ゲスト
(ka0000)
【幻想】夢の外で静かに待つ事はできず
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/17 19:00
- 完成日
- 2019/04/23 12:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
部族会議の首長補佐役であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0232)は向こうから押し寄せる影を見つめるファリフに気づく。
「どうかしましたか?」
「敵の動向を見ていただけだよ」
まだ敵は姿形がはっきり見えるというよりも、黒い波のように見えるくらい。
「そうですか」
ヴェルナーもまた、ファリフと同じ方向を見つめていた。
「アクベンスはいますかね。前の侵攻時に随分とダメージを負ったと聞いてますが」
「まだ目撃情報は聞いてないんでしょ?」
彼女の言う通り、アクベンスの目撃情報は入っていない。
「残念ながら。貴女も向こうへ行きたかったのに声をかけてしまい、すみませんね」
現在、アクベンスと盗賊団タットルの次点アケルナルの所在は不明のまま。
恐らくはタットル本拠地にいるのではという推測があるが、本拠地も定かではない。部族のように時期によって移動をしている。
「ヴェルナーさんもそう思うことあるんだ」
にまりと笑うファリフは揶揄うような表情を見せると、ヴェルナーの瞳とぶつかる。
「行きたいと思うのは、アクベンスへの私怨だけじゃないよ。何とかしたいともがく人を支えたいと思ったからだよ。けど、今のボクがするべき事はここで歪虚を食い止め、大首長やハンターの皆が歪虚を止めるのを信じる事だ」
ヴェルナーのお小言が出ないようにファリフは捲し立てる。
当然、本心だ。
「すごいね、ヴェルナーさんは」
ぽつりと呟くファリフの言葉にヴェルナーは目を瞬く。
「信じて待つという判断ができるんだから」
そう言ったファリフは会話を切るように持ち場へと向かった。
視界の端にあった影は一分一秒と広がっていく。
近づいてきている。
彼の王に引かれているのか、歪虚自体の本能かはファリフにはわからない。
わかることはただ一つ。
同じ地に生きる者達を守る為、あの敵は倒すべきだと。
「どうかしましたか?」
「敵の動向を見ていただけだよ」
まだ敵は姿形がはっきり見えるというよりも、黒い波のように見えるくらい。
「そうですか」
ヴェルナーもまた、ファリフと同じ方向を見つめていた。
「アクベンスはいますかね。前の侵攻時に随分とダメージを負ったと聞いてますが」
「まだ目撃情報は聞いてないんでしょ?」
彼女の言う通り、アクベンスの目撃情報は入っていない。
「残念ながら。貴女も向こうへ行きたかったのに声をかけてしまい、すみませんね」
現在、アクベンスと盗賊団タットルの次点アケルナルの所在は不明のまま。
恐らくはタットル本拠地にいるのではという推測があるが、本拠地も定かではない。部族のように時期によって移動をしている。
「ヴェルナーさんもそう思うことあるんだ」
にまりと笑うファリフは揶揄うような表情を見せると、ヴェルナーの瞳とぶつかる。
「行きたいと思うのは、アクベンスへの私怨だけじゃないよ。何とかしたいともがく人を支えたいと思ったからだよ。けど、今のボクがするべき事はここで歪虚を食い止め、大首長やハンターの皆が歪虚を止めるのを信じる事だ」
ヴェルナーのお小言が出ないようにファリフは捲し立てる。
当然、本心だ。
「すごいね、ヴェルナーさんは」
ぽつりと呟くファリフの言葉にヴェルナーは目を瞬く。
「信じて待つという判断ができるんだから」
そう言ったファリフは会話を切るように持ち場へと向かった。
視界の端にあった影は一分一秒と広がっていく。
近づいてきている。
彼の王に引かれているのか、歪虚自体の本能かはファリフにはわからない。
わかることはただ一つ。
同じ地に生きる者達を守る為、あの敵は倒すべきだと。
リプレイ本文
今回の指揮官に値する位置にいるファリフは部族戦士の配置などに自ら走り回っていた。
金の炎のような美しい毛並みのトリシュヴァーナと一緒だと思ったが、ファリフは一人確認に回っている。
「本来、大将が走り回ることはないのじゃが……」
現状を鑑みれば、動いた方が気が紛れる。蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)も同じ考えだ。
「今はこんな状態ですからね……」
眉を顰めるエンバディ(ka7328)は背後の大樹を見やる。
「ファリフ様」
木綿花(ka6927)がファリフの姿を見つけた。彼女は部族戦士との会話を終えてこちらの方へと向かってきていた。
視線は向かってくる敵の方へ投げられており、その表情は冷静……というよりは行き場のない強い感情を抑えているように思える。
「ファリフさん!」
手を振り、こちらへ来てほしいようにディーナ・フェルミ(ka5843)が声をかけた。
声に気づいたファリフはハンター達の姿を見つけると、いつもの笑顔へとなる。
「ごめん、色々と回っていたんだ」
申し訳なさそうにファリフが言えば、蜜鈴が微笑む。
「よい、よい。落ち着かぬのはこちらも同じじゃからのぅ」
今、アフンルパルでは戦わねばならない相手と決死の戦いが行われている。
彼らは退かず、恐れずに戦っている。
外からの援軍を防ぐためには仲間の防衛が必要だ。
「微力ながら、お手伝いいたします」
右手を胸に当て木綿花は微笑む。
「そうよ、一気に倒しちゃいましょ」
茶目っ気たっぷりに片目を瞑るアイラ(ka3941)にファリフは頷く。自身に言い聞かせるように。
「そうだね」
俯いたファリフの表情に気づいたかのように、ディーナが覗き込む。
「これが終わったら、次はアケルナルとアクベンスなの」
彼女の言葉にファリフが反射的に顔を上げる。
「ファリフさんが背を押してくれたおかげで、お肉の精れ……フォニケさんは前に進めそうなの」
これから戦場となるのに、ディーナはふんわりと可愛らしい笑顔を浮かべている。
「全部、そこで精算するの」
ディーナの言葉と拳が前に突き出されると、ファリフは目を見張る。
「うんっ!」
応えるようにファリフも自分の拳をディーナの拳に合わせた。
「フォニケ……ドワーフ工房の?」
瞬きをする蜜鈴は驚いた表情を見せた。
「現在、目撃情報がない歪虚アクベンスは辺境を根城とする盗賊団タットルと同行し、数十年の間、人類側へ害をなしておりました。フォニケ様はアケルナルに部族を滅ぼされ、連れ去られた経緯があったのです」
木綿花が簡潔に説明をすると、蜜鈴は「そうか……」と扇で口元を隠す。
「この地に同胞が仇為すのは耐えれぬな……それが、敵と与しているならば尚更」
目を眇める蜜鈴に対し、エンバディは歪虚と人間が事実上手を組んでいるという事に驚きを隠せないが、高い知能を持つ歪虚ならあり得ると彼は思案する。
「でも、今もボク達にとって大事な共に生きる者達を守らないとならない。だから、ボクはキミ達とここで戦う」
低い声で決意を告げるファリフを心配そうに見つめるのはエステル・ソル(ka3983)だ。
脳裏に思い浮かぶのは誰かの為に無茶をするあの族長。
族長というには守るものが多すぎる彼であるが。
「そうです。ファリフさんも族長さんなんですから、無茶はやめてほしいのです。エステルとの約束です」
小指を差し出すエステルにファリフは眉を八の字にしてしまう。
「しょうがないよ……ボクだって、大首長選で競ったんだから……」
元は同じ人に敬意を持ち、道を違えたことはあった。だが、互いの底にあるのは部族を守りたいという気持ちだと今のファリフは思っている。
「でも、無茶をして、精算を皆にお願いする気はないよ。ボクも必ず行くよ皆と一緒に。だから、皆も無茶したらダメだよ」
そう言ったファリフは小指を出し、エステルと約束の指切りをする。
「あ、でもね。ボクは最近無茶してないよ」
エヘンと胸を張るファリフに「そうだっけ……」とアイラが記憶を巡らせていた。
「だって、皆強いからね。ボクもウカウカしてられないけどね。さぁ、行こう! 歪虚を倒して、アフンルパルからの帰還を待とう!」
ファリフが声を上げると、ハンター達は頷いた。
エンバディは自身が連れてきたワイバーンの首に触れる。
これから戦闘だというのは理解しているのだろう。
「インドラ、行くよ」
エンバディが乗り込んでインドラ声をかけると、翼を大きく広げた。
内臓が持ち上がるような独特な浮遊感、気流の抵抗を割いてワイバーンが上空へと昇っていく。
ある程度飛翔していくと、エンバディはある程度の高度を保つようにインドラに指示をする。
双眼鏡を取り出したエンバディは敵の陣を確認した。
前衛がトロール、後衛にオーガ。
「まるで、トロールを盾にするみたいだ……」
すぐさまエンバディが味方へと魔導スマートフォンで状況を報告する。
上空の報告を聞いたアイラが険しそうな表情をしていた。
「回復する肉の壁ってことかしら……」
俊敏さを鑑みればオーガの方が速いが、トロールを盾にするのは回復能力を見越しての事だろう。
「みたいだね」
アイラと共に動いていたファリフが頷く。
ただ、アクベンスの目撃情報はなかった。今までの動き方からして、最初から隠れていることはない。
「ファリフ君。アクベンスのことだけど、ここにはいないと仮定しよう」
提案を口にするアイラにファリフは目を瞬く。
「うん、ごめん。そうだよね。今は集中して敵を討伐だ」
きっと、奴はアケルナルの所にいるのだろう。
一度深呼吸をしたファリフは集中し、戦闘へ視線を真っすぐ向けた。
先行偵察をしたエンバディの報告を聞いていた蜜鈴は辺境部族の戦士達と行動していた。
「すまぬの……妾はか弱き術者故、猛きその腕で護っておくれ?」
部族戦士の武装をした戦士達に守られるように立つ蜜鈴の服装は洗練されており、目を引く。
「鮮やかなる流星が墜ちるその折までで良いからな」
そう言った蜜鈴の足元に朱金に輝く魔法陣が展開する。炎の様なオーラを吹き上げ龍の姿をした契約精霊の幻影が周囲を渦巻く様に現れては消える。
すぐさま蜜鈴は呪歌を紡ぐ。
「彼方目指す蔓……」
呪歌に反応するように朱金の蝶が姿を現す。
ペガサスの飛行の翼で敵を把握していたアイラはエンバディと連絡確認を取り、ファリフに報告する。
トロールが密集している方向の先にいるのは晦を詠唱中の蜜鈴。
「確か、蜜鈴さんは動けない状態だよね」
部族戦士達に守らせているが、数が多い。彼女の身の安全がとれるかわからない。
「アイラさん!」
「わかってる」
ファリフの呼びかけの意味を理解しているアイラはペガサスを飛翔させ、彼女だけ前進した。
術を行使しようとするアイラの背に白龍にも似た虹色の翼の幻影が広がると、光線がまだ遠くともいえるトロール達の一部が同士討ちを始める。
上空よりエンバディが心配していたのは敵が投射武器を持っていないかということ。
幸い、敵は投射武器は持っていなかった。
内心安堵したエンバディは気を取り直し、仲間にグラビティフォールを発動させる旨を告げてからインドラに声をかける。
「集中するから、お願い」
心得たようにインドラは安定を保ち、エンバディが術を行使しやすいようにバランスを整えた。
トロールが密集している前衛に重力波を発生させた。紫色の光を伴う重力波は味方が巻き込まれないようにしていた。
重力で身を拘束させられたトロールは苦しそうに身を捩り、そのまま四肢が千切られるように歪み、身を拘束されてしまう。
別の部族戦士の部隊と行動しているエステルは部族戦士達に二人一組で陣形を組むようにお願いをしていた。
それに対し、部族戦士達は了承してくれた。
「ハンターであるエステル殿に失礼とは存ずるが、護衛は?」
部族戦士が心配すると、彼女はにこりと微笑む。
「お気遣いありがとうございます。備えはありますので、お互い命は大事にです」
彼女の言葉に部族戦士達は了承した。
覚醒したエステルの青髪は銀の光沢を帯びて、橙の瞳からは金の輝きを放つ。
「まずはグラビティフォールで拘束されている前衛のトロールです。弓兵の皆さん、宜しくお願いします!」
神秘的な音色を帯びたエステルの号令と共に弓兵が構える。
「星の翼を羽ばたかせ、小鳥は空を舞う」
フォースリングを嵌めた手に錬金杖を握り、敵の方角へと向けた。
杖の先端に小鳥の幻影が浮かび上がる。
「一条の流星となりて天を駆けよう≪ステラ・アウィス≫!」
幻影は五匹の小鳥となり、飛び放たれた。
ただの小鳥ではない。敵を貫く力を持つもの。
それが合図となり、弓兵が矢を放つ。前衛のトロールへ命中し、動きが鈍っていく。
上空の気遣いを忘れない木綿花は歩兵を主とする部族戦士の部隊と共にいた。
アヴァだけで上空におり、エステル達の投射攻撃の後、まだ動くトロールに狙いを定めるなり急加速する。
翼を広げて旋回させ、近くにいたトロールの動きを阻害しつつ、狙いを定めたトロールへ龍鉱石の龍爪で一気に斬り裂き、傷口に爪を立てて体重をかけてトロールの身体を動きを阻害させたトロールの方向へ倒した。
別のトロールがアヴァに懐に入るように殴りかかった。鉄の棒がアヴァの腹に入り、木綿花の約束を思い出し、一度上空に逃げた。
「……アヴァ!」
アヴァが攻撃されるのを見た木綿花は白龍の息吹を発動させた。
光線を浴びたトロール達は互いに鉄の棒で殴り合う。
一気にマテリアルを自身に纏わせたアヴァは再び猛スピードでトロールの群れへと滑空する。
歪虚とアヴァがすれ違うと、トロールは衝撃波で複数の巨体が吹き飛んだ。
「今だ! 敵に止めを!」
アヴァが再び上空へ上がると、ファリフが前衛達と共に前に出てトロール達に攻撃を仕掛けた。
「木綿花さん!」
「はい!」
ファリフが木綿花の方へと向かってきた。
「白龍の息吹……だったよね。それを他の陣でやってほしい。トリシュヴァーナに乗って!」
「え、は、はい!?」
もうファリフは降りており、木綿花の腕を取っていた。
「じゃぁ、トリシュ! 木綿花さんを守ってね!」
「……承知」
基本、気難しいと有名なトリシュヴァーナの背に乗った木綿花は苦戦している部族戦士の部隊の方へと向かい、白龍の息吹を発動させる。
余談だが、大幻獣の毛並みはとても艶々ふわふわだった。
一部のトロール達が倒されて行く中、同胞を肉の盾にしていたオーガが姿を現す。
前衛にいたディーナは刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」が持つクロイツハンマーを見つめていた。
柄と合わせると豪奢な十字架に見える戦闘用金槌であるが、ゴーレムが持つ武器というにはあまりに小さい。
だが、見栄えの通り法具として使用可能だ。
色々とツッコミたい所があるディーナであるが、今はそれをしている暇はない。
「ふんふんふん~ フルリカバリーが 使っかえるの~♪」
独特のメロディで鼻歌を歌うディーナは上機嫌だ。
「切り込み隊長でいくの~~」
びしぃっと指をトロールに向けてゴーレムを前進させた。部族戦士の歩兵達との距離を開けないように調節しながら。
ディーナは星神器「ウコンバサラ」を掲げ、セイクリッドフラッシュを発動させた。
光の波動が周囲に広がり、オーガだけではなく、近隣のトロールまで衝撃をくらってしまう。
「殴り合い大好きでオーガに行ったと思われるのは心外なの」
トロールが周囲にいれば、ちゃんと応対することをディーナはどこへともなくアピールしている。
ルクシュヴァリエが先陣を切り、オーガの陣へと入っていく。脚部で敵の足を轢き、力の限り、腕を振り上げてオーガへと振り下ろした。
ぐしゃりとオーガの頭部が押しつぶされて砕かれてしまう。
その様を見た歩兵達が一気に前に出て、トロールとオーガを叩いていく。
奮戦している仲間たちを視界に入れつつ、目の前では自分を守ってくれている部族戦士達がトロールと戦っている。
その間も蜜鈴は動くことなく、呪歌を紡いでいった。
呪歌が重ねられる度に彼女の周囲を舞う蝶の数が輝きが増していっているように見える。
「……頂の光のその先へ……」
自身を守れないほどの集中力と時間をかけ、蜜鈴は通常よりも多くのマテリアルを練り上げた。
前線ではアイラのペガサスによるエナジーレインの効果で犠牲は最小限となっている。
傷ついた戦士も多いが、それ以上の士気があった。
「戦士達よ! 怖れるな! お前達には幻獣の加護が付いている!」
最前線にいるのは辺境にて有力部族であるスコール族の若き長。
彼女が身の丈ほどの大斧を手にし、戦士達を鼓舞している。その間にも敵の動きは止まらず、トロールが背後から若き長ファリフへ凶器を振り下ろす。
ファリフは大斧を構え、その刃で凶器を受けた。
気合を入れると同時に斧を振り上げ、敵の武器を弾いて斧を振り下ろし、トロールの胴体を切断する。
止めの一撃を頭に入れ、ファリフは戦士達の方を向く。
「敵は確実に倒れている! 我々は倒れすことなく敵を倒すぞ!」
戦士達は雄たけびを上げ、敵へと向かっていった。
その様子に安堵したファリフへ別のトロールが向かってくる。
「ファリフ君!」
気づいたアイラが叫ぶと、ファリフが大斧を構えようとした瞬間、金色の炎が彼女の視界を覆う。
トロールとの間に割って入ったトリシュヴァーナの爪がトロールの身体を抉り、体勢を崩して頭を潰した。
「白龍の息吹がトロルのみならず、オーガの陣中も荒らしておる」
「木綿花さんは?」
現在、トリシュヴァーナだけだ。
「持ち場に戻した。無傷だ」
安心したアイラとファリフは更に前進するトロールの方へと向かっていった。
前線のトロールが半分倒された頃、ハンター達に連絡が入った。
「星が降る」
それだけ告げた蜜鈴の言葉が何を意味しているのか理解したハンター達は即座に部族戦士達を後方へと下がらせた。
敵の足止めにエンバディがファイアーボールを投げて味方が退避できるようにする。
炎の壁に歪虚はダメージを負い、トロールは傷ついた部分を能力で回復していく。
敵の回復は痛いが、今は時間を稼ぐのが先決。
「インドラ、一直線に行って旋回。味方の方へ戻るよ」
そう指示したエンバディはできるかぎりファイアーボールを敵に落として、くるりと旋回し、味方の陣へ猛スピードで戻る。
「下がれーーー!」
「下がってください! 味方の攻撃が始まります!」
「下がるのー。願い事をしたら叶うか気になるのー」
「弓兵の皆さんは足止めの矢を撃ってほしいです! 合図に黒鳥を放ちます!」
ハンター達が殿となり、戦士達を下がらせていく。
素早く後ろに下がる仲間を見届ける。
「……皆、下がれよ?」
味方が巻き込まれないように祈りを込め、蜜鈴は艶やかな声で囁く。
「空より堕つる星、願うは彼方の愚者へ降り注ぐ死……」
蜜鈴の詠唱と同時にユグディラの瑠優がタンバリンを縦に持ち、手首を揺らしてシンバル部分を鳴らしてリズムを取って叩く。
先ほど詠唱完了した晦で更に煌めく朱金の蝶達が瑠優が奏でる森の宴の狂詩曲に反応するようにくるくると舞い上がり、火球を形成していく。
「嘆け、叫べ、刹那の瞬きすら無く……炎獄の焔を視よ」
蜜鈴の頭上に三つの火球が浮かび上がった。
昼の空に弧を描くように火球が一つ、また一つ……と流れていく。
敵陣へ落とされた球はまるで幾重にも閉じられた蕾にも思える。
誰も感じる事の出来ない一瞬の静寂の後、敵陣を焼き尽くさんと炎が広がっていた。綻ぶ炎獄の花弁が広範囲の敵を焼き、呑んでいくようにも見えてしまう。
苛烈な術をその眼で見届けた部族戦士のどよめきは感嘆をこめた声だ。
粗方の炎が消えると、再びエンバディがインドラと共に敵の様子を上空より確認する。
眼下の敵は半数以上が倒れ、焼かれていた。
敵のトロールは先ほどの歩兵やハンター達の戦いと蜜鈴のメテオスウォームでほぼ消滅。
残るのはオーガ。中衛より後ろがまだ残っていた。
「オーガの数、少なく見ても約五十!」
エンバディが味方に報告する。
少なく見ても約五十体のオーガが残っている……少なくとも疲労が拭えない人類側はそれが多いか少ないかの判断はつけなかった。
だが、終わりは見えているのだ。
「全員前進!!」
ファリフが叫び、先陣を切る。
前衛の敵は倒されている。
逃がす気はない。
「さぁ、一気に行くぞ! 残りの敵を倒せ! 全ての敵を倒し、アフンルパルで戦う同胞をここで迎えるんだ!」
ファリフがトリシュヴァーナに乗り、部族戦士達をハンター達を奮い立てる。
「援護射撃、お願いします!」
一部の弓兵と歩兵と行動しているエステルが移動を始め、弓兵に声をかけた。
ファリフと共に最前線にいるアイラは近くを飛ぶ鈴蘭型妖精に呼びかけ、コンバートソウルを発動させ、同時にシンクロナイズを使い、他の仲間にもおすそ分けをする。
「皆! 妖精の加護を我々に分け与えられた! 女神が如くの同胞に勝利を持って感謝を返せ!」
おすそ分けに気づいたファリフが言えば、アイラはぎょっとする。
「ファリフ君、何か恥ずかしい……」
「こういうのはノリだって昔シバさんが言ってた」
「もぅ、女神についてきてよね!」
オーガとの会敵まであと少し、アイラはスピードを上げて駆けていく。
前方を走ってくるアイラに気づいたオーガが手にしていた大剣を振り上げる。自身の間合いに入ったアイラ目がけ、剣を振り下ろした。
寸前で身を横に飛んだアイラは着地の反動を使ってオーガの方へ跳んで斧を腕に打ち込んで骨ごと叩き落した。ワイルドラッシュの連撃でそのまま脇腹へ打ち、場を離れる。
「ファリフ君!」
声に反応したファリフは跳躍し、大斧をオーガの首元へ振り下ろして脇下まで斜めに斬り倒した。
「ここにも女神がいたのー」
再びゴーレムを前進させたディーナはまだまだ元気だ。
前進するゴーレムはとても目立ち、複数のオーガはルクシュヴァリエ目がけて走り出す。
その様子に気づいた木綿花は自身と周囲の立ち位置を確認し、錬金杖を掲げる。
マテリアルで術式陣を構築。前方に展開すると、無数の氷柱を出現させた。氷柱は直線状に放たれ、ルクシュヴァリエに襲おうとしたオーガを切り裂いていった。
攻撃を受けたオーガはその身を凍らせ、動きが鈍くなる。
「ありがとなの。いっくよー!」
ディーナの声に呼応し、ゴーレムは動けなくなったオーガへ殴りつけ吹き飛ばしていった。
ペガサスに乗っているエステルは戦闘時間の経過を気にしていた。
体力の問題はあるが、味方の気力も問題だ。
ふと上空を見れば、エンバディ……インドラが射線上空を飛んでいる。
「エンバディさん、眼下の敵にグラビティフォールを撃ってほしいのです。余力はあります?」
上空を見上げながらエステルがエンバディへ頼むと、了解の二つ返事が飛んできた。
インドラが旋回すると、程なくして紫色の光がオーガを包み込んでいく。
光が消えた頃、エステルが号令をかける。
「射撃を開始してください! 小鳥さん、お願いします!」
兵達が弓を上げ、矢を放っていく。矢は小鳥のエスコートで敵へと向かっていく。
グラビティフォールの効力で動けなくなったオーガ達は矢の雨を受けた。
蜜鈴は箒の柄に指を絡め、瑠優と共に箒に乗る。箒が宙に浮き、上昇していけば、長い髪が風に乗って靡く。
「にぁ」
箒にしがみついている瑠優が鳴いた。
「流れる星と共に消えれば良かったものを……」
まだ動いている歪虚を忌々しそうに見つめる蜜鈴。
敵は部族戦士達と交戦していた。
同じ時間を生きる友に下される危害を許すわけにはいかない。
前線では木綿花のドラグーンであるアヴァはオーガの的になっていたが、バレルロールを使って不規則に身体を回転させ、攻撃が入らないように回避していた。
ドラグーンのインドラの疲労に気づいたエンバディは顔を顰める。
「ディープインパクト、行ける?」
エンバディの問いかけにインドラは啼いて一度自陣へと向く。長い付き合い故に「勿論」と言いたげなのは分かった。
「インドラが降りるよ」
味方に警告したエンバディの言葉と同時にインドラは身体に的リアルを纏わせる。
急加速をしたインドラは敵に囲まれている同胞アヴァの方へと向かう。
警告を聞いた木綿花はアヴァにその場を離れてほしいと口笛を吹く。反射的に身を翻したアヴァは一気に急上昇し、場を離れる。
入れ違いに突っ込んできインドラはオーガの群れを突破し、衝撃波で吹き飛ばす。
倒れたオーガに向かってアイラが斧を叩き込んだ。
彼女の後ろを狙い、オーガが剣を振り上げる。
「そーはさせないのー!」
ディーナの声と共に前進しているゴーレムの腕がオーガの首に豪快なラリアットをかます。
別の方向では突っ切りすぎたファリフがオーガと交戦していた。
「退れよ」
上から降る蜜鈴の声にファリフは敵から距離を取る。
雷の種子が芽吹き、幾本もの茨を纏わせ相手へと向かい、茨の雷撃をくらったオーガが倒れた。
箒から降りた瑠優は部族戦士達の方へ行き、げんきににゃ~れとタンバリンを鳴らして励ましている。
「皆には秘密にしておこうぞ?」
にまりと笑う蜜鈴にファリフは礼を言って一度戻った。
逆側では残り少なくなってきたオーガが突進を開始している。
「歩兵の皆さん、気を付けてください!」
エステルが最後のブリザードをオーガへ向けた。ペガサスのパールが傷ついた部族戦士へヒールウィンドを発動させた。
光る風が部族戦士の傷を癒していく。
オーガもブリザードの効力で動きが鈍っているのを見て、歩兵達は一斉に攻撃にかかる。
その後、殆どの歪虚が討伐された事が確認された。
人類側の被害は確かにあれど、少なかったといえる。
次元の狭間『アフンルパル』を繋ぐ大樹は無事だ。
皆、疲労で言葉が出ない。
ただ、戦いの行方を待っていた。
金の炎のような美しい毛並みのトリシュヴァーナと一緒だと思ったが、ファリフは一人確認に回っている。
「本来、大将が走り回ることはないのじゃが……」
現状を鑑みれば、動いた方が気が紛れる。蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)も同じ考えだ。
「今はこんな状態ですからね……」
眉を顰めるエンバディ(ka7328)は背後の大樹を見やる。
「ファリフ様」
木綿花(ka6927)がファリフの姿を見つけた。彼女は部族戦士との会話を終えてこちらの方へと向かってきていた。
視線は向かってくる敵の方へ投げられており、その表情は冷静……というよりは行き場のない強い感情を抑えているように思える。
「ファリフさん!」
手を振り、こちらへ来てほしいようにディーナ・フェルミ(ka5843)が声をかけた。
声に気づいたファリフはハンター達の姿を見つけると、いつもの笑顔へとなる。
「ごめん、色々と回っていたんだ」
申し訳なさそうにファリフが言えば、蜜鈴が微笑む。
「よい、よい。落ち着かぬのはこちらも同じじゃからのぅ」
今、アフンルパルでは戦わねばならない相手と決死の戦いが行われている。
彼らは退かず、恐れずに戦っている。
外からの援軍を防ぐためには仲間の防衛が必要だ。
「微力ながら、お手伝いいたします」
右手を胸に当て木綿花は微笑む。
「そうよ、一気に倒しちゃいましょ」
茶目っ気たっぷりに片目を瞑るアイラ(ka3941)にファリフは頷く。自身に言い聞かせるように。
「そうだね」
俯いたファリフの表情に気づいたかのように、ディーナが覗き込む。
「これが終わったら、次はアケルナルとアクベンスなの」
彼女の言葉にファリフが反射的に顔を上げる。
「ファリフさんが背を押してくれたおかげで、お肉の精れ……フォニケさんは前に進めそうなの」
これから戦場となるのに、ディーナはふんわりと可愛らしい笑顔を浮かべている。
「全部、そこで精算するの」
ディーナの言葉と拳が前に突き出されると、ファリフは目を見張る。
「うんっ!」
応えるようにファリフも自分の拳をディーナの拳に合わせた。
「フォニケ……ドワーフ工房の?」
瞬きをする蜜鈴は驚いた表情を見せた。
「現在、目撃情報がない歪虚アクベンスは辺境を根城とする盗賊団タットルと同行し、数十年の間、人類側へ害をなしておりました。フォニケ様はアケルナルに部族を滅ぼされ、連れ去られた経緯があったのです」
木綿花が簡潔に説明をすると、蜜鈴は「そうか……」と扇で口元を隠す。
「この地に同胞が仇為すのは耐えれぬな……それが、敵と与しているならば尚更」
目を眇める蜜鈴に対し、エンバディは歪虚と人間が事実上手を組んでいるという事に驚きを隠せないが、高い知能を持つ歪虚ならあり得ると彼は思案する。
「でも、今もボク達にとって大事な共に生きる者達を守らないとならない。だから、ボクはキミ達とここで戦う」
低い声で決意を告げるファリフを心配そうに見つめるのはエステル・ソル(ka3983)だ。
脳裏に思い浮かぶのは誰かの為に無茶をするあの族長。
族長というには守るものが多すぎる彼であるが。
「そうです。ファリフさんも族長さんなんですから、無茶はやめてほしいのです。エステルとの約束です」
小指を差し出すエステルにファリフは眉を八の字にしてしまう。
「しょうがないよ……ボクだって、大首長選で競ったんだから……」
元は同じ人に敬意を持ち、道を違えたことはあった。だが、互いの底にあるのは部族を守りたいという気持ちだと今のファリフは思っている。
「でも、無茶をして、精算を皆にお願いする気はないよ。ボクも必ず行くよ皆と一緒に。だから、皆も無茶したらダメだよ」
そう言ったファリフは小指を出し、エステルと約束の指切りをする。
「あ、でもね。ボクは最近無茶してないよ」
エヘンと胸を張るファリフに「そうだっけ……」とアイラが記憶を巡らせていた。
「だって、皆強いからね。ボクもウカウカしてられないけどね。さぁ、行こう! 歪虚を倒して、アフンルパルからの帰還を待とう!」
ファリフが声を上げると、ハンター達は頷いた。
エンバディは自身が連れてきたワイバーンの首に触れる。
これから戦闘だというのは理解しているのだろう。
「インドラ、行くよ」
エンバディが乗り込んでインドラ声をかけると、翼を大きく広げた。
内臓が持ち上がるような独特な浮遊感、気流の抵抗を割いてワイバーンが上空へと昇っていく。
ある程度飛翔していくと、エンバディはある程度の高度を保つようにインドラに指示をする。
双眼鏡を取り出したエンバディは敵の陣を確認した。
前衛がトロール、後衛にオーガ。
「まるで、トロールを盾にするみたいだ……」
すぐさまエンバディが味方へと魔導スマートフォンで状況を報告する。
上空の報告を聞いたアイラが険しそうな表情をしていた。
「回復する肉の壁ってことかしら……」
俊敏さを鑑みればオーガの方が速いが、トロールを盾にするのは回復能力を見越しての事だろう。
「みたいだね」
アイラと共に動いていたファリフが頷く。
ただ、アクベンスの目撃情報はなかった。今までの動き方からして、最初から隠れていることはない。
「ファリフ君。アクベンスのことだけど、ここにはいないと仮定しよう」
提案を口にするアイラにファリフは目を瞬く。
「うん、ごめん。そうだよね。今は集中して敵を討伐だ」
きっと、奴はアケルナルの所にいるのだろう。
一度深呼吸をしたファリフは集中し、戦闘へ視線を真っすぐ向けた。
先行偵察をしたエンバディの報告を聞いていた蜜鈴は辺境部族の戦士達と行動していた。
「すまぬの……妾はか弱き術者故、猛きその腕で護っておくれ?」
部族戦士の武装をした戦士達に守られるように立つ蜜鈴の服装は洗練されており、目を引く。
「鮮やかなる流星が墜ちるその折までで良いからな」
そう言った蜜鈴の足元に朱金に輝く魔法陣が展開する。炎の様なオーラを吹き上げ龍の姿をした契約精霊の幻影が周囲を渦巻く様に現れては消える。
すぐさま蜜鈴は呪歌を紡ぐ。
「彼方目指す蔓……」
呪歌に反応するように朱金の蝶が姿を現す。
ペガサスの飛行の翼で敵を把握していたアイラはエンバディと連絡確認を取り、ファリフに報告する。
トロールが密集している方向の先にいるのは晦を詠唱中の蜜鈴。
「確か、蜜鈴さんは動けない状態だよね」
部族戦士達に守らせているが、数が多い。彼女の身の安全がとれるかわからない。
「アイラさん!」
「わかってる」
ファリフの呼びかけの意味を理解しているアイラはペガサスを飛翔させ、彼女だけ前進した。
術を行使しようとするアイラの背に白龍にも似た虹色の翼の幻影が広がると、光線がまだ遠くともいえるトロール達の一部が同士討ちを始める。
上空よりエンバディが心配していたのは敵が投射武器を持っていないかということ。
幸い、敵は投射武器は持っていなかった。
内心安堵したエンバディは気を取り直し、仲間にグラビティフォールを発動させる旨を告げてからインドラに声をかける。
「集中するから、お願い」
心得たようにインドラは安定を保ち、エンバディが術を行使しやすいようにバランスを整えた。
トロールが密集している前衛に重力波を発生させた。紫色の光を伴う重力波は味方が巻き込まれないようにしていた。
重力で身を拘束させられたトロールは苦しそうに身を捩り、そのまま四肢が千切られるように歪み、身を拘束されてしまう。
別の部族戦士の部隊と行動しているエステルは部族戦士達に二人一組で陣形を組むようにお願いをしていた。
それに対し、部族戦士達は了承してくれた。
「ハンターであるエステル殿に失礼とは存ずるが、護衛は?」
部族戦士が心配すると、彼女はにこりと微笑む。
「お気遣いありがとうございます。備えはありますので、お互い命は大事にです」
彼女の言葉に部族戦士達は了承した。
覚醒したエステルの青髪は銀の光沢を帯びて、橙の瞳からは金の輝きを放つ。
「まずはグラビティフォールで拘束されている前衛のトロールです。弓兵の皆さん、宜しくお願いします!」
神秘的な音色を帯びたエステルの号令と共に弓兵が構える。
「星の翼を羽ばたかせ、小鳥は空を舞う」
フォースリングを嵌めた手に錬金杖を握り、敵の方角へと向けた。
杖の先端に小鳥の幻影が浮かび上がる。
「一条の流星となりて天を駆けよう≪ステラ・アウィス≫!」
幻影は五匹の小鳥となり、飛び放たれた。
ただの小鳥ではない。敵を貫く力を持つもの。
それが合図となり、弓兵が矢を放つ。前衛のトロールへ命中し、動きが鈍っていく。
上空の気遣いを忘れない木綿花は歩兵を主とする部族戦士の部隊と共にいた。
アヴァだけで上空におり、エステル達の投射攻撃の後、まだ動くトロールに狙いを定めるなり急加速する。
翼を広げて旋回させ、近くにいたトロールの動きを阻害しつつ、狙いを定めたトロールへ龍鉱石の龍爪で一気に斬り裂き、傷口に爪を立てて体重をかけてトロールの身体を動きを阻害させたトロールの方向へ倒した。
別のトロールがアヴァに懐に入るように殴りかかった。鉄の棒がアヴァの腹に入り、木綿花の約束を思い出し、一度上空に逃げた。
「……アヴァ!」
アヴァが攻撃されるのを見た木綿花は白龍の息吹を発動させた。
光線を浴びたトロール達は互いに鉄の棒で殴り合う。
一気にマテリアルを自身に纏わせたアヴァは再び猛スピードでトロールの群れへと滑空する。
歪虚とアヴァがすれ違うと、トロールは衝撃波で複数の巨体が吹き飛んだ。
「今だ! 敵に止めを!」
アヴァが再び上空へ上がると、ファリフが前衛達と共に前に出てトロール達に攻撃を仕掛けた。
「木綿花さん!」
「はい!」
ファリフが木綿花の方へと向かってきた。
「白龍の息吹……だったよね。それを他の陣でやってほしい。トリシュヴァーナに乗って!」
「え、は、はい!?」
もうファリフは降りており、木綿花の腕を取っていた。
「じゃぁ、トリシュ! 木綿花さんを守ってね!」
「……承知」
基本、気難しいと有名なトリシュヴァーナの背に乗った木綿花は苦戦している部族戦士の部隊の方へと向かい、白龍の息吹を発動させる。
余談だが、大幻獣の毛並みはとても艶々ふわふわだった。
一部のトロール達が倒されて行く中、同胞を肉の盾にしていたオーガが姿を現す。
前衛にいたディーナは刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」が持つクロイツハンマーを見つめていた。
柄と合わせると豪奢な十字架に見える戦闘用金槌であるが、ゴーレムが持つ武器というにはあまりに小さい。
だが、見栄えの通り法具として使用可能だ。
色々とツッコミたい所があるディーナであるが、今はそれをしている暇はない。
「ふんふんふん~ フルリカバリーが 使っかえるの~♪」
独特のメロディで鼻歌を歌うディーナは上機嫌だ。
「切り込み隊長でいくの~~」
びしぃっと指をトロールに向けてゴーレムを前進させた。部族戦士の歩兵達との距離を開けないように調節しながら。
ディーナは星神器「ウコンバサラ」を掲げ、セイクリッドフラッシュを発動させた。
光の波動が周囲に広がり、オーガだけではなく、近隣のトロールまで衝撃をくらってしまう。
「殴り合い大好きでオーガに行ったと思われるのは心外なの」
トロールが周囲にいれば、ちゃんと応対することをディーナはどこへともなくアピールしている。
ルクシュヴァリエが先陣を切り、オーガの陣へと入っていく。脚部で敵の足を轢き、力の限り、腕を振り上げてオーガへと振り下ろした。
ぐしゃりとオーガの頭部が押しつぶされて砕かれてしまう。
その様を見た歩兵達が一気に前に出て、トロールとオーガを叩いていく。
奮戦している仲間たちを視界に入れつつ、目の前では自分を守ってくれている部族戦士達がトロールと戦っている。
その間も蜜鈴は動くことなく、呪歌を紡いでいった。
呪歌が重ねられる度に彼女の周囲を舞う蝶の数が輝きが増していっているように見える。
「……頂の光のその先へ……」
自身を守れないほどの集中力と時間をかけ、蜜鈴は通常よりも多くのマテリアルを練り上げた。
前線ではアイラのペガサスによるエナジーレインの効果で犠牲は最小限となっている。
傷ついた戦士も多いが、それ以上の士気があった。
「戦士達よ! 怖れるな! お前達には幻獣の加護が付いている!」
最前線にいるのは辺境にて有力部族であるスコール族の若き長。
彼女が身の丈ほどの大斧を手にし、戦士達を鼓舞している。その間にも敵の動きは止まらず、トロールが背後から若き長ファリフへ凶器を振り下ろす。
ファリフは大斧を構え、その刃で凶器を受けた。
気合を入れると同時に斧を振り上げ、敵の武器を弾いて斧を振り下ろし、トロールの胴体を切断する。
止めの一撃を頭に入れ、ファリフは戦士達の方を向く。
「敵は確実に倒れている! 我々は倒れすことなく敵を倒すぞ!」
戦士達は雄たけびを上げ、敵へと向かっていった。
その様子に安堵したファリフへ別のトロールが向かってくる。
「ファリフ君!」
気づいたアイラが叫ぶと、ファリフが大斧を構えようとした瞬間、金色の炎が彼女の視界を覆う。
トロールとの間に割って入ったトリシュヴァーナの爪がトロールの身体を抉り、体勢を崩して頭を潰した。
「白龍の息吹がトロルのみならず、オーガの陣中も荒らしておる」
「木綿花さんは?」
現在、トリシュヴァーナだけだ。
「持ち場に戻した。無傷だ」
安心したアイラとファリフは更に前進するトロールの方へと向かっていった。
前線のトロールが半分倒された頃、ハンター達に連絡が入った。
「星が降る」
それだけ告げた蜜鈴の言葉が何を意味しているのか理解したハンター達は即座に部族戦士達を後方へと下がらせた。
敵の足止めにエンバディがファイアーボールを投げて味方が退避できるようにする。
炎の壁に歪虚はダメージを負い、トロールは傷ついた部分を能力で回復していく。
敵の回復は痛いが、今は時間を稼ぐのが先決。
「インドラ、一直線に行って旋回。味方の方へ戻るよ」
そう指示したエンバディはできるかぎりファイアーボールを敵に落として、くるりと旋回し、味方の陣へ猛スピードで戻る。
「下がれーーー!」
「下がってください! 味方の攻撃が始まります!」
「下がるのー。願い事をしたら叶うか気になるのー」
「弓兵の皆さんは足止めの矢を撃ってほしいです! 合図に黒鳥を放ちます!」
ハンター達が殿となり、戦士達を下がらせていく。
素早く後ろに下がる仲間を見届ける。
「……皆、下がれよ?」
味方が巻き込まれないように祈りを込め、蜜鈴は艶やかな声で囁く。
「空より堕つる星、願うは彼方の愚者へ降り注ぐ死……」
蜜鈴の詠唱と同時にユグディラの瑠優がタンバリンを縦に持ち、手首を揺らしてシンバル部分を鳴らしてリズムを取って叩く。
先ほど詠唱完了した晦で更に煌めく朱金の蝶達が瑠優が奏でる森の宴の狂詩曲に反応するようにくるくると舞い上がり、火球を形成していく。
「嘆け、叫べ、刹那の瞬きすら無く……炎獄の焔を視よ」
蜜鈴の頭上に三つの火球が浮かび上がった。
昼の空に弧を描くように火球が一つ、また一つ……と流れていく。
敵陣へ落とされた球はまるで幾重にも閉じられた蕾にも思える。
誰も感じる事の出来ない一瞬の静寂の後、敵陣を焼き尽くさんと炎が広がっていた。綻ぶ炎獄の花弁が広範囲の敵を焼き、呑んでいくようにも見えてしまう。
苛烈な術をその眼で見届けた部族戦士のどよめきは感嘆をこめた声だ。
粗方の炎が消えると、再びエンバディがインドラと共に敵の様子を上空より確認する。
眼下の敵は半数以上が倒れ、焼かれていた。
敵のトロールは先ほどの歩兵やハンター達の戦いと蜜鈴のメテオスウォームでほぼ消滅。
残るのはオーガ。中衛より後ろがまだ残っていた。
「オーガの数、少なく見ても約五十!」
エンバディが味方に報告する。
少なく見ても約五十体のオーガが残っている……少なくとも疲労が拭えない人類側はそれが多いか少ないかの判断はつけなかった。
だが、終わりは見えているのだ。
「全員前進!!」
ファリフが叫び、先陣を切る。
前衛の敵は倒されている。
逃がす気はない。
「さぁ、一気に行くぞ! 残りの敵を倒せ! 全ての敵を倒し、アフンルパルで戦う同胞をここで迎えるんだ!」
ファリフがトリシュヴァーナに乗り、部族戦士達をハンター達を奮い立てる。
「援護射撃、お願いします!」
一部の弓兵と歩兵と行動しているエステルが移動を始め、弓兵に声をかけた。
ファリフと共に最前線にいるアイラは近くを飛ぶ鈴蘭型妖精に呼びかけ、コンバートソウルを発動させ、同時にシンクロナイズを使い、他の仲間にもおすそ分けをする。
「皆! 妖精の加護を我々に分け与えられた! 女神が如くの同胞に勝利を持って感謝を返せ!」
おすそ分けに気づいたファリフが言えば、アイラはぎょっとする。
「ファリフ君、何か恥ずかしい……」
「こういうのはノリだって昔シバさんが言ってた」
「もぅ、女神についてきてよね!」
オーガとの会敵まであと少し、アイラはスピードを上げて駆けていく。
前方を走ってくるアイラに気づいたオーガが手にしていた大剣を振り上げる。自身の間合いに入ったアイラ目がけ、剣を振り下ろした。
寸前で身を横に飛んだアイラは着地の反動を使ってオーガの方へ跳んで斧を腕に打ち込んで骨ごと叩き落した。ワイルドラッシュの連撃でそのまま脇腹へ打ち、場を離れる。
「ファリフ君!」
声に反応したファリフは跳躍し、大斧をオーガの首元へ振り下ろして脇下まで斜めに斬り倒した。
「ここにも女神がいたのー」
再びゴーレムを前進させたディーナはまだまだ元気だ。
前進するゴーレムはとても目立ち、複数のオーガはルクシュヴァリエ目がけて走り出す。
その様子に気づいた木綿花は自身と周囲の立ち位置を確認し、錬金杖を掲げる。
マテリアルで術式陣を構築。前方に展開すると、無数の氷柱を出現させた。氷柱は直線状に放たれ、ルクシュヴァリエに襲おうとしたオーガを切り裂いていった。
攻撃を受けたオーガはその身を凍らせ、動きが鈍くなる。
「ありがとなの。いっくよー!」
ディーナの声に呼応し、ゴーレムは動けなくなったオーガへ殴りつけ吹き飛ばしていった。
ペガサスに乗っているエステルは戦闘時間の経過を気にしていた。
体力の問題はあるが、味方の気力も問題だ。
ふと上空を見れば、エンバディ……インドラが射線上空を飛んでいる。
「エンバディさん、眼下の敵にグラビティフォールを撃ってほしいのです。余力はあります?」
上空を見上げながらエステルがエンバディへ頼むと、了解の二つ返事が飛んできた。
インドラが旋回すると、程なくして紫色の光がオーガを包み込んでいく。
光が消えた頃、エステルが号令をかける。
「射撃を開始してください! 小鳥さん、お願いします!」
兵達が弓を上げ、矢を放っていく。矢は小鳥のエスコートで敵へと向かっていく。
グラビティフォールの効力で動けなくなったオーガ達は矢の雨を受けた。
蜜鈴は箒の柄に指を絡め、瑠優と共に箒に乗る。箒が宙に浮き、上昇していけば、長い髪が風に乗って靡く。
「にぁ」
箒にしがみついている瑠優が鳴いた。
「流れる星と共に消えれば良かったものを……」
まだ動いている歪虚を忌々しそうに見つめる蜜鈴。
敵は部族戦士達と交戦していた。
同じ時間を生きる友に下される危害を許すわけにはいかない。
前線では木綿花のドラグーンであるアヴァはオーガの的になっていたが、バレルロールを使って不規則に身体を回転させ、攻撃が入らないように回避していた。
ドラグーンのインドラの疲労に気づいたエンバディは顔を顰める。
「ディープインパクト、行ける?」
エンバディの問いかけにインドラは啼いて一度自陣へと向く。長い付き合い故に「勿論」と言いたげなのは分かった。
「インドラが降りるよ」
味方に警告したエンバディの言葉と同時にインドラは身体に的リアルを纏わせる。
急加速をしたインドラは敵に囲まれている同胞アヴァの方へと向かう。
警告を聞いた木綿花はアヴァにその場を離れてほしいと口笛を吹く。反射的に身を翻したアヴァは一気に急上昇し、場を離れる。
入れ違いに突っ込んできインドラはオーガの群れを突破し、衝撃波で吹き飛ばす。
倒れたオーガに向かってアイラが斧を叩き込んだ。
彼女の後ろを狙い、オーガが剣を振り上げる。
「そーはさせないのー!」
ディーナの声と共に前進しているゴーレムの腕がオーガの首に豪快なラリアットをかます。
別の方向では突っ切りすぎたファリフがオーガと交戦していた。
「退れよ」
上から降る蜜鈴の声にファリフは敵から距離を取る。
雷の種子が芽吹き、幾本もの茨を纏わせ相手へと向かい、茨の雷撃をくらったオーガが倒れた。
箒から降りた瑠優は部族戦士達の方へ行き、げんきににゃ~れとタンバリンを鳴らして励ましている。
「皆には秘密にしておこうぞ?」
にまりと笑う蜜鈴にファリフは礼を言って一度戻った。
逆側では残り少なくなってきたオーガが突進を開始している。
「歩兵の皆さん、気を付けてください!」
エステルが最後のブリザードをオーガへ向けた。ペガサスのパールが傷ついた部族戦士へヒールウィンドを発動させた。
光る風が部族戦士の傷を癒していく。
オーガもブリザードの効力で動きが鈍っているのを見て、歩兵達は一斉に攻撃にかかる。
その後、殆どの歪虚が討伐された事が確認された。
人類側の被害は確かにあれど、少なかったといえる。
次元の狭間『アフンルパル』を繋ぐ大樹は無事だ。
皆、疲労で言葉が出ない。
ただ、戦いの行方を待っていた。
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【相談】巨人退治! エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/04/17 16:16:50 |
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最終発言 2019/04/13 08:29:15 |