ミカ婆ちゃんと思い出の木

マスター:TRIM

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/25 22:00
完成日
2014/07/03 20:11

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ベテランハンターの皆様、お久しぶりです。
 リアルブルー(蒼界)や新人の皆様、はじめまして。
 ああ…そんなに目をギラギラと、『挨拶はいいから依頼くれ~』と申されても……。
 まあ何を買うのにもお金は必要。皆様のお気持ちは、良く判ります。はい。

 とはいえ久しぶりのお仕事だったり、初めてのお仕事だったりしますので、
 こちらの依頼などは如何ですか?
 とあるご婦人から依頼が入っています。


 内容は『青梅の収穫』のお手伝いです。

 ご婦人は元々リアルブルー(蒼界)の方なのですが、
 60年ほど前にこちらの世界(紅界)一緒に転送された『梅の木の実を収穫するのを手伝って欲しい』そうです。

 何時もご婦人が実の収穫を行っていたそうですが、
 昨年怪我をされて以来、足腰が弱ってしまわれたそうなので、
 お手伝いをお願いしたいそうです。 

 まあ、普通であればご家族……となりそうですが、
 梅が植わっている丘の上に『巨大アリ』。1mほどの雑魔が2匹がうろついているそうです。

 ご家族にはハンターがいらっしゃらないとの事で、私共に依頼いただきました。

 今回、雑魔退治と梅の実の収穫。
 時間も掛かるだろうからとご依頼人がお食事も用意されるそうです。

 如何です?
 この依頼お受けになりませんか?」

リプレイ本文

 依頼を受けたハンター6人は2班に分かれ、丘の両側の道から蟻型雑魔の様子を伺っていた。
「ふむ。2匹とも少し離れているが、決して遠からず……まあ、狭い丘ですから仕方ないのかもしれないが」
 蟻の位置を確認したレオンが、小さい越えで呟く。

 北東にいる蟻に対してA班「茅崎 颯(ka0005)、レオン・フォイアロート(ka0829)、ソナ(ka1352)」が東の街道。
 南にいる蟻に対してB班「シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)、No.96(ka2060)」が西の街道に身を潜めていた。


 広くない丘の中央には、大きな梅の木が1本植わっている。
「あれがあちらから一緒に来た思い出の木なのね。とても興味深いわ。どんな花が咲くかしら」
とソナが目を輝かし、
「本当にあるんですね。というか、梅の木まで転移しているというのは驚きです。せっかくの木ですから守りたいですね」
 感心したように颯が言う。
「60年か、きっとあの梅の木には色々な思い出があるんだろうな。思い出を守るために、新たな思い出を作るために、がんばらなくてはな」
 レオンの言葉に颯とソナが、頷いた。
「ええ。家で待っていただいているミカおばあさまの為にも被害が及ばぬうちに早めに決着をつけたいですね」
 退治に手間取れば梅の木ばかりか崖を降りてミカの家に向かう可能性もある。
「食事も用意されているみたいですね。梅の料理なんでしょうか。どんなのか気になります。
 さっさと終わらせましょう」


 颯らが丘の反対側にB班のシルヴィアらの姿を確認するとあらかじめ決めておいたハンドサインで状況を確認する。
「こっちは任せておいて下さいっす! 婆ちゃんの手伝いっすね! 邪魔する蟻をブン殴るっす!」
 大きな声で答えるNo.96の口を慌てて押さえるシルヴィアとユキヤ。
 モゴモゴ──
「……悪いっす。つい気合が入りすぎたっす」と小声で「てへっ」と謝るNo.96。
「気合は大事ですが、折角の梅に被害が出てしまっては、依頼人も悲しいですよ。今回は木を守ることが第一です」
 熱き血潮のライダーヒーロー(見習い)とクールな元狙撃兵。
 敵を倒すという熱い思いは変わらずだが、幼い2歳の差は大きく、ましてシルヴィアとは、表面温度が雲泥の差である。
「丘の上は身を隠せそうな場所がないのですから、蟻が気づかない内に距離を縮めるかが大事です」
「それなら任せてくれっす。わーの、バーの、ガガンのバン! で完璧っす」
 きら~ん☆ サムズアップと涼やかな白い歯を輝かせて言うNo.96。
「……そう。なら梅の収穫も待っています。早く終わらせましょう」


 両班は、タイミングを合わせて蟻への攻撃を始めた。

 ***

 東の街道から飛び出した3名。
「一匹たりとも、その木を歪虚に触れさせません!」
 先ずは、颯が蟻の感心を引き付けるべくリボルバーの引き金を引く。
 弾は当たらなかったが、蟻は予定通りA班の方に向かってきた。
 続けてソナがホーリーライトを放つ。
 光の玉が頭に当たって一瞬動きが止まった蟻にレオンのロングソードが蟻の腕を斬りつける。
 傷の痛みに暴れる蟻。
「なるほど、こいつはそれほど防御率が高くないわけだな」
 その隙に木と蟻の間に入り込み、背で梅の木を守るように立つソナ。
 颯も蟻との距離を取りながら、再びリボルバーを構える。
「敵の攻撃が来ます!」
 颯が掛け声と共に撃った弾が蟻の肩に当たる。レオンがシールドを上げ、蟻の顔を横殴りにしてを防ぐ。
「大丈夫ですか?」
 ソナに答えるレオン。
「大丈夫だ。このまま一気に攻めるぞ!」
「「はい!」」
 颯とソナが頷く。

 蟻の攻撃を前衛のレオンが防ぎ、時には斬りつけ、颯とソナの方に行かせまいとする。
 颯とソナも蟻の注意がレオンだけに集中しないように翻弄しながら攻撃を続けていった。
 そして──
「さあ、これでお終いだ」
 体中を穴だらけにされた蟻の頭をレオンが斬り落とした。

【A班、蟻退治完了】

 ***

 西の街道から飛び出した3人。
「ふっ……ざけんじゃねぇっすよぉ!」
 蟻に一気に駆け寄ったのはNo.96。
 蟻に向かってジャンプをすると下から突き抜けるように頭をアッパー気味に全力で殴り付けた。
 そのまま蟻の頭に踵落としを決めるとトンボを切り、木と蟻の間の地面に着地した。
 そして左手を腰に添えて右手を空へと突き上げる決めポーズ。
「正義の味方(見習い)! パーソナルNo.96っす! テメェらの悪事は見逃さねぇっすよ!」
 心の師匠の突っ込みか、はたまたNo.96の脳内のお友達か何処からか
「正義の味方が不意打ちすんな!」とツッコミが聞えた気がしたがノープログレムのようだ。

「木には近づかせません」
 蟻に向かって猟銃を向けるシルヴィアは膝関節を撃ちぬくと素早く薬莢を排出して再装てんし、再び猟銃を放つ。
 No.96と同じように木と蟻の間に立ったユキヤが続けざまにホーリーライトを放つ。
 狙いも足である。
 人と違い蟻は、崖を上り下りできる。
 予測外のところに出没するのも困るが、ミカの家に向かうのは避けたいところである。
 動きが鈍いが的は小さい。
 蟻の足を根気よく狙い、シルヴィアと共にユキヤは全ての足を撃ちぬいた。
「もう逃げる事は出来ませんよ」
「こっからは俺の仕事っす」
 No.96が再び蟻へと迫り、このまま一気に攻勢を掛ける。
「技のオンパレードですね」
 シルヴィアとユキヤが感心する前でサマーソルトから一度後ろに力を溜める為飛び退き、着地と同時に前に飛んで正拳突きで殴り抜けた。
「Now its over」

【B班、蟻退治完了】



 2匹の蟻をなんなく退治したハンター達。
「対した怪我も負わずに済みましたね」
 ヒールの出番がなかったとソナが微笑む。
「さて、ミカさんが首を長くして待っているでしょうから戦闘が終わった事を伝えに戻りましょう」と颯が言った。




「急がれると危険です。ゆっくり上がりましょう」
 ユキヤがミカの手を引いて丘を登っていく。
 足の悪いミカに付き添うハンター達は、ゆっくりとミカのスピードにあわせて歩く。
「戦いではないこうした労働に体を使うのは久々なので、ミカさんに色々教えてください」
 大きな籠を担いだ颯が後ろのミカを振り返りながら言う。
「疲れたらおっしゃってください。おぶりますので」
 毎日歩いているから大丈夫だとミカが答える。
「健脚ですね。いい事だ」
 梅を入れる籠をかついだレオンが言う。

「私は新薬開発が趣味なのですが、青梅には何か体や心に良い影響を与える効果がありますか?」
 ソナの問いに「疲労回復や夏バテ、食欲増進効果が認めらるが、青梅自体は人間には毒」だと答えるミカ。
「そのまま使えないから加工するんだよ」
「梅の実の加工品……梅酒や梅干し……梅ジャムなんかも良いですね」とユキヤが言う。

 丘に上がって梅の木を見ると漸く安心したのか、ミカの表情が柔らいた。
 それを見たレオンは思った。
(この梅の木は、きっと私達が思っているよりもずっとお婆さんにとって大切なものなのだろうな)
「さっきも思ったけどでっかい木っすねー! 俺も何時かコレ位デッカクなれるかな!?」とはじゃくNo.96。

「梅の実を収穫するコツってありますか?」
 傷を与えないよう一つ一つ摘んで籠に入れる位だとミカは言った。
「なるほど。収穫にはコツらしいコツがないのが、コツという訳ですね」
 そう妙な感心をするシルヴィア。

 丸々とした梅の実を、ミカがちょんと軽く指先で突っつくとポロリと落ちる。
「戦闘中、良く落ちなかったな……」
 ミカが落ちた実と日焼けをして黄色くなった実を、傷がない実と分けて籠に入れて判るように指示を出す。
「どうしてです?」
「傷がないと綺麗にできるっていう見た目の面もあるがね。人が擦り傷を作るとかさぶたが出来るだろ。それと同じで傷がつくと木から傷を塞ごうと特殊な物質が出るんだが、実も傷が出来るとその物質が出て味が変わるようにあたしは思うのさ」
 その為、傷のついた実や日焼けした実は、梅干しや梅ジャム、梅肉エキスにすると言うミカ。

 背の低いミカと一緒に枝をくぐって木の内側の実をシルヴィアとNo.96が収穫する。
「皆さん、暑いですからこまめに休憩を入れてくださいね」
 ソナが、バスケットから水を配って歩く。
「普通の水じゃないですね。何か入っている?」
 コップに鼻を寄せたが水の匂いを嗅ぐシルヴィア。
 梅のジュースとエキスを入れていると言われて「分量は?」とソナが慌ててメモを取る。
「ここから見る景色は、すごく綺麗ですね」
 ジュースを受け取った手を止め汗を拭う颯とレオン。
「しかし何事も経験は大事だな。見聞を広めるというのは楽しいものだ」

 高い丘からマクファーレン家の敷地が一望できた。
「この木と渡って来たって、昔いらしたところは、どんなお国なのですか?」とソナ。
 60年という長い月日。エルフにとっては短い時間だが、歳若いソナには想像つかない時間である。
「よろしかったら思い出話を少し、お聞かせ願いますか?」
「ミカさんはリアルブルー出身でいらっしゃるのですね。僕もそうなんですよ」と微笑むユキヤ。
 ロッソの件は、噂で聞いていると言うミカ。
「地球にある日本って小さな島国を知っているかい」
「ええ、勿論。僕の両親は、日本人と仏蘭西人なんですよ」
 ユキヤが日本人の血を引くと聞いて「世の中狭い」と笑うミカ。

 空を見上げたユキヤが尋ねる。
「僕は此方……クリムゾンウェストに来て日が浅いですが、時折寂しくなったりはなさいませんか?

 故郷が、懐かしく」


 此方の空も、向こうの空と同じ様に美しく。

 梅の木も変わらず美しく咲くだろう──。


「この木にどのような思い出があるのですか? いえ、お答えしにくい事でしたら構わないのですが……」
 蒼界は懐かしく思う事はあっても、向こうの知り合いや家族はとっくに死んでしまっただろう。
 こっちには生きている家族や知り合いがいると笑うミカ。
「それが精霊と契約しなかった理由ですか?」

 ミカは少し考えた様子だったが、梅の木と一緒に転移した時の事をハンター達に話し出した。
 梅の木は元々ミカの誕生を喜んだミカの父が植えたもので、ミカの嫁入り道具の一部としてミカに贈られたものだった。
 夫と一緒に新居にトラックで運ぶ途中に転移したのだという。

 横転したトラックから這い出したミカが見たのは、夫が雑魔に食われている姿だった。
 その恐ろしい光景に、ミカは車の影から出れなくなってしまった。
 大声で助けを求める夫の声に耳を両手で塞ぎ──ひたすら声が聞えなくなるのを待った。
 そして悲鳴が聞こえなくなっても、雑魔がいなくなってもミカは、その場から動けなかった。
 その後、森を見回りに来たハンターを含めた自警団に保護されたのだと言う。

 周りは誰もミカを責めなかったが、助けを求める夫の声がミカの耳から離れなかった。
「精霊を契約すれば言葉や文字の苦労はしなかっただろうがね。あたしは死んだ夫の悲鳴を忘れる事が出来ず歪虚と戦う気持ちにはなれなかった」
 ハンターの仕事は戦うことばかりではないとは判っていても、覚醒者は周囲から戦う事を望まれる立場だ。戦えないのなら精霊と契約して覚醒者にならないのが一番であり、夫の分も苦労をしてやるのが、せめてもの供養だと思ったのだとミカは告げた。

 自警団の1人で色々と世話をしてくれていたマクファーレンと、何年かした後、再婚したのだというミカ。
「……さて、湿っぽくなったね」
「難しい話は俺は判らないけど、婆ちゃんみたいな人達の為に、俺達正義の味方がいるっす」
 びしっとポーズを決めるNo.96。

 だが──
『きゅぅ』
 No.96のお腹が、極めて控えめに自己主張した。
 実の収穫も終わったので、家に帰って食事をしようとミカが笑った。
「その言葉、待っていたっす!」
「配膳やお片づけ、何でもお言い付けくださいね」
 実が入った籠を分担して持ち、ミカの家に戻っていった。




 ハンター達が梅の実を運んでミカの家に戻ってくると食事の用意が待っていた。
 準備が整うまで座って待っているハンター達。
 ソワソワとしながらエネルギー切れだと机に突っ伏しているNo.96。
 彼らの前に沢山の料理が次々と運ばれてくる。

「何が好きか判らなかったからね」
「すっげぇ、これ全部食べていいっすか?」
「軍にいた時はずっと艦内生活だったので、外でご飯を食べるというのは嬉しいので、うきうきしています」と颯。
 ロッソのような艦内に生産プラントを持っている大型自給自足艦の乗員ともなれば、どこかのコロニーに立ち寄った際、降艦許可を利用して陸の食事を楽しんだりできるが、ロッソは、処女航海中に転移した為、乗艦後はずっと艦内に缶詰である。
「お代わりもあるから好きなだけ食べるといいよ」
「もう食べていいっすか?」
 待ちきれないNo.96にミカが「どうぞ」と答える。
「じゃあ、遠慮なくっ!」
 両手を合わせ「いただいまっす!」と元気よく言うNo.96。

「見たことがないものもありますね。強烈なにおいがしますが……これは発酵食品でしょうか?」
 くんくんと初めて見る納豆におっかなびっくりのレオン。
「まあ、どうしても料理は蒼界と紅界のごっちゃになるね」
 そう言いながらオニギリとキュウリの糠付け、味噌汁を持ってくるミカ。
「こっちも自家製だよ。口に合わないものもあるから無理は不要だよ」
「好き嫌いはないっす。そんな事をしたら師匠に怒られるっす」
 両手におにぎりを掴み、もきゅもきゅと小さな口にいっぱい詰め込むように食べるNo.96。
「艦内では、こうは行かなかったですから、懐かしい味です」
 転移者が営んでいる正統派の蒼界料理店もあるが、紅界で食べれる蒼界料理はどこか間違っている事が多い為、颯はマクファーレン一家の食事が口にあった様だった。
「やっぱり人と食べると美味しいっすね!」

 デザートは、アルコールを飛ばした梅酒を使ったゼリーであった。

 こうして日が暮れるまで食事と会話を堪能したハンター達は、ミカの家を後にする。
「御馳走様でした。蒼界の食事、楽しい体験をありがとうございます」
 納豆は流石に最後まで厳しかったとレオンが言う。
「足が少しでもよくなるように願っています。これからもお元気でお過ごしくださいね」
 しっかりと梅エキスと梅ジャムの作り方を教わったソナが挨拶をする。

「梅の実の加工品が出来上がったら、少し頂いても構いませんか?」
 ユキヤの言葉に1年経って出来上がったらハンターギルドに「試食会」の依頼を出そうとミカは笑って約束した──。





<了>

依頼結果

依頼成功度大成功
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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 思い出の守り手
    茅崎 颯(ka0005
    人間(蒼)|25才|男性|猟撃士
  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    レオン・フォイアロート(ka0829
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • 思い出の守り手
    無銘(ka2060
    人間(蒼)|10才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/24 04:04:28
アイコン ご相談しましょう☆
ソナ(ka1352
エルフ|19才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/06/25 21:30:20