• 血断

【血断】アポカリプス・カプリス

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/05 07:30
完成日
2019/05/19 10:47

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●求められる選択
「クリュティエ、ワッフルとコショウって何?」
「それを言うなら和平交渉だ。一旦戦いをやめて話し合おう、ということだな」
「何で? 殴った方が早くない?」
「……それは短慮というものだ、テセウス。我々の目的は変わらんが、お互いを傷つけずに済む方法があるのならそれが一番だからな」
「そういえば、ハンターもそんなこと言ってたなぁ……。じゃあハンターと喧嘩しちゃダメなの?」
「まあ、そうだな。少なくとも話が纏まるまでは大人しくしていてくれると助かる」
「うん。分かったよ」
「随分あっさりと納得したな。良いのか?」
「良くはないけど。……シュレディンガー様は、俺に『ハンターに復讐しろ』とは言わなかったんだよね。よくよく考えたら、そうして欲しかったら最期にそう言えた筈なんだ。でも、あの人が言ったのは『世界を見ろ』だった」
「……『世界を見ろ』か。……ファナティックブラッドは世界の終わりを観測し、記録するシステムなのはお前も知っているだろう?」
「うん。シュレディンガー様が言ってた」
「ファナティックブラッドが記録できる期間は短い。早く諦めてくれれば、それだけ“平和な時間”を長く観測し、再現できる。今ならまだ多くの命が想い出の中で救われるんだ」
「……『思い出』の中で、救われる?」
「ファナティックブラッドは全ての世界を救うまで止まれない。今はまだ未来に辿り着けていないが、もっと多くの可能性を取り込み続ければ……この世界には特に、未来を生み出す上で必要なものを持っているかもしれない。……それが、この世界にとって最善ではないことは解っている。それでも、我は諦められないんだ」
「……泣かないで、クリュティエ。俺も、皆もいるよ。大丈夫だよ。きっと解ってくれるよ」
「我は泣いてなどいないが」
「そう? 泣いてるみたいに見えたから」
「お前に気遣われる日が来るとはな……」
「だってクリュティエは俺の妹でしょ。仲良くしなさいってシュレディンガー様も言ってたし」
「……そうか。今日も出かけるのか?」
「うん。出来るだけ世界を見て回りたいし。ハンターとももう少し話してみたいし。あ!! この間ハンターがすごい美味しいお菓子教えてくれたんだよ! クリュティエにもお土産に持って帰ってくるね!」
「……テセウス。お前は歪みがないな。そんなお前だから、シュレーディンガーはお前に託したのかもしれない」
「託すって何を? 俺が貰ったのは転移能力だけだよ?」
「それは自分で考えろ」
「えー。何だよ。ケチー!」
「ほら。いいから行ってこい。くれぐれも揉め事は起こしてくれるなよ?」

●わたしが見たもの
 ハンター達は教えてくれた。
 誰かとの大切な記憶、物や場所はその縁は『想い出』というのだと。
 人や物は消えても、大切に思っている限り心から消えないと。
 世界を見ることで、想い出は増えていく。
 俺の中にも、沢山の想い出が増えた。

 ――クリュティエは、ファナティックブラッドに取り込まれれば多くの命が『想い出』の中で救われると言っていた。
 でも、大精霊やハンター達はそれを拒んでいると聞いた。

 ――何でだろう?
 ハンター達はモノを壊してはいけないと言った。
 でも、戦うことでモノは壊れていく。
 だったら、ファナティックブラッドに取り込まれた方がいいんじゃないだろうか。
 ……その中で想い出を増やすことが出来るんじゃないだろうか?

 分からない。分からないから聞いてみよう。
 きっとハンター達なら教えてくれる筈だ。
 ……ああ、でも黙ってヒトの世界に行ったらダメだって言ってたな。
 じゃあ、お知らせしてから行こうっと。


●アポカリプス・カプリス
「……あの、すみませんハンターさん。この手紙一緒に確認してもらってもいいですか?」
 人が多く集まるハンターズソサエティ。手紙を持って歩み寄って来たソサエティ職員、イソラが何だか困惑しているような気がしてハンター達は首を傾げる。
「別に構わんが……どうかしたのか?」
「ええ、ちょっと目を疑う内容だったものですから……」
「……ちょっと失礼するわね」
 手紙を広げるイソラ。ハンターもそれを覗き込む。


 ハンターのみなさんへ

 こんにちは。テセウスです。
 ちかぢか そちらに あそびにいきます。

 みなさんが ステキだとおもうばしょに、おれを あんないしてください。
 あと、おいしいたべものを おしえてください。

 それから、ファナティックブラッドに とりこまれたくないのは どうしてですか?
 りゆうを おしえてください。

 ついしん
 ふの マテリアルを おさえるほうほうは クリュティエにならいました。
 だから だいじょうぶです。

 もう1つ ついしん
 こんかいは たたかったらダメって クリュティエにいわれたので ぶきはおいていきます。

 もくしきし テセウス より


 時々誤字が混じった拙い手紙。2枚目には現れる時間と場所が書いてあって……それをかろうじて読み終わったハンター達は、思わず顔を見合わせる。
「もくしきしって黙示騎士のことだよな」
「テセウスってあのテセウスよね……」
「子供みたいな手紙ですし、悪戯かと思ったんですが、この手紙から微量な負のマテリアル感じますしどうしたものかと……」
 微妙な顔をしているイソラ。ハンター達は大きくため息をつく。
 ……恐らく、ではあるが。これはテセウス本人が出して来た手紙に間違いないだろう。
 前回会った時に、こちらに来る時は報せろと言い含めておいたし。
 中身がお子様のテセウスなら、こんな拙い文章になるのも納得できる。
「この手紙が本物だった場合、ちょっと放っておくのもマズいので……申し訳ないんですが、指定の場所に見に行って貰ってもいいですか? もし何もなければ、そのまま解散して戴いて構わないので」
「分かった。引き受けよう」
「放っておいて勝手に歩かれても困るものね……」
 イソラの言葉に頷くハンター達。

 やって来るという予告状を寄越した黙示騎士を迎える為、ハンター達は準備を開始した。

リプレイ本文

「素敵だと思う場所……ねえ。連れて行ってあげたかったけど移動が大変だから他の人に頼んでちょうだい」
「え。言ってくれたら転移で連れてったのに」
 きっぱりと断言したアルスレーテ・フュラー(ka6148)に頬を膨らませるテセウス。
 彼の言葉に、アルスレーテの動きが止まる。
「……ちょっと待って。あんた、知らないとこにも行けるの?」
「多分。まあ、よく知らない場所だと間違って空の上に出ちゃうこととかあるけど」
「多分って何よ危ないわね! 却下よ却下!!」
 ピシャリと跳ね除けた彼女。テセウスの前にツナサンドを並べる。
「はいこれ。お約束だけど。愛情はあんまりこもってないけど美味しいはずよ」
「あ、ツナサンドだ! アルスレーテ母さんの作っt……」
 ゴッという鈍い音がして頭を押さえるテセウス。ニッコリ笑った彼女から拳骨がお見舞いされたと気づいて涙目で睨む。
「痛い! 何で殴るの!?」
「誰が母さんか! 姉さんと呼びなさい姉さんと!」
「だって俺生んだみたいなもんって……痛っ」
「未婚の麗しい女性に対して何てこと言うのよ! 殴るわよ!?」
「もう殴ってるじゃん!!」
 テセウスの抗議をスルーした彼女は淡々と続ける。
「んで、ファナティックブラッドに取り込まれたくない理由だったかしら。簡単よ。私にとって敵だから」
 ハンター達も、リアルブルーもクリムゾンウェストも……既に邪神の軍勢との戦いで、結構な被害を受けている。
 今更そんな話をされて、大人しく取り込まれて下さいなんて言われて、はいそうですかと言えるほど自分は優しくはなれない。
 交渉したいなら、殴りかかる前に言えば良かったのだ。もう、話し合いで解決するタイミングはとうに過ぎている。
 自分にとって邪神は侵略者でしかない。
「……そういう訳だから、クリュティエに伝えなさい。あんたらの都合なんか知らないって」
「分かったよ、か……姉さん」
「よろしい」
 何かを言いかけたテセウス。反射的に拳を固めたアルスレーテ。
 咄嗟に頭を隠して言い直した彼に、アルスレーテが満足そうに頷いた。


「俺、約束守って連絡したよ!」
「うん! エライ!」
 得意満面のテセウスにぎゅっと抱きつくシアーシャ(ka2507)。
 今日は抱き着いても眩暈がしない。負のマテリアルを抑えているというのも本当らしい。
 だったら大丈夫だろう、と判断して。彼の手にそっと灰色の毛並みの仔猫を乗せる。
「わあ?! 小さい! ふわふわ!」
「仔猫だよ。可愛いでしょ」
「えっ。俺が触ったら死なない!?」
「負のマテリアル抑えてれば大丈夫だよ」
 慌てるテセウス。仔猫を気遣う気持ちがあるのだと知って、シアーシャの笑みが深くなる。
「この子はね、今年の春に生まれたの。これからどんどん大きくなるよ」
 テセウスの手の上の小さな命を撫でる彼女。仔猫を見つめたまま続ける。
「この子も、わたしも……命あるものはいつかは死んでしまうけど。生きていることで、新しく知ることもできるし、何かを作り出すこともできるんだよ」
 生きるということは幸せなことだけではない。辛いことも勿論ある。
 そういうものを全てひっくるめて生命というものは彩られ――思い出と大切なものが増えていく。
 シアーシャの説明に、テセウスも頷く。
「うん。俺にも思い出が増えた」
「でも想い出は、過去の出来事で未来がないから。邪神に取り込まれても、いつか未来が訪れるかもしれないとは聞いたけど……でも、それまではずっと同じことの繰り返しなんでしょ? それって、幸せだとは思えないんだよ」
 永遠に続く循環。それは『生きている』と言えるのか?
 ……シアーシャは、違うと。そう思うから。
「だから、想い出を増やすんだよ。死ぬときに後悔しないように。……取り込まれたら、この子は想い出を作ることができないの。それどころか生まれることすら出来なくなるんだよ」
 仔猫をじっと見つめていたテセウス。
 無言でシアーシャに仔猫を渡すと、彼女に手を伸ばして――。
 子猫ごと抱き寄せられて、シアーシャが目を丸くする。
「……テセウス? どうかした?」
「シアーシャさんも温かい。俺、皆がファナティックブラッドを受け入れてくれたら仲良く出来るんだと思ってたけど……シアーシャさんが温かくなくなるのは嫌だな」
 テセウスの頭をよしよしと撫でるシアーシャ。
 こうして素直に甘えてくるテセウスを、敵だと割り切れる気がしない。
 ――交渉が決裂したら、彼とも戦うことになるのだろうか。
 他の道はないのかな……。
 考えを巡らせたけれど、いい考えは浮かばなかった。


 鳳凰院ひりょ(ka3744)は料理が上手だ。
 彼がテセウスの為に用意したお子様向けのカレーは、甘いがしっかりとしたコクがあって、テセウスも大層お気に召したらしい。
 3杯目のおかわりを要求されたところで、ひりょは口を開いた。
「そういえば、君にずっと礼を言いたいと思っていたんだ」
「ん? 俺、何かしましたっけ」
「この間ニダヴェリールに現れた時、大きな被害も出さずにいてくれただろう」
「……何でお礼言うんです? 壊さなかったのはたまたまですよ?」
「ああ、それは理解している。それでも、な」
 キョトンとするテセウスに、カレーのおかわりを渡しながら、ひりょは少し遠い目をする。
「あの事件の時。あの場所に大事な人がいたんだ」
「えっと。その人って、俺にとってのシュレディンガー様みたいなものですか?」
「いや、親という訳じゃないんだが……」
 テセウスの問いに思いを巡らせるひりょ。
 ――彼は友というか、同志と言うか、仲間と言うか……。
 本人が聞いたら、『そんな事言って私を懐柔したつもりですか?』と言われるだろうか。
 彼は、大事な人の家族だから、ひりょにとっても大事な存在なのだ。
 ……やっぱり、そう告げたら微妙な顔をする気がする。
「……君は邪神に取り込まれたくない理由を知りたいんだったか?」
「はい。クリュティエに教えてあげたいんですよね」
「そうか。俺の理由は……リアルブルーに救い出したい人がいるから、かな」
 強化人間手術に失敗し、昏睡状態に陥っているあの子の父君。
 封印された蒼の世界で眠り続けている彼に、いつか対面したいと思うから――。
 そう続けたひりょに、テセウスは首を傾げる。
「でも、その人起きないかもしれないんでしょう?」
「ああ、分からないが……可能性はあるだろ。人は一縷の望みにかけて暗闇の中でも突き進むことが出来る。そうして今までも道を切り開いてきたんだ」
「同じ望みをかけるなら、ファナティックブラッドの中で未来を探してもいいじゃないですか」
「……それは後ろ向きな選択だと思うんだよ、テセウス。思い出という殻の中に閉じこもるのではなく未来を勝ち取りたいんだ。真の意味でね」
「どう違うのか俺にはよくわからないです」
「大分違うよ。その違いが何なのか、君なりに答えを探してみるといい」
「教えてくれないんですか? あ、おかわりください」
「こういうのは自分で考えることに意味があるんだよ……って、君よく食べるな」
 皿を差し出して来るテセウスに、ひりょは苦笑を返した。


「さっきの料理美味しかった!」
「そうでしょ。姉さんの店は魚が美味しいんだ」
 海上レストランからテセウスを伴って出て来たラミア・マクトゥーム(ka1720)。
 鰆のソテーの話をしながら歩き続ける彼を制止する。
「これから案内するけど、見たいっていうなら壊そうとするのはやめてよね。約束、できる?」
「うん! 負のマテリアルも抑えてるでしょ?」
 えっへんと胸を張るテセウス。調子狂うなあ……とラミアは思いつつも、と彼の手を取って小指同士を絡める。
「……? 何してるの?」
「指切り。人間はこうやって約束を交わすんだよ」
 ふぅん、と呟き、不思議そうな顔をしている彼を、ラミアは街へと案内した。
 街の喧騒。人々で賑わう市場。
 客を呼び込む商人の声。大きな荷物を運ぶ腕っぷしの良い男達。
 元気に駆け回る子供達。
 その姿を、赤子を抱きながら見つめる母親――。
 ひっくり返した宝石箱のように彩り溢れる世界を、テセウスはまじまじと見つめている。
「これがラミアさんの見せたい世界?」
「そう。日々一生懸命生きている人達がいるっていうのを、見て欲しくてね」
 頷くラミア。
 壊すことで何が失われるのか、テセウスにきちんと知って欲しかったから。
 彼はその景色をじっと見つめて、綺麗だ……と一言呟いて、続ける。
「どうしてファナティックブラッドは、こういうのを記録しないんだろう」
「……だから、皆嫌なんじゃないの?」
 振り返るテセウス。あの人と同じ顔にじっと見つめられて居心地の悪さを感じながらも、彼女は口を開く。
「邪神は世界の終わり……痛みの記憶しか観ない神なんでしょ? そんなの、取り込まれても辛いだけじゃない」
「でも、もしかしたら上書き出来るかもしれないよ」
「あくまでも可能性の話でしょ、それは」
 そっか、と頷くテセウス。彼は街並みに目線を戻す。
「俺、別にヒトが何人消えようが関係ないと思ってるけど、お友達には消えてほしくないんだよね。何でかな」
「それが情ってもんなんじゃないの」
「何それ」
「何かを大事に思うことだよ。あんた、シュレディンガーも大事に思ってるから消えて欲しくなかったんだろ」
「あ! なるほど!」
「なるほどって気づかなかったの!?」
 素直に納得するテセウスに呆れるラミア。
 破壊しか知らぬ存在に、『情』を教えてどうなるのか見当もつかないけれど。
 それでも……何かが残ればいいと思う。


「テセウスさん、テセウス君って呼んでいいです? その方がお友達っぽいです」
「いいよ! ……わ。お花いっぱいだ!」
 辺り一面に咲き乱れる花々を見渡すテセウス。アルマ・A・エインズワース(ka4901)はシートを敷くと、そこに友人を招いてバスケットを広げ始める。
「綺麗でしょ。ここ、僕のお気に入りの場所ですよ。特別に教えてあげたですー」
「アルマさん、この花は何?」
「あ、それはオダマキですよ。僕の誕生花で、一番好きなお花です! テセウスさんはどの花が好きです?」
「花の種類って良く知らないんだ」
「そうですかー。じゃあ沢山見て、好きになった花を教えてください。寒い時期にしか咲かないお花もあるですし、来年の今頃はきっと、また違う色が咲くです」
「……? 毎年同じじゃないの?」
「違いますよ。だから好きなんですー」
 にへ、と人懐っこく笑うアルマ。それににへ、と笑い返したテセウス。
 以前お友達だと言われたからか、今回は口調も大分砕けている。
 テセウスはアルマから受け取った蜂蜜たっぷりのパンを食べながら首を傾げる。
「やっぱりアルマさんもファナティックブラッドに取り込まれるの嫌なの?」
「はいです。お花と一緒だから」
 無邪気に言うアルマ。ふと、近くの花を撫でながら続ける。
「押し花にしたら、ずっとそのまま。でも、次のお花は咲かないです。作った押し花も、いつか色褪せてしまうです。……一度枯れて、種ができて。また来年、って笑って見に来たいなって。世界も、それと同じに回るです! ……あとね。僕、一度死んだことあるんです。シミュレーションの話ですけどね。殺されるのって、すっごく怖いんですよ」
 アルマの中に蘇る記憶。静かに遠くなる感覚を、今でもハッキリと覚えている。
 あの瞬間を繰り返し経験するなんて、どんな拷問よりも苦しいと。そう思う。
「……テセウス君。僕らがずっと怖い思いし続ければいいって、思ってます……?」
「……俺、別に人が消えようがどうでもいいと思ってたんだけど。お友達が消えるのは嫌だなって。だから、ファナティックブラッドに取り込まれればいいと思ったんだ」
 ぽつりと漏らすテセウス。クリュティエの願いを叶える手伝いをしたくて始めだが、彼自身の考えにも変化があったのだろう。
「そうですか。テセウス君、良い子です! お友達になって良かったです」
 黙示騎士の赤い髪をわしゃわしゃと撫でるアルマ。
 歪虚が皆こうだったら良かったのに。
 そうしたら、別な道があったかもしれない。
 ――それを、今から探しても遅くはないだろうか?
 咲き乱れる花を目に映して、アルマはそんなことを考えた。


「ここは?」
「私の故郷だよ」
「こきょー?」
「生まれた場所、ということだよ。君はどこで生まれたのだっけ?」
「俺? 確かシュレディンガー様がその時使ってた施設じゃなかったかな。見た目も性格も特に設定しなかったらこうなったんだって」
「そうか」
 深い森。青々と茂る木々を見渡すテセウスに呟くルシオ・セレステ(ka0673)。
 最古の黙示騎士は『人』に憧れていたという。
 テセウスを作り出す際何も設定しなかったというのも、その気持ちの現れだったのだろうか……。
 ルシオの用意したパンケーキ。ジャムや生クリームがたっぷり乗ったそれを一口食べて、テセウスは目を輝かせる。
「母さん、これ美味しいね」
「そうかい? 良かった。ジャムは複数あるから色々試してごらん」
「この色が違うのがそう?」
「そうだよ。……さて、他のみんなの話はどうだった? それぞれ違ったんじゃないか?」
「うん。何でだろ?」
「そりゃあ違って当然さ。人それぞれ意見が出るものだよ」
「ふーん。ルシオ母さんは? やっぱり取り込まれるの嫌なの?」
「そうだね。私は……まず永遠が幸せとは思えない、かな」
 故郷の木々を見上げるルシオ。
 ――勿論死んでほしくない子達がいる。取り戻したい人もいる。
 けれど、それは年老いて天寿を全うして欲しいと言う意味でだ。
「……途中で終わってしまっても、きっと無駄では無いよ。誰かに託すことも出来るから。シュレディンガーが君に託したようにね」
「母さんは? 誰かの想いを託されてるの?」
「ああ、私もそうだ。色々なものを託されて、生きている。それにね……終われない事も辛い事だと思う」
 願いも、思いも、長い時間をかけて擦り切れて歪んでいく。
 歪虚という存在もそうだし、ファナティックブラッドという存在もそうなのではないか。
 ルシオは顔を上げて、テセウスを見つめる。
「だったら……私は、私のままで生きる術を探し、選ぶ。ダメな時は……私も誰かに託すよ」
「うーん……。思い出って、託すっていうのに近いのかな」
「自分を作る一つの要素という意味では、そうかもしれないね」
「そっか。じゃあ、俺が生きてる限りはルシオ母さんを覚えてる。ルシオ母さんも俺を覚えていてくれる?」
「……気が向いたらね」
 紅茶を飲みながら目を伏せるルシオ。
 彼とは相容れない存在だ。邪神への恭順を選ばぬ限り、敵対する未来が待っている。
 それでも……純粋なこの子の手を振り払うことが出来なくて。彼女は深くため息をついた。

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  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • ずっとあなたの隣で
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/04 18:30:49
アイコン 相談?雑談?卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2019/05/04 22:31:09