ゲスト
(ka0000)
【東幕】孤縁の坂上
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/14 22:00
- 完成日
- 2019/03/21 09:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
憤怒王分体である狐卯猾が大群の歪虚を引き連れ、天ノ都を襲撃。
そしてその討伐に失敗した。
兵は討ち死にした者、怪我をした者、行方が知れぬ者と様々であったという。
力を持たぬ市井の者達は天ノ都郊外へと逃げ出していた。
避難した先は様々であり、郊外の坂の上にある寺では逃げてきた民を受け入れている。
とはいえ、満足な設備もない。子供達や乳飲み子を抱える母親は修行僧が空けてくれたの部屋で休み、他の大人はお堂の広間で休む。
食事は台所では足りず、庭で炊き出しをして飢餓から逃れている状態。
着の身着のままで逃げ出してきた避難民への災難は続く。
這う這うの体で寺に続く階段を上がっていく小坊主の身なりは転んだように衣服に泥がついていた。
「住職!」
怪談を昇り切った小坊主は体勢を崩してしまい、そのまま転んでしまった。
「紫丸!? どうしたんじゃ? 六連は!?」
住職や他の僧が心配して駆け寄る。
「歪虚がこの寺に向かってきています! 六連さんは鬼を追い払う為に戦ってます……」
小坊主の紫丸の話に寄ると、歪虚の戦意は衰えず、有り余った力を奮うべく獲物を探している状態。
この寺にて修行する僧は戦えるのだが、覚醒者は六連という僧侶一人しかおらず、その六連は小坊主を守り、餓鬼を引き連れる大鬼の攻撃で怪我をしたとのこと。
暫しのちに六連が傷だらけで戻ってきた。
住職はこの事態を想定しており、政府からの援軍は見込めない為、ハンターへ見回りと歪虚討伐の依頼をしていた。
それは翌日にハンターがこちらに来る手筈となっている。
「後一晩、持ちこたえるのじゃ……!」
武器を手にした僧侶達は厳しい表情で頷いた。
そしてその討伐に失敗した。
兵は討ち死にした者、怪我をした者、行方が知れぬ者と様々であったという。
力を持たぬ市井の者達は天ノ都郊外へと逃げ出していた。
避難した先は様々であり、郊外の坂の上にある寺では逃げてきた民を受け入れている。
とはいえ、満足な設備もない。子供達や乳飲み子を抱える母親は修行僧が空けてくれたの部屋で休み、他の大人はお堂の広間で休む。
食事は台所では足りず、庭で炊き出しをして飢餓から逃れている状態。
着の身着のままで逃げ出してきた避難民への災難は続く。
這う這うの体で寺に続く階段を上がっていく小坊主の身なりは転んだように衣服に泥がついていた。
「住職!」
怪談を昇り切った小坊主は体勢を崩してしまい、そのまま転んでしまった。
「紫丸!? どうしたんじゃ? 六連は!?」
住職や他の僧が心配して駆け寄る。
「歪虚がこの寺に向かってきています! 六連さんは鬼を追い払う為に戦ってます……」
小坊主の紫丸の話に寄ると、歪虚の戦意は衰えず、有り余った力を奮うべく獲物を探している状態。
この寺にて修行する僧は戦えるのだが、覚醒者は六連という僧侶一人しかおらず、その六連は小坊主を守り、餓鬼を引き連れる大鬼の攻撃で怪我をしたとのこと。
暫しのちに六連が傷だらけで戻ってきた。
住職はこの事態を想定しており、政府からの援軍は見込めない為、ハンターへ見回りと歪虚討伐の依頼をしていた。
それは翌日にハンターがこちらに来る手筈となっている。
「後一晩、持ちこたえるのじゃ……!」
武器を手にした僧侶達は厳しい表情で頷いた。
リプレイ本文
依頼を遂行すべく、依頼人がいる寺院へ向かったハンター達は大きく残る歪虚との戦いの傷跡が視界を埋め尽くす。
郊外に向かうとともにその跡が薄れていくように静かになっていたが、その静けさは不安を掻き立てるようなものだった。
山が近づき、目的の寺院が近くなると同時にハンター達は異変を感じる。
「わふー?」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)が首を傾げつつ、声を上げた。
「如何しましたか?」
振り向きつつ、セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)が尋ねる。彼の視線は目的の寺院の方角。
「あれ……人影でしょうか?」
遠く影の状態しか見えないので、自信なさそうに玲瓏(ka7114)が呟く。
寺の人間か、避難民かは分からなかったが、物々しい様子に鞍馬 真(ka5819)が顔を顰める。
「厭な様子だね」
金色の双眸を真っすぐ影へと見つめ、素直な感想を呟くのはシグ(ka6949)。
「迂闊に近づくと面倒かも」
瀬崎 琴音(ka2560)の言葉に全員が頷いた。
あれは歪虚だとハンター達は察したのだ。
ハンター達は二手に分かれて進む。
琴音、シグ、玲瓏はぐるっと回って裏手から向かうことになった。
歪虚は寺院を取り囲むように坂を上っていっているようだ。
正面組の階段とは違い、裏手組は階段などはない坂。今は雪解けの三月の半ばであるが、地面のぬかるみは少なく、足元がしっかりしているのはありがたい。
「着の身着のまま逃げてきて、ここまで逃げて、結局駄目でした……なんて悲劇は懲り懲りです」
眉を下げてシグが呟く。
「同感です。寺の敷地内への侵入を許す前に終わらせましょう」
玲瓏が頷くと、琴音も同じ考えのようで、上を見つめる。
「行こう、相手はかなり先を進んでいるよ」
そう言った琴音から青白い気が放たれる。ゆらりと垣間見る気は狐の形にみえた。彼女の下駄よりマテリアルを噴射させ、ジェットブーツを発動させた。
シグと玲瓏も続き、進みだす。
餓鬼単体ならば、初心者ハンターでも対応可能であるが、群れで行動する場合が面倒だ。
傾斜を上がっていくと、人の声とは思えない甲高い鳴き声が聞こえてきた。鳴き声に反応するように似た鳴き声が他から返されるところから餓鬼だろう。
暫くすると姿を見つける。
まだ背後から近づく気配に気づいていないようで、見えてくる建物……寺院に向かって威嚇のような奇声を上げたりしていた。
シグが二人に断りを入れて横から回る旨をジェスチャーで伝える。
残った玲瓏と琴音はシグを見送り、速度を変えずに距離を置きつつ餓鬼へ近づいていった。
狐卯猾のマテリアルに攻撃的になっている歪虚はそっと動いているシグに何一つ気づいていない。
寺院の側面を攻めようとしている歪虚もまた、シグに気づいていなかった。
一方、正面組は大鬼の動きを見つつ、奇襲のタイミングを見ていた。
待機の中、アルマは狂蒼極を発動し、錬金杖「ヴァイザースタッフ」にマテリアルを収束させている。
「様子はどうですかー?」
スキルの発動を終えたアルマが顔を上げて様子を尋ねた。
「動きが早まっているようです」
険しい表情のセツナの視線は敵の方角にある。アルマは状況を理解し、柳眉を八の字に顰め、ため息を吐く。
「わぅ……もう一度、かけたかったのですが、仕方ないです」
しょんぼりするアルマだが、気持ちを切り替える。
「じゃぁ、行こうか。正々堂々と」
真が促すと、三人は寺の方向へと進みだした。
敵は先日動いた強大な歪虚……憤怒王のマテリアルに触れて気が高ぶっているのだろう。得物がいるだろう寺院の方角しか見ていない。
歩きながら覚醒する真の瞳が一瞬だけ金色に光る。
体内のマテリアルを燃やし、炎のようなオーラを纏ってソウルトーチを発動させた。敵を引き付ける為だ。
気配に気づいた大鬼の一体が振り向けば、三人の人間がこちらへ向かってきているのに気づく。
魔導剣「カオスウィース」を引き抜いた真は血色の切っ先を敵へと向ける。
危害を加える意志があることを伝えるように。
槍を持った大鬼が吠えると、近くにいた大鬼や餓鬼がハンターの方へと向かう。
向かってくる人間は細身の男女三人、力がどれほどあるか歪虚には興味のない事なのかもしれない。
荒ぶる力を振り下ろす先が欲しいだけだ。
「わふーーー!!」
一番背の高い人間……アルマが真とセツナの前に出て絶叫すると、彼は錬金杖を前方の歪虚に向けた。
金の光が中空に点ると、花茎のような形となり、蕾を守る葉が破られている。その形は彼岸花のように咲いていく。
花弁の奥より噴き出すその形は蒼炎。
連携するように左胸に蒼い炎の幻影が燃え上がった。
狂蒼極の効果で終蒼の冷焔の力は強まり、槍を持った大鬼目がけて噴射する。
槍を持った大鬼は近くにいた同胞の大鬼と餓鬼を片手でそれぞれの首を持ちあげて自身の前に引き寄せた。
アルマが発動したスキルの効果は一直線にあるが、まともにくらった大鬼と餓鬼の正面はしっかり凍傷の状態となっており、ほぼ動けない状態で倒れた。
「あの槍持ち……知能が高いようですね」
優美な顔を顰めるセツナは太刀「宗三左文字」に手をかけて敵を見据える。
「先に片づけた方がいいね。こちら正面組、槍を持っている大鬼は知能が高い。他の大鬼にも気を付けて」
同感といわんばかりに真が呟き、裏手組へ連絡した。
正面の方から聞こえる音が聞こえると、玲瓏に着信が入り、交戦中で大鬼への注意が飛んでくる。
大鬼と餓鬼の知能がどれほどかはわからないが、いくら強い歪虚の気に触れていたとしても、倒されるという危惧を感じれば逃げるという判断も出来るだろう。
シグは錬金杖を構え、直線状に出来る限り複数の餓鬼が入るようによく狙う。
雷撃を呼び起こすと、一直線に紫電が走っていった。
横から突かれるような攻撃を受けた複数の餓鬼は身を竦めて弾かれたように転んでしまう。
攻撃を逃れた餓鬼達が攻撃を仕掛けたシグの方へと向かっていく。
横から伸びる光に気づいた餓鬼もいたが、伸びた光の三角形の点に腕や足を撃ち抜かれては動きを止められてしまう。
琴音のデルタレイに怯んだ餓鬼だが、再びシグへと向かっていく。シグは背を見せないように少しずつ坂を登り、歪虚より高所を捉えていく。
形勢が逆転されないように餓鬼は持っていた小石をシグへ投げようとした。
身構えるシグだが、歪虚の背後に桃の実のようなマテリアルの泡玉が飛び交い、餓鬼の背に当たるとマテリアルが弾ける。
石が投げられることはなく、力なく餓鬼の手から石が零れて地に落ちる。餓鬼はうつし世とかくり世の狭間にでも隠されたかのように動けない。
最初のシグが発動したライトニングボルトをくらった餓鬼の一体が体勢を戻して逃げ出した。
正面へ逃げようとするが、その方向からも戦闘の音が聞こえてきており、餓鬼は慌てて軌道修正しようとする。
背後から降りかかる影に気づいた餓鬼は見上げた。
ジェットブーツでジャンプをし、距離を縮めていく琴音の姿に餓鬼は声を上げる。
逃げる事もかなわず、そのまま斬られてしまう。
「背後は任せて、ね」
琴音がシグへ声をかけると、彼は頷いて高所へと上がり、彼らから見て側面にあたる方向にいる複数の餓鬼に向けてライトニングボルトを発動させた。
敵の司令官に先制の挨拶を済ませた正面組は歪虚と交戦中だ。
彼らが先に狙うのは攻撃力の高い大鬼。
自身のマテリアルを武器に伝達するソウルエッジを使い、強化している真に隙を窺えたのだろうか、二体の大鬼が向かってきた。
二体とも棍棒や鉈を持っており、武器を振り上げている。
剣を納刀の状態にしたまま、真は二体の大鬼目がけて向かう。自分の周囲に味方はない事を素早く確認し、真は剣を抜き放つ。
抜き放った一太刀目は右手にいた大鬼の腕を斬りつけた。腕を返し、軸足の反動を使って二撃目でその腕を斬り落とす。
すぐさま動いた真は上段から振り下ろされる鉈と血色の刃が交わされた。
鉈を持つ大鬼の胴に隙を見つけた真が空いた手で構えているのは四十センチほどの柄。彼のマテリアルに反応し、一気に光の刃が大鬼へと突き刺さる。
間合いを取るように移動しつつも光刃が大鬼の胴を斬り裂いていく。
大鬼の腹が深く裂かれ、一体が倒れた。
息を吐くことなく真は隻腕となった大鬼へと向かう。
寺へ向かう階段半ばまで進んでいた大鬼は階段下での大技を繰り広げる人間達の乱入に驚いて何事かと降りていく。
先ほどの先制攻撃の時、階段挟んだはす向かいの同胞が蒼い炎のようなエネルギー派にやられ、凍傷のような状態となって動きが取れない状態となったからだ。
下へ降りていくと、一人の人間……セツナが下へ降りる大鬼へ顔を向ける。
彼女が今対峙しているのは大鬼に控える餓鬼。
投石をしてはセツナとの間合いを取ろうとしている餓鬼だが、雑な投げ方をしているので、その軌道を読まれては躱されていた。
セツナが腰を捻った低い姿勢で剣先を地を擦り上げる。
摩擦熱で発火した火花を散らして素早く刃を振れば、赤い眉月の如くに細い軌道を描く鋭い斬撃が餓鬼へと降ろされた。
餓鬼の細い首元から斜めに斬られ、そのまま二つに身体が分かれてしまう。
刀身を一度振ったセツナは刀を構えて降りてきた大鬼を見据える。
澄んだ緑の瞳の剣士と棍棒を持つ大鬼が視線を躱したのは一瞬であり、次の動作に映っていた。
その一方、裏手にいる殆どの餓鬼達は玲瓏達の連携で戦闘不能となっていた。
「左に逃げていきます!」
鋭く叫ぶ玲瓏が見た餓鬼は距離が離れていた。恐らく、倒れて振りをして腹ばいで少しずつ逃げようとしていたのだろう。
「わかったよ」
応じた琴音が即座にデルタレイを発動して餓鬼を撃ち倒す。
「シグ様、寺院の方へご報告願います」
高所にポジションを取っていたシグへ玲瓏が頼みごとを伝える。
「少しでも早く、味方が来ていることをお伝えください」
「わかりました」
了解したシグは寺院の方へと向かう。
坂を上がり切ると、入れるところを探す。寺院の周囲には壁があり、正面の門以外にあれば……と思い、周りをぐるっと歩く。
勝手口のような戸を見つけたシグはそっと戸を押すと、向こうから反発する力に気づいて反射的に手を引いた。
「こちらの住職の依頼を受けたハンターです。僕の他、五名が歪虚と交戦中です。裏手から近づいた歪虚は討伐完了、これから脇を固める歪虚と正面の歪虚の討伐です」
簡潔に状況を伝えるシグの話に戸の向こうの気配がざわめく。
「戸は開けないでください。怪我人はいますか?」
シグの問いかけに反応したのは子供の声。
「正面の階段の一番上では六連さんが怪我をした状態で守ってます。助けてくださいっ」
「わかりました。周囲の安全確保が完了するまで固まって隠れて下さい」
必死そうな子供の声にシグは言葉を返し、玲瓏へ怪我人が正面にいる事をインカムより伝えた。
シグからの報告を聞いた玲瓏はシグの居場所を確認し、琴音と共に再び合流する。
怪我をした状態でいつ来るかわからない敵を待ち構えるのは心が擦り切れてしまう。
壁伝いに正面へ回った三人は六連だろう青年の方へと向かう。
「ハンターです。六連さんですか? 傷を見せてください」
玲瓏が尋ねると、彼はハンターの言葉にほっとしたような様子を見せる。
周囲を警戒している琴音が側面から這い上がろうとしている餓鬼二体に気づいた。彼女はジェットブーツで敵の懐に飛び込む。
着地した足を軸に琴音は円を意識するように餓鬼を斬りつける。もう一匹の攻撃を回避したが、斬りつけた方の餓鬼が琴音に飛び込んで長い爪を彼女の腕に食い込ませた。
「……うっ」
顔を顰める琴音は手負いの餓鬼を倒す。
もう一体へ刃を向けようとすると、無色の波動が歪虚に衝撃を与え、追いかけるようにアサルトライフルの弾丸が餓鬼の動きを止めた。
「大丈夫ですか」
シグが琴音に尋ねると、彼女は頷く。
正面の階段を取り囲む大鬼もハンターの働きで倒されていった。
「随分頑丈ですねー」
槍持ちの大鬼に対し、朗らかに笑うのはアルマだ。
先ほどの同胞を盾にした回避を鑑みても、知能が思ったよりあるのは明白。
何一つとして逃す気はない。
そして、彼が抱えている焦燥感をぶつけるには十分な存在だと判断する。
「歪虚さんは狐卯猾さんの負のマテリアルで気が触れてここのお寺を狙っているんですよね?」
アルマは「そうでしょう?」と言いたいように杖を大鬼へ向けると、大鬼は槍をアルマへと突きつけてきた。
寸でで躱すアルマだが、次の突きを避けきれず、白皙の頬に赤い筋を許してしまう。連撃の突きに何とか避けようとするアルマの前に入ってきたのは二体の大鬼を始末した真だ。
剣先で穂先をねじ伏せ、体重をかけるように真は身を屈ませる。
「ありがとうですよ……ホント、いらいらはよくないですよね」
焦燥は集中力を奪う。
心からそう思うアルマは真の姿勢を配慮し、やや上向きに発動させたのはファイアスローワー。
扇状に広がる炎が大鬼の頭を焼く。
横から更にセツナが大鬼の胴を真っ二つにした。
玲瓏が六連に治療をしていると、正面組が階段を上がってくる。
「こっちは終わったよ」
報告した真が気にしているのは六連。
「ここの修行僧だって。歪虚に傷を負わされたそうだよ」
琴音が言えば、正面組は納得した。
「治療も終わりましたので、まずは報告に行きましょう」
体力が戻っていない六連をシグとセツナが両脇を支えながら歩いていく。
寺のお堂の中で固まっていた避難民と修行僧に囲っていた歪虚は討伐できたことを伝えると彼らに安堵と疲労がどっと出ていた。
けが人は六連で紫丸は軽い擦り傷なので、玲瓏の手当で済んだ。
「ここを代表して礼を申します」
頭を下げる住職にアルマが「わふー、気にしなくていいのですー」と笑う。
「ハンターの仕事だからね。それに、まだ見回りが終わってないから」
冷静に告げる真にハンター達が頷く。
「では、行きましょう」
セツナが促すと、ハンター達は本来の依頼である寺周辺の見回りへと向かった。
幸い、周辺に歪虚の姿はなく、ハンター滞在中に歪虚の襲撃はなかったのは幸いだった。
桜の蕾が膨らむ頃、花が咲くころに落ち着けばいいと誰もがそう願う。
郊外に向かうとともにその跡が薄れていくように静かになっていたが、その静けさは不安を掻き立てるようなものだった。
山が近づき、目的の寺院が近くなると同時にハンター達は異変を感じる。
「わふー?」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)が首を傾げつつ、声を上げた。
「如何しましたか?」
振り向きつつ、セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)が尋ねる。彼の視線は目的の寺院の方角。
「あれ……人影でしょうか?」
遠く影の状態しか見えないので、自信なさそうに玲瓏(ka7114)が呟く。
寺の人間か、避難民かは分からなかったが、物々しい様子に鞍馬 真(ka5819)が顔を顰める。
「厭な様子だね」
金色の双眸を真っすぐ影へと見つめ、素直な感想を呟くのはシグ(ka6949)。
「迂闊に近づくと面倒かも」
瀬崎 琴音(ka2560)の言葉に全員が頷いた。
あれは歪虚だとハンター達は察したのだ。
ハンター達は二手に分かれて進む。
琴音、シグ、玲瓏はぐるっと回って裏手から向かうことになった。
歪虚は寺院を取り囲むように坂を上っていっているようだ。
正面組の階段とは違い、裏手組は階段などはない坂。今は雪解けの三月の半ばであるが、地面のぬかるみは少なく、足元がしっかりしているのはありがたい。
「着の身着のまま逃げてきて、ここまで逃げて、結局駄目でした……なんて悲劇は懲り懲りです」
眉を下げてシグが呟く。
「同感です。寺の敷地内への侵入を許す前に終わらせましょう」
玲瓏が頷くと、琴音も同じ考えのようで、上を見つめる。
「行こう、相手はかなり先を進んでいるよ」
そう言った琴音から青白い気が放たれる。ゆらりと垣間見る気は狐の形にみえた。彼女の下駄よりマテリアルを噴射させ、ジェットブーツを発動させた。
シグと玲瓏も続き、進みだす。
餓鬼単体ならば、初心者ハンターでも対応可能であるが、群れで行動する場合が面倒だ。
傾斜を上がっていくと、人の声とは思えない甲高い鳴き声が聞こえてきた。鳴き声に反応するように似た鳴き声が他から返されるところから餓鬼だろう。
暫くすると姿を見つける。
まだ背後から近づく気配に気づいていないようで、見えてくる建物……寺院に向かって威嚇のような奇声を上げたりしていた。
シグが二人に断りを入れて横から回る旨をジェスチャーで伝える。
残った玲瓏と琴音はシグを見送り、速度を変えずに距離を置きつつ餓鬼へ近づいていった。
狐卯猾のマテリアルに攻撃的になっている歪虚はそっと動いているシグに何一つ気づいていない。
寺院の側面を攻めようとしている歪虚もまた、シグに気づいていなかった。
一方、正面組は大鬼の動きを見つつ、奇襲のタイミングを見ていた。
待機の中、アルマは狂蒼極を発動し、錬金杖「ヴァイザースタッフ」にマテリアルを収束させている。
「様子はどうですかー?」
スキルの発動を終えたアルマが顔を上げて様子を尋ねた。
「動きが早まっているようです」
険しい表情のセツナの視線は敵の方角にある。アルマは状況を理解し、柳眉を八の字に顰め、ため息を吐く。
「わぅ……もう一度、かけたかったのですが、仕方ないです」
しょんぼりするアルマだが、気持ちを切り替える。
「じゃぁ、行こうか。正々堂々と」
真が促すと、三人は寺の方向へと進みだした。
敵は先日動いた強大な歪虚……憤怒王のマテリアルに触れて気が高ぶっているのだろう。得物がいるだろう寺院の方角しか見ていない。
歩きながら覚醒する真の瞳が一瞬だけ金色に光る。
体内のマテリアルを燃やし、炎のようなオーラを纏ってソウルトーチを発動させた。敵を引き付ける為だ。
気配に気づいた大鬼の一体が振り向けば、三人の人間がこちらへ向かってきているのに気づく。
魔導剣「カオスウィース」を引き抜いた真は血色の切っ先を敵へと向ける。
危害を加える意志があることを伝えるように。
槍を持った大鬼が吠えると、近くにいた大鬼や餓鬼がハンターの方へと向かう。
向かってくる人間は細身の男女三人、力がどれほどあるか歪虚には興味のない事なのかもしれない。
荒ぶる力を振り下ろす先が欲しいだけだ。
「わふーーー!!」
一番背の高い人間……アルマが真とセツナの前に出て絶叫すると、彼は錬金杖を前方の歪虚に向けた。
金の光が中空に点ると、花茎のような形となり、蕾を守る葉が破られている。その形は彼岸花のように咲いていく。
花弁の奥より噴き出すその形は蒼炎。
連携するように左胸に蒼い炎の幻影が燃え上がった。
狂蒼極の効果で終蒼の冷焔の力は強まり、槍を持った大鬼目がけて噴射する。
槍を持った大鬼は近くにいた同胞の大鬼と餓鬼を片手でそれぞれの首を持ちあげて自身の前に引き寄せた。
アルマが発動したスキルの効果は一直線にあるが、まともにくらった大鬼と餓鬼の正面はしっかり凍傷の状態となっており、ほぼ動けない状態で倒れた。
「あの槍持ち……知能が高いようですね」
優美な顔を顰めるセツナは太刀「宗三左文字」に手をかけて敵を見据える。
「先に片づけた方がいいね。こちら正面組、槍を持っている大鬼は知能が高い。他の大鬼にも気を付けて」
同感といわんばかりに真が呟き、裏手組へ連絡した。
正面の方から聞こえる音が聞こえると、玲瓏に着信が入り、交戦中で大鬼への注意が飛んでくる。
大鬼と餓鬼の知能がどれほどかはわからないが、いくら強い歪虚の気に触れていたとしても、倒されるという危惧を感じれば逃げるという判断も出来るだろう。
シグは錬金杖を構え、直線状に出来る限り複数の餓鬼が入るようによく狙う。
雷撃を呼び起こすと、一直線に紫電が走っていった。
横から突かれるような攻撃を受けた複数の餓鬼は身を竦めて弾かれたように転んでしまう。
攻撃を逃れた餓鬼達が攻撃を仕掛けたシグの方へと向かっていく。
横から伸びる光に気づいた餓鬼もいたが、伸びた光の三角形の点に腕や足を撃ち抜かれては動きを止められてしまう。
琴音のデルタレイに怯んだ餓鬼だが、再びシグへと向かっていく。シグは背を見せないように少しずつ坂を登り、歪虚より高所を捉えていく。
形勢が逆転されないように餓鬼は持っていた小石をシグへ投げようとした。
身構えるシグだが、歪虚の背後に桃の実のようなマテリアルの泡玉が飛び交い、餓鬼の背に当たるとマテリアルが弾ける。
石が投げられることはなく、力なく餓鬼の手から石が零れて地に落ちる。餓鬼はうつし世とかくり世の狭間にでも隠されたかのように動けない。
最初のシグが発動したライトニングボルトをくらった餓鬼の一体が体勢を戻して逃げ出した。
正面へ逃げようとするが、その方向からも戦闘の音が聞こえてきており、餓鬼は慌てて軌道修正しようとする。
背後から降りかかる影に気づいた餓鬼は見上げた。
ジェットブーツでジャンプをし、距離を縮めていく琴音の姿に餓鬼は声を上げる。
逃げる事もかなわず、そのまま斬られてしまう。
「背後は任せて、ね」
琴音がシグへ声をかけると、彼は頷いて高所へと上がり、彼らから見て側面にあたる方向にいる複数の餓鬼に向けてライトニングボルトを発動させた。
敵の司令官に先制の挨拶を済ませた正面組は歪虚と交戦中だ。
彼らが先に狙うのは攻撃力の高い大鬼。
自身のマテリアルを武器に伝達するソウルエッジを使い、強化している真に隙を窺えたのだろうか、二体の大鬼が向かってきた。
二体とも棍棒や鉈を持っており、武器を振り上げている。
剣を納刀の状態にしたまま、真は二体の大鬼目がけて向かう。自分の周囲に味方はない事を素早く確認し、真は剣を抜き放つ。
抜き放った一太刀目は右手にいた大鬼の腕を斬りつけた。腕を返し、軸足の反動を使って二撃目でその腕を斬り落とす。
すぐさま動いた真は上段から振り下ろされる鉈と血色の刃が交わされた。
鉈を持つ大鬼の胴に隙を見つけた真が空いた手で構えているのは四十センチほどの柄。彼のマテリアルに反応し、一気に光の刃が大鬼へと突き刺さる。
間合いを取るように移動しつつも光刃が大鬼の胴を斬り裂いていく。
大鬼の腹が深く裂かれ、一体が倒れた。
息を吐くことなく真は隻腕となった大鬼へと向かう。
寺へ向かう階段半ばまで進んでいた大鬼は階段下での大技を繰り広げる人間達の乱入に驚いて何事かと降りていく。
先ほどの先制攻撃の時、階段挟んだはす向かいの同胞が蒼い炎のようなエネルギー派にやられ、凍傷のような状態となって動きが取れない状態となったからだ。
下へ降りていくと、一人の人間……セツナが下へ降りる大鬼へ顔を向ける。
彼女が今対峙しているのは大鬼に控える餓鬼。
投石をしてはセツナとの間合いを取ろうとしている餓鬼だが、雑な投げ方をしているので、その軌道を読まれては躱されていた。
セツナが腰を捻った低い姿勢で剣先を地を擦り上げる。
摩擦熱で発火した火花を散らして素早く刃を振れば、赤い眉月の如くに細い軌道を描く鋭い斬撃が餓鬼へと降ろされた。
餓鬼の細い首元から斜めに斬られ、そのまま二つに身体が分かれてしまう。
刀身を一度振ったセツナは刀を構えて降りてきた大鬼を見据える。
澄んだ緑の瞳の剣士と棍棒を持つ大鬼が視線を躱したのは一瞬であり、次の動作に映っていた。
その一方、裏手にいる殆どの餓鬼達は玲瓏達の連携で戦闘不能となっていた。
「左に逃げていきます!」
鋭く叫ぶ玲瓏が見た餓鬼は距離が離れていた。恐らく、倒れて振りをして腹ばいで少しずつ逃げようとしていたのだろう。
「わかったよ」
応じた琴音が即座にデルタレイを発動して餓鬼を撃ち倒す。
「シグ様、寺院の方へご報告願います」
高所にポジションを取っていたシグへ玲瓏が頼みごとを伝える。
「少しでも早く、味方が来ていることをお伝えください」
「わかりました」
了解したシグは寺院の方へと向かう。
坂を上がり切ると、入れるところを探す。寺院の周囲には壁があり、正面の門以外にあれば……と思い、周りをぐるっと歩く。
勝手口のような戸を見つけたシグはそっと戸を押すと、向こうから反発する力に気づいて反射的に手を引いた。
「こちらの住職の依頼を受けたハンターです。僕の他、五名が歪虚と交戦中です。裏手から近づいた歪虚は討伐完了、これから脇を固める歪虚と正面の歪虚の討伐です」
簡潔に状況を伝えるシグの話に戸の向こうの気配がざわめく。
「戸は開けないでください。怪我人はいますか?」
シグの問いかけに反応したのは子供の声。
「正面の階段の一番上では六連さんが怪我をした状態で守ってます。助けてくださいっ」
「わかりました。周囲の安全確保が完了するまで固まって隠れて下さい」
必死そうな子供の声にシグは言葉を返し、玲瓏へ怪我人が正面にいる事をインカムより伝えた。
シグからの報告を聞いた玲瓏はシグの居場所を確認し、琴音と共に再び合流する。
怪我をした状態でいつ来るかわからない敵を待ち構えるのは心が擦り切れてしまう。
壁伝いに正面へ回った三人は六連だろう青年の方へと向かう。
「ハンターです。六連さんですか? 傷を見せてください」
玲瓏が尋ねると、彼はハンターの言葉にほっとしたような様子を見せる。
周囲を警戒している琴音が側面から這い上がろうとしている餓鬼二体に気づいた。彼女はジェットブーツで敵の懐に飛び込む。
着地した足を軸に琴音は円を意識するように餓鬼を斬りつける。もう一匹の攻撃を回避したが、斬りつけた方の餓鬼が琴音に飛び込んで長い爪を彼女の腕に食い込ませた。
「……うっ」
顔を顰める琴音は手負いの餓鬼を倒す。
もう一体へ刃を向けようとすると、無色の波動が歪虚に衝撃を与え、追いかけるようにアサルトライフルの弾丸が餓鬼の動きを止めた。
「大丈夫ですか」
シグが琴音に尋ねると、彼女は頷く。
正面の階段を取り囲む大鬼もハンターの働きで倒されていった。
「随分頑丈ですねー」
槍持ちの大鬼に対し、朗らかに笑うのはアルマだ。
先ほどの同胞を盾にした回避を鑑みても、知能が思ったよりあるのは明白。
何一つとして逃す気はない。
そして、彼が抱えている焦燥感をぶつけるには十分な存在だと判断する。
「歪虚さんは狐卯猾さんの負のマテリアルで気が触れてここのお寺を狙っているんですよね?」
アルマは「そうでしょう?」と言いたいように杖を大鬼へ向けると、大鬼は槍をアルマへと突きつけてきた。
寸でで躱すアルマだが、次の突きを避けきれず、白皙の頬に赤い筋を許してしまう。連撃の突きに何とか避けようとするアルマの前に入ってきたのは二体の大鬼を始末した真だ。
剣先で穂先をねじ伏せ、体重をかけるように真は身を屈ませる。
「ありがとうですよ……ホント、いらいらはよくないですよね」
焦燥は集中力を奪う。
心からそう思うアルマは真の姿勢を配慮し、やや上向きに発動させたのはファイアスローワー。
扇状に広がる炎が大鬼の頭を焼く。
横から更にセツナが大鬼の胴を真っ二つにした。
玲瓏が六連に治療をしていると、正面組が階段を上がってくる。
「こっちは終わったよ」
報告した真が気にしているのは六連。
「ここの修行僧だって。歪虚に傷を負わされたそうだよ」
琴音が言えば、正面組は納得した。
「治療も終わりましたので、まずは報告に行きましょう」
体力が戻っていない六連をシグとセツナが両脇を支えながら歩いていく。
寺のお堂の中で固まっていた避難民と修行僧に囲っていた歪虚は討伐できたことを伝えると彼らに安堵と疲労がどっと出ていた。
けが人は六連で紫丸は軽い擦り傷なので、玲瓏の手当で済んだ。
「ここを代表して礼を申します」
頭を下げる住職にアルマが「わふー、気にしなくていいのですー」と笑う。
「ハンターの仕事だからね。それに、まだ見回りが終わってないから」
冷静に告げる真にハンター達が頷く。
「では、行きましょう」
セツナが促すと、ハンター達は本来の依頼である寺周辺の見回りへと向かった。
幸い、周辺に歪虚の姿はなく、ハンター滞在中に歪虚の襲撃はなかったのは幸いだった。
桜の蕾が膨らむ頃、花が咲くころに落ち着けばいいと誰もがそう願う。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/11 12:42:24 |
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作戦相談卓 シグ(ka6949) オートマトン|15才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/03/14 21:50:38 |