ふりだしの様な休止符

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/28 22:00
完成日
2019/05/09 11:28

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ぽかん、とブレンネ・シュネートライベン(kz0145)はベッドに寝転がって、天井を眺めていた。
(久々の休みね……)
 ブレンネはナサニエル・カロッサ(kz0028)逮捕前は、ほぼ休みのないようなスケジュールをこなしていた。ナサニエル逮捕後も、激減した仕事を補うために大柳莉子と帝都を駆けずり回っていたので、結構忙しかった。
 けれど、先日ある酒場でのライブ前にシェオルに遭遇して、同じくアイドルのグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)と殴り合いの喧嘩をして以来の数日を、ヴォイストレーニングや運動をする以外はごろごろと、意外と穏やかな気持ちでブレンネは過ごしていた。
 しかし、流石に暇になってきたので、出かけることにする。
 どこへ行こうか、と思った時、ふと頭に浮かんだのはシェオルとの戦場にもなったクラバックの酒場だった。
「様子、見に行ってみますか」
 跳ね起きてブレンネは支度をはじめる。

●酒場にて
 シェオルの襲来から数日経ったし、酒場は営業再開していると思ったのだが、いまだ『臨時休業』の札がかけられていた。
 おかしいな、と思って窓から中をのぞいてみると、ちょうど店内にいる店主クラバックと目があった。頭頂部の禿げ上がった中年男性である。
「こんにちは、クラバックさん。まだ、お店お休みしてるの?」
 中に招き入れられたので、ブレンネは早速そのことを聞いた。
 戦闘により壊れた机と椅子は撤去されたままで、酒場には一部はスペースができている。
「従業員が家の事情で、続けてやめてしまってね。人手が足りなくて営業できないんだ」
 悪いことは立て続けに起きるね、とクラバックは続けた。
「そうなんだ……」
「この前は、ライブできなくて残念だったね」
「まあ、そうね」
「お客さんにも、楽しみにしていたって人たちがいたんだよ。忙しいし、チケットを買うお金もないし、こんな機会でもないと音楽なんて聞けないからって」
「え、そうだったの……?」
 ブレンネは驚いた。正直この酒場では、良くも悪くも自分は場違いだと思っていたので、期待されているなんて思ってみなかったのだ。
「僕自身も楽しみにしていたし、それがお客さんの癒しになるならと思っていたんだ。ブレンネちゃん、ここが営業再開できたらまた歌ってくれると嬉しいよ。そんなに出演料は払えないけど……」
「クラバックさん!」
 ブレンネは胸の高鳴りに居ても立ってもいられなかった。
「何人いれば……何ができる人がいればここを再開できる?」
「給仕と、調理補佐かな」
「じゃあ、給仕はあたしがやる。お願い、あたしを雇って。そして、たまにここで歌わせて。お給料はいらない……と言えるほど恵まれた経済状況でもないけど、自分の歌の価値がわからないし……それでも……あたしの歌を聞きたい人がいるなら、あたしは歌いたい。歌いたいの」
 ブレンネの歌を聴きたいと言っていた人たちは音楽には詳しくないだろう。なぜならゾンネンシュトラール帝国、もっと言えばクリムゾンウェストには手頃な音楽プレイヤーと記録媒体が存在しないので、音楽を聴くには生演奏が基本であり、そのためには演奏者を雇う必要があるので、必然的に音楽を楽しめるのは裕福層に限るのだ。
 それでも、ブレンネは自分に期待されていたことが嬉しかった。その人たちのために歌いたいと思った。
「……そうだね。それじゃあお願いしようかな。もちろんお給金は払うよ。出演料も、多くは出せないけどちゃんと受け取ってね」
 クラバックはブレンネの本気を見て取ったのか、あっさり了承した。
「あ、でも莉子ちゃんがなんて言うかな」
「そっちはうまく言っておくわ」
「そう? 幸いにも、壊れた家具をまだ補充していないから、その空いているスペースを演奏の舞台にしてくれて構わないけど……何をどうすればいいのかな?」
「ステージに関してはあたしが考えるわ。そこはあたしの方が詳しいし……」
「ふむ。僕もやることがあるし、そこは任せようかな。資金の関係上、最終的にゴーサインを出すのは僕だけど、お金がかかりすぎることでなければOKするつもりだよ」
「本当!? あたし頑張るわ! ありがとう、クラバックさん!」

●後日の酒場
「ステージをつくるとして、シェオルが家具をぶっ壊してできたスペースを利用すればいいから……」
 ブレンネは何が必要かをピックアップしていく。
「スピーカーはいらないわよね。この広さなら必要ないし、あっても邪魔になるだけ。値段も高いし。あとは、伴奏のための楽器と演奏者ね……」
 路上ライブではプロデューサーの大柳莉子がギターを弾いていたが、彼女の演奏が上手くないことはブレンネでもわかった。
「でも、雇うとなると、高いわよね……? 高級バーにいた奴らはなんかいけ好かないし」
 帝都にも、ちらほら楽器の置いてある上流階級を相手にしたバーが出来はじめていた。実はこれはブレンネが積極的にライブをして音楽が膾炙した結果だったりするのだが、本人はよく知らない。
 クラバックの酒場に通うのは労働者階級だ。固定客もいるし、もし本当にこの酒場という室内で音楽が聞けるようになれば、帝国での音楽の扱いも変わるかもしれない。なぜなら帝国の音楽は軍歌をベースしていて、戦場を盛り上げるためのもので、基本的には野外で鳴らすものだからだ。
 ブレンネはノートにペンで必要事項を書き込んでいるのだが、自分の悪筆ぶりに自分で呆れていた。
「仕方ないでしょ、あたしストリートチルドレンで、ちゃんとした教育なんて受けていなんだもの……」
 独りごちながら、ブレンネはハンターの到着を待つ。
 ブレンネは、アイデアをたくさん出すためには人が多い方がいいだろうと、ハンターオフィスに『酒場に併設ステージをつくるためのアイデア募集』という依頼を出していたのだ。もう直ぐ依頼を引き受けたハンターが到着する時間だった。
 ちなみに、テーブルの上にはクラバックが用意した軽食のサンドウィッチとポテトサラダ、フルーツジュースと炭酸水も並べられている。
(そう言えば、ナサニエルさん、どうしているかしら)
 ふと、ブレンネは思った。
 ブレンネも、ナサニエルが自分を何かしらの悪しき実験に使っていたことは気が付いている。そうでなければ、アイドル事業が凍結されるはずもない。
 でも、彼女にナサニエルを恨む気持ちもなかった。彼女を人気アイドルに押し上げたのもナサニエルだからだ。こうしてクラバックが声をかけてくれたのだって、人気アイドルになれたからだ。ナサニエルはブレンネの可能性を広げてくれたとも言える。
 そうこう考えていると、酒場の正面口が開いた。
 ハンターが到着したのだ。
「いらっしゃい。待ってたわ」
(でも、いつまでもナサさんに頼ってられないもんね。あたしはこの場所で、あたしの価値を確かめよう)
 ブレンネは気持ちを切り替えた。

リプレイ本文

「はじめまして、シニョリータ・ブレンネ」
 レオーネ・ティラトーレ(ka7249)が、色男らしい柔和な物腰で、ブレンネ・シュネートライベン(kz0145)に初対面のあいさつをする。
「俺はレオーネ。今日はよろしくお願いするよ」
「レオーネね。こちらこそよろしく」
 ブレンネもあいさつを返した。
「ブレンネ、ざくろもまた来たよ。ブレンネが活躍できるステージを作る為、力になれたらって思うし……それに、この間は色々話してて酒場片付けるのに凄く時間掛かっちゃったから、そのお詫びも込めて」
 頬を掻きながら時音 ざくろ(ka1250)は言う。
「片付けに関しては、あたしたちが喧嘩したのが原因だから、ざくろは気にしなくてもいいわよ。ま、適当に掛けてちょうだい」
 ブレンネはざくろに、空いている席を勧める。
 そんなブレンネに、Uisca Amhran(ka0754)が静かに近づいた。
「どったの、Uisca。空いている椅子ならあっちの方に……」
「……ブレンネさん、お友達になってくれませんか!」
 ずいっと、Uiscaが身を乗り出す。ブレンネの目の前に、Uiscaのきらきらと星を湛える紫の双眸があった。
「ともだち……?」
「そうです。同じあいどるとしても、もっと仲良くできたらなって思うのです。ブレンネさんは、どうでしょうか……?」
「構わない……けど……」
 ブレンネはUiscaから目をそらす。頬がほんのり赤いから、単純に照れているのだ。
「……あたし、良い奴じゃないわよ。殴り合いの喧嘩だってするかもよ」
「喧嘩したら仲直りをすれば良いのです。私、ブレンネさんの良いところ、知っているつもりですよ?」
「……わかったわよ。ていうか、あたしからもお願いするわよ! Uisca、あたしとも友達になってよ!」
「はい、もちろんです!」
 ブレンネはブレンネなりにUiscaの気持ちを受け取ったようだ。そして、自分の気持ちもUiscaに伝えたのだった。
「それなら敬語もお互い止めようね。……そうだ! お互いの呼び方も考えないと。ブレン……は何だか男性っぽい感じがするし……レンネとかレン、とか?」
「レンでいいんじゃない? 短い方が、なにかと楽でしょ?」
「よろしくね、レン!」
 愛称に、ブレンネはこそばゆさを感じた。でもそれは、悪いものではなかった。
 キヅカ・リク(ka0038)は店の入り口付近で、店内の構造を改めて把握する。
「リクー、ジュースにする? それとも炭酸水?」
「じゃあ炭酸」
 キヅカはブレンネの問いかけに答える。
 ブレンネは他のハンターと軽やかに談笑している。
 その様子が、なんでもない光景が、なんだか遠かった。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっとした調べ物だよ」
 少しだけ誤魔化して、キヅカは笑った。


 全員が席に着いた。ブレンネはノートを開いて、ペンを構える。
「じゃあ、まずざくろから話すね」
 皆の注目が集まるのに、ざくろは少し照れて、それから話を続けた。
「酒場の中央にステージを作るのはどうだろう?」
「真ん中に?」
「そう。労働者さんだと酒場に来れる時間もバラバラになるんじゃないかと思うから、後から来たお客さんがステージをよく見えない席になったら残念だから、中央にしてどの方向からでもよく見える様にって思ったんだ」
「それだと、後ろからしか演者を見られない人が出てこない?」
「それは歌いながらステージ上でぐるっと回るとかすればいいと思うんだ。……只、これだと後ろや側面に座ったお客さんに声が通りづらいかもしれないのが、気になる点かな……」
「なるほど……」
 ブレンネがペンを走らせ、ノートに『舞台』と書いたが、気に食わなかったのかゆっくりと時間をかけてもう一度『舞台』と書いた。書き直したが、彼女の字は角ばっていて、下手な木工作品じみている。
「うぬぬ……」
 さらに、続く情報をどこに書こうかと考えていた時に、
「情報を整理する時は、まずノートの半分に線引いてみん」
 と、キヅカがアドバイスした。
 ブレンネはページをめくって、言われた通りに線を引く。
「左側に問題、議題を書くの。右側に解決方法書くの」
 ブレンネは左側に議題『舞台の位置』と書いて、線をまたいだ右側に『店の中央』とざくろの案を書いていく。
「そういうこと。で、一区切りついたら横線引っ張って区切ると見やすいよ」
「絵にしてみる、というのもアリだと思うよ」
 Uiscaもそんな提案をする。
「両開きのノートなら、半分のページに文字を書いて、もう半分で図解にするとわかりやすいかも」
「見取り図みたいな感じで大丈夫かしら?」
「部屋の形と入り口の位置と、舞台の位置がわかればいいと思うよ」
「ふむふむ」
 ブレンネは左ページに図解を書く。
「なんとか、行けそう……!」
「じゃあ、次は私が話すね」
 こほん、とUiscaが一度呼吸を落ち着けてから続ける。
「ステージは、歌を聞かせるなら酒場の四隅のどこかをバックにステージを作るのがいいかな? と思ったの。歌声が正面だけに響いて聴きやすいかなって。でも、レンがお客さんと直接触れ合いたいなら、ざくろさんが言ったように、真ん中にステージを作るものアリだと思うよ」
 ブレンネはUiscaの案をノートに書き込み、注釈などをつける。
「酒場の中央部分にシェーナ……あ、舞台のことだが、それだと座る席座る席で見る角度が違うので、面白いと思うよ」
 レオーネが、観客からどう見えるかも考えると良い、と言う。
「置する場所が決まったら、実際に角度を変えて座ってみるといい。君の歌を楽しみに来ているのに席が悪い、なんてガッカリだろ? なら、頭に入れておいた方がいい。楽しかったと言う記憶はまた次もと思わせるし、人を呼ぶ」
「見え方も重要なのね……。うん、実際にどう見えるかも考えないとね」
『見え方も考える』とブレンネがノートに書き込んだ。
「シニョール・クラバックが楽しみにしてた人がいたと言っていたなら、音楽に詳しくなくとも音楽に関心がある人は少なくないだろうし、定期的な開催を考えるなら観る側の視点は大事だろ」
「ちなみに僕は、入り口正面にステージを作るのもいいと思うよ。ほら、お店に入ったらすぐにステージが見えるじゃない?」
 と、キヅカの提案で、3つの案が出た。
「どれもいい部分があるのね……」
 悩ましくブレンネが言う。労力さえあれば、ライブの度に舞台を転換できるのだが、ここでは難しいだろう。
「ざくろ、思ったんだけど、舞台ってちょっと高い方が観客から観やすいよね? だから、お店にいらない樽があるなら、それで土台を作って、その上に板を張ったら、コストを抑えて土台の安定したステージが作れるんじゃ無いかな?」
「確かに、どこに舞台を作るにしても、少しぐらい高い方が良いだろうね」
 レオーネも同意した。
「オッケイ、クラバックさんに聞いてみるわ。……工夫って大事ね」
 今まで錬魔院の資金に頼っていたブレンネには、クラフト的発想が新鮮だった。
「ざくろ、昔、海岸でステージやる時に、そこに有る樽とかで即興ステージ作った事有って……浄化の為にお祭りする風習あるじゃ無い、そこで冒険仲間とアイドルステージをね」
 ざくろが微笑む。
「どういう歌を歌うかも大事かも」
 Uiscaは酒場の雰囲気を確認した。
「みんな軍歌に馴染みがあるから軍歌系を歌うのもよいけれど、食事中に騒がしい歌は苦手って人もいると思うの……私たちの世界だと子守唄とか、童歌みたいな……? あと、リアルブルーには、酒場が似合う『エンカ』ってジャンルの歌があるって恋人から聞いたことがあるけれど……」
 ちらっと、Uiscaは他3人のハンターを見る。実はこの場でUiscaとブレンネ以外はリアルブルーの出身だ。
「エンカ……日本の叙情歌だったね。ここはやはり郷土の人に聞くのが良いかな?」
 しかしレオーネはイタリアの出身。キヅカとざくろはちょうど日本の出身だった。
 2人はざっくり、日本独特の歌謡曲のひとつにそういうものがあると説明した。
「エンカね……。莉子もニホンの出身だし、あとで聞いてみるわ。セットリストに組み込めるかもしれないから」
 ブレンネは『演歌』と書き込み、『要検討』と末尾にくっつけた。
「他になんかある?」
 ブレンネが言うと、さらにキヅカが酒場でライブをするにあったての提案をする。
「……僕からの提案は、ライブは一定の曜日にするとか、併せて売れ筋メニューをセットでちょっと安くするとか。娯楽と食事を共に楽しめる連動を用意とかいいんじゃない? ”ブレンネセット”とか名前つけたりして。ポスターも作ったらいいと思うよ。歌ってる姿を撮って、店の外に貼るとか」
「大々的に告知できないから、曜日は決めた方がいいわよね……うんうん」
 がりがりとブレンネは筆記する。
「毎日歌うのは大変だし、レンが歌わない時はお客さんが歌えるステージにするとか?」
 と、Uiscaの提案。所謂カラオケだ。
「そうなると、やっぱり、問題は伴奏と楽器か……」
 とんとん、とペン先でブレンネがノートを叩き、ノート全体を眺めた。
 情報はわかりやすくまとまっているが、悪筆だけはそう簡単には治らない。
「読める、わよね……?」
「シニョリータ・ブレンネ」
 レオーネは手のひらを胸に当てて、微笑んだ。
「未来の自分が読めたら別にいいんだよ」
「そういうもん?」
「そうさ。それに、誰かに読んでもらう場合にも、一度読み上げてあげれば、そのあとは意外とガイドがなくとも読めるものだよ」
「文字は大成した後に考えてもいいんじゃない」
 と、キヅカ。
「サインなんて偽造も許さず、これがブレンネのサインだ! って価値着くんだから」
 ブレンネ、これには目から鱗といった表情。
「なるほど……はじめて、自分の文字を許せたわ……」
 そんなこんなのうちに、大まかな話し合いは終わったのだった。


「ステージ出来るの楽しみだね……。給仕のお仕事も頑張ってね、ざくろも遊びに来るから」
 目をキラキラさせてざくろが未来を思い描く。
 この時、ざくろは給仕と聞いて、何故か一瞬バニーガールが頭に浮かんだ。ブレンネのどこかあどけない雰囲気と、扇情的なバニーガールの組み合わせは不思議だったが、悪いものではなかった。
 そんな想像をしたざくろは、それを消すように、一気にジュースを飲んだ。
「おかわりいる?」
 ブレンネが水差しを取ろうとするが、
「だ、大丈夫。自分でできるよ!」
 と、言うざくろなのだった。
「ブレンネ。君が気に入ってる歌を教えてもらっていいか」
「構わないわよ」
「俺にはプリンチペッサ……妹達がいてね。リアルブルーからこちらへ避難してきているんだ。ちょうど君と年齢も近くてね。昨今の状況も、不安なことも多いだろう? だから、この世界の楽しいことも教えてやりたい。音楽なら世界超えて楽しいと俺は思うからさ」
 ブレンネは帝国の陽気な曲をいくつか挙げた。悲しいことも多いけれど、今だけは踊ろう、さあ手を取って。そんな曲だった。
「体を動かすと、嫌なことが吹き飛ぶこともあるでしょ?」
「なるほどね。その代わり俺もリアルブルーの歌を教えよう。カンツォーネというものなんだけどね……」
 レオーネはその意味も含めて話して聞かせた。
「気に入れば君が歌って広めてくれ」
「ん、了解。歌の練習、もっと頑張らないとね」
「これからのことも大事だが、これまでを無視しちゃいけないよ。シニョール・クラバックも、君が今まで頑張っていなかったら、またお願いとは言われなかったと思うぜ」
「そうね。これからもこれまでも無視しないわ」
「レン、私の悩みを聞いてくれない?」
 そこで、Uiscaがある悩みを話した。
「あたしでいいなら聞くけど」
「最近、依頼で飛び回っていて恋人と会えてなくて……」
「恋人、いるんだ?」
「そうなの」
 恋人のことを深く愛しているのだろう。Uiscaが恋人を語っている時の表情はとても柔らかい。
「……恋人と会えないと寂しい?」
「うん。すごく恋しいよ」
「会えないと、嫌いになる?」
「嫌いになったら、会いたいなんて思わないよ」
「それもそっかぁ……」
「レンは恋人はいないの?」
「いないわね。いたこともないわ」
 ブレンネは恋とはどんなものかしら、と思った。Uiscaにとっては、悪いものではないのだろう、とも思った。
「会えるといいね。うん、一緒にいられるといいね」


「じゃあね」
 と、ハンターは手を振って、帰るべき場所への道を進んでいく。
 ブレンネは入り口の前で彼らを見送った。
 地平に近づく太陽が、線香花火みたいに揺らめいて、橙色の光線を地上に送っていた。
「で、あんたは帰らないの?」
 ブレンネは隣にいるキヅカに言う。
「ちょっと2人で話したいことがあるんだ」
「ふうん?」
 ブレンネは話の続きを促す相槌を打った。
「……ちょっと前にさ、劣勢の部隊を助けたんだ」
 キヅカが虚空を見つめていう。沈む夕日の中にかつての映像を見るかのように。
「そしたら、怖がられちゃって」
 苦笑するキヅカをブレンネは見上げていた。風が2人の前髪を軽く撫でる。
「この力は……未来を作れるけれど、笑顔は……作れなかった。でも、ブレンネやエリンちゃんならそれが出来る。君は確かに実力がある。だから、誰よりも自分が笑顔に出来るんだって乗り越える為に歌ってみなよ」
「あはは、なんだかあたし、励まされちゃった? あたしはあたしのしたいことをできるようにするために頑張るよ。……できないこともわかったから」
 ブレンネは「あたしの話も聞いてよ」と言って続けた。
「シェオルが酒場に来た時さ、グリューエリンは戦うことを迷わなかった。でも、あたしは真っ先に『逃げなきゃ』って思ったんだ。あの時は興奮して戦ったけど、戦うのは怖いし、傷つくのは痛いよ。思い出すと、震えちゃう」
 そして、ブレンネはどこか冷静にいう。
「歌は誰かを笑顔にできるかもしれない。でも、歌じゃ根本的な解決って、できないと思うのよ。……お腹が減った時、歌を歌えば気がまぎれるかもしれないけど、空腹が解決するわけじゃないようにね。……まあ、だから」
 取り繕うように、ブレンネはなし崩しに笑った。
「あたしは歌う。石を投げられても、ね。当たると痛いけど、これは耐えられるから」
「これ、渡しておくよ」
 と、キヅカは[CS]魔導マイク「コルカネレ」をブレンネに渡した。
「ありがと。このマイクが必要になるくらいの広いステージで歌えるようにならないとね。その時には『あのマイクは僕が渡したものなんだ』って自慢してもいいわよ?」
 強気に、そしていたずらっぽく笑うブレンネに、キヅカもつられて笑った。
「ん。楽しみにしてる。じゃあね、ブレンネ」
「またね、リク」
 煮えたぎった夕日が落ちる前に、さよならをした。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • セシアの隣で、華を
    レオーネ・ティラトーレ(ka7249
    人間(蒼)|29才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/27 10:15:56
アイコン 【相談卓】ステージを考えよう!
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/04/27 10:17:44