• 虚動

【虚動】求む。料理とクルセイダー

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2015/01/20 22:00
完成日
2015/01/28 03:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「災厄の十三魔? え?」
 エクラ教司祭がハンターズソサエティ本部で固まっていた。
 今日の朝まで、最も速い連絡手段が騎馬伝令という田舎へ出張中だったのだ。
 CAMの起動実験の詳細も歪虚の襲撃も、転移門でここに来るまで知りようがなかった。
「ご存じなかったのですか?」
 ソサエティの職員が、少量の呆れを含んだ目で小柄なイコニア・カーナボン(kz0040)を見下ろす。
「はい」
 ますます小さくなりながら、羞恥と危機感で混乱する頭を必死に動かす。
「あの、聖堂戦士団が派遣されたりとかしてますか」
「少々お待ちください」
 職員が合図を送る前に、パルムが気を利かして3Dディスプレイを寄越す。
 ディスプレイ上のキーボードを叩いて最近の依頼を検索すると、個々人や小さな組織の動きはあっても聖堂戦士団としての動きは見つからなかった。
「ないようですね」
「っ、ありかございます」
 イコニアはぺこりと頭を下げた。
「これとこれ、写しを頂けますか。できれば日付と……」
 司祭が依頼票の一部を指さす。全て歪虚の情報が載っている部分だ。
 職員は皆まで言わせず、リアルブルー基準で旧式のプリンタで印刷し署名し日付を書き込む。
「ご依頼、お待ちしています」
 イコニアがプリントアウトを受け取り深々と頭を下げ、転移門を使って王国へ戻っていった。

●王国内大規模教会
「司教様!」
 お行儀なにそれ美味しいのという勢いで、大規模聖堂の奥の間のドアをイコニアが蹴り開けた。
「うむ」
 戦の気配に気づいたのだろう。深い笑いじわを持つ司教が、獰猛な笑みを浮かべてうなずいた。
「ここには最低限の人員を残し救援に向かう。指揮は儂がとっ」
 司教の腰から破滅の音が響いた。
「と、ととっ」
 年の割には筋肉を維持した体が壊れた人形のように震える。
 口の端から泡と涎がこぼれているのは、出来れば見なかったことにしたい。
「司教様」
 イコニアはがくりと肩を落として上司の様態を確かめる。
「ヒール効くかな」
 効く気はするけれど、数日間は動かさない方がいい気もする。だって再発したらもっと酷いことになりそうだし。
 診断終え十数秒悩んだ後、イコニアは晴れ晴れとした笑顔で司教に告げた。
「司教様は留守をお願いします。非番のクルセイダーから希望者を集めて行ってきます!」
 自分の分の休暇願を司教の机に載せる。司教は何か言いたげだが痛みが酷く何も言えない。
 イコニアは足取りも軽く人集めに向かう。
 ひょっとしたらヴィオラ・フルブライト(kz0007)様に会えるかも。
 久々の実戦ができるかも。
 そんな不純なことを考えながら、医薬品と人員の手配を手際よく進めるイコニアであった。

●再びソサエティ本部
 職員が報酬の計算をしていると、視界の隅に3Dディスプレイが立ち上がるのが見えた。
 ペンを奥とディスプレイが正面に移動する。
『繋がったかの』
 映ったのは顔見知りのエクラ教司教だった。
 一部拭き損ねた涎がちょっとどころでなく見苦しい。
 司教は咳払いをして、ソサエティ支部から依頼を行った。
『CAM実験場にクルセイダーを10名派遣する。ハンターに道案内と護衛を頼みたい』
「はい」
 職員は別の3Dディスプレイへ入力しながらたずねる。
「現地で解散でしょうか」
『その判断もハンターに任す。こちらには現地がどうなっているかの情報が無い。今回送り込むのは王国在住クルセイダーの中でも戦闘に向いていない者達だ』
 ヒールを使い尽した後は単なる足手まといになるので危険なようならとっとと送り返せ。ということだ。
『イコニア司祭は残すように。1人は参加させねば面倒なことになる』
 面子とかの面で問題があるのだろう。
「承知いたしました」
 職員が宙に浮かんだキーを叩く。新たなディスプレイが浮かび上がり、ハンターの募集が開始されるのだった。

●CAM実験場簡易宿泊施設
「またこれかよ」
「もうやだぁ」
 CAMの警護が、貴族の護衛が、志願して到着した覚醒者が、皆同じレーションを渡され頭を抱えていた。
 不味い。舌が肥えていようとその逆だろうと、とにかく不味いのだ。
「なぁあんた。金払うからなんか旨い物作ってくれよ。金貨でも出すからさぁ」
「私の女子力の無さをなめんな……って泣かないでよ。私リアルブルー出身でこっちの調理器具使えないのよ」
 寝床はプレハブ小屋やそれより少しましな木造建築内の毛布。
 生鮮食品はとうの昔に食い尽くし、残っているのは不味いレーションのみ。
 燃料が十分で水に余裕があるのだけが救いだ。
 クリムゾンウェストの一般的な戦場と比べると上等な部類ではあるのだが、比較対象がひどいだけでこの環境が良いわけではない。
「お前等もう寝ろ。4時間後には歩哨だぞ」
「へーい」
「甘い物欲しい……」
 非覚醒者な料理人は既に後方の安全地帯に送られ、今ここにいるのは貴重な戦力である覚醒者や兵士だけだ。だから衣食住の環境は悪化し続け改善の兆しはない。
「酒くれよぅ」
「ひもじいよぅ」
 人類の戦力は、戦う前に危地に瀕していた。

リプレイ本文

 辺境のさらに僻地。
 水牛が足取り軽く進んでいた。
 牽くのは薄くて軽い割に頑丈なリアルブルー製荷車、その上には昔ながらの木箱の山と、主のドゥアル(ka3746)がいた。
「敵襲?」
 うたた寝から臨戦状態への移行は滑らかだった。
 王国のクルセイダー10人が動揺する。うち1人はドゥアルに数秒遅れで精神的再建を果たし、目を輝かせて賭けだそうとして榊 兵庫(ka0010)に肩を掴まれた。
「司祭殿。優先順位」
 怒りはせずに淡々と正論を口にする。
 赤面し、何度か瞬きして、目礼して同僚達の抑えにまわる。
 そんなイコニア・カーナボン(kz0040)の数倍の速度で戦闘が進んでいる。
 柊 真司(ka0705)とザレム・アズール(ka0878)が拳銃で発砲。猿型の雑魔が脚に孔を開けられ速度を落とす。
 樹導 鈴蘭(ka2851)が駆け出す。馬も牛も連れていない分身軽で速い。曇りのない桃色髪が揺れ、剣が照りつける太陽を反射し、碧と藍の瞳が冷静に雑魔を捉えて逃がさない。
 雑魔が急進する。
 鈴蘭と雑魔の距離が間に0に近づいていく。
 銃弾第二陣。猿の腹から腰をに深い穴が開いた。
「やぁっ」
 鋭いかけ声。切っ先が雑魔の脇腹から入って背骨を割って、心臓を砕いた所で止まった。
 まともな生き物なら返り血まみれ確定だが相手はヴォイドだ。何も残さず薄れて消える。
「ご飯……食材の匂いがするから寄ってきたとか……まさかね?」
 鈴蘭は剣を短剣形態にして鞘に納めて木箱を眺める。
 食欲誘う香りが漂い、イコニアがごくりと生唾を飲み込んだ。


 ドゥアルの覚醒は劇的だった。
 目がパッチリと見開かれるのは手始めに過ぎず、溢れるマテリアルによって金の髪が大きく揺れ、顔の9割を隠していた前髪が左右に分かれてサイドテールを形作る。
「わたくしが」
 イコニアの首を掴んで走る。
 目指すのは最も血の臭いが濃い建物だ。
 目を回す司祭を通行証がわりにして王国出身覚醒者をどかせ、埃をたてないぎりぎりの速度で中に入る。
 痛みに冒された、けれどまだ戦う意思を失っていない10といくつかの目がドゥアルに向けられる。
「こんな怪我をちょちょいのぱっと癒して見せますのよ!」
 声は威勢良く、負傷者を見る目は慈愛と冷たいほどの冷静さを両立している。
 放置すれば後遺症が残りそうな者には即座にヒールを。外傷を癒しても本格的な休養が必要な者には穏やかな言葉をかけて後方行きを納得させ、回復直後に鼻息粗く見回りに行こうとする者には魔導短伝話を貸してやる。
「警護中に歪虚を見つけたら無理せず助けを呼ぶのよ」
 兵士は見事な敬礼をドゥアルに捧げ、軽い足音で宿泊施設の外へ向かった。
 ドゥアルが振り返る。
 イコニア以下のクルセイダー達が、呆然と憧れが混じった顔で彼女を見上げていた。
「怪我人は沢山いるのですから、貴公にも頑張っていただきますのよ」
 イコニアに視線をあわせて言い聞かせる。
 司祭は何度もうなずき、クルセイダー達もドゥアルの指示に従い負傷者のもとへ散らばっていった。


 宿泊施設についた後。真司は荷下ろしを仲間に任せ、宿泊地の中心にある小屋に向かった。
「警備してる奴の中で顔が効きそうな奴らを教えてくれないか? 責任者がいるならそいつを教えてくれ」
 疲れたた顔の男女が困った様子で視線をかわす。
「責任者?」
「誰だっけ?」
「お貴族様の護衛してる人だっけ?」
 小屋の中で、そんなことより美味い物食べたいと顔に書いてある面々が好き勝手に返事をしていた。
 真司は一度大きく息を吐き、テーブルに広げられている地図に近づく。
 使える戦力に守るべき負傷者、歩哨の配置やローテーションが分かり易く書いてある。
「増援が来たって本当か!」
 ドアが開く。見るからに出来る覚醒者が飛び込んでくる。
「クルセイダー12人。ヒールは到着時点で未使用だ」
 真司が必要な情報を渡す。
「助かった」
 握手が交わされ、ようやく事態を理解した兵士達が歓声をあげた。
 が、歓声はすぐに腹の音に取って代わられる。
 新鮮な牛乳と良質の蜂蜜とドライフルーツ、そして少量のブランデーを加えた穀物加工品を焼き上げる、酒好きにも甘味好きにもたまらない香りが漂ってきたのだ。
「グラノーラってご存知です?」
 フレイパン片手にザレムが顔を出すと、覚醒者十数名が野獣の瞳でザレムに向かっていった。
「今日明日の計画を立てる。いいな?」
「ああ」
 暫定責任者は名残惜しげにザレムに視線を向け、すぐに頭を振って思考を切り替え真司と共に新たな警備計画作成にとりかかる。
 ふらりとやって来て私もローテに入れてくださいっ、と目で語る司祭はとりあえず無視だ。
「厳しくないか?」
 元責任者が眉間に皺を寄せる。
「弱いクルセイダーが9人だ」
 知性がある歪虚が気付けばまとまった戦力を送り込むかもしれないと指摘し、真司は真剣な顔で目を向けた。
「人手不足なのは分かるが、きっちり決めようぜ」
 うむとうなずくより早く、小屋の外から馬の嘶きが聞こえた。
 ザレムはフライパンを机に置き、真司は拳銃のリロードを終えて、ほぼ同時にドアから外へと駆けだした。
 わずかに遅れてイコニアが飛び出すと、2人は馬に似た雑魔に向かい駆けていく所だった。
「ここは俺達が抑える。物資と負傷者の護衛を」
 遠くにいる味方には魔導短伝話を使い指示を出す。
 馬型の腹に数個孔を開ける。雑魔が知覚の怪我人に向かうのを見て、銃撃から防御障壁に切り替え被害を局限する。
「落ち着いて」
 ザレムはイコニアに声をかける。
「今ここを守れるのは俺達なのだから、力の使いどころを考えて」
 声かけ、銃撃、雑魔と負傷者の間に割り込むように移動。
 1つ1つは基本的な動作でも、総合するとこれ以上はないほど実践的な動きになる。
「はいっ」
 司祭は己自身に対する不甲斐なさを飲み込んで、雑魔に近い怪我人をヒールで癒す。
「いい判断だ」
 穏やかに言って発砲。
 馬型雑魔の脇から赤黒い体液が噴き出す。
「あの……」
「話は警備のときにでも」
 逃走に移った雑魔を追いかけ容赦なく銃弾を浴びせる。
 イコニアはザレムの背中に見上げるような視線を向けて、再度ヒールを使って癒し続けていた。


 クルセイダーの到着を知って負傷者が集まったからだろうか。
 予想を超える頻度で雑魔による襲撃が発生していた。
 シメオン・E・グリーヴ(ka1285)が盾を地面に向ける。
 這うような高度から犬型雑魔が身を起こし、しかしシメオンの盾に防がれ跳ね返される。
 シメオンの動きは止まらない。
 衝撃も活かして横の動きに変え、聖剣「アルマス」を犬型の首筋に叩き込んだ。
「お見事」
 兵庫が軽く手を叩く。
 剣が首を飛ばすより早く限界を迎え、犬型雑魔は急速に薄れて消えていった。
「無傷は無理だったな」
「すみません」
 シメオンが頭を下げる。
「いや、あなたのやり方は正しい。もっと胸を張るべきだな」
 一度だけマテリアルヒーリングを使い、兵庫はシメオンと共に救護所へ帰還した。
「繁盛してるな」
 シメオンの方針に従い、多少傷が残っても戦闘力を維持できる程度に怪我人を癒した結果、他の宿泊場所から別の怪我人が集まりベッドが埋まってしまっていた。
「もう少しで治りますので」
 シメオンは呻く兵士に声をかけ、最も深刻な負傷者にヒールをかける。
 傷が完全に消えるまで連続行使したいがそうもいかない。
「仲間が暖かい料理を用意してくれます、後ほどそれを頂いて下さいね」
 体のダメージは消えなくても心が無事になるよう、意識して温かい声と言葉を紡ぎ続ける。
 この場にいる怪我人だけでも10人を越えているためヒールだけでは足りない。
 医薬品と包帯を手に取り、シメオンは負傷者の傷の手当を続けていた。
「ふむ」
 兵庫が一度部屋の中を見渡し、軽くうなずいた。
 仲間も王国のクルセイダーも頑張っている。しかし純粋に手が足りない。ヒールも足りない。
「確かにヒールは有効だが、戦場では次々に負傷者が運ばれてきて手が回らないだろう事が多々ある」
 ヒール切れのクルセイダーに救急箱を渡す。
「その為にもそれほどケガの度合いの少ない負傷者への対処の仕方を覚えて置く事は今後の為になると思う」
 クリムゾンウェスト出身のシメオンを示す。
 クルセイダー達は戦場以上に真剣な目でシメオンを凝視し、自分達もヒールを使わない治療を始めるのだった。


 鳥型の雑魔が回転している。
 Jyu=Bee(ka1681)の動きに追いつけず、羽を、嘴を、頭を突き出すたびに体勢を崩して無様に回る。
「無駄無駄無駄無駄!!」
 元気よくJyuが駆け、手当て済みの各国兵士が槍と矢で容赦なく雑魔に穴を開ける。
 圧倒的優勢だ。ただ、ハンターと比べるとこの場にいる兵士達の武器は威力の面で弱く、決着がつくのにはまだ時間がかかるよに見えた。
「エルフ新陰流の技のさえ、貴方達には勿体ないけど見せてあげるわ!!」
 Jyuが抜刀。
 伝統的剣術ではなくアニメや漫画の超人剣士を参考にしたらしい動きで、Jyu級の身体能力があって初めて有効になる動作で鳥の首を狙った。
 刃と首が当たる瞬間、首だけでなく頭まで砕けた。
「ふぅ。つまらないものを切ってしまった」
 Jyu=Beeことジュウベエちゃんにツッコミを入れる者は皆無で、歓声と口笛だけが彼女を迎えていた。
 どーもどーもと歓声に応えつつ元来た道を戻る。
 すると、間違いようのない独特の香りがJyuの鼻をくすぐった。
 厨房のドアを開けて剣を置きエプロンをまとう。
「ふっ、数々の料理漫画を読破し料理の神髄を学んだ、このジュウベエちゃんに、不可能な事はあんまり無い!!」
 ヒール切れの涙目イコニアから下拵え済みタマネギを回収し、煮えたぎる大鍋にシュート!
 特大お玉でかき混ぜ味を確かめ、大きくうなずいてから鍋をイコニアに任せて自分は野菜のもとへ向かう。
 水を流してレタスをちぎり、ナイフで千切り大根とスライストマトを量産してその上へリーブオイルのドレッシング!
 これでカレーと新鮮サラダの完成である。
「同い年か」
 兵庫はJyuとイコニアを順番に見てため息をついた。
 一定の質を保ったまま100人超の料理をつくる剣士と雑な男料理以下しか作れない司祭。女子力比較では巨像と蟻だった。
「戦場での楽しみと言ったら、まずは食い物だから、な」
 釜から大鍋を下ろして蓋を開ける。
 白い蒸気とほのかな甘さが溢れ、白い飯が皆の食欲をかき立てた。
 建物の外から数十の気配が近づいてくる。カレーを知る者も知らない者も香りに惹かれて集まって来たらしい。
「そこに並ぶ!」
 Jyuがイコニアを使って食器に盛る度に、料理が兵の腹に消えていく。
「凄いことになっていますね」
 シメオンは厨房に入れなかった。
 樹導が担当予定のはずの、芋羊羹作りの手伝いと見学をするつもりだったのだが、泣きながらカレーを食う兵士達が邪魔で近づけない。
「こっち、です」
 隣の建物の窓が開いて鈴蘭の声がシメオンを導いた。
「お邪魔しま」
 一歩入った時点で回れ右したくなった。
 数人の女性覚醒者が、鈴蘭の指揮下でせっせと芋をふかしたり茹でたり煮詰めたりしている。
 全員に、凄まじすぎる気迫がみなぎっていた。
「一体これは」
 女性達を良く見て、シメオンは困惑した。
 甘味に飢えている割にはつまみ食いの気配はない。
「あの」
 樹導が上目遣いにシメオンを見る。彼女の手元には美味しく冷えて固まった羊羹があった。
「手伝います」
 女性陣の間をすり抜け樹導の側へ近づいて、樹導の手を凝視する。
 多少の緊張はあっても腕が鈍るほどではない。羊羹に包丁を入れ、一口大に切っていく。
「なるほど」
 シメオンは目を見張った。
 羊羹の断面は均一ではない。
 異なる堅さの芋を使うことで、舌を飽きさせない工夫が出来ていた。完成品がこれだけ見事だから、完成するまでつまみ食いされないのだろう。
 シメオンが皿を並べる。樹導が精一杯お洒落に見えるよう、羊羹を2切れずつ載せていく。
「皆さん試食をお願いします」
 小屋の空気が戦場以上に緊張し、甘味に飢えた女達がゆっくりと近づいてきた。


 治療、警備の一部肩代わり、カレー、芋羊羹に様々な料理。
 嵐のようなイベント群が兵士の心身を回復させ、一時は危険なほど落ち込んだ士気も大いに盛り上がっていた。
「良いことだ」
 ルドガー・フィン・ガーランド(ka3876)は、夜間の巡回を続けながら穏やかに微笑んだ。
 途中、誰かから差しいれされたらしい煙草を吸っている者が複数、同じく酒を飲んで騒いでいるのも複数遭遇する。
 足が止まる。松明を掲げる。
「窯か」
 厨房にあるものと同程度の、本格的な窯が設置されていた。
「お疲れ様ッス! ルドガーさん、次俺等の担当なんで」
 若い兵士の2人組がやって来る。
 ルドガーは静かにうなずいて、一度厨房に赴き目当ての物をとってきた。
 薪を積んで火をつけて、拳4つ分はある肉に鉄串を貫通させ、釜の近くに刺す。
 肉は炎に照らされて艶めかしく色づいている。予め塩コショウと自家製のタレで良く味を染みこませていたので、焼き上がる前から暴力的に食欲を刺激する。
「うぉ」
「る、ルドガー、さん」
 兵士2人組の脚が動かない。
 カレーを腹一杯食べ、その上芋羊羹も堪能したというのに、若く逞しい体は短時間で消化しきってしまったらしい。
 ルドガーはナイフを取り出す。
 肉の表面を削ってくるりと巻いて、小さな串に刺して1本ずつ渡す。
 兵士達が慌てて涎を拭う。肉は脂でてらてらと光っている。串1つだけでパンや酒が幾らでも食えそうだ。
「休憩に来まし……たっ!?」
 身分証を掲げて近づいて来た女性兵士が、魅惑の肉に気付いて硬直する。
「鬼、悪魔っ」
 この時間に食べれば太る。油もたっぷりなので少量でも間違いなく太る。
 ルドガーは罵声を礼儀正しく無視し、肉の向きを定期的に変え、十分火が通ったと判断して大皿の上に下ろす。
「もう少し、濃い方がいいかな……?」
 たっぷりと塩を加えて完成だ。
「これをテーブルに持って行くといい。歩きながら食べても構わないぞ」
 肉塊1つを4から5等分に切り分け、気付いて寄ってきた老若男女に配る。
「非常食用の兵糧では何かと物足りないだろう。ほら、がっつりとした肉を食って備えろ」
 肉は、最良のエールであった。


 翌朝。ハンター達は食料と医薬品を残して帰路につこうとしていた。
「次に会う時は手料理食べさせてくれよ」
 ザレムがにこりと笑う。
 少女司祭が頭を抱え、すっかり元気になった兵士達が大声で笑う。
「ありがとうございました」
「勝利の報せを届けてやるぜ!」
 各国から集まった兵士に覚醒者達が、皆笑顔でハンターを見送るのだった。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 護るべきを識る者
    シメオン・E・グリーヴ(ka1285
    人間(紅)|15才|男性|聖導士
  • Beeの一族
    Jyu=Bee(ka1681
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 世界の北方で愛を叫ぶ
    樹導 鈴蘭(ka2851
    人間(紅)|14才|男性|機導師
  • 寝具は相棒
    ドゥアル(ka3746
    エルフ|27才|女性|聖導士

  • ルドガー・フィン・ガーランド(ka3876
    人間(紅)|21才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
榊 兵庫(ka0010
人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/01/20 12:18:38
アイコン 質問卓
榊 兵庫(ka0010
人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/01/20 01:03:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/18 22:02:38