ゲスト
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思い出を教えて
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~9人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/25 15:00
- 完成日
- 2019/04/30 22:48
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
きょうもまた、ひとりぼっち。
おとうさんは、ハンターだから、いつもいそがしいってお出かけしちゃう。
おかあさんは、あたしが小さい頃に、歪虚に殺されちゃった。
おかあさんもハンターだったんだって、おとうさんが前にいってた。ハンターだから、うんわるく? 歪虚に出会ったときに、あたしをかばって……死んじゃったの。
だから、あたしはハンターはおうえんするけど、でもちょっとこわい。
おとうさんもおかあさんも、ハンターだし、おうえんするよ?
でも、ハンターだから、あたしはいつもひとりぼっちなの。
おまえはからだがよわいだろうからって、おうちにひとりぼっちでまたされる。
もしおとうさんも、おおきな事故とかで、なにかあったらどうしよう……
だから、ハンターがちょっぴりこわいんだ。
●
「じつはですね、ハンターオフィスにこんな手紙が届きました」
オペレーターの少女は、そういって手紙の説明をする。
差出人はニーナという八歳の少女。
両親ともにハンターだが、母親は歪虚に遭遇した際にニーナを庇い死亡。父親は腕利きと言うことらしく、各地を飛び回らねばならないのだという。
「むかしはニーナ本人も、ハンターになりたいと思っていたらしいなのですが……適正というか、そう言うものにあまり恵まれていないのと、まだ幼いのとで、今はほとんどの日を家で留守番しているんだそうです。もともと身体も強くないとかで、学校にもあまり通えていないそうで。それに……ハンターが危険と隣り合わせの仕事というのを知っているので、恐ろしいと思う部分もあるらしいです」
窓の外の景色をあこがれる、そんな毎日。家のことはハウスキーパーなどに任せているらしいが、普段は一人、ベッドに横になっている少女。その図は、想像に易かった。
「そんな状態で、あまり友達もいないと言うことなので……今回、このニーナちゃんにちょっとしたお話をしてくださる方を募集しているんです」
ニーナは、歪虚がこわい。だが、それ以上にハンターというものがこわい。
ハンターは、彼女の大切なものを横取りしてしまうから。
「各所で大規模な戦闘も起きているさなかに、こういう依頼は申し訳ないと思うのですが……ちょっとした息抜きと思って、ハンターの仕事での思い出などを語ってくださると、ニーナちゃんの気持ち的にも、少し晴れやかになると思うんです。お願いできませんか」
オペレーターはそういうと、深々と頭を下げた。
きょうもまた、ひとりぼっち。
おとうさんは、ハンターだから、いつもいそがしいってお出かけしちゃう。
おかあさんは、あたしが小さい頃に、歪虚に殺されちゃった。
おかあさんもハンターだったんだって、おとうさんが前にいってた。ハンターだから、うんわるく? 歪虚に出会ったときに、あたしをかばって……死んじゃったの。
だから、あたしはハンターはおうえんするけど、でもちょっとこわい。
おとうさんもおかあさんも、ハンターだし、おうえんするよ?
でも、ハンターだから、あたしはいつもひとりぼっちなの。
おまえはからだがよわいだろうからって、おうちにひとりぼっちでまたされる。
もしおとうさんも、おおきな事故とかで、なにかあったらどうしよう……
だから、ハンターがちょっぴりこわいんだ。
●
「じつはですね、ハンターオフィスにこんな手紙が届きました」
オペレーターの少女は、そういって手紙の説明をする。
差出人はニーナという八歳の少女。
両親ともにハンターだが、母親は歪虚に遭遇した際にニーナを庇い死亡。父親は腕利きと言うことらしく、各地を飛び回らねばならないのだという。
「むかしはニーナ本人も、ハンターになりたいと思っていたらしいなのですが……適正というか、そう言うものにあまり恵まれていないのと、まだ幼いのとで、今はほとんどの日を家で留守番しているんだそうです。もともと身体も強くないとかで、学校にもあまり通えていないそうで。それに……ハンターが危険と隣り合わせの仕事というのを知っているので、恐ろしいと思う部分もあるらしいです」
窓の外の景色をあこがれる、そんな毎日。家のことはハウスキーパーなどに任せているらしいが、普段は一人、ベッドに横になっている少女。その図は、想像に易かった。
「そんな状態で、あまり友達もいないと言うことなので……今回、このニーナちゃんにちょっとしたお話をしてくださる方を募集しているんです」
ニーナは、歪虚がこわい。だが、それ以上にハンターというものがこわい。
ハンターは、彼女の大切なものを横取りしてしまうから。
「各所で大規模な戦闘も起きているさなかに、こういう依頼は申し訳ないと思うのですが……ちょっとした息抜きと思って、ハンターの仕事での思い出などを語ってくださると、ニーナちゃんの気持ち的にも、少し晴れやかになると思うんです。お願いできませんか」
オペレーターはそういうと、深々と頭を下げた。
リプレイ本文
●
(俺も早くに結婚していれば、この年代の子どもを抱えていてもおかしくない歳か……)
そんなことをしみじみ考えるのはGacrux(ka2726)。依頼人の少女・ニーナの父は彼らと同じくハンターだという。病弱な子をおいて戦いに赴くのは、経済的な事情などもあるのかもしれない。無論、なにかあったときの為の対策はしてあるとは思うが。
ハンターという存在が怖いが、ハンターに頼らざるを得ない現実は荒療治か、いやそれともそんな事情故に自分たちの仕事といえるか。レイア・アローネ(ka4082)は考える。
(ハンターを怖がられるのは構わないが、それで父親との心まで離れてしまいそうならば……何とかしなくてはな)
子どもの心に傷をつけたくないのは、誰もが同じなのだから。
(きっとニーナにとっては、強いパパとママは自慢の両親なのかな)
白樺(ka4596)も考える。確かにハンターに対する感情は、複雑だ。しかしそれは悲しいと言うより寂しい……。そして同時に、可哀想とは思われたくないに違いない。
そんな中、宵待 サクラ(ka5561)はリアルブルーでときおり取り沙汰されていたニュースの話題を思い出していた。
(……そう言えばここ、ネグレクトの概念自体がまだなかったかあ)
――ネグレクト、育児放棄。話を聞いた状況は、確かにそう受け取られて仕方のないものだ。しかし、それが事実かどうか、そしてそれをどう受け取るかはなんにせよ話を聞かないと始まらない。
集った九人のハンターたちは、それぞれの思いを胸に、目的地であるニーナの家へと向かうのであった。
●
リゼリオの外れ、閑静な住宅地に、ニーナの家はあった。
こぢんまりとした作りの家は、少女が一人で住まうにはそれでも少し大きめで、確かにこれでは少し寂しい気持ちになるのではないかという印象を抱かせる。
「お待ちしていました」
その家で普段ニーナの世話をしていると言う女性は、そう言って頭を下げた。医療の心得もあると言うことで、彼女の父親に見込まれたのだという。
「ニーナは、二階の部屋で待っています。昨日まで体調がまた優れなかったので……あまり刺激するようなことは控えてくださいね」
そう言われ、そっと少女の待つ部屋に向かう。ドアを軽くノックすれば、小さな咳き込みと、どうぞ、とささやく声。
少女は大きめの椅子に座り、初夏を迎える季節に相応しい、白い長袖のワンピースを纏って、薄手のブランケットを膝に乗せていた。長いブロンドヘアに整った顔立ち。なかなかの美少女だが、顔色は青白く、病弱というのは話の通りらしい。
「ニーナです。きょうはありがとうございます」
礼儀作法もなかなかしっかりしている。普段親がいないぶん、大人びた雰囲気もあるのかもしれない。
「ニーナちゃん、お手紙ありがとう。大事に読ませてもらったわ」
そう言いながら飲み物とスコーンを見せたのは、リアリュール(ka2003)。ふわりとした雰囲気のエルフの少女は微笑んで、緊張をほぐすようにスコーンをそっとすすめた。
「今日はよろしくね。少しまだ傷が癒えきっていないから申し訳ないけれど……」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は腰を少しかがめ、視線を合わせるようにしながら笑いかけた。今回、別の依頼で受けた傷が残っているのはアルトとレイア。まだ本調子ではないが、それでも少女を元気づけたいという気持ちは二人とも大きい。
クッキーを持ってきた白樺もそれをみんなに勧めながら、ちょっとした昼下がりのティータイムだ。
せっかくなら、と、普段勉強に使っているというノートも見せてもらうと、平均的な同年代よりは勉強の進みも早そうだ。頭の回転のよい子なのだろう。……だからこそ、一人という時間の寂しさを、いっそう感じてしまうのかもしれないが。
それではそろそろ、本題。
少女の方も心が少しずつほぐれてきているようだし、話を始めようか。
●
「といっても、まず残念なお知らせですけれど……血湧き肉躍るような、大冒険譚はないです。僕自身、強くないので……そういう依頼とは無縁、なんですよね」
そう語りはじめるのは、天央 観智(ka0896)。どちらかと言えば学者肌の彼は、戦闘の依頼よりも調査の依頼などに赴くことが多かったのだと前置きをする。
「それはそれとして、ニーナさんって、精霊さんとかご存じですか? 僕は、こちらに転移してくるまで、魔法などとは無縁でしたし、精霊も架空の存在と思っていたんです。まぁ……魔法と本格的な接点を持ったのは、ハンターになった頃と同時ですけれど」
リアルブルーには精霊や魔法の概念は殆ど失われている。クリムゾンウェストは、そう言う意味では興味深い場所だ。精霊などの概念が、まだ今も息づいているのだから。
ニーナは小さく頷いてみせる。
「おかあさんも……魔術師だったから。いろいろ、教えてくれたの。精霊さんは、見えなくてもそばにいるのよって」
その言葉を聞いて、観智も微笑んだ。
「そうでしたか。……最近は、精霊さんたちの住む世界……レイヤーと、人の暮らす世界……レイヤーの境界が薄くなってきた、らしいので……覚醒者にならなくても、精霊さんとの邂逅は、なくもないみたいですけれど……それでもやっぱり、ああいう体験は、貴重で不思議、だとは思いますね」
世界と世界の境界線。それはまだ幼子には難しい話かもしれない。それでも、覚醒者にならずとも――という言葉は魅力的だ。ニーナは目を輝かせて、話をもっと聞きたいというように身を乗り出した。――つかみはよいようだ。
「私もね、父や兄がハンターだったから、帰る日をいつも数えて待ってた。でもあるとき、お兄ちゃんはお迎えの日にも帰ってこなくて……でもどうにもならないでしょ? だから私が、って出てきたの。ハンターになる為に」
リアリュールは自分がハンターになった経緯をかいつまんで説明する。ただ待ち続けるだけでなく、自分から歩み出すのは人生でも大切なことだ。そう思いながら。
「ニーナちゃんは、お父さんに仕事の話を聞いたことがある?」
「おとうさんは、あんまりはなしてくれない……。おとうさん、わたしのことすごいしんぱいしてるの。ハンターのおしごとはきけんだから、そういうはなし、してくれないの」
どうやら、このニーナの父親は育児を放棄していると言うよりも、過保護がすぎるパターンらしい。幼い娘を危険に晒したくない、母親の死のことを思い出させたくない――思い出せば、心の奥の傷を晒してしまうかもしれないから。そう言う意味では、彼女の父親の選択はあながち間違いでもないのだろう。
「もちろんハンターの仕事も歪虚退治ばっかじゃなくて……私の初めての仕事は猫探しだったし、ほら、これはご縁のあった精霊様がたから戴いた大切な宝物なの」
つけていた花雫のペンダントを見せて微笑む。
「色んな人に出会ったり、そんな人の心を繋ぐお手伝いもハンターの仕事。ハンターだから逢えたんだと思うの……もちろん、ニーナちゃんにも」
柔らかなその微笑みは、柔らかな陽光を思い起こさせた。
「そうだね。お姉さんも、ハンターはひとを笑顔にするのが仕事だと思っている。歪虚と戦うのも目的じゃなくて、その手段」
アルトも思い出すのは初めての依頼。可愛らしいおばあさんに冒険譚を聞かせることだった。色々あったが、最後にはまた聞かせてほしいと笑顔で別れたのを今も思い出せる。
「他にも捨て猫の里親捜しや山の中で育ちすぎた羊の毛刈り、キノコ狩りとか……変わったのだと、一騎打ちの模擬戦で勝ったらあなたの告白を受けますと言われて、九十九回負けたお兄さんを鍛えるのとかね?」
コミカルとも受け取れる依頼の内容に、クスッと少女が笑う。
「そう。今のニーナちゃんと同じで、みんな終わったあとには笑ってくれたと思う。……ハンターっていうのは、困っているひとを、なにか助けてほしいひとを、笑顔になるのをお手伝いする仕事。きっとお父さんもそう頑張っているんだよ。でも、ニーナちゃんの側にももっといてほしいよね。それは伝えてあげる」
アルトはそう言いながらパチンとウィンクして見せた。それを引き継ぐように、レイアも言葉を続ける。
「……そうだよな、ハンターはあぶないしこわい仕事もある。何をかくそうおねえさんも、ハンターもぼいどもこわいんだ」
レイアも目線をニーナに合わせるようにかがみ込んで。
「わるものも、おしごとしてるのも、ともだちを守れなかったときのことを思うのも、こわい。でも、ニーナみたいな子が泣いちゃうのが、いちばんこわい。だから泣かせないようにがんばれるんだ。そうなるといちばんつよいのはニーナになるな。あれ? なんだ、それなら何もこわがることはないんじゃないか?」
穏やかな口調でそう言い聞かせると、ニーナはそんなことない、と言うように目を丸くさせる。
――そう、みんな君の為に戦っている。離れていくんじゃなくて、側にいるために。押しつけるつもりはないから言葉にこそしないが、そんな思いをこめて。
悪くない歪虚にあったことがないからわからないの、というのは白樺。
「……シロね、すっごく強くて尊敬してたハンターがいたの、でもその人も歪虚と喧嘩して帰ってこなかった……ハンターにならなかったら、連れて行かれなかったのかな? 今でもシロの側にいてくれたのかな? いっぱいいっぱい考えたけどね、あの人がハンターじゃなかったらシロはあの人に出会えなかった……」
言いながら、今度は手にした写真などを見せる。
「ハンターのお仕事で手伝ったお店でもらったお写真とコースター。帝国の公園には、お日様の精霊がいて……シロの大好きな人なの。ニーナみたいに悲しい気持ちになっちゃう子が減るように、笑顔いっぱいになるようにって……取り上げちゃうためにハンターになったんじゃないの。一つでも多くの幸せを返してあげたくて、ハンターになったの」
だから、シロもハンターだけど頑張るから、お友達になってくれる?
おそるおそる尋ねれば、おっとり少女は頷いた。
手にリュートを携えたユメリア(ka7010)は吟遊詩人。挨拶代わりにと口を開けば、穏やかな歌のような言葉がこぼれ落ちる。
「私は弱い人でした。誰かに近づくのが怖かった。傷つけるのも、傷つけられるのも怖くて、仲良くなるのも……怖くて。だから距離を置いて、歌うことばかりに徹していて。皆が笑顔になれるその瞬間が、幸せでした」
ユメリアはそこでいったん言葉を切る。
「でも素敵な人と出会えました。その人はとても強く優しく、人のために全力を尽くせる人。可憐な笑顔で話してくれるだけで、幸せでした。でもその人は強くて、私の手の届かないところで世界を護る戦いに挑む。……そのときの私の気持ちは、あなたと同じなんです。だから、私は強くなろうと決心しました。その人にずっといてほしいなんて願ったら、その人の心を殺してしまうから。だから私が変わろうと」
穏やかな、しかしどこか意志の強さも感じられる瞳。
「怖いは、それでもなお、と勇気となる種。寂しいは、自分から可能性を作る希望のかけら……私がついている、あなたのことを歌って、ここにいることを知らせるから」
ミア(ka7035)は、鬼の少女。「こんにちはニャス」と独特な挨拶をしてから、話を始める。
「ミアはね、血の繋がった家族がいないんニャス。だからずっと独りぼっちだった……そう思ってた。でもとあるサーカスの依頼に入って、色んな人に出会って……変わっていったニャス。言葉を交わして、一緒に遊んで。時には背中をあわせて戦って……楽しいばかりじゃないニャス、犬にかまれたりとか、ちょっと怖いこととか、あとは―……大切なお友達が苦しい思いしたり……でも、同じ時間をただ過ごすんじゃニャく、貴重な時間だから、絆が深まるのを感じるニャス。不思議ニャスね、いまは一人になることはあっても『独り』を感じることが殆どないんニャス」
楽しそうに話すミアは、笑顔。ニーナも、つられて笑顔。
「ミアは大切なものを横取りされないように、何より大好きな人たちが――家族が、大事なものを横取りされて悲しまないように、ミアは戦い続けるニャス」
ニーナちゃんのお父さんも、きっとそうなんじゃないかニャ?
見つめる瞳は心を写すよう。ニーナはこくんと頷いた。
Gacruxも、静かな口調で紡ぐ。
「歪虚を恐れているのはハンターも同じだ」
人を絶望に陥れ、ともすれば引きずり込む、敵。
「そう考えていたが、今は考え方が変わりました。人が絶望する以上に歪虚は絶望している……」
生者を引きずり込もうとするのは、根底に悲鳴があったのだろう、と。それも、彼が依頼を重ねた上での物語があってこそだ。
「何故ハンターになりたいのですか?」
Gacruxは問う。
命のやりとりをするハンター。時には心を持つが故、葛藤を背負い、心に傷を負うこともある。それはその後の人生に影響を与えかねない、深いものであることも多い。
「……だから、あまり勧められる職ではないと思っていますがね。父親も、あなたのことを大切に思っていますよ。だって大切な宝物なんですから……だからきっと頑張れていると思うんです」
違いますか? いや、きっと違わない。
柴犬の太郎と次郎と一緒に、サクラはにっこり。
「私がハンターになったのは、柴犬千匹牧場を作りたかったから。やっと三百八十六匹。先が長いよー。犬がそれだけいるから依頼料はみんなのご飯や借地代で消えちゃうね。でもこの子たちを見てるだけでご飯三杯は行ける」
サクラがおどけた様子で言えば、皆笑みを浮かべた。
「最近は同盟の聖堂士学校でお手伝いが多いかな。精霊様のいる丘や、学生も同じくらいの子だし、一般向けの学科もあるし……友達が増えたら、きっと楽しいよ?」
彼女の父が過保護故の行動なのだとしたら、きっとこのくらいは許されるだろう。それでもまあ、サクラとしては父親には言いたいことがあるが……それははじめに思ったよりも穏やかなものでも良さそうだ。
●
ハンターたちが帰ってから、少し疲れた少女は眠りにつく。
きっとそれは、穏やかでやさしい夢に違いない。
後日、ニーナの父から届いた手紙には、感謝の言葉とともに娘を思って依頼の傾向を少し変えた旨が添えられていた。
少女の小さな思いが、父親も動かしたのだろう。
二人分のありがとうが、込められていた。
(俺も早くに結婚していれば、この年代の子どもを抱えていてもおかしくない歳か……)
そんなことをしみじみ考えるのはGacrux(ka2726)。依頼人の少女・ニーナの父は彼らと同じくハンターだという。病弱な子をおいて戦いに赴くのは、経済的な事情などもあるのかもしれない。無論、なにかあったときの為の対策はしてあるとは思うが。
ハンターという存在が怖いが、ハンターに頼らざるを得ない現実は荒療治か、いやそれともそんな事情故に自分たちの仕事といえるか。レイア・アローネ(ka4082)は考える。
(ハンターを怖がられるのは構わないが、それで父親との心まで離れてしまいそうならば……何とかしなくてはな)
子どもの心に傷をつけたくないのは、誰もが同じなのだから。
(きっとニーナにとっては、強いパパとママは自慢の両親なのかな)
白樺(ka4596)も考える。確かにハンターに対する感情は、複雑だ。しかしそれは悲しいと言うより寂しい……。そして同時に、可哀想とは思われたくないに違いない。
そんな中、宵待 サクラ(ka5561)はリアルブルーでときおり取り沙汰されていたニュースの話題を思い出していた。
(……そう言えばここ、ネグレクトの概念自体がまだなかったかあ)
――ネグレクト、育児放棄。話を聞いた状況は、確かにそう受け取られて仕方のないものだ。しかし、それが事実かどうか、そしてそれをどう受け取るかはなんにせよ話を聞かないと始まらない。
集った九人のハンターたちは、それぞれの思いを胸に、目的地であるニーナの家へと向かうのであった。
●
リゼリオの外れ、閑静な住宅地に、ニーナの家はあった。
こぢんまりとした作りの家は、少女が一人で住まうにはそれでも少し大きめで、確かにこれでは少し寂しい気持ちになるのではないかという印象を抱かせる。
「お待ちしていました」
その家で普段ニーナの世話をしていると言う女性は、そう言って頭を下げた。医療の心得もあると言うことで、彼女の父親に見込まれたのだという。
「ニーナは、二階の部屋で待っています。昨日まで体調がまた優れなかったので……あまり刺激するようなことは控えてくださいね」
そう言われ、そっと少女の待つ部屋に向かう。ドアを軽くノックすれば、小さな咳き込みと、どうぞ、とささやく声。
少女は大きめの椅子に座り、初夏を迎える季節に相応しい、白い長袖のワンピースを纏って、薄手のブランケットを膝に乗せていた。長いブロンドヘアに整った顔立ち。なかなかの美少女だが、顔色は青白く、病弱というのは話の通りらしい。
「ニーナです。きょうはありがとうございます」
礼儀作法もなかなかしっかりしている。普段親がいないぶん、大人びた雰囲気もあるのかもしれない。
「ニーナちゃん、お手紙ありがとう。大事に読ませてもらったわ」
そう言いながら飲み物とスコーンを見せたのは、リアリュール(ka2003)。ふわりとした雰囲気のエルフの少女は微笑んで、緊張をほぐすようにスコーンをそっとすすめた。
「今日はよろしくね。少しまだ傷が癒えきっていないから申し訳ないけれど……」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は腰を少しかがめ、視線を合わせるようにしながら笑いかけた。今回、別の依頼で受けた傷が残っているのはアルトとレイア。まだ本調子ではないが、それでも少女を元気づけたいという気持ちは二人とも大きい。
クッキーを持ってきた白樺もそれをみんなに勧めながら、ちょっとした昼下がりのティータイムだ。
せっかくなら、と、普段勉強に使っているというノートも見せてもらうと、平均的な同年代よりは勉強の進みも早そうだ。頭の回転のよい子なのだろう。……だからこそ、一人という時間の寂しさを、いっそう感じてしまうのかもしれないが。
それではそろそろ、本題。
少女の方も心が少しずつほぐれてきているようだし、話を始めようか。
●
「といっても、まず残念なお知らせですけれど……血湧き肉躍るような、大冒険譚はないです。僕自身、強くないので……そういう依頼とは無縁、なんですよね」
そう語りはじめるのは、天央 観智(ka0896)。どちらかと言えば学者肌の彼は、戦闘の依頼よりも調査の依頼などに赴くことが多かったのだと前置きをする。
「それはそれとして、ニーナさんって、精霊さんとかご存じですか? 僕は、こちらに転移してくるまで、魔法などとは無縁でしたし、精霊も架空の存在と思っていたんです。まぁ……魔法と本格的な接点を持ったのは、ハンターになった頃と同時ですけれど」
リアルブルーには精霊や魔法の概念は殆ど失われている。クリムゾンウェストは、そう言う意味では興味深い場所だ。精霊などの概念が、まだ今も息づいているのだから。
ニーナは小さく頷いてみせる。
「おかあさんも……魔術師だったから。いろいろ、教えてくれたの。精霊さんは、見えなくてもそばにいるのよって」
その言葉を聞いて、観智も微笑んだ。
「そうでしたか。……最近は、精霊さんたちの住む世界……レイヤーと、人の暮らす世界……レイヤーの境界が薄くなってきた、らしいので……覚醒者にならなくても、精霊さんとの邂逅は、なくもないみたいですけれど……それでもやっぱり、ああいう体験は、貴重で不思議、だとは思いますね」
世界と世界の境界線。それはまだ幼子には難しい話かもしれない。それでも、覚醒者にならずとも――という言葉は魅力的だ。ニーナは目を輝かせて、話をもっと聞きたいというように身を乗り出した。――つかみはよいようだ。
「私もね、父や兄がハンターだったから、帰る日をいつも数えて待ってた。でもあるとき、お兄ちゃんはお迎えの日にも帰ってこなくて……でもどうにもならないでしょ? だから私が、って出てきたの。ハンターになる為に」
リアリュールは自分がハンターになった経緯をかいつまんで説明する。ただ待ち続けるだけでなく、自分から歩み出すのは人生でも大切なことだ。そう思いながら。
「ニーナちゃんは、お父さんに仕事の話を聞いたことがある?」
「おとうさんは、あんまりはなしてくれない……。おとうさん、わたしのことすごいしんぱいしてるの。ハンターのおしごとはきけんだから、そういうはなし、してくれないの」
どうやら、このニーナの父親は育児を放棄していると言うよりも、過保護がすぎるパターンらしい。幼い娘を危険に晒したくない、母親の死のことを思い出させたくない――思い出せば、心の奥の傷を晒してしまうかもしれないから。そう言う意味では、彼女の父親の選択はあながち間違いでもないのだろう。
「もちろんハンターの仕事も歪虚退治ばっかじゃなくて……私の初めての仕事は猫探しだったし、ほら、これはご縁のあった精霊様がたから戴いた大切な宝物なの」
つけていた花雫のペンダントを見せて微笑む。
「色んな人に出会ったり、そんな人の心を繋ぐお手伝いもハンターの仕事。ハンターだから逢えたんだと思うの……もちろん、ニーナちゃんにも」
柔らかなその微笑みは、柔らかな陽光を思い起こさせた。
「そうだね。お姉さんも、ハンターはひとを笑顔にするのが仕事だと思っている。歪虚と戦うのも目的じゃなくて、その手段」
アルトも思い出すのは初めての依頼。可愛らしいおばあさんに冒険譚を聞かせることだった。色々あったが、最後にはまた聞かせてほしいと笑顔で別れたのを今も思い出せる。
「他にも捨て猫の里親捜しや山の中で育ちすぎた羊の毛刈り、キノコ狩りとか……変わったのだと、一騎打ちの模擬戦で勝ったらあなたの告白を受けますと言われて、九十九回負けたお兄さんを鍛えるのとかね?」
コミカルとも受け取れる依頼の内容に、クスッと少女が笑う。
「そう。今のニーナちゃんと同じで、みんな終わったあとには笑ってくれたと思う。……ハンターっていうのは、困っているひとを、なにか助けてほしいひとを、笑顔になるのをお手伝いする仕事。きっとお父さんもそう頑張っているんだよ。でも、ニーナちゃんの側にももっといてほしいよね。それは伝えてあげる」
アルトはそう言いながらパチンとウィンクして見せた。それを引き継ぐように、レイアも言葉を続ける。
「……そうだよな、ハンターはあぶないしこわい仕事もある。何をかくそうおねえさんも、ハンターもぼいどもこわいんだ」
レイアも目線をニーナに合わせるようにかがみ込んで。
「わるものも、おしごとしてるのも、ともだちを守れなかったときのことを思うのも、こわい。でも、ニーナみたいな子が泣いちゃうのが、いちばんこわい。だから泣かせないようにがんばれるんだ。そうなるといちばんつよいのはニーナになるな。あれ? なんだ、それなら何もこわがることはないんじゃないか?」
穏やかな口調でそう言い聞かせると、ニーナはそんなことない、と言うように目を丸くさせる。
――そう、みんな君の為に戦っている。離れていくんじゃなくて、側にいるために。押しつけるつもりはないから言葉にこそしないが、そんな思いをこめて。
悪くない歪虚にあったことがないからわからないの、というのは白樺。
「……シロね、すっごく強くて尊敬してたハンターがいたの、でもその人も歪虚と喧嘩して帰ってこなかった……ハンターにならなかったら、連れて行かれなかったのかな? 今でもシロの側にいてくれたのかな? いっぱいいっぱい考えたけどね、あの人がハンターじゃなかったらシロはあの人に出会えなかった……」
言いながら、今度は手にした写真などを見せる。
「ハンターのお仕事で手伝ったお店でもらったお写真とコースター。帝国の公園には、お日様の精霊がいて……シロの大好きな人なの。ニーナみたいに悲しい気持ちになっちゃう子が減るように、笑顔いっぱいになるようにって……取り上げちゃうためにハンターになったんじゃないの。一つでも多くの幸せを返してあげたくて、ハンターになったの」
だから、シロもハンターだけど頑張るから、お友達になってくれる?
おそるおそる尋ねれば、おっとり少女は頷いた。
手にリュートを携えたユメリア(ka7010)は吟遊詩人。挨拶代わりにと口を開けば、穏やかな歌のような言葉がこぼれ落ちる。
「私は弱い人でした。誰かに近づくのが怖かった。傷つけるのも、傷つけられるのも怖くて、仲良くなるのも……怖くて。だから距離を置いて、歌うことばかりに徹していて。皆が笑顔になれるその瞬間が、幸せでした」
ユメリアはそこでいったん言葉を切る。
「でも素敵な人と出会えました。その人はとても強く優しく、人のために全力を尽くせる人。可憐な笑顔で話してくれるだけで、幸せでした。でもその人は強くて、私の手の届かないところで世界を護る戦いに挑む。……そのときの私の気持ちは、あなたと同じなんです。だから、私は強くなろうと決心しました。その人にずっといてほしいなんて願ったら、その人の心を殺してしまうから。だから私が変わろうと」
穏やかな、しかしどこか意志の強さも感じられる瞳。
「怖いは、それでもなお、と勇気となる種。寂しいは、自分から可能性を作る希望のかけら……私がついている、あなたのことを歌って、ここにいることを知らせるから」
ミア(ka7035)は、鬼の少女。「こんにちはニャス」と独特な挨拶をしてから、話を始める。
「ミアはね、血の繋がった家族がいないんニャス。だからずっと独りぼっちだった……そう思ってた。でもとあるサーカスの依頼に入って、色んな人に出会って……変わっていったニャス。言葉を交わして、一緒に遊んで。時には背中をあわせて戦って……楽しいばかりじゃないニャス、犬にかまれたりとか、ちょっと怖いこととか、あとは―……大切なお友達が苦しい思いしたり……でも、同じ時間をただ過ごすんじゃニャく、貴重な時間だから、絆が深まるのを感じるニャス。不思議ニャスね、いまは一人になることはあっても『独り』を感じることが殆どないんニャス」
楽しそうに話すミアは、笑顔。ニーナも、つられて笑顔。
「ミアは大切なものを横取りされないように、何より大好きな人たちが――家族が、大事なものを横取りされて悲しまないように、ミアは戦い続けるニャス」
ニーナちゃんのお父さんも、きっとそうなんじゃないかニャ?
見つめる瞳は心を写すよう。ニーナはこくんと頷いた。
Gacruxも、静かな口調で紡ぐ。
「歪虚を恐れているのはハンターも同じだ」
人を絶望に陥れ、ともすれば引きずり込む、敵。
「そう考えていたが、今は考え方が変わりました。人が絶望する以上に歪虚は絶望している……」
生者を引きずり込もうとするのは、根底に悲鳴があったのだろう、と。それも、彼が依頼を重ねた上での物語があってこそだ。
「何故ハンターになりたいのですか?」
Gacruxは問う。
命のやりとりをするハンター。時には心を持つが故、葛藤を背負い、心に傷を負うこともある。それはその後の人生に影響を与えかねない、深いものであることも多い。
「……だから、あまり勧められる職ではないと思っていますがね。父親も、あなたのことを大切に思っていますよ。だって大切な宝物なんですから……だからきっと頑張れていると思うんです」
違いますか? いや、きっと違わない。
柴犬の太郎と次郎と一緒に、サクラはにっこり。
「私がハンターになったのは、柴犬千匹牧場を作りたかったから。やっと三百八十六匹。先が長いよー。犬がそれだけいるから依頼料はみんなのご飯や借地代で消えちゃうね。でもこの子たちを見てるだけでご飯三杯は行ける」
サクラがおどけた様子で言えば、皆笑みを浮かべた。
「最近は同盟の聖堂士学校でお手伝いが多いかな。精霊様のいる丘や、学生も同じくらいの子だし、一般向けの学科もあるし……友達が増えたら、きっと楽しいよ?」
彼女の父が過保護故の行動なのだとしたら、きっとこのくらいは許されるだろう。それでもまあ、サクラとしては父親には言いたいことがあるが……それははじめに思ったよりも穏やかなものでも良さそうだ。
●
ハンターたちが帰ってから、少し疲れた少女は眠りにつく。
きっとそれは、穏やかでやさしい夢に違いない。
後日、ニーナの父から届いた手紙には、感謝の言葉とともに娘を思って依頼の傾向を少し変えた旨が添えられていた。
少女の小さな思いが、父親も動かしたのだろう。
二人分のありがとうが、込められていた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/24 23:15:13 |