ゲスト
(ka0000)
春の階段と人形の宴
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~12人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/10 22:00
- 完成日
- 2019/03/19 22:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
それは、そろそろあたたかな風がリゼリオにも舞い込み始めて来た日のこと。
「……そう言えバ、前にコノ季節にお祭り、しましたヨネ?」
リムネラが風に髪を遊ばせながら、そう補佐役のジーク・真田に微笑みかける。言われてジークも思い出す――確かに以前、ささやかながらもひな祭りを祝ったことを。
「そうですね。なんだかもう、ずいぶん前の出来事のようにも思われますけれど」
そう言いながら、ジークは頷き返す。
昨年一昨年と、状況は刻々と変化している。ヘレが六大龍の後継として目覚めたり、大精霊クリムゾンウェストが降臨したり……
ここ一年の変化は、とくに激しいものではなかったろうか。と、リムネラはわずかに顔をほころばせ、そして慈愛の瞳のまま頷いた。
「エエ……デスから、今年もナニかお祭りをシテ……気持ちがナゴめば、ッテ思ったんデスが、ドウでしょう?」
ひな祭り。もとは女性の健やかな成長を祝うための祭りだが、春は出会いと別れの季節でもある。そう言う要素も取り入れて、皆で座を組むのはどうだろう、とリムネラは提案したのだ。
「皆サン、お疲れでしょうカラ……少しデモ、そう言う方タチの癒やしニ、なればイイんですケレド……」
少し声がくぐもっているのは、照れているのだろう。
しかしジークも、これを好機と受け取った。
「いいんじゃないんですか? むしろ、忙しい中だからこそ皆さんも癒やしを求めるというのは同感ですし、ヘレの成長ぶりも知ってもらわないといけませんし、ね?」
ヘレも、こくこくと頷いている。好奇心旺盛なこの龍の幼生も、皆と会いたいらしい。
「とはいえ、なにか面白い趣向があるともっといいんですが……そうだ。みんなの自慢の人形を見せてもらいませんか?」
ジークはいいことを思いついたという顔でにっこり笑う。リムネラはその意味がわからず首をひねるばかりだ。環境の違いというものもあるからと、ジークが丁寧に説明する。
「元々のひな祭りというのはヒトガタを流して厄をはらうという行事でもあったんですが、今はひな人形を流すこともせず、いろんな家のひな人形を一堂に集めた階段びななんかもよく見られるんですよ」
「マア! ソレはとても素敵デスね!」
リムネラもその説明を聞いて目をきらきらと輝かせる。
「それじゃあ、また執り行いますか――ひな祭り!」
ジークの言葉に、リムネラも嬉しそうに頷いて返したのだった。
それは、そろそろあたたかな風がリゼリオにも舞い込み始めて来た日のこと。
「……そう言えバ、前にコノ季節にお祭り、しましたヨネ?」
リムネラが風に髪を遊ばせながら、そう補佐役のジーク・真田に微笑みかける。言われてジークも思い出す――確かに以前、ささやかながらもひな祭りを祝ったことを。
「そうですね。なんだかもう、ずいぶん前の出来事のようにも思われますけれど」
そう言いながら、ジークは頷き返す。
昨年一昨年と、状況は刻々と変化している。ヘレが六大龍の後継として目覚めたり、大精霊クリムゾンウェストが降臨したり……
ここ一年の変化は、とくに激しいものではなかったろうか。と、リムネラはわずかに顔をほころばせ、そして慈愛の瞳のまま頷いた。
「エエ……デスから、今年もナニかお祭りをシテ……気持ちがナゴめば、ッテ思ったんデスが、ドウでしょう?」
ひな祭り。もとは女性の健やかな成長を祝うための祭りだが、春は出会いと別れの季節でもある。そう言う要素も取り入れて、皆で座を組むのはどうだろう、とリムネラは提案したのだ。
「皆サン、お疲れでしょうカラ……少しデモ、そう言う方タチの癒やしニ、なればイイんですケレド……」
少し声がくぐもっているのは、照れているのだろう。
しかしジークも、これを好機と受け取った。
「いいんじゃないんですか? むしろ、忙しい中だからこそ皆さんも癒やしを求めるというのは同感ですし、ヘレの成長ぶりも知ってもらわないといけませんし、ね?」
ヘレも、こくこくと頷いている。好奇心旺盛なこの龍の幼生も、皆と会いたいらしい。
「とはいえ、なにか面白い趣向があるともっといいんですが……そうだ。みんなの自慢の人形を見せてもらいませんか?」
ジークはいいことを思いついたという顔でにっこり笑う。リムネラはその意味がわからず首をひねるばかりだ。環境の違いというものもあるからと、ジークが丁寧に説明する。
「元々のひな祭りというのはヒトガタを流して厄をはらうという行事でもあったんですが、今はひな人形を流すこともせず、いろんな家のひな人形を一堂に集めた階段びななんかもよく見られるんですよ」
「マア! ソレはとても素敵デスね!」
リムネラもその説明を聞いて目をきらきらと輝かせる。
「それじゃあ、また執り行いますか――ひな祭り!」
ジークの言葉に、リムネラも嬉しそうに頷いて返したのだった。
リプレイ本文
●
ひな祭り、と言うことで忙しい中もハンターたちは集まってくれた。無論決して多い人数ではない。それでも各地で戦いが激化している昨今、こうやって集まってくれることだけでも嬉しいのだ。
集まってくれた仲には、見慣れた顔もちらほらいる。
「リムネラさん、お久しぶり!」
そう言ってにっこりと笑うのはUisca Amhran(ka0754)。故郷の人形を、と言って、辺境の雰囲気が色濃く漂う素朴な人形や、部族の祖霊たる雉を模した人形を持ってきている。
「おや、雉とは桃の節句らしい……かどうかはともかく、桃にゆかりある人形ですね」
近くにいた学者肌の黒一点、天央 観智(ka0896)がそう言ってうんうんと頷いている。
「どういうコトですカ?」
リムネラが問うと、
「リアルブルーのおとぎ話に、桃から生まれた少年が犬猿雉を伴って悪い鬼を退治に行くという物語があるんです……鬼と言っても、クリムゾンウェストの鬼とは姿こそ似ていても性格は異なると思いますけれど」
観智はざっくりと説明をする。Uiscaは少し目を輝かせ、
「雉はリアルブルーでもすごいんですね……! なんだか嬉しい」
頬をわずかに紅潮させ、嬉しそうに頷いた。
「でも、きっとチューダさんなら、桃の花よりも実の方がよかったといいそうですけれどね」
あの食いしん坊な幻獣王は多分今日もどこかをふらついているのだろう、ガーディナにこそいないがその存在感は抜群なのだ。
「ああ……そうそう。桃なんですが、僕も少しばかり」
観智がそう言って取り出したのは薄桃色の花をつけた枝。果物としての桃は流石に手に入らなかったものの、花を綺麗につけた枝は入手することが出来たのだと頷いてみせる。
「ひなまつり、か……以前友人の家で見せてもらったことがあるな……無論あまり詳しくはないが。せめてその友人が来ていれば……」
そう、どこか感慨深げにつぶやいているのはレイア・アローネ(ka4082)だ。と、奥の方で手を振っている少女が。その少女――七夜・真夕(ka3977)――に見覚えのあるレイアはつい苦笑を浮かべざるを得ない。
「って、真夕も来てるんかいっ!」
まあつまりが真夕こそ先ほどレイアがつぶやいていた友人であるわけだが。ついでに言えば、春めいた柔らかな紅色の着物を纏った真夕の横には、桜の柄が華やかな着物を綺麗に着付けた雪継・紅葉(ka5188)が立っている。普段紅葉が着ているような色あいの着物に袖を通している真夕は、鴉の濡れ羽色の髪も和服に合わせて高く結い上げ、雰囲気もどこか普段より楚々として愛らしい。
「でもひな祭りをこうやって祝うなんて久しぶり♪」
連れてきた熊のぬいぐるみを階段に設置しながら、真夕は少し胸ときめかせている。それは側にいてくれる唯一無二のパートナー、紅葉の存在も大きいだろう。
(……そうか、彼女と来てるんだな)
仲むつまじそうに語り合う少女二人の様子に、レイアも納得がいったと頷き、あえて声はかけないようにする。
馬に蹴られるようなまねを自分からするわけもないのだ。
●
(なんだか楽しそう)
そう言う素朴な心持ちで参加しているのは小柄ながらも立派な女騎士、サクラ・エルフリード(ka2598)。金属鎧を普段は纏っているが、今日はひな祭りにあわせて着物を纏っているが……人形は手元にあったゆるキャラ的な見た目の『もっちゃりかっぱ人形』と、坊主頭の笑顔をたたえた青年をかたどった『QG人形』という、一種不思議な組み合わせ。それでも階段に飾ってみれば愛嬌のある人形たちはどこか嬉しそうな表情にも見え、なんだか見ている此方もわくわくしてくる。
「でも、こういった着物は普段着ないので、ちょっと変な感じです……着付けは、大丈夫なはずなのですが……」
そうサクラは照れ笑いをほんのり浮かべ、辺境ユニオンのリーダーであるリムネラに挨拶をする。『ガーディナ』にはあまり縁のなかった彼女の、騎士故の礼儀の良さをうかがわされて好印象を受けた。
料理などの類いは途中の店で買ってきたものを持ってきたとのことで、団子などの甘いものが多いようだ。時間がなかったので作るのを断念したのであって、決して失敗して大変なことになっただとか、色合いや見た目や味が怪しいものができたとかで持ってこれなかったというわけではない。ないったらないのである……多分。大事なことなので二度言うのである。
「花を見ながら菓子を食べるのは世界を違えても共通する娯楽ですね」
リアルブルーからの転移者であるジークがうんうんと頷く。
花見というのは日本では千年近く前からの娯楽だし、他の国でも花こそ違えそう言うことを好む人が多いのは間違いがない。
「でも、ひな人形、だっけ? ボク、見るのは初めて……」
紅葉がわずかに緊張したような声音でささやくと、真夕がほら、と少しばかり古ぼけた一対の男女の人形を指さす。
ジークがボロ市でみつけたというひな人形は今風の親王飾りとは異なり、木目込み人形でできた少し幼い雰囲気のものだった。
「ふふ。ひな人形は、きちんとしたものはリアルブルーでも簡単には入手できないんですよねえ……そもそも、元々の雛祭り、というのは、貴族の姫の、雛遊びが起源……とか、聞いたことがありますね。その後に、呪術的なものとつながって……厄除け祈願にされた、とか。そして、時代はまた流れ……雛遊びに回帰した、ん……でしたっけ? 今の雛祭りというのは、女の子の健やかな成長を祈るためのお祝い、と言う印象ですけれど」
そのため、女の子が初めて三月三日を迎える際にひな人形を用意して祝うのが風習なのだと、観智が簡単なレクチャーをする。心なしか生き生きした声なのは、彼の研究者肌の表れだろう。
「うんうん、私のうちも昔から受け継がれたひな人形があってね、とても綺麗だったの」
リアルブルーの由緒ある巫女の家系に産まれたという真夕にすれば、そう言う行事を大切にしてきたのはむしろ当然である。横にいる紅葉が、
「そうなの? ボクも、見てみたいな」
そう言ってそっと真夕の手を握れば、優しく握り返されて。瞳をそろりと合わせれば、相手も笑顔だ。少しばかり甘えたい気分の紅葉は頬を赤らめて頷く。
ちなみに二人で用意した弁当は紅葉のお手製。場の雰囲気に合わせて和風のおかずが多めだ。加えてお弁当のおかずにぴったりな揚げ物をいくらかと言うあたりは食べやすさも考慮したものになっている。
また、こちらも和菓子風のお菓子を用意しており、せっかくなら食べあいっこを……だなんて、そんなことも考えていたり。
●
ところで――ここに来る以前のことになるが。
「……ところで、ヒトガタ、で、大事な、と言いますと……私自身も該当してしまうのですが」
首をかしげているオートマトンのフィロ(ka6966)は、しかし首を小さく横に振る。自分のボディというような意味ではなく、人形が大事に思える、というのは、人形遊びをするような幼い時代があり、あるいは誰かに人形を贈られた経験があり、そうやって初めて発生するのではなかろうか、と思い至るからである。
――オートマトンは、初めから果たすべき役割に沿ったメンタルを与えられ、その職を全うするためだけに行動する自動人形。フィロ自身も目覚めたばかりで、経験というもの自体が少ない。
いや、エバーグリーン時代からの経験がもしあったとしても、オートマトン同士で贈り物をしあうという習慣があったとはとても思えない。
(これは……自分自身を見つめ直せという宿題なのでしょうか……?)
考えれば考えるほど答えは遠くなっていきそうで、迷走してしまう。
と、そんな折、街の手芸店でかわいらしいモビールを見かけた。縮緬生地で作られた、独特の雰囲気のものだ。
「すみません、このモビールは……」
フィロは店で尋ねてみるとそれは「吊し雛」というのだという。いわれや作り方を確認すれば、雛祭りに由来したもので、生まれてきた子供のためにとみんなで小さな人形をこしらえ、それをひもでつるして祝ったと言うことらしい。
(他者に心を込めて作るのなら、大事な人形と言って差し支えないように思われます)
ガーディナには祝福したいと思える存在がいる。次代の白龍、ヘレだ。あの小さな龍のために、縁起物を作るのもいいかもしれない。
店で材料を一通りそろえると、早速作成に取りかかる。
玉飾り、桃飾り、七宝毬飾り、六つ花、三角、紐飾り……合間に幻獣の布人形を挟み入れてやると、可愛らしい吊し雛になっていく。つるす紐は五本、それぞれ紐飾り以外の順番を少しずつ変えてこしらえると、それを丁寧に輪金具に留めてできあがりだ。
作っていくうちに彼女の口元はわずかに緩み、そして
(これで胸を張ってヘレ様に会いに行けます……)
そう思えて、なんだか誇らしくも嬉しかった。
●
ヘレのためにと心づくしの吊るし雛がフィロから贈られると、ヘレは嬉しそうに目を輝かせた。そして、
「ありがと、フィロ!」
とつたなげではあるがはっきりとそう発音し、ヘレは背中の羽を動かしてフィロにすり寄る。
挨拶はすべての基本。
ヘレは素直で優しい性格に育ってきているようだ。
「そう言えば人形を持ち寄ると聞いて手作りしてみたのだが」
レイアが持ってきたのは、木彫りの男女の人形だ。
「流す風習もあるように聞いていたのでそちら用も作ってきたのだが……」
と言って持ってきたのはでっぷり太ったげっ歯類の木彫り人形。
「いや、手が勝手にこれを……そう言えば元気でしているのだろうか」
この木彫りから想像されるあの幻獣王に思いをはせる。
「チューダなら、被害の及ばないトコロで、キット元気デスよ」
リムネラはそう言ってクスッと笑った。
「ならそれで良いのだが……」
レイアはレイアで複雑そうな顔だ。気にしていると言うことを自身も認めたくはないのだろう。
「そう言えば飾る人形に、ヘレとリムネラはどうだろうか? よければ、二人でお内裏様として」
「あ、それは素敵な考えですね!」
Uiscaも頷く。彼女は先だっての当方の戦いでの多くの犠牲の下に助けてもらっていた。そんな経験のためにいつもより笑顔も少しぎこちなかったが、それでも今回の宴を通して、このような穏やかな時間を守るためにまた頑張ろう――そうそっと、心に誓う。
「……私は、みんなの笑顔を、こんな穏やかな時間を、護っていきたいです。だから……そのためにも、がんばりますっ」
そう胸を張って言ってみせる。
(だってそのために、守護者になったんだから……)
それは彼女なりの矜持。
「そうだな。ともに頑張っていこう」
「そうですね。私も同じ気持ちです」
レイアが、サクラが、そう言って頷いてみせた。
●
やさしいハモニカの音色はサクラが奏でている。大きく鳴らすわけでなく、メロディもおとなしめのものだったこともあって、場にそのメロディが優しく溶け込んでいく。
フィロはメイド型と言うこともあって性分なのだろう、丁寧に給仕などをこなしていく。
皆もサクラの奏でるメロディを聞きながら、優しい言葉を選んで話をする。
真夕と紅葉は手をつないで料理をともに食し、「あーん」も更にやってみたり。
観智はと言えば、ヘレに雛祭りにまつわる話を、言葉を選んで話してやる。
形の似たものはその性質もよく似たもの……と言う信仰のようなものが、雛祭り発祥の地にはあったと言うこと。そこで、その人に降りかかるはずの災厄を、依り代と呼ばれる人形などの別のものに降りかからせるようにして、本人はその厄災から免れられるように、と言うようなまじないが出来たこと。災厄を引き受けた依り代が近くにあったら、身代わりと気づかれるかもしれないからと川などに流すようになったこと……ひな祭りの起源を丁寧に説明すると、ヘレもリムネラも、興味深げに聞きながら頷いていた。
「私も恋人から簡単なことは聞いていたけれど、そんな起源があったんだ……なるほど、そう言う風習が、今のひな祭りにつながっていったんだね」
Uiscaやフィロも頷きながらその説明を聞いている。そして目を輝かせて聞いていたヘレをぎゅっと抱きしめると、
「でもヘレちゃんも元気そうでよかった! やる気、充電させてね?」
そう言ってはにかむように笑う。
リムネラも優しく頷き、ヘレもヘレでその考えがわかるのだろう、あえて甘えるような仕草をしてみせる。
「うむ。こっちも簡単だが出来たぞ?」
レイアがトン、と階段においたのはヘレをどこか思わせる小さな木彫り人形。リムネラを思わせる小さな人形とともに並んでいて、龍とその巫女というのが何となく愛らしい。よくよく見るとその少し下の方に先ほどのげっ歯類人形がちょんと置いてあったりするあたり、レイアの素直じゃない性格が垣間見える気もする。
穏やかな時間。
戦いをしばし忘れ、しかし新たな戦いのための充電も行いながら――皆は優しい気持ちで、その穏やかな春の日を過ごしたのだった。
ひな祭り、と言うことで忙しい中もハンターたちは集まってくれた。無論決して多い人数ではない。それでも各地で戦いが激化している昨今、こうやって集まってくれることだけでも嬉しいのだ。
集まってくれた仲には、見慣れた顔もちらほらいる。
「リムネラさん、お久しぶり!」
そう言ってにっこりと笑うのはUisca Amhran(ka0754)。故郷の人形を、と言って、辺境の雰囲気が色濃く漂う素朴な人形や、部族の祖霊たる雉を模した人形を持ってきている。
「おや、雉とは桃の節句らしい……かどうかはともかく、桃にゆかりある人形ですね」
近くにいた学者肌の黒一点、天央 観智(ka0896)がそう言ってうんうんと頷いている。
「どういうコトですカ?」
リムネラが問うと、
「リアルブルーのおとぎ話に、桃から生まれた少年が犬猿雉を伴って悪い鬼を退治に行くという物語があるんです……鬼と言っても、クリムゾンウェストの鬼とは姿こそ似ていても性格は異なると思いますけれど」
観智はざっくりと説明をする。Uiscaは少し目を輝かせ、
「雉はリアルブルーでもすごいんですね……! なんだか嬉しい」
頬をわずかに紅潮させ、嬉しそうに頷いた。
「でも、きっとチューダさんなら、桃の花よりも実の方がよかったといいそうですけれどね」
あの食いしん坊な幻獣王は多分今日もどこかをふらついているのだろう、ガーディナにこそいないがその存在感は抜群なのだ。
「ああ……そうそう。桃なんですが、僕も少しばかり」
観智がそう言って取り出したのは薄桃色の花をつけた枝。果物としての桃は流石に手に入らなかったものの、花を綺麗につけた枝は入手することが出来たのだと頷いてみせる。
「ひなまつり、か……以前友人の家で見せてもらったことがあるな……無論あまり詳しくはないが。せめてその友人が来ていれば……」
そう、どこか感慨深げにつぶやいているのはレイア・アローネ(ka4082)だ。と、奥の方で手を振っている少女が。その少女――七夜・真夕(ka3977)――に見覚えのあるレイアはつい苦笑を浮かべざるを得ない。
「って、真夕も来てるんかいっ!」
まあつまりが真夕こそ先ほどレイアがつぶやいていた友人であるわけだが。ついでに言えば、春めいた柔らかな紅色の着物を纏った真夕の横には、桜の柄が華やかな着物を綺麗に着付けた雪継・紅葉(ka5188)が立っている。普段紅葉が着ているような色あいの着物に袖を通している真夕は、鴉の濡れ羽色の髪も和服に合わせて高く結い上げ、雰囲気もどこか普段より楚々として愛らしい。
「でもひな祭りをこうやって祝うなんて久しぶり♪」
連れてきた熊のぬいぐるみを階段に設置しながら、真夕は少し胸ときめかせている。それは側にいてくれる唯一無二のパートナー、紅葉の存在も大きいだろう。
(……そうか、彼女と来てるんだな)
仲むつまじそうに語り合う少女二人の様子に、レイアも納得がいったと頷き、あえて声はかけないようにする。
馬に蹴られるようなまねを自分からするわけもないのだ。
●
(なんだか楽しそう)
そう言う素朴な心持ちで参加しているのは小柄ながらも立派な女騎士、サクラ・エルフリード(ka2598)。金属鎧を普段は纏っているが、今日はひな祭りにあわせて着物を纏っているが……人形は手元にあったゆるキャラ的な見た目の『もっちゃりかっぱ人形』と、坊主頭の笑顔をたたえた青年をかたどった『QG人形』という、一種不思議な組み合わせ。それでも階段に飾ってみれば愛嬌のある人形たちはどこか嬉しそうな表情にも見え、なんだか見ている此方もわくわくしてくる。
「でも、こういった着物は普段着ないので、ちょっと変な感じです……着付けは、大丈夫なはずなのですが……」
そうサクラは照れ笑いをほんのり浮かべ、辺境ユニオンのリーダーであるリムネラに挨拶をする。『ガーディナ』にはあまり縁のなかった彼女の、騎士故の礼儀の良さをうかがわされて好印象を受けた。
料理などの類いは途中の店で買ってきたものを持ってきたとのことで、団子などの甘いものが多いようだ。時間がなかったので作るのを断念したのであって、決して失敗して大変なことになっただとか、色合いや見た目や味が怪しいものができたとかで持ってこれなかったというわけではない。ないったらないのである……多分。大事なことなので二度言うのである。
「花を見ながら菓子を食べるのは世界を違えても共通する娯楽ですね」
リアルブルーからの転移者であるジークがうんうんと頷く。
花見というのは日本では千年近く前からの娯楽だし、他の国でも花こそ違えそう言うことを好む人が多いのは間違いがない。
「でも、ひな人形、だっけ? ボク、見るのは初めて……」
紅葉がわずかに緊張したような声音でささやくと、真夕がほら、と少しばかり古ぼけた一対の男女の人形を指さす。
ジークがボロ市でみつけたというひな人形は今風の親王飾りとは異なり、木目込み人形でできた少し幼い雰囲気のものだった。
「ふふ。ひな人形は、きちんとしたものはリアルブルーでも簡単には入手できないんですよねえ……そもそも、元々の雛祭り、というのは、貴族の姫の、雛遊びが起源……とか、聞いたことがありますね。その後に、呪術的なものとつながって……厄除け祈願にされた、とか。そして、時代はまた流れ……雛遊びに回帰した、ん……でしたっけ? 今の雛祭りというのは、女の子の健やかな成長を祈るためのお祝い、と言う印象ですけれど」
そのため、女の子が初めて三月三日を迎える際にひな人形を用意して祝うのが風習なのだと、観智が簡単なレクチャーをする。心なしか生き生きした声なのは、彼の研究者肌の表れだろう。
「うんうん、私のうちも昔から受け継がれたひな人形があってね、とても綺麗だったの」
リアルブルーの由緒ある巫女の家系に産まれたという真夕にすれば、そう言う行事を大切にしてきたのはむしろ当然である。横にいる紅葉が、
「そうなの? ボクも、見てみたいな」
そう言ってそっと真夕の手を握れば、優しく握り返されて。瞳をそろりと合わせれば、相手も笑顔だ。少しばかり甘えたい気分の紅葉は頬を赤らめて頷く。
ちなみに二人で用意した弁当は紅葉のお手製。場の雰囲気に合わせて和風のおかずが多めだ。加えてお弁当のおかずにぴったりな揚げ物をいくらかと言うあたりは食べやすさも考慮したものになっている。
また、こちらも和菓子風のお菓子を用意しており、せっかくなら食べあいっこを……だなんて、そんなことも考えていたり。
●
ところで――ここに来る以前のことになるが。
「……ところで、ヒトガタ、で、大事な、と言いますと……私自身も該当してしまうのですが」
首をかしげているオートマトンのフィロ(ka6966)は、しかし首を小さく横に振る。自分のボディというような意味ではなく、人形が大事に思える、というのは、人形遊びをするような幼い時代があり、あるいは誰かに人形を贈られた経験があり、そうやって初めて発生するのではなかろうか、と思い至るからである。
――オートマトンは、初めから果たすべき役割に沿ったメンタルを与えられ、その職を全うするためだけに行動する自動人形。フィロ自身も目覚めたばかりで、経験というもの自体が少ない。
いや、エバーグリーン時代からの経験がもしあったとしても、オートマトン同士で贈り物をしあうという習慣があったとはとても思えない。
(これは……自分自身を見つめ直せという宿題なのでしょうか……?)
考えれば考えるほど答えは遠くなっていきそうで、迷走してしまう。
と、そんな折、街の手芸店でかわいらしいモビールを見かけた。縮緬生地で作られた、独特の雰囲気のものだ。
「すみません、このモビールは……」
フィロは店で尋ねてみるとそれは「吊し雛」というのだという。いわれや作り方を確認すれば、雛祭りに由来したもので、生まれてきた子供のためにとみんなで小さな人形をこしらえ、それをひもでつるして祝ったと言うことらしい。
(他者に心を込めて作るのなら、大事な人形と言って差し支えないように思われます)
ガーディナには祝福したいと思える存在がいる。次代の白龍、ヘレだ。あの小さな龍のために、縁起物を作るのもいいかもしれない。
店で材料を一通りそろえると、早速作成に取りかかる。
玉飾り、桃飾り、七宝毬飾り、六つ花、三角、紐飾り……合間に幻獣の布人形を挟み入れてやると、可愛らしい吊し雛になっていく。つるす紐は五本、それぞれ紐飾り以外の順番を少しずつ変えてこしらえると、それを丁寧に輪金具に留めてできあがりだ。
作っていくうちに彼女の口元はわずかに緩み、そして
(これで胸を張ってヘレ様に会いに行けます……)
そう思えて、なんだか誇らしくも嬉しかった。
●
ヘレのためにと心づくしの吊るし雛がフィロから贈られると、ヘレは嬉しそうに目を輝かせた。そして、
「ありがと、フィロ!」
とつたなげではあるがはっきりとそう発音し、ヘレは背中の羽を動かしてフィロにすり寄る。
挨拶はすべての基本。
ヘレは素直で優しい性格に育ってきているようだ。
「そう言えば人形を持ち寄ると聞いて手作りしてみたのだが」
レイアが持ってきたのは、木彫りの男女の人形だ。
「流す風習もあるように聞いていたのでそちら用も作ってきたのだが……」
と言って持ってきたのはでっぷり太ったげっ歯類の木彫り人形。
「いや、手が勝手にこれを……そう言えば元気でしているのだろうか」
この木彫りから想像されるあの幻獣王に思いをはせる。
「チューダなら、被害の及ばないトコロで、キット元気デスよ」
リムネラはそう言ってクスッと笑った。
「ならそれで良いのだが……」
レイアはレイアで複雑そうな顔だ。気にしていると言うことを自身も認めたくはないのだろう。
「そう言えば飾る人形に、ヘレとリムネラはどうだろうか? よければ、二人でお内裏様として」
「あ、それは素敵な考えですね!」
Uiscaも頷く。彼女は先だっての当方の戦いでの多くの犠牲の下に助けてもらっていた。そんな経験のためにいつもより笑顔も少しぎこちなかったが、それでも今回の宴を通して、このような穏やかな時間を守るためにまた頑張ろう――そうそっと、心に誓う。
「……私は、みんなの笑顔を、こんな穏やかな時間を、護っていきたいです。だから……そのためにも、がんばりますっ」
そう胸を張って言ってみせる。
(だってそのために、守護者になったんだから……)
それは彼女なりの矜持。
「そうだな。ともに頑張っていこう」
「そうですね。私も同じ気持ちです」
レイアが、サクラが、そう言って頷いてみせた。
●
やさしいハモニカの音色はサクラが奏でている。大きく鳴らすわけでなく、メロディもおとなしめのものだったこともあって、場にそのメロディが優しく溶け込んでいく。
フィロはメイド型と言うこともあって性分なのだろう、丁寧に給仕などをこなしていく。
皆もサクラの奏でるメロディを聞きながら、優しい言葉を選んで話をする。
真夕と紅葉は手をつないで料理をともに食し、「あーん」も更にやってみたり。
観智はと言えば、ヘレに雛祭りにまつわる話を、言葉を選んで話してやる。
形の似たものはその性質もよく似たもの……と言う信仰のようなものが、雛祭り発祥の地にはあったと言うこと。そこで、その人に降りかかるはずの災厄を、依り代と呼ばれる人形などの別のものに降りかからせるようにして、本人はその厄災から免れられるように、と言うようなまじないが出来たこと。災厄を引き受けた依り代が近くにあったら、身代わりと気づかれるかもしれないからと川などに流すようになったこと……ひな祭りの起源を丁寧に説明すると、ヘレもリムネラも、興味深げに聞きながら頷いていた。
「私も恋人から簡単なことは聞いていたけれど、そんな起源があったんだ……なるほど、そう言う風習が、今のひな祭りにつながっていったんだね」
Uiscaやフィロも頷きながらその説明を聞いている。そして目を輝かせて聞いていたヘレをぎゅっと抱きしめると、
「でもヘレちゃんも元気そうでよかった! やる気、充電させてね?」
そう言ってはにかむように笑う。
リムネラも優しく頷き、ヘレもヘレでその考えがわかるのだろう、あえて甘えるような仕草をしてみせる。
「うむ。こっちも簡単だが出来たぞ?」
レイアがトン、と階段においたのはヘレをどこか思わせる小さな木彫り人形。リムネラを思わせる小さな人形とともに並んでいて、龍とその巫女というのが何となく愛らしい。よくよく見るとその少し下の方に先ほどのげっ歯類人形がちょんと置いてあったりするあたり、レイアの素直じゃない性格が垣間見える気もする。
穏やかな時間。
戦いをしばし忘れ、しかし新たな戦いのための充電も行いながら――皆は優しい気持ちで、その穏やかな春の日を過ごしたのだった。
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依頼相談掲示板 | |||
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/10 09:49:20 |
|
![]() |
【相談卓】ガーディナで雛祭り Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/03/10 20:20:33 |