ゲスト
(ka0000)
デートの見張りお願いします!
マスター:三田村 薫
このシナリオは3日間納期が延長されています。
オープニング
●お休み
「おや、今日は、いつものお二人はお休みですか」
ヴィルジーリオが、依頼終了後の事務手続きをしながらそう言うと、平坂みことは肩を竦めた。いつもの二人とは、C.J.(kz0273)とR.J.のことだ。結局この二人の関係はよくわかっていない。C.J.にいたっては、実は何の略なのかもヴィルジーリオは知らない。自分が病院に担ぎ込まれたときは「ジョルダン」と名乗っていたそうなので、Cナントカ・ジョルダンなんだろうとは思っている。
「RJさんは家族サービスですって! 昼は奥さんとデート、夜はご家族でディナーだそうで」
「素敵ですね」
「ねー。CJさんは約束があるからってお休み、私も半休です」
「そうでしたか。ではそろそろ上がりでは? お引き留めして申し訳ありません」
「気にしないでくださーい」
手続きを切り上げると、平坂は残務処理をしてから退勤した。
「じゃ、お疲れ様でした~」
「お疲れ様です。お気を付けて」
と、見送ったヴィルジーリオはたまたま居合わせたナンシーと雑談していたが……。
「あれ? ミコじゃない。どうしたのあんた。帰ったんじゃなかった?」
ナンシーの言葉にヴィルジーリオが振り返ると、そこには真っ青な顔をした平坂が立っている。私服に鞄を持っているので、一度出て行ったのは間違いない。
「どうされました?」
「CJさんが……」
「CJがどうしたの?」
「お、女の子と歩いてたんですぅ……」
●疑惑
「女の子……」
ヴィルジーリオがやや緊張気味に呟く。ナンシーも真面目な顔つきになって、
「アウグスタ?」
少女の姿をした嫉妬歪虚・アウグスタではないかと踏んだのだ。しかし、平坂は首をぶんぶんと横に振り、
「違いますぅ! 私とあんまり変わらない可愛い女の子と歩いてたんですぅ! 腕組んで! どうしよう! なんかまずい付き合いじゃないですよね!?」
ヴィルジーリオとナンシーは顔を見合わせた。
「なんですか、まずい付き合いって」
首を傾げるヴィルジーリオ。ナンシーは何かを察した様に、
「若い子騙して付き合わせてるって言いたいわけ?」
「はい……」
「CJってそう言うタイプに見えないけど……」
「人間恋愛になると倫理感飛ぶじゃないですかぁ! あの人口も達者だし! 丸め込んでとか……あわわわわ……ねえ! ちょっと後つけて様子見てきてくれませんかぁ!?」
●ハンドアウト
あなたたちは、ハンターオフィスにたまたまいたハンターです。一角が騒がしいので様子を見に行くと、お下げに眼鏡の女性職員・平坂みこと(十八歳・女性)が、同僚のC.J.(三十二歳・男性)が自分と同じくらいの女性と腕を組んで楽しげに歩いていたと言うのです。
「CJさんが若い女の子って絶対何か裏があると思うんですぅ! ちょっと様子見てきてください!」
あまりの取り乱しっぷりに、あなたたちは了承してしまったのでした。
「おや、今日は、いつものお二人はお休みですか」
ヴィルジーリオが、依頼終了後の事務手続きをしながらそう言うと、平坂みことは肩を竦めた。いつもの二人とは、C.J.(kz0273)とR.J.のことだ。結局この二人の関係はよくわかっていない。C.J.にいたっては、実は何の略なのかもヴィルジーリオは知らない。自分が病院に担ぎ込まれたときは「ジョルダン」と名乗っていたそうなので、Cナントカ・ジョルダンなんだろうとは思っている。
「RJさんは家族サービスですって! 昼は奥さんとデート、夜はご家族でディナーだそうで」
「素敵ですね」
「ねー。CJさんは約束があるからってお休み、私も半休です」
「そうでしたか。ではそろそろ上がりでは? お引き留めして申し訳ありません」
「気にしないでくださーい」
手続きを切り上げると、平坂は残務処理をしてから退勤した。
「じゃ、お疲れ様でした~」
「お疲れ様です。お気を付けて」
と、見送ったヴィルジーリオはたまたま居合わせたナンシーと雑談していたが……。
「あれ? ミコじゃない。どうしたのあんた。帰ったんじゃなかった?」
ナンシーの言葉にヴィルジーリオが振り返ると、そこには真っ青な顔をした平坂が立っている。私服に鞄を持っているので、一度出て行ったのは間違いない。
「どうされました?」
「CJさんが……」
「CJがどうしたの?」
「お、女の子と歩いてたんですぅ……」
●疑惑
「女の子……」
ヴィルジーリオがやや緊張気味に呟く。ナンシーも真面目な顔つきになって、
「アウグスタ?」
少女の姿をした嫉妬歪虚・アウグスタではないかと踏んだのだ。しかし、平坂は首をぶんぶんと横に振り、
「違いますぅ! 私とあんまり変わらない可愛い女の子と歩いてたんですぅ! 腕組んで! どうしよう! なんかまずい付き合いじゃないですよね!?」
ヴィルジーリオとナンシーは顔を見合わせた。
「なんですか、まずい付き合いって」
首を傾げるヴィルジーリオ。ナンシーは何かを察した様に、
「若い子騙して付き合わせてるって言いたいわけ?」
「はい……」
「CJってそう言うタイプに見えないけど……」
「人間恋愛になると倫理感飛ぶじゃないですかぁ! あの人口も達者だし! 丸め込んでとか……あわわわわ……ねえ! ちょっと後つけて様子見てきてくれませんかぁ!?」
●ハンドアウト
あなたたちは、ハンターオフィスにたまたまいたハンターです。一角が騒がしいので様子を見に行くと、お下げに眼鏡の女性職員・平坂みこと(十八歳・女性)が、同僚のC.J.(三十二歳・男性)が自分と同じくらいの女性と腕を組んで楽しげに歩いていたと言うのです。
「CJさんが若い女の子って絶対何か裏があると思うんですぅ! ちょっと様子見てきてください!」
あまりの取り乱しっぷりに、あなたたちは了承してしまったのでした。
リプレイ本文
●七変化
「十五歳以上なら成人済みでしょう」
と、平坂の心配事を一刀両断したのはGacrux(ka2726)である。それを聞くと、それまで頭に疑問符を浮かべていたヴィルジーリオが、「ああ」と納得したように声を漏らした。
「リアルブルーでは成人がもっと上なんでしたっけ?」
「日本は二十歳です……」
「アメリカは州によるけど十八歳以上のところが多いね。こっちでも地域によるだろうけど」
「この後は予定もありませんし、興味本位ですが手伝ってみますかねえ」
「興味本位でも何でも良いからお願いします」
「ええ。では行きましょうか、真くん」
と、彼は友人の鞍馬 真(ka5819)に声を掛けたのであった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は話を聞くや、平坂に歩み寄ってぎゅ、とハグをした。サルヴェイションである。
「わかったの、行ってくるの」
彼女はそれから平坂の顔を見て、
「誰からもノーマークで彼女いないって思ってた人が、自分と同じくらいの年の女の子を連れててビックリしちゃったんだよね。CJ、情けない所もあるけど面倒見がいいし、良い人だと思うの。大丈夫、みこちゃんからってばれないようにきちんと確認してくるから。疑問を持ったら声を上げることで防げる犯罪は確かにあるの。だから、みこちゃんにはこれからも声をきちんとあげられる人で居てほしいの。……みこちゃんの恋も、ちゃんと応援してるから」
「は?」
なんだかおぞましい誤解を受けている気がする。そう察した平坂は弁解しようとしたが……いやこれ逆に必死に見えて助長するやつだ……と思って黙っておくことにした。死んだ魚の目をして力なく微笑んだ。恋愛感情の誤解は心が死ぬ。
「素敵な殿方と組んで恋人ごっこや公然とデバガメできる超絶素敵依頼だったはずなのにぃ……」
ディーナと偽装カップルを組む事になった星野 ハナ(ka5852)も平坂と違う意味でがっくりしながら着替えを持って行った。身長差を鑑みて男装することにしたらしい。真も、現在女装するために着替え中だ。
「俺たちは良かったら四人で行動したりしないか? 友達の休日にシフトしよう」
と、形ばかり腕を組んでいるヴィルジーリオとナンシーに言うのはレオーネ・ティラトーレ(ka7249)。穂積 智里(ka6819)もその隣でちょこんと立って二人を見ている。
「ええ、構いませんよ」
レオーネは白いシンプルなシャツにジーンズ、その上から迷彩ジャケット、足下はグラビディブーツという、休日ちょっとお出かけするハンターという出で立ちだ。ナンシーも似たような格好で、ヴィルジーリオに至ってはローブである。二人っきりのデートよりも、確かに四人でいた方が目立たないような気はする。
智里は聖ウァレンティヌスが纏っていたとされる法衣をモチーフにした装備。デートの見守りに最適だろう。
●みんなのコーディネイト
「お待たせしましたぁ」
「がっくんお待たせしてごめんね。どうかな?」
やがて、ハナと真が着替えを済ませて出てきた。
ハナは、スーツ・ジェントルブラウンにつや消しレザーベスト・ウガルルム、ロングブーツ・ブルーロビンを合わせ、長髪を隠すのにシノミリアをかぶっている。もともと女性としては長身だが、意識して男を振る舞うとなかなかそれっぽい。ややあどけなさの残る、育ちの良い青年、と言った風情だろうか。トライバルタトゥーに似た法術刻印がワイルドさを醸し出しているので良い塩梅でもある。
「わあ、女子校でモテそう」
と言い放つのは平坂。
「素敵な殿方にモテたいですぅ」
一方、真はというと、王国のファッションブランドのウィングカラーシャツ……タキシードの時に下に着ることの多い、襟が立ったもの……の下にスカートを穿き、同じくブルーロビンを合わせた、地味ながらも品のある出で立ち。白地に金と銀の刺繍が施されたストール・ユースティティアを羽織るとあら素敵。どこのお嬢様だろうかという出で立ちだ。その手にはやはり王国ブランドの香水瓶があった。
「うわオシャレソウルトーチじゃないですか!」
平坂が叫んで、真は噴き出した。
「新手のスキルかな?」
「良いじゃないですかシンディ。よく似合ってますよ」
と言うGacruxも、黒革シャツにジャケット、ダメージジーンズ、アーミーブーツを合わせ、ジャケットの胸ポケットにさりげなくサングラスを差していた。なかなかの伊達男っぷりを見せている。更には、今風のデザインで人気の、防水の機械式腕時計をはめていた。男性の長身が映えるコーディネイトだ。ブラックオパールのペンダントも、胸元でシャツに馴染むようでいて、時折、煌めく赤斑が存在感を放っている。
「仕事ができる男って感じ」
ナンシーがしげしげと眺めた。Gacruxはにこりと微笑み、
「もちろん。依頼された仕事は完遂します」
クールな風貌だが、応対には温かみがあると感じ、ナンシーも笑顔を返した。
「えっと、じゃあ行こうか」
手首に香水をすり込みながら真が言った。智里が平坂を捕まえて、
「あのう……みことさん? 勿論大袈裟にしないように確認してきますけど……大丈夫ですか? みことさんがここでお騒ぎしたこと自体はCJさんの耳に入っちゃうんじゃないかと思います。あとで一緒に仕事がしづらくなるようなことがないよう、みことさんも何か言い訳を考えておいて下さいね?」
●食堂
Gacruxは視線をごまかすためにミラーシェードをかけて尾行を始めた。最初に二人が入ったのは食堂である。昼食はこれかららしい。
「好きなの頼んで良いよ。奢ってあげる」
「良いの? えーっとね、じゃあこれと……」
「……どうにも男女の関係には見えませんがね」
なんと言うか、ときめきと言う物が見いだせなかった。恋を知る者なら経験する高揚感。そう言うものが二人の間にはないように思えた。
「うーん、……あの甘え方は、恋人って感じじゃないよね。親戚とか、そんな感じ……?」
真もメニューで顔を隠しながら観察している。
「無言だと怪しまれますよ……倦怠期みたいじゃないですか」
「け、倦怠期って……えーと、がっくん、何食べたい? 私はこれと……あ、クレープも食べたいな、甘いやつ……」
「良いですよ。栄養のある美味しい物を食べて疲れを癒しましょう」
●服屋
「そうだがっくん、贈り物とか買わない? 今なら女性向けの店に入ってもおかしくないよ」
C.J.たちが服屋に入ったのを見て、真がGacruxの袖を引いた。
「アクセサリーやジュエリーも、相手の好みがありますからねえ……とは言え、折角だし見ていきましょうか」
「こらぁー! 猫についていってどうするんですかぁー!」
後ろでは、ハナが猫にすがりつくディーナの腰を掴んで引っ張っている。それでもディーナは抜けません。
「お猫さまに貢がず通り過ぎるなんてできないの」
「んもぅ……お、おかしいですぅ……どうして私がこんな目にぃ……」
「すごい。星野さんが振り回されている」
「あんた、ハナのこと何だと思ってんの?」
ヴィルジーリオの驚愕の呟きに、ナンシーが苦笑した。
(流石ですよ、真くん。見事に溶け込んでいます)
Gacruxは友人の女装の、あまりの違和感のなさにご満悦。一着の服を手に取り、
「シンディ。この服とか似合いそうじゃないですか?」
あてがってみたりする。その度に、シトラスの香水が、ほのかに広がる。印象を良くする魔法の香水であり、誰も彼が異性装をしてまで人のデートを尾行しているだなんて思うまい。案の定、店員がにこにこしながら、
「良くお似合いですよ」
と声を掛けてくる。Gacruxの腕時計にも目を留め、
「素敵な腕時計ですね。お客様、シックな感じがお似合いでしょうか。男性用小物でしたらこちらが……」
「そういえば……最近は忙しくて流行にも疎くなっていましたね」
Gacruxもまた、帽子などを手に乗って頭に乗せてみたりなどしている。
「あ、似合ってるよがっくん。かっこいい」
「ありがとうございます」
「この前言ってた従妹だろ。俺もこの手の誤解は受けるから何か解る。顔を見て納得されるけど」
そう言いながら、レオーネは、妹たちへの土産を考えていた。そこで、年齢の近い智里に見繕いの手伝いを頼んでいる。
「妹さんにですよね。髪の長い女の子なら髪留めは絶対喜ばれると思います」
「ああ、俺も、これから夏だから髪を結い上げるリボンやバレッタがいいかなと思ってて」
「消耗品ですから間違いもないんじゃないでしょうか。バックに付けられるくらいの小さな可愛い縫いぐるみもそんなに外さないと思います。探偵ごっこのお土産って言われるとハードルが高いですけど……可愛い手帳とそれに付けられる筆記具辺りでしょうか」
と、良いながら一生懸命選んでいる。時折C.J.たちを観察するのは忘れない。
「お前も夏は三つ編みとかどうだ。夕焼けみたいな赤毛似合う、瞳と同じ翠だぞ」
レオーネが、するりと一本のリボンを取って、ヴィルジーリオに差し出した。
「三つ編みですか。前やったらそれはもうひん曲がって悲惨な事になったんですよね。リボンは普通に一本結びにしても良いかもしれません」
●喫茶店
「ここからここまで下さいなの」
ディーナはメニューを指してそう注文した。少し困り顔になった給仕に視線を向けられたハナは、
「……こっちはロイヤルミルクティーだけで」
給仕が去ると、これから来る食べ物に思いを馳せるディーナを引っ張り、
「女の子同士ですから奢りませんよぅ。稼ぎだって同じくらいでしょぉ?」
と釘を刺している。それから、遠目にC.J.たちを見て、
「C.J.さんとR.J.さんってちょっと似てるじゃないですかぁ。二人揃ってお休みでぇ、何か雰囲気似た子を連れ歩いててぇ……あれどう見ても親族のおじちゃん行動ですよねぇ。私だって従兄弟の子供には名前で呼ばせますぅ」
おばちゃんとは呼ばせないのである。
「さっきレオーネさんが、従妹いるって言ってたの。久しぶりに会った親戚がおねだり散歩中だと思うの」
ディーナもこくこくと頷いた。やがて、できたものから注文の軽食が運ばれた。
「星野さんも良かったらどうぞなの」
「本当に私の分ありますぅ?」
ソーサを持ち上げながら、ハナは大きく息を吐く。先ほど寄った本屋で買ったお菓子の本をめくって癒しを求めたのであった。
そして、夕刻。
C.J.と女性は、レストランに足を運んだのであった。
●屋外待機
「家族の休日に飛び込むのもアレだ。引き上げないか?」
女性を、従妹と目するレオーネが提案すると、ナンシーは腕を組んだ。
「依頼を受けている以上、全員で撤退はちょっと」
「ではこうしましょう」
ヴィルジーリオが手を上げた。
「どの道、平坂さんから『依頼』を受けた以上、見届けは必須です。従妹と言うのも、固い予想ですが確証はない。ただ、八人で入るのも目立つ。特に四人組の我々はね。ですので、私と彼が屋外待機で人数調整。鞍馬さんとGacruxさんはそのまま入っても違和感ないでしょうし、穂積さん、スギハラさんと話すのに私がお邪魔だったでしょう。星野さんも一人で張ってるのは目立ちますし、フェルミさんも見届けがしたい筈です。六人で追い掛ける。どうです?」
「良いよ」
ナンシーが頷いた。
「決まりですね。さ、シンディ、先にどうぞ。アフター・ユー、ですよ」
Gacruxは極めて紳士的にドアを開け、真を先に通した。
●ディナー
C.J.たちは四人がけの席に通された。二人分、空席ができている。
「お食事中、よろしければアーマーはこちらの荷物入れにお入れ下さい」
「ありがとうございますなの」
給仕が、にっこり笑ってディーナの足下に荷物入れの籠を置く。ハンターの来店も多いのだろう。
「あ、お父さん!」
女性の方が手を振った。ハンターたちは入り口を振り返る。
「私たちの方が後だったか。クレートがこんなに早いとは思わなかったよ」
オフィス職員・R.J.その人だった。傍らにいるのは妻だろう。
「クレートくんお久しぶり。娘を見ててくれてありがとうね」
「お母さん! もう私十八なんだけど!」
「何言ってんの。いくつになったって君は僕たちにとっては子どもですー」
「クレートくんだって、いつまで経っても私たちの甥よ?」
「まあまあ、年齢談義は私に刺さるからやめてくれ。ところでクレート、義姉さんは来られなくて残念だったね」
R.J.が言うと、C.J.は肩を竦めた。
「まあ、予定あっちゃ仕方ないよね。叔父さんたちによろしくって」
真がそれを見て、Gacruxに囁いた。
「『ご家族でディナー』ってことだね」
「どうやらそうらしいですね。まあ、従妹なら結婚できたような気もしますが」
ディーナが立ち上がった。Gacruxたちと、智里たちに小さく手を振る。突撃するつもりらしい。
「CJもRJさんもこんばんはなの、今日は家族でお食事会? 私はデートの予行演習に付き合って貰ってるの」
「こんばんは、ディーナ。こちら僕の従妹と叔母さんだよ。久しぶりに食事でもってことさ」
「……やっぱりご親族様でしたね」
ア・ラ・カルトで注文した料理を口に運びながら智里が呟いた。
「取り越し苦労ほど良い結果はないってね。良かったよ」
ナンシーがグリルチキンを食べながら、しみじみと首を横に振る。
「ところで、智里のそれ美味しそうだね。一口ずつ交換しない?」
「はい、じゃあ、お皿ごと一旦交換で良いでしょうか」
Gacruxと真が乾杯した。二人とも、気心の知れた友人と、依頼の一環とは言え外出してそこそこ楽しめた様だ。魔法が解けるように香水も薄まっているけれど、楽しげな友人同士の食事は見ていて気分の良いものである。
尾行に気付いたR.J.がハンターたちのテーブルにデザートを手配し、それで露見に気付いたハナが帽子を脱いで乱入、C.J.に飲み会の提案をしたのはまた別の話だ。
「僕、お酒飲まないから、食事だけなら」
そう言って彼が快諾したことだけは記しておこう。
●今日を編む
さて、レストラン外で待機している男二人である。ヴィルジーリオは買った緑色のリボンをしげしげと眺めている。
「中々楽しい一日だった。素直な釘バットはお休みさせてたか?」
レオーネが屈託なく訪ねた。
「ええ、今日は振り回す余地がなくて幸いでした」
それを聞いて青い目の友人は楽しげに笑う。
「で、三つ編みしないの? 『ヴィオ』」
「一人じゃできませんからね。してくださいますか? 『レオ』」
「お安いご用さ」
レオーネは、リボンを受け取ると彼を手招きした。
少し日が長くなっている。夕焼けが鮮烈に空を染め、反対側から少しずつ夜が来る。
今日一日の思い出を編もう。
そしてまた、明日からの思い出を紡ごう。
「十五歳以上なら成人済みでしょう」
と、平坂の心配事を一刀両断したのはGacrux(ka2726)である。それを聞くと、それまで頭に疑問符を浮かべていたヴィルジーリオが、「ああ」と納得したように声を漏らした。
「リアルブルーでは成人がもっと上なんでしたっけ?」
「日本は二十歳です……」
「アメリカは州によるけど十八歳以上のところが多いね。こっちでも地域によるだろうけど」
「この後は予定もありませんし、興味本位ですが手伝ってみますかねえ」
「興味本位でも何でも良いからお願いします」
「ええ。では行きましょうか、真くん」
と、彼は友人の鞍馬 真(ka5819)に声を掛けたのであった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は話を聞くや、平坂に歩み寄ってぎゅ、とハグをした。サルヴェイションである。
「わかったの、行ってくるの」
彼女はそれから平坂の顔を見て、
「誰からもノーマークで彼女いないって思ってた人が、自分と同じくらいの年の女の子を連れててビックリしちゃったんだよね。CJ、情けない所もあるけど面倒見がいいし、良い人だと思うの。大丈夫、みこちゃんからってばれないようにきちんと確認してくるから。疑問を持ったら声を上げることで防げる犯罪は確かにあるの。だから、みこちゃんにはこれからも声をきちんとあげられる人で居てほしいの。……みこちゃんの恋も、ちゃんと応援してるから」
「は?」
なんだかおぞましい誤解を受けている気がする。そう察した平坂は弁解しようとしたが……いやこれ逆に必死に見えて助長するやつだ……と思って黙っておくことにした。死んだ魚の目をして力なく微笑んだ。恋愛感情の誤解は心が死ぬ。
「素敵な殿方と組んで恋人ごっこや公然とデバガメできる超絶素敵依頼だったはずなのにぃ……」
ディーナと偽装カップルを組む事になった星野 ハナ(ka5852)も平坂と違う意味でがっくりしながら着替えを持って行った。身長差を鑑みて男装することにしたらしい。真も、現在女装するために着替え中だ。
「俺たちは良かったら四人で行動したりしないか? 友達の休日にシフトしよう」
と、形ばかり腕を組んでいるヴィルジーリオとナンシーに言うのはレオーネ・ティラトーレ(ka7249)。穂積 智里(ka6819)もその隣でちょこんと立って二人を見ている。
「ええ、構いませんよ」
レオーネは白いシンプルなシャツにジーンズ、その上から迷彩ジャケット、足下はグラビディブーツという、休日ちょっとお出かけするハンターという出で立ちだ。ナンシーも似たような格好で、ヴィルジーリオに至ってはローブである。二人っきりのデートよりも、確かに四人でいた方が目立たないような気はする。
智里は聖ウァレンティヌスが纏っていたとされる法衣をモチーフにした装備。デートの見守りに最適だろう。
●みんなのコーディネイト
「お待たせしましたぁ」
「がっくんお待たせしてごめんね。どうかな?」
やがて、ハナと真が着替えを済ませて出てきた。
ハナは、スーツ・ジェントルブラウンにつや消しレザーベスト・ウガルルム、ロングブーツ・ブルーロビンを合わせ、長髪を隠すのにシノミリアをかぶっている。もともと女性としては長身だが、意識して男を振る舞うとなかなかそれっぽい。ややあどけなさの残る、育ちの良い青年、と言った風情だろうか。トライバルタトゥーに似た法術刻印がワイルドさを醸し出しているので良い塩梅でもある。
「わあ、女子校でモテそう」
と言い放つのは平坂。
「素敵な殿方にモテたいですぅ」
一方、真はというと、王国のファッションブランドのウィングカラーシャツ……タキシードの時に下に着ることの多い、襟が立ったもの……の下にスカートを穿き、同じくブルーロビンを合わせた、地味ながらも品のある出で立ち。白地に金と銀の刺繍が施されたストール・ユースティティアを羽織るとあら素敵。どこのお嬢様だろうかという出で立ちだ。その手にはやはり王国ブランドの香水瓶があった。
「うわオシャレソウルトーチじゃないですか!」
平坂が叫んで、真は噴き出した。
「新手のスキルかな?」
「良いじゃないですかシンディ。よく似合ってますよ」
と言うGacruxも、黒革シャツにジャケット、ダメージジーンズ、アーミーブーツを合わせ、ジャケットの胸ポケットにさりげなくサングラスを差していた。なかなかの伊達男っぷりを見せている。更には、今風のデザインで人気の、防水の機械式腕時計をはめていた。男性の長身が映えるコーディネイトだ。ブラックオパールのペンダントも、胸元でシャツに馴染むようでいて、時折、煌めく赤斑が存在感を放っている。
「仕事ができる男って感じ」
ナンシーがしげしげと眺めた。Gacruxはにこりと微笑み、
「もちろん。依頼された仕事は完遂します」
クールな風貌だが、応対には温かみがあると感じ、ナンシーも笑顔を返した。
「えっと、じゃあ行こうか」
手首に香水をすり込みながら真が言った。智里が平坂を捕まえて、
「あのう……みことさん? 勿論大袈裟にしないように確認してきますけど……大丈夫ですか? みことさんがここでお騒ぎしたこと自体はCJさんの耳に入っちゃうんじゃないかと思います。あとで一緒に仕事がしづらくなるようなことがないよう、みことさんも何か言い訳を考えておいて下さいね?」
●食堂
Gacruxは視線をごまかすためにミラーシェードをかけて尾行を始めた。最初に二人が入ったのは食堂である。昼食はこれかららしい。
「好きなの頼んで良いよ。奢ってあげる」
「良いの? えーっとね、じゃあこれと……」
「……どうにも男女の関係には見えませんがね」
なんと言うか、ときめきと言う物が見いだせなかった。恋を知る者なら経験する高揚感。そう言うものが二人の間にはないように思えた。
「うーん、……あの甘え方は、恋人って感じじゃないよね。親戚とか、そんな感じ……?」
真もメニューで顔を隠しながら観察している。
「無言だと怪しまれますよ……倦怠期みたいじゃないですか」
「け、倦怠期って……えーと、がっくん、何食べたい? 私はこれと……あ、クレープも食べたいな、甘いやつ……」
「良いですよ。栄養のある美味しい物を食べて疲れを癒しましょう」
●服屋
「そうだがっくん、贈り物とか買わない? 今なら女性向けの店に入ってもおかしくないよ」
C.J.たちが服屋に入ったのを見て、真がGacruxの袖を引いた。
「アクセサリーやジュエリーも、相手の好みがありますからねえ……とは言え、折角だし見ていきましょうか」
「こらぁー! 猫についていってどうするんですかぁー!」
後ろでは、ハナが猫にすがりつくディーナの腰を掴んで引っ張っている。それでもディーナは抜けません。
「お猫さまに貢がず通り過ぎるなんてできないの」
「んもぅ……お、おかしいですぅ……どうして私がこんな目にぃ……」
「すごい。星野さんが振り回されている」
「あんた、ハナのこと何だと思ってんの?」
ヴィルジーリオの驚愕の呟きに、ナンシーが苦笑した。
(流石ですよ、真くん。見事に溶け込んでいます)
Gacruxは友人の女装の、あまりの違和感のなさにご満悦。一着の服を手に取り、
「シンディ。この服とか似合いそうじゃないですか?」
あてがってみたりする。その度に、シトラスの香水が、ほのかに広がる。印象を良くする魔法の香水であり、誰も彼が異性装をしてまで人のデートを尾行しているだなんて思うまい。案の定、店員がにこにこしながら、
「良くお似合いですよ」
と声を掛けてくる。Gacruxの腕時計にも目を留め、
「素敵な腕時計ですね。お客様、シックな感じがお似合いでしょうか。男性用小物でしたらこちらが……」
「そういえば……最近は忙しくて流行にも疎くなっていましたね」
Gacruxもまた、帽子などを手に乗って頭に乗せてみたりなどしている。
「あ、似合ってるよがっくん。かっこいい」
「ありがとうございます」
「この前言ってた従妹だろ。俺もこの手の誤解は受けるから何か解る。顔を見て納得されるけど」
そう言いながら、レオーネは、妹たちへの土産を考えていた。そこで、年齢の近い智里に見繕いの手伝いを頼んでいる。
「妹さんにですよね。髪の長い女の子なら髪留めは絶対喜ばれると思います」
「ああ、俺も、これから夏だから髪を結い上げるリボンやバレッタがいいかなと思ってて」
「消耗品ですから間違いもないんじゃないでしょうか。バックに付けられるくらいの小さな可愛い縫いぐるみもそんなに外さないと思います。探偵ごっこのお土産って言われるとハードルが高いですけど……可愛い手帳とそれに付けられる筆記具辺りでしょうか」
と、良いながら一生懸命選んでいる。時折C.J.たちを観察するのは忘れない。
「お前も夏は三つ編みとかどうだ。夕焼けみたいな赤毛似合う、瞳と同じ翠だぞ」
レオーネが、するりと一本のリボンを取って、ヴィルジーリオに差し出した。
「三つ編みですか。前やったらそれはもうひん曲がって悲惨な事になったんですよね。リボンは普通に一本結びにしても良いかもしれません」
●喫茶店
「ここからここまで下さいなの」
ディーナはメニューを指してそう注文した。少し困り顔になった給仕に視線を向けられたハナは、
「……こっちはロイヤルミルクティーだけで」
給仕が去ると、これから来る食べ物に思いを馳せるディーナを引っ張り、
「女の子同士ですから奢りませんよぅ。稼ぎだって同じくらいでしょぉ?」
と釘を刺している。それから、遠目にC.J.たちを見て、
「C.J.さんとR.J.さんってちょっと似てるじゃないですかぁ。二人揃ってお休みでぇ、何か雰囲気似た子を連れ歩いててぇ……あれどう見ても親族のおじちゃん行動ですよねぇ。私だって従兄弟の子供には名前で呼ばせますぅ」
おばちゃんとは呼ばせないのである。
「さっきレオーネさんが、従妹いるって言ってたの。久しぶりに会った親戚がおねだり散歩中だと思うの」
ディーナもこくこくと頷いた。やがて、できたものから注文の軽食が運ばれた。
「星野さんも良かったらどうぞなの」
「本当に私の分ありますぅ?」
ソーサを持ち上げながら、ハナは大きく息を吐く。先ほど寄った本屋で買ったお菓子の本をめくって癒しを求めたのであった。
そして、夕刻。
C.J.と女性は、レストランに足を運んだのであった。
●屋外待機
「家族の休日に飛び込むのもアレだ。引き上げないか?」
女性を、従妹と目するレオーネが提案すると、ナンシーは腕を組んだ。
「依頼を受けている以上、全員で撤退はちょっと」
「ではこうしましょう」
ヴィルジーリオが手を上げた。
「どの道、平坂さんから『依頼』を受けた以上、見届けは必須です。従妹と言うのも、固い予想ですが確証はない。ただ、八人で入るのも目立つ。特に四人組の我々はね。ですので、私と彼が屋外待機で人数調整。鞍馬さんとGacruxさんはそのまま入っても違和感ないでしょうし、穂積さん、スギハラさんと話すのに私がお邪魔だったでしょう。星野さんも一人で張ってるのは目立ちますし、フェルミさんも見届けがしたい筈です。六人で追い掛ける。どうです?」
「良いよ」
ナンシーが頷いた。
「決まりですね。さ、シンディ、先にどうぞ。アフター・ユー、ですよ」
Gacruxは極めて紳士的にドアを開け、真を先に通した。
●ディナー
C.J.たちは四人がけの席に通された。二人分、空席ができている。
「お食事中、よろしければアーマーはこちらの荷物入れにお入れ下さい」
「ありがとうございますなの」
給仕が、にっこり笑ってディーナの足下に荷物入れの籠を置く。ハンターの来店も多いのだろう。
「あ、お父さん!」
女性の方が手を振った。ハンターたちは入り口を振り返る。
「私たちの方が後だったか。クレートがこんなに早いとは思わなかったよ」
オフィス職員・R.J.その人だった。傍らにいるのは妻だろう。
「クレートくんお久しぶり。娘を見ててくれてありがとうね」
「お母さん! もう私十八なんだけど!」
「何言ってんの。いくつになったって君は僕たちにとっては子どもですー」
「クレートくんだって、いつまで経っても私たちの甥よ?」
「まあまあ、年齢談義は私に刺さるからやめてくれ。ところでクレート、義姉さんは来られなくて残念だったね」
R.J.が言うと、C.J.は肩を竦めた。
「まあ、予定あっちゃ仕方ないよね。叔父さんたちによろしくって」
真がそれを見て、Gacruxに囁いた。
「『ご家族でディナー』ってことだね」
「どうやらそうらしいですね。まあ、従妹なら結婚できたような気もしますが」
ディーナが立ち上がった。Gacruxたちと、智里たちに小さく手を振る。突撃するつもりらしい。
「CJもRJさんもこんばんはなの、今日は家族でお食事会? 私はデートの予行演習に付き合って貰ってるの」
「こんばんは、ディーナ。こちら僕の従妹と叔母さんだよ。久しぶりに食事でもってことさ」
「……やっぱりご親族様でしたね」
ア・ラ・カルトで注文した料理を口に運びながら智里が呟いた。
「取り越し苦労ほど良い結果はないってね。良かったよ」
ナンシーがグリルチキンを食べながら、しみじみと首を横に振る。
「ところで、智里のそれ美味しそうだね。一口ずつ交換しない?」
「はい、じゃあ、お皿ごと一旦交換で良いでしょうか」
Gacruxと真が乾杯した。二人とも、気心の知れた友人と、依頼の一環とは言え外出してそこそこ楽しめた様だ。魔法が解けるように香水も薄まっているけれど、楽しげな友人同士の食事は見ていて気分の良いものである。
尾行に気付いたR.J.がハンターたちのテーブルにデザートを手配し、それで露見に気付いたハナが帽子を脱いで乱入、C.J.に飲み会の提案をしたのはまた別の話だ。
「僕、お酒飲まないから、食事だけなら」
そう言って彼が快諾したことだけは記しておこう。
●今日を編む
さて、レストラン外で待機している男二人である。ヴィルジーリオは買った緑色のリボンをしげしげと眺めている。
「中々楽しい一日だった。素直な釘バットはお休みさせてたか?」
レオーネが屈託なく訪ねた。
「ええ、今日は振り回す余地がなくて幸いでした」
それを聞いて青い目の友人は楽しげに笑う。
「で、三つ編みしないの? 『ヴィオ』」
「一人じゃできませんからね。してくださいますか? 『レオ』」
「お安いご用さ」
レオーネは、リボンを受け取ると彼を手招きした。
少し日が長くなっている。夕焼けが鮮烈に空を染め、反対側から少しずつ夜が来る。
今日一日の思い出を編もう。
そしてまた、明日からの思い出を紡ごう。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 15人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/29 18:51:12 |
|
![]() |
誰が誰のフォローをしよう(困 ディーナ・フェルミ(ka5843) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/05/03 08:07:19 |