• 陶曲

【陶曲】大地と海の恵みに捧げる日

マスター:大林さゆる

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2019/04/28 09:00
完成日
2019/05/05 02:22

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出? もっと見る

mizuki

オープニング


 ヴァリオス近郊の小さな村。
 この村の近くに、トパーズ精霊カイゼルの祠があった。
「アメンスィ様、俺様は猛烈にうれしいぞっ! こーなったら、宴会するぜーっ!!」
 ついに、嫉妬王ラルヴァが倒されたのだ。
 カイゼルは腰に手を当てて、小さな少女の姿をした精霊を呼んだ。
「エラル、俺様の村で宴会するから、魔術師協会の連中にも声をかけてくれ」
 エメラルドの精霊エラルは、小さく頷くと、ふわりと街へ向かって飛んでいった。


 魔術師協会広報室では、オートマトンの少年…ディエス(kz0248)が書物の整理をしていた。
 窓から、小さな少女の精霊エラルの姿が見えると、ディエスはうれしそうに微笑んだ。
「エラルさん、久し振りだね。一人で出歩いても、大丈夫なの?」
「平気……だよ。ラルヴァはもう、いない……から」
 精霊たちは、嫉妬王に脅えることもなくなったのだ。
「ボクは、外から援護するくらいしかできなかったけど、ハンターのみんながラルヴァを倒してくれたんだよね」
 ディエスは、ハンターたちに助けられ、いろいろ考えた末、自分もハンターになる道を選び、平時では魔術師協会広報室で事務の仕事を手伝っていた。
「ディエス……カイゼルから伝言……」
 それは、トパーズ精霊からの宴会の招待であった。
「じゃあさ、せっかくだから、ボク、みんなにも声をかけてみるね」
 ディエスは、久し振りに楽しい一日を過ごすことを想像していた。
「あの、トパーズ精霊のカイゼルさんから、宴会のお誘いがありました。ボクも参加しようと思ってます。よかったら、参加してみませんか?」
 本部を歩き回り、ディエスがハンターたちに声をかけていた。



 ポルトワールの片隅にある小さな路地裏。
 ルナルギャルド号の副艦長、ロジャー・ロルドは、場末の酒場で酒浸りの日々が続いていた。
 何故なら、暗黒海域での大規模作戦では、割と活躍していたのだが、今では、誰もロジャー・ロルドの存在は知らない。
 酒でも飲んでいないと、やってられないのだ。だが、一応は海軍の……ルナルギャルド号の副艦長としての誇りまでは捨てていないつもりだ。
 今でも、定期的に「同盟海域」と「人魚の島」を行き来して、偵察の仕事をしている。
 ロジャーは、今日も、平凡な日々を過ごしていた。
 と、思いきや。
「ルナルギャルド号の副艦長さんともあろう人が、ここで何してるの?」
 凛とした顔立ちの女性だった。イズ=レンシア(kz0206)だ。
「おまえさん、海の女神だっけか? ほんじゃ、カンパーイ」
 ロジャーは、ほろ酔い気味で、グラスを掲げた。
「あら、もう忘れちゃったの? 人魚の島で、感謝祭があるんでしょ?」
 イズにそう言われて、ロジャーは我に返った。
「やっべー。明日から船で人魚の島へ行くことになったんだよな。島にいるコーラル様とかいう精霊が、『ヒトの子らと宴がしたい』とか言ってたなー。そしたら、人魚たちが騒ぎだしてよー。急遽、島で宴があるから、船で運搬の作業もあるしな。よっしゃ、気合いれて、やることやるかね」
「ふふっ、ようやく普段通りのロジャーになったわね」
 イズが安堵の溜息をつくと、ロジャーはご機嫌な笑顔を浮かべていた。
「相変わらず、美人だね、イズちゃんは。ま、そういう訳で、俺は仕事にいくぜ」
 手を振りながら、ロジャーが酒場から出ていく。
(そういえば私の出会った人魚君は元気かしら?)
 イズはふと以前あった少年人魚に思いを馳せる。
 かくして人魚の島で、コーラル精霊の感謝祭が行われることになった。
 その話を聞いたハンターたちは、ルナルギャルド号に乗り、人魚の島へと向かうことになった。

リプレイ本文


 ヴァリオス近郊の小さな村。
 トパーズの精霊カイゼルからの招待を受けて、ハンターたちが思い思いに休日を楽しんでいた。
 天央 観智(ka0896)も、精霊が主催する宴会の話を聞いて、訪れていた。
「あなたが、カイゼルさんですか? 一応、魔術師の天央です。本日の御招待ありがとう御座います。よろしくお願いしますね」
 丁寧に自己紹介する観智に、カイゼルはうれしそうに笑っていた。
「おお、俺様がカイゼルだ。アメンスィ様が救われたのも、ハンターたちのおかげだぜ。ありがとうよ」
 カイゼルは、チョイ悪風の青年にも見えたが、今回の宴会を提案した精霊だった。
「どのような宴会になるのか、楽しみです」
 観智は、人と精霊の思考の違いも含めて、知的好奇心として楽しみを隠せず、微笑んでいた。
 マリィア・バルデス(ka5848)は、ラキを探していたが、その様子に気付いたディエス (kz0248)が駆け寄ってきた。
「来てくれてありがとうございます」
「こんにちは、ディエス。今日はラキはいないのかしら」
「ラキさんは、お友達と一緒に人魚の島へ行っています」
「そうだったの。ここにはいない訳ね。何となく、貴方達は2人でワンセットな気がしていたのよ、ごめんなさい」
 マリィアがそう言うと、ディエスは意外そうな表情をしていた。
「そんなこと、考えたこともなかったなぁ」
「よお、ディエス。久し振りだな」
 トリプルJ(ka6653)が、手を振っていた。
「トリプルJさん、久し振り!」
 ディエスは、うれしそうにトリプルJに飛びついた。
「元気そうで良かったぜ。最近はやっぱり魔術師協会で古文書の解析してんのか? それとも施設回ったりか?」
「ボクは、広報室で事務の手伝いが多いかな。あとね。時間がある時は、動物の保護施設にも行ってるよ」
「そうか。だが……嫉妬王が倒された割には、カッツォや手下のナナが大人しいのが気掛かりだな。まあ、出てきたら全力でぶっ倒すだけだがよ」
 トリプルJは不敵な笑みを浮かべていたが、ディエスは少し不安そうな顔をしていた。
 マリィアも、ここ最近の動向が気になっていた。
「サファイアの歪虚と戦ってから、ずいぶん経ったなあと思ったのよ。でも、この騒動を引き起こしたカッツォとの決着は、まだついていなかったのよね。ラルヴァは確かに倒れた。クラーレも消滅した。でも、あの戦いにカッツォは出てこなかった。出てこれない理由があったのか…それとも次なる王になるための布石なのか。現れない分、ろくでもないことを企んでいそうで気になるのよね」
 そう感じるのは、マリィアの覚醒者としての勘なのか?
 トリプルJは、ディエスの背中を軽く叩いた。
「難しいこと考えてもあれだ、その時はその時だ。今日は大いに飲んで食って楽しもうぜ」
 マリィアが、安心させるように笑みを浮かべた。
「そうね、考え出したら限がないもの。今は楽しみましょうか」
「はい、今日はゆっくりしようね」
 ディエスは右手でマリィアの手を取り、左手でトリプルJの腕を引くと、料理が並んだテーブルへと案内した。
 観智は村人に声をかけられ、出された料理を美味しそうに食べていた。
「なんだか懐かしい味がしますね」
 この村の人々は、精霊カイゼルとは仲が良いように見受けられた。
 マリィアは、ディエスの勧めで同盟産のワインを飲み、トリプルJはジョッキに注がれたビールを一気に飲み干していた。


 カイゼルの周囲には、酒好きのハンターたちが集まっていた。
「こうして向かい合って、ワインを飲むには本当に久し振りですね」
 神代 誠一(ka2086)は挨拶した後、案の定、カイゼルに呼び止められて、一緒にワインを飲んでいた。
 しばらくすると、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が誠一の姿を見つけて、隣に座りこんだ。
「誠一、此度は怪我も無い様じゃのう、息災で在ったか?」
 蜜鈴が、自然と酒に手を伸ばす。誠一は、当たり前のように蜜鈴が持つグラスにワインを注ぐ。
「やー、激戦続きですからね。一時は重体の輪廻から抜け出せなくて、さすがにどうなることかと思いましたが」
 グラスを軽く掲げる蜜鈴。
「嫉妬王の討伐、お疲れ様じゃ。宝玉の精霊がいるとは、流石、極彩色と呼ばれる街を持つ国、といった所か」
 そう告げた後、蜜鈴はワインを味わっていた。
「カイゼルさんは、トパーズの精霊なんですが、なんだか気が合うんですよね」
 楽しげに笑う誠一。
「ほう、トパーズとはな。して、誠一の護りたかったモノは、然りと護れたかの? 長く、大怪我をしてばかりで在ったのう、おんし」
 蜜鈴が、くすくすと小さく笑った。
「ええ。この地も精霊と交わした言葉も。信頼する仲間達と共に。こうして気遣い合える戦友がいるというのは、恵まれた環境だなと思います」
 誠一にとって、蜜鈴は自身が嫉妬属に並々ならぬ感情を抱いていたことも察している戦友でもあり、なんと言っても酒好き同士の間柄だ。
 煙管「昔花」を手に持つ蜜鈴……灯蝶が舞い、煙草に火が燈る。
「皆の笑顔と、おんしの表情も答え…か…。では祝い酒じゃな。妾も、誠一を見習わねばのう」
 吐息のように、蜜鈴が紫煙を吹く。
「今日くらいは、ゆっくりするとしましょうか」
 そう告げる誠一に対して、蜜鈴は猫のごとき笑みを浮かべた。
「さて、我等が飽きるが先か、この場の酒が尽きるが先か…飲み明かすとしおるか」
「一番、飲みそうなのは、カイゼルさんかな」
 誠一の一言に、蜜鈴が笑う。
「なにを言うておる。それは最後まで分からぬであろう?」
「あ、あー、そういうことでしたら、俺も最後まで付き合いますよ」
 確かにと微笑む誠一。さらにワインを注ぐ。これで何杯目か、忘れるほどだ。
 カイゼルと言えば、傍らにいるフィロ(ka6966)の様子が気になっていた。
 久しぶりに対面して、太陽のような明るい笑みを浮かべていたフィロだが、どことなく陰りがあるように見えたからだ。
「どうした、フィロ?」
「……いえ、なんでもありません」
 作り笑いをするフィロに、カイゼルは思わず、手を握り締めた。
「なんだって、そう、おまえは自分の気持ちを押し殺そうとする? 言いたいことがあるなら、俺様が聞いてやる」
「……カイゼル様」
 フィロは名を呼ぶと、微笑むだけであった。
「フィロ! 俺様はおまえが名を付けてくれたおかげで、カッツォの呪縛から解放された。今度は、俺様が、おまえを守ってやる。だから、言え!」
 懸命に呼びかけるカイゼルを見て、フィロは、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
「邪神戦争は総力戦、負ければ三界が滅ぶ……それを免罪符に、私は仲間を」
 これ以上、フィロは言葉に出すことができなかった。
 オートマトンは、人を助ける人の友……フィロの中の記憶。
 邪神を倒すためとは言え、滅びたエバーグリーンに残ったオートマトンやソルジャーを可能な限り回収して邪神戦争の兵力として目覚めさせていて。
 彼らは今度こそ人を守るために喜々として戦場に向かい、人を守って壊されるだろう。
 それが、作られたモノの宿命だから。
 カイゼルの仲間でもある変質した精霊を、壊すために殺すために目覚めさせ続けていて。
 こうした戦いが、これからも続くのだろうか。
 
 仲間殺しの
精霊殺しの
 私は
私は……。

「フィロ!」
 ああ、私の目の前に、貴方がいる。
 私は、ただ笑って、貴方に酒を差し出すことしかできない。
「カイゼル様」
 ふと、そう言いかけた時、温かみのある音色が聴こえてきた。
 ルカ(ka0962)が、ミューズフルートを吹き、場を和ませていた。
 音は、静かに凛として、皆の心に沁みていく。
 とそこへ、サーカス団の衣装を纏ったミア(ka7035)が御辞儀をして、顔を上げた。
「白い天の鳥のサーカス団が一人、風船唐綿のミア! ささ、夢と現に隠れたひと時をどうぞお楽しみ下さいニャスー!」
 一輪車に乗ったミアは、広場にて、クルクルと円を描きながら走り、両の腕でフープを廻す。
 その曲芸を見た村人やハンターたちが、楽しそうに拍手する。
 ミアは、積み上げられた箱の上に飛び乗ると、両手を広げて、トランプを雨のように撒き散らしていく。そして、ミアが指を鳴らすと、トランプが花へと変わっていく。団長直伝のマジックだ。
(みんなが笑顔なら、みんなが幸せなら、今日という一日はかけがえのないものになるニャス。
 だから、みんなの心に少しでも花を添えられるように、ミアはミアの出来ることをしよう)
 舞い散るブバルディアの花言葉は夢。
 青薔薇は、ミアの大好きな『黒猫』の花。
 夢叶う……青薔薇。
(彼の夢も、いつか叶うといいな)
 彼の幸せを願わずにはいられない。大切な人だから。

 
 ルカが吹くミューズフルートの音色が響く。
 トリプルJとディエスが、曲に合わせて、互いに軽く両手を叩きながら踊る。
 楽しいひと時。
 アリア・セリウス(ka6424)は、久し振りの休日を堪能していた。
「ディエス、お疲れ様」
 アリアはディエスが戻ってくると、葡萄ジュースを差し出した。
「ありがとう、アリアさん」
 憧れのアリアと再会することができて、ディエスは少し緊張していたが、それ以上に喜びの気持ちが大きかった。
 アリアが微笑む。
「ディエス、私ね、考えていたことがあるの。これからどうするのか、これからどうしたいのか」
「ボクもね、考えてたんだ。ずっと、仲間と一緒にいられるようにって」
「そう、私たち、似たようなこと、考えてたのかしら?」
 静かに笑うアリア。
 ディエスは、やや戸惑っていた。
「ボク、前に自分の過去について聞かれた時、上手く応えられなくて、アリアさんのこと、困らせちゃったよね。ごめんなさい」
「ディエスが謝ることではないわ。私はただ、明日という未来を紡ぎたいと願っていただけなの」
「明日、未来?」
「そうよ。ディエスが幸せになるように」
「だったら、ボクはもう、幸せだよ。だって、アリアさんと出会えたから」
 ディエスの素直な想いに、アリアが頷く。
「ん、そうね。今日という日が終わっても明日があるから、明日を求め、今の仲間と共に……もありね」
 アリアは、常に理想の明日を求める月光でありたいと願っていた。


 賑やかな宴会が続く中、ジャック・エルギン(ka1522)は少し離れた場所でワインを飲んでいた。
 精霊や仲間には言いにくいことがあり、一人で考え込んでいた。
 カッツォ・ヴォイ。
 ジャックにとって、同盟を脅かした強敵だったが、本当に消えてしまったのか?
(最低に嫌な野郎には違いねえが、行動を起こす時は現場に出てくるし、
 戦力が足りなきゃ自動兵器を集め、強化する方法と交換に黙示騎士と手を組んだこともあった。
 ここまで行動できるヤツが他にどれだけ居た?
 そのアイツが、主人を討たれてこのまま舞台から退場するか?
 杞憂かね。俺の考えすぎなら良いんだけどな)
 ジャックには、全てが片付いたようには思えなかった。
 カッツォほどの高位歪虚が、あっさりと消えるのは半信半疑だった。
 嫌な予感がするのは、気のせいだろうか?


「ちょっと席を外しますね」
 エルバッハ・リオン(ka2434)は、精霊カイゼルと村人たちに挨拶した後、見晴らしの良い場所に座り込んでいた。
 宴会も盛り上がり、ルカが合間を縫って魔導カメラで記念撮影をしている様子が見えた。
 それを垣間見ながら、エルバッハは今までの戦いを思い出していた。
 嫉妬王ラルヴァとの決戦は、マスティマに搭乗して守護者としての初陣でもあった。
 マスティマに相応しい戦いができたのだろうか?
 主観でもなく、客観でもなく、別の視点からみれば、自分の行いはどう映っていたのか?
 答えはでない。それこそ、千差万別だ。
 ならば、基準などあるのだろうか?
「精進していく必要がありますね」
 それは、エルバッハが自分で見つけた答えだ。
 前向きに、気を引き締め、ゆっくりと立ち上がると、息抜きに村の中を散策することにした。


 宴会の席では、ルカが空になった酒瓶を片付けたり、配膳の手伝いをしていた。
「みなさん、飲むペース、速いですね」
 酒瓶を片付けても、「まだまだ飲むぞ」と催促するカイゼル。
 誠一と蜜鈴は、傍から見ればかなり酒を飲んでいるのだが、平然としていた。
 酔っぱらっていたのは、カイゼルだった。
「勝ったのは、蜜鈴さんです。おめでとうございます」
 祝福をこめて。
 マテリアル花火を打ち上げたのは、ルカだ。
 花火が大空に上昇し、花が開く様に舞い上がると、小さな多数の鳥のようにも見え、雪混じりの桜の花びらの様に、ひらりひらりと落ちて消え往く如く、儚くも美しい光景であった。




 人魚の島。
 精霊コーラルが、ヒトの子らと宴を催すため、島に住む人魚たちが感謝祭の準備をしていた。
「うむ、この島にも人魚がいるのだな」
 ルベーノ・バルバライン(ka6752)は、先日、海流で流されたという噂の人魚が、この島に辿り着いているのではと思い、やってきたようだ。
 探してみたが、それらしき人魚はいなかった。だが、人魚たちとの親交を深めたい想いもあり、ルベーノは、一休みしている人魚たちに声をかけた。
「別の島にも、人魚たちが住んでいるのだが、そこにいる人魚は歌好きで友好的でな。あれらと交流できそうな人魚なら、そういう伝手を増やす手伝いができないかと思ったのだ」
 ルベーノは、海図を元に説明するが、同盟から船で2~3日行ったところにあると『噂されている島』についての話を聞くと、人魚たちは困惑していた。
「初対面で、いきなりそういう話をされても……こっちとしても、どうすれば良いのか分からないわ」
「人魚同士で仲良くするのは良いことだと思うけど、私たちは、『ヒトの子ら』との交流を望んでいたの。噂でしか聞いたことがない島だし、本当かどうか、怪しいものね」
 この島の人魚たちは、コーラル精霊の感謝祭を行い、訪れた人々と楽しく交流したいと思っていたのだ。
「ふむ、それは失敬した。だが、仲間が増えるのは悪いことではないと思うのだが」
 ルベーノの言うことも一理あるが、人魚たちは首を傾げるばかりだ。
「できれば、あなたと宴を楽しみたかったのだけど……」
 人魚の一人が、そう告げた。
 まずは、自己紹介から始めた方が無難だったかもしれない。
 宴の準備も整い、人魚たちが「おお~」と歓声を上げていた。
 星野 ハナ(ka5852)が、簡易竈や鉄人の鍋など道具を持ち込んで、手料理を振舞ってくれたのだ。
「干し鱈入りのソパ・デ・アホという料理ですぅ。どうぞ召し上がってくださいぃ」
 基本としては、生ハムや卵を入れることが多いのだが、ハナは魚や海藻、貝などを使ったオリジナル・レシピで作ってくれたのだ。
 ハナはメモを取り出し、人魚たちにインタビューしていた。
「お味はどうですかぁ?」
「まず、香りが良いですね。これがヒトの子らが食べる料理かー。初めて見ました」
 人魚たちは、恐る恐る、まずは試しにと貝だけを食べていた。
「まあ、旨味がありますね」
「やっぱり魚は苦手ですかぁ?」
 ハナは真面目に質問しながら、メモを取っていた。
「苦手というより、我が部族では魚は食べないのですよ」
 人魚の答えを聞いて、ハナが筆を走らせる。
 少なくとも、この島に住む人魚たちは魚は食べない習慣があるようだ。
「そうですかぁ。私、いろんな種族の好みの料理を知りたいんですぅ。誰にでも喜ばれる料理を作っておもてなしって憧れるじゃないですかぁ」
「お嬢ちゃん、俺らも食べていいかい?」
 海軍の兵士たちが、匂いに釣られてやってきた。
「もちろんですぅ。ドンドン食べちゃってくださいぃ」
 満悦の笑みを浮かべるハナ。
 兵士たちは、島のキャンプ場に荷物を運んでいたのだが、作業が終わり、丁度、お腹が減っていたのだ。賑やかな笑い声と共に、兵士たちはハナが作った料理を美味しそうに食べていた。
 ディーナ・フェルミ(ka5843)も、干し鱈入りのソパ・デ・アホを食べて、うれしそうに笑っていた。
「とっても美味しいの。食べて食べて食べ尽くすの~」
 ディーナは、魚の昆布巻焼きを作り、皆と一緒に会食していた。
「人魚たちと人間たちが一緒になって食事会するなんて、滅多にないことなの~」
 少し興奮気味のディーナ。
 ハナはさらに、魚介類を使った焼きそばを作り、皆に配り回っていた。
「遠慮せず、どうぞですぅ。お疲れさまですぅ。お仕事頑張って下さいねぇ」
「おう、お嬢ちゃん、サンキューな」
 海軍の兵士たちも、ご機嫌だった。中には、女の子の手料理を食べることができて、感動のあまり泣いている若い兵士もいた。
 セシア・クローバー(ka7248)は、フューリト・クローバー(ka7146)と一緒に宴に参加していた。
「人魚さん、はじめまして」
 フューリトは、人魚たちに挨拶廻りをして、着ている服が汚れないように気を付けていた。
「リト、解ってると思うが寝るなよ」
 セシアが、人魚や兵士たちと挨拶をしながらも、フューリトの様子に注意を払っていた。
「お料理の良い匂いがするから、寝たりしないよー」
 フューリトはそう言った後、兵士たちに話しかけた。
「オススメの料理は、ありますかー?」
「ああ、それだったら、ソパ・デ・アホだな。すっげぇ美味いぞ」
「ソパ・デ・アホ?」
 フューリトが首を傾げた。
「ニンニクのスープっていう意味だが、ハナが作ってくれたのは魚介類のスープだから、ソパ・デ・マリスコスとも言うらしいぜ」
 兵士の一人が教えてくれた。
「おねーちゃん、シェアして食べよー」
「よし、私がもらってこよう」
 セシアは、ハナに事情を話して、干し鱈入りのソパ・デ・アホを分けてもらった。
「わあ、香ばしい良い匂いー」
 フューリトが匂いを嗅ぐ。
 セシアは、ほどよい大きさの岩に座り、その隣にちょこんとフューリトも座る。
「いただきまーす」
 食べながらも、打ち寄せる波の音が聴こえてきた。
「海には馴染みがないからそれだけで心躍るな」
 精霊の姿は見当たらなかったが、セシアは人魚たちと雑談しながら、食事を満喫していた。
(今日の出来事を父さんと母さんにしたら質問攻めで寝られないかもしれないな)
 セシアは、そう思いながら、フューリトには黙っていることにした。
 今は、存分に楽しみたいからだ。


 人魚たちの中には、少年の姿をした者もいる。
 サクラ・エルフリード(ka2598)は、その噂を聞いて、人魚の島に来てみたが、やはりいるではないか。
「……天使のような無垢な少年が多いようですね」
 少し驚きつつも、サクラは少年人魚たちが集まっている場所へと生き、一緒に食事をするこにとした。酒は飲みたかったが、飲んだらいけないと言われていたため、ジュースを飲んでいた。
「む、花火…ぽいの、打上げても大丈夫でしょうかね…。宴、盛り上げるために…」
「いいよ、見せて見せて」
 少年人魚たちにせがまれて、サクラは空に向かってワンダーフラッシュを放った。
 光弾が撃ちあがり、散るように眩く広がっていく。
「キレイだな」
「これが、花火か」
 少年人魚たちは、空を見上げて、サクラが放つワンダーフラッシュを珍しそうに眺めていた。
「なんだか、俺たちの姿みたいだな。すごいな」
 サクラはワンダーフラッシュを打ち上げる時、人魚の形になるように念じていたのだ。
 少年人魚たちは、楽しいひと時を過ごすことができた。
 その頃、レイア・アローネ(ka4082)は一人で島の中を散策していた。
 途中、アリア(ka2394)とラキ(kz0002)が一緒にいるのを見かけた。
「アリア、久し振りだな」
「レイアさんも来てたんだね。あ、そうだ。紹介するね。ラキちゃんだよ」
 アリアに促されて、ラキが御辞儀をした。
「はじめまして、で良いのかな。あたしは、ラキ。よろしくね」
「ラキ…何度か見かけてはいるが、こうして挨拶するのは初めてだな。アリアの友人のレイアだ。宜しく頼む」
 レイアが手を差し伸べると、ラキが握手する。
「あたしもレイアさんのことは知ってたけど、こうやって直接会うのは初めてだよね」
 ラキが、うれしそうに微笑む。
 アリアは、レイアの手を取る。
「せっかくだから、一緒に宴に参加しようよ」
「いいのか?」
 私なんて呼んで…と、レイアは言いそうになったが、アリアは笑みを浮かべた。
「当たり前だよ。レイアさんも歓迎だよ」
「そうそう、遠慮は無用。あたしたち三人で、一緒に廻ろうよ」
 ラキも賛成していた。
「ありがとう、アリア、ラキ」
 こうして、女子三人で、宴に参加することになった。
 アリアは海を眺めると、複雑な気持ちもあったが、今までいろんなことがあったなあと感慨深くなっていた。
「ねえねえ、ソパ・デ・マリスコスっていう料理があるらしいから、食べに行こうよ」
 ラキに導かれて、人だかりを駆け抜けていく。
 アリアは果実酒を見つけて、飲むか否か考え込んでいると、ラキが「飲もう」と誘う。
「アリアちゃんは故郷では成人でしょ? ここは人魚の島だし、飲んでも大丈夫だよ」
「えへへ♪ じゃあ、飲もうかな」
 ここだけの秘密……ということで、アリアたちは果実酒を飲むことにした。
 なんとか三人分の料理を手に入れることができて、砂浜に座り、和気藹々と食事を楽しんでいた。
 しばらくすると、弦の音色が響いてきた。
 ウォーターウォークで、ユメリア(ka7010)が穏やかな海面の上を歩いていく。リュート「ムーン・ナイト」を弾きながらリズムを取り、タップシューズ「スニッカーズニー」の軽やかなステップで、水飛沫が音色にも聴こえてくる。


海に万の命を感ずる
(静かで優しい水音響かせ。泡立たせて)
海の泡は儚い命、しかしまた海にて ものみな生き返るさまと重なります。

私も故郷の森も、水で守り育てられました。
無垢なる雫は流れ、大地の喜びも苦しみも知り、長い旅の果てに
海へとたどり着く。

水ひと掬いに、私たちは安寧を得ます。

人が生を受け、命全うするまで、
特に終わりを安らかにゆかしめる一助となるのは、海であると、確信しております。
願わくは、この歌が感謝の導となりますように。

豊穣の巫女として願います。


 ユメリアの澄んだ声とリュートの音色が、海へと、空へと、水のように拡散していく。
 奉献の祈りと踊りを……命ある者たちに捧げるために……。
 
 アリアとラキ、レイアたちは思わず立ち上がり、大きく両手を叩き、感動の拍手を送った。



 一方。
 キヅカ・リク(ka0038)はフード付きパーカー「Panthera」を着て、コーラル精霊の祠へ行き、ブーケ【信頼の白】とシエラリオワイン「マレシャン・ルグニーサ」を供えて、両手を合わせていた。
 鎧も着ずに、ここに来ることができて、リクは清々しい気持ちになっていた。
 エメラルドの精霊エラルが、リクの肩に乗り、様子を窺っていた。
 祠には精霊の姿はなかったが、『声』だけが聴こえてくる。
『ヒトの子らよ……嫉妬王を退治してくれた……感謝している』
「約束、守れたのかな」
『貴方たちは、誓ってくれた。そして、困難を乗り越えた……ありがとう』
 コーラルが、リクに語りかけた。
「ようやく、コーラルの声が聴けたね。今日はラフな格好だけど、普段着で来れる日がくるなんて、考えてもみなかったよ」
 必死に生き抜いてきた日々。
 リクは一礼すると、海岸へと向かって歩いていく。そこには、人魚の親子がいた。
「クアルダ、ラッセ、久し振りだね」
 リクはクアルダにワインを、ラッセにはマロンプリンを土産として渡した。
「リクさん、ありがとう。またこうして会えることができて、うれしい。まるで奇跡のようだわ」
 クアルダが、ワインの瓶を手に取る。
 ラッセは、うれしそうにマロンプリンを受け取った。
「ありがとう、リクさん! ボクたちのこと、覚えててくれて」
「僕はずっと、これからもクアルダとラッセのこと、覚えてるから」
 リクが笑みを浮かべると、ラッセは喜んでいた。
「ボクも、リクさんこと、ずっと覚えてるよ」
 しばらく近況を話し合った後、リクは一人で海を眺めることにした。
 波の音だけが聴こえてくる。
 以前、トパーズの精霊と話した時、アメンスィが姿を現したことがあった。
 あれから、どれくらい経ったのだろうか。
(こんな平凡な僕にどこまでやれるかは解らなかった。
 それでも今この瞬間があるのなら、英雄なんかじゃない僕が、
 此処まで傷だらけで闘ってきた意味はきっとあるんだと思うから)
 信じるということは、まずは自分自身の存在を信じることから始まるのかもしれない。
 リクが思う事、信じる事は、自分の心から生み出されるものだから。


 海に、様々な色の花束を贈り、ミューズフルートを吹くのは、カーミン・S・フィールズ(ka1559)だ。
 海の戦いで散った者たちを、そして、自らの手で葬った戦士たちに捧げる『宴』。
「契約者や堕落者って、死体、残らないのよね」
 隣にいたマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)は、黙ってカーミンの言葉を聞いていた。
「別に、人を殺すことに忌避はない。数々の裏切り者、堕落者たちを葬った。ただ、私は『戦士』じゃないから、戦いに私情も持ち込むし、恨み言だって云うわ。だけど。いえ『だから』かしら。私は、彼らのことは背負わない」
 救えなかった人たちも。
 カーミンは、想いをこめて、ミューズフルートを吹いていた。
 海にひらりと舞い落ち、波に漂う花びらは、やがて海の底へ……底へと沈む。
 母なる海が、我が子を抱きしめるように。
「聞き上手よね」
「笛の音色に、聴き入っていたな」
 マクシミリアンが応えると、カーミンは、はにかむように……確かに、憎からず想っているのだろう。
「俺はてっきり、おまえはジャックといるもんだと思っていたが」
「な、なんで、そこで、ジャックが出てくるのよ」
 カーミンが、珍しく少し慌てて、頬を染めていた。
「おまえたち、仲が良いだろう?」
「……ジャックは、私の大切な友人よ。マクシミリアンとは、違うから」
「……そうか。なら、俺にもまだ、チャンスはあるということか?」
 意外なことを、マクシミリアンが言った。
「え? どういうこと、それって?」
 人と人が巡り合い、反発したり共感することもある。
 だが、今の想い、感情は、言葉にするには、まだ不確かさがあった。
 未完成の感情は、やがて……。
 実を結ぶのかは、まだ誰にも分からなかった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 23
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MVP一覧

  • 重なる道に輝きを
    ユメリアka7010
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミアka7035

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 愛おしき『母』
    アリア(ka2394
    人間(紅)|14才|女性|疾影士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士
  • 寝る子は育つ!
    フューリト・クローバー(ka7146
    人間(紅)|16才|女性|聖導士
  • レオーネの隣で、星に
    セシア・クローバー(ka7248
    人間(紅)|19才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 山(?)は精霊海は人魚
トリプルJ(ka6653
人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/04/24 18:36:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/26 21:55:07