ゲスト
(ka0000)
ヴァリオス開門神事
マスター:cr

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/22 12:00
- 完成日
- 2015/01/30 01:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●エウラ教会門前
ここは極彩色の街・ヴァリオス。その一角にあるエウラ教の教会。
その入り口の門にハンターオフィスの新米受付嬢、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が立っていた。
彼女がここに立っている理由……それを説明するには、この神殿の一風変わった風習、そして催される祭りを説明しなければならない。
この教会は同盟最大の街、ヴァリオスに立っているため、常に多くの人が参拝に訪れているが、一時的に参拝者がいなくなる時がある。
それは毎年一月十六日、午前0時の段階で全ての参拝者を追い出し、更に全ての門を閉めきって、ごくごく限られた人たちだけで大切な儀式を行うのだ。
この儀式が祭りではない。限られた人間しかその内容を知らない秘密の儀式。これは盛り上がりようが無い。
重要なのはこの後である。
儀式は午前0時に始まり、朝の6時まで行われる。そして朝6時に正門が開かれるのだ。
正門をくぐり、参道をしばらく進んだ先にある神殿内、大精霊像。
これに儀式後、一番最初に触った者に「その一年の幸福が訪れ願いが叶う」などという言い伝えが有るのだ。
●走れ! 走れ!
ルミは呼吸を整えると全速力で参道を走りだした。磨かれた大理石による石畳の参道が複数のカーブで繋げられている。ルミは滑りそうになるのをこらえて走る。
彼女がここに来て走っているのは他でもない、十六日の本番を前に、コースを下見して一位を狙っているのだ。
(ルミちゃん、絶対元の世界に帰るんだ!)
ルミは走りながら、自分の願いを思い浮かべる。
(それに、美味しい食べ物を一杯おごってもらうんだ!)
そう思った時だった。突然踏み込んだ足が滑り、ルミは盛大に外へ吹っ飛んでいき、積み上げられた桶の中に突っ込んでしまう。
そしてへたり込んでベソをかいていたルミの頭に追い打ちを掛けるように、桶がいくつも降ってきたのであった。
●ハンターオフィスにて
「ということがあったんですよー」
ハンターオフィスで、ルミは頭のたんこぶをさすりながらそう、先輩受付嬢のモア・プリマクラッセ(kz0066)に愚痴っていた。
「なるほど……ルミさん、ひょっとして邪なことを考えていませんでした?」
「え? そ、そんなことないですよ」
わかりやすい反応を示すルミ。
「あの神事にはこういう言われがあります。『大精霊は昨年の罪を反省し、正しい願いを持つ者に微笑む』と」
「へぇ、そうなんですか……」
「こんな話もありますよ。ある時、とある悪徳商人が屈強な男たちを何人も雇って、扉が開いた時に他の人を抑えて自分が一位でゴールしようとしたそうです」
「それでどうなったんですか?」
「それが最後のスロープを登る最中になぜか突然転び、一位でゴールできず、しかもその後、その店の不正がいくつも明らかになって一年も経たずに潰れてしまったそうです」
「はあ……」
「ですから、昨年の罪を反省せず、邪な願いを持った人は皆そうやって転ぶそうですよ」
こんな会話があったことを知ってか知らずか、今年も多くの人が門前に集まり、開門の時を待っているのであった。
ここは極彩色の街・ヴァリオス。その一角にあるエウラ教の教会。
その入り口の門にハンターオフィスの新米受付嬢、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が立っていた。
彼女がここに立っている理由……それを説明するには、この神殿の一風変わった風習、そして催される祭りを説明しなければならない。
この教会は同盟最大の街、ヴァリオスに立っているため、常に多くの人が参拝に訪れているが、一時的に参拝者がいなくなる時がある。
それは毎年一月十六日、午前0時の段階で全ての参拝者を追い出し、更に全ての門を閉めきって、ごくごく限られた人たちだけで大切な儀式を行うのだ。
この儀式が祭りではない。限られた人間しかその内容を知らない秘密の儀式。これは盛り上がりようが無い。
重要なのはこの後である。
儀式は午前0時に始まり、朝の6時まで行われる。そして朝6時に正門が開かれるのだ。
正門をくぐり、参道をしばらく進んだ先にある神殿内、大精霊像。
これに儀式後、一番最初に触った者に「その一年の幸福が訪れ願いが叶う」などという言い伝えが有るのだ。
●走れ! 走れ!
ルミは呼吸を整えると全速力で参道を走りだした。磨かれた大理石による石畳の参道が複数のカーブで繋げられている。ルミは滑りそうになるのをこらえて走る。
彼女がここに来て走っているのは他でもない、十六日の本番を前に、コースを下見して一位を狙っているのだ。
(ルミちゃん、絶対元の世界に帰るんだ!)
ルミは走りながら、自分の願いを思い浮かべる。
(それに、美味しい食べ物を一杯おごってもらうんだ!)
そう思った時だった。突然踏み込んだ足が滑り、ルミは盛大に外へ吹っ飛んでいき、積み上げられた桶の中に突っ込んでしまう。
そしてへたり込んでベソをかいていたルミの頭に追い打ちを掛けるように、桶がいくつも降ってきたのであった。
●ハンターオフィスにて
「ということがあったんですよー」
ハンターオフィスで、ルミは頭のたんこぶをさすりながらそう、先輩受付嬢のモア・プリマクラッセ(kz0066)に愚痴っていた。
「なるほど……ルミさん、ひょっとして邪なことを考えていませんでした?」
「え? そ、そんなことないですよ」
わかりやすい反応を示すルミ。
「あの神事にはこういう言われがあります。『大精霊は昨年の罪を反省し、正しい願いを持つ者に微笑む』と」
「へぇ、そうなんですか……」
「こんな話もありますよ。ある時、とある悪徳商人が屈強な男たちを何人も雇って、扉が開いた時に他の人を抑えて自分が一位でゴールしようとしたそうです」
「それでどうなったんですか?」
「それが最後のスロープを登る最中になぜか突然転び、一位でゴールできず、しかもその後、その店の不正がいくつも明らかになって一年も経たずに潰れてしまったそうです」
「はあ……」
「ですから、昨年の罪を反省せず、邪な願いを持った人は皆そうやって転ぶそうですよ」
こんな会話があったことを知ってか知らずか、今年も多くの人が門前に集まり、開門の時を待っているのであった。
リプレイ本文
●
時は 1月15日、23時を周り、そろそろ教会から参拝者達が追い出され始めた時間。
参道のカーブになっている場所に、ひとつの人影があった。
「俺は水洗掃除してるだけだよ!」
テンシ・アガート(ka0589)は言い訳するようにバケツの水をぶち撒け、カーブ一体に広がるように伸ばしていく。
「今年を幸運に包まれた年にするぞ!」
そうだね、大精霊への信心を込めて教会を掃除するとは、なんと素晴らしいことか……っておい!
この時間に水を撒いたら午前6時頃には凍結してるよ! アイスバーンだよ! どんな天罰喰らっても知らんぞ!
そんな致死的トラップが仕掛けられている事をアガート以外誰も知らぬまま、参拝者が皆追い出され、門が閉め切られ、そして人々が正門前に集まってきたのであった。
●
時計は午前5時半過ぎを示している。正門前には既に参加者が集まっている。そんな中、
(この福をもって、あたしの悲願の景気付けにしてくれるわ!)
と思いながら、積み上げられた木の前に立っているのは守原 由有(ka2577)。由有はポケットから銃弾を一つ取り出し、中に入っている火薬を振りかけて火をつける……って、大丈夫か?!
まあここで爆発したら本篇が始まらないので、ちゃんと火がついたということにします。
(一旗揚げて一代貴族とか重婚できる戸籍を貰って既成事実で……)
「ぐへっ、うへへへぇ」
顔を焚火に照らされながら、最後は野心が口に出てしまう由有であった。
「……はぁ~。どうして俺は此処に居るんだ?」
その焚火に葉巻を付け、紫煙をくゆらせているのはナハティガル・ハーレイ(ka0023)だ。辺境出身のナハティガルは今は亡き故郷で毎年行われていた神事が懐かしくなり、つい参加してしまった。しかしいざ参加してみると寒い。ブツブツ言いながら葉巻をもみ消し周りを見る。
「走るところの待機所ったら甘酒だ! 煮るぞ!」
その視線の先にいたのは、藤堂研司(ka0569)。彼は焚火の横で甘酒を作り振舞っていた。寒い冬に甘酒は暖まる。藤堂の周りには待機する人達で黒山の人だかり。
「甘酒ちょーだい!」
と、早速声をかけたのは超級まりお(ka0824)。そんな彼女に甘酒を渡しながら、藤堂は一つ質問する。
「超級さんの去年の反省点って何?」
「去年の反省点? う~ん」
腕を組み目を瞑って考えるまりお。そのままうぅ~んと考えこみ、がに股で仰け反るまでして超考えこんだ挙句、
「……無いね。全く無いね。ボクには反省すべき事は全然無いね。ってことは反省しなくて大丈夫に違いないよっ!」
等と言ってしまう。思い返せない時点で相当マズイ気がする。
「甘酒あるの?!」
一方準備運動していたミコト=S=レグルス(ka3953)も早速ニつ受け取る。一つを口に入れ、もう一つを近くにいたザザ(ka3765)に差し出した。
かわいいミコトに渡されさぞ鼻の下を伸ばすかと思えば、ザザは渋い声で否定する。
「……俺は酒乱でな。酒場で引っ掛けた際に飲み過ぎ、乱痴気騒ぎを起こした。猛省し昨年から禁酒を科していた次第だ」
「そんな事言わずに一杯どうですか?」
「美味そ……いかん。軽く運動して体を温めておこう」
と、屈伸運動を始めるザザ。そして扉の前にやって来る。隣にはナハティガル。スタートの位置取りですべてが決まると判断したナハティガルは、この絶好の位置を取った。
そんなこんなをしている内に午前6時を迎える。
●
午前6時になると同時に正門が開き、一斉に走りだす参加者達。ドドドドッという足音が地鳴りのように響き……
「ぐーまーっ!」
いや、一人だけ走り出せていない参加者がいた。一番前、ナハティガルの更に前にエニグマ(ka3688)がいたのだが、その身長の小ささにナハティガルはもちろん、誰一人そこに居たことに気づかなかった。
その結果、サッカーボールの様に蹴飛ばされるエニグマ。彼が何をしたというのだ!
「蜂蜜の喰い過ぎよりも、オレサマの生まれ持ったプリティでキュートなナイスガイ具合の方がつみぶかい」
……そんなふうに考えていた天罰ですね。
(一番とったら帝国の星! 一番とったら皇帝陛下に拝謁! 一番とったら騎士叙勲!)
さらにそこへ猪の様に突進してきたのは、メリエ・フリョーシカ(ka1991)。神事で競争なんだから、一番とったらきっと願いが叶うに違いないとか思ってる単純極まりないメリエ。去年の罪なんてあるとも思ってない自信と慢心と煩悩の塊のような彼女が踏み出した足の下にエニグマが!
「あぁ……これじゃあ今年も陛下にお会いできないぃぃ……」
スローモーションの様に後ろにひっくり返る。ああ、終わった……だが、メリエは再び立ち上がる!
「うぎぎ……! なんのまだまだ! 神様の力なんてなくてもわたしはやってみせ」
しかし参加者はハンター達だけでは無い訳で。転んで仰向けに倒れてきているところに群集が駆け込んできたわけで。神前で神様の事を否定したらそりゃそうなりますって。
一方、踏みつけられたエニグマは弾き飛ばされる。
(身長がもう少し伸びますように! 成長が止まりませんように!)
その頃、恐るべきトラップを仕掛けたテンシは、自分の願い事を思い浮かべながら走っていた。
「去年は色んな人の鼻の穴にナッツ詰めてすいませんでしたー! 正気に戻す為に仕方なかったんです!」
と言い訳するように叫び、そのまま駆け抜ける。しかしそこに門のひさしにあたって跳ね返り、急降下してきたエニグマが後頭部にクリーンヒット!
テンシは綺麗に頭の方からすっ飛んでいく。しかもそこに祝砲用の大砲が! 誰が置いたんだ?! こんなところに置いたら頭から砲口に突き刺さるに決まっているぞ! ついでにショックで導火線に火が付いたぞ!
「す、ストッピ! ストーップ!! 話せばわか」
ドォーン……
かくしてテンシには天罰が落ち、きれいな花火となったとな。
あ、エニグマもそのまま星になりました。
《メリエ・フリョーシカ、テンシ・アガート、エニグマ、リタイア!》
●
無事スタートを切った参加者達は、第一コーナーへ向かって走る。
「ふむふむ、福男決めみたいなものですわね。福女でもよろしければ、わたくし全力疾走いたしますわよ!」
先頭を走るのは刻崎 藤乃(ka3829)。藤乃はランアウトと瞬脚を駆使してスタートダッシュを切った。
そんな彼女は走りながら、今年の目標を思い浮かべる。
(わたくし、お嫁さんになりたいですわ)
実にお嬢様らしい。
(そして今年こそ、一人で捕鯨をしたいですわ)
って前言撤回! そのお願いは無茶だよ!
しかし、やはり藤乃はお嬢様。ちゃんと反省もしているぞ。
(昨年は必殺仕○人としての活動が足りませんでしたわね……)
うん、やっぱり物騒だ。
(そういえば何故かこける方が多いらしいですわね。まあわたくしのような暗殺者であればそんなことは決して! ありませんわ!)
フラグ立てありがとう。
(こっちに来て、飲食店も持てたが……俺、調理師免許持ってないんだ……細かいところまで気を配ってるけど! 懺悔しますごめんなさいぃ!!)
一方その後ろから軍で鍛えた力強いストライドで走る藤堂。その前にクリムゾンウェストには調理師免許があるのだろうか。
(だからこっちで料理人として恥じない実績や資格を取りたい!)
あるか無いかは置いといて、殊勝な願い事を思い浮かべる。
そんな藤堂の目の前には、深窓の令嬢と言うべき可愛らしさの藤乃。
(そして過程であんな感じの良い卸業者さんと懇意になって優良レストランにぐふふ……)
ここでついに邪念が交じる。大精霊はそれを見逃さない。足がつるりと滑り体が横に大回転!
「ぬおぉぉ!!?」
と気合一発、手で支え逆立ちに近い状況でも走り続けようとする藤堂。だが、それはさすがに無茶だ。そのまま前に倒れこむとそこにいたのは藤乃。結果二人絡みあうように転倒するのであった。藤堂の背中に藤乃のやわらかい感触が! うらやましいぞ藤堂!
「あら、この体勢で首の骨を折れば」
藤堂が死んでしまいます。おやめください藤乃さん。
《刻崎藤乃、藤堂研司、リタイア!》
●
「んじゃま今年のラッキースター目指して、いっちょ走るか」
第1カーブを抜けて直線に入る。ジャック・エルギン(ka1522)はわざと開門の瞬間はスピードを抑え、ちゃんと曲がりきったところでペースを上げた。
(漢が剣1本で世に出た以上、平穏に生きてもつまらないからな)
ジャックの願いは火花の散るような熱い勝負の場を得ること。戦うことが目的の彼らしい願いだ。
そんな彼の前で胸を揺らしながら、エルバッハ・リオン(ka2434)が走っている。ジャックはエルを追い抜くべく、更にスピードを上げる。
一方、エルは背後から迫っていることに気づかず、昨年の反省を思い浮かべていた。
(昨年は、男の人をいろいろと誘惑したり、強制的に人生の墓場に送り込んだりと、さすがにやりすぎましたかね)
ちゃんと昨年の事を反省するエル。しかし「動きやすいから」という理由で丈の短いスカートを履き、体のラインがはっきり出るような服装に身を包んでいる。反省内容と服装が全く一致してないぞ!
「ヒャッハー! このくらいの道、どうってことねーぜ」
そしてエルの横にジャックが並ぶ。見えるナマ脚、揺れる胸。男なら眼を引かれてしまっても仕方ない。そのジャックの様子を見て、小悪魔の微笑みを向けるエル。
だが、やはりやり過ぎだったようだ。足元が滑り、そのまま転倒するエル。大理石の硬い地面にそのまま落ちたら怪我につながると受け身を取る。
なもんで手で地面を叩き、足を広げて衝撃を逃がしながら転倒。おかげでエルのパンツが御開帳!
それが止めになった。
(そして自由都市同盟に名を轟かせる漢になる。んでまあ、同盟中の女子からキャーキャー言われてだな、おいおい俺の身体は一つしかねーよと取り合いに!)
エルの誘惑のオンパレードにいつしかジャックのロマンはハーレムへと変わっていた。
しかしそこに二つ目のカーブが!
曲がりきれず飛び出してテントに突っ込む!
テントを突き破るジャック!
その先には冬の池が!
「グギャーッ!」
風邪はひかないでください。
《エルバッハ・リオン、ジャック・エルギン、リタイア!》
●
(今年こそリアルブルーに帰ってただの高校生に戻る……!)
先行していた者達がダッシュするのにつられて走っていたのはキヅカ・リク(ka0038)だ。全力でダッシュしつつ、こういう祭は嫌いではないな、とちょっと楽しんでいた。
そうやって走りながら、「罪を反省すること」という話を思い出し、ぼんやりと去年の罪は何かと考えるリク。思い出すのは去年の夏休みの宿題。今まではやりたいなんて思わなかった宿題が、夏休み中に転移してきた今となっては心残りだ。
そんな思いが、もしかすると集中力を少し妨げたのかもしれない。ジャックが飛び出したカーブでリクも足を滑らせ、そのまま転倒する。
その間に参加者達はどんどん追い抜いていく。そんな人々を見ながら、リクは今までのことを思い出していた。
(今まで必死に走ってきた。けど、僕は速く走れるほど器用じゃないし凄くもない)
ゆっくりと起き上がる。
(だけど進まないといけない、……なら無理に誰かに併せたりしない。だけど手を抜かない!)
リクは再び自分の精一杯で、ゴール目指して駆け出した。
(故郷の仲間達に大精霊の祝福があらん事を)
ザザもそう祈りながら、参道を走る。参加のきっかけは他国の祭事への興味からだったが、いざ走りだすと思い起こされるは故郷に居る同じ部族の者達。
故郷で行われたCAM稼働実験、そして現れた災厄の十三魔。外に出たザザは世界を周り、様々な知識を吸収していた。今まで出会った人々や物事が目に浮かぶ。思い起こされるは各地で飲んだ酒。
いかんいかんと強く意識したのが逆に反動を引き起こしたのか、今すぐ酒飲ませろ、と思わず思ってしまう、その瞬間石畳につまづき大きくカーブから飛び出すザザ。そのまま大柄な体はテントに突っ込み、池に転落する。
「頭を冷やせ、って事か……」
神の采配はこういうことかと思いつつ、ザザは池から上がり再び走りだした。
●
(今年…いや、何年掛けても良い。この世界で研鑽を積み、一人前の研究者となる)
そう願いながら久延毘 大二郎(ka1771)が駆けていく。余裕を持ってスタートした久延毘はここが勝負と判断し、ペースを上げ始めていた。
「あんな飛ばして団子になっとると転びそうやな……」
そう思い、後方からスタートした冬樹 文太(ka0124)は、思った通りここまでで沢山の参加者が転倒したのを見てしめしめと思う。
(去年はあまり依頼に入らず実入りが少なかったさかいな、今年はきっちり金貯めて借家からはおさらばや!)
そう思いながらペースを変えず走って行く冬樹。
「私はッ! 媚びぬ! 退かぬ! 省みぬぅぅぅぅぅ!!!!」
一方、とんでもない鬨の声を上げて、レム・K・モメンタム(ka0149)が土煙を上げつつ駆け抜ける。
元々ガッツばかりは十分なレム、負けるものかとグイグイ進み、カーブも見事に乗り越えて長い直線に入る。このままスピードを上げて一着でゴールか?!
「ハンターとしてのルーキーシーズンも終わって、重要な依頼も増えてきた! だから今年こそ勲を挙げて、私の名を世界に轟かぁぁーっ!?」
しかしスピードを上げすぎたのか、そのまま足が滑って前のめりに転倒する。そしてレムには大きな問題があったのだ。そう、レムは胸の摩擦係数が極めて低かったのだ!
結果延々と滑っていくレム。
その頃、前を走る久延毘の頭に思い浮かんだのは、リアルブルーで在籍していた大学の人間たちの顔。
(そして、去年の転移前……私の研究成果と論文をオカルトと嘲笑した大学の教授達を逆に嘲笑ってやる)
そう思った瞬間、大理石を滑ってきたレムの体がストライク!
そのまま躓いて顔面から石畳に突っ込み、シャチホコ状態になる久延毘!
「あーもう、嘲笑されたのは彼らを納得させる事が出来なかった私の力不足が原因だろうが! それを他人のせいにするとは私の馬鹿! 迂闊!」
反省する久延毘が冬樹の元へ迫る!
避けきれず足を引っ掛ける冬樹!
「うお、まじかあっ!?」
と背中から倒れるもバック転で回避!
したつもりがしっかり着地できず後頭部から転倒!
下にはレム!
(そういう方向は自力で頑張れってコトなのね……じゃあせめて、努力しても大きくならない私のむn――)
薄れ行く意識の中で、レムはそう思っていた。
《久延毘大二郎、冬樹文太、レム・K・モメンタム、リタイア!》
●
長い直線を突き進み、次のカーブにやって来たところで先頭に立っているのはまりおだ。そんな彼女が、一番で大精霊像に触れると願いが叶うと聞かされて示した反応が、
「願いが叶う? そんなの迷信、迷信。まさか本気で信じるわけないじゃん♪」
という、実に罰当たりなもの。ここまでやりたい放題やっているのであれば、そろそろ転倒していないとおかしいのだが、何度か転びそうになりながらも、持ち前の運動神経で切り抜けていた。恐るべき、バカ運動神経!
しかし次のカーブは違う。なにせここはテンシが予め水を撒いていた場所。すっかり凍結してカチンカチンになっている!
そんなことを知る由もなく、スピードを下げずカーブに飛び込むまりお。当然のごとくツルツルと滑って行く。とうとう年貢の納め時か?
「いやっほぉぉぉーぅ♪」
しかし力強く地面を踏みしめるとそのまま大ジャンプ。そのまま着地すると再び走りだす。その運動神経の前に伝承は打ち破られてしまうのか?
続けてカーブにやって来たのはミコト率いる仲良しグループだ。
「一番になると、願い事が叶う、ですか? それは負けられませんねっ」
とグループの中でトップを走るのは、やはりミコト。
そんな彼女の後ろから追いかけているのが、ルドルフ・デネボラ(ka3749)だ。
「ミコ、あんま無茶しないでよね」
と心配して声をかけるが、肝心のミコトは聞いていない。
(聞いてないし……いつものことだけど)
思わずルドルフはため息を漏らす。そしてそのミコトに引きづられるように参加した自分のことを思い出す。
(考えてみると、俺も良くも悪くも流されてしまっている。今年こそは、自分の意志を強く持って……)
自分の願いというか、目標を思い浮かべるルドルフ。
「ねみぃ……ってかすげー寒い」
そして二人の後ろを走るのは、トルステン=L=ユピテル(ka3946)だ。こんな寒い時期の朝早くに一体何をやらせるんだと、ぶつくさ文句を言いながらやって来た彼だが、実際参加してみると思わず雰囲気に飲まれ全力疾走している。そうやって集中して走っていると、心が澄み渡り、反省すべき内容などが思い浮かぶ。
(昨年の罪か……転移後まだ何もできてない事だな。何かしなきゃとは思うのに……)
そう、もどかしく思うトルステン。
そしてそんなトルステンを、やはり全力でリツカ=R=ウラノス(ka3955)が追いかけている。
リツカの方はやる気まんまんだ。なにせリツカは走るのは超得意。運動に能力全振りと常々言われているぐらいだ。
そんな風に女子二人がやる気満々なのも理由がある。二人共が目指すは夢でみるあの人……
(夢の中のあの人みたいに、格好良くなれるように)
(夢の中の憧れのあの方に相応しい人になれますように)
律儀に願いを思い浮かべつつ驀進する二人。
そんな願いを浮かべている二人の事を知ってか知らずか、
(もうちょいリツが俺の苦労に気づいてくれたらなぁ……王子様だか何だか知らねぇけど夢の中の男の話ばっか。身近な存在のありがたみに目を向けるべきだよな)
などと思っていた。
「置いてかれない程度に走るか」
そしてこの仲良しグループの最後尾を走っているのは、エドガー・カリスト(ka3956)だ。先頭を見ればミコトが全力疾走中。
(ミコはお祭り好きというか、皆で騒ぐのが好きというか……)
と心のなかで苦笑を浮かべる。そして、エドガーの心の中にもう一つの感情が浮かぶ。それは楽しそうに走っている4人の事を妬む思い。
(こんな事は口に出せんな……)
と、浮かんだ感情を消し去るエドガー。ネガティブな感情を消すと、楽しそうに走るミコの姿が見える。
(ミコ辺りが転びそうだな。よく転ぶ奴だって呆れ笑いするけど)
そう思い浮かべ、軽く微笑んだ。実際、天然のミコトに他の4人は良く引っ張り回されている。しかし、そんな5人がこうやって一緒に走っているのは、それだけで幸せではないか。なら、この5人が、そしてリアルブルーから転移した人々の事態がいい方向に好転してくれれば、そう願う。
(それでルドが引っ張られて何か察して。ステンも巻き込まれて、伸ばした手を避けようとするけど失敗して……)
ミコトの転倒から始まる流れを思い浮かべ、嫌な予感に変わるエドガー。
ちょうどその時、ミコトの足はカーブに踏み込んだ。そこはテンシによって凍結している!
つるりと滑り、咄嗟に何かにつかまろうと手を伸ばすミコト、ちょうどそこにあった布を掴む。
しかし、それはルドルフの袖!
そのままなすすべなく引っ張られるルドルフ、こちらも何かにつかまろうと手を伸ばすが、そこにあったのはトルステンの脚!
トルステンも巻き込まれ一緒に転倒……する瞬間にエドガーの体を引っ張る!
当然、エドガーも転倒!
そして周りの4人があっという間に転倒したため、そこに脚が引っかかるリツカ。しかしスピードは抑えられない。結果ロケットの様にすっ飛んでいく! ここまでわずか1秒!
結果絡まったまま倒れている4人と、カーブの外で逆さまになって木に引っかかっているリツカの出来上がり。
「痛ぇ! ……ってか眼鏡が無ぇ!」
と、トルステンは眼鏡を探している。
「いやぁ、ステン、悪い悪い」
そんな彼に謝るエドガーはそのまま、この連鎖をスタートさせたミコトに文句を一つ。
「ミコ、酷いよ。手を掴まれてたら受け身取れないじゃない」
「転びそうになってもルゥ君が助けてくれるから、大丈夫だ、って思ってんだ!」
舌をぺろりと見せるミコト。
そしてそんな3人に、
「さて、そろそろリツを助けに行くか」
と、エドガーが声をかける。レースは一時中断。仲良しグループでリツカ救出作戦の始まりだ。
《ミコト=S=レグルス、ルドルフ・デネボラ、トルステン=L=ユピテル、エドガー・カリスト、リツカ=R=ウラノス、リタイア!》
●
「愛の為に皆、どいてもらうよ!」
4人がリツカの救出に取り掛かった頃、そう叫びながら由有が突っ込んできた。
まるでショートトラックのように姿勢を低くし、地面を強く蹴りつけて走る由有。
次のカーブも地面に手を添え、安定を図る。が、いかんせん相手が悪かった。凍った地面を強く蹴っても余計に滑るだけ。
「なんで!? ラッツィオの巨大歪虚討伐後の打上中ロッソの弟達の部屋への潜入がダメとでも!? 幾つか機械に細工し歩哨をKO、精力剤と元気になる薬を盛ったスタミナ料理尽くしの弁当持参しただけなのに!?」
ゆっくりと流れる時の中で、由有はそう呟きながらそのままスピンしてコースの外へと吹っ飛んでいった。
あと、由有さんの行いはダメだと思います。
《守原由有、リタイア!》
●
(……去年の反省? ちょいとノンビリし過ぎちまった面はあるかもしれんなぁ……)
そんな事を思いながら走っているのは、ナハティガル。彼はカーブに向かいながら願い事を考えていた。
(強いて言えば、『少しでも多くの歪虚を倒す』位か?)
って、ここで適当に考えるってのはマズく無いか?!
しかし大精霊像への道はドンドン短くなっていく。
「――勝負所を見極めさせて貰うぜ……!」
このカーブを抜ければ、大精霊像まで一直線。そこで一気にスピードを上げて追い抜く。これが彼の作戦だ。そして最後の直線でスピードを上げるためギアアップ、全身全霊を賭けてダッシュし始めた!
地面が凍っている!
滑る!
転倒!
そのままスピンしつつ吹っ飛んで行って由有に衝突、相手はさらにすっ飛んでいった。
《ナハティガル・ハーレイ、リタイア!》
●
「はわっ!?」
やはり凍ったカーブに足を取られ滑っているのは、カール・フォルシアン(ka3702)。だが、何とか踏みとどまると、もう一度走りだす。
「だ、大丈夫ですか!? 無理しないで下さいね!」
コースの外で倒れている由有とナハティガルを心配しつつ、横を走り抜ける。もう体勢は大丈夫。すると余裕が出てきて、何か考えることもできるようになる。
(こちらに来て間もなくて、やたら頑張ろうとして空回りすることが多かったですね……)
と、去年の反省をするカール。
(願い事は……家に帰りたいけど、その為にももっと成長して人の役に立つ医師に近づきたいです!)
そして立派な願い事を思う。あとはゴールに向かうだけ。しかし、余裕があったのが良くなかったのか。
(もっと大人に……し、身長伸びるといいな)
そう、もう一つお願いした瞬間につるり。
「ひゃっ!?」
後ろ向きに倒れそうなのを、腕をぐるぐる回して踏みとどまる、が、踏みとどまりすぎたのかそのまま前のめりに!
「わわわっ……!」
そのまま転んだカールはなんとか受け身、しかし止まらず石畳の上をゴロゴロ転がっていくのであった。
《カール・フォルシアン、リタイア!》
●
(野心は、特に何無いんだけどな)
そんなゴロゴロ転がっているカールの前で、いつの間にかトップに迫る勢いで走っているのは鈴胆 奈月(ka2802)だ。凍ったカーブで滑りそうになったが、とっさの判断で運動強化を自分に掛けたのが上手く出た。
がっつくつもりは無かったが、こうなったら少しぐらい野心が出る。
(行方不明の姉さんの情報を少しでも知りたいな)
そう願いながら走る鈴胆は、ちゃんと去年の反省もする。
(反省点は……協力するだけで、自分から大きく行動を起こさなかった事だな)
が、そのまま余計なことを考えてしまった。
(まあ多少サボったってそれなり活躍できるから、もう少しくらいなら……)
その瞬間、転がってきたカールが足にストライク!
鈴胆はボウリングのピンの如く転倒!
その拍子にスピアガンの弾をぶちまける……って、それは危険だよ!
ついでに自分は防御障壁って、それは酷いよ!
癖で済まされないよ! 踏んだら大怪我だよ! 血が出るよ! 危険危険!
えーっと……負傷者は出なかった、ということで!
《鈴胆奈月、リタイア!》
●
開門の時は大量に居た参加者も、転倒が相次ぎ今や戦線に残っているのはごくわずかだ。
となると、自分のペースで走っていたものが有利になる。
アルファス(ka3312)もそんな一人だった。そんな彼はいつも通り女性装で参加。
「別に心は男性だよ?」
とは、本人談。
「単純に女装して悪戯したり、他人を翻弄するのが楽しい……悪戯と女装はセットな感じなんだよね」
ほうほう、それでどういうことしたのですか?
「女装して他の男性を悪戯で誘惑してみたり、女装を薦めてアブノーマルな道に引っ張りこんだり……現に友達を異性装集合写真に誘ったりしてるし」
クリムゾンウェストにも多様な価値観が存在しますが、皆で楽しんでいるのなら結構なことです!
「今年の目標は個人的にはやっぱりたくさんの知り合いに異性装(クロスドレッサー)の楽しみを。たまには違う自分に変身するのも素敵なものだから」
はたして真面目なのかそうでないのかよくわからない目標をお願いするアルファス。しかし、彼はその後とんでもない願いをしてしまったのだった。
「あと……また悪戯が成功しますように」
その時、鈴胆がバラ撒いたスピアガンの流れ弾が!
アルファスのお尻を直撃!
「はぅぁ……」
思わず漏らした声は、女性そのものだったとか。
もうわかっているとは思いますが、こんな事を願えば天罰が当たります。
《アルファス、リタイア!》
●
大精霊像がグングンと近づいてくる。しかし未だに一位はまりお。こんなに罰当たりなことばかり考えているまりおが一位のままで終わるのか?
いや、ゴール寸前で一気に近づいてきた者がいた! 大柄な体でドタドタと音を立てて米本 剛(ka0320)が走って来る。
自覚している通り少々敏捷性にかける米本だが、真面目に全力全開で走ってきたのが功を奏した。やはり大精霊は行いを見ているようだ。
(人の話をよく聞き、言葉の意味を理解し、場の流れを読み、己の中によく染みこませなさい。これが今年の目標ですね)
しっかり去年の反省も忘れない。
(ハンターとしても自分個人としても楽しい出会いがあります様に……)
その願いも実に真面目だ。
そんな罰当たりなまりおと真面目な米本のマッチレース。あとは最後のスロープのみ。
まずはまりおが駆け上がる!
そして米本も続いて駆け上がる!
しかし、その時米本の足がつるりと滑った!
そのままうつ伏せに転倒し、スロープを滑り落ちていく米本!
嗚呼! やはりまりおの勝利で終わるのか?!
そしてまりおが手を伸ばす。あとは精霊像に触れるのみ!
だが、その時だった。天から降り注ぐ稲妻の様な一撃がまりおに直撃!
結局、後数センチのところでうつぶせに倒れているまりお。まさしく大天罰であった。
《米本剛、超級まりお、リタイア!》
●
「えー、今年の一番福が決まりました」
開門からの一連の流れが終わると、教会の人間が出てくる。一番最初に像に触れた者、つまり大精霊の祝福を受けた者、その幸運にあやかろうと、それ以外の参加者もその者にタッチしていく。
そんな人だかりの真ん中で、記念品と共に一緒にいるのは……まさかのエニグマだった。
開門と同時に蹴飛ばされて星になったエニグマ、それが長い長い空中旅行の末、落ちてきたところがちょうどまりおの頭だったのだ!
エニグマはそのまま跳ね返って大精霊像にタッチ。一方のまりおは頭突きを喰らってKO! これが大天罰の正体だ。
エルバッハが普通にお参りをしている横で、朝早くから走っておねむのエニグマがうとうとしている。
「おっきいくましゃんほしい……」
そんな風に寝言を漏らすエニグマの横には、その体と同じぐらいの大きさの、クマのぬいぐるみが置かれていた。
時は 1月15日、23時を周り、そろそろ教会から参拝者達が追い出され始めた時間。
参道のカーブになっている場所に、ひとつの人影があった。
「俺は水洗掃除してるだけだよ!」
テンシ・アガート(ka0589)は言い訳するようにバケツの水をぶち撒け、カーブ一体に広がるように伸ばしていく。
「今年を幸運に包まれた年にするぞ!」
そうだね、大精霊への信心を込めて教会を掃除するとは、なんと素晴らしいことか……っておい!
この時間に水を撒いたら午前6時頃には凍結してるよ! アイスバーンだよ! どんな天罰喰らっても知らんぞ!
そんな致死的トラップが仕掛けられている事をアガート以外誰も知らぬまま、参拝者が皆追い出され、門が閉め切られ、そして人々が正門前に集まってきたのであった。
●
時計は午前5時半過ぎを示している。正門前には既に参加者が集まっている。そんな中、
(この福をもって、あたしの悲願の景気付けにしてくれるわ!)
と思いながら、積み上げられた木の前に立っているのは守原 由有(ka2577)。由有はポケットから銃弾を一つ取り出し、中に入っている火薬を振りかけて火をつける……って、大丈夫か?!
まあここで爆発したら本篇が始まらないので、ちゃんと火がついたということにします。
(一旗揚げて一代貴族とか重婚できる戸籍を貰って既成事実で……)
「ぐへっ、うへへへぇ」
顔を焚火に照らされながら、最後は野心が口に出てしまう由有であった。
「……はぁ~。どうして俺は此処に居るんだ?」
その焚火に葉巻を付け、紫煙をくゆらせているのはナハティガル・ハーレイ(ka0023)だ。辺境出身のナハティガルは今は亡き故郷で毎年行われていた神事が懐かしくなり、つい参加してしまった。しかしいざ参加してみると寒い。ブツブツ言いながら葉巻をもみ消し周りを見る。
「走るところの待機所ったら甘酒だ! 煮るぞ!」
その視線の先にいたのは、藤堂研司(ka0569)。彼は焚火の横で甘酒を作り振舞っていた。寒い冬に甘酒は暖まる。藤堂の周りには待機する人達で黒山の人だかり。
「甘酒ちょーだい!」
と、早速声をかけたのは超級まりお(ka0824)。そんな彼女に甘酒を渡しながら、藤堂は一つ質問する。
「超級さんの去年の反省点って何?」
「去年の反省点? う~ん」
腕を組み目を瞑って考えるまりお。そのままうぅ~んと考えこみ、がに股で仰け反るまでして超考えこんだ挙句、
「……無いね。全く無いね。ボクには反省すべき事は全然無いね。ってことは反省しなくて大丈夫に違いないよっ!」
等と言ってしまう。思い返せない時点で相当マズイ気がする。
「甘酒あるの?!」
一方準備運動していたミコト=S=レグルス(ka3953)も早速ニつ受け取る。一つを口に入れ、もう一つを近くにいたザザ(ka3765)に差し出した。
かわいいミコトに渡されさぞ鼻の下を伸ばすかと思えば、ザザは渋い声で否定する。
「……俺は酒乱でな。酒場で引っ掛けた際に飲み過ぎ、乱痴気騒ぎを起こした。猛省し昨年から禁酒を科していた次第だ」
「そんな事言わずに一杯どうですか?」
「美味そ……いかん。軽く運動して体を温めておこう」
と、屈伸運動を始めるザザ。そして扉の前にやって来る。隣にはナハティガル。スタートの位置取りですべてが決まると判断したナハティガルは、この絶好の位置を取った。
そんなこんなをしている内に午前6時を迎える。
●
午前6時になると同時に正門が開き、一斉に走りだす参加者達。ドドドドッという足音が地鳴りのように響き……
「ぐーまーっ!」
いや、一人だけ走り出せていない参加者がいた。一番前、ナハティガルの更に前にエニグマ(ka3688)がいたのだが、その身長の小ささにナハティガルはもちろん、誰一人そこに居たことに気づかなかった。
その結果、サッカーボールの様に蹴飛ばされるエニグマ。彼が何をしたというのだ!
「蜂蜜の喰い過ぎよりも、オレサマの生まれ持ったプリティでキュートなナイスガイ具合の方がつみぶかい」
……そんなふうに考えていた天罰ですね。
(一番とったら帝国の星! 一番とったら皇帝陛下に拝謁! 一番とったら騎士叙勲!)
さらにそこへ猪の様に突進してきたのは、メリエ・フリョーシカ(ka1991)。神事で競争なんだから、一番とったらきっと願いが叶うに違いないとか思ってる単純極まりないメリエ。去年の罪なんてあるとも思ってない自信と慢心と煩悩の塊のような彼女が踏み出した足の下にエニグマが!
「あぁ……これじゃあ今年も陛下にお会いできないぃぃ……」
スローモーションの様に後ろにひっくり返る。ああ、終わった……だが、メリエは再び立ち上がる!
「うぎぎ……! なんのまだまだ! 神様の力なんてなくてもわたしはやってみせ」
しかし参加者はハンター達だけでは無い訳で。転んで仰向けに倒れてきているところに群集が駆け込んできたわけで。神前で神様の事を否定したらそりゃそうなりますって。
一方、踏みつけられたエニグマは弾き飛ばされる。
(身長がもう少し伸びますように! 成長が止まりませんように!)
その頃、恐るべきトラップを仕掛けたテンシは、自分の願い事を思い浮かべながら走っていた。
「去年は色んな人の鼻の穴にナッツ詰めてすいませんでしたー! 正気に戻す為に仕方なかったんです!」
と言い訳するように叫び、そのまま駆け抜ける。しかしそこに門のひさしにあたって跳ね返り、急降下してきたエニグマが後頭部にクリーンヒット!
テンシは綺麗に頭の方からすっ飛んでいく。しかもそこに祝砲用の大砲が! 誰が置いたんだ?! こんなところに置いたら頭から砲口に突き刺さるに決まっているぞ! ついでにショックで導火線に火が付いたぞ!
「す、ストッピ! ストーップ!! 話せばわか」
ドォーン……
かくしてテンシには天罰が落ち、きれいな花火となったとな。
あ、エニグマもそのまま星になりました。
《メリエ・フリョーシカ、テンシ・アガート、エニグマ、リタイア!》
●
無事スタートを切った参加者達は、第一コーナーへ向かって走る。
「ふむふむ、福男決めみたいなものですわね。福女でもよろしければ、わたくし全力疾走いたしますわよ!」
先頭を走るのは刻崎 藤乃(ka3829)。藤乃はランアウトと瞬脚を駆使してスタートダッシュを切った。
そんな彼女は走りながら、今年の目標を思い浮かべる。
(わたくし、お嫁さんになりたいですわ)
実にお嬢様らしい。
(そして今年こそ、一人で捕鯨をしたいですわ)
って前言撤回! そのお願いは無茶だよ!
しかし、やはり藤乃はお嬢様。ちゃんと反省もしているぞ。
(昨年は必殺仕○人としての活動が足りませんでしたわね……)
うん、やっぱり物騒だ。
(そういえば何故かこける方が多いらしいですわね。まあわたくしのような暗殺者であればそんなことは決して! ありませんわ!)
フラグ立てありがとう。
(こっちに来て、飲食店も持てたが……俺、調理師免許持ってないんだ……細かいところまで気を配ってるけど! 懺悔しますごめんなさいぃ!!)
一方その後ろから軍で鍛えた力強いストライドで走る藤堂。その前にクリムゾンウェストには調理師免許があるのだろうか。
(だからこっちで料理人として恥じない実績や資格を取りたい!)
あるか無いかは置いといて、殊勝な願い事を思い浮かべる。
そんな藤堂の目の前には、深窓の令嬢と言うべき可愛らしさの藤乃。
(そして過程であんな感じの良い卸業者さんと懇意になって優良レストランにぐふふ……)
ここでついに邪念が交じる。大精霊はそれを見逃さない。足がつるりと滑り体が横に大回転!
「ぬおぉぉ!!?」
と気合一発、手で支え逆立ちに近い状況でも走り続けようとする藤堂。だが、それはさすがに無茶だ。そのまま前に倒れこむとそこにいたのは藤乃。結果二人絡みあうように転倒するのであった。藤堂の背中に藤乃のやわらかい感触が! うらやましいぞ藤堂!
「あら、この体勢で首の骨を折れば」
藤堂が死んでしまいます。おやめください藤乃さん。
《刻崎藤乃、藤堂研司、リタイア!》
●
「んじゃま今年のラッキースター目指して、いっちょ走るか」
第1カーブを抜けて直線に入る。ジャック・エルギン(ka1522)はわざと開門の瞬間はスピードを抑え、ちゃんと曲がりきったところでペースを上げた。
(漢が剣1本で世に出た以上、平穏に生きてもつまらないからな)
ジャックの願いは火花の散るような熱い勝負の場を得ること。戦うことが目的の彼らしい願いだ。
そんな彼の前で胸を揺らしながら、エルバッハ・リオン(ka2434)が走っている。ジャックはエルを追い抜くべく、更にスピードを上げる。
一方、エルは背後から迫っていることに気づかず、昨年の反省を思い浮かべていた。
(昨年は、男の人をいろいろと誘惑したり、強制的に人生の墓場に送り込んだりと、さすがにやりすぎましたかね)
ちゃんと昨年の事を反省するエル。しかし「動きやすいから」という理由で丈の短いスカートを履き、体のラインがはっきり出るような服装に身を包んでいる。反省内容と服装が全く一致してないぞ!
「ヒャッハー! このくらいの道、どうってことねーぜ」
そしてエルの横にジャックが並ぶ。見えるナマ脚、揺れる胸。男なら眼を引かれてしまっても仕方ない。そのジャックの様子を見て、小悪魔の微笑みを向けるエル。
だが、やはりやり過ぎだったようだ。足元が滑り、そのまま転倒するエル。大理石の硬い地面にそのまま落ちたら怪我につながると受け身を取る。
なもんで手で地面を叩き、足を広げて衝撃を逃がしながら転倒。おかげでエルのパンツが御開帳!
それが止めになった。
(そして自由都市同盟に名を轟かせる漢になる。んでまあ、同盟中の女子からキャーキャー言われてだな、おいおい俺の身体は一つしかねーよと取り合いに!)
エルの誘惑のオンパレードにいつしかジャックのロマンはハーレムへと変わっていた。
しかしそこに二つ目のカーブが!
曲がりきれず飛び出してテントに突っ込む!
テントを突き破るジャック!
その先には冬の池が!
「グギャーッ!」
風邪はひかないでください。
《エルバッハ・リオン、ジャック・エルギン、リタイア!》
●
(今年こそリアルブルーに帰ってただの高校生に戻る……!)
先行していた者達がダッシュするのにつられて走っていたのはキヅカ・リク(ka0038)だ。全力でダッシュしつつ、こういう祭は嫌いではないな、とちょっと楽しんでいた。
そうやって走りながら、「罪を反省すること」という話を思い出し、ぼんやりと去年の罪は何かと考えるリク。思い出すのは去年の夏休みの宿題。今まではやりたいなんて思わなかった宿題が、夏休み中に転移してきた今となっては心残りだ。
そんな思いが、もしかすると集中力を少し妨げたのかもしれない。ジャックが飛び出したカーブでリクも足を滑らせ、そのまま転倒する。
その間に参加者達はどんどん追い抜いていく。そんな人々を見ながら、リクは今までのことを思い出していた。
(今まで必死に走ってきた。けど、僕は速く走れるほど器用じゃないし凄くもない)
ゆっくりと起き上がる。
(だけど進まないといけない、……なら無理に誰かに併せたりしない。だけど手を抜かない!)
リクは再び自分の精一杯で、ゴール目指して駆け出した。
(故郷の仲間達に大精霊の祝福があらん事を)
ザザもそう祈りながら、参道を走る。参加のきっかけは他国の祭事への興味からだったが、いざ走りだすと思い起こされるは故郷に居る同じ部族の者達。
故郷で行われたCAM稼働実験、そして現れた災厄の十三魔。外に出たザザは世界を周り、様々な知識を吸収していた。今まで出会った人々や物事が目に浮かぶ。思い起こされるは各地で飲んだ酒。
いかんいかんと強く意識したのが逆に反動を引き起こしたのか、今すぐ酒飲ませろ、と思わず思ってしまう、その瞬間石畳につまづき大きくカーブから飛び出すザザ。そのまま大柄な体はテントに突っ込み、池に転落する。
「頭を冷やせ、って事か……」
神の采配はこういうことかと思いつつ、ザザは池から上がり再び走りだした。
●
(今年…いや、何年掛けても良い。この世界で研鑽を積み、一人前の研究者となる)
そう願いながら久延毘 大二郎(ka1771)が駆けていく。余裕を持ってスタートした久延毘はここが勝負と判断し、ペースを上げ始めていた。
「あんな飛ばして団子になっとると転びそうやな……」
そう思い、後方からスタートした冬樹 文太(ka0124)は、思った通りここまでで沢山の参加者が転倒したのを見てしめしめと思う。
(去年はあまり依頼に入らず実入りが少なかったさかいな、今年はきっちり金貯めて借家からはおさらばや!)
そう思いながらペースを変えず走って行く冬樹。
「私はッ! 媚びぬ! 退かぬ! 省みぬぅぅぅぅぅ!!!!」
一方、とんでもない鬨の声を上げて、レム・K・モメンタム(ka0149)が土煙を上げつつ駆け抜ける。
元々ガッツばかりは十分なレム、負けるものかとグイグイ進み、カーブも見事に乗り越えて長い直線に入る。このままスピードを上げて一着でゴールか?!
「ハンターとしてのルーキーシーズンも終わって、重要な依頼も増えてきた! だから今年こそ勲を挙げて、私の名を世界に轟かぁぁーっ!?」
しかしスピードを上げすぎたのか、そのまま足が滑って前のめりに転倒する。そしてレムには大きな問題があったのだ。そう、レムは胸の摩擦係数が極めて低かったのだ!
結果延々と滑っていくレム。
その頃、前を走る久延毘の頭に思い浮かんだのは、リアルブルーで在籍していた大学の人間たちの顔。
(そして、去年の転移前……私の研究成果と論文をオカルトと嘲笑した大学の教授達を逆に嘲笑ってやる)
そう思った瞬間、大理石を滑ってきたレムの体がストライク!
そのまま躓いて顔面から石畳に突っ込み、シャチホコ状態になる久延毘!
「あーもう、嘲笑されたのは彼らを納得させる事が出来なかった私の力不足が原因だろうが! それを他人のせいにするとは私の馬鹿! 迂闊!」
反省する久延毘が冬樹の元へ迫る!
避けきれず足を引っ掛ける冬樹!
「うお、まじかあっ!?」
と背中から倒れるもバック転で回避!
したつもりがしっかり着地できず後頭部から転倒!
下にはレム!
(そういう方向は自力で頑張れってコトなのね……じゃあせめて、努力しても大きくならない私のむn――)
薄れ行く意識の中で、レムはそう思っていた。
《久延毘大二郎、冬樹文太、レム・K・モメンタム、リタイア!》
●
長い直線を突き進み、次のカーブにやって来たところで先頭に立っているのはまりおだ。そんな彼女が、一番で大精霊像に触れると願いが叶うと聞かされて示した反応が、
「願いが叶う? そんなの迷信、迷信。まさか本気で信じるわけないじゃん♪」
という、実に罰当たりなもの。ここまでやりたい放題やっているのであれば、そろそろ転倒していないとおかしいのだが、何度か転びそうになりながらも、持ち前の運動神経で切り抜けていた。恐るべき、バカ運動神経!
しかし次のカーブは違う。なにせここはテンシが予め水を撒いていた場所。すっかり凍結してカチンカチンになっている!
そんなことを知る由もなく、スピードを下げずカーブに飛び込むまりお。当然のごとくツルツルと滑って行く。とうとう年貢の納め時か?
「いやっほぉぉぉーぅ♪」
しかし力強く地面を踏みしめるとそのまま大ジャンプ。そのまま着地すると再び走りだす。その運動神経の前に伝承は打ち破られてしまうのか?
続けてカーブにやって来たのはミコト率いる仲良しグループだ。
「一番になると、願い事が叶う、ですか? それは負けられませんねっ」
とグループの中でトップを走るのは、やはりミコト。
そんな彼女の後ろから追いかけているのが、ルドルフ・デネボラ(ka3749)だ。
「ミコ、あんま無茶しないでよね」
と心配して声をかけるが、肝心のミコトは聞いていない。
(聞いてないし……いつものことだけど)
思わずルドルフはため息を漏らす。そしてそのミコトに引きづられるように参加した自分のことを思い出す。
(考えてみると、俺も良くも悪くも流されてしまっている。今年こそは、自分の意志を強く持って……)
自分の願いというか、目標を思い浮かべるルドルフ。
「ねみぃ……ってかすげー寒い」
そして二人の後ろを走るのは、トルステン=L=ユピテル(ka3946)だ。こんな寒い時期の朝早くに一体何をやらせるんだと、ぶつくさ文句を言いながらやって来た彼だが、実際参加してみると思わず雰囲気に飲まれ全力疾走している。そうやって集中して走っていると、心が澄み渡り、反省すべき内容などが思い浮かぶ。
(昨年の罪か……転移後まだ何もできてない事だな。何かしなきゃとは思うのに……)
そう、もどかしく思うトルステン。
そしてそんなトルステンを、やはり全力でリツカ=R=ウラノス(ka3955)が追いかけている。
リツカの方はやる気まんまんだ。なにせリツカは走るのは超得意。運動に能力全振りと常々言われているぐらいだ。
そんな風に女子二人がやる気満々なのも理由がある。二人共が目指すは夢でみるあの人……
(夢の中のあの人みたいに、格好良くなれるように)
(夢の中の憧れのあの方に相応しい人になれますように)
律儀に願いを思い浮かべつつ驀進する二人。
そんな願いを浮かべている二人の事を知ってか知らずか、
(もうちょいリツが俺の苦労に気づいてくれたらなぁ……王子様だか何だか知らねぇけど夢の中の男の話ばっか。身近な存在のありがたみに目を向けるべきだよな)
などと思っていた。
「置いてかれない程度に走るか」
そしてこの仲良しグループの最後尾を走っているのは、エドガー・カリスト(ka3956)だ。先頭を見ればミコトが全力疾走中。
(ミコはお祭り好きというか、皆で騒ぐのが好きというか……)
と心のなかで苦笑を浮かべる。そして、エドガーの心の中にもう一つの感情が浮かぶ。それは楽しそうに走っている4人の事を妬む思い。
(こんな事は口に出せんな……)
と、浮かんだ感情を消し去るエドガー。ネガティブな感情を消すと、楽しそうに走るミコの姿が見える。
(ミコ辺りが転びそうだな。よく転ぶ奴だって呆れ笑いするけど)
そう思い浮かべ、軽く微笑んだ。実際、天然のミコトに他の4人は良く引っ張り回されている。しかし、そんな5人がこうやって一緒に走っているのは、それだけで幸せではないか。なら、この5人が、そしてリアルブルーから転移した人々の事態がいい方向に好転してくれれば、そう願う。
(それでルドが引っ張られて何か察して。ステンも巻き込まれて、伸ばした手を避けようとするけど失敗して……)
ミコトの転倒から始まる流れを思い浮かべ、嫌な予感に変わるエドガー。
ちょうどその時、ミコトの足はカーブに踏み込んだ。そこはテンシによって凍結している!
つるりと滑り、咄嗟に何かにつかまろうと手を伸ばすミコト、ちょうどそこにあった布を掴む。
しかし、それはルドルフの袖!
そのままなすすべなく引っ張られるルドルフ、こちらも何かにつかまろうと手を伸ばすが、そこにあったのはトルステンの脚!
トルステンも巻き込まれ一緒に転倒……する瞬間にエドガーの体を引っ張る!
当然、エドガーも転倒!
そして周りの4人があっという間に転倒したため、そこに脚が引っかかるリツカ。しかしスピードは抑えられない。結果ロケットの様にすっ飛んでいく! ここまでわずか1秒!
結果絡まったまま倒れている4人と、カーブの外で逆さまになって木に引っかかっているリツカの出来上がり。
「痛ぇ! ……ってか眼鏡が無ぇ!」
と、トルステンは眼鏡を探している。
「いやぁ、ステン、悪い悪い」
そんな彼に謝るエドガーはそのまま、この連鎖をスタートさせたミコトに文句を一つ。
「ミコ、酷いよ。手を掴まれてたら受け身取れないじゃない」
「転びそうになってもルゥ君が助けてくれるから、大丈夫だ、って思ってんだ!」
舌をぺろりと見せるミコト。
そしてそんな3人に、
「さて、そろそろリツを助けに行くか」
と、エドガーが声をかける。レースは一時中断。仲良しグループでリツカ救出作戦の始まりだ。
《ミコト=S=レグルス、ルドルフ・デネボラ、トルステン=L=ユピテル、エドガー・カリスト、リツカ=R=ウラノス、リタイア!》
●
「愛の為に皆、どいてもらうよ!」
4人がリツカの救出に取り掛かった頃、そう叫びながら由有が突っ込んできた。
まるでショートトラックのように姿勢を低くし、地面を強く蹴りつけて走る由有。
次のカーブも地面に手を添え、安定を図る。が、いかんせん相手が悪かった。凍った地面を強く蹴っても余計に滑るだけ。
「なんで!? ラッツィオの巨大歪虚討伐後の打上中ロッソの弟達の部屋への潜入がダメとでも!? 幾つか機械に細工し歩哨をKO、精力剤と元気になる薬を盛ったスタミナ料理尽くしの弁当持参しただけなのに!?」
ゆっくりと流れる時の中で、由有はそう呟きながらそのままスピンしてコースの外へと吹っ飛んでいった。
あと、由有さんの行いはダメだと思います。
《守原由有、リタイア!》
●
(……去年の反省? ちょいとノンビリし過ぎちまった面はあるかもしれんなぁ……)
そんな事を思いながら走っているのは、ナハティガル。彼はカーブに向かいながら願い事を考えていた。
(強いて言えば、『少しでも多くの歪虚を倒す』位か?)
って、ここで適当に考えるってのはマズく無いか?!
しかし大精霊像への道はドンドン短くなっていく。
「――勝負所を見極めさせて貰うぜ……!」
このカーブを抜ければ、大精霊像まで一直線。そこで一気にスピードを上げて追い抜く。これが彼の作戦だ。そして最後の直線でスピードを上げるためギアアップ、全身全霊を賭けてダッシュし始めた!
地面が凍っている!
滑る!
転倒!
そのままスピンしつつ吹っ飛んで行って由有に衝突、相手はさらにすっ飛んでいった。
《ナハティガル・ハーレイ、リタイア!》
●
「はわっ!?」
やはり凍ったカーブに足を取られ滑っているのは、カール・フォルシアン(ka3702)。だが、何とか踏みとどまると、もう一度走りだす。
「だ、大丈夫ですか!? 無理しないで下さいね!」
コースの外で倒れている由有とナハティガルを心配しつつ、横を走り抜ける。もう体勢は大丈夫。すると余裕が出てきて、何か考えることもできるようになる。
(こちらに来て間もなくて、やたら頑張ろうとして空回りすることが多かったですね……)
と、去年の反省をするカール。
(願い事は……家に帰りたいけど、その為にももっと成長して人の役に立つ医師に近づきたいです!)
そして立派な願い事を思う。あとはゴールに向かうだけ。しかし、余裕があったのが良くなかったのか。
(もっと大人に……し、身長伸びるといいな)
そう、もう一つお願いした瞬間につるり。
「ひゃっ!?」
後ろ向きに倒れそうなのを、腕をぐるぐる回して踏みとどまる、が、踏みとどまりすぎたのかそのまま前のめりに!
「わわわっ……!」
そのまま転んだカールはなんとか受け身、しかし止まらず石畳の上をゴロゴロ転がっていくのであった。
《カール・フォルシアン、リタイア!》
●
(野心は、特に何無いんだけどな)
そんなゴロゴロ転がっているカールの前で、いつの間にかトップに迫る勢いで走っているのは鈴胆 奈月(ka2802)だ。凍ったカーブで滑りそうになったが、とっさの判断で運動強化を自分に掛けたのが上手く出た。
がっつくつもりは無かったが、こうなったら少しぐらい野心が出る。
(行方不明の姉さんの情報を少しでも知りたいな)
そう願いながら走る鈴胆は、ちゃんと去年の反省もする。
(反省点は……協力するだけで、自分から大きく行動を起こさなかった事だな)
が、そのまま余計なことを考えてしまった。
(まあ多少サボったってそれなり活躍できるから、もう少しくらいなら……)
その瞬間、転がってきたカールが足にストライク!
鈴胆はボウリングのピンの如く転倒!
その拍子にスピアガンの弾をぶちまける……って、それは危険だよ!
ついでに自分は防御障壁って、それは酷いよ!
癖で済まされないよ! 踏んだら大怪我だよ! 血が出るよ! 危険危険!
えーっと……負傷者は出なかった、ということで!
《鈴胆奈月、リタイア!》
●
開門の時は大量に居た参加者も、転倒が相次ぎ今や戦線に残っているのはごくわずかだ。
となると、自分のペースで走っていたものが有利になる。
アルファス(ka3312)もそんな一人だった。そんな彼はいつも通り女性装で参加。
「別に心は男性だよ?」
とは、本人談。
「単純に女装して悪戯したり、他人を翻弄するのが楽しい……悪戯と女装はセットな感じなんだよね」
ほうほう、それでどういうことしたのですか?
「女装して他の男性を悪戯で誘惑してみたり、女装を薦めてアブノーマルな道に引っ張りこんだり……現に友達を異性装集合写真に誘ったりしてるし」
クリムゾンウェストにも多様な価値観が存在しますが、皆で楽しんでいるのなら結構なことです!
「今年の目標は個人的にはやっぱりたくさんの知り合いに異性装(クロスドレッサー)の楽しみを。たまには違う自分に変身するのも素敵なものだから」
はたして真面目なのかそうでないのかよくわからない目標をお願いするアルファス。しかし、彼はその後とんでもない願いをしてしまったのだった。
「あと……また悪戯が成功しますように」
その時、鈴胆がバラ撒いたスピアガンの流れ弾が!
アルファスのお尻を直撃!
「はぅぁ……」
思わず漏らした声は、女性そのものだったとか。
もうわかっているとは思いますが、こんな事を願えば天罰が当たります。
《アルファス、リタイア!》
●
大精霊像がグングンと近づいてくる。しかし未だに一位はまりお。こんなに罰当たりなことばかり考えているまりおが一位のままで終わるのか?
いや、ゴール寸前で一気に近づいてきた者がいた! 大柄な体でドタドタと音を立てて米本 剛(ka0320)が走って来る。
自覚している通り少々敏捷性にかける米本だが、真面目に全力全開で走ってきたのが功を奏した。やはり大精霊は行いを見ているようだ。
(人の話をよく聞き、言葉の意味を理解し、場の流れを読み、己の中によく染みこませなさい。これが今年の目標ですね)
しっかり去年の反省も忘れない。
(ハンターとしても自分個人としても楽しい出会いがあります様に……)
その願いも実に真面目だ。
そんな罰当たりなまりおと真面目な米本のマッチレース。あとは最後のスロープのみ。
まずはまりおが駆け上がる!
そして米本も続いて駆け上がる!
しかし、その時米本の足がつるりと滑った!
そのままうつ伏せに転倒し、スロープを滑り落ちていく米本!
嗚呼! やはりまりおの勝利で終わるのか?!
そしてまりおが手を伸ばす。あとは精霊像に触れるのみ!
だが、その時だった。天から降り注ぐ稲妻の様な一撃がまりおに直撃!
結局、後数センチのところでうつぶせに倒れているまりお。まさしく大天罰であった。
《米本剛、超級まりお、リタイア!》
●
「えー、今年の一番福が決まりました」
開門からの一連の流れが終わると、教会の人間が出てくる。一番最初に像に触れた者、つまり大精霊の祝福を受けた者、その幸運にあやかろうと、それ以外の参加者もその者にタッチしていく。
そんな人だかりの真ん中で、記念品と共に一緒にいるのは……まさかのエニグマだった。
開門と同時に蹴飛ばされて星になったエニグマ、それが長い長い空中旅行の末、落ちてきたところがちょうどまりおの頭だったのだ!
エニグマはそのまま跳ね返って大精霊像にタッチ。一方のまりおは頭突きを喰らってKO! これが大天罰の正体だ。
エルバッハが普通にお参りをしている横で、朝早くから走っておねむのエニグマがうとうとしている。
「おっきいくましゃんほしい……」
そんな風に寝言を漏らすエニグマの横には、その体と同じぐらいの大きさの、クマのぬいぐるみが置かれていた。
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開門神事参加者待機所 守原 由有(ka2577) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/22 03:32:43 |
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質問卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/01/18 21:50:28 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/22 07:10:17 |