ゲスト
(ka0000)
【血断】山笑ふ風に揺られし若き苗
マスター:ことね桃
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
帝国には多くの山がある。それこそ子供達の遊び場になるような小さな裏山から、温泉が出るような火山まで。
そんなある日、パルムに新たな神霊樹の分体を植えるミッションが与えられた。
帝国某領の切り立った崖を持つ火山に良い地脈が流れているので、頂上に苗を植えてくるようにと。
現在その火山は既に噴火する力もなく、山頂に小さな祠がひっそりとあるだけだ。
だが古来から住民に山の神として信仰されているため、水がなくとも信仰で育つ神霊樹にとってはとても都合がよい。
人々が山の神に日々の感謝や祭事をする一方で、その傍に霊験あらたかな苗が植えられれば何かしらの縁を感じるだろう。
さすれば自然と民の心を集め、手をかけるものが増え、大きな樹に育つに違いない。
只埜 良人(kz0235)はパルムの護衛依頼の書類を黙々と書く。丁度そのエリアは今のところ強い歪虚は現れていない。
ただし件の山でここのところ鳥型の雑魔が群れを作ったらしく、祠へ参拝に向かう麓の住民を崖で襲うともっぱら恐れられている。
まず、彼らが潜む崖には足元に人ひとりやっと通れる程度の幅しかない丈夫な板で造られた道と手すりがわりの鎖しかない。
平和な時は鎖を頼りに足元にさえ注意すればそうそう事故は起きなかったのだが、今は雑魔の襲撃で直接殺害される者や逃げようとして滑落する者が絶えなくなった。
そこで集落から雑魔退治を依頼された件も併せ、良人は「神霊樹を植えにいく道中、雑魔もあわせて退治するべし」と書類に書き込んだ。
その都合上報酬は多いが、怪我をする可能性が低くないのが心配だ。
過去にリアルブルーの山で、野犬に足場の悪い場所に追い詰められた子供を助けに行った経験を思い出す。
ハンターならば野犬に噛まれる程度など何でもないが、落下すればさすがに大きな怪我は免れないだろう。
彼は最近雑貨店で購入した「危険」シールを書類に目立つように貼ると、壁にそれを提示した。
●ハンター、山へ行く
パルムはいつも通り神霊樹を抱くと帝都の道を使命感溢れる表情でとことこ歩く。
さて、山中では彼はどうしたものか。
パルムを護衛するハンター達が考えていると、そこに『おやパルムじゃないか。お出かけかい?』と曙光の精霊ローザリンデ(kz0269)が声を掛けてきた。その隣には英霊フリーデリーケ(kz0254)がおり、巨大なラグマットを担いでいる。
どうやらお節介なローザの「フリーデのお部屋改造計画」は着々と進行しているらしい。
だがハンターから事情を聞いたローザはすぐさま頷くと『そいつは厄介な案件だね。よし、アタシらも一肌脱いでやろうじゃないさ。アタシらはもし落下しても致命傷さえ負わなければ信仰の力で傷が治るしねェ』と豊かな胸をトンと叩いた。
途端にフリーデが挙動不審な動きでラグに縋りつく。そのラグマットは落ち着いた海のように深い青色をしていた。
『な、私達もだと!? 人助けをするのは吝かではないが、それではこのラグはどこに置いてくれば良いのだ。このまま担いで行けと? この色柄、結構気に入っているのだが……』
慌てるフリーデにやれやれとローザが肩を竦める。
『聞くより先にさっさと部屋に置いてきな。……どうもアンタは戦以外となるとオツムの融通が利かない子だねェ』
残念な子扱いされることがなんとも悔しいが、自室のことよりも神霊樹ネットワークの形成が大切なのは事実。
フリーデが『……了解した。すぐ戻る』と砂埃をあげながら走っていく一方で、ローザは依頼書の写しをハンター達に見せてもらうと瞳を輝かせた。
『へェ、麓には温泉があるんだねェ。依頼が無事に終わったらちょいと寄って露天風呂ってのも悪くないね』
ローザはもうすっかりついていく気満々だ。
パルムも精霊が着いてくることに異論はないらしく、てててっと彼女の肩の上に登ると首筋にぎゅーっと抱き着いた。
ああ、かくも精霊とは奔放なる者か――ハンター達はパルムだけでなくやたらと押しの強いローザと不器用すぎるフリーデの介護……ではなく、世話をしながら危険な区域で戦う羽目になってしまったのだった。
そんなある日、パルムに新たな神霊樹の分体を植えるミッションが与えられた。
帝国某領の切り立った崖を持つ火山に良い地脈が流れているので、頂上に苗を植えてくるようにと。
現在その火山は既に噴火する力もなく、山頂に小さな祠がひっそりとあるだけだ。
だが古来から住民に山の神として信仰されているため、水がなくとも信仰で育つ神霊樹にとってはとても都合がよい。
人々が山の神に日々の感謝や祭事をする一方で、その傍に霊験あらたかな苗が植えられれば何かしらの縁を感じるだろう。
さすれば自然と民の心を集め、手をかけるものが増え、大きな樹に育つに違いない。
只埜 良人(kz0235)はパルムの護衛依頼の書類を黙々と書く。丁度そのエリアは今のところ強い歪虚は現れていない。
ただし件の山でここのところ鳥型の雑魔が群れを作ったらしく、祠へ参拝に向かう麓の住民を崖で襲うともっぱら恐れられている。
まず、彼らが潜む崖には足元に人ひとりやっと通れる程度の幅しかない丈夫な板で造られた道と手すりがわりの鎖しかない。
平和な時は鎖を頼りに足元にさえ注意すればそうそう事故は起きなかったのだが、今は雑魔の襲撃で直接殺害される者や逃げようとして滑落する者が絶えなくなった。
そこで集落から雑魔退治を依頼された件も併せ、良人は「神霊樹を植えにいく道中、雑魔もあわせて退治するべし」と書類に書き込んだ。
その都合上報酬は多いが、怪我をする可能性が低くないのが心配だ。
過去にリアルブルーの山で、野犬に足場の悪い場所に追い詰められた子供を助けに行った経験を思い出す。
ハンターならば野犬に噛まれる程度など何でもないが、落下すればさすがに大きな怪我は免れないだろう。
彼は最近雑貨店で購入した「危険」シールを書類に目立つように貼ると、壁にそれを提示した。
●ハンター、山へ行く
パルムはいつも通り神霊樹を抱くと帝都の道を使命感溢れる表情でとことこ歩く。
さて、山中では彼はどうしたものか。
パルムを護衛するハンター達が考えていると、そこに『おやパルムじゃないか。お出かけかい?』と曙光の精霊ローザリンデ(kz0269)が声を掛けてきた。その隣には英霊フリーデリーケ(kz0254)がおり、巨大なラグマットを担いでいる。
どうやらお節介なローザの「フリーデのお部屋改造計画」は着々と進行しているらしい。
だがハンターから事情を聞いたローザはすぐさま頷くと『そいつは厄介な案件だね。よし、アタシらも一肌脱いでやろうじゃないさ。アタシらはもし落下しても致命傷さえ負わなければ信仰の力で傷が治るしねェ』と豊かな胸をトンと叩いた。
途端にフリーデが挙動不審な動きでラグに縋りつく。そのラグマットは落ち着いた海のように深い青色をしていた。
『な、私達もだと!? 人助けをするのは吝かではないが、それではこのラグはどこに置いてくれば良いのだ。このまま担いで行けと? この色柄、結構気に入っているのだが……』
慌てるフリーデにやれやれとローザが肩を竦める。
『聞くより先にさっさと部屋に置いてきな。……どうもアンタは戦以外となるとオツムの融通が利かない子だねェ』
残念な子扱いされることがなんとも悔しいが、自室のことよりも神霊樹ネットワークの形成が大切なのは事実。
フリーデが『……了解した。すぐ戻る』と砂埃をあげながら走っていく一方で、ローザは依頼書の写しをハンター達に見せてもらうと瞳を輝かせた。
『へェ、麓には温泉があるんだねェ。依頼が無事に終わったらちょいと寄って露天風呂ってのも悪くないね』
ローザはもうすっかりついていく気満々だ。
パルムも精霊が着いてくることに異論はないらしく、てててっと彼女の肩の上に登ると首筋にぎゅーっと抱き着いた。
ああ、かくも精霊とは奔放なる者か――ハンター達はパルムだけでなくやたらと押しの強いローザと不器用すぎるフリーデの介護……ではなく、世話をしながら危険な区域で戦う羽目になってしまったのだった。
リプレイ本文
●山頂を目指して
新緑に彩られつつある旧火山。その山頂に続く道はただただ険しい。
「ねえ、ローザ。シロの手を引いてくれる? 少しこの段差高くって」
パルムを小脇に抱く白樺(ka4596)は先行するローザリンデ(kz0269)に声をかけた。
『ああ、すまないね。アンタに負担をかけて。しっかり掴まっとくれ』
「ううん、ありがとなの! 今日はローザもフリーデも一緒でとっても心強いの♪」
その一連の様子を見たレイア・アローネ(ka4082)は後ろに続く澪(ka6002)に振り向いた。
「澪、山中で自転車が使えず難儀しているな。人助けは吝かではないが、お前はどうしよう。まさかこのまま担いで行けと? 仕方ないな」
どこかの誰かが言っていたような台詞を口にレイアが手を伸ばすも、澪は一人で段差を難なく越える。本心では澪を愛でたいレイアが焦り始めた。
「歩いていくのか? 大丈夫か? 怖かったらしがみついても良いのだぞ?」
「平気。この程度、何度も歩いてる」
何とも素っ気ない返事。だがレイアはめげずに澪を抱きしめた。
「重い、暑苦しい……」
「お前ひとりなら、私にとって何でもない。抱きかかえでもおんぶでもお姫様だっこでもいい。山頂まで楽しく行こう!」
「い、や!」
不意を突いて腰を落とし、レイアから逃れる澪。レイアはその背を寂しげに眺めた。
もっとも澪はレイアを疎んでいない。単純に互いに気心を知るゆえに忌憚がないだけ。つまりこれは「日常」なのだ。
その頃、最前を行くアルマ・A・エインズワース(ka4901)はフリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)に微笑みかけた。
「フリーデさん! またご一緒で僕、嬉しいですっ。ローザリンデさんもお元気そうで良かったです!」
『うむ。私は何よりお前が傍にいると心強く感じる。今回もよろしく頼むぞ』
そう言ってフリーデはアルマの左手を引いた。それは以前抱擁された時に、アルマの右腕が義手と知ったから。
勿論彼の右腕の記録は報告書で既に読んでいる。
どちらも大切な腕だが、それでも血の通う温かい手を握る度に彼を守りたいと思うのだ。
――彼の体温を感じる度に、己の存在意義と幸福を実感する。
一方、妙な方向で意気揚々としているのが星野 ハナ(ka5852)。
「今回の温泉は水着着用じゃないですかぁ。フリーデさんはカッコイイ系似合いますけどぉ、既定路線じゃ駄目だと思うんですぅ。普段凛々しい人が可愛い格好で恥じらうギャップ萌えはみんなのハート鷲掴みですぅ。本当に萌えの天元突破なんですよぅ」
『ギャップ萌え?』
「そうですぅ。フリルとかリボンとか! 色も形も拘りたいですぅ、ウフフフ♪」
『う、うむ』
生真面目なフリーデが返答に困った途端、アルマがハナの前に立ち塞がる。
「ハナさん、僕はフリーデさんとお付き合いしています。彼氏さんなのです! なので僕のフリーデさんを困らせないでください!」
「ほほー、フリーデさんに彼氏さんが。尚更可愛くしないとですねぇ?」
にま、と笑うハナ。だがその時、前方から複数の羽音が聞こえた。
全員が木々に隠れつつ行く手を覗くと、切り立った崖と板張りの道が見える。白樺が仮面を被り、同行中のモフロウに囁いた。
「シエロ、上から周りを見てくれる?」
彼は主の言う通り飛ぶと、突然前方を睨みつけ攻撃態勢をとった。
「だめ、シエロ。戻って!」
主の声にやむなく戻るシエロ。ハナは瞬時に目を鋭くし、呟いた。
「……ガールズトークを邪魔する雑魔は万死に値します全ブッコロですぅ」
●鳥型雑魔との交戦
澪が「先手必勝」と呟いた瞬間仲間達の脚から神経の先までマテリアルが浸透し、鋭敏な感覚を得た。まずアルマが後方に警戒を呼び掛ける。
「足元気をつけるですー。慌てず騒がず進むです!」
鎖を掴みながら術式を唱えるアルマ。幸い相手は知能が無いようだ。彼の姿を視界に収めると一気に押し寄せてきた。
「やられる前にやると被害0ですー。お兄ちゃんが言ってたです! いきますよ、暁の呼び声っ!!」
アルマの腕から青白い炎が勢いよく放たれ、雑魔達を燃やし尽くしていく。
だが敵もさるもの。アルマの足元を狙い、下から嘴で突き上げる雑魔が現れる。
『アルマ、今行くっ!』
「いや、ここは私に!」
フリーデが駆けだそうとするも、それより速くレイアがソウルエッジを宿した衝撃波を放つ。その威力に雑魔達が呆気なく砕けた。
「私はアルマやハナ達術師の援護に徹する。ローザリンデ、フリーデリーケも守りに力を貸してくれ!」
レイアの一言に精霊達が頷きあう。戦の気配を察したのか、雑魔が次々と現れ始めたのだ。
「ここでパルムちゃんがやられたら温泉計画が駄目になるですぅ。マジなブッコロタイムの開幕ですぅ!」
ハナは魔箒に乗り雑魔達に空中戦を挑んだ。その姿は可憐だが、彼女の力は熾烈。
5枚の符を翳し、迂闊に接近する群れを光の結界で包むと瞬時に術を組み、雑魔を光に解かした。
しかしそれでも敵は尽きない。フリーデが雑魔をナイフで貫き、ローザが光のマテリアルで威嚇しても現れる。
その間、後方に備えパルムを抱く白樺。そこに横から雑魔が接近し鋭い羽根を彼に投げかけた。ローザが悲鳴を上げる。
『白樺!!』
「大丈夫なの、ローザ。パルムもシロも……冷静だから」
白樺は守り手として胆が据わった少年だ。パルムを包むように盾で攻撃を弾く。
それとほぼ時を同じくして、澪が「近づかないで!」と次元斬で雑魔を斬り刻む。そして歩道を確かめるように爪先で板を叩いた。
(この道は麓の人達にとって大切な道。傷つけるわけにはいかない。それなら、できるかぎり丈夫な場所で戦うだけ)
カカッと靴音が響く中、白樺はディヴァインウィルを発動させる。そしてローザに再度声をかけた。
「ローザ、シロのことは心配しないで。パルムはちゃんと守るから!」
『わかった。ただ、絶対に無理だけはするんじゃないよッ!!』
その時、アルマが蒼い流星を天に生み出した。
「どこから来ようと僕の蒼光は有象無象を逃しません。紺碧の流星!」
3つの光が流線を描き雑魔を撃ち落としていく。しかし脅威たるアルマの隙を狙っていたのか。前進する澪に真上から雑魔が強襲する。
「澪ではなく私を狙え! ガウスジェイルッ!!」
レイアが剣で鋭い嘴を受けると、そのままカウンターアタックで敵の喉笛を裂いた。
「レイア!」
「お前と私の仲だろう、気にするな」
こうして澪とレイアは互いの背を預け合った。澪が再び「先手必勝」で仲間達の感覚を引き上げる。その時、レイアは思った。
(澪やパルムを担がず良かったかもしれんな。誰かを抱えては囮になれまい)
一方、ハナは敵の数が明確に減ったことに気づいた。最初は黒い雲のように迫ってきた雑魔が今やまばらになっている。
「考えなしに突っ込んできたんでしょうかぁ? ま、それよりも全滅全滅。風雷陣!」
符が稲妻と化し、次々と雑魔の身体を塵にしていく。
続いてフリーデの黒い稲光が橋の周りを旋回していた雑魔を焼いた。
しかし突然ローザのいる道の下が大きく揺れた。どうやら道の下から複数の雑魔が体当たりを繰り出したらしい。
『ああっ!!』
ローザが鎖に掴まる間もなく崖に落ちていく。そしてあわや崖の出っ張りに身体を叩きつけられんとした時――彼女を白樺がふわりと抱きかかえた。彼の背には「ダイダロス」の翼が展開されている。
『白樺、またアンタに助けられたね』
「いいの。シロは護り手なんだもの。あとね、パルムはレイアにお願いしてきたの。上に戻ったらまた皆を護るね!」
白樺は凛とした表情で飛翔すると、ローザを橋に戻し、レイアからパルムを受け取った。
「橋の下の連中は衝撃波で吹き飛ばした。フリーデのマテリアル感知能力によればあと5体、もう少しだ」
レイアが剣を構え、澪と共に前へ前へと突き進む。その先にはまばらに飛行する雑魔達が待ち受けていて。
「さよならです、雑魔さん達!」
「次があればもっと可愛い鳥さんに生まれ変われるといいですねぇ?」
「歪虚に堕ちた因果を恨め」
「……私にはこれしか、できないから」
4人の攻撃が一気に叩き込まれ、全ての負のマテリアルの気配が、消えた。
●浄化と希望
火山の山頂には確かに石造りの祠が存在した。しかし飾られていた花も供え物も崩れている。
そこで皆で掃除をしたが、白樺が落ち着かない様子で祠を撫でた。
「雑魔がいたせいなのかな。心がザワザワする。ローザ、浄化した方が良いかな?」
『そうだねェ。ここは長年崇拝されていただけあって、精霊が生まれる可能性がある。綺麗にしておくに越したことはないね』
そう言ってピュリフィケーションを放つ白樺と浄化の六刀を地に刺すローザ。すると清浄な気が漂い、それまでレイアの腕の中にいたパルムが笑顔で地面に飛び降りた。
「大丈夫か?」
心配するレイアに頷き、穴を掘るパルム。その手際は非常に良くあっという間に神霊樹の苗木が植えられた。
「わふー、お山の一番上に大きな樹が生えたらきっと特別な感じで素敵ですー。ね、フリーデさん!」
『ああ、皆から愛される樹になるだろう』
山の上に大きく枝を張る神霊樹の姿を想像し、ほっこり笑むアルマ。白樺もパルムの頭を撫でながら言う。
「神霊樹、立派に育って皆の希望になったら良いね♪」
そう、神霊樹はただの樹ではない。邪神の侵攻を防ぐ役割があるのだ。
白樺は苗木へ静かに手を組み祈りを捧げた。続いて皆も思い思いに樹に願いをかける。邪神の手からこの世界を守るよう力を貸してほしいと。すると……翠の葉が頷くように揺れた。
●長閑な温泉にて
「もう泥だらけになっちゃいましたぁ。温泉楽しみですぅ」
ハナは帰途につく傍ら、山登りで付着した埃や泥を払いつつ麓の村に向かう。もとより依頼人である村民から温泉に誘われている。折角だから服を洗い、一休みしようと思うのも当然だ。
「温泉か。悪くないな」
レイアも乗り気で温泉に到着するも、目の前の看板に首を傾げた。
「ん? 水着着用だと? 必要あるのか?」
温泉は混浴といえど、今日はハンター達の貸し切り。そこまで気を使わなくともとレイアは思ったが、ふと半目で頷いた。
「そういえばアルマという男がいたか。全く、お前がいなければ水着なしで堪能できたのだがな?」
「わふー、レイアさんひどいですー。一緒に頑張ったのにー」
唇を尖らせるアルマ。そんな二人をを不思議そうに白樺が眺める。
そして更衣室に向かう時、白樺は青い暖簾の掛かった更衣室に向かった。
「ローザ、また後でなの♪ シロの選んだ水着、着てみてね♪」
『ああ、アンタが選んでくれたの、楽しみにしてるよ』
そのやりとりにレイアが殊更首を傾げる。
(ん? 白樺も男子更衣室に入っていったな。暖簾の違いに気づかなかったのか? まぁ、あそこにはアルマしかいないしすぐにこっちに来るだろう)
レイアは気を取り直し、荷物から水着を出した。それは昔友人が選んでくれた赤のハイレグ水着。
自分の趣味とは異なるが着てみると蠱惑的な身体が強調され、思ったよりも似合うことに気がついた。
「あ、これはこれで……今日はこれで行くか」
その頃、ハナはフリーデの腕をぐいぐい引いて水着探しに奔走していた。自分には淡い桃色のビキニを。フリーデには様々な水着をあてがっては首を傾げる。
「んー、なかなか合うサイズがないですぅ。これは後で温泉に要望するべきですねぇ」
『あ、いや。その、私は普通のでいい。その、競泳用の長袖とか……傷跡が目立つのでな』
「そんなこと言ってちゃダメですよぅ。せっかく恋人さんと一緒にお風呂に入るなら可愛いのを着て悩殺させるのがオンナの義務ですぅ!」
『ぎ、義務だと!?』
「だって見るなら可愛いとか綺麗な方がいいに決まってますぅ! フリーデさんはもっと自分に自信を持つべきですぅ!」
そうして水着の山を探ると、大きめの白いビキニが発見された。胸元には金色のハートの留め具が嵌められ、そこに白いリボンが垂れ下がる形で飾られている。腰もリボンで結ぶ形になっているのが乙女らしい。
「これ、これですよぅ。フリーデさん、早速試着してくださいぃ!!」
『え、ええ!?』
ハナに水着と一緒に試着室に押し込められるフリーデ。その結末はいかに?
その頃、浴場では白樺とローザが家族風呂にのんびり浸かっていた。
白樺はピンクのフリルのチューブトップに紺のキュロットパンツのビキニ。ローザは水色のパレオの水着を着ていて、端から見れば仲の良い姉妹のよう。
だけど白樺の胸は高鳴るばかり。
「ね、ローザとお風呂って初めてでちょっとドキドキなの。……でも温泉、気持ち良いね♪」
にこ、と笑う白樺の額に薄く汗が浮かんでいる。そんな彼の前髪を掻き上げ、ローザは白い額に軽く唇を当てた。
『ありがと、アンタが助けてくれたから今こうして安らげてる。感謝してるよ』
「う、ううん、シロは当たり前のことをしただけ。ローザが無事で良かったの」
白樺はさも当然のように言うも、頬が林檎のように真っ赤に染まっていた。
フリーデは半ばハナに押し出されるように白ビキニ姿で浴場に入れられると、目の前の人物に思わず息を呑んだ。
それは髪を結い上げたアルマなのだが……理解していたといえど、右腕の肘から先がない。その姿に酷く胸が痛くなる。傷痍軍人など幾度も見たはずなのに。
だがアルマはそれに気づかず「……きれいです」とフリーデの姿にため息を漏らした。その後ろでハナがぐっと親指を立てていることに2人は気づいていない。
そんな中でふと、アルマは申し訳なさそうに眉尻を下げて言った。
「あの、フリーデさん……左腕だけでいいんで、洗うの手伝ってほしいです……」と恥ずかしそうに左手で頭を掻く。
『あ、ああ。私で良ければ!』
慌てて備え付けのスポンジに石鹸をたっぷり撫でつけ、アルマの身体を優しく擦るフリーデ。髪から爪先まで丁寧に洗うのは彼女なりの感謝の印か。
「ふふ、丸洗いですね。僕、あわあわわんこです」
アルマがきゃふきゃふ幸せそうに笑うと、フリーデも安堵し、微笑んだ。
一方、澪はため息をついていた。
「皆、綺麗……」
温泉の中でぽつりと呟く澪。シンプルなワンピースを選んだ自分だけどうにも気後れしてしまう。その時、真逆に派手なハイレグ姿のレイアが澪の肩を軽く叩いた。
「澪も可愛いぞ。でももっとお洒落したいなら私が付き合おうか?」
「……見るだけなら、構わない」
「もっと素直になればいい。今じゃサイズが小さめでも可愛いパレオとかシュシュとか出ているんだぞ? せっかくだから着けてみればいい」
「……そう。工夫するぐらいなら、いいかな」
ほんの少しお洒落を楽しみたい。そんな気持ちが生まれかけている自分に戸惑いながら澪は再び試着室へ向かった。
新緑に彩られつつある旧火山。その山頂に続く道はただただ険しい。
「ねえ、ローザ。シロの手を引いてくれる? 少しこの段差高くって」
パルムを小脇に抱く白樺(ka4596)は先行するローザリンデ(kz0269)に声をかけた。
『ああ、すまないね。アンタに負担をかけて。しっかり掴まっとくれ』
「ううん、ありがとなの! 今日はローザもフリーデも一緒でとっても心強いの♪」
その一連の様子を見たレイア・アローネ(ka4082)は後ろに続く澪(ka6002)に振り向いた。
「澪、山中で自転車が使えず難儀しているな。人助けは吝かではないが、お前はどうしよう。まさかこのまま担いで行けと? 仕方ないな」
どこかの誰かが言っていたような台詞を口にレイアが手を伸ばすも、澪は一人で段差を難なく越える。本心では澪を愛でたいレイアが焦り始めた。
「歩いていくのか? 大丈夫か? 怖かったらしがみついても良いのだぞ?」
「平気。この程度、何度も歩いてる」
何とも素っ気ない返事。だがレイアはめげずに澪を抱きしめた。
「重い、暑苦しい……」
「お前ひとりなら、私にとって何でもない。抱きかかえでもおんぶでもお姫様だっこでもいい。山頂まで楽しく行こう!」
「い、や!」
不意を突いて腰を落とし、レイアから逃れる澪。レイアはその背を寂しげに眺めた。
もっとも澪はレイアを疎んでいない。単純に互いに気心を知るゆえに忌憚がないだけ。つまりこれは「日常」なのだ。
その頃、最前を行くアルマ・A・エインズワース(ka4901)はフリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)に微笑みかけた。
「フリーデさん! またご一緒で僕、嬉しいですっ。ローザリンデさんもお元気そうで良かったです!」
『うむ。私は何よりお前が傍にいると心強く感じる。今回もよろしく頼むぞ』
そう言ってフリーデはアルマの左手を引いた。それは以前抱擁された時に、アルマの右腕が義手と知ったから。
勿論彼の右腕の記録は報告書で既に読んでいる。
どちらも大切な腕だが、それでも血の通う温かい手を握る度に彼を守りたいと思うのだ。
――彼の体温を感じる度に、己の存在意義と幸福を実感する。
一方、妙な方向で意気揚々としているのが星野 ハナ(ka5852)。
「今回の温泉は水着着用じゃないですかぁ。フリーデさんはカッコイイ系似合いますけどぉ、既定路線じゃ駄目だと思うんですぅ。普段凛々しい人が可愛い格好で恥じらうギャップ萌えはみんなのハート鷲掴みですぅ。本当に萌えの天元突破なんですよぅ」
『ギャップ萌え?』
「そうですぅ。フリルとかリボンとか! 色も形も拘りたいですぅ、ウフフフ♪」
『う、うむ』
生真面目なフリーデが返答に困った途端、アルマがハナの前に立ち塞がる。
「ハナさん、僕はフリーデさんとお付き合いしています。彼氏さんなのです! なので僕のフリーデさんを困らせないでください!」
「ほほー、フリーデさんに彼氏さんが。尚更可愛くしないとですねぇ?」
にま、と笑うハナ。だがその時、前方から複数の羽音が聞こえた。
全員が木々に隠れつつ行く手を覗くと、切り立った崖と板張りの道が見える。白樺が仮面を被り、同行中のモフロウに囁いた。
「シエロ、上から周りを見てくれる?」
彼は主の言う通り飛ぶと、突然前方を睨みつけ攻撃態勢をとった。
「だめ、シエロ。戻って!」
主の声にやむなく戻るシエロ。ハナは瞬時に目を鋭くし、呟いた。
「……ガールズトークを邪魔する雑魔は万死に値します全ブッコロですぅ」
●鳥型雑魔との交戦
澪が「先手必勝」と呟いた瞬間仲間達の脚から神経の先までマテリアルが浸透し、鋭敏な感覚を得た。まずアルマが後方に警戒を呼び掛ける。
「足元気をつけるですー。慌てず騒がず進むです!」
鎖を掴みながら術式を唱えるアルマ。幸い相手は知能が無いようだ。彼の姿を視界に収めると一気に押し寄せてきた。
「やられる前にやると被害0ですー。お兄ちゃんが言ってたです! いきますよ、暁の呼び声っ!!」
アルマの腕から青白い炎が勢いよく放たれ、雑魔達を燃やし尽くしていく。
だが敵もさるもの。アルマの足元を狙い、下から嘴で突き上げる雑魔が現れる。
『アルマ、今行くっ!』
「いや、ここは私に!」
フリーデが駆けだそうとするも、それより速くレイアがソウルエッジを宿した衝撃波を放つ。その威力に雑魔達が呆気なく砕けた。
「私はアルマやハナ達術師の援護に徹する。ローザリンデ、フリーデリーケも守りに力を貸してくれ!」
レイアの一言に精霊達が頷きあう。戦の気配を察したのか、雑魔が次々と現れ始めたのだ。
「ここでパルムちゃんがやられたら温泉計画が駄目になるですぅ。マジなブッコロタイムの開幕ですぅ!」
ハナは魔箒に乗り雑魔達に空中戦を挑んだ。その姿は可憐だが、彼女の力は熾烈。
5枚の符を翳し、迂闊に接近する群れを光の結界で包むと瞬時に術を組み、雑魔を光に解かした。
しかしそれでも敵は尽きない。フリーデが雑魔をナイフで貫き、ローザが光のマテリアルで威嚇しても現れる。
その間、後方に備えパルムを抱く白樺。そこに横から雑魔が接近し鋭い羽根を彼に投げかけた。ローザが悲鳴を上げる。
『白樺!!』
「大丈夫なの、ローザ。パルムもシロも……冷静だから」
白樺は守り手として胆が据わった少年だ。パルムを包むように盾で攻撃を弾く。
それとほぼ時を同じくして、澪が「近づかないで!」と次元斬で雑魔を斬り刻む。そして歩道を確かめるように爪先で板を叩いた。
(この道は麓の人達にとって大切な道。傷つけるわけにはいかない。それなら、できるかぎり丈夫な場所で戦うだけ)
カカッと靴音が響く中、白樺はディヴァインウィルを発動させる。そしてローザに再度声をかけた。
「ローザ、シロのことは心配しないで。パルムはちゃんと守るから!」
『わかった。ただ、絶対に無理だけはするんじゃないよッ!!』
その時、アルマが蒼い流星を天に生み出した。
「どこから来ようと僕の蒼光は有象無象を逃しません。紺碧の流星!」
3つの光が流線を描き雑魔を撃ち落としていく。しかし脅威たるアルマの隙を狙っていたのか。前進する澪に真上から雑魔が強襲する。
「澪ではなく私を狙え! ガウスジェイルッ!!」
レイアが剣で鋭い嘴を受けると、そのままカウンターアタックで敵の喉笛を裂いた。
「レイア!」
「お前と私の仲だろう、気にするな」
こうして澪とレイアは互いの背を預け合った。澪が再び「先手必勝」で仲間達の感覚を引き上げる。その時、レイアは思った。
(澪やパルムを担がず良かったかもしれんな。誰かを抱えては囮になれまい)
一方、ハナは敵の数が明確に減ったことに気づいた。最初は黒い雲のように迫ってきた雑魔が今やまばらになっている。
「考えなしに突っ込んできたんでしょうかぁ? ま、それよりも全滅全滅。風雷陣!」
符が稲妻と化し、次々と雑魔の身体を塵にしていく。
続いてフリーデの黒い稲光が橋の周りを旋回していた雑魔を焼いた。
しかし突然ローザのいる道の下が大きく揺れた。どうやら道の下から複数の雑魔が体当たりを繰り出したらしい。
『ああっ!!』
ローザが鎖に掴まる間もなく崖に落ちていく。そしてあわや崖の出っ張りに身体を叩きつけられんとした時――彼女を白樺がふわりと抱きかかえた。彼の背には「ダイダロス」の翼が展開されている。
『白樺、またアンタに助けられたね』
「いいの。シロは護り手なんだもの。あとね、パルムはレイアにお願いしてきたの。上に戻ったらまた皆を護るね!」
白樺は凛とした表情で飛翔すると、ローザを橋に戻し、レイアからパルムを受け取った。
「橋の下の連中は衝撃波で吹き飛ばした。フリーデのマテリアル感知能力によればあと5体、もう少しだ」
レイアが剣を構え、澪と共に前へ前へと突き進む。その先にはまばらに飛行する雑魔達が待ち受けていて。
「さよならです、雑魔さん達!」
「次があればもっと可愛い鳥さんに生まれ変われるといいですねぇ?」
「歪虚に堕ちた因果を恨め」
「……私にはこれしか、できないから」
4人の攻撃が一気に叩き込まれ、全ての負のマテリアルの気配が、消えた。
●浄化と希望
火山の山頂には確かに石造りの祠が存在した。しかし飾られていた花も供え物も崩れている。
そこで皆で掃除をしたが、白樺が落ち着かない様子で祠を撫でた。
「雑魔がいたせいなのかな。心がザワザワする。ローザ、浄化した方が良いかな?」
『そうだねェ。ここは長年崇拝されていただけあって、精霊が生まれる可能性がある。綺麗にしておくに越したことはないね』
そう言ってピュリフィケーションを放つ白樺と浄化の六刀を地に刺すローザ。すると清浄な気が漂い、それまでレイアの腕の中にいたパルムが笑顔で地面に飛び降りた。
「大丈夫か?」
心配するレイアに頷き、穴を掘るパルム。その手際は非常に良くあっという間に神霊樹の苗木が植えられた。
「わふー、お山の一番上に大きな樹が生えたらきっと特別な感じで素敵ですー。ね、フリーデさん!」
『ああ、皆から愛される樹になるだろう』
山の上に大きく枝を張る神霊樹の姿を想像し、ほっこり笑むアルマ。白樺もパルムの頭を撫でながら言う。
「神霊樹、立派に育って皆の希望になったら良いね♪」
そう、神霊樹はただの樹ではない。邪神の侵攻を防ぐ役割があるのだ。
白樺は苗木へ静かに手を組み祈りを捧げた。続いて皆も思い思いに樹に願いをかける。邪神の手からこの世界を守るよう力を貸してほしいと。すると……翠の葉が頷くように揺れた。
●長閑な温泉にて
「もう泥だらけになっちゃいましたぁ。温泉楽しみですぅ」
ハナは帰途につく傍ら、山登りで付着した埃や泥を払いつつ麓の村に向かう。もとより依頼人である村民から温泉に誘われている。折角だから服を洗い、一休みしようと思うのも当然だ。
「温泉か。悪くないな」
レイアも乗り気で温泉に到着するも、目の前の看板に首を傾げた。
「ん? 水着着用だと? 必要あるのか?」
温泉は混浴といえど、今日はハンター達の貸し切り。そこまで気を使わなくともとレイアは思ったが、ふと半目で頷いた。
「そういえばアルマという男がいたか。全く、お前がいなければ水着なしで堪能できたのだがな?」
「わふー、レイアさんひどいですー。一緒に頑張ったのにー」
唇を尖らせるアルマ。そんな二人をを不思議そうに白樺が眺める。
そして更衣室に向かう時、白樺は青い暖簾の掛かった更衣室に向かった。
「ローザ、また後でなの♪ シロの選んだ水着、着てみてね♪」
『ああ、アンタが選んでくれたの、楽しみにしてるよ』
そのやりとりにレイアが殊更首を傾げる。
(ん? 白樺も男子更衣室に入っていったな。暖簾の違いに気づかなかったのか? まぁ、あそこにはアルマしかいないしすぐにこっちに来るだろう)
レイアは気を取り直し、荷物から水着を出した。それは昔友人が選んでくれた赤のハイレグ水着。
自分の趣味とは異なるが着てみると蠱惑的な身体が強調され、思ったよりも似合うことに気がついた。
「あ、これはこれで……今日はこれで行くか」
その頃、ハナはフリーデの腕をぐいぐい引いて水着探しに奔走していた。自分には淡い桃色のビキニを。フリーデには様々な水着をあてがっては首を傾げる。
「んー、なかなか合うサイズがないですぅ。これは後で温泉に要望するべきですねぇ」
『あ、いや。その、私は普通のでいい。その、競泳用の長袖とか……傷跡が目立つのでな』
「そんなこと言ってちゃダメですよぅ。せっかく恋人さんと一緒にお風呂に入るなら可愛いのを着て悩殺させるのがオンナの義務ですぅ!」
『ぎ、義務だと!?』
「だって見るなら可愛いとか綺麗な方がいいに決まってますぅ! フリーデさんはもっと自分に自信を持つべきですぅ!」
そうして水着の山を探ると、大きめの白いビキニが発見された。胸元には金色のハートの留め具が嵌められ、そこに白いリボンが垂れ下がる形で飾られている。腰もリボンで結ぶ形になっているのが乙女らしい。
「これ、これですよぅ。フリーデさん、早速試着してくださいぃ!!」
『え、ええ!?』
ハナに水着と一緒に試着室に押し込められるフリーデ。その結末はいかに?
その頃、浴場では白樺とローザが家族風呂にのんびり浸かっていた。
白樺はピンクのフリルのチューブトップに紺のキュロットパンツのビキニ。ローザは水色のパレオの水着を着ていて、端から見れば仲の良い姉妹のよう。
だけど白樺の胸は高鳴るばかり。
「ね、ローザとお風呂って初めてでちょっとドキドキなの。……でも温泉、気持ち良いね♪」
にこ、と笑う白樺の額に薄く汗が浮かんでいる。そんな彼の前髪を掻き上げ、ローザは白い額に軽く唇を当てた。
『ありがと、アンタが助けてくれたから今こうして安らげてる。感謝してるよ』
「う、ううん、シロは当たり前のことをしただけ。ローザが無事で良かったの」
白樺はさも当然のように言うも、頬が林檎のように真っ赤に染まっていた。
フリーデは半ばハナに押し出されるように白ビキニ姿で浴場に入れられると、目の前の人物に思わず息を呑んだ。
それは髪を結い上げたアルマなのだが……理解していたといえど、右腕の肘から先がない。その姿に酷く胸が痛くなる。傷痍軍人など幾度も見たはずなのに。
だがアルマはそれに気づかず「……きれいです」とフリーデの姿にため息を漏らした。その後ろでハナがぐっと親指を立てていることに2人は気づいていない。
そんな中でふと、アルマは申し訳なさそうに眉尻を下げて言った。
「あの、フリーデさん……左腕だけでいいんで、洗うの手伝ってほしいです……」と恥ずかしそうに左手で頭を掻く。
『あ、ああ。私で良ければ!』
慌てて備え付けのスポンジに石鹸をたっぷり撫でつけ、アルマの身体を優しく擦るフリーデ。髪から爪先まで丁寧に洗うのは彼女なりの感謝の印か。
「ふふ、丸洗いですね。僕、あわあわわんこです」
アルマがきゃふきゃふ幸せそうに笑うと、フリーデも安堵し、微笑んだ。
一方、澪はため息をついていた。
「皆、綺麗……」
温泉の中でぽつりと呟く澪。シンプルなワンピースを選んだ自分だけどうにも気後れしてしまう。その時、真逆に派手なハイレグ姿のレイアが澪の肩を軽く叩いた。
「澪も可愛いぞ。でももっとお洒落したいなら私が付き合おうか?」
「……見るだけなら、構わない」
「もっと素直になればいい。今じゃサイズが小さめでも可愛いパレオとかシュシュとか出ているんだぞ? せっかくだから着けてみればいい」
「……そう。工夫するぐらいなら、いいかな」
ほんの少しお洒落を楽しみたい。そんな気持ちが生まれかけている自分に戸惑いながら澪は再び試着室へ向かった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 アルマ・A・エインズワース(ka4901) エルフ|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/03/19 07:14:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/17 08:15:16 |
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【相談卓】植林ピクニック 白樺(ka4596) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/03/19 01:52:55 |