申し出たが、彼女は感謝を口にしつつ首を横に振り、
「……凍ったら味が落ちたりするのかしら。いえ、試さないわ。興味は……多少、あるけれど」
並べたケーキの前にしゃがみ込む。釣られて双子もしゃがみケーキをガン見。並んだ3つの背に向かい、クランは思わず咳払い。
「綺麗に出来ても味が落ちては苦労した甲斐が無いだろうし。気をつけないとな……、」
「…………」
「気をつけろよ?」
「あ、はい」
「ええ」
(大丈夫なのか……)
若干不安になるクラン。けれど数分後、ツヤツヤな見目のザッハトルテが完成したのだった。
●
お楽しみの試食タイム。作ったものと購入してきたものを切り分け、盛り付ける。更にリフィカ手作りオランジェットとシトロネットが並んだ。後半の作業中にこっそり作っていたのだ。
「ダルマ君、オランジェットはワインティーとよく合うつまみにもなるんだよ」
「ほう?」
「これ清酒だけど良いかしら? どうぞダルマさん」
わいわい賑やかに、作ったものを口に運ぶ時はちょっぴりどきどきしながら、各々口へ運ぶ。
「!」
頬張るや目を輝かすシャンカラに、カインが尋ねる。
「味はどうだ?」
「美味しいです! お店の物にはかなわないかもしれませんが、苦労した分美味しく感じますねっ」
「俺はコッチのが好きだぜェ」
とダルマも満面の笑み。苦労したのは概ねハンター達なのだが、さておいて。カインは美味いなと首肯してから双子へ向き直る。
「これ、さっき作ったんだ。ティンギニスっていうコンデンスミルク使った菓子。今日はお疲れさん」
「マジすか!?」
双子、感涙。ハンター達にこんなに労ってもらえるとは夢にも思わず、頑張って良かったとしみじみ。その珍しいお菓子を指咥えて見ているシャンカラに気付き、カインはやれやれとその口にも押し込んでやった。
「子供か」
呆れて見ていたクランだったが、ケーキの出来映えには内心感心していたりして。今度恋人に作るのも悪くないかと考え、ほんのり口許を綻ばす。
食べ比べてみたサフィーアはゆっくり目を瞬き、
(……不思議ね。苦労や手間というものは味覚に影響を及ぼすのかしら。それとも……皆で作ったものだから?)
うっかり凍らせてみなくて良かったと密かに安堵した。
そうして和やかに試食会を終え、ハンター達は作ったケーキをお土産を手に家路についた。後に配られたケーキは勿論大好評だった。
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相談卓 トリエステ・ウェスタ(ka6908) ドラグーン|21才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/03/07 09:29:31 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/04 00:35:48 |